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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】噴射制御装置及び噴射制御方法
(51)【国際特許分類】
   B61C 15/10 20060101AFI20240628BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
B61C15/10
B60L1/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021168635
(22)【出願日】2021-10-14
(65)【公開番号】P2023058864
(43)【公開日】2023-04-26
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】599032349
【氏名又は名称】株式会社テス
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】古谷 勇真
(72)【発明者】
【氏名】深貝 晋也
(72)【発明者】
【氏名】高野 亮
(72)【発明者】
【氏名】本多 康祐
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/243281(WO,A1)
【文献】特開2021-054364(JP,A)
【文献】特開2001-151104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61C 15/10
B60L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の車輪とレールとの間への増粘着材の噴射制御を行う噴射制御装置であって、
前記列車の走行位置が、前記噴射制御を行う可能性のある所与の候補地点に差し掛かったことを検出する候補地点到来検出手段と、
前記列車の走行位置が、所与の噴射禁止地点に差し掛かったことを検出する禁止地点到来検出手段と、
前記列車の走行位置が、前記噴射禁止地点の直前の地点である予備噴射地点に差し掛かったことを検出する予備噴射地点到来検出手段と、
前記候補地点到来検出手段による検出がなされた場合に噴射を行うか否かを判定して前記増粘着材の噴射制御を行う噴射制御手段であって、前記禁止地点到来検出手段による検出に応じて前記増粘着材の噴射を禁止する制御を行う噴射制御手段と、
を備え
前記噴射制御手段は、前記予備噴射地点到来検出手段による検出がなされた場合に予備噴射を行うか否かを判定して前記増粘着材の予備噴射制御を行う予備噴射制御手段、を有する、
噴射制御装置。
【請求項2】
前記禁止地点到来検出手段、及び、前記予備噴射地点到来検出手段の何れかの機能を選択的に無効化する無効化手段、
を更に備える請求項に記載の噴射制御装置。
【請求項3】
予め定められた前記候補地点の粗密が異なる候補地点群の区分のなかから、噴射の判定タイミングとする採用区分を、前記列車の走行速度を用いて選択する採用区分選択手段と、
前記候補地点到来検出手段は、前記採用区分の候補地点群に含まれる候補地点に差し掛かったことを検出し、
前記予備噴射制御手段は、前記予備噴射を行うか否かを、前記採用区分を用いて判定する、
請求項又はに記載の噴射制御装置。
【請求項4】
前記予備噴射制御手段は、前記予備噴射を行うか否かを、前記採用区分と、前記列車の走行速度及び/又は空転滑走の頻度と、を用いて判定する、
請求項に記載の噴射制御装置。
【請求項5】
増粘着効果の異なる複数種類の増粘着材を噴射可能であり、
前記予備噴射制御手段は、前記複数種類の増粘着材のうち、噴射する増粘着材の種類を、前記列車の走行速度及び/又は空転滑走の頻度を用いて選択する、
請求項の何れか一項に記載の噴射制御装置。
【請求項6】
増粘着効果の異なる複数種類の増粘着材を噴射可能であり、
前記増粘着材の種類毎に、当該種類の増粘着材のみを噴射対象とする走行区間である噴射材指定区間を設定する噴射材指定区間設定手段、
を更に備え、
前記噴射制御手段は、前記列車の走行位置を含む前記噴射材指定区間に基づいて、噴射する増粘着材の種類を選択する、
請求項1~の何れか一項に記載の噴射制御装置。
【請求項7】
列車の車輪とレールとの間への増粘着材の噴射制御を行う噴射制御方法であって、
前記列車の走行位置が、前記噴射制御を行う可能性のある所与の候補地点に差し掛かったことを検出する候補地点到来検出ステップと、
前記列車の走行位置が、所与の噴射禁止地点に差し掛かったことを検出する禁止地点到来検出ステップと、
前記列車の走行位置が、前記噴射禁止地点の直前の地点である予備噴射地点に差し掛かったことを検出する予備噴射地点到来検出ステップと、
前記候補地点到来検出ステップによる検出がなされた場合に噴射を行うか否かを判定して前記増粘着材の噴射制御を行う噴射制御ステップであって、前記禁止地点到来検出ステップによる検出に応じて前記増粘着材の噴射を禁止する制御を行う噴射制御ステップと、
を含み、
前記噴射制御ステップは、前記予備噴射地点到来検出ステップによる検出がなされた場合に予備噴射を行うか否かを判定して前記増粘着材の予備噴射制御を行う予備噴射制御ステップ、を含む、
噴射制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、列車の車輪とレールとの間への増粘着材の噴射制御を行う噴射制御装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の車輪のレールに対する粘着力を増加させて車輪の空転又は滑走(以下包括して「空転滑走」という)を抑止するために、車輪とレールとの間へ増粘着材を噴射する噴射装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-179167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の噴射装置における増粘着材の噴射制御は、空転滑走の検知によって噴射を開始し、空転滑走の収束によって噴射を終了させる、といった制御であったり、登坂区間において噴射させるといった制御であった。また、空転滑走時の噴射制御は、空転滑走した軸が列車のどこに位置するかによらず同じ一律の噴射制御であり、登坂中の噴射制御もまた、噴射対象の軸の位置によらず列車全体として一律の噴射制御であった。
【0005】
しかしながら、列車の組成車両数に応じて、列車の先頭側の軸であるのか最後尾側の軸であるのかといった列車内での位置によって、空転滑走の発生のし易さは異なる。そのほかにも、組成車両数や他の駆動軸との相対的な位置関係等の様々な要因によって、軸毎に空転滑走の発生のし易さが異なる。このため、空転滑走の抑止を目的とする効率の良い増粘着材の噴射制御としては、一律の噴射制御ではなく、軸毎に当該軸の位置等に応じた個別の噴射制御とすることが望ましいと考えられる。
【0006】
また、線路には、増粘着材の噴射を行わせたくない場所が存在する。例えば、分岐器が設置された線路の分岐箇所や、レール継ぎ目となる閉塞の境界、道路と交差する踏切など、噴射された増粘着材が設置されている鉄道設備などに悪影響を及ぼす懸念がある場所である。このような観点から、列車の状態のみならず、線路の設備をも考慮した噴射制御とすることが望ましい。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、列車の車輪とレールとの間に増粘着材を噴射する噴射装置の噴射制御として、より適切な噴射制御を行えるようにすること、である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明は、
列車の車輪とレールとの間への増粘着材の噴射制御を行う噴射制御装置であって、
前記列車の走行位置が、前記噴射制御を行う可能性のある所与の候補地点に差し掛かったことを検出する候補地点到来検出手段(例えば、図12の候補地点到来検出部106)と、
前記列車の走行位置が、所与の噴射禁止地点に差し掛かったことを検出する禁止地点到来検出手段(例えば、図12の禁止地点到来検出部108)と、
前記候補地点到来検出手段による検出がなされた場合に噴射を行うか否かを判定して前記増粘着材の噴射制御を行う噴射制御手段であって、前記禁止地点到来検出手段による検出に応じて前記増粘着材の噴射を禁止する制御を行う噴射制御手段(例えば、図12の噴射制御部116)と、
を備える噴射制御装置である。
【0009】
他の発明として、
列車の車輪とレールとの間への増粘着材の噴射制御を行う噴射制御方法であって、
前記列車の走行位置が、前記噴射制御を行う可能性のある所与の候補地点に差し掛かったことを検出する候補地点到来検出ステップ(例えば、図13のステップS23)と、
前記列車の走行位置が、所与の噴射禁止地点に差し掛かったことを検出する禁止地点到来検出ステップ(例えば、図13のステップS25)と、
前記候補地点到来検出ステップによる検出がなされた場合に噴射を行うか否かを判定して前記増粘着材の噴射制御を行う噴射制御ステップであって、前記禁止地点到来検出ステップによる検出に応じて前記増粘着材の噴射を禁止する制御を行う噴射制御ステップ(例えば、図13のステップS27,S41)と、
を含む噴射制御方法を構成してもよい。
【0010】
第1の発明等によれば、列車の車輪とレールとの間に増粘着材を噴射する噴射装置の噴射制御として、より適切な噴射制御を行うことができる。つまり、候補地点に差し掛かったときに噴射を行うが、噴射禁止地点に差し掛かったときは噴射禁止地点の差し掛かりによる噴射の禁止を優先させて噴射を行わないようにすることができる。候補地点とは別に噴射禁止地点を定めることで、増粘着材の噴射を禁止したい場所での増粘着材の噴射を容易に禁止させる制御を実現できる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、
前記列車の走行位置が、前記噴射禁止地点の直前の地点である予備噴射地点に差し掛かったことを検出する予備噴射地点到来検出手段(例えば、図12の予備噴射地点到来検出部110)、
を更に備え、
前記噴射制御手段は、前記予備噴射地点到来検出手段による検出がなされた場合に予備噴射を行うか否かを判定して前記増粘着材の予備噴射制御を行う予備噴射制御手段(例えば、図12の予備噴射制御部118)、を有する、
噴射制御装置である。
【0012】
第2の発明によれば、噴射禁止地点の直前の地点である予備噴射地点に差し掛かったときに予備噴射を行うことができる。候補地点は噴射を行う可能性のある地点であることから、候補地点に重複するように噴射禁止地点が定められている場合、候補地点の差し掛かりによって噴射を行うべきところ、噴射禁止地点でもあることによってその噴射がされないことになる。しかし、噴射禁止地点の直前の予備噴射地点に差し掛かった際に、候補地点で行われるべき噴射の代わりとして予備噴射を行うことができる。候補地点でもあり且つ噴射禁止地点でもあるために増粘着材の噴射が禁止されるところ、予備噴射地点での予備噴射によって候補地点での空転滑走をできる限り抑止する効果が期待される。
【0013】
第3の発明は、第2の発明において、
前記禁止地点到来検出手段、及び、前記予備噴射地点到来検出手段の何れかの機能を選択的に無効化する無効化手段、
を更に備える噴射制御装置である。
【0014】
第3の発明によれば、噴射禁止地点に差し掛かったことの検出、及び、予備噴射地点に差し掛かったことの検出の機能を選択的に無効化することができる。禁止地点到来検出手段の機能が無効化されれば候補地点での噴射が禁止されないことになり、予備噴射地点到来検出手段の機能が無効化されれば予備噴射地点での予備噴射が行われないことになる。これにより、例えば、運転士等の乗務員の判断によって噴射禁止の解除や予備噴射を行わないことが選択でき、線路状況や空転滑走の抑制の必要度合等に応じて、より適切な噴射制御が可能となる。
【0015】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、
予め定められた前記候補地点の粗密が異なる候補地点群の区分のなかから、噴射の判定タイミングとする採用区分を、前記列車の走行速度を用いて選択する採用区分選択手段(例えば、図12の採用区分選択部104)と、
前記候補地点到来検出手段は、前記採用区分の候補地点群に含まれる候補地点に差し掛かったことを検出し、
前記予備噴射制御手段は、前記予備噴射を行うか否かを、前記採用区分を用いて判定する、
噴射制御装置である。
【0016】
第4の発明によれば、噴射を行うか否かの判定タイミングとなる候補地点の粗密が異なる区分のなかから、列車の走行速度を用いて採用区分が選択される。また、採用区分を用いて予備噴射を行うか否かが判定される。
【0017】
第5の発明は、第4の発明において、
前記予備噴射制御手段は、前記予備噴射を行うか否かを、前記採用区分と、前記列車の走行速度及び/又は空転滑走の頻度と、を用いて判定する、
噴射制御装置である。
【0018】
第5の発明によれば、列車の走行速度及び/又は空転滑走の頻度を用いることで、空転滑走の生じ易さに応じて、予備噴射を行うか否かを判定することができる。
【0019】
第6の発明は、第2~第5の何れかの発明において、
増粘着効果の異なる複数種類の増粘着材を噴射可能であり、
前記予備噴射制御手段は、前記複数種類の増粘着材のうち、噴射する増粘着材の種類を、前記列車の走行速度及び/又は空転滑走の頻度を用いて選択する、
噴射制御装置である。
【0020】
第6の発明によれば、列車の走行速度及び/又は空転滑走の頻度を用いることで、空転滑走の発生のし易さに応じた適切な種類の増粘着材を噴射することができる。
【0021】
第7の発明は、第1~第6の何れかの発明において、
増粘着効果の異なる複数種類の増粘着材を噴射可能であり、
前記増粘着材の種類毎に、当該種類の増粘着材のみを噴射対象とする走行区間である噴射材指定区間を設定する噴射材指定区間設定手段(例えば、図12の噴射材指定区間設定部112)、
を更に備え、
前記噴射制御手段は、前記列車の走行位置を含む前記噴射材指定区間に基づいて、噴射する増粘着材の種類を選択する、
噴射制御装置である。
【0022】
第7の発明によれば、列車の走行位置を含む噴射材指定区間に基づいて噴射する増粘着材の種類を選択することで、線路の設備などに応じた適切な増粘着材を用いた噴射制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】噴射制御装置の適用例。
図2】候補地点の一例。
図3】区分選択テーブルの一例。
図4】噴射判定テーブルの一例。
図5】指標値算出テーブルの一例。
図6】指標値算出テーブルの一例。
図7】指標値算出テーブルの一例。
図8】噴射方法テーブルの一例。
図9】噴射材選定テーブルの一例。
図10】噴射制限区間の一例。
図11】予備噴射判定テーブルの一例。
図12】噴射制御装置の構成図。
図13】噴射制御処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0025】
[適用例]
図1は、本実施形態の噴射制御装置の適用例である。本実施形態の噴射制御装置1は、1両以上の車両で組成された列車において、車輪20とレール22との間に増粘着材を噴射する噴射装置10の噴射制御を行う装置である。車輪20とレール22との間に増粘着材を噴射することで、車輪20のレール22に対する粘着力を増加させて車輪20の空転又は滑走(空転滑走)を抑制することができる。増粘着材は、例えば、セラミックス粒子であるアルミナ粒子や珪砂粒子とするが、粘着係数(摩擦係数)を増加させる効果を発揮する材料であれば他の材料でもよい。
【0026】
噴射装置10は、増粘着材を収容する増粘着材タンク11と、圧縮空気を収容するエアタンク12と、車輪20とレール22との間に向けて増粘着材を噴射するノズル13と、エアタンク12からの圧縮空気を増粘着材タンク11に供給及び供給停止する電磁弁14とを有する。噴射制御装置1からの制御信号によって電磁弁14が開放されると、エアタンク12内の圧縮空気が増粘着材タンク11に供給されて増粘着材タンク11内の増粘着材がノズル13から噴射されるようになっている。なお、本実施形態では、エアタンク12の圧縮空気は元空気溜めから適宜供給されることとする。
【0027】
また、噴射制御装置1は、増粘着効果が異なる複数種類の増粘着材を切り替えて噴射させることが可能である。そのため、噴射装置10は、種類別の増粘着材を噴射させるための系統を増粘着材の種類別に備える。具体的には、種類別の増粘着材を収容した複数の増粘着材タンク11と、これに付随するノズル13及び電磁弁14との組を有している。本実施形態では、2種類の増粘着材α,βを噴射可能であるものとする。増粘着材αは、例えばアルミナ粒子などの非鉄系材料でなり、増粘着材βは、増粘着材αよりも増粘着効果が高い材料でなる。なお、増粘着材の種類は3種類以上としてもよいのは勿論である。
【0028】
本実施形態における列車は1両以上の車両で組成されており、各車両の車軸それぞれに噴射装置10が取り付けられている。噴射制御装置1は、1つの車軸(軸)を噴射制御単位として、噴射制御単位である車軸毎に、噴射装置10による増粘着材の噴射制御を行う。
【0029】
[噴射制御]
噴射制御装置1による噴射制御を説明する。噴射制御装置1は、噴射制御を行う可能性のある予め定められた候補地点に列車が差し掛かったときに、噴射制御単位である車軸毎に、噴射制御を行うか否かを判定して噴射制御を行う。列車が候補地点に差し掛かったか否かは、列車位置に基づいて判定する。
【0030】
(A)候補地点
図2は、候補地点を説明する図である。図2では、ある駅間(A駅~B駅間)における候補地点の一例を示している。図2では、横方向を線路に沿った位置として、中央に駅間の線路を示し、上側に、候補地点の決定要素となる線路の構造を示し、下側に、候補地点を示している。図2に示すように、駅間には、粗密が異なる複数の候補地点の集合である候補地点群が定められている。
【0031】
図2の例では、区分0,1,2,3それぞれに対応付けられた4つの候補地点群が定められており、区分0,1,2,3の順に、候補地点の粗密が密に(密度が高く)なっている。すなわち、区分0は、粗密が最も粗く(密度が低く)、発駅及び着駅である2つの駅の停車位置が、候補地点として定められているだけである。区分1は、前述した区分0の候補地点に加えて、発駅から線路に沿った所定間隔毎に候補地点が定められている。区分2は、前述した区分1の候補地点に加えて、線路の曲線部分の開始点及び終了点が候補地点として定められている。区分3は、粗密が最も密であり(密度が高く)、前述した区分2の候補地点に加えて、勾配の変化部分、隧道(トンネル)及び橋梁それぞれの開始点及び終了点が候補地点として定められている。
【0032】
ここで、区分の大小を、対応する候補地点群の粗密に応じるものとする。すなわち、対応する候補地点群の密度が最も低い区分0を最も数値の“小さい”区分とし、対応する候補地点群の密度が最も高い区分3を最も数値の“大きい”区分として、区分0,1,2,3の順に区分が“大きく”なる、とする。
【0033】
なお、近接する複数の候補地点を1つの候補地点に統合することで、噴射制御を行うか否かの判定タイミングが高頻度で発生しないようにしてもよい。ある区分の候補地点群は、それより小さい区分の候補地点群に、当該区分に応じた線路構造などによる新たな候補地点を加えて定められている。例えば、ある区分の候補地点群に含まれる候補地点として、所定の基準距離内に、当該区分で新たに加えた候補地点と小さい区分の候補地点とが隣接して定められている場合には、小さい区分の候補地点を当該区分の候補地点に統合することで、小さい区分の候補地点に列車が差し掛かっても、噴射制御を行うか否かの判定を行わないようにする(図2の統合例その1)。また、ある区分の候補地点群に含まれる候補地点群として、所定の基準距離内に、当該区分で新たに加えた3つの候補地点が隣接して定められている場合には、3つの候補地点のうちの真ん中の候補地点を他の2つの候補地点の何れかに統合することで、真ん中の候補地点に列車が差し掛かっても、噴射制御を行うか否かの判定を行わないようにする(図2の統合例その2)。ここで、基準距離は、例えば、噴射制御装置1の演算時間や演算周期、列車長、列車速度(最高速度など)に基づいて定めることができる。基準距離は、全ての列車について同じ距離としてもよいし、列車毎に異なる距離としてもよい。列車毎に異なる基準距離とする場合には、噴射制御装置1が、自列車の性能に応じて統合する候補地点を判断することになる。この判断は、例えば、自列車が始発駅を出発する前(後述の図13のステップS1の前)に行うことができる。
【0034】
噴射制御装置1は、これらの4つの候補地点群の区分0,1,2,3の中から、噴射させるか否かを判定タイミングとする区分(採用区分)を、車軸毎に、指標値と列車の走行速度及び運転状態とに基づいて選択する。そして、車軸毎に、選択した採用区分に対応する候補地点群の各候補地点に当該列車が差し掛かったときを判定タイミングとして、当該車軸について噴射させるか否かの判定を行う。指標値は、その算出方法については詳細を後述するが、La,Lb,Lc,Bbの4つの値を含む。列車の運転状態は、加速(力行)、だ行、ブレーキ(制動)の何れかであり、噴射制御装置1が運転士の運転操作の情報を運転台から取得して判定することができる車上情報の1つである。また、走行速度の情報も車上情報の1つであり、噴射制御装置1が、車上情報を伝送する回路や装置などの手段(以下包括して「車上情報モニタ」という)から取得する。
【0035】
噴射制御装置1は、図3に一例を示す区分選択テーブル204に従って、候補地点群の採用区分を選択する。図3は、区分選択テーブル204の一例である。図3に示すように、区分選択テーブル204は、運転状態が加速(力行)であるときに用いる区分選択テーブル204aと、制動(ブレーキ)であるときに用いる区分選択テーブル204bとを含む。区分選択テーブル204a,204bにおいて、Q1,Q2,R1,R2は、指標値Bbについての閾値であり、α1,α2は、指標値Laについての閾値であり、Va1,Va2は、列車の走行速度Vについての閾値である。
【0036】
区分選択テーブル204は、指標値La,Bb、及び、列車の走行速度Vそれぞれの閾値との大小関係の組み合わせに、区分0,1,2,3の何れかを対応付けて定めている。つまり、列車の走行速度を更に用いて採用区分を選択する、といえる。
【0037】
(B)噴射判定
噴射制御装置1は、車軸毎に、選択した採用区分の候補地点群に含まれる候補地点に列車が差し掛かると、判定指標である指標値La,Lb,Lc,Bbと列車の走行速度及び運転状態とに基づき、図4に一例を示す噴射判定テーブル208に従って、当該車軸について噴射するか否かを判定する。
【0038】
図4は、噴射判定テーブル208の一例である。図4に示すように、噴射判定テーブル208は、運転状態が加速(力行)のときに用いる噴射判定テーブル208aと、だ行のときに用いる噴射判定テーブル208bと、制動(ブレーキ)のときに用いる噴射判定テーブル208cとを含む。噴射判定テーブル208a,208b,208cにおいて、P1,P2は、指標値Bbについての閾値であり、β1,β2,β3は、指標値Laについての閾値であり、Vb1,Vb2は、列車の走行速度Vについての閾値である。
【0039】
噴射判定テーブル208は、指標値La,Bb、及び、列車の走行速度Vそれぞれの閾値との大小関係の組み合わせに、噴射するか否かを対応付けて定めている。本実施形態では、指標値La,Bbの値が大きいほうが、噴射させると判定する可能性が高くなるように定めている。
【0040】
また、だ行のときに用いる噴射判定テーブル208bでは、更に予防噴射の有無に応じて噴射するか否かを対応付けて定めている。予防噴射とは、空転滑走が発生し易い勾配といった特定箇所に差し掛かる前に予め行う噴射であり、候補地点とは関係なく、特定箇所から所定距離だけ手前方の位置に差し掛かったときに行われる。連続噴射の有無は、説明は後述するが、図8に一例を示す噴射方法テーブルにより、列車の運転状態及び採用区分によって定められている。
【0041】
(C)指標値の算出
指標値は、噴射制御単位である車軸について噴射させるか否かの判定指標であり、車上で取得可能な列車に関する車上情報に基づいて噴射制御装置1が算出する。噴射制御装置1は、車軸毎に、選択した採用区分の候補地点群の候補地点に列車が差し掛かったときを算出タイミングとして指標値を算出する。そして、この指標値に基づいて、上述のように、当該車軸について、候補地点群の採用区分を選択・更新するとともに、噴射させるか否かの判定を行う。
【0042】
具体的な指標値の算出としては、車上情報モニタから取得した列車に関する車上情報に基づき、図5図7に一例を示す指標値算出テーブルに従って、3つの指標値La,Lb,Lcを算出する。そして、算出した3つの指標値La,Lb,Lcの合計を、指標値Bbとする。指標値算出テーブル206は、図5に一例を示す、指標値Laを算出するための指標値算出テーブル206aと、図6に一例を示す、指標値Lbを算出するための指標値算出テーブル206bと、図7に一例を示す、指標値Lcを算出するため指標値算出テーブル206cとを含む。
【0043】
指標値Laの指標値算出テーブル206aは、図5に示すように、開放ユニットの状況K、制御対象軸の序数N、MR圧P、有効数の比率、車両重量W、増粘着材残量、の6つの項目について、取り得る項目値を複数に範囲分けしたそれぞれに加算値を対応付けて定めている。
【0044】
開放ユニットの状況Kは、列車において、制動又は車両駆動に寄与しなくなったユニット(開放ユニット)があるかである。エンジンや変速機(気動車の場合)、モータ、蓄電池などの列車に搭載されている制動用又は車両駆動用の装置の種類別に加算値が定められている。また、開放ユニットがある場合のほうが、開放ユニットがない場合に比べて加算値が大きくなるように定められている。また、開放ユニットが制御対象軸を基準として列車の先頭側(前側)か最後尾側(後側)かによって加算値が異なり、開放ユニットの総数によっても加算値が異なるように定められている。
【0045】
なお、開放ユニットは、例えばエンジン、変速機、モータ、蓄電池などの制動又は車両駆動に関係するユニット単位で使用されないことを意味する。従って、上述のように、噴射判定テーブル208においては、指標値Laの値が大きいほうが噴射させると判定する可能性が高くなるように定められているから、ユニット開放がなされている場合に、開放がなされていない場合に比べて、噴射させる可能性が高くなるように指標値を算出する、といえる。
【0046】
制御対象軸の序数Nは、制御対象軸が列車の先頭から数えて何番目の軸かである。なお。序数Nは、例えば力行時は動軸のみを対象として数えて制動時は動軸と従軸の区別なく全ての軸を対象とする、ユニットが開放された場合は当該ユニットによる動軸を除外するなど、運転状況や開放ユニットの状況及び力行や制動に対する寄与の状況に応じて列車の先頭からの数え方を変えてもよい。序数Nが小さいほど、つまり列車の先頭に近いほど、加算値が大きくなるように定められている。この制御対象軸の序数Nは、噴射制御単位である軸の列車における相対的な位置に相当する。
【0047】
MR圧Pは、自車両の元空気溜め(MR:Main air Reservoir)の圧力である。元空気溜めに蓄えられた圧縮空気は、空気ブレーキ等の空気圧で作用する全ての車両機器に供給されるほか、噴射装置10のエアタンク12に供給されて増粘着材の噴射に用いられる。このことから、MR圧Pが低いほど、加算値が小さく、負値となるように定められている。
【0048】
有効数の比率は、自車両の制御対象軸(モータが設置された軸)の総数に対する、自車両の制御対象軸の総数と自車両で制動又は車両駆動に寄与しなくなった軸の総数との差の割合である。例えば、自車両の制御対象軸の総数が「2」の場合に、モータ開放(車両駆動に寄与しなくなったことに相当)された軸の総数が「1」であった場合、有効数の比率は「0.5(1未満)」となる。有効数の比率が1未満の場合、つまり自車両に制動又は車両駆動に寄与しなくなった軸がある場合のほうが、ない場合に比べて、加算値が大きくなるように定められている。
【0049】
車両重量Wは、自車両の重量である。指定席車両である場合には乗車率に応じた乗客の重量を加算するようにしても良いし、空気バネの空気圧から推定される乗客の重量を加算するようにしても良い。車両重量Wが大きいほど、加算値が大きくなるように定められている。
【0050】
増粘着材残量は、制御対象軸についての噴射装置10の増粘着材タンク11内の増粘着材の残量であり、複数種類の増粘着材それぞれの残量のうちの最も多い残量である。増粘着材残量が少ないほど、加算値が小さく、負値となるように定められている。
【0051】
この指標値算出テーブル206aに従って、指標値Laは次のように算出する。すなわち、指標値算出テーブル206aにおいて、列車の組成時における車上情報に含まれるこれら6つの項目それぞれの項目値に対応付けられている加算値を全て合計した仮の指標値を算出して組成時指標値La1とする。また、指標値算出テーブル206aにおいて、噴射するか否かの判定タイミングにおける車上情報に含まれるこれら6つの項目それぞれの項目値に対応付けられている加算値を全て合計した仮の指標値を算出して、現在の指標値La2とする。そして、組成時指標値La1及び現在指標値La2に基づく所定の演算を行って、指標値Laを算出する。すなわち、連続噴射の有無、及び、予防噴射の有無の組み合わせに応じて指標値La1,La2の重み付けが異なるように定められた算出方法に従って、指標値Laを算出する。
【0052】
ここで、連続噴射とは、噴射開始又は再粘着の検出(空転滑走の収束)から所定時間連続して噴射を行うことであり、候補地点に差し掛かったときに噴射させると判定された噴射が対象である。予防噴射とは、空転滑走が発生し易い勾配といった特定箇所に差し掛かる前に予め行う噴射であり、候補地点とは関係なく、特定箇所から所定距離だけ手前方の位置に差し掛かったときに行われる。連続噴射の有無及び予防噴射の有無は、図8に一例を示す噴射方法テーブルにより、列車の運転状態及び採用区分によって定められている。
【0053】
図8は、噴射方法テーブル210の一例を示す図である。図8に示すように、噴射方法テーブル210は、運転状態が加速(力行)のときに用いる噴射方法テーブル210aと、制動(ブレーキ)のときに用いる噴射方法テーブル210bとを含む。噴射方法テーブル210a,bは、区分0~3それぞれに、予防噴射の有無(あり/なし)と、連続噴射の有無(あり/なし)とを対応付けて定めている。予防噴射の有無は、予防噴射を行うか否かを示す。連続噴射が“なし”の場合の噴射の条件は、例えば、空転滑走を検出した場合に噴射を開始し、再粘着を検出(空転滑走の収束)した場合に噴射を終了する。
【0054】
指標値Lbの指標値算出テーブル206bは、図6に示すように、組成車両数M、制御単位U、車輪径R、ギア比Gの4つの項目について、取り得る項目値を複数に範囲分けしたそれぞれに加算値を対応付けて定めている。指標値算出テーブル206bにおいて、車上情報に含まれるこれらの4つの項目それぞれの項目値に対応付けられている加算値を全て合計した値を、指標値Lbとして算出する。これらの4つの項目値は、列車の走行中に変化しない。このため、例えば、列車の組成時に指標値Lbを算出しておき、列車の走行中は、予め算出した指標値Lbを用いることができる。
【0055】
組成車両数Mは、列車を組成している車両の総数である。組成車両数Mが小さいほど、加算値が大きくなるように定められている。
【0056】
制御単位Uは、列車におけるモータの制御単位であり、1つのインバータで同時に制御する駆動軸(モータ)の数である。軸数が多いほど、加算値が大きくなるように定められている。
【0057】
車輪径Rは、制御対象軸の車輪の直径である。車輪径Rが大きいほど、加算値が大きくなるように定められている。
【0058】
ギア比Gは、制御対象軸とモータとを繋ぐギア(歯車)のギア比である。ギア比が小さいほど、加算値が大きくなるように定められている。
【0059】
指標値Lcの指標値算出テーブル206cは、図7に示すように、出力増指令S、ノッチ制限C、遅延、温度上昇保護、補機動作、SOC(State of Charge)/DOD(Depth of Discharge)の6つの項目について、取り得る項目値を複数に範囲分けしたそれぞれに加算値を対応付けて定めている。指標値算出テーブル206cにおいて、車上情報に含まれるこれらの6つの項目それぞれの項目値と、対応付けられている加算値を全て合計した値を、指標値Lcとして算出する。これらの6つの項目値は、列車の走行中に変化するため、候補地点に差し掛かる毎に算出する必要がある。
【0060】
出力増指令Sは、運行計画等で定められる基準の運転操作に対して、列車の運転士による加速指令がなされたかであり、例えば、運転台の高加速スイッチがオンされたかである。出力増指令Sがありの場合のほうが、なしの場合に比べて加算値が大きくなるように定められている。
【0061】
ノッチ制限Cは、運転計画等で定められる各走行位置に対する基準のノッチに対する、列車の運転士による実際のノッチの違いである。基準ノッチに対して実際のノッチが小さいほど、加算値が大きくなるように定められている。
【0062】
遅延は、列車の遅延時分であり、例えば、直前発駅からの列車ダイヤ上の経過時間に対する実績の経過時間の差とすることができる。遅延が大きいほど、加算値が大きくなるように定められている。
【0063】
温度上昇保護は、対象噴射制御単位を有する車両(以下「自車両」という)のモータやエンジン等の車両機器の温度上昇に対する所定の保護動作を行ったか否かである。保護動作を行った場合(あり)のほうが、行っていない場合(なし)に比べて、加算値が大きくなるように定められている。
【0064】
補機動作は、自車両における補機(主に空調やコンプレッサ)が動作しているか否かである。補機が動作していない場合(なし)のほうが、動作している場合(あり)に比べて、加算値が大きくなるように定められている。
【0065】
SOC/DODは、自車両が駆動用蓄電池を有する車両である場合の蓄電池の状態であり、充電率(SOC:State of Charge)或いは放電深度(DOD:Depth of Discharge)である。SOC及びDODそれぞれについて、加算値が定められている。また、SOC或いはDODが、下限範囲に近いほど、加算値が大きくなるように定められている。
【0066】
(D)増粘着材の種類
噴射制御装置1は、車軸毎に、噴射させる増粘着材を、図9に一例を示す噴射材選定テーブル228に従って選択する。
【0067】
図9は、噴射材選定テーブル228の一例である。図9に示すように、噴射材選定テーブル228は、列車の走行速度V、増粘着材の残量割合Za,Zb、及び、空転頻度Spのそれぞれの値の大小関係に組み合わせに、増粘着材の種類を対応付けて定めている。Zaは増粘着材αの残量割合であり、Zbは増粘着材βの残量割合である。空転頻度Spは、単位距離又は単位時間当たりの空転滑走の発生回数である。単位距離は例えば100mの走行距離とすることができ、単位時間は例えば1秒間とすることができる。Kは、1より大きい定数である。Vd3,Vd4は、列車の走行速度Vについての閾値であり、Sl3は、空転頻度Spについての閾値である。
【0068】
図9の例では、列車の走行速度Vが遅いほうが、空転滑走の発生可能性が高いことから、増粘着効果の高い増粘着材βを選定するように定められている。また、列車の走行速度Vが中程度では、残量割合が多いほうの増粘着材を選定するように定められているとともに、増粘着材の残量割合が同程度では、空転滑走の発生頻度(空転頻度Sp)が高いほうが、増粘着効果の高い増粘着材βを選定するように定められている。
【0069】
(E)噴射制限
更に、上述の候補地点とは別に、噴射制限区間が定められている。噴射制限区間は、噴射を禁止する噴射禁止地点と、噴射する増粘着材を指定する噴射材指定区間とを含む。
【0070】
図10は、噴射制限区間を説明する図である。図10では、図2に例示した駅間(A駅~B駅間)における噴射制限区間の一例を示している。図10では、横方向を線路に沿った位置として、閉塞の各区間の下に、噴射制限区間の決定要素となる線路に関する設備の設置位置として、分岐器、踏切、及び、噴射に対する配慮が必要な配慮設備の設置位置を示す。さらにその下に、噴射制限区間である噴射禁止地点、及び、噴射材指定区間を示している。また、図10では、図2と同様、列車の進行方向を、A駅からB駅へ向かう方向としている。
【0071】
噴射禁止地点は、増粘着材の噴射を禁止する地点である。噴射禁止地点は、厳密な意味では点ではなく一定の範囲のある区間であるが、狭い範囲であるため便宜上、地点と呼称する。例えば、ある配慮設備の位置がピンポイントで指定されると、車上で把握可能な走行位置の誤差を含んで、そのピンポイントの前後所定の範囲(例えば20m)という、線路長から比較すると狭い範囲となる範囲を噴射禁止地点とする。この区間内での増粘着材の噴射を禁止する。図10では、分岐器や配慮設備の設置位置を含む4箇所の噴射禁止地点が定められている。
【0072】
噴射禁止地点が定められると、その噴射禁止地点の直前(列車の進行方向に対して手前)に、予備噴射を行う可能性のある予備噴射地点が定められる。もしも、噴射禁止地点が、噴射を行う可能性のある地点である候補地点と重複する場合、候補地点の差し掛かりによって噴射を行うべきところ、噴射禁止地点でもあることによってその噴射がされないことになる。候補地点で行われるべき噴射の代わりとして噴射禁止地点に差し掛かる前に予備噴射を行えるよう、噴射禁止地点の直前(手前方)に予備噴射地点を定めるのである。また、予備噴射地点は、噴射禁止地点が候補地点と重複する場合だけでなく、噴射禁止地点と候補地点とが所定の近距離条件を満たす場合に定めるようにしてもよい。また、前後の2箇所の噴射禁止地点間の間隔が短い場合には、後方(奥方)の噴射禁止地点の直前(手前方)には予備噴射地点を定めずに、手前方の噴射禁止地点の直前(手前方)にのみ予備噴射地点を定めるようにしてもよい。また、予備噴射地点は、噴射禁止地点の後方(奥方)にも定めるようにしてもよい。
【0073】
図10では、4箇所の噴射禁止地点のうちの3箇所の噴射禁止地点の直前(手前方:図に向かって左側)に、予備噴射地点が定められている。列車の進行方向に沿って2番目と3番目の噴射禁止地点の間隔が短いことから、3番目の噴射禁止地点の直前(手前方)には予備噴射地点が定められていない。
【0074】
噴射材指定区間は、噴射する増粘着材の種類を指定した区間である。噴射制御装置1は、増粘着材の種類数に等しい種類の噴射材指定区間が定められる。本実施形態では、2種類の増粘着材α,βを切り替えて噴射可能であるので、2種類の噴射材指定区間が定められる。すなわち、噴射する増粘着材として増粘着材αを指定する噴射材指定区間aと、増粘着材βを指定する噴射材指定区間bとである。
【0075】
噴射材指定区間と噴射禁止地点とは、噴射禁止地点のほうを優先する。このため、噴射材指定区間は、噴射禁止地点と重複しないように定められる。なお、種類が異なる噴射材指定区間同士は重複してもよい。図10では、増粘着材αを指定する噴射材指定区間aとして、踏切や配慮設備の箇所を含む3箇所の区間が定められ、増粘着材βを指定する噴射材指定区間bとして、隧道(トンネル)や橋梁の箇所を含む3箇所の区間が定められている。3箇所の噴射材指定区間aのうち、最初の2箇所の噴射材指定区間aについては、噴射禁止地点と重複する一部区間が除外されている。
【0076】
(F)予備噴射
噴射制御装置1は、車軸毎に、予備噴射地点に差し掛かったときを判定タイミングとして、図11に一例を示す予備噴射判定テーブルに従って、当該車軸について予備噴射をするか否かの判定を行う。
【0077】
図11は、予備噴射判定テーブル226の一例である。図11に示すように、予備噴射判定テーブル226は、列車の走行速度V、空転頻度(空転滑走の頻度)Sp、増粘着材の残量割合、及び、現在の採用区分のそれぞれの組み合わせに、予備噴射の有無を対応付けて定めている。Zaは、増粘着材αの残量割合であり、Zbは、増粘着材βの残量割合である。Vd1,Vd2は、列車の走行速度Vについての閾値であり、Sl1,Sl2は、空転頻度Spについての閾値である。
【0078】
図11の例では、列車の走行速度Vが遅いほうが、空転滑走の発生可能性が高いことから、予防噴射を行うケースが増えるように定められている。また、列車の走行速度Vが同程度であっても、増粘着効果が高い増粘着材βの残量のほうが増粘着材αの残量より多いならば、空転発生の抑止の効果を高めるために、“小さい”区分(候補地点の密度が“低い”)であっても予防噴射を行うように定められている。
【0079】
[装置構成]
図12は、噴射制御装置1の構成図であり、本実施形態の噴射制御を実現するための機能部及び各機能部で用いる情報を示している。噴射制御装置1は、いわゆるCPUボードなどのような一種のコンピュータシステムとして実現され、図12に示すように、噴射制御を実現するための機能部として、処理部100と、記憶部200とを備える。
【0080】
処理部100は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、個別機能の機能部として、車上情報取得部102と、採用区分選択部104と、候補地点到来検出部106と、禁止地点到来検出部108と、予備噴射地点到来検出部110と、噴射材指定区間設定部112と、指標値算出部114と、噴射制御部116とを有する。これらの各機能部は、処理部100がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。
【0081】
記憶部200は、噴射制御に用いる各種情報を記憶するメモリであり、候補地点群情報202と、指標値算出テーブル206と、区分選択テーブル204と、噴射判定テーブル208と、噴射方法テーブル210と、組成時指標値情報212と、現在指標値情報214と、採用区分情報216と、噴射禁止地点設定テーブル220と、予備噴射地点設定テーブル222と、噴射材指定区間設定テーブル224と、予備噴射判定テーブル226と、噴射材選定テーブル228とを記憶している。
【0082】
車上情報取得部102は、車上で取得可能な列車に関する情報である車上情報を、車上情報モニタから取得する。車上情報には、列車の進行方向、列車の走行速度や走行位置、加速(力行)やだ行、ブレーキ(制動)といった運転状態、制動又は車両駆動に寄与しなくなったユニットがあるかといった開放ユニット状況、各車両のMR圧、運転士の運転操作による出力増指令やノッチ段数、列車の遅延、車両機器に対する温度上昇保護、各車両の補機動作、各噴射装置10の増粘着材残量、蓄電池のSOCやDOD、等が含まれる。なお、情報の種類等に応じて、車上情報モニタからではなく各車両に搭載された制御装置から当該情報を取得することとしてもよい。
【0083】
採用区分選択部104は、定められた候補地点の粗密が異なる候補地点群のなかから、噴射の判定タイミングとする採用区分を、列車の走行速度用いて選択する。具体的には、噴射制御単位である車軸毎に、車上情報取得部102により取得された車上情報を用いて、区分選択テーブル204(図3参照)に従って採用区分を選択する。噴射制御単位である車軸毎の採用区分の選択は、候補地点到来検出部106により、当該車軸についての候補地点に差し掛かったことが検出されたタイミングで行う。なお、運転状態がだ行である場合には、区分選択テーブル204が定められていないので、採用区分の選択を行わず、前回選択した採用区分(現在の採用区分)を継続する。
【0084】
また、列車が走行中の場合、前回選択した採用区分の候補地点群に比べて、密度の低い候補地点群の区分を今回の採用区分として選択することを禁止する。つまり、今回選択した区分が、前回選択した採用区分と“同じ”或いは“大きい”場合に、今回選択した区分を新たな採用区分として更新し、今回選択した区分が前回選択した採用区分より“小さい”場合には、採用区分を更新せずに前回選択した採用区分のままとする。また、列車が駅に到着し、且つ、その駅で列車の進行方向が変わる場合には、採用区分を初期化(最も小さい区分0に更新)する。
【0085】
候補地点到来検出部106は、列車の走行位置が、噴射制御を行う可能性のある候補地点に差し掛かったことを検出する。具体的には、噴射制御単位である車軸毎に、当該車軸について採用区分選択部104により選択された採用区分の候補地点群に含まれる候補地点に列車が差し掛かったことを検出する。列車の走行位置は、車上情報取得部102により取得された車上情報に含まれている。採用区分選択部104により選択された採用区分は、採用区分情報216として記憶されている。また、区分0~3と、複数の候補地点の集合である候補地点群との対応関係は、候補地点群情報202として予め記憶されている(図2参照)。
【0086】
なお、候補地点到来検出部106は、候補地点の差し掛かったことの検出を、実際の候補地点の差し掛かりより早いタイミングで検出するようにしてもよい。これを実現するために、候補地点群情報202において、候補地点それぞれについて、実際の候補地点の位置から所定距離だけ手前の位置を仮の候補地点として対応付けて定めておく。そして、候補地点到来検出部106は、仮の候補地点に差し掛かったことを、対応する候補地点に差し掛かったこととして検出する。仮の候補地点を定める所定距離は、噴射制御装置1の演算時間や噴射装置10の制御の遅れ時間を考慮して設定する。これにより、列車が候補地点に差し掛かる前の仮の候補地点に差し掛かったときに、指標値算出部114が指標値を算出し、噴射制御部116が噴射させるか否かを判定することで、列車が実際の候補地点に差し掛かったときに、時間遅れが生じることなく、噴射装置10に噴射を開始させることができる。
【0087】
禁止地点到来検出部108は、列車の走行位置が、所与の噴射禁止地点に差し掛かったことを検出する。噴射禁止地点は、噴射禁止地点設定テーブル220に記憶されている。
【0088】
なお、噴射禁止地点設定テーブル220は、予め記憶しておくこととしてもよいし、外部入力に従って作成・記憶するようにしてもよい。後者の場合には、処理部100が、外部入力によって指定された地点を噴射禁止地点として設定し、設定した噴射禁止地点を噴射禁止地点設定テーブル220に記憶する。更に、処理部100が、設定した噴射禁止地点の直前の位置(具体的には、所定距離だけ手前方の位置)に予備噴射地点を設定し、設定した予備噴射地点を予備噴射地点設定テーブル222に記憶する。
【0089】
予備噴射地点到来検出部110は、列車の走行位置が、噴射禁止地点の直前の地点である予備噴射地点に差し掛かったことを検出する。予備噴射地点の位置は、予備噴射地点設定テーブル222に記憶されている。
【0090】
噴射材指定区間設定部112は、増粘着効果の異なる増粘着材の種類毎に、当該種類の増粘着材のみを噴射対象とする走行区間である噴射材指定区間を設定する。具体的には、外部入力等によって指定された開始位置から終了位置までの区間を噴射材指定区間とする。このとき、指定された区間内に噴射禁止地点設定テーブル220で定められる噴射禁止地点が含まれる場合には、その噴射禁止地点を除いた区間を噴射材指定区間として設定する。噴射材指定区間設定部112が設定した噴射材指定区間は、噴射材指定区間設定テーブル224に記憶される。
【0091】
指標値算出部114は、対象噴射制御単位について噴射させるか否かの判定指標となる指標値を算出する。具体的には、噴射制御単位である車軸毎に、車上情報取得部102により取得された車上情報を用いて、指標値算出テーブル206(図5図7参照)に従って、指標値La,Lb,Lc,Bbを算出する。噴射制御単位である車軸毎の指標値の算出は、候補地点到来検出部106により当該車軸についての候補地点に差し掛かったことが検出されたことを算出タイミングとして行う。指標値算出部114が算出した指標値であって、列車の組成時の車上情報を用いて算出した指標値は、組成時指標値情報212として記憶され、今回の算出タイミングのときの車上情報を用いて算出した指標値は、現在指標値情報214として記憶される。
【0092】
そして、指標値算出テーブル206aに従って、指標値Laは次のように算出する。すなわち、指標値算出テーブル206aに従って、列車の組成時における車上情報を用いて仮の指標値を算出して組成時指標値La1とする。また、指標値算出テーブル206aに従って、算出タイミングにおける車上情報を用いて仮の指標値を算出して、現在の指標値La2とする。そして、連続噴射の有無、及び、予防噴射の有無の組み合わせに応じて指標値La1,La2の優先度合い(重み)が異なるように定められた算出方法に従って、指標値Laを算出する。従って、列車の組成時に仮の指標値を算出して組成時指標値として記憶し、所与の算出タイミングにおける仮の指標値を算出して現在指標値とし、組成時指標値と現在指標値とに基づく所定の演算を行って指標値を確定している。
【0093】
噴射制御部116は、候補地点到来検出部106による検出がなされた場合に噴射を行うか否かを判定して増粘着材の噴射制御を行うとともに、禁止地点到来検出部108による検出に応じて増粘着材の噴射を禁止する制御を行う。また、列車の走行位置を含む噴射材指定区間に基づいて、噴射する増粘着材の種類を選択する。
【0094】
具体的には、噴射制御単位である車軸毎に、候補地点到来検出部106により当該車軸についての採用区分の候補地点群に含まれる候補地点に差し掛かったことが検出されたことを判定タイミングとして、当該車軸について噴射させるか否かを判定する。先ず、禁止地点到来検出部108により噴射禁止地点に差し掛かったことが検出されたならば、噴射させないと判定する。噴射禁止地点に差し掛かったことが検出されていないならば、車上情報取得部102により取得された車上情報を用いて、噴射判定テーブル208(図7参照)に従って、噴射させるか否かを判定する。噴射させると判定したならば、噴射材選定テーブル228に従って、噴射させる増粘着材の種類を選定する。次いで、列車の走行位置が噴射材指定区間設定テーブル224で定められる噴射材指定区間内であるか否かを判定し、噴射材指定区間内ならば、その噴射材指定区間が指定する増粘着材の種類と選定した種類との一致を判定する。一致するならば、選定した増粘着材で噴射させると判定し、一致しないならば、噴射させないと判定する。
【0095】
噴射させると判定したならば、当該車軸の噴射装置10に、増粘着材の種類及び噴射を指示する噴射信号を出力する。その際、噴射方法テーブル210を参照し、列車の運転状態、及び、制御対象軸の採用区分に対応する連続噴射の設定が“あり”の場合、定められた噴射時間の噴射を指示する噴射信号とする。
【0096】
また、噴射制御部116は、予備噴射制御部118を有する。予備噴射制御部118は、予備噴射地点到来検出部110による予備噴射地点に差し掛かったことの検出がなされた場合に予備噴射を行うか否かを判定して増粘着材の予備噴射制御を行う。また、予備噴射を行うか否かを、採用区分と、列車の走行速度及び/又は空転滑走の頻度と、を用いて判定する。また、増粘着効果の異なる複数種類の増粘着材のうち、噴射する増粘着材の種類を、列車の走行速度及び/又は空転滑走の頻度を用いて選択する。空転滑走の発生は従来技術を用いて検知することができる。
【0097】
具体的には、予備噴射地点到来検出部110により予備噴射地点に差し掛かったことが検出されたならば、予備噴射判定テーブル226に従って、予備噴射を行うか否かを判定する。予備噴射させると判定したならば、噴射材選定テーブル228に従って、噴射させる増粘着材の種類を選定する。そして、当該車軸の噴射装置10に、増粘着材の種類及び噴射を指示する噴射信号を出力する。その際、予備噴射として予め定められた噴射時間の噴射を指示する噴射信号とする。
【0098】
[処理の流れ]
図13は、噴射制御処理の流れを説明するフローチャートである。この処理は、噴射制御装置1が列車の車軸それぞれを制御対象軸として並行して実行する処理である。また、始発駅に停車中の列車が終着駅に到着するまでの処理を示している。
【0099】
先ず、列車が駅に停車中に、採用区分選択部104が、制御対象軸について、採用区分を最も“小さい”区分0に初期設定する(ステップS1)。次いで、指標値算出部114が、車上情報を用いて、指標値算出テーブル206に従って指標値を算出する。そして、採用区分選択部104が、算出された指標値に基づき、区分選択テーブル204に従って、採用区分を選択・更新する(ステップS3)。
【0100】
また、処理部100は、外部入力に従って、噴射禁止地点を設定し、噴射禁止地点設定テーブル220として記憶する(ステップS5)、次いで、設定した噴射禁止地点の直前(手前)の位置を予備噴射地点として設定して、予備噴射地点設定テーブル222に記憶する(ステップS7)。なお、噴射禁止地点設定テーブル220及び予備噴射地点設定テーブル222を予め記憶しておく場合には、噴射禁止地点及び予備噴射地点の設定(ステップS5~S7)を行わなくともよい。また、噴射材指定区間設定部112が、外部入力に従って、噴射材指定区間を設定する(ステップS9)。
【0101】
その後、列車が駅を出発すると(ステップS11)、予備噴射地点到来検出部110が、制御対象軸について予備噴射地点に差し掛かったかを判定し、差し掛かったことを検出したならば(ステップS13:YES)、予備噴射制御部118が、現在の車上情報を用いて、予備噴射判定テーブル226に従って、予備噴射を行うか否かの予備噴射判定を行う(ステップS15)。予備噴射を行うと判定したならば(ステップS17:YES)、噴射材選定テーブル228に従って、噴射させる増粘着材の種類を選定する(ステップS19)。そして、制御対象軸の噴射装置10に、選定した増粘着材での噴射を指示する噴射信号を出力する(ステップS21)。
【0102】
続いて、候補地点到来検出部106が、制御対象軸について、選択されている採用区分に対応する候補地点群に含まれる候補地点に差し掛かったかを判定し、差し掛かったことを検出したならば(ステップS23:YES)、禁止地点到来検出部108が、噴射禁止地点に差し掛かったことを検出したか否かを判定する。噴射禁止地点に差し掛かったことを検出したならば(ステップS25:YES)、噴射制御部116は、制御対象軸について噴射を行わないと判定する(ステップS41)。噴射禁止地点に差し掛かったことを検出していないならば(ステップS25:NO)、指標値算出部114が、現在の車上情報を用いて、指標値算出テーブル206に従って指標値を算出する。続いて、噴射制御部116が、算出された指標値に基づき、噴射判定テーブル208に従って、制御対象軸について噴射を行うか否かを判定する(ステップS27)。
【0103】
噴射を行うと判定したならば(ステップS29:YES)、噴射材選定テーブル228に従って、噴射させる増粘着材の種類を選定する(ステップS31)。続いて、列車の走行位置が噴射材指定区間内であるか否かを判定する。噴射材指定区間内ならば(ステップS33:YES)、選定した増粘着材の種類が、当該噴射材指定区間に指定される増粘着材と一致するか否かを判定する。一致するならば(ステップS35:YES)、噴射制御部116は、選定した種類の増粘着材で噴射を行うと判定し(ステップS37)、制御対象軸の噴射装置10に、選定した種類の増粘着材での噴射を指示する噴射信号を出力する(ステップS39)。増粘着材の種類が一致しないならば(ステップS35:NO)、噴射を行わないと判定する(ステップS41)。
【0104】
また、採用区分選択部104が、算出された指標値に基づき、区分選択テーブル204に従って、制御対象軸について区分を選択する(ステップS43)。そして、今回選択した区分が前回選択した区分(現在の採用区分)と比べて“大きい”ならば(ステップS45:YES)、採用区分を、今回選択した区分に更新する(ステップS47)。
【0105】
続いて、列車が次の停車駅に停車したかを判断し、停車していないならば(ステップS49:NO)、ステップS11に戻る。列車が次の停車駅に停車し(ステップS49:YES)、その停車駅が終着駅でないならば(ステップS31:NO)、ステップS3に戻る。停車駅が終着駅ならば(ステップS31:YES)、本処理は終了となる。
【0106】
[作用効果]
本実施形態によれば、列車の車輪とレールとの間に増粘着材を噴射する噴射装置の噴射制御として、より適切な噴射制御を行うことができる。つまり、噴射禁止地点の差し掛かりによる噴射の禁止を優先させて、候補地点に差し掛かったときに噴射を行うが、噴射禁止地点に差し掛かったときは噴射を行わないようにすることができる。また、候補地点とは別に噴射禁止地点を定めることで、増粘着材の噴射を禁止したい場所での増粘着材の噴射を容易に禁止させる制御を実現できる。
【0107】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0108】
(A)噴射制御単位
例えば、上述の実施形態では、噴射制御単位を車軸としたが、これ以外でもよく、台車或いは車両としてもよい。その場合、対象噴射制御単位が台車や車両となるだけで、上述した実施形態をそのまま適用することができる。
【0109】
(B)噴射制御装置
上述の実施形態では、1本の列車に1つの噴射制御装置が搭載されていることとして説明したが、例えば、各ユニットに噴射制御装置が搭載されるなど、1本の列車に複数の噴射制御装置が搭載されていることとしてもよい。各ユニットに噴射制御装置が搭載されている場合には、各噴射制御装置は、当該噴射制御装置を搭載したユニットの各噴射制御単位の噴射制御を行うこととなる。各噴射制御装置が行う制御自体は、上述の実施形態と同じである。各車両毎に噴射制御装置が搭載される場合も同様である。
【0110】
(C)噴射禁止及び予備噴射の機能の無効化
噴射禁止地点に差し掛かったことを検出する禁止地点到来検出部108、及び、予備噴射地点に差し掛かったことを検出する予備噴射地点到来検出部110の何れかの機能を選択的に無効化する手段を更に備えるようにしてもよい。禁止地点到来検出部108の機能が無効化されれば、噴射制御部116による候補地点での噴射が禁止されないことになり、予備噴射地点到来検出部110の機能が無効化されれば、予備噴射制御部118による予備噴射地点での予備噴射が行われないことになる。この無効化は、例えば、乗務員室に操作器を設置して、運転士等の乗務員によって指示操作するように構成することができる。これにより、例えば、運転士等の乗務員の判断によって噴射禁止の解除や予備噴射を行わないことを適時に選択できるようになる。線路状況や、空転滑走を抑制する必要度合等に応じたより適切な噴射制御が可能となる。例えば、噴射制御装置1を機関車の制御装置として適用する場合、当該機関車が牽引する貨車の数や重量はその時々に応じて変わり得る。このような場合、発車直後の上り勾配のような、噴射禁止を解除しても空転を確実に抑制する必要があるような場合には、運転士等が噴射禁止を解除するという選択操作が可能になるため、好適である。
【符号の説明】
【0111】
1…噴射制御装置
100…処理部
102…車上情報取得部
104…採用区分選択部
106…候補地点到来検出部
108…禁止地点到来検出部
110…予備噴射地点到来検出部
112…噴射材指定区間設定部
114…指標値算出部
116…噴射制御部
118…予備噴射制御部
200…記憶部
202…候補地点群情報、
204…区分選択テーブル
206…指標値算出テーブル
208…噴射判定テーブル
210…噴射方法テーブル
212…組成時指標値情報
214…現在指標値情報
216…採用区分情報
220…噴射禁止地点設定テーブル
222…予備噴射地点設定テープ
224…噴射材指定区間設定部
226…予備噴射地点設定テーブル
228…噴射材選定テーブル
10…噴射装置
11…増粘着材タンク
12…エアタンク
13…ノズル
14…電磁弁
20…車輪
22…レール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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