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特許7511291セラミックス焼成体の製造方法、成形用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】セラミックス焼成体の製造方法、成形用組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/638 20060101AFI20240628BHJP
   C04B 35/634 20060101ALI20240628BHJP
   B28B 3/20 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C04B35/638
C04B35/634 080
C04B35/634 160
B28B3/20 K
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023202740
(22)【出願日】2023-11-30
【審査請求日】2023-11-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】719007350
【氏名又は名称】合同会社モルージ
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル・アイピー東京
(72)【発明者】
【氏名】寒川 喜光
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-111306(JP,A)
【文献】特開2021-080350(JP,A)
【文献】特開2021-138983(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112679209(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第116813354(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107473750(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111606706(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108218441(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111233488(CN,A)
【文献】特開2005-179156(JP,A)
【文献】特開平06-087149(JP,A)
【文献】[online]The Wayback Machine,2022年03月22日,[検索日 2023.02.22],URL:<https://web.archive.org/web/20230322091233/https://tarsons.jp/page03-04.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/638
C04B 35/634
B28B 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成可能な平均粒径1.0μm以下のセラミックス粉末30-70体積%と、有機バインダ30-70体積%とを含む成形用組成物を用いた、セラミックス焼成体の製造方法であって、前記有機バインダが、
高密度ポリエチレン、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンブロックコポリマーおよびポリアセタールからなる群より選択される一種またはこれらの任意の混合物を含む、有機溶剤に対して溶融または膨潤しない熱可塑性樹脂(A)と;
エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、低密度ポリエチレンおよびポリプロピレンランダムコポリマーからなる群より選択される一種またはこれらの任意の混合物を含む、極性基を保有する熱可塑性樹脂(B)と;
パラフィンワックス、マイクロワックスからなる群より選択される一種またはこれらの任意の混合物を含む、有機溶剤に溶解する融点70℃以下の有機化合物(C)と;を含み、
前記熱可塑性樹脂(A)は、前記有機バインダ全体に占める割合が15~50体積%となる量で含有され、
前記熱可塑性樹脂(B)は、前記有機バインダ全体に占める割合が5~40体積%となる量で含有され、
前記有機化合物(C)は、前記有機バインダ全体に占める割合が30~75体積%となる量で含有されており、セラミックス焼成体の製造方法は、以下の工程:
前記成形用組成物から、射出成形機または押出成形機を用いて、成形体を得る工程と、
得られた成形体中の前記有機化合物(C)を溶出することができる溶剤としてアセトン、エタノール、およびイソプロピルアルコールからなる群より選択される一種またはこれらの任意の混合物を含む溶剤を用いて、前記成形用組成物中の前記有機バインダの30体積%以上に相当する量の前記有機化合物(C)を、温度40℃以上80℃以下で抽出脱脂する工程と、
抽出脱脂後の成形体を加熱して、成形体に残存する前記有機バインダを脱脂して、セラミックス成形体を得る工程と、
セラミックス成形体を焼成して、セラミックス焼成体を得る工程と、
を含む、セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項2】
セラミックスが、アルミナ、ジルコニア、マグネシアおよびチタニアからなる群より選択される酸化物セラミックス、窒化アルミおよび窒化珪素からなる群より選択される窒化物セラミックス、および炭化ケイ素および炭化ホウ素からなる群より選択される炭化物セラミックス、およびこれらの1以上の混合物である、請求項1に記載のセラミックス焼成体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形及び押出成形により焼成可能な平均粒径1μm以下のセラミックス粉末を用いた成形体を製造し、この成形体から焼成体製品を製造する方法に用いるための押出成形用組成物、射出成形用組成物並びに脱脂方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスの射出成形及び押出成形の際には所望する形状に加工するために有機バインダを添加する必要がある。有機バインダは成形時に形状を付与するために必要なものであり、加熱により添加した有機バインダを除去する必要がある。従来からある射出成形、及び押出成形の成形工程を図1に示す。近年ではセラミックスの強度、耐熱性、熱伝導性等を向上させるためにできるだけ焼成密度を高めたセラミックス製品が強く求められている。焼成密度を高めるためにはできるだけ微細な平均粒径1μm以下の粉末を使用する必要があり、有機バインダによっては不活性ガス中でバインダを除去しないと残留炭素分が残る場合がある。また、粉末の粒子径が1μm以下になると加熱脱脂時間が24時間を超え、肉厚が10mmを超えるような成形体の場合には加熱脱脂時間100時間以上にしても加熱脱脂中にクラック、膨れが発生することが多い。
上記を解決するために抽出脱脂方法が知られており、特許文献1及び特許文献2には水を用いた脱脂方法が開示されている。
【0003】
抽出する溶媒に水を用いた場合には水溶性バインダを用いる必要があるが、成形材料並びに成形体の保管・再生の際に吸湿率が高くなり成形体の流動性の低下並びに成形体の強度が低下する場合がある。また、成形材料に水分を含むことでカビの発生等により材料の再生が困難になる。また、水を抽出溶剤として用いた場合には沸点が100℃であり、一般的な非水系有機溶媒であるケトン系有機溶剤、芳香族系有機溶剤、塩素系有機溶剤では沸点が100℃以下で、蒸気圧も水よりも小さいものが多いことから、水を用いた抽出脱脂では有機溶剤を用いた抽出脱脂と比較して乾燥時間が長時間化する。
【0004】
また特許文献3、4及び非特許文献1、2には金属粉末に対して有機バインダを添加し得られた射出成形体を有機溶剤で抽出脱脂を行う方法が記載されている。しかしながら、本方法をセラミックス粉末に適応して成形体を作成し、有機溶剤で抽出脱脂を行うと、抽出脱脂工程において成形体に膨れを生じ、健全な脱脂体を抽出脱脂後に得ることが困難である。金属粉末射出成形法で用いられる粉末は平均粒径が5~10μm程度であり、セラミックス粉末成形における平均粒径が0.1~1μm程度と比較して粒径が10~100倍程度と大きいために、用いるバインダ中の樹脂成分が有機溶剤に対して溶解しなくとも膨潤する程度では金属粉末成形体を健全に抽出脱脂することが可能である。一方、粒子径が金属粉末よりも小さいセラミックス粉末を用いた射出成形及び押出成形では粉末粒子径が小さくなることで、容易に有機溶剤が成形体から抜け出ることが困難となり、抽出脱脂工程において膨れ、クラックが発生する。
【0005】
また、特許文献5にはセラミックス粉末を用いて有機バインダとしてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタールを用い、抽出溶剤にはケトン系有機溶剤、ハロゲン系有機溶剤、炭化水素系有機溶剤、芳香族系有機溶剤で抽出脱脂を行う方法が記載されている。特許文献5においても0.1μm以下の粉末を用いた場合には肉厚が3mm以上になる場合、抽出脱脂中にクラックを生じやすい。また、ハロゲン系の溶剤を実施例に使用しているが、環境問題の観点から塩素系有機溶剤のみならず臭素系有機溶剤の使用に対しても制限が加わることから、使用する溶剤に対する使用制限についても留意する必要が生じている。また、複雑形状の成形体を作成した場合にはクラックが生じやすいという問題もある。
最近では微細な平均粒径0.1μm以下の粉末を用いることで低温での焼成が可能になることが多くの技術文献で確認されている(非特許文献3)。しかしながら、平均粒径0.1μm以下の粉末を用いた場合には上記従来の抽出脱脂法においてクラックの発生を防ぐことが容易ではなく、健全な焼成体を得ることが非常に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4330086号
【文献】特開平10-110201号公報
【文献】特開平02-194105号公報
【文献】特表2009-527651号公報
【文献】特開2021-138983号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】「粉体および粉末冶金」第38巻、第6号、80頁
【文献】「粉体および粉末冶金」49巻、第6号、518頁
【文献】「まてりあ」第33巻、第2号、155頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明はセラミックス粉末の射出成形及び押出成形において、複雑形状の成形体が作成でき、抽出脱脂工程を、アセトンもしくはアルコール等の有機溶剤を用いて短時間で行うことができ、脱脂工程、セラミックス成形体の焼成工程において、セラミックス焼成体の膨れや気泡の発生を防ぐことができる、セラミックス焼成体の製造方法、ならびに当該製造方法に用いられる成形用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の実施形態は、焼成可能な平均粒径1.0μm以下のセラミックス粉末30-70体積%と、有機バインダ30-70体積%とを含む成形用組成物を用いた、セラミックス焼成体の製造方法であって、前記有機バインダは、
有機溶剤に対して溶融または膨潤しない熱可塑性樹脂(A)と;
極性基を保有する熱可塑性樹脂(B)と;
有機溶剤に溶解する融点70以下の有機化合物(C)と;を含む有機バインダと、
を含み、
前記熱可塑性樹脂(A)は、前記有機バインダ全体に占める割合が15~50体積%ととなる量で含有され、
前記熱可塑性樹脂(B)は、前記有機バインダ全体に占める割合が5~40体積%となる量で含有され、
前記有機化合物(C)は、前記有機バインダ全体に占める割合が30~65体積%となる量で含有されており、セラミックス焼成体の製造方法は、以下の工程:
前記成形用組成物から、射出成形機または押出成形機を用いて、成形体を得る工程と、
得られた成形体中の前記有機化合物(C)を溶出することができる溶剤を用いて、前記成形用組成物中の全有機バインダの30体積%以上に相当する量の前記有機化合物(C)を、温度40℃以上80℃以下で抽出脱脂する工程と、
抽出脱脂後の成形体を加熱して、成形体に残存する前記有機バインダを脱脂して、セラミックス成形体を得る工程と、
セラミックス成形体を焼成して、セラミックス焼成体を得る工程と、
を含む、セラミックス焼成体の製造方法である。
さらに本発明の二の実施形態は、焼成可能な平均粒径1.0μm以下のセラミックス粉末30-70体積%と、有機バインダ30-70体積%とを含む成形用組成物であって、前記有機バインダが、
有機溶剤に対して溶融または膨潤しない熱可塑性樹脂(A)と;
極性基を保有する熱可塑性樹脂(B)と;
有機溶剤に溶解する融点40℃~60℃の有機化合物(C)と;を含み、
前記熱可塑性樹脂(A)は、前記有機バインダ全体に占める割合が15~50体積%となる量で含有され、
前記熱可塑性樹脂(B)は、前記有機バインダ全体に占める割合が5~40体積%となる量で含有され、
前記有機化合物(C)は、前記有機バインダ全体に占める割合が30~70体積%となる量で含有されている、前記成形用組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる成形用組成物並びに脱脂方法を用いることにより、粒径1μm以下の小さいセラミックス粉末による射出成形及び押出成形において、複雑形状の成形体に対してアセトンもしくはアルコール等の溶剤を用いて、抽出脱脂工程と加熱脱脂工程を短時間に行うことにより、得られた脱脂体も膨れ・クラック等の欠陥の無い脱脂体であり、結果として健全な焼成体を短時間で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来技術のセラミックス焼成体の製造工程を示すスキームである。
図2】本発明のセラミックス焼成体の製造工程を示すスキームである。
図3】実施例で製造した射出成形体の形状を示す図である。
図4】実施例で製造した押出成型帯の形状を示す図である。
図5】本発明の抽出脱脂工程を行うための装置の例を模式的に表した図である。
図6】本発明の加熱脱脂工程を行うための装置の例を模式的に表す図である。
図7】実施例4にて製造されたセラミックス焼成体の電子顕微鏡写真である。
図8】比較例1にて製造された抽出脱脂後の成形体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一の実施形態は、たとえば図2に示すスキームでセラミックス焼成体を得る製造方法にかかる。具体的には、セラミックス粉末と有機バインダを混合したものを原料(成形用組成物)として用い、たとえば射出成形機や押出成形機を用いた射出成形法または押出成形法等の成形方法により成形して成形体を得て、この成形体を脱脂・焼成して目的製品であるセラミックス焼成体を得る。ここで、セラミックス粉末と、有機溶剤に対して膨潤しない樹脂成分と、極性を保有する熱可塑性樹脂と、有機溶剤に溶解する有機化合物を含む有機バインダとを含む成形用組成物を用いることができる。成形用組成物からは、たとえば成形温度140℃~200℃の範囲で、射出成形法または押出成形法等の成形方法により成形体を得ることができる。次いで成形体について、アセトン、アルコール類等を含む有機溶剤を用いて、まず抽出脱脂を行い、続いて加熱による脱脂を行う。成形体の抽出脱脂は、たとえば図5に示す抽出脱脂装置を用いて、有機化合物(C)をアセトンまたはアルコール系溶剤を含む有機溶剤を用いて、50℃~80℃の温度で1~12時間抽出脱脂を行うことができる。抽出脱脂工程においては、図5に示すように、成形体を抽出溶剤に浸漬させて、有機化合物(C)を抽出する。全有機バインダ中の30体積%以上を抽出脱脂工程において除去し、抽出脱脂後セラミックス成形体を得ることができる。ここで用いられる有機溶剤は、有機化合物(C)を溶出するものであればいかなるものも使用できるが、アセトン、またはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤を含むことが好ましく、アセトンとアルコール系溶剤とを混合した有機溶剤を抽出溶剤として用いることもできる。
このような脱脂方法は、従来と比較して、複雑形状のセラミックス成形体の製造をもたらし、また脱脂のための時間を短縮し、さらに割れや膨れの無いセラミックス成形体の製造を可能とする。
【0013】
このように得た抽出脱脂後の成形体は、続く加熱脱脂による脱脂工程において50℃/hrのような速い昇温速度においても、欠陥の無いセラミックス成形体をもたらすことができる。抽出脱脂工程完了後、加熱脱脂にて空気中もしくは窒素中で最高温度が500℃~800℃の範囲の温度となるように、昇温時間2~20時間、最高温度で0.5~2時間保持し、加熱脱脂を行う。加熱脱脂工程において、昇温時間が2時間未満の場合には、脱脂成形体に割れ・膨れが生じやすい。加熱は、たとえば電気ヒータ、オーブン、過熱蒸気等を用いて行うことができる。得られた脱脂成形体を、用いるセラミックス粉末に適する雰囲気と温度(たとえば900℃~2300℃の範囲の温度)で、焼成を行い、セラミックス焼成体を得ることができる。
【0014】
本発明の二の実施形態は、成形用組成物である。二の実施形態の成形用組成物は、一の実施形態の製造方法に好適に用いられる。二の実施形態の成形用組成物は、焼成可能な平均粒径1.0μm以下のセラミックス粉末30-70体積%と、有機バインダ30ー70体積%とを含む。ここで有機バインダは、有機溶剤に対して溶融または膨潤しない熱可塑性樹脂(A)と、極性基を保有する熱可塑性樹脂(B)と、有機溶剤に溶解する融点40℃~60℃の有機化合物(C)とを含む有機バインダと;を含むことを特徴とする。
【0015】
特に、有機バインダの添加量は、熱可塑性樹脂(A)が有機バインダの体積を基準として15~50体積%、熱可塑性樹脂(B)が有機バインダの体積を基準として5~40体積%、および有機化合物(C)が有機バインダの体積を基準として30~75体積%となるように配合されている。このような有機バインダと、焼成可能なセラミックス粉末とは、30:70~70:30(体積比)となるように混合されることが好ましい。
二の実施形態の成形用組成物に用いられるセラミックス粉末として、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、チタニア等の酸化物セラミックス、窒化アルミ、窒化珪素等の窒化物セラミックス、炭化ケイ素、炭化ホウ素等の炭化物セラミックスが挙げられる。一の実施形態の製造方法に用いられるセラミックス粉末の平均粒径は、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。粒径が0.01μm未満の場合には、成形に必要な有機バインダの量が多くなるために、抽出脱脂または加熱脱脂時にセラミックス成形体に変形及び割れ、膨れ等の欠陥が生じやすい。またセラミックス粉末の平均粒径が1μmよりも大きい場合は、セラミックス成形体の焼成工程において焼成が十分に進行せず、密度が高い高強度のセラミックス焼成体を得ることが困難になる。ここで、本明細書において平均粒径とは、レーザー回折・散乱法を使用した粒度分布測定装置を用いて測定した、重量累積50%の平均径を意味するものとする。粒度分布測定装置としては、島津製作所製 SALD-2000型を用いることができる。
【0016】
二の実施形態の成形用組成物に用いられる、有機溶剤に対して溶融または膨潤しない熱可塑性樹脂(A)は、無極性の熱可塑性樹脂であって、たとえば、高密度ポリエチレン、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンブロックコポリマーおよびポリアセタールからなる群より選択される一種もしくは複数種類の混合物を挙げることができる。有機溶剤に対して溶融または膨潤しない熱可塑性樹脂(A)は、有機バインダ中15~50体積%含有され、好ましくは20~45体積%、さらに好ましくは25~35体積%含有されている。有機バインダ中の熱可塑性樹脂(A)の含有量が15体積%未満の場合、成形用組成物から形成される成形体が脆くなりうる。また、成形体から脱脂をして得られるセラミックス成形体に膨れ・クラックが発生しうる。また、有機バインダ中の熱可塑性樹脂(A)の含有量が50体積%よりも多い場合、成形時の粘度が高くなり、複雑形状の成形体の成形が困難となる。
【0017】
二の実施形態の成形用組成物に用いられる、極性基を保有する熱可塑性樹脂(B)は、たとえば、エチレン酢酸ビニル樹脂、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、低密度ポリエチレン、およびポリプロピレンランダムコポリマーからなる群より選択される一種もしくは複数種類の混合物を挙げることができる。極性基を保有する熱可塑性樹脂(B)は、有機バインダ中5~40体積%含有され、好ましくは8~35体積%、さらに好ましくは10~30体積%含有されている有機バインダ中の熱可塑性樹脂(B)の含有量が5体積%未満の場合、成形用組成物から形成される成形体は脆くなりうる。また有機バインダ中の熱可塑性樹脂(B)の含有量が40体積%よりも多い場合、成形用組成物から形成される成形体に膨れ・クラックを生じうる。
【0018】
二の実施形態の成形用組成物に用いられる、融点が70℃以下の有機化合物(C)は、たとえば、融点40℃~70℃のパラフィンワックスおよびマイクロクリスタリンワックスからなる群より選択される一種もしくは複数種の混合物を挙げることができる。有機化合物(C)は、有機バインダにおける含有量が30体積%未満の場合、成形用組成物の成形時の流動性が悪くなり、形成される成形体に割れ及びクラックが生じやすくなる。また成形体の抽出脱脂時に、有機化合物(C)がスムーズに溶出されにくくなることもある。また、有機バインダ中の有機化合物(C)の含有量が75体積%よりも多くなると、成形用組成物の成形時に成形体にバリが発生しやすくなり、成形体の強度が低下する恐れがある。有機バインダ中の有機化合物(C)の含有量は30~75体積%であることが好適であり、好ましくは40~70体積%、より好ましくは50~65体積%である。有機化合物(C)の融点が40℃よりも低いと、成形体から有機化合物(C)が分離しやすく成形性が悪化する。また、有機化合物(C)の融点が59℃よりも高くなると、抽出脱脂の工程での有機化合物(C)の抽出率が大幅に低下し、以後の加熱脱脂の工程でセラミックス成形体に膨れやクラックが発生しうる。市の実施液体の製造方法において、成形用組成物の成形性の向上を目的として、脂肪酸エステル、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス及び、カルナバワックス、モンタンワックス等のエステルワックスを添加剤として成形用組成物に添加しても良い。また、成形用組成物の熱に対する安定性を保持するために、酸化防止剤等の添加剤を用いることもできる。
上記のセラミックス粉末と、有機バインダとは、たとえば120~190℃の範囲の温度で、混練を行うことができる。加熱混練により得られた成形用組成物は、射出成形法または押出成形法等の既知の種々の成形方法を通じて成形体をもたらす。得られた成形体は、アセトンまたはアルコール類等を含む有機溶剤を用いて、温度40℃以上80℃以下にて抽出し成形用組成物中の有機バインダの30体積%以上に相当する量の有機化合物(C)を、抽出脱脂して、抽出脱脂後セラミックス成形体を得る。この際、抽出脱脂の温度は40℃~80℃が望ましい。抽出脱脂の温度が40℃以下の場合には有機化合物(C)の抽出率が大幅に低下し、抽出脱脂温度が80℃を超えると成形体に膨れ・割れが生じやすくなる。抽出脱脂後セラミックス成形体から抽出に用いた有機溶剤を蒸発させる。次いで、抽出脱脂後の成形体を、空気中もしくは窒素中で最高温度が500℃~800℃の範囲の温度となるように、昇温時間2~20時間、最高温度で0.5~2時間保持し、加熱脱脂を行う。加熱脱脂工程において、昇温時間が2時間未満の場合には、脱脂成形体に割れ・膨れが生じやすい。加熱は、たとえば電気ヒータ、オーブン、過熱蒸気等を用いて行うことができる。得られた脱脂成形体を、用いるセラミックス粉末に適する雰囲気と温度(たとえば900℃~2300℃の範囲の温度)で焼成することにより、セラミックス焼成体を得ることができる。
【0019】
二の実施形態の成形用組成物を得る際に、焼成可能なセラミックス粉末とともに、有機溶剤に対して溶融または膨潤しない熱可塑性樹脂(A)および極性を保有する熱可塑性樹脂(B)および融点70℃以下の有機化合物(C)を含む有機バインダを、バッチタイプもしくは連続タイプの混練機を用いて、好ましくは140℃~180℃の範囲の温度で、1~3時間程度混練し、これを数ミリの大きさに粉砕して、二の実施形態の成形用組成物を得ることもできる。
【0020】
二の実施形態において、有機バインダ(熱可塑性樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)、有機化合物(C)の合計)が、成形用組成物(セラミックス粉末と有機バインダの合計)全体積を基準として30体積%未満の場合には、成形用組成物の粘度が高くなり、成形体の成形が困難になると共に、得られる成形体が脆くなりやすい。また、有機バインダ(熱可塑性樹脂(A)、熱可塑性樹脂(B)、有機化合物(C)の合計)が、成形用組成物(セラミックス粉末と有機バインダの合計)全体積を基準として70体積%よりも多くなると、溶媒抽出脱脂および加熱脱脂工程において、セラミックス成形体に変形・膨れ・クラック等の欠陥が生じやすくなる。
【0021】
二の実施形態の成形用組成物を用いて、一の実施形態の製造方法を行うことにより、焼成後においても変形・膨れ及び割れ等の欠陥がないセラミックス焼成体を得ることができる。
【0022】
以下、実施例及び比較例により発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]
熱可塑性樹脂(A)として、高密度ポリエチレン(HDPE、旭化成サンテックJ300)を用いた。熱可塑性樹脂(B)としてはエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA633、東ソーEVA633)、有機化合物(C)としてパラフィンワックス(融点46℃)及びステアリン酸を用いた。これらを(バッチ混練機に投入し、均一に溶融させた。次いで、イットリア部分安定化ジルコニア粉末(東ソー TZ-3YE、1次粒子径:0.01μm)を投入して、180℃で60分間混練した。混練物をバッチ混練機より取り出して粉砕し、成形用組成物を得た。
【0024】
成形用組成物
イットリア部分安定化ジルコニア粉末: 47体積%
有機バインダ:53体積%
(有機バインダ添加割合)
高密度ポリエチレン (熱可塑性樹脂(A)):25体積%
エチレン酢酸ビニル (熱可塑性樹脂(B)):20体積%
パラフィンワックス (有機化合物(C)) :55体積%
なお、成形性向上のため、有機バインダには、ステアリン酸を5体積%添加した。
【0025】
得られた成形用組成物を用いて、成形温度180℃の条件で射出成形し、図3に記載の形状(厚さ6mm、幅6mm、長さ20mm)を有する成形体を得た。得られた成形体を図5に示す抽出脱脂炉中で、温度52℃でアセトンに浸漬し、8時間抽出脱脂して抽出脱脂後セラミックス成形体を得た。次いで、図6に示す加熱脱脂炉で、12時間かけて室温から500℃まで昇温し、その後、炉を冷却して、脱脂を行い、セラミックス成形体を得た。得られたセラミックス成形体を、焼成炉にて、大気中、1350℃で、2時間保持し、その後炉を冷却して、セラミックス焼成体を得た。得られたセラミックス焼成体は、クラックや膨れ等の欠陥の無い、健全なものであり、焼成密度は6.05g/cm(相対密度100%)であった。
【0026】
[実施例2]
熱可塑性樹脂(A)として、ポリプロピレンホモポリマー(PP、プライムポリマーJ107G)を用いた。熱可塑性樹脂(B)としてエチレングリシジルメタクリレート(EGMA、住友化学ボンドファースト7B)、有機化合物(C)として、パラフィンワックス(融点53℃)、カルナバワックス、ステアリン酸をバッチ混練機に投入し、均一に溶融させた後、アルミナ粉末(大明化学工業 TM-DAR 平均粒径:0.12μm)を投入して、180℃でバッチ混練機で60分間混練した。混練物を取り出して、粉砕し、成形用組成物を得た。
【0027】
成形用組成物
アルミナ粉末: 50体積%
有機バインダ添加量:50体積%
(有機バインダ添加割合)
ポリプロピレンホモポリマー (熱可塑性樹脂(A)): 25体積%
エチレングリシジルメタクリレート (熱可塑性樹脂(B)): 25体積%
パラフィンワックス (有機化合物(C)) : 50体積%
なお、成形性向上のため、有機バインダには、カルナバワックスとステアリン酸を各5体積%添加した。
【0028】
得られた成形材料を用いて成形温度180℃の条件で押出成形を行い、図4に記載の形状(直径5mm、長さ60mmの棒状)を有する成形体を得た。得られた成形体を図5に示す抽出脱脂炉中で、温度65℃でエタノールに浸漬し、8時間抽出脱脂して、抽出脱脂後セラミックス成形体を得た。次いで、過熱蒸気脱脂炉で、2時間掛けて200℃から500℃まで昇温し、その後炉を冷却してセラミックス成形体を得た。得られたセラミックス成形体を焼成炉にて、大気中、1600℃で、2時間保持し、その後炉を冷却して、セラミックス焼成体を得た。得られたセラミックス焼成体は、クラックや膨れ等の欠陥の無い健全なものであり、焼成密度は3.98g/cm(相対密度99.5%)であった。
【0029】
[実施例3]
熱可塑性樹脂(A)として、ポリアセタール(POM、ポリプラスチックM90-44)と、ポリプロピレンホモポリマー(PP-HM、プライムポリマーJ107G)、有機化合物(B)として、エチレン酢酸ビニル共重合体と低密度ポリエチレン、有機化合物(C)としてパラフィンワックス(融点53℃)をバッチ混練機に投入し、均一に溶融させた後、アルミナ粉末(大明化学工業 TM-DAR 平均粒径:0.12μm)を投入して、180℃でバッチ混練機で60分間混練した。混練物を取り出して、粉砕し、成形用組成物を得た。
【0030】
成形用組成物
アルミナ粉末: 50体積%
有機バインダ添加量:50体積%
(有機バインダ添加割合)
ポリアセタール (熱可塑性樹脂(A)): 10体積%
ポリプロピレンホモポリマー (熱可塑性樹脂(A)): 10体積%
エチレン酢酸ビニル共重合体 (熱可塑性樹脂(B)): 15体積%
低密度ポリエチレン (熱可塑性樹脂(B)): 10体積%
パラフィンワックス: (有機化合物(C) : 55体積%
なお、成形性向上のため、有機バインダには、カルナバワックスとステアリン酸を各5体積%添加した。
【0031】
得られた成形材料を用いて成形温度180℃の条件で射出成形を行い、図3に記載の形状(厚さ6mm、幅6mm、長さ20mm)を有する0成形体を得た。得られた成形体を図5に示す抽出脱脂炉中で、温度70℃でイソプロピルアルコールに浸漬し、8時間抽出脱脂して、抽出脱脂後セラミックス成形体を得た。次いで、加熱脱脂炉で、5時間かけて200℃から500℃まで昇温し、その後炉を冷却して、セラミックス成形体を得た。得られたセラミックス成形体を焼成炉にて、大気中、1600℃で、2時間保持し、その後炉を冷却して、セラミックス焼成体を得た。得られたセラミックス焼成体は、クラックや膨れ等の欠陥の無い健全なものであり、焼成密度は3.95g/cm(相対密度99.5%)であった。
【0032】
[実施例4]
熱可塑性樹脂(A)として、高密度ポリエチレン(HDPE、旭化成サンテックJ300)、熱可塑性樹脂(B)としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA633、東ソーEVA633)、有機化合物(C)としてパラフィンワックス(融点46℃)及びステアリン酸をバッチ混練機に投入し、均一に溶融させた後、窒化アルミニウム粉末(トクヤマ グレードE、粒子径:1.0μm)に酸化イットリウム2mol%添加物を投入して、180℃でバッチ混練機で60分間混練した。混練物を取り出して、粉砕し、成形用組成物を得た。
【0033】
成形用組成物
窒化アルミニウム粉末(酸化イットリウム2mol%添加): 50体積%
有機バインダ添加量:50体積%
(有機バインダ添加割合)
高密度ポリエチレン (熱可塑性樹脂(A)):25体積%
エチレン酢酸ビニル (熱可塑性樹脂(B)):20体積%
パラフィンワックス (有機化合物(C)) :55体積%
なお、成形性向上のため、有機バインダには、ステアリン酸を5体積%添加した。
【0034】
得られた成形材料を用いて、成形温度180℃の条件で射出成形を行い、図3に記載の形状(厚さ6mm、幅6mm、長さ20mm)を有する成形体を得た。得られた成形体を、図5に示す抽出脱脂炉中で、温度52℃で、アセトンとイソプロピルアルコール重量比1:1の混合液体に浸漬し、8時間抽出脱脂して抽出脱脂後セラミックス成形体を得た。次いで、加熱脱脂炉で、12時間かけて室温から500℃まで昇温し、その後炉を冷却してセラミックス成形体を得た。得られたセラミックス成形体を焼成炉にて、大気中、1850℃で、2時間保持し、その後炉を冷却して、セラミックス焼成体を得た(図7は、実施例4のセラミックス焼成体の電子顕微鏡写真)。得られたセラミックス焼成体は、クラックや膨れ等の欠陥の無い、健全なものであり、焼成密度は、3.32g/cmであった。またセラミックス焼成体の熱伝導率は、180W/mKであり、高熱伝導率を有するものであることがわかった。
【0035】
[比較例1]
熱可塑性樹脂(B)として、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA、エバフレックスEV250)、有機化合物(C)として、パラフィンワックス(融点53℃)、カルナバワックス、ステアリン酸をバッチ混練機に投入し、均一に溶融させた後、イットリア部分安定化ジルコニア粉末(東ソーTZ-3YE、1次粒子径:0.01μm)を投入して、180℃でバッチ混練機で60分間混練した。混練物を取り出して、粉砕し、成形用組成物を得た。
【0036】
成形用組成物
イットリア部分安定化ジルコニア粉末: 50体積%
有機バインダ添加量:50体積%
(有機バインダ添加割合)
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、 (熱可塑性樹脂(B)): 40体積%
パラフィンワックス、 (有機化合物(C)) : 60体積%
なお、成形性向上のため、有機バインダには、カルナバワックスとステアリン酸を各5体積%添加した。
【0037】
得られた成形材料を用いて、成形温度180℃の条件で射出成形を行い、図3に記載の形状(厚さ6mm、幅6mm、長さ20mm)を有する成形体を得た。得られた成形体を図5に示す抽出脱脂炉中で、温度60℃でアセトンに浸漬し、8時間抽出脱脂して抽出脱脂後セラミックス成形体を得た。得られたセラミックス成形体は、図8のとおり、クラックや膨れが発生し、以後の抽出脱脂および加熱脱脂ならびに焼成を行うことができなかった。
【0038】
[比較例2]
熱可塑性樹脂(A)として、低密度ポリエチレン(LDPE、ノバテックUJ580)、有機化合物(C)として、パラフィンワックス(融点53℃)をバッチ混練機に投入し、均一に溶融させた後、アルミナ粉末(大明化学工業 TM-DAR 平均粒径:0.12μm)を投入して、180℃でバッチ混練機で60分間混練した。混練物を取り出して、粉砕し、成形用組成物を得た。
【0039】
成形用組成物
アルミナ粉末: 50体積%
有機バインダ添加量:50体積%
(有機バインダ添加割合)
低密度ポリエチレン、 (熱可塑性樹脂(A)) : 40体積%
パラフィンワックス、 (有機化合物(C)) : 60体積%
なお、成形性向上のため、有機バインダには、カルナバワックスとステアリン酸を各5体積%添加した。
【0040】
得られた成形材料を用いて、成形温度180℃の条件で射出成形を行い、図3に記載の形状(厚さ6mm、幅6mm、長さ20mm)を有する成形体を得た。得られた成形体を図5に示す抽出脱脂炉中で、温度60℃でノルマルヘキサンに浸漬し、8時間抽出脱脂して、抽出脱脂後セラミックス成形体を得た。得られたセラミックス成形体は、クラックや膨れが発生し、以後の抽出脱脂および加熱脱脂ならびに焼成を行うことができなかった。
【0041】
[比較例3]
熱可塑性樹脂(A)として、ポリアセタール(POM、ポリプラスチックM90-44)と、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA、エバフレックスEV250)、有機化合物(C)として、パラフィンワックス(融点53℃)をバッチ混練機に投入し、均一に溶融させた後、アルミナ粉末(大明化学工業 TM-DAR 平均粒径:0.12μm)を投入して、180℃でバッチ混練機で60分間混練した。混練物を取り出して、粉砕し、成形用組成物を得た。
【0042】
成形用組成物
アルミナ粉末: 50体積%
有機バインダ添加量:50体積%
(有機バインダ添加割合)
ポリアセタール、 熱可塑性樹脂(A): 20体積%
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、 熱可塑性樹脂(B): 20体積%
パラフィンワックス、 有機化合物(C) : 60体積%
なお、成形性向上のため、有機バインダには、カルナバワックスとステアリン酸を各5体積%添加した。
【0043】
得られた成形材料を用いて、成形温度180℃の条件で射出成形を行い、図3に記載の形状(厚さ6mm、幅6mm、長さ20mm)を有する成形体を得た。得られた成形体を、図5に示す抽出脱脂炉中で、温度50℃で1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテルに浸漬し、8時間抽出脱脂後、抽出脱脂後セラミックス成形体を得た。得られたセラミックス成形体は、クラックや膨れが発生し、以後の抽出脱脂および加熱脱脂ならびに焼成を行うことができなかった。
【0044】
[実施例5~12、比較例4~7]
さらに、有機バインダ成分を種々変更して実験を行った。用いた有機バインダの組成を表1に、射出成形での組成と結果を表2に示す。なお、混練の条件、脱脂の条件並びに焼成の条件は実施例1に準じて行った。成形体の肉厚については図3に記載の成形体を用いた。
【0045】
表1中の表記は以下の通りである。
セラミックス粉末:(ジルコニア、東ソー TZ-3YE)
有機バインダ成分表(体積%)
(熱可塑性樹脂(A))
高密度ポリエチレン(HDPE、日本ポリエチレンHJ560)
ポリプロピレンホモポリマー(PP、プライムポリマーJ107G)
ポリアセタール(POM、ポリプラスチックM90-44)
(熱可塑性樹脂(B))
エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA,東ソー EVA633)
エチレングリシジルメタクリレート(EGMA,住友化学 ボンドファースト7B)
(有機化合物(C))
パラフィンワックス(融点48℃):F-115
パラフィンワックス(融点53℃):F-125
(その他添加剤)
カルナバワックス:CWAX
ステアリン酸:STA
抽出脱脂溶媒:イソプロピルアルコール
抽出脱脂温度75℃
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
表2中、実施例5~12については、本発明の範囲内の配合にて有機バインダを配合し(表1のア~ク)、部分安定化ジルコニア粉末(一次粒子径0.01μm)45体積%に対して有機バインダを55体積%の割合で配合し、180℃で加熱混練し、得られた成形用組成物を、成形温度180℃で射出成形し、図3に記載の形状(厚さ6mm、幅6mm、長さ20mm)を有する成形体を得た。得られた成形体を、図5に示す加熱脱脂炉中で、温度50℃にした容器中でイソプロピルアルコールに8時間浸漬して抽出脱脂を行い、次いで、5時間掛けて200℃から500℃まで昇温し、その後炉を冷却してセラミックス成形体を得た。この時点で健全なセラミックス成形体を得ることができたので、得られたセラミックス成形体を焼成炉で、アルゴン雰囲気にて、1600℃で焼成した。得られたセラミックス焼成体は、割れや膨れ等の無いものであり、いずれも、部分安定化ジルコニアの焼結密度(6.05g/cm)を100%としたときの相対焼結密度が99%以上となり、健全な焼成体を得ることができた。試験結果は表2に示す。
【0049】
一方、比較例4~7に関しては、本発明の範囲外の各成分の配合にて有機バインダを配合し(表1のあ~え)、実施例5~12と同じ条件にて成形用組成物を得て、実施例5~12と同じ条件にて成形体を得た。比較例7に関しては得られた成形体が非常に脆く、健全な成形体を得ることができなかった。比較例4~6に関しては、実施例5~12と同じ条件で抽出脱脂を行ったが、得られた抽出脱脂後セラミックス成形体には、表2に示す通り、膨れ・割れを生じており、健全なセラミックス成形体ではなかった。
【0050】
また、実施例1~3の成形体を用いて、全有機バインダ中の抽出率が30体積%未満となるように抽出脱脂を行った場合であって、続く加熱脱脂での脱脂条件が昇温速度200℃/hrであった場合、得られたセラミックス成形体にはクラック・膨れが生じた。このことから、全有機バインダ中の抽出率が30体積%以上となるように抽出脱脂を行うことが好ましいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の成形用組成物を用いて、欠陥の無い健全な複雑形状のセラミックス成形体およびセラミックス焼成体を短時間で得ることがでた。本発明により、複雑形状部品が用いられる医療関連部品、自動車部品、通信機器部品への活用を促進することができる。

【要約】      (修正有)
【課題】内部に気泡・膨れ・クラックが無い健全な脱脂体を得ることができる成形用組成物、及びセラミックス焼成体の製造方法を提供する。
【解決手段】平均粒径1.0μm以下のセラミックス粉末30-70体積%と、有機バインダ30-70体積%とを含む成形用組成物を用い、前記有機バインダが、有機溶剤に対して溶融または膨潤しない熱可塑性樹脂(A)15~50体積%と;極性基を保有する熱可塑性樹脂(B)5~40体積%と;有機溶剤に溶解する融点70℃以下の有機化合物(C)30~75体積%と;を含み、前記組成物から、射出成形機又は押出成形機を用いて成形体を得る工程と、溶剤を用いて成形用組成物中の前記有機バインダの30体積%以上に相当する量の有機化合物(C)を温度40℃以上80℃以下で抽出脱脂する工程と、抽出脱脂後の成形体を加熱して、残存する有機バインダを脱脂する工程と、セラミックス成形体を焼成する工程とを含む方法。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8