(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】導電部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/04 20060101AFI20240628BHJP
H02K 3/47 20060101ALI20240628BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
H02K15/04 C
H02K3/47
H02K3/04 E
(21)【出願番号】P 2020193292
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】508264841
【氏名又は名称】有限会社 宮脇工房
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】竹内 啓佐敏
【審査官】北川 大地
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-193860(JP,A)
【文献】特開昭59-004003(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0083354(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/04
H02K 3/47
H02K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の導電性基材が複数束ねられた導電線を準備する準備工程と、
前記導電線に水溶性塗料を浸透させる浸透工程と、
前記水溶性塗料を浸透させた前記導電線を絶縁性の熱収縮チューブ内に挿入する挿入工程と、
前記熱収縮チューブを所定温度で所定時間加熱して前記導電線を覆うまで前記熱収縮チューブを収縮させることにより被覆導電線を形成する第1加熱工程と、
前記被覆導電線を所定の形状にフォーミングするフォーミング工程と、
前記被覆導電線を加熱することによって前記被覆導電線を前記所定の形状で硬化する第2加熱工程とをこの順序で有することを特徴とする導電部材の製造方法。
【請求項2】
前記導電線は、編組線であることを特徴とする請求項1に記載の導電部材の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性塗料は、絶縁性塗料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電部材の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性塗料は、導電性塗料であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電部材の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性塗料は、接着性塗料であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の導電部材の製造方法。
【請求項6】
前記水溶性塗料は、熱硬化性塗料であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の導電部材の製造方法。
【請求項7】
前記第2加熱工程の後段に、前記熱収縮チューブで覆われた前記導電線の端部を導電性接合材の溶液に浸漬させて前記導電線の端部に前記導電性接合材を浸透させることにより端子を形成する端子形成工程をさらに含むことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の導電部材の製造方法。
【請求項8】
前記導電性基材は、銅、ニッケル、銅合金、ニッケル含有メッキ銅、錫含有メッキ銅、及び炭素含有線のうちのいずれか、又は、これらのうちの2以上を含む複合線であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の導電部材の製造方法。
【請求項9】
線状の導電性基材が複数束ねられた導電線を準備する準備工程と、
前記導電線に水溶性塗料を浸透させる浸透工程と、
前記水溶性塗料を浸透させた前記導電線を絶縁性の熱収縮チューブ内に挿入する挿入工程と、
前記熱収縮チューブを所定温度で所定時間加熱して前記導電線を覆うまで前記熱収縮チューブを収縮させることにより被覆導電線を形成する第1加熱工程と、
前記被覆導電線を所定の形状としてコイル形状にフォーミングするフォーミング工程と、
前記被覆導電線を加熱することによって前記被覆導電線を前記コイル形状で硬化する第2加熱工程とをこの順序で有することを特徴とする電磁コイルの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の電磁コイルの製造方法を含むことを特徴とするモータの製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載の電磁コイルの製造方法を含むことを特徴とする発電機の製造方法。
【請求項12】
請求項9に記載の電磁コイルの製造方法を含むことを特徴とするアクチュエータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電部材の製造方法、導電部材、電磁コイル、モータ、発電機、及び、アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機、船舶などの主駆動モータや、電源、電力変換機等のように大電流を必要とする電気機械装置などの分野においては、大電流を導通可能な導電部材が用いられている。このような導電部材としては、様々な導電部材が用いられているが、従来、線状の導電性基材が複数束ねられた導電線(例えば、編組線)を用いた導電部材が知られている。
【0003】
図15は、従来の導電部材900を説明するために示す図である。
図15に示すように、従来の導電部材900は、線状の導電性基材912が複数束ねられた(編まれた)導電線910(編組線)を備える。なお、導電部材900の端部には端子950が形成されている。
【0004】
従来の導電部材900によれば、線状の導電性基材912が複数束ねられた導電線910を用いるため、導電性基材912同士の間に形成される空隙や編み目が伸縮することにより、柔軟に折り曲げることができ、立体的に曲げられた形状やねじれた形状等の複雑な形状の導電部材を比較的容易に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の導電部材900においては、導電性基材912同士の間の空隙や編み目が伸縮するため、フォーミングされた導電部材の形状を長期間にわたって維持することが難しく、外部の振動に共振することにより導電部材に伸縮が生じて導電部材の接続が外れる等の不具合を生じるおそれがあることから、信頼性を高くすることが難しい、という問題がある。
【0007】
また、このような導電部材は、柔軟に折り曲げて配線することができることから、導電部材の使用例として、少なくとも一巻きのインダクタンスを有するコイル形状に巻回して、電磁機械変換機器(例えば、モータ、発電機、アクチュエータ等)の電磁コイルに用いることが考えられる。このような場合には、導電部材を周囲から絶縁する必要があり、例えば、表面を絶縁材であらかじめ被覆した導電性基材を備える導電部材を用いることが考えられる。しかしながら、このような導電部材においては、柔軟に折り曲げて配線することから、導電線を被覆している絶縁材に局所的に大きな機械的応力がかかることがあり、絶縁材が損傷したり薄くなったりし易くなるため、耐圧を高い状態で維持することが難しい、という問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記した問題を解決するためになされたものであり、複雑な形状の導電部材を比較的容易に形成することができ、かつ、信頼性を高くすることができ、電磁コイルに用いた場合でも耐圧を高い状態で維持することが可能な導電部材を製造する導電部材の製造方法、そのような導電部材、並びに、そのような導電部材を用いた電磁コイル、モータ、発電機及びアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、複雑な形状の導電部材を比較的容易に形成することができ、かつ、信頼性が高く、導電部材を電磁コイルに用いた場合でも耐圧を高い状態で維持することが可能な導電部材を製造する導電部材の製造方法が提供される。この導電部材の製造方法は、線状の導電性基材が複数束ねられた導電線を準備する準備工程と、前記導電線に水溶性塗料を浸透させる浸透工程と、前記水溶性塗料を浸透させた前記導電線を絶縁性の熱収縮チューブ内に挿入する挿入工程と、前記熱収縮チューブを所定温度で所定時間加熱して前記導電線を覆うまで前記熱収縮チューブを収縮させることにより被覆導電線を形成する第1加熱工程と、前記被覆導電線を所定の形状にフォーミングするフォーミング工程と、前記被覆導電線を加熱することによって前記被覆導電線を前記所定の形状で硬化する第2加熱工程とをこの順序で有する。
【0010】
なお、本明細書中、「硬化」とは、導電線を構成する導電性基材を容易に動かすことができず、導電線が所定の形状から別の形状に折り曲げることが難しい程度に硬く固められた状態をいう。また、「フォーミング」とは、板材や線材を折り曲げる、ねじる、丸める等の加工をして所定の形状に成形することをいう。また、「導電線を覆う」とは、導電線の側面において導電線と密着した状態となるように覆った状態とすることをいう。また、「被覆導電線」とは、熱収縮チューブで導電線を覆った状態のものをいう。さらにまた、「インダクタンス」とは、自己インダクタンスを有するコイル等の回路・構造のことをいう。
【0011】
本発明の一態様によれば、複雑な形状の導電部材を比較的容易に形成することができ、かつ、信頼性が高く、導電部材を電磁コイルに用いた場合でも耐圧を高い状態で維持することが可能な導電部材、及び、そのような導電部材を用いた電磁コイル、モータ、発電機及びアクチュエータが提供される。この導電部材は、線状の導電性基材が複数束ねられ、少なくも一巻きのインダクタンスを有する所定の形状でフォーミングされた導電線(編組線、撚り線)と、前記導電性基材の表面に形成された水溶性塗布膜と、前記導電線を覆っている絶縁性の熱収縮チューブとを備える導電部材であって、前記導電部材は、前記所定の形状で硬化されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の導電部材の製造方法及び導電部材によれば、線状の導電性基材が複数束ねられた導電線を準備する準備工程を含むため、従来の導電部材と同様に、導電性基材同士の間に形成される空隙や編み目が伸縮することにより、柔軟に折り曲げることができ、立体的に曲げられた形状やねじれた形状等の複雑な形状の導電部材を比較的容易に形成することができる。
【0013】
また、本発明の導電部材の製造方法及び導電部材によれば、導電線に水溶性塗料を浸透させる浸透工程を有するため、導電性基材同士の間の隙間や空隙にも水溶性塗料を浸み込ませて導電性基材同士の間の隙間や空隙を水溶性塗料で埋めることができ、後の第2加熱工程において、被覆導電線を加熱することによって導電性部材の隙間まで浸み込んだ水溶性塗料を硬化させることができ、被覆導電線を少なくも一巻きのインダクタンスを有する所定の形状で硬化することができる。このことから、製造後は導電性基材同士の間の空隙や編み目が伸縮することを防ぐことができ、フォーミングされた導電部材の形状を長期間にわたって維持することができる。従って、外部の振動に共振することにより導電部材に伸縮が生じて導電部材の位置がずれる等の不具合が生じ難くなり、信頼性を高くすることが可能となる。
【0014】
また、本発明の導電部材の製造方法及び導電部材によれば、水溶性塗料を浸透させた導電線を絶縁性の熱収縮チューブ内に挿入する挿入工程を含むため、簡便な方法で導電線を周囲から絶縁することができる。また、導電部材を柔軟に折り曲げて配線した場合や巻回した場合であっても、導電性基材が複数束ねられた導電線を覆うように熱収縮チューブを配置するため、導電性基材それぞれの表面を絶縁材で被覆した場合と比較して局所的に大きな機械的応力がかかることを防ぐことができる。その結果、絶縁材としての熱収縮チューブが損傷することや薄くなることを防ぐことができ、耐圧を高い状態で維持することができる。さらにまた、熱収縮チューブは、全体の肉厚を一定にしやすく、導電線を覆った場合でも熱収縮チューブの厚み、すなわち、絶縁材の厚みにばらつきが生じ難くなる。よって、この観点においても耐圧を高い状態で維持することができる。
【0015】
また、本発明の導電部材の製造方法及び導電部材によれば、導電線に水溶性塗料を浸透させる浸透工程を有するため、導電性基材同士の間の隙間や空隙にも水溶性塗料を浸み込ませて導電性基材同士の間の隙間を水溶性塗料で埋めることができ、後の第2加熱工程において、被覆導電線を加熱することによって導電性部材の隙間まで浸み込んだ水溶性塗料を硬化させることで被覆導電線を所定の形状で硬化することができるため、熱収縮チューブに大きな機械的圧力が直接かかることを防ぐことができる。従って、絶縁材としての熱収縮チューブが損傷したり薄くなったりし難くなり、耐圧を高い状態で確実に維持することができる。
【0016】
また、本発明の導電部材の製造方法によれば、被覆導電線を形成する第1加熱工程と、被覆導電線を少なくも一巻きのインダクタンスを有する所定の形状にフォーミングするフォーミング工程と、被覆導電線を当該所定の形状で硬化する第2加熱工程とをこの順序で実施するため、絶縁性の熱収縮チューブで導電線を覆った状態で複雑な形状の導電部材を形成し、その形状で硬化することができる。その結果、複雑な形状の導電部材を比較的容易に形成すること、硬化することで高い信頼性を得ることができること、及び、耐圧を高い状態で維持することができる導電性部材を製造することの全てを実現することができる。
【0017】
本発明の電磁コイル、モータ、発電機及びアクチュエータによれば、本発明の導電部材を用いるため、表面を絶縁材であらかじめ被覆した導電性基材を備える導電部材を用いた電磁コイルと比較して、抵抗が小さくて済む。従って、熱損失が小さくて済み、トルク劣化や出力劣化がし難い電磁コイル、モータ、発電機及びアクチュエータとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態1に係る導電部材1を示す図である。
【
図2】実施形態1における導電線10及び水溶性塗布膜20の様子を示す図である。
【
図3】実施形態1に係る導電部材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】第1加熱工程を説明するために示す図である。
【
図7】フォーミング工程において被覆導電線10’をコイル形状にフォーミングする様子を示す図である。
【
図8】フォーミング工程において被覆導電線10’を段差形状をフォーミングする様子を示す図である導電性接合材浸透工程を説明するために示す図である。
【
図9】第2加熱工程を説明するために示す図である。
【
図10】導電線10の端部に半田を浸透させる様子を示す図である。
【
図11】端子形成工程を説明するために示す図である。
【
図12】実施形態1に係るコイルアセンブリー100を説明するために示す図である。
【
図13】実施形態2に係る導電部材2を説明するために示す図である。
【
図14】実施形態3に係る導電部材3を説明するために示す図である。
【
図15】従来の導電部材900を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る導電部材の製造方法、導電部材、電磁コイル、モータ、発電機、アクチュエータの実施形態について図面を参照して説明する。各図面は一例を示した模式図であり、必ずしも実際の寸法、比率等を厳密に反映したものではない。また、各実施形態において、基本的な構成及び特徴が実施形態1と同じ構成については、実施形態1と同じ符号を使用し、又は、符号を付すことを省略し、それらの構成要素の説明を省略する。なお、以下、電磁コイルのことを単にコイルということもある。
【0020】
[実施形態1]
1.実施形態1に係る導電部材1(実施形態1に係るコイル101A)の構成
(1)実施形態1に係る導電部材1の外観
実施形態1に係る導電部材1の外観は、線状の導電性基材が複数束ねられた導電線(後述する被覆導電線10’)が、少なくも一巻きのインダクタンスを有する所定の形状として空芯領域を取り囲むコイル形状にフォーミングされ、当該形状で硬化されたものである(以下、コイル形状にフォーミングされ、当該形状で硬化された実施形態1に係る導電部材1を実施形態1に係るコイル101Aということもある)。
【0021】
図1(a)は、コイル101A(電磁コイル)の外形を示すものである。実施形態1に係るコイル101Aは、平面的に見て導電線10(後述する被覆導電線10’)が略長方形の空芯領域90Aの周りを約2周(厳密には、約1.75周)巻回してなる。コイル101Aは、対向する2つの長辺部分X1、X2(有効コイル部)と、対向する2つの短辺部分X3,X4(コイルエンド部)とで構成される矩形のコイル形状を有する。コイル101Aは、短辺部分X3、X4の側面から見ると円弧状に曲げられており、後述する
図12(b)に示すように、長辺部分X1,X2の外側面同士が互いに接した状態で複数個(実施形態1においては8つ)のコイル101Aをリング状に並べることができる。
【0022】
コイル101Aにおいて、対向する2つの短辺部分X3,X4のうちの一方の短辺部分X3には、並行して突出した端子部86A,86Bが形成されている。コイル101Aの対向する2つの長辺部分X1,X2は、対向する2つの短辺部分X3,X4のうちの他方の短辺部分X4側で径方向の内側(
図12(b)で示すようにコイルが配列されたときの回転軸AX1の側)にオフセットした段差形状を有する。
【0023】
(2)実施形態1に係る導電部材1(コイル101A)の構成
図1(b)は、実施形態1に係る導電部材1(実施形態1に係るコイル101A)の側断面図である。
図1(b)に示すように、実施形態1に係る導電部材1は、導電線10と、導電線10を覆うように形成された水溶性塗布膜20と、導電線10及び水溶性塗布膜20を覆う絶縁性の熱収縮チューブ30とを備える。
【0024】
図1(c)は、実施形態1に係る導電部材1(実施形態1に係るコイル101A)を
図1(a)の仮想線Aで囲む領域で切断したときの断面図である。ただし、
図1(c)においては、空芯領域90Aの周りを約2周巻回している導電部材1のうちの1周分を示している。
図1(c)に示すように、導電線10は、複数の線状の導電性基材12が複数束ねられている。また、水溶性塗布膜20は、導電性基材12の表面に形成されており、導電性基材12同士の間の隙間16にも水溶性塗布膜20が埋められた状態となっている。導電線10の周囲は、導電性基材12の表面に形成された水溶性塗布膜20が層状となっている。
【0025】
導電性基材12は、適宜のものを用いることができ、例えば、銅を主原料とした銅線、ニッケルを主原料としたニッケル線、炭素を用いたカーボン線、銅線等にニッケルめっき、錫めっき等が施されためっき線、ニッケル合金線、銅合金線、炭素含有線のいずれか、又はこれらのうちの2以上を含む複合線を用いることができる。実施形態1において、導電性基材12は、複数の導体線(例えば、裸銅線。)を撚った撚糸を編んだものを用いるが、1本の導体線でもよい。導電性基材12の太さは、適宜のものを用いることができるが、表皮効果の影響を低減するために、実施形態1においては、平均半径が100μm以下のものが好ましく、平均半径が50μm以下のものがより好ましい。
【0026】
図2(a)は、導電線10及び水溶性塗布膜20の様子を示す平断面図である。
図2(a)に示すように、導電線10は、複数の線状の導電性基材12を平編みの編組線であり、導電性基材12の本数、断面積等を調整することにより、導電部材1を数百Aの電流を流す電流導通路とすることができる。導電線10の導電性基材12同士の間には空隙14が存在し、当該空隙14は水溶性塗布膜20で埋められている。導電線10は、水溶性塗布膜20が形成(硬化)される前は、導電性基材12が移動する余地があり可とう性に優れているものの、水溶性塗布膜20が形成(硬化)された後は、導電性基材12が移動する余地がなくなり、可とう性が失われている。なお、実施形態1において、導電線10は、複数段重ねられた編組線を用いたが、導電性基材12を1段平編みされたものを用いてもよいし、リッツ線群であってもよい。
【0027】
水溶性塗布膜20は、硬化されており、導電線10をフォーミングした所定の形状を維持した状態とすることができる。水溶性塗布膜20は、水溶性塗料20’を導電性基材12同士の間に浸透させて導電性基材12の表面に塗布したものである。水溶性塗布膜20に用いられる樹脂液としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミン樹脂等を挙げることができる。水溶性塗布膜20は、絶縁性、接着性及び熱硬化性を有する。
【0028】
図2(b)は、
図2(a)のB-B断面を示す断面図である。
図2(b)に示すように、導電線10は、一方向に延びる導電性基材12と、他方向に伸びる導電性基材12とが互い違いに編まれており、一方向に延びる導電性基材12と、他方向に伸びる導電性基材12との間に隙間18(例えば、断面で見て、一方の導電性基材12が交差する他方の導電性基材12の下方に潜り込むときに、一方の導電性基材12上に形成される隙間)が生じている。導電部材1においては、当該隙間18にも水溶性塗布膜20が形成されており、形状安定性が高くなっている。
【0029】
熱収縮チューブ30は、絶縁性を有する樹脂からなり、断面でみると中央部に空間が形成された管状の部材である。熱収縮チューブ30は、内表面が滑らかに形成されている。このため、導電線10を熱収縮チューブ30に挿入する際にスムーズに挿入することができる。また、熱収縮チューブ30は、外表面も滑らかに形成されている。このため、製造された導電部材は、引っ掛かりが少なく、コイル形状に巻回する際や実装する際にスムーズに配置することができる。
【0030】
熱収縮チューブ30は、導電線10を熱収縮チューブ30の中央部の空間に配置し、熱収縮させることにより、導電線10の周囲に密着した状態で配置される。熱収縮チューブ30の厚み(熱収縮後)は、例えば、20μm~100μmの範囲内にあり、例えば50μmである。熱収縮チューブ30は、熱収縮性を有し、例えば、300℃以上になると収縮を開始し、350℃で60秒間の耐熱性を有する。また、連続使用温度は260℃である。また、熱収縮チューブ30は接着性及び熱硬化性を有する。熱収縮チューブ30の材料となる樹脂は、熱収縮性及び絶縁性を有する素材であれば適宜のものを用いることができるが、耐薬品性や機械的摩擦係数が小さいPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を好適に用いることができる。
【0031】
2.実施形態1に係る導電部材1(実施形態1に係るコイル101)の製造方法
次に、実施形態1に係る導電部材1(実施形態1に係るコイル101)の製造方法を説明する。
図3は、実施形態1に係る導電部材1の製造方法を示すフローチャートである。
図3に示すように、実施形態1に係る導電部材1の製造方法は、準備工程と、浸透工程と、挿入工程と、第1加熱工程と、フォーミング工程と、第2加熱工程と、端子形成工程(導電性接合材浸透工程)とをこの順序で含む。
【0032】
(1)準備工程
準備工程は、線状の導電性基材12が複数束ねられた導電線10を準備する工程である(図示せず)。具体的には、複数の導体線(例えば、裸銅線)を撚った撚糸を編んだ導電性基材12を平編みし、所定の長さ寸法でカットして平板状にし、編組線である導電線10を形成する。
【0033】
(2)浸透工程
図4(a)は、浸透工程を説明するために示す図である。
図4(a)に示すように、浸透工程においては、導電線10に水溶性塗料を浸透させる。例えば、液槽・容器等(以下、単に液槽Tとする)の内側に水溶性塗料20’の水溶液を満たす。そして、導電線10を液槽T内に投入し、導電線10を移動させながら導電線10を水溶性塗料20’の水溶液に浸していく。これにより、水溶性塗料20’が導電線10を構成する導電性基材12の間に浸透(侵入)する。
【0034】
図4(b)は、浸透工程において、導電線10に水溶性塗料20’が浸透する様子を示す図である。
図4(b)に示すように、浸透工程において、水溶性塗料20’が導電線10を構成する導電性基材12の間に浸透(侵入)し、導電線10(微視的に言うと導電線10を構成する導電性基材12)の周囲に、水溶性塗料20’を配置する。このとき、導電性基材12同士の間の空隙14を水溶性塗料20’で埋めるとともに導電線10の周囲を層状に覆うように水溶性塗料20’が配置される。水溶性塗料20’は、絶縁性塗料であり、かつ、接着性塗料であり、かつ、熱硬化性塗料でもある。なお、導電線10に直接水溶性塗料を塗布してもよい。
【0035】
(3)挿入工程
図5(a)及び
図5(b)は、挿入工程を説明するために示す側面図及び断面図である。
図5(a)及び
図5(b)に示すように、挿入工程においては、水溶性塗料20’を浸透させた導電線10を絶縁性の熱収縮チューブ30内に挿入する。熱収縮チューブ30は、導電線10を挿入できるように内側に空間が形成されており、挿入したときに導電線10(周囲に形成された水溶性塗料20’)との間に隙間32が形成されている。
【0036】
(4)第1加熱工程
図6(a)及び
図6(b)は、第1加熱工程を説明するために示す側面図及び断面図である。
図6(a)及び
図6(b)に示すように、第1加熱工程においては、熱収縮チューブ30を所定温度で所定時間加熱することによって熱収縮チューブ30を収縮させて導電線10を熱収縮チューブ30で覆う。具体的には、導電線10が挿入された熱収縮チューブ30に300℃~450℃の高温熱風を短時間(例えば、1秒~2秒)吹きかけて熱収縮チューブ30を収縮させて導電線10に密着された状態とし(隙間32が小さい、又はなくなった状態とし)、導電線10を覆った状態とする。このとき、熱収縮チューブ30を両側から引っ張り、引っ張り応力をかけながら熱収縮チューブ30の肉厚(内側面と外側面との間の厚み)を制御する。熱収縮の速度は、例えば0.1~2(cm/sec)の速度である。このとき、高温熱風を吹きかける時間が短時間であるため、水溶性塗料20’の水分は多く残存しており硬化されていない。従って、熱収縮チューブ30で覆われた導電線10(以下、被覆導電線10’という)は可とう性を有している。
【0037】
(5)フォーミング工程
フォーミング工程においては、被覆導電線10’を少なくも一巻きのインダクタンスを有する所定の形状にフォーミングする。
図7(a)及び
図7(b)は、フォーミング工程において被覆導電線10’をコイル形状にフォーミングする様子を示す平面図及び側面図である。まず、空芯領域90Aに対応する形状の凸部を有する巻線金型(図示せず)を準備し、離型剤を作業領域全域に塗布する。次に、被覆導電線10’を巻き込み巻線として、巻線金型の凸部の周りを約2周(厳密には約1.75周)巻回して押さえ込む。これにより、
図7(a)及び
図7(b)に示すように、短辺部分X3に並行して突出した端部86A’,86B’を形成した状態で、被覆導電線10’をコイル形状にフォーミングする。
【0038】
図8(a)及び
図8(b)は、フォーミング工程において段差形状をフォーミングする様子を示す平面図及び断面図である。次に、
図8(a)及び
図8(b)に示すように、コイル形状にフォーミングされた被覆導電線10’をフォーミング治具(図示せず)に入れて加圧することにより、短辺部分X3の側面から見ると円弧状に曲げられ、かつ、2つの長辺部分が他方の短辺部分X4側でオフセットした段差形状に被覆導電線10’を成形する。なお、この工程で、短辺部分X3の側面から見ると円弧状に曲げられているが、図示をわかりやすくするために、
図8(b)及び
図9(b)は直線状の状態で図示している。
【0039】
(6)第2加熱工程
図9(a)及び
図9(b)は、第2加熱工程を説明するために示す平面図及び断面図である。
図9(a)及び
図9(b)に示すように、被覆導電線10’を加熱することによって被覆導電線10’を上記したような所定の形状で硬化する。具体的には、第2加熱工程においては、フォーミング治具(図示せず)で被覆導電線10’をフォーミングした状態で200℃の炉に入れ、20~30分加熱する。この加熱により、被覆導電線10’の水溶性塗料20’は、水分が失われて硬化し、水溶性塗布膜20となる。これにより、導電線10の空隙14が埋まった状態で硬化されることから被覆導電線10’の可とう性が失われ、被覆導電線10’を少なくも一巻きのインダクタンスを有する所定の形状で硬化することができる。そして、フォーミング治具から被覆導電線10’を外して取り出し、端子部分を所定の形状でカットする。
【0040】
(7)端子形成工程(導電性接合材浸透工程)
次に、被覆導電線10’の端部86A’,86B’を導電性接合材(半田)の溶液を浸漬させて端部86A’,86B’に半田を浸透させる。
図10(a)及び
図10(b)は、導電線の端部に半田を浸透させる様子を示す図である。
図10(a)に示すように、端子形成工程(導電性接合材浸透工程)においては、まず、端部86A’,86B’にフラックス剤を塗布し、当該端部86A’,86B’を、半田槽内で300℃以上に熱せられた半田溶液Sに投入する。これにより、熱収縮チューブ30内の、編組線である導電線10に半田溶液Sが浸透し、半田付けされた状態となる。次に、
図10(b)に示すように、半田槽T2から端部86A’,86B’を引き上げる。
図11は、端子形成工程を説明するために示す図である。次に、端部86A’,86B’の熱収縮チューブ30を除去する。これにより端部86A’,86B’が、端子部86A,86Bとなる(
図11参照)。
このようにして、実施形態1に係るコイル101Aを製造することができる。
【0041】
3.実施形態1におけるコイルアセンブリー100の構成
実施形態1に係るコイル101Aは、似た構成のコイル101Bと組み合わせてコアレスモータに用いられるコイルアセンブリー100を構成する。なお、コイル101A,101Bが適用される電気機械装置は、空芯形のコイルを用いる電気機械装置であれば如何なるものであってもよい。いわゆるコアレスモータは好適な適用対象の1つである。
【0042】
図12(e)はコイル101B(第2形状コイル)の外観を示す斜視図である。第2形状コイルとしてのコイル101Bは、
図12(e)に示すように、コイル101Aの対向する2つの長辺部分Y1,Y2における端子部86A,86Bが形成されている側が径方向の外側にオフセットした段差形状を有する点で、コイル101A(第1形状コイル)とは異なる。それ以外の点においては、基本的にコイル101A(第1形状コイル)と同様の構成を有する。
【0043】
図12(a)は、コアレスモータに用いられるコイルアセンブリー100の一例を示す斜視図である。ここでは複数のコイル101A,101B(下付き文字による数字はIndex番号)が、ローターが有する永久磁石(図示を省略)の移動方向ROTに沿って配置されて、コイルアセンブリー100を構成している。別の言い方(別言)をすると、コイルアセンブリー100は、それぞれのコイル101A,101Bの長辺部分X1,X2,Y1,Y2(有効コイル部)が磁石の移動方向ROTと直交するようにして複数のコイル101A,101Bが配置されて構成されている。
「空芯形のコイル」とは、導電性の部材が巻回されてなるコイルであって、当該巻回の内側に突極となる鉄心が配置されていないタイプのコイルと言うこともできる。ここでの「巻回」とは空芯領域を完全に360°に渡って取り囲むように巻く場合の他、空芯領域の周りを1周するまでには至らない(360°には至らない)ものの空芯領域を囲むような巻き方も含むものとする。
【0044】
図12(b)は、第1コイル・サブアセンブリー101ASの斜視図である。第1コイル・サブアセンブリー101ASは、隣接するコイル101A(第1形状コイル、
図1(a)及び
図12(d)参照)の長辺部分X1,X2の外側面同士が互いに接した状態でN個(Nは自然数。ここでは8個)のコイル101A(第1形状コイル)をリング状に並べ、互いに接着することで構成できる。
また、
図12(c)は、第2コイル・サブアセンブリー101BSの斜視図である。第2コイル・サブアセンブリー101BSは、隣接するコイル101B(第2形状コイル、
図12(e)参照)の長辺部分X1,X2の外側面同士が互いに接した状態でN個(ここでは8個)のコイル101B(第2形状コイル)をリング状に並べ、互いに接着することで構成できる。
【0045】
上記のように第1コイル・サブアセンブリー101AS及び第2コイル・サブアセンブリー101BSを準備したうえで、第1コイル・サブアセンブリー101AS(
図12(b)参照)の右側から左側に向けて、第2コイル・サブアセンブリー101BS(
図12(c)参照)をスライドさせて組み合わせることによりコイルアセンブリー100(
図13(a)参照)を構成することができる。
【0046】
4.実施形態1に係る導電部材1及び導電部材の製造方法の効果
実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、線状の導電性基材12が複数束ねられた導電線10を準備する準備工程を含むため、従来の導電部材900と同様に、導電性基材12同士の間に形成される空隙14や編み目が伸縮することにより、柔軟に折り曲げることができ、立体的に曲げられた形状やねじれた形状等の複雑な形状の導電部材を比較的容易に形成することができる。
【0047】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、導電線10に水溶性塗料20’を浸透させる浸透工程を有するため、導電性基材12同士の間の空隙14や隙間16,18にも水溶性塗料20’を浸み込ませて導電性基材12同士の間の隙間を水溶性塗料20’で埋めることができ、後の第2加熱工程において、被覆導電線10’を加熱することによって導電性基材12の隙間まで浸み込んだ水溶性塗料20’を硬化させることができ、被覆導電線10’を少なくも一巻きのインダクタンスを有する所定の形状で硬化することができる。このことから、製造後は導電性基材12同士の間の空隙や編み目が伸縮することを防ぐことができ、フォーミングされた導電部材1の形状を長期間にわたって維持することができる。従って、外部の振動に共振することにより導電部材に伸縮が生じて導電部材1の位置がずれる等の不具合が生じ難くなり、信頼性を高くすることが可能となる。
【0048】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、水溶性塗料20’を浸透させた導電線10を絶縁性の熱収縮チューブ30内に挿入する挿入工程を含むため、簡便な方法で導電線10を周囲から絶縁することができる。また、導電部材1を柔軟に折り曲げて配線した場合や巻回した場合であっても、導電性基材12が複数束ねられた導電線10を覆うように熱収縮チューブ30を配置するため、導電性基材12それぞれの表面を絶縁材で被覆した場合と比較して局所的に大きな機械的応力がかかることを防ぐことができる。その結果、絶縁材としての熱収縮チューブ30が損傷することや薄くなることを防ぐことができ、耐圧を高い状態で維持することができる。さらにまた、熱収縮チューブ30は、全体の肉厚を一定にしやすく、導電線を覆った場合でも熱収縮チューブ30の厚みにばらつきが生じ難く、絶縁材の厚みにばらつきが生じ難くなる。よって、この観点においても耐圧を高い状態で維持することができる。
【0049】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、導電線10に水溶性塗料20’を浸透させる浸透工程を有するため、導電性基材12同士の間の空隙14や隙間16,18にも水溶性塗料20’を浸み込ませて導電性基材12同士の間の隙間を水溶性塗料20’で埋めることができ、後の第2加熱工程において、被覆導電線10’を加熱することによって導電性基材12の空隙14や隙間16,18まで浸み込んだ水溶性塗料20’を硬化させることができるため、熱収縮チューブ30に大きな機械的応力が直接かかることをより確実に防ぐことができる。従って、絶縁材としての熱収縮チューブが損傷したり薄くなったりし難くなり、耐圧を高い状態で確実に維持することができる。
【0050】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法によれば、被覆導電線10’を形成する第1加熱工程と、被覆導電線10’を少なくも一巻きのインダクタンスを有する所定の形状にフォーミングするフォーミング工程と、被覆導電線10’を所定の形状で硬化する第2加熱工程とをこの順序で実施するため、絶縁性の熱収縮チューブ30で導電線10を覆った状態で複雑な形状の導電部材を形成し、その形状で硬化することができる。その結果、複雑な形状の導電部材を比較的容易に形成すること、及び、硬化することで高い信頼性を得ることができること、及び、耐圧を高い状態で維持することができる導電性部材を製造することの全てを実現することができる。
【0051】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法によれば、導電線に水溶性塗料を浸透させる浸透工程を含むため、浸透による効果で、水溶性塗布膜20の材料である水溶性塗料20’を導電線10の内部の導電性基材12同士の間にまでも行き渡って導電性基材12同士の間の空隙14や隙間16、18を埋めることができる。従って、導電線10に直接塗布した場合と比較して液垂れや水溶性塗布膜の偏りを生じ難く、均一な水溶性塗布膜を形成することができる。その結果、安定して高品質の導電部材とすることができる。
【0052】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、導電線10に水溶性塗料20’を浸透させる浸透工程を含むため、導電性基材12を水溶性塗料20’の水溶液に浸すだけで、水溶性塗料20’を導電性基材12の周囲に行き渡らせることができる。従って、塗布による塗布膜形成に比べて少ない工程で水溶性塗料20’を形成することができる。このため、高品質な導電部材を製造することができるだけでなく、作業効率を高めることができ、量産性の高い導電部材となる。
【0053】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、導電線10は、編組線であるため、銅の板材を切削加工・プレス加工・折り曲げ加工等することによって製造しなくてもよくなり、所望の形状に形成し易くなる。また、編組線を折り曲げるだけで所望の形状とすることができるため、工程数が増加し難く、生産性を高くすることができる。さらには、編組線を用いるため、切削加工による端材が少なく、製造コストを低減し易くなる。
【0054】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法によれば、導電線10は、編組線であるため、導電線10を柔軟に折り曲げることができ、少なくも一巻きのインダクタンスを有する所定の形状にフォーミングし易くなる。従って、立体的に曲げられた形状やねじれた形状等の複雑な形状の導電経路を比較的容易に形成することができる。
【0055】
ところで、一般に、交流電流が導体を流れる場合には、表皮効果によって導体の表面で電流密度が高くなり、表面から離れると低くなる。特に、電流が高周波成分を含む場合(例えば、PWM(Pulse Width Modulation)制御による高速スイッチングによる電力制御で、大容量の高トルクモータや電力源間での急速充電(回生制御)、急速放電(駆動制御)の場合等)には、電流が表面に集中するので、導体の交流抵抗は高くなる傾向にある。実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、導電線10は、編組線であるため、同じ断面積の板状の導電部材の場合と比較して、表面の面積が大きく、電流が所定の領域に集中することを防ぐことができ、その結果、導体抵抗を低くすることができる。さらにまた、導電線10が編組線であるため、1つの板材等で形成した場合と比較して渦電流が発生し難くなり、コイル101Aの渦電流の発生を低減することが期待できる。
【0056】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、水溶性塗料20’は、絶縁性塗料であるため、浸透による効果で、水溶性塗布膜20の材料である水溶性塗料20’を導電線10の内部の導電性基材12間にまでも行き渡って導電性基材12間の空隙14を埋めることができることから、導電線10に塗布した場合と比較して液垂れや水溶性塗布膜20の偏りを生じ難く、均一な水溶性塗布膜20を形成することができる。その結果、均一な絶縁体静特性を有し、絶縁特性が安定した導電部材となる。これにより、導電線10の導電性基材12の表面を確実に絶縁することができ、塵漏電、電食、大気放電、感電等の不具合が起こり難く、異物金属が接触して短絡することを防ぐこともできる。また、絶縁性の熱収縮チューブ30と併せて2重に絶縁膜を形成していることになるため、より耐圧が高い導電部材及びコイルとなる。
【0057】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、水溶性塗料は、接着性塗料であるため、導電線10内の導電性基材12の位置が確実に固定され、安定した形状の導電部材及びコイルとなる。その結果、信頼性がより高い導電部材及びコイルとなる。また、浸透工程後も水溶性塗料20’が導電性基材12の周囲に留まりやすくなる。
【0058】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、水溶性塗料は、熱硬化性塗料であるため、加熱(第2加熱工程の加熱)によって導電線10内の導電性基材12の位置が固定され、安定した形状の導電部材となる。その結果、信頼性がより高い導電部材となる。
【0059】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、第2加熱工程の後段に、熱収縮チューブ30で覆われた導電線10の端部86A’,86B’を導電性接合材(半田溶液S)の溶液に浸漬させて導電線10の端部に導電性接合材(半田溶液S)を浸透させることにより端子部86A,86Bを形成する端子形成工程を含むため、新たに金属性の端子を取り付ける必要がなく、導電性接合材Sの溶液に浸すだけの簡便な方法で端子部86A,86Bを形成することができる。
【0060】
また、実施形態1に係る導電部材の製造方法、導電部材1及びコイル101Aによれば、導電性基材12は、銅、ニッケル、銅合金、ニッケル含有メッキ銅、錫含有メッキ銅、及び炭素含有線のうちのいずれか、又は、これらのうちの2以上を含む複合線であるため、高い伝導率を維持しながらも、様々な特性を有する導電線とすることができ、様々な特性を有する導電部材となる。
【0061】
実施形態1に係るモータ、発電機及びアクチュエータによれば、上記した実施形態1に係るコイル101A,101Bを用いるため、上記した効果を有するモータ、発電機及びアクチュエータとなる。
【0062】
また、実施形態1に係るコイル101A、101B、モータ、発電機及びアクチュエータによれば、線状の導電性基材が複数束ねられた導電線を備える導電部材を用いるため、導電性基材の表面を絶縁材で被覆した導電線を備える導電部材を用いたコイルと比較して、抵抗が小さくて済む。従って、熱損失が小さくて済み、トルク劣化や出力劣化がし難いコイル101A、101B、モータ、発電機及びアクチュエータとなる。
【0063】
[実施形態2]
図13は、実施形態2に係る導電部材2を示す図である。実施形態2に係る導電部材の製造方法及び実施形態2に係る導電部材2(以下、実施形態2に係る導電部材の製造方法等という)は、基本的には実施形態1に係る導電部材の製造方法及び実施形態1に係る導電部材1(以下、実施形態1に係る導電部材の製造方法等という)と同様の構成を有するが、水溶性塗布膜の構成が実施形態1に係る導電部材の製造方法等の場合と異なる。すなわち、実施形態2に係る導電部材の製造方法において、水溶性塗布膜20aは、
図13に示すように、導電性基材12の周囲にのみ形成されており、層状になっていない。なお、導電性基材12を撚って又は編んで導電線10を形成し、当該導電線に水溶性塗料を浸透させるため、導電性基材同士が接触している箇所は水溶性塗料が浸透しておらず、水溶性塗布膜20aが形成されていない。
【0064】
このように、実施形態2に係る導電部材の製造方法等は、水溶性塗布膜の構成が実施形態1に係る導電部材の製造方法等の場合と異なるが、実施形態1に係る導電部材の製造方法等の場合と同様に、線状の導電性基材12が複数束ねられた導電線10を準備する準備工程及び導電部材1によれば、導電線に水溶性塗料を浸透させる浸透工程、水溶性塗料を浸透させた導電線を絶縁性の熱収縮チューブ内に挿入する挿入工程及び被覆導電線を加熱することによって被覆導電線を所定の形状で硬化する第2加熱工程を含むため、複雑な形状の導電部材を比較的容易に形成することができ、かつ、信頼性が高く、導電部材を電磁コイルに用いた場合でも耐圧を高い状態で維持することが可能な導電部材となる。
【0065】
なお、実施形態2に係る導電部材の製造方法等は、水溶性塗布膜の構成以外の点においては実施形態1に係る導電部材の製造方法等と同様の構成を有するため、実施形態1に係る導電部材の製造方法等が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0066】
[実施形態3]
図14は、実施形態3に係る導電部材3を示す図である。実施形態3に係る導電部材の製造方法及び実施形態3に係る導電部材3(以下、実施形態3に係る導電部材の製造方法等という)は、基本的には実施形態2に係る導電部材の製造方法及び実施形態2に係る導電部材2(以下、実施形態2に係る導電部材の製造方法等という)と同様の構成を有するが、水溶性塗布膜の材料が実施形態2に係る導電部材の製造方法等の場合と異なる。すなわち、実施形態3に係る導電部材の製造方法において、水溶性塗料は、導電性塗料であり、導電部材3の水溶性塗布膜20bは、導電性塗布膜である(
図14参照)。
【0067】
このように、実施形態3に係る導電部材の製造方法等は、水溶性塗布膜の材料が実施形態2に係る導電部材の製造方法等の場合と異なるが、実施形態2に係る導電部材の製造方法等の場合と同様に、線状の導電性基材12が複数束ねられた導電線10を準備する準備工程、導電部材1及びコイル101Aによれば、導電線に水溶性塗料を浸透させる浸透工程、水溶性塗料を浸透させた導電線を絶縁性の熱収縮チューブ内に挿入する挿入工程及び被覆導電線を加熱することによって被覆導電線を所定の形状で硬化する第2加熱工程を含むため、複雑な形状の導電部材を比較的容易に形成することができ、かつ、信頼性が高く、導電部材を電磁コイルに用いた場合でも耐圧を高い状態で維持することが可能な導電部材となる。
【0068】
また、実施形態3に係る導電部材の製造方法等によれば、水溶性塗料は、導電性塗料であるため、電流導通路である導電性基材12の表面の面積が疑似的に大きくなり、電流が所定の領域に集中することをより一層緩和することができ、その結果、導体抵抗をより一層低くすることができる。
【0069】
また、実施形態3に係る導電部材の製造方法等によれば、水溶性塗料は、導電性塗料であるため、製造過程において、浸透による効果で、水溶性塗布膜20bの材料である水溶性塗料が導電線10の内部の導電性基材12間にまでも行き渡って導電性基材12間の隙間を埋めることができることから、導電線10に塗布した場合と比較して液垂れや水溶性塗布膜の偏りを生じ難く、均一な導電性塗布膜を形成することができる。その結果、均一なメッキ特性を有する導電部材となる。
【0070】
なお、実施形態3に係る導電部材の製造方法等は、水溶性塗布膜の材料以外の点においては実施形態2に係る導電部材の製造方法等と同様の構成を有するため、実施形態2に係る導電部材の製造方法等が有する効果のうち該当する効果を有する。
【0071】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0072】
(1)上記実施形態において記載した構成要素の数、材質、形状、位置、大きさ等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0073】
(2)上記各実施形態においては、水溶性塗料の水溶液に導電線を浸漬することにより、水溶性塗布膜を形成したが、本発明はこれに限定するものではない。例えば、電着塗料を含む溶液が入った液槽に導電線10を全没させて所定の電圧を印加して水溶性塗布膜20を形成してもよい。この場合、水溶性塗料20’が導電線10の内部の狭い箇所や空隙にまで浸透し、かつ、編組線にあらゆる方向から電着塗料が浸透することになる。このことから、水溶性塗料20’が導電線10の内部の狭い箇所や空隙に水溶性塗布膜20を形成することができるとともに、導電線10のあらゆる方向に均一な水溶性塗布膜20を形成することができる。従って、品質が高い導電部材となる。
特に、水溶性塗布膜20が電着絶縁塗布膜であるため、導電線10の内部の狭い箇所や空隙に電着絶縁塗布膜を形成することができるとともに、編組線のあらゆる方向に均一な電着絶縁塗布膜を形成することができる。従って、絶縁耐性がより一層高い導電部材となる。
また、水溶性塗布膜20は、電着塗布膜であるため、電着塗料の濃度や印加する電圧を制御することで、容易に水溶性塗布膜20の膜厚を制御することができる。従って、導電部材の使用用途に合わせて絶縁耐性を制御することができ、様々な電気機器に対応可能な導電部材となる。
なお、直流電圧を印加する際に、液槽内の水溶液に対し超音波を印加してもよい。これにより超音波を印加することで導電性基材12の周囲から気泡や不純物を除去することができ、絶縁品質を向上させることができる。
【0074】
(3)上記各実施形態においては、水溶性塗料の水溶液に導電線を浸漬することにより、水溶性塗布膜を形成したが、本発明はこれに限定するものではない。例えば、水溶性塗布膜が熱硬化性塗布膜であり、以下の方法によって水溶性塗布膜20を形成してもよい。例えば、液槽・容器等(以下、単に液槽Tとする)の内側に熱硬化性樹脂溶液を満たしたうえで、液槽の内側にフォーミングされた導電線10を投入する。これにより、水溶性の材料が編組線を構成する導電性基材12の間に浸透(侵入)する。導電性基材12の周囲に水溶性の材料が付着した状態で導電線10を液槽から引き上げる。この後、導電線10に対して加熱をすることによって導電性基材12の周囲に付着した水溶性の材料に由来する材料を固化する。このような工程としてもよい。このような構成(方法)とすることにより、水溶性塗布膜は、熱硬化性塗布膜であるため、加熱することにより、導電部材をより一層硬化することができる。その結果、形状安定性が高い導電部材となる。
【0075】
(4)上記各実施形態においては、導電性基材として導線を撚った撚線を用いたが、本発明はこれに限定するものではない。導電性基材として、少なくとも一部にカーボン材を有する導電性基材を用いてもよい。この場合、小型で軽量、かつ、耐腐食性に優れた編組線となり、小型で軽量、かつ、耐腐食性に優れた導電部材となる、という効果もある。
【0076】
(5)上記各実施形態においては、所定の形状としてコイル形状とし、導電部材1をコイルとしたが、本発明はこれに限定されるものではない。所定の形状として、電極同士や電極と端子を接続する接続部材、ハーネス、クリップリード、その他適宜の物に用いてもよい。
【0077】
(6)上記各実施形態においては、導電部材1をコイルとし、モータに用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。導電部材1をコイルとし、発電機やアクチュエータに用いてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1,2,3…導電部材、10…導電線(編組線)、10'…被覆導電線、12…導電性基材14…空隙、16,18…隙間、20、20a、20b…水溶性塗布膜、20'水溶性塗料、30…熱収縮チューブ、86A,86B…端子部、86A',86B'…端部、90A…空芯領域、100…コイルアセンブリー、101A,101B…コイル、101AS、101BS…サブアセンブリー