(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】高疲労強度の医療用チタン合金とその熱間加工及び熱処理方法、並びに機器
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20240628BHJP
A61L 27/06 20060101ALI20240628BHJP
A61L 31/02 20060101ALI20240628BHJP
B21J 5/00 20060101ALI20240628BHJP
C22B 9/20 20060101ALI20240628BHJP
C22B 34/12 20060101ALI20240628BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20240628BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
A61L27/06
A61L31/02
B21J5/00 E
B21J5/00 K
C22B9/20
C22B34/12 102
C22F1/18 H
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 630G
C22F1/00 630K
C22F1/00 675
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694B
(21)【出願番号】P 2022527905
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 CN2020128354
(87)【国際公開番号】W WO2021093805
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】201911122249.9
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521522353
【氏名又は名称】▲蘇▼州森▲鋒▼医▲療▼器械有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】魏翔
(72)【発明者】
【氏名】于亜川
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-084888(JP,A)
【文献】特開2003-201530(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102936670(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第106868342(CN,A)
【文献】特開2010-150624(JP,A)
【文献】国際公開第2012/147998(WO,A1)
【文献】特開2014-019945(JP,A)
【文献】特開2015-140478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
B21J 1/00-19/04
B21K 1/00-31/00
C22B 1/00-61/00
C22F 1/00- 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用チタン合金インゴットを提供し、前記医療用チタン合金インゴットは、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム
、4.0~8.0%の銅
、残部としてのチタン及び不可避不純物からなり、
前記医療用チタン合金インゴットを事前鍛造して医療用チタン合金半製品を取得し、
前記医療用チタン合金半製品を820~860℃で保温してから多方向鍛造を行うことで、医療用チタン合金鍛造品を取得することを特徴とする医療用チタン合金の熱間加工方法。
【請求項2】
上記の医療用チタン合金インゴットを提供する際に、
前記医療用チタン合金インゴットは、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム
、5.0~8.0%の銅
、残部としてのチタン及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項1に記載の医療用チタン合金の熱間加工方法。
【請求項3】
上記の医療用チタン合金インゴットを事前鍛造する際には、
前記医療用チタン合金インゴットについて、950~1100℃で2~4時間の均一化処理を行い、
前記医療用チタン合金インゴットを複数回に分けて鍛造し、鍛造終了温度は900℃より低くてはならないことを特徴とする請求項1に記載の医療用チタン合金の熱間加工方法。
【請求項4】
上記の医療用チタン合金半製品を820~860℃で保温してから多方向鍛造を行う際には、
前記医療用チタン合金半製品を820~860℃で1~3時間保温し、
前記医療用チタン合金半製品を多方向鍛造することを特徴とする請求項1に記載の医療用チタン合金の熱間加工方法。
【請求項5】
上記の医療用チタン合金インゴットを提供する際には、
医療用チタン合金原料を提供し、前記医療用チタン合金原料は、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム
、4.0~8.0%の銅
、残部としてのチタン及び不可避不純物からなり、
前記医療用チタン合金原料を製錬し、型に流し込んで前記医療用チタン合金インゴットを取得することを特徴とする請求項1に記載の医療用チタン合金の熱間加工方法。
【請求項6】
上記の医療用チタン合金原料を製錬する際には、
前記医療用チタン合金原料を電気アーク炉に入れて製錬するか、或いは、
前記医療用チタン合金原料を消耗電極式真空アーク炉に入れて再溶解精錬を行うことを特徴とする請求項5に記載の医療用チタン合金の熱間加工方法。
【請求項7】
医療用チタン合金鍛造品を提供し、前記医療用チタン合金鍛造品は、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム
、4.0~8.0%の銅
、残部としてのチタン及び不可避不純物からなり、
前記医療用チタン合金鍛造品をアニーリング処理して医療用チタン合金アニーリング品を取得し、前記アニーリング処理の条件は680~760℃とし、0.5~2時間保温することを特徴とする医療用チタン合金の熱処理方法。
【請求項8】
上記の医療用チタン合金鍛造品を提供する際に、
前記医療用チタン合金鍛造品は、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム
、5.0~8.0%の銅
、残部としてのチタン及び不可避不純物からなることを特徴とする請求項7に記載の医療用チタン合金の熱処理方法。
【請求項9】
上記の医療用チタン合金鍛造品をアニーリング処理したあと、更に、
前記医療用チタン合金アニーリング品を室温まで空冷することを特徴とする請求項7に記載の医療用チタン合金の熱処理方法。
【請求項10】
上記の医療用チタン合金鍛造品をアニーリング処理する前に、更に、
前記医療用チタン合金鍛造品を水焼入れ処理することを特徴とする請求項7に記載の医療用チタン合金の熱処理方法。
【請求項11】
上記の医療用チタン合金鍛造品を提供する際には、
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法を用い、チタン合金インゴットを熱間加工して前記医療用チタン合金鍛造品を取得することを特徴とする請求項7に記載の医療用チタン合金の熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、医療材料の技術分野に関し、特に、高疲労強度の医療用チタン合金とその熱間加工及び熱処理方法、並びに機器に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、良好な総合的力学性能、耐食性能、加工性能及び生体適合性を有し、人工関節、骨スクリュー、ボーンニードル、骨固定用プレート、脊柱矯正体内固定システム、歯科用インプラントといった重要な埋め込み医療機器の製造に幅広く応用されている。現在、チタン合金は、整形外科、歯科、脳外科等の埋め込み又は挿入医療機器の製造に使用される最も重要な原材料の1つとなっている。
【0003】
統計によると、一般的な成人が1年間に1日3度の食事で咀嚼する回数は50~100万回にも達する。通常、歯の咬合力は2~40kgの範囲で変動するが、交番荷重の作用によって、埋め込まれた人工の歯科用インプラントには、降伏強度よりも遥かに低い条件で疲労破壊が発生することがある。報告によると、初期に開発されたTi-6Al-4V合金の歯科用インプラントの場合には、術後6ヶ月以内に疲労強度不足による破断が複数回発生したという。材料製造及び加工技術の発展に伴って、チタン合金の性能はより安定し、現在の歯科用インプラント手術の短期成功率は98%にも達し得る。ところが、患者への埋め込みから15年後のフローアップの結果、インプラントの機能喪失に起因する修復は依然として20%を超えることが分かった。また、別の報告によると、成人の片方の股関節は1年あたりの運動頻度が100~200万回にも達する。通常の歩行周期において、人間の寛骨、膝及びくるぶしには体重の3~10倍もの負荷がかかるため、埋め込まれた人工関節材料は相当な応力を受けることになる。チタン合金の人工関節ステムは、疲労強度不足から破断することが多く、深刻な医療事故を招来している。統計によると、90%を超えるチタン合金の人工股関節プロテーゼが、術後8~10年以内に二度の修復手術を必要としており、相当な心身のプレッシャー及び負担を患者に与えている。そこで、患者に対する臨床治療の有効性及び長期安全性を達成するために、チタン合金材料に良好な疲労性能を持たせる必要がある。
【0004】
周知のように、材料の表面平滑度の向上や、材料の表面処理によって、金属材料の疲労強度を向上させることが可能である。表面が滑らかであるほど(即ち、粗さが低いほど)、材料の疲労強度は向上する。しかし、医療用チタン合金の場合には、良好な生体適合性を保証するために、敢えて表面粗さを向上させねばならないことが多い。これは、表面粗さを低下させて疲労性能を向上させるという方法が往々にして実行不可能なことを意味する。例えば、表面ショットピーニングや表面窒化処理、表面コーティング等の表面処理を材料に対して行えば、短期的には材料の疲労強度を著しく向上させられるが、使用期間が長くなるほど、コーティングに摩損や 離が発生する恐れがある。これにより、材料の疲労強度が低下するだけでなく、一連のバイオセーフティ問題が発生する場合もある。以上述べたように、臨床応用において医療用チタン合金に発生する疲労強度不足の問題に対し、従来のチタン合金材料の改良及び最適化が絶えず行われており、より高い疲労強度を有する新型のチタン合金が積極的に開発されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願が主として解決しようとする技術的課題は、医療用チタン合金とその熱間加工及び熱処理方法、並びに機器を提供し、医療用チタン合金が高い疲労強度を持ち得るようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の技術的課題を解決するために、本願で採用する技術方案の1つは以下の通りである。
【0007】
医療用チタン合金を提供する。当該医療用チタン合金は、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム及び4.0~8.0%の銅を含む。
【0008】
医療用チタン合金にはナノスケールのTi2Cu相が含まれている。
【0009】
上記の技術的課題を解決するために、本願で採用するもう一つの技術方案は以下の通りである。
【0010】
医療用チタン合金の熱間加工方法を提供する。当該方法は、以下を含む。即ち、医療用チタン合金インゴットを提供する。医療用チタン合金インゴットは、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム及び4.0~8.0%の銅を含む。医療用チタン合金インゴットを事前鍛造し、医療用チタン合金半製品を取得する。医療用チタン合金半製品を820~860℃で保温してから多方向鍛造を行うことで、医療用チタン合金鍛造品を取得する。
【0011】
医療用チタン合金インゴットを事前鍛造する際には、医療用チタン合金インゴットについて、950~1100℃で2~4時間の均一化処理を行い、医療用チタン合金インゴットを複数回に分けて鍛造する。鍛造終了温度は900℃より低くてはならない。
【0012】
医療用チタン合金半製品を820~860℃で保温してから多方向鍛造を行う際には、医療用チタン合金半製品を820~860℃で1~3時間保温し、医療用チタン合金半製品を多方向鍛造する。
【0013】
医療用チタン合金インゴットを提供する際には、医療用チタン合金原料を提供する。医療用チタン合金原料は、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム及び4.0~8.0%の銅を含む。医療用チタン合金原料を製錬し、型に流し込んで医療用チタン合金インゴットを取得する。
【0014】
医療用チタン合金原料を製錬する際には、医療用チタン合金原料を電気アーク炉に入れて製錬する。或いは、医療用チタン合金原料を消耗電極式真空アーク炉に入れて再溶解精錬を行う。
【0015】
少なくとも3回の再溶解精錬を行って、医療用チタン合金インゴットを取得する。
【0016】
上記の技術的課題を解決するために、本願で採用するもう一つの技術方案は以下の通りである。
【0017】
医療用チタン合金の熱処理方法を提供する。当該方法は以下を含む。即ち、医療用チタン合金鍛造品を提供する。医療用チタン合金鍛造品は、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム及び4.0~8.0%の銅を含む。医療用チタン合金鍛造品をアニーリング処理して医療用チタン合金アニーリング品を取得する。アニーリング処理の条件は680~760℃とし、0.5~2時間保温する。
【0018】
医療用チタン合金鍛造品をアニーリング処理したあと、更に、医療用チタン合金アニーリング品を室温まで空冷する。
【0019】
医療用チタン合金鍛造品をアニーリング処理する前に、更に、医療用チタン合金鍛造品を水焼入れ処理する。
【0020】
医療用チタン合金鍛造品を提供する際には、上記の医療用チタン合金の熱間加工方法を用い、チタン合金インゴットを熱間加工して医療用チタン合金鍛造品を取得する。
【0021】
上記の技術的課題を解決するために、本願で採用するもう一つの技術方案は以下の通りである。
【0022】
医療用チタン合金機器を提供する。当該医療用チタン合金機器は、上記の医療用チタン合金を用いて製造される。
【発明の効果】
【0023】
本願の有益な効果は以下の通りである。従来技術の場合と異なり、本願で提供する医療用チタン合金は、チタン合金に適量の銅元素を添加することで、得られるチタン合金の全体的な力学性能を向上させることができ、特に、得られるチタン合金の疲労強度を向上させられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本願の実施例における医療用チタン合金の微細構造の光学写真である。
【
図2】
図2は、本願の実施例における医療用チタン合金の微細構造の透過型電子顕微鏡写真である。
【
図3】
図3は、本願の実施例における医療用チタン合金のX線回折パターンである。
【
図4】
図4は、本願の実施例における医療用チタン合金の微細構造の走査電子顕微鏡写真である。
【
図6】
図6は、従来の医療用チタン合金の微細構造の走査電子顕微鏡写真である。
【
図7】
図7は、本願の実施例において疲労性能テストを実施した疲労試験片のサイズの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願の目的、技術方案及び効果をより明瞭、明確とするために、以下では、図面を参照し、且つ実施例を挙げて本願につき更に詳細に説明する。
【0026】
より高い疲労強度を有する新型のチタン合金を開発するために、本願の発明者は、材料の成分及び/又は微細構造の最適化によって金属材料の疲労強度を向上させられることを見出した。これは、材料自体の強度が向上した場合、それに伴って、一般的には疲労強度も向上するためである。よって、材料学の観点から、材料の成分及び/又は微細構造を最適化することで、医療用チタン合金の疲労性能を高めることが可能である。
【0027】
本願は、医療用チタン合金を提供する。当該医療用チタン合金は、3.0~6.0%のバナジウム(V)、5.0~7.0%のアルミニウム(Al)及び4.0~8.0%の銅(Cu)を含む。銅の含有量は、4.0%、4.4%、4.8%、5.0%、5.2%、5.5%、5.8%、6.0%、6.5%、7.0%等とすることが可能であり、バナジウムの含有量は、3.0%、4.2%、5.3%、6.0%等とすることが可能であり、アルミニウムの含有量は、5.0%、5.7%、6.3%、7.0%等とすることが可能である。
【0028】
更に、医療用チタン合金は、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム、及び4.4~5.5%の銅を含み、残部がチタン(Ti)及び不可避な不純物元素である。合金中の不純物元素の含有量は、医療用チタン合金の国家基準における相応の要求を満たさねばならない。
【0029】
本実施形態では、チタン合金に適量の銅(Cu)元素を添加することで、得られるチタン合金の力学性能を改良可能であり、特に、得られるチタン合金の疲労性能を向上させられる。例えば、医療用Ti-6Al-4V合金に適量の銅(Cu)元素を添加することで、疲労強度を向上させることが可能である。
【0030】
図1~5を参照する。
図1は、本願の一実施形態における医療用チタン合金の組織の光学写真である。本願で提供する医療用チタン合金は、結晶粒のサイズが1μm未満の全等軸組織である。
図2は、本願の一実施形態における医療用チタン合金の微細構造の透過型電子顕微鏡写真である。本実施形態において、本願で提供する医療用チタン合金にはナノスケールのTi
2Cu相が含まれている。
図3のX線回折パターンは、本願で提供する医療用チタン合金がTi
2Cu相を含むことを更に証明している。
図4は走査電子顕微鏡で観察したナノTi
2Cu相の形状であり、
図5は、
図4の白枠部分の領域の拡大図である。本願では、ベースから分散析出するナノTi
2Cu析出相によって、材料の塑性変形過程における転位運動を阻害可能である。これにより、材料の可塑性を低下させない条件で、チタン合金材料の疲労強度を大幅に向上させられる。
【0031】
図6を参照する。
図6は、従来の医療用チタン合金の微細構造の走査電子顕微鏡写真である。従来のTi
2Cu析出相を含む医療用チタン合金では、Ti
2Cu析出相のサイズが比較的大きかった(ミクロンレベル)。これは、大サイズのTi
2Cu析出相による接触殺菌作用を利用して材料の抗菌性能を向上させるためである。本願で提供する医療用チタン合金と従来の医療用チタン合金を比較すると、含まれるTi
2Cu析出相のスケールが異なっており、発揮する作用も異なっている。従来の方案では、主として大サイズのTi
2Cu析出相による接触殺菌作用を利用して材料の抗菌性能を向上させていた。これに対し、本願では、分散するナノTi
2Cu析出相を主に利用して、転位をピンニングすることで材料の疲労性能を向上させる。
【0032】
本願は、更に、医療用チタン合金の製造方法を提供する。当該方法は、製錬、熱間加工及び熱処理の3段階に大別可能であり、当該熱間加工及び熱処理プロセスによって、銅元素が添加された医療用チタン合金からナノTi2Cu相を分散析出可能とする。
【0033】
製錬段階は、具体的に以下のステップを含む。
【0034】
医療用チタン合金原料を提供する。当該医療用チタン合金原料は、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム、4.0~8.0%の銅と、残部としてのチタン及び不可避不純物を含む。
【0035】
医療用チタン合金原料を製錬し、型に流し込んで医療用チタン合金インゴットを取得する。
【0036】
一実施形態では、医療用チタン合金原料を電気アーク炉に入れ、所定条件で製錬してから、型に流し込むことで医療用チタン合金インゴットを取得可能である。具体的な製錬条件は、必要に応じて設定すればよい。
【0037】
別の実施形態では、医療用チタン合金原料を消耗電極式真空アーク炉に入れて再溶解精錬を行ってもよい。このとき、合金の元素が均一に分布するよう保証すべく、少なくとも3回の再溶解精錬を行えばよい。
【0038】
その後、取得した医療用チタン合金インゴットを熱間加工すればよい。熱間加工段階は、具体的に以下のステップを含む。
【0039】
医療用チタン合金インゴットを提供する。当該医療用チタン合金インゴットは、3.0~6.0%のバナジウム、5.0~7.0%のアルミニウム及び4.0~8.0%の銅を含む。当該医療用チタン合金インゴットは、上記の製錬プロセスで製造してもよいし、その他のプロセスで製造してもよく、ここでは特に限定しない。
【0040】
医療用チタン合金インゴットを事前鍛造し、医療用チタン合金半製品を取得する。
【0041】
一実施形態では、まず、医療用チタン合金インゴットについて、950~1100℃の温度で2~4時間の均一化処理を行ってから分塊鍛造を行えばよい。医療用チタン合金インゴットは複数回に分けて鍛造し、医療用チタン合金半製品を取得する。事前鍛造の鍛造終了温度は900℃より低くてはならない。
【0042】
医療用チタン合金半製品を820~860℃で保温してから多方向鍛造を行うことで、医療用チタン合金鍛造品を取得する。
【0043】
一実施形態では、医療用チタン合金半製品を820~860℃で1~3時間保温してから、医療用チタン合金半製品を多方向鍛造することで医療用チタン合金鍛造品を取得してもよい。
【0044】
820~860℃はチタン合金材料の(α+β)二相温度域である。当該温度で保温してから多方向鍛造を行うことで、材料内部のバスケット状組織を十分に破砕可能となり、結晶粒サイズが3~5μmの等軸(α+β)組織が得られる。
【0045】
その後、取得した医療用チタン合金鍛造品につき後続の熱処理を行えばよい。熱処理段階は、主に、医療用チタン合金鍛造品に対するアニーリング処理を含む。アニーリング処理の条件は680~760℃とし、0.5~2時間保温すればよい。680~760℃のアニーリング過程では、材料内部で過飽和となったCu元素が自然にα相から離溶析出することで、ナノスケールTi2Cu相が形成される。ナノスケールのTi2Cu相は、繰り返し負荷の作用下における転位運動を阻害可能なため、材料の疲労強度が著しく向上する。
【0046】
一実施形態では、医療用チタン合金鍛造品をアニーリング処理する前に、即ち、鍛造終了後に、直ちに医療用チタン合金鍛造品を水焼入れ処理することで、ゆっくりと冷却する過程でβ相から大きなTi2Cu相が析出するのを防止すべきである。具体的には、状態図計算の結果より、Cu元素はβ相において高い固溶度を有しているが、α相における固溶度は低いことが明らかである。そのため、鍛造終了後に直ちに焼き入れを行うことで、大きなTi2Cu相がβ相から析出するのを防止可能とする。
【0047】
一実施形態では、アニーリング処理のあと、医療用チタン合金アニーリング品を室温まで空冷することで医療用チタン合金を取得する。
【0048】
上記の方案によれば、従来の医療用Ti-6Al-4V合金に適量のCu元素を添加するとともに、ナノTi2Cu相の分散析出に有利な熱間加工及び熱処理プロセスを組み合わせることで、高疲労強度の医療用チタン合金を取得可能である。現在最も広く臨床応用されているTi-6Al-4V合金と比較して、ナノTi2Cu析出相で強化したチタン合金は疲労強度が大幅に向上する。このことは、医療機器への医療用チタン合金の応用に新たなチャンスをもたらすものである。
【0049】
上記の方案で得られる医療用チタン合金は高い疲労強度を有するため、埋め込み機器の製造に適用可能である。例えば、整形外科、口腔科及び脳外科等の臨床分野で使用される各種医療機器に幅広く応用可能であり、患者に対する臨床治療の有効性及び長期安全性がより良好に保障される。
【0050】
次に、いくつかの具体的試験例及び比較試験例によって本願を説明及び解釈する。ただし、これらによって本願の範囲を制限すべきではない。
【0051】
各実施例及び比較例のチタン合金原料をそれぞれ準備した。具体的な原料成分及び比率については表1に詳細に示す。
【0052】
実施例1~4は、本願で提供する化学成分の範囲内で製錬制御を行うとともに、Cu元素の含有量を徐々に増加させた。実施例5~7は、本願で提供する化学成分の範囲内で製錬制御を行うとともに、類似の化学成分を有していた。また、比較例1は医療用Ti-6Al-4V合金、比較例2は少量のTi2Cu析出相を含む医療用チタン合金、比較例3は大量のTi2Cu析出相を含む医療用チタン合金とした。比較例4~6は、実施例5~7と類似の化学成分を有していた。
【0053】
チタン合金原料を製錬してチタン合金インゴットを取得し、チタン合金インゴットを熱間加工及び熱処理した。具体的な処理条件のパラメータについては表1に詳細に示す。
【0054】
実施例1~4及び比較例1~3には同じ熱間加工及び熱処理プロセスを採用した。具体的には、1000℃で4hの均一化処理を行ってから事前鍛造処理を行い、その後、820℃の二相域で多方向鍛造を行った。最後に、740℃で1hのアニーリングを行い、アニーリング後に室温まで空冷した。実施例1~4と比較例1~3を比較することで、ナノTi2Cu析出相の数が材料の疲労性能に及ぼす影響を説明した。
【0055】
実施例5~7では、同じ熱間加工プロセスを採用したあと、異なる熱処理プロセスを採用し、680℃、720℃及び760℃でそれぞれ1hのアニーリングを行った。また、比較例4~6では、それぞれ異なる熱間加工及び熱処理プロセスを採用した。比較例4の精密鍛造温度は本願で規定した最高温度よりも高く、比較例5のアニーリング温度は本願におけるアニーリング温度の下限よりも低く、比較例6のアニーリング温度は本願におけるアニーリング温度の上限よりも高かった。比較例4~6と実施例5~7を比較することで、異なる熱間加工及び熱処理プロセスが材料の疲労性能に及ぼす影響を説明した。
【0056】
【0057】
取得した医療用チタン合金材料について各性能テストを行った。テストの方法及び基準は下記の通りであった。
【0058】
1.硬度測定
実施例及び比較例で取得したチタン合金材料の硬度をテストした。HTV-1000型の硬度測定器を使用して、アニーリング後のチタン合金材料サンプルにつきビッカース硬さを測定した。テスト前に、サンプル表面を研磨処理した。サンプルは、サイズが直径10mm、厚さ2mmのシートとした。試験時の荷重は9.8Nとし、加圧継続時間は15sとした。圧痕の対角線長さを測定し、コンピュータの硬度分析ソフトウェアで自動的に硬度値を算出した。最終的な硬度値は15個の点の平均値を取った。また、各群のサンプルとして3つの並行サンプルを選択した。テスト結果を表2に詳細に示す。
【0059】
2.引張性能測定
Instron 8872型の引張試験機を使用して、比較例及び実施例で取得したチタン合金材料につき室温での引張力学性能をテストした。引張速度は0.5mm/minとした。テスト前に、旋盤を使用して、材料をネジの直径10mm、標点距離の直径5mm、標点距離の長さ30mmの標準引張試験片に加工した。また、各群の熱処理試験片として3つの並行サンプルを選択した。試験で取得した力学性能には、引張強さ、降伏強度及び伸び率が含まれていた。テスト結果を表2に詳細に示す。
【0060】
3.疲労性能測定
中国国家標準規格GB 15248-94に基づき、疲労試験片のサイズは
図7に示す通りとした。実施例及び比較例で取得したチタン合金材料につき、疲労試験機(8800 MiniTower,インストロン社)で高サイクル疲労試験を行った。応力負荷方式は単軸引張-引張疲労とし、応力比をR=0.1、周波数を40Hz、波形を正弦波とした。試験片につき、引張強さが20~30MPa低下してから、次第に下方に向かって30~60MPa低下するたびに疲労寿命を測定した。各応力下では、2つのサンプルを測定した。そして、疲労寿命の結果に基づきS-N曲線をプロットするとともに、S-N曲線から材料の疲労限度を外挿した。テスト結果を表3に詳細に示す。
【0061】
【0062】
【0063】
表2の結果から明らかなように、比較例1の医療用Ti-6Al-4V合金と比較して、実施例1~7は高い硬度を有するだけでなく、良好な強塑性も併せ持っていた。
【0064】
銅元素の含有量は、チタン合金材料の強度、硬度、可塑性、疲労性能等に対し重要な影響を有していた。本願で規定したCu含有量の範囲内において、Cu含有量が増加するほど、材料の強度、硬度はいずれも向上したが、可塑性はわずかに低下した(実施例1~4)。比較例2はCu含有量が低く、各力学性能は比較例1における医療用Ti-6Al-4V合金の力学性能と類似していた。また、比較例3のCu含有量は10.2%にも達しており、材料は高い強度を有していた。しかし、伸び率と絞りはそれぞれ3.5%及び14%にすぎず、中国国家標準規格「外科用インプラント向けチタン及びチタン合金加工材」が規定する下限を遥かに下回っていた。
【0065】
熱間加工及び熱処理プロセスは、チタン合金材料の微細構造等に対し重要な影響を有していた。比較例4では鍛造温度が高く、鍛造後にマルテンサイトの層状組織が得られたことから、材料の硬度が高くなり、可塑性に劣った。また、比較例5及び6では、Ti2Cu相をアニーリング過程で析出することが困難であったため、材料の硬度及び強度が低下した。
【0066】
表3の結果から明らかなように、銅元素の含有量と熱間加工及び熱処理プロセスは、チタン合金材料の疲労性能に対し重要な影響を有していた。実施例1~4で取得したチタン合金材料の疲労強度は、Cu含有量の増加に伴って徐々に向上した。中でも、Cu含有量が7.1%の実施例4では、疲労強度が1076MPaにも達し、比較例1の医療用Ti-6Al-4Vチタン合金の疲労強度824MPaと比較して、向上幅が30%以上にも達した。また、実施例5~7から明らかなように、アニーリング温度の上昇に伴って、材料の疲労強度は小幅に低下した。これは、アニーリング温度の上昇に伴って、材料内部で強化作用を奏するTi2Cu相に粗化及び成長が生じたためである。また、比較例2及び3から明らかなように、材料中の銅Cuの含有量が本願で規定したCu含有量よりも高い場合又は低い場合、材料の強度は大幅に低下した。また、比較例4では、本願で規定した温度で鍛造を行わなかったため、等軸組織が得られず、疲労性能が明らかに低下した。また、比較例5及び比較例6では、本願で規定した温度で熱処理を行わなかったため、熱処理過程でTi2Cu相を析出できず、材料の疲労強度が低くなった。
【0067】
更に、元素成分含有量の変更は後続の熱処理プロセスに自ずと影響を及ぼし、熱処理プロセスでチタン合金材料の性能が決定される。よって、上記の実施例及び比較例の結果から明らかなように、チタン合金材料内の各元素含有量、熱間加工及び熱処理プロセスが一定の適切な範囲内であり、それらが互いに補い合い、協調した場合にのみ、チタン合金材料は、高疲労性能、良好な引張性能及び硬度を兼ね備え得る。しかし、Cu含有量及び熱処理パラメータの調整については、本願の発明者が創造的思想をもって各試験の条件及び結果を分析・判断することで、試験結果に影響を及ぼす要因が何であるのかを見出す必要があった(例えば、いずれかの試験結果で、疲労性能の硬度は低下していたが、可塑性は向上していた場合、これがCu含有量の変化に起因するのか、熱処理プロセスのパラメータの変化に起因するのかを分析する必要があった)。具体的には、試験の現象や文献データ等を参照し、その後の試験の方向性を決定して、分析・判断を検証したあと、再び試験の方向性を調整した。こうして、より少ない試験回数でより適切な試験計画を見出して、材料の配合及びプロセスパラメータを取得可能とした。
【0068】
上記の方案において、本願で提供する医療用チタン合金は、従来の医療用Ti-6Al-4V合金に適量のCu元素を添加するとともに、ナノTi2Cu相の分散析出に有利な熱間加工及び熱処理プロセスを組み合わせたものである。これにより、高い疲労強度及び良好な強塑性を併せ持つ医療用チタン合金を取得可能である。当該医療用チタン合金は、整形外科、口腔科及び脳外科等の臨床分野で使用される各種医療機器に幅広く応用可能であり、患者に対する臨床治療の有効性及び長期安全性がより良好に保障される。
【0069】
以上の記載は本願の実施形態にすぎず、これにより本願の権利範囲は制限されない。本願の明細書及び図面の内容を利用して行われる等価の構造又は等価のフローの変更、或いは、その他関連の技術分野における直接的又は間接的な応用は、いずれも同様に本願の権利の保護範囲に含まれる。