(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】硬組織再生用転写材料
(51)【国際特許分類】
A61L 27/10 20060101AFI20240628BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240628BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61L27/10
A61L27/50
A61L27/12
(21)【出願番号】P 2020569630
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 JP2020002888
(87)【国際公開番号】W WO2020158701
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019013200
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】本津 茂樹
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-010037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
A61K6/00-6/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体親和性セラミックス膜が容易に剥離され得る易剥離面を有する仮支持体と、前記仮支持体の易剥離面上に形成された生体親和性セラミックス膜とを備え、
前記仮支持体がマウスピースであり、
前記生体親和性セラミックス膜が、非晶質のリン酸カルシウム薄膜、又はフッ素ドープされた非晶質のリン酸カルシウム薄膜からなる薄膜硬組織再生用転写材料。
【請求項2】
前記仮支持体の易剥離面が表面処理によって形成されている、請求項1に記載の硬組織再生用転写材料。
【請求項3】
前記仮支持体の易剥離面がコーティングによって形成されている、請求項1に記載の硬組織再生用転写材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬組織再生用転写材料に関し、詳しくは、硬組織再生のための生体親和性セラミックス膜を患者の歯に転写することができる硬組織再生用転写材料に関する。
【背景技術】
【0002】
象牙質知覚過敏等に対する歯科治療法としては、従来技術として、例えば、象牙質表面にレジンを塗布して、象牙質の表面にプラスティック様の膜を形成して、象牙細管を封鎖する、レジン塗布法が知られている。
しかし、上記レジン塗布法においては、硬組織との素材の相違(無機と有機)による亀裂や剥離の問題や、有機成分によるアレルギー反応のおそれがあり、また、生体への親和性にも問題がある。
【0003】
そこで、本願出願人は、上記レジン塗布法に代わる生体親和性の高い治療法として、本願に先行して、硬組織再生材料及び硬組織再生方法についての特許出願を行っている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術によれば、上記硬組織再生材料を歯に貼り付けることにより、エナメル質や象牙質の再生ができる。また、上記特許文献1の技術によれば、硬組織再生材料を歯に貼り付けることにより、象牙細管が封鎖されるので、象牙質知覚過敏の治療にも有効である(特許文献1の段落[0051]なども参照)。
しかし、上記特許文献1に記載の如き生体親和性セラミックス膜は、その取扱いが困難で、単離した薄膜をどのように患者の歯などの硬組織に貼り付けるのか、大面積や複数部位の硬組織にどのように貼り付けるのかについては、課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、生体親和性セラミックス膜を患者の歯などの硬組織に貼り付けるために有用な硬組織再生用転写材料を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を備える。
すなわち、本発明に係るかかる薄膜硬組織再生用転写材料は、生体親和性セラミックス膜が容易に剥離され得る易剥離面を有する仮支持体と、前記仮支持体の易剥離面上に形成された生体親和性セラミックス膜とを備え、前記仮支持体がマウスピースであり、前記生体親和性セラミックス膜が、非晶質のリン酸カルシウム薄膜、又はフッ素ドープされた非晶質のリン酸カルシウム薄膜からなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の硬組織再生用転写材料によれば、取り扱いが困難な生体親和性セラミックス膜を硬組織に簡便に転写することができる。
すなわち、仮支持体上に生体親和性セラミックス膜が形成されているが、生体親和性セラミックス膜が形成される仮支持体表面は、生体親和性セラミックス膜が容易に剥離され得る易剥離面となっている。
この場合、生体親和性セラミックス膜が形成されている側を患者の歯などの硬組織に当てた状態で一定時間維持し、生体親和性セラミックス膜を硬組織と一体化させた後、仮支持体を硬組織から離すと、仮支持体の易剥離面と生体親和性セラミックス膜との界面よりも、生体親和性セラミックス膜と硬組織との界面のほうが、より強く接合されていることにより、生体親和性セラミックス膜が、仮支持体から硬組織へと転写される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明にかかる硬組織再生用転写材料の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明にかかる硬組織再生用転写材料の一実施形態を示す斜視図である。
【
図3】本発明にかかる硬組織再生用転写材料の一実施形態を示す断面図である。
【
図4】本発明にかかる硬組織再生用転写材料の一実施形態を示す断面図である。
【
図5】本発明にかかる硬組織再生用転写材料の別の実施形態を示す断面図である。
【
図6】本発明にかかる硬組織再生用転写材料の別の実施形態を示す断面図である。
【
図7】本発明にかかる硬組織再生用転写材料の別の実施形態を示す断面図である。
【
図8】本発明にかかる硬組織再生用転写材料のさらに別の実施形態を示す断面図である。
【
図9】本発明にかかる硬組織再生用転写材料のさらに別の実施形態を示す断面図である。
【
図10】本発明にかかる硬組織再生用転写材料のさらに別の実施形態を示す斜視図である。
【
図11】実施例1における試験結果を示す写真である。
【
図12】実施例2における試験結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明にかかる硬組織再生用転写材料の好ましい実施形態について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0011】
本発明にかかる硬組織再生用転写材料は、生体親和性セラミックス膜が容易に剥離され得る易剥離面を有する仮支持体と、前記仮支持体の易剥離面上に形成された生体親和性セラミックス膜とを備える。
【0012】
〔仮支持体〕
仮支持体は、硬組織へと転写される生体親和性セラミックス膜を仮に支持する部材である。
仮支持体としては、硬組織の表面の形状と適合する形状を有するか、硬組織の表面の形状に追従する柔軟性を有することが好ましい。
前者の例としては、例えば、マウスピースが好適である。後者の例としては、例えば、柔軟性のある材料で製造したシート体などが挙げられる。
【0013】
仮支持体は、生体親和性セラミックス膜が容易に剥離され得る易剥離面を有する。仮支持体の易剥離面は、仮支持体の全面に及んでいてもよいし、生体親和性セラミックス膜が形成される面のみに部分的に存在してもよい。
この易剥離面としては、生体親和性セラミックス膜が容易に剥離され得るものであれば特に限定されず、例えば、仮支持体が、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂などの非接着性ないし非粘着性の材料で製造されたものであってもよいし、そのような材料で製造されたものでなくても、表面処理やコーティングなどによって易剥離面が形成されたものであってもよい。
【0014】
〔生体親和性セラミックス膜〕
本発明の硬組織再生用転写材料においては、生体親和性セラミックス膜が、仮支持体の易剥離面上に形成される。
【0015】
ここで、生体親和性セラミックスとしては、アパタイト、その原材料及びそれを含む混合物が好ましく例示できる。ここで、アパタイトとはM10(ZOn)6X2の組成を持った鉱物群であり、式中のMは例えばCa、Na、Mg、Ba、K、Zn、Alであり、ZOnは例えばPO4、SO4、CO3であり、Xは例えばOH、F、O、CO3である。ハイドロキシアパタイトや炭酸アパタイトが一般的ではあるが、中でも生体親和性の高さからハイドロキシアパタイトが好ましい。また、アパタイトの原材料としてはリン酸カルシウム及びその水和物が例示でき、アパタイトを含む混合物としては牛等の骨から採取した生体アパタイトが例示できる。
【0016】
生体親和性セラミックス膜の形成方法としては、一般的な薄膜形成方式によって得ることができる。
薄膜形成方式は、気相法、液相法、固相法に大別できるが、厚さが数ミクロン以下の薄膜形成の多くは一般に気相法が採用されており、本発明の硬組織再生用転写材料を製造する場合においても、気相法が好ましく採用できる。
【0017】
気相法としては、例えば、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、プラズマ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、熱化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法などが採用できる。
【0018】
好ましくはレーザーアブレーション法であるが、このレーザーアブレーション法は、例えば、次のような手順で行なう。
すなわち、まず、仮支持体をレーザーアブレーション装置に入れ、排気し、真空中、または、水蒸気含有ガス又は炭酸ガス含有ガスを装置内に導入して、ArFエキシマレーザー発生装置等のレーザー発生装置、ミラー、レンズ等からなるレーザー光源から発生したレーザー光線をターゲットに照射する。これによって、ターゲットが分解して原子、イオン、クラスター等が放出され、仮支持体上に、ターゲットの組成を反映した膜が形成される。
【0019】
ターゲットとしては、例えば、生体親和性セラミックスの粉末を金型で加工成形したものを使用することができる。また、水蒸気含有ガスとしては、水蒸気、酸素-水蒸気混合ガス、アルゴン-水蒸気混合ガス、ヘリウム-水蒸気混合ガス、窒素-水蒸気混合ガス、空気-水蒸気混合ガス等が、炭酸ガス含有ガスとしては、炭酸ガス、酸素-水蒸気・炭酸ガス混合ガス、アルゴン-水蒸気・炭酸ガス混合ガス、ヘリウム-水蒸気・炭酸ガス混合ガス、窒素-水蒸気・炭酸ガス混合ガス、空気-水蒸気・炭酸ガス混合ガス等を単独で又は組み合わせて使用できる。
【0020】
成膜が完了したのちに、300~1200℃の高温の水蒸気含有ガス又は炭酸含有ガス中で熱処理する熱処理工程を追加して、生体親和性セラミックス膜をより結晶化することも可能である。
もっとも、量産化する場合、熱処理に要する時間やエネルギーコストを考慮すると、熱処理工程を追加しない方が有利である。また、熱処理工程を行う場合、耐熱性の高い仮支持体を選択する必要があるから、このような点でも、熱処理工程を追加しない方が有利である。
従って、前記生体親和性セラミックス膜は、加熱処理工程を経ていない非晶質の薄膜であることが好ましいといえる。具体的には、非晶質リン酸カルシウムや、フッ素ドープされた非晶質リン酸カルシウム薄膜が挙げられる。これらは、それぞれ、ハイドロキシアパタイト、フッ化アパタイトをターゲットとすることで形成することができる。耐酸性などを考慮すると、フッ素ドープされた非晶質リン酸カルシウム薄膜がより好ましい。
【0021】
〔硬組織再生用転写材料の具体例〕
本発明の硬組織再生用転写材料の具体例としては、上述のとおり、マウスピースが好適に挙げられる。
マウスピースにおいては、その表面形状が、患者の歯の形状に適合するように作製されるので、生体親和性セラミックス膜を患者の歯に転写するのに有利である。
また、マウスピースであれば、生体親和性セラミックス膜を患者の歯と一体化するまで固定しておくことが容易にできる。
【0022】
マウスピースは、公知の製造方法により製造することができる。
具体的には、まず、患者から採取した印象から石膏模型を作製する。次に、石膏模型に対し、マウスピースの素材となるシートを被せ、加圧成形することにより、マウスピースを得ることができる。
【0023】
この場合、マウスピースの素材として、非接着性ないし非粘着性の材料、例えば、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂を用いることで、生体親和性セラミックス膜が容易に剥離され得る易剥離面を有するマウスピースを得ることができる。
また、マウスピースの素材が、非接着性ないし非粘着性の材料でなくても、マウスピースを製造したのちに、その内面に、非接着性ないし非粘着性の材料をコーティングやラミネートすることにより易剥離面を形成することができる。また、マウスピースの内面に対し、表面処理によって易剥離面を形成することもできる。
【0024】
上記の如きマウスピースを具体例として、本発明にかかる硬組織再生用転写材料の使用例を説明する。
【0025】
図1は、本発明にかかる硬組織再生用転写材料の一実施形態であり、その断面図を示すものである。なお、図中の各部寸法は実際の寸法を正確に表すものではない。後述する
図2~10も同様である。
図1に示すように、硬組織再生用転写材料1は、仮支持体(マウスピース)10aと生体親和性セラミックス膜20aとを備える。
仮支持体10aは、非接着性ないし非粘着性の材料からなり、これにより、その表面は、生体親和性セラミックス膜20aが容易に剥離され得る易剥離面となっている。そして、仮支持体10aの内面に生体親和性セラミックス膜20aが形成されている。
【0026】
図2は、
図1に示す硬組織再生用転写材料1の使用の手順を示す斜視図である。また、
図3は、
図1に示す硬組織再生用転写材料1を歯に装着した状態を示す断面図であり、
図4は
図1に示す硬組織再生用転写材料1を歯から取り外した状態を示す断面図である。
図2,3に示すように、硬組織再生用転写材料1の内面側(生体親和性セラミックス膜20aが形成されている側)に、弱酸性(例えばpH4.0以下)のリン酸カルシウム溶液を塗布したのち、この硬組織再生用転写材料1を歯30に装着する。その後、10~15分程度経過したのち、再石灰化液を注入する。これらの操作により、脱灰及び再石灰化が起こり、生体親和性セラミックス膜20aと歯30との間の接合が強固になる。
さらに、1~2時間程度経過後、硬組織再生用転写材料1を取り外すと、
図4に示すように、生体親和性セラミックス膜20aが、仮支持体10aから歯30へと転写される。
【0027】
図5は、本発明にかかる硬組織再生用転写材料の別の実施形態であり、その断面図を示すものである。
図5に示すように、硬組織再生用転写材料2は、仮支持体(マウスピース)10bと生体親和性セラミックス膜20bとを備える。
仮支持体10bの内面には、非接着ないし非粘着性の表面処理層11bが施されており、生体親和性セラミックス膜20aが容易に剥離され得る易剥離面となっている。そして、この易剥離面上に生体親和性セラミックス膜20bが形成されている。
図6は、
図5に示す硬組織再生用転写材料2を歯に装着した状態を示す断面図であり、
図7は
図5に示す硬組織再生用転写材料2を歯から取り外した状態を示す断面図である。硬組織再生用転写材料2の易剥離面が表面処理層11bによって形成されている点以外は、
図1に示す硬組織再生用転写材料に関する説明と重複するので、詳細な説明は割愛する。
【0028】
図8は、本発明にかかる硬組織再生用転写材料のさらに別の実施形態であり、その断面図を示すものである。
図8に示すように、硬組織再生用転写材料3は、仮支持体(マウスピース)10cと生体親和性セラミックス膜20cとを備える。
仮支持体10cの内面には、非接着ないし非粘着性のコーティング層11cが施されており、生体親和性セラミックス膜20cが容易に剥離され得る易剥離面となっている。そして、この易剥離面上に生体親和性セラミックス膜20cが形成されている。
図9は、
図8に示す硬組織再生用転写材料3を歯に装着した状態を示す断面図であり、
図10は
図8に示す硬組織再生用転写材料3を歯から取り外した状態を示す断面図である。硬組織再生用転写材料3の易剥離面が非接着ないし非粘着性のコーティング層11cによって形成されている点以外は、
図1に示す硬組織再生用転写材料に関する説明と重複するので、詳細な説明は割愛する。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を用いて、本発明にかかる硬組織再生用転写材料について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0030】
〔実施例1〕
<硬組織再生用転写材料の作製>
牛歯の鋳型から作製した厚さ12.5μmのテフロン(登録商標)製のマウスピースに穴あきパンチを用いて、小孔を形成した。小孔は、径が250μmであり、小孔の間隔を1mmとして、正方形状に配列した。
ハイドロキシアパタイト(「セルヤード」(登録商標)、ペンタックス製)をターゲットとして、PLD法(パルスレーザーアブレーション法、レーザーは、KrFエキシマレーザー、波長248nmを使用)により、上記テフロンのマウスピース内面(約10mm×10mm)に膜厚4μmのACP薄膜(非晶質のリン酸カルシウム(amorphous calcium phosphate)の薄膜)を成膜した。雰囲気ガスはO2+H2Oとし、ガス圧0.1Pa、エネルギー150mJとした。
なお、成膜時の紫外線により、テフロン表面のフッ化物イオンが乖離し表面の改質が生じる可能性があるため、紫外線の暴露を低くするため、レーザーの集光レンズ前に5mm×5mmのスリットをつけて1000shotの事前成膜を行った。スリット後のレーザーエネルギーは15mJであった。
【0031】
<硬組織再生用転写材料の評価>
牛歯を#2000の耐水研磨紙で軽く研磨し、その後Kエッチャントゲルにて10秒間エナメル質の表面処理した後、水洗した。その後、純水にて1分間超音波洗浄を行ったものをシート貼付用のエナメル質とした。
上記にて作製した硬組織再生用転写材料(ACP/テフロンマウスピース)のACP側にUVオゾン処理を600秒行った。
貼付液にはpH2.0の第一リン酸カルシウム水溶液を用いた。エナメル質に貼付液を塗布し、ACP膜を持つACP/テフロンマウスピースを被せ、10分間指圧することでエナメル質表面とACP薄膜を脱灰させた。10分後、ゴム手袋をはめた指を人工唾液(pH7.2)で濡らし、10分間マウスピースを指圧した。
その後、人工唾液を浸み込ませたメラミンスポンジ、50gの分銅をマウスピース上に置き24時間恒温槽で静置することで再石灰化させた。24時間後マウスピースを外し、ACP薄膜のみを牛歯上に転写した。
テフロンマウスピースを分離して24時間経過後の表面状態を観察・分析した。
また、固着強度を評価するため、ACP薄膜が転写された牛歯表面に対し、歯ブラシ(SUNSTAR#211)を用い、荷重200gで、90ストローク/分の速度で、20ストロークブラッシングし、表面状態を観察・分析した。
表面状態の分析は、Foxit Readerにより、転写したACP薄膜の面積を算出することにより行った。
【0032】
<結果及び考察>
表面状態を示す写真を
図11に示す。
図11に示す通り、テフロンマウスピースを分離して24時間経過後の牛歯表面には、ACP薄膜の72.3%が転写されていることが確認できた。
また、
図11に示す通り、ブラッシング試験後の牛歯表面には、ACP薄膜の一部が剥離していたものの、ACP薄膜の69.3%が残存していることが確認できた。
【0033】
〔実施例2〕
<硬組織再生用転写材料の作製>
まず、小孔径が約200μmで小孔の間隔が1mmの小孔をもつ、厚さ12.5μmのFEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)フィルムに対し、ACP薄膜を成膜した。
具体的には、ハイドロキシアパタイト(「セルヤード」(登録商標)、ペンタックス製)をターゲットとして、PLD法(パルスレーザーアブレーション法、レーザーは、KrFエキシマレーザー、波長248nmを使用)により、FEPフィルム(約7mm×10mm)表面に膜厚4μmのACP薄膜(非晶質のリン酸カルシウム(amorphous calcium phosphate)の薄膜)を成膜した。雰囲気ガスはO2+H2Oとし、ガス圧0.1Pa、エネルギー150mJとした。
なお、成膜時の紫外線により、FEP表面のフッ化物イオンが乖離し表面の改質が生じる可能性があるため、紫外線の暴露を低くするため、レーザーの集光レンズ前に5mm×5mmのスリットをつけて1000shotの事前成膜を行った。スリット後のレーザーエネルギーは15mJであった。
上記ACP成膜後のFEPフィルムを、厚さ約150μmのテープ(ポアテープ、株式会社共和製)を用いて、3本のヒト抜去歯を埋め込んだ擬似ヒト歯モデルの鋳型から作製した厚さ約500μmのEVA(エチレン―酢酸ビニル共重合体)製マウスピースの内面に貼り付けた。
【0034】
〔硬組織再生用転写材料の評価〕
次に、上記にて作製した硬組織再生用転写材料(ACP薄膜を持つEVA製マウスピース)を用い、擬似ヒト歯モデルのヒト歯へのACP薄膜の転写を行った。
具体的には、まず、ヒト歯を#2000の耐水研磨紙で軽く研磨し、その後Kエッチャントゲルにて10秒間エナメル質を表面処理した後、水洗したものをACP薄膜転写用のエナメル質とした。
上記マウスピースについては、そのACP薄膜側にUVオゾン処理を600秒行ってからACP薄膜転写に用いた。
エナメル質に貼付液(pH2.0の第一リン酸カルシウム水溶液)を塗布したのち、上記マウスピースを被せ、10分間指圧することでエナメル質表面とACP薄膜を脱灰させた。10分後、ゴム手袋をはめた指を人工唾液(pH7.2)で濡らし、10分間マウスピースを指圧した。
その後、人工唾液中に浸漬し24時間恒温槽で静置することで再石灰化させた。24時間後マウスピースを外すことで、ACP薄膜のみをヒト歯上に転写した。
24時間経過後にマウスピースを擬似ヒト歯モデルから分離した後のヒト歯の表面状態を観察した。
また、固着強度を評価するため、ACP薄膜が転写されたヒト歯表面に対し、歯ブラシ(SUNSTAR#211)を用い、荷重200gで、90ストローク/分の速度で、90ストロークブラッシングし、表面状態を観察した。
【0035】
〔結果及び考察〕
表面状態の写真を
図12に示す。
図12に示す通り、マウスピースを擬似ヒト歯モデルから分離して24時間経過後のヒト歯表面には、ACP薄膜がFEPフィルムから剥離して残存していることが確認できた。
また、
図12に示す通り、ブラッシング試験後においても、ヒト歯表面にACP薄膜が残存していることが確認できた。
【符号の説明】
【0036】
1,2,3 硬組織再生用転写材料
10a,10b,10c 仮支持体(マウスピース)
11b 表面処理層
11c コーティング層
20a,20b,20c 生体親和性セラミックス膜
30 歯