(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】ポリウレタンフォーム
(51)【国際特許分類】
C08L 75/04 20060101AFI20240628BHJP
C08G 18/00 20060101ALI20240628BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20240628BHJP
C08G 101/00 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C08L75/04
C08G18/00 L
C08K5/521
C08G101:00
(21)【出願番号】P 2020208836
(22)【出願日】2020-12-16
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】松田 知樹
(72)【発明者】
【氏名】矢野 忠史
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-519449(JP,A)
【文献】特表2020-505494(JP,A)
【文献】特開平09-136989(JP,A)
【文献】特開2022-051328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非縮合型のハロゲン化リン酸エステルと、
リン酸エステルと
を
含み、
前記非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量が2000ppm以上9000ppm以下であり、
前記リン酸エステルの含有量が10000ppm以上60000ppm以下であり、
前記リン酸エステルは、室温で液体であり、かつ、芳香臭を持つものからなる
ポリウレタンフォーム。
【請求項2】
非縮合型のハロゲン化リン酸エステルと、
リン酸エステルと
を含み、
前記非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量が9000ppm以下であり、
前記リン酸エステルは、室温で液体であり、かつ、芳香臭を持つものからなる
ポリウレタンフォーム。
【請求項3】
非縮合型のハロゲン化リン酸エステルと、
リン酸エステルと、
縮合型のハロゲン化リン酸エステルと
を含み、
前記リン酸エステルは、室温で液体であり、かつ、芳香臭を持つものからなる
ポリウレタンフォーム。
【請求項4】
非縮合型のハロゲン化リン酸エステルと、
リン酸エステルと
を含み、
前記リン酸エステルは、室温で液体であり、かつ、芳香臭を持つものからなり、
次の式(A)~(D)の少なくとも1つを満たす
ポリウレタンフォーム。
ガラス霞み度≧92% …(A)
臭気強度≦2.7 …(B)
臭質の快・不快度≧-1.5 …(C)
硬さ≧90N …(D)
但し、前記「ガラス霞み度(B(%))」とは、DIN75201に準拠して測定されるフォギング性の指標であって、次の式(1)で表される値をいう。
B(%)={ΣR
i
/n}×100/R
0
…(1)
但し、
R
i
(i=1~9)は、表面に揮発成分を凝縮させたガラス板のi番目の測定箇所の反射率、
nは、反射率の測定箇所の数(本発明では、9箇所)、
R
0
は、ブランク(未処理のガラス板)の反射率。
前記「臭気強度」とは、ドイツ自動車協会規格(Verband der Automobilindustrie; VDA)270に準拠して測定される値であって、
(a)t10×100×100mm(100cm
3
)のサイズのサンプルを、1Lのガラス瓶中に封入し、80℃±2℃、2時間の条件下で保温し、
(b)ガラス瓶から取り出した直後のサンプルの臭気を5名のパネルにより官能評価し、
(c)5名の官能評価の数値の平均値を算出すること
により得られる値をいい、
前記「官能評価の数値」とは、6段階臭気強度表示法を用いて示される数値であって、以下の表に示される値をいう。
【表1】
前記「臭質の快・不快度」とは、前記VDA270に準拠して測定される値であって、
(a)t10mm×100mm×100mm(100cm
3
)のサイズのサンプルを、1Lのガラス瓶中に封入し、80℃±2℃、2時間の条件下で保温し、
(b)ガラス瓶から取り出した直後のサンプルの臭気を5名のパネルにより官能評価し、
(c)5名の官能評価の数値の平均値を算出すること
により得られる値をいい、
前記「官能評価の数値」とは、9段階快・不快度表示法を用いて示される数値であって、以下の表に示される値をいう。
【表2】
前記「硬さ(N)」とは、JIS K6400-2Dに準拠して測定される値をいう。
【請求項5】
前記リン酸エステルは、一般式:O=P(OR)
3
(但し、Rは、炭素数が1以上6以下のアルキル基)で表される化合物である請求項1から4までのいずれか1項に記載のポリウレタンフォーム。
【請求項6】
次の式(A)~(E)の少なくとも1つを満たす請求項1から5までのいずれか1項に記載のポリウレタンフォーム。
ガラス霞み度≧92% …(A)
臭気強度≦2.7 …(B)
臭質の快・不快度≧-1.5 …(C)
硬さ≧90N …(D)
引張強度≧70kPa …(E)
但し、前記「ガラス霞み度(B(%))」とは、DIN75201に準拠して測定されるフォギング性の指標であって、次の式(1)で表される値をいう。
B(%)={ΣR
i
/n}×100/R
0
…(1)
但し、
R
i
(i=1~9)は、表面に揮発成分を凝縮させたガラス板のi番目の測定箇所の反射率、
nは、反射率の測定箇所の数(本発明では、9箇所)、
R
0
は、ブランク(未処理のガラス板)の反射率。
前記「臭気強度」とは、ドイツ自動車協会規格(Verband der Automobilindustrie; VDA)270に準拠して測定される値であって、
(a)t10×100×100mm(100cm
3
)のサイズのサンプルを、1Lのガラス瓶中に封入し、80℃±2℃、2時間の条件下で保温し、
(b)ガラス瓶から取り出した直後のサンプルの臭気を5名のパネルにより官能評価し、
(c)5名の官能評価の数値の平均値を算出すること
により得られる値をいい、
前記「官能評価の数値」とは、6段階臭気強度表示法を用いて示される数値であって、以下の表に示される値をいう。
【表3】
前記「臭質の快・不快度」とは、前記VDA270に準拠して測定される値であって、
(a)t10mm×100mm×100mm(100cm
3
)のサイズのサンプルを、1Lのガラス瓶中に封入し、80℃±2℃、2時間の条件下で保温し、
(b)ガラス瓶から取り出した直後のサンプルの臭気を5名のパネルにより官能評価し、
(c)5名の官能評価の数値の平均値を算出すること
により得られる値をいい、
前記「官能評価の数値」とは、9段階快・不快度表示法を用いて示される数値であって、以下の表に示される値をいう。
【表4】
前記「硬さ(N)」とは、JIS K6400-2Dに準拠して測定される値をいう。
前記「引張強度(kPa)」とは、JIS K6400-5に準拠して測定される値をいう。
【請求項7】
室温で液体であり、かつ、芳香臭を持つリン酸エステルを、原料に配合することを特徴とする、
非縮合型のハロゲン化リン酸エステルを含むポリウレタンフォームの異臭低減方法。
【請求項8】
前記リン酸エステルは、一般式:O=P(OR)
3
(但し、Rは、炭素数が1以上6以下のアルキル基)で表される化合物である、
請求項7に記載の異臭低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタンフォームに関し、さらに詳しくは、難燃性を有しつつ、異臭が少ないポリウレタンフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
「ポリウレタンフォーム」とは、イソシアネートとポリオールとを、発泡剤、整泡剤(界面活性剤)、及び触媒(樹脂化触媒、泡化触媒)の共存下において、樹脂化反応と泡化反応とを同時に行わせることにより得られるプラスチック発泡体をいう。
ポリウレタンフォームは、
(a)気泡が連通しており、クッション性に優れた軟質ポリウレタンフォーム、
(b)気泡が独立しており、断熱性に優れた硬質ポリウレタンフォーム、及び、
(c)軟質ポリウレタンフォームと硬質ポリウレタンフォームの中間の性質を持つ半硬質ポリウレタンフォーム
に大別される。
【0003】
ポリウレタンフォームは、そのクッション性や断熱性を利用して、電子機器の衝撃緩衝材、電子機器内部への水や塵埃の侵入を防ぐためのガスケット、自動車や航空機の内装材などに用いられている。これらの中でも、自動車や航空機の内装材に用いられるポリウレタンフォームには、安全上の問題から高い難燃性が求められる。また、電子機器の内部には使用時に温度が上昇する部位があるが、そのような部位の近傍に設置される部材に用いられるポリウレタンフォームにも相応の難燃性が求められる。
このような場合、原料混合物中にさらに難燃剤を添加し、難燃剤の共存下においてポリウレタンフォームを合成することが行われている。
【0004】
ポリウレタンフォーム用の難燃剤としては、常温で固体の難燃剤と、常温で液体の難燃剤とがある。これらの内、液体の難燃剤は、
(a)原料混合物中に均一に分散するので、少量の添加で高い難燃性を得やすい、
(b)原料混合物中に固体の難燃剤を添加する場合と異なり、添加量が相対的に多い場合であっても発泡バランスが崩れることがなく、良好なフォームを得やすい
等の利点がある。
【0005】
しかしながら、液体の難燃剤を含む原料混合物から合成されたポリウレタンフォームの場合、使用中にポリウレタンフォームから難燃剤が徐々に揮発する場合がある。また、難燃剤以外にも、ポリウレタンフォーム中には原料に由来する揮発性有機化合物(VOC)が含まれることがある。これらは、異臭やフォギング(揮発成分が低温のガラス表面で凝縮し、ガラスを曇らせる現象)の原因となる。特に、連続スラブタイプの軟質ポリウレタンフォームについては、難燃剤に起因する異臭の軽減が望まれている。
【0006】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、N,N,N'-トリメチル-ビス-(アミノエチル)エーテル(TMAEE)からなる第3級アミン触媒、及び、TMAEEとグリシンジエーテルとを反応させることにより得られる第3級アミン触媒が開示されている。
同文献には、
(a)第3級アミン触媒は、泡化反応と樹脂化反応の双方を促進させるために用いることができるが、一般的に悪臭があり、その多くは低分子量であるために揮発性が高い点、
(b)第3級アミン触媒がイソシアネートと反応できる官能基を備えている場合、ポリウレタンマトリックス中に第3級アミン触媒を固定することができるので、アミン排出物を抑制できる点、及び、
(c)イソシアネートと反応できる官能基の付加に加えて第3級アミン触媒に高分子量部を導入すると、第3級アミン触媒を低蒸気圧化することができる点
が記載されている。
【0007】
特許文献2には、所定の組成を備えたカルボアニオン化合物からなる三量化触媒(イソシアネートの三量体(イソシアヌレート)を生成するための触媒)が開示されている。
同文献には、このような三量化触媒を用いると、熱的に安定であり、揮発性アミン及び/又はアミン臭気を実質的に含まないポリイソシアヌレート/ポリウレタン(PIR/PUR)フォームを製造することができる点が記載されている。
【0008】
特許文献1、2に記載の方法を用いると、触媒に起因する異臭やフォギングをある程度抑制することができる。しかしながら、特許文献1、2に記載の方法では、難燃剤に起因する異臭やフォギングを抑制することはできない。
一方、難燃剤に起因する異臭やフォギングを抑制するために、単に難燃剤の添加量を少なくすると、ポリウレタンフォームの難燃性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-045113号公報
【文献】特開2008-073684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、難燃性を有しつつ、異臭が少ないポリウレタンフォームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明に係るポリウレタンフォームは、
非縮合型のハロゲン化リン酸エステルと、
リン酸エステルと
を含む。
【発明の効果】
【0012】
非縮合型のハロゲン化リン酸エステルとリン酸エステルとを併用すると、ポリウレタンフォームに対して難燃性を付与することができると同時に、非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの異臭をリン酸エステルの芳香臭でマスキングすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. ポリウレタンフォーム]
本発明に係るポリウレタンフォームは、
非縮合型のハロゲン化リン酸エステルと、
リン酸エステルと
を含む。
【0014】
[1.1. 基材]
基材は、ウレタン結合を持つ高分子化合物の発泡体からなる。本発明に係るポリウレタンフォームは、イソシアネートとポリオールとを、少なくとも発泡剤、整泡剤、触媒、及び難燃剤の共存下において、樹脂化反応と泡化反応とを同時に行わせることにより得ることができる。本発明において、イソシアネート及びポリオールの種類、並びに、これらが反応することにより得られるポリウレタンの分子構造は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。本発明において使用可能なイソシアネート及びポリオールの種類については、後述する。
【0015】
基材は、多孔質、すなわち、内部に気泡を有する多孔体からなる。基材は、
(a)連通気泡構造体を主とするもの(いわゆる軟質ポリウレタンフォーム)、
(b)独立気泡構造体を主とするもの(いわゆる硬質ポリウレタンフォーム)、あるいは、
(c)連通気泡構造体と独立気泡構造体の中間の構造体からなるもの(いわゆる半硬質ポリウレタンフォーム)
のいずれであっても良い。
基材は、特に、連通気泡構造体が好ましい。連通気泡構造体は、気泡が連通しているため、揮発性有機化合物(VOC)による異臭が問題となりやすい。これに対し、連通気泡構造体に対して本発明を適用すると、異臭を軽減することができる。
【0016】
[1.2. 難燃剤]
本発明に係るポリウレタンフォームは、難燃剤として、ハロゲン化リン酸エステル及びリン酸エステルを含む。
【0017】
[1.2.1. ハロゲン化リン酸エステル]
本発明において、難燃剤には、室温で液体である縮合型のハロゲン化リン酸エステルが用いられることが好ましい。縮合型のハロゲン化リン酸エステルは、分子量が大きく、揮発しにくいために、ポリウレタンフォーム用の難燃剤として好適である。しかしながら、縮合型のハロゲン化リン酸エステルは、通常、不純物として数mass%程度のモノマ(非縮合型のハロゲン化リン酸エステル)が含まれており、これが異臭の原因となる場合が多い。
本発明では、この問題を解決するために、芳香臭を発するリン酸エステルを併用し、非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの異臭をリン酸エステルの芳香臭でマスキングしている。この点が、従来とは異なる。
【0018】
縮合型のハロゲン化リン酸エステルとしては、例えば、
(a)リン酸トリス2クロロエチル(TCEP)の縮合物、
(b)リン酸トリス-1,3-ジクロロ-2プロピル(TDCP)の縮合物、
(c)リン酸トリス1-クロロ-2-プロピル(TCPP)の縮合物、
などがある。基材には、これらのいずれか1種が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
縮合型のハロゲン化リン酸エステルは、特に、TCPPの縮合物が好ましい。これは、安全性、難燃性、及び、耐フォギング性に優れているためである。
【0019】
[1.2.2. リン酸エステル]
本発明において、「リン酸エステル」とは、一般式:O=P(OR)3(但し、Rは、炭素数が1以上6以下のアルキル基)で表される化合物をいう。リン酸エステルは、室温で液体であり、かつ、芳香臭を持つものである限りにおいて、特に限定されない。芳香臭を持つリン酸エステルは、分子量が小さく、揮発しやすいために、非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの異臭をマスキングしやすいという利点がある。
【0020】
リン酸エステルとしては、例えば、
(a)トリクレジルフォスフェート(TCP)、
(b)クレジルジフェニルホスフェート(CDP)、
(c)トリエチルホスフェート(TEP)、
(d)クレジルジトリメチルフォスフェート(TMP)、
などがある。基材には、これらのいずれか1種が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
リン酸エステルは、特に、TEPが好ましい。これは、TEPは甘い果実臭を持つために消臭効果が高く、かつ、適度な沸点を持つためである。
【0021】
[1.3. 第3成分]
本発明に係るポリウレタンフォームは、ポリウレタン及び難燃剤のみからなるものでも良く、あるいは、これら以外の第3成分を含むものでも良い。
第3成分としては、例えば、
(a)ポリウレンタフォームの合成時に添加された原料の残渣(例えば、整泡剤の残渣、触媒の残渣など)、
(b)ポリウレタンフォームを着色するための顔料、
などがある。
【0022】
[1.4. 組成]
[1.4.1. 非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量]
上述したように、縮合型のハロゲン化リン酸エステルには、通常、数mass%程度の非縮合型のハロゲン化リン酸エステルが含まれる。非縮合型のハロゲン化リン酸エステルは、揮発性が高く、異臭の原因となりやすい。そのため、縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量が過剰になると、それに応じて非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量も過剰になり、リン酸エステルを併用しても、異臭を軽減するのが困難となる。従って、非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量は、9000ppm以下が好ましい。非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量は、好ましくは、8000ppm以下、さらに好ましくは、7000ppm以下である。
【0023】
一方、縮合型のハロゲン化リン酸エステルに不可避的に含まれる非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量を少なくすることができれば、異臭を軽減することができる。しかしながら、非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量を必要以上に低減するのは、縮合型のハロゲン化リン酸エステルの高コスト化を招く。従って、非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量は、2000ppm以上が好ましい。非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量は、好ましくは、3000ppm以上、さらに好ましくは、4000ppm以上である。
【0024】
[1.4.2. リン酸エステルの含有量]
リン酸エステルと縮合型のハロゲン化リン酸エステルとを併用すると、同等の難燃性を得るために必要な縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量を減らすことができる。その結果、異臭の原因となる非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量が低下する。また、残存している非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの異臭を少量のリン酸エステルでマスキングすることができる。このような効果を得るためには、リン酸エステルの含有量は、10000ppm以上が好ましい。リン酸エステルの含有量は、好ましくは、15000ppm以上、さらに好ましくは、20000ppm以上である。
一方、リン酸エステルの含有量が過剰になると、使用中にポリウレタンフォームからリン酸エステルが多量に揮発し、フォギングしやすくなる場合がある。従って、リン酸エステルの含有量は、60000ppm以下が好ましい。リン酸エステルの含有量は、好ましくは、5000ppm以下、さらに好ましくは、40000ppm以下である。
【0025】
[1.5. 特性]
[1.5.1. ガラス霞み度]
「ガラス霞み度B(%)」とは、DIN75201に準拠して測定されるフォギング性の指標であって、次の式(1)で表される値をいう。
B(%)={ΣRi/n}×100/R0 …(1)
但し、
Ri(i=1~9)は、表面に揮発成分を凝縮させたガラス板のi番目の測定箇所の反射率、
nは、反射率の測定箇所の数(本発明では、9箇所)、
R0は、ブランク(未処理のガラス板)の反射率。
【0026】
本発明において、ガラス板の表面への揮発成分の凝縮は、具体的には、
(a)ビーカーの中に試料を入れて透明なガラス板で蓋をし、
(b)20℃±1℃に冷却された冷却プレートをガラス板の上に置き、試料の入ったビーカーを80℃に加熱し、3時間放置すること
により行う。
また、反射率Ri(i=0~9)の測定は、具体的には、光沢度測定装置を用いて、入射角θ=60°の条件下で行う。
【0027】
本発明に係るポリウレタンフォームにおいて、ガラス霞み度は、主として、非縮合型のハロゲン化リン酸エステル及びリン酸エステルの種類及び含有量に依存する。各成分の種類及び含有量を最適化すると、80℃において3時間後のガラス霞み度は、92%以上となる。各成分の種類及び含有量をさらに最適化すると、80℃において3時間後のガラス霞み度は、95%以上となる。
【0028】
[1.5.2. 臭気強度]
「臭気強度」とは、ドイツ自動車協会規格(Verband der Automobilindustrie; VDA)270に準拠して測定される値であって、
(a)t10×100×100mm(100cm3)のサイズのサンプルを、1Lのガラス瓶中に封入し、80℃±2℃、2時間の条件下で保温し、
(b)ガラス瓶から取り出した直後のサンプルの臭気を5名のパネルにより官能評価し、
(c)5名の官能評価の数値の平均値を算出すること
により得られる値をいう。
官能評価には、環境省が定める6段階臭気強度表示法を用いた。表1に、6段階臭気強度表示法を示す。
【0029】
【0030】
本発明に係るポリウレタンフォームにおいて、臭気強度は、主として、非縮合型のハロゲン化リン酸エステル及びリン酸エステルの種類及び含有量に依存する。各成分の種類及び含有量を最適化すると、臭気強度は、2.7以下となる。各成分の種類及び含有量をさらに最適化すると、臭気強度は、2.5以下となる。
【0031】
[1.5.3. 臭質の快・不快度]
「臭質の快・不快度」とは、VDA270に準拠して測定される値であって、
(a)t10mm×100mm×100mm(100cm3)のサイズのサンプルを、1Lのガラス瓶中に封入し、80℃±2℃、2時間の条件下で保温し、
(b)ガラス瓶から取り出した直後のサンプルの臭気を5名のパネルにより官能評価し、
(c)5名の官能評価の数値の平均値を算出すること
により得られる値をいう。
官能評価には、環境省が定める9段階快・不快度表示法を用いた。表2に、9段階快・不快度表示法を示す。
【0032】
【0033】
本発明に係るポリウレタンフォームにおいて、臭質の快・不快度は、主として、非縮合型のハロゲン化リン酸エステル及びリン酸エステルの種類及び含有量に依存する。各成分の種類及び含有量を最適化すると、臭質の快・不快度は、-1.5以上となる。各成分の種類及び含有量をさらに最適化すると、臭質の快・不快度は、-1.2以上となる。
【0034】
[1.5.4. 硬さ]
「硬さ(N)」とは、JIS K6400-2Dに準拠して測定される値をいう。
本発明に係るポリウレタンフォームにおいて、硬さは、主として、ポリオールの種類、イソシアネートの種類、イソシアネートインデックス、及び密度に依存する。しかしながら、ポリウレタンフォームに非縮合型の液状難燃剤を添加すると、可塑剤効果が発現する場合がある。その結果、ポリウレタンフォームの硬さが低下する場合がある。相対的に高い硬さを得るためには、非縮合型の液状難燃剤の添加量を極力減らすのが好ましい。
本発明に係るポリウレタンフォームにおいて、各成分の種類及び添加量を最適化すると、硬さは、90N以上となる。各成分の種類及び添加量を最適化すると、硬さが最大で120Nであるポリウレタンフォームが得られる。
【0035】
[1.5.5. 引張強度]
「引張強度(kPa)」とは、JIS K6400-5に準拠して測定される値をいう。
本発明に係るポリウレタンフォームにおいて、引張強度もまた、主として、ポリオールの種類、イソシアネートの種類、イソシアネートインデックス、及び密度に依存する。しかしながら、ポリウレタンフォームに非縮合型の液状難燃剤を添加すると、可塑剤効果が発現する場合がある。その結果、ポリウレタンフォームの硬度が低下し、かつ、引張強度が低下する場合がある。相対的に高い引張強度を得るためには、非縮合型の液状難燃剤の添加量を極力減らすのが好ましい。
本発明に係るポリウレタンフォームにおいて、各成分の種類及び添加量を最適化すると、引張強度は、70N以上となる。各成分の種類及び添加量を最適化すると、引張強度が最大で120kPaであるポリウレタンフォームが得られる。
【0036】
[2. ポリウレタンフォームの製造方法]
本発明に係るポリウレタンフォームは、例えば、イソシアネートとポリオールとを、少なくとも発泡剤、整泡剤、触媒、及び難燃剤の共存下において、樹脂化反応と泡化反応とを同時に行わせることにより得られる。原料混合物中には、必要に応じて、第3成分がさらに含まれていても良い。
【0037】
[2.1. 原料]
[2.1.1. イソシアネート]
本発明において、イソシアネートの種類は特に限定されない。イソシアネートは、芳香族系、脂環式、脂肪族系のいずれであっても良い。また、イソシアネートは、1分子中に2個のイソシアネートを有する2官能のイソシアネートであっても良く、あるいは、1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する3官能以上のイソシアネートであっても良い。さらに、出発原料には、これらのいずれか1種のイソシアネートを用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0038】
2官能の芳香族系イソシアネートとしては、例えば、
2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、
m-フェニレンジイソシネート、p-フェニレンジイソシアネート、
4,4'-フェニルメタンジイソシアネート、2,4'-ジフェニルメタンジアネート、
2,2'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、
キシリレンジイソシアネート、
3,3'-ジメチル-4,4'-ビフェニレンジイソネート、
3,3'-ジメトキシ-4,4'-ビフェニレンジイソシアネートなどがある。
【0039】
2官能の脂環式イソシアネートとしては、例えば、
シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、
ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、
メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどがある。
【0040】
2官能の脂肪族系イソシアネートとしては、例えば、
ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、
イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、リジンイソシアネート
などがある。
【0041】
3官能以上のイソシアネートとしては、例えば、
1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、
1,3,5-トリメチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、
ビフェニル-2,4,4'-トリイソシアネート、
ジフェニルメタン-2,4,4'-トリイソシアネート、
メチルジフェニルメタン-4,6,4'-トリイソシアネート、
4,4'-ジメチルジフェニルメタン-2,2',5,5'テトライソシアネート、
トリフェニルメタン-4,4',4"-トリイソシアネート、ポリメリックMDI
などがある。
【0042】
[2.1.2. ポリオール]
本発明において、ポリオールの種類は特に限定されない。ポリオールは、エーテル系ポリオールであっても良く、あるいは、エステル系ポリオールであっても良い。さらに、出発原料には、これらのいずれか1種のポリオールを用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0043】
エーテル系ポリオールとしては、例えば、
(a)エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、
ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、
ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコール、
(b)多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオール
などがある。
【0044】
エステル系ポリオールとしては、例えば、
(a)マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合して得られたポリエステルポリオール、
(b)フタル酸エステルポリオール
などがある。
【0045】
[2.1.3. 発泡剤]
発泡剤は、ウレタン中に気泡を生成させるためのものである。発泡剤は、
(a)熱分解又は化学反応によりガスを発生させる化学発泡剤(例えば、イソシアネート基と反応してCO2を発生させる水)と、
(b)圧力低下又は加熱によりガスを発生させる物理発泡剤(例えば、高圧下で樹脂中に溶解させたペンタン、シクロペンタン、メチレンクロライド、炭酸ガスなど)
などがある。
これらの中でも、発泡剤は、水が好ましい。これは、水とイソシアネートとが反応することにより発生した炭酸ガスが発泡を促しながら、水とイソシアネートが反応することにより発生した熱が樹脂の硬化を促進するためである。
【0046】
[2.1.4. 整泡剤]
整泡剤は、ポリウレタンを製造する各原料の相溶性を高める作用、混合原料の表面張力を調整する作用、及び、発泡剤により生成した気泡を安定化させる作用がある。本発明において、整泡剤の種類は特に限定されない。整泡剤としては、例えば、
(a)ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、
(b)ポリエーテルシロキサン等のシリコーン系界面活性剤、
などがある。
【0047】
[2.1.5. 触媒]
ポリウレタンを合成するためには、イソシアネートとポリオールとの反応を促進させるための触媒(樹脂化触媒)を原料中に添加することが好ましい。
また、発泡剤として化学発泡剤を用いる場合には、ガスを発生させるための触媒(泡化触媒)を原料中に添加することが好ましい。
本発明において、触媒の種類は特に限定されない。
【0048】
樹脂化触媒としては、例えば、
(a)スタナスオクトエート、ジブチルチンジラウレート等の錫触媒、
(b)フェニル水銀プロピオン酸塩、オクテン酸鉛等の有機金属触媒
などがある。
発泡剤が水である場合、泡化触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノモルフォリン、N-エチルモルホリン、テトラメチルグアニジン等のアミン触媒などがある。
【0049】
[2.1.6. 難燃剤]
本発明において、難燃剤には、不純物として非縮合型のハロゲン化リン酸エステルを含む縮合型のハロゲン化リン酸エステル、及びリン酸エステルを用いることが好ましい。難燃剤の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0050】
[2.1.7. 第3成分]
本発明において、原料中には、上述した原料に加えて第3成分がさらに含まれていても良い。第3成分の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0051】
[2.2. 添加量]
[2.2.1. イソシアネートインデックス]
「イソシアネートインデックス(%)」とは、原料(ポリオール、発泡剤等)中の活性水素基の濃度に対する、原料中のイソシアネート基の濃度の割合をいう。
【0052】
イソシアネートインデックスが小さくなりすぎると、樹脂の形成が促進されず、硬度や強度が低下したり、あるいは、発泡が困難になる場合がある。従って、イソシアネートインデックスは、70以上が好ましい。イソシアネートインデックスは、好ましくは、80以上、さらに好ましくは、90以上である。
一方、イソシアネートインデックスが大きくなりすぎると、発熱温度が高くなり、ブロック内部に焼けが発生する場合がある。また、酸化が促進され、火災リスクが高くなる場合がある。従って、イソシアネートインデックスは、140以下が好ましい。イソシアネートインデックスは、好ましくは、130以下、さらに好ましくは、120以下である。
【0053】
[2.2.2. 発泡剤]
発泡剤の添加量は、発泡剤の種類に応じて最適な量を選択するのが好ましい。
例えば、発泡剤が水である場合、発泡剤の添加量が少なくなりすぎると、気泡の生成量が不足し、所望の発泡構造が得られない。従って、発泡剤の添加量は、ポリオール100質量部に対して、1.0質量部以上が好ましい。発泡剤の添加量は、好ましくは、2.0質量部以上、さらに好ましくは、3.0質量部以上である。
一方、発泡剤の添加量が過剰になると、イソシアネートインデックスを維持するためには、イソシアネートの添加量を増やす必要がある。その結果、発泡剤とイソシアネートとの反応が過度に進行し、発熱温度が過度に高くなる場合がある。従って、発泡剤の添加量は、ポリオール100質量部に対して、10質量部以下が好ましい。発泡剤の添加量は、好ましくは、6質量部以下、さらに好ましくは、5質量部以下である。
【0054】
[2.2.3. 整泡剤]
一般に、整泡剤の添加量が少なくなりすぎると、気泡の安定化が不十分となり、所望の発泡構造が得られない。従って、整泡剤の添加量は、ポリオール100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましい。整泡剤の添加量は、好ましくは、0.3質量部以上、さらに好ましくは、0.5質量部以上である。
一方、整泡剤の添加量が過剰になると、独立セル気泡が増加し、あるいは、密度が増加する場合がある。従って、整泡剤の添加量は、ポリオール100質量部に対して、5質量部以下が好ましい。整泡剤の添加量は、好ましくは、3質量部以下、さらに好ましくは、2質量部以下である。
【0055】
[2.2.4. 触媒]
一般に、樹脂化触媒の添加量が少なくなりすぎると、樹脂化反応の進行が不十分となる。従って、樹脂化触媒の添加量は、ポリオール100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましい。樹脂化触媒の添加量は、好ましくは、0.05質量部以上、さらに好ましくは、0.1質量部以上である。
一方、樹脂化触媒の添加量が過剰になると、樹脂化が過度に促進され、独立気泡セルになる場合がある。従って、樹脂化触媒の添加量は、ポリオール100質量部に対して、1.5質量部以下が好ましい。樹脂化触媒の添加量は、好ましくは、1.0質量部以下、さらに好ましくは、0.5質量部以下である。
【0056】
原料中に泡化触媒を添加する場合において、泡化触媒の添加量が少なくなりすぎると、泡化反応の進行が不十分となる。従って、泡化触媒の添加量は、ポリオール100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましい。泡化触媒の添加量は、好ましくは、0.05質量部以上、さらに好ましくは、0.1質量部以上である。
一方、泡化触媒の添加量が過剰になると、泡化が過度に促進され、急激な発泡反応が発生する場合がある。従って、泡化触媒の添加量は、ポリオール100質量部に対して、2.0質量部以下が好ましい。泡化触媒の添加量は、好ましくは、1.0質量部以下、さらに好ましくは、0.5質量部以下である。
【0057】
[2.2.5. 難燃剤]
[A. 縮合型のハロゲン化リン酸エステルの添加量]
難燃剤として縮合型のハロゲン化リン酸エステルを用いる場合には、縮合型のハロゲン化リン酸エステルの添加量が少なくなりすぎると、ポリウレタンフォームの難燃性が低下する。従って、縮合型のハロゲン化リン酸エステルの添加量は、ポリオール100質量部に対して、1.0質量部以上が好ましい。縮合型のハロゲン化リン酸エステルの添加量は、好ましくは、2.0質量部以上、さらに好ましくは、3.0質量部以上である。
一方、縮合型のハロゲン化リン酸エステルの添加量が過剰になると、非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの含有量も過剰となり、フォギング性、臭気強度、及び/又は、臭質の快・不快度が悪化する。従って、縮合型のハロゲン化リン酸エステルの添加量は、ポリオール100質量部に対して、30.0質量部以下が好ましい。縮合型ハロゲン化リン酸エステルの添加量は、好ましくは、25.0質量部以下、さらに好ましくは、20.0質量部以下である。
【0058】
[B. リン酸エステルの添加量]
リン酸エステルの添加量が少なくなりすぎると、異臭のマスキングが不十分となる。従って、リン酸エステルの添加量は、ポリオール100質量部に対して、1.7質量部以上が好ましい。リン酸エステルの添加量は、好ましくは、2.0質量部以上、さらに好ましくは、3.0質量部以上である。
一方、リン酸エステルの添加量が過剰になると、フォギングしやすくなる場合がある。従って、リン酸エステルの添加量は、ポリオール100質量部に対して、9.5質量部以下が好ましい。リン酸エステルの添加量は、好ましくは、8.0質量部以下、さらに好ましくは、5.0質量部以下である。
【0059】
[2.2.6. 第3成分]
第3成分の添加量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な添加量を選択するのが好ましい。
【0060】
[3. 作用]
ハロゲン化リン酸エステルは、ポリウレタンフォームに対して高い難燃性を付与することができる難燃剤である。特に、縮合型のハロゲン化リン酸エステルは、分子量が大きく、揮発しにくいために、ポリウレタンフォーム用の難燃剤として好適である。しかしながら、縮合型のハロゲン化リン酸エステルには、通常、不純物として数mass%程度のモノマ(非縮合型のハロゲン化リン酸エステル)が含まれており、これが異臭の原因となる場合が多い。
一方、リン酸エステルもまた、難燃剤として機能する。リン酸エステルは、縮合型のハロゲン化リン酸エステルに比べて分子量が小さく、かつ、難燃性に劣るが、揮発した場合であっても不快な異臭を発生せず、芳香臭(例えば、果実臭)を発生させる場合が多い。
【0061】
そのため、不純物として非縮合型のハロゲン化リン酸エステルを含む縮合型のハロゲン化リン酸エステルとリン酸エステルとを併用し、かつ、これらの含有量を最適化すると、ポリウレタンフォームに対して高い難燃性を付与することができると同時に、非縮合型のハロゲン化リン酸エステルの異臭をリン酸エステルの芳香臭でマスキングすることができる。
さらに、不純物として非縮合型のハロゲン化リン酸エステルを含む縮合型のハロゲン化リン酸エステル、及び、リン酸エステルはいずれも低コストであるため、これらを難燃剤として用いると、難燃性が高く、異臭が少ないポリウレタンフォームを低コストで製造することができる。
【実施例】
【0062】
(実施例1~2、比較例1)
[1. 試料の作製]
難燃剤には、縮合型のハロゲン化リン酸エステルの一種であるTCPPの縮合体(CR504L)、及び、リン酸エステルの一種であるTEPを用いた。
表3に示す原料を表3に示す配合割合(質量部)で配合し、軟質ポリウレタンフォーム製造用の原料混合物を得た。この原料混合物を縦、横、及び深さが各500mmの発泡容器内に注入し、常温、大気圧下で発泡させた。次いで、発泡させた原料を加熱炉内に搬送し、発泡させた原料を硬化(架橋)させることにより、軟質スラブ発泡体を得た。得られた軟質スラブ発泡体から、シート状の軟質ポリウレタンフォームを切り出した。
【0063】
【0064】
[2. 試験方法]
[2.1. 反応性・外観評価]
原料混合物が発泡する際のクリームタイム(原料混合物がクリーム状を維持している時間)、及びライズタイム(原料混合物を発泡容器内に注入してから発泡が停止するまでの時間)を測定した。また、目視によりフォームの外観を評価した。
【0065】
[2.2. 物性]
[2.2.1. 密度]
JIS K 7222に準拠して、軟質ポリウレタンフォームの密度を測定した。
[2.2.2. 硬さ]
JIS K 6400-2(D法)に準拠して、軟質ポリウレタンフォームの硬さを測定した。
【0066】
[2.2.3. 引張強度及び伸び]
JIS K 6400-5に準拠して、軟質ポリウレタンフォームの引張強度及び伸びを測定した。
[2.2.4. 圧縮残留歪]
JIS K 6400-4(A法)に準拠して、軟質ポリウレタンフォームの圧縮残留歪を測定した。
【0067】
[2.3. フォギング性]
DIN75201に準拠して、80℃で3時間保持後のガラス霞み度を測定した。
[2.4. 臭気強度及び臭質の快・不快度]
VAD270に準拠して、臭気強度及び臭質の快・不快度を測定した。
[2.5. 燃焼試験]
FMSSNo.302に準拠して、燃焼試験を行った。
【0068】
[3. 結果]
表4に結果を示す。表4より、以下のことがわかる。
なお、表4中、フォーム状態に関し「○」は、発泡完了後にガスが抜け、さらに、ポリウレタンフォームに沈み込みがなかったことを表す。
フォギング性に関し、「×」はガラス霞み度が92%未満であることを表し、「○」はガラス霞み度が92%以上であることを表す。
臭気強度に関し、「×」は臭気強度が2.7を超えていることを表し、「○」は臭気強度が2.7以下であることを表す。
臭質の快・不快度に関し、「×」は臭質の快・不快度が-1.5未満であることを表し、「○」は臭質の快・不快度が-1.5以上であることを表す。
さらに、燃焼試験に関し、「○」は、炎が第1標線(38mm)に到達する前に自己消化したことを表す。
【0069】
【0070】
(1)比較例1は、フォギング性、臭気強度、及び臭質の快・不快度のいずれも劣っていた。これは、TCPPの縮合体には約8mass%の未縮合のTCPPが含まれており、このTCPPがフォギング性、臭気強度、及び臭質の快・不快度を悪化させているためである。
(2)TCPPの縮合体とTEPを併用した実施例1、2は、いずれも、比較例1に比べて、難燃性を低下させることなく、フォギング性、臭気強度、及び臭質の快・不快度を改善することができた。これは、TCPPの縮合体とTEPを併用することによって、難燃性を低下させることなくTCPPの縮合体の配合量(すなわち、異臭の原因となるTCPPの含有量)を減らすことができるため、及び、TCPPの異臭がTEPの果実臭によりマスキングされるためである。
(3)実施例1、2は、難燃剤の合計添加量が少なくなることで密度が低下し、かつ、引張強度も増加した。実施例2については、さらに、比較例1よりも伸びが大きくなり、かつ、圧縮残留歪が小さくなった。
【0071】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係るポリウレタンフォームは、自動車や航空機の内装材、OA機器や電気製品の制震材や防音材などに使用することができる。