IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シンフォニアテクノロジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-魚卵処理装置 図1
  • 特許-魚卵処理装置 図2
  • 特許-魚卵処理装置 図3
  • 特許-魚卵処理装置 図4
  • 特許-魚卵処理装置 図5
  • 特許-魚卵処理装置 図6
  • 特許-魚卵処理装置 図7
  • 特許-魚卵処理装置 図8
  • 特許-魚卵処理装置 図9
  • 特許-魚卵処理装置 図10
  • 特許-魚卵処理装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】魚卵処理装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20240628BHJP
   B65G 47/84 20060101ALI20240628BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240628BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20240628BHJP
【FI】
C12M1/34 B
B65G47/84 C
C12M1/00 A
C12N5/0735
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017197212
(22)【出願日】2017-10-10
(65)【公開番号】P2019068777
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-09-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】宮下 裕司
(72)【発明者】
【氏名】中西 章
(72)【発明者】
【氏名】中井 沙織
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】福井 悟
【審判官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-085571(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0178646(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-42
B65G47/00-96
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚卵が導かれる加工用水槽と、
前記加工用水槽内において魚卵を1つずつ収容する収容凹部を周囲に設けた歯車状の整列盤が設けられ、前記整列盤が回転することで魚卵を所定の加工位置に順次搬送する整列搬送部と、
前記加工位置にある収容凹部の上方から当該収容凹部に向かって水流を発生させる水流発生手段と、
前記加工位置に搬送された収容凹部内の魚卵であり且つ前記収容凹部に流入した後で前記収容凹部から流出する水流により、前記収容凹部の底部に静定された魚卵に対して導入管を昇降させて所定の物質を注入する加工部とを具備することを特徴とする魚卵処理装置。
【請求項2】
前記搬送方向に沿って加工位置の前後所定領域に、前記整列盤の回転に伴って水中で搬送される魚卵を収容する前記収容凹部に近接して魚卵を閉じ込めるガイドを設けるとともに、前記加工位置において前記ガイドの一部に前記収容凹部に向かって開口する水路を設け、この水路を通して前記収容凹部内の魚卵に導入管を導入及び前記水流発生手段から前記収容凹部に向かって水流を発生するようにしている請求項1に記載の魚卵処理装置。
【請求項3】
前記水流は前記収容凹部から整列盤の側面と当該側面に近接配置された加工用水槽の側板との隙間を通って流れるように構成し、水流は整列盤とガイドとの隙間よりも、整列盤の側面と加工用水槽の側板との隙間の方をより流れ易い設定にしている請求項2に記載の魚卵処理装置。
【請求項4】
前記水路は幅広部から幅狭部を経て、底部が断面テーパ状または凹状に傾斜している前記収容凹部に対向する位置に開口しており、前記導入管は前記幅狭部を通って魚卵に到達するように構成している請求項2又は3に記載の魚卵処理装置。
【請求項5】
前記整列搬送部は、収容凹部を全周に設けた歯車状の整列盤を具備するものであって、
前記収容凹部を深さ方向及び搬送方向と交叉する方向から撮像する画像処理手段を設け、
前記画像処理手段は、前記収容凹部に対して前記導入管の先端のあるべき相対位置を基準点として設定し、前記整列盤を回転させて撮像した複数の収容凹部における各々の基準点に基づいて、標準化した基準点の座標を自動取得する請求項1~5の何れかに記載の魚卵処理装置。
【請求項6】
魚卵が導かれる加工用水槽と、
前記加工用水槽内において魚卵を1つずつ整列して収容する収容凹部を所定の加工位置に順次搬送する構造の整列搬送部と、
前記加工位置に搬送された前記収容凹部内の魚卵に対して導入管を昇降させて所定の物質を注入する加工部と、
前記加工位置にある収容凹部の上方から当該収容凹部に収容される魚卵に向かって水流を発生させる水流発生手段とを具備し、
前記水流発生手段によって前記加工位置に1つずつ順次搬送された魚卵に向かって水流を発生させ、前記加工部が、前記加工位置に搬送された収容凹部内の魚卵であり且つ前記収容凹部に流入した後で前記収容凹部から流出する水流により、前記収容凹部の底部に静定された魚卵に対して導入管を昇降させて所定の物質を注入することを特徴とする魚卵処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に魚卵に所定の処理を施すための魚卵処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
受精卵に遺伝子を注入することにより組換えタンパク質などの目的物質を遺伝子工学技術を用いて生産する技術分野において、ゼブラフィッシュなど小型魚卵の利用が有益であることは公知である。例えば、前記ゼブラフィッシュを利用して目的物質を得ようとする場合、直径が0.9mm~1.3mmという球状の受精卵への精密な遺伝子溶液(ベクター)の注入が必要であるが、受精卵にダメージを与えにくいように、先端が数~十数μmの直径の極細な針を用いて、受精卵の卵膜を貫通して胚の内部に針先を差し込み、遺伝子溶液を注入するマイクロインジェクション技術が知られている。この分野では、手作業や手動操作で手ぶれを防ぐマニュピレータなどを用いてのマイクロインジェクション作業が一般的な方法となっているが、実用的な目的物質の量の取得のために必要なる数量の受精卵を処理することは困難であり、注入作業も精度と安定性が限られたものとなっている、そこで、下記先行技術にあるような自動化を目指す試みが種々おこなわれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許5647005号公報
【文献】特許5823112号公報
【文献】特許5787432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、魚卵においては卵膜と胚は比重が異なるため、卵膜に対する胚の位置は重力により鉛直下方に偏心する。従来からのプレート等に卵を配列させてインジェクションする方式においては、魚卵の上方、下方からの視認では針の刺さり深さや刺さりの状態遺伝子注入の様子を適切に観察して遺伝子注入針の差込深さを決めたうえで、遺伝子注入することが難しい。また、魚卵の搬送方向の前後や側方から、魚卵の整列搬送部を実現する構成物の影響を避けて遺伝子注入針の差込深さ撮像やセンシングすることが難しい。また、針の刺さりの状態や遺伝子注入液の挿入の様子の把握についても同様である。
【0005】
更にマイクロインジェクションを実施できる極細な遺伝子注入針は、コンタミネーション防止のため使い捨ての態様を適用しているが、針の長さやアタッチメントの構造は、単純に針をアタッチメントに取り付けただけでは魚卵への針刺し深さ精度に影響のない精度レベルでは製作されていないことが多く、それぞれ長さが違いばらついている。そのため、複数本の針先位置を数十μm程度のエリアに精密位置決めした上で、装置側へ取付けアライメントや各種部品累積公差などを考慮した設計およびセット手順を構築する必要があるため、煩雑な手順の従前段取り調整が必要となり、特定の熟練オペレータであっても作業が難しく時間を要する。
【0006】
また、上述の受精卵は、例えば約30分毎といったように、頻繁に細胞分裂が進むため、迅速に遺伝子を導入し目的の受精卵を得るためには、受精卵の処理を効率がより高い状態で行うことが目的とされる。すなわち、上記特許文献に挙げた従来の技術は、所定の容器の使用等に処理の速度が拘束されてしまうという、所謂バッチ処理を想定してなされた技術であるため、受精卵が加工に適した状態で常に処理が行えるというものではない。また勿論、処理後の受精卵を効率良く回収するということも重要な要素であり、上記特許文献よりも効率良く受精卵を回収する技術も求められているのが現状である。
【0007】
具体的には、受精卵の処理を高い効率にて行えるよう、受精卵に所定の処理を行い得るように、より高い効率にて搬送し、処理後の受精卵を高い効率にて回収することが肝要となる。
【0008】
そこで、インライン方式によって魚卵を順次搬送しながら加工位置と回収を行うように構成することが一つの有効な手段として考えられる。
【0009】
しかしながら、インライン方式による場合は魚卵を水中で移動させることになり、魚卵は固定されないため、遺伝子注入の前に魚卵が浮いていると、魚卵が重力によって静定することを待つ必要があり、注入工程を迅速化することができない。また、魚卵が針に押されて動くことでも、安定した注入ができない要因となる。さらに、注入後に魚卵が針から抜けずに刺さったままになることで、魚卵が破壊される恐れがある。その他、注入後にカメラで画像を撮影し、注入の成否を検査する場合、魚卵が針から抜けた勢いで不規則に動くため、魚卵を安定して撮影・検査できない。
【0010】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、主たる目的は、上記受精卵に、搬送しながら処理を行うインライン方式を採用してより高い効率にて所定の処理を行い、その際に魚卵の静定を速めてインライン方式の実効性を担保した魚卵処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以上のような問題点を鑑み、次のような手段を講じたものである。
【0012】
すなわち、本発明の魚卵処理装置は、魚卵が導かれる加工用水槽と、前記加工用水槽内において魚卵を1つずつ収容する収容凹部を周囲に設けた歯車状の整列盤が設けられ、前記整列盤が回転することで魚卵を所定の加工位置に順次搬送する整列搬送部と、前記加工位置にある収容凹部の上方から当該収容凹部に向かって水流を発生させる水流発生手段と、前記加工位置に搬送された収容凹部内の魚卵であり且つ前記収容凹部に流入した後で前記収容凹部から流出する水流により、前記収容凹部の底部に静定された魚卵に対して導入管を昇降させて所定の物質を注入する加工部とを具備することを特徴とする。
【0013】
このようにすれば、インライン方式を採用しても、魚卵が収容凹部の底に迅速に収まり静定するので、所定の物質の注入前に魚卵が浮かぶことが抑えられ、魚卵が導入管に押されても動きにくくなり、迅速に安定して所定の物質を注入することができる。
【0014】
魚卵を加工位置前後で適切に搬送するためには、前記搬送方向に沿って加工位置の前後所定領域に、前記整列盤の回転に伴って水中で搬送される魚卵を収容する前記収容凹部に近接して魚卵を閉じ込めるガイドを設けるとともに、前記加工位置において前記ガイドの一部に前記収容凹部に向かって開口する水路を設け、この水路を通して前記収容凹部内の魚卵に導入管を導入及び前記水流発生手段から前記収容凹部に向かって水流を発生するようにしていることが望ましい。
【0015】
確実なダウンフローを形成するためには、前記収容凹部は歯車状の整列盤の外周に形成されたもので、前記水流は前記収容凹部から整列盤の側面と当該側面に近接配置された加工用水槽の側板との隙間を通って流れるように構成し、水流は整列盤とガイドとの隙間よりも、整列盤の側面と加工用水槽の側板との隙間の方をより流れ易い設定にしていることが望ましい。
【0016】
加工後に魚卵が導入管から離れないことによる不具合を防止するためには、前記水路は幅広部から幅狭部を経て、底部が断面テーパ状または凹状に傾斜している前記収容凹部に対向する位置に開口しており、前記導入管は前記幅狭部を通って魚卵に到達するように構成していることが望ましい。

【0018】
前記整列搬送部が、収容凹部を全周に設けた歯車状の整列盤を具備する場合に、整列盤の組み付け誤差に適切に対応するためには、前記収容凹部を深さ方向及び搬送方向と交叉する方向から撮像する画像処理手段を設け、前記画像処理手段は、前記収容凹部に対して前記導入管の先端のあるべき相対位置を基準点として設定し、前記整列盤を回転させて撮像した複数の収容凹部における各々の基準点に基づいて、標準化した基準点の座標を自動取得するように構成されることが望ましい。
また、本発明の魚卵処理装置は、魚卵が導かれる加工用水槽と、前記加工用水槽内において魚卵を1つずつ整列して収容する収容凹部を所定の加工位置に順次搬送する構造の整列搬送部と、前記加工位置に搬送された前記収容凹部内の魚卵に対して導入管を昇降させて所定の物質を注入する加工部と、前記加工位置にある収容凹部の上方から当該収容凹部に収容される魚卵に向かって水流を発生させる水流発生手段とを具備し、前記水流発生手段によって前記加工位置に1つずつ順次搬送された魚卵に向かって水流を発生させ、前記加工部が、前記加工位置に搬送された収容凹部内の魚卵であり且つ前記収容凹部に流入した後で前記収容凹部から流出する水流により、前記収容凹部の底部に静定された魚卵に対して導入管を昇降させて所定の物質を注入することを特徴とする。
このようにすれば、インライン方式を採用しても、魚卵が収容凹部の底に迅速に収まり静定するので、所定の物質の注入前に魚卵が浮かぶことが抑えられ、魚卵が導入管に押されても動きにくくなり、迅速に安定して所定の物質を注入することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上、説明した本発明によれば、搬送しながら処理を行うインライン方式を採用してより高い効率にて所定の処理を行い、その際に魚卵の静定を速めてインライン方式の実効性を担保した魚卵処理装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係る機能ブロック図。
図2】同実施形態に係る全体の構成説明図。
図3】同実施形態に係る採卵搬送部を示す模式的な構成説明図。
図4】同実施形態に係る不要物分離部を示す模式的な構成説明図。
図5】同実施形態に係る遺伝子注入部及び加工用水槽を示す模式的な構成説明図。
図6図5に係る模式的な平面図。
図7】同実施形態に係る作用説明図。
図8】同実施形態における収容凹部周辺の拡大図。
図9図8のIX-IX線に沿った断面図。
図10】水流がない場合の比較例を示す図8の一部に対応した図。
図11】同実施形態における導入管の調整工程を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態に係る魚卵処理装置の一例である遺伝子注入装置1は、図1に示すように、飼育水槽Bから採取される魚卵eである受精卵に対し、速やかに所定の物質である遺伝子を含んだ遺伝子溶液Gを導入するためのものである。そして遺伝子溶液Gが注入された魚卵eはその後、細胞分裂が繰り返されるとともに導入された遺伝子の塩基配列に由来するタンパク質が合成される。そして当該タンパク質はしかるべきタイミングにて採取、抽出、精製され、例えば創薬の研究や量産に利用される。
【0023】
遺伝子注入装置1は、図1図4に示すように、飼育水槽Bに連続する採卵搬送部2と、搬送された魚卵eを飼育水w並びに排泄物や残餌といった不要物bg、sgに対して分離する不要物分離部3と、不要物bg、sgから分離された魚卵eを主に振動によって搬送する振動搬送部4と、振動搬送部4により搬送された魚卵eを所定の状態に整列させながら搬送する整列搬送部6と、整列搬送部6により搬送されている魚卵eに遺伝子溶液Gを注入する遺伝子注入部5と、遺伝子溶液Gが注入された魚卵eを効率良く採取するための選別回収部7とを有している。また本実施形態では、魚卵eに所定の加工を施すための加工装置を構成する加工部である遺伝子注入部5並びに整列搬送部6、そして回収装置たる選別回収部7は、平面視概略T字状をなした加工用水槽8に配される。
【0024】
また本実施形態では、魚卵eの一例として直径1mm程度の略球形状をなすゼブラフィッシュの卵を利用している。なお魚は脊椎動物であるために遺伝子導入により創薬に利用し得る態様のタンパク質を得やすく、特にゼブラフィッシュは飼育水槽Bから効率良く受精卵である魚卵eを得やすい種として知られている。
【0025】
以下、遺伝子注入装置1の各部の構成について説明していく。
【0026】
採卵搬送部2は、図2及び図3に示すように、例えば複数並列され且つ上下方向に多段に配置された飼育水槽Bから効率良く魚卵eを採取すべくスロープ状に構成された水樋状の通路である。この採卵搬送部2は、飼育水槽Bからは魚卵eのみならず、魚を飼育していた飼育水wも同時に搬送され、これらは一度タンクTへ収容された後ポンプPにより上昇させられ、不要物分離部3へと案内される。具体的には魚卵e並びに飼育水wが上方から落下され落下エネルギーが付与された状態で不要物分離部3へ案内される。タンクTは、集配した魚卵e並びに飼育水wの一時的なクッション槽としての働きをなすとともに、図示例では内部で例えば螺旋状の水流が発生することにより、滞りなくポンプPにより給水することができる。また具体的な態様として、タンクT内の下限水位検出により、ポンプPのから送りでの破損・減耗を防止するとともに、上限水位検出により、オーバーフロー検出を行う。オーバーフローが実際に起こった場合には、図示しない飼育水槽Bへの配管を介して飼育水wを移動させる。なお、飼育水槽Bを十分高い位置にレイアウトでき、当該飼育水槽Bから魚卵eの不要物分離部3への自由落下が可能な場合は、タンクT並びにポンプPを省略してもよい。
【0027】
不要物分離部3は、図4に具体的に示すように、魚卵eを通過させ魚卵eよりも大きな不要物bgを採取し排除するための第一の網装置31と、振動搬送部4に支持されつつ魚卵eが通過し得ない網目を有する第二の網装置32と、この第二の網装置32にある魚卵eに対し浄水cwを噴射する浄水噴射手段33とを有している。本実施形態では第二の網装置32を通過若しくは第二の網装置32への衝突で破砕した飼育水wは、例えば魚卵eよりも小さく第二の網装置32を通過した小さな不要物sgに対し更に分離され、飼育水槽Bへ再び導入される構成を適用している。また本実施形態では浄水噴射手段33は、振動搬送部4により魚卵eが搬送される方向に沿って浄水cwを魚卵eに噴射することにより、魚卵eの搬送をより速やかに行うためのものである。すなわち本実施形態では、第二の網装置32を通過し、細菌、微生物等が混入している可能性がある飼育水wを加工用水槽8に配された加工装置には導入させない構成が適用されている。ここで、本実施形態における浄水cwとは、蒸留水や水道水のみならず上記飼育水wよりも汚れが少ない水のことである。
【0028】
振動搬送部4は、第二の網装置32に所定の振動を与えることにより、魚卵eを加工用水槽8へと案内するためのものである。振動搬送部4によって振動が加えられた魚卵eは、加工用水槽8へ向けて速やか且つ効率良く搬送され投入される。
【0029】
ここで図5及び図6に示すように、本実施形態では遺伝子注入部5、整列搬送部6及び選別回収部7は加工用水槽8に設けられている。具体的には、遺伝子注入部5は加工用水槽8の上方に、整列搬送部6及び選別回収部7は加工用水槽8の内部に配されている。また図2及び図5に示すように、加工用水槽8の上端近傍まで水が満たされた状態となっている。
【0030】
加工用水槽8は、採取された魚卵eを加工するためのものであり、魚卵eに所定の物質を注入する加工装置を構成する加工部である遺伝子注入部5及び整列搬送部6を設けてなるものである。具体的に説明すると、加工用水槽8は、加工前の魚卵eを収容すべく内部の厚み寸法を魚卵eが複数個並列し得ない寸法に設定された加工前領域81と、所定の加工処理が施された魚卵eを収容するための加工後領域82とを有する。詳細には加工用水槽8は、内部の厚み寸法を魚卵eが複数個並列し得ない寸法に設定された加工前領域81および加工後領域82が連続した平面視概略T字状の形状をなす。また本実施形態では、少なくとも加工前領域81内を視認可能とすべく、少なくとも加工位置Pを透明な材料により構成している。
【0031】
整列搬送部6は、加工前領域81に導入された魚卵eを遺伝子注入部5により処理が行い易い状態とすべく整列されるためのものである。整列搬送部6は、円盤形状をなし周囲に所定ピッチにて形成された複数の収容凹部63を等間隔に設けた円盤体たる整列盤61と、この整列盤61に向かって浄水cwを噴射するための整列用ポンプ62とを有している。この整列用ポンプ62による浄水cwにより、加工前領域81に導入された魚卵eがスムーズに整列盤61へ案内され、収容凹部63内に位置決めされる。この整列盤61が、魚卵eを載置し得る載置部に相当する。そして本実施形態では図6に示すように、整列盤61はモータドライバDを介してACサーボモータMが駆動されることにより精密に回転制御が行われている。上記モータドライバDは、制御装置Eにより制御されている。魚卵を一個ずつ配列し搬送し得る形状であれば、例えば無限軌道を構成し得るベルト状やチェーン状をなすものであっても良い。
【0032】
遺伝子注入部5は、整列搬送部6によって搬送される魚卵eに遺伝子溶液Gを注入するためのものであり、魚卵eに直接遺伝子を注入する概略針状をなすキャピラリ51と、このキャピラリ51に所定量の遺伝子を供給するためのシリンジポンプ52と、これらキャピラリ51並びにシリンジポンプ52の上下方向(Z方向)の位置決めを行うポジショナ53とを有し、このポジショナ53はXY方向へも位置調整可能とされている。そして上記キャピラリ51が、魚卵eに所定の物質を所定のタイミングで導入し得る管状をなす導入管に相当する。
【0033】
そして本実施形態では、整列搬送部6から加工後領域82へ亘って遺伝子が注入された魚卵eを効率良く回収するための選別回収部7を有している。
【0034】
選別回収部7は、加工後の魚卵eを回収する回収装置或いは回収槽に相当する。この選別回収部7は、加工後領域82に収容された回収槽たる回収容器71と、加工前領域81における加工後領域82近傍に設けられ整列盤61へ向けて浄水cwを噴射する回収用ポンプ72と、加工部を構成する遺伝子注入部5に正確に遺伝子を導入され得なかった魚卵eをNG卵排除経路を通じて加工用水槽8外へ排出するための分別部73と、加工用水槽8内において整列盤61の下半分を覆うように設けられ魚卵eを加工前領域81から加工後領域82に通じるOK卵回収経路へと案内するためのガイド75とを有し、このガイド75に沿ってOK卵回収経路が構成されている。そして本実施形態に係る回収容器71は、加工後領域82に臨む部分にスリット74を設けることにより、加工前領域81から移動した魚卵eを効率良く回収容器71内へ導入することができる。また本実施形態では、ガイド75の一部を回収容器71に入り込ませる形状とすることで、魚卵eを効率良く回収容器71へ案内せしめている。
【0035】
分別部73は、排除用の水流付勢ポンプ、NG卵排除経路である付勢水入出力管、それを開閉する電磁弁から構成され、NG判定された魚卵eを収容した収容凹部63が排除位置まで送られたときに、電磁弁が開放されて、魚卵eを水流で付勢して収容凹部63から離脱させ、付勢水入出力管に送り出す。
【0036】
ここで本実施形態では図5図6及び図7に示すように、加工用水槽8へ導入された魚卵eがより高い効率にて加工が行われるような構成を適用している。すなわち加工用水槽8における加工前領域81に導入された魚卵eは整列用ポンプ62から噴射される浄水cwによりスムーズに収容凹部63へ案内される。そして収容凹部63へ収容された魚卵eは整列盤61の回転によりキャピラリ51の直下まで順序が異なること無く移動する。ここで加工前領域81およびOK卵回収経路に向かう部分の紙面垂直方向の幅は加工位置Pを含めて魚卵eが二つ以上並び得ない寸法に設定され、且つ加工前領域81はOK卵回収経路に向かう部分を含めて透明な部材により構成されている。すなわちキャピラリ51直下まで案内された魚卵eは必ず一つずつ明確に視認された状態となる。そしてキャピラリ51は個々の魚卵eに対し、図6に図示されたカメラCにて内部の胚の位置が明確に視認され得る状態で配されるため、カメラC並びに遺伝子注入装置5が精密に制御されながら、当該胚へ正確に遺伝子を注入することができる。このとき、整列盤61が概略円形状に構成され、凹部63が等間隔に配置されているため、制御装置Eによりキャピラリ51直下に正確に凹部63が位置付けられるようになっている。ここで、もし魚卵eが遺伝子注入に適したものでなかったり、あるいは遺伝子が正確に注入し得なかったことがカメラCにて視認できた場合、整列盤61を所定角度回転させた箇所に設けられた分別部73を通過させ別途回収することができる。これにより、組換えが起こった可能性がある魚卵が外部へ不要に漏れ出すことが回避されている。併せて、加工後領域82の下流には高い割合で正確に遺伝子が注入された魚卵eが案内される。また更に、キャピラリ51により遺伝子が注入された魚卵eは回収用ポンプ72から噴射される浄水cwにより確実に収容凹部63から離間させられる。そしてこれら魚卵eはスムーズに加工後領域82からOK卵回収経路へ案内され、スリット74を通過して回収容器71に収容されることとなる。
【0037】
前述した加工位置Pには、図8に示すように収容凹部63の上方から当該収容凹部63に向かって水流WFを発生させる水流発生手段としてのノズル91が配置してある。ノズル91への水流源は、図5に示すように収容凹部63へ魚卵eを誘導するための整列ポンプ62の水流を利用したり、分別部73において魚卵eを収容凹部63から取り出す際の水流と同じ水流源を利用したり、魚卵eを回収するための回収ポンプ72の水流を利用するなど、種々の構成が適用できる。
【0038】
そして、図5および図8に示すように搬送方向に沿って加工位置Pの前後所定領域には、収容凹部63に近接して魚卵eを閉じ込めるガイド92が設けてある。すなわち、魚卵eはガイド92の無い位置から収容凹部63に導入され、整列盤6の回転に伴ってガイド92の下に潜り込むことで収容凹部63からの離脱が禁止され、加工位置Pで遺伝子の注入を受けた後、さらにガイド92の下を通ってガイド92の無い位置に到達して収容凹部63から開放される。分別部73は加工位置から整列盤61が数ピッチ回転した位置にあり、不良な魚卵eは途中で水流により収容凹部63から離脱される。
【0039】
そして、加工位置Pにおいてガイド92の一部に収容凹部63に向かって開口する水路93を設け、この水路93を通して収容凹部63内の魚卵eにキャピラリ51を導入するようにしている。
【0040】
前述した整列盤6は歯車状であって、収容凹部63は厚み方向(図8における紙面垂直方向)に開放されており、収容凹部63に流入した水流WFは、図9に示すように収容凹部63から側方に流出した後、整列盤6の側面6aと加工用水槽8の側板8aとの隙間δ1を通って下に流れるように構成される。その際、水流WFは図8に示す整列盤61とガイド92との隙間δ2よりも、図9に示す整列盤6の側面6aと加工用水槽8の側板8aとの隙間δ1のほうが流れ易い状態となるように、それらの隙間δ1、δ2の寸法調整等がなされている。
【0041】
また、水路93は幅広部93aから幅狭部93bを経て収容凹部63へ対向する位置に開口しており、キャピラリ51は幅狭部93bを通って魚卵eに到達するように構成している。幅狭部93bの幅寸法は魚卵eの径よりも小さい値に設定されている。
【0042】
本実施形態の収容凹部63は、底部63aが断面テーパ状に傾斜しており、魚卵eは左右の傾斜に2点で接した状態で安定的に静止する。勿論、収容凹部63は凹状に湾曲した曲面等であっても構わない。
【0043】
なお、収容凹部63を有した整列盤61は、モータへの組み付け誤差等が避けられず、モータ軸心と整列盤61の軸心が合致しない場合がある。このため、整列盤61を回転させると、収容凹部63は高い精度で同一性を保った加工ができたとしても、加工位置Pに配置されたときの収容凹部63の位置は必ずしも合致しているとは限らない。整列盤61は一旦決定した初期位置から所定角度でピッチ送りを行い、加工位置Pで逐一位置決めのフィードバック制御は行わないため、導入管の位置決めや下降、上昇を精度良く行ったとしても、加工位置に到来した各収容凹部は相互に微妙に位置がずれることが避けられない。
【0044】
そこで、前記画像処理手段GPは、収容凹部63に対してキャピラリ51の先端51aのあるべき相対位置を基準点Xとして設定し、整列盤61を回転させて撮像した複数の収容凹部63における各々の基準点Xに基づいて、標準化した基準点Xの座標を自動取得するように構成されている。
【0045】
具体的にこの実施形態では、予めテンプレートデータとして前記収容凹部63のエッジ形状を記憶するとともにその収容凹部63内におけるキャピラリ51の導入すべき先端位置に基準点を設定しておき、図11のように撮影した収容凹部63と前記テンプレートデータの収容凹部との画像マッチングを通じて撮影した収容凹部63における基準点Xの座標を取得するという工程を、1周分の収容凹部63の全部又は一部について行い、その基準点Xの平均座標を実際に導入すべきキャピラリ51の先端位置として、図5に示すポジショナ53を通じて初期のティーチング等を行えるようにしている。
【0046】
以上のように、本実施形態の魚卵処理装置たる遺伝子注入装置1は、加工位置Pにある収容凹部63の上方から当該収容凹部63に向かって水流WFを発生させる水流発生手段としてのノズル91を設けており、インライン方式を採用しても、図10に示すように魚卵eが収容凹部63内で浮いた状態になることなく、収容凹部63の底部63aに迅速に収まり静定するので、遺伝子の注入前に魚卵eが浮かぶことが抑えられ、魚卵eがキャピラリ51に押されても動きにくくなり、迅速に安定して遺伝子溶液を注入することができる。
【0047】
また、ガイド92によって収容凹部63内に魚卵を閉じ込めるので、魚卵eが加工位置Pに到達するまでの間に収容凹部63から離脱することを防止することができるのみならず、魚卵eは水槽内の水とともに収容凹部63に閉じ込められて移動するため、加工位置Pに安定した状態で到達させることができる。加工位置Pでは導入管であるキャピラリ51を導入する水路93がガイド92に開口しているため、キャピラリ51の妨げになることもない。
【0048】
また、整列盤61とガイド92との間に隙間δ2が存するため、水流WFがこの隙間δ2に逃げるおそれがあるが、本実施形態では整列盤61とガイド92との隙間δ2よりも、整列盤6の側面6aと加工用水槽8の側板8aとの隙間δ1のほうが流れ易い状態にしているため、収容凹部63の底部に向かう適切なダウンフローを形成することができ、魚卵eの静定をより速めることができる。
【0049】
また、幅狭部93bを魚卵eの径よりも小さくしており、遺伝子溶液を注入した後に導入管であるキャピラリ51を上昇させる際に魚卵eがキャピラリ51から抜けるため、図10に示すようにキャピラリ51が魚卵eに刺さったままの状態で持ち上がり、周辺に挟まれて損傷する等といったことを防止することができる。また、魚卵eがキャピラリ51から抜けた後、再び収容凹部63の底部63aに収まり静定することにより、注入後にカメラCで画像を撮影して注入の成否を検査する場合等に、安定して撮影・検査することができる。
【0050】
また、収容凹部63の形状を断面テーパ状にしているため、魚卵eを所定の位置に静定することができる。
【0051】
また、画像処理手段GPにより複数の収容凹部63を撮像し、各収容凹部63において好ましい位置として設定されたキャピラリ先端51aの相対位置である基準点Xを標準化(平均化)するようにしているので、それにキャピラリ51の先端51aを合わせることで整列盤61の組み付け誤差による影響を最小限に抑え、最初に位置決めした状態で収容凹部63をピッチ送りしながらキャピラリ51を昇降させて注入を行っても、注入不良や水流の位置ずれが生じることを有効に回避することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態の構成に限られるものではない。
【0053】
例えば、上記実施形態は水流発生手段にノズルを用いたが、収容凹部に向かう水流を発生することができればどのようなものであってもよい。
【0054】
例えば、上記実施形態では魚卵に対し遺伝子を導入するための態様を開示したが勿論、魚卵に対して、遺伝子に限らず、ヒトがん細胞などの細胞や、薬、薬候補物質、毒性物質などの化学物質や、調味料、着色料などの食品添加物といった、別異の物質を注入する態様であることを妨げない。また上記実施形態では魚卵としてゼブラフィッシュの卵を適用したが勿論、別の魚類の卵を用いてもよい。また個々の構成要素の具体的な配置は加工用水槽内の具体的な水の流れといった詳細な態様やその他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0055】
5…加工部(遺伝子注入部)
6…整列搬送部(整列盤)
6a…側面
8…加工用水槽
8a…側板
51…導入管(キャピラリ)
51a…先端
63…収容凹部
63a…底部
91…水流発生手段(ノズル)
92…ガイド
93…水路
93a…幅広部
93b…幅狭部
e…魚卵
GP…画像処理手段
X…基準点
δ1、δ2…隙間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11