(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】電動オイルポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 15/00 20060101AFI20240628BHJP
F04C 2/10 20060101ALI20240628BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20240628BHJP
H02K 5/22 20060101ALI20240628BHJP
H02K 11/30 20160101ALI20240628BHJP
【FI】
F04C15/00 E
F04C2/10 341Z
H02K7/14 B
H02K5/22
H02K11/30
(21)【出願番号】P 2020175370
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】北山 直嗣
(72)【発明者】
【氏名】川合 正浩
(72)【発明者】
【氏名】水尻 健児
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-112977(JP,A)
【文献】特開2015-105601(JP,A)
【文献】国際公開第2012/093678(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/105360(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/008266(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 15/00
F04C 2/10
H02K 5/22
H02K 7/14
H02K 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧を発生させるポンプ部と、
ポンプ部を駆動するモータ部と、
複数の電子部品により、前記モータ部を制御する制御回路が形成された基板と、
前記ポンプ部を収容するポンプ収容部、前記モータ部を収容するモータ収容部、および前記基板を収容する基板収容部を備えたハウジングと
を有する電動オイルポンプにおいて、
前記基板が、前記モータ部の軸心を中心とする円の接線方向に沿って配置され、
前記ポンプ収容部、モータ収容部、および基板収容部が一体に形成され
、
前記ポンプ部とモータ部を軸方向に並べ、前記基板を、前記ポンプ部と前記モータ部とに跨るように配置し、
前記基板収容部の底面のうち、前記基板の、前記電子部品を実装した実装面と対向する領域に、前記ポンプ収容部の外周面と前記モータ収容部の外周面とを設け、前記ポンプ収容部の外周面を、前記モータ収容部の外周面よりも前記モータ部の軸心に接近するように配置していることを特徴とする電動オイルポンプ。
【請求項2】
前記ハウジングが、ポンプ収容部、モータ収容部、および基板収容部を一体に形成したハウジング本体を備え、
前記ハウジング本体の表面にオイルの吸入孔と吐出孔を設け、
前記ハウジング本体に、前記吸入孔と前記ポンプ部とを接続する吸入側オイル流路と、前記吐出孔と前記ポンプ部とを接続する吐出側オイル流路とを設けた請求項1に記載の電動オイルポンプ。
【請求項3】
前記吸入孔と吐出孔のうち、どちらか少なくとも一方が、前記ポンプ部と前記モータ部の間に配置されている請求項2に記載の電動オイルポンプ。
【請求項4】
前記ハウジング本体を、導体の金属材料で形成した請求項
2または3何れか1項に記載の電動オイルポンプ。
【請求項5】
前記ポンプ部の外径寸法を、前記モータ部の外径寸法よりも小さくした請求項
1に記載の電動オイルポンプ。
【請求項6】
前記基板が、電子部品として、高背部品と前記高背部品よりも背の低い低背部品とを備え、前記高背部品を前記ポンプ収容部の外周面と対向させて配置した請求項
1または5に記載の電動オイルポンプ。
【請求項7】
前記接線方向での基板の中心を、前記モータ部の軸心に対して前記接線方向にずらして配置した請求項1~
6の何れか1項に記載の電動オイルポンプ。
【請求項8】
前記基板収容部に開口部を設け、
前記基板収容部の開口部を閉鎖する閉鎖部を備え、
前記基板と前記閉鎖部の間に放熱部材を介在させた請求項1~
7何れか1項に記載の電動オイルポンプ。
【請求項9】
前記閉鎖部を、外気と触れるように配置した請求項
8に記載の電動オイルポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動オイルポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車等の車両では、車両各部へのオイルの供給を、電動オイルポンプを用いて行う場合がある。例えばアイドリングストップ機構(停車時にエンジンを自動停止する機構)を備えた車両やハイブリッド車両において、停車中のトランスミッション内部での油圧の保持を可能とするため、トランスミッションケースに電動オイルポンプが装着される場合がある。この種の電動オイルポンプとしては、例えば下記の特許文献1に開示されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の電動オイルポンプでは、モータを制御する制御回路を形成した基板が出力軸と直交する方向に配置されているため、この直交する方向での電動オイルポンプの厚さ寸法が増大している。従って、この寸法増大分だけ設置スペースの制約を受け、電動オイルポンプの取り付けが困難となることが予想される。また、ポンプ部、モータ部、及び基板を収容するハウジングが複数個所で分割されており、これら分割帯をねじ止めしてハウジングを構成しているため、ハウジングの強度、剛性に不安が残り、信頼性の面で不十分となる。
【0005】
そこで、本発明は、コンパクトでありながら高い信頼性を有する電動オイルポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、本発明は、油圧を発生させるポンプ部と、ポンプ部を駆動するモータ部と、複数の電子部品により、前記モータ部を制御する制御回路が形成された基板と、前記ポンプ部を収容するポンプ収容部、前記モータ部を収容するモータ収容部、および前記基板を収容する基板収容部を備えたハウジングとを有する電動オイルポンプにおいて、前記基板を、前記モータ部の軸心を中心とする円の接線方向に沿って配置し、前記ポンプ収容部、モータ収容部、および基板収容部を一体に形成したことを特徴とするものである。
【0007】
このように基板を、モータ部の軸心を中心とする円の接線方向に沿って配置することにより、基板を軸心と直交する方向に配置した従来品と比べて、半径方向(特に本発明における基板の厚さ方向)で電動オイルポンプの小型化あるいは薄肉化を図ることができる。また、ハウジングのポンプ収容部、モータ収容部、および基板収容部が一体に形成されているため、高い強度や剛性を備えたハウジングを提供することができる。従って、コンパクトでありながら高い信頼性を備えた電動オイルポンプを提供することが可能となる。
【0008】
この電動オイルポンプとしては、ハウジングが、ポンプ収容部、モータ収容部、および基板収容部を一体に形成したハウジング本体を備え、ハウジング本体の表面にオイルの吸入孔と吐出孔を設け、ハウジング本体に、前記吸入孔と前記ポンプ部とを接続する吸入側オイル流路と、前記吐出孔と前記ポンプ部とを接続する吐出側オイル流路とを設けたものとするのが好ましい。
【0009】
これにより、吸入側オイル流路および吐出側オイル流路を流れるオイルでハウジング本体の冷却を行うことができる。この冷却効果により、熱源となるモータ部および基板の冷却を促進することができ、電動オイルポンプの信頼性を高めることができる。また、吸入側オイル流路と吐出側オイル流路をハウジング本体とは別の部材に設ける場合に比べ、電動オイルポンプの小型化を図ることができる。
【0010】
この電動オイルポンプにおいて、吸入孔と吐出孔のうち、どちらか少なくとも一方をポンプ部とモータ部の間に配置するのが好ましい。これにより、当該一方に至るオイル流路の設置スペースは、ハウジング内部に収容された部品との干渉を考慮することなく確実に確保することができる。
【0011】
ポンプ部とモータ部の間に配置した軸受およびシールの外径寸法はポンプ部およびモータ部の各外径寸法よりも小径であるため、上記のように、他方に至るオイル流路を軸受およびシールの外径側を通過させることで、オイル流路の設置スペースを確保することができ、これによりハウジングの大型化を回避することができる。
【0012】
ハウジング本体は、導体の金属材料で形成するのが望ましい。これにより、基板が導体からなる基板収容部で覆われた形態となる。そのため、基板の電磁波感受性(イミュニティ耐性)を低下させることができ、電磁波ノイズによるモータ部の制御精度の低下を回避して、電動オイルポンプの信頼性を高めることができる。
【0013】
ポンプ部とモータ部を軸方向に並べ、基板を、ポンプ部とモータ部とに跨るように配置するのが望ましい。
【0014】
これにより、軸方向で十分な基板長さを確保することができる。そのため、既に述べた接線方向での基板のモータ部に対するはみだし幅を小さくすることができ、電動オイルポンプの小型化を図ることができる。
【0015】
基板収容部の底面に、ポンプ収容部の外周面とモータ収容部の外周面とを設け、ポンプ収容部の外周面を、モータ収容部の外周面よりもモータ部の軸心に接近するように配置するのが望ましい。
【0016】
これにより、ポンプ収容部と半径方向で対向する領域を、基板の電子部品のうち、背の高い高背部品の配置スペースとして活用することができる。この場合、基板のうち、モータ収容部と半径方向で対向する領域には、背の低い低背部品を集中して配置することができる。その結果、基板を基板収容部の底面に接近させて配置することが可能となる。従って、基板と直交する方向(基板の厚さ方向)で電動オイルポンプの小型化を図ることができる。
【0017】
この効果を得るためには、ポンプ部の外径寸法を、モータ部の外径寸法よりも小さくするのが好ましい。
【0018】
基板は、電子部品として、高背部品と高背部品よりも背の低い低背部品とを備える。高背部品はポンプ収容部の外周面と対向させて配置するのが好ましい。
【0019】
既に述べた接線方向での基板の中心を、モータ部の軸心に対して当該接線方向にずらして配置するのが好ましい。これにより、接線方向の一方の基板端部で、モータ収容部の外周面までの距離をさらに拡大することができる。これにより、基板のうち、接線方向の一方の端部に、高背部品の設置スペースを確実に確保することができる。
【0020】
基板収容部には開口部が設けられる。また、電動オイルポンプは、基板収容部の開口部を閉鎖する閉鎖部を備える。この場合、基板と閉鎖部の間に放熱部材を介在させることにより、基板の高温となる電子部品からの熱を、放熱部材を介して閉鎖部、さらにはハウジング本体に効率的に逃がすことが可能となる。
【0021】
閉鎖部を外気と触れるように配置することにより、上記放熱経路が外気に触れた閉鎖部を含むため、外気による冷却効果を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、コンパクトでありながら高い信頼性を有する電動オイルポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態に係る電動オイルポンプの軸方向断面図である。
【
図2】
図1中のII-II断面を示す断面図である。
【
図3】
図1中のIII-III断面を示す断面図である。
【
図5】本実施形態に係る電動オイルポンプの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を
図1~
図7に基づいて説明する。
【0025】
本実施形態の電動オイルポンプは、エンジンの停止中にトランスミッションに油圧を供給するものである。トランスミッションケース底部のオイル溜りからオイルを吸引し、このオイルを吐出してトランスミッション内にオイルを圧送することにより、トランスミッション内で必要な油圧が確保される。
【0026】
図1~
図3に示すように、本実施形態の電動オイルポンプ1は、油圧を発生させるポンプ部2と、ポンプ部2を駆動するモータ部3と、基板4と、ポンプ部2、モータ部3、および基板4を収容するハウジング5とを有する。以下、それぞれの部材または要素を詳細に説明する。
【0027】
なお、以下の説明において、モータ部3の軸心Oと平行な方向を「軸方向」と呼び、軸心Oを中心とする円の半径方向を「半径方向」と呼ぶ(「内径方向」および「外径方向」も当該円の内径方向および外径方向を意味する)。また、軸心Oを中心とする円の円周方向を「周方向」と呼ぶ。
【0028】
図1および
図2に示すように、本実施形態のポンプ部2は、複数の外歯が形成されたインナロータ21と、複数の内歯が形成されたアウタロータ22と、インナロータ21およびアウトロータ22を収容する静止部材としてのポンプケース23とを有するトロコロイドポンプである。アウタロータ22の内径側にインナロータ21が配置されている。アウタロータ22は、インナロータ21に対して偏心した位置にある。アウタロータ22の一部の歯部がインナロータ21の一部の歯部と噛み合っている。なお、インナロータ21の歯数をnとすると、アウタロータ22の歯数は(n+1)である。
【0029】
アウタロータ22の外周面およびポンプケース23の内周面は何れも互いに嵌合可能な円筒面である。アウタロータ22は、インナロータ21の回転に伴って従動回転するように、ポンプケース23の内周に回転可能に配置される。
【0030】
図1に示すように、モータ部3はポンプ部2と軸方向に並べて配置される。モータ部3として、例えば3相ブラシレスDCモータが使用される。
図1および
図3に示すように、モータ部3は、複数のコイル30aを有するステータ30と、ステータ30の内側に隙間をもって配置されたロータ31と、ロータ31に結合された出力軸32とを有する。ステータ30には、U相、V相、W相の三相に対応したコイル30aが形成されている。
【0031】
出力軸32はステータ30の軸方向両側に突出している。出力軸32のうち、ステータ30から軸方向両側に突出した部分がそれぞれ軸受(例えば深溝玉軸受等の転がり軸受)33,34を介してハウジング5に対して回転可能に支持されている。
【0032】
出力軸32のポンプ部2側の端部には、ポンプ部2のインナロータ21が装着されている。出力軸32とポンプ部2の間に減速機は配置されておらず、インナロータ21はモータ部3の出力軸32に直結されている。軸方向ポンプ部2側に位置する軸受33とインナロータ21との間に、出力軸32の外周面に摺接するシールリップを備えたシール35が配置される。このシール35によって、ポンプ部2からモータ部3へのオイルの漏洩が防止されている。軸方向ポンプ部2側の軸受33とシール35との間には、軸方向に圧縮された弾性部材36が配置されている。
【0033】
モータ部3におけるロータ32の回転角を検出するため、モータ部3の回転側と静止側の間に検出部37が設けられる。本実施形態の検出部37は、
図1に示すように、出力軸32の反ポンプ部側の軸端にブラケット38を介して取り付けられたセンサマグネット37a(例えばネオジウムボンド磁石)と、静止側となるハウジング5に設けられたMR素子等の磁気センサ37bとで構成することができる。磁気センサ37bは、出力軸32の反ポンプ側の軸端と対向して配置され、かつ出力軸32と直交する方向に配置されたサブ基板39に取り付けられる。磁気センサ37bの検出値は、後述する基板4(メイン基板)の制御回路に入力される。
【0034】
なお、磁気センサ37bとして、ホール素子を使用することもできる。また、検出部37としては、磁気センサの他、光学式エンコーダやレゾルバ等を用いることもできる。なお、センサレスでモータ部3を駆動することもできる。
【0035】
図4に示すように、基板4は平面視で矩形状に形成される。
図1および
図3に示すように、基板4は、モータ部3の出力軸32と平行に配置され、基板4の実装面40はモータ部3の軸心Oを中心とする円の接線方向に向けて延びている。基板4の前記接線方向の両端は、モータ部3の外周輪郭M(ステータの外周輪郭)よりも前記接線方向にはみ出した位置にある。
【0036】
基板4の一方の面には、複数の電子部品41が実装されている。
図4に示すように、電子部品としては、コンデンサ(アルミ電解コンデンサ等の電解コンデンサ)41a、インダクタ41b、MOS-FET等の半導体素子41cがあり、その他にドライバIC等の集積回路、抵抗器等が使用される。これらの電子部品41でモータ部3の駆動を制御する制御回路が構成される。このうち、コンデンサ41aおよびインダクタ41bは背の高い電子部品(高背部品と呼ぶ)であり、半導体素子41c、集積回路、および抵抗器は背の低い電子部品(低背部品と呼ぶ)である。
図2に示すように、基板4は、これら電子部品41を実装した面(実装面)40をポンプ部2およびモータ部3と対向させて配置される。
【0037】
基板4には、外部電源からコネクタ42を介して電力が供給される。基板4の制御回路では駆動電流の極性が制御される。制御された電流は、
図1に示すように、基板4に接続したバスバー43を介して、モータ部3のステータ30に設けられた各コイル30aに供給される。基板4のうち、実装面40と反対側の面42には、放熱部材としての放熱シート44が取り付けられている。放熱シート44は、熱伝導性が高くかつ圧縮可能な材料で形成されている。放熱シート44は、電子部品のうち高発熱の部品(例えば半導体素子41c)と接触するように配置されている。
【0038】
ハウジング5は、両端を開口した筒状のハウジング本体50と、ハウジング本体50の軸方向ポンプ側の開口部を閉鎖する第一蓋部51と、ハウジング本体50の軸方向反ポンプ側の開口部を閉鎖する第二蓋部52とを有する。第一蓋部51および第二蓋部52はそれぞれ複数の締結用ボルトB1、B2を用いてハウジング本体50に固定される。
【0039】
第二蓋部52は、反ポンプ部側の軸受34を支持する円筒形状のベアリングケース52aと、ベアリングケース52aの反ポンプ部側開口部を閉鎖するカバー52bとを有する。ベアリングケース52aの内径側にサブ基板39が配置される。カバー52bは、ベアリングケース52aに図示しない締結部材を用いて取り付けられる。
【0040】
ハウジング本体50は、ポンプ部2を収容するポンプ収容部53、モータ部3を収容するモータ収容部54、および基板4を収容する基板収容部55を一部品の形で一体に有する。ハウジング本体50、第一蓋部51、および第二蓋部52は導体でかつ熱伝導性が良好な金属材料、例えばアルミニウム合金で形成される。
【0041】
ハウジング5のポンプ収容部53は、ポンプ部2のポンプケース23を含む概略円筒状の形態を有する。ポンプ収容部53の内周面には、ハウジング内部をポンプ部2側とモータ部3側とに区画する隔壁56が設けられる。隔壁56の内周面は出力軸32の外周面と近接する位置まで延びている。隔壁56の内周面と出力軸32の外周面は非接触の状態にあり、これにより出力軸32の回転が許容されている。
【0042】
モータ収容部54は円筒状に形成される。モータ収容部54の円筒状内周面(
図3参照)に、モータ部3のステータ30が圧入もしくは接着固定されている。モータ収容部54のうち、モータ部3よりも軸方向ポンプ部2側の内周面に、既に述べたポンプ部2側の軸受33とシール35とが装着されている。軸受33およびシール35は、隔壁56よりも軸方向反ポンプ部側に位置する
【0043】
図5は、
図1に示す電動オイルポンプ1を、上下を逆にしてポンプ部2側かつ基板収容部55側から見た時の斜視図である。
図5に示すように、ハウジング5の基板収容部55は、半径方向から見て矩形枠状をなし、かつ半径方向の外径側を開口部とした周壁55aを有する。基板収容部55内に配置した基板4の周囲が周壁55aによって囲まれる。基板4を基板収容部55内に配置した後で、基板収容部55の開口部が、閉鎖部としてのカバー57により閉鎖される。カバー57は締結部材B3を用いてハウジング本体50に取り付けられる。締結部材は、タッピングねじを含むボルト全般を指す。この状態で、カバー57は
図1に示す放熱シート44に接触している。これにより、基板4の高温となる電子部品41からの熱を、放熱シート44を介してカバー57、さらにはハウジング本体50に効率的に逃がすことができる。この際、熱経路が外気に触れたカバー57を含むため、外気による冷却効果も期待できる。
【0044】
図1に示すように、基板収容部55の底面55bは、ポンプ収容部53の外周面およびモータ収容部54の外周面で形成される。この底面55bにおいて、ポンプ収容部53の外周面とモータ収容部54の外周面の間には半径方向の段差があり、ポンプ収容部53の外周面はモータ収容部54の外周面よりも半径方向でモータ部3の軸心Oに接近した位置にある。
【0045】
図1および
図5に示すように、ハウジング本体50の軸方向両側には、電動オイルポンプ1を取り付け対象(本実施形態ではトランスミッションケース)に取り付けるためのフランジ状の取り付け部58、59が一体に形成される。ポンプ部3側の取り付け部58に二つの締結用孔58aが形成され、反ポンプ部側の取り付け部59に二つの締結用孔59aが形成されている。これら締結用孔58a、59aに図示しない締結部材を挿入し、当該締結部材を取り付け対象にねじ込むことで、電動オイルポンプ1が取り付け対象に取り付けられる。
【0046】
取り付け部58、59の締結用孔58a、59a周辺には、取り付け対象に接触する平坦な取り付け面58b、59bが形成される。取り付け面58b、59bは、基板収容部55に収容された基板4と直交する方向に延びる共通の平面上に配置されている。
【0047】
図1に示すように、ハウジング本体50には、ポンプ部2に接続されるオイル流路6が設けられる。オイル流路6として、吸入側オイル流路60と吐出側オイル流路61とが互いに分離して設けられる。
【0048】
図2に示すように、吸入側オイル流路60は、インナロータ21とアウタロータ22の噛み合い部に開口する吸入側空間60aと、ハウジング本体50の表面に開口する吸入孔60bと、吸入側空間60aと吸入孔60bの間を連通する吸入側連通路60cとを有する。同様に、吐出側オイル流路61は、インナロータ21とアウタロータ22の噛み合い部に開口する吐出側空間61aと、ハウジング本体50の表面に開口する吐出孔61bと、吐出側空間61aと吐出孔61bを連通する吐出側連通路61cとを有する。
【0049】
吸入側空間60aおよび吐出側空間61aは、何れもポンプ収容部53のうち、ポンプ部3の軸方向反ポンプ部側の領域に設けられる。吸入側空間60aと吐出側空間61aは、何れも出力軸32の円周方向に延びる円弧状をなし、円周方向で180°対向する位置に設けられる。本実施形態では、吸入側空間60aを吐出側空間61aよりも基板4との接近側に配置している。また、吸入孔60bおよび吐出孔61bは、
図5に示すようにハウジング5のうち、取り付け対象と対向する面に開口している。吸入孔60bおよび吐出孔61bは、取り付け部58、59の取り付け面58b、59bを含む平面上に位置している。これにより、電動オイルポンプ1の周囲にオイル用配管を引き回す必要がなくなり、電動オイルポンプ1の周辺構造を簡略化することができる。
【0050】
以上の構成を有する電動オイルポンプにおいて、モータ部3を駆動することで、インナロータ21が回転する。インナロータ21が回転することで、これに噛み合ったアウタロータ22が従動回転し、両者の歯部の間に形成される空間が回転に伴って拡大および縮小する。そのため、トランスミッションケース内の油溜りに溜まったオイルが吸入側オイル流路60を介してポンプ部2に吸入され、これが吐出側オイル流路61を介してトランスミッション内部に吐出される。
【0051】
以上の構成を有する本実施係の電動オイルポンプ1は以下の特徴を有する。
【0052】
基板4が、モータ部3の軸心Oを中心とする円の接線方向に沿って配置されているため、基板を軸心と直交する方向に配置する従来品と比べ、半径方向(本実施形態では基板4の厚さ方向)で電動オイルポンプの小型化(薄肉化)を図ることができる。また、出力軸32の軸方向一端側に、軸方向と直交する向きの基板が配置されていないため、そのような基板に実装された背の高い電子部品で電動オイルポンプの軸方向寸法が増大することはなく、電動オイルポンプ1の軸方向寸法を小型化することができる。またハウジング5のポンプ収容部53、モータ収容部54、および基板収容部55が一体に形成されているため、高い強度や剛性を備えたハウジング5を提供することができる。従って、コンパクトでありながら高い信頼性を備えた電動オイルポンプ1を提供することが可能となる。
【0053】
なお、このような高剛性化したハウジング5に、ポンプ部2、モータ部3、および基板4を樹脂材等の緩衝材を介在させることなく直接取り付けることで、電動オイルポンプ1の信頼性をさらに高めることができる。
【0054】
また、オイルの吸入孔60bと吐出孔61bはハウジング本体50の表面に設けられている。加えて、吸入孔60bとポンプ部2とを接続する吸入側オイル流路60と、吐出孔61bとポンプ部2とを接続する吐出側オイル流路61とが何れもハウジング本体50に設けられている。そのため、吸入側オイル流路60および吐出側オイル流路61を流れるオイルでハウジング本体50の冷却を行うことができる。この冷却効果により、熱源となるモータ部3および基板4の冷却を促進することができ、電動オイルポンプ1の信頼性を高めることができる。また、吸入側オイル流路60と吐出側オイル流路61をハウジング本体50とは別の部材に設ける場合に比べ、電動オイルポンプ1の小型化を図ることができる。
【0055】
本実施形態では、吸入孔60bおよび吐出孔61bをポンプ部2とモータ部3の間に配置している。詳細には、
図1に示すように、吸入孔60bおよび吐出孔61bを、ポンプ部2とシール35の間に配置している。そのため、吸入孔60bに至る吸入側連通路60cおよび吐出孔61bに至る吐出側連通路61cの設置スペースは、ハウジング5内部に収容された部品と干渉することなく確保することができる。
【0056】
なお、吸入側オイル流路60および吐出側オイル流路61の構成を変えることなく、吸入側オイル流路60を吐出側オイル流路として、かつ吐出側オイル流路61を吸入側オイル流路として使用することもできる。また、吸入孔60bおよび吐出孔61bの双方をポンプ部2とモータ部3の間に配置する他、どちらか一方を、これ以外の領域(例えばモータ部3の外径側領域)に配置することもできる。
【0057】
また、ハウジング本体50を導体の金属材料で形成しているので、基板4が導体からなる基板収容部55で覆われた形態となる。そのため、基板4の電磁波感受性(イミュニティ耐性)を低下させることができ、電磁波ノイズによるモータ部3の制御精度の低下を回避して、電動オイルポンプ1の信頼性を高めることができる。この効果を得る上では、基板収容部55を閉鎖するカバー57も導体の金属材料(アルミニウム合金等)で形成するのが好ましい。ハウジング本体50、さらにはカバー57を金属材料で形成することで、その良好な熱伝導性により、放熱効果が向上する利点も得られる。
【0058】
また、本実施形態では、基板4が、軸方向に並んだポンプ収容部53とモータ収容部54とに跨るように配置されるため、軸方向で十分な基板長さを確保することができる。そのため、前記接線方向での基板4のモータ部3に対するはみだし幅を小さくすることができ、電動オイルポンプ1の小型化を図ることができる。
【0059】
さらに基板収容部55の底面55bにポンプ収容部53の外周面とモータ収容部54の外周面とを設け、ポンプ収容部53の外周面をモータ収容部54の外周面よりもモータ部3の軸心Oに接近するように配置している。これにより、
図6に示すように、ポンプ収容部53と半径方向で対向する領域を、基板4の電子部品41のうち、高背部品(例えば電解コンデンサ41aあるいはインダクタ41b)の配置スペースとして活用することができる。この場合、基板4のうち、モータ収容部54と半径方向で対向する領域には、低背部品(例えば半導体素子41c、集積回路、あるいは抵抗器)を集中して配置する。
【0060】
これにより、基板4を基板収容部55の底面55bに接近させて配置することが可能となる。従って、基板4と直交する方向で電動オイルポンプ1の小型化(薄肉化)を図ることができる。この効果を得るためには、
図1に示すように、ポンプ部2の外径寸法dを、モータ部3の外径寸法Dよりも小さくするのが好ましい(d<D)。これはポンプ部として低容量タイプを使用する一方、モータ部3として高速回転タイプを使用することを意味する。低容量タイプのポンプ部2を高速回転させることで、必要なポンプ容量を確保することができる。
【0061】
なお、既に説明したように、基板4は、モータ部3の軸心Oを通る円の接線方向に沿って配置している。また、この接線方向では、基板4の両端がモータ部の軸心Oを挟む両側の領域に延びている。そのため、
図7に示すように、この接線方向における基板4の端部では、その中央部に比べてモータ収容部54の円筒面状の外周面からの距離が大きくなる。従って、基板4の接線方向の両端部を高背部品(電解コンデンサ41aあるいはインダクタ41b)の配置スペースとして利用することができる。
【0062】
特に本実施形態では、
図4および
図7に示すように、前記接線方向における基板4の中心Pをモータ部3の軸心Oに対して前記接線方向にずらして配置している(ずれ幅α)。そのため、接線方向の一方の基板端部で、モータ収容部54の外周面までの距離をさらに拡大することができる。これにより、基板4のうち、接線方向の一方の端部に、高背部品41a、41bの設置スペースを確実に確保することができる。
【0063】
図4は、以上の検証結果を踏まえて設計された電子部品の配置例を示している。
図4において、背の高い高背部品のうち、一部の電解コンデンサ41a(1)およびインダクタ41bは、ポンプ収容部53の外周面と対向する位置に配置されており、残りの電解コンデンサ41a(2)は、基板4のうち、前記接線方向の一方側の端部に配置されている。これにより基板4をモータ収容部54の外周面に接近させて配置した場合でも、制御回路に必要とされる全ての高背部品(電解コンデンサおよびインダクタ)を基板収容部55の底面55bに対して十分な幅を有する領域に配置することが可能となる。これにより、基板4の厚さ方向での電動オイルポンプ1の小型化を達成することができる。
【0064】
以上の説明では、基板4の面のうち、ポンプ収容部53の外周面およびモータ収容部54の外周面とそれぞれ対向する面(実装面)40にのみ電子部品41を実装する場合を例示したが、低背部品41cについては、面40だけでなく、基板4の反対側の面42(
図7参照)に装着することもできる。この場合、低背部品41cは放熱シート44を避けて配置される。
【符号の説明】
【0065】
1 電動オイルポンプ
2 ポンプ部
3 モータ部
4 基板(メイン基板)
5 ハウジング
6 オイル流路
21 インナロータ
22 アウタロータ
30 ステータ
31 ロータ
33 軸受
35 シール
41 電子部品
41a,41b 高背部品
41c 低背部品
44 放熱部材(放熱シート)
50 ハウジング本体
53 ポンプ収容部
54 モータ収容部
55 基板収容部
55b 底面
57 閉鎖部(カバー)
60 吸入側オイル流路
60a 吸入孔
61 吐出側オイル流路
61a 吐出孔
O モータ部の軸心
P 基板の中心