(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】減弱分布画像作成装置、画像処理装置、放射線断層撮影システム、減弱分布画像作成方法、画像処理方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20240628BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240628BHJP
G06N 3/02 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
G01T1/161 A
G06T7/00 350C
G06N3/02
(21)【出願番号】P 2020011664
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100110582
【氏名又は名称】柴田 昌聰
(72)【発明者】
【氏名】橋本 二三生
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅典
(72)【発明者】
【氏名】大手 希望
(72)【発明者】
【氏名】磯部 卓志
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-105734(JP,A)
【文献】特開2017-142131(JP,A)
【文献】特開昭63-085481(JP,A)
【文献】HWANG, Donghwi, et al.,"Improving the Accuracy of Simultaneously Reconstructed Activity and Attenuation Maps Using Deep Lea,THE JOURNAL OF NUCLEAR MEDICINE,2018年,Vol.59, No.10,pp.1624-1629
【文献】LIU Fang, et al.,"A deep learning approach for 18F-FDG PET attenuation correction",EJNMMI Physics,2018年,5:24,page 1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161-1/166
A61B 6/00-6/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像を入力画像とし減弱分布画像に基づく被検体領域抽出画像を教師画像として学習させたニューラルネットワークに、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を入力させて、該ニューラルネットワークから中間画像を出力させる第1処理部と、
前記減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得した際に被検体を載置した寝台の像を前記中間画像に加えて、減弱分布画像を作成する第2処理部と、
を備える減弱分布画像作成装置。
【請求項2】
複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像を入力画像とし減弱分布画像を教師画像として学習させたニューラルネットワークに、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を入力させて、該ニューラルネットワークから中間画像を出力させる第1処理部と、
前記減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得した際に被検体を載置した寝台の像を前記中間画像に基づく被検体領域抽出画像に加えて、減弱分布画像を作成する第2処理部と、
を備える減弱分布画像作成装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の減弱分布画像作成装置と、
前記減弱分布画像作成装置により作成された減弱分布画像を用いて、前記減弱補正対象のエミッションスキャン画像の減弱補正を行う減弱補正部と、
を備える画像処理装置。
【請求項4】
減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得する為の放射線断層撮影装置と、
請求項1または2に記載の減弱分布画像作成装置と、
前記減弱分布画像作成装置により作成された減弱分布画像を用いて、前記減弱補正対象のエミッションスキャン画像の減弱補正を行う減弱補正部と、
を備える放射線断層撮影システム。
【請求項5】
複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像を入力画像とし減弱分布画像に基づく被検体領域抽出画像を教師画像として学習させたニューラルネットワークに、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を入力させて、該ニューラルネットワークから中間画像を出力させる第1処理ステップと、
前記減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得した際に被検体を載置した寝台の像を前記中間画像に加えて、減弱分布画像を作成する第2処理ステップと、
を備える減弱分布画像作成方法。
【請求項6】
複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像を入力画像とし減弱分布画像を教師画像として学習させたニューラルネットワークに、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を入力させて、該ニューラルネットワークから中間画像を出力させる第1処理ステップと、
前記減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得した際に被検体を載置した寝台の像を前記中間画像に基づく被検体領域抽出画像に加えて、減弱分布画像を作成する第2処理ステップと、
を備える減弱分布画像作成方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の減弱分布画像作成方法と、
前記減弱分布画像作成方法により作成された減弱分布画像を用いて、前記減弱補正対象のエミッションスキャン画像の減弱補正を行う減弱補正ステップと、
を備える画像処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減弱分布画像を作成する装置および方法、ならびに、減弱分布画像を用いてエミッションスキャン画像の減弱補正を行う装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被検体(生体)の断層画像を取得することができる放射線断層撮影装置として、PET(Positron Emission Tomography)装置およびSPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置が挙げられる。
【0003】
PET装置は、被検体が置かれる測定空間の周囲に配列された多数の小型の放射線検出器を有する検出部を備えている。PET装置は、陽電子放出アイソトープ(RI線源)が投入された被検体内における電子・陽電子の対消滅に伴って発生するエネルギ511keVの光子対を検出部により同時計数法で検出し、この同時計数情報を収集する。そして、この収集した多数の同時計数情報に基づいて、測定空間における光子対の発生頻度の空間分布(すなわち、RI線源の空間分布)を表す断層画像を再構成することができる。このとき、PET装置により収集された同時計数情報を時系列に並べたリストデータを収集順に複数のフレームに分割し、そのリストデータのうち各フレームに含まれるデータを用いて画像再構成処理を行うことで、複数のフレームの断層画像からなる動態PET画像を得ることができる。このPET装置は核医学分野等で重要な役割を果たしており、これを用いて例えば生体機能や脳の高次機能の研究を行うことができる。
【0004】
被検体内で発生した光子は、被検体を通過する際に吸収されて減弱する他、被検体を載置する寝台を通過する際にも吸収されて減弱する。したがって、より正確な断層画像を取得するには減弱補正を行うことが必要である。例えば、PET装置を用いて、RI線源を含む薬剤を投与された被検体について測定(エミッションスキャン)を行って断層画像(エミッションスキャン画像)を取得するとともに、薬剤を投与されていない該被検体の周囲でRI線源を旋回させながら測定(トランスミッションスキャン)を行って断層画像(トランスミッションスキャン画像)を取得し、トランスミッションスキャン画像を用いてエミッションスキャン画像の減弱補正を行う。
【0005】
エミッションスキャン画像の減弱補正は、上記のようにPET装置によりトランスミッションスキャンを行うことで取得されるトランスミッションスキャン画像が用いられる他、X線CT装置によりスキャンを行うことで取得されるX線CTスキャン画像も用いられ得る。したがって、減弱補正を行ってより正確な断層画像を取得するには、PET装置は、トランスミッションスキャン機構またはX線CTスキャン機構を有することが必要である。このことはPET装置の簡易化や低価格化の妨げの一因となっている。
【0006】
以下では、トランスミッションスキャン画像およびX線CTスキャン画像から求めたエネルギ511keVにおける減弱分布画像を含めて減弱分布画像という。減弱分布画像は被検体内における光子の減弱分布を表す。この減弱分布画像を用いることによりエミッションスキャン画像の減弱補正を行うことができる。
【0007】
非特許文献1,2に記載された技術は、多数組のエミッションスキャン画像およびトランスミッションスキャン画像を用いて畳み込みニューラルネットワーク(CNN: Convolutional Neural Network)を学習させ、この学習済みのCNNにより減弱補正対象のエミッションスキャン画像から減弱分布画像を作成し、この減弱分布画像を用いてエミッションスキャン画像の減弱補正を行う。この技術は、PET装置がトランスミッションスキャン機構またはX線CTスキャン機構を有していない場合であっても、学習済みのCNNを用いることで減弱補正を可能とする。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Liu, Fang, et al. "A deeplearning approach for 18F-FDG PET attenuation correction." EJNMMI physics(2018) 5:24.
【文献】Hwang, Donghwi, et al."Improving the accuracy of simultaneously reconstructed activity andattenuation maps using deep learning." Journal of Nuclear Medicine 59.10(2018): 1624-1629.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1,2に記載された技術は、CNNの学習に用いる多数組のエミッションスキャン画像およびトランスミッションスキャン画像を取得する際に用いられるPET装置と、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得する際に用いられるPET装置とが、同一であることを前提している。この技術では、CNNの学習に用いたPET装置と異なるPET装置を用いて取得したエミッションスキャン画像については、正確な減弱分布画像を作成することができず、正確な減弱補正を行うことができない。
【0010】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、ニューラルネットワークの学習に用いた放射線断層撮影装置と異なる放射線断層撮影装置を用いて取得したエミッションスキャン画像であっても、そのエミッションスキャン画像から、より正確な減弱分布画像を作成することができる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様の減弱分布画像作成装置は、(1) 複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像を入力画像とし減弱分布画像に基づく被検体領域抽出画像を教師画像として学習させたニューラルネットワークに、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を入力させて、該ニューラルネットワークから中間画像を出力させる第1処理部と、(2) 減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得した際に被検体を載置した寝台の像を中間画像に加えて、減弱分布画像を作成する第2処理部と、を備える。
【0012】
本発明の第2態様の減弱分布画像作成装置は、(1) 複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像を入力画像とし減弱分布画像を教師画像として学習させたニューラルネットワークに、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を入力させて、該ニューラルネットワークから中間画像を出力させる第1処理部と、(2) 減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得した際に被検体を載置した寝台の像を中間画像に基づく被検体領域抽出画像に加えて、減弱分布画像を作成する第2処理部と、を備える。
【0013】
本発明の画像処理装置は、(1) 上記の本発明の第1態様または第2態様の減弱分布画像作成装置と、(2) 減弱分布画像作成装置により作成された減弱分布画像を用いて、減弱補正対象のエミッションスキャン画像の減弱補正を行う減弱補正部と、を備える。
【0014】
本発明の放射線断層撮影システムは、(1) 減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得する為の放射線断層撮影装置と、(2) 上記の本発明の第1態様または第2態様の減弱分布画像作成装置と、(3) 減弱分布画像作成装置により作成された減弱分布画像を用いて、減弱補正対象のエミッションスキャン画像の減弱補正を行う減弱補正部と、を備える。
【0015】
本発明の第1態様の減弱分布画像作成方法は、(1) 複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像を入力画像とし減弱分布画像に基づく被検体領域抽出画像を教師画像として学習させたニューラルネットワークに、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を入力させて、該ニューラルネットワークから中間画像を出力させる第1処理ステップと、(2) 減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得した際に被検体を載置した寝台の像を中間画像に加えて、減弱分布画像を作成する第2処理ステップと、を備える。
【0016】
本発明の第2態様の減弱分布画像作成方法は、(1) 複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像を入力画像とし減弱分布画像を教師画像として学習させたニューラルネットワークに、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を入力させて、該ニューラルネットワークから中間画像を出力させる第1処理ステップと、(2) 減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得した際に被検体を載置した寝台の像を中間画像に基づく被検体領域抽出画像に加えて、減弱分布画像を作成する第2処理ステップと、を備える。
【0017】
本発明の画像処理方法は、(1) 上記の本発明の第1態様または第2態様の減弱分布画像作成方法と、(2) 減弱分布画像作成方法により作成された減弱分布画像を用いて、減弱補正対象のエミッションスキャン画像の減弱補正を行う減弱補正ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ニューラルネットワークの学習に用いた放射線断層撮影装置と異なる放射線断層撮影装置を用いて取得したエミッションスキャン画像であっても、そのエミッションスキャン画像から、より正確な減弱分布画像を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、放射線断層撮影システム1の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、減弱分布画像作成部22の第1処理部31で用いられるCNNを学習させる学習システム2の構成を示す図である。
【
図3】
図3は、第1態様のCNN学習のフローチャートである。
【
図4】
図4は、第1態様の減弱分布画像作成および減弱補正のフローチャートである。
【
図5】
図5は、減弱分布画像に基づいて被検体領域抽出画像を作成する処理(ステップS12)のフローチャートである。
【
図6】
図6は、
図5のフローチャートの各ステップで作成される画像の一例を説明する図である。
【
図7】
図7は、第2態様のCNN学習のフローチャートである。
【
図8】
図8は、第2態様の減弱分布画像作成および減弱補正のフローチャートである。
【
図9】
図9は、減弱補正対象のエミッションスキャン画像である。
【
図10】
図10は、X線CTスキャン画像(正解画像)である。
【
図11】
図11は、第1実施例において仮にステップS12で寝台の像を除去しなかった場合にステップS22で作成された中間画像である。
図11は、第2実施例においてステップS42において作成された中間画像でもある。
【
図12】
図12は、第1実施例においてステップS23で作成された減弱分布画像である。
【
図13】
図13は、第2実施例においてステップS43で作成された被検体領域抽出画像である。
【
図14】
図14は、第2実施例においてステップS43で作成された減弱分布画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
図1は、放射線断層撮影システム1の構成を示す図である。放射線断層撮影システム1は、放射線断層撮影装置10および画像処理装置20を備える。画像処理装置20は、画像再構成部21、減弱分布画像作成部22および減弱補正部23を備える。減弱分布画像作成部(減弱分布画像作成装置)22は、第1処理部31および第2処理部32を含む。
【0022】
放射線断層撮影装置10は、エミッションスキャンを行って、被検体の断層画像(エミッションスキャン画像)を再構成するためのリストデータ(エミッションスキャンデータ)を収集する装置である。放射線断層撮影装置10として、PET装置およびSPECT装置が挙げられる。以下では、放射線断層撮影装置10がPET装置であるとして説明をする。
【0023】
放射線断層撮影装置10は、寝台上に載置された被検体が置かれる測定空間の周囲に配列された多数の小型の放射線検出器を有する検出部を備えている。放射線断層撮影装置10は、陽電子放出アイソトープ(RI線源)が投入された被検体内における電子・陽電子の対消滅に伴って発生するエネルギ511keVの光子対を検出部により同時計数法で検出し、この同時計数情報を蓄積する。そして、放射線断層撮影装置10は、この蓄積した多数の同時計数情報を時系列に並べたものをリストデータ(エミッションスキャンデータ)として画像処理装置20へ出力する。
【0024】
リストデータは、光子対を同時計数した1対の放射線検出器の識別情報および検出時刻情報を含む。リストデータは、さらに、各放射線検出器が検出した光子のエネルギ情報、および、1対の放射線検出器の検出時間差情報をも含んでいてもよい。
【0025】
画像処理装置20として、CPU、RAM、ROMおよびハードディスクドライブ等を有するコンピュータが用いられる。また、画像処理装置20は、操作者の入力を受け付ける入力部(例えばキーボードやマウス)を備え、画像等を表示する表示部(例えば液晶ディスプレイ)を備える。
【0026】
画像処理装置20は、画像再構成部21によりエミッションスキャンデータに基づいてエミッションスキャン画像を再構成し、減弱分布画像作成部22によりエミッションスキャン画像に基づいて減弱分布画像を作成し、減弱補正部23により減弱分布画像に基づいてエミッションスキャン画像の減弱補正を行う。
【0027】
画像再構成部21においてエミッションスキャンデータに基づいてエミッションスキャン画像を再構成する技術としては、ML-EM(maximum likelihood expectationmaximization)法、および、これを改良したブロック反復法による逐次近似的画像再構成技術が知られている。また、ブロック反復法による逐次近似的画像再構成技術としては、OSEM(ordered subset ML-EM)法、RAMLA(row-action maximum likelihood algorithm)法およびDRAMA(dynamic RAMLA)法などが知られている。
【0028】
減弱分布画像作成部22の第1処理部31は、画像再構成部21による再構成処理により作成されたエミッションスキャン画像を入力し、学習済みのニューラルネットワークを用いて、このエミッションスキャン画像に基づいて中間画像を作成し出力する。ここで用いるニューラルネットワークは好適には畳み込みニューラルネットワーク(CNN)である。第2処理部32は、第1処理部31により作成された中間画像を入力し、この中間画像に基づいて減弱分布画像を作成し出力する。第1処理部31および第2処理部32の詳細については後述する。
【0029】
減弱補正部23は、エミッションスキャンデータを入力するとともに、減弱分布画像作成部22により作成された減弱分布画像を入力する。そして、減弱補正部23は、減弱分布画像に基づいて減弱補正ありの画像再構成を行い、当該補正後の断層画像を作成する。
【0030】
図2は、減弱分布画像作成部22の第1処理部31で用いられるCNNを学習させる学習システム2の構成を示す図である。学習システム2は、CNN処理部41および評価部42を備える。CNNの学習に際しては、先ず、複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像および減弱分布画像を用意する。ここで用意する減弱分布画像は、PET装置によりトランスミッションスキャンを行うことで取得されるトランスミッションスキャン画像であってもよいし、X線CT装置によりスキャンを行うことで取得されるX線CTスキャン画像であってもよい。
【0031】
CNN処理部41は、各被検体のエミッションスキャン画像を入力画像としてCNNに入力させて、そのCNNから出力画像を出力させる。評価部42は、同被検体の減弱分布画像(または、減弱分布画像に基づく被検体領域抽出画像(後述))を教師画像として用いて、CNN処理部41からの出力画像と教師画像との差(例えばL2ノルム)を算出する。CNN処理部41は、評価部42により算出された差に基づいてCNNのパラメータを修正する。このような一連の処理を、複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像および減弱分布画像を用いて行うことで、CNNを学習させることができる。
【0032】
次に、減弱分布画像作成部22の第1処理部31および第2処理部32それぞれの処理内容について説明する。これらの処理については二つの態様がある。また、それに応じて、学習システム2におけるCNN学習処理についても二つの態様がある。
【0033】
第1態様のCNN学習および減弱分布画像作成について
図3および
図4を用いて説明する。
図3は、第1態様のCNN学習のフローチャートである。
図4は、第1態様の減弱分布画像作成および減弱補正のフローチャートである。
【0034】
第1態様のCNN学習では、ステップS11において、複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像および減弱分布画像を用意する。この減弱分布画像は、被検体の像を含む他、被検体を載置した寝台の像を含み、また、その他の不要な像をも含む場合がある。不要な像とは、断層画像に基づいて被検体の状態を診断する上で不要な像であり、例えば腕の像である。ステップS12において、複数の被検体それぞれの減弱分布画像から寝台の像や不要な像を除去し、減弱分布画像から被検体領域(例えば頭部領域)を抽出して、被検体領域抽出画像を作成する。ステップS13において、学習システム2により、複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像(入力画像)および被検体領域抽出画像(教師画像)を用いて、CNNを学習させる。
【0035】
第1態様の減弱分布画像作成では、ステップS21において、画像再構成部21により、放射線断層撮影装置10により取得されたエミッションスキャンデータに基づいてエミッションスキャン画像を作成する。ここで作成されるエミッションスキャン画像が減弱補正対象となる。第1処理ステップS22において、第1処理部31により、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を学習済みCNNに入力させて、このCNNから中間画像を出力させる。この中間画像は、減弱補正対象のエミッションスキャン画像に対応する減弱分布画像であるが、このエミッションスキャン画像を取得した際に被検体を載置した寝台(放射線断層撮影装置10の寝台)の像を含んでいない。
【0036】
第2処理ステップS23において、第2処理部32により、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得した際に被検体を載置した寝台(放射線断層撮影装置10の寝台)の像を中間画像に加えて、その寝台の像を含む減弱分布画像を作成する。減弱補正ステップS24では、減弱補正部23により、ステップS23で作成された減弱分布画像を用いて、ステップS21で作成されたエミッションスキャン画像の減弱補正を行い、減弱補正後の断層画像を作成する。
【0037】
なお、CNN学習(ステップS13)および第1処理部31による処理(ステップS22)において、CNNに入力させる画像の画素数および画像中の被検体の大きさが一致しているのが好ましい。その為の前処理をステップS13の前またはステップS22の前に行うのが好ましい。
【0038】
また、減弱分布画像から被検体領域を抽出する処理(ステップS12)では、減弱分布画像において被検体の像、寝台の像および不要な像それぞれの領域が予め分かっていれば、容易に被検体領域抽出画像を作成することができる。また、
図5のフローチャートおよび
図6の画像例に示すとおり、減弱分布画像に対して、二値化処理、クロージング処理、オープニング処理、最大値フィルタ処理およびマスク処理を順次に行うことでも、容易に被検体領域抽出画像を作成することができる。
【0039】
第2態様のCNN学習および減弱分布画像作成について
図7および
図8を用いて説明する。
図7は、第2態様のCNN学習のフローチャートである。
図8は、第2態様の減弱分布画像作成および減弱補正のフローチャートである。
【0040】
第2態様のCNN学習では、ステップS31において、複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像および減弱分布画像を用意する。この減弱分布画像は、被検体の像を含む他、被検体を載置した寝台の像を含み、また、その他の不要な像をも含む場合がある。ステップS32において、学習システム2により、複数の被検体それぞれのエミッションスキャン画像(入力画像)および減弱分布画像(教師画像)を用いて、CNNを学習させる。
【0041】
第2態様の減弱分布画像作成では、ステップS41において、画像再構成部21により、放射線断層撮影装置10により取得されたエミッションスキャンデータに基づいてエミッションスキャン画像を作成する。ここで作成されるエミッションスキャン画像が減弱補正対象となる。第1処理ステップS42において、第1処理部31により、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を学習済みCNNに入力させて、このCNNから中間画像を出力させる。この中間画像は、減弱補正対象のエミッションスキャン画像に対応する減弱分布画像であり、被検体を載置する寝台の像を含んでいる場合がある。
【0042】
第2処理ステップS43において、第2処理部32により、中間画像から被検体領域を抽出して、被検体領域抽出画像を作成する。さらに、ステップS43において、第2処理部32により、減弱補正対象のエミッションスキャン画像を取得した際に被検体を載置した寝台(放射線断層撮影装置10の寝台)の像を被検体領域抽出画像に加えて、その寝台の像を含む減弱分布画像を作成する。減弱補正ステップS44では、減弱補正部23により、ステップS43で作成された減弱分布画像を用いて、ステップS41で作成されたエミッションスキャン画像の減弱補正を行い、減弱補正後の断層画像を作成する。
【0043】
なお、CNN学習(ステップS32)および第1処理部31による処理(ステップS42)において、CNNに入力させる画像の画素数および画像中の被検体の大きさが一致しているのが好ましい。その為の前処理をステップS32の前またはステップS42の前に行うのが好ましい。また、第2態様における中間画像から被検体領域を抽出する処理(ステップS43)は、第1態様における減弱分布画像から被検体領域を抽出する処理(ステップS12)と同様にして行うことができる。
【0044】
次に実施例について説明する。以下に説明する第1実施例は上記実施形態の第1態様に相当するものであり、第2実施例は上記実施形態の第2態様に相当するものである。
【0045】
第1実施例および第2実施例の何れにおいても、1091症例分のエミッションスキャン画像および減弱分布画像をCNNの学習に用いた。これらの画像は、浜松ホトニクス株式会社製の頭部用PET装置SHR-12000(以下「装置A」という。)を用いて取得されたものである。この装置Aはトランスミッションスキャン機構を備えており、減弱分布画像はトランスミッションスキャン画像である。
【0046】
また、第1実施例および第2実施例の何れにおいても、減弱補正対象のエミッションスキャン画像(
図9)は、浜松ホトニクス株式会社製の全身用PET/CT装置SHR-74000(以下「装置B」という。)を用いて取得されたものである。この装置BはX線CTスキャン機構を備えている。この機構により取得されるX線CTスキャン画像(
図10)は、正解画像として、実施例により作成された減弱分布画像との比較のみに用いた。装置Aと装置Bとは、被検体を載置する寝台の形状が相違している。
【0047】
図9は、減弱補正対象のエミッションスキャン画像である。
図10は、X線CTスキャン画像(正解画像)である。
図11は、第1実施例において仮にステップS12で寝台の像を除去しなかった場合にステップS22で作成された中間画像である。
図12は、第1実施例においてステップS23で作成された減弱分布画像である。
図11は、第2実施例においてステップS42において作成された中間画像でもある。
図13は、第2実施例においてステップS43で作成された被検体領域抽出画像である。
図14は、第2実施例においてステップS43で作成された減弱分布画像である。
【0048】
装置Aおよび装置Bそれぞれの寝台の形状が相違していても、第1実施例および第2実施例それぞれで作成された減弱分布画像(
図12,
図14)は、寝台の像の形状を含めてX線CTスキャン画像(正解画像、
図10)と良く一致している。このように、本実施形態では、ニューラルネットワークの学習に用いたPET装置と異なるPET装置を用いて取得したエミッションスキャン画像であっても、そのエミッションスキャン画像から、より正確な減弱分布画像を作成することができる。そして、この減弱分布画像を用いることにより、より正確なエミッションスキャン画像の減弱補正を行うことができる。
【0049】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、被検体に投与する薬剤は多くの種類があるので、薬剤毎にCNNの学習(ステップS13,S32)を行い、減弱補正対象のエミッションスキャン画像に基づいて中間画像を求める第1処理(ステップS22,S42)では、そのエミッションスキャン時に被検体に投与した薬剤について学習させたCNNを用いてもよい。
【0050】
また、複数種類の薬剤を混合して被検体に投与して取得されたエミッションスキャン画像および減弱分布画像を用いてCNNの学習(ステップS13,S32)を行い、減弱補正対象のエミッションスキャン画像に基づいて中間画像を求める第1処理(ステップS22,S42)では、その複数種類の薬剤の混合状態で学習させたCNNを用いてもよい。この場合、CNNの学習(ステップS13,S32)において、薬剤の種類に依存しない減弱分布の特徴を捉えることができるので、減弱補正対象のエミッションスキャン画像の取得の際に被検体に投与した薬剤の種類に拘わらず、或いは、投与した薬剤が未知であっても、正確な減弱分布画像を作成することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…放射線断層撮影システム、2…学習システム、10…放射線断層撮影装置、20…画像処理装置、21…画像再構成部、22…減弱分布画像作成部、23…減弱補正部、31…第1処理部、32…第2処理部、41…CNN処理部、42…評価部。