(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
H03H9/25 C
(21)【出願番号】P 2020104639
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎二
(72)【発明者】
【氏名】西澤 年雄
(72)【発明者】
【氏名】柿田 直輝
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-510354(JP,A)
【文献】特開2006-025396(JP,A)
【文献】特開2001-053579(JP,A)
【文献】特開昭52-153647(JP,A)
【文献】特開2015-115870(JP,A)
【文献】特開2017-123576(JP,A)
【文献】特許第5539602(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられる圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層の弾性定数の温度係数の符号とは弾性定数の温度係数の符号が反対である温度補償膜と、
前記支持基板と前記温度補償膜との間に設けられ、前記支持基板側の第1面は複数の第1凸部および/または複数の第1凹部を有し、前記温度補償膜側の第2面は複数の第2凸部および/または複数の第2凹部を有する層と、
を備え
、
前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部は周期的に配置され、前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部は周期的に配置され、
前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部の周期の大きさと前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部の周期の大きさとは異なる弾性波デバイス。
【請求項2】
前記層を伝搬するバルク波の音速と前記温度補償膜を伝搬するバルク波の音速とは異なり、前記支持基板を伝搬するバルク波の音速と前記層を伝搬するバルク波の音速とは異なる請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記層を伝搬するバルク波の音速は前記温度補償膜を伝搬するバルク波の音速より速い請求項2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記温度補償膜を伝搬するバルク波の音速は前記圧電層を伝搬するバルク波の音速より遅い請求項1から3のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項5】
前記第2面と前記圧電層の前記一対の櫛型電極側の面との距離は前記複数の電極指の平均ピッチの4倍以下である請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられる圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層の弾性定数の温度係数の符号とは弾性定数の温度係数の符号が反対である温度補償膜と、
前記支持基板と前記温度補償膜との間に設けられ、前記支持基板側の第1面は複数の第1凸部および/または複数の第1凹部を有し、前記温度補償膜側の第2面は複数の第2凸部および/または複数の第2凹部を有する層と、
を備え、
前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部の高さと前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部の高さとは異なる弾性波デバイス。
【請求項7】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられる圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層の弾性定数の温度係数の符号とは弾性定数の温度係数の符号が反対である温度補償膜と、
前記支持基板と前記温度補償膜との間に設けられ、前記支持基板側の第1面は複数の第1凸部および/または複数の第1凹部を有し、前記温度補償膜側の第2面は複数の第2凸部および/または複数の第2凹部を有する層と、
を備え、
前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部が配列されている複数の周期のそれぞれに対応する複数の方向のうち最も小さい周期の方向と前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部が配列されている複数の周期のそれぞれに対応する複数の方向のうち最も小さい周期の方向とは異なる弾性波デバイス。
【請求項8】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられる圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層の弾性定数の温度係数の符号とは弾性定数の温度係数の符号が反対である温度補償膜と、
前記支持基板と前記温度補償膜との間に設けられ、前記支持基板側の第1面は複数の第1凸部および/または複数の第1凹部を有し、前記温度補償膜側の第2面は複数の第2凸部および/または複数の第2凹部を有する層と、
を備え、
前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部の立体形状と前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部の立体形状とは異なる弾性波デバイス。
【請求項9】
前記支持基板および前記圧電層の積層方向の断面において、前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部の
位置と前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部の
位置とは異な
る請求項
1に記載の弾性波デバイス。
【請求項10】
前記温度補償膜は、酸化シリコンを80原子%以上含む請求項1から
9のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば一対の櫛型電極を有する弾性波デバイス、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に用いられる弾性波共振器として、弾性表面波共振器が知られている。弾性表面波共振器を形成する圧電層を支持基板に張り付けることが知られている。圧電層と支持基板との間に温度補償膜を設けることが知られている(例えば特許文献1)。圧電層と支持基板との間に圧電層より音速の低い低音速膜を設け、低音速膜と支持基板との間に圧電層より音速の速い高音速膜を設けることが知られている(例えば特許文献2)。圧電基板と支持基板との間にシリカを含む介在層を設け、介在層と圧電基板との界面および介在層と支持基板との界面を凹凸面とすることが知られている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-201345号公報
【文献】特開2015-115870号公報
【文献】特開2018-061258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
低音速膜と支持基板との間に圧電層より音速の速い高音速膜を設けることで、弾性波を圧電層および低音速膜に閉じ込めることができる。また、高音速膜を所望の厚さとすることで、スプリアスを抑制できる。しかしながら、スプリアスの抑制は十分ではない。
【0005】
本発明は、弾性波デバイスのスプリアスを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられる圧電層と、前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層の弾性定数の温度係数の符号とは弾性定数の温度係数の符号が反対である温度補償膜と、前記支持基板と前記温度補償膜との間に設けられ、前記支持基板側の第1面は複数の第1凸部および/または複数の第1凹部を有し、前記温度補償膜側の第2面は複数の第2凸部および/または複数の第2凹部を有する層と、を備え、前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部は周期的に配置され、前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部は周期的に配置され、前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部の周期の大きさと前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部の周期の大きさとは異なる弾性波デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記層を伝搬するバルク波の音速と前記温度補償膜を伝搬するバルク波の音速とは異なり、前記支持基板を伝搬するバルク波の音速と前記層を伝搬するバルク波の音速とは異なる構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記層を伝搬するバルク波の音速は前記温度補償膜を伝搬するバルク波の音速より速い構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記温度補償膜を伝搬するバルク波の音速は前記圧電層を伝搬するバルク波の音速より遅い構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記第2面と前記圧電層の前記一対の櫛型電極側の面との距離は前記複数の電極指の平均ピッチの4倍以下である構成とすることができる。
【0011】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられる圧電層と、前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層の弾性定数の温度係数の符号とは弾性定数の温度係数の符号が反対である温度補償膜と、前記支持基板と前記温度補償膜との間に設けられ、前記支持基板側の第1面は複数の第1凸部および/または複数の第1凹部を有し、前記温度補償膜側の第2面は複数の第2凸部および/または複数の第2凹部を有する層と、を備え、前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部の高さと前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部の高さとは異なる弾性波デバイスである。
【0012】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられる圧電層と、前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層の弾性定数の温度係数の符号とは弾性定数の温度係数の符号が反対である温度補償膜と、前記支持基板と前記温度補償膜との間に設けられ、前記支持基板側の第1面は複数の第1凸部および/または複数の第1凹部を有し、前記温度補償膜側の第2面は複数の第2凸部および/または複数の第2凹部を有する層と、を備え、前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部が配列されている複数の周期のそれぞれに対応する複数の方向のうち最も小さい周期の方向と前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部が配列されている複数の周期のそれぞれに対応する複数の方向のうち最も小さい周期の方向とは異なる弾性波デバイスである。
【0013】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられる圧電層と、前記圧電層上に設けられ、複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層の弾性定数の温度係数の符号とは弾性定数の温度係数の符号が反対である温度補償膜と、前記支持基板と前記温度補償膜との間に設けられ、前記支持基板側の第1面は複数の第1凸部および/または複数の第1凹部を有し、前記温度補償膜側の第2面は複数の第2凸部および/または複数の第2凹部を有する層と、を備え、前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部の立体形状と前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部の立体形状とは異なる弾性波デバイスである。
【0015】
前記支持基板および前記圧電層の積層方向の断面において、前記複数の第1凸部および/または複数の第1凹部の位置と前記複数の第2凸部および/または複数の第2凹部の位置とは異なる構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記温度補償膜は、酸化シリコンを80原子%以上含む構成とすることができる。
【0017】
本発明は、上記弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、弾性波デバイスのスプリアスを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1(a)および
図1(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図および断面図である。
【
図2】
図2(a)および
図2(b)は、それぞれ比較例1および2に係る弾性波共振器の断面図である。
【
図3】
図3(a)は、比較例1、2および実施例1における周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図、
図3(b)は、
図3(a)の拡大図である。
【
図4】
図4(a)および
図4(b)は、実施例1におけるそれぞれ主モードのΔYおよびスプリアスのΔYを示す図である。
【
図5】
図5(a)から
図5(c)は、それぞれ実施例1の変形例1から3に係る弾性波共振器の断面図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、それぞれ実施例1の変形例4および5に係る弾性波共振器の断面図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(b)は、それぞれ実施例1の変形例6および7に係る弾性波共振器の断面図である。
【
図8】
図8(a)から
図8(b)は、それぞれ実施例1の変形例8および9に係る弾性波共振器の断面図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、それぞれ実施例1の変形例10および11に係る弾性波共振器の断面図である。
【
図10】
図10(a)は、実施例1の変形例12における凸部および凹部の配置を示す平面図、
図10(b)および
図10(c)は、
図10(a)のA-A断面図である。
【
図11】
図11(a)は、実施例1の変形例13における凸部および凹部の配置を示す平面図、
図11(b)および
図11(c)は、
図11(a)のA-A断面図である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、それぞれ実施例1の変形例14および15における面61および62の平面図である。
【
図13】
図13(a)および
図13(b)は、それぞれ実施例1の変形例16および17における面61および62の平面図である。
【
図14】
図14(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図14(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0022】
実施例1では弾性波デバイスが弾性波共振器を有する例を説明する。
図1(a)および
図1(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図および断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板および圧電層の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電層の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電層が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0023】
図1(a)および
図1(b)に示すように、支持基板10上に圧電層14が設けられている。支持基板10と圧電層14との間に温度補償膜12が設けられている。温度補償膜12と支持基板10との間に境界層11が設けられている。温度補償膜12と圧電層14との間の接合層13が設けられている。境界層11の支持基板10側の面を面61、境界層11の温度補償膜12側の面を面62、温度補償膜12の圧電層14側の面を面63とする。
【0024】
面61は、境界層11と支持基板10との界面に相当し凹凸面である。面62は、境界層11と温度補償膜12との界面に相当し凹凸面である。面63は、温度補償膜12と圧電層14または接合層13との界面に相当し平坦面である。面61の凹凸は面62の凹凸に対応する。面61および62では、平面50に複数の凸部51が設けられている。凸部51は規則的に配列されている。
【0025】
面61の凸部51の周期をD1とし、面62の凸部51の周期をD2とする。面61の凸部51の高さをH1とし、面62の凸部51の高さをH2とする。面61の凸部51の間の間隔をW1とし、面62の凸部51の間の間隔をW2とする。周期D1とD2は略同じであり、高さH1とH2は略同じであり、間隔W1とW2は略同じである。面61および62における凸部51の位置は略同じ(すなわち位相が略同じ)である。ここで略同じとは製造誤差程度の誤差を許容することを示し、例えば10%以下または例えば1%以下の誤差を許容する。境界層11、温度補償膜12、接合層13および圧電層14の厚さをそれぞれT1、T2、T3およびT4とする。なお、境界層11および温度補償膜12の厚さは均一でないため平均の厚さを厚さT1およびT2とする。
【0026】
圧電層14上に弾性波共振器26が設けられている。弾性波共振器26はIDT22および反射器24を有する。反射器24はIDT22のX方向の両側に設けられている。IDT22および反射器24は、圧電層14上の金属膜16により形成される。
【0027】
IDT22は、対向する一対の櫛型電極20を備える。櫛型電極20は、複数の電極指18と、複数の電極指18が接続されたバスバー19と、を備える。一対の櫛型電極20の電極指18が交差する領域が交差領域25である。交差領域25の長さが開口長である。一対の櫛型電極20は、交差領域25の少なくとも一部において電極指18がほぼ互い違いとなるように、対向して設けられている。交差領域25において複数の電極指18が励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極20のうち一方の櫛型電極20の電極指18のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。複数の電極指18のピッチ(電極指18の中心間のピッチ)をDとすると、一方の櫛型電極20の電極指18のピッチは電極指18の2本分のピッチDとなる。反射器24は、IDT22の電極指18が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT22の交差領域25内に閉じ込められる。
【0028】
圧電層14は、例えば単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO3)層または単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO3)層であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム層である。
【0029】
支持基板10は、例えばサファイア基板、シリコン基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、アルミナ基板または炭化シリコン基板である。サファイア基板は単結晶Al2O3基板であり、シリコン基板は単結晶または多結晶のシリコン基板であり、スピネル基板は多結晶MgAl2O4基板であり、石英基板はアモルファスSiO2基板であり、水晶基板は単結晶SiO2基板であり、炭化シリコン基板は多結晶または単結晶のSiC基板である。支持基板10のX方向の線膨張係数は圧電層14のX方向の線膨張係数より小さい。これにより、弾性波共振器の周波数温度依存性を小さくできる。
【0030】
温度補償膜12は、圧電層14の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する。例えば圧電層14の弾性定数の温度係数は負であり、温度補償膜12の弾性定数の温度係数は正である。温度補償膜12は、例えば無添加または弗素等の添加元素を含む酸化シリコン(SiO2)膜であり、例えばアモルファス層である。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。温度補償膜12が酸化シリコン膜の場合、温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より遅くなる。
【0031】
境界層11を伝搬するバルク波の音速は、温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速より速い。これにより、圧電層14および温度補償膜12内に弾性波が閉じ込められる。さらに、境界層11を伝搬するバルク波の音速は、支持基板10を伝搬するバルク波の音速より遅い。境界層11は、例えば多結晶または非晶質であり、例えば、酸化アルミニウム膜、シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化シリコン膜または炭化シリコン膜である。境界層11として材料の異なる複数の層が設けられていてもよい。
【0032】
接合層13を伝搬するバルク波の音速は、温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速より速い。接合層13は、例えば多結晶または非晶質であり、例えば、酸化アルミニウム膜、シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化シリコン膜または炭化シリコン膜である。
【0033】
金属膜16は、例えばAl(アルミニウム)、Cu(銅)またはモリブデン(Mo)を主成分とする膜である。電極指18と圧電層14との間にTi(チタン)膜またはCr(クロム)膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指18より薄い。電極指18を覆うように絶縁膜が設けられていてもよい。絶縁膜は保護膜または温度補償膜として機能する。
【0034】
弾性波の波長λは例えば1μmから6μmである。2本の電極指18を1対としたときの対数は例えば20対から300対である。IDT22のデュティ比は、電極指18の太さ/電極指18のピッチであり、例えば30%から70%である。IDT22の開口長は例えば10λから50λである。
【0035】
IDT22は圧電層14内に主モードである弾性表面波を励振する。このとき、IDT22はバルク波等の不要波も励振する。弾性表面波のエネルギーが存在する範囲は圧電層14の上面から2λ(λは弾性波の波長)程度の深さまであり、特に圧電層14の上面からλまでの範囲に存在する。一方、バルク波等の不要波は圧電層14の上面から10λ以上まで存在する。不要波が下方に伝搬してゆくと、弾性波のエネルギーが漏洩し、損失が大きくなる。一方、支持基板10までの界面でバルク波が反射しIDT22に戻るとスプリアスの原因となる。
【0036】
[シミュレーション]
面61および62を凹凸面とすると、面61および62において不要波であるバルク波が散乱され、スプリアスが抑制されると考えられる。そこで、以下の比較例1および2と実施例1におけるスプリアスの大きさをシミュレーションした。
【0037】
[比較例]
図2(a)および
図2(b)は、それぞれ比較例1および2に係る弾性波共振器の断面図である。
図2(a)に示すように、比較例1では、境界層11の支持基板10側の面61および温度補償膜12側の面62が平坦面である。その他の構成は実施例1と同じである。
図2(b)に示すように、比較例2では、境界層11の温度補償膜12側の面62は平坦面である。その他の構成は実施例1と同じである。
【0038】
シミュレーション条件は以下である。
弾性波の波長λ:5μm
支持基板10:サファイア基板
境界層11:厚さT1が0.3λの酸化アルミニウム膜
温度補償膜12:厚さT2が0.3λの酸化シリコン膜
接合層13:なし
圧電層14:厚さT4が0.3λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板
金属膜16:厚さが0.1λのアルミニウム膜
凸部51の高さH1、H2:0.5λ
凸部51の周期D1、D2:0.8λ
凸部51間の間隔W1、W2:0.02λ
【0039】
図3(a)は、比較例1、2および実施例1における周波数に対するアドミッタンス|Y|を示す図
、図3(b)は、
図3(a)の破線内の拡大図である。
図3(a)に示すように、主モードの弾性表面波による応答は比較例1、2および実施例1でほとんど変わらない。
図3(b)に示すように、比較例2のスプリアス応答の大きさは比較例1より小さく、実施例1のスプリアス応答の大きさは比較例2より小さい。
【0040】
比較例2のように、面61を凹凸面とすると面61が平坦面である比較例1よりスプリアスが小さくなる。さらに、実施例1のように、面61および62を凹凸面とすると比較例1よりスプリアスが小さくなる。このように、面61および62の両方を凹凸面とすることでスプリアスを小さくすることができる。
【0041】
実施例1について、凸部51の周期D1およびD2と境界層11の厚さT1を変えシミュレーションを行った。
図4(a)および
図4(b)は、実施例1におけるそれぞれ主モードのΔYおよびスプリアスのΔYを示す図である。縦軸の主モードΔYは主モードの|Y|[dB]の最大値-最小値である。スプリアス
ΔYはスプリアスの|Y|[dB]の最大値-最小値である。横軸は凸部51の周期D1およびD2である。比較例1では境界層11の厚さT1を5λとし、実施例1では、境界層11の膜厚T1を0.3λ、0.5λ、0.7λおよび5.0λとした。
【0042】
図4(a)に示すように、主モードの応答では、比較例1に比べ実施例1においてΔYが小さい。特に凸部51の周期D1およびD2が1.6λ以上となるとΔYが小さくなる。境界層11の膜厚T1が変わってもΔYはほとんど変わらない。
図4(b)に示すように、スプリアスの応答では、厚さT1が0.7λ以上かつ凸部51の周期D1およびD2が0.8λ以上のとき、ΔYは比較例1より小さくなる。
【0043】
以上のように、凸部51の周期D1およびD2、境界層11の厚さT1を最適化することでスプリアスを抑制することができる。また、凸部51の高さH1およびH2を0.25λとしてシミュレーションしたところ、主モードおよびスプリアスのΔYは、H1およびH2が0.5λのときとほとんど変わらなかった。
【0044】
[実施例1の変形例1]
図5(a)は、実施例1の変形例1に係る弾性波共振器の断面図である。
図5(a)に示すように、周期D1とD2は略同じであり、高さH1とH2は略同じであり、間隔W1とW2は略同じである。面61および62における凸部51の位置は異なる(すなわち位相が異なる)。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例1のように、面61と62とで凹凸の位相は異なっていてもよい。
【0045】
[実施例1の変形例2]
図5(b)は、実施例1の変形例2に係る弾性波共振器の断面図である。
図5(b)に示すように、面62の凸部51の周期D2は面61の凸部51の周期D1より大きい。高さH1とH2は略同じであり、間隔W1とW2は略同じである。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0046】
[実施例1の変形例3]
図5(c)は、実施例1の変形例3に係る弾性波共振器の断面図である。
図5(c)に示すように、面61の凸部51の周期D1は面62の凸部51の周期D2より大きい。高さH1とH2は略同じであり、間隔W1とW2は略同じである。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例2および3のように、面61の凸部51の周期D1と面62の凸部51の周期D2とは異なっていてもよい。
【0047】
[実施例1の変形例4]
図6(a)は、実施例1の変形例4に係る弾性波共振器の断面図である。
図6(a)に示すように、面62の凸部51の高さH2は面61の凸部51の高さH1より高い。周期D1とD2は略同じであり、間隔W1とW2は略同じである。面61および62における凸部51の位置は略同じである。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0048】
[実施例1の変形例5]
図6(b)は、実施例1の変形例5に係る弾性波共振器の断面図である。
図6(b)に示すように、面61の凸部51の高さH1は面62の凸部51の高さH2より高い。周期D1とD2は略同じであり、間隔W1とW2は略同じである。面61および62における凸部51の位置は略同じである。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例4および5のように、面61の凸部51の高さH1と面62の凸部51の高さH2とは異なっていてもよい。
【0049】
[実施例1の変形例6]
図7(a)は、実施例1の変形例6に係る弾性波共振器の断面図である。
図7(a)に示すように、面61の凹凸は規則的であり、面62の凹凸は不規則である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0050】
[実施例1の変形例7]
図7(b)は、実施例1の変形例7に係る弾性波共振器の断面図である。
図7(b)に示すように、面61の凹凸は不規則であり、面62の凹凸は規則的である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例6および7のように、面61および62の一方の面の凹凸は規則的であり、他方の面の凹凸は不規則でもよい。
【0051】
[実施例1の変形例8]
図8(a)は、実施例1の変形例8に係る弾性波共振器の断面図である。
図8(a)に示すように、面61および面62の凹凸は不規則である。面62の面粗さは面61の面粗さより大きい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0052】
[実施例1の変形例9]
図8(b)は、実施例1の変形例9に係る弾性波共振器の断面図である。
図8(b)に示すように、面61および面62の凹凸は不規則である。面62の面粗さは面61の面粗さより小さい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例8および9のように、面61および62の凹凸は不規則でもよい。面61の面粗さと面62の面粗さは異なっていてもよい。不規則な凹凸を有する面61および62の算術平均粗さRaは例えば0.15μmである。
【0053】
[実施例1の変形例10]
図9(a)は、実施例1の変形例10に係る弾性波共振器の断面図である。
図9(a)に示すように、境界層11と支持基板10との間に境界層15が設けられている。境界層15の支持基板10側の面64は規則的な凹凸面である。その他の構成は実施例1およびその変形例1から9と同じであり説明を省略する。
【0054】
[実施例1の変形例11]
図9(b)は、実施例1の変形例11に係る弾性波共振器の断面図である。
図9(b)に示すように、境界層11と支持基板10との間に境界層15が設けられている。境界層15の支持基板10側の面64は不規則な凹凸面である。その他の構成は実施例1およびその変形例1から9と同じであり説明を省略する。実施例1の変形例10および11のように、温度補償膜12と支持基板10との間には異なる材料からなる(例えば異なるバルク波の音速を有する)複数の境界層11および15が設けられていてもよい。境界層11と15との間には複数の凹凸面が設けられていてもよい。
【0055】
[実施例1の変形例12]
実施例1の変形例12および13は面61および62における凸部51および凹部52の例である。
図10(a)は、実施例1の変形例12における凸部および凹部の配置を示す平面図、
図10(b)および
図10(c)は、
図10(a)のA-A断面図である。
図10(b)は凸部51の例であり、
図10(c)は凹部52の例である。
【0056】
図10(a)から
図10(c)に示すように、凸部51および凹部52は、周期的に配列されている。凸部51および凹部52の立体形状は円錐形状である。点51aおよび52aは円錐形状の頂点である。
図10(b)に示すように、平面50に凸部51が設けられている。
図10(c)のように、平面50に凹部52が設けられている。凸部51または凹部52の周期のうち最も小さい周期D1およびD2の方向54aから54cは3方向である。各方向54aから54cのなす角度は約60°である。方向54aはX方向と略平行である。凸部51および凹部52の周期D1およびD2は略均一であり、凸部51および凹部52の方向54aから54cにおける間隔W1およびW2は略均一であり、凸部51および凹部52の高さH1およびH2は略均一である。凸部51および凹部52の立体形状は、例えば円錐もしくは多角錘等の錘形状、円錐台もしくは多角錘台等の錘台形状、円柱もしくは多角柱等の柱体形状、半球状またはドーナツ状でもよく、他の立体形状でもよい。凸部51の間および凹部52の間に平面50が設けられていなくてもよい。
【0057】
[実施例1の変形例13]
図11(a)は、実施例1の変形例13における凸部および凹部の配置を示す平面図、
図11(b)および
図11(c)は、
図11(a)のA-A断面図である。
図11(b)は凸部51の例であり、
図11(c)は凹部52の例である。
【0058】
図11(a)から
図11(c)に示すように、凸部51および凹部52は、周期的に配列されている。凸部51および凹部52は線状またはストライプ状である。凸部51および凹部52は断面形状が三角形状の線状である。線51cおよび52cはそれぞれ凸部51および凹部52における三角形の頂点をつなぐ線である。凸部51または凹部52の周期のうち最も小さい周期D1およびD2の方向54はX方向と略平行である。周期D1およびD2は略均一であり、凸部51および凹部52の方向54における間隔W1およびW2は略均一であり、凸部51および凹部52の高さH1およびH2は略均一である。凸部51および凹部52の断面形状は、例えば半円形状または楕円形状でもよく、四角形状でもよく、他の断面形状でもよい。線51cおよび52cは直線でもよいし曲線でもよい。凸部51の間および凹部52の間に平面50が設けられていなくてもよい。
【0059】
[実施例1の変形例14]
図12(a)は、実施例1の変形例14における面61および62の平面図である。実線は面61における凸部51および凹部52を示し、破線は面62における凸部51および凹部52を示す。
図12(a)に示すように、面61および62の凸部51または凹部52は実施例1の変形例12と同じである。凸部51または凹部52の周期のうち最も小さい周期D1およびD2の方向54は、面61と62とで異なる。
【0060】
[実施例1の変形例15]
図12(b)は、実施例1の変形例15における面61および62の平面図である。実線は面61における凸部51および凹部52を示し、破線は面62における凸部51および凹部52を示す。
図12(b)に示すように、面61および62の凸部51または凹部52は実施例1の変形例13と同じである。凸部51または凹部52の周期のうち最も小さい周期D1およびD2の方向54は、面61と62とで異なる。実施例1の変形例14および15のように、凸部51または凹部52の周期の方向は面61と62とで異なっていてもよい。
【0061】
[実施例1の変形例16]
図13(a)は、実施例1の変形例16における面61および62の平面図である。実線は面61における凸部51および凹部52を示し、破線は面62における凸部51および凹部52を示す。
図13(a)に示すように、面61の凸部51または凹部52は実施例1の変形例12と同じである。面62の凸部51または凹部52は実施例1の変形例13と同じである。
【0062】
[実施例1の変形例17]
図13(b)は、実施例1の変形例17における面61および62の平面図である。実線は面61における凸部51および凹部52を示し、破線は面62における凸部51および凹部52を示す。
図13(b)に示すように、面61の凸部51または凹部52は実施例1の変形例13と同じである。面62の凸部51または凹部52は実施例1の変形例12と同じである。実施例1の変形例16および17のように、面61と62とで、凸部51または凹部52の立体形状は異なっていてもよい。
【0063】
実施例1によれば、境界層11の支持基板10側の面61(第1面)は複数の凸部51および/または複数の凹部52(複数の第1凸部および/または複数の第1凹部)を有し、境界層11の温度補償膜12側の面62(第2面)は複数の凸部51および/または複数の凹部52(複数の第2凸部および/または複数の第2凹部)を有する。これにより、圧電層14から温度補償膜12を通過した不要波であるバルク波は面61および62において散乱される。よって、
図3(b)のように、不要波であるバルク波に起因したスプリアスを抑制できる。
【0064】
面61および62における凸部51および/または凹部52の高さH1およびH2は0.1λ以上が好ましく、0.3λ以上がより好ましく、0.5λ以上がさらに好ましい。高さH1およびH2の上限は例えば2λである。面63において不要波を散乱させない観点から、面62の算術平均粗さRaは例えば10nm以下が好ましく、1nm以下がより好ましい。
【0065】
境界層11を伝搬するバルク波の音速と温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速とは異なり、支持基板10を伝搬するバルク波の音速と境界層11を伝搬するバルク波の音速とは異なる。これにより、面61および面62において不要波を散乱させることができる。境界層11を伝搬するバルク波の音速と温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速とは1.2倍以上異なり、支持基板10を伝搬するバルク波の音速と境界層11を伝搬するバルク波の音速とは1.2倍以上異なることが好ましい。
【0066】
境界層11を伝搬するバルク波の音速は温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速より速いことがより好ましい。これにより、圧電層14および温度補償膜12内に弾性波が閉じ込められる。境界層11を伝搬するバルク波の音速は、温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速の1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましい。また、境界層11および接合層13を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より大きいことが好ましい。境界層11を伝搬するバルク波の音速は温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速の2.0倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましい。
【0067】
温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より速くてもよいが、温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より遅いことが好ましい。これにより、不要波は接合層13を通過しにくく、スプリアスをより抑制できる。温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速の0.99倍以下が好ましい。温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速が遅すぎると、圧電層14内に弾性波が存在しにくくなる。よって、温度補償膜12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速の0.9倍以上が好ましい。
【0068】
弾性表面波のエネルギーが圧電層14の表面から2λまでの範囲にほとんど存在する場合には、主モードの弾性波のエネルギーを圧電層14および温度補償膜12内に閉じ込め、かつスプリアス応答を抑制する観点から、温度補償膜12の支持基板10側の面と圧電層14の櫛型電極20側の面との距離(T2+T3+T4)は複数の電極指18の平均ピッチDの4倍(2λ)以下が好ましく、3倍(1.5λ)以下がより好ましい。複数の電極指18の平均ピッチDは、IDT20のX方向の幅を電極指18の本数で除することで算出できる。
【0069】
温度補償膜12に弾性波のエネルギーを存在させるため、圧電層14の厚さT4は、電極指18の平均ピッチDの2倍(λ)以下が好ましく、1.2倍(0.6λ)以下がより好ましい。圧電層14が薄すぎると、弾性波が励振されない。よって、圧電層14の厚さT4は、電極指18の平均ピッチDの0.2倍(0.1λ)以上が好ましい。
【0070】
図4(b)のように、境界層11の厚さT1が薄いと、スプリアスが大きくなる。この観点から、境界層11の厚さT1は電極指18の平均ピッチDの0.6倍(0.3λ)以上が好ましく、1.4倍(0.7λ)以上がより好ましく、2倍(λ)以上がさらに好ましく、4倍(2λ)以上がさらに好ましい。
【0071】
凹凸が不規則な場合、XY平面の場所により粗面の粗さが異なることになる。これにより、微視的にみるとスプリアスの大きさ等の特性が場所により異なることになる。例えば、粗面の粗さをスプリアスが最も小さくなる粗さとしても、場所によりスプリアスの大きさが異なると、巨視的にみれば最適なスプリアスより大きくなってしまう。
【0072】
実施例1およびその変形例1から5および12から17のように、面61は規則的に配置された凸部51および/または凹部52を有し、面62は規則的に配置された凸部51および/または凹部52を有する。これにより、
図3(b)のようにスプリアスを抑制できる。また、スプリアスの大きさ等の特性を均一にできる。
【0073】
抑圧したい不要波の波長が1つの場合、実施例1のように、面61における凸部51および/または凹部52の周期D1と面62における凸部51および/または凹部52の周期D2とは製造誤差程度に略同じにする。これにより、不要波によるスプリアス応答をより抑制できる。
【0074】
図4(b)のように、スプリアスを抑制する観点から、凸部51および/または凹部52の周期D1およびD2は、電極指18の平均ピッチDの1.6倍(0.8λ)以上が好ましく、2.0倍(λ)以上がより好ましい。
図4(a)のように、主モードの応答を大きくする観点から、凸部51および/または凹部52の周期D1およびD2は、電極指18の平均ピッチDの4.8倍(2.4λ)以下が好ましく、3.2倍(1.6λ)以下がより好ましい。
【0075】
図4(b)のように、スプリアスに効果のある周期D1およびD2は、不要波の波長によって異なる。そこで、実施例1の変形例2および3のように、面61における凸部51および/または凹部52の周期D1と面62における凸部51および/または凹部52の周期D2とを異ならせる。これにより、波長の異なるスプリアスを抑制できる。2|D1-D2|/(D1+D2)は0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましい。
【0076】
実施例1の変形例1のように、面61における凸部51および/または凹部52の位相と面62における凸部51および/または凹部52の位相とは異なってもよい。実施例1の変形例4および5のように、面61における凸部51および/または凹部52の高さH1と面62における凸部51および/または凹部52の高さH2とは異なってもよい。実施例1の変形例14および15のように、面61における凸部51および/または凹部52の周期のうち最も小さい周期の方向と面62における凸部51および/または凹部52の周期のうち最も小さい周期の方向とは異なってもよい。実施例1の変形例16および17のように、面61における凸部51および/または凹部52の立体形状と面62における凸部51および/または凹部52の立体形状とは異なってもよい。これらにより、面61と62とで異なる不要波を散乱させることができる。
【0077】
実施例1の変形例6から9のように、面61および面62の少なくとも一方の面における凸部51および/または凹部52は不規則でもよい。不規則な凸部51および凹部52を有する面61および/または面62の算術平均粗さRaは例えば10nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。これにより、不要波を散乱させることが好ましい。
【0078】
接合層13の厚さT3は、圧電層14および温度補償膜12の機能を損なわない観点から、20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。接合層13としての機能を損なわない観点から、厚さT3は、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましい。接合層13は設けなくてもよい。
【0079】
圧電層14は、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムを主成分とする単結晶であり、温度補償膜12は酸化シリコンを主成分とする多結晶または非晶質であり、境界層11および接合層13は酸化アルミニウムを主成分とする多結晶または非晶質であり、支持基板10はサファイア基板または炭化シリコン基板である。これにより、シミュレーションのように、スプリアス応答を抑制できる。なお、ある材料を主成分とするとは、意図的または意図せず不純物を含むことを意味し、例えばある材料を50原子%以上含むことであり、80原子%以上含むことである。
【0080】
実施例1およびその変形例において、一対の櫛型電極20が主に励振する弾性波がSH(Shear Horizontal)波であるとき、不要波としてバルク波が励振しやすい。圧電層14が36°以上かつ48°以下回転Yカットタンタル酸リチウム層のとき、SH波が励振される。よって、このとき、境界層11を設けることが好ましい。一対の櫛型電極20が主に励振する弾性波は、SH波に限らず例えばLamb波であってもよい。
【実施例2】
【0081】
図14(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図である。
図14(a)に示すように、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の直列共振器S1からS3が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の並列共振器P1およびP2が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS3および1または複数の並列共振器P1およびP2の少なくとも1つに実施例1の弾性波共振器を用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。フィルタは、多重モード型フィルタでもよい。
【0082】
[実施例2の変形例1]
図14(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
図14(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された高周波信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された高周波信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2のフィルタとすることができる。
【0083】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0084】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0085】
10 支持基板
11 境界層
12 温度補償膜
13 接合層
14 圧電層
16 金属膜
18 電極指
20 櫛型電極
22 IDT
26 弾性波共振器
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ
51 凸部
52 凹部
61~64 面