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特許7511306非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池および非水電解質二次電池用電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池および非水電解質二次電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240628BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240628BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240628BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240628BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240628BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024519806
(86)(22)【出願日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2023018335
【審査請求日】2024-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2023014464
(32)【優先日】2023-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515066771
【氏名又は名称】株式会社アイ・エレクトロライト
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】石川 正司
(72)【発明者】
【氏名】副田 和位
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-003926(JP,A)
【文献】特開2000-294252(JP,A)
【文献】特開2002-270152(JP,A)
【文献】特開2015-090858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62、4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム集電層上に電極合剤層が存在する非水電解質二次電池用電極であって、
前記電極合剤層を構成する電極合剤スラリーは、活物質、バインダー、増粘剤および保護膜形成剤を含む水系スラリーであり、
前記活物質は、アルカリ金属イオンを電気化学的に吸蔵・脱離可能な活物質、または、アルカリ金属イオンを電気化学的に合金・脱合金化可能な活物質であり、
前記保護膜形成剤は、アルカリ珪酸塩を含み、
前記電極合剤スラリーの固形分中の前記保護膜形成剤の比率が、0.2重量%以上0.4重量%以下の範囲であり、
前記電極合剤スラリーは、少なくとも前記活物質と前記増粘剤と水とを混合した後に、前記保護膜形成剤を添加して作製されたものであり、
前記保護膜形成剤によって形成される保護膜が、前記アルミニウム集電層の表面に存在することを特徴とする非水電解質二次電池用電極。
【請求項2】
前記保護膜形成剤は、MO・nSiOで表されるアルカリ珪酸塩を少なくとも含有し、前記MはLi,Na,Kの少なくとも1種を含み、前記nが1.6以上8.0以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項3】
前記電極合剤中の保護膜形成剤の重量割合は、0.1%を超え1%以下の範囲である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項4】
前記保護膜形成剤を水溶液として添加したものである、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項5】
前記電極合剤層を剥離した後、前記アルミニウム集電層の表面に存在する保護膜は、X線光電子分光法(XPS)によるMgKα線のX線源を用いた分析により、Si2p3/2スペクトルにおける102~107eVの範囲内に結合エネルギーを有するSi-O結合を少なくとも含む、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項6】
前記アルミニウム集電層は、純アルミニウム、または、アルミニウムと1種以上の添加元素からなる合金である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項7】
前記活物質は、
LiMO,LiM,Li12(xは1~2、Mは遷移金属)で表され、遷移金属を少なくとも1種含むリチウム酸化物と、
LiMPO(Mは遷移金属)で表され、遷移金属を少なくとも1種含むリチウムポリアニオン化合物と、
リチウム硫黄化合物、リチウムセレン化合物およびリチウムフッ化化合物から選ばれるリチウム無機化合物と、
NaMOまたはNaMO(Mは遷移金属)で表され、遷移金属を少なくとも1種含むナトリウム酸化物と、
NaM(XO,NaMPOまたはNaM(SO(Mは遷移金属、Xは硫黄、リン、シリコンの1種)で表され、遷移金属を少なくとも1種含むナトリウムポリアニオン化合物と、
NaM[M’(CN)](M,M’は遷移金属)で表され、遷移金属を少なくとも1種含むナトリウムプルシアンブルー類似化合物と、
から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項8】
前記保護膜形成剤は、LiO・nSiOで表されるケイ酸リチウムを含有し、前記nが3.5以上7.5以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項9】
正極および負極を備え、前記正極と前記負極との間は絶縁層で隔てられており、前記正極および前記負極の少なくとも一方が、請求項1から8のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極である、非水電解質二次電池。
【請求項10】
アルミニウム集電層上に電極合剤層が存在する非水電解質二次電池用電極の製造方法であって、
前記電極合剤層を構成する電極合剤スラリーとして、活物質、バインダー、増粘剤および保護膜形成剤を含む水系スラリーを用い、
前記活物質は、アルカリ金属イオンを電気化学的に吸蔵・脱離可能な活物質、または、アルカリ金属イオンを電気化学的に合金・脱合金化可能な活物質であり、
前記保護膜形成剤は、アルカリ珪酸塩を含み、
前記電極合剤スラリーの固形分中の前記保護膜形成剤の比率が、0.2重量%以上0.4重量%以下の範囲であり、
前記電極合剤スラリーは、少なくとも前記活物質と前記増粘剤と水とを混合した後に、前記保護膜形成剤を添加して作製し、
前記電極合剤スラリーを前記アルミニウム集電層の表面に塗布し、乾燥させることで、前記アルミニウム集電層の表面に前記保護膜形成剤によって保護膜を形成させることを特徴とする非水電解質二次電池用電極の製造方法。
【請求項11】
前記保護膜形成剤は、MO・nSiOで表されるアルカリ珪酸塩を少なくとも含有し、前記MはLi,Na,Kの少なくとも1種を含み、前記nが1.6以上8.0以下である、請求項10記載の非水電解質二次電池用電極の製造方法。
【請求項12】
前記保護膜形成剤は、前記電極合剤スラリーの固形分中の比率が0.1重量%を超え1重量%以下の範囲内にある、請求項10記載の非水電解質二次電池用電極の製造方法。
【請求項13】
前記保護膜形成剤を水溶液として添加する、請求項10記載の非水電解質二次電池用電極の製造方法。
【請求項14】
前記保護膜形成剤は、LiO・nSiOで表されるケイ酸リチウムを含有し、前記nが3.5以上7.5以下である、請求項10記載の非水電解質二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用電極非水電解質二次電池および非水電解質二次電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機器、電気自動車等に搭載される電気化学デバイスとして、例えば、電気二重層キャパシタ、リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池等の蓄電デバイスが開発されている。これらの中でも、リチウムイオン二次電池は、機器の小型化や軽量化を可能にし、充放電効率がよく、高いエネルギー密度を有しているため、例えば、携帯機器やノート型PC、家電機器、さらにはハイブリッド自動車や電気自動車の電源として使用されている。また、太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーシステムと組み合わせ、発電した電力の貯蔵用蓄電デバイスとして新たに注目されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池を構成する電極は、リチウムイオンの吸蔵・放出によりエネルギーを出し入れする活物質、電極内の導電性を確保するための導電助剤、活物質および導電剤を接着するためのバインダー、電池外部の外部回路群と接続するための集電層等から構成される。リチウムイオン二次電池の特性は電極に大きく依存し、それぞれの材料自体の特性と、材料の組み合わせ方とに大きく影響を受ける。
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池等の用途は拡大し、電気自動車のみならず、災害対策や電力事業活用などを想定した定置用蓄電池としても市場の広がりをみせており、電池の高性能化だけでなく低コスト化の要求が高まっている。特に、二次電池の低コスト化を実現するためには、電池作製に使用する各材料だけでなく電池製造プロセスの見直しも必要であり、これまで多くの検討が行われている。
【0005】
例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質には、ニッケル(Ni)含有比率の高いリチウム遷移金属酸化物が高容量化のために近年検討が行われている。正極活物質の高容量化によって重量当たりのエネルギー密度が向上し、材料使用量を低減できるため電池コストの低減が可能となっている。一方で、電極は前記記載の活物質、導電剤、バインダーを水または有機溶剤を用いて塗料(スラリー)化し、正極はアルミニウム集電層、負極は銅集電層またはアルミニウム集電層に塗工することによって製造されている。この際、正極はスラリー化においてN-methyl-N-pyrrolidone(NMP)という有機溶剤を使用しており、有機溶剤自身のコストだけでなく回収および精製のコストが最終的な電池コストに影響を及ぼしている。
【0006】
このような課題に対して、正極製造を有機溶剤から水に置き換えることにより、コスト低減を図る試みが為されている。しかしながら、正極活物質を水中に分散すると活物質内からリチウムイオンが水に溶出し、スラリーのpHが10以上の強アルカリ状態となる。このようなスラリーをアルミニウム集電層に塗工すると、アルミニウムと水酸化物イオンによる腐食反応が進行し、アルミニウム表面から水素ガスが発生する。結果として、塗工層に水素ガスが気泡として混入するため、平滑な電極を得ることができないという課題がある。また、このような電極は乾燥後に気泡が混入していた部分が空隙となり、電極合剤層内の電子パスが断絶されるので電池抵抗を増大させてしまう。
【0007】
前記課題の克服のため、特許文献1において、高pHスラリーに中和剤を添加することによってアルミニウム集電層の腐食が発生しないpHまで中和する検討が行われている。
【0008】
しかしながら、これら中和反応によるスラリーpHの制御技術では、正極活物質内からのリチウムイオンの溶出を誘発してしまうため電池容量の低下を引き起こしてしまう。また、中和剤を、電極合剤中に重量比率で1%以上添加することも必要であり、エネルギー密度の低下にも寄与している。従って、上記の中和反応によるスラリーpH制御では正極製造の有機溶剤から水系化には検討が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2016/052715号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、正極製造プロセスの水系化において、アルミニウム集電層の腐食反応を抑制し、さらに電池容量および出力特性の低下を抑制する、という課題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、アルカリ珪酸塩を含んだ水系スラリーをアルミニウム集電層に塗工することにより、高pHの水系スラリーに対して耐食性のある保護膜をアルミニウム集電層に形成可能であり、電池容量および出力特性低下を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記目的達成のために、本発明の非水電解質二次電池用電極は、アルミニウム集電層上に電極合剤層が存在する非水電解質二次電池用電極であって、
前記電極合剤層を構成する電極合剤スラリーは、活物質、バインダー、増粘剤および保護膜形成剤を含む水系スラリーであり、
前記活物質は、アルカリ金属イオンを電気化学的に吸蔵・脱離可能な活物質、または、アルカリ金属イオンを電気化学的に合金・脱合金化可能な活物質であり、
前記保護膜形成剤は、アルカリ珪酸塩を含み、
前記電極合剤スラリーの固形分中の前記保護膜形成剤の比率が、0.2重量%以上0.4重量%以下の範囲であり、
前記電極合剤スラリーは、少なくとも前記活物質と前記増粘剤と水とを混合した後に、前記保護膜形成剤を添加して作製されたものであり、
前記保護膜形成剤によって形成される保護膜が、前記アルミニウム集電層の表面に存在することを特徴とする。
【0013】
本発明の非水電解質二次電池用電極において、前記保護膜形成剤は、MO・nSiOで表されるアルカリ珪酸塩を少なくとも含有し、MはLi,Na,Kの少なくとも1種を含み、nが1.6以上8.0以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の非水電解質二次電池用電極において、前記電極合剤中の保護膜形成剤の重量割合は、0.1%を超え1%以下の範囲であることが好ましい。
【0015】
本発明の非水電解質二次電池用電極において、前記電極合剤層を剥離した後、前記アルミニウム集電層表面の保護膜は、X線光電子分光法(XPS)によるMgKα線のX線源を用いた分析により、Si2p3/2スペクトルにおける102~107eVの範囲内に結合エネルギーを有するSi-O結合を少なくとも含むことが好ましい。
【0016】
本発明の非水電解質二次電池用電極において、前記アルミニウム集電層は、純アルミニウム、または、アルミニウムと1種以上の添加元素からなる合金であることが好ましい。
【0017】
本発明の非水電解質二次電池用電極において、前記活物質は、LiMO,LiM,Li12(xは1~2、Mは遷移金属)で表され、遷移金属を少なくとも1種含むリチウム酸化物と、
LiMPO(Mは遷移金属)で表され、遷移金属を少なくとも1種含むリチウムポリアニオン化合物と、
リチウム硫黄化合物、リチウムセレン化合物およびリチウムフッ化化合物から選ばれるリチウム無機化合物と、
NaMOまたはNaMO(Mは遷移金属)で表され、遷移金属を少なくとも1種含むナトリウム酸化物と、
NaM(XO,NaMPOまたはNaM(SO(Mは遷移金属、Xは硫黄、リン、シリコンの1種)で表され、遷移金属を少なくとも1種含むナトリウムポリアニオン化合物と、
NaM[M’(CN)](M,M’は遷移金属)で表され、遷移金属を少なくとも1種含むナトリウムプルシアンブルー類似化合物と、
から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
本発明の非水電解質二次電池は、正極および負極を備え、前記正極と前記負極との間は絶縁層で隔てられており、前記正極および前記負極の少なくとも一方が前記本発明の非水電解質二次電池用電極である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、リチウムやナトリウム等のアルカリイオンを含有する正極および負極活物質材料を用いて、アルミニウム集電層の腐食を抑制しながら、水系プロセスで電極を製造することが可能となる。また製造した電極は水系プロセスで作製しているにも関わらず電池容量および出力特性の低下を抑制することができる。このような電極を用いた非水電解質二次電池は、従来と比較して低コストを提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、(A)比較例2と、本発明に基づき作製した(B)実施例1、(C)実施例2および(D)実施例3の電極合剤層表面における目視観察結果を示す写真である。
図2図2は、(E)比較例3と、本発明に基づき作製した(F)実施例4、(G)実施例5および(H)実施例6の電極合剤層表面における目視観察結果を示す写真である。
図3図3は、(I)比較例4と、本発明に基づき作製した(J)実施例7、(K)実施例8および(L)実施例9の電極合剤層表面における目視観察結果を示す写真である。
図4図4は、(M)比較例1の電極合剤層表面における目視観察結果を示す写真である。
図5図5は、(A)比較例2、(B)実施例1、(C)実施例2および(D)実施例3の電極合剤層表面におけるSEM観察画像である。
図6図6は、(E)比較例3、(F)実施例4、(G)実施例5および(H)実施例6の電極合剤層表面におけるSEM観察画像である。
図7図7は、(I)比較例4、(J)実施例7、(K)実施例8および(L)実施例9の電極合剤層表面におけるSEM観察画像である。
図8図8は、(M)比較例1の電極合剤層表面におけるSEM観察画像である。
図9図9は、比較例1、比較例2、実施例1および実施例1の充放電後、実施例2、実施例3のアルミニウム集電層表面におけるSi2p3/2スペクトルXPS測定結果である。
図10図10は、比較例1、比較例3、実施例4および実施例4の充放電後、実施例5、実施例6のアルミニウム集電層表面におけるSi2p3/2スペクトルXPS測定結果である。
図11図11は、比較例1、比較例4、実施例7および実施例7の充放電後、実施例8、実施例9のアルミニウム集電層表面におけるSi2p3/2スペクトルXPS測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更、実施することができる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、「質量」と「重量」、「質量%」と「重量%」は同義語として扱う。
【0022】
本発明の非水電解質二次電池の正極および負極は、保護膜形成剤と、アルカリイオンを電気化学的に吸蔵・脱離可能な活物質、又は、アルカリ金属イオンと電気化学的に合金・脱合金化可能な活物質と、バインダーを含んでいる。保護膜形成剤は、アルカリ珪酸塩を含み、アルミニウム集電層表面に腐食反応を抑制する保護膜を形成する。
【0023】
<保護膜形成剤>
保護膜形成剤としては、MO・nSiOで表されるアルカリ珪酸塩を使用することができる。ここで、MはLi、Na、Kである。前記アルカリ種は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用することが可能である。2種類以上を併用する場合、アルカリ種の組み合わせおよび混合比率は任意に選択することができる。また、nは1.6以上8.0以下であり、2.5以上7.5以下であることが好ましい。アルカリ珪酸塩は水中に溶解した水溶液を使用することが好ましく、水溶液中のアルカリ珪酸塩重量割合は、10~80%である。
【0024】
<アルミニウム集電層>
アルミニウム集電層に使用される材質としては、純アルミニウムやアルミニウムと1種以上の添加元素を含んだ合金を使用することができる。純アルミニウムとしては、例えばJIS規格で規定されているアルミニウム重量比率が99%以上のA1050、A1070、A1085、A1100、A1235、1N30、1N90、1N99等の材質を使用することができる。アルミニウム合金としては、Al-Mn合金系のA3003、A3103、A3203、A3004、A3104、A3005、A3105等、Al-Fe合金系のA8021、A8079等の材質を使用することができる。アルミニウム集電層の形態は、圧延箔、パンチング加工箔、メッシュ、発泡体等を任意に使用することができ、厚みは1μm~2mmの範囲である。圧延箔を使用する場合、厚みは5~20μmであることが好ましい。前記アルミニウム集電層を、炭素、フッ素、タングステン、ジルコニウム等で表面処理・コーティングしたものも使用することができる。
【0025】
<活物質>
アルカリイオンを電気化学的に吸蔵・脱離可能な活物質又はアルカリイオンと電気化学的に合金・脱合金化可能な活物質は、正極の場合、LiCoO、LiMn1-aFePO、LiNi2-bMn、LiNiMnCo1-d-e-fで表されるリチウム酸化物やリチウムポリアニオン化合物を使用することができる。前記において、構成する元素の比率が、例示した化学式に記載した比率から多少ずれていても使用することが可能である。ここで、Mは、Na、K、Al,Mg,Ti,Fe,V,Cr,Nb,Mo,W,Cu,Zn,Ga,In,Sn,Zr,RuおよびLaからなる群より選ばれる1以上の元素であり、
0≦a≦1.0
0≦b≦2.0
0.8≦c≦2.0
0<d≦1.0
0≦e<1.0
0≦f<1.0
0<d+e+f≦1.0
であることが好ましい。またその他に、リチウム硫黄化合物、リチウムセレン化合物、リチウムフッ化化合物等を使用することができる。また、ナトリウム酸化物、ナトリウムポリアニオン化合物、ナトリウムプルシアンブルー類似化合物も使用することができる。
【0026】
負極の場合は、LiTi12で表される化合物に代表されるリチウムチタン酸化物を用いることができる。また、CuO、CuO、MnO、MoO、V、CrO、MoO、Fe、Ni、CoO等の遷移金属酸化物を用いることができる。
【0027】
また、活物質に対してアルミニウム、ホウ素、フッ素、クロム、ジルコニウム、モリブデン、マグネシウム、ナトリウム、鉄等の元素をドープしたものや、活物質の粒子表面を炭素、Al、LiPO、LiNbO、TiO、SiO等で表面処理・コートしたものも使用できる。
【0028】
活物質は、前記の材料のうちの1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。正極には、前記正極に用いることができる材料から選ばれる少なくとも2種類を、負極には、前記負極に用いることができる材料から選ばれる少なくとも2種類を組み合わせて用いることができる。活物質を構成する材料の混合比率は任意であってよい。
【0029】
複数の材料の混合に用いる装置としては、特に制限はないが、例えば、回転型混合機の場合:円筒型混合機、双子円筒型混合機、二重円錐型混合機、正立方型混合機、鍬形混合機、固定型混合機の場合:螺旋型混合機、リボン型混合機、Muller型混合機、Helicalflight型混合機、Pugmil型混合機、流動化型混合機等を用いることができる。
【0030】
活物質は粒子形状であることが好ましく、その場合、粒子径は、100nm~50μm程度であることが好ましく、200 nm~20μmの範囲がより好ましい。粒子径が100nm未満であると、スラリーの分散が困難となりやすく、粒子径が50μmを超えると、電池特性の低下が発生しやすい。
【0031】
本発明の非水電解質二次電池は、正極および負極の少なくとも一方が本発明の電極である。正極または負極のいずれかが本発明の電極ではない場合に、当該電極に用いられる好適な活物質としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、リチウム等が挙げられる。
【0032】
<バインダー>
本発明の非水電解質二次電池用の正極および負極には、バインダーを備えている。バインダーは電極中の重量割合として、0.1%以上20%以下含まれていることが好ましい。より好ましくは、0.5%以上10%以下である。前記バインダーの重量割合が少ないと、接着力が低下し電池寿命が低下する。また重量割合が多いと、電池抵抗が増加する。
【0033】
バインダーとしては、エマルジョン水溶液、高分子水溶液、高分子水分散体等を使用することができる。エマルジョンとしては、合成樹脂エマルジョンである「ポリアクリル酸共重合体樹脂エマルジョン」、「共役ジエン系重合体エマルジョン」、「含フッ素共重合体エマルジョン」、高分子水溶液としては、「水溶性ポリアクリル酸共重合体」、高分子水分散体としては「含フッ素共重合体の水分散体」、などの電池用途に開発された樹脂系のものを好ましく用いることができる。
【0034】
「ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン」とは、アクリル酸モノマーおよび他の反応性モノマー等を水中で乳化重合することによって得られる共重合体樹脂のエマルジョンである。前記他の反応性モノマーとしては、フッ化ビニリデンモノマー;スチレンモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、クロトンニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-シアノアクリレート、シアン化ビニリデン、フマロニトリル等のα、β-不飽和ニトリルモノマー等の、ニトリル基を含むエチレン性不飽和モノマー;メタアクリル酸、アクリル酸等の単官能モノマー、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、メチル-3,6-エンドメチレン-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、エキソ-3,6-エポキシ-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、ハイミック酸等の、カルボン酸を含むエチレン性不飽和モノマー;前記カルボン酸を含むエチレン性不飽和モノマーの無水物;前記無水物のケン化物;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、イソプロピルビニルケトン、イソブチルビニルケトン、t-ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン等の、ケトン基を含むエチレン性不飽和モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の、有機酸ビニルエステル基を含むエチレン性不飽和モノマー;等を挙げることができる。他の反応性モノマーは、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
また、ポリアクリル酸共重合体樹脂の末端部を、特定の官能基によって置換することにより、特定のモノマー等と反応することが可能な変性体とすることもできる。変性体としては、エポキシ変性体、カルボキシ変性体、イソシアネート変性体、水素変性体等を挙げることができる。
【0036】
「共役ジエン系重合体エマルジョン」としては、スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョンを好適に用いることができる。スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョンとは、スチレンとブタジエンとの共重合体の粒子であり、スチレンに由来する共重合成分と、ブタジエンに由来する共重合成分とを有する。スチレンに由来する共重合成分の含有量は、スチレンブタジエン共重合体を構成する共重合成分全体を基準として、50~80モル%であることが好ましい。ブタジエンに由来する共重合成分の含有量は、前記共重合成分全体を基準として、20~50モル%であることが好ましい。
【0037】
スチレンブタジエン共重合体は、スチレンに由来する共重合成分およびブタジエンに由来する共重合成分以外の他の反応性モノマーを有していてもよい。他の反応性モノマーとしては、例えば、ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョンの成分として前述したものを用いることができる。
【0038】
スチレンブタジエン共重合体が前記他の反応性モノマーを有する場合、他の反応性モノマーの含有量は、スチレンブタジエン共重合体を構成する共重合成分全体を基準として、1~30モル%であることが好ましい。スチレンブタジエン共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。また、スチレンブタジエン共重合体は、カルボキシ変性されていてもよい。
【0039】
スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョンとは、スチレンのモノマーおよびブタジエンのモノマー、並びに、必要に応じて他の反応性モノマーを水中で乳化重合することによって得られるゴム粒子のエマルジョンであり、ラテックスまたは合成ゴムラテックスと称される場合もある。
【0040】
なお、スチレンブタジエン共重合体ゴムの代わりに、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)等を用いることもできる。
【0041】
「含フッ素共重合体」とは、少なくとも1種のフッ素含有モノマーの重合体を分子中に含む共重合体である。含フッ素共重合体としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とポリビニルアルコール(PVA)との共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF‐co‐HFP)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等を挙げることができる。
【0042】
「含フッ素共重合体エマルジョン」とは、1種のフッ素含有モノマーおよび他の反応性モノマー、もしくは、2種以上のフッ素含有モノマー等を水中で乳化重合することによって得られる共重合体樹脂のエマルジョンである。「含フッ素共重合体の水分散体」とは、1種のフッ素含有モノマーおよび他の反応性モノマー、もしくは、2種以上のフッ素含有モノマー等を共重合してなる共重合体樹脂の水溶液、または、前記共重合体樹脂が水中に分散した分散液である。
【0043】
前記他の反応性モノマーとしては、PVA、ヘキサフルオロプロピレン、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0044】
ポリアクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン、スチレンブタジエン共重合体ゴムのエマルジョン、含フッ素共重合体のエマルジョン、もしくは、含フッ素共重合体の水分散体中の、ポリアクリル酸共重合体樹脂、スチレンブタジエン共重合体ゴム、もしくは含フッ素共重合体の含有量(固形分濃度)としては、0.1~80重量%であることが好ましく、0.5~65重量%であることがより好ましい。
【0045】
バインダーの固形分濃度は、0.5~95質量%であることが好ましく、1.0~85質量%であることがより好ましい。前記固形分濃度とは、バインダーを含んだ水溶液中の質量における、バインダーの質量割合である。
【0046】
<スラリー(電極合剤スラリー)>
本発明の非水電解質二次電池用電極を作製するためのスラリー(電極合剤スラリー)は、保護膜形成剤と、活物質と、バインダーとを備えており、溶媒として水を使用する。
【0047】
正極および負極に用いられる前記活物質を水と混合しスラリーを作製すると、活物質構造内からアルカリイオンが溶出し、水溶液中で水酸化リチウムを形成し、pHは10以上となる。このような高pHのスラリーにバインダーを添加し、アルミニウム集電層に塗工すると、アルミニウム集電層表面で腐食反応が発生し、平滑な電極を得ることができない。しかしながら、本発明の保護膜形成剤を含んだ電極においては、アルミニウム集電層表面に耐食性のある保護膜が形成されることで、高pHのスラリーにも関わらず腐食反応を抑制することが可能となる。従って、従来の有機溶剤を用いたスラリーで電極を作製する必要がなくなるため、有機溶剤の回収・リサイクルコストや溶剤自身のコストが不要となり、結果として電池コストを低減することができる。また、水系での製造においては、従来の高pHスラリーに中和剤を添加することによってアルミニウム集電層の腐食が発生しないpHまで中和する手段では、中和剤によって活物質からアルカリイオン溶出を誘発し電池容量を低減させることになってしまう。そして、中和剤の適正添加量は、活物質の種類や添加量によって調整する必要があった。しかし、本発明のように、電極合剤中に含有される保護膜形成剤による保護膜を集電層表面に形成する技術においては、活物質の種類等にかかわらず、添加量を一定にできるという利点もある。
【0048】
本発明の非水電解質二次電池用電極を作製するためのスラリーは、水を除いた活物質、バインダー、保護膜形成剤等の総固形分濃度が50~95重量%であることが好ましい。水分量が少ないとスラリー粘性が高くなり、塗工厚み等にバラツキが生じる。水分量が多いと乾燥に要する時間が長くなり、塗工スピードが低下してしまう。
【0049】
スラリーの調整は、例えば以下の2種類の方法で行うことができる。
[方法1]
活物質、水溶性増粘剤等を粉体で混合し、水を加えて混錬する。その後、保護膜形成剤を添加した後さらに混錬する。最後にバインダーを添加し混錬する。
[方法2]
水溶性増粘剤や水溶性高分子バインダーを含んだ水溶液を予め所定の重量%で作製する。その後、本水溶液に活物質を添加し混錬する。最後に、保護膜形成剤を添加し混錬する。
【0050】
これらの方法であれば、保護膜形成剤を予め電極合剤スラリー中に分散しておくことが可能である。また、保護膜形成剤を均一に分散することにより、アルミニウム集電層の表面に均一に保護膜を形成することができる。なお、保護膜形成剤に含有されるシリカ成分は、電池容量に寄与しないため、添加量は少ない方がエネルギー密度的には好ましい。そこで、電池性能を維持しつつ、保護膜形成剤を電極合剤スラリー中に均一に分散させて保護膜をアルミニウム集電層の表面に均一に形成されるためには、電極合剤中の保護膜形成剤の重量割合は、0.1%を超え1%以下の範囲であることが好ましい。
【0051】
上記において、混合や混練の方法は、例えば、各種の粉砕機、混合器、攪拌機等を用いる混合、超音波による分散等の方法を用いることができる。具体的には、ミキサー、高速回転ミキサー、シェアミキサー、ブレンダー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ボールミル等のせん断力或いは衝突による処理方法;ワーリングブレンダー、フラッシュミキサー、タービュライザーなどを用いた方法を挙げることができる。これらの方法は、適宜組み合わせて用いることもできる。
【0052】
スラリーは、導電性確保のために導電助剤を含有することができる。導電助剤を加えれば電池の内部抵抗低減につながる。導電助剤としては、特に制限はなく、金属、炭素材料、導電性高分子、導電性ガラスなどが挙げられる。このうち、炭素材料が好ましく、例えばカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、フラーレン等のナノカーボン;アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラック、バルカン、グラフェン、気相成長カーボンファイバー(VGCF)、黒鉛等が挙げられる。より好ましくは、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、VGCF、カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブは、単層、二層、多層のいずれのカーボンナノチューブでもよい。導電助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。導電助剤は、親水性向上のために、酸処理またはアルカリ処理を行ったものであってもよい。また、導電助剤の形状や大きさ、比表面積には特に制限はなく。添加量に応じて任意のものを選択することができる。
【0053】
スラリーは分散および粘性安定性の確保のために、増粘剤等を含有することができる。増粘剤としては、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、アルギン酸、ポリアクリル酸、グアーガム、キサンタンガムに代表される水溶性高分子をなどが挙げられる。このうち、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、ポリアクリル酸のいずれかのアルカリ金属塩、アンモニウム塩が分散および粘性安定性に優れているため好ましい。これら増粘剤は、単独で用いいてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0054】
スラリー作製に用いられる水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水等を用いることができる。なかでもイオン交換水、純水、超純水が好ましい。
【0055】
前記水には、水と均一に混和可能な有機溶媒(親水性有機溶媒)が含まれていてもよい。親水性有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン;ジメチルスルホキシド;メタノール、エタノール、2-プロパノール(IPA)、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン類;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、酢酸エチルなどが挙げられる。親水性有機溶媒は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。ただし、安全性、環境への影響、取扱い性等の観点から、有機溶媒を用いずに、水だけの方が好ましい。
【0056】
水と有機溶媒との配合比は、有機溶媒の種類、水と有機溶媒との親和性等を考慮して適宜決定すればよい。
【0057】
前記スラリーの固形分中の各成分の重量比率は、例えば、活物質、バインダー、保護膜形成剤、導電助剤および増粘剤の合計重量を100%とした場合、活物質が74.0~99.3%、バインダーが0.5~10.0%、保護膜形成剤が0.001~1.0%、導電助剤が0.1~10.0%、増粘剤が0.1~5.0%であることが好ましい。
【0058】
<非水電解質二次電池用電極の製造方法>
本発明の非水電解質二次電池用電極の製造方法としては、例えば、上述のスラリーを集電体層の表面に塗布し、乾燥、プレス成型させることによって製造することができる。これにより、集電層上に電極合剤層が存在する非水電解質二次電池用電極を製造することができる。前記電極合剤層は、スラリーを箔等の集電層へ塗布・乾燥後の電極における塗工層の部分であり、活物質、バインダー、保護膜形成剤、導電助剤、増粘剤を合わせたものである。また本発明によって作製した電極は、アルミニウム集電層の表面に保護膜を形成している。
【0059】
前記塗工の方法としては、ナイフコーター、コンマコーター、ダイコーター等を用いた方法を挙げることができる。集電層としては、純アルミニウム箔やアルミニウムと1種以上の金属から成る合金箔を用いることができる。
【0060】
前記スラリーの集電層への塗工量は、例えば、乾燥後の電極合剤層の厚みが0.01~0.40mm、好ましくは0.02~0.25mmの範囲となるように設定することができる。
【0061】
乾燥工程の温度は、例えば、35~150℃、好ましくは40~135℃の範囲内で適宜設定することができる。また乾燥の方式は熱風乾燥、送風乾燥、赤外線乾燥、減圧乾燥、ホットプレート乾燥等から選択することができる。減圧乾燥の場合、温度は前記値から任意に設定することができる。
【0062】
このようにして得られた非水電解質二次電池用電極は、二次電池の正極および負極として用いてもよい。
【0063】
<非水電解質二次電池用電極>
得られた非水電解質二次電池用電極は、以下のような特徴を持つ。保護膜形成剤であるアルカリ珪酸塩によって、アルミニウム集電層の表面に耐食性のある保護膜が形成されており、活物質とバインダーを含む電極合剤層に50μm以上の空孔欠陥等が無い平滑な電極であるということである。このような電極により、水系スラリーによって作製した電極であっても優れた出力特性を有した電池を得ることができる。
【0064】
このような出力特性向上の理由として、保護膜形成剤がアルミニウム集電層の表面に耐食性のある保護膜を形成していることで、電極作製時の腐食反応を抑制されていることが考えられる。保護膜形成剤を含まない電極では、アルミニウム集電層の表面には保護膜が形成されないため、高pHのスラリーが塗工されるとアルミニウム集電層の表面で腐食反応が発生する。腐食反応に伴い発生した水素ガスは電極合剤層に拡散し、乾燥後には水素ガスが存在していた部分は空孔欠陥となる。このような空孔は電極合剤中の活物質同士の電子的接続を切ってしまい、結果として抵抗増加を引き起こす。本発明による電極では保護膜によって腐食反応を抑制できるため、優れた出力特性を得ることができる。
【0065】
<保護膜>
本発明によって得られた非水電解質二次電池用電極のアルミニウム集電層表面における保護膜は、Si-O結合を有していることを特徴とする。また、Si-O結合を有した保護膜は非水溶性であるためアルミニウム集電層表面を効果的に保護し、高pHスラリーによるアルミニウムの腐食を抑制する。さらに、非水電解質二次電池の電極として適用した場合に、保護膜が充放電反応に対して安定的に存在していなければならない。電極が保護膜を有しており、なおかつ電極合剤層に50μm以上の空孔欠陥がないか否かを特定するには、X線光電子分光法(XPS)および走査型電子顕微鏡(SEM)による分析を用いることができる。XPSにより明確なSi-O結合が得られない場合、電極合剤層に腐食反応による50μm以上の空孔欠陥が形成し、電極の平滑性が損なわれ、電池の出力特性が低下する。
【0066】
<XPS測定>
XPSによるアルミニウム集電層の表面における保護膜の測定は、X線光電子分光器を用いて行う。測定用のサンプルは、作製した電極の合剤層を純水によって剥離し、残存したアルミニウム集電層を用いる。XPS線源としてMgKα線を用い、Si2p3/2スペクトルの分析を行う。
【0067】
Si-O結合を有する保護膜は、前記XPS測定において102~107eVの範囲において明瞭なピークが検出されるか否かで存在の有無を特定することができる。
【0068】
<SEM観察>
SEMによる電極合剤層の表面観察は、走査型電子顕微鏡を用いて行う。観察用のサンプルは、作製した電極をそのまま使用する。
腐食反応によって形成する電極合剤層における50μm以上の空孔欠陥は、合剤表面を観察することで存在の有無を特定することができる。
【0069】
<非水電解質二次電池>
本発明の非水電解質二次電池は、正極および負極を備え、前記正極と前記負極との間に電解質を含む二次電池であって、前記正極および前記負極の少なくとも一方が、本発明の電極である。
【0070】
非水電解質二次電池には、正極と負極との短絡を防止するために、正極と負極との間にセパレーターが配置される。正極および負極の集電層は外部機器に接続されている。この機器の操作によって充放電の切り替えがなされる。
【0071】
非水電解質二次電池の例として、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ、ナトリウムイオン二次電池、ナトリウムイオンキャパシタが挙げられ、さらにはこれら以外の二次電池等も包含される。
【0072】
非水電解質二次電池は、高性能であり、かつ安全性の高い蓄電デバイスとして利用することができる。よって、前記二次電池は、携帯電話機器、ノートパソコン、携帯情報端末、ビデオカメラ、デジタルカメラ等の小型電子機器、電動自転車、電動自動車、電車等の移動用機器(車両)、火力発電、風力発電、水力発電、原子力発電、地熱発電等の発電用機器、自然エネルギー蓄電システム等に搭載されてもよい。
【0073】
本発明の非水電解質二次電池は、リチウムイオン二次電池であることが好ましい。前記二次電池に使用される正極または負極活物質は、活物質構造中にリチウムを含んでいる。
【0074】
本発明の非水電解質二次電池は、本発明の電極を備えるため、保護膜形成剤を含まない従来の水系スラリーから得られる電極を備える非水電解質二次電池と比較し、特に電池容量および出力特性の高い電池特性を示す。
【0075】
本発明の非水電解質二次電池は、正極または負極のいずれかが、本発明の電極であればよく、正極負極の一方が本発明の電極であれば、他方の電極は、水系スラリーで製造していても有機溶剤スラリーで製造されていてもよい。
【0076】
また、本発明の非水電解質二次電池の形態は、例えば、短冊状の電極とセパレーターとを重ねて巻きとり、巻回体状にした円筒型、電極をセパレーターで包んで積層し、アルミラミネートパウチで包装した積層ラミネート型、電極ペレットとセパレーターを積層したコイン型等が挙げられる。外装ケースは、ステンレス製ケース、アルミ製ケースなどが使用される。
【0077】
<電解質>
電解質としては、リチウム塩やリチウムイオン伝導性を有するリチウム無機化合物が用いられる。非水系溶媒に可溶なリチウム塩は電解液または有機高分子との混合により作製されるゲル状、ゴム状、またはシート状のポリマー電解質の形態で使用できる。リチウム無機化合物を電解質とする場合、加圧プレスやバインダー等で成形することで使用できる。
【0078】
<非水系溶媒>
非水系電解液に使用される非水系溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-ジオキソラン等の環状エーテル;ジエトシキエタン、ジメトキシエタン等の鎖状エーテル類、スルホラン、エチルイソプロピルスルホン、ジメチルスルホン、ジノルマルプロピルスルホン等のスルホン系溶媒、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル類、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル類、アセトニトリル等が挙げられる。
【0079】
これらの非水系溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。混合溶媒とする場合には、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの組合せが好ましい。環状カーボネートがリチウム塩を高濃度に溶解し、鎖状カーボネートがリチウム塩の溶解度を低下させずに、電解液の粘度を低下させることができるため、これらの組み合わせによってイオン伝導率が高い電解液を得ることができる。また、これらの混合溶媒は、高い酸化還元耐性を持っており、リチウムイオン電池の作動電圧範囲で、連続的に電気分解される懸念が少ないという点でも好ましい。
【0080】
前記非水系電解液に使用される非水系溶媒は、イオン液体であってもよい。イオン液体とは、カチオンとアニオンとを組み合わせてなる溶融塩であり、室温を含む幅広い温度領域において液体状態で存在する塩を意味する。イオン液体としては、以下のカチオンの少なくとも1種と、以下のアニオンの少なくとも1種とを適宜組み合わせて構成することができる。
【0081】
このイオン液体のカチオンとしては、電解液中におけるリチウムイオンの移動を可能とし、蓄電デバイスの充電および放電を可能とするものであれば、特に制限されず、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、ピラゾリウムおよびテトラアルキルホスホニウム等が挙げられる。
【0082】
前記イミダゾリウムとしては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム[EMIm]、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-アリル-3-メチルイミダゾリウム、1-アリル-3-エチルイミダゾリウム、1-アリル-3-ブチルイミダゾリウムおよび1,3-ジアリルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0083】
前記ピリジニウムとしては、例えば、1-プロピルピリジニウム、1-ブチルピリジニウム、1-アリルピリジニウム、1-エチル-3-(ヒドロキシメチル)ピリジニウムおよび1-エチル-3-メチルピリジニウム等が挙げられる。
【0084】
前記ピロリジニウムとしては、例えば、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム[MPPyr]、N-メチル-N-ブチルピロリジニウム、N-メチル-N-メトキシメチルピロリジニウム、N-アリル-N-メチルピロリジニウム、およびN-アリル-N-プロピルピロリジニウム等が挙げられる。
【0085】
前記ピペリジニウムとしては、例えば、N-メチル-N-プロピルピペリジニウム、N-メチル-N-ブチルピペリジニウム、N-メチル-N-メトキシメチルピペリジニウム、およびN-アリル-N-プロピルピペリジニウム等が挙げられる。
【0086】
前記テトラアルキルアンモニウムとしては、例えば、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウム、およびメチルトリオクチルアンモニウム等が挙げられる。
【0087】
前記ピラゾリウムとしては、例えば、1-エチル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム、1-プロピル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム、1-ブチル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム、および1-アリル-2,3,5-トリメチルピラゾリウム等が挙げられる。
【0088】
前記テトラアルキルホスホニウムとしては、例えば、P-ブチル-P,P,P-トリエチルホスホニウム、およびP,P,P-トリエチル-P-(2-メトキシエチル)ホスホニウム等が挙げられる。
【0089】
また、これらのカチオンと組み合わされてイオン液体を構成するアニオンとしては、電解液中におけるリチウムイオンの移動を可能とし、蓄電デバイスの充電および放電を可能とするものであればよい。例えば、BF 、PF 、SbF 、NO 、CFSO 、(FSO[ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン;FSI]、(CFSO[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド;TFSI]、(C2FSO、(CFSO、CFCO 、CCO 、CHCO 、(CN)等が挙げられる。これらのアニオンは2種類以上を含んでいてもよい。
【0090】
非水系電解液に使用されるリチウム塩は特に限定されず、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF等のフッ化物系リチウム塩、LiClO、LiCl、LiBr、LiI等のハロゲン化物系リチウム塩、LiN(CFSO(LiTFSI)、LiN(FSO(LiFSI)等のスルホン酸塩系リチウム塩が挙げられる。リチウム塩は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。非水系電解液中におけるリチウム塩の濃度は、0.3~2.5mol/dmである。
【0091】
上述の非水系電解液と有機高分子化合物とを混合して、ゲル状、ゴム状、あるいは固体シート状の電解質として使用する場合、有機高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリビニリデンカーボネート、ポリアクリロニトリル、PVDF-HFP等を用いることができる。
【0092】
非水系電解液は、正極および負極上での継続的な酸化還元分解を抑制するために、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンスルフィド、1,3-プロパンスルトン、1,3-プロペンスルトン、リチウムビスオキサレートボレート、リチウムジフルオロオキサレートボレート等が挙げられる。添加剤の含有量は、非水系電解液に対して、10~0.1重量%の範囲とすることが好ましい。含有量が多過ぎると二次電池の抵抗増大につながり好ましくない。これらの添加物は、電極上に被膜を形成して電極表面を保護する働きがあり、その保護効果によって各電極上における継続的な電解液の酸化還元分解反応を緩和し、寿命向上に有効である。
【0093】
<セパレーター>
本発明における非水系電解質二次電池では、正極と負極との短絡を防止するため、これらの間にセパレーターが備えられる。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリイミド、アルミナ、シリカ等を含む多孔質フィルムが挙げられる。多孔質フィルムを形成するために、高分子フィルムを延伸することで孔を設ける、または繊維あるいは粒状の高分子、無機化合物をプレスやバインダー等を用いて成形することができる。セパレーターの片面、もしくは両面には、コート層が設けられていてもよい。前記コート層は、アルミナ、ジルコニア、シリカ、アラミド、PVDF等からなる数nm~数μmの層であり、耐熱性向上や強度向上により短絡対策に効果的である。
【実施例
【0094】
本発明について、実施例および比較例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0095】
<水を溶媒として用いた正極スラリーの製造>
正極活物質を94.8~95.2重量%、導電助剤にカーボンブラックを2重量%、保護膜形成剤にケイ酸リチウムを0.0~0.4重量%、増粘剤にカルボキシメチルセルロースNa(CMC-Na)を0.55重量%、バインダーにアクリル系エマルジョンを2.25重量%使用し、スラリーの溶媒として水を用いて混合し、作製した。正極活物質は、LiNi0.8Mn0.1Co0.1を用いた。保護膜形成剤であるケイ酸リチウムはLiO・nSiOの化学式で表されるものであり、nは3.5、4.5、7.5の3種類を使用した。詳細な電極合剤の重量組成は、表1に示す。
【0096】
<電極スラリーのpH測定>
得られた電極スラリーのpH測定は、pHメーターを10分間スラリーに浸漬することで行った。結果を表1に示す。
【0097】
<電極スラリーを用いた電極の作製>
得られた電極スラリーを、厚み15μmの純アルミニウム系箔(材質A1085)の片面に、活物質目付量が20.0mg/cmになるようにドクターブレード法によって塗工することで、電極を作製した。その後、乾燥した電極をロールブレス機により、正極合剤密度が3.4g/ccになるように加圧した。
【0098】
<電極の腐食状態の評価>
前記で得られた電極の腐食状態を評価するために、目視、および、SEM(日立ハイテク、FlexSEM 1000II)観察により電極合剤層表面を観察した。SEM観察は、100倍の条件で行った。目視観察結果を示す写真を図1図4に、SEM観察画像を図5図8に示す。腐食の有無は、次の基準で評価した。
【0099】
腐食 有:SEM観察領域において電極合剤層表面に50μm径以上の空孔欠陥が一つ以上あること、あるいは、電極合剤層表面から目視確認した際にアルミニウム集電層の露出があること。
腐食 無:観察領域において電極合剤層表面に50μm径以上の空孔欠陥がないこと、あるいは、電極合剤層表面から目視確認した際にアルミニウム集電層の露出がないこと。
【0100】
結果を表2に示す。比較例1~4(図中(M)、(A)、(E)、(I))では、アルミニウムの腐食反応に伴う水素ガス発生によって、電極合剤に空孔欠陥が形成するとともに、アルミニウム集電層の露出が確認された。実施例1~9では、電極合剤に空孔欠陥およびアルミニウム集電層の露出は確認されず、平滑な電極を得ることができた。
【0101】
<アルミニウム集電層表面の保護膜成分の存在の評価>
前記で得られた電極のアルミニウム集電層表面において、保護膜形成剤起因のSi-O結合を有する成分の存在状態を評価するために、XPS(日本電子,JPS-9010MC)MgKα線源を用いることにより分析を実施した。作製した前記電極の合剤層を純水によって剥離し、サンプルを準備した。電池容量および出力特性の評価を行った電極については、後に示すリチウムイオン電池から解体・分解することで取り出し、前記同様に電極合剤層を純水によって剥離し、サンプルを準備した。保護膜形成剤起因の成分の有無は、Si2p3/2スペクトルにおいて102~107eVの範囲内の結合ピークの有無によって評価した。
【0102】
結果を表2および図9~11に示す。実施例1~9は、XPS測定の結果、前述の102~107eVの範囲内に結合ピークが明確に観察され、Si-O結合を有する成分の存在が確認できた。一方、比較例1~4においては、該当の結合ピークが乏しいあるいは無いことから、アルミニウム集電層上に前記成分は十分に存在しているとは言えず、SEM観察および目視観察の結果とあわせ、保護膜形成が不十分または無いことが裏付けられた。
【0103】
<電池容量および出力特性の評価>
前記で得られた非水電解質二次電池用電極を電池の正極として用い、次の構成のリチウムイオン二次電池を作製した。前記正極は12mmΦのサイズ、負極は13mmΦのサイズにそれぞれ加工した。これら電極を用いて、露点-60℃のアルゴン雰囲気下において、CR2032型コインセルを作製した。使用した材料を次に示す。
【0104】
正極:前記非水電解質用正極
負極:リチウム金属
電解液:電解質である1.0M LiPFを、非水系溶媒であるエチレンカーボネート(EC)およびジメチルカーボネート(DMC)を体積比3:7で混合した溶媒に溶解したものを電解液として使用した。(以下、1.0M LiPF/EC:DMC[3:7体積比]と記載。)
セパレーター:ポリエチレン系多孔質フィルム
【0105】
[測定条件]
前記で作製したリチウムイオン二次電池を用いた、電池容量と出力特性の評価は次の方法で実施した。まず、25℃恒温槽内に評価サンプルを配置し、10時間率(0.1C)電流値で4.3Vまで定電流で充電し、電池電圧が4.3Vに到達後電圧を保持する定電圧充電を行った。定電圧充電は、電流値が0.01Cまで電流値が減衰するまで行った。その後、0.1Cまたは3C電流値で定電流放電を行い、電池電圧が3.0Vに到達した際の各容量を測定した。ここで、0.1C電流で得られた容量を電池容量、3C電流で得られた容量を出力試験で得られる電池容量とする。0.1C容量に対する3C容量の値を比較することで、容量維持率を算出した。また、電池容量は得られた実容量値(mAh)を正極活物質量(g)で除することで算出した。結果を表2に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
表1および表2、図1~11に示す通り、保護膜形成剤としてケイ酸リチウムを、それぞれ0.2重量%、0.3重量%、0.4重量%備えた実施例1~3、実施例4~6および実施例7~9は、電極のアルミニウム集電層の表面に保護膜が形成されることで、pH11を超える高pHとなる電極スラリーをアルミニウム集電層に塗工して電極を作製したとしても腐食反応を抑制できる結果が得られた。図9~11のアルミニウム集電層表面におけるSi2p3/2スペクトルのXPS測定結果に示す通り、実施例1~3、実施例4~6および実施例7~9では、102~107eVの範囲内にSi-O結合に由来するピークが明確に観察され、保護膜がアルミニウム集電層表面に形成されていることが確認できた。図9~11では、さらに実施例1、実施例4および実施例7について、充放電を行った後のアルミニウム集電層表面におけるXPS測定結果を示した。これら実施例では、充放電後においてもSi-O結合ピークは明確に観察されており、保護膜は充放電反応に対しても安定的に存在していることが確認できた。一方、保護膜形成剤を備えていない比較例1は、腐食反応が発生していることが確認できた。保護膜形成剤の量が0.1重量%である比較例2、比較例3および比較例4においては、比較例1と比較し、腐食が軽減されているものの、腐食反応は発生しており、保護膜形成が十分ではないことが確認された。表2に示す通り、保護膜形成剤を含む電極合剤を用いることで、保護膜を具備する本発明による電極は、腐食反応を抑制あるいは軽減することで電極合剤内の電子的接続を保つため、比較例に対して高い電池容量と出力特性を得ることが可能となった。
【0109】
以上の実施例等により、本発明によるリチウム酸化物等を活物質として用い、水を溶媒として作製した電極合剤スラリーは、保護膜形成剤を備え、アルミニウム集電層の表面に保護膜が形成されることで、電極作製時のアルミニウム集電層の腐食を抑制することが可能であり、また、得られる電極は高い電池容量と出力特性を有している。本発明によって、従来の有機溶剤を用いた電極製造プロセスから水を用いる電極製造プロセスに変更することが可能となるため、二次電池用電極ひいては二次電池の低コスト化が期待できる。
【0110】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【要約】
正極製造プロセスの水系化において、アルミニウム集電層の腐食反応を抑制し、さらに電池容量および出力特性の低下を抑制できる非水電解質二次電池用電極および非水電解質二次電池を提供する。本発明の非水電解質二次電池用電極は、アルミニウム集電層上に電極合剤層が存在する非水電解質二次電池用電極であって、電極合剤層を構成する電極合剤は、活物質、バインダーおよび保護膜形成剤を含み、活物質は、アルカリ金属イオンを電気化学的に吸蔵・脱離可能な活物質、または、アルカリ金属イオンを電気化学的に合金・脱合金化可能な活物質であり、保護膜形成剤は、アルカリ珪酸塩を含み、保護膜形成剤によって形成される保護膜が、アルミニウム集電層の表面に存在することを特徴とする。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11