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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】ワイピングシート
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/16 20060101AFI20240628BHJP
   A47L 13/17 20060101ALI20240628BHJP
   D04H 1/4391 20120101ALI20240628BHJP
   D04H 1/492 20120101ALI20240628BHJP
【FI】
A47L13/16 A
A47L13/17 A
D04H1/4391
D04H1/492
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017228140
(22)【出願日】2017-11-28
(65)【公開番号】P2019097589
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-09-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】百合野 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】成田 行人
(72)【発明者】
【氏名】金田 学
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】北村 英隆
【審判官】関口 哲生
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/132690(WO,A1)
【文献】特開2008-206958(JP,A)
【文献】特開2002-263043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L13/16-13/17
D04H1/4391,1/492
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面の形状が非円形である異形繊維を含む単層のスパンレース不織布を備えるワイピングシートであって、
前記異形繊維は、その横断面の形状が、星形六角形、W字形又は多葉形であり、且つ、その横断面における輪郭線を周方向に沿って見たときに、複数の凸部と、隣り合う凸部間に位置する凹部とを有する形状をしており、
前記異形繊維の横断面を横切る線分のうち、最長の線分の長さをAとし、該線分と直交し且つ該横断面と横切る線分のうち最長の線分の長さをBとしたときに、A/Bの値が1.2以上3.0以下であり、
隣り合う前記凸部の頂点間を結ぶ線分の長さをCとし、該線分から前記凸部の最底位置に下した垂線の長さをDとしたときに、C/Dの値が2.0以上4.0以下であり、
前記不織布は、該不織布を構成する繊維どうしが融着せずに水流交絡してなり、
前記不織布は、前記異形繊維を100質量%含有し
前記ワイピングシートの引張強度が90N/30mm以上120N/30mm以下であり、
繊維の自由度を示す繊維抜け落ち量がmg以上10mg以下である、ワイピングシート。
【請求項2】
前記不織布の坪量が40g/m以上140g/m以下である、請求項1に記載のワイピングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイピングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を原料とする繊維は、その繊維を交絡させた不織布の形態で様々な用途に用いられている。例えば特許文献1には、0.6~3.3dtexの非分割型異形断面捲縮繊維とフィブリル化繊維とを含む湿式不織布が水流交絡処理されたワイパー用不織布が開示されている。この不織布は、拭き取り性、吸液性、嵩高性及び強度に優れたものであるので、ダストワイパーなどの用途に使用できることが同文献に記載されている。
【0003】
また特許文献2には、多葉扁平断面ポリエステル系繊維20~80質量%とセルロース系繊維20~80質量%とからなる不織布が開示されている。この不織布は、水や薬液等の液体の高い吸保液力と放出性を持ち、適度な嵩高性と柔軟性を兼ね備えているので、対人清拭用や美容用として用いることができることが同文献に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-81987号公報
【文献】国際公開第2014/132690号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、フローリングや壁、家具等の硬質表面を清拭するワイピングシートに用いられる不織布は、汚れの捕集性と、不織布自体の強度とを兼ね備えている必要がある。汚れの捕集性及び強度は、不織布を構成する繊維の自由度、つまり繊維の動きやすさによって調整することができるが、その効果は両立しないものとなる。例えば、繊維の自由度が高い不織布を用いた場合、毛髪や微粒子などの汚れの捕集性は向上するものの、ワイピングシート自体の強度が低下し、実使用に耐えない場合がある。一方、繊維の自由度が低い不織布を用いた場合、ワイピングシート自体の強度は上昇するものの、汚れの捕集性が低下してしまう。
【0006】
また、特許文献1及び2の不織布は、上述した拭き取り性や嵩高性、強度等を確保するために二種の繊維を組み合わせて製造されているが、原料供給や製造コストの観点から適切ではない。また、これらの文献に記載されている不織布は、熱融着性繊維による繊維どうしの融着によって不織布の強度を高めることが好適であるとされているところ、繊維どうしの融着に起因して不織布の構成繊維の自由度が低下し、その結果、汚れの捕集性を十分に高めることができなかった。
【0007】
したがって本発明の課題は、従来技術の欠点を解決し得るワイピングシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決すべく本発明者が鋭意検討した結果、意外にも、ワイピングシートの構成繊維として横断面の形状が非円形である異形繊維を用いることで、ごみの捕集に有利な繊維自由度を有しながら、シートの強度を高め得ることを知見した。
本発明は前記の知見に基づきなされたものであり、横断面の形状が非円形である異形繊維を含み、該繊維どうしが融着せずに交絡してなる不織布を備えるワイピングシートであって、
前記不織布の引張強度が80N/30mm以上200N/30mm以下であり、
繊維の自由度を示す繊維抜け落ち量が2mg以上50mg以下である、ワイピングシートを提供することにより前記の課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シートの使用時における強度と、シートの構成繊維の自由度の向上とが両立し、シート強度及び汚れの捕集性を兼ね備えたワイピングシートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)ないし(e)は、本発明のワイピングシートに用いられる異形繊維の横断面形状の斜視模式図である。
図2図2(a)ないし(c)は、図1(b)、(d)及び(e)における異形繊維の横断面形状の平面拡大図である。
図3図3は、本発明のワイピングシートの製造に用いられる製造装置の模式図である。
図4図4は、実施例及び比較例のワイピングシートにおける不織布の引張強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のワイピングシートをその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明においてワイピングとは、清掃及び清拭の両方の意味を含むものであり、例えば、床面、壁面、天井及び柱等の建物の清掃、建具や備品の清掃、物品の拭き取り、身体及び身体に係る器具の清拭等が含まれる。
【0012】
本発明のワイピングシートは、異形繊維を含み、好ましくは異形繊維を主体とする不織布を備えている。異形繊維は、その繊維どうしが、堆積、交絡又は結合して不織布を形成している。繊維の自由度を高めて、汚れの捕集効率を高める観点から、不織布を構成する繊維は、その繊維どうしが融着していないことが好ましい。「主体とする」とは、ワイピングシートを構成する不織布に、異形繊維が50質量%以上含まれていることをいう。
【0013】
本発明のワイピングシートは、異形繊維を含む単層の不織布から構成されていてもよく、あるいは異形繊維を含む層と、異形繊維を含まない層とを備えた多層構造の不織布から構成されていてもよい。また本発明のワイピングシートは、第1の異形繊維を含む層と、第1の異形繊維と異なる第2の異形繊維を含む層とを備えた多層構造の不織布から構成されていてもよい。
【0014】
本発明のワイピングシートは、異形繊維を含む不織布(単層及び多層を問わない)のみから構成されていてもよく、あるいは異形繊維を含む不織布と、異形繊維を含まない不織布又は不織布以外の他のシート材料とを重ね合わせたマルチプライの構造を有していてもよい。
【0015】
本発明のワイピングシートにおける異形繊維の占める割合は、該ワイピングシートが単層構造の不織布からなる場合は、シート強度及び汚れの捕集性を一層両立させる観点から、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以上であることが一層好ましい。本発明のワイピングシートに異形繊維以外に含有させ得る繊維は横断面が真円の繊維である。かかる繊維は、該ワイピングシートが単層構造の不織布からなる場合は、多くても好ましくは50質量%以下の割合で含有され、更に好ましくは40質量%以下、一層好ましくは30質量%以下の割合で含有される。
【0016】
本発明のワイピングシートに含まれる異形繊維とは、繊維の横断面の形状が非円形である繊維を指す。繊維の横断面が非円形とは、繊維の横断面が真円形以外の形状を有することをいう。このような繊維の横断面の形状を有する異形繊維2としては、例えば図1(a)に示す三角形や、四角形、五角形及び六角形などの凸多角形又は正多角形、図1(b)に示す星形多角形、図1(c)に示す楕円形、図1(d)に示すW字形、及び図1(e)に示す多葉形などの横断面形状を有するものが挙げられるが、本発明の効果が奏される限り、特に限定されない。異形繊維は、その横断面形状において、尖鋭な頂部を有する凸部を好ましくは少なくとも1つ、更に好ましくは2つ以上、一層好ましくは3つ以上有することが好ましい。尖鋭な頂部とは、異形繊維の横断面形状における凸部の輪郭が、例えば(イ)非平行な2本の直線が交わることで画成される場合、(ロ)1本の直線と1本の曲線とが交わることで画成される場合、及び(ハ)2本の曲線が交わることで画成される場合などが挙げられる。例えば図1(a)に示す異形繊維は尖鋭な頂部を3つ有し、図1(b)に示す異形繊維は尖鋭な頂部を6つ有し、図1(e)に示す異形繊維は尖鋭な頂部を8つ有する。本発明においては、1種の異形繊維を単独で用いてもよく、あるいは横断面形状が異なる2種以上の異形繊維を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
生産効率の向上の観点から、異形繊維は、繊維形成性の樹脂を原料として構成されていることが好ましい。そのような樹脂としては、例えば各種の熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニルやポリスチレン等のビニル系樹脂、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ポリパーフルオロエチレン等のフッ素樹脂などが挙げられ、これらのうち一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
ワイピングシートに含まれる異形繊維の繊度は、ワイピング時における操作性及び汚れの捕集効率の観点から、0.8dtex以上であることが好ましく、1dtex以上であることがより好ましく、1.2dtex以上であることが更に好ましく、またその上限は、4dtex以下であることが好ましく、3.5dtex以下であることがより好ましく、3dtex以下であることが更に好ましい。
【0019】
ワイピングシートに横断面が真円の繊維が含まれる場合、該繊維の繊度は、ワイピング時における操作性及び汚れの捕集効率の観点から、0.6dtex以上であることが好ましく、1.0dtex以上であることが更に好ましく、1.2dtex以上であることが一層好ましい。また、4.0dtex以下であることが好ましく、3.5dtex以下であることが更に好ましく、3.0dtex以下であることが一層好ましい。
【0020】
ワイピング時におけるワイピングシートの強度を維持する観点から、ワイピングシートを構成する不織布の引張強度が80N/30mm以上であることが好ましく、85N/30mm以上であることがより好ましく、90N/30mm以上であることが更に好ましく、またその上限は200N/30mm以下であることが好ましく、150N/30mm以下であることがより好ましく、120N/30mm以下であることが更に好ましい。具体的には、ワイピングシートを構成する不織布の引張強度が80N/30mm以上200N/30mm以下であることが好ましく、85N/30mm以上150N/30mm以下であることがより好ましく、90N/30mm以上120N/30mm以下であることが更に好ましい。この引張強度は、不織布の機械方向(MD)及び幅方向(CD)のいずれか一方で満たされていればよく、両方で満たされていることが更に好ましい。不織布の引張強度の測定方法は、後述する実施例にて詳述する。
【0021】
ワイピングシートの繊維の自由度を高め、毛髪等の汚れの捕集性を高くする観点から、ワイピングシートを構成する不織布からの繊維抜け落ち量が2mg以上であることが好ましく、3mg以上であることがより好ましく、5mg以上であることが更に好ましく、またその上限は50mg以下であることが好ましく、25mg以下であることがより好ましく、10mg以下であることが更に好ましい。具体的には、繊維抜け落ち量が2mg以上50mg以下であることが好ましく、3mg以上25mg以下であることがより好ましく、5mg以上10mg以下であることが更に好ましい。繊維抜け落ち量の測定方法は、後述する実施例にて詳述する。
【0022】
本明細書における「繊維抜け落ち量」とは、ワイピングシート内における繊維の自由度を示す値である。つまり、繊維抜け落ち量は、外力に対する繊維の動きやすさを定量的に示したものであり、繊維抜け落ち量が多いほど、繊維の自由度が高いことを意味する。繊維の抜け落ち量が上述の範囲の下限値未満であると、繊維間での摩擦や結合が強くなっているので、ワイピングシート自体の強度は高くなるが、繊維の自由度は低下し、汚れの捕集性が低下する。一方、繊維の抜け落ち量が上述の範囲の上限値を超えると、繊維間での摩擦や結合が弱くなっているので、繊維の自由度は高く、汚れの捕集性は高くなるものの、ワイピングシート自体の強度が低下する。このような範囲の繊維抜け落ち量は、例えば後述するワイピングシートの製造方法において、異形繊維の種類を適切に選択したり、水流交絡の条件を変更したりすることによって、適宜調整することができる。
【0023】
異形繊維の横断面を横切る線分のうち、最長の線分の長さをAとし、該線分と直交し且つ該横断面と横切る線分のうち最長の線分の長さをBとしたときに(図2(a)ないし(c)参照)、A/Bの値が1.2以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2以上であることが更に好ましく、またその上限は5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。具体的には、A/Bの値が1.2以上5以下であることが好ましく、1.5以上4以下であることがより好ましく、2以上3以下であることが更に好ましい。このような構成を有していることによって、ワイピングシートを構成する繊維が毛髪等の汚れに絡みやすく、且つこれらの汚れを該繊維に引っかけてワイピング対象面から除去することができる。
【0024】
上述の長さA及び長さBについて、図2(a)ないし(c)に示す形状以外の横断面形状について例を挙げると、繊維の横断面形状が正三角形である異形繊維では、長さAは正三角形の一辺の長さであり、長さBはある頂点から一辺に下ろした垂線の長さとなる。また、繊維の横断面形状が楕円である異形繊維では、長さAは楕円の長径であり、長さBは楕円の短径である。
【0025】
ワイピングシートに、横断面形状が異なる2種以上の異形繊維が含まれている場合、前記のA及びBは、すべての種類の異形繊維について測定したAの平均値及びBの平均値のことである。
【0026】
ワイピング時における操作性と汚れの捕集性とを兼ね備える観点から、長さAは、上述のA/Bの範囲を満たすことを条件として、1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましく、またその上限は80μm以下であることが好ましく、50μm以下であることが好ましく、25μm以下であることが好ましい。
【0027】
同様の観点から、長さBは、上述のA/Bの範囲を満たすことを条件として、0.2μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることが更に好ましく、またその上限は40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることが好ましい。
【0028】
図2(a)ないし(c)に示すように、異形繊維の横断面における輪郭線を周方向に沿って見たときに、複数の凸部Pと、隣り合う凸部P間に位置する凹部Rとを有する形状である場合、隣り合う凸部Pの頂点間を結ぶ線分の長さをCとし、その線分から凹部Rの最底位置に下した垂線の長さをDとしたときに(図2(a)ないし(c)参照)、C/Dの値が0.1以上であることが好ましく、1以上であることがより好ましく、2以上であることが更に好ましく、またその上限は5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましい。このような構成を有していることによって、繊維単体での表面積が増加し汚れとの接触面積が増えるため、汚れの捕集性を一層高めることができる。
【0029】
異形繊維の横断面を観察したとき、任意に選択した隣り合う凸部Pの頂点間を結ぶ線分の長さCが異なる場合、C/Dの値を算出するためのCの値はすべてのCの値の平均値とする。同様に、任意に選択した凹部Rにおける垂線の長さをDが異なる場合、C/Dの値を算出するためのDの値はすべてのDの値の平均値とする。以下の説明において、C及びDの値に言及する場合には、当該値はC及びDの平均値のことである。
【0030】
ワイピング時における操作性及び汚れの捕集効率を高める観点から、長さCは、上述のC/Dの範囲を満たすことを条件として、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることが更に好ましく、またその上限は20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることが好ましい。
【0031】
同様の観点から、長さDは、上述のC/Dの範囲を満たすことを条件として、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることが更に好ましく、またその上限は20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることが好ましい。
【0032】
上述の長さAないしDは、以下の測定方法によって測定することができる。すなわち、作製した不織布をかみそり等を用いて繊維の断面形状を維持した状態で切断した後、該断面をPtで真空蒸着した。走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-IT100)を用いて、Pt蒸着した不織布の断面を倍率500~1000倍で観察し、付属ソフトの長さ計測ツールを用いて繊維断面における上記長さAないしDをそれぞれ測定した。
【0033】
ワイピングシートの剛性及び強度を発現させる観点から、ワイピングシートを構成する不織布の坪量は、40g/m以上が好ましく、45g/m以上がより好ましく、50g/m以上が更に好ましく、またその上限は、140g/m以下が好ましく、100g/m以下がより好ましく、80g/m以下が更に好ましい。具体的には、ワイピングシートを構成する不織布の坪量は、40g/m以上140g/m以下が好ましく、45g/m以上100g/m以下がより好ましく、50g/m以上80g/m以下が更に好ましい。
【0034】
また同様の観点から、ワイピングシートの厚みは、40N/m荷重下において0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることが更に好ましく、またその上限は、同荷重下において2.5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることが更に好ましい。
【0035】
ワイピングシートは、ワイピング時において、不織布をそのまま(いわゆる乾式の態様)で使用してもよく、不織布に洗浄液を塗布、噴霧、担持又は含浸させた態様(いわゆる湿式の態様)で使用してもよい。これらの態様は、ワイピング対象面に付着している汚れの種類や、ワイピング対象物の物性に応じて選択することができる。ワイピング対象面における洗浄効率を高める観点からは、ワイピングシートを構成する不織布には洗浄液が担持されていることが好ましい。不織布には異形繊維が含まれているので、繊維間の空隙を大きくすることができ、その結果、ワイピングシート中の洗浄液の保液性が向上するという利点も奏される。
【0036】
ワイピング時において、ワイピングシートを湿式の態様で用いる場合、該シートに担持される洗浄液としては、水単独や、添加剤を含む水溶液など、湿式ワイピングシートに用いられる一般的な組成のものを用いることができる。洗浄液に用いられる添加剤としては、界面活性剤、殺菌剤、香料、芳香剤、消臭剤、pH調整剤、アルコール、研磨粒子などが挙げられる。
【0037】
異形繊維の繊維長は、繊維の製造方法によるが、一般に1mm以上100mm以下が好ましく、10mm以上90mm以下がより好ましく、20mm以上60mm以下が更に好ましい。
【0038】
以上は本発明のワイピングシートの一実施形態に関する説明であったところ、以下にワイピングシートの好適な製造方法を、図3を参照しながら説明する。図3には、ワイピングシートの製造に好適に用いられる製造装置10が示されている。製造装置10は、搬送方向(MD方向)に沿って、ウェブ形成部20と、水流交絡部30とをこの順で備えている。なお、以下に示す製造装置10の構成は、スパンレース法による不織布の一般的な製造装置と同様である。
【0039】
ウェブ形成部20は、異形繊維2のウェブを形成するものである。ウェブ形成部20は、ワイピングシートの原料である異形繊維2からウェブを形成するカード機21を備えている。カード機21によって形成された異形繊維2のウェブは、水流交絡部30へ搬送される。
【0040】
水流交絡部30は、異形繊維2のウェブを水流によって交絡させ、異形繊維2を含む不織布1Aを形成するものである。水流交絡部30は、異形繊維2のウェブに水流を吹き付ける水流ノズル31と、無端ベルトからなる支持ベルト32とを備えている。水流ノズル31は、異形繊維2のウェブ及び支持ベルト32の上方に位置しており、異形繊維2のウェブの幅方向(CD方向)全域にわたって高圧水流を吹き付けることができるようになっている。支持ベルト32は、水流ノズル31と対向して配されており、吹き付けられた水を透過させるために、格子状などの各種パターンで穴が空いた構造となっている(図示せず)。水流ノズル31からの水流の吹き付けによって交絡された異形繊維2を含む不織布1Aは、支持ベルト32によって下流の工程へ搬送される。
【0041】
特に、上述の引張強度及び繊維抜け落ち量を有する不織布は、水流交絡の条件を調整して製造することができる。具体的には、異形繊維2のウェブに対して、水流ノズル31から吹き付ける水圧を好ましくは30kg/cm以上80kg/cm以下、更に好ましくは40kg/cm以上60kg/cm以下とし、且つ異形繊維2のウェブのMD方向における搬送速度を好ましくは2m/min以上10m/min以下、更に好ましくは4m/min以上8m/min以下とすることで製造することができる。
【0042】
このような工程を経て、異形繊維2どうしが融着せずに交絡している不織布1Aを形成することができる。不織布1Aを形成した後、必要に応じて、ヒーター等を用いて不織布1Aを乾燥してもよい(図示せず)。
【0043】
最後に、製造された不織布1Aは、該不織布1Aをそのままで乾式のワイピングシート1としてもよく、該不織布1Aに更に洗浄液を担持させて、湿式のワイピングシート1とすることができる。
【0044】
このようにして製造されたワイピングシートは、該ワイピングシート単体で、又はワイパーなどの清掃用具に付着させて、床面、壁面等の建物、戸棚、窓ガラス、鏡、ドア、ドアノブ等の建具、ラグ、カーペット、机食卓等の家具、キッチン、トイレ、身体の清拭や、衛生用品、包装などにも使用できる。
【0045】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば本発明のワイピングシートは、先に述べたとおり、異形繊維を含む不織布のみから構成されていてもよく、あるいは該不織布に加えて他の層を有していてもよい。不織布と他の層とが積層されてワイピングシートが構成されている場合には、異形繊維を含む不織布が外方を向く面がワイピング面として供される。
【実施例
【0046】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0047】
〔実施例1〕
図1(a)に示すように、繊維の横断面の形状が三角形である異形繊維を用いて、水流交絡を行って不織布を製造した。水流交絡の条件は、水流ノズル31から吹き付けられる水圧を50kg/cmとし、異形繊維ウェブの搬送速度を5m/minとした。不織布の寸法を285mm×205mmに成形した後、そのままの状態(すなわち乾式の状態)として、目的とするワイピングシートとした。異形繊維の原料樹脂としてポリプロピレン(PP)を用いた。この異形繊維の繊度は1.45dtexであった。不織布の坪量は60g/mであった。
【0048】
〔実施例2〕
図1(b)に示すように、繊維の横断面の形状が星形六角形である異形繊維を用いて不織布を製造したほかは、実施例1と同様にワイピングシートを得た。この異形繊維の繊度は1.3dtexであった。不織布の坪量は60g/mであった。
【0049】
〔実施例3〕
図1(c)に示すように、繊維の横断面の形状が楕円形である異形繊維を用いて不織布を製造したほかは、実施例1と同様にワイピングシートを得た。この異形繊維の繊度は2.2dtexであった。不織布の坪量は60g/mであった。
【0050】
〔実施例4〕
図1(d)に示すように、繊維の横断面の形状がW形である異形繊維を用いて不織布を製造したほかは、実施例1と同様にワイピングシートを得た。この異形繊維の繊度は2.85dtexであった。不織布の坪量は60g/mであった。
【0051】
〔実施例5〕
図1(e)に示すように、繊維の横断面の形状が多葉形である異形繊維を用いて不織布を製造したほかは、実施例1と同様にワイピングシートを得た。この異形繊維の繊度は1.7dtexであった。不織布の坪量は60g/mであった。
【0052】
〔比較例1〕
繊維の横断面の形状が真円形である繊維を用いて不織布を製造したほかは、実施例1と同様にワイピングシートを得た。この繊維の繊度は1.45dtexであった。不織布の坪量は60g/mであった。
【0053】
〔比較例2〕
水流交絡の条件を水流ノズル31から吹き付けられる水圧を50kg/cmとし、異形繊維ウェブの搬送速度を1m/minとしたほかは、実施例5と同様にワイピングシートを得た。
【0054】
〔比較例3〕
繊維の原料としてパルプ及びポリエステル繊維を用いて、湿式スパンレース法によって製造した不織布を用いて、乾式のワイピングシートを得た。この繊維の繊度は2.5dtexであった。不織布の坪量は75g/mであった。
【0055】
〔比較例4〕
繊維ウェブの搬送速度を1m/minとして不織布を製造したほかは、比較例1と同様にワイピングシートを得た。この繊維の繊度は1.45dtexであった。不織布の坪量は60g/mであった。
【0056】
〔引張強度の測定〕
実施例及び比較例のワイピングシートについて、引張強度の測定を行った。詳細には、引張強度試験機(株式会社島津製作所社製、AG-IS 100N)を用いて、長さ150mm×幅30mmの試料を、スパン100mm、速度300mm/分で試料を引っ張ったときの、試料が破断するまでの最大荷重値(N)を測定した。搬送方向(MD方向)及びMD方向に直交する幅方向(CD方向)の引張強度(N/30mm)をそれぞれ6回測定し、引張強度の測定値の平均値及び標準偏差を算出した。結果を図4及び表1に示す。
【0057】
〔繊維抜け落ち量の測定〕
実施例及び比較例の不織布について、繊維抜け落ち量の測定を行った。詳細には、評価対象の不織布に5.5N/mの荷重を負荷した状態で、回転速度2.3m/sで回転する円形のウレタン発泡体に当接させて、1.5分間摩擦をかけた。その後、ウレタン発泡体に付着した繊維を粘着テープで捕集し、その繊維の質量(mg)を測定した。繊維抜け落ち量が多いほど、繊維の自由度が高いことを示す。結果を表1に示す。
【0058】
〔毛髪捕集性の評価〕
実施例及び比較例のワイピングシートについて、毛髪捕集性の評価を行った。詳細には、毛髪を10本散布したフローリング(コンビットニューアドバンス101、ウッドワン社製)をワイピング対象面として、0.16kN/mの圧力をかけて、0.27mの面積をワイピングを行い、そのときの毛髪捕集性を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
A:毛髪が70%以上捕集でき、捕集性は非常に良好であった。
B:毛髪が50%以上70%未満捕集でき、捕集性は良好であった。
C:毛髪が0%以上50%未満捕集でき、捕集性は不良であった。
【0059】
【表1】
【0060】
図4及び表1に示すように、異形繊維を用いた実施例1ないし5のワイピングシートは、異形繊維を用いていない比較例1のワイピングシートと比較して、MD方向及びCD方向の引張強度が高いものであることが判る。また表1に示すように、実施例1ないし5のワイピングシートは、比較例2及び比較例3のワイピングシートと比較して、繊維抜け落ち量が多く、すなわち繊維の自由度が高く、毛髪捕集性が高いものであることが判る。特に、同一の繊維を使用した実施例5と比較例2とを比較すると、水流交絡の条件を弱めることによって、シートの引張強度と毛髪捕集性とが両立できるシートを製造できることが判る。
【0061】
以上より、本発明のワイピングシートは、シートの使用時における強度と、シートの構成繊維の自由度の向上とを両立しており、ワイピング時の実使用に耐え、且つ毛髪等の汚れの捕集性を高めることができるものであることが判る。
【符号の説明】
【0062】
1 ワイピングシート
1A 不織布
2 異形繊維
10 製造装置
20 ウェブ形成部
30 水流交絡部
MD 搬送方向
図1
図2
図3
図4