(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】消化性判定システム及び消化性判定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20240628BHJP
G01N 33/10 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
G01N21/17 A
G01N33/10
(21)【出願番号】P 2020202806
(22)【出願日】2020-12-07
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 理奈
(72)【発明者】
【氏名】冨田 晴雄
(72)【発明者】
【氏名】宮藤 章
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-115122(JP,A)
【文献】奥田 将生ほか,酒造用原料米のアルカリ及び尿素崩壊性による蒸米酵素消化性の推定法,日本醸造協会誌,2018年,第113巻, 第5号,PP.315-330
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01N 33/00-G01N 33/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
米の消化性を判定するシステムであって、
生米を少なくとも糊化溶液に浸漬する浸漬手段と、
前記糊化溶液に浸漬された前記生米の画像を所定の撮影タイミングで撮影する撮影手段と、
前記撮影手段で撮影した画像データを取得する画像データ取得手段と、
前記画像データを基に、前記米の消化性を判定するための指標値を算出する指標値算出手段と、
前記指標値算出手段で算出した指標値と、予め定められた前記指標値と前記消化性との相関関係とを基に、前記米の消化性を判定する消化性判定手段と、を備え、
前記指標値算出手段は、前記所定の撮影タイミングでの前記画像データの解析情報を前記指標値として算出
し、
前記画像データから少なくとも前記生米に対応する箇所の輝度データを取得する輝度データ取得手段と、
前記輝度データを基に輝度変化点を算出する変化点算出手段と、を備え、
前記撮影手段は、前記生米の画像を連続的に複数の撮影タイミングで撮影し、
前記変化点算出手段は、前記撮影手段が撮影した複数の撮影タイミングにおける画像データの輝度データを基に前記輝度変化点を算出し、
前記指標値算出手段は、前記輝度変化点を起点として、前記生米の膨張率及び前記生米の面積変化量の少なくともいずれか一方を前記指標値として算出する消化性判定システム。
【請求項2】
前記相関関係は、予め定められた前記指標値と、前記消化性としてのBrix値又は老化速度との相関関係である請求項
1に記載の消化性判定システム。
【請求項3】
予め定められた前記指標値は、前記糊化溶液に浸漬させた前記生米の変化に基づいて予め定められた値であり、
前記消化性は、酒造用原料米全国統一分析法に基づいて測定された前記生米を蒸した状態のBrix値又は老化速度である請求項
1又は2に記載の消化性判定システム。
【請求項4】
前記消化性判定手段は、前記輝度変化点を前記起点とする予め定められた前記指標値としての前記生米の膨張率又は前記生米の面積変化量と所定時間老化時のBrix値又は老化速度との相関関係、及び前記指標値算出手段で算出した前記指標値を基に、前記米の消化性を判定する請求項
1~3の何れか一項に記載の消化性判定システム。
【請求項5】
前記糊化溶液は、アルカリ溶液である請求項
1~4のいずれか一項に記載の消化性判定システム。
【請求項6】
米の消化性を判定する方法であって、
生米を少なくとも糊化溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記糊化溶液に浸漬された前記生米の画像を所定の撮影タイミングで撮影する撮影工程と、
前記撮影工程で撮影した画像データを取得する画像データ取得工程と、
前記画像データを基に、前記米の消化性を判定するための指標値を算出する指標値算出工程と、
前記指標値算出工程で算出した指標値と、予め定められた前記指標値と前記消化性との相関関係とを基に、前記米の消化性を判定する消化性判定工程と、を実行し、
前記指標値算出工程は、前記所定の撮影タイミングでの前記画像データの解析情報を前記指標値として算出する工程であ
り、
更に、前記画像データから少なくとも前記生米に対応する箇所の輝度データを取得する輝度データ取得工程と、
前記輝度データを基に輝度変化点を算出する変化点算出工程と、を実行し、
前記撮影工程は、前記生米の画像を連続的に複数の撮影タイミングで撮影し、
前記変化点算出工程は、前記撮影工程が撮影した複数の撮影タイミングにおける画像データの輝度データを基に前記輝度変化点を算出し、
前記指標値算出工程は、前記輝度変化点を起点として、前記生米の膨張率及び前記生米の面積変化量の少なくともいずれか一方を前記指標値として算出する工程である消化性判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米の消化性を判定するシステム及び方法に関し、特に、アルカリ崩壊法を用いて、米の消化性を判定するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本酒の製造において、米の老化は製品の品質を決める重要な要因である。日本酒の製造工程では、原料となる酒米を蒸した米(蒸米)が酵素に分解されることにより生成した糖を利用して、アルコール発酵が進行する。ここで、酵素による蒸米の分解され易さを消化性と呼ぶが、この消化性は、アルコール発酵の程度や最終的な酒質にも影響を及ぼすことが知られている。また、蒸した米をある程度放置することで、蒸米の結晶構造が変化していき蒸米が硬くなる現象を米の老化と呼ぶが、発酵工程で酵素により分解される蒸米は、発酵前にある程度老化させることで、蒸米の消化性を制御している。したがって、蒸米の消化性(Brix値や老化速度)を評価することは、酒の品質管理を行う上で重要である。そのため、現在は、日本酒を製造する前に、3時間老化させた蒸米の消化性を酒造用原料米全国統一分析法にしたがって分析している。しかしながら、当該分析法は、測定前の準備が必要であること、測定時間が長いこと、通常20日程度を要する発酵工程での米の消化性を正確に反映できていないことが知られている。
【0003】
そこで、米の消化性を評価する別の手法として、米を水に浸漬した後に蒸すという工程を、米をアルカリ溶液や尿素溶液に浸漬するという工程に置き換え、測定時間を短縮する手法が提案されている。このような手法として、例えば、特許文献1や特許文献2に記載された手法がある。
【0004】
特許文献1に記載された手法は、評価対象米を尿素水溶液又はアルカリ水溶液に浸漬し、これら水溶液中での崩壊性を評価し、この評価した崩壊性を指標として、蒸米の酵素消化性等の特性を評価するものである。
【0005】
また、特許文献2に記載された手法は、米類をアルカリ溶液や尿素溶液に浸漬して米類を糊化させる糊化工程や、糊化工程後に溶液と未溶解の米類とを分離する分離工程、分離工程で得られる溶液中のヨウ素デンプン呈色反応を利用して溶出デンプン量を検出したり、当該反応後の溶液の吸光度を検出する検出工程、検出工程で検出した溶出デンプン量や吸光度と、米類の物性値(蒸米消化性等)との相関関係に基づき米類の評価する評価工程とを行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-161399号公報
【文献】特許第6472001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、日本酒の製造現場においては、作業者の負担軽減や評価のばらつき抑制という観点から、米の消化性を評価する手法に対して、(1)複雑な操作を要さない、(2)測定に要する時間が短い、(3)消化性を数値化できるという3つの条件を満たすことが求められるようになっている。
【0008】
ところが、上記特許文献1記載の手法では、評価対象米の崩壊性を評価するために、少なくとも3時間程度は各種溶液に浸漬させる必要がある。そのため、上記(2)の条件に関して十分であるとは言えない。また、特許文献1記載の手法では、水溶液中の評価対象米の崩壊性を評価する際に、崩壊の程度を目視で判断したり、溶出したデンプンを染色して染色された溶液の色を目視で判断したりしている。そのため、評価した崩壊性を指標として蒸米の酵素消化性を評価すると、数値化できたとしても精度の面で問題がある。
【0009】
また、上記特許文献2記載の手法では、分離工程を行ったり、検出工程においてヨウ素デンプン呈色反応を利用する必要があるため、複雑な操作が必要になる。
【0010】
即ち、特許文献1や特許文献2に記載された従来の手法は、上記3つの条件を全て満たす手法としては不十分である。
【0011】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、煩雑な操作を要せず、比較的短時間で消化性を数値評価可能な消化性判定システム及び消化性判定方法の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る消化性判定システムの特徴構成は、
米の消化性を判定するシステムであって、
生米を少なくとも糊化溶液に浸漬する浸漬手段と、
前記糊化溶液に浸漬された前記生米の画像を所定の撮影タイミングで撮影する撮影手段と、
前記撮影手段で撮影した画像データを取得する画像データ取得手段と、
前記画像データを基に、前記米の消化性を判定するための指標値を算出する指標値算出手段と、
前記指標値算出手段で算出した指標値と、予め定められた前記指標値と前記消化性との相関関係とを基に、前記米の消化性を判定する消化性判定手段と、を備え、
前記指標値算出手段は、前記所定の撮影タイミングでの前記画像データの解析情報を前記指標値として算出し、
前記画像データから少なくとも前記生米に対応する箇所の輝度データを取得する輝度データ取得手段と、
前記輝度データを基に輝度変化点を算出する変化点算出手段と、を備え、
前記撮影手段は、前記生米の画像を連続的に複数の撮影タイミングで撮影し、
前記変化点算出手段は、前記撮影手段が撮影した複数の撮影タイミングにおける画像データの輝度データを基に前記輝度変化点を算出し、
前記指標値算出手段は、前記輝度変化点を起点として、前記生米の膨張率及び前記生米の面積変化量の少なくともいずれか一方を前記指標値として算出する点にある。
【0013】
上記特徴構成によれば、糊化溶液に浸漬させた生米を撮影手段によって撮影し、所定の撮影タイミングで撮影された生米の画像データの解析情報を指標値として算出する。
【0014】
ここで、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、ある所定の撮影タイミングで撮像された画像の画像データを解析して得られる情報(解析情報)と、米の消化性との間に相関関係があり、この相関関係を利用することで米の消化性を判定できるという知見を得て本発明を完成させた。尚、本願において、「画像データの解析情報」とは、生米の面積、面積変化量、面積変化率、膨張率に関する情報である。
【0015】
即ち、上記特徴構成では、消化性判定手段によって、指標値算出手段で算出した指標値と、予め定められた指標値と消化性との相関関係とを基に米の消化性を判定できる。尚、本願において、「消化性」とは、Brix値や老化速度であって数値化できるものである。
【0016】
このように、上記特徴構成によれば、生米を糊化溶液に浸漬させて糊化させながら、生米を撮影手段によって撮影して、撮影した画像を基に指標値を算出でき、更に、算出した指標値と上記相関関係とから容易に米の消化性を数値化して判定できる。即ち、上記特徴構成によれば、酒造用原料米全国統一分析法と比較して、酒米を水に長時間浸漬させたり、浸漬後の酒米を蒸すといった煩雑な操作を行ったりする必要がなく、また、特許文献2記載の手法と比較して操作が簡単という利点がある。更に、本発明では、生米を撮影した画像を基に指標値を算出し、この指標値を使って消化性を数値化するため、消化性を評価するための指標を目視で判断する特許文献1記載の手法よりも精度を高めやすいという利点がある。
更に、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、指標値としての生米の膨張率及び生米の面積変化量に関して、輝度変化点を起点としてこれらを算出した際に、算出した指標値を基に、米の消化性を判定できることを見出した。
即ち、上記特徴構成よれば、生米の画像を連続的に複数の撮影タイミングで撮影した画像データを基に算出された輝度変化点を起点として算出した生米の膨張率及び生米の面積変化量を指標値とし、この指標値を基にして、米の消化性を判定できる。
【0017】
以上のように、上記特徴構成を備えた本発明によれば、煩雑な操作を要せず、比較的短時間で消化性を数値評価することができる。
【0018】
また、本発明に係る消化性システムの更なる特徴構成は、
前記指標値算出手段は、所定の時点を起点とする、前記所定の撮影タイミングでの前記生米の膨張率及び前記生米の面積変化量の少なくともいずれか一方を前記指標値として算出する点にある。
【0019】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、所定の時点を起点として、当該起点から所定の撮影タイミングが経過する時点までの間の生米の変化に基づく膨張率や面積変化量と、米の消化性との間に相関関係があり、この相関関係を利用することで米の消化性を判定できるという知見を得て本発明を完成させた。
【0020】
即ち、上記特徴構成では、消化性判定手段によって、指標値算出手段で算出した、指標値としての生米の膨張率又は生米の面積変化量と、予め定められた指標値と消化性との相関関係とを基に米の消化性を判定できる。
【0021】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記相関関係は、予め定められた前記指標値と、前記消化性としてのBrix値又は老化速度との相関関係である点にある。
【0022】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、予め定められた指標値(生米の膨張率や生米の面積変化量)と、米のBrix値又は老化速度との間に相関関係があるという知見を得ることに成功し、当該相関関係を基にして米の消化性を判定できることを見出した。
【0023】
即ち、上記特徴構成によれば、予め定められた指標値とBrix値又は老化速度との相関関係を基に、米の消化性をBrix値又は老化速度として数値化できる。
【0024】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
予め定められた前記指標値は、前記糊化溶液に浸漬させた前記生米の変化に基づいて予め定められた値であり、
前記消化性は、酒造用原料米全国統一分析法を参考にして測定された前記生米を蒸した状態のBrix値又は老化速度である点にある。
【0025】
本願発明者は、予め定められた指標値が、生米を糊化溶液に浸漬させた際の当該生米の変化に基づいて予め定められたものであり、指標値が、酒造用原料米全国統一分析法に基づいて測定された前記生米を蒸した状態のBrix値又は老化速度である場合に、両者の間に相関関係があることを見出した。
【0026】
即ち、上記特徴構成によれば、予め定められた指標値と消化性との相関関係を基に、米の消化性を判定できる。
【0036】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記消化性判定手段は、前記輝度変化点を前記起点とする予め定められた前記指標値としての前記生米の膨張率又は前記生米の面積変化量と所定時間老化時のBrix値又は老化速度との相関関係、及び前記指標値算出手段で算出した前記指標値を基に、前記米の消化性を判定する点にある。
【0037】
本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、輝度変化点を起点とする予め定められた生米の膨張率又は生米の面積変化量(指標値)と所定時間老化時の米のBrix値又は老化速度との間に特に強い相関関係があるという知見を得ることに成功し、当該相関関係を基にして米の消化性を判定できることを見出した。
【0038】
即ち、上記特徴構成によれば、輝度変化点を起点とする予め定められた指標値としての生米の膨張率又は生米の面積変化量と所定時間老化時のBrix値又は老化速度との相関関係と、算出した生米の膨張率又は生米の面積変化量とを基にして、米の消化性を所定時間老化時のBrix値又は老化速度として数値化できる。
【0039】
また、本発明に係る消化性判定システムの更なる特徴構成は、
前記糊化溶液は、アルカリ溶液である点にある。
【0040】
本願発明者は、糊化溶液としてアルカリ溶液を使用した場合、指標値と消化性との関係が高い相関を有することを実験により確認している。
【0041】
また、上記目的を達成するための本発明に係る消化性判定方法の特徴構成は、
米の消化性を判定する方法であって、
生米を少なくとも糊化溶液に浸漬する浸漬工程と、
前記糊化溶液に浸漬された前記生米の画像を所定の撮影タイミングで撮影する撮影工程と、
前記撮影工程で撮影した画像データを取得する画像データ取得工程と、
前記画像データを基に、前記米の消化性を判定するための指標値を算出する指標値算出工程と、
前記指標値算出工程で算出した指標値と、予め定められた前記指標値と前記消化性との相関関係とを基に、前記米の消化性を判定する消化性判定工程と、を実行し、
前記指標値算出工程は、前記所定の撮影タイミングでの前記画像データの解析情報を前記指標値として算出する工程であり、
更に、前記画像データから少なくとも前記生米に対応する箇所の輝度データを取得する輝度データ取得工程と、
前記輝度データを基に輝度変化点を算出する変化点算出工程と、を実行し、
前記撮影工程は、前記生米の画像を連続的に複数の撮影タイミングで撮影し、
前記変化点算出工程は、前記撮影工程が撮影した複数の撮影タイミングにおける画像データの輝度データを基に前記輝度変化点を算出し、
前記指標値算出工程は、前記輝度変化点を起点として、前記生米の膨張率及び前記生米の面積変化量の少なくともいずれか一方を前記指標値として算出する工程である点にある。
【0042】
上記特徴構成によれば、糊化溶液に浸漬させた生米を撮影し、所定の撮影タイミングで撮影された生米の画像データの解析情報を指標値として算出する。そして、算出した指標値と、予め定められた指標値と消化性との相関関係とを基に、米の消化性を判定できる。
【0043】
このように、上記特徴構成を備えた本発明に係る消化性判定方法によれば、煩雑な操作を要せず、比較的短時間で消化性を数値評価することができる。
更に、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、指標値としての生米の膨張率及び生米の面積変化量に関して、輝度変化点を起点としてこれらを算出した際に、算出した指標値を基に、米の消化性を判定できることを見出した。
即ち、上記特徴構成よれば、生米の画像を連続的に複数の撮影タイミングで撮影した画像データを基に算出された輝度変化点を起点として算出した生米の膨張率及び生米の面積変化量を指標値とし、この指標値を基にして、米の消化性を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】実施形態に係る消化性判定システムの概略構成を示す図である。
【
図3】膨張率と反応開始点からの経過時間との関係をまとめたグラフである。
【
図4】面積変化量と反応開始点からの経過時間との関係をまとめたグラフである。
【
図5】輝度と反応開始点からの経過時間との関係をまとめたグラフである。
【
図6】膨張率と輝度変化点からの経過時間との関係をまとめたグラフである。
【
図7】面積変化量と輝度変化点からの経過時間との関係をまとめたグラフである。
【
図8】Brix値と老化時間との関係をまとめたグラフである。
【
図9】反応開始点から30分経過した時点での反応開始点からの膨張率とBrix-0hとの関係を示すグラフである。
【
図10】輝度変化点から90分経過した時点での輝度変化点からの膨張率とBrix-6hとの関係を示すグラフである。
【
図11】輝度変化点から90分経過した時点での輝度変化点からの面積変化量と老化速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る消化性判定システム及び消化性判定方法について説明する。
【0046】
図1は、本実施形態に係る消化性判定システム1の概略構成である。
図1に示すように、消化性判定システム1は、生米Rを糊化溶液に浸漬する浸漬装置2(浸漬手段)と、糊化溶液に浸漬された生米Rの画像を所定の撮影タイミングで撮影する撮影装置5(撮影手段)と、後述する各種機能部で構成される制御装置10とを備えている。尚、本実施形態において、消化性の判定対象となる生米Rは、酒造用原料米である。
尚、当該実施形態において、指標値算出部15が指標値を算出するための起点としては「輝度変化点」以外のものも例示しているが、これらは、本発明の権利範囲に含まれるものではなく、単なる例示である。
また、指標値は、生米の膨張率及び生米の面積変化量の少なくともいずれか一方であり、当該実施形態に示される「生米の膨張率」及び「面積変化量」以外の指標値は、本発明の権利範囲に含まれるものではなく、単なる例示である。
【0047】
本実施形態において、浸漬装置2は、測定ボックスB内に配設した載置台3や、この載置台3上に載置した容器4などから構成される。したがって、浸漬装置2は、容器4内に生米R及び糊化溶液を投入することで、生米Rを糊化溶液に浸漬することができるようになっている。具体的に、本実施形態においては、糊化溶液としてアルカリ溶液を使用し、より具体的には、水酸化カリウム溶液を使用する。尚、糊化溶液としてアルカリ溶液を使用する場合、当該アルカリ溶液の濃度は、0.1M~3Mが好ましく、0.1M~0.6Mがより好ましく、本実施形態において使用する水酸化カリウム溶液の濃度は、0.3Mである。また、生米Rを糊化溶液に浸漬する際の温度は、10℃~50℃が好ましく、20℃~40℃がより好ましく、本実施形態では30℃である。
【0048】
撮影装置5は、載置台3の上方に配置されており、容器4内の生米Rを所定の撮影タイミングで撮影する。尚、本実施形態において、撮影装置5は、カメラであり、生米Rの画像を連続的に複数の撮影タイミングで撮影するように構成されている。また、当該撮影装置5が生米Rを撮影する撮影タイミングは、容器4内に生米Rと水酸化カリウム溶液とを投入して浸漬を開始した時点から所定時間経過するまでの1分おきのタイミング(浸漬開始時、浸漬開始後1分、浸漬開始後2分、・・・)である。
【0049】
制御装置10は、
図2に示すように、画像データ取得部11(画像データ取得手段)と、指標値算出部15(指標値算出手段)と、消化性判定部16(消化性判定手段)とを備えている。また、本実施形態における制御装置10は、輝度データ取得部13(輝度データ取得手段)と、変化点算出部14(変化点算出手段)とを備えている。更に、本実施形態における制御装置10は、画像処理部12や、予め定められた指標値と消化性との相関関係(以下、「指標値-消化性相関関係」ともいう)や取り扱う各種情報等が記憶される記憶部17を備えている。
【0050】
画像データ取得部11は、撮影装置5によって撮影された生米Rの画像データを取得する機能部である。具体的に、本実施形態においては、撮影装置5から送信される画像データに係る信号を受信して、生米Rの画像データを取得する。尚、画像データ取得部11が取得した画像データは、記憶部17に適宜記憶される。
【0051】
画像処理部12は、画像データ取得部11で取得した画像データを処理する機能部である。具体的に、本実施形態における画像処理部12は、画像データ取得部11が取得した画像データを、明領域を255、暗領域を0とする256階調の画像データ(グレースケール化画像データ)に変換する処理を行う。
【0052】
輝度データ取得部13は、画像データから少なくとも生米Rに対応する箇所の輝度データを取得する機能部である。本実施形態においては、上記画像処理部12での処理により、撮影装置5によって撮影された画像データがグレースケール化画像データに変換される。したがって、本実施形態における輝度データ取得部13は、上記画像処理部12における処理により得られるグレースケール化画像データ中の生米Rに対応する箇所の輝度データを取得する。
【0053】
変化点算出部14は、輝度データ取得部13で取得した輝度データを基に、輝度変化点を算出する機能部である。本実施形態では、複数の撮影タイミングで撮影された生米Rの画像データを変換することで得られたグレースケール化画像データ中の生米Rのみを含む領域の輝度データを基に輝度変化点を算出する。より具体的には、グレースケール化画像データ中の生米Rに対応する箇所の輝度の平均値が極小値となる画像データが撮影された時点を輝度変化点として算出する。
【0054】
指標値算出部15は、所定の撮影タイミングでの画像データの解析情報を指標値として算出する機能部であり、具体的に、本実施形態では、所定の時点を起点とする、所定の撮影タイミングでの生米Rの膨張率及び生米Rの面積変化量を指標値として算出する。より具体的に、本実施形態の指標値算出部15は、生米Rを水酸化カリウム溶液に浸漬させた時点(反応開始点)を起点とする、所定の撮影タイミング経過時点での膨張率及び面積変化量(以下、「反応開始点を起点とする膨張率」及び「反応開始点を起点とする面積変化量」ともいう)を算出するとともに、変化点算出部14で算出された輝度変化点を起点とする、所定の撮影タイミング経過時点での膨張率及び面積変化量(以下、「輝度変化点を起点とする膨張率」及び「輝度変化点を起点とする面積変化量」ともいう)を算出する。尚、膨張率及び面積変化量の算出は、例えば、反応開始点や輝度変化点に相当する撮影タイミングで撮影された画像中の生米Rのみを含む領域のピクセル数と、所定の撮影タイミングで撮影された画像中の生米Rのみを含む領域のピクセル数とを比較することで算出できる。
【0055】
消化性判定部16は、指標値算出部15で算出した指標値と、予め定められた指標値と消化性との相関関係(指標値-消化性相関関係)とを基に、米の消化性を判定する機能部である。
【0056】
ここで、本実施形態における指標値-消化性相関関係について説明する。本実施形態の指標値-消化性相関関係における「消化性」とは、酒造用原料米全国統一分析法を参考にして測定された生米Rを蒸した状態のBrix値又は老化速度であり、より具体的には、複数の品種の生米Rについて、老化時間を変えて後述する酒造用原料米全国統一分析法を参考にして測定したBrix値及び測定したBrix値から算出した老化速度、生米Rを所定時間水に浸漬した後に蒸した米のBrix値及び測定したBrix値から算出した老化速度である。また、当該指標値-消化性相関関係における「予め定められた指標値」とは、糊化溶液に浸漬させた生米Rの変化に基づいて予め定められた値であり、より具体的には、酒造用原料米全国統一分析法に供した生米Rと同じロットの複数の品種の生米Rについて、上記のように算出した、反応開始点又は輝度変化点から所定時間経過した時点での膨張率及び面積変化量である。つまり、指標値-消化性相関関係は、複数の品種の生米Rについて、ある所定時間老化させた場合のBrix値や老化速度と、反応開始点や輝度変化点からある所定時間経過した時点での膨張率や面積変化量との関係をプロットしたグラフの近似式となる。例えば、複数の品種の生米Rについて、老化時間が0時間(即ち、未老化)で測定したBrix値と反応開始点から30分間経過した時点での膨張率との関係をプロットしたグラフの近似式が、指標値-消化性相関関係の一つである。尚、このような指標値-消化性相関関係の中でも、未老化時のBrix値と反応開始点から30分、60分、90分経過した時点でのそれぞれの膨張率との関係、老化時間3時間、6時間のBrix値と輝度変化点から30分、60分、90分経過した時点でのそれぞれの膨張率との関係、老化時間3時間、6時間のBrix値と輝度変化点から30分、60分、90分経過した時点でのそれぞれの面積変化量との関係、並びに、老化速度と輝度変化点から30分、60分、90分経過した時点でのそれぞれの面積変化量との関係に強い相関が見られたため(後述する表2~表5参照)、これらの関係を指標値-消化性相関関係として用いることで、指標値算出部15で算出した指標値から消化性を精度良く判定することができる。
【0057】
記憶部17は、消化性判定システム1で取り扱う各種情報等を記憶する機能部である。具体的に、本実施形態においては、上記指標値-消化性相関関係の他、各種機能部で取得、算出した情報(輝度データなど)を記憶できるようになっている。尚、指標値-消化性相関関係は、近似式として記憶部17に記憶されていてもよいし、近似式の作成に必要なデータが記憶部17に記憶されており、消化性を判定する際に、これらのデータを基に近似式が適宜作成され使用されるようにしてもよい。
【0058】
次に、以上のような構成を備えた消化性判定システム1を用いて、米の消化性を判定する方法について説明する。
【0059】
まず、測定ボックスB内の載置台3上に載置した容器4の中に30粒程度の生米Rを入れ、ついで、アルカリ溶液としての水酸化カリウム溶液を容器4内に投入することで、生米Rを水酸化カリウム溶液に浸漬させる(浸漬工程)。
【0060】
次に、生米Rの浸漬を開始した時点から所定時間経過するまでの1分おきのタイミングでの生米Rの画像を撮影装置5により撮影する(撮影工程)。
【0061】
ついで、撮影装置5により撮影された生米Rの画像が画像データ取得部11により取得され(画像データ取得工程)、画像処理部12において、取得された画像データがグレースケール化画像データに変換される。
【0062】
次に、グレースケール化画像データ中の生米Rのみを含む領域の輝度データが輝度データ取得部13により取得され(輝度データ取得工程)、その後、取得された輝度データを基に、変化点算出部14によって輝度変化点が算出される(変化点算出工程)。
【0063】
ついで、所定の撮影タイミング(本例では反応開始から30分経過した撮影タイミング)での反応開始点を起点とする膨張率及び面積変化量と、所定の撮影タイミング(本例では輝度変化点から30分経過した撮影タイミング)での輝度変化点を起点とする膨張率及び面積変化量とが指標値算出部15によって算出される(指標値算出工程)。
【0064】
次に、消化性判定部16において、指標値算出部15で算出された指標値と、指標値-消化性相関関係とを基に、米の消化性が判定される(消化性判定工程)。本例では、上記のように、指標値-消化性相関関係の中でも、特に高い相関を示す関係があることを鑑み、指標値算出部15で算出された指標値のうち、反応開始点を起点とする膨張率、輝度変化点を起点とする膨張率、輝度変化点を起点とする面積変化量を用いて消化性を判定する。即ち、未老化時のBrix値と反応開始点から30分経過した時点での反応開始点を起点とする膨張率との関係とを基に、米の消化性を未老化時のBrix値として数値化する。また、老化時間3時間、6時間のBrix値と輝度変化点から30分経過した時点での輝度変化点を起点とするそれぞれの膨張率との関係を基に、米の消化性を老化時間3時間及び老化時間6時間のBrix値として数値化する。更に、老化速度と輝度変化点から30分経過した時点での輝度変化点を起点とする面積変化量との関係を基に、米の消化性を老化速度として数値化する。
【0065】
以上のように、本実施形態に係る消化性判定システム及び消化性判定方法によれば、煩雑な操作を要することなく、比較的短時間で米の消化性をBrix値や老化速度として数値化して判定することができる。
【0066】
以下、指標値-消化性相関関係を得るために行った実験について説明する。
【0067】
〔指標値(膨張率及び面積変化量)の算出〕
山田錦(精米歩合:90%、60%、50%)、五百万石(精米歩合:90%、60%)、雄町(精米歩合:60%)及び美山錦(精米歩合:60%)の計7種類のサンプルを用意し、これら各サンプル30粒ずつを、30℃の水酸化カリウム溶液(0.3M)に浸漬させ、1分毎に画像を撮影し、撮影した画像を基に、生米のみを含む領域の面積及び輝度を取得した。
【0068】
次に、取得した生米のみを含む領域の面積及び輝度を基に、各サンプルに関する反応開始点を起点とした膨張率及び面積変化量を算出した。
図3は、算出した膨張率と反応開始点からの経過時間との関係を示すグラフであり、
図4は、算出した面積変化量と反応開始点からの経過時間との関係を示すグラフである。尚、
図3中の膨張率及び
図4中の面積変化量は、各サンプル中の30粒の生米の平均値である。同
図3及び
図4から分かるように、いずれのサンプルについても反応開始点から時間が経過するにつれて、膨張率及び面積変化量が増加する傾向にある。
【0069】
また、取得した生米のみを含む領域の輝度を基に輝度変化点を算出した。
図5には、山田錦(精米歩合:50%)、五百万石(精米歩合:90%)及び雄町に関する生米のみを含む領域の輝度と反応開始点からの経過時間との関係を示すグラフである。
【0070】
図5から分かるように、生米のみを含む領域の輝度は、3つのサンプルのいずれについても、反応開始点から略同じ時間が経過するまでは徐々に低下し、その後上昇に転じており、図示していないが、他のサンプルについても同様の傾向を示した。
【0071】
図6は、算出した膨張率と輝度変化点からの経過時間との関係を示すグラフであり、
図7は、算出した面積変化量と輝度変化点からの経過時間との関係を示すグラフである。尚、
図6中の膨張率及び
図7中の面積変化量は、上記と同様に、各サンプル中の30粒の生米の平均値である。同
図6及び
図7から分かるように、いずれのサンプルについても輝度変化点から時間が経過するにつれて、膨張率及び面積変化量が増加する傾向にある。
【0072】
以上のようにして、各サンプルについて、反応開始点を起点とする膨張率及び面積変化量、並びに輝度変化点を起点とする膨張率及び面積変化量を算出した。この算出した指標値が指標値-消化性相関関数における「予め定められた指標値」である。
【0073】
〔消化性(Brix値及び老化速度)の測定〕
上記7種類のサンプルについて、酒造用原料米全国統一分析法に則して、老化時間を変えて消化性としてのBrix値を算出するとともに、算出したBrix値を基に老化速度を算出した。具体的には、以下の手順で行った。
まず、上記7種類のサンプル各10g×3セットを水に浸漬させて15~20時間吸水させた後、これを45分間蒸した。
また、0.1Mコハク酸溶液と0.1Mコハク酸ナトリウム溶液を混合し、pH4.3の0.1Mコハク酸緩衝液を調製した。次に、このコハク酸緩衝液にα-アミラーゼを60u/mL、プロテアーゼを3000u/mL含むように混合することで、酵素緩衝液を得た。
次に、上記3セットのうち、1セットについては蒸しあがり、米の温度が室温まで低下した後、酵素緩衝液50mLを加え、10秒間激しく振とうした後、15℃で24時間静置して消化を行った。尚、必要に応じて防腐剤として0.5mLのトルエンを加えた。一方、他の2セットについては、それぞれ蒸しあがり直後から6時間又は3時間経過するまで老化させた後に、上記と同様に消化させた。
消化後、消化液を遠心分離にかけてろ液を得て、このろ液のBrix値を測定し、未老化時のBrix値(Brix-0h)、3時間老化させた際のBrix値(Brix-3h)及び6時間老化させた際のBrix値(Brix-6h)を得た。また、各サンプルそれぞれのBrix値(Brix-0h、Brix-3h、Brix-6h)を基に、各サンプルそれぞれの老化速度を算出した。
尚、老化速度は、下記式1に基づいて算出した。
(式1)
老化速度=100-(Brix-6h/Brix-3h)×100
図8は、測定した各サンプルのBrix値と老化時間との関係をまとめたグラフである。また、表1には、各サンプルの老化速度をまとめた。
【0074】
【0075】
〔指標値と消化性との相関関係〕
指標値-消化性相関関係は、上記のようにして算出した指標値と消化性とを基に得ることができる。
即ち、反応開始点や輝度変化点からの経過時間ごとに、反応開始点や輝度変化点を起点とする膨張率や面積変化量を横軸、Brix値(Brix-0h、Brix-3h、Brix-6h)や老化速度を縦軸として、各サンプルのデータをプロットしたグラフの近似式が指標値-消化性相関関係となる。
図9~
図11は、各サンプルのデータをプロットしたグラフの一例を示した。
図9は、反応開始点から30分経過した時点での、反応開始点を起点とする膨張率を横軸、Brix-0hを縦軸として、各サンプルのデータをプロットしたグラフである。また、
図10は、輝度変化点から90分経過した時点での、輝度変化点を起点とする膨張率を横軸、Brix-6hを縦軸として、各サンプルのデータをプロットしたグラフである。更に、
図11は、輝度変化点から90分経過した時点での、輝度変化点を起点とする面積変化量を横軸、老化速度を縦軸として、各サンプルのデータをプロットしたグラフである。
表2は、反応開始点を起点とする膨張率と消化性との間の関係の相関係数をまとめたものであり、表3は、反応開始点を起点とする面積変化量と消化性との間の関係の相関係数をまとめたものである。また、表4は、輝度変化点を起点とする膨張率と消化性との間の関係の相関係数をまとめたものであり、表5は、輝度変化点を起点とする面積変化量と消化性との間の関係の相関係数をまとめたものである。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
これらの表から分かるように、反応開始点から30分、60分、90分経過した時点でのそれぞれの膨張率とBrix-0hとの関係、輝度変化点から30分、60分、90分経過した時点でのそれぞれの膨張率とBrix-3h及びBrix-6hとの関係、輝度変化点から30分、60分、90分経過した時点でのそれぞれの面積変化量とBrix-3h及びBrix-6hとの関係、輝度変化点から30分、60分、90分経過した時点でのそれぞれの面積変化量と老化速度との関係に非常に強い相関がある。
このように、上記のような関係は、指標値-消化性相関関係の中でも特に有意なものである。したがって、米の消化性をより精度良く判定する必要がある場合には、消化性判定システム1において、上記のような特に有意な関係を指標値-消化性相関関係として用いることが好ましい。
【0081】
尚、上記のように、反応開始点を起点とする膨張率とBrix-0hとの関係に強い相関があり、輝度変化点を起点とする膨張率や面積変化量とBrix-3hやBrix-6hとの関係に同じく強い相関があることは、以下の理由によるものと推察される。
米の消化性は、糊化度が関連する物理的要因とアミロペクチン側鎖の状態に関連する化学的要因により決まると考えられており、老化させずに測定したBrix値(Brix-0h)は物理的要因と化学的要因との双方の影響を受けるのに対し、老化させて測定したBrix値(Brix-3hやBrix-6h)は主に化学的要因の影響を受けることが報告されている。
ここで、
図5に示したように、生米のみを含む領域の輝度は、浸漬開始(反応開始)からある程度の時間が経過するまでは低下し、その後、上昇に転じる。この現象は、浸漬開始からある程度の時間が経過するまでは、生米Rが水を吸うことで輝度が低下し、その後、生米Rが糊化することで輝度が上昇に転じるため現れるものである。
したがって、主に化学的要因の影響を受けるBrix-3hやBrix-6hは、生米の吸水による影響を排除できる輝度変化点を起点とした膨張率や面積変化量との間で高い相関を示し、これに対して、物理的要因と化学的要因との双方の影響を受けるBrix-0hは、生米の吸水による影響が排除されない、反応開始点を起点とした膨張率との間で高い相関を示したと推察される。
【0082】
〔別実施形態〕
〔1〕上記実施形態では、糊化溶液として水酸化カリウム溶液を使用する態様としたが、これに限られるものではない。糊化溶液としては、水酸化ナトリウム溶液や水酸化リチウム溶液、水酸化ルビジウム溶液、水酸化セシウム溶液、水酸化カルシウム溶液、水酸化ストロンチウム溶液、チオシアン酸カリウム溶液、ヨードカリウム溶液、硝酸アンモニア溶液、塩化カルシウム溶液、塩酸グアニジン溶液、ジメチルスルホキシド溶液、尿素溶液などを用いることができる。
【0083】
〔2〕上記実施形態では、特に前工程等を行うことなく、生米Rを糊化溶液に浸漬させる態様としたが、これに限られるものではない。例えば、浸漬装置2は、生米Rを水に浸漬させ、その後に当該生米Rを糊化溶液に浸漬させるように構成されていてもよい。
【0084】
〔3〕上記実施形態では、撮影装置5が生米Rの画像を1分おきのタイミングで連続的に撮影する態様としたが、これに限られるものではない。撮影装置5による撮影間隔は、適宜設定すればよい。また、撮影装置5は、生米Rの画像を連続的に撮影するのではなく、反応開始時と、反応開始から所定時間経過したある一の撮影タイミング(例えば、反応開始から30分経過した時点での撮影タイミング)で生米Rの画像を撮像するように構成されていてもよい。この場合でも、反応開始時における画像と上記一の撮影タイミングで撮影した画像とを基に、膨張率や面積変化量を指標値として算出し、指標値-消化性相関関係を利用して消化性を判定できる。
【0085】
〔4〕上記実施形態では、画像処理部12や記憶部17を備える態様としたが、これに限られるものではなく、これらを備えていない態様であってもよい。尚、記憶部17を備えていない態様を採用した場合、指標値-消化性相関関係は、例えば、電気通信回線等を通じて外部のサーバから適宜取得すれば、消化性を判定することができる。
【0086】
〔5〕上記実施形態では、反応開始点を起点とする膨張率及び面積変化量と、輝度変化点を起点とする膨張率及び面積変化量の4つを指標値として算出可能な態様としたが、これに限られるものではない。これらの4つの指標値のうち、少なくともいずれか一つを算出する態様であってもよいし、画像データを解析して得られる他の情報(例えば、所定の撮影タイミングでの生米Rの面積や、反応開始点又は輝度変化点を起点とする生米の面積変化率)を指標値として算出する態様であってもよい。また、上記実施形態では、反応開始点から30分経過した撮影タイミングでの反応開始点を起点とする膨張率及び面積変化量を算出するとともに、輝度変化点から30分経過した撮影タイミングでの輝度変化点を起点とする膨張率及び面積変化量を算出する態様としたが、これに限られるものではない。撮影タイミングは、反応開始点や輝度変化点から60分や90分経過したタイミングであってもよい。例えば、米の未老化時の消化性のみを判定すればよい場合には、反応開始点から30分、60分又は90分経過したいずれかの撮影タイミングでの反応開始点を起点とする膨張率のみを指標値として算出すればよい。
【0087】
〔6〕上記実施形態では、消化性の判定対象となる生米Rが酒造用原料米である態様としたが、これに限られるものではない。
【0088】
上記実施形態(別実施形態を含む)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、煩雑な操作を要せず、比較的短時間で消化性を数値評価可能な消化性判定システムに利用できる。
【符号の説明】
【0090】
1 消化性判定システム
2 浸漬装置(浸漬手段)
5 撮影装置(撮影手段)
11 画像データ取得部(画像データ取得手段)
13 輝度データ取得部(輝度データ取得手段)
14 変化点算出部(変化点算出手段)
15 指標値算出部(指標値算出手段)
16 消化性判定部(消化性判定手段)