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特許7511245電極材料、電極、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】電極材料、電極、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240628BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240628BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240628BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20240628BHJP
   C25B 11/067 20210101ALI20240628BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 B
H01M8/10 101
C25B1/04
C25B9/23
C25B11/067
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021060345
(22)【出願日】2021-03-31
(65)【公開番号】P2022156576
(43)【公開日】2022-10-14
【審査請求日】2024-03-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.令和3年1月8日 第6回 NEXT-FC基盤研究報告会の配布資料「第6回 NEXT-FC基盤研究報告会のご案内」、発表資料(該当部分)に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、センター・オブ・イノベーション事業「持続的共進化地域創成拠点」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】西原 正通
(72)【発明者】
【氏名】野田 志云
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-172098(JP,A)
【文献】特開2000-228204(JP,A)
【文献】特開2009-099486(JP,A)
【文献】特開2021-174675(JP,A)
【文献】特開2010-001555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/96
H01M 8/10
C25B 1/00
C25B 9/00
C25B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子伝導性酸化物からなる酸化物担体と、前記酸化物担体の表面に固定された、イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子からなる単分子層と、前記酸化物担体の表面に担持された電極触媒粒子と、を有し、
前記単分子層が、前記酸化物担体の表面と前記イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子とが共有結合によって固定化されて形成されてなることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
前記イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子が、スルホン酸基を有する請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
前記イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子が、分岐してもよい炭素数2以上50以下の炭化水素鎖又はフルオロカーボン鎖を有する請求項に記載の電極材料。
【請求項4】
前記電子伝導性酸化物が、酸化スズ又は酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である請求項1からのいずれかに記載の電極材料。
【請求項5】
前記電子伝導性酸化物が、ニオブドープ酸化スズである請求項に記載の電極材料。
【請求項6】
前記電子伝導性酸化物が、導電補助材に固定化された請求項1からのいずれかに記載の電極材料。
【請求項7】
請求項1からのいずれかに記載の電極材料を含む電極。
【請求項8】
固体高分子形燃料電池用又は固体高分子形水電解装置用である請求項に記載の電極。
【請求項9】
固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記カソード及びアノードの少なくとも一方が、請求項またはに記載の電極である膜電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池や固体高分子形水電解装置の電極用に適した電極材料、当該電極材料を使用した電極及び膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜と前記電解質膜の両面に積層された電極(アノード及びカソード)とを含む膜電極接合体(MEA)と、前記膜電極接合体の両面に積層されたガス拡散層(GDL)と、からなる発電モジュールを2つのセパレータで挟んだ構造のセルを基本単位として構成されている。燃料電池用電極(特にはPEFC用電極)は、一般に、電極触媒活性を有する電極材料及び高分子電解質からなる電極触媒層と、ガス通気性と電子伝導性を兼ね備えたガス拡散層とから構成される。
【0003】
第一世代のPEFCの電極触媒層(アノード及びカソード)は、炭素系担体の表面に微細な白金系微粒子を担持した電極材料と電解質材料とを混合して、電極触媒層として使用される。このような炭素系担体を使用した電極触媒層は、PEFCの運転条件下では、炭素系担体上の白金系微粒子の凝集が生じたり、炭素系担体の酸化によって白金系微粒子の欠落が生じるため、電池性能が劣化してしまうことが課題となっていた。
【0004】
より優れた電極性能を与えることができる電極触媒として、これまでに、炭素系担体に代えて、酸化スズ(SnO2)等の「電子導電性酸化物担体」を使用した燃料電池用電極材料を開発している(特許文献1参照)。この電極材料において、酸化物担体がPEFC作動条件(強酸性、高電位)で熱力学的に安定であるため酸化腐食されることなく長期間安定である。
そして、より電極性能に優れた電極触媒層を与える電極材料として、カーボンナノチューブ(CNT)等の繊維状炭素材料の表面上に酸化スズ(SnO2)や酸化チタン(TiO2)等の電子伝導性酸化物担体を担持し、さらに電子伝導性酸化物担体の上に白金(Pt)粒子を高分散させた燃料電池用電極触媒材料を開発している(特許文献2,3参照)。この燃料電池用電極触媒材料は、繊維状炭素材料表面上に電子伝導性酸化物担体を微粒子として高分散に担持することで、電子伝導性酸化物担体に起因する電気抵抗を低減させ、耐久性、電気化学的触媒活性を向上させ、燃料電池自動車寿命に相当する6万回の電位サイクルに耐える電極触媒材料を開発している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5322110号公報
【文献】特許第6598159号公報
【文献】特許第6624711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料電池において発電性能に影響する最も重要な部材として電極触媒、電極触媒を担持する担体からなる電極材料があり、通常、電極触媒と電解質材料(イオノマー材料)を混合して電極を構成する。
一般的には、担体として導電性の炭素材料(カーボンブラック等)の表面に、電極触媒として微細な白金系微粒子を担持した材料を作製し、これにイオノマーを混合して、触媒層として使用される。現在、この触媒層材料の課題は、カーボン担体の酸化による白金粒子の脱離、白金の溶出・凝集、イオノマー量とガス供給・水排出のバランスが課題となっている。
PEFCの電極反応は、Pt等の電極触媒、電解質、反応物質(酸素又は水素)が共存するいわゆる三相界面で進行する。電極反応場である三相界面を増やすために、電極触媒層(アノード及びカソード)には電極触媒材料と共に、電解質材料であるイオノマー(ionomer)を含有する。イオノマーには、プロトン伝導性に優れると共に、三相界面に酸素又は水素ガス供給を阻害されないことが望ましい。
【0007】
しかしながら、電極触媒層を構築する材料のうち、電極触媒や触媒担体については、改善が図られているが、電極触媒層に含まれる電解質材料についてはほとんど注目されず、抜本的な課題解決はなされていないのが実情である。従来の電極触媒層の製造においては、長年使用されているフッ素系高分子イオノマーであるNafionやAquivionを電解質材料として、電極材料と混合させて、電極触媒層表面に物理的にコーティングする形で吸着させているのがほとんどであるが、この方法では電極に含まれる電解質材料が過剰量になって、電極触媒へのガス供給を阻害されるという問題が生じていた。
【0008】
かかる状況下、本発明は、電極内に電解質材料を含ませなくとも発電可能な電極を与えることができる電極材料を提供することを目的とする。さらには、当該電極材料を含む電極及び膜電極複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 電子伝導性酸化物からなる酸化物担体と、前記酸化物担体の表面に固定された、イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子からなる単分子層と、前記酸化物担体の表面に担持された電極触媒粒子と、を有する電極材料。
<2> 前記単分子層が、前記酸化物担体の表面と前記イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子とが共有結合によって固定化されて形成されてなる<1>に記載の電極材料。
<3> 前記イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子が、スルホン酸基を有する<1>または<2>に記載の電極材料。
<4> 前記イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子が、分岐してもよい炭素数2以上50以下の炭化水素鎖又はフルオロカーボン鎖を有する<3>に記載の電極材料。
<5> 前記電子伝導性酸化物が、酸化スズ又は酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である<1>から<4>のいずれかに記載の電極材料。
<6> 前記電子伝導性酸化物が、ニオブドープ酸化スズである<5>に記載の電極材料。
<7> 前記電子伝導性酸化物が、導電補助材に固定化された<1>から<6>のいずれかに記載の電極材料。
<8> <1>から<7>のいずれかに記載の電極材料を含む電極。
<9> 固体高分子形燃料電池用又は固体高分子形水電解装置用である<8>に記載の電極。
【0011】
<10> 固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記カソード及びアノードの少なくとも一方が、<8>または<9>に記載の電極である膜電極接合体。
<11> <10>に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形燃料電池。
<12> <10>に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形水電解装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極内に電解質材料を含ませなくとも発電可能な電極を与えることができる電極材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の電極材料の模式図である。
図2】従来の電極材料と本発明の電極材料とのイオノマー分子の状態を示す説明図である。
図3】電極材料の酸化物担体の表面にイオノマー分子単分子層を形成する反応の説明図である。
図4】実施例1の電極材料(イオノマー分子修飾)の微細構造評価であり、(a)FE-SEM像、(b)EDX、である。
図5】起動停止模擬電位サイクルの説明図である。
図6】実施例1のMEAを用いた単セルのIV特性評価である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0015】
本発明は、電子伝導性酸化物からなる酸化物担体と、前記酸化物担体の表面に固定された、イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子からなる単分子層と、前記酸化物担体の表面に担持された電極触媒粒子と、を有する電極材料(以下、「本発明の電極材料」と記載する。)に関する。
【0016】
図1に本発明の電極材料の模式図、図2に従来の電極材料と本発明の電極材料とのイオノマーの状態を示す説明図を示す。
本発明の電極材料は、炭素担体と比較して電気化学的安定性の高い電子伝導性酸化物からなる酸化物担体に電極触媒粒子が直接担持され、当該酸化物担体の表面(電極触媒粒子が担持されていない部分)に、イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子が薄膜状(単分子層)に修飾している構成を有する。これにより、イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子を電極材料内に有するため、電極を製造するに当たり、電極内に電解質材料を含ませなくとも、電極反応場(三相界面)にイオンを供給することができる。イオン伝導性官能基(典型的にはスルホン酸基)を有する低分子量のイオノマー分子を酸化物担体の表面全面(電極触媒粒子が担持している部分を除く)に単分子層(厚み3nm以下)で配列させるため、電極内のイオノマー分子が少量(1wt%未満)でも電極としてのイオン伝導を担えるという利点がある。
【0017】
図2左図に示すように、従来の電解質材料(イオノマー)を混合させるPEFC電極では、十分なイオン伝導性(プロトン伝導性)を発現させるため、触媒層表面に物理的に電解質材料(高分子量のイオノマー)をコーティングする形で吸着させている。そのため、電子伝導性酸化物からなる酸化物担体の場合、材料の10wt%程度の電解質材料(イオノマー分子)を必要としている。図2左に示すように、従来の電極材料では、電解質材料(イオノマー)によって電極触媒粒子を被覆されているため、電極反応場に酸素等の反応ガスの供給されることが阻害される。一方、図2右に示すように、本発明の電極材料では、酸化物担体の表面のみをイオノマー分子で薄膜状(単分子層)に修飾しているため、電極触媒粒子がイオノマー分子によって被覆されず、電極触媒粒子が露出しているため、電極反応場(いわゆる三相界面)へのガス供給が阻害されることを回避できる。このため、電極触媒粒子の触媒活性を落とさず、さらに燃料となる酸素などのガスの供給をスムーズに行うことが可能である。
【0018】
本発明の電解質材料は、PEFC用のカソード電極材料やアノード電極材料として好適に使用することができる。また、固体高分子形水電解装置の電極材料としても好適である。
【0019】
以下、本発明の電極材料における電子伝導性酸化物、イオノマー分子、及び電極触媒粒子についてより詳細に説明する。
【0020】
なお、本明細書において、「PEFCのカソード条件」とは、PEFCの通常運転時のカソードにおける条件であり、温度が室温~150℃、空気等の酸素を含むガスが供給される条件(酸化雰囲気)を意味し、「PEFCのアノード条件」とは、PEFCの通常運転時のアノードにおける条件であり、温度が室温~150℃、水素を含む燃料ガスが供給される条件(還元雰囲気)を意味する。なお、以下、「PEFCのカソード条件及びアノード条件の少なくとも一方の条件」を「燃料電池使用条件」と記載する場合がある。
【0021】
(電子伝導性酸化物)
本発明の電極材料における電子伝導性酸化物は、PEFCのカソード条件及びアノード条件の少なくとも一方の条件で安定な電子伝導性酸化物からなることが好ましい。
【0022】
電子伝導性酸化物として、具体的には、酸化スズ、酸化モリブデン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタン及び酸化タングステンから選択される1種を主体とする電子伝導性酸化物が挙げられる。ここで、本発明において「主体とする電子伝導性酸化物」とは、(A)母体酸化物のみからなるもの、及び(B)他元素をドープされた酸化物であって、母体酸化物が50mol%以上含まれる複合酸化物を意味する。
【0023】
ドープされる元素として、具体的には、Sn,Ti,Sb,Nb,Ta,W,In,V,Cr,Mn,Moなどが挙げられる(但し、母体酸化物と異なる元素である。)。ドープされる元素は、母体酸化物より価数が高い元素であり、例えば、母体酸化物が酸化スズの場合で例示すると、上記ドープ種元素のうち、Sn以外の元素(例えば、Nb)が選択される。
【0024】
本発明の電極材料をPEFCのカソード用として使用する場合における電子伝導性酸化物の好適な一例は、酸化スズを主体とする酸化物である。ここで、「酸化スズを主体とする酸化物」とは、対象となる酸化スズを50mol%以上含む複合酸化物である。
元素としてスズ(Sn)は、PEFCのカソード条件で、酸化物であるSnO2が熱力学的に安定であり酸化分解が起こらない。また、酸化スズは、十分な電子伝導性を有し、電極触媒粒子(特には貴金属粒子)を高分散で担持が可能な担体となる。
なお、アノード用として使用する場合には、酸化スズを主体とする酸化物はPEFCのアノード条件で還元され金属Snとなるため好ましくない。
【0025】
酸化スズを主体とする酸化物の中でも、より優れた電極性能を有する燃料電池用電極が形成できる点で、ニオブ(Nb)を0.1~20mol%ドープしたニオブドープ酸化スズが特に好ましい。
【0026】
本発明の電極材料の電子伝導性酸化物の他の好適な一例は、酸化チタンを主体とする酸化物である。元素としてチタン(Ti)は、PEFCのアノード条件で、酸化物であるTiO2が熱力学的に安定であり還元が起こらない。さらに酸化チタンを主体とする酸化物は、PEFCのアノード条件のみならず、カソード条件でも、酸化物であるTiO2が熱力学的に安定であるため、カソードとしても好適に使用できる。
【0027】
また、本発明の電極材料の電子伝導性酸化物の他の好適な一例は、スキン層がTiリッチ酸化物からなり、コア粒子がTi含有複合酸化物からなる態様である。
Tiリッチ酸化物層は、PEFCのカソード条件及びアノード条件の両方において安定であり、かつ、若干の電子導電性を有するため、スキン層として好適である。
【0028】
コア粒子のTi含有複合酸化物としては、例えば、Tiを含有するペロブスカイト型酸化物やスピネル型酸化物などが挙げられる。スキン層とコア粒子表面とが共にTiを含むため、結晶格子のマッチングがよい。
特にTi含有複合酸化物が、組成式がABO3で表されるペロブスカイト型酸化物であって、AサイトがCa、Sr、Ba、Laの群から選ばれる少なくとも1種であり、BサイトがTiである、Ti含有ペロブスカイト型酸化物であることが好ましい。
特に好適なTi含有ペロブスカイト型酸化物として、AサイトがSr、BサイトがTiであるSrTiO3である。なお、AサイトのSrの一部が他の原子に置換されてもよい。
【0029】
また、Ti含有ペロブスカイト型酸化物において、BサイトのTiの一部がSb,Nb,Ta,W,Co,V,Cr,Mn,Moの群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0030】
本発明の電極材料において、電子伝導性酸化物は、電極触媒粒子を担持する担体としての役割を有する。なお、以下の説明において、電子伝導性酸化物を「本発明の酸化物担体」と称する場合がある。
【0031】
電子伝導性酸化物の形状は特に制限はないが、典型的には粒子状や薄膜状である。
粒子状の電子伝導性酸化物の場合、好適には平均粒径3~200nmである。なお、「粒子状の電子伝導性酸化物の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる任意の粒子(20個)の粒子径の平均値により得ることができる。
薄膜状の電子伝導性酸化物の場合、好適には平均膜厚2~50nmである。なお、「薄膜状の電子伝導性酸化物の平均膜厚」は、薄膜の電子伝導性酸化物の厚み方向の断面電子顕微鏡像より調べられる任意位置の厚み(5点)の平均値により得ることができる。
【0032】
電子伝導性酸化物は、電極触媒の担持量を高めるために、機械的強度が保てる範囲で、表面性が大きい方が好ましい。具体的にはBET比表面積が70m/g以上が好適であり、より好適には100m/g以上、さらに好適には150m/g以上である。
【0033】
また、本発明の電極材料における電子伝導性酸化物の量は、電子伝導性酸化物の粒径(薄膜状の場合は膜厚)や表面積等の電子伝導性酸化物の物性、電子伝導性酸化物の製造方法によっても最適値がかわるため、十分な量の電極触媒粒子が担持できる範囲で適宜決定される。電子伝導性酸化物が少なすぎると、電極材料として十分な量の電極触媒粒子が担持できなくなる。電子伝導性酸化物が多すぎると電子伝導性酸化物の粒径(薄膜状の場合は膜厚)が大きくなりすぎて電極材料の電気抵抗が大きくなる場合がある。
【0034】
電子伝導性酸化物は、そのまま電極触媒の担体として使用することもできるし、これを導電補助材と複合化させて使用することもできる。なお、本明細書において、「導電補助材」とは、電極材料に含まれ、電極を形成した際に電子伝導性を向上させる役割を有するものを意味する。
【0035】
電子伝導性酸化物を、そのまま電極触媒の担体として使用する場合、連続的に接触でき、かつ燃料電池用電極内の水素や酸素などのガス拡散及び水(蒸気)の排出がスムーズに行える程度の空間を確保できる大きさ、形状であればよい。具体的には、平均粒径が1~500nm(好ましくは1~100nm)の一次粒子が凝集した平均粒径0.1~5μm(好ましくは0.3~1μm)の二次粒子が挙げられる。
【0036】
また、一次粒子(5nm~100nmの平均一次粒子径)の電子伝導性酸化物を融着させて形成した連鎖状または房状の構造の融着体であってもよい。
【0037】
本発明の電極材料は導電補助材に固定化されていてもよい。本発明の電極材料と導電補助材との固定化の態様の制限はないが、例えば、好適な態様として、電極材料が、導電補助材の表面上に分散担持された態様が挙げられる。この場合、電極材料の平均粒径が、1~200nmが好適であり、平均粒径1~40nmがより好適である。また、導電補助材を薄膜状の電子伝導性酸化物が被覆する形態であってもよい。薄膜状電子伝導性酸化物は、例えば、蒸着などの乾式法で導電補助材に対し、電子伝導性酸化物を被覆することで形成できる。
【0038】
導電補助材は特に制限はないが、導電性の高い、炭素系導電補助材や金属系導電補助材を使用できる。
【0039】
炭素系導電補助材は、粒状、繊維状等の任意の形状、大きさの炭素材料が使用できる。
例えば、繊維状炭素は相互接触性がよく、電子伝導性に優れ、電極を形成した際に導電パスが形成されるため、好適な炭素系材料の一つである。
繊維状炭素は、中空状あるいは繊維状の炭素材料であり、具体的にはカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバーが挙げられる。なお、本発明において、「カーボンナノチューブ」とは、単層CNT、2層CNT、複層CNT及びこれらの混合物を含む。
【0040】
ここで、電極を形成した際の電極内の電気伝導性とガス拡散性を両立させるためには、繊維状炭素は直径2nm~10μm、全長0.03~500μmであることが好適である。なお、中空状あるいは繊維状の炭素材料のうち、カーボンナノチューブに代表されるように、直径が100nm以下のもの、または、気相成長炭素繊維(Vaper Grown Carbon Fiber,VGCF)のような直径が100~1000nm程度のもの、活性炭素繊維のような直径が1μm~20μmのものを指すことが多いが、これらの炭素材料の長さと呼称についての明確な規定はないため、本明細書内ではこれらを合わせて繊維状炭素と称する。
【0041】
繊維状炭素として表面がグラファイト構造であるものを好適に用いることができる。表面がグラファイト構造である繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ(単層CNT、2層CNT、複層CNTの何れも含む)、気相成長炭素繊維(VGCF)が挙げられ、高結晶性、高純度のものが好ましい。
【0042】
また、金属系導電補助材として、チタンやチタン合金からなる導電補助材が挙げられ、特に繊維状のものが好ましく用いられる。なお、「チタン合金」とは「Tiを40モル%以上含む合金」を意味する。Tiと合金化させる金属は、本発明の目的を損なわない限り、特に限定されない。
【0043】
(イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子)
単分子層は、イオン伝導性官能基を有するイオノマー分子を酸化物担体表面に導入して形成される。イオノマー分子は、炭化水素系有機分子に、イオン伝導性官能基を導入した構造を有している。官能基を有する部分は有機分子末端や有機分子主鎖や分岐など、どの部分であってもよい。イオン伝導性官能基の固定化量は、酸化物担体の種類や表面積等、イオノマー分子を考慮して官能基の量や種類を制御することができる。
【0044】
イオノマー分子におけるフルオロカーボン系や炭化水素系のモノマーの長さ、分岐数などは、本発明の目的を損なわない限り特に制限はなく、電極触媒粒子の粒径等を考慮して選定されるが、通常、炭素数2~50(特には炭素数2~18)の分岐を有してもよい炭化水素鎖又はフルオロカーボン鎖が選択される。
【0045】
酸化物担体の表面へ導入するイオン伝導性官能基は、好適にはプロトン伝導性官能基であり、例えば、スルホン酸基、リン酸基及びカルボン酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するイオノマー分子(有機分子)が好適に用いられる。
この中でも、プロトン導電性の向上に優れるスルホン酸基を有するイオノマー分子が好適である。
【0046】
官能基を有する部分は、本発明の目的を損なわない限り、イオノマー分子(炭化水素鎖またはフルオロカーボン鎖)の末端や分岐など、どの部分であってもよい。
【0047】
酸化物担体の表面へイオノマー分子の単分子層を形成する方法は、例えば、イオン伝導性官能基を有するカップリング剤を用いる方法が好適である。この方法では、イオン伝導性官能基を有するカップリング剤と酸化物担体とが共有結合(シロキサン結合)した単分子層を形成できる。
【0048】
カップリング剤としては、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、及びジルコネートカップリング剤から成る群から選択されたカップリング剤等が挙げられる。
【0049】
カップリング剤は、一つの分子中に有機物との反応や相互作用が期待できる官能基と加水分解性基を持つ分子である。例えば、シランカップリング剤の場合、水により加水分解されて活性なシラノールとなり、酸化物担体表面の水酸基と反応し脱水縮合反応して強固な共有結合となる。
【0050】
官能基の導入において、例えばスルホン酸基を有するシランカップリング剤を使用する場合、スルホン酸基は酸性度が高く、シランカップリング剤の加水分解反応を促進させてしまう。このため、スルホン酸基を持ったシランカップリング剤は、比較的安定に合成することができない。そこで、まずスルホン酸基を生ずる別の官能基を有するシランカップリング剤を用いて、酸化物担体の表面に官能基を導入した後に、その官能基を化学反応によりスルホン酸基に変換させることにより、酸化物担体の表面のスルホン酸基を導入する。
【0051】
具体的には、例えば、スルホン酸エステル基を持ったシランカップリング剤を合成し、酸化物担体の表面処理を行った後に、スルホン酸エステル基を熱分解によりスルホン酸基に変換させる方法を採用すれば良い。チオール基もしくはスルフィド基を有するシランカップリング剤を合成し、表面処理を行った後に、酸化条件下にさらして、チオール基もしくはスルフィド基をスルホン酸基に変換させても良い。
【0052】
スルホン酸エステル基を有するシランカップリング剤は、特に限定されるものではないが、スルホン酸プロピル基やスルホン酸イソプロピル基を有するアルコキシシラン化合物が、スルホン酸エステル基の熱分解性が高いので好ましい。上記シランカップリングとしては、例えば、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0053】
シランカップリング剤での表面処理方法としては、(1)湿式法(2)乾式法のどちらを用いても構わない。ただし、(2)乾式法は均一処理が難しいという欠点があるため、(1)湿式法にて行うことが望ましい。
【0054】
スルホン酸基を導入する方法として、例えば、硫酸ガス、発煙硫酸、硫酸等で処理してスルホン酸基を導入する公知の方法を用いることも可能である。
【0055】
(電極触媒粒子)
電極触媒粒子は、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性を有するものであれば、貴金属系触媒、非貴金属系触媒のいずれでもよいが、好適には、Pt,Ru,Ir,Pd,Rh,Os,Au,Ag等の貴金属、及びこれらの貴金属を含む合金から選択される。なお、「貴金属を含む合金」とは「上記の貴金属のみからなる合金」と、「上記の貴金属とそれ以外の金属からなる合金で上記の貴金属を10質量%以上含む合金」を含む。貴金属と合金化させる上記「それ以外の金属」は、特に限定されないが、Co,Ni,Ti,W,Ta,Nb,Snを好適な例として挙げることができ、これらを1種類あるいは2種類以上を使用してもよい。また、分相した状態で2種類以上の上記貴金属及び貴金属を含む合金を使用してもよい。なお、上記貴金属、及びこれらの貴金属を含む合金を以下、「電極触媒金属」と呼ぶ場合がある。
【0056】
非貴金属系触媒としては、例えば、Ta,Zr,Ti,Wの酸化物(TaOx、ZrOx、TiOx、WOx)、窒化物(TaNx、ZrNx、TiNx)、酸窒化物(TaOxNy、ZrOxNy、TiOxNy)等が挙げられる(式中、x、yは任意の数)。
【0057】
電極触媒金属の中でも、本発明の電極材料を固体高分子形燃料電池(PEFC)の電極材料として使用する場合には、Pt及びPtを含む合金は、PEFCの作動温度である80℃付近の温度域において、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性が高いため、特に好適に使用することができる。
【0058】
また、本発明の電極材料を固体高分子形水電解装置の電極材料として使用する場合には電極触媒金属として水の電解活性に優れるIrやIr合金、PtやPt合金が好適である。この場合、IrやIr合金、PtやPt合金は熱処理等によりIr酸化物やPt酸化物として用いてもよい。
【0059】
電極触媒粒子の形状は、特に制限されず公知の電極触媒粒子と同様の形状のものが使用できる。具体的な形状として球形、楕円形、多面体、コアシェル構造等が挙げられる。また、電極触媒粒子の構造は、結晶に限定されず、非晶質であってよく、結晶と非晶質の混合体であってもよい。
【0060】
電極触媒粒子の大きさは、小さいほど電気化学反応が進行する有効表面積が増加するため、電気化学的触媒活性が高くなる傾向がある。しかし、その大きさが小さすぎると、電気化学的反応活性が低下する。従って、電極触媒粒子の大きさは、平均粒径として、0.3~30nm、より好ましくは1~10nmである。
なお、本発明における「電極触媒粒子の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる電極触媒粒子(20個)の粒径の平均値により得ることができる。電子顕微鏡像による平均粒径算出時は、微粒子の形状が、球形以外の場合は、粒子における最大長を示す方向の長さをその粒径とする。すなわち、本発明の電極材料における電極触媒粒子の好適な態様の一つは、前記電極触媒粒子が、平均粒子径0.3~30nmのPt及びPtを含む合金からなる電極触媒粒子である。
【0061】
なお、酸化物担体に固定化されたイオノマー分子単分子層の厚みは、酸化物担体に担持された電極触媒粒子の粒径より薄くなるような炭素数(及び分岐)のイオノマー分子が選択される。イオノマー分子単分子層の厚みは、通常、10nm以下(特には3nm以下、1nm以下)であり、電極触媒粒子はイオノマー分子単分子層に被覆されない。
【0062】
電極触媒粒子の担持量は、触媒の種類、酸化物担体(電子伝導性酸化物)の形状、大きさ等の条件を考慮して適宜決定される。触媒担持量が少なすぎると電極性能が不十分となり、多すぎると電極触媒粒子が凝集して性能が低下する場合がある。
【0063】
電極触媒粒子の担持量は、電極材料の全重量に対して、好ましくは1~60質量%、より好ましくは10~50質量%とすると、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の電極反応活性を得ることができる。
【0064】
また、電極触媒粒子の担持量は、酸化物担体(電子伝導性酸化物)に対して、通常、10~50質量%である。このような範囲であれば、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の電気化学的触媒活性を得ることができる。
前記担持量が少なすぎる場合は、電極反応活性が不十分であり、多すぎる場合は電極触媒粒子の凝集が起こりやすく、酸素や水素の電気化学反応に対する有効表面積が低下するという問題がある。なお、電極触媒粒子の担持量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分析(ICP)によって調べることができる。
【0065】
酸化物担体(電子伝導性酸化物)に電極触媒前駆体又は電極触媒粒子の担持方法としては公知の金属担持方法を採用することができる。
電極触媒前駆体としては、上述した説明した電極触媒の前駆体を担持した後に還元され、0価の電極触媒金属となるものであればよい。
電極触媒粒子が白金(Pt)である場合で電極触媒前駆体を具体的に例示すると、塩化白金、臭化白金、ヨウ化白金等のハロゲン化白金;クロロ白金酸、テトラクロロ白金酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金酸カリウム等の白金の無機酸塩;白金アセチルアセトナート、白金ヘキサフルオロアセチルアセトナート、ジクロロ(1,5-シクロオクタジエン)白金、シアン化白金等の白金の有機酸塩などが挙げられる。電極触媒粒子がPt以外の金属である場合には、それに対応する前駆体を使用すればよい。
【0066】
担持方法として、高分散で粒径の小さい電極触媒粒子を得ることが可能な好適な方法として、貴金属アセチルアセトナートを使用する貴金属アセチルアセトナート法と、貴金属コロイドを使用するコロイド法が挙げられる。
【0067】
電極触媒前駆体に貴金属アセチルアセトナートを使用する方法(貴金属アセチルアセトナート法)は、電極触媒前駆体である貴金属アセチルアセトナートを担体に担持した後に、電極触媒前駆体を電極触媒粒子へ直接的に変換する方法である。この方法では、貴金属前駆体に残留不純物を含まないため、触媒活性の向上が見込まれる。
【0068】
貴金属アセチルアセトナートとしては、Pt,Ru,Ir,Pd,Rh,Os,Au,Ag等の貴金属のアセチルアセトナートが挙げられ、これらを1種又は2種以上を使用することができる。溶媒は、貴金属アセチルアセトナートを分散できる有機溶媒であればよく、例えば、アセトン、ジクロロメタンが挙げられる。
【0069】
コロイド法は、電極触媒前駆体のコロイド(特に貴金属コロイド)を含む溶液に、担体を分散し、電極触媒前駆体のコロイドを還元して担体に電極触媒粒子として担持する方法である。コロイド法では界面活性剤、有機溶媒を用いることなく、ナノサイズの粒径分布の揃った電極金属粒子を生成できる。
【0070】
酸化物担体(電子伝導性酸化物)に担持された前記電極触媒粒子又は電極触媒前駆体は、不定比の金属酸化物を含むことがあり、そのままでは活性が低いため、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気、あるいは水素を含有する還元性雰囲気中で熱処理することで電極触媒となる金属の有する電気化学触媒作用を活性化する。
【0071】
熱処理条件は、電子伝導性酸化物の組成、電極触媒となる金属や前駆体の種類にもよって、適宜選択される。
【0072】
本発明の電極材料を用いて形成した電極について説明する。なお、本発明の電極材料を含む電極は、酸素の還元、水素の酸化に対する優れた電気化学的触媒活性を有するため、カソード及びアノードとして使用することができる。
【0073】
本発明の電極は、上述の電極材料のみから構成されていてもよいが、本発明の目的を損なわない限り、上述の電極材料以外の成分を含んでいてもよい。例えば、導電補助材、電解質材料、バインダーなどが挙げられる。
【0074】
本発明の電極材料を含む電極は、PEFC用電極として好適に使用することができる。また、PEFCと同様な高分子電解質膜を使用した水の電解装置用の電極としても好適に使用することができる。
【0075】
本発明の膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記カソードとアノードの少なくとも一方が、上記本発明の電極であることを特徴とする。
【0076】
本発明の膜電極接合体(MEA)は、固体高分子形燃料電池や固体高分子形水電解装置の用途に好適に使用できる。本発明の膜電極接合体において、本発明の電極以外の構成要素は、公知の固体高分子形燃料電池用又は固体高分子形水電解装置用の膜電極接合体と同様であるため(例えば、特許第6598159号公報、特許第6779470号公報参照)、詳細な説明を省略する。
【0077】
本発明の固体高分子形燃料電池において、本発明の膜電極接合体以外の構成要素は、公知の固体高分子形燃料電池と同様であるため、詳細な説明を省略する。典型的には、本発明の固体高分子形燃料電池(単セル)が発電性能に応じた基数だけ積層された燃料電池スタックが形成され、ガス供給装置、冷却装置などその他付随する装置を組み立てることにより使用される。
【0078】
また、本発明の固体高分子形水電解装置において、本発明の膜電極接合体以外の構成要素は、公知の固体高分子形水電解装置同様であるため、詳細な説明を省略する。
【実施例
【0079】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
<実施例1>
以下に説明する実施例1の電極材料(イオノマー分子未修飾)は、特許第6598159号公報、特許第6779470号公報で開示した方法に準じる方法で行った。電極触媒粒子、酸化物担体の担持量の算出、評価方法も同様である。
また、導電補助材として、以下の物性を有する繊維状炭素であるカーボンナノチューブ(CNT)(株式会社名城ナノカーボン製、MW-1、ナノチューブ直径:15nm)を使用した。
【0081】
まず、所定量の上記繊維状炭素に超純水を加え、超音波ホモジナイザーで攪拌し、繊維状炭素の分散液を得た。この分散液に塩化スズ水和物(SnCl2・2H2O)を入れ、さらに塩化ニオブ(NbCl5)を、Sn:Nb=98:2(mol比)の割合で添加し、ホットスターラーで50℃に保持して、攪拌しながらアンモニア水をビュレットで滴下した。アンモニア水の滴下後、1時間攪拌を続けたのちに、分散液の濾過、洗浄を行い、さらに乾燥させた後に、大気雰囲気下、600℃で2時間の熱処理を行い、ニオブドープ酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素を得た。
得られた酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素に、白金アセチルアセトナート法により、電極触媒粒子であるPt触媒粒子を担持した。Pt前駆体(Pt(C5722)の量は、Ptが17.3wt%になるようにした。ナスフラスコに、酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素およびPt前駆体を加え、さらにアセトンを加え溶解させた。次いで、ナスフラスコを氷冷しながら、超音波攪拌装置にて、溶媒が全て揮発するまで攪拌した。得られた粉末を、N2雰囲気下で、210℃で3時間、240℃で3時間還元処理を施すことで、電極材料(Pt/Nb-SnO2/CNT、イオノマー分子未修飾)を得た。
【0082】
電極材料(イオノマー分子未修飾)における割合は、電極触媒粒子(Pt)17.3wt%、酸化物担体(Nb-SnO)57.9wt%、繊維状炭素24.8wt%、酸化物担体:繊維状炭素=70:30(重量比)であった。
電極材料(イオノマー分子未修飾)の微細構造観察を行ったところ、繊維状炭素の表面に粒径状の酸化スズ粒子が担持され、Pt触媒粒子は繊維状炭素の表面にはなく、酸化スズ粒子に選択的に分散担持されていることが分かった。酸化スズ粒子のほとんどが粒径40nm以下であり、粒子20nm以下の粒子も多数認められた。観察されたPt触媒粒子の粒径は、すべて5nm以下であった。
【0083】
電極材料(イオノマー分子未修飾)に、イオノマー分子前駆体としてプロピルクロロ基を持つジエトキシシランをエタノール:水=1:1(vol)の混合溶液中で、室温、24時間撹拌することで、酸化物担体(Nb-SnO)の表面の水酸基と、プロピルクロロ基を持つジエトキシシランのエトキシ基とを加水分解によって縮合させることで、酸化物担体の表面に共有結合(シロキサン結合)で固定化された、イオノマー分子前駆体の単分子層を形成した(図3上図参照)。
得られた生成物を分画分子量1000の透析膜中に加え、超純水を用いて低分子量の不純物を取り除いた。透析後の凍結乾燥し、120℃で24時間熱処理した。
この試料をエタノール:水=1:3 (vol)の溶液に分散させ、硫酸ナトリウムNa2SO3を加え、48時間、還流することによってイオノマー分子前駆体の末端の塩素(Cl)をスルホン酸基にした(図3下図参照)。得られた生成物を分画分子量1000の透析膜中に加え、超純水を用いて低分子量の不純物を取り除いた。その後、スルホン酸基をプロトン化するために透析膜中に濃塩酸を加え、さらに超純水を用いて透析を行った。試料の溶液が中性になるまで透析を行い、試料を凍結乾燥で回収することで、実施例1の電極材料(イオノマー分子修飾)を得た。
【0084】
なお、実施例1の電極材料(イオノマー分子修飾)への有機官能基の導入量の評価は、TG(熱天秤)により測定を行い、電極材料(Pt/Nb-SnO2/CNT、イオノマー分子未修飾)に対して0.34wt%に相当するイオノマー分子が導入されていることが確認された。また、イオノマー分子の分布はSEM-EDXにより評価を行ったところ、電極材料の表面に硫黄元素が分布していることを確認されたことから(図4参照)、スルホン酸基が表面に固定化されていることが確認された。
以上から、実施例1の電極材料(イオノマー分子修飾)は、電極材料(酸化物担体)の表面にスルホン酸基を有するイオノマー分子が固定化されていると判断した。
【0085】
<電気化学的評価(単セル、発電、耐久性評価)>
実施例1の電極材料から形成されるカソードを有するMEAを用いて、電気化学的評価を行った。
【0086】
(実施例1)
まず、電解質膜として、ナフィオン膜(厚み:50μm)に、46wt%Pt/C(田中貴金属工業株式会社、TEC10E50E)を、ナフィオン溶液を含む所定の有機溶媒に分散させて、アノード形成用の分散溶液を調合した。得られた分散溶液をナフィオン膜上にスプレー印刷して、所定の厚みのアノード(電極触媒層)をナフィオン膜上に作製した。アノード(電極触媒層)の上には、ガス拡散層として撥水性カーボンペーパー(東レ社製,型番:EC-TP1-060T)を配置した。なお、アノードの形成において、Pt量が0.3mg/cm2になるように調整した。
次いで、実施例1の電極材料(イオノマー分子修飾)を、(ナフィオン溶液を含んでいない)所定の有機溶媒に分散させて、カソード形成用の分散溶液を調合した。電極材料をナフィオン膜に固定化するためのバインダーとして、AedotronTM C3-NM, C12-PEG-block-PEDOT-block-PEG-C12, PEDOT:PEG(シグマーアルドリッチ製)を固形成分に対して5wt%となるように加えた。得られた分散液を、アノードを形成したナフィオン膜の反対面に、スプレー印刷して、ナフィオン膜上に所定の厚みのカソード(電極触媒層)を作製した。アノード、カソードそれぞれの上にカーボンペーパーを配置して、所定の条件(0.3kN、130℃)で圧着して、実施例1のMEAを得た。なお、実施例1のMEAのカソードにおけるPt量は0.27mg/cm2である。
【0087】
(参考例1)
参考例として、固定化していないナフィオンを含むカソードに含む従来型のMEAを作製した。カソード形成用の分散溶液として、実施例1の電極材料(イオノマー分子修飾)に代えて、イオノマー分子を固定化していない電極材料(Pt/Nb-SnO2/CNT、イオノマー分子未修飾)を使用し、ナフィオン溶液を含む所定の有機溶媒に分散させて調合した分散溶液を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、参考例1のMEAを得た(カソード構成:電極材料92wt%、Nafion8wt%)。
【0088】
実施例1および参考例1のMEAを用いて、燃料電池実用化推進審議会「固体高分子形燃料電池の目標・研究開発課題と評価方法の提案(平成23年度改訂版)」における「III-3-3 試験名:電位サイクル試験法1/2」(起動停止模擬電位サイクル)に準じる方法でサイクル耐久性試験評価を行った。図5に起動停止模擬電位サイクルの説明図を示す。
まず、実実施例1および参考例1のMEAを使用して初期IV特性を測定した。次いで、起動停止模擬電位サイクルとして、電位を1.0Vから1.5Vまで0.5V/secで走査させて、三角波で加速試験を行い、所定回数サイクル後、IV測定を行うことを繰り返す。
評価装置には、燃料電池評価装置(東陽テクニカ社製、型番:PE-8900K)およびポテンショ/ガルバノスタット(Solatron社製、型番:SI1287)を用いた。
(アノード条件)
電極面積:1cm2
供給ガス種 :100% H2
ガス供給速度 :77mL/min
(カソード条件)
電極面積:1cm2
供給ガス種 : N2
ガス供給速度 :166mL/min
【0089】
図6に実施例1のMEAを用いた単セルの電流-電圧(IV)特性の評価結果を示す。図6に示すように、実施例1の電極材料をカソードとして用いた実施例のMEAでは、IV特性が0サイクルよりも2000サイクルで性能が向上した。実施例1の電極材料はスルホン酸基を有するイオノマー分子量は0.34wt%であったのにも関わらず、IV特性は、参考例1(Nafion8wt%)に匹敵する性能を示した。本発明で開発した材料は、Nafionを使用せず、わずか0.34wt%のイオノマー分子で発電できることが明らかとなった。また、5000サイクルまでは2000サイクルに準じる高い性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の電極材料は、長期運転が必要である燃料電池用の電極(特にはPEFC用電極)や水電解装置用電極に好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6