(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】水系インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20240628BHJP
C09C 3/10 20060101ALI20240628BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240628BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240628BHJP
C08F 8/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C09D11/322
C09C3/10
B41J2/01 501
B41M5/00 120
C08F8/00
(21)【出願番号】P 2020179156
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 亮
(72)【発明者】
【氏名】森 和真
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-14883(JP,A)
【文献】特開2008-65300(JP,A)
【文献】特開2017-115082(JP,A)
【文献】国際公開第2018/124246(WO,A1)
【文献】特開2019-116598(JP,A)
【文献】特開2017-165965(JP,A)
【文献】特開2020-105300(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0378606(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/322
C09C 3/10
B41J 2/01
B41M 5/00
C08F 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)、架橋ポリマーエマルジョン(B)、及び水を含有する水系インクであって、
顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)を構成するポリマーが、カルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー由来の構成単位とを有するポリマー(a)をエポキシ化合物(a)で架橋してなるものであり、
架橋ポリマーエマルジョン(B)を構成するポリマーが、カルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー由来の構成単位とを有するポリマー(b)をエポキシ化合物(b)で架橋してなるものであり、
エポキシ化合物(a)の[炭素原子数/酸素原子数]の比q(a)が2.7以上3.8以下であり、
エポキシ化合物(b)の[炭素原子数/酸素原子数]の比q(b)が1.6以上2.7未満である、水系インク。
【請求項2】
エポキシ化合物(a)と(b)との[炭素原子数/酸素原子数]比の差[q(a)-q(b)]が0.6以上2.5以下である、請求項1に記載の水系インク。
【請求項3】
エポキシ化合物(a)が、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1.6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、及び水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテルから選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の水系インク。
【請求項4】
エポキシ化合物(b)が、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、及びグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種以上である、請求項1~3のいずれかに記載の水系インク。
【請求項5】
ポリマー(a)の架橋度が、20モル%以上80モル%以下である、請求項1~4のいずれかに記載の水系インク。
【請求項6】
顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)が、下記式(2)で表される顔料比率xの式において0.80以上0.95以下を満たす、請求項1~5のいずれかに記載の水系インク。
顔料比率x=[顔料水分散体(I)中の顔料の質量/(顔料水分散体(I)中の顔料の質量+顔料水分散体(I)中のポリマー(a)由来成分の質量+顔料水分散体(I)中のエポキシ化合物(a)由来成分の質量] (2)
【請求項7】
顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)を構成するポリマー(a)の酸価が180mgKOH/g以上300mgKOH/g以上である、請求項1~6のいずれかに記載の水系インク。
【請求項8】
インクジェット記録用である、請求項1~7のいずれかに記載の水系インク。
【請求項9】
顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)の水系分散体、ポリマーエマルジョン(B)、有機溶媒、及び水を混合する、請求項1~8のいずれかに記載の水系インクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インク、及び水系インクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、微細なノズルからインク液滴を直接吐出し、記録媒体に付着させて、文字や画像が記録された記録物を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易でかつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能で、記録媒体に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しい。近年特に、記録物の耐候性や耐水性の観点から、着色剤に顔料を用いるものが広く用いられている。
顔料を用いる水系インクにおいては、顔料表面に水に親和性の高い官能基を付与して、分散剤なしに又は分散剤を用いて、顔料を水系媒体又はインクビヒクルに分散させて用いられる。しかし、顔料を用いるインクは、水系媒体又はインクビヒクルに均一に溶解する染料を用いるインクと異なり、長期間にわたって顔料粒子の分散状態を維持することが難しいため、これに起因する再分散性等の問題がある。
【0003】
そこで、インクジェット記録用等の水系インクとして、種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、印字濃度、光沢性に優れ、ブロンズ現象を抑制できるインクジェット記録用水系インクとして、着色剤を含有する水不溶性架橋ポリマー粒子(A)及びコアシェルポリマー粒子(B)を含有する水分散体を含む、インクジェット記録用水系インクが開示されている。
特許文献2には、印字濃度を維持しつつ、吐出安定性(吐出の回復性)、画像堅牢性に優れた水系インクとして、顔料を含有する水不溶性架橋ポリマー粒子(A)と、ポリマーエマルジョン(B)を含有する水系インクであって、架橋ポリマー粒子(A)を構成する水不溶性架橋ポリマーが、酸価が200mgKOH/g以上のカルボン酸モノマー由来の構成単位と疎水性モノマー由来の構成単位とを有するポリマーをエポキシ化合物で架橋してなり、ポリマーエマルジョン(B)を構成するポリマーが、カルボン酸モノマー由来の構成単位と疎水性モノマー由来の構成単位とを含有する、水系インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-63500号公報
【文献】特開2019-14883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の水系インクは、普通紙印刷での画像濃度と、写真専用紙印刷での光沢性との両立は達成できるものの、再分散性を改善する余地があった。
また、特許文献2の水系インクは、再分散性とコート紙印刷での画像堅牢性はあるものの、普通紙での画像濃度を改善する余地があった。
本発明は、再分散性に優れ、普通紙印刷においても画像濃度を向上させることができる水系インク、及び該水系インクの製造方法を提供することを課題とする。
ここで、再分散性とは、水系インク中で沈降した顔料を再び分散させる場合の顔料の分散のし易さ、ないしインクが乾燥した後、再度液体成分と接したときの流動性し易さをいう。特にインクジェット記録においては、インク液滴を吐出するノズル孔周辺に付着し乾燥したインクが、インク中に再溶解又は再分散することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)と架橋ポリマーエマルジョン(B)を含有する水系インクにおいて、架橋剤として、分子の[炭素原子数/酸素原子数]比が異なるエポキシ化合物でそれぞれ架橋したものを用いることにより、上記の課題を解決しうることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]及び[2]を提供する。
[1]顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)、架橋ポリマーエマルジョン(B)、及び水を含有する水系インクであって、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)を構成するポリマーが、カルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー由来の構成単位とを有するポリマー(a)をエポキシ化合物(a)で架橋してなるものであり、架橋ポリマーエマルジョン(B)を構成するポリマーが、カルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー由来の構成単位とを有するポリマー(b)をエポキシ化合物(b)で架橋してなるものであり、
エポキシ化合物(a)の[炭素原子数/酸素原子数]の比q(a)が2.7以上3.8以下であり、エポキシ化合物(b)の[炭素原子数/酸素原子数]の比q(b)が1.6以上2.7未満である、水系インク。
[2]顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)の水系分散体、架橋ポリマーエマルジョン(B)、有機溶媒、及び水を混合する、前記[1]に記載の水系インクの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、再分散性に優れ、普通紙印刷においても画像濃度を向上させることができる水系インク、及び該水系インクの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[水系インク]
本発明の水系インクは、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)、架橋ポリマーエマルジョン(B)、及び水を含有する水系インク(以下、「本発明インク」ともいう)であって、
顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)(以下、単に「架橋ポリマー粒子(A)」ともいう)を構成するポリマーが、カルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー由来の構成単位とを有するポリマー(a)(以下、単に「ポリマー(a)」ともいう)をエポキシ化合物(a)で架橋してなるものであり、
架橋ポリマーエマルジョン(B)を構成するポリマーが、カルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー由来の構成単位とを有するポリマー(b)(以下、単に「ポリマー(b)」ともいう)をエポキシ化合物(b)で架橋してなるものであり、
エポキシ化合物(a)の[炭素原子数/酸素原子数]の比(以下、「[C/O]比」ともいう)q(a)が2.7以上3.8以下であり、エポキシ化合物(b)の[C/O]比q(b)が1.6以上2.7未満である。
【0009】
なお、本明細書において「水系」とは、顔料を分散させる媒体中で、水が質量比で最大割合を占めていることを意味する。
また、「記録」とは、文字や画像を印字、印刷することを意味する。
本発明インクは、インクジェット記録用インク、グラビア印刷用インキ、フレキソ印刷用インキ等に好適に用いられるが、特に再分散性に優れることから、インクジェット記録用インクとして用いることが好ましい。
【0010】
本発明インクは、再分散性に優れ、普通紙印刷においても画像濃度を向上させることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明系インクは、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)と架橋ポリマーエマルジョン(B)を含有し、架橋ポリマー粒子(A)を得るために用いるエポキシ化合物(a)の[C/O]比が、架橋ポリマーエマルジョン(B)を得るために用いるエポキシ化合物(b)の[C/O]比よりも大きい。すなわち、架橋ポリマー粒子(A)を構成するポリマーは、より多くの炭素原子を含むエポキシ化合物(a)で架橋しており、エマルジョン(B)を構成するポリマーは、より多くの酸素原子(より少ない炭素原子)を含むエポキシ化合物(b)で架橋している。
そのため、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)の最表面はより疎水的になり、その結果、普通紙面上で凝集し易く、画像濃度が向上すると考えられる。一方、エマルジョン(B)のポリマー粒子は、最表面がより親水的になり、再分散性が向上すると考えられる。
【0011】
<顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)>
本発明において顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)とは、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)を構成するポリマー(A)(以下、単に「架橋ポリマー(A)」ともいう)が顔料を包含する形態、架橋ポリマー(A)からなる粒子の表面に顔料の一部が露出している形態、架橋ポリマー(A)が顔料の一部に吸着している形態、架橋ポリマー(A)の粒子に顔料が付着している形態等のいずれか、またこれらの混合物を意味する。
【0012】
〔顔料〕
本発明に用いられる顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよく、有機顔料にはレーキ顔料、蛍光顔料も含まれる。また、必要に応じて、それらと体質顔料を併用することもできる。
無機顔料の具体例としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、ベンガラ、酸化クロム等の金属酸化物、真珠光沢顔料等が挙げられる。特に黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。
有機顔料の具体例としては、アゾレーキ顔料、不溶性モノアゾ顔料、不溶性ジスアゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料類;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンツイミダゾロン顔料、スレン顔料等の多環式顔料類等が挙げられる。
【0013】
色相は特に限定されず、ホワイト、ブラック、グレー等の無彩色顔料;イエロー、マゼンタ、シアン、ブルー、レッド、オレンジ、グリーン等の有彩色の有機顔料をいずれも用いることができる。
好ましい有機顔料の具体例としては、C.I.ピグメント・イエロー、C.I.ピグメント・レッド、C.I.ピグメント・オレンジ、C.I.ピグメント・バイオレット、C.I.ピグメント・ブルー、及びC.I.ピグメント・グリーンから選ばれる1種以上の各品番製品が挙げられる。
体質顔料としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
上記の顔料は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0014】
顔料は、水系インクの再分散性及び画像濃度を向上させる観点から、カルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と疎水性ビニルモノマー由来の構成単位とを有するポリマー(a)をエポキシ化合物(a)で架橋した架橋構造を有する架橋ポリマー、すなわち架橋ポリマー(A)により水系インク中に分散されている。
【0015】
〔ポリマー(a)〕
ポリマー(a)は、(a-1)カルボキシ基含有ビニルモノマー(以下、「(a-1)成分」ともいう)由来の構成単位と、(a-2)疎水性ビニルモノマー(以下、「(a-2)成分」ともいう)由来の構成単位とを有する。ポリマー(a)は、更に(a-3)ノニオン性モノマー(以下、「(a-3)成分」ともいう)由来の構成単位、更にはマクロモノマー由来の構成単位を含有していてもよい。
【0016】
〔(a-1)カルボキシ基含有ビニルモノマー〕
(a-1)カルボキシ基含有ビニルモノマーは、本発明インクにおいて、顔料の分散安定性を発現させる源として、ポリマー(a)のモノマー成分として用いられる。
(a-1)成分としては、カルボン酸ビニルモノマーが挙げられる。
カルボン酸ビニルモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2-メタクリロイルオキシメチルコハク酸等から選ばれる1種以上が挙げられるが、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が好ましい。
【0017】
〔(a-2)疎水性ビニルモノマー〕
(a-2)疎水性ビニルモノマーは、顔料の分散安定性を向上させ、水系インクの再分散性及び画像濃度を向上させる観点から、ポリマー(a)のモノマー成分として用いられる。
ここで「疎水性」とは、モノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であることをいう。疎水性モノマー(a-2)の前記溶解量は、ポリマーの顔料への吸着性の観点から、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。
(a-2)成分としては、炭素数1以上22以下のアルキル基又は炭素数6以上22以下のアリール基を有するアルキル(メタ)アクリレート又は芳香族基含有モノマーが好ましく挙げられる。
【0018】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、好ましくは炭素数1以上18以下、より好ましくは炭素数1以上10以下のアルキル基を有するものが好ましい。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソドデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる1種以上を意味する。以下における「(メタ)」も同義である。
【0019】
芳香族基含有モノマーとしては、ヘテロ原子を含む置換基を有していてもよい、炭素数6以上22以下の芳香族基を有するビニルモノマーが好ましく、スチレン系モノマー、芳香族基含有(メタ)アクリレートがより好ましい。芳香族基含有モノマーの分子量は、500未満が好ましい。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、及びジビニルベンゼン等から選ばれる1種以上が好ましく、スチレン及びα-メチルスチレンから選ばれる1種以上がより好ましい。
また、芳香族基含有(メタ)アクリレートとしては、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェノキシエチル(メタ)アクリレート等から選ばれる1種以上が好ましく、ベンジル(メタ)アクリレートがより好ましい。
(a-2)成分は、前記のモノマーを2種以上使用してもよく、その場合は、スチレン系モノマーを2種以上とすることが好ましく、スチレンとα-メチルスチレンを併用することがより好ましい。
【0020】
〔(a-3)ノニオン性モノマー〕
(a-3)ノニオン性モノマーは、顔料の分散安定性を調整する観点から、ポリマー(a)のモノマー成分として用いることができる。
(a-3)ノニオン性モノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコール(n=2~30、nはオキシプロピレン基の平均付加モル数を示す。以下のnは当該オキシアルキレン基の平均付加モル数を示す。)(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;メトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート;フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(n=1~30、その中のエチレングリコール:n=1~29)(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレート、フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(メタ)アクリレートが好ましく、ポリプロピレングリコール(n=2~30)(メタ)アクリレートがより好ましい。
(a-3)成分の市販品例としては、新中村化学工業株式会社のNKエステルMシリーズ、日油株式会社のブレンマーPE、PME、PP、APシリーズや、50PEP-300、50POEP-800B、43PAPE-600B等が挙げられる。
【0021】
以上の観点から、ポリマー(a)は、(a-1)成分がアクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上であり、(a-2)成分がスチレン及びα-メチルスチレンから選ばれる1種以上であることが好ましく、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体であることがより好ましい。
【0022】
ポリマー(a)製造時における、モノマー混合物中における各成分の含有量(未中和量としての含有量。以下同じ)又はポリマー(a)中における各成分に由来する構成単位の含有量は、顔料の分散安定性を向上させ、水系インクの再分散性及び画像濃度を向上させる観点から、次のとおりである。
(a-1)成分の含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
(a-2)成分の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは75質量%以下である。
【0023】
(a-3)成分を含有する場合、(a-3)成分の含有量は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下である。
[(a-1)成分/(a-2)成分]の質量比は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.35以上、より更に好ましくは0.38以上であり、そして、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1以下、より更に好ましくは0.8以下である。
【0024】
〔ポリマー(a)の製造〕
ポリマー(a)は、前記(a-1)と(a-2)成分、及び必要に応じて更に(a-3)成分を含むモノマー混合物を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。
また、ポリマー(a)として市販品を使用することもできる。市販品の具体例としては、BASF社製のジョンクリル等が挙げられる。
【0025】
ポリマー(a)の酸価はカルボキシ基に由来するが、その酸価は、水系インクの保存安定性、再分散性及び画像濃度を向上させる観点から、好ましくは180mgKOH/g以上、より好ましくは200mgKOH/g以上、更に好ましくは220mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは300mgKOH/g以下、より好ましくは280mgKOH/g以下、更に好ましくは260mgKOH/g以下である。酸価が前記の範囲であれば、カルボキシ基の量は十分であり、顔料の分散安定性が確保される。
ポリマー(a)の酸価は、実施例に記載の方法により測定することができる。また、構成するモノマーの質量比から算出することもできる。
ポリマー(a)の重量平均分子量は、好ましくは4,000以上、より好ましくは6,000以上、更に好ましくは8,000以上であり、そして、好ましくは80,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは30,000以下、より更に好ましくは20,000以下である。顔料への吸着を高めて保存安定性を発現させる観点から、ポリマー(a)の重量平均分子量は前記の範囲であることが好ましい。
なお、前記重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定される。
【0026】
〔中和〕
ポリマー(a)のカルボキシ基の少なくとも一部は、水系インクの再分散性及び画像濃度を向上させる観点から、アルカリ金属化合物によって中和されていることが好ましい。
アルカリ金属化合物は、本発明インクを構成する顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)の調製時に、水や、水を含む媒体中でアルカリ金属イオンを生じる化合物の形態で用いられる。
アルカリ金属イオンを生じる化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二カリウム等の炭酸のアルカリ金属塩、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸のアルカリ金属塩等から選ばれる1種以上が挙げられる。アルカリ金属化合物は、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中では、アルカリ金属水酸化物が好ましく、金属としては、ナトリウム、カリウムが好ましく、ナトリウムがより好ましい。すなわち、アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0027】
本発明においては、水溶性アミン化合物、アンモニアを用いないことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、水溶性アミン化合物、アンモニアを用いることができる。水溶性アミン化合物、アンモニアを用いた場合においても、ポリマーの中和度を算出する際は、アルカリ金属化合物の量のみを使用し、水溶性アミン化合物、アンモニアの使用量は算入しない。
なお、本発明インクには、水溶性アミン化合物が配合されていてもよい。
【0028】
ポリマー(a)の中和度は、エポキシ化合物と反応させる前の分散安定性を確保する観点から、好ましくは15モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上であり、そして、好ましくは180モル%以下、より好ましくは160モル%以下、更に好ましくは140モル%以下、より更に好ましくは120%以下である。
ここでポリマー(a)の中和度(モル%)は、下記式により算出される。
ポリマー(a)の中和度(モル%)=〔(本発明インク中のアルカリ金属化合物のモル数-本発明インクにおいてエマルションBから持ち込まれるアルカリ金属化合物のモル数)/本発明インク中のポリマー(a)のカルボキシ基のモル数〕×100
【0029】
<架橋ポリマーエマルジョン(B)>
架橋ポリマーエマルジョン(B)は、本発明インクの再分散性と画像濃度を高レベルで両立させるために用いられる。
架橋ポリマーエマルジョン(B)を構成するポリマー(b)は、(b-1)カルボキシ基含有ビニルモノマー(以下、「(b-1)成分」ともいう)由来の構成単位と、(b-2)疎水性ビニルモノマー(以下、「(b-2)成分」ともいう)由来の構成単位とを有する。
(b-1)成分及び(b-2)成分の各々は、ポリマー(a)における(a-1)カルボキシ基含有ビニルモノマー及び(a-2)疎水性ビニルモノマーの各々と同じであり、その具体例も同じであるので、その説明を省略する。
(b-1)成分としては、アクリル酸及びメタクリル酸から選ばれる1種以上が好ましい。
(b-2)成分としては、アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数1以上10以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0030】
ポリマー(b)は、更に(b-3)ノニオン性モノマー(以下、「(b-3)成分」ともいう)由来の構成単位、及び/又は重合可能な二重結合を二つ以上有する多官能性モノマー由来の構成単位を含有することができる。
(b-3)成分は、ポリマー(a)における(a-3)ノニオン性モノマーと同じであり、その具体例、好適例も同じであるので、その説明を省略する。
重合可能な二重結合を二つ以上有する多官能性モノマーの具体例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート等のジアクリレート化合物の他、ジメタクリレート化合物、トリ(メタ)アクリレート化合物、テトラ(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0031】
架橋前のポリマー(b)の酸価は、水系インクの保存安定性、再分散性及び画像濃度を向上させる観点から、好ましくは10mgKOH/g以上、より好ましくは20mgKOH/g以上、更に好ましくは25mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは150mgKOH/g以下、より好ましくは100mgKOH/g以下、更に好ましくは80mgKOH/g以下である。
ポリマー(b)の重量平均分子量は、上記と同様の観点から、好ましくは8,000以上、より好ましくは16,000以上、更に好ましくは30,000以上であり、そして、好ましくは500,000以下、より好ましくは300,000以下、更に好ましくは200,000以下である。
ポリマー(b)のカルボキシ基の一部は、必要に応じて、アルカリ金属化合物等の中和剤によって中和することができる。
【0032】
ポリマー(b)は、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により製造される。これらの重合法の中では、乳化重合法が好ましい。
乳化重合の際に用いる重合開始剤としては、乳化重合を行う媒体に可溶であるものを用いるのが好ましい。本発明においてはポリマー(b)は水系媒体を用い、該水系媒体に可溶な重合開始剤を用いて乳化重合することが好ましい。すなわち本発明のポリマー(b)は、該水系媒体に可溶な重合開始剤由来の成分を含有するものであることが好ましい。重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が挙げられ、乳化剤としては、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の他、公知のアニオン、ノニオン又は両性界面活性剤を用いることができる。
ポリマー(b)を含むポリマーエマルジョンを乳化重合で製造する場合、ポリマー粒子表面にはカルボキシル基が存在するためpHが酸性側に傾き、粘度上昇や凝集が起こりやすい。そこで前記の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等の中和剤による中和が行われる。前記中和剤の添加量は、ポリマーエマルジョンのpHが7.5~9.5の範囲、好ましくは7.5~8.5の範囲となるように適宜決定される。
架橋ポリマーエマルジョン(B)は、水系インクの再分散性と画像濃度を高レベルで両立させる観点から、ポリマー(b)をエポキシ化合物(b)で架橋してなる架橋ポリマーが微粒化された状態で水系媒体に懸濁された状態となっている。
ポリマー(b)とエポキシ化合物(b)の架橋反応は、顔料を含まない系で行うことが好ましい。
【0033】
〔エポキシ化合物〕
本発明において、ポリマー(a)及びポリマー(b)は、エポキシ化合物と架橋反応して架橋構造を形成する。この架橋構造により、ポリマーが顔料表面に強固に吸着又は固定化され、水系インク中での顔料の凝集が抑制され、更にポリマーの膨潤も抑制されるため、保存安定性、再分散性が向上すると考えられる。
エポキシ化合物(架橋剤)は、水溶性でも水不溶性でもよいが、水を主体とする媒体中でより効率的にポリマー(a)又は(b)のカルボキシ基と架橋反応させる観点から、ポリマー(a)の架橋剤は水不溶性のエポキシ化合物が好ましく、ポリマー(b)の架橋剤は水溶性のエポキシ化合物が好ましい。水不溶性エポキシ化合物を用いる場合、その水溶率(質量%)は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。ここで、水溶率(質量%)とは、室温25℃にて水90質量部にエポキシ化合物10質量部を溶解したときの溶解率(質量%)をいう。
【0034】
エポキシ化合物は、好ましくは多官能エポキシ化合物であり、より好ましくは分子中にエポキシ基を2以上有する化合物、更に好ましくはグリシジルエーテル基を2以上有する化合物、より更に好ましくは炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物である。
エポキシ化合物の分子量は、架橋反応の効率性、得られる水系インクの保存安定性及び再分散性を向上させる観点から、好ましくは120以上、より好ましくは150以上、更に好ましくは200以上であり、そして、好ましくは2,000以下、より好ましくは1,000以下、更に好ましくは800以下である。
エポキシ化合物のエポキシ当量は、上記と同様の観点から、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上であり、そして、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは170以下である。
エポキシ化合物のエポキシ基の数は、上記と同様の観点から、1分子あたり2以上であり、そして、1分子あたり好ましくは6以下であり、市場入手性の観点から、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。
【0035】
ポリマー(a)の架橋に用いられるエポキシ化合物(a)(以下、単に「エポキシ化合物(a)」ともいう)の[炭素原子数/酸素原子数]比([C/O]比)q(a)は、上記と同様の観点から、2.7以上3.8以下である。エポキシ化合物(a)の[C/O]比q(a)は、好ましくは2.8以上、より好ましくは2.9以上、更に好ましくは3.0以上であり、そして、好ましくは3.9以下、より好ましくは3.8以下、更に好ましくは3.7以下である。
【0036】
エポキシ化合物(a)の好適例としては、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル([C/O]比:3.5)、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル([C/O]比:3.0)、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル([C/O]比:2.8)、レゾルシノールジグリシジルエーテル([C/O]比:3.0)、及び水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル([C/O]比:5.3)等から選ばれる1種以上が挙げられる。
これらの中では、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、及びネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルから選ばれる1種以上が好ましく、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX-216L、ポキシ当量:150、[C/O]比:3.5、水溶率:0質量%)がより好ましい。
【0037】
ポリマー(b)の架橋に用いられるエポキシ化合物(b)(以下、単に「エポキシ化合物(b)」ともいう)の[C/O]比q(b)は、上記と同様の観点から、1.6以上2.7未満である。エポキシ化合物(b)の[C/O]比q(b)は、好ましくは1.7以上、より好ましくは1.8以上、更に好ましくは1.9以上であり、そして、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.3以下、更に好ましくは2.1以下である。
【0038】
エポキシ化合物(b)の好適例としては、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル([C/O]比:2.0)、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル([C/O]比:2.5)、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル([C/O]比:2.0)、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル([C/O]比:2.1)、グリセリンジグリシジルエーテル([C/O]比:1.8)、グリセロールポリグリシジルエーテル([C/O]比:1.8)等から選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中では、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX-850L、エポキシ当量:145、[C/O]比:2.0、水溶率:100%)、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX-214L、エポキシ当量:120、:[C/O]比:2.5、水溶率:100%)がより好ましい。
エポキシ化合物中の[C/O]比は、JIS M 8813:2006「石炭類及びコークス類―元素分析方法」により算出することができる。また、エポキシ化合物の構造や組成が既知である場合は、それらの情報から炭素原子数、酸素原子数を求めて計算することもできる。
【0039】
エポキシ化合物(a)とエポキシ化合物(b)との[C/O]比の差[q(a)-q(b)]は、水系インクの保存安定性を維持し、再分散性と画像濃度を高レベルで両立させる観点から、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは1.0以上であり、そして、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.3以下、更に好ましくは2.1以下、より更に好ましくは1.9以下である。
【0040】
〔ポリマーの架橋構造〕
本発明に用いられる顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)を構成するポリマー又は架橋ポリマーエマルジョン(B)を構成するポリマーは、それぞれ、エポキシ化合物(a)又はエポキシ化合物(b)による架橋構造を有している。それらの架橋構造は、ポリマー(a)又は(b)と、エポキシ化合物(a)又はエポキシ化合物(b)とが、エポキシ化合物のエポキシ基の開環反応によりエステル基を形成して両者が結合し、このときポリマー(a)又はポリマー(b)が分子中に複数のカルボキシ基を有し、またエポキシ化合物も分子中に2以上のエポキシ基を有することから、二次元構造であるポリマー(a)又はポリマー(b)がエポキシ化合物との架橋によって三次元構造となったものと考えられる。
なお、ポリマーは水溶性でも水不溶性でもよいが、架橋することにより水不溶性ポリマーとなる。ここで、「水不溶性」とは、ポリマーを水と混合した場合に、(i)不溶分が目視で確認できること、(ii)不溶分が微小で目視で確認できない場合でもレーザー光や通常光による観察でチンダル現象が認められること、又は(iii)実施例に記載のレーザー粒子解析システムによる測定で平均粒径が観測されることをいう。
【0041】
ポリマー(a)又はポリマー(b)を架橋する場合の架橋度は、水系インクの保存安定性及び再分散性を向上させる観点から、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは35モル%以上であり、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは78モル%以下、更に好ましくは75モル%以下である。
ここで、ポリマー(a)又はポリマー(b)の架橋度(モル%)は、「(本発明インク中のエポキシ化合物(a)又は(b)由来のエポキシ基のモル数/本発明インク中のポリマー(a)又は(b)由来のカルボキシ基のモル数)×100」で算出される。
なお、「ポリマー(a)又は(b)由来のカルボキシ基のモル数」とは、上記(a-1)又は(b-1)成分であるカルボキシ基含有ビニルモノマーに加え、ポリマーを乳化重合で製造する場合に用いる乳化剤がカルボキシ基を有していればそのモル数は算入する。
【0042】
[水系インクの製造方法]
本発明インクは、下記工程1~4を含む方法により効率的に製造することができる。
工程1:水不溶性ポリマー(a)のカルボキシ基の少なくとも一部をアルカリ金属化合物で中和して、該水不溶性ポリマー(a)の水分散液を得る工程
工程2:工程1で得られた水不溶性ポリマー(a)の水分散液と顔料とを分散処理して、顔料が水不溶性ポリマー(a)で分散された顔料水分散体(i)を得る工程
工程3:工程2で得られた顔料水分散体(i)に多官能エポキシ化合物を添加し、架橋処理して、水系顔料分散体(I)を得る工程
工程4:工程3で得られた水系顔料分散体(I)、架橋ポリマーエマルジョン(B)、有機溶媒、及び水を混合して、水系インクを得る工程
【0043】
(工程1)
工程1では、ポリマー(a)のカルボキシ基の少なくとも一部をアルカリ金属化合物で中和して、ポリマー(a)の水分散液を得る。
工程1における中和は、pHが7以上11以下になるように行うことが好ましい。中和に用いるアルカリ金属化合物及びポリマー(a)の中和度は、前記のとおりである。
アルカリ金属化合物は、十分かつ均一に中和を促進させる観点から、水溶液として用いることが好ましい。その水溶液の濃度は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0044】
(工程2)
工程2では、工程1で得られた水不溶性ポリマー(a)の水分散液と顔料とを分散処理して、顔料が水不溶性ポリマー(a)で分散された顔料水分散体(i)を得る。
工程2における分散処理は、剪断応力による本分散だけで顔料粒子を所望の粒径となるまで微粒化することもできるが、均一な顔料水分散体を得る観点から、顔料混合物を予備分散した後、更に本分散することが好ましい。
予備分散に用いる分散機としては、アンカー翼、ディスパー翼等の一般に用いられている混合撹拌装置を用いることができる。
【0045】
本分散に用いる分散機としては、ロールミル、ニーダー等の混練機、マイクロフルイダイザー等の高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ビーズミル等のメディア式分散機が挙げられる。これらの中でも、顔料を小粒子径化する観点から、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
高圧ホモジナイザーを用いて分散処理を行う場合、処理圧力やパス回数の制御により、顔料水分散体(i)中の顔料粒子の平均粒径を調整することができる。
処理圧力は、生産性及び経済性の観点から、好ましくは60MPa以上300MPa以下であり、パス回数は、好ましくは3以上30以下である。
【0046】
顔料混合物に有機溶媒が含まれている場合は、公知の方法で有機溶媒を除去することで、顔料水分散体(i)を得ることができる。得られた顔料水分散体(i)中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、例えば0.1質量%程度以下残存していてもよい。
得られる顔料水分散体(i)の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、分散安定性を向上させる観点及び水系インクの調製を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
なお、分散体の固形分濃度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0047】
顔料水分散体(i)における下記式(1)で表される顔料比率x’は、水系インクの再分散性及び画像濃度を向上させる観点から、好ましくは0.81以上、より好ましくは0.84以上、更に好ましくは0.88以上であり、そして、好ましくは0.99以下、より好ましくは0.98以下、更に好ましくは0.97以下である。
顔料比率x’=[顔料水分散体(i)中の顔料の質量/(顔料水分散体(i)中の顔料の質量+顔料水分散体(i)中のポリマー(a)の質量] (1)
【0048】
顔料水分散体(i)のキュムラント平均粒径は、粗大粒子を低減し、保存安定性及び画像濃度を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは70nm以上であり、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは160nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
なお、キュムラント平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0049】
(工程3)
工程3では、工程2で得られた顔料水分散体(i)に多官能エポキシ化合物を添加し、架橋処理して、水系顔料分散体(I)を得る。
工程3では、顔料水分散体(i)中で、顔料を分散させているポリマー(a)がエポキシ化合物によって架橋されて架橋ポリマーが形成され、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)が水系媒体に分散された形態の水系顔料分散体(I)を得ることができる。
好ましいエポキシ化合物及び架橋度は前述のとおりである。
【0050】
架橋処理の温度は、架橋反応の完結と経済性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましは70℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは92℃以下である。また、架橋処理の時間は、上記と同様の観点から、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、そして、好ましくは10時間以下、より好ましくは6時間以下である。
【0051】
得られる水系顔料分散体(I)の不揮発成分濃度(固形分濃度)は、分散安定性を向上させる観点及びインクの製造を容易にする観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
【0052】
下記式(2)で表される水系顔料分散体(I)の顔料比率xは、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.84以上、更に好ましくは0.88以上であり、特に好ましくは0.90以上であり、そして、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.94以下、更に好ましくは0.93以下である。
水系顔料分散体(I)の顔料比率x=[顔料水分散体(I)中の顔料の質量/(顔料水分散体(I)中の顔料の質量+顔料水分散体(I)中のポリマー(a)由来成分の質量+顔料水分散体(I)中のエポキシ化合物(a)由来成分の質量] (2)
水系顔料分散体(I)の顔料比率xが前記の範囲内であると、水系顔料分散体(I)を水系インクに用いたときに、再分散性及び画像濃度を両立できるインクとすることができる。
【0053】
水系顔料分散体(I)のキュムラント平均粒径は、粗大粒子を低減し、保存安定性及び画像濃度を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは70nm以上であり、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは160nm以下、更に好ましくは150nm以下である。
【0054】
(工程4)
工程4では、工程3で得られた水系顔料分散体(I)(顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A)の水系分散体)、架橋ポリマーエマルジョン(B)、有機溶媒、及び水を混合して、水系インクを得る。
架橋ポリマーエマルジョン(B)は、ポリマー(b)をエポキシ化合物(b)で架橋して形成されるが、架橋ポリマーエマルジョン(B)中の架橋後のポリマーの酸価は、水系インクの保存安定性、再分散性を向上させる観点から、好ましくは8mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは12mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは70mgKOH/g以下、より好ましくは50mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下である。
架橋ポリマーエマルジョン(B)のキュムラント平均粒径は、粗大粒子を低減し、水系インクの保存安定性、再分散性を向上させる観点から、好ましくは40nm以上、より好ましくは60nm以上、更に好ましくは80nm以上であり、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは160nm以下、更に好ましくは120nm以下である。
【0055】
用いられる有機溶媒は、水と任意の割合で混合できる水溶性有機溶剤が好ましい。
水溶性有機溶剤としては、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、含窒素複素環化合物、アミド、アミン、含硫黄化合物等が挙げられる。これらの中でも、水系インクの画像濃度を向上させる観点から、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルから選ばれる1種以上が好ましい。
多価アルコールとしては、グリセリン、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等の沸点が250℃以上の多価アルコールがより好ましく、グリセリンとトリエチレングリコールとの併用が更に好ましい。
【0056】
〔水系インク〕
本発明インクは、前記成分の他、必要に応じて、インクに通常用いられる保湿剤、湿潤剤、浸透剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を更に含有することができる。
本発明インク中の各成分の含有量は、水系インクの保存安定性を維持し、再分散性及び画像濃度を向上させ、必要なインク性能を付与する観点から、以下のとおりである。
【0057】
(顔料の含有量)
本発明インク中の顔料の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは2.5質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましく8質量%以下である。
【0058】
下記式(3)で表される水系インクの顔料比率rは、水系インクの再分散性及び画像濃度を向上させる観点から、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.55以上、特に好ましくは0.65以上であり、そして、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、更に好ましくは0.85以下、特に好ましくは0.75以下である。
顔料比率r=[水系インク中の顔料の質量/〔水系インク中の顔料の質量+水系インク中の架橋ポリマー(A)の質量+水系インク中の架橋ポリマーエマルジョン(B)の質量〕] (3)
【0059】
(架橋ポリマー粒子(A)の含有量)
本発明インク中の架橋ポリマー粒子(A)の含有量は、水系インクの画像濃度を発現させる観点から、水系インク中の固形分として、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは18質量%以下、より好ましくは12質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、より更に好ましくは8質量%以下である。
【0060】
(架橋ポリマーエマルジョン(B)の含有量)
本発明インク中の架橋ポリマーエマルジョン(B)の含有量は、画像濃度を向上させる観点から、水系インク中の固形分として、好ましくは0.5量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは6質量%以下、特に好ましくは4質量%以下である。
(ポリマー(a)とエポキシ化合物(a)の合計量比)
下記式(4)で表される本発明インク中のポリマー(a)とエポキシ化合物(a)の合計量比は、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.18以上、更に好ましくは0.2以上であり、そして、好ましくは0.65以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.4以下である。
ポリマー(a)とエポキシ化合物(a)の合計量比=[〔ポリマー(a)の質量+エポキシ化合物(a)の質量〕/〔ポリマー(a)の質量+エポキシ化合物(a)の質量+架橋ポリマーエマルジョン(B)の固形分質量〕] (4)
式(4)において各成分の質量は、それぞれ水系インク中の質量を意味する。
【0061】
(有機溶剤の含有量)
本発明インク中の有機溶剤、特に水溶性有機溶剤の含有量は、水系インクの再分散性を確保する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましく35質量%以下である。
本発明インク中の水の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0062】
(水系インク物性)
本発明インクの32℃の粘度は、保存安定性、画像濃度を向上させる観点から、好ましくは2mPa・s以上、より好ましくは3mPa・s以上、更に好ましくは5mPa・s以上であり、そして、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9mPa・s以下、更に好ましくは7mPa・s以下である。水系インクの粘度は、E型粘度計を用いて測定できる。
本発明インクのpHは、保存安定性、画像濃度を向上させる観点から、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.2以上、更に好ましくは7.5以上である。また、部材耐性、皮膚刺激性の観点から、pHは、好ましくは11以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは9.5以下である。水系インクのpHは、常法により測定できる。
【実施例】
【0063】
以下の調製例、製造例、実施例及び比較例において、「部」及び「%」は特記しない限り「質量部」及び「質量%」である。
なお、各種の物性の測定は、以下の方法で行った。
【0064】
(1)ポリマーの重量平均分子量の測定
N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製、GPC装置(HLC-8320GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSKgel SuperAWM-H、TSKgel SuperAW3000、TSKgel guardcolum Super AW-H)、流速:0.5mL/min〕により、標準物質として分子量既知の単分散ポリスチレンキット〔PStQuick B(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)、PStQuick C(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)、東ソー株式会社製〕を用いて測定した。
測定サンプルは、ガラスバイアル中にポリマー0.1gを前記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター(DISMIC-13HP PTFE 0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。
【0065】
(2)ポリマーの酸価の測定
JIS K0070において、測定溶媒を、エタノールとエーテルとの混合溶媒から、エタノールとトルエンとの混合溶媒〔エタノール:トルエン=1:1(容量比)〕に変更したこと以外は、JIS K0070に従って測定した。
【0066】
(3)顔料分散体のキュムラント平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム(大塚電子株式会社製、ELS-8000)を用いてキュムラント解析を行い、キュムラント平均粒径を測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定サンプルの濃度は、5×10-3%(固形分濃度換算)で行った。
【0067】
(4)顔料分散体の固形分濃度の測定
赤外線水分計(株式会社ケツト科学研究所製、FD-230)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分、水分量の変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、顔料分散体の水分量(質量%)を測定した。固形分濃度(質量%)は次式により算出した。
固形分濃度(質量%)=100-水分量(質量%)
【0068】
調製例1(水不溶性ポリマー(a)の調製)
アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)30.8部、スチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製 試薬)59.2部、α-メチルスチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)10.0部を混合し、原料モノマー混合物を調製した。
反応容器内に、メチルエチルケトン(MEK)10部、2-メルカプトプロピオン酸(重合連鎖移動剤)0.3部、及び前記原料モノマー混合物の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、前記原料モノマー混合物の残りと、前記重合連鎖移動剤0.27部、MEK40部、及びアゾ系ラジカル重合開始剤(富士フイルム和光純薬株式会社製、V-501;4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸))1.1部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記モノマー混合液を撹拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.15部をMEK2.5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、カルボキシ基を有する水不溶性ポリマー(a1)(重量平均分子量:11,800、酸価240mgKOH/g)の溶液を得た。
【0069】
製造例1-1(ポリマー水分散液の製造(工程1))
調製例1で得られたポリマー溶液を減圧乾燥させて得られたカルボキシ基を有する水不溶性ポリマー(a)80部にイオン交換水271部、中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム固形分16.9%)48.6部を加え、水不溶性ポリマー(a)のカルボキシ基のモル数に対する水酸化ナトリウムのモル数の割合が60モル%(中和度60モル%)になるように中和した。得られた水溶液を150rpmで撹拌しながら90℃で5時間加熱して、ポリマー水分散液(固形分濃度20%)を得た。
【0070】
製造例2-1(顔料水分散体の製造)
(工程2:顔料水分散体(i-1)の製造)
製造例1-1で得られたポリマー水分散液26部に、イオン交換水352部、マゼンタ顔料(PV19:大日精化工業株式会社製、Pigment Violet 19)100部を加え、ディスパー(淺田鉄工株式会社製、ウルトラディスパー)を用いて、20℃でディスパー翼を7,000rpmで回転させる条件で60分間撹拌した。得られた混合物をマイクロフルイダイザー(Microfluidics社製、商品名)で200MPaの圧力で10パス分散処理し、分散処理物を得た。
得られた分散処理物を孔径5μmのフィルター(Sartorius Stedim Biotech社製、ミニザルトシリンジフィルター、フィルター径:26mm、材質:セルロースアセテート)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過し、粗大粒子を除去した後、イオン交換水を固形分濃度が20%になるよう添加し、顔料水分散体(i-1)を得た。
得られた顔料水分散体(i-1)における、前記式(1)で表される顔料比率x’は、0.95であり、また、顔料水分散体(i-1)調製後、1時間後にキュムラント平均粒径を測定したところ118nmであった。
【0071】
(工程3:水系顔料分散体(A1)の製造)
上記工程1で得られた顔料水分散体(i-1)の100部(固形分20%)をねじ口付きガラス瓶に取り、顔料水分散体(i-1)中のポリマー(a)が有する全カルボキシ基の55モル%が架橋されるように(架橋度55モル%)、エポキシ化合物としてジエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX-216L、[C/O]比:q(a)=3.5)0.35部を加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら90℃で5時間加熱した。5時間経過後、室温まで降温し、孔径5μmのフィルター(Sartorius Stedim Biotech社製、ミニザルトシリンジフィルター、フィルター径:26mm、材質:セルロースアセテート)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過したのちにイオン交換水を加えて固形分濃度を20%に調整して、顔料を含有する架橋ポリマー粒子(A1)の水系分散体(水系顔料分散体A1)を得た。
得られた水系顔料分散体A1における、前記式(2)で表される顔料比率xは、0.94であり、また、キュムラント平均粒径は132nmであった。
【0072】
製造例2-2~2-6、及び比較製造例2-1~2-2
製造例2-1において、表1に示すようにエポキシ化合物の種類と量を変更した以外は、製造例2-1と同様にして、水系顔料分散体(A2)~(A6)、及び(AC1)~(AC2)を得た。結果を表1に示す。
用いたエポキシ化合物のカタログに記載の化合物名から計算した[C/O]比:q(a)の数値、エポキシ当量、及びキュムラント平均粒径を表1に示す。
【0073】
表1中に記載のエポキシ化合物の詳細は以下のとおりである。
・EX-216L:ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX-216L:シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、[C/O]比:q(a)=3.5、エポキシ当量:150、水溶率:0%
・EX-212L:ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX-212L:1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、[C/O]比:q(a)=3.0、エポキシ当量:150、水溶率:0%
・EX-850L:ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX-850L、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、[C/O]比:q(b)=2.0、エポキシ当量:145、水溶率:100%
・EX-252:ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX-252、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、[C/O]比:q(b)=5.3、エポキシ当量:213、水溶率:0%
【0074】
【0075】
製造例3-1~3-2、及び比較製造例3-1~3-3(ポリマーエマルジョン(B1)~(B2)、(BC1)~(BC3)の製造)
(1)500mLガラスビーカー中にメチルメタクリレート(富士フイルム和光純薬株式会社製)144.5部、2-エチルヘキシルアクリレート(富士フイルム和光純薬株式会社製)50部、メタクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)5.5部、ポリオキシエチレン(18)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム水溶液(花王株式会社製、ラテムルE-118B、固形分26%)18.5部、イオン交換水96部、過硫酸カリウム0.4部を仕込み、マグネチックスターラーで撹拌(300rpm)し、モノマー乳化液を得た。
滴下ロートを備えた1000mlのセパラブルフラスコに、ラテムルE-118B 4.6部、イオン交換水186部、過硫酸カリウム0.08部を入れ窒素ガス置換を十分行った。窒素雰囲気下、撹拌羽でセパラブルフラスコ内を撹拌(200rpm)しながら80℃まで昇温し、上記モノマー乳化液を滴下ロート中に仕込みのこのモノマー乳化液を3時間かけて滴下、反応させた。この反応液にイオン交換水を加え有効分を20%とすることで架橋前のポリマーエマルジョン(B)(重量平均分子量:100,000、キュムラント平均粒径:100nm、酸価36mgKOH/g)を得た。
【0076】
(2)上記(1)で得られたポリマーエマルジョン(B)(固形分20%)100部をねじ口付きガラス瓶に取り、該ポリマーエマルジョンが含有するポリマーの全カルボキシ基の55モル%が架橋されるように(架橋度55モル%)、エポキシ化合物(デナコールEX-850L、デナコールEX-216L、又はデナコールEX-212L)1部、イオン交換水4.2部を加えて密栓し、スターラーで撹拌しながら90℃で5時間加熱した。5時間経過後、室温まで降温し、孔径5μmのフィルター(Sartorius Stedim Biotech社製、ミニザルトシリンジフィルター、フィルター径:26mm、材質:セルロースアセテート)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過して、イオン交換水を加えて固形分濃度を20%に調整してポリマーエマルジョン(B1)~(B2)、(BC1)~(BC3)を得た。結果を表2に示す。
【0077】
表2中に記載のエポキシ化合物の詳細は以下のとおりである。
・EX-214L:ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX-214L、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、[C/O]比:q(b)=2.5、エポキシ当量:120、水溶率:100%
・EX-622:ナガセケムテックス株式会社製、デナコールEX-622、ソルビトールポリグリシジルエーテル、[C/O]比:q(b)=1.5、エポキシ当量:191、水溶率:0%
【0078】
【0079】
実施例1
(工程4:水系インクの製造)
製造例2-2で得られた架橋ポリマー粒子(A2)の水系顔料分散体(A2)30.0部(水系インク中の顔料含有量:5.6部)、製造例3-1で得られたポリマーエマルジョン(B1)10.0部、有機溶媒としてグリセリン5部、及びジエチレングリコールモノブチルエーテル(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)5部、1.2-ヘキサンジオール(東京化成工業株式会社製、試薬)5部、非イオン性界面活性剤(商品名:アセチレノールE100、川研ファインケミカル株式会社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのエチレンオキシド10モル付加物)0.5部に、イオン交換水を全量が100部になるように加えて、マグネチックスターラーで2時間撹拌してよく混合し、孔径1.2μmのフィルター(Sartorius Stedim Biotech社製、ミニザルトシリンジフィルター、フィルター径:26mm、材質:セルロースアセテート)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジで濾過して、水系インク1を得た。
【0080】
実施例2~8、及び比較例1~6
実施例1において、表3に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、水系インク2~8、及びC1~C6を得た。
【0081】
実施例9
実施例1において、有機溶媒として、グリセリン5部、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(富士フイルム和光純薬株式会社製、試薬)5部、1.2-ヘキサンジオール(東京化成工業株式会社製 試薬)5部の代わりに、グリセリン5部、トリエチレングリコール10部とした以外は、実施例1と同様にして、水系インク9を得た。
【0082】
実施例及び比較例で得られた水系インクを用いて、以下の方法により、インクの再分散性、及び普通紙への印刷における画像濃度を評価した。結果を表3に示す。
【0083】
(水系インクの再分散性)
マイクロピペットを用いて、水系インクをスクリュー管No.5(株式会社マルエム製)の底の中央部に10μL滴下し、蓋をせずに40℃、25%RHの環境で24時間放置して、水系インクを蒸発乾固させた。
スクリュー管の底に残留した固形物に、イオン交換水を10mL添加し、150rpmで1分間攪拌し、前記固形物の再分散性を目視で観察し、下記の評価基準により、水系インクの再分散性を評価した。
(評価基準)
〇:固形物が均一に再分散した。
△:固形物が再分散したが、残渣があった。
×:固形物が再分散しなかった。
再分散性は高い方が好ましいが、実使用上は、「△」評価以上であればよい。
【0084】
(普通紙印刷物の画像濃度)
インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、型番:EW-M-660FT、ピエゾ式)に、水系インク1~12及び比較例の水系インクC1~C8をそれぞれ充填し、室温23℃、相対湿度50%の条件で、普通紙(ゼロックス社製、商品名:XEROX 4200に、印刷条件を、〔用紙種類:普通紙、印刷品質:標準〕とし、ベタ画像の印刷を行い、普通紙印刷物を得た。
普通紙印刷物の画像濃度の測定は、分光光度計(X-Rite社製、品番:Spectro Eye)を用い、測定条件を、観測光源D65、観測視野2度、濃度基準を DIN16536とし、各色の色濃度成分の数値を読み取って行った。測定回数は、測定する場所を変え、合計10点の平均値を求めた。数値が大きいほど画像濃度が高い。
画像濃度は高い方が好ましいが、実使用上は、カラーインク(有機顔料)においては0.90以上であれば支障はない。
【0085】
【0086】
表3から、実施例1~9で得られた水系インクは、比較例1~6で得られた水系インクに比べて、再分散性と画像濃度が高レベルでバランスしていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の水系インクは、再分散性が高く、かつ、普通紙へのインクジェット記録においても高い画像濃度を有する記録物を得ることができる。