IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金ステンレス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240628BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20240628BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/54
C21D9/46 R
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020177435
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068645
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】濱田 尊仁
(72)【発明者】
【氏名】藤村 佳幸
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/097562(WO,A1)
【文献】特開昭63-128151(JP,A)
【文献】特開2015-199107(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074405(WO,A1)
【文献】特開2019-173075(JP,A)
【文献】特開2019-173070(JP,A)
【文献】特開平04-147945(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103667931(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103173680(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.030%以下、Si:0.01~1.00%、Mn:0.01~1.00%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Cr:15.0~25.0%、Al:2.0~4.5%、Ni:0.50%以下、Nb:0.02~0.50%、N:0.030%以下、B:0.0002~0.005%、REM:0.005~0.12%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
下記の式(1)および式(2)を満たす、フェライト系ステンレス鋼。
式(1):1≦Nb/(50×B)≦4
式(2):4≦3×Nb+50×REM+Al
(前記式(1)および前記式(2)における、Nb、B、REMおよびAlは、それぞれの元素の質量%を表す。)
【請求項2】
室温におけるシャルピー衝撃値が20J/cm以上である、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
Zr:0.50%以下、V:0.50%以下、Ti:0.50%以下、Sn:0.2%以下、Cu:1.0%以下、Mo:1.0%以下、W:1.0%以下、Hf:0.20%以下、Mg:0.015%以下、Ca:0.015%以下、Y:0.1%以下、およびTa:0.1%以下のうち1種以上をさらに含有する、請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼に関する。より具体的には、高温での耐酸化特性および靭性に優れたフェライト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
高Al含有フェライト系ステンレス鋼は、耐高温酸化特性を有することから自動車、自転車の排ガス経路部材や燃焼機器、燃料電池部材などの用途に多く用いられている。
【0003】
特許文献1には、耐高温酸化性をさらに向上させた高Al含有フェライト系ステンレス鋼が開示されている。特許文献1に開示される高Al含有フェライト系ステンレス鋼は、15~25%のCrおよび4.5~6.0%のAlを含有する。さらに、添加するMnおよびSiの添加量を抑えることで低Mn化および低Si化し、Moを必須元素として含有することにより高Al含有フェライト系ステンレス鋼の耐高温酸化特性を向上させている。
【0004】
特許文献2には、各種高温燃焼機器および自動車などの排ガス流路部位に使用される材料としての、フェライト系ステンレス鋼が開示されている。特許文献2では、過剰なAlによる靭性の劣化を抑制するためにAlの含有量を0.88~1.54%としており、NbおよびBを添加することにより、耐高温酸化特性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3351836号公報
【文献】特許第5866628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、Alの添加量を増やし、Moを必須元素とすることで優れた耐高温酸化性を有するものの、靭性が考慮されていないために熱延板の靭性が低下し、製造時に板を加温して通板するなどの付加工程が必要となる。これにより、ステンレス鋼の製造時のコストが上昇するという問題がある。
【0007】
また、自動車、自転車などに搭載される排ガス浄化用触媒の担体または触媒コンバータ燃焼ガス排気系の機器もしくは装置などの用途を企図した場合、通常0.05~0.1mm程度の板厚が適用される。この場合、特許文献2に開示される技術では、Alの添加率が2%を下回ることから、Al枯渇の観点から考えると、上記用途に必要な耐高温酸化特性を満足できない可能性がある。
【0008】
本発明の一態様は、低コストで製造できる、耐高温酸化特性および靱性に優れるフェライト系ステンレス鋼を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るフェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.01~1.00%、Mn:0.01~1.00%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Cr:15.0~25.0%、Al:2.0~4.5%、Ni:0.50%以下、Nb:0.02~0.50%、N:0.030%以下、B:0.0002~0.005%、REM:0.005~0.12%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記の式(1)および式(2)を満たす。
式(1):1≦Nb/(50×B)≦4
式(2):4≦3×Nb+50×REM+Al
(前記式(1)および前記式(2)における、Nb、B、REMおよびAlは、それぞれの元素の質量%を表す。)
上記構成によれば、低コストで製造できる、耐高温酸化特性および靭性に優れるフェライト系ステンレス鋼を実現することができる。
【0010】
また、本発明の一態様に係るフェライト系ステンレスは、室温におけるシャルピー衝撃値が20J/cm以上である。
【0011】
上記構成によれば、所望の靭性を有するフェライト系ステンレス鋼を実現することができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係るフェライト系ステンレス鋼は、質量%で、Zr:0.50%以下、V:0.50%以下、Ti:0.50%以下、Sn:0.2%以下、Cu:1.0%以下、Mo:1.0%以下、W:1.0%以下、Hf:0.20%以下、Mg:0.015%以下、Ca:0.015%以下、Y:0.1%以下、およびTa:0.1%以下のうち1種以上をさらに含有する。
【0013】
上記構成によれば、耐高温酸化特性および靭性がさらに優れたフェライト系ステンレス鋼を実現することができる。
【0014】
本発明の一態様に係るフェライト系ステンレスは、エキゾーストマニホールド、センターパイプ、尿素SCR、触媒担体部品等の自動車および二輪車用排ガス経路部材、バーナー燃焼筒、暖房機器であるチムニー、熱電気の発熱体、ならびに燃料電池の改質器、筐体および配管などの用途に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、低コストで製造でき、耐高温酸化特性および靱性に優れるフェライト系ステンレス鋼を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。まず、本実施形態におけるフェライト系ステンレス鋼を構成する必須元素について説明する。本明細書において、「ステンレス鋼」との用語は、具体的な形状が限定されないステンレス鋼材を意味する。このステンレス鋼材としては、例えば、鋼板、鋼管、条鋼、などが挙げられる。なお、本明細書において、各成分元素の含有量の単位である「%」は、特に言及がない限り「質量%」を意味する。また、本出願において、「A~B」は、A以上B以下であることを示している。
【0017】
(フェライト系ステンレス鋼の成分組成)
本発明の一実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼は、鋼成分組成として、質量%でC:0.030%以下、Si:0.01~1.00%、Mn:0.01~1.00%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Cr:15.0~25.0%、Al:2.0~4.5%、Ni:0.50%以下、Nb:0.02~0.50%、N:0.030%以下、B:0.0002~0.005%、REM:0.005~0.12%を含有する。また、本発明の一実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼は、以下の式(1)および式(2)を満たす。
式(1):1≦Nb/(50×B)≦4
式(2):4≦3×Nb+50×REM+Al
これにより、高温酸化特性および靱性に優れるフェライト系ステンレス鋼が得られる。以下、本発明の一実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼に含まれる各元素の含有量の意義について説明する。なお、当該フェライト系ステンレス鋼は、以下に示す各成分以外は、鉄(Fe)、または不可避的に混入する少量の不純物(不可避的不純物)からなる。
【0018】
<C:炭素>
Cは、本発明の一実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼における必須元素である。一方、Cは、含有量の増加に伴って、異常酸化が発生し易くなる。また、過度にCを含有すると、スラブ及びホットコイルの靭性を劣化させ、熱間加工によって板材に加工することが困難になる。そのため、本発明の一態様では、Cの含有量の上限を0.030%に規定する。Cの含有量を0.020%以下とすると異常酸化発生の可能性をさらに低減し、加工性を向上させることができる。上記理由を鑑みた、Cのより好ましい含有量は、0.002~0.010%である。
【0019】
<Si:ケイ素>
Siは、製鋼時の脱酸剤として有効な元素であり、本発明の一実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼における必須元素である。一方、Siを過度に含有すると靭性および加工性を低下させる可能性がある。そのため、本発明の一態様では、Siの含有量は、0.01~1.00%である。Siの含有量を0.01~0.50%、より好ましくは、0.01~0.30%とすることにより、脱酸剤としての効果、加工性がさらに向上する。
【0020】
<Mn:マンガン>
Mnは、本発明の一実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼における必須元素である。一方、Mnを過度に含有すると、フェライト相が不安定化するとともに、耐高温酸化性を低下させる可能性がある。そのため、本発明の一態様では、Mnの含有量は、0.01~1.00%である。Mnの含有量を0.01~0.50%、より好ましくは0.01~0.20%とすることにより、腐食起点発生の可能性がより低減される。
【0021】
<P:リン>
Pは、本発明の一実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼における必須元素である。一方、Pを過度に含有すると、耐酸化性および熱延板靭性が劣化する可能性がある。そのため、本発明の一態様では、Pの含有量は、0.040%以下と規定する。Pの含有量を0.030%以下とすることにより、加工性の劣化をより低減することができる。上記理由を鑑みた、Pのより好ましい含有量は、0.005~0.025%である。
【0022】
<S:硫黄>
Sは、本発明の一実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼における必須元素である。一方、Sを過度に含有するとフェライト系ステンレス鋼においてAl皮膜の形成に悪影響を及ぼし、耐酸化性を劣化させる可能性がある。そのため、本発明の一態様では、Sの含有量は、0.020%以下と規定している。上記理由を鑑みた、Sのより好ましい含有量は、0.0001~0.010%である。
【0023】
<Cr:クロム>
Crは、フェライト系ステンレス鋼の耐高温酸化特性を向上させるために必要な基本的な合金元素である。所定量以上のCrを含有することにより、ステンレス鋼の表面に酸化皮膜が形成され、ステンレス鋼の酸化が抑制される。一方、過度のCrを含有すると、靭性が低下し、製造性が悪くなる。そのため、本発明の一態様では、Crの含有量を15.0~25.0%と規定している。Crの含有量を16.0~20.0%、より好ましくは17.0~19.0%とすることにより、酸化抑制効果および製造性をより向上させることができる。
【0024】
<Al:アルミニウム>
Alは、フェライト系ステンレス鋼の耐高温酸化特性を向上させるために必要な基本的な合金元素である。所定量以上のAlを含有することにより、ステンレス鋼の表面にAlの酸化被膜が形成され、ステンレス鋼の酸化が抑制される。また、REMまたはYが添加される場合、当該酸化被膜が緻密になると共に下地鋼に対する密着性が向上し、異常酸化の発生が抑制される。一方、Alを過度に含有すると、ステンレス鋼の靭性を劣化させ、製造性および加工性が悪くなる。そのため、本発明の一態様では、Alの含有量を2.0~4.5%と規定する。Alの含有量を3.0~3.7%、より好ましくは3.2~3.5%とすることにより、耐高温酸化特性および製造性をより向上させることができる。
【0025】
<Ni:ニッケル>
Niは、フェライト系ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素であり、本発明の一実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼における必須元素である。一方、Niを過度に含有すると、フェライト相が不安定化するとともに、材料コストが上昇する。そのため、本発明の一態様では、Niの含有量を0.50%以下と規定している。Niの含有量を0.20%以下とすることにより、過度の含有によるフェライト相の不安定化および製造コストの上昇を抑制することができる。上記理由を鑑みた、Niのより好ましい含有量は、0.02~0.10%である。
【0026】
<N:窒素>
Nは、本発明の一実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼における必須元素である。一方、過度に含有すると鋼中のAlと結合し、AlNを形成して加速酸化の起点となる可能性がある。そのため、本発明の一態様では、Nの含有量は、0.030%以下と規定する。Nの含有量を0.020%以下とすることにより、硬質化の可能性をより低減することができる。上記理由を鑑みた、Nのより好ましい含有量は、0.003~0.010%である。
【0027】
<Nb(ニオブ)、B(ホウ素)、REM(希土類元素)>
Nbは、高温強度確保のために添加する元素である。Nbは、炭窒化物を生成するためにステンレス鋼の靭性を向上させる。さらにNbは、Al皮膜の形成を促進させる効果がある。また、ステンレス鋼の再結晶を抑制し、結晶粒を微細化させることで粒界面積を広くする。一方、Nbを過度に含有すると熱延板靭性が劣化する可能性がある。
【0028】
Bは、フェライト系ステンレス鋼を使用して製造された成形品の二次加工性および耐酸化性を向上させる元素である。一方、Bを過剰に含有させると、Bの化合物が介在物(不純物)となってしまう。
【0029】
REM(希土類元素、rare earth metals)とは、ランタノイド系元素(La、Ce、Pr、Nd、Smなど原子番号57~71の元素)をいう。REMは、耐高温酸化性を向上させる元素である。所定量以上のREMを含有することによりAl酸化皮膜を安定化させる。また母材と酸化物の密着性を改善することにより耐酸化性が向上する。一方、REMを過度に含有すると、熱間圧延の際に表面欠陥が生じ、製造性が低下する。
【0030】
上記理由により、本発明の一態様では、Nbの含有量を0.02~0.50%と規定する。Nbの含有量を0.15~0.25%、より好ましくは、0.10~0.20%とすることにより、加工性の劣化の可能性をより低減することができる。また、Bの含有量を0.0002~0.005%と規定する。Bの含有量を0.0002~0.005%とすることにより、より介在物の存在を低減し、二次加工性を向上させることができる。また、REMの含有量を、0.005~0.12%と規定する。REMの含有量は、好ましくは0.02~0.10%であり、より好ましくは、0.04~0.08%である。
【0031】
上述の含有量の規定を満たし、さらにNbおよびBの含有量が、上記式(1)を満足することにより、靭性がさらに向上することを見出した。これは、Bが、Nbによって広くなった粒界へ偏析することにより粒界エネルギーを低下させるためであると考えられる。
【0032】
また、上述の含有量の規定を満たし、さらにNb、REMおよびAlの含有量が上記式(2)を満足することにより、酸化寿命が向上することを見出した。これは、Nbが、Al被膜の形成を促進させ、REMが、Al被膜を安定化させ、さらにAl被膜と母材との密着性を向上させるためであると考えられる。
【0033】
(その他の成分)
本発明の一態様に係るフェライト系ステンレス鋼は、上記以外の元素として、Zr、V、Ti、Sn、Cu、Mo、W、Hf、Mg、Ca、Y、Taのうち少なくとも1種の元素を含有してもよい。
【0034】
<Zr:ジルコニウム>
Zrは耐酸化性を向上させる元素である。一方、Zrを過剰に添加すると鋼を硬質化して靭性の低下を招く可能性がある。そのため、本発明の一態様では、0.50%以下のZrを含有してもよい。硬質化の低減などを考慮すると、Zrの含有量は、0.01~0.20%であることがより好ましい。
【0035】
<V:バナジウム>
Vは加工性および溶接部靭性を向上させる元素である。一方、Vを過剰に添加すると熱延板靭性を劣化させる可能性がある。本発明の一態様では、0.50%以下のVを含有してもよい。硬質化の低減などを考慮すると、Vの含有量は0.02~0.20%であることがより好ましい。
【0036】
<Ti:チタン>
Tiは、Cおよび/またはNと反応することにより、フェライト系ステンレス鋼を900~1000℃においてフェライト系単層にすることができる。一方、Tiを過度に含有すると、Alの酸化物中にTiOを生成し、酸化寿命を劣化させる可能性がある。そのため、本発明の一態様では、0.50%以下のTiを含有してもよい。加工性などを考慮すると、Tiの含有量は0.005~0.03%であることがより好ましい。
【0037】
<Sn:スズ>
Sn(スズ)は、フェライト系ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素である。一方、Snを過度に含有すると、加工性が低下し、かつ材料コストが上昇する。そのため、本発明の一態様では、0.20%以下のSnを含有してもよい。加工性、コストなどを考慮すると、Snの含有量は0.005~0.10%であることがより好ましい。
【0038】
<Cu:銅>
Cuは、フェライト系ステンレス鋼の耐食性を向上させる元素である。一方、Cuを過度に含有すると、耐酸化性や熱間加工性の低下を招く可能性がある。そのため、本発明の一態様では、1.0%以下のCuを含有してもよい。材料コストなどを考慮すると、Cuの含有量は0.01~0.1%であることがより好ましい。
【0039】
<Mo:モリブデン>
Moは、耐食性を向上させる元素である。一方、Moを過度に含有すると硬質化し、靭性が低下するとともに材料コストが上昇する。そのため、本発明の一態様では、1.0%以下のMoを含有してもよい。加工性、材料コストなどを考慮すると、Moの含有量は0.01~0.1%であることがより好ましい。
【0040】
<W:タングステン>
Wは、高温強度確保のために添加する元素である。一方、Wを過度に含有すると、熱延板靭性を劣化させるとともに材料コストが上昇する。そのため、本発明の一態様では、1.0%以下のWを含有してもよい。材料コストなどを考慮すると、Wの含有量は0.01~0.1%であることがより好ましい。
【0041】
<Hf:ハフニウム>
Hfは、耐酸化性を向上させる元素である。一方、Hfを過度に含有すると、熱延板靭性を低下させるとともに材料コストが上昇する。そのため、本発明の一態様では、0.20%以下のHfを含有してもよい。靭性および材料コストを考慮すると、Hfの含有量は0.001~0.10%であることがより好ましい。
【0042】
<Mg:マグネシウム>
Mgは、溶鋼中でAlとともにMg酸化物を形成して脱酸剤として作用する。一方、Mgを過度に含有すると鋼の靭性が低下して製造性が低下する。そのため、本発明の一態様では、0.015%以下のMgを含有してもよい。上記理由を鑑みた、Mgの好ましい含有量は、0.0002~0.0080%である。
【0043】
<Ca:カルシウム>
Caは、熱間加工性を向上させる元素である。一方、Caを過度に含有すると、鋼の靭性が低下して製造性が低下する。そのため、本発明の一態様では、0.015%以下のCaを含有してもよい。上記理由を鑑みた、Caの好ましい含有量は、0.0001~0.0080%である。
【0044】
<Y:イットリウム>
Yは、溶鋼の粘度を減少させ、清浄度を向上させる元素である。一方、Yを過度に含有すると、その効果は飽和し、さらに加工性が低下する。そのため、本発明の一態様では、0.1%以下のYを含有してもよい。加工性などを考慮すると、Yの含有量は、0.05%以下であることが好ましい。上記理由を鑑みた、Yのより好ましい含有量は、0.001~0.05%である。
【0045】
<Ta:タンタル>
Taは、鋼の洗浄度および耐酸化性を向上させる元素である。一方、Taを過度に含有すると、靭性を低下させるとともに材料コストが上昇する。そのため、本発明の一態様では、0.1%以下のTaを含有してもよい。靭性および材料コストを考慮すると、Taの含有量は、0.05%以下であることが好ましい。上記理由を鑑みた、Taのより好ましい含有量は、0.001~0.03%である。
【0046】
(発明の効果のまとめ)
フェライト系ステンレス鋼は、質量%で、C:0.030%以下、Si:0.01~1.00%、Mn:0.01~1.00%、P:0.040%以下、S:0.020%以下、Cr:15.0~25.0%、Al:2.0~4.5%、Ni:0.50%以下、Nb:0.02~0.50%、N:0.030%以下、B:0.0002~0.005%、REM:0.005~0.12%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記の式1および式2を満たす。
式(1):1≦Nb/(50×B)≦4
式(2):4≦3×Nb+50×REM+Al
(式1および式2における、Nb、B、REMおよびAlは、それぞれの元素の質量%を表す。)
上記構成によれば、Nb、REMおよびAlの含有量が上記式(2)を満足することにより、酸化寿命が向上する。また、NbおよびBの含有量が、上記式(1)を満足することにより、靭性が向上する。酸化寿命だけではなく、靭性を向上させることにより、製造時に加温して通板するなどの付加工程を行う必要がなくなるため、製造コストを抑制することができる。すなわち、上記構成によれば、低コストで製造できる、耐高温酸化特性および靭性に優れるフェライト系ステンレス鋼を実現することができる。
【0047】
また、本発明の一態様に係るフェライト系ステンレスは、室温におけるシャルピー衝撃値が20J/cm以上である。
【0048】
上記構成によれば、所望の靭性を有するフェライト系ステンレス鋼を実現することができる。
【0049】
また、本発明の一態様に係るフェライト系ステンレス鋼は、質量%で、Zr:0.50%以下、V:0.50%以下、Ti:0.50%以下、Sn:0.2%以下、Cu:1.0%以下、Mo:1.0%以下、W:1.0%以下、Hf:0.20%以下、Mg:0.015%以下、Ca:0.015%以下、Y:0.1%以下、およびTa:0.1%以下のうち1種以上をさらに含有する。
【0050】
上記構成によれば、耐高温酸化特性および靭性がさらに優れたフェライト系ステンレス鋼を実現することができる。
【0051】
〔実施例〕
(鋼材の製造)
本発明のフェライト系ステンレス鋼の物性を評価するために、発明例鋼種および比較例鋼種として、下記の表1に示す成分を原料とするフェライト系ステンレス鋼を製造した。表1において、鋼種No.1~16は、本発明の範囲において作製した、本発明例としてのフェライト系ステンレス鋼である。また、表1において、鋼種No.17~27は、本発明の範囲外の条件で作製した、比較例としてのフェライト系ステンレス鋼である。表1に示す鋼種の鋼材を製造するにあたり、まず、表1に示す成分の鋼を真空溶解し、30kgのスラブを製造した。当該スラブを1230℃で2時間加熱後、熱間圧延を施して、板厚3mmの熱延板を作成した。得られた熱延板を、900~1050℃の間で焼鈍し、熱延焼鈍板を作成した。得られた熱延焼鈍板に対し、冷間圧延および焼鈍をそれぞれ3回実施し、板厚50μmの冷延板を製造した。なお、冷間圧延後の焼鈍は全て900~1050℃で行った。また、本実施例に記載の製造方法は一例であり、製造方法を限定するものではない。
【表1】
【0052】
表1には、各鋼種に含まれる成分の組成が質量%で示されている。なお、表1に示す各成分以外の残部は、Feまたは不可避的に混入する少量の不純物である。また、表1には、各鋼種について上記式(1)および上記式(2)に基づいて算出した値が示されている。表1中の下線は、本発明の比較例に係る各ステンレス鋼に含まれる各成分の範囲が、本発明の範囲外であることを示している。
【0053】
(熱延板靭性評価試験)
以下では、表1に示した本発明例および比較例に対して実施した熱延板靭性評価試験について説明する。まず本評価試験に用いる試験片を、JIS規格(JIS Z 2242(2018))のVノッチ試験片に基づき作製した。板厚の調整は、鋼材の製造において説明した板厚3mmの熱延板を、板厚2.5mmまで表面切削することにより行った。試験片の長手方向が圧延方向と平行となるように鋼板から試験片を採取した。また、圧延方向と垂直になるように試験片にノッチを入れた。
【0054】
本評価試験は、JIS規格(JIS Z 2242(2018))に基づいて実施した。本評価試験を室温(23℃±2℃)で、各鋼種につき5本ずつ実施し、シャルピー衝撃値(吸収エネルギー)を求めた。なお、本評価試験では、(株)東京衝機製造所製のIC-30B型シャルピー衝撃試験機を用いた。この結果を以下の表2に示す。表2の熱延板靭性の判定において、「〇(良好)」は、シャルピー衝撃値が20J/cm以上であり、「×(不良)」は、シャルピー衝撃値が20J/cm未満であることを示している。
【0055】
(耐高温酸化特性評価試験)
以下では、表1に示した本発明例および比較例に対して実施した耐高温酸化特性について説明する。まず、表1に示した鋼種ごとに、鋼材の製造において説明した板厚50μmの冷延板から、幅20mm、長さ25mmの試験片を3枚採取した。当該試験片を1050℃の大気雰囲気下に400時間供し、3枚の平均酸化増量を測定した。本耐高温酸化特性評価試験は、エレマ電気炉を用いて実施した。この結果を以下の表2に示す。表2の耐高温酸化特性の判定において、「〇(良好)」は、平均酸化増量が1mg/cm以下であり、「×(不良)」は、1mg/cmを超えていたことを示している。
【表2】
【0056】
表2に示されるように、発明例鋼種No.1~16は全て、耐高温酸化性特性および熱延板靭性について、上記基準を満たした。比較例鋼種No.17~27は、耐高温酸化性特性および熱延板靭性のいずれかまたは両方において、上記基準を満たさなかった。
【0057】
すなわち、本発明の範囲内のフェライト系ステンレス鋼は、耐高温酸化特性および靱性に優れることが実証された。
【0058】
本発明は、自動車および二輪車用の排ガス経路部材、バーナー燃焼筒、暖房機器であるチムニー、熱電気発電の発熱体、ならびに燃料電池の改質器、筐体および配管などの用途に好適に用いられる。上記排ガス経路部材の具体例としては、エキゾーストマニホールド、センターパイプ、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction:選択触媒還元)などが挙げられる。このような用途においては、上述の耐高温酸化特性評価試験の結果より、本発明のフェライト系ステンレス鋼は、50μmの板厚であっても耐高温酸化特性が基準を満たすことが実証された。
【0059】
なお、フェライト系ステンレス鋼の板厚について、特に限定はしないが、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼は、3mm以下の冷延板もしくは冷延焼鈍板において、耐高温酸化特性および靭性の向上効果を有し得る。製造性を考慮すると、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼の好ましい板厚は0.4mm~1.5mmである。また、加工性を考慮した場合、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼の好ましい板厚は、0.02mm~0.4mmである。
【0060】
(付記事項)
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。