(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】不織布の製造方法、および不織布の製造装置
(51)【国際特許分類】
D04H 1/728 20120101AFI20240628BHJP
D01D 5/06 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
D04H1/728
D01D5/06 Z
(21)【出願番号】P 2020074229
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中根 幸治
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-224337(JP,A)
【文献】特開2018-127745(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043696(WO,A1)
【文献】特開2009-074224(JP,A)
【文献】特開2012-052271(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D01D 1/00-13/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の液体中に配置された静電紡糸ノズルと、第2の液体に接続された対向電極との間に電位差を与える、電位差形成工程と、
上記電位差によって、上記静電紡糸ノズルから上記第2の液体に向かって、繊維材料を含む液体試料を静電紡糸する、静電紡糸工程と、を含み、
上記第1の液体と上記第2の液体とは、互いに界面を形成し得る溶液であ
り、
上記第1の液体と上記第2の液体とは、比重が異なり、かつ、上記第1の液体の誘電率は、上記第2の液体の誘電率よりも低い、不織布の製造方法。
【請求項2】
上記静電紡糸工程の後に、および/または、上記静電紡糸工程と同時に、上記界面に集積した不織布を回収する回収工程を含む、請求項1に記載の不織布の製造方法。
【請求項3】
上記第1の液体と第2の液体との界面の形状を制御する界面形状制御工程を更に含む、請求項1または2に記載の不織布の製造方法。
【請求項4】
上記電位差の大きさを調節する電位差調節工程をさらに含む、請求項1~3の何れか1項に記載の不織布の製造方法。
【請求項5】
上記静電紡糸ノズルと上記界面との距離を調節する紡糸距離調節工程をさらに含む、請求項1~4の何れか1項に記載の不織布の製造方法。
【請求項6】
上記第1の液体の一部を排出する溶液排出工程をさらに含む、請求項1~5の何れか1項に記載の不織布の製造方法。
【請求項7】
第1の液体と、当該第1の液体との間に界面を形成する第2の液体と、を収容する、容器と、
上記容器の第1の液体が収容される領域に配置される、静電紡糸ノズルと、
上記容器の第2の液体が収容される領域に接続される、対向電極と、を備え、
上記静電紡糸ノズルは、上記第2の液体に向かって、繊維材料を含む液体試料を静電紡糸するものであり、
上記静電紡糸ノズルと対向電極との間に電位差が与えら
れ、
上記第1の液体と上記第2の液体とは、互いに界面を形成し得る溶液であり、
上記第1の液体と上記第2の液体とは、比重が異なり、かつ、上記第1の液体の誘電率は、上記第2の液体の誘電率よりも低い、
不織布の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布の製造方法、不織布の製造装置、および不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布の製造方法としては、一般的に静電紡糸法が用いられており、静電紡糸法の具体例としては、紡糸の場として気相を用いる方法、および、紡糸の場として液相を用いる方法を挙げることができる。
【0003】
紡糸の場として気相を用いる静電紡糸法では、高分子材料を含有する溶液に高電圧が印加され、これによって、当該溶液がコレクター(例えば、金属板または金属ドラム)に向かって気相中に噴霧される。気相中を移動する溶液からは溶媒が蒸発し、それに伴って、高分子材料から不織布が形成され、コレクター上に不織布が集積される(非特許文献1参照)。
【0004】
紡糸の場として液相を用いる静電紡糸法では、高分子材料を含有する溶液に高電圧が印加され、これによって、当該溶液が対向電極に向かって液相中に噴霧される。液相中を移動する溶液からは溶媒が除去され、それに伴って、高分子材料から不織布が形成され、対向電極上に不織布が集積される、または、液相全体に不織布が浮遊する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Seeram Ramakrishna et al., An Introduction to Electrospinning and Nanofibers, World Scientific, 2005 https://doi.org/10.1142/5894
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の静電紡糸法では、コレクターまたは電極等の上に不織布が集積されるため、または、液相全体に不織布が浮遊するため、不織布の回収が容易ではないという問題があった。
【0008】
具体的に、コレクターまたは電極等の上に不織布が集積される場合には、コレクターまたは電極から不織布を引き剥がす操作が必要になる。この場合、当該操作に時間がかかるという問題があった。液相全体に不織布が浮遊する場合には、不織布が所定の場所に集積されていないため、集積されていない不織布の回収に時間がかかるという問題があった。
【0009】
本発明の一態様は、不織布の回収が容易な不織布の製造方法および不織布の製造装置、並びに、不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、互いに界面を形成し得る2種類の液体を用い、第1の液体中に配置された静電紡糸ノズルと、第2の液体に接続された対向電極との間に電位差を与えた後、上記静電紡糸ノズルから上記第2の液体に向かって、繊維材料を含む液体試料を静電紡糸することで、不織布を製造でき、かつ、当該不織布が界面に集積することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成を含む。
【0012】
<1>
第1の液体中に配置された静電紡糸ノズルと、第2の液体に接続された対向電極との間に電位差を与える、電位差形成工程と、上記電位差によって、上記静電紡糸ノズルから上記第2の液体に向かって、繊維材料を含む液体試料を静電紡糸する、静電紡糸工程と、を含み、上記第1の液体と上記第2の液体とは、互いに界面を形成し得る溶液である、不織布の製造方法。
【0013】
上記構成であれば、静電紡糸ノズルと対向電極との間(より具体的に、静電紡糸ノズルと、対向電極に接続された第2の液体との間)に与えられた電位差によって、第1の液体中に配置された静電紡糸ノズルから、第2の液体に向かって、繊維材料を含む液体試料が静電紡糸される。液体試料が第1の液体中を通過する過程において、当該液体試料の溶媒は第1の液体中に、例えば拡散、あるいは溶出されて、液体試料から溶媒が除去される。その結果、溶質である繊維材料の濃度が増して当該繊維材料同士が絡み合い、不織布を構成するための原材料が形成される。当該原材料は、液体試料と同様に、第1の液体から第2の液体に向かって移動する。このとき、第1の液体と第2の液体との間には界面が形成されている。当該界面では、表面張力、浮力、および/または、電気的な引力などの力が原材料に作用し、その結果、当該原材料が界面にて滞留する。界面では、滞留した原材料が集積されて、その結果、当該原材料によって、不織布が作製される。
【0014】
<2>
上記静電紡糸工程の後に、および/または、上記静電紡糸工程と同時に、上記界面に集積した不織布を回収する回収工程を含む、<1>に記載の不織布の製造方法。
【0015】
上記構成であれば、連続して不織布を製造することができる。例えば、静電紡糸工程の後に回収工程を行えば、界面の大きさに応じた不織布を作製および回収した後、当該界面を用いて、再び不織布を作製することができる。一方、静電紡糸工程と同時に回収工程を行えば、回収中の不織布の一方の末端では、回収と同時に不織布の製造が行われることになる。つまり、回収中の不織布の一方の末端には、新たに製造された不織布が結合することになる。その結果、当該構成であれば、界面の大きさに制限されず、長い不織布を作製することができる。
【0016】
<3>
上記第1の液体と第2の液体との界面の形状を制御する界面形状制御工程を更に含む、<1>または<2>に記載の不織布の製造方法。
【0017】
第1の液体と第2の液体との間の界面の形状は、超音波(例えば、定常波)などによって、容易に制御することができる。さらに、精密に制御することもできる。上記構成であれば、界面の形状を制御することによって、当該界面にて製造される不織布の形状を、容易に制御することができる。さらに、精密に制御することもできる。
【0018】
<4>
上記電位差の大きさを調節する電位差調節工程をさらに含む、<1>~<3>の何れか1項に記載の不織布の製造方法。
【0019】
上記構成であれば、不織布の構造(例えば、不織布を構成する線維の太さ、不織布を構成する線維の密度、不織布を構成する線維同士の接着度合など)を制御することができる。
【0020】
<5>
上記静電紡糸ノズルと上記界面との距離を調節する紡糸距離調節工程をさらに含む、<1>~<4>の何れか1項に記載の不織布の製造方法。
【0021】
上記構成であれば、不織布の構造(例えば、不織布を構成する線維の太さ、不織布を構成する線維の密度、不織布を構成する線維同士の接着度合など)を制御することができる。
【0022】
<6>
上記第1の液体の一部を排出する溶液排出工程をさらに含む、<1>~<5>の何れか1項に記載の不織布の製造方法。
【0023】
液体試料が第1の液体中を通過する過程において、当該液体試料の溶媒は第1の液体中に、例えば拡散、あるいは溶出される。その結果、第1の液体中に溶媒が蓄積されて、第1の液体の量が増すとともに、第1の液体中の溶媒濃度が増す。上記構成であれば、第1の液体の量を一定に保ち、かつ、第1の液体中の溶媒濃度を低濃度に保つことができる。
【0024】
<7>
<1>~<6>の何れか1項に記載の製造方法によって製造される不織布。
【0025】
上記構成であれば、様々な性質を有する不織布を提供することができる。
【0026】
<8>
第1の液体と、当該第1の液体との間に界面を形成する第2の液体と、を収容する、容器と、上記容器の第1の液体が収容される領域に配置される、静電紡糸ノズルと、上記容器の第2の液体が収容される領域に接続される、対向電極と、を備え、上記静電紡糸ノズルは、上記第2の液体に向かって、繊維材料を含む液体試料を静電紡糸するものであり、上記静電紡糸ノズルと対向電極との間に電位差が与えられる、不織布の製造装置。
【0027】
上記構成であれば、静電紡糸ノズルと対向電極との間(より具体的に、静電紡糸ノズルと、対向電極に接続された第2の液体との間)に与えられた電位差によって、第1の液体中に配置された静電紡糸ノズルから、第2の液体に向かって、繊維材料を含む液体試料が静電紡糸される。液体試料が第1の液体中を通過する過程において、当該液体試料の溶媒は第1の液体中に、例えば拡散、あるいは溶出されて、液体試料から溶媒が除去される。その結果、溶質である繊維材料の濃度が増して当該繊維材料同士が絡み合い、不織布を構成するための原材料が形成される。当該原材料は、液体試料と同様に、第1の液体から第2の液体に向かって移動する。このとき、第1の液体と第2の液体との間には界面が形成されている。当該界面では、表面張力、浮力、および/または、電気的な引力などの力が原材料に作用し、その結果、当該原材料が界面にて滞留する。界面では、滞留した原材料が集積されて、その結果、当該原材料によって、不織布が作製される。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一態様によれば、不織布の回収が容易な不織布の製造方法および不織布の製造装置、並びに、不織布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係る製造装置を表す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る製造装置と、製造装置内の界面を表す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る製造方法のフローチャートである。
【
図4】本発明の不織布の外観図、およびSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0031】
〔1.不織布の製造方法〕
まず、
図3を用いて本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法について説明する。
【0032】
本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法301は、第1の液体中に配置された静電紡糸ノズルと、第2の液体に接続された対向電極との間に電位差を与える、電位差形成工程S1と、上記電位差によって、上記静電紡糸ノズルから上記第2の液体に向かって、繊維材料を含む液体試料を静電紡糸する、静電紡糸工程S2と、を含み、上記第1の液体と上記第2の液体とは、互いに界面を形成し得る液体である。
【0033】
上記構成であれば、静電紡糸ノズルと対向電極との間(より具体的に、静電紡糸ノズルと、対向電極に接続された第2の液体との間)に与えられた電位差によって、第1の液体中に配置された静電紡糸ノズルから、第2の液体に向かって、繊維材料を含む液体試料が静電紡糸される。液体試料が第1の液体中を通過する過程において、当該液体試料の溶媒は第1の液体中に、例えば拡散、あるいは溶出されて、液体試料から溶媒が除去される。その結果、溶質である繊維材料の濃度が増して当該繊維材料同士が絡み合い、不織布を構成するための原材料が形成される。また、当該原材料は、液体試料と同様に、第1の液体から第2の液体に向かって移動する。このとき、第1の液体と第2の液体との間には界面が形成されている。当該界面では、表面張力、浮力、および/または、電気的な引力などの力が原材料に作用し、その結果、当該原材料が界面にて滞留する。その後、界面では、滞留した原材料が集積されて、その結果、当該原材料によって、不織布が作製される。
【0034】
以上のように、本発明では、不織布と強固な結合を形成しない界面を用いて不織布を製造するので、本発明は、不織布の回収が容易であるという利点を有する。更に、本発明では、コレクターなどから不織布を引き剥がす操作が不要であるので、本発明は、当該操作時に生じる不織布のダメージを避けることができるという利点を有する。更に、本発明では、広さおよび/または形状を容易に調節し得る界面を用いて不織布を製造するので、本発明は、所望の大きさの不織布(例えば、大きな不織布)、および/または、所望の形状の不織布を容易に製造することができるという利点を有する。
【0035】
本明細書中において「静電紡糸する」とは、電圧が印加された液体試料を静電紡糸ノズルから噴霧して、上記第1の液体中を通過させた後、上記界面にて不織布を作製することを意味する。
【0036】
本明細書中において「液体試料」とは、繊維材料を溶媒に溶解させた液体を意味する。
【0037】
液体試料中の繊維材料の濃度は、限定されず、繊維材料の種類、および、溶媒の種類に応じて、適宜、設定することができる。液体試料中の繊維材料の濃度は、液体試料全体を100wt%としたときに、例えば、1wt%~50wt%が好ましく、5wt%~50wt%がより好ましく、10wt%~25wt%がより好ましく、10wt%~20wt%がより好ましく、10wt%~15wt%がさらに好ましい。
【0038】
上記繊維材料として用いる化合物としては、高分子化合物等が挙げられる。高分子化合物としては、例えば、セルロースまたはその誘導体(アセチルセルロース等)、ポリビニルアルコールまたはその誘導体(ポリビニルブチラール等)、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリエステル、ポリビニルピロリドン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ブタジエンゴム、ポリウレタンおよび、生分解性プラスチック(ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート等)等が挙げられる。高反応性という利点があるという観点から、上記高分子化合物の中では、アセチルセルロース、および、ポリビニルアルコールが好ましい。これらの高分子化合物は、1種類のみ、または2種類以上を混合して用いることができる。
【0039】
本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法では、第1の液体および第2の液体という異なる2種類の液体を用いる。この場合、第1の液体と接触する不織布の面には、例えば、(i)繊維材料を構成する複数種類の高分子化合物の中の、第1の液体と親和性が高い高分子化合物、または、(ii)繊維材料を構成する1種類あるいは複数の高分子化合物の分子内領域であって、第1の液体と親和性が高い分子内領域、が配置される傾向を示す。一方、第2の液体と接触する不織布の面には、例えば、(iii)繊維材料を構成する複数種類の高分子化合物の中の、第2の液体と親和性が高い高分子化合物、または、(iv)繊維材料を構成する1種類の高分子化合物の分子内領域であって、第2の液体と親和性が高い分子内領域、が配置される傾向を示す。その結果、本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法であれば、第1の液体と接触する不織布の面の性質と、第2の液体と接触する不織布の面の性質とが異なる不織布を容易に製造することができる。例えば、第1の液体として極性が低い液体を用い、第2の液体として極性が高い液体を用いれば、撥水性が異なる2面を有する不織布を製造することができる。
【0040】
上記液体試料の溶媒は、上記繊維材料を溶解できるものであれば特に限定されず、例えば、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、酢酸、ジメチルスルホキシド(DMSO)、および、ハロゲン化炭化水素(例えば、クロロホルム)等が挙げられ、繊維の形態がより明確な不織布を作製するという観点から、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトン、DMSO等が好ましい。これらの溶媒は1種単独でまたは2種類以上を混合して用いることができる。また、溶媒には適宜電解質、有機金属化合物、あるいは機能性化合物(無機微粒子、生体触媒など)を溶解または分散してもよい。
【0041】
上記第1の液体と第2の液体との位置関係は、不織布を形成可能であれば特に限定されない。すなわち、第1の液体の上に第2の液体が配置されてもよいし、第2の液体の上に第1の液体が配置されてもよい。換言すれば、本発明では、上側に配置されている第1の液体から下側に配置されている第2の液体に向かって液体試料を静電紡糸してもよいし、下側に配置されている第1の液体から上側に配置されている第2の液体に向かって液体試料を静電紡糸してもよい。上記第1の液体と第2の液体との位置関係は、例えば、第1の液体の比重と、第2の液体の比重との大小関係によって、決定され得る。
【0042】
上記第1の液体、および、第2の液体は、互いに界面を形成し得る液体であればよく、具体的な構成は、限定されない。
【0043】
例えば、静電紡糸ノズルが配置される第1の液体は、対向電極と接続される第2の液体よりも、誘電率が低いものであり得る。当該構成であれば、静電紡糸ノズルと対向電極との間に所望の電位差を容易に形成することができる。その結果、静電紡糸ノズルから第2の液体に向かって繊維材料を含む液体試料を効率よく静電紡糸することができる。
【0044】
例えば、第1の液体の誘電率A、および、第2の液体の誘電率Bは、「A<B」の関係を満たしてもよく、「A<(9/10)×B」の関係を満たしてもよく、「A<(8/10)×B」の関係を満たしてもよく、「A<(7/10)×B」の関係を満たしてもよく、「A<(6/10)×B」の関係を満たしてもよく、「A<(5/10)×B」の関係を満たしてもよく、「A<(4/10)×B」の関係を満たしてもよく、「A<(3/10)×B」の関係を満たしてもよく、「A<(2/10)×B」の関係を満たしてもよく、「A<(1/10)×B」の関係を満たしてもよい。
【0045】
第1の液体は、比誘電率が小さなものであり得る。例えば、第1の液体の比誘電率は、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、15以下であることがより好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることが最も好ましい。なお、第1の液体の比誘電率の下限値は、限定されず、例えば、0.1、または、1であってもよい。当該構成であれば、静電紡糸ノズルと対向電極との間に所望の電位差を容易に形成することができる。その結果、静電紡糸ノズルから第2の液体に向かって繊維材料を含む液体試料を効率よく静電紡糸することができる。
【0046】
第1の液体の具体例としては、例えば、炭化水素(例えば、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、デカン、ドデカン、トルエン、流動パラフィン、IPソルベント)、アルコール(例えば、ブタノール、ペンタノール、オクタノール)、ハロゲン化炭化水素(例えば、塩化ベンジル、クロロホルム、クロロオクタン、四塩化炭素、パーフルオロヘキサン)、および、ジオキサンを挙げることができる。汎用性の観点から、上記第1の液体の中では、ヘキサン、トルエン、および、IPソルベントが好ましい。これらの液体は、1種類のみ、または2種類以上を混合して用いることができる。
【0047】
第2の液体は、比誘電率が大きなものであり得る。例えば、第2の液体の比誘電率は、25よりも大きいことが好ましく、30以上であることがより好ましく、40以上であることがより好ましく、50以上であることがより好ましく、60以上であることがより好ましく、70以上であることがより好ましく、80以上であることが最も好ましい。なお、第2の液体の比誘電率の上限値は、限定されず、例えば、150、または、100であってもよい。当該構成であれば、静電紡糸ノズルと対向電極との間に所望の電位差を容易に形成することができる。その結果、静電紡糸ノズルから第2の液体に向かって繊維材料を含む液体試料を効率よく静電紡糸することができる。
【0048】
第2の液体の具体例としては、例えば、水、アセトン、アルコール(例えば、メタノール、エタノール)、グリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール)、酸(例えば、酢酸、ギ酸)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、および、これらを溶媒とした溶液を挙げることができる。汎用性の観点から、上記第2の液体の中では、水、アルコール、および、ジメチルスルホキシドが好ましい。これらの液体は、1種類のみ、または2種類以上を混合して用いることができる。
【0049】
上記電位差形成工程S1において、静電紡糸ノズルと対向電極との間に与えられる電位差は、不織布の作製が可能であれば特に限定されるものではなく、第1の液体の種類、第2の液体の種類、および、静電紡糸ノズルと対向電極との距離などに応じて、適宜設定することができる。当該電位差は、例えば、1kv~100kvが好ましく、5kv~50kvがより好ましく、10kv~40kvがより好ましく12kV~36kVがより好ましく、12kV~24kVがより好ましく、20~24kVが最も好ましい。印加される電圧が上記範囲であれば、不織布が繊維形状を形成しやすくなる。
【0050】
静電紡糸ノズル、および、対向電極としては、適宜、市販のものを用いることができる。なお、不織布の製造装置については、後述する。
【0051】
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法303は、静電紡糸工程S2の後に、および/または、静電紡糸工程S2と同時に、界面に集積した不織布を回収する回収工程S3を含んでもよい。回収工程S3は、後述する不織布の製造装置が備える回収部によって行われ得る。
【0052】
上記構成であれば、連続して不織布を製造することができる。例えば、静電紡糸工程S2の後に回収工程S3を行えば、界面の大きさに応じた不織布を作製および回収した後、当該界面を用いて、再び不織布を作製することができる。一方、静電紡糸工程S2と同時に回収工程S3を行えば、回収中の不織布の一方の末端では、回収と同時に不織布の製造が行われることになる。つまり、回収中の不織布の一方の末端には、新たに製造された不織布が結合することになる。その結果、当該構成であれば、界面の大きさに制限されず、大きい不織布(換言すれば、長い不織布)を作製することができる。
【0053】
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法303は、第1の液体と第2の液体との界面の形状を制御する界面形状制御工程S0を更に含んでいてもよい。界面形状制御工程S0は、例えば、電位差形成工程S1の前に行われ得る。界面形状制御工程S0は、後述する不織布の製造装置が備える界面形状制御部によって行われ得る。
【0054】
第1の液体と第2の液体との間の界面の形状は、超音波(例えば、定常波)などによって、容易に制御することができる。さらに、精密に制御することもできる。上記構成であれば、界面の形状を制御することによって、当該界面にて製造される不織布の形状を、容易に制御することができる。さらに、精密に制御することもできる。
【0055】
図2の界面の制御202に、界面形状制御部5による、界面形状制御の方法の一例を示す。界面形状制御部5は、例えば超音波(例えば、定常波)を発して、界面12を所望の形状に変化させるものであり得る。なお、界面12の形状を変化させ得るものとして、超音波以外に、例えば電磁波、界面と並行方向の液体の流速制御(カルマン渦)、および、界面の局部的な温度制御を挙げることができる。形状を変化させた上記界面12に、液体試料を静電紡糸することで、界面12の形状に沿った形状を有する不織布20を得ることができる。
【0056】
界面12の形状は特に限定されるものではなく、例えば、波状、ちりめん状、渦状等が挙げられる。製造された不織布を生活用品という用途に好適に利用できる観点から、界面12の形状は、波状、ちりめん状であることが好ましい。
【0057】
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法302は、上記電位差の大きさを調節する電位差調節工程S1aをさらに含んでいてもよい。電位差調節工程S1aは、例えば、電位差形成工程S1の前に行われ得る。電位差調節工程S1aは、後述する不織布の製造装置が備える電位差調節部によって行われ得る。
【0058】
上記構成であれば、電位差の大きさを調整することで、不織布の構造(例えば、不織布を構成する線維の太さ、不織布を構成する線維の密度、不織布を構成する線維同士の接着度合など)を制御することができる。
【0059】
本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法302では、例えば、(i)電位差調節工程S1aを行った後で、電位差形成工程S1を行ってもよく、(ii)電位差調節工程S1aを行った後で、後述する紡糸距離調節工程S1bを行い、その後で電位差形成工程S1を行ってもよく、(ii)電位差調節工程S1aおよび後述する紡糸距離調節工程S1bを所望の回数行った後で、電位差形成工程S1を行ってもよい。また、電位差調節工程S1aおよび後述する紡糸距離調節工程S1bは、1つの工程として行われてもよいし、別々の工程として行われてもよい。
【0060】
上記電位差調節工程S1aでは、第1の液体の種類、第2の液体の種類、および、静電紡糸ノズルと対向電極との距離などに応じて、適宜電位差を調節することができる。当該電位差は、例えば、1kv~100kvが好ましく、5kv~50kvがより好ましく、10kv~40kvがより好ましく12kV~36kVがより好ましく、12kV~24kVがより好ましく、20~24kVが最も好ましい。
【0061】
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法302は、静電紡糸ノズルと界面との距離を調節する紡糸距離調節工程S1bをさらに含んでいてもよい。紡糸距離調節工程S1bは、例えば、電位差形成工程S1の前に行われ得る。紡糸距離調節工程S1bは、後述する不織布の製造装置が備える紡糸距離調節部によって行われ得る。
【0062】
上記構成であれば、不織布の構造(例えば、不織布を構成する線維の太さ、不織布を構成する線維の密度、不織布を構成する線維同士の接着度合など)を制御することができる。例えば、上記静電紡糸ノズルと上記界面との距離が近くなると繊維径が太くなる傾向を示し、反対に距離が遠くなると、繊維径は細くなり繊維の形状が明確になる傾向を示す。
【0063】
本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法302では、例えば、(i)紡糸距離調節工程S1bを行った後で、電位差形成工程S1を行ってもよく、(ii)紡糸距離調節工程S1bを行った後で、上述した電位差調節工程S1aを行い、その後で電位差形成工程S1を行ってもよく、(ii)紡糸距離調節工程S1bおよび上述した電位差調節工程S1aを所望の回数行った後で、電位差形成工程S1を行ってもよい。また、電位差調節工程S1aおよび後述する紡糸距離調節工程S1bは、1つの工程として行われてもよいし、別々の工程として行われてもよい。
【0064】
上記静電紡糸ノズルと上記界面との距離は、第1の液体の種類、第2の液体の種類、および、静電紡糸ノズルと対向電極と間の電位差などに応じて、適宜設定することができる。当該距離は、例えば、1.0cm以上が好ましく、2.0cm以上がより好ましく、3.0cm以上がより好ましく、4.0cm以上がさらに好ましい。なお、当該距離の上限値は、限定されず、例えば、100cm、50cm、または、10cmであってもよい。
【0065】
上記紡糸距離調節工程S1bでは、上記静電紡糸ノズルまたは上記界面のいずれか一方、またはその両方を移動させることで、静電紡糸ノズルと界面との距離の調節を行ってもよい。
【0066】
図3に示すように、本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法303は、上記第1の液体の一部を排出する(例えば、後述する容器から第1の液体の一部を排出する)液体排出工程S4をさらに含んでいてもよい。液体排出工程S4は、例えば、回収工程S3の後に行われ得る。液体排出工程S4は、後述する不織布の製造装置が備える排出口によって行われ得る。
【0067】
液体試料が第1の液体中を通過する過程において、当該液体試料の溶媒は第1の液体中に、例えば拡散、あるいは溶出される。その結果、第1の液体中に溶媒が蓄積されて、第1の液体の量が増すとともに、第1の液体中の溶媒濃度が増す。上記構成であれば、第1の液体の量を一定に保ち、かつ、第1の液体中の溶媒濃度を低濃度に保つことができる。
【0068】
本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法303は、新たな第1の液体を導入する(例えば、後述する容器へ新たな第1の液体を導入する)液体導入工程をさらに含んでいてもよい。液体導入工程は、例えば、液体排出工程S4と同時に行われ得る。この場合、液体導入工程は、液体排出工程S4に包含され得る。液体排出工程S4は、不織布の製造装置が備える導入口によって行われ得る。当該構成であれば、第1の液体の量をより一定に保ち、かつ、第1の液体中の溶媒濃度をより低濃度に保つことができる。
【0069】
〔2.不織布の製造装置〕
図1を用いて本発明の一実施形態に係る不織布の製造装置の概要について説明する。
図1は、不織布の製造装置101の一例の構造を模式的に例示する。〔1.不織布の製造方法〕にて既に説明した事項については、以下説明を省略する。
【0070】
不織布の製造装置101は、第1の液体10と、当該第1の液体10との間に界面12を形成する第2の液体11と、を収容する、容器1と、容器1の第1の液体10が収容される領域に配置される、静電紡糸ノズル2と、容器1の第2の液体11が収容される領域に接続される、対向電極3と、を備え、静電紡糸ノズル2は、第2の液体11に向かって、繊維材料を含む液体試料13を静電紡糸するものであり、静電紡糸ノズル2と対向電極3との間に電位差が与えられる、ものである。
【0071】
上記構成であれば、静電紡糸ノズル2と対向電極3との間(より具体的に、静電紡糸ノズル2と、対向電極3に接続された第2の液体11との間)に与えられた電位差によって、第1の液体10中に配置された静電紡糸ノズル2から、第2の液体11に向かって、繊維材料を含む液体試料13が静電紡糸される。液体試料が第1の液体中を通過する過程において、当該液体試料の溶媒は第1の液体中に、例えば拡散、あるいは溶出されて、液体試料から溶媒が除去される。その結果、溶質である繊維材料の濃度が増して当該繊維材料同士が絡み合い、不織布を構成するための原材料21が形成される。また、原材料21は、液体試料13と同様に、第1の液体10から第2の液体11に向かって移動する。このとき、第1の液体10と第2の液体11との間には界面12が形成されている。界面12では、表面張力、浮力、および/または、電気的な引力などの力が原材料21に作用し、その結果、原材料21が界面12にて滞留する。その後、界面12では、滞留した原材料21が集積されて、その結果、原材料21によって、不織布20が作製される。
【0072】
静電紡糸ノズル2は、液体試料13に電圧を印加可能であれば、特に限定されない。静電紡糸ノズル2としては、例えば、金属製チューブ(例えば、ステンレス)、金属で表面をメッキしたキャピラリーチューブ、注射器、針等が挙げられる。液体試料13の紡糸量を調整しやすい観点から、注射器が好ましい。また、液体試料13に直接電極を挿入して高電圧を印加することも可能である。この場合は、ノズル2の材質は限定されない。
【0073】
1つの不織布の製造装置101に設けられる静電紡糸ノズル2の数は、限定されず、1個であってもよいし、複数個(例えば、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上)であってもよい。容器1の大きさに応じて、1つの不織布の製造装置101に設けられる静電紡糸ノズル2の数を適宜設定すればよい。例えば、容器1が大きな場合には、1つの不織布の製造装置101に設けられる静電紡糸ノズル2の数を複数個にすればよい。当該構成であれば、大きな不織布であって、不織布全体に渡って性質(例えば、厚さ)が略同じである不織布を、容易に製造することができる。
【0074】
第2の溶液11中に備えられた対向電極3は、静電紡糸ノズル2との間に電位差を形成できるものであればよく、特にその形状および材料は限定されない。対向電極3の形状は、例えば、リング状、板状、メッシュ状、棒状、織物状、不織布状等であってもよい。また、板状や棒状を複数並べてもよい。対向電極3の材料は、例えば、ステンレス、白金、アルミニウム、銅等の金属であってもよい。また、第2の液体11(例えば、水などの比誘電率が大きな液体)そのものを電極としてもよい。例えば、アースした銅線等を第2の溶液11に接続することで、第2の溶液11が対向電極の役割を果たし得る。
【0075】
容器1の容積および形状は、限定されない。容器1の容積および形状を適宜選択すれば、界面12の広さ、および/または、形状を調節することができる。その結果、製造される不織布20の広さ、および/または、形状を容易に調節することができる。
【0076】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る不織布の製造装置201は、作製した不織布を回収するための回収部4を備えていてもよい。
【0077】
回収部4は、作製した不織布を回収できるものであればよく、その構成は限定されない。回収部4は、例えば、(i)界面に形成された不織布を巻き取る回転式コレクター、(ii)界面に形成された不織布を取り上げる網、(iii)不織布を乾燥するヒーター、または、(iv)液体回収システムであり得る。連続的に大量の不織布を回収できる観点から、回収部4は、回転式コレクター(回転式ドラム)であることが好ましい。
【0078】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る不織布の製造装置201は、界面の形状を制御する界面形状制御部5を備えていてもよい。
【0079】
界面形状制御部5は、界面の形状を制御できるものであればよく、その構成は限定されない。界面形状制御部5は、例えば、(i)超音波照射装置、(ii)電磁波発生装置、または、(iii)カルマン渦発生装置であり得る。容易に界面の形状の制御が可能である観点から、界面形状制御部5は、超音波照射装置であることが好ましい。
【0080】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る不織布の製造装置201は、上記電位差の大きさを調節する電位差調節部6を備えていてもよい。
【0081】
電位差調節部6は、静電紡糸ノズルと対向電極との間の電位差を調節できるものであればよく、その構成は限定されない。
【0082】
電位差調節部6としては、静電紡糸ノズルに印加される電圧を調節し得る、市販の装置を用いればよい。また、上記電位差調節部6は、上記静電紡糸ノズルと一体化されていてもよい。
【0083】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る不織布の製造装置201は、上記静電紡糸ノズルと上記界面との距離を調節する紡糸距離調節部7を備えていてもよい。
【0084】
紡糸距離調節部7は、上記静電紡糸ノズルと上記界面の距離を調節できるものであればよく、その構成は限定されない。
【0085】
図2に示すように、紡糸距離調節部7は、静電紡糸ノズルの位置を、位置Aから位置Bへ、および/または、位置Bから位置Aへ変化させるものであってもよい。
【0086】
この場合、紡糸距離調節部7は、(i)静電紡糸ノズルを移動させることによって、静電紡糸ノズルの位置を、位置Aから位置Bへ、および/または、位置Bから位置Aへ変化させるものであってもよいし、(ii)容器を移動させることによって、静電紡糸ノズルの位置を、位置Aから位置Bへ、および/または、位置Bから位置Aへ変化させるものであってもよい。なお、静電紡糸ノズル、または、容器を移動させる装置としては、適宜、市販の装置を用いればよい。
【0087】
紡糸距離調節部7の別の態様としては、予め、界面からの距離が異なる複数個の静電紡糸ノズルを設け、駆動する静電紡糸ノズルを適宜選択する態様を挙げることができる。例えば、位置Aに配置された静電紡糸ノズルA、および、位置Bに配置された静電紡糸ノズルBを、予め設ける。静電紡糸ノズルAまたは静電紡糸ノズルBの何れかを駆動させることによって、静電紡糸ノズルと界面との距離を調節することができる。
【0088】
紡糸距離調節部7の別の態様としては、予め、界面からの距離が異なる複数個の挿入口を容器に設け、静電紡糸ノズルを挿入する挿入口を適宜選択する態様を挙げることができる。位置Aに配置された挿入口A、および、位置Bに配置された挿入口Bを、予め容器に設ける。挿入口Aまたは挿入口Bの何れかに静電紡糸ノズルを挿入した後、当該静電紡糸ノズルを駆動させることによって、静電紡糸ノズルと界面との距離を調節することができる。
【0089】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る不織布の製造装置201は、上記容器内に収容された上記第1の液体の一部を当該容器外へ排出する排出口30を備えていてもよい。
【0090】
排出口30としては、目的の液体を排出可能であれば特に限定されるものではない。例えば、ポンプ等の循環機構を備えてもよいし、開閉可能な単なる開口部を備えるのみであってもよい。
【0091】
本発明の一実施形態に係る不織布の製造装置201は、新たな第1の液体を容器内へ導入する導入口を備えていてもよい。なお、当該導入口は、例えば、容器の第1の液体が収容される領域(例えば、排出口30と向かい合う領域)に設けられ得る。
【0092】
導入口としては、目的の液体を導入可能であれば特に限定されるものではない。例えば、ポンプ等の循環機構を備えてもよいし、開閉可能な単なる開口部を備えるのみであってもよい。
【0093】
本発明の一実施形態に係る不織布の製造装置は、以下の構成であることが好ましい:
(1)更に、界面に集積した不織布を回収する回収部を備えている、不織布の製造装置。
(2)更に、界面の形状を制御する界面形状制御部を備えている、不織布の製造装置。
(3)更に、電位差の大きさを調節する電位差調節部を備えている、不織布の製造装置。
(4)更に、静電紡糸ノズルと界面との距離を調節する紡糸距離調節部を備えている、不織布の製造装置。
(5)更に、容器内に収容された上記第1の液体の一部を当該容器外へ排出する排出口を備えている、不織布の製造装置。
【0094】
〔3.不織布〕
本発明の一実施形態に係る不織布は、本発明の一実施形態に係る製造方法によって製造されるものである。
【0095】
なお、上記不織布をその構造又は特性により直接特定することは、不可能または非実際的である。使用される繊維材料の各々によってその構造や、それに伴う特性が異なることに照らせば、本発明の不織布に製造方法により作製された不織布を、その構造又は特性により直接特定することは不可能である。
【0096】
本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法では、第1の液体および第2の液体という異なる2種類の液体を用いる。この場合、第1の液体と接触する不織布の面には、例えば、(i)繊維材料を構成する複数種類の高分子化合物の中の、第1の液体と親和性が高い高分子化合物、または、(ii)繊維材料を構成する1種類または複数の高分子化合物の分子内領域であって、第1の液体と親和性が高い分子内領域、が配置される傾向を示す。一方、第2の液体と接触する不織布の面には、例えば、(iii)繊維材料を構成する複数種類の高分子化合物の中の、第2の液体と親和性が高い高分子化合物、または、(iv)繊維材料を構成する1種類の高分子化合物の分子内領域であって、第2の液体と親和性が高い分子内領域、が配置される傾向を示す。その結果、本発明の一実施形態に係る不織布の製造方法であれば、第1の液体と接触する不織布の面の性質と、第2の液体と接触する不織布の面の性質とが異なる不織布を容易に製造することができる。
【0097】
このような不織布としては、例えば、(i)表面が親水性であり、裏面が撥水性である不織布、(ii)表面と裏面で繊維素材の結晶化度が異なる不織布、(iii)表面と裏面で繊維表面の構造(平滑性,多孔性など)が異なる不織布、(iv)表面と裏面で繊維間の空隙が異なる不織布等が挙げられる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
〔試験1〕
図1に示す、不織布の製造装置101を用いて、第1の液体をヘキサン、第2の液体を水とし、不織布の静電紡糸を行った。液体試料は、酢酸セルロース(CA)(和光純薬株式会社製)1gおよびN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)(ナカライテスク株式会社製)を9g混合した、CA-DMAc10wt%溶液2mLを用いた。紡糸条件は、静電紡糸ノズルへの液体試料の供給速度が0.6mL/h、静電紡糸ノズルへの印加電圧が20kV、界面と静電紡糸ノズルの距離は2.5cmで行った。また、対向電極は、地面にアースした銅線を用いた。得られた不織布の外観図とSEM像を
図4に示す。
【0100】
図4より、ヘキサンと水との界面に不織布が形成されたことがわかる。このことから、水表面がコレクターの役割を果たしたと言える。
【0101】
〔試験2〕
印加電圧を変更したこと以外は試験1と同様に不織布を作製した。得られた不織布のSEM像を
図5に示す。静電紡糸ノズルへの印加電圧はそれぞれ、(a)12kV、(b)16kV、(c)20kV、(d)24kVとした。得られた不織布のSEM像を
図5に示す。
【0102】
図5より、印加電圧を24kVにして作製した不織布が、最も繊維の形状を有していることがわかった。したがって、24kVの印加電圧が、繊維形状の形成に最も好ましいと示された。
【0103】
〔試験3〕
界面と静電紡糸ノズルの距離を変更したこと以外は試験1と同様に不織布を作製した。距離はそれぞれ、(a)3.0cm、(b)3.5cm、(c)4.0cmとした。得られた不織布のSEM像を
図6に示す。
【0104】
図6より、(c)が最も繊維形状を有していることがわかった。したがって、界面と針との距離が大きいほど、繊維形状を形成しやすいことが示された。
【0105】
〔試験4〕
液体試料の材料を酢酸セルロースからポリフッ化ビニリデン(PVDF)に変更したこと以外は実施例1と同様に不織布を作製した。また、得られた不織布にそれぞれ異なる処理を行った。不織布にはそれぞれ、(a)風乾、(b)エタノールに浸漬、(c)蒸留水に浸漬する処理を行った。処置後の不織布のSEM像を
図7に示す。
【0106】
図7より、PVDFを用いても繊維が形成できることが分かった。また、a
1、b
1、c
1はそれぞれ作製時にヘキサンに接していた側、a
2、b
2、c
2は水に接していた側のSEM像である。各表面で、繊維の形状が異なることが分かる。したがって、ある一方の面と、もう片方の面で性質の異なる不織布が製造可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は、不織布の製造方法として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
1 容器
2 静電紡糸ノズル
3 対向電極
4 回収部
5 界面形状制御部
6 電位差調節部
7 紡糸距離調整部
10 第1の液体
11 第2の液体
12 界面
13 液体試料
20 不織布
21 原材料
30 排出口
101 不織布の製造装置
201 不織布の製造装置
301 不織布の製造方法
302 不織布の製造方法
303 不織布の製造方法