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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】1液型歯科用接着性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/30 20200101AFI20240628BHJP
   A61C 13/23 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 6/887 20200101ALI20240628BHJP
   A61K 6/891 20200101ALI20240628BHJP
   C09J 4/00 20060101ALI20240628BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61K6/30
A61C13/23
A61K6/887
A61K6/891
C09J4/00
C09J11/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020161146
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2021054815
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2019175387
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】北田 直也
(72)【発明者】
【氏名】西村 伶
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 健蔵
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-001624(JP,A)
【文献】特表2005-532391(JP,A)
【文献】特開2014-237593(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082855(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/053990(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
A61C 13/23
C09J 11/06
C09J 4/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるシランカップリング剤(a)、酸性基含有重合性単量体(b)、揮発性有機溶媒(c)、水(d)を含有する1液型歯科用接着性組成物。
【化1】
(式中、R1は(メタ)アクリロイル基、ビニル基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる官能基を少なくとも1個有する有機基を表し、R2はC4~C8の直鎖アルキル基を表し、R3はC1~C8のアルキル基を表す。なお、nは1~3である。)
【請求項2】
1液型歯科用接着性組成物の総量100重量部に対して、シランカップリング剤(a)が0.01~10重量部、酸性基含有重合性単量体(b)が0.1~50重量部、揮発性有機溶媒(c)が10~90重量部、水(d)が9~50重量部であることを特徴とする請求項1記載の1液型歯科用接着性組成物。
【請求項3】
一般式(2)で表されるシランカップリング剤(a)を含む請求項1または2に記載の1液型歯科用接着性組成物。
【化2】
(式中、R1は(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有する有機基を表し、R2はC4~C8の直鎖アルキル基を表す。)
【請求項4】
一般式(3)で表されるシランカップリング剤(a)を含む請求項1または2に記載の1液型歯科用接着性組成物。
【化3】
(式中、R1は(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有するC3~C8のアルキル基を表し、R2はC4~C8の直鎖アルキル基を表す。)
【請求項5】
さらに、硫黄原子含有重合性単量体(e)、酸性基を有しない重合性単量体(f)、硬化剤(g)のいずれか1以上を含む請求項1~4のいずれかに記載の1液型歯科用接着性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックスや酸化物系セラミックスおよび歯質に対して優れた接着性を発現し、かつ保存安定性にも優れる1液型歯科用接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科修復において患者の審美的回復に対する要求が高まり、歯科用修復材料としてはガラスセラミックスや酸化物系セラミックスが普及している。これら種々の修復材料に対して良好な接着強さを発現する歯科用接着性組成物として、シランカップリング剤、酸性基含有重合性単量体を含む歯科用接着性組成物が提案されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1記載の歯科用接着性組成物は、シランカップリング剤と酸性基含有重合性単量体を分包した2液性歯科用接着性組成物であり、使用の際に2液を混合する必要がある。そのため、この歯科用接着性組成物は接着操作が煩雑であるという課題があった。
【0004】
また、特許文献2記載の歯科用接着性組成物は、保存安定性は未だ不十分であり、歯質に対する接着性は発現されず、歯質に対しては別の歯科用接着性組成物を用いなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-277913号公報
【文献】特開2008-001624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ガラスセラミックスや酸化物系セラミックスおよび歯質に対して優れた接着性を発現し、かつ保存安定性に優れるという背反した特長を発現する1液型歯科用接着性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題を鑑みて鋭意検討した結果、一般式(1)で表されるシランカップリング剤(a)、酸性基含有重合性単量体(b)、揮発性有機溶媒(c)、水(d)を含有する1液型歯科用接着性組成物であることによって上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【化4】
(式中、R1はC1~C8のアルキル基を表し、R2はC4~C8の直鎖アルキル基を表し、R3は(メタ)アクリロイル基、ビニル基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる官能基を少なくとも1個有する有機基を表す。なお、nは1~3である。)
【0008】
本発明の1液性歯科用接着性組成物に含まれるシランカップリング剤(a)は一般式(2)を満たすことが好ましく、一般式(3)を満たすことがより好ましい。
【化5】
(式中、R1は(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有する有機基を表し、R2はC4~C8の直鎖アルキル基を表す。)
【化6】
(式中、R1は(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有するC3~C8のアルキル基を表し、R2はC4~C8の直鎖アルキル基を表す。)
【0009】
具体的には、シランンカップリング剤(a)、酸性基含有重合性単量体(b)、揮発性有機溶媒(c)、水(d)を含有する1液型歯科用接着性組成物を含む歯科用プライマーが好ましい。
【0010】
具体的には、シランカップリング剤(a)、酸性基含有重合性単量体(b)、揮発性有機溶媒(c)、水(d)さらに、硫黄原子含有重合性単量体(e)、酸性基を有しない重合性単量体(f)、硬化剤(g)のいずれかを含有する1液型歯科用接着性組成物を含む歯科用接着剤が好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る1液型歯科用接着性組成物は、ガラスセラミックスや酸化物系セラミックスおよび歯質に対して優れた接着性を発現し、かつ保存安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の1液型歯科用接着性組成物は、シランカップリング剤(a)、酸性基含有重合性単量体(b)、揮発性有機溶媒(c)、水(d)を含有する。本発明におけるシランカップリング剤(a)は、一般式(1)で表される。具体例としては次に示す化合物が挙げられる。
【化7】
(式中、R1は(メタ)アクリロイル基、ビニル基、及びエポキシ基からなる群より選ばれる官能基を少なくとも1個有する有機基を表し、R2はC4~C8の直鎖アルキル基を表し、R3は(メタ)C1~C8のアルキル基を表す。なお、nは1~3である。)
【0013】
【化8】
【0014】
【化9】
【0015】
【化10】
【0016】
【化11】
【0017】
【化12】
【0018】
【化13】
【0019】
シランカップリング剤(a)は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
上記一般式(1)を満たすシランカップリング剤(a)の中でも、接着性の観点および揮発性有機溶媒などの1液性接着性組成物を構成するその他の成分との相溶性に優れる点から、一般式(2)を満たすシランカップリング剤(a)が好ましく、一般式(3)を満たすシランカップリング剤がより好ましくい。一般式(3)を満たすシランカップリング剤(a)の具体例としては次に示す化合物が挙げられる。
【化14】
(式中、R1は(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有する有機基を表し、R2はC4~C8の直鎖アルキル基を表す。)
【化15】
(式中、R1は(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有するC3~C8のアルキル基を表し、R2はC4~C8の直鎖アルキル基を表す。)
【0021】
【化16】
【0022】
【化17】
【0023】
【化18】
【0024】
本発明の1液型歯科用接着性組成物におけるシランカップリング剤(a)の配合量は1液性歯科用接着性物の総量100重量部に対して、0.01~10重量部であることが好ましく、0.1~1重量部であることがより好ましい。0.01~10重量部の範囲外である場合、ガラスセラミックスに対する接着性が低下する場合がある。本発明の1液型歯科用接着性組成物においては、一般式(1)で表されるシランカップリング剤(a)以外のシランカップリング剤を含まないことが好ましく、一般式(2)で表されるシランカップリング剤(a)以外のシランカップリング剤を含まないことが好ましく、また一般式(3)で表されるシランカップリング剤(a)以外のシランカップリング剤を含まないことが好ましい。
【0025】
本発明における酸性基含有重合性単量体(b)は、例えば、1価のリン酸基〔ホスフィニコ基:=P(=O)OH〕、2価のリン酸基〔ホスホノ基:-P(=O)(OH)2〕、ピロリン酸基〔-P(=O)(OH)-O-P(=O)(OH)-〕、カルボン酸基〔カルボキシル基:-C(=O)OH、酸無水物基:-C(=O)-O-C(=O)-〕、スルホン酸基〔スルホ基:-SO3H、-OSO3H〕等の酸性基を少なくとも一個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、ビニルベンジル基等の重合性基(重合可能な不飽和基)を少なくとも一個有する重合性単量体である。具体例としては、下記のものが挙げられる。なお、以下においては、メタクリロイルとアクリロイルとを(メタ)アクリロイルと総称することがある。
【0026】
リン酸基含有重合性単量体(b-1)としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、(5-メタクリロキシペンチル)-3-ホスホノプロピオネート、(6-メタクリロキシヘキシル)-3-ホスホノプロピオネート、(10-メタクリロキシデシル)-3-ホスホノプロピオネート、(6-メタクリロキシヘキシル)-3-ホスホノアセテート、(10-メタクリロキシデシル)-3-ホスホノアセテート、2-メタクリロイルオキシエチル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-メタクリロイルオキシプロピル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アミン塩が例示される。
【0027】
ピロリン酸基含有重合性単量体(b-2)としては、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アミン塩が例示される。
【0028】
カルボン酸基含有重合性単量体(b-3)としては、マレイン酸、メタクリル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸;4-(メタ)アクリロキシエチルトリメット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸及びこれらの酸無水物;5-(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ヘキサンジカルボン酸、8-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-オクタンジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-デカンジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アミン塩が例示される。
【0029】
スルホン酸基含有重合性単量体(b-4)としては、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アミン塩が例示される。
【0030】
上記の酸性基含有重合性単量体(b-1)~(b-4)の中では、リン酸基又はピロリン酸基を有する重合性単量体が好ましく、特に、2価のリン酸基〔ホスホノ基:-P(=O)(OH)2 〕を有する重合性単量体が好ましい。その中でも、分子内に主鎖の炭素数が6~20のアルキル基又はアルキレン基を有する2価のリン酸基含有重合性単量体がより好ましく、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の分子内に主鎖の炭素数が8~12のアルキレン基を有する2価のリン酸基含有重合性単量体が最も好ましい。
【0031】
酸性基含有重合性単量体(b)は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。酸性基含有重合性単量体(b)の配合量は、1液性歯科接着性組成物の総量100重量部に対して、0.1~50重量部であることが好ましく、5~20重量部であることがより好ましい。0.1~50重量部の範囲外である場合、歯質や酸化物セラミックスに対する接着性が低下する場合がある。
【0032】
本発明における揮発性有機溶媒(c)としては、通常、常圧下における沸点が150°C以下であり、且つ25°Cにおける水に対する溶解度が5重量%以上、より好ましくは30重量%以上、最も好ましくは任意の割合で水に溶解可能な有機溶媒が使用される。中でも、常圧下における沸点が100°C以下の水溶性揮発性有機溶媒が好ましく、その具体例としては、エタノール、メタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフランが挙げられる。また、前述の揮発性有機溶媒のうち、アセトン、メチルエチルケトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフランがさらに好ましい。
【0033】
揮発性有機溶媒(c)は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。揮発性有機溶媒(c)の配合量は、1液性歯科接着性組成物の総量100重量部に対して、10~90重量部であることが好ましく、30~60重量部であることがより好ましい。10~90重量部の範囲外である場合、溶解性および接着性が低下する場合がある。本発明の1液型歯科用接着性組成物においては、揮発性有機溶媒(c)以外の有機溶媒を含まないことが好ましい。
【0034】
本発明に配合される水(d)の具体例としては脱イオン水、蒸留水などが挙げられる。また水(d)の配合量は、1液型歯科用接着性組成物の総量100重量部に対して9~50重量部であることが好ましく、25~35重量部であることがより好ましい。9~50重量部の範囲外である場合、歯質に対する接着性が低下する場合がある。
【0035】
本発明の1液型歯科用接着性組成物は貴金属合金に対する接着性を発現させるために硫黄原子含有重合性単量体(e)を配合しても良い。本発明における硫黄原子含有重合性単量体(e)は分子中に少なくとも1個の硫黄原子(但し、スルホ基などの硫黄原子を含有する酸性基を構成する硫黄原子を除く)と1個以上の重合性不飽和基とを有する重合性単量体であれば、公知の化合物を何ら制限なく使用できる。ここで、重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基等が接着性の点から好ましい。また、硫黄原子は、分子内においてスルホ基などの酸性基を構成しない形態で含有され、分子内において、たとえば、>C=S、>C-S-C<、などの部分構造を形成するなどして、酸性基以外の部分構造を構成する形態で含有される。なお硫黄原子含有重合性単量体(e)は、酸性基を含まないことが好ましい。硫黄原子含有重合性単量体(e)としては、互変異性によりメルカプト基を生じ得る化合物、ジスルフィド化合物、鎖状若しくは環状のチオエーテル化合物等が挙げられる。具体例としては、10-メタクリロキシデシル-6,8-ジチオクタネート、6-メタクリロキシヘキシル-6,8-ジチオクタネート、6-メタクリロイルオキシヘキシル 2-チオウラシル-5-カルボキシレート、2-(11-メタクリロイルオキシウンデシルチオ)-5-メルカプト-1,3,4-チアジアゾールが挙げられる。
【0036】
硫黄原子含有重合性単量体(e)は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。硫黄原子含有重合性単量体(e)の配合量は、1液性歯科接着性組成物の総量100重量部に対して、0.01~10重量部であることが好ましい。0.01~10重量部の範囲外である場合、貴金属合金に対する接着性が低下する場合がある。
【0037】
本発明の1液型歯科用接着性組成物は歯質に対する接着性を向上させるために酸性基を有しない重合性単量体(f)を配合しても良い。酸性基を有しない重合性単量体(f)とは、分子内に少なくとも1個の重合性不飽和基を有し、かつ酸性基を有さない重合性単量体であり、シランカップリング剤(a)と硫黄原子含有重合性単量体(e)以外の重合性単量体であれば、公知の化合物を何ら制限なく使用できる。このような重合性単量体の重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基等が接着性の点から好ましい。
【0038】
本発明で好適に使用できる酸性基を含有しない重合性単量体(f)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、2-シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジルメタアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート等の単官能性重合性単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’-ビス[4-(メタ)アクリオイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシエトキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’-ビス{4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の多官能性重合性単量体;フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー等のスチレン、α-メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物を挙げることができる。
【0039】
上記の酸性基を含有しない重合性単量体(f)のなかでも、特に、多官能性重合性単量体が好適に使用される。好適に使用される多官能性重合性単量体を具体的に例示すると、2,2’-ビス{4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、トリエチレングリコールメタクリレート、2,2-ビス[(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートが挙げられる。
【0040】
上記の酸性基を含有しない重合性単量体(f)は1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。酸性基を含有しない重合性単量体(f)の配合量は、1液型歯科用接着性組成物の総量100重量部に対して5~50重量部であることが好ましい。50重量部を超える場合には、接着性が低下する場合がある。
【0041】
本発明の1液型歯科用接着性組成物は硬化剤(g)を配合しても良い。本発明における硬化剤(g)としては、公知の硬化剤を使用することができる。具体例としては、α-ジケトン類(g-1)、ケタール類(g-2)、チオキサントン類(g-3)、アシルホスフィンオキサイド類(g-4)、クマリン類(g-5)、ハロメチル基置換-s-トリアジン誘導体(g-6)、過酸化物等の重合開始剤(g-7)や、芳香族第3級アミン(g-8)、脂肪族第3級アミン(g-9)、スルフィン酸及びその塩(g-10)、アルデヒド類(g-11)、チオール基を有する化合物(g-12)等の重合促進剤が挙げられる。中でも、光重合型の重合開始剤(光重合開始剤)であるα-ジケトン類(g-1)又はアシルホスフィンオキサイド類(g-4)が本発明の1液性接着性組成物に優れた硬化性を与えるので好ましい。
【0042】
α-ジケトン類(g-1)としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3-ペンタンジオンが例示される。
【0043】
ケタール類(g-2)としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールが例示される。
【0044】
チオキサントン類(g-3)としては、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントンが例示される。
【0045】
アシルホスフィンオキサイド類(g-4)としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ジベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、トリス(2,4-ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、トリス(2-メトキシベンゾイル)ホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイル-ビス(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイドが例示される。
【0046】
クマリン類(g-5)としては、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノ)クマリン、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チェノイルクマリンが例示される。
【0047】
ハロメチル基置換-s-トリアジン誘導体(g-6)としては、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2,4,6-トリス(トリブロモメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジンが例示される。
【0048】
過酸化物(g-7)としては、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類が例示される。ジアシルパーオキサイド類の具体例としてはベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシエステル類の具体例としては、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ビス-t-ブチルパーオキシイソフタレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。ジアルキルパーオキサイド類の具体例としては、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシケタール類の具体例としては、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンが挙げられる。ケトンパーオキサイド類の具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド等が挙げられる。ハイドロパーオキサイド類の具体例としては、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p-ジイソプロピルベンゼンパーオキサイドが挙げられる。
【0049】
芳香族第3級アミン(g-8)としては、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、4-N,N―ジメチルアミノ安息香酸メチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸n-ブトキシエチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチルエステル、4-N,N-ジメチルアミノベンゾフェノンが例示される。
【0050】
脂肪族第3級アミン(g-9)としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレートが例示される。
【0051】
スルフィン酸及びその塩(g-10)としては、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、トルエンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸ナトリウム、トルエンスルフィン酸カリウム、トルエンスルフィン酸カルシウム、トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-イソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムが例示される。
【0052】
アルデヒド類(g-11)としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドが例示される。
【0053】
チオール基を有する化合物(g-12)としては、2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸が例示される。
【0054】
硬化剤(g)は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。硬化剤(g)の配合量は、接着性の観点から1液性歯科接着性組成物の総量100重量部に対して、0.01~10重量部の範囲が好ましい。
【0055】
本発明の1液性接着性組成物はフィラー(h)を配合しても良い。フィラーの配合により、接着材層の機械的強度を向上させることができる。フィラーとしては、無機系フィラー(h-1)、有機系フィラー(h-2)及び無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラー(h-3)が挙げられる。
【0056】
無機系フィラー(h-1)としては、シリカ;カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al23、B23、TiO2、ZrO2、BaO、La23、SrO2、CaO、P25などを含有する、セラミックス及びガラス類が例示される。ガラス類としては、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが好適に用いられる。結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムも好適に用いられる。
【0057】
有機系フィラー(h-2)としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン-ブタジエンゴムが例示される。
【0058】
無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラー(h-3)としては、有機系フィラーに無機系フィラーを分散させたもの、無機系フィラーを種々の重合性単量体にてコーティングした無機/有機複合フィラーが例示される。
【0059】
硬化性、機械的強度、塗布性を向上させるために、フィラー(h)をシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランが例示される。
【0060】
フィラー(h)としては、接着力、塗布性などの点で、一次粒子径が0.001~0.1μmの微粒子フィラーが好ましく使用される。具体例としては、「アエロジルOX50」、「アエロジル50」、「アエロジル200」、「アエロジル380」、「アエロジルR972」、「アエロジル130」(以上、いずれも日本アエロジル社製、商品名)が挙げられる。
【0061】
フィラー(h)は、1種または2種以上を組み合わせて使用してもよい。接着性の観点から、フィラー(h)の配合量は1液性歯科接着性組成物の総量100重量部に対して、0.1~30重量部が好ましい。
【0062】
本発明の1液性接着性組成物は安定剤(重合禁止剤)、着色剤、蛍光剤、紫外線吸収剤を配合してもよい。また、セチルピリジニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、トリクロサン等の抗菌性物質を配合してもよい。
【実施例
【0063】
実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこれら実施例によって何等限定されるものではない。実施例および比較例で使用した材料は次のとおりである。
【0064】
〔シランカップリング剤(a)〕
【化19】
【0065】
〔一般式(1)を満たさないシランカップリング剤〕
【化20】
【0066】
〔酸性基含有重合性単量体(b)〕
・6-MHPA:6-メタクリロキシヘキシル-ホスホノアセテート
・4-MET:4-メタクリロキシエチルトリメリット酸
・10-MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
【0067】
〔揮発性有機溶媒(c)〕
・アセトン
【0068】
〔水(d)〕
・蒸留水
【0069】
その他
〔硫黄原子含有重合性単量体(e)〕
・10-MDDT:10-メタクリロキシデシル-6,8-ジチオクタネート
〔酸性基を有しない重合性単量体(f)〕
・UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサンと1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサンの混合物(1:1の混合物)
〔硬化剤(g)〕
・CQ:カンファーキノン
・DMABE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル
【0070】
[3-(tributoxysilyl)propyl methacrylateの合成方法]
3-(tributoxysilyl)propyl methacrylateは以下の方法により合成した。禁水条件下、室温にて3-(trimethoxysilyl)propyl methacrylate(10.00g)に1-butanol(15.00g)および触媒量の濃硫酸を加えた後、100℃で16時間撹拌した。減圧蒸留にて反応溶液から不純物を留去して、目的の3-(tributoxysilyl)propyl methacrylateを無色透明低粘性液体(13.5g)として収率89%で得た。 GCで確認した純度は85%以上純度であり、1H-NMR測定およびFT-IR測定にて分子構造を確認した。
【0071】
[3-(tris(pentyloxy)silyl)propyl methacrylateの合成方法]
3-(tris(pentyloxy)silyl)propyl methacrylateは以下の方法により合成した。禁水条件下、室温にて3-(trimethoxysilyl)propyl methacrylate(10.00g)に1-pentanol(18.00g)および触媒量の濃硫酸を加えた後、100℃で18時間撹拌した。減圧蒸留にて反応溶液から不純物を留去して、目的の3-(tris(pentyloxy)silyl)propyl methacrylateを無色透明低粘性液体(14.6g)として収率87%で得た。 GCで確認した純度は85%以上純度であり、1H-NMR測定およびFT-IR測定にて分子構造を確認した。
【0072】
[3-(tris(hexyloxy)silyl)propyl methacrylateの合成方法]
3-(tris(hexyloxy)silyl)propyl methacrylateは以下の方法により合成した。禁水条件下、室温にて3-(trimethoxysilyl)propyl methacrylate(10.00g)に1-hexanol(20.50g)および触媒量の濃硫酸を加えた後、100℃で20時間撹拌した。減圧蒸留にて反応溶液から不純物を留去して、目的の3-(tris(octyloxy)silyl)propyl methacrylateを無色透明低粘性液体(16.0g)として収率87%で得た。GCで確認した純度は85%以上純度であり、1H-NMR測定およびFT-IR測定にて分子構造を確認した。
【0073】
[3-(tris(octyloxy)silyl)propyl methacrylateの合成方法]
3-(tris(octyloxy)silyl)propyl methacrylateは以下の方法により合成した。禁水条件下、室温にて3-(trimethoxysilyl)propyl methacrylate(10.00g)に1-octanol(26.50g)および触媒量の濃硫酸を加えた後、100℃で22時間撹拌した。減圧蒸留にて反応溶液から不純物を留去して、目的の3-(tris(octyloxy)silyl)propyl methacrylateを無色透明粘稠液体(18.8g)として収率86%で得た。GCで確認した純度は85%以上純度であり、1H-NMR測定およびFT-IR測定にて分子構造を確認した。
【0074】
[3-(tris(decyloxy)silyl)propyl methacrylateの合成方法]
3-(tris(decyloxy)silyl)propyl methacrylateは以下の方法により合成した。禁水条件下、室温にて3-(trimethoxysilyl)propyl methacrylate(10.00g)に1-decanol(32.00g)および触媒量の濃硫酸を加えた後、100℃で24時間撹拌した。減圧蒸留にて反応溶液から不純物を留去して、目的の3-(tris(decyloxy)silyl)propyl methacrylateを白色半固体(20.2g)として収率83%で得た。GCで確認した純度は85%以上純度であり、1H-NMR測定およびFT-IR測定にて構造を確認した。
【0075】
実施例1~9、14、17、18及び比較例1~7、9の組成に従って調製した1液性接着性組成物の調製直後および50℃保管後における接着強さは下記の方法により測定した。
【0076】
〔陶材(ガラスセラミックス)に対する接着強さ〕
陶材(ヴィンテージ ハロー、松風)を用いて被着片(直径15mm、厚さ5mm)を焼成し、被着片表面を耐水研磨紙♯600番にて研磨した。その後、陶材被着片の被着面をアルミナ(50μm)にてサンドブラスト処理(0.2MPa,1秒間)→水洗・乾燥後、実施例または比較例の1液型歯科用接着性組成物を適量塗布し、10秒間放置した後にエア乾燥した。その後、歯科接着用レジンセメント(レジセム、松風)のペースト練和物を塗布したステンレス棒(被着面積:Φ4.5mm、サンドブラスト処理済み)を実施例または比較例の1液型歯科用接着性組成物にて処理した陶材被着面に圧接した。余剰セメントをマイクロブラシにて除去後、歯科重合用LED光照射器(ペンブライト、松風)にて10秒間光照射した。作製した接着試験体を24時間37℃水中浸漬した後、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて陶材との引張接着強さを測定した。
【0077】
〔ジルコニア(酸化物系セラミックス)に対する接着強さ〕
ジルコニアから成る試験片(15mm×15mm×2mm)の被着面を耐水研磨紙#600番にて研磨し、アルミナ(50μm)にてサンドブラスト処理(0.2MPa,1秒間)→水洗・乾燥した。ジルコニア被着面に実施例または比較例の1液型歯科用接着性組成物を適量塗布し、10秒間放置した後にエア乾燥した。その後、歯科接着用レジンセメント(レジセム、松風)のペースト練和物を塗布したステンレス棒(被着面積:Φ4.5mm、サンドブラスト処理済み)を実施例または比較例の1液型歯科用接着性組成物にて処理したジルコニア被着面に圧接した。余剰セメントをマイクロブラシにて除去後、歯科重合用LED光照射器(ペンブライト、松風)にて10秒間光照射した。作製した接着試験体を24時間37℃水中浸漬した後、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにてジルコニアとの引張接着強さを測定した。
【0078】
〔歯質に対する接着強さ〕
エポキシ樹脂で包埋した牛前歯の試験片を耐水研磨紙#600番にて研磨し、エナメル質または象牙質平面を削り出した。歯質表面に実施例または比較例の1液型歯科用接着性組成物を適量塗布し、10秒間放置した後にエア乾燥した。その後、歯科接着用レジンセメント(レジセム、松風)のペースト練和物を塗布したステンレス棒(被着面積:Φ4.0mm、サンドブラスト処理済み)を実施例または比較例の1液型歯科用接着性組成物にて処理した歯質面に圧接した。余剰セメントをマイクロブラシにて除去後、歯科重合用LED光照射器(ペンブライト、松風)にて10秒間光照射した。作製した接着試験体を24時間37℃水中浸漬した後、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて歯質との引張接着強さを測定した。
【0079】
実施例10~13、15、16、19、20及び比較例8、10、11の組成に従って調製した1液性接着性組成物の調製直後および50℃保管後における接着強さは下記の方法により測定した。
【0080】
〔陶材(ガラスセラミックス)に対する接着強さ〕
陶材(ヴィンテージ ハロー、松風)を用いて被着片(直径15mm、厚さ5mm)を焼成し、被着片表面を耐水研磨紙♯600番にて研磨した。その後、陶材被着片の被着面をアルミナ(50μm)にてサンドブラスト処理(0.2MPa,1秒間)→水洗・乾燥した。被着面に直径4mmの穴あき両面テープを貼って接着面積を規定し、その面に実施例または比較例の1液型歯科用接着性組成物を適量塗布→10秒間放置し、エア乾燥した後に歯科重合用LED光照射器(ペンブライト、松風)にて10秒間光照射した。光照射後、内径4mm、高さ2mmのプラスチックモールドを穴あき両面テープ上に固定し、その内部に歯科充填用コンポジットレジン(ビューティフィルII、松風)を填入した後、歯科重合用LED光照射器(ペンブライト、松風)にて10秒間光照射した。作製した接着試験体を24時間37℃水中浸漬した後、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて歯質との剪断接着強さを測定した。
【0081】
〔ジルコニア(酸化物系セラミックス)に対する接着強さ〕
ジルコニアから成る試験片(15mm×15mm×2mm)の被着面を耐水研磨紙#600番にて研磨し、アルミナ(50μm)にてサンドブラスト処理(0.2MPa,1秒間)→水洗・乾燥した。被着面に直径4mmの穴あき両面テープを貼って接着面積を規定し、その面に実施例または比較例の1液型歯科用接着性組成物を適量塗布→10秒間放置し、エア乾燥した後に歯科重合用LED光照射器(ペンブライト、松風)にて10秒間光照射した。光照射後、内径4mm、高さ2mmのプラスチックモールドを穴あき両面テープ上に固定し、その内部に歯科充填用コンポジットレジン(ビューティフィルII、松風)を填入した後、歯科重合用LED光照射器(ペンブライト、松風)にて10秒間光照射した。作製した接着試験体を24時間37℃水中浸漬した後、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて歯質との剪断接着強さを測定した。
【0082】
〔歯質に対する接着強さ〕
エポキシ樹脂で包埋した牛前歯の試験片を耐水研磨紙#600番にて研磨し、エナメル質または象牙質平面を削り出した。歯質表面に直径4mmの穴あき両面テープを貼って接着面積を規定し、その面に実施例または比較例の1液型歯科用接着性組成物を適量塗布→10秒間放置し、エア乾燥した後に歯科重合用LED光照射器(ペンブライト、松風)にて10秒間光照射した。光照射後、内径4mm、高さ2mmのプラスチックモールドを穴あき両面テープ上に固定し、その内部に歯科充填用コンポジットレジン(ビューティフィルII、松風)を填入した後、歯科重合用LED光照射器(ペンブライト、松風)にて10秒間光照射した。作製した接着試験体を24時間37℃水中浸漬した後、インストロン万能試験機(インストロン社製)を用いてクロスヘッドスピード1mm/minにて歯質との剪断接着強さを測定した。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】
【0085】
実施例1~9、14、17、18の1液型歯科用接着性組成物は調製直後および50℃4週間保管後においても陶材、ジルコニア、エナメル質、象牙質に対して優れた接着性を発現した。一方で、比較例1の1液型歯科用接着性組成物は歯質に対する接着性が低かった。また、比較例2,3,6の1液型歯科用接着性組成物は50℃4週間保管後に陶材に対する接着性が著しく低下した。比較例2,3,6,の1液型歯科用接着性組成物は、配合されたシランカップリング剤の加水分解性基が加水分解しやすいために保存中にシランカップリング剤中の加水分解性基の加水分解が進行し、次いで生成したシラノール基同士が縮合したために陶材に対する接着性が著しく低下したと考えられる。また、比較例4,5,7の1液型歯科用接着性組成物は調製直後から陶材に対して良好な接着性は示さなかった。比較例4,5,7の1液性接着性組成物は、配合されたシランカップリング剤の加水分解性基が立体障害性の大きい有機基であるため加水分解耐性が著しく高く、シラノール基が生じ難いために、調製直後から陶材との接着性が得られなかったと考えられる。比較例9の1液型歯科用接着性組成物は、酸性基含有重合性単量体を含まないため、十分な接着性が得られなかった。
【0086】
実施例10~13、15、16、19、20の1液型歯科用接着性組成物は調製直後および50℃4週間保管後においても陶材、ジルコニア、エナメル質、象牙質に対して優れた接着性を発現した。一方で、比較例8の1液型歯科用接着性組成物は50℃4週間保管後に陶材に対する接着性が著しく低下した。比較例10の1液型歯科用接着性組成物は、有機溶媒を含まないため、相の分離が生じたため、接着強さの確認試験を行うことができなかった。比較例11の1液型歯科用接着性組成物は、水を含まないため、十分な接着性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、歯科分野において、1液型歯科用プライマー、1液型歯科用接着材等として産業上の利用が可能である 。