(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20240628BHJP
H01G 9/15 20060101ALI20240628BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
H01G9/028 G
H01G9/15
H01G9/00 290H
H01G9/028 F
(21)【出願番号】P 2022162007
(22)【出願日】2022-10-07
(62)【分割の表示】P 2021149843の分割
【原出願日】2016-06-27
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2015131918
(32)【優先日】2015-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】福地 耕二
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩治
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】田中 泰央
(72)【発明者】
【氏名】森岡 諒
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-177421(JP,A)
【文献】特開2011-049458(JP,A)
【文献】特開2005-123630(JP,A)
【文献】国際公開第2007/031206(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/091656(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/087617(WO,A1)
【文献】特表2012-517113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/028
H01G 9/15
H01G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体、前記陽極体上に形成された誘電体層、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子層、および前記第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子層を備え
る電解コンデンサの製造方法であって、
前記第1導電性高分子層は、第1導電性高分子と、アニオン性の第1ドーパントと、第1シラン化合物とを含み、
前記第2導電性高分子層は、第2導電性高分子と、アニオン性の第2ドーパントと、第2アミン化合物とを含み、
前記第1ドーパントの分子量は、前記第2ドーパントの分子量よりも小さく、
前記第1シラン化合物と前記第2アミン化合物とは、互いに異なる物質であり、
前記第1導電性高分子層は、アミン化合物を含まないか、前記第2導電性高分子層に含まれる前記第2アミン化合物の割合に比べて少ない割合でアミン化合物を含み、
前記第2導電性高分子層は、シラン化合物を含まないか、前記第1導電性高分子層に含まれる前記第1シラン化合物の割合に比べて少ない割合でシラン化合物を含み、
前記第1導電性高分子
を、前記誘電体層上で、前記第1導電性高分子の前駆体を重合させて生成
し、
前記第2導電性高分子層
を、前記第2導電性高分子を含む分散液または溶液の分散媒または溶媒を除去して形成
する、電解コンデンサ
の製造方法。
【請求項2】
陽極体、前記陽極体上に形成された誘電体層、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子層、および前記第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子層を備え
る電解コンデンサの製造方法であって、
前記第1導電性高分子層は、第1導電性高分子と、アニオン性の第1ドーパントと、第1シラン化合物とを含み、
前記第2導電性高分子層は、第2導電性高分子と、アニオン性の第2ドーパントと、第2アミン化合物とを含み、
前記第1ドーパントの分子量は、前記第2ドーパントの分子量よりも小さく、
前記第1シラン化合物と前記第2アミン化合物とは、互いに異なる物質であり、
前記第1導電性高分子層は、アミン化合物を含まないか、前記第2導電性高分子層に含まれる前記第2アミン化合物の割合に比べて少ない割合でアミン化合物を含み、
前記第2導電性高分子層は、シラン化合物を含まないか、前記第1導電性高分子層に含まれる前記第1シラン化合物の割合に比べて少ない割合でシラン化合物を含み、
前記第1導電性高分子
を、前記誘電体層上で、前記第1導電性高分子の前駆体を重合させて生成
し、
前記第2導電性高分子層は、前記第2アミン化合物を含む第1層と、前記第1層上に形成され、かつ前記第2導電性高分子を含む第2層とを含み、
前記第2導電性高分子層の前記第2層
を、前記第2導電性高分子を含む分散液または溶液の分散媒または溶媒を除去して形成
する、電解コンデンサ
の製造方法。
【請求項3】
前記第2導電性高分子層は、複数の前記第1層と、複数の前記第2層とを含み、
前記第1層と前記第2層と
を交互に形成
する、請求項2に記載の電解コンデンサ
の製造方法。
【請求項4】
前記第2導電性高分子層の厚みは、前記第1導電性高分子層の厚みより大きい、請求項1~3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ
の製造方法。
【請求項5】
陽極体、前記陽極体上に形成された誘電体層、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子層、および前記第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子層を備え、
前記第1導電性高分子層は、第1導電性高分子と、アニオン性の第1ドーパントと、第1シラン化合物とを含み、
前記第2導電性高分子層は、第2導電性高分子と、アニオン性の第2ドーパントと、第2アミン化合物とを含み、
前記第1ドーパントの分子量は、前記第2ドーパントの分子量よりも小さく、
前記第1シラン化合物と前記第2アミン化合物とは、互いに異なる物質であり、
前記第1導電性高分子層は、アミン化合物を含まないか、前記第2導電性高分子層に含まれる前記第2アミン化合物の割合に比べて少ない割合でアミン化合物を含み、
前記第2導電性高分子層は、シラン化合物を含まないか、前記第1導電性高分子層に含まれる前記第1シラン化合物の割合に比べて少ない割合でシラン化合物を含み、
前記第2導電性高分子層の厚みは、前記第1導電性高分子層の厚みより大きい、電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子層を有する電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ大容量で低ESR(Equivalent Series Resistance)のコンデンサとして、誘電体層を形成した陽極体と、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成された導電性高分子層とを具備する電解コンデンサが有望視されている。導電性高分子層は、π共役系高分子などの導電性高分子を含んでいる。
【0003】
電解コンデンサの性能を高める観点から、複数の導電性高分子層を形成することが提案されている。特許文献1では、電解コンデンサを作製する際に、陽極酸化処理した陽極体を、導電性高分子のモノマー、酸化剤などを含む溶液に浸漬させて、モノマーを重合することで第1導電性高分子層を形成し、引き続き導電性高分子分散液を用いて第2導電性高分子層を形成している。特許文献2では、導電性高分子層の密着性を高める観点から、第1導電性高分子層と第2導電性高分子層との間や、第2導電性高分子層内にアミン化合物の層を設けることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2002-524593号公報
【文献】特開2012-043958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような導電性高分子層を備えた電解コンデンサは、年々、使用電圧の範囲が高まっており、電解コンデンサの耐電圧特性の更なる改善が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、耐電圧特性に優れる電解コンデンサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1発明は、陽極体、前記陽極体上に形成された誘電体層、前記誘導体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子層、および前記第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子層を備え、前記第1導電性高分子層は、第1導電性高分子と、第1シラン化合物とを含み、前記第2導電性高分子層は、第2導電性高分子と、塩基性化合物とを含む、電解コンデンサである。
【0008】
本願の第1発明によると、電解コンデンサの耐電圧特性を向上することができる。
【0009】
本願の第2発明は、誘電体層が形成された陽極体の前記誘電体層上に、第1導電性高分子と、第1シラン化合物とを含み、かつ前記誘電体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子層を形成する第1工程と、前記第1導電性高分子層上に、第2導電性高分子と、塩基性化合物とを含み、かつ前記第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子層を形成する第2工程と、を含む電解コンデンサの製造方法に関する。
【0010】
本願の第2発明によると、耐電圧特性が優れた電解コンデンサを製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本願の発明によると、電解コンデンサの耐電圧特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電解コンデンサの構造を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[電解コンデンサ]
本発明の一実施形態に係る電解コンデンサは、陽極体、陽極体上に形成された誘電体層、誘電体層の少なくとも一部を覆う第1導電性高分子層、および第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆う第2導電性高分子層を備える。第1導電性高分子層は、第1導電性高分子と、シラン化合物(第1シラン化合物)とを含む。第2導電性高分子層は、第2導電性高分子と、塩基性化合物とを含む。
【0014】
このような構成により、本実施形態では、電解コンデンサの耐電圧特性が向上する。その詳細は定かではないが、次のような要因によるものと考えられる。
【0015】
第1に、第1導電性高分子層に含まれる第1シラン化合物と、第2導電性高分子層に含まれる塩基性化合物とが、相互作用または結合することにより、第1導電性高分子層と第2導電性高分子層との間における密着性が高まると考えられる。
【0016】
また、第1シラン化合物を含む第1導電性高分子層は、溶媒に対する親和性が低くなる傾向があり、第1導電性高分子層上に第2導電性高分子層を被覆し難い。しかし、第2導電性高分子層を形成する際に、アミン化合物(塩基性化合物)が第1導電性高分子層と接触して、溶媒に対する親和性が改善する。よって、第2の理由として、第2導電性高分子層を形成する際に使用する第2導電性高分子を含む処理液で、第1導電性高分子層の表面を覆い易くなり、第1導電性高分子層の第2導電性高分子層に対する被覆性が改善することが考えられる。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る電解コンデンサの構造を概略的に示す断面図である。
図1において、電解コンデンサ100は、表面に誘電体層12が形成された陽極体11と、誘電体層12上に形成された導電性高分子層13と、導電性高分子層13上に形成された陰極層と、を有するコンデンサ素子10を備える。陰極層は、陰極引出層としてのカーボン層14および銀ペースト層15を有する。
【0018】
電解コンデンサ100は、さらに、陽極リード16と、陽極端子17と、接着層18と、陰極端子19とを備える。陽極リード16は、弁作用金属(タンタル、ニオブ、チタン、アルミニウムなど)からなる棒状体であり、その一端は陽極体11に埋設されており、他端がコンデンサ素子10の外部へ突出するように配置される。陽極端子17は、溶接により、その一部が陽極リード16に接続される。また、陰極端子19は、導電性の接着剤からなる接着層18を介して、コンデンサ素子10の最外層である銀ペースト層15と接続するように配置される。
【0019】
電解コンデンサ100は、外装樹脂20をさらに備える。外装樹脂20は、陽極端子17の一部および陰極端子19の一部が外装樹脂20から露出するように、陽極リード16、陽極端子17、接着層18および陰極端子19が配置されたコンデンサ素子10を封止する。
【0020】
導電性高分子層13は、第1導電性高分子層と第2導電性高分子層とを備える。第1導電性高分子層は、誘電体層12を覆うように形成されており、第2導電性高分子層は、第1導電性高分子層を覆うように形成されている。第1導電性高分子層は、必ずしも誘電体層12の全体(表面全体)を覆う必要はなく、誘電体層12の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。同様に、第2導電性高分子層は、必ずしも第1導電性高分子層の全体(表面全体)を覆う必要はなく、第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。一般に、導電性高分子を含む層を、固体電解質層と称する場合がある。
【0021】
誘電体層12は、陽極体11の表面に沿って形成されるため、誘電体層12の表面には、陽極体11の表面の形状に応じて、凹凸が形成されている。第1導電性高分子層は、このような誘電体層12の凹凸を埋めるように形成することが好ましい。
【0022】
以下に、電解コンデンサの構成について、より詳細に説明する。
【0023】
(陽極体)
陽極体としては、表面積の大きな導電性材料が使用できる。導電性材料としては、弁作用金属、弁作用金属を含む合金、および弁作用金属を含む化合物などが例示できる。これらの材料は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。弁作用金属としては、例えば、タンタル、ニオブ、チタン、アルミニウムが好ましく使用される。陽極体は、例えば、導電性材料の粒子の成形体またはその焼結体、導電性材料で形成された基材(箔状または板状の基材など)の表面を粗面化したものなどが挙げられる。なお、焼結体は、多孔質構造を有している。
【0024】
(誘電体層)
誘電体層は、陽極体表面の導電性材料を、化成処理などにより陽極酸化することで形成される。陽極酸化により、誘電体層は導電性材料(特に、弁作用金属)の酸化物を含む。例えば、弁作用金属としてタンタルを用いた場合の誘電体層はTa2O5を含み、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層はAl2O3を含む。尚、誘電体層はこれに限らず、誘電体として機能するものであれば良い。
【0025】
陽極体の表面が粗面化されている場合や、陽極体が多孔質化している場合、誘電体層は、陽極体の表面(より内側のピットの内壁面を含む)に沿って形成される。
【0026】
(第1導電性高分子層)
第1導電性高分子層は、導電性高分子(第1導電性高分子)と、シラン化合物(第1シラン化合物)とを含み、さらにドーパント(第1ドーパント)を含んでもよい。第1導電性高分子層において、ドーパントは、導電性高分子にドープされた状態で含まれていてもよく、導電性高分子と結合した状態で含まれていてもよい。また、第1導電性高分子層は、1層で形成されていてもよく、複数の層で形成されていてもよい。
【0027】
(導電性高分子)
導電性高分子としては、電解コンデンサに使用される公知のもの、例えば、π共役系導電性高分子などが使用できる。このような導電性高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、および/またはポリチオフェンビニレンなどを基本骨格とする高分子が挙げられる。
【0028】
このような高分子には、単独重合体、二種以上のモノマーの共重合体、およびこれらの誘導体(置換基を有する置換体など)も含まれる。例えば、ポリチオフェンには、ポリ
(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが含まれる。このような導電性高分子は、導電性が高く、ESR特性に優れている。
【0029】
これらの導電性高分子は、それぞれ、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
導電性高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1,000~1,000,000である。
【0031】
導電性高分子は、例えば、導電性高分子の前駆体を重合することにより得ることができる。ドーパントが結合またはドープされた導電性高分子は、ドーパントの存在下で、導電性高分子の前駆体を重合させることにより得ることができる。重合は、シラン化合物の存在下で行ってもよい。導電性高分子の前駆体としては、導電性高分子を構成するモノマー、および/またはモノマーがいくつか連なったオリゴマーなどが例示できる。重合方法としては、化学酸化重合および電解酸化重合のどちらも採用することができる。導電性高分子は、誘電体層を有する陽極体に付着させる前に、予め合成しておいてもよい。化学酸化重合の場合、導電性高分子の重合を、誘電体層上で行ってもよい。
【0032】
第1導電性高分子は、誘電体層上で、第1導電性高分子の前駆体を重合して得られたものであることが好ましい。この場合、陽極体の表面の孔やピットの内壁面にまで入りこんで第1導電性高分子層を形成し易く、また、誘電体層と第1導電性高分子層との密着性や被覆性を高め易い。
【0033】
(シラン化合物)
シラン化合物(第1シラン化合物)としては、特に制限されないが、例えば、ケイ素含有有機化合物が使用できる。シラン化合物は、少なくとも一部が、第1導電性高分子層中に取り込まれていればよい。シラン化合物は、第1導電性高分子どうし、あるいは、第1導電性高分子と第1ドーパント等の他の成分との間に介在して、これらと化学的に結合していてもよい。この場合、第1導電性高分子の結びつきが強固なものとなり、さらに耐電圧特性が向上する。また、シラン化合物またはこれに由来するケイ素含有成分の一部は、誘電体層と第1導電性高分子層との界面に存在してもよい。この場合、シラン化合物は、密着性の向上に寄与する。
【0034】
シラン化合物としては、例えば、シランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤は、反応性の有機基と、加水分解縮合基とを有する。反応性の有機基としては、エポキシ基、ハロゲン化アルキル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、重合性基などが好ましい。重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基などが挙げられる。シラン化合物として、このような反応性の有機基を有するシランカップリング剤を用いる場合、反応性の有機基と、塩基性化合物とが相互作用したり、反応したりし易くなる。よって、第1導電性高分子層と第2導電性高分子層との密着性をより高め易い。なお、アクリロイル基およびメタクリロイル基を、(メタ)アクリロイル基と総称する。加水分解縮合基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基が好ましい。なお、シランカップリング剤には、その加水分解物や縮合物を含むものとする。
【0035】
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが例示できる。ハロゲン化アルキル基を有するシランカップリング剤としては、3-クロロプロピルトリメトキ
シシランなどが例示される。
【0036】
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、またはこれらの塩(塩酸塩など)などが例示できる。ウレイド基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-ウレイドプロピルトリエトキシシランまたはその塩(塩酸塩など)などが挙げられる。
【0037】
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドなどが例示できる。イソシアネート基を有するシランカップリング剤としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが例示できる。
【0038】
(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン)などが例示できる。ビニル基を有するシランカップリング剤としては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシランなどが例示できる。
【0039】
これらのシラン化合物は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いてもよい。ESRを低減できるとともに、高容量化し易い観点から、シラン化合物のうち、エポキシ基や(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0040】
第1導電性高分子層がシラン化合物を含むことは、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)や誘導結合プラズマ分析(ICP)などにより分析することができる。
【0041】
第1導電性高分子層において、シラン化合物の量は、第1導電性高分子100質量部に対して、例えば、1~20質量部であり、3~15質量部であることが好ましい。シラン化合物の量がこのような範囲である場合、耐電圧特性をさらに高めることができる。
【0042】
(ドーパント)
第1ドーパントとしては、例えば、低分子ドーパント、および高分子ドーパントが挙げられる。第1導電性高分子層は、一種のドーパントを含んでもよく、二種以上のドーパントを含んでもよい。
【0043】
第1ドーパントとしては、例えば、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基(-O-P(=O)(-OH)2)、および/またはホスホン酸基(-P(=O)(-OH)2)などのアニオン性基を有するものが使用される。第1ドーパントは、アニオン性基を一種有してもよく、二種以上有してもよい。
【0044】
アニオン性基としては、スルホン酸基が好ましく、スルホン酸基とスルホン酸基以外のアニオン性基との組み合わせでもよい。
【0045】
低分子ドーパントとしては、上記のアニオン性基を有する低分子化合物(モノマー化合物))を用いることができる。このような化合物のうち、スルホン酸基を有する化合物の具体例としては、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、およびアントラキノンスルホン酸などが挙げられる。
【0046】
高分子ドーパントのうち、スルホン酸基を有する高分子ドーパントとしては、スルホン酸基を有するモノマー(第1モノマー)の単独重合体、第1モノマーと他のモノマー(第2モノマー)との共重合体、スルホン化フェノール樹脂(スルホン化フェノールノボラック樹脂など)などが例示できる。高分子ドーパントにおいて、第1モノマーおよび第2モノマーは、それぞれ、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0047】
第1モノマーとしては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸などが例示できる。これらのうち、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基を有する芳香族ビニルモノマーを少なくとも用いることが好ましい。第2モノマーとしては、アニオン性基を有さないモノマーなどを用いることもできるが、スルホン酸基以外のアニオン性基を有するモノマーを用いることが好ましい。
【0048】
高分子ドーパントとしては、スルホン酸基を有するポリエステルなども好ましい。スルホン酸基を有するポリエステルとしては、例えば、第1モノマーとして、スルホン酸基を有するポリカルボン酸および/またはスルホン酸基を有するポリオールを用い、第2モノマーとして、ポリカルボン酸およびポリオールを用いたポリエステルなどが挙げられる。第1モノマーとしては、スルホン酸基を有するジカルボン酸が好ましく使用される。スルホン酸基を有するジカルボン酸としては、例えば、スルホン化フタル酸、スルホン化イソフタル酸、スルホン化テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸が好ましい。第2モノマーとしてのポリカルボン酸としては、スルホン酸基を有さないもの、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸などが好ましい。第2モノマーとしてのポリオールとしては、スルホン酸基を有さないもの、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコールなどが好ましい。
【0049】
なお、ドーパントまたは高分子ドーパントの構成モノマーにおいて、アニオン性基は、解離した状態でアニオンを生成することができる限り特に制限されず、上記のアニオン性基の塩、またはエステルなどであってもよい。
【0050】
誘電体層に対する第1導電性高分子層の被覆性を高める観点からは、低分子ドーパントなどの比較的分子量が小さい第1ドーパントを用いることが好ましい。この場合、第1シラン化合物の割合を多くすることで、第1ドーパントの脱ドープを抑制してもよい。また、塩基性化合物による脱ドープを抑制する観点から、高分子ドーパントなどの比較的分子量が大きい第1ドーパントを用いる場合も好ましい。この場合、第1導電性高分子層におけるシラン化合物の割合を少なくすることもできる。
【0051】
高分子ドーパントの重量平均分子量は、それぞれ、例えば、1,000~1,000,000である。このような分子量を有する高分子ドーパントを用いると、ESRを低減し易い。
【0052】
第1導電性高分子層に含まれるドーパントの量は、第1導電性高分子100質量部に対して、10~1,000質量部であることが好ましい。
【0053】
第1導電性高分子層は、必要に応じて、さらに、公知の添加剤、および/または導電性高分子以外の公知の導電性材料(二酸化マンガン、TCNQ錯塩など)を含んでもよい。誘電体層と第1導電性高分子層との間には、密着性を高める層などを介在させてもよい。
【0054】
(第2導電性高分子層)
第2導電性高分子層は、導電性高分子(第2導電性高分子)と、塩基性化合物とを含み、さらにドーパント(第2ドーパント)を含んでもよい。第2導電性高分子層において、ドーパントは、導電性高分子にドープされた状態で含まれていてもよく、導電性高分子と結合した状態で含まれていてもよい。
【0055】
導電性高分子およびドーパントとしては、それぞれ、第1導電性高分子層について例示したものから選択できる。第2導電性高分子の場合、導電性高分子の前駆体の重合は、ドーパントおよび/または塩基性化合物の存在下で行ってもよい。第2導電性高分子は、第1導電性高分子層に付着させる前に、予め合成しておくことが好ましい。例えば、第2導電性高分子層は、第2導電性高分子を含む処理液、例えば、分散液または溶液を用いて形成することが好ましい。この場合、第2導電性高分子層を緻密化することができるため、耐電圧特性をさらに高めることができる。
【0056】
このように、第2導電性高分子層は、第1導電性高分子層よりも緻密であることが好ましい。導電性高分子層の緻密性は、例えば、双方の導電性高分子層の断面の電子顕微鏡写真から粗密に基づいて評価することができる。
【0057】
第2導電性高分子層に含まれるドーパントの量は、第2導電性高分子100質量部に対して、10~1,000質量部であることが好ましい。
【0058】
(塩基性化合物)
塩基性化合物としては、アンモニアなどの無機塩基の他、アミン化合物などの有機塩基が例示される。導電性の低下を抑制する効果が高い観点から、塩基性化合物のうち、アミン化合物が好ましい。アミン化合物は、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれであってもよい。アミン化合物としては、脂肪族アミン、環状アミンなどが例示できる。塩基性化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
脂肪族アミンとしては、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N、N-ジメチルオクチルアミン、N,N-ジエチルオクチルアミンなどのアルキルアミン;エタノールアミン、2-エチルアミノエタノール、ジエタノールアミンなどのアルカノールアミン;アリルアミン;N-エチルエチレンジアミン、1,8-ジアミノオクタンなどのアルキレンジアミンなどが例示できる。脂環族アミンとしては、例えば、アミノシクロヘキサン、ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどが挙げられる。芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジンなどが挙げられる。
【0060】
環状アミンとしては、ピロール、イミダゾリン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、トリアジンなどの5~8員(好ましくは5員または6員)の窒素含有環骨格を有する環状アミンが好ましい。環状アミンは、窒素含有環骨格を1つ有してもよく、2つ以上(例えば、2または3個)有してもよい。環状アミンが2つ以上の窒素含有環骨格を有する場合、窒素含有環骨格は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0061】
アミン化合物は、必要に応じて、置換基を有していてもよい。
【0062】
第2導電性高分子層がアミン化合物を含むことは、例えば、ガスクロマグトラフィー(GC)により分析することができる。
【0063】
ESRを低減し易い観点から、第2導電性高分子層において、塩基性化合物の量は、導電性高分子100質量部に対して、5~200質量部または10~100質量部であることが好ましい。
【0064】
第2導電性高分子層は、シラン化合物(第2シラン化合物)を含むことができる。ただし、導電性高分子層全体のESRを改善する観点からは、第2導電性高分子層は、シラン化合物を含まないか、もしくは、含む場合でも、第1導電性高分子層中のシラン化合物(第1シラン化合物)の割合が、第2導電性高分子層中のシラン化合物(第2シラン化合物)の割合よりも多いことが好ましい。この場合、第1導電性高分子層中のドーパントが、第2導電性高分子に含まれる塩基性化合物で脱ドープされることを抑制し易くなる。また、第2導電性高分子層中のシラン化合物の割合が少ないことで、ESRの増大を抑制し易くなる。
【0065】
第1ドーパントの脱ドープは、低分子ドーパントなどの分子量が比較的小さなドーパントを用いた場合に、特に顕著となり易い。しかし、誘電体層表面のできるだけ多くの領域に第1導電性高分子層を形成するには、このような第1ドーパントを用いることが有利である。一般に、ドーパントの脱ドープが起こるとESRが増加する。そのため、このような場合には、第2導電性高分子層に、高分子ドーパントなどの分子量が比較的大きな第2ドーパントを用いることで、第2導電性高分子層からの脱ドープを抑制することができ、ESRの増加を抑制できる。また、第2導電性高分子層を、予め重合した第2導電性高分子を用いて形成する場合には、優れた耐電圧特性が得られ易い。そのため、第2導電性高分子層中のシラン化合物の割合を少なくすることで、ESRの抑制効果が顕著になる。よって、第1ドーパントよりも分子量が大きい第2ドーパントを用いる場合に、第2導電性高分子層中の第2シラン化合物の割合を小さくする(もしくは第2シラン化合物を含まないようにする)ことが好ましい。
【0066】
第2シラン化合物としては、第1シラン化合物について例示したものから適宜選択できる。
【0067】
第2導電性高分子層は、必要に応じて、さらに、公知の添加剤、導電性高分子以外の公知の導電性材料(二酸化マンガン、TCNQ錯塩など)を含んでもよい。
【0068】
(その他)
第2導電性高分子層は、1層で形成されていてもよく、複数の層で形成されていてもよい。
【0069】
第2導電性高分子層は、塩基性化合物を含む第1層と、第1層上に形成された第2導電性高分子を含む第2層とを含むことが好ましい。第2層は、少なくとも第2導電性高分子を含んでいればよく、第2導電性高分子と塩基性化合物とを含んでもよい。第2層は、さらに第2ドーパントを含むことができる。第1導電性高分子層と第2層はいずれもアニオン性を帯び易く、第1導電性高分子層上に直接第2層を形成しようとしても被覆性が低い。第1層を設けることで、第1導電性高分子層と第2層との親和性を高めることができるため、第1導電性高分子層に対する第2導電性高分子層の被覆性をさらに高め易くなる。
【0070】
第2導電性高分子層は、複数の第1層と、複数の第2層とを含んでもよい。第1層と第2層とは交互に形成することが望ましい。第2層のみを積層しようとしても、電荷の反
発により下層に対して上層を被覆し難い。第2層間に第1層を配することで、第1層を介して、下層の第2層を上層の第2層で十分に被覆することができるため、第2導電性高分子層の被覆性をさらに高め易くなる。
【0071】
第2導電性高分子層において、第1層の塩基性化合物は、第1層を形成する際や第2層を積層する際などに、第2層に移行することがある。第2導電性高分子層において、第1層中の塩基性化合物の濃度は、第2層中の塩基性化合物の濃度よりも高くてもよい。
【0072】
漏れ電流を抑制したり、耐電圧特性をさらに高めたりする観点からは、第2導電性高分子層の厚み(平均厚み)は、第1導電性高分子層の厚み(平均厚み)よりも大きいことが好ましい。この構成は、第1および第2導電性高分子層の構成や役割が互いに異なる場合に、特に有効である。好ましい実施形態では、例えば、誘電体層上で第1導電性高分子の前駆体を重合して第1導電性高分子を生成させ、生成した第1導電性高分子を、誘電体層を覆うように付着させることで第1導電性高分子層を形成する。そして、第2導電性高分子層を、第2導電性高分子を含む処理液を用いて形成する。このような場合に、第1導電性高分子層および第2導電性高分子層の厚みが上記のような関係であることが有効である。誘電体層上での重合により第1導電性高分子層を形成する場合、生成した第1導電性高分子が、多孔質である陽極体の孔内へ入り込み易く、入り組んだ孔の内壁面にまで第1導電性高分子層を形成することができる。しかし、この方法で得られた第1導電性高分子層は、密度が低くなり易い。そのため、第2導電性高分子層を、予め重合した第2導電性高分子を用いて形成し、第2導電性高分子層の厚さを第1導電性高分子層より厚くすることで、導電性高分子層全体としての耐電圧特性や漏れ電流特性をさらに改善することができる。
【0073】
第2導電性高分子層の平均厚みは、例えば、5~100μm、好ましくは10~50μmである。第1導電性高分子層の平均厚みに対する第2導電性高分子層の平均厚みの比は、例えば、5倍以上、好ましくは10倍以上である。平均厚みや平均厚みの比がこのような範囲である場合、導電性高分子層全体の強度を高めることができる。
【0074】
(陰極層)
カーボン層は、導電性を有していればよく、例えば、黒鉛などの導電性炭素材料を用いて構成することができる。銀ペースト層には、例えば、銀粉末とバインダ樹脂(エポキシ樹脂など)を含む組成物を用いることができる。なお、陰極層の構成は、これに限られず、集電機能を有する構成であればよい。
【0075】
陽極端子および陰極端子は、例えば銅または銅合金などの金属で構成することができる。また、樹脂外装体の素材としては、例えばエポキシ樹脂を用いることができる。
【0076】
本発明の電解コンデンサは、上記構造の電解コンデンサに限定されず、様々な構造の電解コンデンサに適用することができる。具体的に、巻回型の電解コンデンサ、金属粉末の焼結体を陽極体として用いる電解コンデンサなどにも、本発明を適用できる。
【0077】
[電解コンデンサの製造方法]
電解コンデンサは、誘電体層が形成された陽極体の誘電体層上に第1導電性高分子層を形成する工程(第1工程)と、第1導電性高分子層上に第2導電性高分子層を形成する工程(第2工程)と、を経ることにより製造できる。電解コンデンサの製造方法は、第1工程に先立って、陽極体を準備する工程、および陽極体上に誘電体層を形成する工程を含んでもよい。製造方法は、さらに陰極層を形成する工程を含んでもよい。
【0078】
以下に、各工程についてより詳細に説明する。
【0079】
(陽極体を準備する工程)
この工程では、陽極体の種類に応じて、公知の方法により陽極体を形成する。
【0080】
陽極体は、例えば、導電性材料で形成された箔状または板状の基材の表面を粗面化することにより準備することができる。粗面化は、基材表面に凹凸を形成できればよく、例えば、基材表面をエッチング(例えば、電解エッチング)することにより行ってもよく、蒸着などの気相法を利用して、基材表面に導電性材料の粒子を堆積させることにより行ってもよい。
【0081】
また、弁作用金属の粉末を用意し、この粉末の中に、棒状体の陽極リードの長手方向の一端側を埋め込んだ状態で、所望の形状(例えば、ブロック状)に成形された成形体を得る。この成形体を焼結することで、陽極リードの一端が埋め込まれた多孔質構造の陽極体を形成してもよい。
【0082】
(誘電体層を形成する工程)
この工程では、陽極体上に誘電体層を形成する。誘電体層は、陽極体を化成処理などにより陽極酸化することにより形成される。陽極酸化は、公知の方法、例えば、化成処理などにより行うことができる。化成処理は、例えば、陽極体を化成液中に浸漬することにより、陽極体の表面(より内側の表面の孔や窪みの内壁面)まで化成液を含浸させ、陽極体をアノードとして、化成液中に浸漬したカソードとの間に電圧を印加することにより行うことができる。化成液としては、例えば、リン酸水溶液などを用いることが好ましい。
【0083】
(第1導電性高分子層を形成する工程(第1工程))
第1工程では、第1導電性高分子とシラン化合物とを含む第1導電性高分子層を、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成する。第1導電性高分子層は、第1導電性高分子、シラン化合物およびドーパントなどの第1導電性高分子層の構成成分を含む分散液や溶液を用いて形成してもよい。
【0084】
好ましい実施形態では、第1導電性高分子の前駆体を重合させることにより第1導電性高分子層を形成する。つまり、誘電体層上で第1導電性高分子の前駆体を重合させる。誘電体層は、多くの孔やピットを有する陽極体の表面(陽極体の孔やピットの内壁面を含む表面)に形成される。そのため、誘電体層上で前駆体を重合させることで、孔やピットの奥にまで第1導電性高分子層を形成し易くなる。重合は、化学酸化重合により行うことができる。重合は、ドーパントの存在下で行ってもよい。
【0085】
重合は、シラン化合物の存在下で行ってもよい。また、第1導電性高分子の前駆体を重合することにより第1導電性高分子層を形成し、シラン化合物を第1導電性高分子層に塗布または含浸させることで、第1導電性高分子層にシラン化合物を含有させてもよい。また、シラン化合物の存在下での重合により形成した第1導電性高分子層に、シラン化合物を塗布または含浸させてもよい。
【0086】
重合は、重合を促進させるために触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄などを用いることができる。また、過硫酸塩(過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなど)、スルホン酸金属塩などの酸化剤を用いてもよい。重合は、必要に応じて、ドーパントおよび/またはシラン化合物の存在下で行ってもよい。
【0087】
重合には、必要に応じて、導電性高分子の前駆体を溶解または分散させる溶媒(第1溶媒)を用いてもよい。第1溶媒としては、水、水溶性有機溶媒、およびこれらの混合物
などが挙げられる。
【0088】
(第2導電性高分子層を形成する工程(第2工程)
第2工程では、第2導電性高分子と塩基性化合物とを含む第2導電性高分子層を、第1導電性高分子層上に、第1導電性高分子層の少なくとも一部を覆うように形成する。第2導電性高分子層は、第1導電性高分子層上で、第2導電性高分子の前駆体を重合させることにより形成してもよい。重合はドーパントの存在下で行ってもよい。しかし、膜質が緻密な第2導電性高分子層を形成する観点からは、第2導電性高分子を含む処理液を用いて第2導電性高分子層を形成することが好ましい。処理液は、さらにドーパントを含んでもよい。第2導電性高分子層は、例えば、第1工程で得られた陽極体に処理液を含浸させ、乾燥することにより形成される。第1工程で得られた陽極体を処理液に浸漬させたり、または第1工程で得られた陽極体に処理液を滴下したりすることにより、処理液を陽極体に含浸させる。
【0089】
第2導電性高分子を含む処理液は、塩基性化合物を含んでもよいが、第2導電性高分子と、塩基性化合物とは、別々に第1導電性高分子層上に付着させてもよい。第2工程は、例えば、塩基性化合物を含む第1処理液を、第1工程で得られた陽極体に含浸させて乾燥させ、その後、第2導電性高分子を含む第2処理液を含浸させて乾燥する工程(工程a)を含む。工程aにより、第2導電性高分子と塩基性化合物とを含む第2導電性高分子層が形成される。
【0090】
第2工程や工程aで陽極体を乾燥する際には、必要に応じて、陽極体を加熱してもよい。
【0091】
工程aを繰り返してもよい。この場合、塩基性化合物を含む第1層と第2導電性高分子を含む第2層とが交互に積層された第2導電性高分子層を形成することができる。工程aを繰り返すことで、第1導電性高分子層の第2導電性高分子層による被覆性を高めることができる。
【0092】
塩基性化合物を含む第1処理液としては、例えば、塩基性化合物の溶液が使用される。溶液に使用される溶媒(第2溶媒)としては、水が好ましく、水と有機溶媒との混合溶媒を使用してもよい。有機溶媒としては、例えば、炭素数1~5の脂肪族アルコール、アセトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。有機溶媒は一種を単独でまたは二種以上を組み合わせてもよい。
【0093】
第2導電性高分子を含む処理液(第2処理液など)としては、第2導電性高分子を含む分散液または溶液を用いることが好ましい。このような処理液は、第2導電性高分子と、溶媒(第3溶媒)とを含む。第2導電性高分子を含む処理液は、必要により、塩基性化合物および/または第2ドーパントを含んでもよい。このような処理液を用いることで、緻密な第2導電性高分子層を容易に形成することができ、優れた耐電圧特性が得られ易い。第3溶媒としては、水、有機溶媒、およびこれらの混合物が例示できる。有機溶媒としては、第2溶媒として例示したものから適宜選択できる。
【0094】
分散液に分散された第2導電性高分子および/またはドーパントは、粒子(または粉末)であることが好ましい。分散液中に分散された粒子の平均粒径は、5~500nmであることが好ましい。平均粒径は、例えば、動的光散乱法による粒径分布から求めることができる。
【0095】
第2導電性高分子を含む処理液は、第2導電性高分子と、必要によりドーパントおよ
び/または塩基性化合物とを溶媒に分散または溶解させることにより得ることができる。例えば、第2導電性高分子の重合液から不純物を除去した後、ドーパントを混合した分散液(分散液a)、またはドーパントの存在下で第2導電性高分子を重合した重合液から不純物を除去した分散液(分散液b)を、第2導電性高分子を含む処理液として用いてもよい。この場合、第3溶媒として例示したものを重合時の溶媒として用いてもよく、重合後に不純物を除去する際に、第3溶媒を添加してもよい。また、分散液aおよびbに、さらに第3溶媒を添加してもよい。また、いずれの分散液にも、必要に応じて、塩基性化合物を添加してもよい。
【0096】
第2導電性高分子層が、第2シラン化合物を含む場合、形成された第2導電性高分子層に、第2シラン化合物を塗布または含浸させてもよい。また、第2シラン化合物を、第2処理液などの第2導電性高分子を含む処理液に添加して用いてもよく、第1処理液に添加して用いてもよい。
【0097】
第1処理液や第2処理液は、必要に応じて公知の添加剤を含んでもよい。第1処理液には、必要に応じて酸成分を添加してもよい。
【0098】
(陰極層を形成する工程)
この工程では、第2工程で得られた陽極体の(好ましくは形成された導電性高分子層の)表面に、カーボン層と銀ペースト層とを順次積層することにより陰極層が形成される。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
(実施例1)
下記の要領で、
図1に示す電解コンデンサ1を作製し、その特性を評価した。
【0101】
(1)陽極体11を準備する工程
タンタル粉末を準備し、棒状体の陽極リード16の長手方向の一端側を金属粉末に埋め込んだ状態で、当該粉末を直方体に成形した。そして、これを焼結して、陽極リード16の一端が埋め込まれた陽極体11を準備した。
【0102】
(2)誘電体層12を形成する工程
陽極体11を濃度0.02質量%のリン酸溶液に浸して100Vの電圧を印加することにより、陽極体11の表面にTa2O5からなる誘電体層12を形成した。
【0103】
(3)第1導電性高分子層を形成する工程
重合性モノマーである3,4-エチレンジオキシチオフェン1質量部と、ドーパント成分としての、パラトルエンスルホン酸第二鉄0.9質量部と、第1シラン化合物としての3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン5質量部と、第1溶媒としてのn-ブタノール11.5質量部とを混合して溶液を調製した。得られた溶液中に、(2)で得られた誘電体層12が形成された陽極体11を浸漬し、引き上げた後、乾燥させた。溶液への浸漬と、乾燥とをさらに繰り返すことで、誘電体層12の表面を覆うように第1導電性高分子層を形成した。第1導電性高分子層の平均厚みを走査型電子顕微鏡(SEM)により測定したところ、約1μmであった。
【0104】
(4)第2導電性高分子層を形成する工程
(3)で得られた陽極体11を、塩基性化合物としてのN,N-ジメチルオクチルア
ミンを5質量%濃度で含む水溶液(第1処理液)に浸漬し、取り出して乾燥させた。次いで、陽極体を、第2導電性高分子としてのポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)と、第2ドーパントとしてのポリスチレンスルホン酸(PSS)とを含む分散液状の第2処理液に浸漬し、取り出して、乾燥させた。第1処理液への浸漬および乾燥と、第2処理液への浸漬および乾燥とを、交互に複数回繰り返すことにより、第1導電性高分子層の表面を覆うように第2導電性高分子層を形成した。第2導電性高分子層の平均厚みを、第1導電性高分子層の場合と同様にして測定したところ、約30μmであった。このようにして、第1導電性高分子層および第2導電性高分子層を、誘電体層12の表面を覆うように形成した。
【0105】
なお、第2処理液は、下記の手順で調製した。
【0106】
攪拌下で、ポリスチレンスルホン酸(スルホン化度:100モル%)を含む水溶液に、3,4-エチレンジオキシチオフェンモノマーを添加し、次いで、酸化剤(硫酸鉄(III)および過硫酸ナトリウム)を添加して、化学酸化重合を行った。得られた重合液を、イオン交換装置によりろ過して不純物を除去することにより、第2導電性高分子としてのPEDOTと、第2ドーパントとしてのPSSとを含む溶液を得た。得られた溶液に、純水を加えて、高圧ホモジナイザーでホモジナイズし、さらにフィルターでろ過することにより第2処理液を調製した。第2処理液中のPSSの量は、PEDOT100質量部に対して4質量部であった。
【0107】
走査型電子顕微鏡により、第1導電性高分子層および第2導電性高分子層の厚み方向の断面を観察したところ、誘電体層側に粗な第1導電性高分子層が薄く形成されていた。そして、第1導電性高分子層の表面を覆うように、誘電体層とは反対側に緻密な第2導電性高分子層が形成されていた。
【0108】
(5)陰極層の形成工程
上記(4)で得られた陽極体11に、黒鉛粒子を水に分散した分散液を塗布して、大気中で乾燥させることにより、少なくとも第2導電性高分子層の表面にカーボン層14を形成した。乾燥は、130~180℃で10~30分間行った。
【0109】
次いで、カーボン層14の表面に、銀粒子とバインダ樹脂(エポキシ樹脂)とを含む銀ペーストを塗布し、150~200℃で10~60分間加熱することでバインダ樹脂を硬化させ、銀ペースト層15を形成した。こうして、カーボン層14と銀ペースト層15とで構成される陰極層を形成した。
【0110】
(6)電解コンデンサの組み立て
(5)で得られた陽極体に、さらに、陽極端子17、接着層18、陰極端子19を配置し、外装樹脂で封止することにより、電解コンデンサを製造した。
【0111】
(実施例2)
(4)において、N,N-ジメチルオクチルアミンに代えて、1,8-ジアミノオクタンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製した。
【0112】
比較例1
(4)において、第1処理液を用いずに、第2処理液への浸漬と乾燥とを繰り返して第2導電性高分子層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製した。
【0113】
比較例2
(3)において、第1シラン化合物を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、電解コンデンサを作製した。
【0114】
比較例3
(3)において、第1シラン化合物を用いなかったこと以外は、比較例1と同様にして、電解コンデンサを作製した。
【0115】
(評価)
実施例および比較例の電解コンデンサを用いて、下記の評価を行った。
【0116】
(a)耐電圧特性
電解コンデンサの電圧を1V/sで昇圧し、電流値が0.5Aを超えた時の電圧値(V)を測定した。そして、比較例3の電圧値を1としたときの電圧値の比率を算出し、耐電圧特性の評価指標とした。この値が大きいほど、耐電圧特性が高いことを示す。
【0117】
(b)容量残存率(Cap)
125℃の温度にて、16Vの電圧を電解コンデンサに500時間印加した後、容量値を測定した。そして比較例3のコンデンサの容量値を1としたときの容量値の比率(容量残存率)を求めた。この容量残存率の数値が大きいほど、電解コンデンサの信頼性や寿命が向上していることを示す。
【0118】
実施例および比較例の結果を表1に示す。実施例1~2は、A1~A2であり、比較例1~3は、B1~B3である。
【0119】
【0120】
表1に示されるように、実施例の電解コンデンサでは、比較例に比べて高い耐電圧特性が得られた。また、実施例の電解コンデンサでは、高電圧を長時間印加したあとも、比較例に比べて高い容量値が得られており、長寿命で、信頼性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の一実施形態に係る電解コンデンサは、高い耐電圧特性が求められる様々な用途に利用できる。
【符号の説明】
【0122】
10 コンデンサ素子、11 陽極体、12 誘電体層、13 導電性高分子層、14 カーボン層、15 銀ペースト層、16 陽極リード、17 陽極端子、18 接着層、19 陰極端子、20 外装樹脂、100 電解コンデンサ