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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】降車支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
G08G1/16 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021106068
(22)【出願日】2021-06-25
(65)【公開番号】P2023004424
(43)【公開日】2023-01-17
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508097870
【氏名又は名称】コンチネンタル オートモーティヴ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Continental Automotive GmbH
【住所又は居所原語表記】Vahrenwalder Strasse 9, D-30165 Hannover, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏次
(72)【発明者】
【氏名】徳田 将則
(72)【発明者】
【氏名】石田 正穂
(72)【発明者】
【氏名】福田 純也
(72)【発明者】
【氏名】征矢 竜一
(72)【発明者】
【氏名】米沢 友貴
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-078674(JP,A)
【文献】特開2020-078959(JP,A)
【文献】特開2021-096845(JP,A)
【文献】特開2016-045838(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0041816(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の後方に存在する物標を検出し、前記検出された物標に関する情報を物標情報として取得する物標情報取得装置と、
前記自車両の乗員の安全な降車を支援する降車支援制御を実行可能な制御ユニットと、
を備えた降車支援装置において、
前記制御ユニットは、
停車中に前記乗員の安全な降車を阻害する可能性がある阻害物標が検出されたか否かを前記物標情報に基づいて判定し、
少なくとも前記阻害物標が検出された場合に成立する降車支援条件が成立しているか否かを判定し、
前記降車支援条件が成立している場合、前記自車両の前後方向と、前記阻害物標の進行方向と、が成す角度の変化率の大きさが所定の変化率閾値以上である場合に成立する特定条件が成立しているか否かを判定し、
前記特定条件が成立していない場合は前記降車支援制御を実行し、
前記特定条件が成立している場合は前記降車支援制御を実行しない、
ように構成された、
降車支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の降車支援装置において、
前記阻害物標の前端部のうち前記自車両の車幅方向において前記自車両に最も近接している部分を近接部と規定すると、
前記制御ユニットは、
更に、前記自車両から前記阻害物標の前記近接部までの前記車幅方向における距離が所定の距離閾値を超えている場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成された、
降車支援装置。
【請求項3】
請求項1に記載の降車支援装置において、
前記阻害物標の前端部のうち前記自車両の車幅方向において前記自車両に最も近接している部分を近接部と規定し、
前記自車両の左右の後方角部から車幅外側方向にそれぞれ延びている、所定の長さを有する仮想線を交差判定線と規定すると、
前記制御ユニットは、
前記検出された物標が現在の進行方向に沿って移動を継続すると仮定した場合に前記交差判定線を通過するときは、この物標が前記交差判定線と交差するまでに要すると予測される予測時間が所定の時間閾値以下である場合に、この物標が阻害物標であると判定する、
ように構成されており、
更に、前記阻害物標の前記近接部が前記交差判定線の端部より車幅外側方向に位置している場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成された、
降車支援装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の降車支援装置において、
前記制御ユニットは、
更に、前記自車両の車幅方向における前記阻害物標の速度の大きさが所定の速度閾値より大きい場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成された、
降車支援装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の降車支援装置において、
前記制御ユニットは、
更に、前記自車両の前記前後方向と、前記阻害物標の前記進行方向と、が成す角度の大きさが所定の角度閾値以上である場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成された、
降車支援装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の降車支援装置において、
前記制御ユニットは、
更に、前記物標情報取得装置によって前記阻害物標が最初に検出された時点から現時点までの期間における、前記阻害物標の前記自車両の車幅方向における総移動量に対する、前記前後方向における総移動量の比が所定の移動量比閾値未満である場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成された、
降車支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降車支援制御の不要作動を抑制することが可能な降車支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の乗員の安全な降車を支援する降車支援制御を実行可能な降車支援装置が知られている。降車支援装置は、例えば、停車中に乗員の安全な降車を阻害する(別言すれば、車両の側方を通過する)可能性がある阻害物標が検出された場合において乗員の降車意図が検出されたときに降車支援制御を実行するように構成されている。
【0003】
例えば、特許文献1の車両後方監視装置は、自車両の停止が検出され、且つ、自車両の後席からの降車開始が検出された場合において後席の着座者の安全な降車を阻害する可能性がある移動車両が自車両の後方において検出されたときは、着座者に移動車両の接近を通知するように構成されている。具体的には、この車両後方監視装置は、移動車両の移動方向及び移動速度を演算し、当該演算された移動方向及び移動速度に基づいて、移動車両が、自身が検出された時点から所定時間以内に危険エリア(自車両後方に位置するエリア)に進入すると判定された場合に、当該移動車両は着座者の安全な降車を阻害する可能性があると判定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-78674号公報
【発明の概要】
【0005】
降車支援制御が実行されることにより、ドア又は乗員が阻害物標と接触してしまう可能性を低減することができる。しかしながら、その一方で、降車支援制御が不要な場面にも関わらず当該制御が実行されると、乗員に煩わしさを与えたり乗員の安全な降車を却って妨げたりする可能性がある。ここで、「降車支援制御が不要な場面」とは、例えば、実際には阻害物標には該当しない物標が進行方向を変更することに起因して一時的に阻害物標として誤検出されるような場面である。このため、降車支援制御の不要作動を抑制して当該制御の信頼性を向上させることが求められている。
【0006】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、降車支援制御の不要作動を抑制することが可能な降車支援装置を提供することにある。
【0007】
本発明による降車支援装置(以下、「本発明装置」と称する。)は、
自車両の後方に存在する物標を検出し、前記検出された物標に関する情報を物標情報として取得する物標情報取得装置(12)と、
前記自車両の乗員の安全な降車を支援する降車支援制御を実行可能な制御ユニット(10)と、
を備える。
前記制御ユニット(10)は、
停車中に前記乗員の安全な降車を阻害する可能性がある阻害物標が検出されたか否かを前記物標情報に基づいて判定し、
少なくとも前記阻害物標が検出された場合に成立する降車支援条件が成立しているか否かを判定し、
前記降車支援条件が成立している場合、前記自車両の前後方向(x軸方向)と、前記阻害物標の進行方向と、が成す角度(θ)の変化率の大きさ(|ω|)が所定の変化率閾値(ωth)以上である場合に成立する特定条件が成立しているか否かを判定し、
前記特定条件が成立していない場合は前記降車支援制御を実行し、
前記特定条件が成立している場合は前記降車支援制御を実行しない、
ように構成されている。
【0008】
従来の降車支援装置は、例えば、停車中に阻害物標が検出され且つ乗員の降車意図が検出された場合に成立する実行条件が成立しているときは、降車支援制御を実行する。この構成によれば、実際には阻害物標には該当しない物標が進行方向を変更することに起因して阻害物標として誤検出されたときにも実行条件が成立したときには降車支援制御が実行されるため、不要作動の原因となっていた。
【0009】
ここで、本願発明者らは、物標が進行方向を変更することに起因して阻害物標として誤検出される期間においては、当該物標は、自車両の前後方向と当該物標の進行方向とが成す角度の変化率の大きさが所定の変化率閾値以上となるように移動している傾向があるとの知見を得た。この知見に基づき、本願発明者らは、本発明装置を以下のように構成した。即ち、本発明装置は、降車支援条件が成立している場合、直ちに降車支援制御を実行するのではなく、特定条件、即ち、上記角度の変化率の大きさが変化率閾値以上である場合に成立する条件が成立しているか否かを判定するように構成されている。そして、特定条件が成立していない場合は物標が阻害物標として誤検出されている可能性は低いと判定して降車支援制御を実行し、特定条件が成立している場合は物標が進行方向を変更することに起因して阻害物標として誤検出されている可能性が高いと判定して降車支援制御を実行しないように構成されている。
【0010】
この構成によれば、実際に降車支援制御が必要な場面では当該制御を適切に実行しながら、当該制御の不要作動を抑制することができ、降車支援制御の信頼性を向上させることができる。
【0011】
本発明の一側面では、
前記阻害物標の前端部のうち前記自車両の車幅方向において前記自車両に最も近接している部分を近接部(np)と規定すると、
前記制御ユニット(10)は、
更に、前記自車両から前記阻害物標の前記近接部(np)までの前記車幅方向(y軸方向)における距離が所定の距離閾値を超えている場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成されている。
【0012】
本願発明者らは、物標が進行方向を変更することに起因して阻害物標として誤検出される期間においては、当該物標は、自車両から近接部までの車幅方向における距離が所定の距離閾値を超えている傾向があるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明の一側面では、更に、自車両から近接部までの車幅方向における距離が距離閾値を超えている場合に特定条件が成立するように構成されている。この構成によれば、降車支援制御が不要作動であるか否かの判定精度がより高くなり、降車支援制御をより適切に実行することができる。
【0013】
本発明の一側面では、
前記阻害物標の前端部のうち前記自車両の車幅方向において前記自車両に最も近接している部分を近接部(np)と規定し、
前記自車両の左右の後方角部から車幅外側方向にそれぞれ延びている、所定の長さを有する仮想線を交差判定線(LL、LR)と規定すると、
前記制御ユニット(10)は、
前記検出された物標が現在の進行方向に沿って移動を継続すると仮定した場合に前記交差判定線(LL、LR)を通過するときは、この物標が前記交差判定線(LL、LR)と交差するまでに要すると予測される予測時間(TTC)が所定の時間閾値(TTCth)以下である場合に、この物標が阻害物標であると判定する、
ように構成されており、
更に、前記阻害物標の前記近接部(np)が前記交差判定線(LL、LR)の端部より車幅外側方向に位置している場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成されている。
【0014】
本願発明者らは、物標が進行方向を変更することに起因して阻害物標として誤検出される期間においては、当該物標の近接部は交差判定線の端部より車幅外側方向に位置している傾向があるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明の一側面では、更に、阻害物標の近接部が交差判定線の端部より車幅外側方向に位置している場合に特定条件が成立するように構成されている。この構成によれば、降車支援制御が不要作動であるか否かの判定精度がより高くなり、降車支援制御をより適切に実行することができる。
【0015】
本発明の一側面では、
前記制御ユニット(10)は、
更に、前記自車両の車幅方向(y軸方向)における前記阻害物標の速度(vy)の大きさ(|vy|)が所定の速度閾値(vyth)より大きい場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成されている。
【0016】
本願発明者らは、物標が進行方向を変更することに起因して阻害物標として誤検出される期間においては、当該物標は、自車両の車幅方向における速度の大きさが所定の速度閾値より大きくなるように移動している傾向があるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明の一側面では、更に、自車両の車幅方向における阻害物標の速度の大きさが速度閾値より大きい場合に特定条件が成立するように構成されている。この構成によれば、降車支援制御が不要作動であるか否かの判定精度が更に高くなり、降車支援制御を更に適切に実行することができる。
【0017】
本発明の一側面では、
前記制御ユニット(10)は、
更に、前記自車両の前記前後方向(x軸方向)と、前記阻害物標の前記進行方向と、が成す角度(θ)の大きさ(|θ|)が所定の角度閾値(θth)以上である場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成されている。
【0018】
本願発明者らは、物標が進行方向を変更することに起因して阻害物標として誤検出される期間においては、当該物標は、自車両の前後方向と阻害物標の進行方向とが成す角度の大きさが所定の角度閾値以上となるように移動している傾向があるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明の一側面では、更に、上記角度の大きさが角度閾値以上である場合に特定条件が成立するように構成されている。この構成によれば、降車支援制御が不要作動であるか否かの判定精度が一層高くなり、降車支援制御を一層適切に実行することができる。
【0019】
本発明の一側面では、
前記制御ユニット(10)は、
更に、前記物標情報取得装置(12)によって前記阻害物標が最初に検出された時点から現時点までの期間における、前記阻害物標の前記自車両の車幅方向(y軸方向)における総移動量(Δy)に対する、前記前後方向(x軸方向)における総移動量(Δx)の比(Δx/Δy)が所定の移動量比閾値((Δx/Δy)th)未満である場合に前記特定条件が成立していると判定する、
ように構成されている。
【0020】
本願発明者らは、物標が進行方向を変更することに起因して阻害物標として誤検出される期間においては、当該物標は、物標情報取得装置によって当該物標が最初に検出された時点から現時点までの期間における、阻害物標の自車両の車幅方向における総移動量に対する、前後方向における総移動量の比が所定の移動量比閾値未満となるように移動している傾向があるとの知見を得た。この知見に基づき、本発明の一側面では、更に、上記比が移動量比閾値未満である場合に特定条件が成立するように構成されている。この構成によれば、降車支援制御が不要作動であるか否かの判定精度がより一層高くなり、降車支援制御をより一層適切に実行することができる。
【0021】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る降車支援装置(本実施装置)の概略構成図である。
図2】本実施装置が備えるレーダセンサの立体物検出範囲を示す図であり、レーダセンサによって検出された物標のTTCの演算方法を説明するための図である。
図3A】特定条件について説明するための図であり、警報条件が成立する場合において警報制御の不要作動が抑制されるケースを例示する図である。
図3B】特定条件について説明するための図であり、警報条件が成立する場合において警報制御が適切に実行されるケースを例示する図である。
図4】本実施装置の降車支援ECUのCPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
図5】CPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
図6】CPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(構成)
以下、本発明の実施形態に係る降車支援装置(以下、「本実施装置」とも称する。)について図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施装置は、降車支援ECU10、及び、これに接続された車速センサ11、レーダセンサ12、ドア開閉センサ13、及び、ブザー20を備える。降車支援ECU10は、マイクロコンピュータを主要部として備える。ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース(I/F)等を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。以下では、本実施装置が搭載された車両を「自車両」と称する。
【0024】
降車支援ECU10は、上記センサ11乃至13が発生又は出力する信号を所定の時間が経過する毎に取得し、取得した信号に基づいてブザー20を制御するように構成されている。以下では、降車支援ECU10を、単に「ECU10」とも称する。
【0025】
車速センサ11は、自車両の走行速度(以下、「車速」と称する。)に応じた信号を発生する。ECU10は、車速センサ11が発生した信号を取得し、当該信号に基づいて車速を演算する。車速がゼロの場合、ECU10は、自車両が停止状態にある(以下、「停車中」とも称する。)と判定する。
【0026】
レーダセンサ12(物標情報取得装置)は、自車両の後方(真後ろ及び後側方)に存在する立体物(物標)に関する情報を取得する機能を有している。立体物は、車両、自転車、歩行者等の移動物である。
【0027】
図2に示すように、レーダセンサ12は、自車両Vの左後方角部に設けられた左レーダセンサ12Lと、自車両Vの右後方角部に設けられた右レーダセンサ12Rと、を含む。レーダセンサ12は、ミリ波帯の電波を自車両の周囲に照射する。具体的には、左レーダセンサ12Lは、自車両の左後方の左側領域RLを含む範囲に電波を照射し、右レーダセンサ12Rは、自車両の右後方の右側領域RRを含む範囲に電波を照射する。左側領域RL及び右側領域RRは、何れも自車両Vから後方に離間するにつれて車幅外側方向及び車幅内側方向に長くなる形状となっている。なお、図2では、便宜上、領域RL及びRRの自車両Vに対する比率等は変更して図示されている。
【0028】
レーダセンサ12は、立体物が電波の照射範囲内に存在する場合、その立体物からの反射波を受信する。レーダセンサ12は、電波の照射タイミングと受信タイミングと等に基づいて、立体物の有無、及び、自車両と立体物との相対関係(自車両から立体物までの距離、自車両に対する立体物の方位、及び、自車両に対する立体物の相対速度等)を演算する。別言すれば、レーダセンサ12は、自車両の後方に存在する立体物を検出する。以下では、レーダセンサ12によって検出された立体物(即ち、領域RL又はRRに存在する立体物)を「物標」とも称する。レーダセンサ12は、物標に関するこれらの情報を物標情報としてECU10に出力する。
【0029】
なお、物標情報を取得するセンサはレーダセンサ12に限られない。例えば、レーダセンサ12に代えて、又は、加えて、レーザーレーダセンサ、超音波センサ、及び/又は、カメラセンサ等が用いられてもよい。或いは、レーダセンサ12として、ブラインドスポットモニタ制御に使用されるセンサが使用されてもよい。ブラインドスポットモニタ制御は、後方から自車両に接近する車両(特に、サイドミラーでは確認し難い領域に存在する車両)を検出した場合に自車両の運転者に注意喚起する制御である。
【0030】
図1に戻って説明を続ける。ドア開閉センサ13は、自車両が有する複数のドア(より詳細には、サイドドア)のそれぞれに設けられている。ドア開閉センサ13は、ドアの開閉状態を検出する。ドア開閉センサ13は、ドアが開状態にあることを検出した場合、開状態が検出されている期間中、当該ドアが開状態にあることを示す開信号を発生する。ドア開閉センサ13は、ドアが閉状態にあることを検出した場合、閉状態が検出されている期間中、当該ドアが閉状態にあることを示す閉信号を発生する。ECU10は、これらのドア開閉センサ13のそれぞれが開信号及び閉信号の何れを発生しているかを検出し、その検出結果に基づいて、そのドア開閉センサ13に対応するドアが開状態であるのか閉状態であるのかを検出する。
【0031】
ブザー20は、メーターパネル(図示省略)に内蔵されており、ECU10からの駆動指令に基づいて鳴動するように構成されている。
【0032】
(作動の詳細)
従来の降車支援装置は、例えば、停車中に乗員の安全な降車を阻害する可能性がある阻害物標が検出された場合において乗員の降車意図が検出されたときは降車支援制御を実行するように構成されている。この構成によれば、実際には阻害物標には該当しない物標が進行方向を変更することに起因して一時的に阻害物標として誤検出され、その結果、不要な降車支援制御が実行されてしまう可能性がある。
そこで、本実施装置は、停車中に阻害物標が検出され且つ乗員の降車意図が検出された場合において、「阻害物標が進行方向を変更している場合に成立する可能性が高い条件」である特定条件(後述)が成立しているときは、当該阻害物標は実際には阻害物標に該当しないと判定して降車支援制御を実行しないように構成されている。なお、本実施形態では、ECU10は、降車支援制御として警報制御を実行する。警報制御は、ブザー20を鳴動させる処理を実行する制御である。以下、ECU10の作動について詳細に説明する。
【0033】
ECU10は、以下の条件1乃至条件3の全てが成立している場合、警報条件が成立していると判定する。なお、警報条件は、「降車支援条件」の一例に相当する。
(条件1)自車両が停止状態にある。
(条件2)阻害物標が検出されている。
(条件3)自車両のドアが開状態である。
【0034】
まず、条件1について説明する。ECU10は、車速センサ11から取得される車速がゼロの場合、条件1が成立していると判定する。
【0035】
次に、条件2について説明する。阻害物標とは、自車両に後方から接近して乗員の安全な降車を阻害する可能性がある移動物を意味する。ECU10は、以下のようにして阻害物標を検出する。即ち、ECU10は、レーダセンサ12から取得される物標情報に基づいて左側領域RL又は右側領域RRに物標が存在すると判定した場合、当該物標が自車両に接触又は最接近するまでに要すると予測される予測時間を演算する。以下では、説明の便宜上、この予測時間を「TTC(Time To Collision)」とも称する。TTCが所定の時間閾値TTCth以下である場合、ECU10は、当該物標を阻害物標として検出し、条件2が成立していると判定する。
【0036】
図2を参照してより詳細に説明する。図2は、他車両Vtが自車両Vに後方から接近している様子を示す。図2に示すように、ECU10は、自車両Vが停止状態にある場合(即ち、条件1が成立している場合)、自車両Vの後端中央部を原点としたxy座標系を設定する。x軸は自車両Vの前後方向に延びており、y軸は自車両Vの車幅方向(左右方向)に延びている。
【0037】
加えて、ECU10は、自車両Vが停止状態にある場合、自車両Vに交差判定線Lを設定する。交差判定線Lは、TTCを演算するために設定される仮想線であり、左側交差判定線LLと、右側交差判定線LRと、を含む。左側交差判定線LLは、自車両Vの左後方角部からy軸上を-y軸方向(車幅外側方向)に延びており、右側交差判定線LRは、自車両Vの右後方角部からy軸上を+y軸方向(車幅外側方向)に延びている。左右の交差判定線LL及びLRの長さは互いに同一(例えば、約1.3[m])であり、本実施形態では、自車両Vの左右の後方角部における領域RL、RRのy軸方向の長さに略等しい。なお、左右の交差判定線LL、LRの長さは、「自車両Vの乗員が降車している最中に物標がこれらの判定線LL、LR上の任意の位置を通過すると自車両Vのドア又は乗員と接触する可能性がある」程度の長さとなるように、実験又はシミュレーションにより予め設定されている。
【0038】
ECU10は、自車両Vが停止状態にある場合、物標情報に基づいて物標(図2の例では、他車両Vt)の速度ベクトルAを演算し、その始点を、物標の近接部npに設定する。近接部npは、物標の前端部のうちy軸方向において自車両Vに最も近接している部分である。なお、速度ベクトルAは、例えば、物標の位置(距離及び方位)の時間微分により演算され得る。
【0039】
ECU10は、物標の速度ベクトルAの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れか一方と交差する場合、「物標が交差判定線Lと交差するまでに要すると予測される時間(別言すれば、物標の速度ベクトルAの延長線と交差判定線Lとの交点に物標が到達するまでに要すると予測される時間)」をTTCとして演算する。TTCは、物標情報を用いて、例えば、「近接部npから上記交点までの距離」を「物標の現時点の速度」で除算することにより演算され得る。
【0040】
物標が将来的に左側交差判定線LLと交差する場合のTTCがTTCth以下の場合、ECU10は、当該物標は乗員が左側のドアから安全に降車することを阻害する可能性があると判定し、当該物標を左側のドアに対する阻害物標として検出する。
一方、物標が将来的に右側交差判定線LRと交差する場合のTTCがTTCth以下の場合、ECU10は、当該物標は乗員が右側のドアから安全に降車することを阻害する可能性があると判定し、当該物標を右側のドアに対する阻害物標として検出する。
これらの場合、ECU10は、条件2が成立していると判定する。
【0041】
他方、物標が将来的に左右の交差判定線LL、LRの何れか一方と交差するものの、TTCがTTCthを超えている場合、ECU10は、当該物標は(現時点では)乗員の安全な降車を阻害する可能性はないと判定し、当該物標を阻害物標として検出しない。
これに対し、物標の速度ベクトルAの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れとも交差しない場合、TTCは演算され得ず、従って、ECU10は、当該物標を阻害物標として検出しない。
これらの場合、ECU10は、条件2が成立していないと判定する。
【0042】
図2の例では、他車両Vtは、現時点の速度ベクトルAによれば、将来的に右側交差判定線LRと交差する。このため、ECU10は、他車両VtについてTTCを演算し、TTCがTTCth以下の場合は他車両Vtを右側のドアに対する阻害物標として検出し、TTCがTTCthを超えている場合は他車両Vtを阻害物標として検出しない。
【0043】
続いて、条件3について説明する。ECU10は、ドア開閉センサ13から取得した信号に基づいて、阻害物標が検出された側のドアが開状態であると判定した場合、条件3が成立していると判定する。
【0044】
ECU10は、警報条件が成立している場合、警報条件を満たす阻害物標について特定条件が成立しているか否かを判定する。特定条件は、以下のようにして設定された。即ち、本願発明者らは、実際には阻害物標には該当しない物標(別言すれば、最終的には自車両の側方を通過しない、即ち、交差判定線Lを通過しない物標)が進行方向を変更することに起因して一時的に阻害物標として誤検出される(即ち、条件2が成立する)状況を、実験及び/又はシミュレーションにより複数のパターンで想定した。そして、誤検出される期間中において、これら複数のパターンで共通して観測される物標の特徴を抽出した。ここで、複数のパターンは、物標の軌跡、速度及び加速度(減速度を含む)、並びに、自車両の向き(即ち、車線の延在方向に対する自車両の前後方向の向き)等の種々のパラメータを変化させることにより想定され得る。以下の条件a乃至条件eは、抽出した特徴に基づいて導入された条件である。本実施形態では、ECU10は、条件a乃至条件eの全てが成立している場合に特定条件が成立すると判定する。
【0045】
(条件a)自車両の前後方向と、阻害物標の進行方向と、が成す角度θの変化率の大きさ|ω|が所定の変化率閾値ωth以上である。
(条件b)阻害物標がy軸方向において左右の交差判定線LL、LRより外側に位置している。
(条件c)阻害物標の速度vのy軸成分の大きさ|vy|が所定の速度閾値vythより大きい。
(条件d)角度θの大きさ|θ|が所定の角度閾値θth以上である。
(条件e)阻害物標がレーダセンサ12によって最初に検出された時点から現時点までの期間における、阻害物標のy軸方向における総移動量Δyに対する、x軸方向における総移動量Δxの比である移動量比Δx/Δyが、所定の移動量比閾値(Δx/Δy)th未満である。
【0046】
まず、条件aについて説明する。ECU10は、x軸と阻害物標の速度ベクトルAとが成す角度を角度θとして演算し、角度θの時間微分値の絶対値を角度θの変化率の大きさ|ω|として演算する。条件aは、阻害物標が|ω|≧ωthを満たす場合に成立する。実験及び/又はシミュレーションによれば、何れのパターンにおいても、物標が阻害物標として誤検出される期間においては、角度θはある程度大きな変化率で変化していた。このため、条件aが導入された。なお、変化率閾値ωthは、このような期間において|ω|≧ωthが成立し易く、且つ、阻害物標が進行方向を変更していない場合には|ω|≧ωthが成立し難くなるような値に設定されている。
【0047】
次に、条件bについて説明する。条件bは、阻害物標の近接部npのy座標の大きさ|npy|が交差判定線Lの端部のy座標の大きさ|Ly|より大きい場合に成立する。実験及び/又はシミュレーションによれば、何れのパターンにおいても、物標が阻害物標として誤検出される期間においては、|npy|>|Ly|が成立していた。このため、条件bが導入された。なお、条件bは、別言すれば、自車両の後端中央部(即ち、原点)から阻害物標の近接部npまでのy軸方向における距離dが所定の距離閾値(本実施形態では、|Ly|)を超えている場合に成立する条件ということもできる。但し、距離dは自車両の後端中央部を基準とする構成に限られず、例えば、自車両の左右の後方角部のうち、x軸に関して阻害物標が位置している側の後方角部を基準とした距離であってもよい。また、距離閾値は、|Ly|に限られず、例えば、|Ly|に所定のマージンを追加した値であってもよい。
【0048】
続いて、条件cについて説明する。条件cは、阻害物標が|vy|>vythを満たす場合に成立する。実験及び/又はシミュレーションによれば、何れのパターンにおいても、物標が阻害物標として誤検出される期間においては、物標は、y軸成分の大きさ|vy|がある程度大きな値となるような速度vで移動していた。このため、条件cが導入された。なお、速度閾値vythは、このような期間において|vy|>vythが成立し易く、且つ、阻害物標が進行方向を変更していない場合には|vy|>vythが成立し難くなるような値に設定されている。
【0049】
次いで、条件dについて説明する。条件dは、阻害物標が|θ|≧θthを満たす場合に成立する。実験及び/又はシミュレーションによれば、何れのパターンにおいても、物標が阻害物標として誤検出される期間においては、角度θの大きさ|θ|はある程度大きな値であった。このため、条件dが導入された。なお、角度閾値θthは、このような期間において|θ|≧θthが成立し易く、且つ、阻害物標が進行方向を変更していない場合には|θ|≧θthが成立し難くなるような値に設定されている。
【0050】
最後に、条件eについて説明する。ECU10は、レーダセンサ12によって物標が検出されると、当該物標が最初に検出された時点から現時点までの期間における、当該物標のy軸方向における移動量(正の値)を積算して総移動量Δyを演算するとともに、同期間における当該物標のx軸方向における移動量(正の値)を積算して総移動量Δxを演算する。条件eは、阻害物標がΔx/Δy<(Δx/Δy)thを満たす場合に成立する。実験及び/又はシミュレーションによれば、何れのパターンにおいても、物標が阻害物標として誤検出される期間においては、物標は、ある程度小さな移動量比Δx/Δyで移動していた(別言すれば、物標は、y軸方向における総移動量Δyのほうがx軸方向における総移動量Δxよりも大きくなるように移動していた。)。このため、条件eが導入された。なお、移動量比閾値(Δx/Δy)thは、このような期間においてΔx/Δy<(Δx/Δy)thが成立し易く、且つ、阻害物標が進行方向を変更していない場合にはΔx/Δy<(Δx/Δy)thが成立し難くなるような値に設定されている。
【0051】
条件a乃至条件eの全てが成立している場合、阻害物標(と判定された物標)は進行方向を変更している可能性が高い。即ち、特定条件は、阻害物標が進行方向を変更している場合に成立する可能性が高い条件である。ECU10は、特定条件が成立している場合、「条件2の成立により阻害物標と判定された物標」は実際には阻害物標に該当しない(即ち、物標が進行方向を変更することに起因して一時的に条件2が成立してしまったに過ぎない)と判定し、警報制御を実行しない。一方、ECU10は、特定条件が成立していない場合、阻害物標が進行方向を変更している可能性は低い(即ち、物標は実際に阻害物標である可能性が高い)と判定し、警報制御を実行する。
【0052】
特定条件の作用効果について図3A及び図3Bを参照して説明する。図3A及び図3Bは、何れも停車中の自車両Vから乗員が右側のドアを開放して降車しようとしている状況下(即ち、条件1及び条件3が成立している状況下)において、他車両Vtが左方向に車線変更しながら自車両Vに後方から接近している様子を示す。図3A及び図3Bに示すように、他車両Vtの車線変更の軌跡は両図において共通である。
【0053】
なお、図3A及び図3Bに例示される状況は、典型的には、左側通行が定められている国(対向車線が走行車線に対して右側に位置する車線レイアウトが採用されている国)において起こり得る。右側通行が定められている国(対向車線が走行車線に対して左側に位置する車線レイアウトが採用されている国)においては、図3A及び図3Bの他車両Vtを、x軸について対称移動させた場合において自車両Vの乗員が左側のドアを開放して降車しようとするときに同様の状況が起こり得る。しかしながら、左側通行が定められている国において警報制御の不要作動が発生する状況は、乗員が右側のドアから降車しようとするときに限られず、左側のドアから降車しようとするときにも起こり得る。これは、右側通行が定められている国においても同様である。
【0054】
まず、図3Aについて説明する。図3A中の状態S1乃至状態S5は、他車両Vtが車線変更する過程を経時的に示している。具体的には、状態S1が車線変更を開始した時点における状態を示し、状態S3が左方向の操舵量が最大となった時点における状態を示し、状態S5が車線変更を終了した時点における状態を示す。また、状態S2は他車両Vtが状態S1から状態S3に遷移する過程の一時点における状態を示し、状態S4は他車両Vtが状態S3から状態S5に遷移する過程の一時点における状態を示す。なお、矢印A1乃至A5は、状態S1乃至状態S5における他車両Vtの速度ベクトルをそれぞれ示す。
【0055】
他車両Vtは、状態S5において車線変更を終了した後は、この時点における速度ベクトルA5の方向に直進すると考えられる。図3Aに示すように、速度ベクトルA5の延長線は、左右の交差判定線LL、LRの何れとも交差していない。このため、本例における他車両Vtは、阻害物標には該当しない。別言すれば、他車両Vtについては警報制御を実行する必要はない。
また、状態S1及びS3における他車両Vtの速度ベクトルA1及びA3の延長線も、左右の交差判定線LL、LRの何れとも交差していない。このため、他車両Vtが状態S1、S3又はS5の何れかの状態にある場合、他車両Vtは、阻害物標として検出されない。
【0056】
これに対し、状態S2及びS4における他車両Vtの速度ベクトルA2及びA4の延長線は、右側交差判定線LR及び左側交差判定線LLとそれぞれ交差している。ここで、図3Aの例では他車両VtについてTTC≦TTCthが常に成立すると仮定すると、「他車両Vtが状態S1から状態S3に遷移する過程でその速度ベクトルAの延長線が右側交差判定線LR及び左側交差判定線LLと交差する期間(以下、「第1交差期間」とも称する。)」及び「他車両Vtが状態S3から状態S5に遷移する過程でその速度ベクトルAの延長線が左側交差判定線LL及び右側交差判定線LRと交差する期間(以下、「第2交差期間」とも称する。)」においては、他車両Vtは、阻害物標として検出される。これにより、第1及び第2交差期間においては警報条件が成立することになる。
【0057】
従って、ECU10は、第1及び第2交差期間においては特定条件が成立しているか否かを判定する。本例では、他車両Vtは車線変更に伴い進行方向を変更している。このため、第1及び第2交差期間においては、|ω|≧ωth(条件a)、|vy|>vyth(条件c)、|θ|≧θth(条件d)及びΔx/Δy<(Δx/Δy)th(条件e)が何れも成立していると考えられる。また、図3Aから明らかなように、第1及び第2交差期間においては|npy|>|Ly|(条件b)が成立している。従って、ECU10は、特定条件が成立していると判定し、他車両Vtについては警報制御を実行しない。即ち、ECU10は、第1及び第2交差期間において他車両Vtが阻害物標として検出され、これにより警報条件が成立した場合であっても、特定条件が成立しているときは、当該他車両Vtは進行方向を変更することに起因して一時的に阻害物標として誤検出されたと判定し、警報制御を実行しない。この構成によれば、警報制御の不要作動が抑制される。
【0058】
次に、図3Bについて説明する。図3B中の状態S6乃至状態S10は、他車両Vtが車線変更する過程を経時的に示している。具体的には、状態S6が車線変更を開始した時点における状態を示し、状態S8が左方向の操舵量が最大となった時点における状態を示し、状態S10が車線変更を終了した時点における状態を示す。また、状態S7は他車両Vtが状態S6から状態S8に遷移する過程の一時点における状態を示し、状態S9は他車両Vtが状態S8から状態S10に遷移する過程の一時点における状態を示す。なお、矢印A6乃至A10は、状態S6乃至状態S10における他車両Vtの速度ベクトルをそれぞれ示す。
【0059】
他車両Vtは、状態S10において車線変更を終了した後は、この時点における速度ベクトルA10の方向に直進すると考えられる。図3Bに示すように、速度ベクトルA10の延長線は、右側交差判定線LRと交差している。このため、本例における他車両Vtは、阻害物標に該当する。別言すれば、他車両Vtについては警報制御を実行する必要がある。
一方、状態S6及びS8における他車両Vtの速度ベクトルA6及びA8の延長線は、左右の交差判定線LL、LRの何れとも交差していない。このため、他車両Vtが状態S6又はS8の何れかの状態にある場合、他車両Vtは、阻害物標として検出されない。
【0060】
これに対し、状態S7及びS9における他車両Vtの速度ベクトルA7及びA9の延長線は、右側交差判定線LR及び左側交差判定線LLとそれぞれ交差している。ここで、図3Bの例でも他車両VtについてTTC≦TTCthが常に成立すると仮定すると、「他車両Vtが状態S6から状態S8に遷移する過程でその速度ベクトルAの延長線が右側交差判定線LR及び左側交差判定線LLと交差する期間(以下、「第3交差期間」とも称する。)」及び「他車両Vtが状態S8から状態S10に遷移する過程でその速度ベクトルAの延長線が左側交差判定線LL及び右側交差判定線LRと交差する期間(以下、「第4交差期間」とも称する。)」においては、他車両Vtは、阻害物標として検出される。これにより、第3及び第4交差期間においては警報条件が成立することになる。なお、本例では、状態S10の時点は、第4交差期間に含まれている。
【0061】
従って、ECU10は、第3及び第4交差期間においては特定条件が成立しているか否かを判定する。本例では、他車両Vtは車線変更に伴い進行方向を変更している。このため、第3及び第4交差期間においては、|ω|≧ωth(条件a)、|vy|>vyth(条件c)、|θ|≧θth(条件d)及びΔx/Δy<(Δx/Δy)th(条件e)が何れも成立していると考えられる。しかしながら、図3Bから明らかなように、第3交差期間においては|npy|>|Ly|(条件b)が成立しているものの、第4交差期間においては|npy|>|Ly|(条件b)は成立していない。このため、ECU10は、第3交差期間においては特定条件が成立していると判定して警報制御は実行しないが、第4交差期間においては条件bの不成立により特定条件は成立していないと判定して警報制御を実行する。
【0062】
加えて、第4交差期間の終了時点(即ち、状態S10の時点)から、他車両Vt(厳密には、近接部np)が右側交差判定線LRを通過する時点まで、の期間においても、他車両Vtは阻害物標として検出され、これにより警報条件が成立する。従って、ECU10は、当該期間においても特定条件が成立しているか否かを判定する。図3Bから明らかなように、当該期間においては、条件a、c、d及びeは何れも成立していないと考えられる。また、|npy|<|Ly|であるため、条件bも成立していない。このため、ECU10は、当該期間においては条件a乃至条件eの不成立により特定条件は成立していないと判定して警報制御を実行する。
【0063】
即ち、図3Bの例では、ECU10は、第4交差期間の開始時点から他車両Vtが右側交差判定線LRを通過する時点までの期間において、他車両Vtについて警報制御を実行する。この構成によれば、物標が実際に阻害物標に該当する場合には警報制御が適切に実行される。別言すれば、特定条件の導入に起因して、実際に警報制御が必要な場面においてまで当該制御が実行されなくなるという事態が発生し難くなる。
【0064】
従来の降車支援装置によれば、警報条件が成立した場合は警報制御が実行されるため、実際には阻害物標には該当しない物標であっても進行方向を変更することに起因して阻害物標として誤検出された場合には警報制御が実行されてしまい、不要作動となっていた。これに対し、本実施装置によれば、図3A及び図3Bに例示するように、警報条件が成立した場合は直ちに警報制御を実行するのではなく、特定条件が成立しているか否かを判定し、成立していないときにのみ警報制御を実行する。このため、実際に警報制御が必要な場面では当該制御を適切に実行しながら、当該制御の不要作動を抑制することができ、警報制御の信頼性を向上させることができる。
【0065】
(具体的作動)
続いて、ECU10の具体的作動について説明する。ECU10のCPUは、ECU10に電源が供給されている期間中(後述)、所定時間が経過する毎に図4乃至図6にフローチャートにより示したルーチンをこの順に繰り返し実行するように構成されている。
【0066】
所定のタイミングになると、CPUは、図4のステップ400から処理を開始してステップ410に進み、車速センサ11から取得した車速に基づいて自車両が停止状態にあるか否かを判定する(条件1)。自車両が走行状態にある場合、CPUは、ステップ410にて「No」と判定し(即ち、条件1が成立しない(警報条件が成立しない)と判定し)、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、自車両が停止状態にある場合、CPUは、ステップ410にて「Yes」と判定し(即ち、条件1が成立すると判定し)、ステップ420に進む。
【0067】
ステップ420では、CPUは、レーダセンサ12から取得した物標情報に基づいて物標が検出されたか否かを判定する。物標が検出されていない場合、CPUは、ステップ420にて「No」と判定し、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、物標が検出された場合、CPUは、ステップ420にて「Yes」と判定し、ステップ430に進む。
【0068】
ステップ430では、CPUは、検出された物標の速度ベクトルAを物標情報に基づいて演算し、速度ベクトルAの延長線が左右の交差判定線LL、LRの何れかと交差する場合、当該物標についてTTCを演算する。その後、CPUは、ステップ440に進む。
【0069】
ステップ440では、CPUは、検出された物標についてTTC≦TTCthが成立しているか否かを判定する(条件2)。TTC>TTCthである場合、CPUは、ステップ440にて「No」と判定し(即ち、条件2が成立しない(警報条件が成立しない)と判定し)、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、TTC≦TTCthである場合、CPUは、ステップ440にて「Yes」と判定し(即ち、条件2が成立する(物標は阻害物標である)と判定し)、ステップ450に進む。
【0070】
ステップ450では、CPUは、ドア開閉センサ13から取得した信号に基づいてドア(阻害物標が検出された側のドア)が開状態であるか否かを判定する。ドアが閉状態の場合、CPUは、ステップ450にて「No」と判定し(即ち、条件3が成立しない(警報条件が成立しない)と判定し)、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、ドアが開状態の場合、CPUは、ステップ450にて「Yes」と判定し(即ち、条件3が成立すると判定し)、ステップ460に進んで警報条件が成立したと判定する。その後、CPUは、ステップ495に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0071】
ステップ460にて警報条件が成立したと判定した場合、CPUは、図5のステップ500から処理を開始してステップ510に進み、図4のステップ440にて「Yes」と判定された物標(即ち、阻害物標)が|ω|≧ωthを満たしているか否かを判定する(条件a)。|ω|<ωthである場合、CPUは、ステップ510にて「No」と判定し(即ち、条件aが成立しない(特定条件が成立しない)と判定し)、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、|ω|≧ωthである場合、CPUは、ステップ510にて「Yes」と判定し(即ち、条件aが成立すると判定し)、ステップ520に進む。
【0072】
ステップ520では、CPUは、阻害物標が|npy|>|Ly|を満たしているか否かを判定する(条件b)。|npy|≦|Ly|である場合、CPUは、ステップ520にて「No」と判定し(即ち、条件bが成立しない(特定条件が成立しない)と判定し)、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、|npy|>|Ly|である場合、CPUは、ステップ520にて「Yes」と判定し(即ち、条件bが成立すると判定し)、ステップ530に進む。
【0073】
ステップ530では、CPUは、阻害物標が|vy|>vythを満たしているか否かを判定する(条件c)。|vy|≦vythである場合、CPUは、ステップ530にて「No」と判定し(即ち、条件cが成立しない(特定条件が成立しない)と判定し)、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、|vy|>vythである場合、CPUは、ステップ530にて「Yes」と判定し(即ち、条件cが成立すると判定し)、ステップ540に進む。
【0074】
ステップ540では、CPUは、阻害物標が|θ|≧θthを満たしているか否かを判定する(条件d)。|θ|<θthである場合、CPUは、ステップ540にて「No」と判定し(即ち、条件dが成立しない(特定条件が成立しない)と判定し)、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、|θ|≧θthである場合、CPUは、ステップ540にて「Yes」と判定し(即ち、条件dが成立すると判定し)、ステップ550に進む。
【0075】
ステップ550では、CPUは、阻害物標がΔx/Δy<(Δx/Δy)thを満たしているか否かを判定する(条件e)。Δx/Δy≧(Δx/Δy)thである場合、CPUは、ステップ550にて「No」と判定し(即ち、条件eが成立しない(特定条件が成立しない)と判定し)、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、Δx/Δy<(Δx/Δy)thである場合、CPUは、ステップ550にて「Yes」と判定し(即ち、条件eが成立すると判定し)、ステップ560に進んで特定条件が成立したと判定する。その後、CPUは、ステップ595に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0076】
その後、CPUは、図6のステップ600から処理を開始してステップ610に進み、図4のルーチンの判定結果に基づいて警報条件が成立しているか否かを判定する。警報条件が成立していない場合(ステップ410、420、440又は450の何れかにおいて「No」と判定された場合)、CPUは、ステップ610にて「No」と判定し、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、CPUは警報制御を実行しない。一方、警報条件が成立している場合(ステップ460)、CPUは、ステップ610にて「Yes」と判定し、ステップ620に進む。
【0077】
ステップ620では、CPUは、図5のルーチンの判定結果に基づいて特定条件が成立しているか否かを判定する。特定条件が成立していない場合(ステップ510、520、530、540又は550の何れかにおいて「No」と判定された場合)、CPUは、ステップ620にて「No」と判定し(即ち、警報制御が必要な状況であると判定し)、ステップ630に進む。ステップ630では、CPUは、ブザー20に駆動指令を送信してブザー20を鳴動させる。これにより、警報制御が実行される。その後、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0078】
一方、特定条件が成立している場合(ステップ560)、CPUは、ステップ620にて「Yes」と判定し(即ち、実際には阻害物標には該当しない物標が進行方向を変更していることに起因して阻害物標として誤検出されたことにより警報条件が成立しているに過ぎないと判定し)、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。即ち、CPUは、警報制御を実行しない。これにより、実際に警報制御が必要な場面では当該制御を適切に実行しながら、当該制御の不要作動を抑制することができ、警報制御の信頼性を向上させることができる。その後、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0079】
ECU10への電源供給は、イグニッションスイッチがオフされた後も所定の条件が成立するまで継続される。この条件は、例えば、ドアがロックされた時点で成立するように構成されてもよいし、自車両が停止してから所定の停車時間が経過した時点で成立するように構成されてもよい。この構成によれば、警報制御が必要な場面で当該制御が実行されないという可能性を低減でき、警報制御をより適切に実行できる。
【0080】
以上、本実施形態に係る降車支援装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。
【0081】
例えば、上記実施形態では特定条件は条件a乃至条件eの全てが成立した場合に成立するが、特定条件の成立要件はこれに限られない。例えば、特定条件は、条件aが成立した場合に成立するように構成されてもよい。警報条件が成立した場合において|ω|≧ωthが成立するときは、物標が進行方向を変更することに起因して阻害物標として誤検出されている可能性が極めて高い。このため、特定条件が条件aのみが成立した場合に成立するように構成された場合であっても、警報制御の不要作動を抑制できる。或いは、特定条件は、条件aと、条件b乃至条件eの少なくとも1つの条件と、の全てが成立した場合に成立するように構成されてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では降車支援制御として警報制御が実行されたが、降車支援制御の種類はこれに限られない。例えば、ドアの開放の度合いを制限するドア開放制限制御、又は、ドアをロックするドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。或いは、警報制御に加えてドア開放制限制御又はドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。
【0083】
更に、上記実施形態では警報制御としてブザー20を鳴動させる処理が実行されたが、警報制御の処理内容はこれに限られない。例えば、以下の処理、即ち、阻害物標が検出された側のサイドミラーインジケータ(自車両の左右のサイドミラーのそれぞれの所定の位置に設けられたインジケータ)を点灯させる処理、メーターパネルに所定のマーク(例えば、阻害物標が左後方又は右後方の何れの方向から接近しているのかを明示するマーク)を表示させる処理、及び/又は、スピーカ(ナビゲーションシステムの構成要素)に所定のメッセージ(例えば、「接近車両にご注意下さい」とのメッセージ)を発話させる処理が、ブザー20を鳴動させる処理に代えて、又は、加えて、警報制御として実行されてもよい。
【0084】
更に、上記実施形態では、条件2は、物標についてTTC≦TTCthが成立した時点で成立するが、条件2の成立要件はこれに限られない。例えば、物標についてTTC≦TTCthが所定の継続時間だけ継続した場合に条件2が成立するように構成されてもよい。また、条件3は、阻害物標が検出された側のドアが閉状態から開状態に変化した時点で成立するように構成されてもよい。或いは、条件3は、車内に設置されたカメラ(車内の乗員を撮像可能なカメラ)により撮像された画像データに基づいて乗員がドア操作部(典型的にはドアのインナーレバー)を操作している動作が検出された場合に成立するように構成されてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、警報条件は条件1乃至条件3の全てが成立した場合に成立するが、警報条件の成立要件はこれに限られない。例えば、警報条件は、条件3を含んでいなくてもよく、条件1及び条件2が成立した場合に成立するように構成されてもよい。別言すれば、警報制御は、乗員に降車意図があるか否かに関わらず実行されるように構成されてもよい。
【0086】
或いは、警報制御は、2段階で実行されてもよい。具体的には、警報制御は、2種類の制御、即ち、通常警報制御と軽度警報制御(通常警報制御よりも支援の程度が軽度な制御)を含む。軽度警報制御は、例えば、上述したサイドミラーインジケータ点灯処理を実行する制御であり、通常警報制御は、例えば、サイドミラーインジケータ点灯処理に加え、上述した「ブザー鳴動処理、メーターパネル上マーク表示処理、スピーカ発話処理」の少なくとも1つを実行する制御である。軽度警報制御は、条件1及び条件2が成立した場合(即ち、停車中に阻害物標が検出されたものの、ドアが閉状態である場合)に実行される。通常警報制御は、条件1及び条件2に加え、条件3が更に成立した場合(即ち、停車中に阻害物標が検出され且つドアが開状態の場合)に実行される。
ドアが閉状態の場合、乗員が当該ドアから降車しようとしているか否かを判別できない。別言すれば、乗員に降車意図はあるものの現時点では当該ドアを開けていないだけという可能性、及び、乗員に降車意図はなく当該ドアは引き続き閉状態に維持されるという可能性、の両方が考えられる。このため、当該ドアが閉状態の場合は軽度警報制御を実行することにより、「降車意図がある乗員には前もって阻害物標の存在を報知しておくこと」と、「降車意図がない乗員には通常警報制御が実行されることに起因した煩わしさを与えないこと」と、を両立させることができる。
なお、条件1乃至条件3が全て成立している場合、通常警報制御に代えて、上述したドア開放制限制御又はドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。或いは、通常警報制御に加えて、ドア開放制限制御又はドアロック制御が降車支援制御として実行されてもよい。
【0087】
更に、上記実施形態では、交差判定線Lを導入し、物標のTTCに基づいて阻害物標を検出するように構成されているが、阻害物標の検出方法はこれに限られない。例えば、自車両の後方(典型的には、左後側方及び右後側方)に所定の大きさ及び形状を有する仮想的なエリア(より詳細には、レーダセンサ12の照射範囲内のエリア)を設定し、レーダセンサ12により検出された物標が当該エリア内に位置している場合に当該物標を阻害物標として検出するように構成されてもよい。この場合、上記エリアの形状は特に限定されず、例えば、台形形状又は長方形形状であってもよい。
【符号の説明】
【0088】
10:降車支援ECU、11:車速センサ、12:レーダセンサ、13:ドア開閉センサ、20:ブザー
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6