(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】飛翔害虫忌避樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
A01M 29/06 20110101AFI20240628BHJP
【FI】
A01M29/06
(21)【出願番号】P 2024067828
(22)【出願日】2024-04-18
【審査請求日】2024-05-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】323003551
【氏名又は名称】株式会社Eikyu
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 大
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3239252(JP,U)
【文献】意匠登録第1575239(JP,S)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 - 99/00
A01G 13/10
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オニヤンマを模した飛翔害虫忌避樹脂成形体であって、
前記飛翔害虫忌避樹脂成形体は、頭、胸、及び腹からなる樹脂成形体とストラップ連結部材とからなる2重振り子構造であり、
前記頭は、メタリックな金属光沢の球面形状の2つの眼球と前記2つの眼球の間に頭部リングフックとを有し、
前記胸は、上面に傾斜台座部と翅と胸部リングフックとを有し、
前記胸と前記腹とは、黒色に黄色帯を有し、
前記翅は、透明で平滑な表面であり、それぞれ2枚1対の前翅及び後翅からなり、
前記翅は、前記傾斜台座部に胸部リングフックで固定され、
前記ストラップ連結部材は、一端が前記頭部リングフック又は前記胸部リングフックと回動可能に連結し、他端が衣服、雑貨、携帯品及び物品と回動可能に連結可能であり、
前記ストラップ連結部材は、前記一端と前記他端との間に第1質点となる回動可能な第1質点連結接手を有し、
前記ストラップ連結部材の前記第1質点と第2質点である前記樹脂成形体とは、2重振り子運動が可能であり、
前記翅は、前記透明で平滑な表面によって光を反射し、
前記2重振り子運動によって複雑で非周期的な飛翔の動きをすることを特徴とする飛翔害虫忌避樹脂成形体。
【請求項2】
前記眼球は、パール樹脂又はメタリック・パール系塗料の塗布による青緑色の金属光沢を有し、
前記青緑色が、L*a*b*表色系色指数(標準光源D65、視野角10度)において、L*値が50~60、a*値が-40~-30、b*値が-7~3であることを特徴とする請求項1に記載の飛翔害虫忌避樹脂成形体。
【請求項3】
前記胸が黒色に黄色帯を少なくとも3本有し、
前記腹が黒色に黄色帯を少なくとも6本有し、
前記黄色帯が、L*a*b*表色系色指数(標準光源D65、視野角10度)において、L*値が97~100、a*値が-15~-22、b*値が72~94であることを特徴とする請求項1に記載の飛翔害虫忌避樹脂成形体。
【請求項4】
前記それぞれ2枚1対の前翅及び後翅が同一平面で水平に対して5~20度で、又は前翅、後翅が互い違いで、前翅が水平に対して下方に15度~30度で且つ後翅が上方に15度~30度、若しくは前翅が上方に15度~30度で且つ後翅が下方に15度~30度で取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の飛翔害虫忌避樹脂成形体。
【請求項5】
前記ストラップ連結部材は、第1連結接手、第1ストラップ部、前記第1質点連結接手、第2ストラップ部、及び第2連結接手がこの順にそれぞれ独立に回動可能に連結されており、
前記ストラップ連結部材の一端である第1連結接手は、前記樹脂成形体の前記頭部リングフック又は前記胸部リングフックと回動可能に連結し、
前記ストラップ連結部材の他端である第2連結接手は、直接又は間接的に衣服、雑貨、携帯品及び物品に回動可能に連結可能であることを特徴とする請求項1に記載の飛翔害虫忌避樹脂成形体。
【請求項6】
前記第1質点の質量と前記第2質点となる樹脂成形体の質量との比(第1質点の質量/第2質点の質量)が0.125超であることを特徴とする請求項1に記載の飛翔害虫忌避樹脂成形体。
【請求項7】
前記胸と接合していない側の腹の末端にさらに腹部リングフックを設け、
前記ストラップ連結部材の前記一端を前記腹部リングフックに取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の飛翔害虫忌避樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人にとって飛翔害虫である蚊、ユスリカ、アブ、ハチ、ハエなどを人に寄せ付けなくする飛翔害虫忌避性を有する樹脂成形体に係り、より詳しくは、蚊、ユスリカ、アブ、ハチ、ハエなどを捕食する昆虫の外形的な特徴に加えて複雑で非周期的な飛翔動きをする飛翔害虫忌避樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、健康志向や自然と接する機会を求めて、キャンピングや散策など野外での活動の機会が増え、野外で蚊、ユスリカ、アブ、ハチ、ハエなど(以下、「飛翔害虫」と称す。)による、虫刺され、吸血だけでなく外耳道への侵入など、飛翔害虫による被害が増えている。
従来、外出時に肌の露出部に殺虫薬剤を直接噴霧塗布する虫よけスプレーなどがあったが、薬剤に対するアレルギーや肌に薬剤が残留することへの虞から、子供から大人まで万人が手軽に使うものではなかった。これに対して、虫よけに有効な成分が揮発することによって飛翔害虫忌避性を有し、手軽に身に着けられる飛翔害虫忌避成分を保持するゴム成形体が開発されている(特許文献1)。しかしながら、虫よけ成分の薬臭がすること、特に、せっかく自然と接する野外での使用は、敬遠されていた。
【0003】
一方、昆虫の食物連鎖の捕食-被食関係に注目した飛翔害虫駆除の技術があり、特に、植物栽培や園芸の分野では、広く行われている。
この捕食-被食関係に注目して、飛翔する虫を捕食する天敵である昆虫を利用した飛翔害虫忌避技術が開示されている。例えば、飛翔害虫を捕食するオニヤンマの絵を用いた飛翔害虫の忌避具がある(特許文献2)。
ヤンマなどのトンボは、飛行しながら空中で飛翔害虫などを捕食する。虫よけの効果の向上のために、ヤンマの絵を吊るすことが開示されている。しかし、ヤンマの絵を単に吊るすだけでは、実際のヤンマの複雑で非周期的な飛翔の動きではないので、虫よけの効果は限定的となる。
【0004】
昆虫は、光の強弱を感じる単眼に加えて、独特の構造である複眼を有しており、この複眼は生体(移動体)の動きを敏感に察知することが知られている。実際、昆虫の眼の構造を利用した複眼撮像装置によって被写体側の空間情報を取得する技術(特許文献3)や複眼レンズによって生体(移動体)の移動状況を検知する技術(特許文献4)が開示されている。
複眼による空間情報及び移動状況の取得は、捕食及び被捕食昆虫に備わっており、被捕食昆虫にとっては、捕食昆虫の特徴的な形態に加えて、ヤンマの複雑で非周期的な飛翔の動きに対して敏感に反応する。
捕食昆虫のヤンマのように、特徴的な形態を有して飛翔時に「複雑で非周期的な飛翔の動き」を再現することは、飛翔害虫の忌避技術として有効である。しかし、簡便な物で具現化したものはなかった。
【0005】
この複雑で非周期的な飛翔の動きを再現する代わりに、予め録音したヤンマの羽音によって蚊を寄せ付けなくする羽音再生装置の蚊駆除装置が報告されている(特許文献5)。
従来の飛翔害虫忌避技術は、虫よけスプレーや揮発性成分による虫よけ具は、薬剤を使っているため薬害の虞がある問題があり、飛翔害虫を捕食するヤンマを吊るすのではなく、実際に生きたヤンマのような複雑で非周期的な飛翔の動きを再現するための羽音再生装置などの電子装置を使う方法しかなく、子供から大人まで万人が手軽に使うには問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5832649号公報
【文献】実用新案登録第3239252号公報
【文献】特許第6257285号公報
【文献】特許第5761557号公報
【文献】特開平7-255352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の虫よけ具および虫よけ方法の課題等に鑑み、これらを解消して、手軽に使用できるようにするものであり、飛翔害虫などを捕食する天敵に特徴的な形態に加えて、2重振り子運動可能な樹脂成形体を、身の回りの物に装着するだけで、人の動きによって、天敵に特徴的な形態の樹脂成形体が、飛翔するように複雑で非周期的な飛翔の動きを再現することによって有効な飛翔害虫忌避性を有する樹脂成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来技術の虫よけ具および虫よけ方法の課題を解決するために、飛翔害虫などを捕食する天敵であるオニヤンマ、カトリヤンマ及びヤブヤンマの内、オニヤンマに注目し、捕食昆虫の外見的特徴部位を強調して、捕食される飛翔害虫にとって有効な外見的な「気づき」となるように、警戒色である頭の眼の色調、腹の黄色帯の色調を最適化して樹脂成形体を形成した。
さらに、樹脂成形体が飛翔するヤンマのように、複雑で非周期的な飛翔の動きをするように2重振り子運動を可能とするストラップ連結部材を構成要素として備え、この複雑で非周期的な飛翔の動きに加え、翅部が複雑に光を反射することができる飛翔害虫忌避性を有する樹脂成形体を開発するに至った。
【0009】
本発明の飛翔害虫忌避樹脂成形体は、
オニヤンマを模した飛翔害虫忌避樹脂成形体であって、
前記飛翔害虫忌避樹脂成形体は、頭、胸、及び腹からなる樹脂成形体とストラップ連結部材とからなる2重振り子構造であり、
前記頭は、メタリックな金属光沢の球面形状の2つの眼球と前記2つの眼球の間に頭部リングフックとを有し、
前記胸は、上面に傾斜台座部と翅と胸部リングフックとを有し、
前記胸と前記腹とは、黒色に黄色帯を有し、
前記翅は、透明で平滑な表面であり、それぞれ2枚1対の前翅及び後翅からなり、
前記翅は、前記傾斜台座部に胸部リングフックで固定され、
前記ストラップ連結部材は、一端が前記頭部リングフック又は前記胸部リングフックと回動可能に連結し、他端が衣服、雑貨、携帯品及び物品と回動可能に連結可能であり、
前記ストラップ連結部材は、前記一端と前記他端との間に第1質点となる回動可能な第1質点連結接手を有し、
前記ストラップ連結部材の前記第1質点と第2質点である前記樹脂成形体とは、2重振り子運動が可能であり、
前記翅は、前記透明で平滑な表面によって光を反射し、
前記2重振り子運動によって複雑で非周期的な飛翔の動きをすることを特徴とする。
【0010】
本発明の飛翔害虫忌避樹脂成形体の眼球は、パール樹脂又はメタリック・パール系塗料の塗布による青緑色の金属光沢を有し、
青緑色が、L*a*b*表色系色指数(標準光源D65、視野角10度)において、L*値が50~60、a*値が-40~-30、b*値が-7~3であることを特徴とする。
【0011】
本発明の飛翔害虫忌避樹脂成形体の翅は、それぞれ2枚1対の前翅及び後翅が同一平面で水平に対して5~20度で、又は前翅、後翅が互い違いで、前翅が水平に対して下方に15度~30度で且つ後翅が上方に15度~30度、若しくは前翅が上方に15度~30度で且つ後翅が下方に15度~30度で取り付けられている。
【0012】
本発明の飛翔害虫忌避樹脂成形体の腹は円柱の一端が胸と接合し、円柱の他端が紡錘状であり、
腹が黒色に黄色帯を少なくとも6本有し、
黄色帯が、L*a*b*表色系色指数(標準光源D65、視野角10度)において、L*値が97~100、a*値が-15~-22、b*値が72~94である。
【0013】
本発明の飛翔害虫忌避樹脂成形体のストラップ連結部材は、第1連結接手、第1ストラップ部、第1質点連結接手、第2ストラップ部、及び第2連結接手がこの順にそれぞれ独立に回動可能に連結されており、
前記ストラップ連結部材の一端である第1連結接手は、前記樹脂成形体の前記頭部リングフック又は前記胸部リングフックと回動可能に連結し、
前記ストラップ連結部材の他端である第2連結接手は、直接又は間接的に衣服、雑貨、携帯品及び物品に回動可能に連結可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
捕食昆虫として、特徴ある部位を強調した形状、色調、および自由度の高い取り付け具によって複雑で非周期的な飛翔の動きにより、被捕食の飛翔害虫にとって警告色及び特徴的な飛翔の動きに対する気づきを与えることにより、化学物質の揮発や電子装置を用いた虫よけでなく、天敵による虫よけ効果を与えるという本発明の効果がある。
【0015】
人体に無害であるために、使用場所を選ばず、人体の肌が接するところにも使用することができ、環境にも人体にも優しく、その効果が持続し、使用者の持ち物や身に着けたものに取り付けるだけで、使用者の動きに合わせて複雑で非周期的な飛翔の動きをすることによって虫よけができる従来の虫よけ具にはない効果である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】ストラップ連結部材の図である。図では回動可能な結合はリングで代表して記載してある。
【
図3】2重振り子の基準振動の図である。(1)2つの振り子が同位相で振れ(2)2つの振り子が逆位相で振れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に
説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより
本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0018】
本発明の飛翔害虫忌避樹脂成形体の一実施形態として、オニヤンマを模した樹脂成形体1がある。
図1に示すとおり、樹脂成形体1は、頭10、胸20、腹30、及び翅40からなり、頭10には2個の複眼に相当する眼球11があり、眼球11の間に頭部円形リングフック12があり、胸20上面に、頭から腹に向けて、下向きの傾斜台座部21が連結されており、この傾斜台座部21の上面にそれぞれ2枚1対の前翅41及び後翅42からなる翅40が篏合し、翅40は、胸部円形リングフック22で傾斜台座部21の上面に固定されている。また、胸部円形リングフック22は、座金を介して翅40の固定に用いることができる。なお、翅40は、傾斜台座部21に接着固定することもできる。
頭部円形リングフック12の質量を、胸部円形リングフック22が重心になるように調節することができる。
樹脂成形体1において、頭10、胸20、腹30、及び傾斜台座部21は、一体となって成形することができる。
【0019】
他の形態として、胸20と接合していない側の腹30の末端にさらに腹部円形リングフック32を設けることができる。
胸部円形リングフック22が重心になるように、腹部円形リングフック32の質量又は頭部円形リングフック12の質量を、調節することができる。
【0020】
樹脂成形体1のサイズは、例えば、オニヤンマと同程度の大きさであればよく、頭10、胸20、腹30からなる体長は、80~120mmであることができる。
また、赤トンボであれば、体長は50~100mmであることができる。
また、翅40の長さは、1枚当たり50~70mmであることができる。
樹脂成形体1の質量は、例えば、5~20gである。樹脂成形体1の質量は、好ましくは5~10gである。
【0021】
図2に示すとおり、ストラップ連結部材100は、第1連結接手110、第1ストラップ部113、第1質点連結接手120、第2ストラップ部123、及び第2連結接手130がこの順にそれぞれ独立に回動可能に連結されている。
ストラップ連結部材100の一端である第1連結接手110は、樹脂成形体1の頭部円形リングフック12又は胸部円形リングフック22と回動可能に連結し、
ストラップ連結部材100の他端である第2連結接手130は、直接又は間接的に衣服、雑貨、携帯品及び物品300に回動可能に連結可能である。
【0022】
ストラップ連結部材100の連結構成を
図2に従ってより詳細に説明する。
第1連結接手110の一端は、胸20上面の傾斜台座部21に固定された胸部円形リングフック22に、回動可能に連結される。
第1連結接手110の他端は、第1ストラップ113の一端に回動可能に連結される。
【0023】
第1ストラップ113の他端は、第1質点連結接手120の一端に回動可能に連結される。
第1質点連結接手120の他端は、第2ストラップ123の一端に回動可能に連結される。
【0024】
第2ストラップ123の他端は、第2連結接手130の一端に回動可能に連結される。
第2連結接手130の他端は、飛翔害虫忌避樹脂成形体を使用する使用者の衣服、雑貨、携帯品及び物品300に回動可能に取り付けられる。
【0025】
第2連結接手130を回動可能に取り付けられる使用者の衣服、雑貨、携帯品及び物品300の内の衣服、雑貨及び携帯品として、上着及びズボンなどの衣類、身に着けている帽子、及びパンダナなどの雑貨、並びにリュックサック、カバン及びベルトなど携帯品がある。
また、物品として、例えば、ベランダ、窓など建物、野外のテント及び木立などがあり、飛翔害虫が部屋などに入るのを防ぐ目的で飛翔害虫忌避樹脂成形体を装着する。
【0026】
第1質点連結接手120は、第1質点連結接手120の自重、又は、さらに錘124(
図2に示さず)、例えば、リング状の錘などを装着することにより、
図3に示す2重振り子の第1質点400として働くことができる。
また、第1質点連結接手120に回動可能に連結された第1ストラップ部113にさらに回動可能に連結された樹脂成形体1は、
図3に示す2重振り子の第2質点500として働くことができる。
【0027】
頭10、胸20、腹30、及び傾斜台座部21は、通常の熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂で成形できる。
熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネー又はこれらのうち少なくとも2種を含む共重合体などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。なお、熱可塑性樹脂としては、弾性率の高い樹脂であっても良い。加熱下での成形が容易であることから、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリアミド(ナイロン系樹脂)がより好ましい。
【0028】
熱硬化性樹脂としては、たとえば成形材料に用いられるものであればよく、具体例として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、ポリビニルブチラール樹脂およびポリ酢酸ビニル樹脂が挙げられる。さらに具体的には、エポキシ樹脂及びフェノール樹脂から選択される1種以上を含み、好ましくはフェノール樹脂を含み、より好ましくはフェノール樹脂、又は、エポキシ樹脂およびフェノール樹脂である。また、樹脂組成物は、好ましくはフェノール樹脂組成物である。
本発明に係る樹脂成形体1は、例えば、金型内に溶融状態の樹脂又は樹脂組成物を充填させて成型することができる。
さらに、頭10、胸20、腹30、及び傾斜台座部21を一体成型することができる。
【0029】
樹脂成形体1に用いる樹脂は、樹脂の中に染料や顔料、着色剤などの色材を混ぜ合わせ着色した樹脂を用いることができる。
例えば、オニヤンマであれば、黒色樹脂を用いことができる。また、赤トンボであれば、赤色樹脂を用いることができる。
【0030】
以下に、本発明の飛翔害虫忌避樹脂成形体について、樹脂成形体1の一形態を具体的に説明するが、その形状及び寸法は、オニヤンマ又は赤トンボを模した形態であればよく、オニヤンマであれば、本発明の技術的特徴である金属光沢の青緑色の眼球11、光を反射する翅40、並びに胸20及び腹30に警戒色の黄色帯を備えていれば良い。
【0031】
頭部円形リングフック12、胸部円形リングフック22、及び腹部円形リングフック32には、金属製又は樹脂製の各種リングフック、例えば、円形リングフック、座付きリングフック、ヒートンなど回動可能に連結できるリングフックを用いることができる。
【0032】
第1連結接手110、第1質点連結接手120、及び第2連結接手130には、金属製又は樹脂製の各種フック、例えば、カニカン、回転リング付きナスカン、クリップフック、プラスフック、スイベルスナップ、スプリングフック、ナスカン、スナップフック、及びピンフックなど回動可能に連結できる連結接手を用いることができる。
【0033】
第1ストラップ113及び第2ストラップ123には、2重振り子運動を可能とする金属若しくは樹脂製の棒材若しくは円筒材、又は剛体若しくは紐などを用いることができる。
例えば、金属ワイヤー、針金、ピアノ線、綿紐、革紐、合成繊維紐、ナイロン紐、ポリエチレン紐、ポリウレタン紐、ポリプロピレン紐、ポリエステル紐、ケブラー(登録商標)紐、弾力紐、又は平紐等の2重振り子運動を可能とするストラップを用いることができる。
【0034】
頭10の形状の一例として、頭10の一端の上部の左右に眼球11を取り付けられる球面形状の凹部を設けた、長さ10mm~15mm円柱状であることができる。他端は胸20に接合する。
眼球11は球面形状であれば良く、例えば、8~10φ球を眼球11として、例えば、頭10の上部の左右に設けられた凹部に取り付けられることができる。
【0035】
胸20は、頭10が接続する側が盛り上がった形状であり、次第に細くなり、腹30に繋がる形状であることができる。
胸20の上面の盛り上がった形状は、傾斜台座部21となっており、この傾斜台座部21には翅40が固定されるようになっている。また、傾斜台座部21には翅40と篏合するように切り欠きを設けることができる。
傾斜台座部21は頭側から腹側へ下向きに傾斜しており、傾斜角度は、水平に対して5~20度であることができる。好ましくは、10~15度であることができる。
【0036】
腹30の形状は、胸20の接合部から次第に細くなり、例えば、4~6φの円柱状の部位が後に延びたのち、次第に膨らみ、次に細くなる紡錘形の形状で、末端は丸くなることができる。
なお、樹脂成形体1の向きを表すために、眼球11が取り付けられた頭10の先端を以降、「前」又は「前方」と称し、一方、胸20に接続する側でない腹30の末端を以降、「後」又は「後方」と称す。
【0037】
樹脂成形体1がオニヤンマの場合には、黒色の胸20及び腹30に黄色の帯がある。
例えば、胸20の両側面に前方から後方へ向けて上がる斜線の3本の黄色の帯があることができる。腹30には6本黄色の帯があることができる。腹30には、胸20との接合部から後方へ細くなる円柱状部に3本、それに接続する紡錘形の形状部に3本の帯があることができる。紡錘形の形状部は、例えば、胸20との接合側から後方へ4本目の帯の位置から膨らみ始め、5本目の帯の位置で膨らみが最大となり、後方に向けて膨らみが次第に小さくなる位置に6本目の帯があることができる。
【0038】
オニヤンマに模した樹脂成形体1がオニヤンマの場合には、胸20の長さが10~20mmであり、腹の長さは60~80mmである。
頭10、胸20、腹30は、黒色樹脂を用い、胸20及び腹30に黄色の帯の塗装を行う。
塗料は樹脂に塗布することができるものであれば良く、各種塗布方法を用いることができる。塗布方法は、スプレー塗装、ロール塗装、スクリーン印刷、シルクスクリーン印刷、及びパッドプリントなどを用いることができる。曲面への塗布方法としてパッドプリントが好適である。
【0039】
翅40は、それぞれ2枚の前翅41及び後翅42からなり、透明で平滑な樹脂板を用いることができる。樹脂板の厚みは0.2mm~0.8mmであり、好ましくは、0.3~0.6mmである。樹脂板に用いる樹脂は、透明で平板成形可能であれば、種々の熱可塑性樹脂を用いることができる。
翅40は、前翅41及び後翅42を一体成形したもの又は前翅41及び後翅42をそれぞれ独立に成形したものを用いることができる。
【0040】
翅40の主な形成材料としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリメチルメタクリレート等のポリアクリレート、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、ポリイミド、ポリアリレート、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、シクロオレフィンコポリマー、含ノルボルネン樹脂、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン等の透明樹脂や無機ガラスを利用できる。この中でも、ポリスチレンからなる樹脂板(PS)、ポリエチレンテレフタレートからなる樹脂板(PET)、トリアセチルセルロースからなる樹脂板(TAC)、ポリメチルメタクリレートからなる樹脂板(PMMA)、ポリエステルからなる樹脂板を好適に利用できる。
【0041】
前翅41及び後翅42の表面は平滑であり、表面反射を損なわない範囲で翅脈模様を設けることができる。翅脈模様として、例えば、黒で簡単な線幅0.5mm程度の直線又は曲線からなる幾何模様の印刷を表面に設けることができる。
【0042】
また、前翅41又は後翅42の表面反射を増強するための、前翅41及び後翅42の一面又は両面に各種の反射テープ、例えば、パール状の光沢を有するテープ、又はホログラムテープなどを接着、融着、又はラミネート若しくは積層化することができる。
【0043】
前翅41、後翅42からなる翅40は、胸20の上面の傾斜台座部21に種々の角度で取り付けることができる。
例えば、一体型に成形された前翅41、後翅42が、同一平面で水平に対して5~20度で、好ましくは、10~15度で取り付けることができる。
また、前翅41、後翅42が互い違いで、水平に対してそれぞれ異なる角度を付けて取り付けることができる。
例えば、水平に対して、2枚一対の前翅41が下方に5~45度で且つ2枚一対の後翅42が上方に5~45度又は2枚一対の前翅41が上方に5~45度で且つ2枚一対の後翅42が下方に5~45度で取り付けることができる。
好ましくは、水平に対して、2枚一対の前翅41が下方に15度~30度で且つ枚2枚一対の後翅42が上方に15度~30度、又は2枚一対の前翅41が上方に15度~30度で且つ2枚一対の後翅42が下方に15度~30度で取り付けることができる。
前翅41、後翅42とも長さ50~70mm、幅8~15mmで、また、先端部は円形又は角丸の形状が好ましい。
【0044】
さらに、前翅41又は後翅42は、傾斜台座部21に固定することもできるし、それぞれ独立に胸の付け根で各種ヒンジなどを介して可動に取り付けることができる。
例えば、ヒンジとしては、樹脂製ヒンジ又は樹脂製テープ、又はガラスファイバーテープ等を用いることができる。、
【0045】
眼球11は球面形状、例えば、8~10φ球で青緑色の金属光沢を有するものである。
金属光沢は、ユリア樹脂にメタリック塗装又はパールマイカ塗装などによって得られる。また、青緑色のパール樹脂を用いることができる。
【0046】
樹脂成形体1の胸部円形リングフック22は、樹脂成形体1の重心点に設けられており、ストラップ部1に連結された樹脂成形体1は静止状態で頭10、胸20及び腹30が水平状態となることができる。
また、前翅41又は後翅42は傾斜台座部21によって水平から傾斜している。この傾斜によって風が吹くと揺れ動き易い構造となっている。
【0047】
飛翔害虫忌避樹脂成形体は、ストラップ連結部材100を介して、衣服、雑貨、携帯品及び物品300として、例えば、上着、ズボンなどの衣類、リュックサック、カバン、ベルトなど携帯品や身に着けている帽子、パンダナなどの雑貨に装着することにより、使用者が動くことにより、二重振り子運動が可能となる。
また、建物の窓やベランダ及び野外のテント又は木立の枝に装着することによって風で揺れ動くことにより、二重振り子運動が可能となる。
【0048】
第2質点600の樹脂成形体1は、単純な揺動又は二重振り子運動だけでなく振り子のアーム軸周りに回動の自由をそれぞれ有するために、さらなる回動運動が加わって、より複雑な動きをする。
これらの動きに、前翅41後翅42が胸20との胸部円形リングフック22周りに揺動モーメントを生じさせたり、頭10と腹30の末端周りに回動モーメントを生じさせたりして、さらに複雑で非周期的な不規則な動きを与える。
この前翅41後翅42の動きは、日中、太陽の光を反射して、太陽光に敏感な飛翔する昆虫の注意を引くことができる。
【0049】
〔飛翔害虫忌避樹脂成形体の製造〕
〔製造例1〕
黒色ABS樹脂で一体成形した頭、傾斜台部を含む胸、及び腹からなる100mmの成形体に黄色帯(EXO黄(2)とEXO白との混色(十条APインキ製))9本をパッドプリンティングで塗布し、青緑色の金属光沢の8φの眼球を円形リングフックを設けた頭に取り付け、前翅及び後翅が一体型で同一平面のそれぞれ1枚の長さ125mm、幅10mmのPET前翅及び後翅を胸上部の傾斜台部に胸部円形リングフックで取り付け、オニヤンマを模した質量7gの樹脂成形体を製造した。
【0050】
ストラップ連結部材の一例を述べる。
第1ストラップ部及び第2ストラップ部として、市販のリング付きストラップを用いた。
リング付きストラップは、一端が回動可能に取り付けられた円形リングで他端はナイロン紐輪である。このリング付きストラップを2本用意し、さらに、第1連結接手及び第1質点接手としてカニカンを、リング付きストラップのそれぞれの円形リングに回動可能に連結した。
カニカンを連結したリング付きストラップ2本を、第1連結接手(カニカン)、(円形リング)第1ストラップ部(ナイロン紐輪)、第1質点接手(カニカン)、及び(円形リング)第2ストラップ(ナイロン紐輪)の順に連結してストラップ連結部材とした。
ストラップ連結部材の一端が、第1連結接手のカニカンのフックであり、ストラップ連結部材の他端は、第2ストラップのナイロン紐輪が第2連結接手も兼ねることとした。
ここで第1質点接手のカニカンには円形の錘を装着でき、錘を変えることにより第1質点としての質量を変えられるようにした。
ストラップ連結部材の一端である第1連結接手のカニカンのフックを、第2質点となる樹脂成形体の胸部円形リングフックに連結して飛翔害虫忌避樹脂成形体を製造した。
【0051】
ここで、胸部円形リングフックの円形リングが、樹脂成形体の頭から腹の末端を結ぶ線に直交するように取り付けられており、第1連結接手のカニカンのフックと連結されることにより、樹脂成形体は、ストラップ連結部材の振り子の振れ方向に回動可能である。
第1連結接手のカニカンのフックと反対端の円形穴に第1ストラップ部の円リングが連結されており、第1連結接手のカニカンは、ストラップ連結部材の振り子の振れ方向に回動可能である。
第1質点接手(カニカン)のフックが、第1ストラップ部のナイロン紐輪と連結され、また、第1質点接手のカニカンのフックと反対端の円形穴に第2ストラップ部の円リングが連結されており、第1質点接手は、ストラップ連結部材の振り子の振れ方向に回動可能である。
第1ストラップ部及び第2ストラップ部の長さはそれぞれ15mm~75mmである。
【0052】
〔製造例2〕
製造例1と同じオニヤンマを模した飛翔害虫忌避樹脂成形体であるが、ストラップ連結部材を胸上部の胸部円形リングフックに取り付ける代わりに、頭部又は胸部円形リングフックに安全ピンを取り付けたオニヤンマを模した飛翔害虫忌避樹脂成形体を製造した。
【0053】
(発明品1~3)
製造例1に従い、飛翔害虫忌避樹脂成形体を製造した。
第1ストラップ部及び第2ストラップ部の長さは75mmであり、錘の質量を変えて第1質点の質量と第2質点の質量との比(第1質点の質量/第2質点の質量)が0.6、1.1及び1、5の発明品1~3を製造した。
【0054】
(発明品4~6)
発明品4は、第2ストラップ部の長さが37mm以外は、発明品2と同様であり、発明品5は、第1ストラップ部及び第2ストラップ部の長さが37mm以外は、発明品2と同様である。
発明品6は、第1ストラップ部の長さ15mm、第2ストラップ部の長さが50mmで第1質点の質量と第2質点の質量との比(第1質点の質量/第2質点の質量)が0.14である。
【0055】
(比較品1)
第1質点に第1質点接手以外の錘がないこと以外は発明品1と同様である比較品1を製造した。
以上の発明品1~6及び比較品1の第1質点の質量と第2質点の質量との比(第1質点の質量/第2質点の質量)、並びに第1及び第2ストラップ部の長さを表1にまとめる。
【0056】
【0057】
〔警戒色の色調測定〕
製造例1で得られた飛翔害虫忌避樹脂成形体の腹の黄色帯の表面の色を分光測色計(株式会社コニカミノルタ社製 CM-700d)で測定した。
データは、1サンプルに付き黄色帯の異なる3ヶ所を3サンプル測定し、その測定数値の算術平均を採った。
ここで、L*a*b*表色系(国際照明委員会)では、「L*」軸は明度であり、「a*」軸はプラスが赤でマイナスは緑を、「b*」軸はプラスが黄でマイナスは青を表している。
本発明の飛翔害虫忌避樹脂成形体は、警戒色の腹の黄色帯が、L*a*b*表色系色度において、95≦L*≦100、且つ、-10≦a*≦-25、且つ、70≦b*≦95であり、より好適には、97≦L*≦100、且つ、-15≦a*≦-22、且つ、72≦b*≦94であった。
また、警戒色の眼球が、メタッリクな光沢で、L*a*b*表色系色度において、40≦L*≦70、且つ、-50≦a*≦-35、且つ、-15≦b*≦5であり、より好適には、50≦L*≦60、且つ、-40≦a*≦-30、且つ、-7≦b*≦3であった。
【0058】
〔2重振り子試験〕
製造例1の飛翔害虫忌避樹脂成形体を回動可能に吊るして、第1ストラップ部及び第2ストラップ部をたるみなく伸ばした状態で水平から自由振り子運動をさせ、1コマ0.1秒の連続写真撮影を行った。
第1ストラップ部及び第2ストラップ部の長さ(振り子1及び振り子2の長さ)並びに第1質点の質量を変化させて、その自由振り子運動を観察した。
【0059】
水平から自由振り子運動をさせ、1コマ0.1秒の連続写真撮影画像を解析して、振り子1と振り子2の振り子運動の位相を調べた。
図3(2)に示すような逆位相の振り子運動が確認できたことをもって、「2重振り子運動する」と判断した。
比較品1と発明品1~3との判断結果を下記表2に示す。
【0060】
【0061】
振り子運動の
図3(1)に示す同相の振り子の周期は、振り子の長さが同じであれば、第1質点の質量と第2質点の質量との比(第1質点の質量/第2質点の質量)を変化させても顕著な変化は確認されなかった。
例えば、発明品2の場合、振り子運動は、
図3(1)に示す1周期は約0.7~0.8秒であり、約0.4秒まで2つの振り子は同位相で振れていた。また、樹脂成形体が背面となり回転する様子が確認された。
【0062】
約0.5秒後には明らかに2つの振り子は、
図3(2)に示す逆位相で振れていた。この時、第1振り子と第2振り子のなす角度は約110度であった。
以後も逆位相で振れるのが観測された。約1秒間に3回、背面となり回転し、併せて水平方向での回転もあり、全体的に複雑な動きが確認された。
【0063】
表2に示すとおり、第1質点連結接手に錘を装着させて、第1質点の質量と第2質点の質量との比(第1質点の質量/第2質点の質量)が0.125を超えた場合に2重振り子運動が確認された。
【0064】
第1ストラップ部及び第2ストラップ部の長さが異なり、且つ、発明品2に比べてストラップ2の長さが半分である発明品4の場合も約0.3~0.4秒後に
図3(2)に示す逆位相で振れる2重振り子運動が確認された。
第1ストラップ部及び第2ストラップ部ともに発明品2に比べて長さの半分になった発明品4の場合も約0.3~0.4秒後に
図3(2)に示す逆位相で振れる2重振り子運動が確認された。
以上のことより、第1質点の質量と第2質点の質量との比(第1質点の質量/第2質点の質量)が0.125を超える場合には、第1ストラップ部又は第2ストラップ部の長さによらず2重振り子運動が確認された。
【0065】
〔飛翔害虫忌避試験〕
本発明は、飛翔害虫を捕食するオニヤンマの外見的な特徴だけでなく、複雑で非周期的な飛翔の動きを2重振り子運動で再現するために、昼間の飛翔害虫忌避に有効であると期待される。そのために、実際の昼間の野外活動での本発明の効果の実証試験を実施した。
飛翔害虫忌避試験として、近隣に大型キャンプ場がある大型リゾートホテルでアンケート調査を行った。
【0066】
〔飛翔害虫忌避試験方法〕
近隣に大型キャンプ場がある大型リゾートホテルの宿泊客に、飛翔害虫忌避樹脂成形体を装着して通常どおりに自然散策などの活動を行ってもらった。
飛翔害虫忌避樹脂体は、第1質点の質量/第2質点の質量が0.143であり2重振り子運動が確認されている発明品6の2重振り子構造の飛翔害虫忌避樹脂体(以下、「2重振り子構造の飛翔害虫忌避樹脂体」と称す)と2重振り子構造の代わりに安全ピンで装着する飛翔害虫忌避樹脂体(以下、「安全ピンの飛翔害虫忌避樹脂体」と称す)とを用い、種々の部位に装着した結果を比較した。
また、飛翔害虫として、蚊、ハエ、アブ、ハチ、その他について、飛翔害虫の目撃、近接及び虫刺などについてアンケートを行った。
【0067】
〔飛翔害虫忌避試験〕
8月から9月の間、483人の被試験者(宿泊客)に2重振り子構造の飛翔害虫忌避樹脂体(223人)又は安全ピンの樹脂成形体(194人)を帽子、洋服(上着)、ズボン、カバン等携帯品、その他に装着してもらい、飛翔害虫として蚊、ハエ、アブ、ハチ、その他を対象として、飛翔害虫の近接や虫刺の有無及び目撃状況等についてアンケートを行った。
なお、合計数が被験者総数と一致しないのは、未回答、不明によるもの及び複数回答によるものである。
【0068】
被験者の飛翔害虫忌避樹の効果についての報告を集計した。
「効果」の判断は、「実際に蚊、ハエ、アブ、ハチ、その他の虫が寄ってきたが、虫が逃げるのを実際に目撃した」などの直接証拠を確認したことをもって、「効果あり」とした。
一方、「効果なし」については、「もともと虫がいなかった」、「虫が出るような場所に近寄らなかった」、「虫が寄ってきたが、その後の挙動を観察してなかった」などの種々の状況が考えられるため、実際に目撃したなどの直接証拠を確認した「効果あり」の結果を下記表3にまとめる。
【0069】
【0070】
151人が虫が飛翔してきたが、虫が飛翔して逃げるのを目撃したなどの直接証拠を確認したと回答した。
確認した虫の種類についての質問では、単に「虫」との回答が多かった。一方、虫の種類が確認された回答では、蚊よりハエ、ブヨ、ハチの大型の飛翔害虫の確認の記載が多く見られた。特に、ハチの記載の多いのは、ハチの近接が被験者の注意を引くためと推測される。
表3の結果より、2重振り子構造又は安全ピンの飛翔害虫忌避樹脂体が飛翔害虫忌避の効果があることが確認された。
特に、ハチに対して忌避効果があることが確認された。
【0071】
次に、飛翔害虫忌避樹脂体を装着していることによって「害虫が寄ってこない」との害虫忌避の効果について検討した。
害虫忌避の確認は、上述の飛翔害虫忌避の目撃などの直接証拠の確認と異なり、害虫近接の有無の質問に対する「飛翔害虫の近接がない」との回答の場合には、虫に遭遇しなかった、又は虫の近接に気づかなかったなどの場合が考えられる。
そのために、虫が寄ってきたことの目撃証拠を基に、2重振り子構造の飛翔害虫忌避樹脂体又は安全ピンの飛翔害虫忌避樹脂体による飛翔害虫忌避の効果の差異及び装着箇所による飛翔害虫忌避の効果の差異を検討した。
【0072】
〔ハチの近接事例〕
ハチが近接したとの目撃回答は6件あり、ハチが近接した事例での2重振り子構造又は安全ピンの飛翔害虫忌避樹脂体とその装着箇所での目撃数を下記の表4に示す。
【0073】
【0074】
表4に示すとおり、ハチの近接が確認されたうち、衣服に飛翔害虫忌避樹脂体を装着していたのは、いずれも安全ピンの飛翔害虫忌避樹脂体の場合であった。
安全ピンの飛翔害虫忌避樹脂体の場合には、装着箇所が上着ではハチの近接が確認されず、帽子やズボンなどでハチの近接が確認された。
一方、2重振り子構造の飛翔害虫忌避樹脂体の場合は、身体に装着した場合の報告はなく、ベランダや露天風呂に設置している場合にハチの近接が観測された。
表4の結果から、2重振り子構造の飛翔害虫忌避樹脂体が2重振り子運動のように複雑に非周期に動くことによる効果が確認された。
【0075】
〔建物へのハチの接近阻止試験方法〕
スズメバチ発生で、近隣の周遊観光コースが度々通行止めになる大型観光地の中規模旅館の見晴らしの良い露天風呂及び野外飲食テラスの一本立ちの竹に発明品6の2重振り子構造の飛翔害虫忌避樹脂体を設置してスズメバチ等の接近を観察した。
【0076】
〔建物へのハチの接近阻止試験〕
9月には、近隣の周遊観光コースがスズメバチ発生で通行止めになるなど、飛翔するハチが頻繁に見られる大型観光地の中規模旅館において、9月の晴れた2日間に建物へのハチの接近阻止試験を実施した。
旅館の見晴らしの良い露天風呂及び野外飲食テラスにおいて、露天風呂から3m、また、野外飲食テラスのテーブルから3m離れた一本立ちの竹の地上150cmの枝先で周りから良く見える位置に2重振り子構造の飛翔害虫忌避樹脂体を吊るして午前10時から午後4時までスズメバチ等の接近を観察した。
【0077】
観察の2日間に、野外でスズメバチの飛翔が見られたが、露天風呂及び、野外飲食テラスのテーブルにアシナガバチやスズメバチ等の接近は見られなかった。また、露天風呂及び、野外飲食テラスにアシナガバチ、ミツバチやスズメバチ等の死骸も見られなかった。
一本立ちの竹に吊るした2重振り子構造の飛翔害虫忌避樹脂体は、風が吹くことにより枝の揺れに伴って複雑に非周期的に動く様子が観察された。すなわち、本発明の2重振り子運動の動きが、露天風呂や野外飲食テラスなどの建物へのハチの接近を阻止することが確認され、飛翔害虫の中でもスズメバチなどハチに対して本発明の2重振り子構造の飛翔害虫忌避樹脂体が建物へのハチの接近阻止効果を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
飛翔害虫の忌避効果の確認された本発明の2重振り子運動をするオニヤンマに模した飛翔害虫忌避樹脂体は、殺虫剤などの薬剤散布することなく、また、オニヤンマの羽音を再生するなどの電子デバイスを用いることなく、農作業や林業などの野外活動の従事者からハチやブヨなどの危険な飛翔害虫の被害を回避でき、また、野外リクレーションにおける飛翔害虫による虫刺されなどの悩みを解消できるため、自然のなかでの産業活動を継続でき、産業上の利用可能性は大きいものと期待される。
【符号の説明】
【0079】
1 樹脂成形体
10 頭
11 眼球
12 頭部円形リングフック
20 胸
21 傾斜台座部
22 胸部円形リングフック
30 腹
40 翅
41 前翅
42 後翅
100 ストラップ連結部材
110 第1連結接手
111 円形リング
112 カニカン
113 第1ストラップ部
120 第1質点連結接手
121 円形リング
122 カニカン
123 第2ストラップ部
130 第2連結接手
131 円形リング
132 カニカン
300 衣服、雑貨、携帯品及び物品
400 第1質点
500 第2質点
600 重力
【要約】
【課題】本発明の目的は、薬剤を使うことなく、飛翔害虫を忌避する飛翔害虫忌避樹脂成形体を提供する。
【課題の解決手段】飛翔害虫などを捕食する天敵に特徴的な形態に加えて、2重振り子運動可能な樹脂成形体を、身の回りの物に装着するだけで、人の動きによって、天敵に特徴的な形態の樹脂成形体が飛翔するように不規則に非周期的に動くことによって有効な飛翔害虫忌避性を有する樹脂成形体を提供する。
【選択図】
図1