(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】樹脂モールド、およびフィルム構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/02 20060101AFI20240628BHJP
B29C 59/04 20060101ALI20240628BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
B29C59/02 B
B29C59/04 Z
B29C33/42
(21)【出願番号】P 2020156426
(22)【出願日】2020-09-17
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】黒宮 未散
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄士
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-201652(JP,A)
【文献】特開2013-237157(JP,A)
【文献】特開2020-126905(JP,A)
【文献】特開2018-176603(JP,A)
【文献】特開2008-246864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/02
B29C 59/04
B29C 33/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写材料を塗布されたパターン部と平坦部とを含む表面樹脂モールドの表面にフィルム基材の表面を上から押圧し、前記フィルム基材の表面と前記表面樹脂モールドとの間に転写材料を充填する表面充填工程と、
前記フィルム基材の表面に充填された転写材料をUV照射により前記フィルム基材の表面上に硬化させる表面硬化工程と、
前記転写材料を硬化させた表面転写パターンを前記表面樹脂モールドから離型させる表面離型工程と、
転写材料を塗布されたパターン部と平坦部とを含む裏面樹脂モールドの表面に前記フィルム基材の裏面を上から押圧し、前記フィルム基材の裏面と前記裏面樹脂モールドとの間に転写材料を充填する裏面充填工程と、
前記フィルム基材の裏面に充填された転写材料をUV照射により前記フィルム基材の裏面上に硬化させる裏面硬化工程と、
前記転写材料を硬化させた裏面転写パターンを前記裏面樹脂モールドから離型させる裏面離型工程と、
を含み、
前記表面樹脂モールド及び前記裏面樹脂モールドは、前記パターン部に細孔を封止する細孔封止層が設けられていると共に、
前記フィルム基材は、
前記表面転写パターンにおける平坦部の表面粗さRaが2.5nm以上であり、
前記裏面転写パターンにおける平坦部の表面粗さRaが2.5nm以上である、フィルム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記転写材料は、粘度が5mPa・s以上100mPa・s以下である、請求項
1に記載のフィルム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂モールド、およびフィルム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(インプリント技術の背景,適用分野)
近年、ディスプレイ、照明などの商品に用いられる光学部品において、特殊光学特性を発揮するナノメートル(nm)オーダーからミクロン(μm)オーダーの微細なパターンを形成することで、光の反射、回折を制御した従来にない新機能を発現したデバイスを実現することが望まれている。また、システムLSIなどの半導体において、高集積化に伴った配線の微細化も望まれている。このような微細な構造を形成する方法としてはフォトリソグラフィー技術や電子線描画技術に加えて、近年ではインプリント技術が注目されている。インプリント技術とは、微細形状が予め表面に加工された型を、基板表面に塗布された樹脂に押し付けることで、微細構造を形成する方法である。
【0003】
インプリント方法としては、基板表面に塗布された熱可塑性樹脂をガラス転移温度以上に加熱したモールドを押し当てることにより形状を転写する熱インプリント法と、UV硬化樹脂を用いてモールドを押し当てた状態でUV光を照射することにより形状を転写するUVインプリント法が一般的である。熱インプリント法は、材料の選択性が広いという特徴があるが、形状を転写させる際にモールドを昇温および降温する必要があるため、スループットが低いという問題がある。一方、UVインプリント法は、紫外線で硬化する材料に限定されるため、熱インプリントと比較すると選択性が狭いものの、数秒~数十秒で硬化を完了させることが可能である為、スループットが非常に高い。熱インプリント法およびUVインプリント法のいずれを採用するかは、適用するデバイスにより異なるが、材料起因の問題がない場合には、UVインプリント法が量産工法として適していると考えられる。
【0004】
以下に、UVインプリント法を用いて、ロールトゥロールインプリント方式によってパターンを形成する際の一般的な工法について
図2を用いて説明する。
図2は、フィルム基材の片側の面に転写パターンを形成するための、一般的なロールトゥロール式片面インプリント工法の概略模式図である。
(1)まず、連続的に走行するフィルム基材202上に、ダイ203から転写材料204を押し出し塗布する。
(2)次に、フィルム基材202は表面に微細形状を有するモールド201が設置されたロール205と、ロール205に所定の加圧で押付けられた加圧ロール206との間を通過することで、モールド201の微細形状に転写材料204が充填される。
(3)次に、モールド201に対しUV照射器207からUV光を照射することで、転写材料204はモールド201の微細形状に充填された状態で硬化する。
(4)最後に、フィルム基材202は離型ロール208とロール205との間を通過し、離型ロール208に沿って走行することで、モールド201から離型され、フィルム基材202上に転写パターン209が形成されたフィルム構造体210が得られる。
このようなインプリント方式において、より低コストかつ大面積の転写を行うために、例えば特許文献1のように、優れた離型性を示す樹脂モールドが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のロールトゥロールインプリント方式は、フィルム基材の片側の面に微細形状を形成する片面インプリント方式である。両面インプリント方式、すなわちもう一方の面にも同様に微細形状を形成する必要がある場合には、例えば、上記の片面インプリント方式と同構成の方式を2工程用意し、工程間でフィルムを反転させて製造する方式などが考えられる。
【0007】
本開示は、両面インプリント方式において、不良品の抑制と良好な転写精度を両立することのできるモールド、フィルム構造体およびフィルム構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る樹脂モールドは、微細パターンを表面に有する樹脂層と、
前記樹脂層を支持するフィルム基材と、
を備え、
前記樹脂層は、光硬化性樹脂またはフッ素化合物が添加された光硬化性樹脂からなるパターン部と平坦部を含み、前記パターン部の表面上にのみ前記樹脂層の細孔を封止する細孔封止層が設けられている。
【0009】
また、本開示に係るフィルム構造体の製造方法は、転写材料を塗布されたパターン部と平坦部とを含む表面樹脂モールドの表面にフィルム基材の表面を上から押圧し、前記フィルム基材の表面と前記表面樹脂モールドとの間に転写材料を充填する表面充填工程と、
前記フィルム基材の表面に充填された転写材料をUV照射により前記フィルム基材の表面上に硬化させる表面硬化工程と、
前記転写材料を硬化させた表面転写パターンを前記表面樹脂モールドから離型させる表面離型工程と、
転写材料を塗布されたパターン部と平坦部とを含む裏面樹脂モールドの表面に前記フィルム基材の裏面を上から押圧し、前記フィルム基材の裏面と前記裏面樹脂モールドとの間に転写材料を充填する裏面充填工程と、
前記フィルム基材の裏面に充填された転写材料をUV照射により前記フィルム基材の裏面上に硬化させる裏面硬化工程と、
前記転写材料を硬化させた裏面転写パターンを前記裏面樹脂モールドから離型させる裏面離型工程と、
を含み、
前記表面樹脂モールド及び前記裏面樹脂モールドは、前記パターン部に細孔を封止する細孔封止層が設けられていると共に、
前記フィルム基材は、前記表面転写パターンにおける平坦部の表面粗さRaが2.5nm以上であり、前記裏面転写パターンにおける平坦部の表面粗さRaが2.5nm以上である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明に係る樹脂モールド及びフィルム構造体の製造方法によれば、フィルム基材の両側の面に転写体を形成したフィルム構造体において、巻取り時のしわ不良抑制と良好な転写精度を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1に係る樹脂モールドの断面構造を示す概略摸式断面図である。
【
図2】ロールトゥロール片面インプリント工程の概略模式図である。
【
図3】実施の形態1に係るロールトゥロール両面インプリント工程の概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の態様に係る樹脂モールドは、微細パターンを表面に有する樹脂層と、
前記樹脂層を支持するフィルム基材と、
を備え、
前記樹脂層は、光硬化性樹脂またはフッ素化合物が添加された光硬化性樹脂からなるパターン部と平坦部とを含み、
前記パターン部の表面上にのみ前記樹脂層の細孔を封止する細孔封止層が設けられている。
【0013】
第2の態様に係る樹脂モールドは、上記第1の態様において、前記細孔封止層の表面粗さRaが2.5nm以下であってもよい。
【0014】
第3の態様に係る樹脂モールドは、上記第1又は第2の態様において、前記細孔封止層の膜厚が15nm以上150nm以下であってもよい。
【0015】
第4の態様に係るフィルム構造体の製造方法は、転写材料を塗布されたパターン部と平坦部とを含む表面樹脂モールドの表面にフィルム基材の表面を上から押圧し、前記フィルム基材の表面と前記表面樹脂モールドとの間に転写材料を充填する表面充填工程と、
前記フィルム基材の表面に充填された転写材料をUV照射により前記フィルム基材の表面上に硬化させる表面硬化工程と、
前記転写材料を硬化させた表面転写パターンを前記表面樹脂モールドから離型させる表面離型工程と、
転写材料を塗布されたパターン部と平坦部とを含む裏面樹脂モールドの表面に前記フィルム基材の裏面を上から押圧し、前記フィルム基材の裏面と前記裏面樹脂モールドとの間に転写材料を充填する裏面充填工程と、
前記フィルム基材の裏面に充填された転写材料をUV照射により前記フィルム基材の裏面上に硬化させる裏面硬化工程と、
前記転写材料を硬化させた裏面転写パターンを前記裏面樹脂モールドから離型させる裏面離型工程と、
を含み、
前記表面樹脂モールド及び前記裏面樹脂モールドは、前記パターン部に細孔を封止する細孔封止層が設けられていると共に、
前記フィルム基材は、
前記表面転写パターンにおける平坦部の表面粗さRaが2.5nm以上であり、
前記裏面転写パターンにおける平坦部の表面粗さRaが2.5nm以上である。
【0016】
第5の態様に係るフィルム構造体の製造方法は、上記第4の態様において、前記転写材料は、粘度が5mPa・s以上100mPa・s以下であってもよい。
【0017】
(本発明に至った知見)
まず、従来技術における課題と、本発明に至った試行について説明する。
両面インプリント方式において、両面にインプリントを施したフィルムを巻き取る際に、表面と裏面との面同士の摩擦によるしわ不良が発生する。しわ不良を低減させるためには、フィルムの面同士の滑り性を良化させることが望ましい。
【0018】
フィルムの面同士の滑り性を決める因子として、一般的に3つの物性が挙げられる。
1つ目は、フィルム表面上の表面自由エネルギーである。表面自由エネルギーが小さく接触角が高いほど、なじみにくく、滑り性が向上する。しかしながら、インプリントに適した転写材料では、インプリントプロセスを成立させるために必要な離型性、塗布性、接着性等を満足させる必要があり、それらを満足させる条件の中で材料組成およびUV硬化プロセス条件を変更したとしても、フィルム表面上の表面自由エネルギーの変化量は小さく、滑り性に対する影響も小さい。
【0019】
2つ目は、フィルム表面の硬度である。すなわち、フィルムが柔らかく、横方向のずり応力が付加した際に変形し易いほど、はがれやすく、滑り性が向上する。しかしながら、表面自由エネルギーと同様に、インプリントに最適な条件の中で転写材料の材料組成およびUV硬化プロセス条件を変更したとしても、フィルム表面の硬度の変化量は小さく、滑り性に対する影響も小さい。
【0020】
3つ目は、フィルムの表面粗さである。表面粗さが大きいほど、フィルム表面同士の接触面積が小さくなり、滑り性が向上する。また、平坦部およびパターン部を有する転写パターンにおいて、パターン部の表面粗さは、パターンの凹凸が有ることで接触面積が低下するため、滑り性に対する影響が小さい。これに対し、平坦部の表面粗さは、平坦部同士の接触面積が大きいため、滑り性に対する影響が大きい。
【0021】
したがって、発明者らは、平坦部およびパターン部を有する転写パターンのうち、平坦部の表面粗さを制御することで、フィルム表面同士の滑り性を良くし、巻取り時のしわ不良を抑制することができると考えた。
【0022】
そこでまず、発明者らは、平坦部の表面粗さRaを一定以上にし、フィルム表面同士の静止摩擦係数を低減させることを試みた。
具体的には、まず、モールドとして、汎用的な金属モールドではなく樹脂モールドを用いることとした。金属モールドでは転写材料がモールドに含浸しないのに対し、樹脂モールドでは転写材料が樹脂モールドの表面の細孔に含浸する為、離型後のフィルム構造体表面の表面粗さが大きくなる。このことで、巻取時のしわ不良を抑制できる。
【0023】
しかし、樹脂モールドを用いると、転写材料がモールド表面の細孔に含浸する為、UV硬化後に、アンカー効果によって樹脂モールドから転写材料を離型することが難しくなり、転写不良が発生する場合がある。特に、平坦部およびパターン部を有する転写パターンのうち、パターン部にはパターンの凹凸に依る高い離型抵抗が存在するため、パターン部の転写不良がより発生しやすくなる。すなわち、樹脂モールドを用いて平坦部の表面粗さRaを制御することでしわ不良を抑制すると、パターン部における転写精度が低下してしまうという問題があることが分かった。
【0024】
そこで次に、発明者らは、パターン部における転写材料の樹脂モールド表面の細孔への含侵を抑制することを試みた。
具体的には、樹脂モールドのパターン部に細孔を封止する細孔封止層として、例えば、スパッタ層を設けることとした。詳細については後述する。
【0025】
本方法により、平坦部とパターン部を有する樹脂モールドにおいて、平坦であるために離型抵抗が低く、かつ摩擦力増加に対する寄与が大きい平坦部においては、転写材料が樹脂モールドの表面の細孔に含浸する。その結果、離型後に表面粗さRaが2.5nm以上であるフィルム構造体を得ることが出来、両面にインプリントを施したフィルムを巻き取る際に、表面と裏面との面同士の摩擦を低減させることができる。一方で、パターンの凹凸を有するため離型抵抗の高いパターン部については、樹脂モールドの表面に細孔封止層としてスパッタ層が形成されている為、転写材料が樹脂モールドの表面に含浸するのを抑制できる。その結果、スパッタ層によって、アンカー効果による離型抵抗の増加を抑制することができる。
したがって、本開示では、両面インプリント方式において樹脂モールドを使用した場合に、樹脂モールドのパターン有無に応じて、樹脂モールドに対する転写材料の含浸を制御する。これにより、巻取り時のしわ不良抑制と良好な転写精度とを両立することができる。すなわち、両面インプリント方式において樹脂モールドを使用した場合に、巻取り時のしわ不良抑制と良好な転写精度とを両立することが可能になる。
【0026】
以下、実施の形態に係る樹脂モールド及びフィルム構造体の製造方法について、添付図面を参照しながら説明する。
【0027】
(実施の形態1)
<樹脂モールドの構成およびその作製方法>
図1は、実施の形態1に係る樹脂モールド101の断面構造を示す概略摸式断面図である。
樹脂モールド101は、PETフィルム等のフィルム基材102上に、光硬化性樹脂またはフッ素化合物が添加された光硬化性樹脂のいずれかからなるパターン部10と平坦部20とを含む樹脂層103が形成され、さらに樹脂層103のパターン部10の表面上にのみ樹脂層103の細孔を封止する細孔封止層としてスパッタ層104が形成されている。
この樹脂モールド101によれば、フィルム基材の両側の面に転写体を形成したフィルム構造体において、巻取り時のしわ不良抑制と良好な転写精度を両立することができる。
【0028】
<樹脂層>
樹脂層103は、光硬化性樹脂またはフッ素化合物が添加された光硬化性樹脂からなる。この光硬化性樹脂またはフッ素化合物が添加された光硬化性樹脂の材料としては、ラジカル硬化系のメタアクリルタイプ、カチオン硬化系のグリシジル型エポキシ群、脂環式エポキシ群、オキセタン群、ビニルエーテル群など、様々な光硬化性樹脂が挙げられる。これらは、被転写体の形状確保に必要な硬化収縮率、硬化させるのに必要なUV光量、被転写体の粘弾性確保に必要な分子量または分子構造などに応じて適宜選択するとよい。
樹脂層103は、ボトムダウン型リソグラフィ、ボトムアップ型リソグラフィ、マルチビーム描画装置などにより微細パターンが形成された金属製のマスターモールドとフィルム102の間に光硬化性樹脂またはフッ素化合物が添加された光硬化性樹脂を挟んでインプリントすることにより作製することができる。
【0029】
<細孔封止層(スパッタ層)>
次に、樹脂層103のパターン部10の表面上にのみ樹脂層103の細孔封止層としてスパッタ層104が設けられている。
スパッタ層104の材料としては、Ni、Cr、Cu、NiCuTiなどの金属やSiO2などの無機物が挙げられるが、樹脂層との密着性が高いものを適宜選択するとよい。
スパッタ層104の膜厚は、15nm以上150nm以下が望ましい。スパッタ層の膜厚が15nmより薄くなると、スパッタ層を形成し難い樹脂パターンの壁面をスパッタ層で完全に覆うことができず、転写材料が樹脂パターンの壁面から含浸し、転写不良が発生する場合がある。一方で、スパッタ層の膜厚が150nmより厚くなると、離型時にモールドにかかる応力により、転写回数が増えるにつれてスパッタ層にクラックが発生し、転写材料がクラックを通して樹脂層に含浸することにより、転写不良が発生する場合がある。
【0030】
以上のように、平坦部20とパターン部10とを有する樹脂モールドのうち、離型抵抗の低い平坦部20については、スパッタ層が形成されていない為、転写材料が樹脂モールド表面の細孔に含浸する。その結果、離型後に表面粗さRaが2.5nm以上であるフィルム構造体になり、両面にインプリントを施したフィルム構造体を巻き取る際に、表面と裏面との面同士の摩擦が減少する。その結果、両面インプリント方式において樹脂モールドを使用した場合に、フィルム基材の両側の面に転写体を形成したフィルム構造体において、良好な転写精度と巻取り時のしわ不良抑制を両立することが可能になる。
【0031】
さらに、平坦部20とパターン部10を有する樹脂モールドのうち、パターン部10の表面上にのみ細孔を封止するスパッタ層104を形成することにより、樹脂層103のパターン部10の表面の細孔に転写材料が含浸するのを抑制することができる。したがって、パターン部10の離型性が向上する。
【0032】
さらに、パターン部10の表面上にスパッタ層104を形成することにより、樹脂層103の細孔を封止できる。これによって、転写回数に比例した樹脂モールドの表面の細孔内に残存する転写材料の増加による、樹脂モールドの表面の離型性の低下を抑制することができる。その結果、樹脂モールド101を用いた際に、転写不良を抑制することができる。
【0033】
さらに、パターン部10の表面上にスパッタ層104を形成することにより、パターン部10の離型性が向上し、ひげ不良を抑制することができる。
なお、ここでは樹脂層103の細孔を封止する細孔封止層としてスパッタ層104を設ける場合について説明したが、細孔封止層はスパッタ層に限定するものではない。例えば、物理蒸着(PVD)又は化学蒸着(CVD)による蒸着膜であってもよい。細孔封止層は、メッキ層、塗布膜であってもよい。
【0034】
<離型層>
最後に、樹脂モールドをインプリントに使用する際には、離型耐久性を向上させるために、前記樹脂モールドの表面を覆うように離型層(図示せず)を形成し、転写材料に対するモールドの離型性を高めることが望ましい。
【0035】
離型層は、前記樹脂モールドの表面にカップリング剤を結合して形成されている。カップリング剤としては、例えば、Ti、Li、Si、Na、K、Mg、Ca,St、Ba,Al、In、Ge、Bi,Fe、Cu、Y、Zr,Ta等を有する各種金属アルコキシドを用いることが出来る。これらの中でも特にSiを有する金属アルコキシド、すなわちシランカップリング剤を用いることが望ましい。これらのカップリング剤を用いて樹脂モールド表面に離型処理を施した後、リンス剤を用いて樹脂モールドの表面と結合していないカップリング剤を除去することにより、樹脂モールド表面に離型層を形成することができる。
【0036】
<ロールトゥロール式両面インプリント方式の工法>
以下に、本実施の形態におけるロールトゥロールインプリント方式によってフィルム基材の両面に転写パターンを形成する際の工法について
図3を用いて説明する。
図3は、実施の形態1に係るロールトゥロール式両面インプリント工法の概略模式図である。
図3において、便宜上、図面左方から右方にフィルム基材302の搬送される方向をX方向、紙面手前から奥にY方向、図面上方をZ方向としている。
【0037】
(1)まず、表面に転写パターン309を形成する為に、転写材料304をフィルム基材302上に供給する場所に第1コ-ティングロール311が設置されている。また、表面にパターンが形成された第1モールド301が取り付けられた第1ロール305と、それに接触するように第1加圧ロール306と第1離型ロール308とが設置されている。
【0038】
<転写材料>
転写材料304の材料としては、例えば、ラジカル硬化系のメタアクリルタイプ、カチオン硬化系のグリシジル型エポキシ群、脂環式エポキシ群、オキセタン群、ビニルエーテル群など、様々な光硬化性樹脂が挙げられる。これらは、被転写体の形状確保に必要な硬化収縮率、硬化させるのに必要なUV光量、被転写体の粘弾性確保に必要な分子量または分子構造などに応じて適宜選択するとよい。
【0039】
さらに、第1コ-ティングロール311により、第1ダイ303から転写材料304をフィルム基材302上に供給する方法としては、例えばディスペンス塗布、ロール塗布、グラビア塗布、スクリーン塗布など、様々な方法が挙げられるが、転写材料の性質や被転写体の形状に応じて適宜選択するとよい。
【0040】
(2)次に、裏面にも転写体309’を形成するために、片面と同様に、第2ダイ303’から転写材料304’をフィルム基材302の裏面上に供給する場所に第2コ-ティングロール311’が設置されている。また、表面にパターンが形成された第2モールド301’が取り付けられた第2ロール305’と、それに接触するように第2加圧ロール306’と第2離型ロール308’と、が設置されている。最後に、フィルム基材302の表裏両面に転写パターン309および309’を形成したフィルム構造体310を巻き取るための巻取りロール312が設置されている。
【0041】
本ロール構成において、フィルム基材302は、第1コーティングロール311の図面上方を経て、第1加圧ロール306の図面上方から第1加圧ロール306に接触するように巻かれ、第1モールド301に接触し、図万下方で第1離型ロール308と接触する。その後、第2コーティングロール311’の図面下方を経て、第2加圧ロール306’と第2モールド301’とに接触するように巻かれ、次いで第2離型ロール308’と接触するように巻かれており、最後に巻取りロール312に巻き取られる。これらの各ロールの回転により、フィルム基材302は、図面の左方から右方(X方向)へ送られる。
【0042】
(3)第1コーティングロール311、第2コーティングロール311’上には第1ダイ303および第2ダイ303’が配置され、フィルム基材302上に転写材料304が塗布される。また、第1加圧ロール306と第1モールド301との間をフィルム基材302が通過した後においては、第1ロール305の下方に配置された第1UV照射器307よりUV光が照射され、転写材料304を硬化する。その後、第2コーティングロール311’の下方に配置された第2ダイ303’より、フィルム基材302上に転写材料304’が塗布される。第2加圧ロール306’と第2モールド301’との間をフィルム基材302が通過した後においては、第2ロール305’の上方に配置された第2UV照射器307’よりUV光が照射され、転写材料304’を硬化した後、第2離型ロール308’からフィルム基材302が離型される。最後に、フィルム基材302の表裏両面に転写パターン309および309’が形成されたフィルム構造体310を、巻取りロール312へ巻きとる。
以上の工程によって、ロールトゥロール両面インプリント方式が実現される。
【0043】
上述の両面インプリント方式において、転写パターン309および309’の表面同士の滑り性を良くし、巻取り時のしわ不良を抑制する為には、平坦部およびパターン部を有する転写パターンのうち、平坦部の表面粗さRaを一定以上にし、転写パターン309および309’の表面同士の静止摩擦係数を低減させることが必要である。
【0044】
上記を達成する為には、本実施の形態1に係る樹脂モールドを用いたうえで、転写材料の粘度を5mPa・s以上100mPa・s以下にすることが望ましい。転写材料の粘度が5mPa・sより低い場合は、転写材料の樹脂モールド表面の細孔への含浸量が多くなりすぎ、離型が容易な平坦部においても離型抵抗が大きくなり、転写不良が発生する。さらに、ロールトゥロール方式で塗布した際に、転写材料の粘度が低すぎる為にダレが発生し、均一な膜厚の転写材料を塗布することが困難になる。一方で、転写材料の粘度が100mPa・sより高くなると、転写材料が樹脂モールド表面の細孔への含浸がほぼ起こらなくなり、アンカー効果により、フィルム構造体の平坦部の表面粗さRaを2.5nm以上にすることが出来なくなる。その結果、両面にインプリントを施したフィルム構造体310を巻き取る際に、表面と裏面との面同士の摩擦が増加し、しわ不良を抑制することが出来なくなる。
【0045】
なお、ここでの平坦部とは、例えばパターン部とパターン部との間隙に設けられる無地領域や、ロールトゥロール工程における送り方向(X方向)と直交する幅方向(Y方向)の両端に設けられる無地幅などを想定している。前者は、表面と裏面とが重なる箇所について「平坦部とパターン部」との重なりが想定され、パターン部の滑り性が良いためにしわ不良が起こりづらいが、後者は「平坦部と平坦部」との重なりが想定されるため、本実施の形態1に係る効果を得られやすい。
以上の工程により、フィルム基材の両側の面に転写体を形成したフィルム構造体の巻取り時のしわ不良を抑制したロールトゥロール両面インプリントが可能になる。
【0046】
(実施例)
樹脂モールドは、パターン部と平坦部とを有しており、そのうちパターン部上にのみ樹脂モールドの表面の細孔を封止する膜厚100nmのNiスパッタ層が形成されている。樹脂モールドの材料は、フッ素化合物が添加された光硬化性樹脂を用いた。また、樹脂モールドのパターン部には、350~450μm毎に、幅方向が2~4μm、深さ方向が1~3μmの凹状のラインをメッシュ状に配列している。
【0047】
次に、厚み50μmのPETフィルム上に、バーコータを用いてUV硬化樹脂PAK-02(東洋合成工業製、粘度9mPa・s)の厚さ約5μmの塗膜を形成した。その後、樹脂モールドを塗膜に押し付け、波長365nmの紫外線を用いて照度27mW/cm2で1Jの照射を行い硬化させた後、離型を行い、フィルム構造体を作製した。
【0048】
まず始めに、離型後のフィルム構造体について顕微鏡観察を行い、パターン部において転写欠陥が発生していないことを確認した。さらに、離型後の樹脂モールドについても顕微鏡観察を行い、パターンの欠け・折れ等の欠陥が発生していないことを確認した。
【0049】
次に、フィルム構造体の表面粗さを計測した結果、パターン部の表面粗さRaは0.9nm、平坦部の表面粗さRaは2.6nmであった。
【0050】
さらに、フィルム構造体の平坦部の表面同士の静止摩擦係数について、JIS K7125(対応国際規格:ISO8295)のプラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験方法に準拠した方法で、引張試験機を用いて評価した。その結果、静止摩擦係数は5.6と低く、滑り性が良い為、巻取り時のしわ不良が発生しにくいことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本開示に係る樹脂モールド及びフィルム構造体の製造方法は、被転写体の両面にパターンを転写するインプリント方法およびインプリント装置等に有用である。
【符号の説明】
【0052】
10 パターン部
20 平坦部
101、201 樹脂モールド
103 樹脂層
104 スパッタ層(細孔封止層)
102、202、302 フィルム基材
203 ダイ
204 転写材料
205 ロール
206 加圧ロール
207 UV照射器
208 離型ロール
209、309、309’ 転写パターン
210、310 フィルム構造体
301 第1モールド
301’ 第2モールド
303 第1ダイ
303’ 第2ダイ
304、304’ 転写材料
305 第1ロール
305’ 第2ロール
306 第1加圧ロール
306’ 第2加圧ロール
307 第1UV照射器
307’ 第2UV照射器
308 第1離型ロール
308’ 第2離型ロール
311 第1コーティングロール
311’ 第2コーティングロール
312 巻取りロール