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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】構造物の移築方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/06 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
E04G23/06 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021102078
(22)【出願日】2021-06-19
(65)【公開番号】P2023000956
(43)【公開日】2023-01-04
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502143319
【氏名又は名称】株式会社あけぼの産業
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】井瀬 弘志
(72)【発明者】
【氏名】辻 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一介
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-158074(JP,A)
【文献】特開平08-260489(JP,A)
【文献】特開2002-242452(JP,A)
【文献】特開2019-078056(JP,A)
【文献】特開昭62-256607(JP,A)
【文献】特開2014-005666(JP,A)
【文献】特開平11-324341(JP,A)
【文献】特開2015-175162(JP,A)
【文献】特開2020-172809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/00 -23/08
E04G 21/14 -21/22
E04B 2/00 - 2/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組積造の構造物を移築する方法であって、
前記構造物を揚重装置で揚重可能な複数のピースに分割する分割位置および前記ピース毎の補強部材の取り付け位置を設定する第1工程と、
前記補強部材を、前記構造物の両側面に板状の緩衝材を挟んで配置された一対の略水平に延びる水平材と、前記構造物を貫通しかつ緊張力が導入された状態で両端が前記一対の水平材に係止された緊張材と、を含んで構成し、前記構造物に前記補強部材を取り付ける第2工程と、
前記構造物を前記分割位置で切断して前記各ピースに分割し、前記補強部材に吊り治具を取り付けて前記揚重装置で吊り上げることで、前記各ピースを揚重する第3工程と、
前記各ピースを移築先まで運搬する第4工程と、
前記移築先にて、前記各ピースを組み立てて互いに接合することで、前記構造物を復元する第5工程と、を備えることを特徴とする構造物の移築方法。
【請求項2】
前記構造物は、所定間隔おきに配置された柱部と、前記柱部同士の間に設けられた壁部と、を含んで構成され、
前記各ピースは、前記柱部の上側部分、前記柱部の下側部分、前記壁部の上側部分、および、前記壁部の下側部分であることを特徴とする請求項1に記載の構造物の移築方法。
【請求項3】
前記第5工程では、予め、前記移築先に鉛直方向に延びる補強鋼棒を設置しておき、前記各ピースに削孔して鉛直方向に延びる貫通孔を設けて、次に、前記貫通孔に前記補強鋼棒を挿通しながら前記ピースを組み立てて、その後、前記貫通孔と前記補強鋼棒との間に接着剤を充填することで、前記ピース同士を接合することを特徴とする請求項1または2に記載の構造物の移築方法。
【請求項4】
前記第5工程では、前記各ピースに削孔して鉛直方向に延びる貫通孔を設けて、次に、前記ピースを組み立てて、その後、前記貫通孔に補強鋼棒を挿通して前記貫通孔と前記補強鋼棒との間に接着剤を充填することで、前記ピース同士を接合することを特徴とする請求項1または2に記載の構造物の移築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組積造の構造物を移築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、文化遺産である煉瓦の組積造の建物を複数のピースに分割し、この分割したピースを移築先まで運搬して組み立てて復元することで、建物を移築することが行われている。
特許文献1には、アーチ部を備える煉瓦壁を板状の複数のピースに分断する方法が示されている。
特許文献2には、既設構造物を移動させる方法が示されている。具体的には、変位可能な複数の荷台を地盤上に配置し、これら複数の荷台上に既設構造物を移し替えて、これらの荷台を移動することで、既設構造物を移動させる。
特許文献3には、組積材を積み上げてなる既設の組積造構造物を補強する構造が示されている。具体的には、組積造構造物の頂部から組積造構造物の下部にかけて鉛直孔を設け、この鉛直孔に棒状材を挿通して、鉛直孔に固化材を充填することで、この棒状材の下部を組積造構造物に定着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-158074号公報
【文献】特開2015-175162号公報
【文献】特開2020-172809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、組積造の構造物を分割した各ピースを揚重する際、各ピースの損壊を防止しつつ効率良く揚重できる、構造物の移築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、組積造の構造物の移築方法として、構造物の両側面に板状の緩衝材を挟んで配置された一対の水平材と、構造物を貫通してこれら一対の水平材に係止された緊張材と、を備える補強部材を取り付けて、構造物に圧縮力をほぼ均一に加えて拘束した後、構造物を各ピースに分割し、各ピースと補強部材とを一体として揚重することで、上方への吊り上げ力が吊りワイヤから補強部材を介して各ピースの全体に作用するため、各ピースに部分的に過大な圧縮応力が生じるのを防止できる点に着目し、本発明に至った。
第1の発明の構造物の移築方法は、組積造の構造物(例えば、後述の建物の外壁部1)を移築する方法であって、前記構造物を揚重装置(例えば、後述の揚重装置30)で揚重可能な複数のピース(例えば、後述のピースCL、CU、WL、WU)に分割する分割位置および前記ピース毎の補強部材(例えば、後述の補強部材20)の取り付け位置を設定する第1工程(例えば、後述のステップS1)と、前記補強部材を、前記構造物の両側面に板状の緩衝材(例えば、ゴムプレート21)を挟んで配置された一対の略水平に延びる水平材(例えば、後述のH形鋼22)と、前記構造物を貫通しかつ緊張力が導入された状態で両端が前記一対の水平材に係止された緊張材(例えば、後述のPC鋼棒23)と、を含んで構成し、前記構造物に前記補強部材を取り付ける第2工程(例えば、後述のステップS2)と、前記構造物を前記分割位置で切断して前記各ピースに分割し、前記補強部材に吊り治具を取り付けて前記揚重装置で吊り上げることで、前記各ピースを揚重する第3工程(例えば、後述のステップS3)と、前記各ピースを移築先まで運搬する第4工程(例えば、後述のステップS4)と、前記移築先にて、前記各ピースを組み立てて互いに接合することで、前記構造物を復元する第5工程(例えば、後述のステップS5、S6)と、を備えることを特徴とする。
なお、本明細書において、移築とは、構造物を元の敷地とは異なる敷地に移す場合だけでなく、構造物を元の敷地内の別の場所に移す場合も含まれる。
【0006】
この発明によれば、組積造の構造物の両側面に緩衝材を配置し、その外側に水平材を配置する。そして、構造物を貫通して緊張材を設け、この緊張材に緊張力を導入した状態で、この緊張材の両端を一対の水平材に係止する。これにより、一対の水平材で構造物を挟持する。
このように、組積造の構造物の凹凸のある側面に緩衝材を設けたので、緊張材に緊張力を導入した際に、組積材の表面の凹凸に緩衝材が食い込んで、組積材と緩衝材とが密着される。よって、緊張材に導入した緊張力の反作用として、構造物の両側面に配置した水平材を介して、構造物に圧縮力をほぼ均一に加えることができる。よって、各ピースの補強部材に吊り治具を取り付けて揚重した際、各ピースの補強部材を取り付けた部分に過大な圧縮応力が生じないから、各ピースの損壊を防止しつつ効率良く揚重できる。
【0007】
第2の発明の構造物の移築方法は、前記構造物は、所定間隔おきに配置された柱部(例えば、後述の柱部11)と、前記柱部同士の間に設けられた壁部(例えば、後述の壁部12)と、を含んで構成され、前記各ピースは、前記柱部の上側部分、前記柱部の下側部分、前記壁部の上側部分、および、前記壁部の下側部分であることを特徴とする。
【0008】
柱部と壁部とでは水平断面積が異なるため、構造物を各ピースに分割する際、柱部と壁部との境界に跨がって切断カッターを入れると、この柱部と壁部との境界にて切断カッターの刃の抵抗力が急激に変化し、切断作業が困難になる場合がある。
そこで、この発明によれば、各ピースを構造物の柱部または壁部とした。よって、構造物を各ピースに分割する際、柱部と壁部との境界に沿って切断カッターを入れて切断すればよいので、切断カッターの刃の抵抗力が急激に変化しないから、構造物を円滑に切断できる。
また、柱部および壁部を下側部分と上側部分とに分割したので、下側部分と上側部分との接合面が略水平となるから、外壁部を復元する際に、下側部分と上側部分とを比較的容易に接合できる。
【0009】
第3の発明の構造物の移築方法は、前記第5工程では、予め、前記移築先に鉛直方向に延びる補強鋼棒(例えば、後述の補強鋼棒51)を設置しておき、前記各ピースに削孔して鉛直方向に延びる貫通孔(例えば、後述の貫通孔52)を設けて、次に、前記貫通孔に前記補強鋼棒を挿通しながら前記ピースを組み立てて、その後、前記貫通孔と前記補強鋼棒との間に接着剤を充填することで、前記ピース同士を接合することを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、各ピースに設けた貫通孔に補強鋼棒を挿入し、この補強鋼棒と貫通孔との間に接着剤を充填することで、補強鋼棒を介して、各ピース同士を一体化させた。よって、復元した構造物の内部に補強鋼棒が設置されることとなり、復元後の構造物の構造的な強度を向上できる。
【0011】
第4の発明の構造物の移築方法は、前記第5工程では、前記各ピースに削孔して鉛直方向に延びる貫通孔を設けて、次に、前記ピースを組み立てて、その後、前記貫通孔に前記補強鋼棒を挿通して前記貫通孔と前記補強鋼棒との間に接着剤を充填することで、前記ピース同士を接合することを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、各ピースに設けた貫通孔に補強鋼棒を挿入し、この補強鋼棒と貫通孔との間に接着剤を充填することで、補強鋼棒を介して、各ピース同士を一体化させた。よって、復元した構造物の内部に補強鋼棒が設置されることとなり、復元後の構造物の構造的な強度を向上できる。
また、あと施工で各ピースの貫通孔に補強鋼棒を挿通するので、各ピースを揚重装置で吊り上げた状態で貫通孔に補強鋼棒を挿通する場合と比べて、施工効率を向上できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、組積造の構造物を分割した各ピースを揚重する際、各ピースの損壊を防止しつつ効率良く揚重できる、構造物の移築方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る構造物の移築方法が適用される建物の外壁部の正面図および平面図である。
図2図1の外壁部のA-A断面図である。
図3】第1実施形態に係る外壁部の移築手順のフローチャートである。
図4】外壁部の移築手順の説明図(その1:外壁部の分割位置および補強部材の取り付け位置を示す図)である。
図5】補強部材の縦断面図である。
図6図5の補強部材のB-B断面図である。
図7図5の補強部材のC-C断面図である。
図8】第1実施形態に係る外壁部の移築手順の説明図(その2:ピースCLの取り付け状況を示す図)である。
図9】第1実施形態に係る外壁部の移築手順の説明図(その3:ピースWLの取り付け状況を示す図)である。
図10】第1実施形態に係る外壁部の移築手順の説明図(その4:復元した外壁部の正面図および平面図)である。
図11】第1実施形態に係る外壁部の移築手順の説明図(その5:復元した外壁部のD-D断面図)である。
図12】第1実施形態に係る外壁部の移築手順の説明図(その6:復元した外壁部を補強する補強柱梁架構の破線Eで囲んだ部分の拡大図)である。
図13】PC鋼棒に導入する緊張力の計算に用いる外壁部の模式図である。
図14】本発明の第2実施形態に係る外壁部の移築手順の説明図(復元した外壁部の下端部の拡大断面図)である。
図15】本発明の変形例に係る外壁部の移築手順の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、組積造の建物の外壁部の両側側面に補強部材を取り付けた後、補強部材ごと柱部および壁部ごとに複数のピースに分割し、これら補強部材付きの各ピースを揚重して、移築する構造物の移築方法である。補強部材は、外壁部の両側面に板状の緩衝材を挟んで配置された一対の水平材と、外壁部を貫通して水平材に係止されたさせた緊張材と、を備えており、補強部材には吊りワイヤを連結するための吊りピースが設けられている。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
図1(a)は、本発明の第1実施形態に係る構造物の移築方法が適用される構造物としての建物の外壁部1の正面図である。図1(b)は、図1(a)の外壁部1の平面図である。図2は、図1(a)の外壁部1のA-A断面図である。
建物の外壁部1は、煉瓦の組積造であり、地盤面2上に構築されて水平方向に延びる基礎部10と、基礎部10上に所定間隔おきに設けられた柱部11と、基礎部10上で柱部11同士の間に設けられた壁部12と、を含んで構成される。各壁部12の中央の開口13には、窓14およびパネル15が嵌め込まれている。
【0016】
以下、建物の外壁部1を移築する手順について、図3のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1では、図4に示すように、建物の外壁部1について、複数のピースに分割する分割位置(図4中破線で示す)、および、各ピースの補強部材20の取り付け位置を設定する。
具体的には、クレーンなどの揚重装置で揚重可能となるように、外壁部1を上下に二段、水平方向に7つの合計14個のピースCL、CU、WL、WUに分割する。ピースCLは、柱部11の下側部分であり、ピースCUは、柱部11の上側部分である。ピースWLは、壁部12の下側部分であり、ピースWUは、壁部12の上側部分である。これらピースCL、CU、WL、WUのそれぞれについて、上下2箇所に補強部材20を配置する。
【0017】
ステップS2では、実際に、建物の外壁部1に補強部材20を取り付ける。
図5は、補強部材20の縦断面図である。図6は、図5の補強部材20のB-B断面図である。図7は、図5の補強部材20のC-C断面図である。補強部材20は、外壁部1の両側面に板状の緩衝材としてのゴムプレート21を挟んで配置された一対の水平材としてのH形鋼22と、外壁部1を貫通して両端が一対のH形鋼22の外側面に係止された緊張材としてのPC鋼棒23と、を備える。
PC鋼棒23の両端には、ナット24が螺合されている。これらナット24は、PC鋼棒23に緊張力が導入された状態で、H形鋼22に係止している。
H形鋼22のうちPC鋼棒23が貫通する部分の両脇には、補強リブ25が設けられている。また、H形鋼22の4箇所には、補強リブ25が設けられて、さらに、吊りピース26が取り付けられている。
PC鋼棒23の一端側には、センターホールジャッキ27が取り付けられており、このセンターホールジャッキ27によりPC鋼棒23に緊張力が導入されている。
【0018】
ステップS3では、実際に、建物の外壁部1を切断カッター等により分割位置で切断して、各ピースCL、CU、WL、WUに分割し、分割した各ピースCL、CU、WL、WUを揚重して、図示しない仮置きスペースに仮置きする。
具体的には、各ピースCL、CU、WL、WUの補強部材20に吊り治具40を取り付けて揚重装置30で吊り上げることで、各ピースCL、CU、WL、WUを揚重する(図8図9参照)。ここで、各ピースCL、CU、WL、WUを切断して揚重する順番は、図4の丸で囲まれた数字の順番とする。
図8および図9に示すように、吊り治具40は、H形鋼を井桁状に組んで構成された吊り治具本体41と、吊り治具本体41に取り付けられた吊りワイヤ42と、を備えている。下側の補強部材20と上側の補強部材20とを連結部材28で連結し、上側の補強部材20に吊り治具40の吊りワイヤ42を連結し、吊り治具40の吊り治具本体41に揚重装置30の吊りワイヤ31を連結する。この状態で、揚重装置30を駆動して、各ピースCL、CU、WL、WUを吊り上げる。
【0019】
ステップS4では、各ピースCL、CU、WL、WUを移築先まで運搬する。具体的には、仮置きヤードに仮置きした各ピースCL、CU、WL、WUを揚重装置30で揚重して、トレーラ等の搬送車両の荷台に載せて、移築先まで運搬する。
ステップS5では、予め、移築先にて、鉄筋コンクリート造の新築基礎50を構築しておく(図8図9参照)。この新築基礎50の所定位置には、鉛直方向に延びる補強鋼棒51を埋設する。
【0020】
ステップS6では、図8および図9に示すように、各ピースCL、CU、WL、WUを新築基礎50上で組み立てて、図10および図11に示すように、建物の外壁部1を復元する。図8および図9は、各ピースCL、CU、WL、WUの取り付け状況の一例である。図8は、ピースCLの取り付け状況であり、図9は、ピースWLの取り付け状況である。また、図10(a)は、復元した外壁部1の正面図であり、図10(b)は、図10(a)の復元した外壁部の平面図である。図11は、図10(a)の復元した外壁部のD-D断面図である。各ピースCL、CU、WL、WUを取り付ける順番は、図10の丸で囲まれた数字の順番とする。
また、このとき、外壁部1を内側から補強する補強柱梁架構60も組み立てるとともに、補強鋼棒51で外壁部1を補強する。補強柱梁架構60は、ピースCL、CUの内壁面に沿って鉛直方向に延びるH形鋼である補強柱61と、補強柱61の上端同士を連結するH形鋼である補強梁62と、補強梁62と外壁部1の上端面とを連結する図示しない頭繋ぎと、を備える。なお、補強柱61同士の接合部は、ボルトが外壁部1の側面に干渉しないように、フランジ同士をボルト接合とする。また、補強柱61と補強梁62との接合部についても、図12に示すように、ボルトが外壁部1の側面に干渉しないように、プレート63を用いてフランジ同士をボルト64で接合する。
【0021】
具体的には、各ピースCL、CU、WL、WUに削孔して鉛直方向に延びる貫通孔52を設ける。次に、各ピースCL、CU、WL、WUを揚重装置30で揚重し、貫通孔52に新築基礎50の補強鋼棒51を挿通しながら新築基礎50上に取り付ける。次に、図示しないサポートなどで、各ピースCL、CU、WL、WUの転倒を防止しながら、補強部材20を取り外し、各ピースCL、CU、WL、WUの内側に補強柱梁架構60を適宜組み立てる。このようにして、各ピースCL、CU、WL、WUを全て取り付けて組み立てる。次に、各補強鋼棒51の上端にセンターホールジャッキ53を取り付けて、補強鋼棒51に緊張力を導入し、この状態で、貫通孔52と補強鋼棒51との間に接着剤を充填することで、補強鋼棒51を介してピースCL、CU、WL、WU同士を接合する。
【0022】
[PC鋼棒に導入する緊張力の計算]
以下、補強部材のPC鋼棒に導入する緊張力を求める。
ピースWL、WUを、図12に示すような形状とすると、上側のピースWUの方が下側のピースWLよりも重くなる。具体的には、補強部材を取り付けた状態でのピースWUの重量Pは、7.22tとなる。補強部材の5本のPC鋼棒のうち4本に緊張力を導入するものとすると、PC鋼棒1本あたりの負担荷重Wは、以下の式(1)で求められる。
W=P/4=7.22/4=1.805t=17.70kN・・・(1)
【0023】
PC鋼棒1本あたりに必要な鉛直抵抗力Nは、摩擦係数μ=0.3、衝撃荷重係数Ψ=1.5として、以下の式(2)で求められる。
N=W/μ・Ψ
=17.70/0.3・1.5・・・(2)
=88.50kN
【0024】
鉛直抵抗は、ピースWUを締め付けるH形鋼の二面摩擦により生じるので、PC鋼棒1本あたりに必要な軸力Ffは、以下の式(3)で求められる。
Ff=N/2=44.25kN・・・(3)
【0025】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)組積造の外壁部1の両側面に緩衝材としてゴムプレート21を配置し、その外側にH形鋼22を配置する。そして、外壁部1を貫通してPC鋼棒23を設け、このPC鋼棒23に緊張力を導入した状態で、このPC鋼棒23の両端を一対のH形鋼22に係止する。これにより、一対のH形鋼22で外壁部1を挟持する。
このように、組積造の外壁部1の凹凸のある側面にゴムプレート21を設けたので、PC鋼棒23に緊張力を導入した際に、組積材である煉瓦の表面の凹凸にゴムプレート21が食い込んで、煉瓦とゴムプレート21とが密着される。よって、PC鋼棒23に導入した緊張力の反作用として、外壁部1の両側面に配置したH形鋼22を介して、外壁部1に加わる圧縮力を均一化できる。よって、各ピースCL、CU、WL、WUの補強部材20に吊り治具40を取り付けて揚重した際、各ピースCL、CU、WL、WUの補強部材20を取り付けた部分に過大な圧縮応力が生じないから、各ピースCL、CU、WL、WUの損壊を防止しつつ効率良く揚重できる。
【0026】
(2)各ピースCL、CU、WL、WUを外壁部1の柱部11または壁部12とした。よって、外壁部1を各ピースCL、CU、WL、WUに分割する際、柱部11と壁部12との境界に沿って切断カッターを入れて切断すればよいので、切断カッターの刃の抵抗力が急激に変化しないから、外壁部1を円滑に切断できる。
また、柱部11および壁部12を下側部分のピースCL、WLと上側部分のピースCU、WUとに分割したので、下側部分のピースCL、WLと上側部分のピースCU、WUとの接合面が略水平となるから、外壁部1を復元する際に、下側部分のピースCL、WLと上側部分のピースCU、WUとを比較的容易に接合できる。
【0027】
(3)各ピースCL、CU、WL、WUに設けた貫通孔52に補強鋼棒51を挿入し、この補強鋼棒51と貫通孔52との間に接着剤を充填することで、補強鋼棒51を介して、各ピースCL、CU、WL、WU同士を一体化させた。よって、復元した外壁部1の内部に補強鋼棒51が設置されることとなり、復元後の外壁部1の構造的な強度を向上できる。
【0028】
〔第2実施形態〕
本実施形態では、ステップS5、ステップS6の構成が、第1実施形態と異なる。
すなわち、ステップS5では、予め、移築先にて、図14に示すように、鉄筋コンクリート造の新築基礎50を構築しておく。ここで、新築基礎50の所定位置には、上端に継手部71が取り付けられた補強鋼棒70を埋設する。この補強鋼棒70の新築基礎50に埋設される部分には、定着部材72が取り付けられている。
ステップS6では、各ピースCL、CU、WL、WUに削孔して鉛直方向に延びる貫通孔52を設けるとともに、ピースCL、WLの貫通孔52の下端に横穴73を設けて、この状態で、ピースCL、CU、WL、WUを組み立てる。すると、補強鋼棒70の継手部71が横穴73内に配置される。次に、貫通孔52に補強鋼棒51を挿通して、横穴73の内部で継手部71に補強鋼棒51を接合する。次に、横穴73にコンクリート等の充填材を充填し、その後、各補強鋼棒51の上端にセンターホールジャッキ53を取り付けて、補強鋼棒51に緊張力を導入し、この状態で、貫通孔52と補強鋼棒51との間に接着剤を充填することで、補強鋼棒51を介してピースCL、CU、WL、WU同士を接合する。
【0029】
本実施形態によれば、上述の(1)~(3)の効果に加えて、以下のような効果がある。
(4)あと施工で各ピースCL、CU、WL、WUの貫通孔52に補強鋼棒51を挿通するので、各ピースCL、CU、WL、WUを揚重機で吊り上げた状態で貫通孔52に補強鋼棒51を挿通する場合と比べて、施工効率を向上できる。
【0030】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では、外壁部1を完全に組み立てた後に、補強鋼棒51に一度で緊張力を導入したが、これに限らない。例えば、図15(a)に示すように、外壁部3の高さが高い場合、新築基礎4の上に所定高さまでの外壁部3aを組み立てて、この組み立てた部分3aに補強鋼棒5aを挿入して緊張力を導入し、次に、図15(b)に示すように、外壁部の残りの部分3bを組み立てて、この残りの部分3bに補強鋼棒5bを挿入して緊張力を導入してもよい。なお、このとき、補強鋼棒5aと補強鋼棒5bとは、継手部5cで連結する。
【符号の説明】
【0031】
1…建物の外壁部(構造物) 2…地盤面
10…基礎部 11…柱部 12…壁部 13…開口 14…窓 15…パネル
20…補強部材 21…ゴムプレート(緩衝材) 22…H形鋼(水平材)
23…PC鋼棒(緊張材) 24…ナット 25…補強リブ
26…吊りピース 27…センターホールジャッキ 28…連結部材
30…揚重装置 31…吊りワイヤ
40…吊り治具 41…吊り治具本体 42…吊りワイヤ
50…新築基礎 51…補強鋼棒 52…貫通孔
53…センターホールジャッキ
60…補強柱梁架構 61…補強柱 62…補強梁 63…プレート 64…ボルト
70…補強鋼棒 71…継手部 72…定着部材 73…横穴
CL…柱部の下側部分のピース CU…柱部の上側部分のピース
WL…壁部の下側部分のピース WU…壁部の上側部分のピース
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