(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B61D 33/00 20060101AFI20240628BHJP
B60N 2/30 20060101ALI20240628BHJP
B60N 2/90 20180101ALI20240628BHJP
A47C 27/08 20060101ALI20240628BHJP
A47C 7/14 20060101ALI20240628BHJP
A47C 7/40 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
B61D33/00 F
B60N2/30
B60N2/90
A47C27/08 Z
A47C7/14 Z
A47C7/40
B61D33/00 E
(21)【出願番号】P 2020211994
(22)【出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】三浦 加奈代
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-106933(JP,U)
【文献】実開昭60-168633(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 33/00
B60N 2/30
B60N 2/90
A47C 27/08
A47C 7/14
A47C 7/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納および展開可能な折り畳み式座席が設置された鉄道車両であって、
座面のレール方向の両側に背もたれを移動可能なクロスシートである固定座席を備え、
前記折り畳み式座席は、客室内に設置された
前記固定座席の側
部に設けられる固定部に折り畳み可能に取り付けられて展開時に座部フレーム及び背部フレームを形成する座席フレームと、
膨張時に前記座部フレームの着座者側に配置されるエアクッションからなる座部クッションと、
膨張時に前記背部フレームの着座者側に配置されるエアクッションからなる背部クッションと、を備え
、
前記座部フレームは、前記固定部に折り畳み可能に取り付けられるベースと、
前記背部フレームを支持し、前記ベースのレール方向の両側に前記背部フレームが移動するように前記ベースに回転可能に取り付けられる回転部と、を備えていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
前記座部クッション及び前記背部クッションは、前記固定座席に固定されることを特徴とする請求項
1記載の鉄道車両。
【請求項3】
前記座部クッションと前記背部クッションとは別々のエアクッションであり、
前記折り畳み式座席は、レール方向の両側に移動可能に前記固定部に取り付けられる移動部を備え、
前記背部クッションが前記移動部を介して前記固定部に固定されることを特徴とする請求項
2記載の鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折り畳み式座席の座り心地を良くしつつ折り畳み式座席をコンパクトに収納できる鉄道車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の客室内に車椅子用スペースを確保するためや、通勤時など乗車人数が多いときに立ち乗り用スペースを確保するために折り畳み式座席を収納して客室内の座席を少なくしつつ、車椅子用スペースの不使用時や乗車人数が少ないときに折り畳み式座席を展開して座席を増やすことが知られている。特許文献1に開示された折り畳み式座席は、固定座席の肘掛け部分を90°回転させた後、重ねられた座部クッションと背部クッションとを90°開くことで展開される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示される技術では、折り畳み式座席をコンパクトに折り畳むために、座部クッション及び背部クッションを薄く形成することが多く、折り畳み式座席の座り心地が悪いという問題点がある。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、折り畳み式座席の座り心地を良くしつつ折り畳み式座席をコンパクトに収納できる鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の鉄道車両は、収納および展開可能な折り畳み式座席が設置されたものであって、座面のレール方向の両側に背もたれを移動可能なクロスシートである固定座席を備え、前記折り畳み式座席は、客室内に設置された前記固定座席の側部に設けられる固定部に折り畳み可能に取り付けられて展開時に座部フレーム及び背部フレームを形成する座席フレームと、膨張時に前記座部フレームの着座者側に配置されるエアクッションからなる座部クッションと、膨張時に前記背部フレームの着座者側に配置されるエアクッションからなる背部クッションと、を備え、前記座部フレームは、前記固定部に折り畳み可能に取り付けられるベースと、前記背部フレームを支持し、前記ベースのレール方向の両側に前記背部フレームが移動するように前記ベースに回転可能に取り付けられる回転部と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の鉄道車両によれば、エアクッションからなる座部クッション及び背部クッションを折り畳み可能な座席フレームで支持して着座可能な折り畳み式座席を構成する。そのため、エアを抜いた座部クッション及び背部クッションをコンパクトに収納できると共に、この収納状態と比べて、エアを入れた膨張状態の座部クッション及び背部クッションを十分に厚くできる。よって、折り畳み式座席の座り心地を良くしつつ折り畳み式座席をコンパクトに収納できる。
【0008】
固定座席は、固定部を有して座面のレール方向の両側に背もたれを移動可能なクロスシートである。折り畳み式座席の座部フレームは、固定部に折り畳み可能に取り付けられるベースと、背部フレームを支持する回転部と、を備える。ベースのレール方向の両側に背部フレームが移動するように回転部がベースに回転可能に取り付けられる。よって、固定座席の背もたれの向きに合わせて回転部を回転させることにより、固定座席だけでなく折り畳み式座席の背もたれ(背部フレーム及び背部クッション)の向きを車両進行方向(レール方向の一方)に応じて変更できる。
【0009】
請求項2記載の鉄道車両によれば、座部フレームのベースや背部フレームが折り畳み可能であると共に、ベースに対して回転部が回転可能であり、座席フレームの可動部分が多い。このような座席フレームに座部クッション及び背部クッションを固定する場合、座席フレームの可動を妨げないように、その座部クッション及び背部クッションのエアを給排する流路を座席フレームに設ける必要があり、折り畳み式座席の構造が複雑化し易い。これに対して、座部クッション及び背部クッションが固定座席に固定されるので、請求項1の効果に加え、折り畳み式座席の構造を簡素化できる。
【0010】
請求項3記載の鉄道車両によれば、座部クッションと背部クッションとは別々のエアクッションである。座面のレール方向の両側に移動可能な背もたれに背部クッションが固定される場合、その背もたれの可動を妨げないように、背部クッションのエアを給排する流路を固定座席に設ける必要があり、固定座席の構造が複雑化し易い。しかし、レール方向の両側に移動可能に固定座席の固定部に取り付けられる移動部を介して、背部クッションが固定部に固定されるので、請求項2の効果に加え、背もたれに背部クッションを固定する場合と比べて、固定座席の構造を簡素化できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態における鉄道車両の部分断面図である。
【
図2】(a)は収納状態の折り畳み式座席および固定座席の斜視図であり、(b)は座席フレームを展開した折り畳み式座席および固定座席の斜視図である。
【
図3】(a)は座部クッション及び背部クッションを膨張させた折り畳み式座席および固定座席の斜視図であり、(b)は着座可能な展開状態の折り畳み式座席および固定座席の斜視図である。
【
図4】(a)は背もたれの向きを変更した固定座席および折り畳み式座席の側面図であり、(b)は背部フレーム及び背部クッションの向きを変更した折り畳み式座席および固定座席の側面図である。
【
図5】
図4(a)のV-V線における座部クッションの断面図である。
【
図6】(a)は第2実施形態における展開中の折り畳み式座席および固定座席の斜視図であり、(b)は着座可能な展開状態の折り畳み式座席および固定座席の斜視図である。
【
図7】(a)は第3実施形態における展開中の折り畳み式座席および固定座席の斜視図であり、(b)は着座可能な展開状態の折り畳み式座席および固定座席の斜視図である。
【
図8】(a)及び(b)は第4実施形態における展開中の折り畳み式座席および固定座席の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。まず、
図1を参照して第1実施形態における鉄道車両10について説明する。
図1は、レール方向(車両長さ方向)に垂直な鉄道車両10の部分断面図である。
図1に示すように、鉄道車両10は、台枠11と、台枠11の枕木方向(車両幅方向)の両端部に立設されて側壁面を構成する一対の側構体12,13と、台枠11のレール方向の両端部に立設される図示しない一対の妻構体と、一対の妻構体および一対の側構体12,13の上端同士を連結する屋根構体14と、を主に備えている。これらの各構体に囲まれた部分に客室15が形成される。客室15の床面16上には複数の固定座席20が設置されている。
【0013】
固定座席20は、着座者の臀部を支持する座面21と、着座者の背中を支持する背もたれ22と、座面21に座った着座者の左右両側部に位置して着座者の肘が置かれる肘置き23と、を備えている。固定座席20は、常に着座者が座れるように、座面21の縁部から所定の角度で背もたれ22が立ち上がっている。
【0014】
固定座席20は、背もたれ22がレール方向を向いたクロスシートである。さらに、固定座席20は、座面21のレール方向の両側に背もたれ22を移動可能な転換式のクロスシートである(
図4(a)参照)。なお、背もたれ22を移動させる構成は、既知の構成であるため、説明を省略する。
【0015】
複数の固定座席20は、側構体12側(
図1紙面右側)に2列、側構体13側(
図1紙面左側)に1列の計3列が枕木方向に並んで客室15内に配置される。側構体13側の固定座席20には、側構体12側の側部に収納および展開可能な折り畳み式座席30が取り付けられている。
図1には折り畳み式座席30の収納状態が模式的に図示されている。
【0016】
折り畳み式座席30の収納状態では、客室15内の座席が少なくなるものの、立ち乗り用スペースを確保でき、鉄道車両10に乗車可能な人数を増やすことができる。また、折り畳み式座席30の収納状態では、側構体13側の固定座席20の隣に車椅子用スペースを確保できる。一方、折り畳み式座席30の展開状態では、側構体13側にも2列の座席が設けられ、客室15内の座席が増える。これにより、車椅子用スペースの不使用時や乗車人数が少ないときに座席に着座可能な人数を増やすことができる。
【0017】
次に
図2(a)から
図3(b)を参照して折り畳み式座席30について詳しく説明する。
図2(a)から
図3(b)は、収納状態から展開状態を段階的に示した折り畳み式座席30及び固定座席20の斜視図である。以下、
図2(a)から
図3(b)における固定座席20や
図3(b)における折り畳み式座席30に座った着座者から見た上下方向、左右方向、前後方向を基準として説明し、背もたれ22の向きを変えても基準は変わらないものとする。
【0018】
折り畳み式座席30は、固定座席20の側部に設けられる固定部24に折り畳み可能に取り付けられる座席フレーム31と、収納状態と膨張状態とを切り換え可能な座部クッション42及び背部クッション44と、を備えている。本実施形態における固定部24は、固定座席20の左側の肘置き23である。
【0019】
座席フレーム31は、展開時に折り畳み式座席30の座面のフレームを形成する座部フレーム32と、展開時に折り畳み式座席30の背もたれのフレームを形成する背部フレーム38と、を備える。座部フレーム32は、固定部24の下端から左方へ張り出す張出部33と、張出部33の先端に取り付けられる四角板状のベース34と、そのベース34に回転可能に取り付けられる回転部35と、展開時の折り畳み式座席30を下方から支持する脚部37と、を備える。
【0020】
ベース34は、張出部33から立ち上がって固定部24と略平行になる収納状態(
図2(a)参照)と、張出部33から左方へ延びて固定部24と略垂直(床面16と略平行)になる展開状態(
図2(b)参照)とが手動で切り換えられる。即ち、ベース34は、張出部33を介して固定部24に折り畳み可能に取り付けられている。
図2(a)に示すように、張出部33は、ベース34と固定部24との間に、収納状態の背部フレーム38や座部クッション42、背部クッション44が収まる空間を形成するための部位である。
【0021】
脚部37は、展開状態のベース34の下面から略垂直に延びて床面に当たる部位である。ベース34を収納状態としたとき、そのベース34に沿って脚部37が重ねられる。図示しないリンクにより、ベース34の展開や収納に応じて脚部37も展開や収納される。なお、座席フレーム31の強度に応じて脚部37を省略しても良い。
【0022】
図2(b)に示すように、回転部35は、展開状態のベース34の上面に重ねられる板状の部位である。回転部35は、展開状態のベース34の中央部に設けた上下の回転軸36を介してベース34に取り付けられる。回転部35は、回転軸36から後方へ延び、その先端部に背部フレーム38が支持される。
【0023】
回転部35の先端部は、ベース34の後縁よりも後方へ張り出す。なお、回転軸36まわりに回転部35を180°回転させることで、ベース34の前縁よりも前方へ回転部35の先端部が張り出す。このように、回転部35によってベース34のレール方向の両側に背部フレーム38を移動させることができる。
【0024】
背部フレーム38は、展開状態において、回転部35の先端部から立ち上がる第1部39と、その第1部39の上端から上方へ延びる板状の第2部40と、を備える。第1部39は複数のパイプを組み合わせた部位である。第1部39の上下端がそれぞれ回転部35の先端部および第2部40の下端に左右方向の軸で回転可能に支持されている。そのため、
図2(b)に示す背部フレーム38の展開状態から、第2部40を前方へ倒して第1部39に重ね、その第1部39を前方へ倒して座部フレーム32の上面に重ねることで、背部フレーム38が折り畳まれて収納状態になる。
【0025】
座部クッション42及び背部クッション44は、固定座席20の固定部24に固定される合成樹脂製のエアクッションであり、折り畳み式座席30に座る着座者の左右方向に伸縮可能な蛇腹状に形成されている。座部クッション42と背部クッション44とは別々のものであり、それぞれ独立している。
【0026】
座部クッション42及び背部クッション44は、固定座席20に設けたエア供給機構48によってエアが給排され、エアを抜いた収納状態(
図2(b)参照)と、エアで満たされた膨張状態(
図3(a)及び
図3(b)参照)とが切り換えられる。なお、エア供給機構48の詳細は後述する。
【0027】
図2(b)に示すように、収納状態の座部クッション42及び背部クッション44は、固定部24の座席フレーム31側に重ねられて略前後方向に長い直方体板状となっている。座部クッション42の上側に背部クッション44が位置する。
【0028】
座部クッション42及び背部クッション44は、この収納状態からエアが供給されると、
図3(a)に示すように左右方向へ伸長して膨張状態となる。膨張状態の座部クッション42は、座部フレーム32の上側(着座者側)に配置される。座部フレーム32で座部クッション42を支持することにより折り畳み式座席30の座面が形成される。
【0029】
背部クッション44の後端は、左右に延びた軸状の移動部46を介して固定部24に取り付けられている。移動部46は、固定部24の前後方向に設けられた溝25(
図2(b)参照)内を移動する部位である。溝25の両端部は、それぞれ下方に凹んでいるので、溝25の端部まで移動した移動部46は、その凹みに落ちて固定される。溝25の後端の凹みに移動部46が落ちた状態で、軸状の移動部46まわりに背部クッション44を回転させ、
図3(b)に示すように膨張状態の背部クッション44を背部フレーム38の前側(着座者側)に配置させる。このように、背部フレーム38で背部クッション44を支持することにより折り畳み式座席30の背もたれが形成される。
【0030】
以上の通り
図2(a)から
図3(b)に示すように、折り畳み可能な座席フレーム31を展開した後、膨張させたエアクッションからなる座部クッション42及び背部クッション44を座席フレーム31で支持することで着座可能な折り畳み式座席30が構成される。そのため、折り畳み式座席30の不使用時には、エアを抜いた座部クッション42及び背部クッション44をコンパクトに収納できると共に、折り畳み式座席30の使用時にはこの収納状態と比べて、エアを入れた膨張状態の座部クッション42及び背部クッション44を十分に厚くできる。よって、折り畳み式座席30の座り心地を良くしつつ折り畳み式座席30をコンパクトに収納できる。特に、座部クッション42及び背部クッション44が左右方向に伸縮可能な蛇腹状であるので、収納状態の座部クッション42及び背部クッション44をよりコンパクトに収納できる。
【0031】
図4(a)に示すように、固定座席20は、座面21のレール方向の両側に背もたれ22を移動可能な転換式のクロスシートなので、車両進行方向に応じて背もたれ22の向き(位置)を変更できる。
図4(a)は、
図3(b)の状態から背もたれ22の向きを変更した固定座席20及び折り畳み式座席30の側面図である。
図4(a)には、
図3(b)の状態における背もたれ22の位置を二点鎖線で示している。
【0032】
また、
図3(b)及び
図4(a)に示す状態から
図4(b)に示すように、固定座席20の背もたれ22の向きに合わせて、回転軸36まわりに回転部35を180°回転させると共に、移動部46を溝25の一端から他端(固定位置)まで移動させることで、折り畳み式座席30の背もたれの向きも車両進行方向に応じて変更できる。
図4(b)には、
図3(b)及び
図4(a)の状態における回転部35、背部フレーム38及び座部クッション42の位置を二点鎖線で示している。
【0033】
背部フレーム38が支持される回転部35の先端部がベース34の前縁または後縁から張り出すので、ベース34の上面の前縁から後縁までを膨張状態の座部クッション42で覆うことができる。そのため、背部フレーム38とは逆側におけるベース34の前縁または後縁を座部クッション42から張り出さないようにでき、そのベース34の前縁または後縁を着座者の脚部に当たり難くできる。
【0034】
また、座席フレーム31は、座部フレーム32のベース34や背部フレーム38が折り畳み可能であるのに加え、ベース34に対して回転部35が回転可能であり、可動部分が多い。このような座席フレーム31に座部クッション42及び背部クッション44を固定する場合、座席フレーム31の可動を妨げないように、その座部クッション42及び背部クッション44のエアを給排する流路を座席フレーム31に設ける必要があり、折り畳み式座席30の構造が複雑化し易い。これに対して本実施形態では、座部クッション42及び背部クッション44が固定座席20に固定されるので、折り畳み式座席30の構造を簡素化できる。
【0035】
また、固定座席20の背もたれ22に背部クッション44が固定される場合、その背もたれ22の可動を妨げないように、背部クッション44のエアを給排する流路を固定座席20に設ける必要があり、固定座席20の構造が複雑化する。しかし本実施形態では、固定座席20の側部の固定部24に対してレール方向に移動可能な移動部46に、背部クッション44が取り付けられているので、背もたれ22に背部クッション44が固定される場合と比べて、固定座席20の構造を簡素化できる。
【0036】
座部クッション42の断面を
図5に示す。
図5は
図4(a)のV-V断面である。なお、背部クッション44の断面も座部クッション42と同一であるので、説明を省略する。座部クッション42は、左右方向に並んだ複数の空気室42aが隔壁42bで区画されている。複数の空気室42a同士が、隔壁42bの一部を貫通した連通孔42cによって連通する。これにより、座部クッション42に着座者が座るときや体を動かすとき等に、大きな体圧が加わった空気室42aから別の空気室42aへのエアの移動速度を遅くできる。その結果、着座者が座った座部クッション42を徐々に変形させることができ、座部クッション42の安定感を向上できる。
【0037】
図2(b)に模式的に示すように、エア供給機構48は、エアを給排するポンプ49と、ポンプ49から座部クッション42及び背部クッション44までを繋ぐエア用の流路50と、流路50に配置される切換弁51と、切換弁51よりもポンプ49側の流路50に配置されるエアタンク52と、を備えている。これらのポンプ49、切換弁51及びエアタンク52は固定座席20の下部に収容されている。
【0038】
流路50は、背部クッション44が前後移動し易いように、移動部46を通して背部クッション44に繋がっている。切換弁51は、ばねによって非通電時に流路50を遮断し、通電時にソレノイドによって流路50を連通させる。
【0039】
座部クッション42及び背部クッション44が収納状態のときには、切換弁51で流路50を遮断したまま、予めポンプ49からエアタンク52へエアを送ってエアタンク52内を正圧にしておく。次いで、図示しないスイッチの操作や、センサによる座席フレーム31の展開の検知などに応じ、切換弁51を切り換えて流路50を連通させ、エアタンク52内のエアを座部クッション42及び背部クッション44へ送ることで、座部クッション42及び背部クッション44が膨張状態となる。
【0040】
座部クッション42及び背部クッション44が膨張状態のときには、切換弁51で流路50を遮断したまま、予めポンプ49によりエアタンク52からエアを排出してエアタンク52内を負圧にしておく。次いで、スイッチの操作などによって切換弁51で流路50を連通させ、座部クッション42及び背部クッション44内のエアをエアタンク52へ排出することで、座部クッション42及び背部クッション44が収納状態となる。これらのように、予め正圧または負圧にしたエアタンク52を用いて座部クッション42及び背部クッション44のエアを給排することで、座部クッション42及び背部クッション44の収納状態と膨張状態とを素早く切り換えることができる。
【0041】
次に
図6(a)及び
図6(b)を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、背部クッション44が移動部46を介して固定部24に固定される場合について説明した。これに対して第2実施形態では、背部クッション65が固定座席20の背もたれ22に固定される場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図6(a)は第2実施形態における展開中の折り畳み式座席60及び固定座席20の斜視図である。
図6(b)は着座可能な展開状態の折り畳み式座席60及び固定座席20の斜視図である。
【0042】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、折り畳み式座席60の座席フレーム61は、座部フレーム32と、展開時に折り畳み式座席60の背もたれのフレームを形成する背部フレーム62と、を備える。背部フレーム62は、第1実施形態における背部フレーム38に対し、展開状態において、第2部40の上端から上方へ延びる板状の第3部63を追加し、上下寸法を延ばしたものである。また、第3部63の下端が第2部40の上端に左右方向の軸で回転可能に支持され、第3部63を第2部40に重ねることで収納される。
【0043】
折り畳み式座席60の背部クッション65は、固定座席20の背もたれ22の側部に固定され、エア供給機構48の流路50が繋げられている。固定座席20の座面21に対する背もたれ22の傾斜角度と、展開された折り畳み式座席60の座部フレーム32に対する背部フレーム62の傾斜角度とが略同一とされる。背もたれ22の側部に固定された背部クッション65を収納状態(
図6(a)の状態)から膨張状態(
図6(b)の状態)とすることで、背部クッション65が背部フレーム62の着座者側に配置される。このように、背部フレーム62に支持された背部クッション65により折り畳み式座席60の背もたれが形成される。
【0044】
また、固定座席20の背もたれの側部に背部クッション65が固定されているので、肘置き23の前後からはみ出ないように収納状態の背部クッション44の寸法を管理する必要がある第1実施形態と比べて、背部クッション65の寸法の自由度を向上できる。その結果、折り畳み式座席60では、固定座席20と同様の高さまで背部クッション65を設けて着座者の頭を支持できる。
【0045】
固定座席20は、座面21のレール方向の両側に背もたれ22を移動可能に構成されており、この固定座席20の背もたれ22の側部に背部クッション65が固定されるので、背もたれ22を移動させれば一緒に背部クッション65も移動する。そのため、車両進行方向に応じて背部クッション65を移動させるための機構を簡素化できる。
【0046】
次に
図7(a)及び
図7(b)を参照して第3実施形態について説明する。第1実施形態では、背部クッション44が左右方向に伸縮可能な蛇腹状に形成される場合について説明した。これに対して第3実施形態では、背部クッション71が上下方向に伸縮可能な蛇腹状に形成される場合について説明する。なお、第1,2実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図7(a)は第3実施形態における展開中の折り畳み式座席70及び固定座席20の斜視図である。
図7(b)は着座可能な展開状態の折り畳み式座席70及び固定座席20の斜視図である。
【0047】
図7(a)及び
図7(b)に示すように、折り畳み式座席70は、座席フレーム61と、収納状態と膨張状態とを切り換え可能な座部クッション42及び背部クッション71と、を備えている。背部クッション71は、固定座席20の固定部24に固定される合成樹脂製のエアクッションであり、折り畳み式座席70に座る着座者の上下方向に伸縮可能な蛇腹状に形成されている。
【0048】
収納状態の背部クッション71は、固定部24の座席フレーム61側に重ねられて略前後方向に長い直方体板状となっている。収納状態の背部クッション71の後端は、固定部24に設けた溝25内を移動する移動部74を介して固定部24に取り付けられている。背部クッション71は、略水平方向(略上下軸まわり)に回転可能となるよう移動部74に支持される。
【0049】
背部クッション71を
図7(a)に示す収納状態から
図7(b)に示す膨張状態にするには、まず、移動部74を支点に背部クッション71を略水平方向へ回転させて背部クッション71を座席フレーム61の背部フレーム62に当てる。その後、エア供給機構48(
図2(b)参照)によって移動部74から背部クッション71へエアを供給することで、背部クッション71が膨張状態となり、折り畳み式座席70の背もたれが形成される。
【0050】
背部クッション71は、膨張状態において着座者の頭を支持する上支持部72と、膨張状態において着座者の背中や腰を支持する下支持部73と、を備える。膨張状態における上支持部72は、左右方向の中央部が凹むように形成されている。これにより、上支持部72が着座者の頭を左右から支持でき、座り心地を良くできる。なお、上支持部72の中央部の凹みを表裏の両面に設けることで、折り畳み式座席70の背もたれの位置を変更したときでも座り心地を良くできる。
【0051】
次に
図8(a)及び
図8(b)を参照して第4実施形態について説明する。第4実施形態では、展開状態の座席フレーム81の上端に設けたフック82,83に、背部クッション84に設けたリング85,86を引っ掛けることで、座席フレーム81に背部クッション84を支持させる場合について説明する。なお、第1,2実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
図8(a)及び
図8(b)は第4実施形態における展開中の折り畳み式座席80及び固定座席20の斜視図である。折り畳み式座席80の収納状態は、
図2(a)に示す折り畳み式座席30の収納状態と同様である。折り畳み式座席80の展開状態は、
図8(b)における座部クッション42及び背部クッション84を
図6(b)のように左右方向に膨張させた状態である。
【0052】
図8(a)及び
図8(b)に示すように、折り畳み式座席80の座席フレーム81は、第2実施形態における座席フレーム61に対し、展開状態の背部フレーム62の上端の右側にフック82を、左側にフック83を設けた点以外は、座席フレーム61と同一である。フック82,83は、背部フレーム62の上端の左右両端部近傍の一部を切り欠くことで形成された、上方へ突出する部位である。
【0053】
折り畳み式座席80の背部クッション84は、固定座席20の固定部24に移動部87を介して固定される合成樹脂製のエアクッションであり、折り畳み式座席80に座る着座者の左右方向に伸縮可能な蛇腹状に形成されている。なお、移動部87は、第1実施形態における移動部46に対し、左右方向に引き出し可能になっている点以外は同一に構成される。背部クッション84を収納するときは、移動部87が固定部24内に引っ込み、背部クッション84が固定部24に重なる。
【0054】
エアを抜いた収納状態の背部クッション84は、左右方向に蛇腹を折り畳み、その長手方向(
図8(a)における上下方向)の中央で更に2つ折りすることで、その長さを短くしている。これにより、背部クッション84の長手方向を固定座席20の前後方向と同一にして収納するとき、肘置き23から背部クッション84を前後にはみ出ないようにしつつ、背部クッション84を膨張させて長くしたときに着座者の頭を支持できる。
【0055】
背部クッション84の長手方向の両端部のうち、移動部87が固定される端部とは反対側の端部には、短手方向の両側にリング85,86が取り付けられている。リング85,86は、軟質の紐によって形成されている。背部クッション84を移動部87から上方へ立てた状態において、背部クッション84の後方にリング85が設けられ、背部クッション84の前方にリング86が設けられる。
【0056】
図8(a)に示される2つ折りされた背部クッション84を、
図8(b)に示すように伸ばして、背部クッション84のリング85を背部フレーム62の上端のフック82に引っ掛けることで、背部クッション84が長くても下方へ垂れることなく、背部フレーム62に背部クッション84を支持できる。この状態で、エア供給機構48(
図2(b)参照)によって背部クッション84にエアを供給し、背部クッション84を膨張させることで、背部クッション84及び背部フレーム62により折り畳み式座席80の背もたれが形成される。
【0057】
なお、座部フレーム32の前方に背部フレーム62を移動させ、溝25に沿って背部クッション84を前方に移動させた場合には、フック83にリング86を引っ掛けることで、背部フレーム62に背部クッション84を支持させることができる。以上のように、フック82,83とリング85,86とによって、背部フレーム62と背部クッション84とが密着した状態を簡単な構成で維持し易くでき、背部クッション84が背部フレーム62から離れて倒れないようにできる。
【0058】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、エア供給機構48のエアタンク52を省略しても良い。また、座部フレーム32に対して、背部フレーム38,62の傾斜角度を変更可能なリクライニング機構を座席フレーム31,61,81に設けても良い。
【0059】
また、固定座席20の肘置き23による固定部24に座席フレーム31,61,81を折り畳み可能に取り付ける場合に限らず、客室15内の壁面に設けた固定部などに座席フレーム31,61,81を折り畳み可能に取り付けても良い。この壁面の固定部に座部クッション42及び背部クッション44,65,71,84を固定しても良い。
【0060】
さらに、固定座席20の肘置き23を省略して座面21の側部に座席フレーム31,61,81を折り畳み可能に取り付けても良い。この場合、座部クッション42を座面21の側部に固定しても良い。また、座席フレーム31,61,81の形状や折り畳み方を適宜変更しても良い。
【0061】
上記形態では、座部クッション42及び背部クッション44,65,71,84が固定座席20に固定される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。座部クッション42及び背部クッション44,65,71,84を座席フレーム31,61,81に固定しても良い。また、座部クッション42及び背部クッション44,65,71,84が左右に伸縮する蛇腹状のエアクッションである場合に限らず、厚さが変化するエアクッションや、着座者にフィットし易い三次元形状に設計されたエアクッションを座部クッションや背部クッションに用いても良い。座部クッション及び背部クッションを一体のエアクッションで構成しても良い。
【0062】
上記形態では、主に手動で折り畳み式座席30,60,70,80の収納と展開とを切り換える場合について説明したが、これに限られるものではなく、自動で切り換えても良い。
【0063】
上記形態では、収納状態の折り畳み式座席30,60,70,80において、固定座席20の肘置き23(固定部24)とベース34とが離れている場合について説明したが、これに限られるものではない。収納状態の折り畳み式座席30,60,70,80のベース34が肘置き23の側面を形成するように、肘置き23内に折り畳み式座席30,60,70,80を収納しても良い。
【0064】
上記形態では、固定座席20が、レール方向の両側に背もたれ22を移動可能な転換式のクロスシートである場合について説明したが、これに限られるものではない。レール方向の一方側に背もたれ22が固定されたクロスシートや、側構体12,13に沿って背もたれを設けたロングシート等を固定座席20としても良い。
【0065】
上記第4実施形態では、背部フレーム62のフック82,83に、背部クッション84のリング85,86を引っ掛ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。背部フレーム62と背部クッション84との上端部同士を係合できれば、フック82,83とリング85,86とを逆にしても良く、フック82,83以外の被係合部やリング85,86以外の係合部を用いても良い。
【符号の説明】
【0066】
10 鉄道車両
15 客室
20 固定座席
21 座面
22 背もたれ
24 固定部
30,60,70,80 折り畳み式座席
31 座席フレーム
32 座部フレーム
34 ベース
35 回転部
38,62 背部フレーム
42 座部クッション
44,65,71,84 背部クッション
46,74,87 移動部