(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】逐次水素化及び直接脱色によって調製された炭化水素樹脂
(51)【国際特許分類】
C08F 8/04 20060101AFI20240627BHJP
C10G 45/04 20060101ALI20240627BHJP
C10G 45/10 20060101ALI20240627BHJP
C10G 65/04 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08F8/04
C10G45/04 Z
C10G45/10 Z
C10G65/04
(21)【出願番号】P 2023530794
(86)(22)【出願日】2021-10-05
(86)【国際出願番号】 US2021053492
(87)【国際公開番号】W WO2022132290
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-05-22
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509004675
【氏名又は名称】エクソンモービル ケミカル パテンツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】バルガス ホセ エム
(72)【発明者】
【氏名】ギャロー キース シー
(72)【発明者】
【氏名】バービー トーマス アール
(72)【発明者】
【氏名】ミラー アリソン エム
(72)【発明者】
【氏名】チェン ユアン-ジュ
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-503620(JP,A)
【文献】特表2001-504537(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102924659(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/04
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素樹脂の調製方法であって、
水素化樹脂混合物の形成に有効な条件下で樹脂混合物を硫化二元金属触媒及び過剰水素と反応させるステップであって、前記樹脂混合物は、オレフィン性不飽和を含有する少なくとも1種の重合可能モノマーのオリゴマー化反応生成物及び溶媒を含む、ステップと、
前記水素化樹脂混合物をそのまま貴金属触媒に供給するステップと、
前記水素化樹脂混合物を前記貴金属触媒の存在下、脱色樹脂混合物の形成に有効な条件下で反応させるステップと
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記水素化樹脂混合物の形成に有効な条件及び前記脱色樹脂混合物の形成に有効な条件が、約150℃~約350℃の反応温度及び約6MPa~約27MPaの圧力を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記貴金属触媒が、前記水素化樹脂混合物を反応させ、前記脱色樹脂混合物を形成したときにASTM E313で測定される黄色度を約100単位以上低減させるのに有効である、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記過剰水素及び前記溶媒の少なくとも一部を前記脱色樹脂混合物から除去するステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記樹脂混合物が、熱的オリゴマー化条件下で調製される、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種の重合可能モノマーが、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、スチレン、メチルスチレン、インデン、メチルインデン、及びこれらの任意の組み合わせから成る群より選択されるモノマーを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記水素化樹脂混合物が、前記水素化樹脂混合物から硫黄化合物を除去せずにそのまま前記貴金属触媒に供給される、請求項1~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記貴金属触媒が担体材料を含む、請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記貴金属触媒が、前記担体材料上に外部貴金属コーティングを含み、かつ前記担体材料の細孔は実質的に貴金属を含まない、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記外部金属コーティングが、約150μm以下の厚さを有する、請求項
9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照することによりその開示内容を本明細書に援用する、2020年12月16日に出願されたUSSN 63/126,180の優先権を主張する。
【0002】
分野
本開示は、水素化後の直接脱色によって、例えば、さらにスチームクラッキング後にオリゴマー化及びオリゴマーの水素化を受けた石油カット(petroleum cut)から誘導された蒸留物を処理することによって、炭化水素樹脂を製造するプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
石油蒸留物から誘導された炭化水素樹脂は、例えば、ホットメルト接着剤配合物、補強剤、ポリマー中間体、粘接着付与剤、及びコンタクト接着剤のようないくつかの工業用途を有する。炭化水素樹脂の生産は、少なくとも2段階、すなわち粗製樹脂を形成するためのモノマーの熱的若しくは触媒的オリゴマー化後に、結果として生じた粗製樹脂混合物の残留オレフィン及び不純物を除去するための水素化を必要とすることが多い。水素化は、樹脂の安定性を改善し、いくつかの下流問題を防止する。例えば、水素化前、残留オレフィンは反応性であり、貯蔵中に重合及び架橋を受けることによって物理的性質を変え、それによってもはやそれらの意図した用途に適さない樹脂を形成する恐れがある。さらに、残留オレフィンは、下流の重合適用中に問題を引き起こし、反応器内に不溶性有機沈殿物(コークと呼ばれることが多い)を形成することが多く、それによって場合によっては反応器のシャットダウン及びメンテナンスの遅延を余儀なくさせ得る圧力降下をもたらす恐れがある。
【0004】
オリゴマー化中に形成される不純物は、「カラーボディ」をも含み、これは、望ましくないオフカラーを樹脂混合物に与え得る共役オレフィン種を含む可能性がある。カラーボディの例としては、限定するものではないが、微量不純物、例えばインジゴ、アントラキノン、アリザリン、ジュグロン等を挙げることができる。外観を改善するため、特に初期水素化後の別の脱色ステップにおいて、水素化触媒を用いてカラーボディ及び同様のエンティティを飽和させることもできる。オレフィンの水素化、脱色、及び芳香族飽和は、3つの別々の反応であり、ある反応に最適な触媒は、他の反応に最適でないことが多い。さらに、ある反応のために触媒の活性を高めると、結果として他の反応に対する選択性を失う可能性がある。例えば、触媒のオレフィン飽和活性を高くすると、触媒の芳香族飽和活性をも高める可能性がある。芳香族化合物の過剰な水素化は、ポリスチレン等の特定の芳香族ポリマーとの樹脂の適合性を減少させ、ひいては樹脂を特定の所望用途に不適切な状態にする可能性がある。従って、成功する樹脂加工は、これらの3つの反応間のバランスを取ることができる。
【0005】
炭化水素樹脂及び他の組成物、例えば石油燃料、ホワイトオイル、潤滑油添加剤等を含めた炭化水素化合物の水素化、脱芳香族化、脱硫化及び脱ニトロ化のための水素処理プロセスは周知であり、工業的に実施されている。特に、これらのプロセスは、固定床反応器で不均一系触媒、例えアルミナ等の金属酸化物に担持された触媒活性金属を含む触媒を用いて行われることが多い。
前述の水素処理プロセスの多くは、所望のプロセス結果を達成するために複数の触媒を順次に使用し、各触媒は異なる機能を果たす。異なるタイプの触媒は、同一の触媒床内で接触させることができ、或いは異なる床及び反応器にわたって拡散させ得る。これらの場合、触媒金属のタイプ及びプロセス条件は、各触媒床にわたって相対的に類似している。単一プロセス目的を果たすために複数触媒を使用する例としては、以下のものが挙げられる:水素処理触媒と直列の脱金属触媒、直列の異なるタイプの水素処理触媒、又は酸性(sour)段階の水素化分解触媒と直列の水素処理触媒。これらの例では、例えばアルミナ上にCoMo、NiMo、NiW、又はNiMoWを含むもののような多金属卑金属触媒を含めた二元金属卑金属触媒を使用してよく、これらの段階は類似の温度及び圧力で作動し得る。
【0006】
場合によっては、触媒及び圧力条件が第1及び第2の段階間で顕著に異なる2段階水素処理プロセスの利用が有利であることが分かった。異なる触媒又はプロセス条件を用いる2段階水素処理プロセスの例としては、限定するものではないが、ジオレフィンサチュレータ/水素処理、水素処理/スイート(sweet)段階水素化分解、及び水素処理/水素化仕上げが挙げられる。例えば、水素処理は、アルミナ上のCoMo、NiMo、又はNiWのような二元金属卑金属触媒を約850°F(約454℃)までの温度で使用することが多く、一方で水素化仕上げは、酸性ゼオライト基材上の貴金属触媒を約570°F(約299℃)までの温度で利用して、水素で飽和状態になる芳香族分子の量を最大にし得る。用語「二元金属触媒」には、少なくとも2種の金属を含有する触媒が含まれ、さらに多金属触媒も含まれる。芳香族性の保持が望ましいときには、該貴金属触媒及びプロセス条件が水素化仕上げの実施に不適切だと判明することもある。
【0007】
2段階及び多段階プロセスは典型的に1段階プロセスより効率的であるが、多段階を組み込むと、システムの複雑度を増加させ、さらに設備及びメンテナンスのコストをも高める可能性がある。複数触媒の使用は、特に多くの第2段階の水素化仕上げプロセスで用いる貴金属触媒については、1つ以上の段階に影響を及ぼす触媒被毒のリスクをも伴う。このような場合、1つ以上の中間の精製段階を1段階ずつ順番に行って、可能性のある毒物、例えば硫黄化合物を除去し得るが、この場合もやはりプロセスの複雑さとコストを高めることになる。さらに、2段階プロセスは、段階間の相互汚染を防止するため、そうしなければ貴金属の被毒につながり得るので別々の水素再循環流を利用することが多く、この場合もやはり過剰なプロセス複雑度をもたらす。
【発明の概要】
【0008】
概要
一部の態様では、本開示の実施形態は、炭化水素樹脂の調製方法であって、水素化樹脂混合物の形成に有効な条件下で樹脂混合物を硫化二元金属触媒及び過剰の水素と反応させるステップであって、樹脂混合物は、オレフィン性不飽和を含有する少なくとも1種の重合可能モノマーのオリゴマー化反応生成物及び溶媒を含む、ステップと、この水素化樹脂混合物をそのまま貴金属触媒に供給するステップと、この水素化樹脂混合物を貴金属触媒の存在下、脱色樹脂混合物の形成に有効な条件下で反応させるステップとを含む、方法に関する。
別の態様では、本開示の実施形態は、オレフィン性不飽和を含有する少なくとも1種の重合可能モノマーのオリゴマー化反応生成物から形成された水素化樹脂混合物を含む脱色樹脂組成物であって、水素化樹脂混合物は、ASTM E313で測定して、約10以下の黄色度を有する、脱色樹脂組成物に関する。
下記図面は、本開示の特定態様を説明するために含めるものであり、排他的実施形態と見なすべきでない。開示主題は、本開示の範囲を逸脱することなく、形態及び機能の相当な修正、変更、組み合わせ、及び等価物が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1に従って生成された炭化水素樹脂について温度の関数としての黄色度のグラフである。
【
図2】実施例1で利用した触媒系のX線光電子分光(XPS)データのグラフ描写である。
【
図3】実施例1で利用した触媒系のX線光電子分光(XPS)データのグラフ描写である。
【
図4】実施例1で利用した触媒系のX線光電子分光(XPS)データのグラフ描写である。
【
図5】実施例2に従って生成された炭化水素樹脂について流通時間(time on stream)の関数としての黄色度のグラフである。
【
図6】実施例3における温度の関数としての黄色度のグラフである。
【
図7】実施例3における温度の関数としての芳香族飽和(変換)のグラフである。
【
図8】実施例3における芳香族変換の関数としての色変換のグラフである。
【
図9】多孔性Pt/Pd触媒で脱色された比較サンプルについて、実施例3における芳香族変換の関数としての色変換のグラフである。
【
図10】実施例4の実験サンプルと比較サンプルについて流通時間(time on stream)の関数としての芳香族含量のグラフである。
【
図11】実施例4の実験サンプルと比較サンプルについて流通時間の関数としての芳香族含量のグラフである。
【
図12】実施例4の実験サンプルと比較サンプルについて流通時間の関数としての軟化点のグラフである。
【
図13】実施例4の実験サンプルと比較サンプルについて初期呈色(黄色度として)を示すグラフである。
【
図14】実施例4の実験サンプルと比較サンプルについてエイジド呈色(黄色度として)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
本開示は、炭化水素樹脂、特に炭化水素樹脂の水素化及び脱色を行うのに適した方法及び触媒に関する。より詳細には、本開示は、それぞれ高い触媒活性及び選択性を有する直列に配置された硫化二元金属触媒及び貴金属触媒を用いて、中間のフィード精製ステップなしで、炭化水素樹脂から色を除去することに関し、これは、1段階プロセスと同様のシステム複雑度で2段階の有効性を実現する。2つの触媒は、改善された色を有する炭化水素樹脂を与え、高い芳香族性保持を促すことができる。該炭化水素樹脂は、ASTM E313で測定して、代替水素化及び脱色プロセスによって生成された炭化水素樹脂に比べて改善された色を示し得る。
【0011】
炭化水素樹脂生産における以前の水素化及び脱色プロセスは、単一及び複数触媒(例えば、一次触媒及び二次触媒)を利用してきた。しかしながら、二次触媒を利用する脱色操作は、一次触媒を含有する反応器とは異なる温度及び圧力条件で作動する別の反応器を利用することが多い。さらに、複数の触媒を用いて水素化及び脱色を促進するための水素処理操作は、中間の精製段階を組み入れて、原料に存在するか又は反応副生物として生じた硫黄化合物等の不純物及び触媒毒を除去することが多く、そうしなければ、毒物に敏感であり得る下流の二次触媒、特に貴金属触媒を汚し、その効率を低下させる可能性がある。
本明細書で実証するように、炭化水素樹脂の2段階水素化及び脱色が、驚いたことに第1段階と第2段階の間に反応生成物の中間精製を行わずに達成される。より詳細には、硫化二元金属水素化触媒及び特定の貴金属触媒を特定条件下で順次利用して、改善された色プロファイルを有するのみならず、場合によっては芳香族性が良好に保持された水素化樹脂混合物を提供することができる。より詳細には、水素化樹脂混合物は、硫黄化合物を除去するための中間精製を受けることなくそのまま貴金属触媒に供給され、それによって、汚染又は性能低下を経験せずに触媒活性を維持するという驚くべき結果をもたらし得る。そのため、本開示の適用によって、2段階水素処理に伴って複雑にならずに2段階水素処理の利益を実現することができる。
【0012】
本開示の方法を用いて炭化水素を水素化し、炭化水素樹脂の色を改善して脱色樹脂混合物を提供することができる。水素化の前に、炭化水素樹脂は、有益な物理的特性、例えば融点、流動点、粘着性、化学的適合性、並びに他の物理的及び化学的特性に寄与するいくつの芳香族部分を含んでよい。しかしながら、標準的水素化技術は非選択的であり、オレフィン及び他の樹脂不純物の飽和に加えて、芳香族部分の少なくとも一部の飽和をもたらす可能性がある。
本開示の方法は、無色又は減色水素化樹脂混合物を提供しながら、その中の芳香族部分の濃度を実質的に保存する触媒及び反応条件を特徴とし得る。本明細書に記載の特定樹脂組成物には約10wt.%までの芳香族部分が保持され得る。本明細書で開示する水素化及び脱色反応は、生産効率向上及び比較的低い反応温度を示すことができ、良いエネルギー効率及び運転コスト低減を提供することができる。水素化及び脱色反応は、種々の炭化水素樹脂、本明細書では同等に「樹脂混合物」又は「炭化水素樹脂混合物」と称する、特にスチームクラッキングされた石油流(例えばナフサ)の熱的又は触媒的オリゴマー化によって生成されたものに対して適切な触媒を用いて行われる。石油流は、樹脂混合物の形成の前又は後に蒸留されることもある。本明細書の開示の使用を通じて望ましい色プロファイルを有する水素化樹脂混合物を得ることができる。本開示から生成された樹脂混合物及び水素化樹脂混合物は、さらに任意的溶媒及び/又はスチームストリッピング、スチームクラッキング、若しくは他のソースからの残留水を含んでよい。如何なる理論又は機構によっても束縛されないが、残留水の存在は、貴金属触媒上で起こる脱色反応中に耐硫黄性を与えるのに役立つと考えられる。
【0013】
本開示の方法は、樹脂混合物を硫化二元金属触媒及び過剰水素の存在下、水素化樹脂混合物の形成に有効な条件下で反応させ、水素化樹脂混合物をそのまま貴金属触媒に供給し、水素化樹脂混合物を貴金属触媒の存在下、水素の存在下及び脱色樹脂混合物の形成に有効な条件下で反応させることを含み得る。残留水素が水素化樹脂混合物と共に貴金属触媒に供給されることもある。用語「水素化」は、完全水素化及び部分水素化の両方を指す。用語「脱色」は、水素化及び脱色の開示方法を用いて処理された樹脂混合物の色が、未処理樹脂混合物(非水素化又は部分水素化樹脂混合物を含む)に比べて減じていることを指し、脱色樹脂混合物は必ずしも完全に色が無いことを意味しない。水素化前に、樹脂混合物は、オレフィン性不飽和を含有する少なくとも1種の重合可能モノマーのオリゴマー化反応生成物及び任意的溶媒を含んでよい。なお樹脂混合物に残留水が存在してもよい。適切な樹脂混合物、硫化二元金属触媒、及び貴金属触媒については後述するが、それらは脱色及び芳香族性保持の促進するために適切な状態である。
【0014】
水素化樹脂混合物の形成に有効な条件及び脱色樹脂混合物の形成に有効な条件は各プロセス段階で同一であるか又は異なってよい。好ましくは、硫化二元金属触媒を用いる樹脂混合物の水素化は、樹脂混合物を約100℃~約320℃の温度及び約6MPa~約27MPaの圧力、又は約150℃~約350℃の温度及び約2MPa~約30MPa、若しくは約6MPa~約27MPaの圧力で触媒上を通過させることによって行ってよい。好ましくは、温度は約220℃~約350℃、又は約220℃~約260℃、又は約260℃~約300℃、又は約220℃~約300℃の範囲であってよい。貴金属触媒を用いる水素化樹脂混合物の脱色は、水素化樹脂混合物を水素の存在下、約100℃~約320℃の反応温度及び約2MPa~約30MPa、若しくは約6MPa~約27MPaの圧力、又は約150℃~約350℃の反応温度及び約2MPa~約30MPa、若しくは約6MPa~約27MPaの圧力で触媒上を通過させることによって行ってよい。好ましくは、温度は、約220℃~約350℃、又は約220℃~約260℃、又は約260℃~約300℃、又は約220℃~約300℃の範囲であってよい。約200気圧(約20MPa)までの水素分圧を使用してよい。反応圧力を250気圧(約25MPa)過剰まで高めて、残留樹脂不飽和及び/又は色のさらなる低減を促進することができる。反応時間は、各反応段階について約2分~約2時間の範囲の接触時間であってよい。第2の反応段階の脱色中に供給される水素は、第1の反応段階の水素化反応からの残留水素を含んでよく、必要に応じて、外部ソースから補給してもよい。
【0015】
指針として前述のパラメーターを提供しているが、用途に応じて、また用途における呈色許容度によっては、これらの値を修正できる(例えば、±10%以上)と想定される。例えば、水素分圧及び全圧が上記範囲外に増加し、完成樹脂の色が一定のままである場合、他のプロセス変量の値が変化すると予想するだろう。別の非限定例としては、温度を下げ、供給樹脂濃度を増やし、又は反応器空間速度[すなわち、(総体積炭化水素樹脂供給量)/(固定床中の総触媒体積)]を増やしてよい。NMR、近IR、又は臭素数等の標準的技術によって測定される完成樹脂の色及び/又は残留不飽和を低減させる手段として圧力及び/又は温度を高めることもできる。種々の用途に特有の生成物要件に応じて硫化二元金属触媒と貴金属触媒の体積:体積比を変えてもよい。
本明細書の開示に従って水素化及び脱色した後、下流処理、例えば脱色樹脂混合物を回収し、最終樹脂からの硫黄及び不純物の除去を促進し、並びに/又は再循環用に溶媒及び過剰水素を回収するためのフラッシング及び分離等のために脱色樹脂混合物を反応器から移送してよい。一部の実施形態では、無酸素(又は最少酸素)雰囲気内で脱色樹脂混合物をフラッシング及び/又は蒸留して、溶媒及びいずれの過剰な水素をも除去することができる。脱色樹脂混合物を水蒸気蒸留して、例えば低分子量の油性ポリマーを除去することもできる。脱色樹脂混合物の水蒸気蒸留は325℃以下で行って、脱色樹脂混合物の色その他の特性の低下を最小限にすることができる。一部の実施形態では、低大気圧で水蒸気蒸留を行うことができる。
【0016】
本開示での使用に適した触媒は、炭化水素樹脂混合物及び水素を含む原料が1つ以上の触媒静止床上を通過する固定床反応器に導入することができる。このような本開示の方法は、硫化二元金属触媒が反応器の前面位置に配置され、一方で貴金属触媒が背面又は後部位置に配置される反応器デザインを利用し得る。硫化二元金属触媒及び貴金属触媒は、反応器内で互いに分離したままでよい。適切なプロセス構成は、複数床を有する単一反応器の使用及び/又は直列若しくは並列の複数反応器の使用を含むこともできる。すなわち、硫化二元金属触媒及び貴金属触媒は互いに別々の床内で維持され、種々の構成で炭化水素樹脂フィードは最初に硫化二元金属触媒と接触してからそのまま貴金属触媒に供給される。炭化水素樹脂混合物及び水素を含む反応器投入物は、1つ以上の段階で個々の反応器内にあり及び/又は複数反応器構成の各反応器の中に位置し得る。炭化水素樹脂混合物及び水素は、上昇流又は下降流様式で反応器に供給してよい。本開示の方法は、バッチ形式又は連続形式で行ってよく、部分若しくは完全水素化及び/又は部分若しくは完全脱色を含むことができる。所与の触媒床の前に追加水素を冷却流体として添加して、反応の発熱を部分的に除去し及び/又は次の固定触媒床の冷却を促進してもよい。
【0017】
本開示での使用に適した炭化水素樹脂混合物は、石油留分、特にスチームクラッキングされる石油留分、例えば約20℃~約280℃の範囲内の沸点を有するものの熱的又は触媒的オリゴマー化から調製された樹脂を含むことができる。特定の炭化水素樹脂混合物は、熱的オリゴマー化条件下で1種以上の重合可能モノマーを形成することによって調製されたものを含むことができる。適切な炭化水素樹脂混合物のもっとさらに具体的な例としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、スチレン、メチルスチレン、インデン等、及びこれらの任意の組み合わせから選択される重合可能モノマー(オリゴマー化反応生成物の形態で)を含むものが挙げられる。炭化水素樹脂混合物中の個々の炭化水素樹脂は、約300g/モル~約700g/モル、又は約400g/モル~約650g/モルの範囲の質量平均分子量を有してよい。
1種以上の重合可能モノマーの熱的オリゴマー化は、無酸素雰囲気内で、通常は約160℃~約320℃の温度、例えば、約250℃で、約10気圧~12気圧(約1.0~1.2MPa)の圧力、例えば、約10気圧(約1.0MPa)で、約0.5時間~約9時間、例えば、約1時間~約4時間にわたって行ってよい。熱的オリゴマー化は、バッチ、セミバッチ、又は連続操作様式で行ってよい。
【0018】
本明細書の開示に従って硫化二元金属触媒を樹脂混合物及び水素と接触させる前に、樹脂混合物を非芳香族溶媒で希釈することができる。非芳香族溶媒としては、飽和炭化水素溶媒、例えばナフサ及び他の蒸留物が挙げられる。ExxonMobilからの例となる市販溶媒、例えばEXXSOL(商標)又はISOPAR(商標)が特に好適であり得る。適切な溶媒は、樹脂混合物中に約10wt.%~約80wt.%、又は約40wt.%~約80wt.%、又は約50wt.%~約75wt.%、又は約55wt.%~約70wt.%の範囲で存在することができる。樹脂が樹脂混合物の残余を実質的に占めてよい。一部の実施形態では、樹脂混合物を非芳香族溶媒(添加されるか又は樹脂形成反応から残存する)で希釈して、約20wt.%~約50wt.%の範囲の樹脂濃度を与えることができる。
【0019】
本開示での使用に適した触媒としては、硫化二元金属触媒及び貴金属触媒を含む触媒系が挙げられる。本明細書で論じる種々の利益を提供するために各触媒を選択し、プロセス条件を最適化することができる。例えば、脱色樹脂混合物の形成に適した触媒系は、オレフィン及び他の反応種を飽和する能力がある一次触媒として大孔硫化二元金属(例えば、NiW)触媒、次に水素化樹脂混合物内のカラーボディ及び他の不純物の濃度を減少させる能力がある二次触媒として貴金属触媒を含むことができる。さらに以下に詳述する貴金属触媒の特定例は、特に耐硫黄性(耐硫黄性貴金属触媒)であってよく、これは、触媒段階間の中間の精製ステップ、例えば貴金属触媒との接触前に、硫化二元金属触媒の下流のプロセス流から硫黄をストリッピングするステップを不必要にし得る。さらに、適切な触媒系は、同様の温度及び圧力で利用できるのみならず、重複するプロセスパラメーターを利用する硫化二元金属触媒及び貴金属触媒を特徴として、その結果、樹脂混合物を処理するときに独立した反応器、ストリッパー塔、又は熱交換器が不要であり、その他の点でもプロセスの複雑度を低減し得る。
【0020】
各触媒は、サイズ、形状、金属タイプ、金属負荷、金属分散/結晶子サイズ、担体組成、担体の表面処理、ゼオライト含量、孔径、又は他の物理的若しくは化学的特質等のいくつかの因子が異なり得る。一部の実施形態では、2種以上の触媒が相乗的に機能して、炭化水素樹脂中の芳香族種の変換を減少させながら、オレフィン含量及び色を減じ得る。球、押出物、及び他の触媒形状が、両タイプの触媒に適し得る。
硫化二元金属触媒及び貴金属触媒を単一反応器、例えば固定床反応器内に配置してよく、貴金属触媒は、硫化二元金属触媒とは物理的に隔てられ(例えば、スクリーンで)、反応器の流れ方向において硫化二元金属触媒から下流に位置する。或いは、順次作動し、場合によりいくつかの反応器が並行して作動する複数の固定床反応器内で、樹脂混合物及び水素が硫化二元金属触媒及び貴金属触媒と接触してよい。どちらかの触媒によって促進される反応のための他のプロセス構成としては、例えば、流動床接触状態又はスラリー接触状態が挙げられる。一部の実施形態ではループ反応器又はオートクレーブ反応器を使用してもよい。
一部の実施形態では、例えば酸化アルミニウム(アルミナ)、ムライト、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、炭素、炭化ケイ素等のような酸化物、炭化物又は他の不活性材料といった1種以上の希釈固体を含む触媒床に硫化二元金属触媒と貴金属触媒の一方又は両方を配置してよい。非限定例では、希釈固体を添加して、例えば、固定反応器容積に存在する触媒の量を減らし、流れの再分布を促し、汚れを制限し、及び/又は発熱若しく吸熱反応による熱の発生若しくは吸収率を減少させることができる。
【0021】
本明細書の開示での使用に適した硫化二元金属触媒は、水素の存在下でオレフィンの飽和を触媒することができる。用語「二元金属」には、2種の金属を含有する触媒も3種以上の金属を含有する触媒も包含される。従って、適切な二元金属触媒には、真の二元金属触媒のみならず、三元金触媒及びさらに大きい数の金属を含有する触媒も含まれる。硫化二元金属触媒は、炭化水素樹脂の安定性に影響を及ぼし、反応器の汚れその他の問題を引き起こす恐れがある望ましくないポリマー副生物を作り出し得る他の反応種を飽和させることもできる。硫化二元金属触媒は、第6族金属と組み合わせた第9族若しくは第10族金属のような混合卑金属を含んでよい。適切な硫化二元金属触媒の特定例としては、例えば、コバルト-モリブデン(CoMo)、ニッケル-タングステン(NiW)、ニッケル-モリブデン(NiMo)等のような二元金属触媒が挙げられる。一部の実施形態では、例えばニッケル-モリブデン-タングステン(NiMoW)等のような三元金属触媒といった多金属触媒を使用することができる。硫化二元金属触媒は、例えば酸化アルミニウム、酸化ケイ素、及び酸化マグネシウム等の酸化物、炭素、炭化ケイ素等を含め、種々の担体材料を組み入れた層状又は混合構造を含むこともできる。
【0022】
硫化二元金属触媒は、使用前に非硫化二元金属触媒を適切な硫黄種、例えば二硫化ジメチル(DMDS)と接触させることによって硫化され得る。このような硫化二元金属触媒は「事前硫化」されていると呼ばれる。二元金属触媒は、同様の活性化条件下、その場でさらに硫化され得る。硫化プロセスとしては以下の種々の方法があり得る:(1)炭化水素溶媒中2.5wt.%のDMDSが触媒と約4時間250℃以上で(例えば、40時間330℃で)1時間-1のLHSV及び400~800scf/bblの気体比([STPでの気体の体積/時間]/[液体の体積/時間])で接触される商業的硫化;(2)炭化水素溶媒中2.5wt.%のDMDSが触媒と4時間250℃以上で(例えば4時間330℃で)1時間-1のLHSV及び200気体比で接触されるパイロットプラント硫化;又は(3)触媒の気相硫化が、H2SとH2の混合物下、高温(例えば、400℃~450℃)で1時間H2S/H2>1で低大気圧にて行われる商業的事前硫化プロセス。商業的事前硫化触媒については、硫化触媒の細孔容積中に炭化水素流体が吸収されて、(1)空気感受性を低減させ(不動態化)、及び(2)DOT規制による自己発熱固体として輸送するための要件を満たすことができる。本明細書で用いる二元金属触媒は、少なくとも事前硫化され、任意に特定用途特有の必要性に応じてその場でさらに硫化され得る。
【0023】
適切な硫化二元金属触媒は、担体材料の質量に対して測定して、質量パーセント(wt.%)で、約0.25wt.%超、又は約0.5wt.%超、又は約1wt.%の金属負荷を有し得る。硫化二元金属触媒(例えば、CoMo、NiW、又はNiMo)中の第1の金属(第9族又は第10族金属)の第2の金属(第6族金属)に対する負荷には、担体材料の質量に対して測定して、第1の金属が約0.5wt.%~約50wt.%で負荷され、第2の金属が約0.5wt.%~約30wt.%で負荷される構成が含まれる。従って、第1の金属及び第2の金属は、硫化二元金属触媒中に同一又は異なる量で存在してよい。
本明細書で開示する硫化二元金属触媒の総細孔容積は、高圧(60kpsi)水銀侵入ポロシメトリー(ASTM D4284)で測定して約0.4cc/g~約0.8cc/gの範囲であってよい。硫化二元金属触媒の表面積は、高圧(60kpsi)水銀侵入ポロシメトリー(ASTM D4284)で測定して約50m2/g~約350m2/g、又は約100m2/g~約250m2/g、又は約150m2/g~約200m2/gの範囲であってよい。
【0024】
適切な貴金属触媒は、水素化及び色除去を触媒する能力があり、特に他の貴金属触媒の汚染及び被毒と関連する化合物、例えば硫化水素及び水等の存在下で作用する能力があるものであってよい。そうでなければ、硫化二元金属触媒は水素化プロセス条件下で硫化水素等の硫黄化合物を生成することが分かっているので、硫化二元金属触媒と貴金属触媒の逐次併用は、それから生じた生成物流の中間精製なしでは特に問題となり得る。従来の貴金属触媒を使用するときに生成物流の中間精製なしでは、硫黄化合物は急速に貴金属触媒の被毒を引き起こす可能性がある。有利なことに、本明細書に記載の貴金属触媒は、水素化樹脂混合物を含む生成物流を中間精製しなくても作用することができ、それによって、さらなる脱色及び水素化仕上げのために硫化二元金属触媒から水素化樹脂混合物をそのまま貴金属触媒へ移送することを可能にする。
【0025】
貴金属触媒は、一部の実施形態では担体材料を含んでよい。硫黄毒に対して耐性である特定貴金属触媒は、種々の層状構造、例えば薄膜状不均一系触媒(卵殻又は放射状含浸触媒(radially impregnated catalyst)(「RIM触媒」)とも呼ばれる)を含むことができ、この場合、貴金属は、外層として担体材料の外側に位置付けられ、又は担体材料の上に被覆される。層状貴金属触媒は、担体材料上に外層として貴金属コーティングを含むことができ、結果として担体材料は実質的に貴金属を含まない。すなわち、貴金属は、担体材料の中心部を包囲する外層に局在化され、担体材料は実質的に貴金属を含まないままであるか又は外部貴金属コーティングに比べて顕著に少ない量の貴金属を有し得る。貴金属を含む外部金属コーティングは、約150μm以下、又は約100μm以下、又は約50μm以下、例えば約10μm~約1μmの厚さを有してよい。特定の外部金属コーティングは約100μm以下、例えば約50μm以下、又は約20μm以下の厚さを有してよい。有利なことに、外部金属コーティングは、水素化樹脂混合物の脱色を促進するために小さい接触領域に高有効濃度の貴金属を提供する。水の存在及び反応器条件(例えば、温度及び圧力)等の他の要因に加えて、貴金属の高有効濃度及びタイプは、本明細書の開示の硫黄毒に対して耐性を与えると考えられる。また、Pdは、これらの条件下で硫黄に対して、例えばPtが示すより高い耐性を示すと考えられる。
【0026】
本明細書で開示する貴金属触媒は、例えば、外層、特に外部貴金属層の厚さ及び/又は表面積を修正することによって、水素化、脱色、及び芳香族飽和の選択性を高めて、特定用途における適合性に樹脂特性を合わせるように調整することができる。本明細書で開示する貴金属触媒は、約2mm以下、又は約1mm以下、又は約0.5mm以下の全径を有する球形粒子を含んでよい。一部の実施形態では、貴金属触媒は、約5mm以下、4mm以下、3mm以下、又は2mm以下の全長を有する円筒状又は半円筒状外形を有する押出物を含むことができる。球を使用してもよい。貴金属触媒は、約100μm以下、約50μm以下、約10μm以下、又は約5μm以下の厚さ、例えば、約500nm~約150μm、約1μm~約50μm、又は約55μm~約10μmの範囲の貴金属層厚を有する外部貴金属層を含むことができる。一部の実施形態では、化学吸着によって計算される外部貴金属触媒層の表面積は、約0.1m2/g~約1,000m2/g、約0.2m2/g~約900m2/g、約0.5m2/g~約800m2/g、又は約0.5m2/g~約400m2/gである。
触媒粒子のサイズ及び外部層の厚さを指針として提示しているが、本方法は、本開示を逸脱することなく、提示値より大きいか又は小さい値を用いて実施できると想定される。
【0027】
適切な貴金属触媒は、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、又は金等の1種以上の貴金属を組み込むことができる。パラジウム又は白金、好ましくは白金が特に適切であり得る。貴金属触媒は、担体材料の質量に対して測定して、約0.1wt.%超、又は約0.25wt.%超、又は約0.5wt.%超、又は約1wt.%超の貴金属負荷を有してよい。特定の実施形態では、貴金属触媒は、担体材料の質量に対して測定して、約0.1wt.%超、又は約0.25wt.%超、又は約0.5wt.%超、例えば約0.75wt.%~約1.0wt.%の白金又はパラジウム負荷で白金又はパラジウムを含むこともできる。
貴金属触媒に適した担体材料は、酸化物、例えば酸化アルミニウム、酸化ケイ素、及び酸化マグネシウム;炭素;多孔質炭素;炭化ケイ素等を含むことができる。貴金属触媒を画定する担体材料は、球形、円筒形、又は耳たぶ形状であり得る押出粒子を含め、いずれの一般的形状のものでもあり得る。層状貴金属触媒については、担体材料の表面積を修正して、材料の物理的強度を増減することができる。一部の実施形態では、担体材料は、約3,000m2/g以下、又は約1,000m2/g以下、又は約750m2/g以下、又は約500m2/g以下の表面積を有し得る。一部の実施形態では、貴金属触媒は、約50m2/g~約1,500m2/g又は約50m2/g~約350m2/gの範囲の表面積を有する担体材料を含むことができる。非限定例では、貴金属コーティングは、約0.1m2/g~約100m2/g、又は約0.3m2/g~約40m2/gの範囲の表面積を有してよい。
【0028】
本開示の方法は、無色であるか又は無色若しくは減色石油樹脂を製造するための他のプロセスによって生成されたものに比べて減色された水素化樹脂混合物を提供し得る。例えば約10%まで、約15%まで、又は約20%までの芳香族性保持のように、保持される芳香族性は代替プロセスより高い可能性がある。水素化及び脱色後に、脱色樹脂混合物は、溶媒及び過剰水素の少なくとも一部を除去するために処理されて完成樹脂生成物を得ることができる。そのように処理された完成樹脂生成物は液体樹脂として単離されるか又は固体形態へのさらなる加工を受け得る。樹脂固体を生成するための加工方法は、鋳造、冷却後の破砕、パスチレーション(pastillation)、造粒(prilling)、フレーキング(flaking)等の1つ以上を含んでよい。例えば、任意のプロセス構成で脱色樹脂混合物をペレットに加工してよい。脱色樹脂混合物から形成されるペレットは、球形、円筒形、又は耳たぶ形状であり得る押出粒子を含め、種々の形状で得られる。
【0029】
本開示の方法を用いて、炭化水素樹脂を水素化及び脱色することができ、その上、脱色樹脂混合物が得られた樹脂混合物に比べて、脱色樹脂混合物中の芳香族部分の濃度及び分布を実質的に維持することができる。芳香族部分の濃度は、例えばNMR又は臭素数によって不飽和度を測定する(ASTM D1159)等、既知の方法を用いて定量化することができる。場合によっては近IR測定を利用して不飽和度を決定してもよい。一部の実施形態では炭化水素樹脂の芳香族性減少は、非水素化樹脂混合物に比べて、約20%未満、約15%未満、約10%未満、又は約5%未満であり得る。
本明細書の開示に従って調製された脱色樹脂混合物の脱色の程度は例えば、Hunterlab(商標)比色計を使用し、光源Cと観察者2の組み合わせ(C/2)でASTM E313に準拠する黄色度(YI)によって定量化し得る。YI値が大きいほど、サンプルはより黄色が強い。一部の実施形態では、本開示の方法は、ASTM E313で測定して、約30未満、又は約25未満、又は約10未満、又は約5未満、又は約3未満、又は約1未満の脱色炭化水素の黄色度をもたらすことができる。一部の実施形態では、貴金属触媒は、水素化樹脂混合物を反応させ、脱色樹脂混合物を形成してすぐに、ASTM E313で測定して、約80単位以上、約100単位以上、約120単位以上、又は約140単位以上黄色度を低減させ得る。
【0030】
本明細書で開示する実施形態は、下記を含む。
A. 炭化水素樹脂の調製方法。この方法は、硫化二元金属触媒及び過剰水素の存在下、水素化樹脂混合物の形成に有効な条件下で樹脂混合物を反応させるステップであって、樹脂混合物は、オレフィン性不飽和を含有する少なくとも1種の重合可能モノマーのオリゴマー化反応生成物及び溶媒を含む、ステップと、水素化樹脂混合物をそのまま貴金属触媒に供給するステップと、貴金属触媒の存在下、脱色樹脂混合物の形成に有効な条件下で水素化樹脂混合物を反応させるステップとを含む。
B. 脱色樹脂組成物。この脱色樹脂組成物は、オレフィン性不飽和を含有する少なくとも1種の重合可能モノマーのオリゴマー化反応生成物から形成された水素化樹脂混合物を含み、この水素化樹脂混合物は、ASTM E313で測定して、約10以下の黄色度を有する。
【0031】
実施形態A及びBは、下記追加要素の1つ以上を任意の組み合わせで有してよい。
要素1:水素化樹脂混合物の形成に有効な条件及び脱色樹脂混合物の形成に有効な条件は、約150℃~約350℃の温度及び約6MPa~約27MPaの圧力を含む。
要素2:貴金属触媒は、水素化樹脂混合物を反応させ、脱色樹脂混合物を形成してすぐにASTM E313で測定して、約100単位以上黄色度を低減させるのに有効である。
要素3:方法は、脱色樹脂混合物から過剰水素及び溶媒の少なくとも一部を除去するステップをさらに含む。
要素4:方法は、脱色樹脂混合物をペレットに加工するステップをさらに含む。
要素5:樹脂混合物は、熱的オリゴマー化条件下で調製される。
要素6:少なくとも1種の重合可能モノマーは、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、スチレン、メチルスチレン、インデン、メチルインデン、及びこれらの任意の組み合わせから成る群より選択されるモノマーを含む。
要素7:水素化樹脂混合物は、水素化樹脂混合物から硫黄化合物を除去せずにそのまま貴金属触媒に供給される。
要素8:貴金属触媒は担体材料を含む。
要素9:貴金属触媒は、担体材料上に外部貴金属コーティングを含み、かつ担体材料は、実質的に貴金属を含まない。
要素10:外部金属コーティングは、約150μm以下の厚さを有する。
要素11:樹脂混合物は1つ以上の芳香族部分を含有し、脱色樹脂混合物において芳香族部分の約20%以下が水素化されている。
要素12:貴金属触媒はパラジウムを含む。
要素13:貴金属触媒は、約0.1wt%超のパラジウム負荷を有する。
要素14:担体材料は、酸化物担体又は炭素担体を含む。
要素15:担体材料は、多孔質炭素を含む。
要素16:担体材料は、約3,000m2/g以下の表面積を有する。
要素17:担体材料は、約50m2/g~約350m2/gの範囲の表面積を有する。
要素18:Aの方法によって調製された脱色樹脂組成物。
【0032】
Aに適用可能な例となる組み合わせとしては、限定するものではないが、1及び2;1及び3;1及び4;1及び5;1及び6;1及び7;1及び8;1、8及び9;1及び8~10;1及び11;1及び12;1及び13;1、8及び14;1、8、及び15又は16;2及び3;2及び4;2及び5;2及び6;2及び7;2及び8;2、8及び9;2及び8~10;2及び11;2及び12;2及び13;2、8及び14;2、8、及び15又は16;3及び4;3及び5;3及び6;3及び7;3及び8;3、8及び9;3及び8~10;3及び11;3及び12;3及び13;3、8及び14;3、8、及び15又は16;4及び5;4及び6;4及び7;4及び8;4、8及び9;4及び8~10;4及び11;4及び12;4及び13;4、8及び14;4、8、及び15又は16;5及び6;5及び7;5及び8;5、8及び9;5及び8~10;5及び11;5及び12;5及び13;5、8及び14;5、8、及び15又は16;6及び7;6及び8;6、8及び9;6及び8~10;6及び11;6及び12;6及び13;6、8及び14;6、8、及び15又は16;7及び8;7、8及び9;7及び8~10;7及び11;7及び12;7及び13;7、8及び14;7、8、及び15又は16;8及び9;8~10;8~11;8~10及び12;8及び13;8~10及び13;8及び14;8~10及び14;8、及び15又は16;8~10、及び15又は16;11及び12;11及び13;11及び14;11、及び15又は16;12及び13;12及び14;12、及び15又は16;及び13、及び15又は16が挙げられる。
【実施例】
【0033】
本明細書の開示のより良い理解を促すため、種々の代表的実施形態の下記例を与える。決して下記例が本開示の範囲を限定し、又は定義するものと解釈すべきでない。
実施例1:Pd被覆貴金属触媒の耐硫黄性。この例では、3/4インチ(1.905mm)のSCH40ステンレス鋼管と入口/出口フィッティング及び触媒担持グリッドから3つのパイロットプラント反応器を作製した。いずれの場合も事前硫化NiW触媒を使用した。本方法に従って作製した第1の反応器(R1)に17.9mLのNiW及び17.9mLのPd被覆貴金属触媒を充填し、さらに硫化した。第2の反応器(R2)は17.9mLのNiW触媒を含むが、Pd被覆貴金属触媒のないネガティブコントロールとして作製した。第3の反応器(R3)は17.9mLのNiW被覆触媒及び17.9mLのPd被覆貴金属触媒を含むが、さらに硫化しないポジティブコントロールとして作製した。また、R3中の触媒は、水素下100℃で還元した。
各反応器内の触媒床の配置は、上部(反応器の前面)にNiW触媒、下部(反応器の背面)にPd被覆貴金属触媒とした。各反応器には、希釈剤として42.6mLの破砕SiCをも含めた。反応器の上部ではより多くの希釈剤濃度を用いた。名目上の触媒特性を下表1及び2に提供する。
【0034】
【0035】
【0036】
水素化反応の開始前にまず「活性化」ステップによって反応器を適当な状態にした。水素と、2.5wt.%の二硫化ジメチル(DMDS)を含有する溶媒とを用いて反応器1及び2を硫化した。溶媒は触媒上を35mL/時間で通過し、水素流量は7標準リットル/時間(SLPH)だった。反応器温度は、250℃で4時間維持した後、10℃/時間で330℃まで加熱した。そして温度をさらに4時間330℃で維持した。オンラインガスクロマトグラフを用いて反応器から出てくる硫化水素を検出した。硫化手順中に発生した硫化水素の総量は、Pd(0)をPdSに変換するために必要とされる量の約800倍だった。水素(2barg)を65℃で2時間及び95℃で2時間流して反応器3をさらに還元した。
活性化後、反応器を200℃に至らせ、液体フィード及び水素を導入して活性ベースラインを確立した。液体フィードは、30wt.%の樹脂及び70%のEXXSOL(商標)溶媒から成り、250wppmの総硫黄含量を有した。液体フィード及び気体フィードを下降流様式で触媒床に供給した。液体フィードは70mL/時間で導入し、水素は11.5 SLPHで添加した。活性ベースラインの確立後、反応器温度を150℃に下げてから20℃の増分で150℃から250℃まで上昇させ、各温度で反応器が安定化した後に反応器生成物サンプルを収集した。各反応器生成物の色をさらに精製せずにそのままHunterLab(商標)比色計を用いて測定し、黄色度(YI)としてASTM E313に従って温度の関数としてプロットした(
図1)。R1及びポジティブコントロールR3から結果として生じたYI(それぞれ、四角及び円)は非常に類似しており、R1中のPd被覆貴金属触媒が、硫化ステップ中に導入された硫化水素で毒されなかったことを示唆している。17.9mLの硫化NiW二元金属触媒及び60.4mLのSiC希釈剤だけが負荷されたネガティブコントロールR2のYI(三角)は、試験した温度範囲全体でR1及びR3より比較的高いYI値を示した。これらの結果は、硫化Pd被覆貴金属触媒(R1)が、適切に活性化されたPd被覆貴金属触媒(R3)と同じ出口YIを有することを示している。従って、Pd被覆貴金属触媒は、硫化によって実質的に毒されないか、又は硫黄源の除去後に触媒活性が実質的に回復する。
【0037】
実験後、R1から「使用済みの」NiW触媒及びPd被覆貴金属触媒を窒素ブランケット下で回収し、ULVAC-PHI Quantera II XPSを用いてX線光電子分光法(XPS)で解析した。データを
図2~4に示す。
図2のXPSスペクトルは、NiW触媒及びPd被覆貴金属触媒について硫黄(S)領域を強調している。Pd被覆貴金属触媒については、二元金属NiW触媒が硫酸イオン及び硫化物イオンについてのピークを示す場合でさえ金属硫化物(S
2-)が観察されなかった。
図3に関して、同一触媒のPd領域の解析は、二元金属触媒にPd汚染がないことを示した。同様に、XPSスペクトルのW領域を解析すると、
図4に示すように、Pd被覆貴金属触媒のW汚染も観察されなかった。これらの結果は、表3に示す定量データによっても確認された。使用済みのPd被覆貴金属触媒サンプルで検出された全ての硫黄は、硫酸イオン(SO
4
2-)の形態だった。PdSの形態で存在するいずれの硫黄も機器の検出限界未満だった。要約すると、XPS測定は、Pd(0)が実質的に(又は少なくとも不可逆的でなく)PdSに変換されず、試験したタイムスケールにわたって活性の永続的変化が観察されないことを確証した。
【0038】
【0039】
実施例2:Pd被覆貴金属触媒の長期耐硫黄性。実施例1で用いたものと同様の形状の反応器に26.8mLの事前硫化NiW二元金属触媒、9.0mLのPd被覆貴金属触媒(75:25比)、及び42.5mLのSiC希釈剤を充填した。実施例1のように、反応器の上部/前面に事前硫化NiW触媒を充填し、反応器の下部/背面にPd被覆貴金属触媒を充填した。実施例1のR3と同じ還元条件下で反応器を水素下で還元した。
溶媒中30wt.%の樹脂及び総計250wppmの硫黄を含有する炭化水素樹脂混合物フィードを反応器に下降流様式で70mL/時間(液体毎時空間速度=2.0時間
-1)にて導入した。反応器排出物からサンプルを回収し、
図5に示すように(三角)、時間の関数として生YIを測定した。全ての活性差は全体的にPd被覆貴金属触媒と関連すると仮定すると、
図5に示す破線は、予想される触媒活性に関して以下のこと、すなわち予想触媒活性の130%(破線)、予想触媒活性の100%(鎖線)、及び予想触媒活性の70%(点線)を表す。全ての破線は、200℃で予想される触媒活性に基づいて予測され、異なる温度で測定された黄色度値(
図5で記号B1、B2、又はB3を付けた領域)と直ちには比較できない。
【0040】
280℃での長期保持(
図5の表示B1~B3)と200℃で短期活性チェック(表示A1~A6)との間で反応器温度を循環させた。図のように、予想値の範囲内の触媒活性が実現された。溶媒と水素による330℃での熱水素ストリップを
図5にCと表示し、メンテナンスのための長期機器シャットダウンをDと表示する。
触媒還元直後の初期活性チェック(A1)は、結果として生じたYIが予想したより良く、予想触媒活性のほぼ130%に相当することを示した。領域B1は、280℃での6日保持に相当する。この温度はフィード中の硫黄を硫化水素に変換するのに十分熱く、このプロセス条件で毎日、Pd(0)をPdSに完全に酸化するために必要とされる硫化水素の3倍にPd被覆貴金属触媒をさらした。その結果、6日保持は、触媒を完全に毒するために理論的に必要とされる硫化水素の18倍をもたらした。この保持後の活性チェック(A2)は、このような多量の硫化水素にさらされた後でさえ、触媒は予想活性を保持することを示した。期間A2では、温度は200℃で5日間維持され、生成物YIは着実に増加し、この温度での触媒活性低下の増大を示唆している。触媒は、200℃では硫黄含有化合物を硫化水素に変換しないので、反応器流出ガスに関するガスクロマトグラフィー試験によって200℃では硫化水素は検出されなかった。この結果は、失活機構が触媒の活性サイト上の高分子量種の物理吸着に関連することを示唆する。
【0041】
次に表示Cの期間反応器に熱水素ストリップを施し、触媒活性を回復させた。熱水素ストリップ(
図5の期間C)後、樹脂及び溶媒を再び反応器に添加し、200℃に加熱して活性をチェックした(
図5の期間A3)。この場合もやはり、触媒活性は130%に近く、温度維持及び活性チェックにわたってわずかな永続的活性低下しかなかったことを示している。280℃での別の6日保持(B2)中に、完全被毒をもたらすと予想される硫化水素濃度の18倍にもう一度触媒をさらした。この保持後活性チェック(A4)は、触媒活性が再び予想値の100%まで回復することを示した。このように、Pd被覆貴金属触媒は、触媒を完全に毒するために理論的に必要とされる量の36倍の蓄積量の硫化水素にさらされたにもかかわらず、活性を維持した。
次に反応器を14日間にわたってメンテナンスのためにシャットダウンした(
図5の期間D)。シャットダウン中に、反応器を溶媒でフラッシュし、乾燥させ、シャットダウン期間中は窒素下周囲温度で保管した。反応器を再開し、期間A5に別の活性チェックを行った。これは、前の活性チェックA4より低い活性を示した。シャットダウン中は触媒をいずれのさらなる硫化水素又は樹脂にもさらさなかったので、シャットダウン中の活性低下は反応器の再開時の不完全な触媒湿潤に起因することが判明した。
【0042】
280℃での3回目の高温保持を期間B3の7日間行い、その間に、完全被毒を引き起こすのに必要とされる硫化水素の21倍にさらに触媒をさらした。最後の200℃の活性チェック(A6)は、保持前活性チェック(A5)とほぼ同じ初期活性を与え、保持中に認識できるほどの触媒失活が起こらなかったこを示唆している。前述同様に、200℃での保持は、この温度で経時的に部分的触媒失活を示した(A6)。
全体的に見て、Pd被覆貴金属触媒は、完全にそれを毒するのに十分な硫化水素の57倍にさらされたが、予想値未満の失活は観察されず(保持B1及びB2)、又は硫化水素への曝露(保持B3)時に失活は起こらなかった。Pd被覆貴金属触媒が硫化水素によって毒されていたら、たとえ硫化NiW二元金属触媒が100%の活性を維持したとしても、反応器出口でのYIは、>95だったであろう。反応器流出物YI>95は、いずれの状況下でも観察されなかった。
【0043】
実施例3:温度の関数としての変換特性。この例では、1:1(体積で)の事前硫化NiW触媒:Pd被覆貴金属触媒を充填した反応器床を有する反応器を用いてパイロットプラントスケールの実験を行った。100mLのSiC希釈剤と共に25mLの各触媒を使用した。操作中に、いくつかの変量、すなわち、a)反応器温度の関数としてのYI、b)反応器温度の関数としての芳香族飽和、及びc)芳香族飽和の関数としての色変換を含めた変量をモニターした。
溶媒に30wt.%濃度で溶かした樹脂を含有するサンプルを下降流様式で2.0時間
-1の空間速度及び150の気体比にて触媒床上を通過させた。試験中に、反応器温度を20℃の増分で200℃から300℃まで上昇させた。
図6は、この実験の温度の関数としてのYIのグラフである。フィードは、137.8の初期YIを有し、300℃で0.9の最終YIまで低減させた。これは136.9 YI単位の低減に等しい。従って、300℃に到達時に初期色の99%超が除去された。
【0044】
図7は、この実験について温度の関数としての芳香族飽和(変換)のグラフである。芳香族飽和は
1H NMRで測定した。調べたサンプルでは、芳香族飽和は、約30%の芳香族飽和を与える(データ示さず)比較硫化NiW触媒のみから得たものより少なかった。約5%のベースライン芳香族飽和は、
1H NMR測定技術のアーティファクトであると考えられる。特に、オレフィン飽和が反応生成物中の脂肪族水素も総水素も増やし、一方で芳香族プロトン数は一定のままなので、芳香族プロトン対脂肪族プロトンの比は低減する。従って、たとえ芳香族性減少が起こらなかったとしても、芳香族プロトン:脂肪族プロトン比の減少が観察され、そのため少量の報告ベースライン芳香族に至る。220℃と260℃の間で、芳香族飽和は10~12%の範囲だった。280℃と300℃の間で、芳香族飽和は12~14%でわずかに高かった。このように、耐えることができる呈色の程度に応じて、反応器をより低い温度で操作することによって、ある程度芳香族飽和を変えてよい。
図8は、この実験について芳香族飽和の関数としての色変換のグラフである。図のように、相対的に低い芳香族飽和(<15%)で高い色変換(80+%)が得られた。
【0045】
Pd被覆貴金属触媒の代わりに従来の多孔性Pt/Pd触媒を用いて比較実験をも行った。他の反応パラメーターは他のサンプル実験におけるものと同一だった。
図8に示すデータと比較するために芳香族飽和の関数としての色変換を測定した。
図9は、多孔性Pt/Pd触媒で脱色された比較サンプルについての芳香族飽和の関数としての色変換のグラフである。
図9に示すように、脱色の最高程度に達したサンプルについては芳香族飽和は40%以上だった。従って、Pd被覆貴金属触媒は、芳香族飽和を少なくすることができ、それでもさらに顕著な脱色を達成する。存在するPd被覆貴金属触媒の量を変えることによって、さらなるバリエーションを実現してよい。
【0046】
実施例4:追加の性能データ。この例では、75vol.%の事前硫化NiW触媒及びNiW触媒上の層状の25vol.%のPd被覆貴金属触媒(すなわち、固定床の後部位置)の固定床上での水素化によって改善された樹脂色が得られた。触媒は、表1及び2に規定のもの(実施例1)と同等である。比較のため、事前硫化NiW触媒のみを利用することを除き、第2の反応器を同様の条件下で並行して独立に操作した。各反応器は約100mLの容積であり、30インチ(762mm)の長さを有する0.75インチ(19.05mm)のO.D.×0.516インチ(13.1mm)のI.D.の316ステンレス鋼管製だった。各反応器床に約90mLの触媒を充填した。プロセスフィードを上昇流様式で触媒床に供給した。
樹脂の水素化中の触媒性能を下記条件下で評価した:圧力約2,800psig(約19MPa);及び等温性反応器温度400°F(約204℃)~620°F(約327℃)。指定時間にVARSOL(商標)1(ExxonMobil)を90mL/時間(又は1時間-1のLHSV)で用いて溶媒フラッシュを行った。これらの実験の種々の部分用の炭化水素フィードの組成を下表4に特定する。
【0047】
【0048】
各反応器について試験条件シーケンスを下表5及び6に特定する。液体フィード流量を135mL/時間(又は1.5時間-1のLHSV)に設定し、水素流量を20.25 SLPH(又は150気体/液体比)、又は27.00 SLPH(又は200気体/液体比)に設定した。総実験時間は約46日だった。
【0049】
【0050】
【0051】
研究した第1の特性は、水素化樹脂の芳香族含量だった。
図10は、実験サンプル及び比較サンプルについて流通時間の関数としての芳香族含量のグラフである。芳香族含量は、
1H NMRで芳香族プロトンパーセントを測定することによって決定した。
図11は、290℃で得たデータのみを示す対応グラフである。図のように、水素処理を248及び416時間で行い、溶媒フラッシュを384時間で行った。芳香族含量又は他の性能特性によって測定して、水素処理又は溶媒フラッシュに起因する性能低下はなかった。
環状グレード樹脂については、2つの並列反応器は芳香族含量の有意な差をもたらさなかった。芳香族グレード樹脂については、事前硫化NiW触媒のみを含有する比較反応器は、実験反応器が与えたよりわずかに多い芳香族含量をもたらしたが、性能差は経時的にかなり減少した。
【0052】
水素化樹脂の軟化点をも評価した。
図12は、実験サンプル及び比較サンプルについて流通時間の関数としての水素化樹脂の軟化点のグラフである。軟化点は、溶媒を除去するためのスチームストリッピング後に測定した。両ケースで同様の軟化点が得られた。
図13は、290℃で得たデータについて実験サンプル及び比較サンプルについて流通時間の関数としての初期色(黄色度として)のグラフである。
図14は、流通時間の関数としてのエイジド色(黄色度として)のグラフである。エイジド色は、空気にさらしたジャー内で5時間の保持時間にわたって水素化生成物を加熱することによって測定してよい。図のように、芳香族樹脂から生成された実験サンプルは、比較反応器から得られたサンプルが示すより低い呈色を示した。環状樹脂サンプルについては最小の色差があった。従って、Pd被覆貴金属触媒を使用することによって、有意な脱色を実現することができ、それでもさらに顕著な芳香族性を保持する。
【0053】
本明細書に記載の全ての文書は、優先権書類及び/又は試験手順を含め、参照することによりそれらが本テキストと矛盾しない程度まで本明細書に援用され、該プラクティスが許容される全ての権限の目的で援用される。前述の一般的説明及び具体的実施形態から明らかなように、本開示の形態を例示及び記述したが、本開示の精神及び範囲を逸脱することなく種々の変更を加えることができる。従って、本開示は、それらによって限定されるものではない。例えば、本明細書に記載の組成物は、本明細書に明示的に記載又は開示されていないいずれの成分、又は組成がなくてもよい。いずれの方法も本明細書に記載又は開示されていないいずれのステップを欠いてもよい。同様に、用語「含む(comprising)」は、用語「含む(including)」と同義とみなされる。方法、組成物、要素又は要素群が、移行句「含む(comprising)」に先行するときはいつでも、組成物、要素、又は要素群の列挙に先行する移行句「から本質的に成る(consisting essentially of)」、「から成る(consisting of)」、「から成る群より選択される(selected from the group of consisting of)」、又は「である(is)」を有する同一の組成物又は要素群をも企図し、その逆も同様であると理解すべきである。
【0054】
別段の指示がない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲で用いる成分、特性、例えば分子量、反応条件等の量を表す全ての数は、全ての場合に用語「約」で修飾されているものと理解すべきである。従って、反対の指示がない限り、下記明細書及び添付の特許請求の範囲に記載の数値パラメーターは、本発明の実施形態によって得ようとする所望特性に応じて変動し得る近似値である。少なくとも、かつ特許請求の範囲への均等論の適用を制限するための試みとしてではなく、各数値パラメーターは、少なくとも、報告した有効桁数を考慮し、かつ通常の丸め技術を適用することによって解釈すべきである。
下限及び上限のある数値範囲が開示されているときはいつでも、いずれの数及び該範囲内に入るいずれの包含範囲も、下限と上限を含め、具体的に開示されている。特に、本明細書で開示されるあらゆる範囲の値(形態「from about a to about b」、又は同等に、「from approximately a to b」、又は同等に、「from approximately a-b」の)は、値のより広い範囲内に包含されるあらゆる数値及び範囲を述べているものと理解すべきである。また、請求項中の用語は、特許権所有者が明示的かつ明白に定義していない限り、それらのプレーンな通常の意味を有する。さらに、請求項で使用する不定冠詞「a」又は「an」は、本願では、それが導入する要素の1つ又は複数を意味すると定義される。
【0055】
従って、本開示は、記載した目標及び利点のみならずその中に内在するものを達成するためにうまく適応している。上記で開示した特定実施形態は、異なるが当業者及び本願の教示の恩恵にあずかる者に明白な等価な方法で本開示を修正及び実施し得るので、単なる例示にすぎない。さらに、下記特許請求の範囲に記載されるもの以外は、本明細書で示した構成又はデザインの詳細に限定する意図ではない。従って、上記で開示した特定の例示実施形態を変更し、組み合わせ、又は修正してよく、全ての該バリエーションは本開示の範囲及び精神内とみなされることは明白である。本明細書で例として開示した実施形態は、本明細書で具体的に開示していないいずれの要素及び/又は本明細書で開示したいずれの任意的要素の非存在下でも適切に実施することができる。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕炭化水素樹脂の調製方法であって、
水素化樹脂混合物の形成に有効な条件下で樹脂混合物を硫化二元金属触媒及び過剰水素と反応させるステップであって、前記樹脂混合物は、オレフィン性不飽和を含有する少なくとも1種の重合可能モノマーのオリゴマー化反応生成物及び溶媒を含む、ステップと、
前記水素化樹脂混合物をそのまま貴金属触媒に供給するステップと、
前記水素化樹脂混合物を前記貴金属触媒の存在下、脱色樹脂混合物の形成に有効な条件下で反応させるステップと
を含む、前記方法。
〔2〕前記水素化樹脂混合物の形成に有効な条件及び前記脱色樹脂混合物の形成に有効な条件が、約150℃~約350℃の反応温度及び約6MPa~約27MPaの圧力を有する、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記貴金属触媒が、前記水素化樹脂混合物を反応させ、前記脱色樹脂混合物を形成したときにASTM E313で測定される黄色度を約100単位以上低減させるのに有効である、前記〔1〕又は前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記過剰水素及び前記溶媒の少なくとも一部を前記脱色樹脂混合物から除去するステップをさらに含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕前記脱色樹脂混合物をペレットに加工するステップをさらに含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の方法。
〔6〕前記樹脂混合物が、熱的オリゴマー化条件下で調製される、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の方法。
〔7〕前記少なくとも1種の重合可能モノマーが、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、スチレン、メチルスチレン、インデン、メチルインデン、及びこれらの任意の組み合わせから成る群より選択されるモノマーを含む、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の方法。
〔8〕前記水素化樹脂混合物が、前記水素化樹脂混合物から硫黄化合物を除去せずにそのまま前記貴金属触媒に供給される、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の方法。
〔9〕前記貴金属触媒が担体材料を含む、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の方法。
〔10〕前記貴金属触媒が、前記担体材料上に外部貴金属コーティングを含み、かつ前記担体材料の細孔は実質的に貴金属を含まない、前記〔9〕に記載の方法。
〔11〕前記外部金属コーティングが、約150μm以下の厚さを有する、前記〔10〕に記載の方法。
〔12〕前記樹脂混合物が1つ以上の芳香族部分を含有し、かつ前記脱色樹脂混合物において前記芳香族部分の約20%以下が水素化されている、前記〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の方法。
〔13〕前記貴金属触媒がパラジウムを含む、前記〔1〕~〔12〕のいずれか1項に記載の方法。
〔14〕前記貴金属触媒が約0.1wt.%超のパラジウム負荷を有する、前記〔13〕に記載の方法。
〔15〕前記担体材料が、酸化物担体又は炭素担体を含む、前記〔9〕~〔14〕のいずれか1項に記載の方法。
〔16〕前記担体材料が多孔質炭素を含む、前記〔9〕~〔14〕のいずれか1項に記載の方法。
〔17〕前記担体材料が約3,000m
2
/g以下の表面積を有する、前記〔9〕~〔16〕のいずれか1項に記載の方法。
〔18〕前記担体材料が、約50m
2
/g~約350m
2
/gの範囲の表面積を有する、前記〔17〕に記載の方法。
〔19〕前記〔1〕~〔18〕のいずれか1項に記載の方法によって調製された脱色樹脂組成物。
〔20〕オレフィン性不飽和を含有する少なくとも1種の重合可能モノマーのオリゴマー化反応生成物から形成された水素化樹脂混合物を含む脱色樹脂組成物であって、
前記水素化樹脂混合物が、ASTM E313で測定して、約10以下の黄色度を有する、前記脱色樹脂組成物。