(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】中性タンパク飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/66 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
A23L2/00 J
(21)【出願番号】P 2020179180
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川野 有加
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克夫
(72)【発明者】
【氏名】高塒 春樹
(72)【発明者】
【氏名】小里 建喬
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109198038(CN,A)
【文献】特表2009-545326(JP,A)
【文献】特開2019-030264(JP,A)
【文献】国際公開第2016/068251(WO,A1)
【文献】Compact Fibre Drink,Mintel GNPD, ID#1616472,[online],2011年,[検索日2024.04.09], インターネット<URL: http://www.gnpd.com>
【文献】Food Hydrocolloids,2013年,Vol. 30,pp. 123-129
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00- 2/84
Mintel GNPD
CAplus/MEDLINE/AGRICOLA/EMBASE/FSTA/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JST7580/JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質とトレハロースとHMペクチンを含み、pHが6より大きく8未満であ
り、
タンパク質の含有量が14~20質量%である、中性タンパク飲料。
【請求項2】
タンパク質とトレハロースとHMペクチンを含み、pHが6より大きく8未満であり、
トレハロースの含有量が1~10質量%であり、HMペクチンの含有量が0.1~3質量%である
、中性タンパク飲料。
【請求項3】
タンパク質とトレハロースとHMペクチンを含み、pHが6より大きく8未満であり、
さらに、ショ糖脂肪酸エステルを0.01~0.5質量%含む
、中性タンパク飲料。
【請求項4】
タンパク質が乳タンパク質である、請求項1
~3のいずれか1項に記載の中性タンパク飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性タンパク飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を含有するタンパク飲料(プロテイン飲料とも称される。)は、手軽にタンパク質を摂取できることから注目を集めており、タンパク飲料に関する様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高塩分飲料や低粘度飲料に対しても分散安定性の優れたタンパク飲料を提供するために、平均HLBが14以下の乳化剤と、結晶セルロースと、キサンタンガムと、ジェランガムと、単糖類や二糖類などの糖類とを含有するタンパク飲料の沈殿防止剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-312572号公報
【文献】WO2016/068251号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のタンパク飲料において、タンパク質の含有量はせいぜい7質量%程度以下である。より多くのタンパク質をより効率的に摂取するためには、タンパク質を高濃度化することが望まれるが、タンパク質の濃度を高めると、低温保存時にゲル化しやすいという問題がある。
【0006】
なお、特許文献2には、乳タンパク質と大豆多糖類とHMペクチンと不溶性セルロースとトレハロースとを含有する酸性乳飲料が開示されている。しかしながら、この文献は、pHが3~6の酸性飲料に関するものであって、タンパク質が低濃度の場合に課題となる分離及び沈殿を抑制することを目的としたものであり、pHが中性域にある中性タンパク飲料における低温保存時のゲル化抑制について示唆するものではない。
【0007】
本発明は、低温保存時のゲル化を抑制することができる中性タンパク飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る中性タンパク飲料は、タンパク質とトレハロースとHMペクチンを含むものであり、pHが6より大きく8未満である。
【0009】
本発明の実施形態に係る中性タンパク飲料において、タンパク質の含有量は10~20質量%でもよい。また、タンパク質は乳タンパク質でもよい。また、トレハロースの含有量が1~10質量%であり、HMペクチンの含有量が0.1~3質量%でもよい。
【0010】
本実施形態に係る中性タンパク飲料は、さらに、ショ糖脂肪酸エステルを0.01~0.5質量%含んでもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、低温保存時におけるゲル化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態に係る中性タンパク飲料は、タンパク質を含有する中性のタンパク飲料であり、そのpH(25℃)は6より大きく8未満である。中性タンパク飲料のpHは、6.1~7.5であることが好ましく、より好ましくは6.3~7.2であり、さらに好ましくは6.4~7.0であり、6.5~6.8でもよい。
【0014】
中性タンパク飲料に含まれるタンパク質としては、動物性タンパク質でもよく、植物性タンパク質でもよいが、好ましくは乳タンパク質である。乳タンパク質は、カゼインタンパク質とホエイタンパク質とで構成される。乳タンパク質における、カゼインタンパク質(P1)とホエイタンパク質(P2)との比率は特に限定されず、両者の質量比P1/P2で、20/1~1/20でもよく、15/1~1/15でもよく、10/1~1/10でもよく、10/1~1/1でもよい。カゼインタンパク質とホエイタンパク質を含む乳タンパク質としては、例えば乳タンパク質濃縮物(MPC)を用いることができる。
【0015】
中性タンパク飲料におけるタンパク質(好ましくは乳タンパク質)の含有量(濃度)は、特に限定されないが、飲料として多くのタンパク質をより効率的に摂取するためには、10質量%以上であることが好ましく、より好ましくは12質量%以上であり、更に好ましくは14質量%以上である。タンパク質の濃度の上限は、特に限定されないが、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは18質量%以下であり、更に好ましくは17質量%以下である。本実施形態によれば低温保存時におけるゲル化を抑制することができ、ゲル化は一般にタンパク質が高濃度の場合に生じるので、このような高濃度化した場合により有効であると考えられる。
【0016】
本実施形態に係る中性タンパク飲料には、低温保存時におけるゲル化を抑制するために、トレハロースとHMペクチンが配合される。
【0017】
トレハロースは、2つのα-グルコースが1,1-グリコシド結合してできた二糖類である。中性タンパク飲料におけるトレハロースの含有量(濃度)は、特に限定されないが、低温保存時におけるゲル化抑制効果を高めるために、1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは3.5質量%以上であり、更に好ましくは4質量%以上であり、4.5質量%以上でもよい。中性タンパク飲料におけるトレハロースの濃度の上限は、特に限定されないが、中性タンパク飲料の粘度を低減するために、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは9質量%以下であり、更に好ましくは8質量%以下であり、6質量%以下でもよく、5.5質量%以下でもよい。
【0018】
HMペクチンは、ガラクツロン酸がα-1,4-結合したポリガラクツロン酸を主鎖成分とする多糖類である。ペクチンを構成するガラクツロン酸はカルボキシ基が部分的にメチルエステル化されており、エステル化度が50%以上のものをHMペクチン(ハイメトキシルペクチン)といい、エステル化度が50%未満のものをLMペクチン(ローメトキシルペクチン)という。本実施形態ではHMペクチンを用いる。
【0019】
中性タンパク飲料におけるHMペクチンの含有量(濃度)は、特に限定されないが、低温保存時におけるゲル化抑制効果を高めるために、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以上であり、更に好ましくは0.3質量%以上であり、0.4質量%以上でもよい。中性タンパク飲料におけるHMペクチンの濃度の上限は、特に限定されないが、中性タンパク飲料の粘度を低減するために、3質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以下であり、0.6質量%以下でもよい。
【0020】
トレハロース(A)とHMペクチン(B)との比率は特に限定されないが、両者の質量比A/Bで、2/1~25/1であることが好ましく、より好ましくは5/1~15/1であり、更に好ましくは7/1~13/1である。
【0021】
本実施形態に係る中性タンパク飲料には、さらにショ糖脂肪酸エステルが配合されてもよい。ショ糖脂肪酸エステルを配合することにより、中性タンパク飲料の調製時における粉原料の水への分散性を向上することができる。
【0022】
ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖と脂肪酸とのエステルであり、当該エステルを構成する脂肪酸としては、特に限定されないが、炭素数が8~22である飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸、あるいはそれらの混合であることが好ましい。
【0023】
ショ糖脂肪酸エステルのHLB値は、特に限定されないが、例えば8~17であることが好ましく、より好ましくは10~16であり、10~14でもよい。ここで、HLB値はグリフィン式により算出される値である。
【0024】
中性タンパク飲料におけるショ糖脂肪酸エステルの含有量(濃度)は、特に限定されないが、ゲル化抑制効果の低下および粘度上昇を抑えながら、調製時における水への分散性を向上する観点から、0.01~0.5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05~0.4質量%である。
【0025】
本実施形態に係る中性タンパク飲料において水の含有量は、特に限定されず、中性タンパク飲料100質量部に対して、40~85質量%でもよく、50~83質量%でもよく、60~80質量%でもよい。
【0026】
本実施形態に係る中性タンパク飲料には、pHを中性に調整するためにpH調整剤としての酸及び/又はアルカリが含まれてもよい。酸としては、例えば、クエン酸、乳酸、酢酸、リンゴ酸、フマル酸、グルコン酸、酒石酸、コハク酸、アジピン酸、塩酸などが挙げられる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0027】
本実施形態に係る中性タンパク飲料は、乳成分を含有する中性乳飲料でもよく、果物やココア、バニラなどの風味が付与された中性タンパク飲料でもよい。そのため、中性タンパク飲料には、上記成分に加え、その他の食品原料や食品添加剤が含まれてもよい。例えば、乳タンパク質以外の乳含有成分(乳糖、乳性ミネラル、乳脂肪など)、乳化剤、多糖類、糖質系甘味料(砂糖、異性化糖、果糖、オリゴ糖など)、非糖質系甘味料(ステビア、アスパルテーム、スクラロースなど)、糖アルコール(ソルビトール、エリスリトールなど)、果汁、野菜汁、香料、調味料、ミネラル類(カルシウム、鉄、マンガン、マグネシウム、亜鉛など)、ビタミン類等が挙げられ、これらのいずれか1種または2種以上を含有させてもよい。
【0028】
一実施形態において、中性タンパク飲料は実質的に脂肪を含まないことが好ましく、脂肪を摂らずにタンパク質を摂取することができる。中性タンパク飲料における脂肪の含有量(濃度)は、2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以下であり、更に好ましくは0質量%である。
【0029】
本実施形態に係る中性タンパク飲料の粘度(25℃)は特に限定されないが、飲みやすさの観点から低粘度であることが好ましく、例えば100mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは60mPa・s以下であり、更に好ましくは50mPa・s以下であり、特に好ましくは40mPa・s以下である。本実施形態によれば、トレハロースとHMペクチンを併用することにより、低温保存時のゲル化を抑制しつつ、高濃度のタンパク飲料の粘度上昇を抑えることができる。なお、中性タンパク飲料の粘度の下限としては、特に限定されず、例えば3mPa・s以上でもよく、5mPa・s以上でもよく、10mPa・s以上でもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0031】
使用した原料の詳細は以下のとおりである。
・乳タンパク濃縮物:日成共益株式会社製「MPC80」、乳タンパク質(カゼインタンパク質/ホエイタンパク質=8/2)80.5質量%、乳糖6.0質量%
・トレハロース:株式会社林原製「トレハロース」
・HMペクチン1:三晶株式会社製「SLENDID200」
・HMペクチン2:三晶株式会社製「YM-150-LJ」、エステル化度72%
・HMペクチン3:三晶株式会社製「AS confectionery-J」、エステル化度52%
・ショ糖脂肪酸エステル1:第一工業製薬株式会社製「DKエステルF-110」、HLB値11
・ショ糖脂肪酸エステル2:第一工業製薬株式会社製「DKエステルF-160」、HLB値15
・マルトース:株式会社林原製「ファイントース」
・マルトトリオース:三和澱粉工業株式会社製「オリゴトース」
・デキストリン:三和澱粉工業株式会社製「サンデック#100」
・結晶セルロース:旭化成ケミカルズ株式会社製「セオラスRC-N30」
・大豆多糖類:不二製油株式会社製「ソヤファイブS-LN」
・アラビアガム:三栄薬品貿易製「アラビアガム末HP」
【0032】
[実施例1~18,比較例1~10]
下記表1~6に記載の配合(表中の「%」は質量%)に従い、水以外の粉原料でプレミックスを作製し、スリーワンモーターで水を350rpmにて撹拌しているところに該プレミックスを投入し、水に分散させた。これを70℃で20分間攪拌した後、更にホモミキサーで撹拌した(7000rpm、5分、70℃)。このとき、水酸化ナトリウム水溶液(10質量%)又はクエン酸水溶液(10質量%)を用いて、溶液のpHを6.7に調整した。その後、ホモジナイザーを用いて該溶液を均質化した(1次圧:5MPa、2次圧:5MPa)。均質化した溶液を250mLビンに150mLずつ入れて、オートクレーブで殺菌処理した(121℃、3分)。殺菌処理後、流水で20分間冷却して中性タンパク飲料を得た。なお、実施例1~18および比較例1~10においてタンパク質の濃度は15質量%であり、高濃度タンパク飲料であるといえる。
【0033】
得られた中性タンパク飲料について、pHおよび粘度を測定するとともに、低温保存後の流動性を評価した。測定方法および評価方法は以下のとおりである。
【0034】
[pH]
卓上型pHメーター(LAQUA、株式会社堀場製作所)にて25℃におけるpHを測定した。
【0035】
[粘度]
B形粘度計(株式会社東京計器)にて、ローターNo.1、60rpm、120秒の条件で、25℃における粘度を測定した。
【0036】
[流動性]
流水で冷却後の中性タンパク飲料を入れた上記ビンを4℃に設定した冷蔵室に入れ、一晩経過後、7日間経過後、および30日間経過後に冷蔵室から室温に出し、直ちに流動性を評価した。評価は、上記ビンを静かに倒すことにより行い、下記基準により判定した。
1.内容物はゲルであり、ビンを倒しても流動しない。
2.内容物はゾルであり、ビンを倒してもすぐには流れないが15秒以内にゆっくりと流れる。
3.内容物はゾルであり、ビンを倒したら直ちに流れる。
【0037】
実施例1~18の中性タンパク飲料について、調製時における粉原料の水への分散性を評価した。評価方法は以下のとおりである。
【0038】
[分散性]
表1~4の配合に従い、水以外の粉原料をプレミックスし、スリーワンモーターで水を350rpmにて撹拌しているところに該プレミックスを投入して撹拌したときの1分後の状態を目視確認し、下記基準により判定した。
×:ダマが10個以上ある。
△:ダマが4~9個である。
〇:ダマが1~3個である。
◎:ダマが全くない。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
結果は表1~6に示すとおりである。オリゴ糖や増粘多糖類を配合していないコントロールの比較例1に対し、トレハロースを配合した比較例2では低温保存時のゲル化を抑制する効果が見られたが、30日保存後にはゲル化してしまった。他のオリゴ糖としてデキストリンを配合した比較例5ではわずかにゲル化が抑制された程度にとどまり、マルトースやマルトトリオースを配合した比較例3,4ではゲル化を抑制する効果は見られなかった。
【0046】
また、HMペクチンを配合した比較例6ではわずかにゲル化が抑制された程度にとどまり、他の増粘多糖類である結晶セルロースや大豆多糖類、アラビアガムを配合した比較例7~9ではゲル化を抑制する効果は見られなかった。HMペクチンとデキストリンを配合した比較例10では、30日保存後にゲル化が生じた。
【0047】
これに対し、トレハロースとHMペクチンを併用した実施例1~18では、4℃で30日経過後もゲル化しておらず、優れたゲル化抑制効果が認められた。また、タンパク質の濃度が15質量%と高濃度でありながら、低温保存時におけるゲル化抑制効果に優れるとともに、粘度が低いものであった。
【0048】
トレハロースとHMペクチンに加え、さらにショ糖脂肪酸エステルを配合した実施例12~18であると、ショ糖脂肪酸エステルを配合していない実施例1~11に対して、低温保存時の優れたゲル化抑制効果を維持しながら、中性タンパク飲料の調製時における粉原料の水への分散性に優れていた。
【0049】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。