(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックの製造方法
(51)【国際特許分類】
B24D 3/32 20060101AFI20240628BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20240628BHJP
B24D 11/00 20060101ALI20240628BHJP
B24D 3/02 20060101ALI20240628BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20240628BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
B24D3/32
B24D3/00 320B
B24D3/00 340
B24D11/00 Q
B24D3/02 310E
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550F
C09G1/02
(21)【出願番号】P 2023524181
(86)(22)【出願日】2021-12-31
(86)【国際出願番号】 CN2021143448
(87)【国際公開番号】W WO2022237200
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】202110520040.9
(32)【優先日】2021-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521319258
【氏名又は名称】華僑大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】陸 静
(72)【発明者】
【氏名】徐 西鵬
(72)【発明者】
【氏名】楊 磊
(72)【発明者】
【氏名】申 云
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0312215(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107502199(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110076704(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108601712(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/32
B24D 3/00
B24D 11/00
B24D 3/02
C09K 3/14
C09G 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックの製造方法であって、
(1)λ型カラギーナン、ジェランガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム
であるゲル化剤と、
ダイヤモンド砥粒とを、脱イオン水に入れて均一に攪拌する工程と、
(2)前記工程(1)で得られた材料に、400メッシュの炭素繊維を入れて均一に混合する工程と、
(3)前記工程(2)で得られた材料を、モールドに徐々に入れて硬化させ、硬化ゲルを取得する工程と、
(4)前記硬化ゲルを乾燥させ、前記フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックを調製する工程と、を含んでおり、
前記フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックには、
ダイヤモンド砥粒の含有量が9~11wt%であり、ゲル化剤の含有量が2.9~3.1wt%であり、
炭素繊維の含有量が30~40wt%であることを特徴とする、フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックの製造方法。
【請求項2】
前記ゲル化剤はλ型カラギーナンであり、前記硬化はKCl溶液に浸漬することである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ゲル化剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウムであり、前記硬化はAl2(SO4)3溶液に浸漬することである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ゲル化剤はジェランガムであり、前記硬化はKCl溶液に浸漬することである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックには、ゲル化剤の含有量が3wt%であり、炭素繊維の含有量が30wt%である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質材料の精密加工技術の分野に属し、特に、フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高精密加工の分野では、遊離砥粒加工と固定砥粒加工の二種類の方法が主である。遊離砥粒加工では、高い加工能率と良好な加工品質を同時に達成することが困難であり、且つ廃棄された研磨液が環境を大変に汚染する一方、固定砥粒加工方式では、加工能率を向上させることができるものの、結合剤中に砥粒が均一に分散しにくく、砥石の加工寿命が短く、且つワークに硬い傷が発生しやすい。
【0003】
遊離砥粒研磨および固定砥粒研磨における問題、および超微細砥粒の凝集問題を解決するために、ゾルゲルの原理に基づき研磨工具を作製して加工を行う、いわゆる半固定砥粒研磨法が提出されている。化学機械研磨とは異なり、この半固定砥粒研磨法は、バイオポリマー材料と繊維質マトリックスとを複合化して研磨するものであり、環境にやさしいという特徴を有するだけでなく、加工精度を高めることもできるため、今後の半導体と石材の研磨分野において巨大な優勢と展望を有している。
【0004】
従来、半固定砥粒研磨に使用されるゾルゲル研磨工具の研究においては、繊維マットあるいは不織布の表面にゲルをコーティングし、硬化乾燥してから研磨に使用するのが一般的であり、こうして得られたゾルゲル研磨工具は、研磨効果が抜群であるものの、使用中に表面にゲルが一層コーティングされるに過ぎないため、工具の使用寿命が短く、長時間に渡る連続加工に対応することができない。さらに、環境保護という理念の推進に影響され、無水加工の要望がますます高まるが、現在のゾルゲル研磨工具が無水加工において損傷を受けやすい。さらに、研磨精度をより向上させ、研磨工具の産業化の要求に応えるため、新規なゾルゲル研磨工具の製造方法が強く求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来技術の欠点を克服し、フレキシブルゾルゲル研磨ブロックの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の技術的解決策は、以下の通りである。
フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックの製造方法であって、
(1)λ型カラギーナン、ジェランガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム又はコンニャクゲルであるゲル化剤と、W20ダイヤモンド砥粒とを、脱イオン水に入れて均一に攪拌する工程と、
(2)前記工程(1)で得られた材料に、400メッシュの炭素繊維を入れて均一に混合する工程と、
(3)前記工程(2)で得られた材料を、モールドに徐々に入れて硬化させ、硬化ゲルを取得する工程と、
(4)前記硬化ゲルを乾燥させ、前記フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックを調製する工程と、を含んでおり、
前記フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックには、W20ダイヤモンド砥粒の含有量が9~11wt%であり、ゲル化剤の含有量が2.9~3.1wt%であり、ゲルマトリックスの含有量が30~40wt%であることを特徴とする、フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックの製造方法。
【0007】
本発明の好ましい実施形態において、前記ゲル化剤はλ型カラギーナであり、前記硬化はKCl溶液に浸漬することである。
【0008】
本発明の好ましい実施形態において、前記ゲル化剤はコンニャクゲルであり、前記硬化はCaCl2溶液に浸漬することである。
【0009】
本発明の好ましい実施形態において、前記ゲル化剤はカルボキシメチルセルロースナトリウムであり、前記硬化はAl2(SO4)3溶液に浸漬することである。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、前記ゲル化剤はジェランガムであり、前記硬化はKCl溶液に浸漬することである。
【0011】
本発明の好ましい実施形態においては、前記フレキシブルゾルゲル研磨ブロックには、ゲル化剤の含有量が3wt%であり、ゲルマトリックスの含有量が30wt%である。
【発明の効果】
【0012】
1、本発明は、フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックの製造において、炭素繊維を特定の割合で配合することにより、製造されたフレキシブルゾルゲル研磨用ブロックに多孔質構造を持たせ、研磨工具の加工効果を向上させる。
2、本発明により製造されたフレキシブルゾルゲル研磨用ブロックは、表面に一層コーティングするのではなく、研磨用ブロック全体が研磨に使用可能であり、研磨工具の寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1におけるゲル化剤の含有量を変化させたゲルケーキの写真である。
【
図2】本発明の実施例1におけるゲル化剤含有量を変化させたゲルケーキの特性比較図である。
【
図3】本発明の実施例2における炭素繊維含有量を変化させたゲルケーキの写真である。
【
図4】本発明の実施例3におけるコンニャクゲルをゲル化剤としたゲルケーキの写真である。
【
図5】本発明の実施例3におけるコンニャクゲルをゲル化剤としたゲルケーキのミクロ形態図である。
【
図6】本発明の実施例3におけるコンニャクゲルをゲル化剤としたゲルブロックを用いて大理石を研磨した効果図である。
【
図7】本発明の実施例4におけるカルボキシメチルセルロースナトリウムをゲル化剤としたゲルケーキの写真である。
【
図8】本発明の実施例4におけるカルボキシメチルセルロースナトリウムをゲル化剤としたゲルケーキのミクロ形態図である。
【
図9】本発明の実施例4におけるカルボキシメチルセルロースナトリウムをゲル化剤としたゲルブロックを用いて大理石を研磨した効果図である。
【
図10】本発明の実施例5におけるジェランガムをゲル化剤としたゲルケーキの写真である。
【
図11】本発明の実施例5におけるジェランガムをゲル化剤としたゲルケーキのミクロ形態図である。
【
図12】本発明の実施例5におけるジェランガムをゲル化剤としたゲルブロックを用いて大理石を研磨した効果図である。
【
図13】本発明の実施例6におけるλ型カラギーナンをゲル化剤としたゲルケーキの写真である。
【
図14】本発明の実施例6におけるλ型カラギーナンをゲル化剤としたゲルケーキのミクロ形態図である。
【
図15】本発明の実施例6におけるλ型カラギーナンをゲル化剤としたゲルブロックを用いて大理石を研磨した効果図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながらさらに説明する。
【0015】
下記実施例におけるゲルケーキの製造方法は、いずれも以下の工程を採用する。
(1)カラギーナン、ジェランゲル、カルボキシメチルセルロースナトリウム又はコンニャクゲルであるゲル化剤及びW20ダイヤモンド研磨材(実施例1~2を除く)を脱イオン水中に入れて、均一に撹拌する。
(2)工程(1)で得られた材料に400メッシュの炭素繊維を入れて均一に混合する。
(3)前記工程(2)で得られた材料をモールドに徐々注入して硬化させ、硬化ゲルを得る。
(4)前記硬化ゲルを乾燥させ、研磨用ゲルブロックを取得する。
【0016】
<実施例1>
λ型カラギーナンを研究対象とし、炭素繊維の含有量を30wt%に制御しゲルケーキを調製し(具体的な製造方法が実施例6を参照)、異なるゲル含有量のゲルケーキ調製への影響を研究する。
図1に示すように、ゲル含量が2wt%、3wt%、及び4wt%となるように添加した際に調製したゲルケーキは、ゲル含量が2wt%と4wt%では、ゲルケーキの変形収縮が激しく、ゲル含量が3wt%では形状が完全であることがわかった。
図2に示すように、ゲル含量別の体積収縮率とショア硬さとでは、ゲル含量が2wt%では体積収縮率が大きく、3wt%及び4wt%では体積収縮率の変化が小さく、ゲル含量に伴う硬さの変化が小さいことがわかった。したがって、ゲル含量が3wt%の時に調製したゲルブロッキングが最も性能が良いことがわかった。
【0017】
<実施例2>
含有量3wt%のλ型カラギーナンをゲル化剤とし、炭素繊維をマトリックスとし、異なる含有量の炭素繊維のゲルケーキ調製(具体的な製造方法が実施例6を参照)への影響を研究する。以前の経験により、ゲル含有量をそれぞれ10wt%、20wt%、30wt%及び40wt%とし、
図3に、異なる含有量の繊維で調製されたゲルケーキの図面が示されている。図面から分かるように、炭素繊維の含有量が10wt%と20wt%である場合に、ゲルケーキの変形がより大きく、30wt%と40wt%の場合に、変形がより小さい。表1に、異なる繊維含有量のゲルケーキの性能が示され、そのうち、炭素繊維の含有量の増加に連れて、性能が強くなり、30wt%と40wt%の場合に基本的に安定になるため、炭素繊維の含有量を30wt%とするのは経済的である。
【0018】
表1は、異なる炭素繊維含有量のゲルブロックの性能を示す。
[表1]
【0019】
<実施例3>
室温でコンニャクゲル3g、炭素繊維30g及びW20ダイヤモンド砥粒10gを100mLの脱イオン水に入れて8時間撹拌し、0.5mol/LのCaCl
2溶液を調製し、均一に撹拌された混合溶液を円形のモールドに徐々に入れ、調製されたCaCl
2溶液に入れ、常温で3時間静置し、最後に、硬化したゲルブロックを常温常圧下で72時間乾燥させる。このように得られたゲルブロックは
図4に示され、そのミクロ形態が
図5に示され、研磨圧力15N、研磨回転数100r/min、研磨時間14minで研磨された大理石の表面形態が
図6に示される。以下の実施例の加工パラメータは同一であり、大理石の表面粗さがほぼ35nmであり、表面光沢度がほぼ88である。
【0020】
<実施例4>
炭素繊維含有量を30wt%とし、室温でカルボキシメチルセルロースナトリウム6gとW20ダイヤモンド研磨剤20gを200mLの脱イオン水に入れて均一に撹拌し、炭素繊維60gを当該混合物に入れて8時間十分に混合撹拌し、0.5mol/LのAl
2(SO
4)
3溶液を調製し、均一に撹拌された混合溶液を円形のモールドに徐々に入れて、調製されたAl
2(SO
4)
3溶液に入れ、常温で3時間静置し、最後に、カルボキシメチルセルロースナトリウムゲルを取り出して凍結乾燥機に投入し、凍結温度が-40℃より低く、凍結時間が8hであり、乾燥時間が10hであり、真空圧力が15Paより低く、環境温度が15℃であるように設置され、ゲルブロックが調製される。当該ゲルブロックは
図7に示され、その微視的な形態が
図8に示され、調製された弾性、良好な疎水性および多孔質構造を備え、且つ一定の気圧に耐えられるゲルブロックにより、大理石を研磨する研磨実験の優れた効果が
図9に示される。研磨後の大理石の表面粗さは27.552nmであり、光沢度は90であるが、このような大理石工場出荷時の標準光沢度は約80である。
【0021】
<実施例5>
室温でジェランガム6gおよびW20ダイヤモンド砥粒20gを200mLの脱イオン水に入れて均一に撹拌し、炭素繊維60gを入れて7時間十分に混合撹拌し、0.5mol/LのKCl溶液を調製し、均一に撹拌された混合溶液を円形のモールドに徐々に入れて、調製されたKCl溶液に入れ、常温で5時間静置し、最後に、ジェルゲルを取り出して2時間マイクロ乾燥させ、ジェルブロックが調製される。得られたブロックは
図10に示され、その微視的な形態が
図11に示され、調製された弾性、良好な疎水性および多孔質構造を備え、且つ一定の気圧に耐えられるゲルブロックにより、大理石を研磨する研磨実験の優れた効果が
図12に示される。研磨後の大理石の表面粗さは30.378nmであり、測定された光沢度の平均値が92であるが、このような大理石工場出荷時の標準光沢度は約80である。
【0022】
<実施例6>
常温常圧下で、λ型カラギーナン6gとW20ダイヤモンド砥粒20gを200mLの脱イオン水に入れて均一に撹拌し、炭素繊維60gを入れて7時間十分に混合撹拌し、0.5mol/LのKCl溶液を調製し、均一に撹拌された混合溶液を円形のモールドに徐々に入れて、調製されたKCl溶液に入れ、常温で3時間静置し、最後に、カラギーナンゲルを取り出して50℃のオーブン内で2時間熱風乾燥させ、カラギーナンゲルブロックが調製される。得られたブロックは
図13に示され、微視的な形態が
図14に示され、調製されたゲルブロックにより大理石を研磨する研磨実験の優れた効果が
図15に示される。研磨後の大理石の粗さは30.378nmであり、測定された光沢度の平均値が92であるが、このような大理石工場出荷時の標準光沢度が約80である。
【0023】
以上の説明は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明の実施範囲をこれらによって限定することができず、即ち、本発明の特許請求の範囲及び明細書の内容に基づく等価な変更及び修飾は、いずれも本発明の包括的な範囲内に属する。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、フレキシブルゾルゲル研磨用グブロックの製造方法を開示しており、(1)ゲル化剤とW20ダイヤモンド砥粒を脱イオン水に入れて均一に撹拌する工程と、(2)前記工程(1)で得られた材料に400メッシュの炭素繊維を入れて均一に混合する工程と、(3)前記工程(2)で得られた材料をモールドに徐々に入れて硬化し、硬化ゲルを取得する工程と、(4)前記硬化ゲルを乾燥させ、前記フレキシブルゾルゲル研磨用ブロックを調製するする工程と、が含まれている。本発明は、ゾルゲルマトリックスを調製する際に、特定の割合の炭素繊維を添加することにより、調製されたフレキシブルゾルゲル研磨用ブロックに多孔質構造を持たせ、研磨効果を向上させる。本発明により調製されたフレキシブルゾルゲル研磨用ブロックは、表面のみに一層コーティングするのではなく、研磨用ブロック全体を研磨に使用可能であり、研磨工具の寿命を向上させ、産業上の利用可能性を有する。