(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】光デバイス、光検出システムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/295 20060101AFI20240628BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20240628BHJP
G02B 6/124 20060101ALI20240628BHJP
G02B 6/12 20060101ALI20240628BHJP
G02B 6/13 20060101ALI20240628BHJP
G02B 6/34 20060101ALI20240628BHJP
G02B 6/42 20060101ALI20240628BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20240628BHJP
G01S 17/89 20200101ALI20240628BHJP
【FI】
G02F1/295
G02B6/122
G02B6/124
G02B6/12 371
G02B6/13
G02B6/34
G02B6/42
G01S7/481 A
G01S17/89
(21)【出願番号】P 2021515808
(86)(22)【出願日】2020-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2020004775
(87)【国際公開番号】W WO2020217645
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2019084558
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】野村 幸生
(72)【発明者】
【氏名】佃 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】稲田 安寿
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-141066(JP,A)
【文献】特開2019-028438(JP,A)
【文献】特開2008-233242(JP,A)
【文献】特開平11-064859(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0026019(US,A1)
【文献】特開2008-225082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
G02B 6/12 - 6/14
G02F 1/13
G02F 1/1333
G02F 1/1339 - 1/1341
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向および前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って拡がる第1の表面を有する第1の基板と、
前記第1の表面に少なくとも部分的に対向する第2の表面を有する第2の基板であって、前記第2の表面は前記第1の表面とは異なる面積を有する第2の基板と、
前記第1の基板と前記第2の基板との間において、
各々が前記第1の方向に沿って延びる
複数の光導波路であって、前記
複数の光導波路の各々は、
前記第1の基板と前記第2の基板との間であって、前記第1の基板と前記第2の基板とが重なる領域に配置される第1の部分と、前記第1の基板と前記第2の基板とが重ならない領域に配置される
第2の部分を備える、
複数の光導波路と、
前記第1の表面および前記第2の表面の少なくとも一方に配置され、第1の部分および第2の部分を含む複数のスペーサと、を備え、
前記複数のスペーサの前記第1の部分は、前記第1の基板と前記第2の基板との間であって、前記第1の表面に垂直な方向から見て前記第1の基板と前記第2の基板とが重なる領域に位置する少なくとも1つのスペーサであり、
前記複数のスペーサの前記第2の部分は、前記第1の表面に垂直な方向から見て前記第1の基板と前記第2の基板とが重ならない領域に位置する少なくとも1つのスペーサであり、
前記複数のスペーサの前記第2の部分の少なくとも一部は、前記
複数の光導波路の各々
の前記
第2の部分の周囲に位置している、光デバイス。
【請求項2】
前記第1の基板と前記第2の基板との間において前記第2の方向に並ぶ複数の隔壁であって、各々が前記第1の方向に沿って延びる複数の隔壁を更に備え、
前記複数のスペーサの各々の弾性率は、前記複数の隔壁の各々の弾性率よりも小さい、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記複数の隔壁は、前記第1の基板と前記第2の基板とに直接的または間接的に挟持され、
前記第1の基板と前記第2の基板とによって挟持されることによる、前記第1の表面に垂直な方向における前記複数のスペーサの各々の変形率は、前記垂直な方向における前記複数の隔壁の各々の変形率よりも大きい、請求項2に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記複数のスペーサは、各々が柱状の形状を有する、請求項1から3のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項5】
前記
複数の光導波路の各々は、隣り合う2つの隔壁の間に位置する部分を含み、前記部分において第1のグレーティングを備える、請求項
1から4のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項6】
前記
複数の光導波路の各々は、前記第2の部分において第2のグレーティングを備える、請求項
1から
5のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項7】
前記第1の基板と前記第2の基板との間隔を固定するシール部材をさらに備え、
前記
複数の光導波路は、
2つ以上の第1の光導波路と
2つ以上の第2の光導波路とがそれぞれ接続された構造を有し、
前記シール部材は、前記第1の表面に垂直な方向から見たときに、前記
2つ以上の第1の光導波路を囲む、請求項1から
6のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項8】
前記
2つ以上の第1の光導波路は、前記第1の方向に沿って延びる
2つ以上の誘電体部材をそれぞれ含み、
前記第1の基板と前記第2の基板との間で且つ前記シール部材によって囲まれた領域は、前記
2つ以上の誘電体部材と同じ部材によって満たされる、請求項
7に記載の光デバイス。
【請求項9】
前記
2つ以上の第1の光導波路は、前記第1の方向に沿って延びる
2つ以上の誘電体部材をそれぞれ含み、
前記第1の基板と前記
2つ以上の誘電体部材との間、および、前記第2の基板と前記
2つ以上の誘電体部材との間にそれぞれ位置する2つのミラーをさらに備える、請求項1から
8のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項10】
前記複数のスペーサの前記第1の部分の少なくとも一部は、前記2つのミラーによって挟まれた領域の外側に位置する、請求項
9に記載の光デバイス。
【請求項11】
前記
2つ以上の第1の光導波路は、前記
2つ以上の誘電体部材の屈折率を調整することが可能な構造を備え、
前記
2つ以上の誘電体部材の屈折率を調整することにより、前記
2つ以上の第1の光導波路から前記第1の基板もしくは前記第2の基板を介して出射する光の方向、または前記第1の基板もしくは前記第2の基板を介して前記
2つ以上の第1の光導波路内に取り込まれる光の入射方向が変化する、請求項
8から
10のいずれかに記載の光デバイス。
【請求項12】
前記
2つ以上の誘電体部材を挟む一対の電極をさらに備え、
前記
2つ以上の誘電体部材は、液晶材料または電気光学材料を含み、
前記一対の電極に電圧を印加することにより、前記
2つ以上の誘電体部材の前記屈折率が調整される、請求項
11に記載の光デバイス。
【請求項13】
前記
2つ以上の第1の光導波路に、それぞれ直接的にまたは他の導波路を介して繋がる
2つ以上の位相シフタをさらに備え、
前記
2つ以上の位相シフタを通過する光の位相の差を変化させることにより、前記
2つ以上の第1の光導波路から前記第1の基板もしくは前記第2の基板を介して出射する前記光の方向、または、前記第1の基板もしくは前記第2の基板を介して前記
2つ以上の第1の光導波路に取り込まれる前記光の入射方向が変化する、請求項
12に記載の光デバイス。
【請求項14】
前記第1の基板と前記第2の基板との間に位置するミラーをさらに備え、
前記複数のスペーサの各々の弾性率は、前記ミラーの弾性率よりも小さい、請求項1に記載の光デバイス。
【請求項15】
請求項1から
14のいずれかに記載の光デバイスと、
前記光デバイスから出射され、対象物から反射された光を検出する光検出器と、
前記光検出器の出力に基づいて、距離分布データを生成する信号処理回路と、を備える、光検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光デバイス、光検出システムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光で空間を走査(スキャン)できる種々のデバイスが提案されている。
【0003】
特許文献1は、ミラーを回転させる駆動装置を用いて、光によるスキャンを行うことができる構成を開示している。
【0004】
特許文献2は、2次元的に配列された複数のナノフォトニックアンテナ素子を有する光フェーズドアレイを開示している。それぞれのアンテナ素子は可変光遅延線(すなわち、位相シフタ)に光学的に結合される。この光フェーズドアレイでは、コヒーレント光ビームが導波路によってそれぞれのアンテナ素子に誘導され、位相シフタによって光ビームの位相がシフトされる。これにより、遠視野放射パターンの振幅分布を変化させることができる。
【0005】
特許文献3は、内部を光が導波する光導波層、および光導波層の上面および下面に形成された第1分布ブラッグ反射鏡を備える導波路と、導波路内に光を入射させるための光入射口と、光入射口から入射して導波路内を導波する光を出射させるために導波路の表面に形成された光出射口とを備える光偏向素子を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/168266号
【文献】特表2016-508235号公報
【文献】特開2013-16591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の一態様は、寸法の精度の高い光導波路を備える新規な光デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る光デバイスは、第1の方向および前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って拡がる第1の表面を有する第1の基板と、前記第1の表面に少なくとも部分的に対向する第2の表面を有する第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間において、前記第1の方向に沿って延びる少なくとも1つの光導波路と、前記第1の表面および前記第2の表面の少なくとも一方に配置され、第1の部分および第2の部分を含む複数の弾性スペーサと、を備える。前記第2の表面は前記第1の表面とは異なる面積を有する。前記複数の弾性スペーサの前記第1の部分は、前記第1の基板と前記第2の基板との間であって、前記第1の表面に垂直な方向から見て前記第1の基板と前記第2の基板とが重なる領域に位置する少なくとも1つの弾性スペーサである。前記複数の弾性スペーサの前記第2の部分は、前記第1の表面に垂直な方向から見て前記第1の基板と前記第2の基板とが重ならない領域に位置する少なくとも1つの弾性スペーサである。
【0009】
本開示の包括的または具体的な態様は、デバイス、システム、方法、またはこれらの任意の組み合わせによって実現されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、寸法の精度の高い光導波路を備える光デバイスを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、光スキャンデバイスの構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、1つの導波路素子の断面の構造および伝搬する光の例を模式的に示す図である。
【
図3A】
図3Aは、導波路アレイの出射面に垂直な方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、導波路アレイの出射面に垂直な方向とは異なる方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。
【
図4】
図4は、3次元空間における導波路アレイを模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5は、導波路アレイおよび位相シフタアレイを、光出射面の法線方向(Z方向)から見た模式図である。
【
図6】
図6は、Z方向から見たときの、光デバイスの下部構造体の例を模式的に示す図である。
【
図8A】
図8Aは、
図7Aに示す下部構造体および上部構造体を貼り合わせたときの光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図8B】
図8Bは、
図7Bに示す下部構造体および上部構造体を貼り合わせたときの光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図8C】
図8Cは、
図7Cに示す下部構造体および上部構造体を貼り合わせたときの光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、Z方向から見たときの、本実施形態における光デバイスの下部構造体の例を模式的に示す図である。
【
図11A】
図11Aは、
図10Aに示す下部構造体および上部構造体を貼り合わせたときの光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図11B】
図11Bは、
図10Bに示す下部構造体および上部構造体を貼り合わせたときの光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図11C】
図11Cは、
図10Cに示す下部構造体および上部構造体を貼り合わせたときの光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図12A】
図12Aは、
図11Aに示す下部構造体および上部構造体を貼り合わせた後に不要な部分を切断したときの光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図12B】
図12Bは、
図11Bに示す下部構造体および上部構造体を貼り合わせた後に不要な部分を切断したときの光デバイスの例を模式的に示す図である。
【
図13】
図13は、変形例における光スキャンデバイスの構成を示す図である。
【
図14】
図14は、光デバイスからの光の出射を模式的に示す図である。
【
図15】
図15は、光デバイスの製造工程を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、回路基板上に光分岐器、導波路アレイ、位相シフタアレイ、および光源などの素子を集積した光スキャンデバイスの構成例を示す図である。
【
図17】
図17は、光スキャンデバイスから遠方にレーザーなどの光ビームを照射して2次元スキャンを実行している様子を示す模式図である。
【
図18】
図18は、測距画像を生成することが可能なLiDARシステムの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つ」とは、光導波層の屈折率、光導波層の厚さ、および光導波層に入力される波長からなる群から選択される少なくとも1つを意味する。光の出射方向を変化させるために、屈折率、厚さ、および波長のいずれか1つを単独で制御してもよい。あるいは、これらの3つのうちの任意の2つまたは全てを制御して光の出射方向を変化させてもよい。以下の各実施形態において、屈折率または厚さの制御に代えて、または加えて、光導波層に入力される光の波長を制御してもよい。
【0013】
以上の基本原理は、光を出射する用途だけでなく、光信号を受信する用途にも同様に適用できる。屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つを変化させることにより、受信できる光の方向を1次元的に変化させることができる。さらに、一方向に配列された複数の導波路素子にそれぞれ接続された複数の位相シフタによって光の位相差を変化させれば、受信できる光の方向を2次元的に変化させることができる。
【0014】
本開示の実施形態による光スキャンデバイスおよび光受信デバイスは、例えば、LiDAR(Light Detection and Ranging)システムなどの光検出システムにおけるアンテナとして用いられ得る。LiDARシステムは、ミリ波などの電波を用いたレーダシステムと比較して、短波長の電磁波(可視光、赤外線、または紫外線)を用いるため、高い分解能で物体の距離分布を検出することができる。そのようなLiDARシステムは、例えば自動車、UAV(Unmanned Aerial Vehicle、所謂ドローン)、AGV(Automated Guided Vehicle)などの移動体に搭載され、衝突回避技術の1つとして使用され得る。本明細書において、光スキャンデバイスと光受信デバイスを「光デバイス」と総称することがある。また、光スキャンデバイスまたは光受信デバイスに使用されるデバイスについても「光デバイス」と称することがある。
【0015】
<光スキャンデバイスの構成例>
以下、一例として、2次元スキャンを行う光スキャンデバイスの構成を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複する説明を省略することがある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する構成要素については、同じ参照符号を付している。
【0016】
本開示において、「光」とは、可視光(波長が約400nm~約700nm)だけでなく、紫外線(波長が約10nm~約400nm)および赤外線(波長が約700nm~約1mm)を含む電磁波を意味する。本明細書において、紫外線を「紫外光」と称し、赤外線を「赤外光」と称することがある。
【0017】
本開示において、光による「スキャン」とは、光の方向を変化させることを意味する。「1次元スキャン」とは、光の方向を、当該方向に交差する方向に沿って直線的に変化させることを意味する。「2次元スキャン」とは、光の方向を、当該方向に交差する平面に沿って2次元的に変化させることを意味する。
【0018】
図1は、光スキャンデバイス100の構成を模式的に示す斜視図である。光スキャンデバイス100は、複数の導波路素子10を含む導波路アレイを備える。複数の導波路素子10の各々は、第1の方向(
図1におけるX方向)に延びた形状を有する。複数の導波路素子10は、第1の方向に交差する第2の方向(
図1におけるY方向)に規則的に配列されている。複数の導波路素子10は、第1の方向に光を伝搬させながら、第1および第2の方向に平行な仮想的な平面に交差する第3の方向D3に光を出射させる。第1の方向(X方向)と第2の方向(Y方向)とが直交しているが、両者が直交していなくてもよい。複数の導波路素子10がY方向に等間隔で並んでいるが、必ずしも等間隔に並んでいる必要はない。
【0019】
なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、現実の実施における構造物の向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
【0020】
複数の導波路素子10のそれぞれは、互いに対向する第1のミラー30および第2のミラー40(以下、それぞれを単に「ミラー」と称する場合がある)と、ミラー30とミラー40の間に位置する光導波層20とを有する。ミラー30およびミラー40の各々は、第3の方向D3に交差する反射面を、光導波層20との界面に有する。ミラー30およびミラー40、ならびに光導波層20は、第1の方向(X方向)に延びた形状を有している。
【0021】
なお、後述するように、複数の導波路素子10の複数の第1のミラー30は、一体に構成されたミラーの複数の部分であってもよい。また、複数の導波路素子10の複数の第2のミラー40は、一体に構成されたミラーの複数の部分であってもよい。さらに、複数の導波路素子10の複数の光導波層20は、一体に構成された光導波層の複数の部分であってもよい。少なくとも、(1)各第1のミラー30が他の第1のミラー30と別体に構成されているか、(2)各第2のミラー40が他の第2のミラー40と別体に構成されているか、(3)各光導波層20が他の光導波層20と別体に構成されていることにより、複数の導波路を形成することができる。「別体に構成されている」とは、物理的に空間を設けることのみならず、間に屈折率が異なる材料を挟み、分離することも含む。
【0022】
第1のミラー30の反射面と第2のミラー40の反射面とは略平行に対向している。2つのミラー30およびミラー40のうち、少なくとも第1のミラー30は、光導波層20を伝搬する光の一部を透過させる特性を有する。言い換えれば、第1のミラー30は、当該光について、第2のミラー40よりも高い光透過率を有する。このため、光導波層20を伝搬する光の一部は、第1のミラー30から外部に出射される。このようなミラー30および40は、例えば誘電体による多層膜(「多層反射膜」と称することもある。)によって形成される多層膜ミラーであり得る。
【0023】
それぞれの導波路素子10に入力する光の位相を制御し、さらに、これらの導波路素子10における光導波層20の屈折率もしくは厚さ、または光導波層20に入力される光の波長を同期して同時に変化させることで、光による2次元スキャンを実現することができる。
【0024】
本発明者は、そのような2次元スキャンを実現するために、導波路素子10の動作原理について分析を行った。その結果に基づき、複数の導波路素子10を同期して駆動することで、光による2次元スキャンを実現することに成功した。
【0025】
図1に示すように、各導波路素子10に光を入力すると、各導波路素子10の出射面から光が出射される。出射面は、第1のミラー30の反射面の反対側に位置する。その出射光の方向D3は、光導波層の屈折率、厚さ、および光の波長に依存する。各導波路素子10から出射される光が概ね同じ方向になるように、各光導波層の屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つが同期して制御される。これにより、複数の導波路素子10から出射される光の波数ベクトルのX方向の成分を変化させることができる。言い換えれば、出射光の方向D3を、
図1に示される方向101に沿って変化させることができる。
【0026】
さらに、複数の導波路素子10から出射される光は同じ方向を向いているので、出射光は互いに干渉する。それぞれの導波路素子10から出射される光の位相を制御することにより、干渉によって光が強め合う方向を変化させることができる。例えば、同じサイズの複数の導波路素子10がY方向に等間隔で並んでいる場合、複数の導波路素子10には、一定量ずつ位相の異なる光が入力される。その位相差を変化させることにより、出射光の波数ベクトルの、Y方向の成分を変化させることができる。言い換えれば、複数の導波路素子10に導入される光の位相差をそれぞれ変化させることにより、干渉によって出射光が強め合う方向D3を、
図1に示される方向102に沿って変化させることができる。これにより、光による2次元スキャンを実現することができる。
【0027】
以下、光スキャンデバイス100の動作原理を説明する。
【0028】
<導波路素子の動作原理>
図2は、1つの導波路素子10の断面の構造および伝搬する光の例を模式的に示す図である。
図2では、
図1に示すX方向およびY方向に垂直な方向をZ方向とし、導波路素子10のXZ面に平行な断面が模式的に示されている。導波路素子10において、一対のミラー30とミラー40が光導波層20を挟むように配置されている。光導波層20のX方向における一端から導入された光22は、光導波層20の上面(
図2における上側の表面)に設けられた第1のミラー30および下面(
図2における下側の表面)に設けられた第2のミラー40によって反射を繰り返しながら光導波層20内を伝搬する。第1のミラー30の光透過率は第2のミラー40の光透過率よりも高い。このため、主に第1のミラー30から光の一部を出力することができる。
【0029】
通常の光ファイバーなどの導波路では、全反射を繰り返しながら光が導波路に沿って伝搬する。これに対して、導波路素子10では、光は光導波層20の上下に配置されたミラー30および40によって反射を繰り返しながら伝搬する。このため、光の伝搬角度に制約がない。ここで光の伝搬角度とは、ミラー30またはミラー40と光導波層20との界面への入射角度を意味する。ミラー30またはミラー40に対して、より垂直に近い角度で入射する光も伝搬できる。すなわち、全反射の臨界角よりも小さい角度で界面に入射する光も伝搬できる。このため、光の伝搬方向における光の群速度は自由空間における光速に比べて大きく低下する。これにより、導波路素子10は、光の波長、光導波層20の厚さ、および光導波層20の屈折率の変化に対して光の伝搬条件が大きく変化するという性質を持つ。このような導波路を、「反射型導波路」または「スローライト導波路」と称する。
【0030】
導波路素子10から空気中に出射される光の出射角度θは、以下の式(1)によって表される。
【数1】
【0031】
式(1)からわかるように、空気中での光の波長λ、光導波層20の屈折率nwおよび光導波層20の厚さdのいずれかを変えることで光の出射方向を変えることができる。
【0032】
例えば、nw=2、d=387nm、λ=1550nm、m=1の場合、出射角度は0°である。この状態から、屈折率をnw=2.2に変化させると、出射角度は約66°に変化する。一方、屈折率を変えずに厚さをd=420nmに変化させると、出射角度は約51°に変化する。屈折率も厚さも変化させずに波長をλ=1500nmに変化させると、出射角度は約30°に変化する。このように、光の波長λ、光導波層20の屈折率nw、および光導波層20の厚さdのいずれかを変えることにより、光の出射方向を大きく変えることができる。
【0033】
そこで、光スキャンデバイス100は、光導波層20に入力される光の波長λ、光導波層20の屈折率nw、および光導波層20の厚さdの少なくとも1つを制御することで、光の出射方向を制御する。光の波長λは、動作中に変化させず、一定に維持されてもよい。その場合、よりシンプルな構成で光のスキャンを実現できる。波長λは、特に限定されない。例えば、波長λは、一般的なシリコン(Si)により光を吸収することで光を検出するフォトディテクタまたはイメージセンサで高い検出感度が得られる400nmから1100nm(可視光から近赤外光)の波長域に含まれ得る。他の例では、波長λは、光ファイバーまたはSi導波路において伝送損失の比較的小さい1260nmから1625nmの近赤外光の波長域に含まれ得る。なお、これらの波長範囲は一例である。使用される光の波長域は、可視光または赤外光の波長域に限定されず、例えば紫外光の波長域であってもよい。
【0034】
出射光の方向を変化させるために、光スキャンデバイス100は、各導波路素子10における光導波層20の屈折率、厚さ、および波長の少なくとも1つを変化させる第1調整素子を備え得る。
【0035】
以上のように、導波路素子10を用いれば、光導波層20の屈折率nw、厚さd、および波長λの少なくとも1つを変化させることで、光の出射方向を大きく変えることができる。これにより、ミラー30から出射される光の出射角度を、導波路素子10に沿った方向に変化させることができる。少なくとも1つの導波路素子10を用いることにより、このような1次元のスキャンを実現することができる。
【0036】
光導波層20の少なくとも一部の屈折率を調整するために、光導波層20は、液晶材料または電気光学材料を含んでいてもよい。光導波層20は、一対の電極によって挟まれ得る。一対の電極に電圧を印加することにより、光導波層20の屈折率を変化させることができる。
【0037】
光導波層20の厚さを調整するために、例えば、第1のミラー30および第2のミラー40の少なくとも一方に少なくとも1つのアクチュエータが接続されてもよい。少なくとも1つのアクチュエータによって第1のミラー30と第2のミラー40との距離を変化させることにより、光導波層20の厚さを変化させることができる。光導波層20が液体から形成されていれば、光導波層20の厚さは容易に変化し得る。
【0038】
<2次元スキャンの動作原理>
複数の導波路素子10が一方向に配列された導波路アレイにおいて、それぞれの導波路素子10から出射される光の干渉により、光の出射方向は変化する。各導波路素子10に供給する光の位相を調整することにより、光の出射方向を変化させることができる。以下、その原理を説明する。
【0039】
図3Aは、導波路アレイの出射面に垂直な方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。
図3Aには、各導波路素子10を伝搬する光の位相シフト量も記載されている。ここで、位相シフト量は、左端の導波路素子10を伝搬する光の位相を基準にした値である。導波路アレイは、等間隔に配列された複数の導波路素子10を含んでいる。
図3Aにおいて、破線の円弧は、各導波路素子10から出射される光の波面を示している。直線は、光の干渉によって形成される波面を示している。矢印は、導波路アレイから出射される光の方向(すなわち、波数ベクトルの方向)を示している。
図3Aの例では、各導波路素子10における光導波層20を伝搬する光の位相はいずれも同じである。この場合、光は導波路素子10の配列方向(Y方向)および光導波層20が延びる方向(X方向)の両方に垂直な方向(Z方向)に出射される。
【0040】
図3Bは、導波路アレイの出射面に垂直な方向とは異なる方向に光を出射する導波路アレイの断面を示す図である。
図3Bに示す例では、複数の導波路素子10における光導波層20を伝搬する光の位相が、配列方向に一定量(Δφ)ずつ異なっている。この場合、光は、Z方向とは異なる方向に出射される。このΔφを変化させることにより、光の波数ベクトルのY方向の成分を変化させることができる。隣接する2つの導波路素子10の間の中心間距離をpとすると、光の出射角度α
0
は、以下の式(2)によって表される。
【数2】
【0041】
図2に示す例では、光の出射方向は、XZ平面に平行である。すなわち、α
0=0°である。
図3Aおよび
図3Bに示す例では、光スキャンデバイス100から出射される光の方向は、YZ平面に平行である。すなわち、θ=0°である。しかし、一般には、光スキャンデバイス100から出射される光の方向は、XZ平面にも、YZ平面にも平行ではない。すなわち、θ≠0°およびα
0≠0°である。
【0042】
図4は、3次元空間における導波路アレイを模式的に示す斜視図である。
図4に示す太い矢印は、光スキャンデバイス100から出射される光の方向を表す。θは、光の出射方向とYZ平面とがなす角度である。θは式(1)を満たす。α
0は、光の出射方向とXZ平面とがなす角度である。α
0は式(2)を満たす。
【0043】
<導波路アレイに導入する光の位相制御>
それぞれの導波路素子10から出射される光の位相を制御するために、例えば、導波路素子10に光を導入する前段に、光の位相を変化させる位相シフタが設けられ得る。光スキャンデバイス100は、複数の導波路素子10のそれぞれに接続された複数の位相シフタと、各位相シフタを伝搬する光の位相を調整する第2調整素子とを備える。各位相シフタは、複数の導波路素子10の対応する1つにおける光導波層20に直接的にまたは他の導波路を介して繋がる導波路を含む。第2調整素子は、複数の位相シフタから複数の導波路素子10へ伝搬する光の位相の差をそれぞれ変化させることにより、複数の導波路素子10から出射される光の方向(すなわち、第3の方向D3)を変化させる。以下の説明では、導波路アレイと同様に、配列された複数の位相シフタを「位相シフタアレイ」と称することがある。
【0044】
図5は、導波路アレイ10Aおよび位相シフタアレイ80Aを、光出射面の法線方向(Z方向)から見た模式図である。
図5に示される例では、全ての位相シフタ80が同じ伝搬特性を有し、全ての導波路素子10が同じ伝搬特性を有する。それぞれの位相シフタ80およびそれぞれの導波路素子10は同じ長さであってもよいし、長さが異なっていてもよい。それぞれの位相シフタ80の長さが等しい場合は、例えば、駆動電圧によってそれぞれの位相シフト量を調整することができる。また、それぞれの位相シフタ80の長さを等ステップで変化させた構造にすることで、同じ駆動電圧で等ステップの位相シフトを与えることもできる。さらに、この光スキャンデバイス100は、複数の位相シフタ80に光を分岐して供給する光分岐器90と、各導波路素子10を駆動する第1駆動回路110と、各位相シフタ80を駆動する第2駆動回路210とをさらに備える。
図5における直線の矢印は光の入力を示している。別々に設けられた第1駆動回路110と第2駆動回路210とをそれぞれ独立に制御することにより、2次元スキャンを実現できる。この例では、第1駆動回路110は、第1調整素子の1つの要素として機能し、第2駆動回路210は、第2調整素子の1つの要素として機能する。
【0045】
第1駆動回路110は、各導波路素子10における光導波層20の屈折率および厚さの少なくとも一方を変化させることにより、光導波層20から出射する光の角度を変化させる。第2駆動回路210は、各位相シフタ80における導波路20aの屈折率を変化させることにより、導波路20aの内部を伝搬する光の位相を変化させる。光分岐器90は、全反射によって光が伝搬する導波路で構成してもよいし、導波路素子10と同様の反射型導波路で構成してもよい。
【0046】
なお、光分岐器90で分岐したそれぞれの光に対して位相を制御した後に、それぞれの光を位相シフタ80に導入してもよい。この位相制御には、例えば、位相シフタ80に至るまでの導波路の長さを調整することによるパッシブな位相制御構造を用いることができる。あるいは、位相シフタ80と同様の機能を有する電気信号で制御可能な位相シフタを用いても良い。このような方法により、例えば、全ての位相シフタ80に等位相の光が供給されるように、位相シフタ80に導入される前に位相を調整してもよい。そのような調整により、第2駆動回路210による各位相シフタ80の制御をシンプルにすることができる。
【0047】
上記の光スキャンデバイス100と同様の構成を有する光デバイスは、光受信デバイスとしても利用できる。光デバイスの動作原理、および動作方法などの詳細は、米国特許出願公開第2018/0224709号に開示されている。この文献の開示内容全体を本明細書に援用する。
【0048】
<貼り合わせによる光デバイスの作製>
光デバイス100は、例えば、第1のミラーを備える上部構造体および第2のミラーを備える下部構造体を貼り合わせることによって作製され得る。貼り合わせには、例えば、紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂などのシール部材が用いられ得る。電圧印加による光スキャンのために、光導波層20は、例えば液晶材料を含み得る。液晶材料を光デバイス100に注入するために、例えば真空封入が利用され得る。上記のシール部材によって囲まれた空間に液晶材料を注入すれば、液晶材料の注入の際に真空漏れを防ぐことができる。
【0049】
図6は、Z方向から見たときの、光デバイス100の下部構造体100aの例を模式的に示す図である。
図7Aから
図7Cは、それぞれ、
図6に示すA-A線断面、B-B線断面、およびC-C線断面を示す図である。
図7Aから
図7Cは、光デバイス100の下部構造体100aおよび上部構造体100bの例を模式的に示している。
図7Aから
図7Cに示す下向きの矢印は、貼り合わせの方向を表している。
【0050】
下部構造体100aおよび上部構造体100bを貼り合わせた後、
図6に示す封入口79oから液晶材料が注入される。その後、封入口79oはシール部材79と同じ部材によって閉じられる。下部構造体100aは、基板50a、電極62a、ミラー40、誘電体層51、複数の光導波路11、複数の隔壁73、およびシール部材79を備える。上部構造体100bは、基板50b、電極62b、およびミラー30を備える。これらの詳細については、後述する。
【0051】
図8Aから
図8Cは、それぞれ、
図7Aから
図7Cに示す下部構造体100aおよび上部構造体100bを貼り合わせたときの光デバイス100の例を模式的に示す図である。
図8Aから
図8Cに示すように、下部構造体100aと上部構造体100bとが平行になるように貼り合わせようとしても、実際には、基板50aと基板50bとが平行にならないことがある。これは、上部構造体100bを下部構造体100aに貼り合わせる際に、上部構造体100bと下部構造体100aとが最初に接触する箇所が支点になることに起因する。例えば、シール部材79と電極62bとが接触する箇所、または、複数の隔壁73のうちの1つの隔壁とミラー30とが接触する箇所が支点になり得る。貼り合わせる際に上部構造体100bに加わる力が不均一であると、支点に近い箇所と、支点に遠い箇所とでは、基板50aと基板50bとの間隔が異なり得る。例えば、支点に遠い箇所では、支点に近い箇所よりも、基板50aと基板50bとの間隔が大きくなり得る。このため、基板50aと基板50bとが平行にならないことがある。その場合、光デバイス100から出射される光の強度、および光の出射角度が設計値からずれる可能性がある。
【0052】
本発明者は、以上の検討に基づき、以下の項目に記載の光デバイスに想到した。
【0053】
第1の項目に係る光デバイスは、第1の方向および前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って拡がる第1の表面を有する第1の基板と、前記第1の表面に少なくとも部分的に対向する第2の表面を有する第2の基板と、前記第1の基板と前記第2の基板との間において、前記第1の方向に沿って延びる少なくとも1つの光導波路と、前記第1の表面および前記第2の表面の少なくとも一方に配置され、第1の部分および第2の部分を含む複数の弾性スペーサと、を備える。前記第2の表面は前記第1の表面とは異なる面積を有する。前記複数の弾性スペーサの前記第1の部分は、前記第1の基板と前記第2の基板との間であって、前記第1の表面に垂直な方向から見て前記第1の基板と前記第2の基板とが重なる領域に位置する少なくとも1つの弾性スペーサである。前記複数の弾性スペーサの前記第2の部分は、前記第1の表面に垂直な方向から見て前記第1の基板と前記第2の基板とが重ならない領域に位置する少なくとも1つの弾性スペーサである。
【0054】
この光デバイスでは、複数の弾性スペーサの第1の部分により、第1の基板と第2の基板との間隔を均一にすることができる。その結果、出射される光の強度、および出射角度の精度を大幅に改善することができる。さらに、複数の弾性スペーサの第2の部分により、第1の基板と第2の基板とが重ならない領域に設けられる構成要素を、外部の接触から保護することができる。
【0055】
第2の項目に係る光デバイスは、第1の項目に係る光デバイスにおいて、各々が前記第1の方向に沿って延びる複数の隔壁を更に備える。複数の隔壁は、前記第1の基板と前記第2の基板との間において前記第2の方向に並ぶ。前記複数の弾性スペーサの各々の弾性率は、前記複数の隔壁の各々の弾性率よりも小さい。
【0056】
この光デバイスでは、バネのように作用して圧縮する弾性スペーサにより、第1の基板と第2の基板との間隔は、全体として均一になる。
【0057】
第3の項目に係る光デバイスは、第2の項目に係る光デバイスにおいて、前記複数の隔壁が、前記第1の基板と前記第2の基板とに直接的または間接的に挟持されている。前記第1の基板と前記第2の基板とによって挟持されることによる、前記第1の表面に垂直な方向における前記複数の弾性スペーサの各々の変形率は、前記垂直な方向における前記複数の隔壁の各々の変形率よりも大きい。
【0058】
この光デバイスでは、各隔壁の変形率よりも大きい各スペーサの変形率により、第1の基板と第2の基板との間隔は、全体として均一になる。
【0059】
第4の項目に係る光デバイスは、第1から第3の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記複数の弾性スペーサは、各々が柱状の形状を有する。
【0060】
この光デバイスでは、第1から第3の項目に係る光デバイスと同じ効果を得ることができる。
【0061】
第5の項目に係る光デバイスは、第1から第4の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記少なくとも1つの光導波路の各々は、前記第1の基板と前記第2の基板との間であって、前記第1の基板と前記第2の基板とが重なる領域に配置される第1の部分と、前記第1の基板と前記第2の基板とが重ならない領域に配置される第2の部分とを備える。
【0062】
この光デバイスでは、第2の部分から第1の部分に光を入力させることができる。
【0063】
第6の項目に係る光デバイスは、第5の項目に係る光デバイスにおいて、前記少なくとも一つの光導波路は、複数の光導波路である。前記複数の弾性スペーサの前記第2の部分の少なくとも一部は、前記複数の光導波路の各々の前記第2の部分の周囲に位置している。
【0064】
この光デバイスでは、複数の弾性スペーサの第2の部分の少なくとも一部により、複数の光導波路の第2の部分を、外部の接触から保護することができる。
【0065】
第7の項目に係る光デバイスは、第5または第6の項目に係る光デバイスにおいて、前記少なくとも一つの光導波路の各々は、隣り合う2つの隔壁の間に位置する部分を含み、前記部分において第1のグレーティングを備える。
【0066】
この光デバイスでは、光導波路を伝搬する光は、第1のグレーティングを介して、高い効率で結合することができる。
【0067】
第8の項目に係る光デバイスは、第5から第7の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記少なくとも一つの光導波路の各々は、前記第2の部分において第2のグレーティングを備える。
【0068】
この光デバイスでは、第2のグレーティングを介して、外部から光導波路に光を高い効率で入力することができる。
【0069】
第9の項目に係る光デバイスは、第1から第8の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記第1の基板と前記第2の基板との間隔を固定するシール部材をさらに備える。前記少なくとも1つの光導波路は、1つ以上の第1の光導波路と1つ以上の第2の光導波路とがそれぞれ接続された構造を有する。前記シール部材は、前記第1の表面に垂直な方向から見たときに、前記1つ以上の第1の光導波路を囲む。
【0070】
この光デバイスでは、1つ以上の第1の光導波路を、第1の基板と、第2の基板と、シール部材とによって密閉することができる。
【0071】
第10の項目に係る光デバイスは、第9の項目に係る光デバイスにおいて、前記1つ以上の第1の光導波路が、前記第1の方向に沿って延びる1つ以上の誘電体部材をそれぞれ含む。前記第1の基板と前記第2の基板との間で且つ前記シール部材によって囲まれた領域は、前記1つ以上の誘電体部材と同じ部材によって満たされる。
【0072】
この光デバイスでは、第1の基板と、第2の基板と、シール部材とによって密閉された空間を1つ以上の誘電体部材と同じ部材で満たすことにより、容易に1つ以上の第1の光導波路を作製することができる。
【0073】
第11の項目に係る光デバイスは、第1から第10の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記1つ以上の第1の光導波路が、前記第1の方向に沿って延びる1つ以上の誘電体部材をそれぞれ含む。前記光デバイスは、前記第1の基板と前記1つ以上の誘電体部材との間、および、前記第2の基板と前記1つ以上の誘電体部材との間にそれぞれ位置する2つのミラーをさらに備える。
【0074】
この光デバイスでは、2つのミラーにより、各第1の光導波路は、反射型導波路として機能する。これにより、各第1の光導波路を伝搬する光を外部に出射させることができる。
【0075】
第12の項目に係る光デバイスは、第11の項目に係る光デバイスにおいて、前記複数の弾性スペーサの前記第1の部分の少なくとも一部が、前記2つのミラーによって挟まれた領域の外側に位置する。
【0076】
この光デバイスでは、2つのミラーによって挟まれた領域の外側にパーティクルが混入しても、当該領域での第1の表面に垂直な方向における第1の基板と第2の基板との間隔が大きいことから、貼り合わせ後の第1の基板と第2の基板との間隔を均一にすることができる。
【0077】
第13の項目に係る光デバイスは、第10から第12の項目のいずれかに係る光デバイスにおいて、前記1つ以上の第1の光導波路が、前記1つ以上の誘電体部材の屈折率を調整することが可能な構造を備える。前記1つ以上の誘電体部材の屈折率を調整することにより、前記1つ以上の第1の光導波路から前記第1の基板もしくは前記第2の基板を介して出射する光の方向、または前記第1の基板もしくは前記第2の基板を介して前記1つ以上の第1の光導波路内に取り込まれる光の入射方向が変化する。
【0078】
この光デバイスでは、光の出射方向を変化させることができる光スキャンデバイス、または、光の受信方向を変化させることができる光受信デバイスを実現することができる。
【0079】
第14の項目に係る光デバイスは、第13の項目に係る光デバイスにおいて、前記1つ以上の誘電体部材を挟む一対の電極をさらに備える。前記1つ以上の誘電体部材は、液晶材料または電気光学材料を含む。前記一対の電極に電圧を印加することにより、前記1つ以上の誘電体部材の前記屈折率が調整される。
【0080】
この光デバイスでは、電圧印加により、第13の項目に係る光デバイスを実現することができる。
【0081】
第15の項目に係る光デバイスは、第14の項目に係る光デバイスにおいて、前記1つ以上の第1の光導波路に、それぞれ直接的にまたは他の導波路を介して繋がる1つ以上の位相シフタをさらに備える。前記1つ以上の位相シフタを通過する光の位相の差を変化させることにより、前記1つ以上の第1の光導波路から前記第1の基板もしくは前記第2の基板を介して出射する前記光の方向、または、前記第1の基板もしくは前記第2の基板を介して前記1つ以上の第1の光導波路に取り込まれる前記光の入射方向が変化する。
【0082】
この光デバイスでは、1つ以上の位相シフタにより、光の出射方向を2つの方向に独立して変化させることができる光スキャンデバイス、または、光の受信方向を2つの方向に独立して変化させることができる光受信デバイスを実現することができる。
【0083】
第16の項目に係る光検出システムは、第1から第15の項目のいずれかに係る光デバイスと、前記光デバイスから出射され、対象物から反射された光を検出する光検出器と、前記光検出器の出力に基づいて、距離分布データを生成する信号処理回路と、を備える。
【0084】
この光検出システムでは、対象物から反射された光が戻ってくる時間を計測することにより、対象物の距離分布データを得ることができる。
【0085】
第17の項目に係る光デバイスの製造方法は、第1の表面を有する第1の基板と、第2の表面を有する第2の基板とを用意する工程と、前記第1の基板の前記第1の表面上に、一方向に沿って延びる少なくとも1つの光導波路を形成する工程と、前記第1の基板の前記第1の表面上、または前記第2の基板の前記第2の表面上に、複数の弾性スペーサを形成する工程と、前記複数の弾性スペーサが前記少なくとも1つの光導波路の周囲に位置するように前記第1の基板の前記第1の表面と前記第2の基板の前記第2の表面とを対向させ、前記第1の基板と前記第2の基板とを固定する工程と、前記第1の基板または前記第2の基板のうち、前記複数の弾性スペーサが設けられていない基板の一部を切断して取り除き、前記複数の弾性スペーサの一部を露出させる工程と、を含む。
【0086】
この光デバイスの製造方法では、第1の項目に係る光デバイスを製造することができる。
【0087】
第18の項目に係る光デバイスの製造方法は、第17の項目に係る光デバイスの製造方法において、複数の隔壁を形成する工程を更に含む。前記少なくとも1つの光導波路を形成する工程は、前記複数の隔壁を形成する工程よりも後に、前記複数の隔壁の間に1つ以上の誘電体部材を設ける工程を含む。
【0088】
この光デバイスの製造方法では、複数の隔壁の間に1つ以上の誘電体部材をそれぞれ有する1つ以上の光導波路を形成することができる。
【0089】
第19の項目に係る光デバイスの製造方法は、第17の項目に係る光デバイスの製造方法において、複数の隔壁を形成する工程を更に含む。前記少なくとも1つの光導波路を形成する工程は、前記第1の基板と前記第2の基板とを固定する工程よりも後に、前記複数の隔壁の間に、液晶材料を含む1つ以上の誘電体部材を注入する工程をさらに含む。
【0090】
この光デバイスの製造方法では、複数の隔壁の間に、液晶材料を含む1つ以上の誘電体部材をそれぞれ有する1つ以上の光導波路を形成することができる。
【0091】
以下に、本開示の例示的な実施形態における光デバイスを説明する。
【0092】
(実施形態)
図9は、本実施形態における光デバイス100の下部構造体100aの例を模式的に示す平面図である。
図10Aから
図10Cは、それぞれ、
図9に示すA-A線断面、B-B線断面、およびC-C線断面を示す図である。
【0093】
光デバイス100は、第1の基板50aと、第2の基板50bと、複数の隔壁73と、複数の第1の光導波路10と、複数の弾性スペーサ77と、シール部材79と、複数の第2の光導波路11とを備える。第1の光導波路10の個数に限定はなく、1つでもよい。第2の光導波路11および弾性スペーサ77についても同様である。以下の説明では、「第1の基板50a」および「第2の基板50b」を、それぞれ「基板50a」および「基板50b」と称し、「第1の光導波路10」および「第2の光導波路11」を、それぞれ「光導波路10」および「光導波路11」と称する。
【0094】
本実施形態における光デバイス100は、下部構造体100aと、上部構造体100bとを備える。
【0095】
下部構造体100aは、基板50aと、電極62aと、ミラー40と、誘電体層51と、複数の隔壁73と、複数の弾性スペーサ77と、シール部材79と、光導波路11とを備える。
図10Aに示すように、基板50aは、X方向およびY方向に沿って拡がる第1の表面50asを有する。基板50a上には、電極62aが設けられている。電極62a上には、ミラー40が設けられている。ミラー40上には、誘電体層51が設けられている。誘電体層51上には、隔壁73と、弾性スペーサ77と、シール部材79と、光導波路11とが設けられている。
【0096】
上部構造体100bは、第2の表面50bsを有する基板50bと、電極62bと、ミラー30とを備える。第2の表面50bsは、基板50aの第1の表面50asに対向する。第2の表面50bsは、第1の表面50asと略同じ面積を有する。基板50b上には、電極62bが設けられている。電極62b上には、ミラー30が設けられている。
【0097】
基板50aおよび基板50bのうち、光が出射される側の基板は、透光性を有する。基板50aおよび基板50bの両方が、透光性を有していてもよい。同様に、電極62aおよび電極62bのうち、光が出射される側の電極は、透光性を有する。電極62aおよび電極62bの両方が、透光性を有していてもよい。電極62aおよび電極62bの少なくとも一方は、例えば、透明電極から形成され得る。
図9、および
図10Aから
図10Cに示す例では、上部構造体100bの電極62bおよび基板50bを介して、光導波路10から光が出射される。
【0098】
図9に示すように、複数の隔壁73は、基板50aと基板50bとの間に位置し、Y方向に並んでいる。各隔壁73は、X方向に沿って延びる。
【0099】
複数の光導波路10は、複数の隔壁73の間に規定される。各光導波路10は、X方向に沿って延びる誘電体部材21を含む。なお、
図10Aから10Cは、誘電体部材21を構成する材料が注入される前の状態を示している。誘電体部材21は、例えば、液晶材料または電気光学材料を含む。光導波路10は、ミラー30と、ミラー40と、誘電体部材21とを備える。誘電体部材21は、ミラー30、40、および隣接する2つの隔壁73によって囲まれた領域に設けられる。光導波路10は、前述のスローライト導波路として機能する。ミラー40は、基板50aと誘電体部材21との間に位置する。ミラー30は、基板50bと誘電体部材21との間に位置する。誘電体部材21は、
図2に示す光導波層20を構成する。
図9、および
図10Aから
図10Cに示す例では、光導波層20内の誘電体層51の一部が除去され、ミラー40の一部が露出している。光導波層20は、ミラー30とミラー40とによって挟まれた領域に形成される。
【0100】
誘電体部材21の屈折率は、隔壁73および誘電体層51の屈折率よりも高い。これにより、光導波層20内を伝搬する光は、隔壁73およびその直下の誘電体層51に漏れることはない。光導波層20内を伝搬する光は、光導波層20と各隔壁73との界面、および、光導波層20と誘電体層51との界面では全反射される。
【0101】
一対の電極62aおよび電極62bは、誘電体部材21を直接的または間接的に挟む。「直接的に挟む」とは、他の部材を介することなく挟むことを意味する。「間接的に挟む」とは、他の部材を介して挟むことを意味する。一対の電極62aおよび電極62bに電圧を印加することにより、誘電体部材21の屈折率が調整される。その結果、光導波路10から外部に出射される光の出射角度が変化する。
【0102】
なお、光導波路10は、スローライト導波路である必要はない。光導波路10は、例えば、全反射によって光を伝搬させる導波路であってもよい。当該導波路では、基板50aまたは基板50bを介してではなく、光導波路10の端部から、光が外部に出射される。
【0103】
複数の弾性スペーサ77は、複数の光導波路10の周囲に位置する。
図9に示す例では、複数の柱状の弾性スペーサ77が2次元的に配置されている。この配置は、規則的または周期的であってもよいし、不規則的であってもよい。XY平面内の弾性スペーサ77の直径は、例えば、10μm以上100μm以下であり得る。
図9に示す例では、弾性スペーサ77は、シール部材79によって囲まれた領域の内側および外側の両方に位置する。弾性スペーサ77は、当該領域の内側および外側の一方にのみ設けられていてもよい。このように、弾性スペーサ77は、当該領域の内側および外側の少なくとも一方に位置する。一部の弾性スペーサ77が、光導波層20内に設けられてもよい。弾性スペーサ77は、シール部材79によって囲まれた領域の内側および/または外側において、1つの繋がった形状を有していてもよい。当該形状は、例えば、Z方向から見た場合に、直線状、曲線状、波線状、またはジグザグ線状の形状であり得る。
【0104】
下部構造体100aおよび上部構造体100bを貼り合わせる前の状態では、Z方向における弾性スペーサ77の寸法は、Z方向における隔壁73およびミラー30の寸法の合計よりも大きい。また、その状態では、Z方向における弾性スペーサ77の寸法は、Z方向におけるシール部材79の寸法よりも大きい。したがって、下部構造体100aおよび上部構造体100bを貼り付ける際、上部構造体100bの電極62bは、下部構造体100aの弾性スペーサ77に最初に接触する。このため、シール部材79と電極62bとが接触する箇所、または、隔壁73とミラー30とが接触する箇所が支点になることはない。
【0105】
弾性スペーサ77では、弾性変形が生じる。弾性体に力を加えてひずみが生じた場合、弾性率は、加えた力を生じたひずみで割ることによって定義される。弾性スペーサ77の弾性率は、隔壁73およびミラー30の弾性率よりも小さい。すなわち、弾性スペーサ77は、隔壁73およびミラー30よりも変形しやすい。下部構造体100aおよび上部構造体100bを貼り合わせたときに、弾性スペーサ77はバネのように作用して圧縮する。これにより、隔壁73の上面とミラー30の反射面とが均一に接触して、基板50aと基板50bとの間隔が全体として均一になる。その結果、基板50aと基板50bとがほぼ平行になる。このとき、基板50aと基板50bとによって挟持されることによる、Z方向における各弾性スペーサの変形率は、Z方向における各隔壁の変形率よりも大きい。
【0106】
シール部材79は、基板50aと基板50bとの間隔を固定する。
図9に示すように、シール部材79は、Z方向から見たときに、複数の光導波路10および複数の隔壁73を囲む。シール部材79は、Y方向において、光導波路11を跨ぐように設けられている。シール部材79の上面は、XY平面に平行である。誘電体層51上でのZ方向におけるシール部材79の寸法は、Z方向における隔壁73の寸法およびミラー30の寸法の合計と同じか、当該合計よりも大きい。シール部材79は、例えば、紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂から形成され得る。基板50aと基板50bとの間隔を長期間維持できる部材であれば、シール部材79の材料は、紫外線硬化樹脂または熱硬化樹脂である必要はない。
【0107】
光導波路11は、光導波路10に接続されている。光導波路11から光導波路10に光が供給される。
図9、および
図10Aから
図10Cに示す例では、光導波路11は、誘電体層51上に位置する。誘電体層51は、基板50aと光導波路11との間に位置する。Z方向における誘電体層51の寸法を調整することにより、光導波路11を伝搬する光を、高い効率で光導波路10に結合させることができる。Z方向における誘電体層51の寸法は、例えば、光導波路11がZ方向における光導波層20の中央付近に位置するように調整され得る。光導波路11は、全反射によって光を伝搬させる導波路である。そのため、光導波路11の屈折率は、誘電体層51の屈折率よりも高い。なお、光導波路11は、スローライト導波路であってもよい。
【0108】
複数の光導波路11の各々は、複数の隔壁73のうち隣り合う2つの隔壁の間に位置する部分を備える。
図9から
図10Cに示されるように、複数の光導波路11の各々は、当該部分においてグレーティング15を備えていてもよい。光導波路11の伝搬定数は、光導波路10の伝搬定数とは異なる。グレーティング15により、光導波路11の伝搬定数は、逆格子分だけシフトする。逆格子分だけシフトした光導波路11の伝搬定数が、光導波路10の伝搬定数と一致するとき、光導波路11を伝搬する光は、高効率で光導波路10に結合する。
【0109】
図11Aから
図11Cは、それぞれ、
図10Aから
図10Cに示す下部構造体100aおよび上部構造体100bを貼り合わせた状態における光デバイス100の例を模式的に示す図である。
図11Aから
図11Cに示すように、基板50aと基板50bとを貼り合わせると、弾性スペーサ77を介して、対向する第1の表面50asおよび第2の表面50bsに均一に力が加わる。これにより、基板50aと基板50bとが実質的に平行になる。弾性スペーサ77は、基板50aと基板50bとによって直接的または間接的に挟持される。
図11Aから
図11Cに示す例では、弾性スペーサ77は、下部構造体100aの誘電体層51と、上部構造体100bの電極62bとによって直接的に挟持される。Z方向における弾性スペーサ77の寸法は、Z方向における隔壁73の寸法よりも大きい。
【0110】
図12Aおよび
図12Bは、それぞれ、
図11Aおよび
図11Bに示す基板50bおよび電極62bの一部が切断された例を模式的に示す図である。切断により、シール部材79によって囲まれた領域の周辺の一部が取り除かれる。その結果、第2の表面50bsは、第1の表面50asとは異なる面積を有する。
図12Aおよび
図12Bに示すように、光導波路11は、Z方向から見たとき、基板50aとは重なるが、基板50bとは重ならない部分を含む。光導波路11は、当該重ならない部分において、グレーティング13を備えていてもよい。上記の理由と同様の理由から、グレーティング13を介して光を入力した場合、入力された光は、より高い効率で光導波路11に結合させることができる。光導波路11は、基板50bとは重なり、基板50aとは重ならない部分を含んでいてもよいし、基板50aおよび基板50bの両方と重ならない部分を含んでいてもよい。このように、光導波路11は、各基板の表面に垂直な方向から見た場合に、基板50aおよび基板50bの少なくとも一方と重ならない部分を備え得る。その場合、一部の弾性スペーサ77は、基板50aおよび基板50bに狭持されずに、誘電体層51上に残る。当該一部の弾性スペーサ77のZ方向における寸法は、残りの弾性スペーサ77のZ方向における寸法よりも大きい。当該一部の弾性スペーサ77が残存することにより、電極62aまたは電極62b、グレーティング13、および、光導波路11を外部の接触から保護することができる。
【0111】
弾性スペーサ77の役割をまとめると以下のようになる。弾性スペーサ77は、光デバイス100の製造時には、基板50aおよび基板50bを平行にする役割を果たす。弾性スペーサ77は、光デバイス100の使用時には、一部の構成要素を外部の接触から保護する役割を果たす。
【0112】
誘電体部材21が液晶材料によって構成される場合、下部構造体100aおよび上部構造体100bを貼り合わせた後、封入口79oから、液晶材料が注入される。これらの貼り合わせた構造体の少なくとも一方の一部を切断した後、封入口79oから、液晶材料を注入してもよい。液晶材料の注入後、封入口79oは、シール部材79と同じ部材によって閉じられる。このようにして密閉された領域は、全体的に液晶材料によって満たされる。当該領域は、基板50aと基板50bとの間に位置し、シール部材79によって囲まれた領域である。当該領域は、誘電体部材21と同じ部材によって満たされる。
【0113】
以下に、光デバイス100の作製に用いられる構成要素の材料および寸法の詳細な例を説明する。以下、Z方向における寸法を「厚さ」と称することがある。
【0114】
まず、下部構造体100aの構成要素の材料および寸法の例を説明する。
【0115】
基板50aは、例えばSiO2層から形成され得る。X方向およびY方向における基板50aの寸法は、例えば両方とも15mmであり得る。基板50aの厚さは、例えば0.7mmであり得る。
【0116】
電極62aは、例えばITOスパッタ層から形成され得る。電極62aの厚さは、例えば50nmであり得る。
【0117】
ミラー40は、多層反射膜であり得る。多層反射膜は、例えばNb2O5層とSiO2層とを交互に蒸着して積層することによって形成され得る。Nb2O5層は、屈折率n=2.282を有する。Nb2O5層の厚さは、例えば100nm程度であり得る。SiO2層は、屈折率n=1.468を有する。SiO2層の厚さは、例えば200nm程度であり得る。ミラー40は、例えば31層のNb2O5層、および30層のSiO2層の合計61層を有する。ミラー40の厚さは、例えば9.1μmであり得る。
【0118】
誘電体層51は、例えばSiO2蒸着層から形成され得る。SiO2蒸着層は、屈折率n=1.468を有する。SiO2蒸着層の厚さは、例えば1.0μm程度であり得る。
【0119】
光導波路11は、例えばNb2O5蒸着層から形成され得る。Nb2O5蒸着層は、屈折率n=2.282を有する。Nb2O5蒸着層の厚さは、例えば300nm程度であり得る。光導波路11には、グレーティング15およびグレーティング13が形成され得る。グレーティング15は、例えばデューティ比1:1、およびピッチ640nmを有する。グレーティング13は、例えばデューティ比1:1、およびピッチ680nmを有する。グレーティング15およびグレーティング13は、フォトリソグラフィ法によるパターニングによって形成され得る。Y方向における光導波路11の寸法は、例えば10μmであり得る。
【0120】
隔壁73は、SiO2蒸着層から形成され得る。SiO2蒸着層は、屈折率n=1.468を有する。SiO2蒸着層の厚さは、例えば1.0μmであり得る。Y方向における隔壁73の寸法は、例えば50μmであり得る。
【0121】
光導波層20内において、誘電体層51の一部は、例えばフォトリソグラフィ法によるパターニングによって除去され得る。光導波層20の厚さは、例えば2.0μmであり得る。Y方向における光導波層20の寸法は、例えば10μmであり得る。
【0122】
次に、上部構造体100bの構成要素の材料および寸法の詳細を説明する。
【0123】
基板50bは、例えばSiO2層から形成され得る。X方向およびY方向における基板50bの寸法は、例えばそれぞれ8mmおよび20mmであり、基板50bの厚さは、例えば0.7mmであり得る。
【0124】
電極62bは、例えばITOスパッタ層から形成され得る。電極62bの厚さは、例えば50nmであり得る。
【0125】
ミラー30は、多層反射膜であり得る。多層反射膜は、Nb2O5層とSiO2層とを交互に蒸着して積層することによって形成され得る。Nb2O5層は、屈折率n=2.282を有する。Nb2O5層の厚さは、例えば100nm程度であり得る。SiO2層は、屈折率n=1.468を有する。SiO2層の厚さは、例えば200nm程度であり得る。ミラー30は、例えば7層のNb2O5層、および6層のSiO2層の合計13層を有する。ミラー30の厚さは、例えば1.9μmであり得る。
【0126】
次に、弾性スペーサ77およびシール部材79の材料および寸法の詳細な例を説明する。
【0127】
弾性スペーサ77には、例えば積水化学製のミクロパールEX-003が用いられ得る。下部構造体100aおよび上部構造体100bを貼り合わせる前の状態において、Z方向における弾性スペーサ77の寸法は、例えば3.0μmである。弾性スペーサ77の当該寸法は、隔壁73の厚さおよびミラー30の厚さの合計よりも大きい。隔壁73の厚さは、例えば1μm、ミラー30の厚さは、例えば1.9μmであり得る。
【0128】
誘電体部材21には、例えば5CB液晶が用いられ得る。
【0129】
シール部材79には、例えばスリーボンド製の紫外線硬化接着剤3026Eが用いられ得る。例えば、波長365nmおよびエネルギー密度100mJ/cm2の紫外線照射によってシール部材79を硬化することにより、下部構造体100aおよび上部構造体100bを貼り合わせることができる。これにより、本実施形態における光デバイス100が得られる。
【0130】
なお、基板50aおよび基板50bは、SiO2から形成されなくてもよい。基板50aおよび基板50bは、例えば、ガラスもしくはサファイアなどの無機基板、または、アクリルもしくはポリカーボネートなどの樹脂基板であってもよい。これらの無機基板および樹脂基板は、透光性を有する。
【0131】
光が出射されるミラー30の透過率は、例えば99.9%であり、光が出射されないミラー40の透過率は、例えば99.99%である。この条件は、多層反射膜の層数の調整によって実現することができる。多層反射膜内の2つの層の組み合わせとして、例えば、一方の層の屈折率は2以上であり、他方の層の屈折率は2未満である。2つの屈折率の差が大きければ、高い反射率を得ることできる。屈折率が2以上の層は、例えば、SiNx、AlNx、TiOx、ZrOx、NbOx、およびTaOxからなる群から選択される少なくとも1つから形成され得る。屈折率が2未満の層は、例えば、SiOxまたはAlOxからなる群から選択される少なくとも1つから形成され得る。
【0132】
誘電体層51の屈折率は、例えば2未満であり、光導波路11の屈折率は例えば2以上である。2つの屈折率の差が大きければ、光導波路11から誘電体層51に染み出すエバネッセント光を減らすことができる。
【0133】
次に、
図9に示すaからiの箇所、およびαからδの箇所での間隔を測定した結果を説明する。当該間隔は、リタデーション測定によって調べられた。当該測定では、75個の光導波路10が用いられた。a、b、およびcの箇所、またはg、h、およびiの箇所は、複数の隔壁73のうち端の隔壁の3つの箇所である。d、e、およびfの箇所は、複数の隔壁73のうち中央の隔壁の3つの箇所である。αからδの箇所は、シール部材79に囲まれた領域の4つのコーナーの箇所である。
【0134】
aからiの箇所での間隔は、Z方向における隔壁73とミラー30との間隔であり、当該間隔の理論値は0nmである。αからδの箇所での間隔は、Z方向における誘電体層51と電極62bのとの間隔であり、当該間隔の理論値は2.9μmである。
【0135】
表1は、弾性スペーサ77が存在しない場合の、aからiの箇所、およびαからδの箇所での間隔を表す。
【0136】
【0137】
弾性スペーサ77が存在しない場合、aからiの箇所での間隔の平均は、0.146nmであり、その標準偏差は、0.128nmである。αからδの箇所での間隔の平均は、3.10μmであり、その標準偏差は、0.154μmである。したがって、間隔の平均は前述の理論値から比較的大きくずれ、間隔のばらつきも大きく、間隔は均一ではない。
【0138】
【0139】
表2は、弾性スペーサ77が存在する場合の、aからiの箇所、およびαからδの箇所での間隔を表す。弾性スペーサ77が存在する場合、aからiの箇所での間隔の平均は、0.006nmであり、その標準偏差は、0.002nmである。αからδの箇所での間隔の平均は、2.94μmであり、その標準偏差は、0.000μmである。したがって、間隔の平均は前述の理論値に近く、間隔のばらつきは十分小さく、間隔は均一であるということができる。すなわち、本実施形態における光デバイス100では、弾性スペーサ77により、基板50aと基板50bとの間隔の均一性を大幅に改善することができる。
【0140】
本実施形態では、
図12Aおよび
図12Bに示すように、上部構造体100bの一部が、切断して取り除かれる。
図12Aおよび
図12Bに示す例では、上部構造体100bのXY方向におけるサイズは、下部構造体100aのXY方向におけるサイズよりも小さい。この場合、
図9に示すシール部材79によって囲まれた領域内と、その周辺にのみ弾性スペーサ77を設けた上で、
図12Aおよび
図12Bに示す下部構造体100aおよび上部構造体100bを、弾性スペーサ77を介して貼り合わせることによっても光デバイスを作製することができる。本発明者が調べた結果、この場合、aからiの箇所での間隔の平均は、0.01nmであり、その標準偏差は、0.004nmであった。αからδの箇所での間隔の平均は、2.94μmであり、その標準偏差は、0.007μmであった。確かに、この場合でも、基板50aと基板50bとの間隔の均一性を大幅に改善することができる。これに対し、本実施形態における光デバイス100では、前述したように、aからiの箇所での間隔の平均は、0.006nmであり、その標準偏差は、0.002nmである。αからδの箇所での間隔の平均は、2.94μmであり、その標準偏差は、0.000μmである。したがって、本開示の技術を用いることにより、基板50aと基板50bとの間隔の均一性をさらに向上させることができる。
【0141】
また、本実施形態の光デバイス100では、弾性スペーサ77が形成される領域には上部構造体100bのミラー30は形成されていない。このような構成により、弾性スペーサ77およびシール部材79が形成される領域において、Z方向の間隔を広く取ることができる。これにより、硬化前の液状であるシール部材79は、必要以上に広がらない。また、下部構造体100aおよび上部構造体100bの貼り合わせ時に、下部構造体100aと上部構造体100bとが大きいパーティクルを挟むと、貼り合わせ後の間隔が不均一になる可能性がある。この場合でも、本実施形態では、特にパーティクルが混入しやすい周囲部でのZ方向の間隔が大きいことから、貼り合わせ後の間隔を均一にすることができる。
【0142】
弾性スペーサ77が形成される領域において、ミラー30およびミラー40の少なくとも一方は形成されなくてもよい。前述した例では、ミラー30が形成されていない。逆に、ミラー40が形成されていなくてもよい。あるいは、ミラー30およびミラー40の両方が形成されていなくてもよい。
【0143】
次に、光デバイス100の変形例を説明する。
図13は、変形例における光デバイス100Mの構成を模式的に示す断面図である。
図13に示す光デバイス100Mにおける断面は、
図9に示すC-C線断面に対応する。
図13の上の図は、下部構造体101aおよび上部構造体101bを貼り合わせる前の状態を表している。
図13の下の図は、下部構造体101aおよび上部構造体101bを貼り合わせた後の状態を表している。前述の実施形態では、上部構造体100bのうち、弾性スペーサ77が形成される領域において、ミラー30は形成されていなかった。これに対し、本変形例では、弾性スペーサ77が形成される領域においてもミラー31が形成されている。本変形例では、隣接する導波路10同士の干渉、すなわちクロストークを大幅に低減することができる。
【0144】
次に、本実施形態における光デバイス100から出射された光を測定した結果を説明する。
【0145】
図14は、光デバイス100からの光の出射を模式的に示す図である。
図14に示す例において、光デバイス100から出射された光は、出射角度θ=60°の方向に固定された不図示の光検出器によって測定された。当該測定では、589nmのレーザー光が、グレーティング13を介して各光導波路11に入力された。弾性スペーサ77が存在する場合、弾性スペーサ77が存在しない場合と比較して、測定された光の強度は、約100倍から約1000倍ほど高いことがわかった。すなわち、本実施形態における光デバイス100では、弾性スペーサ77により、出射される光の強度、および出射角度の精度を大幅に改善することができる。
【0146】
<製造方法>
以下に、前述した光デバイス100の製造方法の一例を説明する。
【0147】
図15は、光デバイス100の製造工程の一例を示すフローチャートである。この例における光デバイス100の製造方法は、以下のステップS101からステップS106を含む。
【0148】
ステップS101において、第1の表面50asを有する基板50aと、第2の表面50bsを有する基板50bとが用意される。ステップS102において、第1の表面50as上に、複数の隔壁73が形成される。ステップS103において、第1の表面50asまたは第2の表面50bs上であって、完成状態において複数の隔壁73の周囲に位置する部位に、弾性スペーサ77が形成される。ステップS104において、第1の表面50asまたは第2の表面50bsであって、完成状態において複数の隔壁73を囲み且つ弾性スペーサ77が存在しない部位に、シール部材79が塗布される。ステップS105において、シール部材79が第1の表面50asおよび第2の表面50bsに密着した状態で、シール部材79を硬化させることにより、基板50aと基板50bとを接着させる。ステップS106において、基板50aまたは基板50bのうち、弾性スペーサ77が設けられていない基板の一部を切断して取り除き、弾性スペーサ77の一部が露出される。
【0149】
ステップS102よりも後に、複数の隔壁73の間に、複数の誘電体部材21を設けるステップを含んでもよい。誘電体部材21が液晶材料を含む場合、ステップS105よりも後に、複数の隔壁73の間に、複数の誘電体部材21を注入するステップを含んでもよい。
【0150】
以上の方法により、光デバイス100を作製することができる。
【0151】
<応用例>
図16は、回路基板(たとえば、チップ)上に光分岐器90、導波路アレイ10A、位相シフタアレイ80A、および光源130などの素子を集積した光スキャンデバイス100の構成例を示す図である。光源130は、例えば、半導体レーザーなどの発光素子であり得る。この例における光源130は、自由空間における波長がλである単一波長の光を出射する。光分岐器90は、光源130からの光を分岐して複数の位相シフタにおける導波路に導入する。
図11に示す例において、チップ上には電極62Aと、複数の電極62Bとが設けられている。導波路アレイ10Aには、電極62Aから制御信号が供給される。位相シフタアレイ80Aにおける複数の位相シフタ80には、複数の電極62Bから制御信号がそれぞれ送られる。電極62A、および複数の電極62Bは、上記の制御信号を生成する不図示の制御回路に接続され得る。制御回路は、
図11に示すチップ上に設けられていてもよいし、光スキャンデバイス100における他のチップに設けられていてもよい。
【0152】
図16に示すように、全てのコンポーネントをチップ上に集積することで、小型のデバイスで広範囲の光スキャンが実現できる。例えば2mm×1mm程度のチップに、
図11に示される全てのコンポーネントを集積することができる。
【0153】
図17は、光スキャンデバイス100から遠方にレーザーなどの光ビームを照射して2次元スキャンを実行している様子を示す模式図である。2次元スキャンは、ビームスポット310を水平および垂直方向に移動させることによって実行される。例えば、公知のTOF(Time Of Flight)法と組み合わせることで、2次元の測距画像を取得することができる。TOF法は、レーザーを照射して対象物からの反射光を観測することで、光の飛行時間を算出し、距離を求める方法である。
【0154】
図18は、そのような測距画像を生成することが可能な光検出システムの一例であるLiDARシステム300の構成例を示すブロック図である。LiDARシステム300は、光スキャンデバイス100と、光検出器400と、信号処理回路600と、制御回路500とを備える。光検出器400は、光スキャンデバイス100から出射され、対象物から反射された光を検出する。光検出器400は、例えば光スキャンデバイス100から出射される光の波長λに感度を有するイメージセンサ、またはフォトダイオードなどの受光素子を含むフォトディテクタであり得る。光検出器400は、受光した光の量に応じた電気信号を出力する。信号処理回路600は、光検出器400から出力された電気信号に基づいて、対象物までの距離を計算し、距離分布データを生成する。距離分布データは、距離の2次元分布を示すデータ(すなわち、測距画像)である。制御回路500は、光スキャンデバイス100、光検出器400、および信号処理回路600を制御するプロセッサである。制御回路500は、光スキャンデバイス100からの光ビームの照射のタイミングおよび光検出器400の露光および信号読出しのタイミングを制御し、信号処理回路600に、測距画像の生成を指示する。
【0155】
2次元スキャンにおいて、測距画像を取得するフレームレートとして、例えば一般的に動画でよく使われる60fps、50fps、30fps、25fps、24fpsなどから選択することができる。また、車載システムへの応用を考慮すると、フレームレートが大きいほど測距画像を取得する頻度が上がり、精度よく障害物を検知できる。例えば、60km/hでの走行時において、60fpsのフレームレートでは車が約28cm移動するごとに画像を取得することができる。120fpsのフレームレートでは、車が約14cm移動するごとに画像を取得することができる。180fpsのフレームレートでは車が、約9.3cm移動するごとに、画像を取得することができる。
【0156】
1つの測距画像を取得するために必要な時間は、ビームスキャンの速度に依存する。例えば、解像点数が100×100のイメージを60fpsで取得するためには1点につき1.67μs以下でビームスキャンをする必要がある。この場合、制御回路500は、600kHzの動作速度で、光スキャンデバイス100による光ビームの出射、および光検出器400による信号蓄積・読出しを制御する。
【0157】
<光受信デバイスへの応用例>
本開示の前述の各実施形態における光スキャンデバイスは、ほぼ同一の構成で、光受信デバイスとしても用いることができる。光受信デバイスは、光スキャンデバイスと同一の導波路アレイ10Aと、受信可能な光の方向を調整する第1調整素子とを備える。導波路アレイ10Aの各第1のミラー30は、第3の方向から第1の反射面の反対側に入射する光を透過させる。導波路アレイ10Aの各光導波層20は、第2の方向に第1のミラー30を透過した光を伝搬させる。第1調整素子が各導波路素子10における前記光導波層20の屈折率および厚さ、ならびに光の波長の少なくとも1つを変化させることにより、受信可能な光の方向を変化させることができる。さらに、光受信デバイスが、光スキャンデバイスと同一の複数の位相シフタ80、または80aおよび80bと、複数の導波路素子10から複数の位相シフタ80、または80aおよび80bを通過して出力される光の位相の差をそれぞれ変化させる第2調整素子を備える場合には、受信可能な光の方向を2次元的に変化させることができる。
【0158】
例えば
図16に示す光スキャンデバイス100における光源130を受信回路に置換した光受信デバイスを構成することができる。導波路アレイ10Aに波長λの光が入射すると、その光は位相シフタアレイ80Aを通じて光分岐器90へ送られ、最終的に一箇所に集められ、受信回路に送られる。その一箇所に集められた光の強度は、光受信デバイスの感度を表すといえる。光受信デバイスの感度は、導波路アレイおよび位相シフタアレイ80Aに別々に組み込まれた調整素子によって調整することができる。光受信デバイスでは、例えば
図4において、波数ベクトル(図中の太い矢印)の方向が反対になる。入射光は、導波路素子10が延びる方向(図中のX方向)の光成分と、導波路素子10の配列方向(図中のY方向)の光成分とを有している。X方向の光成分の感度は、導波路アレイ10Aに組み込まれた調整素子によって調整できる。一方、導波路素子10の配列方向の光成分の感度は、位相シフタアレイ80Aに組み込まれた調整素子によって調整できる。光受信デバイスの感度が最大になるときの光の位相差Δφ、光導波層20の屈折率n
wおよび厚さdから、
図4に示すθおよびα0がわかる。これにより、光の入射方向を特定することができる。
【0159】
以上から、
図12Aおよび
図12Bに示す例を参照して、本実施形態における光デバイス100の、光スキャンデバイスまたは光受信デバイスとしての構成および動作をまとめると、以下のようになる。
【0160】
本実施形態における光デバイス100では、複数の誘電体部材21は、液晶材料または電気光学材料を含む。複数の誘電体部材21は、電圧を印加するために一対の電極62aおよび電極62bによって挟まれる。すなわち、複数の光導波路10は、複数の誘電体部材21の屈折率を調整することが可能な構造を備える。
【0161】
本実施形態における光デバイス100を光スキャンデバイスとして用いる場合、複数の誘電体部材21の屈折率を調整することにより、複数の光導波路10から基板50aまたは基板50bを介して出射する光の方向が変化する。より具体的には、当該光の波数ベクトルのX方向の成分が変化する。
【0162】
本実施形態における光デバイス100を光受信デバイスとして用いる場合、複数の誘電体部材21の屈折率を調整することにより、基板50aまたは基板50bを介して複数の光導波路10に取り込まれる光の入射方向が変化する。より具体的には、当該光の波数ベクトルのX方向の成分が変化する。
【0163】
本実施形態における光デバイス100は、複数の光導波路10に、それぞれ直接的にまたは他の導波路を介して繋がる複数の位相シフタ80をさらに備えてもよい。光導波路10の個数が1つのときは、位相シフタ80の個数も1つである。
【0164】
本実施形態における光デバイス100を光スキャンデバイスとして用いる場合、複数の位相シフタ80を通過する光の位相の差を変化させることにより、複数の光導波路10から基板50aまたは基板50bを介して出射する光の方向が変化する。より具体的には、当該光の波数ベクトルのY方向の成分が変化する。
【0165】
本実施形態における光デバイス100を光受信デバイスとして用いる場合、複数の位相シフタ80を通過する光の位相の差を変化させることにより、基板50aまたは基板50bを介して複数の光導波路10に取り込まれる入射方向が変化する。より具体的には、当該光の波数ベクトルのY方向の成分が変化する。
【0166】
前述した実施形態は、適宜、組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本開示の実施形態における光スキャンデバイスおよび光受信デバイスは、例えば自動車、UAV、AGVなどの車両に搭載されるライダーシステムなどの用途に利用できる。
【符号の説明】
【0168】
10 導波路素子、光導波路
11 光導波路
10A 導波路アレイ
13 グレーティング
15 グレーティング
20 光導波層
21 誘電体部材
30 第1のミラー
40 第2のミラー
50a、50b 基板
51 誘電体層
62a、62b、62A、62B 電極
73 複数の隔壁
80 位相シフタ
80A 位相シフタアレイ
90 光分岐器
100、100A 光スキャンデバイス
110 導波路アレイの駆動回路
130 光源
210 位相シフタアレイの駆動回路
310 ビームスポット
400 光検出器
500 制御回路
600 信号処理回路