(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】非水系二次電池用重合体組成物及び非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240628BHJP
C08F 265/04 20060101ALI20240628BHJP
C08K 5/46 20060101ALI20240628BHJP
C08L 51/00 20060101ALI20240628BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F265/04
C08K5/46
C08L51/00
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2019234381
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岩本 匡志
(72)【発明者】
【氏名】古谷 直美
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-098203(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005151(WO,A1)
【文献】特開2017-084475(JP,A)
【文献】特開2010-080221(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0006380(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
C08L 101/00
C08L 51/00
C08K 5/46
C08F 265/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体粒子を含む非水系二次電池用重合体組成物であって、
前記重合体粒子がコア部とシェル部からなるコアシェル構造を有し、
前記コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量%としたとき、前記コア部が40質量%以上80質量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸エステルを含み、かつ、前記シェル部が15質量%以上60質量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸又はそのアルカリ金属塩と、0質量%以上45質量%以下のN原子含有エチレン性不飽和単量体とを含み、
前記重合体粒子のヤング率が1.5GPa以下であり、
前記重合体粒子の弾性変形仕事率が50%以下であり、
前記重合体粒子の電解液膨潤度が1.5倍以下である、非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項2】
前記コア部のヤング率が0.1GPa以下である、請求項1に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項3】
前記シェル部の電解液膨潤度が1.10倍以下である、請求項
1又は2に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項4】
前記コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量部としたとき、0.1質量部以下のアルキレンオキサイド構造と、0.3質量部以下のスルホン酸又はその塩を含む、請求項
1~3のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項5】
前記コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量%としたとき、前記シェル部が15質量%以上30質量%以下のN原子含有エチレン性不飽和単量体を含む、請求項
1~4のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項6】
DSCにて測定される前記重合体粒子のガラス転移温度の最大値が20℃以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項7】
前記重合体粒子の平均粒子径が50nm以上800nm以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項8】
前記コアシェル構造におけるコア部の質量比が、0.4以上0.8以下である、請求項
1~7のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項9】
前記重合体粒子を100質量部に対して0.0001質量部以上1.0質量部以下のイソチアゾリン系化合物を更に含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の非水系二次電池用重合体組成物を含む、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用重合体組成物及び非水系二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池などの電気化学的デバイスに用いられる電極を製造する方法としては、電極活物質にバインダーや増粘剤等を添加した液状の組成物を、集電体表面に塗布して乾燥することによって、当該集電体の上に電極層を形成させる方法が挙げられる。ここで、集電体を構成する金属との接着力が高く、しかも、柔軟性が高い電極層を形成することができるバインダーとして、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックスが知られている。なお、バインダーは、活物質を含む電極層と、集電体又はセパレータとの密着性を向上させるために機能するものであるが、上記の共重合体ラテックスは、集電体又はセパレータとの密着性が不十分となる場合がある。上記密着性が十分でない場合、二次電池の充放電サイクル特性を損ねる傾向にある。
【0003】
上記に鑑み、特許文献1では、電解液に対して所定の膨潤度で膨潤しうる重合体により形成され、コア部及び当該コア部の外表面を部分的に覆うシェル部を備えるコアシェル構造を有する粒子状重合体をバインダーとして使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のバインダーによれば、電解液中において接着性に優れ、且つ低温出力特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られるとされている。一方、本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載されているコアシェル構造において、シェル部のバリア性が十分ではなく、結果として電解液中での膨潤抑制に依然として改善の余地があることが判明している。さらに、通常、電解液中での膨潤抑制と柔軟性の確保とはトレードオフの関係にあり、特許文献1に記載の技術によれば、これらの物性を高い水準で両立することは困難である。
【0006】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、良好なサイクル特性及び初期容量を発現できる非水系二次電池用重合体組成物及び非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究した結果、所定の物性を有する重合体粒子を用いることにより、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1]
重合体粒子を含む非水系二次電池用重合体組成物であって、
前記重合体粒子のヤング率が1.5GPa以下であり、
前記重合体粒子の弾性変形仕事率が50%以下であり、
前記重合体粒子の電解液膨潤度が1.5倍以下である、非水系二次電池用重合体組成物。
[2]
前記重合体粒子がコア部とシェル部からなるコアシェル構造を有し、
前記コア部のヤング率が0.1GPa以下である、[1]に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[3]
前記シェル部の電解液膨潤度が1.10倍以下である、[2]に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[4]
前記コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量%としたとき、前記コア部が40質量%以上80質量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸エステルを含み、かつ、前記シェル部が15質量%以上60質量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸又はそのアルカリ金属塩と、0質量%以上45質量%以下のN原子含有エチレン性不飽和単量体とを含み、
前記コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量部としたとき、0.1質量部以下のアルキレンオキサイド構造と、0.3質量部以下のスルホン酸又はその塩を含む、[2]又は[3]に記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[5]
前記コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量%としたとき、前記シェル部が15質量%以上30質量%以下のN原子含有エチレン性不飽和単量体を含む、[2]~[4]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[6]
DSCにて測定される前記重合体粒子のガラス転移温度の最大値が20℃以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[7]
前記重合体粒子の平均粒子径が50nm以上800nm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[8]
前記コアシェル構造におけるコア部の質量比が、0.4以上0.8以下である、[2]~[7]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[9]
前記重合体粒子を100質量部に対して0.0001質量部以上1.0質量部以下のイソチアゾリン系化合物を更に含む、[1]~[8]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物。
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載の非水系二次電池用重合体組成物を含む、非水系二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好なサイクル特性及び初期容量を発現できる非水系二次電池用重合体組成物及び非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[非水系二次電池用重合体組成物]
本実施形態の非水系二次電池用重合体組成物(以下、「本実施形態の組成物」ともいう。)は、重合体粒子を含む非水系二次電池用重合体組成物であって、前記重合体粒子のヤング率が1.5GPa以下であり、前記重合体粒子の弾性変形仕事率が50%以下であり、前記重合体粒子の電解液膨潤度が1.5倍以下である。このように構成されているため、本実施形態の組成物は、取り扱い性に優れると共に良好な電池特性を発現できる。
【0012】
(重合体粒子の物性)
本実施形態における重合体粒子は、ヤング率が1.5GPa以下となっている。ここで、ヤング率は、重合体粒子の柔軟性を評価する指標となり、その値が1.5GPa以下であることにより、柔軟性に優れるものとなる。かかる観点から、ヤング率は1.3GPa以下であることが好ましく、より好ましくは1.0GPa以下である。
ヤング率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、重合体粒子の構成成分として後述する好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、ヤング率を上記範囲に調整できる。
【0013】
本実施形態における重合体粒子は、弾性変形仕事率が50%以下となっている。ここで、弾性変形仕事率は、重合体粒子の変形に対する回復能を評価する指標となり、その値が50%以下であることにより、応力緩和に寄与する。かかる観点から、弾性変形仕事率は45%以下であることが好ましく、より好ましくは40%以下である。
弾性変形仕事率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、重合体粒子の構成成分として後述する好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、弾性変形仕事率を上記範囲に調整できる。
【0014】
本実施形態における重合体粒子は、電解液膨潤度が1.5倍以下となっている。ここで、電解液膨潤度は、重合体粒子の電解液への耐性を評価する指標となり、その値が1.5倍以下であることにより、電解液中においても集電体やセパレーターとの密着力を維持できる。かかる観点から、電解液膨潤度は1.3倍以下であることが好ましく、より好ましくは1.2倍以下である。
電解液膨潤度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、重合体粒子の構成成分として後述する好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、電解液膨潤度を上記範囲に調整できる。
【0015】
上述のとおり、本実施形態における重合体粒子は、ヤング率、弾性変形仕事率及び電解液膨潤度が所定の範囲を満たすため、従来トレードオフの関係にあった電解液中での膨潤抑制と柔軟性の確保とを両立することができ、したがって本実施形態の組成物は取り扱い性に優れると共に良好な電池特性を発現できる。
【0016】
本実施形態における重合体粒子は、コア部とシェル部とを含むコアシェル構造を有することが好ましい。このような構造を有することにより、本実施形態における重合体粒子は、本実施形態において所望とされる物性を確保しやすくなる。
【0017】
本実施形態において、重合体粒子の柔軟性をより良好にする観点から、コア部のヤング率が0.1GPa以下であることが好ましく、より好ましくは0.07GPa以下であり、さらに好ましくは0.04GPa以下である。
上記のとおり、本実施形態における重合体粒子のコア部において、ヤング率が所定の範囲を満たす場合、応力緩和により優れる傾向にある。
コア部のヤング率は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、重合体粒子の構成成分として後述する好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、コア部のヤング率を上記範囲に調整できる。
【0018】
本実施形態において、電解液への耐性をより良好にする観点から、シェル部の電解液膨潤度が1.10倍以下であることが好ましく、より好ましくは1.05倍以下であり、さらに好ましくは1.01倍以下である。
シェル部の電解液膨潤度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、重合体粒子の構成成分として後述する好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、シェル部の電解液膨潤度を上記範囲に調整できる。
【0019】
本実施形態における重合体粒子は、柔軟性をより高める観点から、DSCにて測定される前記重合体粒子のガラス転移温度の最大値が20℃以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以下であり、さらに好ましくは0℃以下である。
また、本実施形態において、重合体粒子の柔軟性をより高める観点から、コア部のガラス転移温度の最大値は、20℃以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以下であり、さらに好ましくは0℃以下である。
また、本実施形態において、高温下における信頼性向上の観点から、シェル部のガラス転移温度の最小値は、200℃以上であることが好ましく、より好ましくは250℃以上であり、さらに好ましくは300℃以上である。
上記した各ガラス転移温度は、後述する実施例に記載の方法により測定することができ、重合体粒子の構成成分として後述する好ましい単量体成分を好ましい量含むこと等により、各々上記範囲に調整できる。
【0020】
本実施形態における重合体粒子は、より応力緩和に寄与する観点から、平均粒子径が50nm以上800nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以上700nm以下であり、さらに好ましくは200nm以上600nm以下である。
上記した平均粒子径は、後述する実施例に記載の方法により測定することができ、重合体粒子の構成成分の単量体組成比、重合温度、乳化剤等により、各々上記範囲に調整できる。
【0021】
本実施形態におけるコアシェル構造に関し、電解液中での膨潤抑制と柔軟性とのバランスをより良好にする観点から、コア部の質量比が、0.40以上0.80以下であることが好ましく、より好ましくは0.45以上0.75以下であり、さらに好ましくは0.50以上0.70以下である。
上記した質量比は、後述する実施例に記載の方法により測定することができ、重合体粒子の単量体成分の配合比等により、各々上記範囲に調整できる。
【0022】
(重合体粒子の組成)
本実施形態における重合体粒子は、ヤング率、弾性変形仕事率及び電解液膨潤度を好ましい範囲に調整する観点から、前記コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量%としたとき、前記コア部が40質量%以上80質量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸エステルを含み、かつ、前記シェル部が15質量%以上60質量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸又はそのアルカリ金属塩と、0質量%以上45質量%以下のN原子含有エチレン性不飽和単量体とを含み、前記コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量部としたとき、0.1質量部以下のアルキレンオキサイド構造と、0.3質量部以下のスルホン酸又はその塩を含むことが好ましい。
各単位の含有量については、重合体粒子を常法により分析して特定することもできるが、各単量体の仕込み比として特定することもできる。
以下、各単位の含有量について詳細に説明する。
【0023】
本実施形態において、より応力緩和に寄与する観点から、コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量%としたとき、コア部が40質量%以上80質量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸エステルを含むことが好ましく、より好ましくは45質量%以上75質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以上70質量%以下である。
【0024】
本実施形態において、電解液中での膨潤をより抑制する観点、サイクル特性を良好とする観点、及び他部材との密着性をより高める観点から、コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量%としたとき、シェル部が15質量%以上60質量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸又はそのアルカリ金属塩を含むことが好ましく、より好ましくは18質量%以上50質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上40質量%以下である。
【0025】
本実施形態において、電解液中での膨潤をより抑制する観点、及びサイクル特性を良好とする観点から、コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量%としたとき、シェル部が0質量%以上45質量%以下のN原子含有エチレン性不飽和単量体を含むことが好ましく、より好ましくは10質量%以上30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以上25質量%以下である。
【0026】
本実施形態において、脱泡性を高め、より取り扱い性に優れる組成物とする観点から、コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量部としたとき、アルキレンオキサイド構造の含有量が0.1質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.08質量部以下であり、さらに好ましくは0.05質量部以下である。アルキレンオキサイド構造の含有量としては、少ない方が好ましく、特に下限値は限定されないが、例えば、0.02質量部含んでいてもよく、0.01質量部含んでいてもよい。同様の観点から、コアシェル構造を構成する全エチレン性単量体を100質量部としたとき、スルホン酸又はその塩の含有量が0.3質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量部以下であり、さらに好ましくは0.1質量部以下である。スルホン酸又はその塩の含有量としては、少ない方が好ましく、特に下限値は限定されないが、例えば、0.05質量部含んでいてもよく、0.03質量部含んでいてもよい。
【0027】
本実施形態における重合体粒子を構成する単量体(原料モノマー)としては、特に限定されないが、例えば、エチレン性不飽和カルボン酸エステル、エチレン性不飽和カルボン酸又はそのアルカリ金属塩、N原子含有エチレン性不飽和単量体、及びこれらと共重合可能な単量体が挙げられ、これらはコア部及びシェル部のいずれにおいて存在していてもよいが、上述したように、コア部を構成する原料モノマーとしてエチレン性不飽和カルボン酸エステルを用い、シェル部を構成する原料モノマーとしてエチレン性不飽和カルボン酸又はそのアルカリ金属塩及びN原子含有エチレン性不飽和単量体を用いることが好ましい。
【0028】
エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、i-アミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i-ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記した中でも、柔軟性の観点から、ホモポリマーとした際にガラス転移温度が20℃以下のエチレン性不飽和カルボン酸エステルを用いることが好ましく、また、弾性変形仕事率を好ましい範囲に調整する観点からは単官能性のエチレン性不飽和カルボン酸エステルを用いることが好ましい。本実施形態においては、さらに重合体粒子の安定性を考慮すると、エチルアクリレートがとりわけ好ましい。
【0029】
エチレン性不飽和カルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等を挙げられる。これらは1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記した中でも、重合体粒子の安定性の観点から、メタクリル酸が好ましい。
【0030】
N原子含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、グリシジルメタクリルアミド、N,N-ブトキシメチルアクリルアミド等が挙げられる。これらは1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記した中でも、重合体粒子の安定性の観点から、アクリルアミド及びメタクリルアミドが好ましい。
【0031】
上述した単量体と共重合可能な単量体としては、特に限定されないが、例えば、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物等が挙げられる。
芳香族ビニル化合物としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられ、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
シアン化ビニル系化合物としては、特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル等が挙げられ、これらの単量体を1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
(用途)
本実施形態の組成物は、その用途に応じ、本実施形態における重合体粒子の他、種々公知の任意成分を含むことができる。本実施形態の組成物の用途としては、非水系二次電池の一材料として使用されるものであれば特に限定されず、負極用材料、正極用材料及びセパレータ用材料等として用いることができるが、負極用材料として用いることがとりわけ好ましい。
【0033】
以下、本実施形態の組成物を、負極、正極又はセパレータの製造用に用いる場合は特に「電池材料製造用組成物」と称するものとする。ここで、電池材料製造用組成物により負極を製造する場合、電池材料製造用組成物は、本実施形態における重合体粒子と、負極活物質と、必要に応じて任意成分とを含むものとすることができる。また、電池材料製造用組成物により正極を製造する場合、電池材料製造用組成物は、本実施形態における重合体粒子と、正極活物質と、必要に応じて任意成分とを含むものとすることができる。さらに、電池材料製造用組成物によりセパレータを製造する場合、電池材料製造用組成物は、本実施形態における重合体粒子と、セパレータ原料と、必要に応じて任意成分とを含むものとすることができる。
一方、本実施形態の組成物が、負極活物質、正極活物質及びセパレータ原料のいずれも含まない場合、電池材料製造用の添加剤として適用することができる。すなわち、本実施形態の組成物をバインダー用途に用いる場合は「バインダー用組成物」と、増粘剤用途に用いる場合は「増粘剤用組成物」と、それぞれ称するものとする。
上記のとおり、「本実施形態の組成物」との用語は、「電池材料製造用組成物」、「バインダー用組成物」及び「増粘剤用組成物」を包含するものということができ、いずれの用途においても、本実施形態における重合体粒子が含まれているという点において共通する。また、いずれの用途においても、本実施形態の組成物が任意成分を含む場合、その種類や配合割合等は特に限定されず、用途に応じて適宜決定すればよい。
【0034】
電池材料製造用組成物により負極を製造する場合、用いうる負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、炭素系活物質やシリコン系活物質が挙げられる。
炭素系活物質としては、特に限定されないが、例えば、黒鉛、炭素繊維、コークス、ハードカーボン、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、導電性高分子(ポリ-p-フェニレン等)等が挙げられる。
シリコン系活物質としては、特に限定されないが、例えば、ケイ素、SiOx(0.01≦x<2)、ケイ素と遷移金属との合金等が挙げられる。
【0035】
電池材料製造用組成物により正極を製造する場合、用いうる正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、リチウム含有複合酸化物や遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、遷移金属硫化物等が挙げられる。
リチウム含有複合酸化物としては、特に限定されないが、例えば、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiXCoYSnZO2、LiFePO4、LiXCoYSnZO2等が挙げられる。
遷移金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、MnO2、MoO3、V2O5、V6O13、Fe2O3、Fe3O4等が挙げられる。
遷移金属フッ化物としては、特に限定されないが、例えば、CuF2、NiF2等が挙げられる。
遷移金属硫化物としては、特に限定されないが、例えば、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2等が挙げられる。
【0036】
本実施形態において、バインダー用組成物は、本実施形態における重合体粒子と、当該重合体粒子100質量部に対して0.0001質量部以上1.0質量部以下のイソチアゾリン系化合物とを含むことが好ましい。上記範囲を満たす場合、せん断力に対するヒステリシスな粘度挙動を抑制でき、より安定した塗工性を発現できる傾向にある。イソチアゾリン系化合物としては、特に限定されず、種々公知のものを採用でき、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-シクロヘキシル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-t-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、N-n-ブチル-1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-ブチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-メチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-エチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-プロピルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-イソブチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-ペンチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-イソペンチルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-ヘキシルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-アリルベンゾイソチアゾリン-3-オン、N-(2-ブテニル)ベンゾイソチアゾリン-3-オン等が挙げられる。これらの中でも、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンが好ましい。
その他、本実施形態のバインダー用組成物は、任意成分として消泡剤を含むことができる。
消泡剤としては、ミネラルオイル系、シリコーン系、アクリル系、ポリエーテル系の各種消泡剤が挙げられる。消泡剤を含む場合、より脱泡性に優れる傾向にある。
この場合において、任意成分の種類や配合割合等は特に限定されない。
【0037】
(非水系二次電池用重合体組成物の製造方法)
本実施形態の組成物を製造するための方法としては、特に限定されないが、次の製造方法(以下、「本実施形態の製法」ともいう。)にて好ましく製造することができる。すなわち、コアシェル構造を有する重合体粒子を含む組成物を得るべく、上述した原料モノマー等を用いて乳化重合を行う方法が好ましい。重合時には適当なシード粒子を用いることができ、シード粒子も通常の乳化重合により得ることができる。また、乳化重合に際しては公知の方法を採用することができ、水性媒体中で重合開始剤、分子量調整剤、キレート化剤、pH調整剤、乳化剤等を適宜用いて製造することができる。
【0038】
乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、反応性界面活性剤などを単独で、あるいは2種以上を併用して使用できる。
【0039】
アニオン界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの硫酸塩エステルなどが挙げられる。
【0040】
ノニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型などが用いられる。
【0041】
両性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ラウリルベタイン、ステアリルベタインなどのベタイン類、ラウリル-β-アラニン、ステアリル-β-アラニン、ラウリルジ(アミノエチル)グリシンなどのアミノ酸タイプのものなどが用いられる。
【0042】
反応性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル、α-〔1-〔(アリルオキシ)メチル〕-2-(ノニルフェノキシ)エチル〕-ω-ヒドロキシポリオキシエチレンなどが挙げられる。
【0043】
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性重合開始剤、過酸化ベンゾイル、ラウリルパーオキサイドなどの油溶性重合開始剤、還元剤との組み合わせによるレドックス系重合開始剤などを、単独であるいは組み合わせて使用できる。
【0044】
本実施形態の製法において、攪拌速度、重合温度、反応(重合)時間等の条件は、本実施形態の組成物が得られる限り、特に限定されない。典型的には、攪拌速度は通常50rpm以上500rpm以下とすることができ、重合温度は通常50℃以上100℃以下とすることができ、反応時間は通常3時間以上72時間以下とすることができる。
【0045】
本実施形態の製法においては、上記のようにして重合体粒子を得た後、必要に応じて、当該重合体粒子を分散媒に分散させ、任意成分を加えることにより、本実施形態の組成物を得ることができる。分散媒としては水を用いることができ、また、必要に応じて活物質に適した有機系溶媒を用いることもできる。
【0046】
(非水系二次電池)
本実施形態の非水系二次電池は、本実施形態の組成物を用いて製造することができる。換言すると、本実施形態の非水系二次電池は、本実施形態の組成物を含むものである。
本実施形態の非水系二次電池がリチウムイオン二次電池である場合、その典型的な構成部材としては、負極、負極集電体、正極、正極集電体、セパレータ及び電解液を挙げることができ、本実施形態の非水系二次電池は、その主要部材(負極、正極及びセパレータ)の少なくとも1つが本実施形態の組成物を用いて得られたもの、すなわち、その主要部材の少なくとも1つが、本実施形態の組成物を含むものであればよい。
各部材が本実施形態の組成物を含むことについては、本実施形態における重合体粒子が当該部材に含まれているか否かにより特定することができる。
【0047】
本実施形態の非水系二次電池の製造方法としては、特に限定されないが、リチウムイオン二次電池を例にすると、本実施形態の組成物を、集電体に塗布し、加熱し、乾燥することによって対応する電極を形成し、セパレータを介して正極及び負極を対向させ、電解液を注入して密封すること等が挙げられる。負極集電体としては、特に限定されないが、例えば、銅箔が用いられ、正極集電体としては、特に限定されないが、例えば、アルミ箔が用いられる。電解液としては、特に限定されないが、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6等の電解質を有機溶媒に溶解したものを使用できる。有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エーテル類、ケトン類、ラクトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、カーボネート類、塩素化炭化水素類などが挙げられ、代表例としてはテトラヒドロフラン、アセトニトリル、ブチロニトリル、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等を挙げることができ、1種類または2種類以上の混合物として使用される。
【0048】
塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、リバースロールコーター、コンマバーコーター、グラビヤコーター、エア-ナイフコーターなど任意のコーターヘッドを用いることができる。乾燥方法としても、特に限定されず、例えば、放置乾燥、送風乾燥、温風乾燥、赤外線加熱機、遠赤外過熱機などが使用できる。乾燥温度は、特に限定されないが、例えば、60℃~150℃で行うことができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、説明の便宜上、以下の実施例では「組成物」や「塗工液」といった文言を使用するが、いずれも本実施形態の組成物に包含される概念である。
【0050】
[実施例1]
反応器に、イオン交換水を加え、撹拌しながら65℃に昇温して保持した。ここへ、重合開始剤として過硫酸ナトリウム(以下、「NPS」ともいう。)を加えた後に、単量体(以下、「モノマー」ともいう。)成分として、メタクリル酸(以下、「MAA」ともいう。)及びメタクリルアミド(以下、「MAAm」ともいう。)をイオン交換水に溶解させた溶液と、10%水酸化ナトリウム水溶液とを滴下し、温度65℃に保ちながら2時間で滴下を終了した後、1時間重合を継続させた。次いで、エチルアクリレート(以下、「EA」ともいう。)を滴下し、1時間重合を継続させた。このときの各成分の配合量としては、単量体成分の合計(全エチレン性不飽和単量体に由来する単位:EA、MAA、MAAm)を100質量部としたとき、EAは80質量部、MAAは10質量部、MAAmは10質量部となるように配合し、イオン交換水の配合量は830質量部であった。
その後、温度を65℃から80℃へ昇温し、1.5時間保持して重合を完結させた。
次いで、得られた重合体粒子100質量部に対し、添加剤として2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン0.0005質量部を加えた後に、200μmメッシュを用いて濾過を行った。
得られた組成物は、重合率が98%、pH7、固形分(重合体粒子)が9.8%であった。なお、重合率は、全仕込み成分量に対する残渣量の比率に固形分率を加えて算出した。この組成物を用い、次のとおり二次電池負極を作成した。具体的には以下のように作製した。
【0051】
<二次電池負極用塗工液の作製>
得られた組成物1.5固形分質量部に対して、更に増粘剤成分としてカルボキシメチルセルロース1.0固形分質量部と、さらに負極活物質として天然黒鉛100質量部を加え、そこへイオン交換水を添加し、メカニカルスターラーで攪拌して総固形分が60%になるように調製した。これをプレミックスとし、その後、薄膜旋回型高速ミキサー(PRIMIX社製、T.K.フィルミックス FM56-L型(製品名)」)を用いて周速20m/秒にて30秒分散し、二次電池負極用の塗工液とした。
【0052】
<二次電池負極の作製>
上記塗工液を用いて、乾燥後の厚みが100μmになるように銅箔の片面にダイコーターで塗布した後、60℃で60分乾燥した。120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。負極活物質塗布量は106g/m2、負極活物質嵩密度は1.35g/cm3になるようにした。
【0053】
上記のようにして得られた組成物及び二次電池負極を用い、後述する各種物性評価に供した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2~10及び比較例1~2]
各例において、モノマー及び2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの配合量を表1に示すとおりに変更した。
実施例5では、コアを構成するモノマーとして、EAを添加するタイミングでMAAも表1に示す配合量にて添加した。
実施例6では、シェルを構成するモノマーとして、MAA及びMAAmを添加するタイミングでオキシエチレンジアクリレートも表1に示す配合量にて添加した。
実施例8では、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを添加しなかった。
比較例1では、コアを構成するモノマーとして、EAを添加するタイミングでメタクリル酸メチル(以下、「MMA」ともいう。)も表1に示す配合量にて添加した。
上記した点を除き、実施例1と同様にして、実施例2~10及び比較例1~2の組成物を調製し、二次電池負極を作成した。
上記のようにして得られた組成物及び二次電池負極を用い、後述する各種物性評価に供した。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例3]
比較例3では、特許文献1(特許第6436078号公報)の実施例I-5を参考に、次のとおりに組成物を調製し、二次電池負極を作成した。
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、コア部の製造に用いるモノマー成分として、MMA55質量部、2-エチルヘキシルアクリレート(以下、「2-EHA」ともいう。)20質量部、MAA4質量部及びエチレンジメタクリレート(以下、「EDMA」ともいう。)1質量部;乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1質量部;イオン交換水150質量部並びに、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5質量部を入れ、十分に攪拌した。その後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になるまで重合を継続させることにより、コア部を構成する粒子状の重合体を含む水分散液を得た。
次いで、この水分散液を70℃に加温した。前記水分散液に、シェル部の製造に用いるモノマーとしてスチレン20質量部を30分かけて連続で供給し、重合を継続した。重合転化率が96%になった時点で冷却して反応を停止することにより、重合体粒子を含む組成物を製造した。
上記のようにして得られた組成物を用いた点を除き、実施例1と同様にして二次電池負極を用い、後述する各種物性評価に供した。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例4]
比較例4では、特許文献1(特許第6436078号公報)の比較例I-4を参考に、次のとおりに組成物を調製し、二次電池負極を作成した。
コア部の製造に用いるモノマー成分として、2-EHA60質量部、MAA5質量部、及びスチレン15質量部を用いたこと以外は、比較例3と同様にして、重合体粒子を含む組成物を製造した。
上記のようにして得られた組成物を用いた点を除き、実施例1と同様にして二次電池負極を用い、後述する各種物性評価に供した。結果を表1に示す。
【0057】
(平均粒子径)
重合体粒子の平均粒子径を、粒子径測定装置(日機装株式会社製、Microtrac UPA150)を使用して測定した。測定条件としては、ローディングインデックス=0.15~0.3、測定時間300秒とし、得られたデータにおける50%粒子径の数値を動的光散乱法による平均粒子径とした。
【0058】
(コアシェル比及びシェル厚み)
次式により算出した。
コアシェル比=コアの体積/重合体粒子の体積×100
なお、重合体粒子の体積は上記平均粒子径から算出した。また、コアの体積は透過型電子顕微鏡観察の結果より見積もられるシェル厚みと平均粒子径から以下のように算出した。
コアの体積={4π×(平均粒子径/2-シェルの厚み)^3}/3
上式のシェル厚みは透過型電子顕微鏡を用いて観察した。具体的な手法を以下に示す。
重合体粒子を、熱硬化性樹脂に十分分散させた後、包埋し、重合体粒子を含有するブロック片を作製した。次に、ブロック片を、ダイヤモンド刃を備えたミクロトームで厚さ100nmの薄片状に切り出して、測定用試料を作製した。その後、四酸化ルテニウムを用いて測定用試料に染色処理を施した。
次に、染色した測定用試料を、透過型電子顕微鏡にセットして、加速電圧80kVにて、重合体粒子の断面構造を写真撮影した。電子顕微鏡の倍率、視野に粒子状重合体1個の断面が入るように倍率を設定した。
観察された重合体粒子の断面構造から、シェル部を構成する重合体の粒子の最長径を測定した。任意に選択した20個の重合体粒子について、前記の方法でシェル部を構成する重合体の粒子の最長径を測定し、その最長径の平均値をシェルの厚みとした。
【0059】
(電解液膨潤度)
重合体粒子を含む組成物を130℃のオーブン中に1時間静置して乾燥させた。乾燥させて得られた重合体粒子の膜を0.5gになるように切り取った。切り取ったサンプルを、エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:1(質量比)の混合溶媒10gと一緒に50mLのバイアル瓶に入れ、60℃で1日混合溶媒を浸透させた後、サンプルを取り出し、上記混合溶媒にて洗浄し、質量(Wa:g)を測定した。その後、サンプルを150℃のオーブン中に1時間静置してから、質量を測定し(Wb:g)、下記式より共重合体の電解液に対する膨潤度を算出した。
重合体粒子の電解液に対する膨潤度(倍)=(Wa-Wb)/(Wb)
なお、シェル部の電解液膨潤度については、次のように算出した。
実施例1~5、実施例7~10、及び比較例1~3については、以下の方法でシェル部に対応するポリマーを作成し、当該ポリマーを用いて上記と同様に製膜し、評価を行った。
反応器に、イオン交換水を加え、撹拌しながら65℃に昇温して保持した。ここへ、重合開始剤としてNPSを加えた後に、モノマー成分として、MAA及びMAAmをイオン交換水に溶解させた溶液と、10%水酸化ナトリウム水溶液とを滴下し、温度65℃に保ちながら2時間で滴下を終了した後、1時間重合を継続させた。
このときの各成分の配合量としては、単量体成分の合計(全エチレン性不飽和単量体に由来する単位:MAA、MAAm)を100質量部としたとき、MAAは50質量部、MAAmは50質量部となるように配合し、イオン交換水の配合量は830質量部であった。
その後、温度を65℃から80℃へ昇温し、1.5時間保持して重合を完結させた。
実施例6では、上記ポリマーの製造方法にてモノマーとして、MAA及びMAAmを添加するタイミングでさらにオキシエチレンジアクリレートを20質量部添加した。
比較例4及び5は市販のポリスチレンを酢酸エチルに溶解したものを準備した。
【0060】
(ヤング率)
平滑なアルミ板上に横30mm×縦100mm×高さ10mmの型枠を設置した。そこに固形分5%に調整した重合体粒子を含む組成物(水分散液)を12g流し込んだ。これを室温で24時間乾燥させたのち、100℃で1時間乾燥させることで200μm厚のフィルムを得た。微小硬度計を用いて、当該フィルムに対して探針を荷重負荷30mN/20sにて押し込んだ後、5s保持した。さらに荷重増加と同条件にて除荷し押し込み深さを評価した。得られた荷重変位曲線よりヤング率を算出した。
なお、コア部のヤング率については、次のように算出した。
実施例1~4、実施例6~10、及び比較例2は以下の方法でコア部に対応するポリマーを作成し、当該ポリマーを用いて200μm厚に調整したフィルムを製造し、当該フィルムを用いて上記と同様に評価を行った。
反応器に、イオン交換水を加え、撹拌しながら65℃に昇温して保持した。ここへ、重合開始剤としてNPSを加えた後に、EAを滴下し、1時間重合を行った。このときのEAの配合量としては、EA配合量を100質量部としたとき、イオン交換水の配合量は830質量部であった。
その後、温度を65℃から80℃へ昇温し、1.5時間保持して重合を完結させた。
実施例5では、モノマーとして、EAを添加するタイミングでMAA50質量部を添加した。
比較例1では、モノマーとして、EAを添加するタイミングでMMA100質量部を添加した。
比較例3では、EA100質量部の代わりに、2-EHA20質量部、MMA55質量部、MAA4質量部及びEDMA1質量部を添加した。
比較例4では、EA100質量部の代わりに、2-EHA60質量部、MAA5質量部及びスチレン15質量部を添加した。
【0061】
(弾性変形仕事率)
平滑なアルミ板上に横30mm×縦100mm×高さ10mmの型枠を設置した。そこに固形分5%に調整した重合体粒子を含む組成物(水分散液)を12g流し込んだ。これを室温で24時間乾燥させたのち、100℃で1時間乾燥させることで200μm厚のフィルムを得た。微小硬度計を用いて、当該フィルムに対して探針を荷重負荷30mN/20sにて押し込んだ後、5s保持した。さらに荷重増加と同条件にて除荷し押し込み深さを評価した。得られた荷重変位曲線より弾性変形仕事率を算出した。
【0062】
(ガラス転移温度)
重合体粒子を含む組成物をpH7.0に調整し、130℃で30分乾燥し、乾燥物を得た。示差走査熱量測定(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製;DSC6220)を使用し、ASTM法(D3418-97)に従い、温度-50℃から+200℃まで、20℃/minの速度で昇温し、重合体粒子の示差走査熱量曲線を得て、付属のソフトウエアでガラス転移温度を求めた。ガラス転移温度が1つあるいは2つ以上であるかないかはソフトウエアの判定によってピークを求めて決めた。
なお、コア部のガラス転移温度は、上記(ヤング率)の項にて記載した方法にて得られるコア部に対応するポリマーを用いたことを除き、上記と同様に測定した。
また、シェル部のガラス転移温度は、上記(電解液膨潤度)の項にて記載した方法にて得られるシェル部に対応するポリマーを用いたことを除き、上記と同様に測定した。
【0063】
(ピール強度)
得られた二次電池負極から幅2cm×長さ12cmの試験片を切り出し、この試験片の集電体側の表面を両面テープでアルミ板に貼り付けた。JIS Z 1522に準拠し、試験片の電極層側に幅18mmのテープ(商品名「セロテープ(登録商標)」(ニチバン社製))を貼り付け、180°方向に100mm/minの速度でテープを剥離したときの強度を6回測定し、その平均値(N/18mm)をピール強度(電解液浸漬前)として算出した。次いで、二次電池負極から幅2cm×長さ12cmの試験片を別途切り出し、この試験片をエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/2(体積比)の混合溶媒に80℃で1週間浸した。その後、80℃で試験片を1日乾燥させたものを用い、上記と同様にしてピール強度(電解液浸漬後)を測定した。これらの値が大きいほど集電体と電極層の接着強度が高く、集電体から電極層が剥離しがたいと評価でき、具体的には、以下の基準に基づきピール強度を評価した。
◎:40N/m以上
〇:30N/m以上40N/m未満
△:20N/m以上30N/m未満
×:20N/m未満
【0064】
(スプリングバック)
(二次電池負極の作製)の項で記載した方法により得られた直後の二次電池負極(負極活物質嵩密度1.35g/cm3)の厚みと1日放置した後の厚みを測定して、その差分をスプリングバックとし、以下の基準に基づき評価した。
◎:5μm未満
〇:5μm以上10μm未満
△:10μm以上15μm未満
×:15μm以上
【0065】
(リバウンド性)
得られた二次電池負極をプレスして1日放置した後の厚みから、後述する電解液を注入し充放電を100サイクル繰り返した後の電極層の厚みを測定した。
リバウンド性=(充放電100サイクル後の電極層の厚み)ー(プレスして1日放置した後の厚み)
以下の基準に基づき評価した。
◎:10μm未満
〇:10μm以上15μm未満
△:15μm以上20μm未満
×:20μm以上
【0066】
(初期容量、温度サイクル試験及びサイクル特性)
二次電池負極を使用し、次の方法にて製造した二次電池に関して、60℃で2Cの定電流定電圧充電法にて、4.2Vになるまで定電流で充電し、その後、定電圧で充電し、次いで、2Cの定電流で3.0Vまで放電する充放電サイクルを行った。サイクル試験は100サイクルまで行い、初期放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比を容量維持率とし、下記基準で判定した。この値が大きいほど繰り返し充放電による容量減が少ないことを示す。
◎:容量維持率が90%以上
〇:容量維持率が80%以上、90%未満
△:容量維持率が70%以上、80%未満
×:容量維持率が70%未満
【0067】
<二次電池の作製>
二次電池正極及び負極を円形に打抜き、当該正極と負極との活物質面が対向するよう、正極、セパレータ及び負極の順に積層した後に、蓋付きステンレス金属製容器に収納した。この容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミニウム箔と、それぞれ接するように配置した。そして、この容器内に電解液を注入して密閉し、その状態で室温にて1日放置して二次電池を作製した。
ここで使用した上記電解液には、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/Lとなるように溶解させることにより調製したものを使用した。
また、上記セパレータには、ポリエチレン多孔膜製のものを使用し、上記二次電池負極には、上記実施例1~10及び比較例1~5で得られた二次電池負極を使用した。
さらに、上記二次電池正極には、以下のようにして作製されたものを使用した。
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)92.2質量%、導電材としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックそれぞれ2.3質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%を、N-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形した。この時、正極の活物質塗布量は250g/m2、活物質嵩密度は3.00g/cm3になるようにした。このようにして得られた電極を二次電池正極として使用した。
【0068】