(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの測定装置、測定方法及び検出装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20240628BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240628BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240628BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240628BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
G01R31/367
H01M10/48 P
H01M10/44 Q
H02J7/00 Q
H02J7/10 H
(21)【出願番号】P 2020006179
(22)【出願日】2020-01-17
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 哲哉
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/013898(WO,A1)
【文献】特開2005-045950(JP,A)
【文献】特開2012-141166(JP,A)
【文献】特開2016-122531(JP,A)
【文献】特開2019-113469(JP,A)
【文献】特開2008-123961(JP,A)
【文献】特開2013-055849(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129032(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/48
H01M 10/44
H02J 7/00
H02J 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極に接続される内部抵抗と前記内部抵抗及び負極間に接続される蓄電部と前記蓄電部に並列接続されて前記正極及び前記負極を開放した状態で流れる電流である自己放電電流が流れる放電抵抗とを有する等価回路で表される蓄電デバイス
の測定装置であって、
前記蓄電デバイスの開放電圧の
時間的変動を
示す情報を
記憶する
記憶手段と、
前記蓄電デバイス
の前記正極及び前記負極に接続され、他の蓄電デバイスの既知の自己放電電流の基準値に基づいて定められる定電流を
前記蓄電デバイスに供給する供給手段と、
前記蓄電デバイスの前記正極及び前記負極に接続され、前記定電流を供給した前記蓄電デバイスの電圧を測定する測定手段と、
測定した前記蓄電デバイスの電圧である測定電圧の
時間的変化
の傾きに基づいて
、前記蓄電デバイスの
良否を判定し、又は、前記蓄電デバイスの内部温度、前記自己放電電流、前記放電抵抗の抵抗値、若しくは前記蓄電部の静電容量を演算する演算手段と、を備え、
前記演算手段は、
前記測定電圧の時間的変化の傾きが正常範囲内である場合に前記蓄電デバイスが正常であると判定し、
前記測定電圧の時間的変化の傾きと前記定電流の電流値との関係を示す温度テーブルを用いて前記蓄電デバイスの内部温度を演算し、
前記測定電圧の時間的変化の傾きと前記定電流の電流値との関係を示す数式又は対応テーブルを用いて前記蓄電デバイスの前記自己放電電流又は前記放電抵抗の抵抗値を演算し、又は、
前記測定電圧の時間的変化の傾きと前記定電流の電流値との関係を示す数式を用いて前記蓄電部の静電容量を演算し、
前記演算手段は、
前記情報に示される開放電圧及び前記蓄電デバイスの測定電圧の初期値が互いに一致するように対応させた状態で、前記蓄電デバイスの測定電圧の
時間的変化
と前記情報に
示される開放電圧の時間的変動との差分を取ることにより前記測定電圧の時間的変化の傾きを補正する、
蓄電デバイスの測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電デバイスの測定装置であって、
前記測定手段は、前記蓄電デバイスの開放電圧を測定して当該開放電圧を示す信号を前記情報として出力し、その後前記定電流を供給した前記蓄電デバイスの電圧を測定する、
蓄電デバイスの測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蓄電デバイスの測定装置であって、
前記演算手段は、
前記蓄電デバイスの測定電圧に基づいて当該測定電圧の
時間的変化を検出する検出手段と、
検出した前記測定電圧の
時間的変化から前記情報に
示される前記開放電圧の
時間的変動を減じて当該測定電圧の
時間的変化
の傾きを補正する減算補正手段と、を含む、
蓄電デバイスの測定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の蓄電デバイスの測定装置であって、
前記演算手段は、
前記蓄電デバイスの測定電圧の時間的変化の傾きを補正する補正手段と、
補正した前記蓄電デバイスの測定電圧の
時間的変化
の傾きに基づいて前記蓄電デバイスの
前記自己放電電流又は
前記放電抵抗
の抵抗値を演算する自己放電演算手段と、を含む、
蓄電デバイスの測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の蓄電デバイスの測定装置であって、
前記蓄電デバイスに供給される前記定電流を切り替える切替手段をさらに備え、
前記補正手段は、前記切替手段により切り替えられる定電流ごとに、前記情報に基づいて前記蓄電デバイスの測定電圧の
時間的変化を補正し、
前記自己放電演算手段は、前記定電流ごとに補正した測定電圧の
時間的変化
の傾きに基づいて、前記自己放電電流又は
前記放電抵抗
の抵抗値を演算する、
蓄電デバイスの測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の蓄電デバイスの測定装置であって、
前記切替手段は、前記蓄電デバイスに供給される定電流を、前記自己放電電流を検出するための第一の定電流と、前記第一の定電流よりも大きな第二の定電流と、の間で切り替える、
蓄電デバイスの測定装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の蓄電デバイスの測定装置であって、
前記蓄電デバイスの電圧に対して±1Vの範囲内に定められた基準電圧を
出力する
基準電圧源をさらに備え、
前記測定手段は、
前記基準電圧源の正極と前記蓄電デバイスの正極との間に接続され、前記測定電圧として前記蓄電デバイスの
正極と
前記基準電圧源の正極との電位差を測定し、
前記演算手段は、補正した前記電位差の
時間的変化
の傾きに基づいて
、前記蓄電デバイスの
良否を判定し、又は、前記蓄電デバイスの内部温度、前記自己放電電流、前記放電抵抗の抵抗値、若しくは前記蓄電部の静電容量を演算する、
蓄電デバイスの測定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の蓄電デバイスの測定装置であって、
前記供給手段は、前記蓄電デバイスにて過電圧より小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給する、
蓄電デバイスの測定装置。
【請求項9】
正極に接続される内部抵抗と前記内部抵抗及び負極間に接続される蓄電部と前記蓄電部に並列接続されて前記正極及び前記負極を開放した状態で流れる電流である自己放電電流が流れる放電抵抗とを有する等価回路で表される蓄電デバイスの測定方法であって、
前記蓄電デバイスの開放電圧の
時間的変動を
示す情報を
記憶する
記憶ステップと、
前記蓄電デバイスの前記正極及び前記負極に接続される供給手段により、前記蓄電デバイスに
他の蓄電デバイスの既知の自己放電電流の基準値に基づいて定められる定電流を供給する供給ステップと、
前記蓄電デバイスの前記正極及び前記負極に接続される測定手段により、前記定電流を供給した前記蓄電デバイスの電圧を測定する測定ステップと、
測定した前記蓄電デバイスの電圧である測定電圧の時間的変化の傾きに基づいて、前記蓄電デバイスの
良否を判定し、又は、前記蓄電デバイスの内部温度、前記自己放電電流、前記放電抵抗の抵抗値、若しくは前記蓄電部の静電容量を演算する演算ステップと、を備え、
前記演算ステップは、
前記測定電圧の時間的変化の傾きが正常範囲内である場合に前記蓄電デバイスが正常であると判定し、
前記測定電圧の時間的変化の傾きと前記定電流の電流値との関係を示す温度テーブルを用いて前記蓄電デバイスの内部温度を演算し、
前記測定電圧の時間的変化の傾きと前記定電流の電流値との関係を示す数式又は対応テーブルを用いて前記蓄電デバイスの前記自己放電電流又は前記放電抵抗の抵抗値を演算し、又は、
前記測定電圧の時間的変化の傾きと前記定電流の電流値との関係を示す数式を用いて前記蓄電部の静電容量を演算し、
前記演算ステップは、
前記情報に示される開放電圧及び前記蓄電デバイスの測定電圧の初期値が互いに一致するように対応させた状態で、前記蓄電デバイスの測定電圧の
時間的変化
と前記情報に
示される開放電圧の時間的変動との差分を取ることにより前記測定電圧の時間的変化の傾きを補正する、
蓄電デバイスの測定方法。
【請求項10】
正極に接続される内部抵抗と前記内部抵抗及び負極間に接続される蓄電部と前記蓄電部に並列接続されて前記正極及び前記負極を開放した状態で流れる電流である自己放電電流が流れる放電抵抗とを有する等価回路で表される蓄電デバイスの電圧
の時間的変化を検出する検出装置であって、
前記蓄電デバイスの開放電圧の
時間的変動を
示す情報を
記憶する
記憶手段と、
前記蓄電デバイス
の前記正極及び前記負極に接続され、他の蓄電デバイスの既知の自己放電電流の基準値に基づいて定められる定電流を
前記蓄電デバイスに供給する供給手段と、
前記蓄電デバイスの前記正極及び前記負極に接続され、前記定電流を供給した前記蓄電デバイスの電圧を測定する測定手段と、
測定した前記蓄電デバイスの電圧に基づいて前記蓄電デバイスの電圧
の時間的変化を検出する検出手段と、
検出した前記蓄電デバイスの電圧及び前記情報に示される開放電圧の初期値が互いに一致するように対応させた状態で、検出した前記蓄電デバイスの電圧
の時間的変化
と前記情報に
示される開放電圧の時間的変動との差分を取ることにより前記蓄電デバイスの電圧の時間的変化を補正する補正手段と、
を備える蓄電デバイスの検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの状態を求める測定装置、測定方法及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エージング時間における二次電池の電圧降下量に基づいて二次電池の良否判定を行う検査方法が開示されている。このような検査方法では、二次電池の状態を正極及び負極を開放した状態で二次電池を数日から数週間保存し、自己放電により電圧が低下した後に電圧を測定することで、二次電池の状態が推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の検査方法では、自己放電により電圧が低下するまでエージング時間として数日から数週間の間、二次電池を保存する必要がある。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、短い時間で蓄電デバイスの状態を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、正極に接続される内部抵抗と前記内部抵抗及び負極間に接続される蓄電部と前記蓄電部に並列接続されて前記正極及び前記負極を開放した状態で流れる電流である自己放電電流が流れる放電抵抗とを有する等価回路で表される蓄電デバイスの測定装置は、前記蓄電デバイスの開放電圧の時間的変動を示す情報を記憶する記憶手段と、前記蓄電デバイスの前記正極及び前記負極に接続され、他の蓄電デバイスの既知の自己放電電流の基準値に基づいて定められる定電流を前記蓄電デバイスに供給する供給手段と、前記蓄電デバイスの前記正極及び前記負極に接続され、前記定電流を供給した前記蓄電デバイスの電圧を測定する測定手段と、測定した前記蓄電デバイスの電圧である測定電圧の時間的変化の傾きに基づいて、前記蓄電デバイスの良否を判定し、又は、前記蓄電デバイスの内部温度、前記自己放電電流、前記放電抵抗の抵抗値、若しくは前記蓄電部の静電容量を演算する演算手段と、を備える。前記演算手段は、前記測定電圧の時間的変化の傾きが正常範囲内である場合に前記蓄電デバイスが正常であると判定し、前記測定電圧の時間的変化の傾きと前記定電流の電流値との関係を示す温度テーブルを用いて前記蓄電デバイスの内部温度を演算し、前記測定電圧の時間的変化の傾きと前記定電流の電流値との関係を示す数式又は対応テーブルを用いて前記蓄電デバイスの前記自己放電電流又は前記放電抵抗の抵抗値を演算し、又は、前記測定電圧の時間的変化の傾きと前記定電流の電流値との関係を示す数式を用いて前記蓄電部の静電容量を演算する。そして前記演算手段は、前記情報に示される開放電圧及び前記蓄電デバイスの測定電圧の初期値が互いに一致するように対応させた状態で、前記蓄電デバイスの測定電圧の時間的変化と前記情報に示される開放電圧の時間的変動との差分を取ることにより前記測定電圧の時間的変化の傾きを補正する。
【0007】
本発明の別の態様によれば、正極に接続される内部抵抗と前記内部抵抗及び負極間に接続される蓄電部と前記蓄電部に並列接続されて前記正極及び前記負極を開放した状態で流れる電流である自己放電電流が流れる放電抵抗とを有する等価回路で表される蓄電デバイスの電圧の時間的変化を検出する検出装置は、前記蓄電デバイスの開放電圧の時間的変動を示す情報を記憶する記憶手段と、前記蓄電デバイスの前記正極及び前記負極に接続され、前記蓄電デバイスの自己放電電流の基準値に基づいて定められる定電流を前記蓄電デバイスに供給する供給手段と、前記蓄電デバイスの前記正極及び前記負極に接続され、前記定電流を供給した前記蓄電デバイスの電圧を測定する測定手段と、測定した前記蓄電デバイスの電圧に基づいて前記蓄電デバイスの電圧の時間的変化を検出する検出手段と、検出した前記蓄電デバイスの電圧及び前記情報に示される開放電圧の初期値が互いに一致するように対応させた状態で、検出した前記蓄電デバイスの電圧の時間的変化と前記情報に示される開放電圧の時間的変動との差分を取ることにより前記蓄電デバイスの電圧の時間的変化を補正する補正手段と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
これらの態様によれば、定電流が蓄電デバイスに供給されることによって、蓄電デバイスの内部状態の違いに起因する蓄電デバイスの測定電圧の変化が大きくなる。これに加え、蓄電デバイスの電圧変動を特定するための情報に基づき測定電圧の変化が補正されることによって、蓄電デバイスの電圧変動が収まるのを待たなくとも、定電流に伴う蓄電デバイスの電圧変化を求めることができる。それゆえ、短い時間で蓄電デバイスの状態を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る蓄電デバイスの測定装置の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、測定装置に含まれるコントローラの機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、測定装置を用いた蓄電デバイスの測定方法を示すフローチャートである。
【
図4A】
図4Aは、蓄電デバイスの通常放電後における蓄電デバイスの電圧変動の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、測定方法に含まれる状態演算処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、定電流の充電時の蓄電デバイスの測定電圧の変化と、定電流の充電前の蓄電デバイス10の開放電圧の変動と、補正後の測定電圧の変化とを例示する図である。
【
図7】
図7は、蓄電デバイスの充電時間に対する補正後の電圧変化の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る測定方法に含まれる状態演算処理を示す図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、
図1から
図7を参照して、本発明の第1実施形態に係る蓄電デバイス10の測定装置(以下、単に「測定装置」と称する。)1について説明する。
【0011】
まず、
図1を参照して、蓄電デバイス10の構成及び測定装置1の構成について説明する。
図1は、測定装置1の構成を示す図である。
【0012】
蓄電デバイス10は、例えば、リチウムイオン二次電池の単一の蓄電セルである。蓄電デバイス10は、二次電池(化学電池)に限らず、例えば、電気二重層キャパシタであってもよい。また、蓄電デバイス10は、複数の蓄電セルが直列に接続されてなる蓄電モジュールであってもよい。
【0013】
蓄電デバイス10は、
図1のように、等価回路モデルによって示される。蓄電デバイス10は、等価回路モデルによれば、正極電極11と、負極電極12と、蓄電部13と、内部抵抗14と、並列抵抗15と、を有する。蓄電部13、内部抵抗14及び並列抵抗15は、それぞれ蓄電デバイス10の内部状態を表わす等価回路の素子である。
【0014】
蓄電部13は、蓄電デバイス10の静電容量成分である。蓄電部13は、蓄電デバイス10のセル電圧よりも高い電圧が印加されると、電荷が蓄積されて充電される。蓄電部13では、充電時に流れる電流が比較的小さい場合には主に電気二重層反応が起こり、充電時に流れる電流が比較的大きい場合には主に化学反応が起こる。ここでは、蓄電部13の静電容量をCst[F]とし、蓄電部13に流れる電流をIst[A]とする。
【0015】
内部抵抗14は、正極電極11と負極電極12との間で、蓄電部13に直列に接続される直列抵抗である。ここでは、内部抵抗14の抵抗値をRir[mΩ]とし、内部抵抗14に流れる電流をIir[A]とする。
【0016】
並列抵抗15は、蓄電部13に並列に接続される放電抵抗である。並列抵抗15に流れる電流は、自己放電電流、いわゆる漏れ電流である。ここでは、並列抵抗15の抵抗値をRpr[kΩ]とし、並列抵抗15に流れる自己放電電流をIpr[A]とする。
【0017】
測定装置1は、蓄電デバイス10の状態を測定するための装置又はシステムであり、蓄電デバイス10の電圧の時間変化、即ち電圧変化を検出する検出装置を含む。測定装置1は、供給手段としての定電流源2と、測定手段としての電圧センサ3と、取得手段及び演算手段としてのコントローラ4と、表示部5と、を備える。
【0018】
定電流源2は、蓄電デバイス10の内部状態を検出するための定電流を蓄電デバイス10の正極電極11に供給することによって蓄電デバイス10を充電する直流電源である。定電流源2は、蓄電デバイス10に供給される電流を所定の大きさに維持する。定電流源2は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給して蓄電デバイス10を充電する。
【0019】
本実施形態では、定電流源2から供給される定電流は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準となる値に対して一倍又は数倍に設定される。自己放電電流Iprの基準値は、既知の情報であり、例えば、多数の蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを集計した統計データ、又は、電気特性が正常である特定の蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められる。例えば、定電流源2から供給される定電流は10[μA]に設定される。このように、定電流は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの値に基づいて定められる。
【0020】
ここで、蓄電デバイス10に定電圧を印加して蓄電デバイス10を充電する場合は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電圧を安定して印加することは困難である。これに対して、定電流源2を用いてマイクロアンペア(μA)オーダーの比較的小さな電流を供給することは容易である。よって、測定装置1では、定電流源2を用いることによって、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を安定して供給することができる。
【0021】
電圧センサ3は、蓄電デバイス10の電圧を測定する直流電圧計である。電圧センサ3は、測定した電圧を時系列に示す電気信号をコントローラ4に出力する。本実施形態では、電圧センサ3は、定電流源2から定電流が供給された状態を含み、少なくとも二回以上、蓄電デバイス10の電圧を測定する。
【0022】
コントローラ4は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ4は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。コントローラ4は、ROMに記憶されたプログラムをCPUによって読み出すことによって測定装置1の各種動作を制御する制御装置である。
【0023】
コントローラ4は、定電流源2及び電圧センサ3を制御して蓄電デバイス10の内部状態を測定する状態測定処理を実行する。具体的には、コントローラ4は、定電流源2から蓄電デバイス10への電流供給を制御するとともに、電圧センサ3が測定した電圧を示す電気信号に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する。
【0024】
例えば、コントローラ4は、定電流源2から蓄電デバイス10に定電流を供給した状態において電圧センサ3から電気信号を取得し、その電気信号に示される蓄電デバイス10の電圧についての時間変化を検出する。コントローラ4は、検出した蓄電デバイス10の電圧変化に基づいて蓄電デバイス10の自己放電状態を推定する。
【0025】
表示部5は、コントローラ4による判定結果又は算出結果などの情報を表示して使用者に通知する。表示部5は、例えばタッチスクリーンであり、使用者が情報を視認可能、かつ使用者が操作可能なように構成される。
【0026】
操作部6は、コントローラ4の動作を操作するための操作信号を生成する。操作部6は、例えば、キーボード及びマウスなどによって構成される入力装置である。操作部6は、使用者の入力操作により、例えば状態測定処理の実行を指示する操作信号をコントローラ4に出力する。
【0027】
次に、
図2を参照して、本実施形態に係る測定装置1のコントローラ4の構成について説明する。
図2は、コントローラ4の機能構成を示すブロック図である。
【0028】
コントローラ4は、操作受付部41と、測定指令部42と、電圧取得部43と、記憶部44と、演算部45と、を備える。
【0029】
操作受付部41は、
図1に示した操作部6によって生成される操作信号を受け付ける。操作受付部41は、蓄電デバイス10の状態測定処理の実行を指示する操作信号を受け付けると、状態測定処理の実行を測定指令部42に指示する。
【0030】
測定指令部42は、操作受付部41から上述した指示を受けると、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを検出するための電流値を示す制御信号を定電流源2に送信するとともに、蓄電デバイス10の電圧測定を指示する制御信号を電圧センサ3に送信する。
【0031】
電圧取得部43は、電圧センサ3から蓄電デバイス10の電圧を示す電気信号を受信する。電圧取得部43は、受信した電気信号を測定データとして記憶部44に記録する。
【0032】
記憶部44は、ROM及びRAMによって構成され、蓄電デバイス10の状態測定処理を実行するためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を構成する。記憶部44は、蓄電デバイス10の状態測定処理の実行に必要となる情報を記憶する。
【0033】
本実施形態では、記憶部44は、定電流記憶部441と、変動情報記憶部442と、測定電圧記憶部443と、を備える。
【0034】
定電流記憶部441は、定電流源2から蓄電デバイス10に供給される定電流の電流値を記憶する。定電流記憶部441に記憶される電流値は、予め定められたものでもよく、使用者の入力操作によって操作受付部41から記録されたものでもよい。本実施形態では、定電流の電流値は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準値に設定され、例えば10[μA]に設定される。
【0035】
変動情報記憶部442は、蓄電デバイス10の開放電圧の変動を特定するための変動情報を記憶する。ここにいう蓄電デバイス10の開放電圧とは、蓄電デバイス10の状態を正極電極11及び負極電極12を開放した状態での蓄電デバイス10の電圧のことをいう。例えば、蓄電デバイス10に定電流源2が接続された状態であっても定電流源2から蓄電デバイス10への定電流の供給を停止した状態も、蓄電デバイス10の正極電極11及び負極電極12を開放した状態に含まれる。
【0036】
変動情報記憶部442に記憶される変動情報としては、例えば、蓄電デバイス10の開放電圧の時間変化を示す実測データ、統計データ、理論式から得られる理論データ、又は等価回路を用いたシミュレーション結果などが用いられる。また、上記データに代えて、蓄電デバイス10の開放電圧の時間変化を近似した近似式又は近似直線の傾きなどが変動情報として用いられてもよい。
【0037】
本実施形態では、蓄電デバイス10の変動情報として、蓄電デバイス10に定電流を供給する直前に電圧センサ3によって測定された蓄電デバイス10の開放電圧を時系列に示す電気信号が変動情報記憶部442に記憶されている。この場合、電圧取得部43は、定電流源2から定電流の供給を開始する直前において電圧センサ3から蓄電デバイス10の開放電圧を示す電気信号を取得し、その電気信号を蓄電デバイス10の変動情報として変動情報記憶部442に記録する。
【0038】
測定電圧記憶部443は、蓄電デバイス10の測定電圧を時系列に示す測定データを記憶する。ここにいう蓄電デバイス10の測定電圧とは、定電流源2から定電流を蓄電デバイス10に供給した状態において電圧センサ3が測定した蓄電デバイス10の電圧のことをいう。蓄電デバイス10への定電流の供給時に電圧取得部43が、電圧センサ3から取得した電気信号を測定データとして測定電圧記憶部443に記録する。
【0039】
演算部45は、定電流を供給した蓄電デバイス10の測定電圧の変化に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する。このとき、演算部45は、記憶部44に予め記憶された変動情報に基づいて蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正する。
【0040】
本実施形態では、演算部45は、電圧変化検出部451と、電圧変化補正部452と、内部状態演算部453と、を備える。
【0041】
電圧変化検出部451は、電圧センサ3が測定した蓄電デバイス10の測定電圧に基づいて蓄電デバイス10の測定電圧の変化を検出する検出手段を構成する。
【0042】
本実施形態では、電圧変化検出部451は、測定電圧記憶部443から蓄電デバイス10の測定データを読み出し、読み出した測定データに基づき蓄電デバイス10の測定電圧の時間変化の傾き、即ち測定電圧の時間変化率を求める。例えば、電圧変化検出部451は、測定電圧記憶部443を参照し、定電流の供給開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧と、に基づいて、定電流を供給した状態での蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを求める。
【0043】
電圧変化検出部451は、求めた電圧変化の傾きを検出結果として電圧変化補正部452に出力する。電圧変化検出部451は、電圧変化の傾きに代えて、定電流の供給開始時から、予め定められた測定時間の経過時までの測定電圧の変化量を検出結果として算出してもよい。
【0044】
電圧変化補正部452は、変動情報記憶部442に記憶された蓄電デバイス10の変動情報に基づいて蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正する補正手段を構成する。
【0045】
本実施形態では、電圧変化補正部452は、変動情報記憶部442から蓄電デバイス10の変動情報を読み出し、読み出した変動情報に基づいて蓄電デバイス10の開放電圧の変動を特定する。電圧変化補正部452は、特定した開放電圧の変動を、電圧変化検出部451が検出した蓄電デバイス10の測定電圧の変化から減じて、蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正する。
【0046】
具体的には、電圧変化補正部452は、電圧センサ3が測定した蓄電デバイス10の開放電圧を時系列に示す変動情報に基づき、蓄電デバイス10の開放電圧の電圧変動の傾きを求める。続いて、電圧変化補正部452は、電圧変化検出部451から蓄電デバイス10の測定電圧の時間変化の傾きを取得すると、取得した時間変化の傾きを、求めた電圧変動の傾きから減算する。そして電圧変化補正部452は、減算した値を補正後の測定電圧の変化として内部状態演算部453に出力する。
【0047】
これに代えて、電圧変化補正部452は、変動情報に基づき蓄電デバイス10の測定時間あたりの開放電圧の変動量を求め、その変動量を蓄電デバイス10の測定時間あたりの測定電圧の変化量から減算した値を補正後の測定電圧の変化として用いてもよい。
【0048】
このように、電圧変化補正部452は、電圧変化検出部451が検出した測定電圧の変化から、蓄電デバイス10の変動情報にて特定される開放電圧の変動を減算して蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正する減算補正手段を構成する。
【0049】
内部状態演算部453は、電圧変化補正部452が補正した測定電圧の変化に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する演算手段を構成する。
【0050】
例えば、内部状態演算部453は、補正した蓄電デバイス10の測定電圧の変化に基づき、蓄電デバイス10の内部状態についての良否を判定する。これに代えて、内部状態演算部453は、補正した蓄電デバイス10の測定電圧の変化に基づき、
図1に示した並列抵抗15に流れる自己放電電流、並列抵抗15の抵抗値又は蓄電部13の静電容量を算出してもよい。
【0051】
本実施形態では、内部状態演算部453は、補正後の測定電圧の変化が正常範囲内である場合には、蓄電デバイス10が正常であると判定し、補正後の測定電圧の変化が正常範囲内でない場合には、蓄電デバイス10が異常であると判定する。このように、内部状態演算部453は、蓄電デバイス10の良否を判定する。
【0052】
具体的には、内部状態演算部453は、電圧変化補正部452から補正後の測定電圧の傾きを取得すると、取得した測定電圧の傾きに基づいて蓄電デバイス10の良否を判定する。内部状態演算部453は、蓄電デバイス10の異常な状態又は正常な状態を示す判定結果を表示部5に出力する。
【0053】
次に、本実施形態に係る測定装置1の動作について
図3を参照して説明する。
【0054】
図3は、測定装置1を用いて蓄電デバイス10の状態を測定する測定方法の一例を示すフローチャートである。この例では、測定装置1は、例えば雰囲気温度を一定に維持可能な恒温槽の中に蓄電デバイス10を収容するなどして、蓄電デバイス10の温度変化を抑制した環境にて測定を実行する。
【0055】
まず、上記測定を実行するにあたり、測定装置1を蓄電デバイス10に接続して、電圧センサ3にて蓄電デバイス10の電圧を測定可能な状態にするとともに、定電流源2から蓄電デバイス10に定電流を供給可能な状態にする。
【0056】
ステップS1では、コントローラ4は、蓄電デバイス10の開放電圧の変動を特定するための変動情報を取得する。
【0057】
この例では、コントローラ4は、定電流源2から蓄電デバイス10に定電流を供給する直前において電圧センサ3に蓄電デバイス10の電圧を測定させる。そしてコントローラ4は、電圧センサ3から、蓄電デバイス10の開放電圧を示す電気信号を変動情報として取得し、その後にステップS2へ進む。
【0058】
ステップS2では、コントローラ4は、定電流源2から定電流を蓄電デバイス10に供給して蓄電デバイス10の充電を開始する。
【0059】
ステップS3では、コントローラ4は、電圧センサ3に対し、定電流源2から定電流を供給した状態での蓄電デバイス10の電圧を測定させる。これにより、電圧センサ3から、蓄電デバイス10の測定電圧を示す電気信号がコントローラ4に入力される。
【0060】
ステップS4では、コントローラ4は、電気信号によって示される蓄電デバイス10の測定電圧に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する状態演算処理を実行する。この状態演算処理については
図5を参照して後述する。
【0061】
ステップS4の処理が完了すると、測定装置1を用いた測定方法についての一連の処理手順が終了する。
【0062】
ここで、ステップS1の処理の具体例について
図4A及び
図4Bを参照して説明する。
図4Aは、放電試験後における蓄電デバイス10の開放電圧の変動を例示する図である。
図4Bは、
図4Aに示したP点からの蓄電デバイス10の開放電圧の変動を示す図である。
【0063】
図4Aに示す放電試験は、蓄電デバイス10にて主に化学反応が起こる通常放電の試験例である。この放電試験では、蓄電デバイス10の充電容量が減少するよう蓄電デバイス10の負極電極12に対して10[mA]の放電電流Idが約120[s]間だけ供給される。ここでは、蓄電デバイス10の正極電極11から負極電極12に向かって流れる電流をプラス(+)とし、蓄電デバイス10の負極電極12から正極電極11に向かって流れる電流をマイナス(-)とする。
【0064】
放電電流Idは、本実施形態の定電流源2から供給される定電流に比べて約1,000倍も大きい。このため、定電流源2から定電流を蓄電デバイス10に供給して充電することを「微小充電」と称することもできる。
【0065】
図4Aに示すように、放電試験の直後は、蓄電デバイス10の開放電圧が急峻に上昇し、その後は緩やかに上昇しながら丸印のP点に到達する。P点に到達した後も、蓄電デバイス10の開放電圧は数時間以上も変動し続ける。充電試験後も同様である。
【0066】
例えば、本実施形態の状態測定処理を行うために、P点において定電流源2から定電流の供給を開始した場合は、
図4Bに示すように、蓄電デバイス10の開放電圧の上昇量は600秒で約150[μV]になる。
【0067】
これに対し、定電流源2から蓄電デバイス10に定電流を供給した状態での蓄電デバイス10の測定電圧の変化量は、例えば600[s]で数十[μV]程度である。それゆえ、充放電後における蓄電デバイス10の開放電圧の変動は、測定装置1による測定精度に大きな影響を与えることを発明者は知見した。
【0068】
そのため、蓄電デバイス10の充放電試験を実施した後に、本実施形態の状態測定処理を行う場合は、測定精度を確保するために数時間以上待機してから状態測定処理を行わなければならず、速やかに測定を行うことが難しかった。
【0069】
この対策として、本実施形態では、蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正するために、
図3に示したステップS1にてコントローラ4が蓄電デバイス10の開放電圧の変動に関する変動情報を取得する。
【0070】
図4Bに示す破線M0のデータは、ステップS1の処理によって取得された変動情報の一例であり、定電流源2から定電流を蓄電デバイス10に供給する直前において電圧センサ3が測定した蓄電デバイス10の開放電圧を示す測定データである。
【0071】
このように、ステップS1の処理においてコントローラ4は、蓄電デバイス10に定電流の供給を開始する前に電圧センサ3から出力された電気信号を変動情報として取得する。この変動情報については、一例として電圧センサ3からの電気信号が用いられたが、シミュレーション結果又は理論式などが用いられてもよい。
【0072】
次に、
図5乃至
図7を参照して、
図3に示したステップS4で実行される状態演算処理について説明する。
【0073】
図5は、測定装置1による状態演算処理(S4)の一例を示すフローチャートである。
図6は、本実施形態における蓄電デバイス10の充電時間に対する測定電圧の変化を例示する図である。
図7は、本実施形態における蓄電デバイス10の充電時間に対する補正後の測定電圧の変化を例示する図である。
【0074】
図5に示す例では、コントローラ4は、状態演算処理(S4)として、蓄電デバイス10の電圧変化に基づき蓄電デバイス10の良否を判定する。
【0075】
ステップS41では、コントローラ4は、蓄電デバイス10定電流の供給を開始してからの経過時間である充電時間が所定の時間を超えたか否かを判定する。所定の時間は、蓄電デバイス10が正常な場合と異常な場合とで電圧の変化に差が現れる程度の長さに予め設定される。
【0076】
ステップS41にて、充電時間が所定の時間を超えていないと判定された場合には、コントローラ4は、充電時間が所定の時間を超えると判定されるまで、蓄電デバイス10に定電流を供給し続ける。一方、充電時間が所定の時間を超えたと判定された場合には、コントローラ4は、ステップS42へ移行する。
【0077】
ステップS42では、コントローラ4は、電圧センサ3によって測定された蓄電デバイス10の測定電圧に基づき、蓄電デバイス10の測定電圧の変化を検出する。
【0078】
具体例として、コントローラ4は、充電開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧と、に基づき、蓄電デバイス10の測定電圧の時間変化を直線で近似した近似直線を求める。より詳細には、コントローラ4は、制御周期ごとに測定した微小充電電圧に基づき、最小二乗法によって蓄電デバイス10の測定電圧の近似直線を求める。
【0079】
これに代えて、コントローラ4は、充電開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧との差分から蓄電デバイス10の測定電圧の変化を検出するようにしてもよい。この場合、電圧センサ3によって蓄電デバイス10の電圧を二回測定すればよいので、例えばマルチプレクサを用いて切り換えて電圧測定を行うことも可能である。それゆえ、測定装置1を簡素化することができる。
【0080】
ステップS43では、コントローラ4は、ステップS1にて取得されたに基づいて近似直線を補正する。即ち、コントローラ4は、検出した蓄電デバイス10の測定電圧の変化を変動情報に基づいて補正する。
【0081】
具体例として、まず、コントローラ4は、蓄電デバイス10の変動情報に基づいて蓄電デバイス10の開放電圧の変動を直線で近似した近似直線を求め、その近似直線の傾きを取得する。続いて、コントローラ4は、取得した開放電圧の近似直線の傾きを、ステップS3にて求めた測定電圧の近似直線の傾きから減じた値を、補正後における測定電圧の近似直線の傾きとして算出する。
【0082】
ステップS44では、コントローラ4は、補正後の近似直線の傾きが所定範囲内であるか否かを判定する。補正後の近似直線の傾きが上限値と下限値との間の所定範囲内であると判定された場合には、蓄電デバイス10は正常な状態であるので、ステップS45へ移行する。一方、ステップS44にて、補正後の近似直線の傾きが所定範囲内ではない、即ち所定範囲の上限値よりも大きいか、又は所定範囲の下限値よりも小さいと判定された場合には、蓄電デバイス10は異常な状態であるので、ステップS46へ移行する。
【0083】
ステップS45では、コントローラ4は、蓄電デバイス10が正常な状態であるとして、表示部5にその旨を表示して使用者に通知する。一方、ステップS46では、コントローラ4は、蓄電デバイス10が異常な状態であるとして、表示部5にその旨を表示して使用者に通知する。
【0084】
以上の状態演算処理(S4)を実行することにより、蓄電デバイス10の良否判定が完了する。
【0085】
次に、ステップS42乃至S44の処理の具体例について
図6及び
図7を参照して説明する。
図6及び
図7の横軸は、蓄電デバイス10に定電流の供給を開始してからの経過時間である充電時間[s]を示し、縦軸は、電圧センサ3がそれぞれ測定した充電電圧と初期電圧との差[μV]を示す。
【0086】
図6に示す破線M0のデータは、
図4Bに示した蓄電デバイス10の開放電圧の上昇を示す測定データであり、即ち、蓄電デバイス10の開放電圧の変動を示す。実線の直線Lm0は、ステップS43の処理によって求めた開放電圧の近似直線である。
【0087】
一方、破線M1のデータは、蓄電デバイス10が正常な状態であるときに定電流源2から電流値I1が+10[μA]の定電流を充電したときの蓄電デバイス10の測定電圧の上昇量を示すデータである。実線の直線Lm1は、ステップS42の処理によって求めた測定電圧の近似直線である。
【0088】
図6に示す実線C1のデータは、ステップS43の処理によって補正された測定電圧の変化であり、互いに対応する破線M1のデータと破線M0のデータとの差分を取った差分データである。この実線C1のデータは、蓄電デバイス10の開放電圧の変動成分を取り除いたものであり、即ち、蓄電デバイス10への定電流の供給に起因する測定電圧の電圧変化成分である。
【0089】
そして実線の直線Ln1は、直線Lm1の傾きから直線Lm0の傾きを減じて得られた補正後の傾きRnを有する直線であり、補正後における測定電圧の変化の近似直線である。
【0090】
図6を参照すると、直線Lm1のうち蓄電デバイス10の充放電に伴う電圧変動成分が、蓄電デバイス10への定電流供給に起因する電圧変化成分よりも大きい。そこで、コントローラ4は、定電流の供給開始前の開放電圧を近似した直線Lm0の傾きを定電流供給時の測定電圧を近似した直線Lm1の傾きから減じることにより、蓄電デバイス10への定電流供給に起因する電圧変化成分を抽出することが可能となる。このように、コントローラ4は、定電流を供給した蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正する。
【0091】
図7では、補正後の測定電圧の変化が拡大されており、
図6に示した破線M1,M0及び直線Lm1,Lm0が省略されている。ここでは、縦軸のスケールのみが、
図6に示した縦軸のスケールよりも拡大されている。
【0092】
図7に示す点線のデータは、蓄電デバイス10が異常な状態であるときの電圧変化の例であり、点線の直線La1は、ステップS42の処理によって求めた電圧変化の近似直線である。また、直線Ln1の傾きをRnとし、直線La1の傾きをRaとする。
【0093】
また、
図7に示す二本の二点鎖線の直線は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとを各々示すものであり、二本の二点鎖線の直線の間が、蓄電デバイス10が正常な状態における傾きである。なお、近似直線の傾きの上限値Rmax及び下限値Rminは、正常な状態の蓄電デバイス10を用いて予め実測して求めた近似直線の例えば±10%に設定される。
【0094】
図7を参照すると、実線で示す直線Ln1(傾きRn)は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っている。よって、コントローラ4は、蓄電デバイス10が正常な状態であると判定する。一方、破線で示す直線La1(傾きRa)は、近似直線の傾きの上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っていない。よって、コントローラ4は、蓄電デバイス10が異常な状態であると判定する。
【0095】
このように、コントローラ4は、直線の傾きが上限値Rmaxと下限値Rminとの間に入っているか否かに基づいて、蓄電デバイス10が正常な状態であるか、あるいは異常な状態であるかを判定する。
【0096】
なお、
図7に示す例では、蓄電デバイス10の良否判定に600[s]の測定時間T1をかけているが、実線で示す直線Ln1と破線で示す直線La1との傾きの差は、100[s]程度が経過すれば明確に確認できる。このように、測定装置1では、蓄電デバイス10の良否判定を数分程度の短い時間で実行することができる。
【0097】
以上のように、本実施形態の測定装置1は、定電流源2からの微小な定電流によって蓄電デバイス10を充電し、定電流が供給された状態における充電電圧を測定して蓄電デバイス10の測定電圧の変化を検出する。そして測定装置1は、検出した蓄電デバイス10の測定電圧の変化が正常範囲内であるか否かを判断し、測定電圧の変化が正常範囲内である場合に、蓄電デバイス10が正常であると判定する。そのため、蓄電デバイス10の電圧が自己放電により低下するまで待つ必要がないので、蓄電デバイス10の良否判定にかかる時間が短い。
【0098】
このとき、定電流源2は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給して蓄電デバイス10を充電する。蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさは比較的小さいので、内部抵抗14に流れる電流Iir[A]に対して蓄電部13に流れる電流Ist[A]の割合が大きい。そのため、並列抵抗15の有無による充電曲線の傾きの差が大きくなるので、蓄電デバイス10が正常であるか否かの判定が容易である。
【0099】
これに加え、測定装置1は、蓄電デバイス10の開放電圧の変動を特定するための変動情報に基づいて蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正する。そのため、蓄電デバイス10の測定電圧の電圧変化のうち、定電流供給に起因する電圧変化成分以外の変動成分が低減される。よって、蓄電デバイス10の開放電圧の変動が大きい状況であっても、その変動が収まるまで待つ必要がないので、速やかに蓄電デバイス10の良否判定を行うことが可能となる。
【0100】
したがって、短い時間で蓄電デバイス10の良否判定を行うことができる。
【0101】
なお、上記実施形態では電圧センサ3が定電流の供給を開始してから初期電圧として蓄電デバイス10の電圧を測定したが、これに代えて定電流の供給を開始する前に、電圧センサ3が初期電圧として蓄電デバイス10の電圧を測定してもよい。この場合であっても、蓄電デバイス10の電圧を、定電流が供給された状態を含み二回以上測定することができるので、蓄電デバイス10の電圧変化の近似直線を求めることができる。
【0102】
次に、第1実施形態による作用効果について説明する。
【0103】
本実施形態における蓄電デバイス10の電圧変化を検出する検出装置を含む測定装置1は、蓄電デバイス10の開放電圧の変動を特定するための変動情報を取得するコントローラ4の電圧取得部43と、蓄電デバイス10に定電流を供給する定電流源2と、を備える。さらに測定装置1は、定電流を供給した蓄電デバイス10の電圧を測定する電圧センサ3と、測定した蓄電デバイス10の電圧に基づいて蓄電デバイス10の電圧変化を検出するコントローラ4の演算部45と、を備える。そして演算部45は、検出した蓄電デバイス10の電圧変化を変動情報に基づいて補正する。
【0104】
そして、本実施形態における蓄電デバイス10の状態を測定する測定装置1は、上述した定電流源2、電圧センサ3、及び電圧取得部43に加えて、測定した蓄電デバイス10の電圧である測定電圧の変化に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する演算部45を備える。そして演算部45は、蓄電デバイス10の測定電圧の変化を変動情報に基づいて補正する。
【0105】
さらに、本実施形態における蓄電デバイス10の状態を測定する測定方法は、蓄電デバイス10の開放電圧の変動を特定するための変動情報を取得する取得ステップ(S1)と、蓄電デバイス10に定電流を供給する供給ステップ(S2)と、を備える。さらに、この測定方法は、定電流を供給した蓄電デバイス10の電圧を測定する測定ステップ(S3)と、測定した蓄電デバイス10の測定電圧の変化に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する演算ステップ(S4)と、を備える。そして演算ステップ(S4)は、蓄電デバイス10の測定電圧の変化を変動情報に基づいて補正する。
【0106】
まず、蓄電デバイス10の内部状態の違いは、蓄電デバイス10の電圧の時間変化の違いに現われやすい。そのため、上述した構成によれば、蓄電デバイス10に定電流が供給されるので蓄電デバイス10の電圧変化を大きくすることができる。したがって、蓄電デバイス10の電圧変化及び内部状態を求める時間を短縮することができる。
【0107】
これに加え、上述した構成によれば、蓄電デバイス10の変動情報に基づいて定電流を供給した蓄電デバイス10の測定電圧の変化が補正されるので、定電流供給に起因する電圧変化成分以外の変動成分を低減することができる。
【0108】
例えば、
図4Aに示したように、蓄電デバイス10の充放電後は、蓄電デバイス10の開放電圧が安定するのに時間を要する。充放電後、数百[s]が経過した程度では、
図6に示すように、通常の充放電に伴う変動成分(Lm0)は、蓄電デバイス10への定電流供給に起因する電圧変化成分(Ln1)よりもかなり大きい。
【0109】
このような状況において、上記実施形態のように蓄電デバイス10の変動情報に基づき蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正することによって、充放電に伴う電圧変動成分が概ね取り除かれるので、精度よく蓄電デバイス10の状態を測定することができる。それゆえ、蓄電デバイス10の開放電圧が安定するまで蓄電デバイス10の測定を待たなくてもよいので、速やかに蓄電デバイス10の測定を開始することができる。
【0110】
さらに、蓄電デバイス10を収容している部屋の雰囲気温度が約1.0[℃]変化するだけでも、測定装置1の測定精度に影響を与えることを発明者は知見した。
図7に示した例では、定電流の供給に起因する電圧変化成分(Ln1)は、100[s]で5[μV]程度の変化量であり、これは、雰囲気温度が100[s]で約0.5[℃]変化したときの蓄電デバイス10の開放電圧の変動量と同程度である。
【0111】
したがって、蓄電デバイス10の雰囲気温度が徐々に上昇又は下降するような環境下では、その変動情報を予め取得しておき、この変動情報に基づき測定電圧の変化を補正することによって、測定電圧のうち温度変動に伴う電圧変動成分を低減することができる。それゆえ、蓄電デバイス10の雰囲気温度が安定するのを待たなくても精度よく蓄電デバイス10の状態を求めることができる。
【0112】
このように、蓄電デバイス10の変動情報を用いることにより、蓄電デバイス10の充放電後の開放電圧の変動や、雰囲気温度の変化に伴う開放電圧の変動などの環境に起因する変動成分が抑制される。したがって、蓄電デバイス10の電圧の環境に起因する変動成分が収束するまで測定を待機する必要がなくなる。
【0113】
以上のように、上述した構成によれば、蓄電デバイス10に定電流を供給して蓄電デバイス10の測定電圧の変化を大きくしつつ、その測定電圧に含まれる環境に起因する変動成分を低減することができる。よって、短い時間で蓄電デバイス10の状態を求めることができる。
【0114】
また、本実施形態における電圧センサ3は、蓄電デバイス10の開放電圧を測定し、測定した開放電圧を示す信号を蓄電デバイス10の変動情報としてコントローラ4に出力し、その後に、定電流を供給した蓄電デバイス10の電圧を測定する。
【0115】
この構成によれば、蓄電デバイス10の開放電圧の実際の変動状況を特定することがでるので、蓄電デバイス10への定電流供給に起因する測定電圧の変化成分を的確に抽出することができる。また、蓄電デバイス10への定電流の供給終了後の蓄電デバイス10の電圧変動は、定電流の供給に伴い不安定になりやすい。したがって、定電流の供給開始前における蓄電デバイス10の電圧変動を変動情報として用いることにより、蓄電デバイス10への定電流供給に伴う測定電圧の変動成分を排除することができる。それゆえ、定電流を供給した状態での蓄電デバイス10の測定電圧の変化を的確に補正することができる。
【0116】
また、本実施形態における演算部45は、蓄電デバイス10の測定電圧に基づいてその測定電圧の変化を検出する電圧変化検出部451と、検出した測定電圧の変化から、変動情報にて特定される開放電圧の変動を減じて測定電圧の変化を補正する電圧変化補正部452と、を含む。
【0117】
この構成によれば、蓄電デバイス10の変動情報を用いて簡易な演算処理により、測定電圧の変化が補正されるので、演算部45の処理負荷を低減することができる。
【0118】
また、本実施形態における定電流源2は、蓄電デバイス10にて過電圧よりも小さく、主に電気二重層反応が発生する大きさの定電流を供給する。
【0119】
この構成によれば、蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさが小さいので、内部抵抗14に流れる電流Iir[A]に対して蓄電部13に流れる電流Ist[A]の割合が大きくなる。そのため、並列抵抗15の有無による充電曲線の傾きの差が大きくなるので、蓄電デバイス10の状態を求めることが容易である。
【0120】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る測定装置1のコントローラ4について説明する。本実施形態に係る測定装置1の基本構成は、
図1及び
図2に示した構成と同じであり、第1実施形態と重複する説明については省略する。以下では、
図1に示した蓄電デバイス10の並列抵抗15の抵抗値を放電抵抗Rprと称し、並列抵抗15に流れる電流を自己放電電流Iprと称する。さらに、自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprの少なくとも一方のことを「自己放電に関するパラメータ」とも称する。
【0121】
本実施形態におけるコントローラ4は、蓄電デバイス10に定電流を供給した状態において電圧センサ3が測定した蓄電デバイス10の測定電圧に基づいて、蓄電デバイス10の内部状態として自己放電に関するパラメータを演算する点が第1実施形態と異なる。
【0122】
具体的には、定電流源2が、蓄電デバイス10に電流値が異なる定電流を順次供給し、電圧センサ3が、蓄電デバイス10に供給される定電流ごとに蓄電デバイス10の測定電圧を測定する。そしてコントローラ4が、定電流ごとに電圧センサ3が測定した蓄電デバイス10の測定電圧の変化に基づいて放電抵抗Rpr及び自己放電電流Iprを演算する。
【0123】
コントローラ4の測定指令部42は、蓄電デバイス10に供給される定電流を切り替える切替手段を構成する。
【0124】
本実施形態では、測定指令部42は、定電流源2から蓄電デバイス10に供給される定電流を、第一の電流値を示す定電流と、第二の電流値を示す定電流と、の間で切り替える。第一及び第二の電流値は、定電流記憶部441に記憶されている。以下では、第一の電流値を示す定電流を、単に「第一の定電流」とも称し、第二の電流値を示す定電流を、単に「第二の定電流」とも称する。
【0125】
第一の電流値は、第1実施形態と同様、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準値に対して一倍又は数倍に設定され、本実施形態では、自己放電電流Iprの基準値を一倍した10[μA]に設定される。また、第二の電流値は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの基準値に対して数十倍以上に設定され、本実施形態では、自己放電電流Iprの基準値の五十倍に設定される。このように、第一及び第二の電流値は、共に自己放電電流Iprの値に基づいて予め定められる。
【0126】
自己放電電流Iprの基準値は、既知の情報であり、例えば、多数の蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを集計した統計データ、又は、電気特性が正常である特定の蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの試験結果などを用いて予め定められる。
【0127】
コントローラ4の電圧変化検出部451は、定電流源2から供給された定電流の大きさごとに、蓄電デバイス10の測定電圧に基づいて蓄電デバイス10の測定電圧の変化を検出する検出手段を構成する。
【0128】
本実施形態では、電圧変化検出部451は、定電流の大きさごとに、定電流の供給開始時の初期電圧と、定電流源2から定電流が供給された状態における充電電圧と、に基づき蓄電デバイス10の測定電圧の時間変化の傾きを求める。これに代えて、電圧変化検出部451は、定電流の各々について、
図6に示したように、蓄電デバイス10の測定電圧の時間変化を近似した直線Lm1を求め、その直線Lm1の傾きを測定電圧の傾きとして用いてもよい。
【0129】
コントローラ4の電圧変化補正部452は、測定指令部42により切り替えられる定電流ごとに、蓄電デバイス10の変動情報に基づき蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正する補正手段を構成する。蓄電デバイス10の変動情報は、第1実施形態と同様、
図4Bに示したように、蓄電デバイス10の開放電圧の変動を特定するための情報であり、変動情報記憶部442に予め記憶される。
【0130】
本実施形態では、電圧変化補正部452は、第1実施形態と同様、変動情報記憶部442から蓄電デバイス10の変動情報を読み出し、読み出した変動情報に基づいて蓄電デバイス10の開放電圧の変動を特定する。電圧変化補正部452は、特定した開放電圧の変動を、電圧変化検出部451が検出した蓄電デバイス10の測定電圧の変化から減じて、蓄電デバイス10の測定電圧の変化を定電流の大きさごとに補正する。
【0131】
例えば、電圧変化補正部452は、蓄電デバイス10の変動情報に基づき、定電流の供給開始前における蓄電デバイス10の開放電圧の電圧変動の傾きを求める。そして電圧変化補正部452は、定電流の大きさごとに、電圧変化検出部451が検出した測定電圧の変化から、求めた電圧変動の傾きを減じて補正後の測定電圧の変化を算出する。
【0132】
具体的には、電圧変化補正部452は、
図6に示したように、変動情報記憶部442に記憶された変動情報に基づき、蓄電デバイス10の開放電圧の電圧変動を近似した直線Lm0の傾きを求める。そして電圧変化補正部452は、第一の定電流を充電した蓄電デバイス10の測定電圧の変化を示す直線Lm1の傾きから直線Lm0の傾きを減じて、補正後の測定電圧の変化を近似した直線の傾きを算出する。
【0133】
さらに、電圧変化補正部452は、第二の定電流を充電した蓄電デバイス10の測定電圧の変化を示す直線Lm2の傾きから直線Lm0の傾きを減じて、補正後の測定電圧の変化を近似した直線の傾きを算出する。以下では、補正後の測定電圧の変化を近似した直線の傾きのことを「補正後の測定電圧の傾き」と略す。このように、電圧変化補正部452は、定電流の大きさごとに補正した測定電圧の変化率を算出する。
【0134】
これに代えて、電圧変化補正部452は、変動情報に基づき蓄電デバイス10の測定時間あたりの開放電圧の変動量を求め、その変動量を蓄電デバイス10の測定時間あたりの測定電圧の変化量から減算した値を補正後の測定電圧の変化として用いてもよい。
【0135】
コントローラ4の内部状態演算部453は、定電流ごとに補正した蓄電デバイス10の測定電圧の変化に基づいて蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprを演算する自己放電演算手段を構成する。
【0136】
本実施形態では、内部状態演算部453は、定電流ごとに求められた補正後の電圧変化の傾きと、
図1に示した蓄電部13の静電容量Cstを求める数式と、を用いて、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する。ここで、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprの演算手法について説明する。
【0137】
蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、第一の定電流を蓄電デバイス10に充電したときの補正後の測定電圧の傾きA1と、蓄電部13に充電される電流Ist[A]と、を用いて表わすことができる。蓄電部13に充電される電流Ist[A]は、静電容量Cstに蓄積される単位時間あたりの電荷量であり、第一の定電流の電流値I1から自己放電電流Iprを減じた値(I1-Ipr)に相当する。
【0138】
したがって、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第一の電流値I1と、第一の定電流を蓄電デバイス10に充電したときの補正後の測定電圧の傾きA1と、を用いて、次式(1)のように表わすことができる。
【0139】
【0140】
同様に、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式は、自己放電電流Iprと、第二の電流値I2と、第二の定電流を蓄電デバイス10に充電したときの補正後の測定電圧の傾きA2と、を用いて、次式(2)のように表わすことができる。
【0141】
【0142】
上式(2)において、蓄電部13に充電される電流Ist[A]は、第二の定電流の電流値I2から自己放電電流Iprを減じた値(I2-Ipr)に相当する。しかしながら、
図1に示した内部抵抗14に流れる電流である第二の電流値I2を示す定電流は、上述のとおり、並列抵抗15に流れる自己放電電流Iprよりも十分に大きいため、次式(3)のように近似することができる。
【0143】
【0144】
このため、上式(2)では、第二の定電流の電流値I2から自己放電電流Iprを減じた電流値(I2-Ipr)に代えて、第二の定電流の電流値I2が用いられている。続いて、式(2)及び式(3)を自己放電電流Iprについて解くと、次式(4)が導出される。
【0145】
【0146】
このように、定電流ごとに求めた補正後の測定電圧の傾きA1,A2及び定電流の電流値I1,I2を、蓄電部13の静電容量Cstを求める数式である式(1),式(2)に代入することにより、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出することができる。
【0147】
続いて、内部状態演算部453は、算出した自己放電電流Iprに基づいて蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを演算する。
【0148】
本実施形態では、内部状態演算部453は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprにより蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)を除して蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出する。蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)は、定電流の供給を開始する前に電圧センサ3によって測定される蓄電デバイス10の電圧値を用いてもよく、あるいは、蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められた電圧値を用いてもよい。
【0149】
これに代えて、内部状態演算部453は、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと放電抵抗Rprとの関係を表わす対応テーブル又は関数を予め記憶しておき、この対応テーブル又は関数を用いて放電抵抗Rprを算出してもよい。
【0150】
最後に、内部状態演算部453は、算出した放電抵抗Rprに基づいて蓄電デバイス10が正常であるか否かを判定する。
【0151】
本実施形態では、内部状態演算部453は、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあるか否かを判定する。所定の抵抗範囲の上限値及び下限値は、複数の蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを集計した統計データ、又は、電気特性が正常である特定の蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められる。
【0152】
そして内部状態演算部453は、放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあると判定した場合には、蓄電デバイス10が正常な状態であると判定し、放電抵抗Rprの算出値が所定の範囲内にないと判定した場合には、蓄電デバイス10が異常であると判定する。
【0153】
これに代えて、放電抵抗Rprごとに蓄電デバイス10の正常又は異常を示す診断テーブルを記憶部44に予め記憶してもよい。この場合、内部状態演算部453は、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出すると、診断テーブルを参照し、算出した放電抵抗Rprに対応付けられた蓄電デバイス10の内部状態を特定する。
【0154】
なお、本実施形態では内部状態演算部453が、放電抵抗Rprの算出値に基づいて蓄電デバイス10の良否判定を行ったが、これに代えて、自己放電電流Iprの算出値を用いて蓄電デバイス10が正常な状態であるか否かを判定してもよい。この場合、コントローラ4は、自己放電電流Iprの算出値が、例えば所定の電流範囲内にあるか否かを判定し、その算出値が所定の電流範囲内にあると判定したときに蓄電デバイス10が正常な状態であると判定する。
【0155】
また、本実施形態では測定指令部42が、蓄電デバイス10に電流値が異なる定電流を順次供給するように定電流源2の動作を制御したが、蓄電部13の静電容量Cstが既知であれば、第一の電流値I1を示す定電流のみ供給するようにしてもよい。この場合、蓄電部13の静電容量Cstが記憶部44に予め記憶され、内部状態演算部453は、蓄電部13の静電容量Cstと、第一の電流値I1と、第一の電流値I1に対応する補正後の測定電圧の傾きA1と、を上式(1)に代入して自己放電電流Iprを算出する。
【0156】
記憶部44に記憶される静電容量Cstについては、複数の蓄電デバイス10における蓄電部13の静電容量Cstを集計した統計データ、又は、特定の蓄電デバイス10の試験結果などを用いて予め定められる。これに代えて、内部状態演算部453は、第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電し、そのときの補正後の測定電圧の傾きA2と第二の電流値I2と、を上式(2)に代入して蓄電部13の静電容量Cstを求めてもよい。
【0157】
次に、
図8を参照して、第2実施形態に係る測定装置1を用いた測定方法について説明する。
図8は、測定装置1のコントローラ4によって実行される状態演算処理(S4)の一例を示すフローチャートである。
【0158】
本実施形態における状態演算処理(S4)は、
図5に示したステップS43及びS44の処理に代えて、ステップS51乃至S56の処理を備えている。ここでは、ステップS51乃至S56の各処理についてのみ説明し、他の処理については第1実施形態と同じであるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0159】
ステップS42にて、コントローラ4は、
図3のステップS2で設定された第一の電流値I1を示す定電流を充電したときの蓄電デバイス10の測定電圧の変化を近似した直線Lm1を求めて直線Lm1の傾きを取得し、ステップS51へ進む。
【0160】
ステップS51では、コントローラ4は、定電流源2から蓄電デバイス10に供給される定電流を切り替える。本実施形態では、コントローラ4は、第一の定電流から、第一の電流値I1よりも大きい第二の電流値I2を示す定電流へ切り替える。
【0161】
ステップS52及びステップS53の処理は、それぞれステップS41及びステップS42の処理と同様である。そのため、ステップS52及びS53では、コントローラ4は、所定の時間だけ、第二の定電流を供給した蓄電デバイス10の電圧を測定し、第二の定電流を充電したときの測定電圧の変化を近似した直線Lm2を求めて直線Lm2の傾きを取得する。
【0162】
ステップS54では、コントローラ4は、第一の電流値I1及び第二の電流値I2を示す定電流の大きさごとに、蓄電デバイス10の変動情報に基づいて蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正する。
【0163】
本実施形態では、コントローラ4は、
図6に示したように、変動情報記憶部442に記憶された変動情報に基づき、定電流の供給開始前における蓄電デバイス10の開放電圧の電圧変動を近似した直線Lm0の傾きを求める。コントローラ4は、第一の電流値I1を示す定電流を充電したときの測定電圧の変化を近似した直線Lm1の傾きから、直線Lm0の傾きを減じて補正後の測定電圧の変化を近似した直線の傾きA1を算出する。
【0164】
さらに、コントローラ4は、第二の電流値I2を示す定電流を充電したときの測定電圧の変化を近似した直線Lm2の傾きから直線Lm0の傾きを減じて補正後の測定電圧の変化を近似した直線の傾きA2を算出する。このように、コントローラ4は、定電流の大きさごとに測定電圧の変化を補正する。
【0165】
ステップS55では、コントローラ4は、定電流ごとに補正した直線の傾きA1,A2に基づいて、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを演算する。
【0166】
本実施形態では、コントローラ4は、第一の電流値I1と、補正後の直線の傾きA1と、第二の電流値I2と、補正後の直線の傾きA2と、を上式(4)に代入して蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出する。そしてコントローラ4は、蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)を蓄電デバイス10の自己放電電流Iprで除して蓄電デバイス10の放電抵抗Rprを算出する。
【0167】
ステップS56では、コントローラ4は、算出した蓄電デバイス10の放電抵抗Rprに基づいて蓄電デバイス10が正常であるか否かを判定する。
【0168】
本実施形態では、コントローラ4は、放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあるか否かを判定する。放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にあると判定された場合には、コントローラ4は、蓄電デバイス10は正常な状態であるため、ステップS45へ進む。一方、放電抵抗Rprの算出値が所定の抵抗範囲内にはない、即ち、抵抗範囲の上限値よりも大きいか、又は抵抗範囲の下限値よりも小さいと判定された場合には、蓄電デバイス10は異常な状態である、コントローラ4は、ステップS46へ進む。
【0169】
以上の状態演算処理(S4)を実行することにより、蓄電デバイス10の良否判定が完了する。
【0170】
なお、
図9に示した例では、コントローラ4は、定電流の大きさを一回だけ切り替えて蓄電デバイス10の電圧変化の傾きを二回求めることにより自己放電電流Iprを算出した。これに代えて、コントローラ4は、複数回、定電流の大きさを切り替えて測定電圧の変化を近似した直線の傾きを順次求めることにより複数の自己放電電流Iprを算出し、これらの平均値又は中央値などの統計値を最終結果として用いてもよい。
【0171】
また、本実施形態ではコントローラ4が定電流源2から蓄電デバイス10の正極電極11へ供給される定電流の大きさを切り替えて自己放電電流Iprを算出したが、これに限られるものではない。例えば、定電流源2と蓄電デバイス10との接続関係を逆にし、定電流源2から蓄電デバイス10の負極電極12へ定電流を供給して蓄電デバイス10を放電し、この状態において定電流の大きさを切り替えてもよい。この場合であっても、上記実施形態のように自己放電電流Iprを算出することができる。
【0172】
さらに、本実施形態では定電流源2から蓄電デバイス10に供給される定電流の大きさを切り替えたが、定電流の向きを切り替えたとしても自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprを算出することができる。以下に、蓄電デバイス10に供給される定電流の向きを切り替えた場合における蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを演算する手法について簡単に説明する。
【0173】
蓄電部13の静電容量Cstは、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第一の電流値I1を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの補正後の測定電圧の傾きAcと、を用いて次式(5)のように表わすことができる。さらに蓄電部13の静電容量Cstは、蓄電デバイス10の自己放電電流Iprと、第二の電流値I2を示す定電流で蓄電デバイス10を放電させたときの測定電圧の傾きAdと、を用いて次式(6)のように表わすことができる。
【0174】
【0175】
上記の式(5)及び式(6)を自己放電電流Iprについて解くと、次式(7)が導出される。
【0176】
【0177】
したがって、第一の電流値I1を示す定電流を充電したときの補正後の測定電圧の傾きAcと、第二の電流値I2を示す定電流で放電させたときの補正後の測定電圧の傾きAdと、を上式(7)に代入することにより、自己放電電流Iprを算出することができる。算出した自己放電電流Iprで蓄電デバイス10の開放電圧を除して放電抵抗Rprが算出される。
【0178】
この場合、第一の電流値I1及び第二の電流値I2については、少なくとも一方の絶対値が、自己放電電流Iprの基準値に対して一倍又は数倍に設定されていればよく、双方の絶対値が、互いに同じ値でも異なる値であってもよい。例えば、第一の電流値I1は、自己放電電流Iprの基準値を一倍した10[μA]に設定され、第二の電流値I2は、第一の電流値I1に「-1」を乗算した値、即ち-10[μA]に設定される。また、電圧変化の傾きAc,Adについては、
図7に示した手法と同様の手法により取得される。
【0179】
また、本実施形態ではコントローラ4が定電流の大きさを切り替えたが、定電流の大きさを切り替えた後に定電流の向きを切り替えてもよく、定電流の向きを切り替えた後に定電流の大きさを切り替えてもよい。この場合には、複数の自己放電電流Iprが得られるので、これらの平均値などを最終結果として用いてもよい。
【0180】
また、本実施形態ではコントローラ4が定電流を切り替えて蓄電デバイス10の自己放電電流Iprを算出したが、定電流を切り替えることなく自己放電電流Iprを算出してもよい。
【0181】
例えば、式(1)中の静電容量Cstが既知であれば、第一の定電流を充電したときの補正後の測定電圧の傾きA1を求め、その傾きA1と、第一の電流値I1と、既知の静電容量Cstと、を上式(1)に代入して自己放電電流Iprを算出してもよい。あるいは、上式(1)中の静電容量Cst及び第一の電流値I1の各々に、予め実測した値又は予測値を代入して、直線の傾きA1と自己放電電流Iprとの対応関係を示す対応テーブルを生成し、これをコントローラ4に予め記憶しておいてもよい。この場合、コントローラ4は、補正後の測定電圧を近似した直線の傾きA1を求めると、対応テーブルを参照し、求めた直線の傾きA1に関係付けられた自己放電電流Iprを算出する。
【0182】
また、蓄電デバイス10の放電抵抗Rprは、上述したように、蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)を自己放電電流Iprで除して算出される。このため、蓄電デバイス10の開放電圧(OCV)が既知であれば、直線の傾きA1と放電抵抗Rprとの関係を示す対応テーブルを生成してコントローラ4に予め記憶しておいてもよい。この場合、コントローラ4は、補正後の測定電圧を近似した直線の傾きA1を求めると、対応テーブルを参照し、求めた直線の傾きA1に関係付けられた放電抵抗Rprを算出する。
【0183】
以上のように、コントローラ4は、短い時間で蓄電デバイス10の一又は複数の測定電圧の変化を検出し、検出した測定電圧の変化を補正した情報に基づき自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprを算出する。それゆえ、蓄電デバイス10の内部状態を推定する精度を確保しつつ、蓄電デバイス10の測定を速やかに開始することができる。
【0184】
次に、第2実施形態による作用効果について説明する。
【0185】
本実施形態における測定装置1のコントローラ4は、蓄電デバイス10の変動情報に基づいて蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正する電圧変化補正部452と、補正した蓄電デバイス10の測定電圧の変化に基づいて蓄電デバイスの自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprを演算する内部状態演算部453と、を備える。
【0186】
この構成によれば、電圧変化補正部452が蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正するので、速やかに蓄電デバイス10の測定を開始することができる。これに加え、内部状態演算部453が、例えば、上記の式(1)、式(4)又は式(7)を用いることにより、補正後の測定電圧の変化に基づき蓄電デバイス10の自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprを求めることができる。
【0187】
したがって、速やかに蓄電デバイス10の測定を開始することができるともに、短い時間で蓄電デバイス10の自己放電状態を求めることができる。
【0188】
また、本実施形態におけるコントローラ4は、蓄電デバイス10に供給される定電流を切り替える測定指令部42をさらに備える。そして電圧変化補正部452は、測定指令部42にとって切り替えられる定電流ごとに、上述の変動情報に基づいて蓄電デバイス10の測定電圧の変化を補正する。内部状態演算部453は、定電流ごとに補正した蓄電デバイス10の測定電圧の変化に基づいて、蓄電デバイスの自己放電電流Ipr又は放電抵抗Rprを演算する。
【0189】
この構成によれば、測定指令部42が定電流を切り替えることにより、互いに異なる定電流ごとに補正後の測定電圧の変化が得られるので、例えば上式(4)又は上式(7)を用いることにより、自己放電電流Iprを算出することができる。このように、測定対象である蓄電デバイス10の実測値を用いて自己放電に関するパラメータが得られるので、理論値又は予測値を用いる場合と比較して、自己放電に関するパラメータの誤差を抑制することができる。
【0190】
また、本実施形態における測定指令部42は、蓄電デバイス10に供給される定電流を、自己放電電流Iprを検出するための第一の定電流と、第一の定電流よりも大きな第二の定電流と、の間で切り替える。
【0191】
この構成によれば、定電流源2から第一の定電流よりも大きな第二の定電流が蓄電デバイス10に供給されるので、蓄電デバイス10の測定電圧の変化が大きくなり、測定電圧の変化の傾きA2を短い時間で精度よく求めることができる。さらに、電圧センサ3によって検出される電圧を示す電気信号の信号対雑音(S/N)比が高くなるので、測定電圧の変化の傾きA2を算出する精度を高めることができる。
【0192】
例えば、
図4Bに示したように蓄電デバイス10の開放電圧が変動する場合は、測定電圧の変化を補正しなければ、放電抵抗Rprの算出値は真値に対して十分の一程度の値になってしまう。これに対し、本実施形態のように測定電圧の変化を補正することにより、蓄電デバイス10自体に電圧変動が生じている状態でも、放電抵抗Rprの算出値を真値に近づけることが可能となる。
【0193】
(第3実施形態)
次に、
図9を参照して、第3実施形態に係る測定装置1aについて説明する。
図9は、測定装置1aの構成を示す図である。測定装置1aは、
図1に示した構成に加えて基準電圧源30を備えている。他の構成については、
図1に示した構成と同じであるため、同一の符号を付して説明を省略する。
【0194】
基準電圧源30は、蓄電デバイス10の電圧に対して基準となる基準電圧を生成する電圧生成手段を構成する。基準電圧源30は、例えば電圧生成回路によって構成される。基準電圧源30の基準電圧は、例えば、蓄電デバイス10の電圧が3[V]程度である場合は、蓄電デバイス10の電圧に対して「-1V」から「+1V」までの範囲内に設定される。
【0195】
電圧センサ3は、定電流を供給した状態での蓄電デバイス10の測定電圧と基準電圧との電位差を測定する。即ち、電圧センサ3は、間接的に蓄電デバイス10の測定電圧の変化を測定する。電圧センサ3は、測定した電位差を示す電気信号をコントローラ4に出力する。
【0196】
コントローラ4は、
図2に示した機能構成と基本的に同じであり、
図3及び
図5に示した第1実施形態の測定方法又は
図3及び
図7に示した第2実施形態の測定方法を実行する。
【0197】
コントローラ4は、蓄電デバイス10の変動情報と、定電流を供給した蓄電デバイス10の電圧と基準電圧との電位差とに基づき、測定した電位差の変化を補正し、補正した電位差の変化に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する演算手段を構成する。
【0198】
本実施形態では、コントローラ4は、電圧センサ3から出力される電気信号に基づいて蓄電デバイス10の測定電圧の時間変化を検出し、検出した測定電圧の時間変化を蓄電デバイス10の変動情報に基づいて補正する。そしてコントローラ4は、補正した測定電圧の時間変化に基づいて、蓄電デバイス10の内部状態の良否又は自己放電状態を測定する。
【0199】
このとき、変動情報としては、例えば、蓄電デバイス10の測定開始前又は測定終了後における蓄電デバイス10の開放電圧と基準電圧との電位差の時間変化を示す実測データが用いられる。これに代えて、測定開始前又は測定終了後における蓄電デバイス10の開放電圧自体の時間変化を示す実測データ、統計データ、理論データ、又はシミュレーション結果などが用いられてもよい。
【0200】
第3実施形態によれば、本実施形態における測定装置1aは、蓄電デバイス10の電圧に対して基準となる基準電圧を生成する基準電圧源30をさらに備える。電圧センサ3は、蓄電デバイス10の測定電圧と基準電圧との電位差を蓄電デバイス10の測定電圧として測定し、コントローラ4は、蓄電デバイス10の変動情報に基づき補正した電位差の変化に基づいて蓄電デバイス10の内部状態を演算する。
【0201】
この構成によれば、定電流源2から定電流を供給した蓄電デバイス10の測定電圧と、基準電圧源30の基準電圧との電位差を測定することによって、蓄電デバイス10の電圧の直流成分の一部が除去されるので、電圧センサ3の分解能を上げることができる。それゆえ、電圧センサ3の内部ノイズによる影響が低減されるので、測定時間を短縮することができる。
【0202】
これに加え、測定した電圧差の変化を補正することにより、電圧センサ3の分解能を上げることに伴って、測定した電位差の変化に現われやすくなる環境起因の変動成分を的確に除去することができる。これにより、蓄電デバイス10の環境に起因する変動成分を低減しつつ電圧センサ3の分解能が上げられるので、精度よく蓄電デバイス10の測定電圧の変化を検出することができる。
【0203】
第3実施形態では基準電圧源30が電圧生成回路によって構成されたが、基準電圧源30は、蓄電デバイス10と同じ種類である他の蓄電デバイスによって構成されてもよい。同じ環境下にある蓄電デバイス10と他の蓄電デバイスとの電位差を測定することによって、蓄電デバイス10の温度変化に伴う電圧変動成分が除去されるので、蓄電デバイス10の内部状態の違いに起因する電圧変化の検出精度を高めることができる。
【0204】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0205】
例えば、蓄電デバイス10の電圧変化の程度は蓄電デバイス10の内部温度に応じて変わる。この性質を利用して蓄電デバイス10の電圧変化と内部温度との関係を示す温度テーブルをコントローラ4に予め記憶しておき、コントローラ4は、補正した蓄電デバイス10の測定電圧の変化に基づいて蓄電デバイス10の内部温度を推定してもよい。
【0206】
また、上記実施形態では蓄電デバイス10の補正後の電圧変化を用いて自己放電電流Ipr及び放電抵抗Rprを算出したが、これに代えて又は加えて、蓄電部13の静電容量Cstを算出してもよい。例えば、第二の電流値I2を示す定電流を蓄電デバイス10に充電したときの補正後の電圧変化の傾きA2と第二の電流値I2とを上式(2)に代入して蓄電部13の静電容量Cstを算出する。
【0207】
これに加え、コントローラ4は、算出した静電容量Cstに基づいて蓄電デバイス10の内部状態を判定してもよい。例えば、コントローラ4は、静電容量Cstの算出値が所定の正常範囲内にあるか否かを判定することで、蓄電デバイス10の良否を判定する。
【0208】
また、上記実施形態では一つの蓄電デバイス10の内部状態を測定したが、複数の蓄電デバイス10が直列接続された蓄電モジュールの内部状態についても測定することが可能である。また、
図1及び
図9に示した測定装置1及び1aには、表示部5及び操作部6が含まれているが、表示部5及び操作部6の少なくとも一つを省略してもよい。
【符号の説明】
【0209】
1、1a 測定装置
2 定電流源(供給手段)
3 電圧センサ(測定手段)
4 コントローラ(取得手段、演算手段)
10 蓄電デバイス
13 蓄電部
14 内部抵抗
15 並列抵抗
42 測定指令部(切替手段)
43 電圧取得部(取得手段)
45 演算部(演算手段)
451 電圧変化検出部(検出手段)
452 電圧変化補正部(補正手段、減算補正手段)
453 内部状態演算部(自己放電演算手段)
30 基準電圧源(電圧生成手段)
S1、S2、S3、S4(取得ステップ、供給ステップ、測定ステップ、演算ステップ)