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特許7511358高電気抵抗性カーボンブラックおよび高電気抵抗性ゴム組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】高電気抵抗性カーボンブラックおよび高電気抵抗性ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20240628BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20240628BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240628BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C09C1/48
C09D17/00
C08L21/00
C08K3/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020032281
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021134297
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000116747
【氏名又は名称】旭カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直也
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特公平06-008366(JP,B2)
【文献】特開昭62-297207(JP,A)
【文献】鈴木祝寿 宮崎国弘,各種の表面酸化処理によるカーボンブラックの表面官能基の変化,日本化学雑誌,88巻 6号,日本,1967年,第609(33)頁-614(38)頁
【文献】吸着法によるカーボンブラックの比表面積測定,色材,1971、第44巻,第388-392頁
【文献】カーボンブラック,J. Jpa. Soc. Colour Mater,2010, Vol.83, No.9,p.387-393
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/48
C09D 17/00
C08L 21/00
C08K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化処理を行ったカーボンブラックであって、前記酸化処理後の全酸性度(Ta)と前記酸化処理前の全酸性度(Tb)の比Ta/Tbが2~5であり、前記酸化処理後のカーボンブラックにおける全酸性度に対する強酸性度の比SRが30~58%であり、窒素吸着比表面積(N SA)が20~50m /gであることを特徴とするカーボンブラック。
【請求項2】
請求項1記載のカーボンブラックを配合した高電気抵抗性ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電気抵抗性のカーボンブラックおよび当該カーボンブラックを配合した高電気抵抗性ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の為、自動車各メーカーは低燃費化の課題に取り組んでいる。その解決策として、自動車構造材軽量化の為にアルミを用いることが有効とされているが、多様な部材の使用により、電食が発生するといった新たな問題の原因となることも知られている。
電食を防止するためには絶縁化、即ち体積固有抵抗値を上げる必要があるが、例えばウェザーストリップやホースといった自動車部品においては、使用されている充填剤であるカーボンブラックの抵抗値を上げることでその対策が試みられている。
一般的にカーボンブラックは構造上、π電子の共役に由来する導電性を持つために抵抗値は低い傾向にあるが、種々手法により当該導電性を阻害し、高電気抵抗性を得る試みがなされている。
例えば、高電気抵抗性樹脂でカーボンブラック表面を被覆する手法(特許文献1)や、カーボンブラック表面に官能基を導入する手法(特許文献2)などが有るが、何れもカーボンブラックをゴムに配合した際の反応点をつぶす為、配合ゴムの諸物性(補強特性等)が低下する点が考慮されていない。
また、カーボンブラックの形態、粒子硬さ等を規定することで、高電気抵抗性とゴム配合時の物性の両立を試みる手法(特許文献3)も有るが、その規定故に広範なカーボンブラックにおける高電気抵抗性は得られず、汎用性に欠ける。高電気抵抗性は多様な部材に求められており、それらに対応する多様なカーボンブラックに対して適用できる技術が、今なお検討されているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-249678号公報
【文献】特許第4464081号公報
【文献】特開2001-49144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はゴム配合時、高電気抵抗性と補強性(特に硬さ)を高位に両立させるカーボンブラック、およびそれを配合して成るゴム組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討した結果、上記課題が次の(1)~(3)の発明によって解決されることを見出した。
(1)酸化処理を行ったカーボンブラックであって、前記酸化処理後の全酸性度(Ta)と前記酸化処理前の全酸性度(Tb)の比Ta/Tbが2~5であり、前記酸化処理後のカーボンブラックにおける全酸性度に対する強酸性度の比SRが30~58%であることを特徴とするカーボンブラック。
(2)(1)のカーボンブラックであって、窒素吸着比表面積(NSA)が20~50m/gであることを特徴とするカーボンブラック。
(3)(1)、(2)何れかのカーボンブラックを配合した高電気抵抗性ゴム組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ゴム配合時、高電気抵抗性と補強性の高位な両立を可能とするカーボンブラック、およびそれを配合して成る高電気抵抗性ゴム組成物が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
従来技術において、本発明のようにカーボンブラック表面の全酸性度、強酸性度について一定の関係性を規定し、高電気抵抗性とゴム配合時のゴム物性を高次に両立させようという試みは、本発明者の知る限り存在しない。加えて本発明は、その最適条件を提示したものであり、全く新規な特性のカーボンブラックであって、従来のカーボンブラックでは達成できない顕著な効果を奏する。
このような新規な特性を有する本発明のカーボンブラックは、例えば一般的な酸化方法である高温雰囲気下で空気と接触・反応させる空気酸化法、常温下で窒素酸化物やオゾン等と反応させる方法、液相酸化法等によって得ることができ、酸化処理の方法は特に制限されないが、元となるカーボンブラックの物性を勘案し、酸化処理条件を調節して、本願規定の任意の範囲とすることが肝要である。
【0008】
<Ta/Tb、SR>
全酸性度、強酸性度は共にカーボンブラック表面の含酸素官能基量を表し、全酸性度はその総量、強酸性度は特にCOOH基の量を表す。これらの表面性状はカーボンブラックの電気抵抗性や、ゴムとの相互作用に由来する配合ゴムの硬さ等に影響を及ぼし、通常これら物性は背反条件にある。本発明では、酸化処理後の全酸性度(Ta)と酸化処理前の全酸性度(Tb)より算出される比であるTa/Tbが2~5である。Ta/Tbが前記規定値下限よりも小さいと官能基の付与が十分に行われず、電気抵抗の上昇幅が少ない。また前記規定値上限よりも大きいと官能基の付与が過剰となり、硬さの過度の低下を生じる。酸化処理前の全酸性度(Tb)に対し、酸化処理後の全酸性度(Ta)への変化の程度を上記範囲にすることにより、電気抵抗を増加させつつも配合したゴムの硬さを維持することができる。電気抵抗の上昇幅をより大きくし、硬さの低下をより抑制する観点から、Ta/Tbは3~4が好ましい。
一方、本発明では、酸化処理後のカーボンブラックにおける全酸性度に対する強酸性度の比(SR)である強酸性度/全酸性度が30~58%である。SRが前記規定値下限よりも小さいと、特に奏効する強酸性官能基の存在率が低く、電気抵抗の上昇幅が少ない。また前記規定値上限よりも大きいと強酸性官能基の存在が過剰となり、硬さの過度の低下を生じる。電気抵抗の上昇幅をより大きくし、硬さの低下をより抑制する観点から、SRは35~55%が好ましい。
【0009】
<NSA>
窒素吸着比表面積(NSA)は、カーボンブラック単位重量当たりの表面積(m/g)である。本発明のカーボンブラックは、Ta/TbおよびSRが上記範囲にあれば特に制限されるものでないが、NSAは20~50m/gが好ましい。前記規定値下限よりも小さいと比表面積が少なすぎ、十分な官能基付与を行うことが出来ないおそれがあり、前記規定値上限よりも大きいと比表面積が大きすぎ、過剰な官能基付与、および/又はカーボンブラック自体の分散不良による各物性への悪影響が生じるおそれがある。また、カーボンブラックの特性の1つであるDBP吸収量は、本発明のカーボンブラックにおいては特に制限されず、例えばカーボンブラックにおける通常のDBP吸収量である50~200ml/100gでもよい。酸化処理前のカーボンブラックとしてNSAやDBP吸収量が上記範囲にあるカーボンブラックを使用すれば、酸化処理後にこれらの特性が同様の範囲にあるカーボンブラックが得られる。
【0010】
本発明の高電気抵抗性ゴム組成物は、本発明のカーボンブラックを配合したゴム組成物である。本発明におけるゴムとしては特に制限されないが、例えば、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム等を挙げることができ、これらのゴムは単独で用いても任意に組み合わせてブレンドゴムとして用いてもよい。また、本発明の高電気抵抗性ゴム組成物は、一般にゴム組成物に使用される添加剤を含んでもよく、カーボンブラックの配合量は、ゴム特性及び求める特性に応じて適宜選択できる。本発明の高電気抵抗性ゴム組成物は、ゴム及び本発明のカーボンブラック並びに必要に応じて添加剤等の他の成分を一般に用いられる方法により配合、混練りすることにより製造できる。
【実施例
【0011】
以下、実施例および比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0012】
実施例1~6、比較例1~4
<カーボンブラックの製造>
参照例1(DBP:110ml/100g、NSA:40m/g)、および参照例2(DBP:130ml/100g、NSA:30m/g)のカーボンブラックに対し、所定の全酸性度、強酸性度が得られるよう酸化処理を行い、実施例および比較例の各カーボンブラックを製造した。酸化処理は、簡便的にオゾンガスを用いた気相酸化法により行った。得られたカーボンブラックの物理化学特性を表1に示す。
【0013】
【表1】
【0014】
上記表1に示した各特性は次の方法により測定したものである。
(1)DBP吸収量
JIS K6217-4:2017に記載の方法で測定した。
(2)NSA
JIS K6217-2:2017に記載の方法で測定した。
(3)全酸性基
カーボンブラック1gを精秤し、1/250規定の水酸化ナトリウム溶液50mlを加え、還流冷却器をつけたフラスコ中で100℃、2時間煮沸を行なった後、その上澄液25mlを1/500規定の塩酸で滴定した。同時に空試験を並行して行ない、両者の差から全酸性基量(meq/g)を求めた。
(4)強酸性基
カーボンブラック1gを精秤し、1/500規定の炭酸水素ナトリウム溶液50mlを加え、室温で4時間振とうした後、その上澄液25mlに1/500規定の塩酸50mlを加え、沸騰させて60mlにする。当該溶液を1/500規定の水酸化ナトリウムで滴定した。同時に空試験を並行して行ない、両者の差から強酸性基量(meq/g)を求めた。
【0015】
表1に示した各カーボンブラックを用い、表2に示す配合に従い常法で配合・混練りすることで、各評価用ゴムを作製した。これらの評価結果を表3に示す。
【0016】
【表2】
【0017】
【表3】
【0018】
上記表3に示した各特性は、次の方法により測定したものである。
(1)硬さ
JIS K6253-3:2012に記載の方法で測定した。
(2)体積固有抵抗
JIS K6271-1:2015に記載の方法で測定した。
【0019】
表3の評価結果から明らかなように、本発明のカーボンブラックを用いて作製したゴムは、比較例、参照例のカーボンブラックを用いたゴムと比べて、10~10高い体積固有抵抗を示し、且つゴムの硬さも一定以上に維持されていることから、ゴムの高電気抵抗性と補強性の高位な両立が達成されていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明のカーボンブラックは、向上した硬さと増加した体積固有抵抗値の両立が求められるゴム組成物に好適に使用することができ、本発明の高電気抵抗性ゴム組成物は、自動車のウェザーストリップや、ゴムホース等の用途に好適に使用できる。