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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】光電変換素子とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0232 20140101AFI20240628BHJP
   G02B 6/13 20060101ALI20240628BHJP
   G02B 6/12 20060101ALI20240628BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20240628BHJP
   H01L 31/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
H01L31/02 D
G02B6/13
G02B6/12 371
G02B6/12 396
C08L45/00
H01L31/00 B
G02B6/12 301
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020107888
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022003670
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 富士男
(72)【発明者】
【氏名】松井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】坂田 喜博
(72)【発明者】
【氏名】中家 勇人
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/078680(WO,A1)
【文献】特開2011-065393(JP,A)
【文献】特開2017-040832(JP,A)
【文献】特開2007-139960(JP,A)
【文献】特開2012-226100(JP,A)
【文献】特開2018-017973(JP,A)
【文献】国際公開第2012/081375(WO,A1)
【文献】特開2014-019789(JP,A)
【文献】特開昭60-017705(JP,A)
【文献】特開2019-028117(JP,A)
【文献】特開2004-302347(JP,A)
【文献】国際公開第2015/030891(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/002188(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00-31/0392
H01L 31/08-31/119
H01L 31/18-31/20
G02F 1/035
G02B 6/00-6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶化度が1%~30%である環状オレフィン系樹脂を主成分とするクラッド層を準備する工程と、
前記クラッド層の一方の面に、コア層を形成する工程と、
前記クラッド層の他方の面に、電極層を形成する工程と、
前記電極層の上に、レジスト層を形成する工程と、
前記コア層および前記レジスト層を両面同時露光することにより、パターン化された光導波路となるコア層およびパターン化されたアンテナとなる電極層を形成する工程と、
を備えた、光導波路およびアンテナの製造方法。
【請求項2】
前記クラッド層の他方の面の表面に、前記表面の算術平均粗さRaが0.01~0.3μmになるように、紫外線照射またはプラズマ処理を施す工程を更に備えた、請求項1に記載の光導波路およびアンテナの製造方法。
【請求項3】
前記環状オレフィン系樹脂が、式(1)の置換基R とR とがつながらず、かつC 2n+1 (n=0~8)の構造からなる、請求項1に記載の光導波路およびアンテナの製造方法。
【化1】
・・・式(1)
【請求項4】
前記コア層が、重水素化シリコン、重水素化アクリル、紫外線硬化型エポキシ、紫外線硬化型アクリレート、ベンゾシクロブテン及びフッ素化ポリイミドからなる群から選ばれた少なくとも1つからなる、請求項1に記載の光導波路およびアンテナの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバーを用いた次世代通信網において、アンテナで受信した電気信号をある変換回路を用いて光源の強度を変調して光信号に変換したり、その逆の光信号をアンテナで送信できる電波の電気信号に変換するための光電変換素子に関する。そして、本発明は、光導波路となるコア層とアンテナ送受信の電極とを両面同時露光によりパターン化する光電変換素子の製造方法と、クラッド層を誘電特性の優れた環状オレフィン系樹脂を主成分にする光電変換素子の発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、光導波路の発明として、特許文献1の発明があった。特許文献1の発明では、ダミー基板上に光導波路を形成した後、この光導波路をダミー基板から剥がし(個片化工程)、接着剤を介して半導体チップに接着している。しかし、この方法では、光導波路の個片化工程が必要となり煩雑であった。また、これら個片化工程及び接着工程において、高精度な位置合わせが困難であった。このような位置合わせの問題は、半導体チップと光導波路だけでなく、光導波路とアンテナ送受信電極パターンとの間でも生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-39390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
個片化した光導波路とアンテナ電極基板とをそれぞれ別々に作成し、それらを後で接着する方法では、それらの位置関係が一つ一つ相違し、その位置ずれの差により光信号-電気信号の変換効率に差異が生じて安定した品質の光電変換素子が得られなかった。また、アンテナ電極基板と光導波路とを接着させる接着剤の誘電特性が不十分であると、その接着剤界面付近を伝播する電気信号の伝送損失が生じ、情報伝達が遅延するなどの問題が生じた。特に、ミリ波帯の電波では表皮効果により界面付近を伝播する電気信号の割合が高く、伝送損失が非常に大きくなるので高速・大容量・低遅延が求められる次世代通信網用途には対応できない課題があった。本発明者らは、これらの課題を解決するために以下のような発明をした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の第一の特徴構成は、クラッド層表面にコア層を設け、前記クラッド層の裏面に電極層及びレジスト層を設けた後、前記コア層及びレジスト層を両面同時露光することにより、パターン化されたコア層及びパターン化された電極層を設ける光電変換素子の製造方法である。
【0006】
また、本発明の第二の特徴構成は、クラッド層表面に設けられパターン化されたコア層と、前記クラッド層の裏面に設けられパターン化された電極層とを備え、前記クラッド層が環状オレフィン系樹脂を主成分とする光電変換素子である。また、本発明の第三の特徴構成は、前記クラッド層裏面の算術平均粗さRaが0.01~0.3μmである光電変換素子である。
【0007】
また、本発明の第四の特徴構成は、前記環状オレフィン系樹脂の結晶化度が1%~30%である光電変換素子である。また、本発明の第五の特徴構成は、前記環状オレフィン系樹脂が、式(1)の置換基RとRとがつながらず、かつC2n+1(n=0~8)の構造からなる光電変換素子である。
・・・式(1)
【0008】
また、発明の第六の特徴構成は、前記コア層が、重水素化シリコン、重水素化アクリル、紫外線硬化型エポキシ、紫外線硬化型アクリレート、ベンゾシクロブテン及びフッ素化ポリイミドからなる群から選ばれた少なくとも1つからなる光電変換素子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第一の特徴構成によれば、本発明の光電変換素子の製造方法は、クラッド層表面にコア層を設け、前記クラッド層の裏面に電極層及びレジスト層を設けた後、前記コア層及びレジスト層を両面同時露光することにより、パターン化されたコア層及びパターン化された電極層を設ける。したがって、パターン化されたコア層とパターン化された電極層との位置精度が非常に高い光電変換素子が製造できる効果がある。また、パターン化されたコア層とパターン化された電極層との位置関係が非常に安定している結果、前記パターン化されたコア層内を伝送する光信号と前記パターン化された電極層内を伝送する電気信号の変換が非常に効率的かつ安定的になされる効果がある。また、露光現像の工程数が片面の場合の約半分になり生産性向上に大きく寄与できる効果もある。
【0010】
また、本発明の第二の特徴構成によれば、本発明の光電変換素子は、クラッド層表面に設けられパターン化されたコア層と、前記クラッド層の裏面に設けられパターン化された電極層とを備え、前記クラッド層が環状オレフィン系樹脂を主成分とする。環状オレフィン系樹脂は、低吸湿・低吸水でかつ誘電特性(特にミリ波帯領域の誘電特性)に非常に優れているため、パターン化された電極層内のクラッド層界面付近を伝播する電気信号の伝送損失が非常に少なくなる。その結果、高速・大容量・低遅延が求められる次世代通信網用途の光電変換素子に適用できる効果がある。
【0011】
また、本発明の第三の特徴構成によれば、本発明の光電変換素子は、前記クラッド層裏面の算術平均粗さRaが、0.01~0.3μmである。したがって、クラッド層裏面に緻密で適度な微細凹凸が形成されているため、その微細凹凸のアンカー効果によってクラッド層と電極層との接着強度が高くなる効果がある。また、汎用のメッキ前処理の凹凸に比べて非常に緻密で微細なため、界面付近を伝播する電気信号の割合が高いミリ波帯の電波の電気信号であっても、電気抵抗値の低下による影響が受けにくい効果もある。
【0012】
また、本発明の第四の特徴構成によれば、本発明の光電変換素子は、前記環状オレフィン系樹脂の結晶化度が1%~30%である。したがって、一般的な非晶性の環状オレフィン系樹脂に比べてポリマー主鎖が配向して形成されているため、その箇所の表面を電極層と親和性の高い官能基に表面改質すれば、効率的にクラッド層と電極層との接着強度を向上できる効果がある。また、非晶性の環状オレフィン系樹脂に比べて誘電特性が向上する傾向があるため、パターン化された電極層内のクラッド層界面付近を伝播する電気信号の伝送損失をさらに少なくできる効果もある。
【0013】
また、本発明の第五の特徴構成によれば、本発明の光電変換素子は、前記環状オレフィン系樹脂が、式(1)の置換基RとRとがつながらず、かつC2n+1(n=0~8)の構造からなる。したがって、置換基RとRが小さく嵩張らないため隣り合うポリマー主鎖どうしが接近しやすいため、結晶化度を高くすることができる効果がある。その結果、効率的にクラッド層と電極層との接着強度を向上でき、パターン化された電極層内のクラッド層界面付近を伝播する電気信号の伝送損失をさらに少なくできる。
・・・式(1)
【0014】
また、本発明の第六の特徴構成によれば、本発明の光電変換素子は、前記コア層が、重水素化シリコン、重水素化アクリル、紫外線硬化型エポキシ、紫外線硬化型アクリレート、ベンゾシクロブテン及びフッ素化ポリイミドからなる群から選ばれた少なくとも1つからなる。したがって、コア層が比較的硬化収縮の小さい材質からなるため、光信号を伝播させる光導波路を寸法精度よく形成できる効果がある。また、コア層の硬化収縮が小さいと硬化に伴うクラッド層の反りも小さくなり平坦に保たれるため、コア層自身も平坦に保たれる。その結果、平坦で光信号が伝播しやすい光導波路を形成できる効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第一の特徴構成における光電変換素子の製造工程の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の第二の特徴構成における光電変換素子の一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の第二の特徴構成における光電変換素子の一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る光電変換素子およびその製造方法の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の光電変換素子1は、クラッド層10の表面にパターン化されたコア層30が形成され、微細な凹凸11が形成されたクラッド層10の裏面にパターン化された電極層20が形成されたことを特徴とする。そして、パターン化されたコア層30を被覆して上部クラッド層40を形成するのが好ましく、パターン化された電極層20の下には基板50を介して下部電極層60を設けてもよい(図2図3参照)。
【0017】
そして、本発明の光電変換素子1の製造方法としては、クラッド層10表面にコア層35を設け、微細凹凸11が形成されたクラッド層10の裏面に電極層25及びレジスト層70を設けた後(図1(a)参照)、前記コア層35の上部およびレジスト層70の下部にそれぞれフォトマスク80を配置して主光学系の上下光源から露光光を放出して両面同時露光をし(図1(b)参照)、コア層35およびレジスト層70を現像した後、露出した電極層25の一部をエッチングし、現像したコア層35の一部およびレジスト層を剥離除去することによってパターン化されたコア層30およびパターン化された電極層20をクラッド層10の表裏面に形成する例が挙げられる(図1参照(c))。
【0018】
コア層35とレジスト層70を両面同時露光することで、パターン化されたコア層30とパターン化された電極層20とが位置精度よくかつ効率的に生産性良く形成されるので、高性能で高品質の光電変換素子1を量産性良く製造できる。また、両面同時露光の場合、露光現像の工程数が片面の場合の約半分になり生産性向上に大きく寄与できる。この両面同時露光の実施にあたっては、投影レンズとフォトマスク80がワークの両面に各々配置されている両面同時投影露光機を使用するとよい。
【0019】
両面同時露光の位置合わせは、上下のフォトマスク80間およびフォトマスク80とワーク間で行うとよい。上下のフォトマスク80間の位置合わせは、フォトマスク80間の位置検出系を上側のフォトマスク80上に配置し、位置検出顕微鏡に上側のフォトマスク80と下側のフォトマスク80のアライメントマークを同時に映し出し、その計測結果を元に上側のフォトマスク80を移動させて、位置合わせをするとよい。フォトマスク80とワーク間の位置合わせは、ワークアライメント検出系をワーク上に配置し、ワークが搬入される前に下側主光学系から露光光を照射した状態で下側のフォトマスク80のアライメントマーク位置を計測した後、ワークの位置を移動して上下フォトマスク80とワークの位置合わせをするとよい。
【0020】
主光学系の光源から放つ露光光としては、紫外線、遠紫外線、極端紫外線などが挙げられる。そして、放つ露光光に対応してレジスト層70の材質を選定するとよい。例えば、露光光に436nmの紫外線を使用する場合はレジスト層70にノボラック系樹脂を選定すればよいし、露光光に248nmの遠紫外線を使用する場合はレジスト層70にポリヒドロキシスチレン樹脂ベースの化学増幅型フォトレジストを選定すればよい。レジスト70の厚みは、5~100μmが好ましい。
【0021】
現像液としては、アルカリ水溶液や有機溶剤系の現像液などが挙げられるが、コア層35やレジスト層70を現像可能であればいずれの現像液でも構わない。ただ、有機溶剤系の現像液は引火性があり人体に有害なため、例えばジエチレングリコールモノアルキルエーテル誘導体と水のような水系の混合液体の方が好ましい。なお、現像液にはエタノールアミンなどの親水性求核剤を含ませておいてもよい。現像の際には、現像液の温度を40℃~60℃に温めて行うとスムーズに現像することができる。
【0022】
レジスト層70を現像すれば電極層25の一部が露出し、その露出した箇所の電極層をエッチングなどの方法により剥離除去すれば、パターン化された電極層20が形成される。エッチングは塩化第二鉄水溶液、ナイタール(エタノールと硝酸の混合液)などのエッチング液に浸漬するとよい。そして、エッチング後にレジスト層70を剥離除去すれば、クラッド層10の表裏面にパターン化された電極層20とパターン化されたコア層30が形成される(図1(c)参照)。
【0023】
クラッド層10は、環状オレフィン系樹脂を主成分とする材質で形成するとよい。環状オレフィン樹脂は、非常に低吸湿性・低吸水性・高水蒸気バリア性をもつ樹脂であり、誘電特性が優れている(非常に低誘電率、低誘電正接)。したがって、クラッド層10との界面付近におけるパターン化された電極層20内を伝播する電気信号の減衰を少なくすることができ、伝送損失を少なくすることができる。
【0024】
そして、光学用途で広く使用されている環状オレフィン系樹脂は非晶性であるが、本発明については、非晶性の環状オレフィン樹脂ではなく結晶化度1~30%の環状オレフィン系樹脂を用いるのが好ましい。結晶性の箇所ではポリマー主鎖が配向して形成されているため、その箇所の表面を電極層と親和性の高い官能基に表面改質すれば、効率的にクラッド層と電極層との接着強度を向上できるためである。また、非晶性の環状オレフィン系樹脂に比べて誘電特性がさらに向上する傾向があるため、パターン化された電極層内のクラッド層界面付近を伝播する電気信号の伝送損失をさらに少なくできるためである。なお、結晶化度30%超の環状オレフィン系樹脂は脆く加工がし難いうえに、そもそも製造が困難である。
【0025】
上記クラッド層10の環状オレフィン系樹脂の結晶化度は、X線回折法を用いて測定するとよい。具体的には、ピーク形状部となる結晶質部分とベースライン部となる非晶質部分のフィッティングを行い、各積分強度を以下の式に代入して結晶化度を算出する。なお、式中、Xは結晶性の散乱積分強度(すなわち、結晶質部分に由来する散乱積分強度)を示し、Yは非晶性散乱積分強度(すなわち非晶質部分に由来する散乱積分強度)を示す。
結晶化度(%)=[X/(X+Y)]×100
【0026】
上記結晶化度1%~30%の環状オレフィン系樹脂の例としては、式(1)の置換基RとRとがつながらず、かつC2n+1(n=0~8)の構造からなる環状オレフィン系樹脂が挙げられる。式(1)の置換基RとRとがつながった環構造の環状ポリオレフィン系ポリマーであると、その嵩高い置換基のためにポリマーの主鎖どうしの距離が離れ、ポリマーの主鎖の配向が阻害され、結果として結晶性部分が1%未満の非晶性ポリマーとなりやすい。結晶化度が高いほど効果的に密着強度を向上させることができるため、置換基RとRはC2n+1のnの値が低い置換基の方が好ましい。nの値が8を越えるような大きな置換基になれば、RとRとがつながった置換基の場合と大きな差がなくなる傾向になる。
【0027】
また、結晶化度1%~30%の環状オレフィン系樹脂の例として、多環式ノルボルネン系単量体由来の繰返し単位を有する環状オレフィン開環重合体水素添加物が挙げられる。環状オレフィン開環重合体水素添加物は、金属化合物を重合触媒として用いてノルボルネン系単量体を溶液重合して開環重合体を得る工程により、シンジオタクチック立体規則性を有する環状オレフィン開環重合体を得て、該開環重合体の主鎖炭素-炭素二重結合を水素化することで得られる。ノルボルネン系単量体は、分子内に、ノルボルネン骨格と、そのノルボルネン骨格に縮合した環構造を有するノルボルネン系化合物が好ましい。その際、ノルボルネン骨格に縮合した環構造を有しないノルボルネン系化合物、モノ環状オレフィン、及び環状ジエン、並びにこれらの誘導体と共重合していてもよい。
【0028】
前記クラッド層10の環状オレフィン系樹脂表面に何らかの表面改質処理を施すことによって、クラッド層10と電極20との密着強度を向上させることができる。例えば、環状オレフィン系樹脂は極性がないC-H結合でほとんど構成されているが、そのC-H結合の一部を切断し、金属材料などとの親和性のある-OH基、-COOH基、-CO基などの官能基に変化させる表面改質が挙げられる。特に、結晶質の箇所にあるC-H結合はほぼ規則的にかつ密集して配向しているため、その箇所の部分を上記の官能基に改質すれば、効果的に密着強度を向上させることができる。
【0029】
そして、このクラッド層10の裏面に微細な凹凸11を形成して、直接その裏面に電極20を形成すれば(図2参照)、微細な凹凸11の凹部深部に電極20の金属粒子などが喰い込むように析出形成され、そのアンカー効果によりクラッド層10と電極20との密着強度をより向上させることができる。このアンカー効果を維持しつつかつその界面付近を伝播する電気信号の経路が充分確保できる微細な凹凸11の形状は算術平均粗さRaで0.01~0.3μmが挙げられる。Raが0.01μm未満であれば充分な密着強度が得られず、Raが0.3μmより大きければミリ波帯電波対応の電気信号の伝播経路が確保できにくい。
【0030】
この微細な凹凸11の形成方法は、特定の条件による紫外線照射またはプラズマ処理による表面改質の方法が好ましい。微細な凹凸11の形成とともに前記-OH基、-COOH基、-CO基などの官能基に変化させる表面改質も同時にできるからである。熱インプリント法も方法の一つであるが、大面積でもってエンドレスに大量生産する場合には余り適しておらず前記の官能基への表面改質もされない。また、汎用的に用いられるコロナ放電処理も方法の一つとして挙げられるが、安定的に上記の範囲の微細な凹凸11を形成できる設定条件が狭い。
【0031】
紫外線照射による表面改質の条件としては、例えば、紫外線ランプを用いてクラッド層10から1~3cm離して3~10分程度照射するとよい。前記以上に距離を離たり照射時間を短くすると、前記所望の微細な凹凸11が得られない。逆に、前記距離よりも近づけたり、照射時間を長くすると、前記凹凸が大きくなりすぎたり凹凸のバラツキが大きくなりすぎる。プラズマ処理による表面改質の条件としては、例えば、酸素や四フッ化炭素雰囲気中で真空紫外光のキセノンエキシマランプを用いて、クラッド層10から0.5~2cm離して2~5分程度照射するとよい。前記距離を離したり、照射時間を短くすると前記所望の微細な凹凸11が得られず、逆に前記距離よりも近づけたり照射時間を長くすると前記凹凸が大きくなりすぎたり凹凸のバラツキが大きくなりすぎる。
【0032】
クラッド層10の厚みは、10μm~500μmの範囲で可能な限り薄い方が好ましい。具体的には、10μm~150μmが好ましい。クラッド層10が薄い方が、パターン化された電極層20とパターン化されたコア層30との距離が近い方が電気信号と光信号の変換がしやすく、光電変換素子としての性能が向上するからである。しかし、10μm未満の厚みにすると前記両面同時に露光する工程での機械的強度を維持することが困難であり、500μmを越える厚みにする電気信号と光信号の変換に支障をきたしやすくなるからである。
【0033】
電極層25は主として金属膜から成る層であり、材質の例としては、銅、金、銀、アルミニウム、ニッケル、パラジウム、インジウムなどの純粋な導体金属のほか、前記金属を含む導電ペースト膜、前記金属を含む導電繊維、前記金属を含む酸化膜であってもよい。電極25の製膜方法としては、電解または無電解のメッキ法のほか、スパッタリング、真空蒸着、拡散転写などにより形成する方法が挙げられる。
【0034】
パターン化された電極20のパターンは、外部から送信された電波信号を受信したり、外部に対して電波信号を送信するようなアンテナ受信または送信の電極パターンが挙げられる。具体的には、図3に示したような一辺の長さが0.5mm~2mmの正方形に近似したコの字型形状にするとよい。パターン化された電極20の厚みは0.03~20μmにするとよい。パターン化された電極20の厚みが0.03μm未満であれば前記微細な凹凸11によってパターン化された電極20が分断されて電気信号の伝播経路が確保しにくくなり、電極20の厚みが20μmを越えると前記微細な凹凸11の形成や表面改質が適性になされていてもクラッド層10との密着強度が低下しやすくなる。
【0035】
なお、電波信号ノイズを遮蔽するために、パターン化された電極層20の下に基板50および下部電極層60を設けてもよい(図2図3参照)。基板50の材質、厚みなどもある程度の誘電特性を有していれば特に限定はなく、クラッド層10と同じ材質、厚みであってもよいし、違っていてもよい。また、下部電極層60の材質、厚みなどは特に限定はなく、電極層25と同じ材質、厚みであってもよいし、違っていてもよい。なお、パターン化された電極層20と基板50とを接着させる際には、例えば低誘電のポリイミド接着剤を塗布するとよい。低誘電のポリイミド接着剤を用いることで、その界面付近を伝播するパターン化された電極層20内の電気信号の減衰を防止できるからである。
【0036】
コア層35は露光光で露光、現像しパターン化する層であり、材質としては、重水素化シリコン、重水素化アクリル、紫外線硬化型エポキシ、紫外線硬化型アクリレート、ベンゾシクロブテン、フッ素化ポリイミドなどの樹脂が挙げられる。これらの材料は比較的硬化収縮の小さい材質であるため、光信号を伝播させる光導波路、すなわちパターン化されたコア層30を寸法精度よく形成できるからである。また、コア層35の硬化収縮が小さいと硬化に伴うクラッド層10の反りも小さくなり平坦に保たれるため、コア層35自身も平坦に保たれる。その結果、平坦で光信号が伝播しやすい光導波路を形成できる。
【0037】
パターン化されたコア層30の形状は、光信号が伝播できる形状なら特に限定されないが、断面が四角形または円形状の細長い管状のものが挙げられる。なお、パターン化されたコア層30内を光が信号として伝播するためには、光をパターン化されたコア層30内に閉じ込める必要があり、そのためには、クラッド層10の表面にパターン化されたコア層30を被覆するよう上部クラッド層40を設けた方が好ましい(図2図3参照)。上部クラッド層40の材質は特に限定されないが、光を導波路内に閉じ込めるためには、クラッド層10と同質の材質か、クラッド層10の屈折率との相違が少ない材質を選定するのが好ましい。上部クラッド層40の形成は厚膜の被覆塗布が可能なコーターで行うとよい。
【0038】
このパターン化されたコア層30とクラッド層10および上部クラッド層40の屈折率の差によって、光は光導波路内に閉じ込められるため、一方向から光を入力すると光導波路に沿って光が進行し出力するまでの間に、入力された光信号に応じて変換された無線電気信号が前記パターン化された電極20から電波として発信される。また、前記パターン化された電極20で受信された電波の無線電気信号を光信号に変換することもできる。
【0039】
このようにクラッド層10の表面にパターン化されたコア層30が形成され、上部クラッド層40で被覆されてパターン化されたコア層30の光導波路が形成され、微細な凹凸11からなるクラッド層10の裏面に所望のアンテナ受信または送信のパターン化された電極層20が形成され、かつ前記パターン化されたコア層30と位置精度よく所定の位置に形成されることで、受信または送信する電気信号の減衰が少なく、光信号‐電気信号の変換が円滑になされ、アンテナ受信または送信の性能が向上した光電変換素子1が得られる。その結果、ミリ波光変調器、ミリ波受光電池、光ファイバーを利用した衝突防止ミリ波レーダー 、アンテナ用コンバータ、船舶用レーダー 、無線LAN、FWA、 ETCなど様々な用途の製品に展開が可能なデバイスとなる。
【実施例1】
【0040】
クラッド層として式(1)の置換基RとRとが水素原子の構造からなる厚み50μmで結晶化度15%の環状オレフィン系樹脂ポリマーフィルムを準備し、その裏面に波長254nmの紫外線ランプを用いて前記クラッド層裏面から2cm離して10分間照射して算術平均粗さ0.2μmの微細凹凸を形成したあと、25℃の無電解銅メッキ浴(硫酸銅・五水和物0.03mol/L、ホルマリン0.3mol/L、ロッシェル塩錯化剤0.3mol/L、PH12.5)に浸漬させ、続いて25℃の電解銅メッキ浴(硫酸銅・五水和物10%、硫酸18%、塩酸0.5%、有機系添加剤等1%、イオン交換水70.5%)に浸漬させて、厚み2μmの銅膜からなる電極層を前記クラッド層裏面に形成した。
・・・式(1)
【0041】
次いで、前記電極層表面にリバースコーターを用いてポリヒドロキシスチレン樹脂ベースの化学増幅型フォトレジストからなるレジスト層を20μmの厚みで形成し、前記クラッド層表面にリバースコーターを用いて紫外線硬化型エポキシ樹脂からなるコア層を30μmの厚みで形成した。次いで、両面同時投影露光機を用意し、前記コア層の上部に光導波路パターン用のフォトマスクを配置し。前記レジスト層の下部にアンテナ受信電極パターン用のフォトマスクを配置した後、主光学系の上下光源から248nmの遠紫外線を放出して前記コア層と前記レジスト層とを両面同時露光した。
【0042】
次いで、50℃からなるエタノールアミンを含有させたジエチレングリコールモノアルキルエーテル誘導体と水との混合現像液に浸し、続いて塩化第二鉄水溶液からなるエッチング液に浸漬した。上記浸漬のあと純水で洗浄すると、クラッド層表面に光導波路のパターンにパターン化されたコア層が形成され、クラッド層裏面にアンテナ受信電極パターンからなる電極層が形成された。次いで、前記クラッド層と同じ環状オレフィン系樹脂からなる上部クラッド層をリバースコーターでもって前記パターン化されたコア層の上部に被覆をするよう50μmの厚みで形成し、低誘電ポリイミド接着剤を介してパターン化された電極層の下部に電磁波シールド機能をもつ下部電極層が形成された基板を貼付し、所望の光電変換素子を得た。
【0043】
得られた光電変換素子は、パターン化されたコア層の光導波路とパターン化された電極層のアンテナ電極パターンとが所望の位置に位置精度よくかつ効率的に生産性良く形成され、かつアンテナ電極パターンで受信した電気信号の減衰が少なく、光信号‐電気信号の変換が円滑になされたものであり、ミリ波光変調器、ミリ波受光電池、光ファイバーを利用した衝突防止ミリ波レーダー 、アンテナ用コンバータ、船舶用レーダー 、無線LAN、FWA、 ETCなど様々な用途の製品に展開が可能な高性能で高品質のデバイスとなった。
【実施例2】
【0044】
前記クラッド層として、多環式ノルボルネン系単量体由来の繰返し単位を有する環状オレフィン開環重合体水素添加物からなる厚み100μmで結晶化度3%の環状オレフィン系樹脂ポリマーフィルムを準備し、ノボラック系樹脂からなる30μmの厚みのレジスト層および紫外線硬化型アクリル樹脂からなる30μmの厚みのコア層を形成し、436nmの紫外線の露光光の両面同時投影露光機を用いた以外は、実施例1と同様にして実施して、所望の光電変換素子を得た。この実施例の光電変換素子も実施例1と同様の位置精度、効率的な生産性、電気信号の減衰が少なく光信号‐電気信号の変換が円滑になされる光電変換素子であった。
【符号の説明】
【0045】
1 光電変換素子
10 クラッド層
11 クラッド層裏面の微細な凹凸
20 パターン化された電極層
25 電極層
30 パターン化されたコア層
35 コア層
40 上部クラッド層
50 基板
60 下部電極層
70 レジスト層
80 フォトマスク
図1
図2
図3