IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ミメタス ビー.ブイ.の特許一覧

<>
  • 特許-電気測定実施装置 図1
  • 特許-電気測定実施装置 図2
  • 特許-電気測定実施装置 図3
  • 特許-電気測定実施装置 図4
  • 特許-電気測定実施装置 図5
  • 特許-電気測定実施装置 図6
  • 特許-電気測定実施装置 図7
  • 特許-電気測定実施装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】電気測定実施装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20240628BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C12M1/34 Z
C12Q1/02
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2020545574
(86)(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2019055187
(87)【国際公開番号】W WO2019166644
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-07
(31)【優先権主張番号】2020518
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】517423062
【氏名又は名称】ミメタス ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブルート、ポール
(72)【発明者】
【氏名】トリエッチ、セバスチャン ヨハネ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス、アーノウド ヤニック マイケル
(72)【発明者】
【氏名】シャベマカー、フレデリック マティス
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/007325(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/181322(WO,A1)
【文献】特表2017-513483(JP,A)
【文献】特開2011-191257(JP,A)
【文献】ANDREESCU, S et al.,Autonomous Multielectrode System for Monitoring the Interactions of Isoflavonoids with Lung Cancer Cells,Analytical Chemistry,2004年,Vol. 76, No. 8,pp. 2321- 2330
【文献】HENRY, OYF et al.,Organs-on-Chips with integrated electrodes for trans-epithellial electrical resistance (TEER) measurements of human epithelial barrier function,Lab on a Chip,2017年,Vol. 17, No. 13,pp. 2264-2271
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
C12Q
G01N
G01R
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体装置内で培養された細胞の電気的特性を測定するための装置であって、
第一及び第二の表面を有するカセットであって、マイクロタイタープレートと係合するように構成され、前記マイクロタイタープレートと係合されるとき、前記第一の表面から前記マイクロタイタープレートの方向に延びる複数の電極を備えるカセットと、及び
前記カセットの前記第二の表面に着脱可能に取り付けられたハウジングであって、1つ又は複数の熱管理要素と、前記電極に電気的に接続されたデータ取得モジュール及びデータ処理モジュールを備えるプロセッサとを備えるハウジングと、
を備え、
前記1つ又は複数の熱管理要素は、前記カセットを前記ハウジングから熱的に切り離す要素を備える、装置。
【請求項2】
前記装置はインピーダンス分光法、電位差測定、ボルタンメトリー、又は電流測定用に構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記装置は経上皮又は経内皮電気抵抗(TEER)を測定するように構成される、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、1Hz~100MHzの範囲でAC周波数掃引を実行するように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、10Hzから10MHzの範囲でAC周波数掃引を実行するように構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記周波数掃引の範囲及び前記データ取得モジュールによるデータ取得の周波数は、手動、自動又は反復式に適合可能であり、測定されるシステムの特性に最適化される、請求項4又は5に記載の装置。
【請求項7】
前記複数の電極は、マイクロタイタープレートの少なくとも2つ以上のウェルの構成に対応する所定の構成で配置され、前記マイクロタイタープレートは、少なくとも40個のマイクロ流体チップを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記複数の電極は、マイクロタイタープレートの少なくとも2つ以上のウェルの構成に対応する所定の構成で配置され、前記マイクロタイタープレートは、64個のマイクロ流体チップを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記複数の電極は、マイクロタイタープレートの少なくとも2つ以上のウェルの構成に対応する所定の構成で配置され、前記マイクロタイタープレートは、96個のマイクロ流体チップを備え、前記マイクロタイタープレートは、ANSI SLAS規格1~4-2004に準拠する384ウェルプレートである、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記複数の電極の少なくとも1つのサブセットが、前記マイクロタイタープレート内でマイクロ流体的に接続されたウェルの少なくとも1つのサブセットに対応するように構成される、請求項7に記載の装置。
【請求項11】
前記電極は前記ウェル内の流体に浸漬されるように構成され、したがって前記流体を電気回路に組み込む、請求項9又は10に記載の装置。
【請求項12】
電極の各サブセットは少なくとも負荷電極、感知電極、及び基準電極を含む、請求項8又は9に記載の装置。
【請求項13】
電極の各サブセットは、電気回路内で直接接続された2つ以上の電極を含み、前記2つ以上の電極は、チャネルの有効な電気抵抗を低減するために、同じマイクロ流体チャネルの1つ又は複数のウェルに接続され、電極の前記サブセットの2つ以上は、前記カセットが前記マイクロタイタープレートと係合するときに形成される前記電気回路が、前記直接接続された電極を横切る同様の電気抵抗を有するように構成され、前記電気回路の見かけの電気的特性に対する電気的特性の局所的な差の位置の影響を最小限に抑える、請求項8~10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
2つ以上の電極は単一のウェルに浸漬され、それにより電気回路及び/又は試験中の装置(DUT)の電気的特性を改善する4点電気測定を可能にする、請求項1~13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記カセットの前記ハウジングへの正確で反復可能な位置決め、及び/又は前記マイクロタイタープレートのウェル内での前記電極の正確で反復可能な位置決めを保証する1つ又は複数のクランプ機構をさらに備える、請求項1~14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
電極材料は生体適合性材料を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記電極は、白金、金めっきされた真鍮、金めっきされたステンレス鋼又はステンレス鋼の1以上から形成される、請求項1~16のいずれか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記電極は、塩化銀電極、イオン選択性電極、又は生体機能化電極のうちの1つ又は複数を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記カセットを前記ハウジングから熱的に切り離す前記要素は、前記ハウジングとカセットの間の絶縁層又はスペーサである、請求項1に記載の装置。
【請求項20】
前記1つ又は複数の熱管理要素は、熱を前記カセットから遠ざける受動的又は能動的な熱導管を含み、前記1つ又は複数の熱管理要素は、放射表面、冷却ファン、液体冷却、ペルチェモジュール、エアダクト、又は前記装置内若しくは前記装置周辺の空気の流れを改善するファン、あるいはそれらの任意の組み合わせのうちの1つ又は複数を備える、請求項1~19のいずれか一項に記載の装置。
【請求項21】
マイクロタイタープレートを受け入れ、前記カセット及び/又はハウジングと着脱可能に係合するように構成された基部をさらに備える、請求項1~20のいずれか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記装置の総設置面積は前記マイクロタイタープレートの設置面積の2倍未満であり、それにより、前記装置に係合している間、前記マイクロタイタープレートと外部機器との相互作用が可能になる、請求項1~21のいずれか一項に記載の装置。
【請求項23】
前記カセットは、少なくとも80個の電極を備える、請求項1~22のいずれか一項に記載の装置。
【請求項24】
マイクロ流体装置内で培養された細胞の電気的特性を測定するためのin vitroの方法であって、該方法は、
a.マイクロ流体装置を提供するステップであって、前記マイクロ流体装置は、複数のマイクロ流体チャネルを備え、前記マイクロ流体チャネルの少なくとも1つは、少なくとも部分的にゲルで満たされ、及び前記マイクロ流体チャネルの少なくとも1つは、先端側及び基底外側を有する前記ゲル上の又は前記ゲルに対する層として細胞を含み、細胞の前記層は、前記マイクロ流体チャネル内で先端側及び基底外側を有する管状構造を有する、マイクロ流体装置を提供するステップと、
b.前記マイクロ流体チャネルに請求項1~23のいずれか一項に記載の装置を提供するステップであって、少なくとも1つの電極が前記先端側と接触している流体と接続し、少なくとも1つの電極が前記基底外側と接触している流体と接触する、前記マイクロ流体チャネルに請求項1~23のいずれか一項に記載の装置を提供するステップ、したがって、前記マイクロ流体チャネルを電気回路に組み込むステップと、
c.インピーダンススペクトル、電圧又は電流を測定するステップであって、前記マイクロ流体装置はマイクロタイタープレートである、インピーダンススペクトル、電圧又は電流を測定するステップと、
を含み、
前記インピーダンススペクトル、電圧又は電流を測定するステップは請求項1~23のいずれか一項に記載の装置を用いて実行される、方法。
【請求項25】
前記ゲルは、基底膜抽出物、細胞外マトリックス成分、コラーゲン、コラーゲンI、コラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、D-リジン、エンタクチン、ヘパラン硫化物プロテオグリカン又はそれらの組み合わせである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ゲルは細胞の前記層と直接接触し、細胞の前記層から前記ゲルを分離する膜はない、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
柱、隆起、溝、疎水性パッチ、又は圧倒的により親水性の高いチャネル内のより親水性の低いパッチから選択される毛細管圧バリアによって前記ゲルは前記マイクロ流体チャネル内で構成される、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
液体を前記マイクロ流体チャネルに導入するステップと、測定中に前記マイクロ流体チャネルを介して液体の流れを誘導するステップと、をさらに含み、前記流れは液体レベリングにより誘導される、請求項24~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記流れは前記マイクロ流体装置を可逆的に傾けることによって誘導される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
複数の細胞層及び/又はマイクロ流体チャネルは、同じマイクロ流体ネットワークの一部であり、複数の細胞層を横切る測定は、単一の、連続した又は並行する測定で行われる、請求項24~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記培養された細胞を、測定前又は測定中に1種又は複数種の化合物又は他の刺激に曝して、細胞バリア機能に対する前記刺激の効果を観察する、請求項24~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記測定は細胞バリア機能を経時的に監視するために複数回実行される、請求項24~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
マイクロ流体装置内で培養された細胞の前記電気的特性の測定は、他の測定と併せて実行される、請求項24~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記他の測定は、画像化及び(生)化学分析を含む、請求項33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気測定実施装置、例えば、マイクロ流体装置内に存在する上皮細胞の層を横切る電気的活性の実施装置に関する。本発明はまた、例えば、上皮バリア機能に対する試験化合物の調節効果を決定するために、マイクロ流体装置内で培養された細胞の電気的特性を測定するためのin vitro法に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮組織は、4つの基本的な組織種(上皮組織、結合組織、筋肉組織、及び神経組織)のうちの1つを含む。上皮細胞は動物(脊椎動物と無脊椎動物の両方)だけでなく植物にも見られ、生物の生理機能に重要な役割を果たす。
【0003】
上皮細胞は、身体の外腔と内腔の両方及び管腔を裏打ちする。内皮(血管、心臓、及びリンパ管の内層)と中皮(心膜、胸膜、及び腹膜の壁を形成)は、上皮の特殊な形態である。
【0004】
上皮細胞は、身体内部の保護として作用する上皮バリアを形成する。細胞とそれらが形成するバリアは、身体の内腔と外腔を分離し、特定の物質を選択的に吸収かつ排泄する手段を身体に提供する。そのため、上皮バリアと上皮細胞は、化学物質及び栄養素の吸収、経細胞輸送、感覚の検出、老廃物排泄、及び微生物感染からの保護など、様々な生物学的プロセスにおいて重要である。全ての上皮は通常、細胞外の線維性基底膜によって基礎組織から分離されている。
【0005】
例として、上皮は肺胞又は気嚢を含む肺の構造を形成し、胃や小腸、腎臓、膵臓などのほとんどの臓器を裏打ちする。それらはまた、食道を裏打ちし、胆管及び唾液腺のような管及び腺に見られる。それらは味蕾を形成し、鼻、耳及び目、並びに皮膚を裏打ちする。
【0006】
内皮は血管及びリンパ管の内面を裏打ちする内皮細胞の薄い層であり、管腔内の循環血液又はリンパと、血管壁の残りの部分及び下にある組織との間に界面を形成する。この界面の例は、血液脳関門である。
【0007】
中皮細胞は、身体の漿液性腔と内臓を裏打ちする特殊な舗装状細胞の単層を形成する。中皮と呼ばれるこの層の主な機能は、滑りやすく、非粘着性で保護的な表面を提供することである。しかしながら、中皮細胞は、漿膜腔を横切る液体及び細胞の輸送、抗原提示、炎症及び組織修復、凝固及び線溶並びに腫瘍細胞の接着を含む他の重要な役割を果たす。
【0008】
上皮細胞は、いくつかの区別できる特徴によって特徴付けられる。上皮細胞は、上皮と呼ばれる組織のシート内に一緒に結合される。これらのシートは、タイトジャンクション、アドヘレンス、デスモソーム、及びギャップジャンクションを含むいくつかの種類の相互作用を介して一緒に保持される。タイトジャンクション、又は閉鎖帯(zonulae occludentes)は、上皮細胞の先端(上部)領域と基底(下部)領域の間の分極と同時に、それら2つの領域間の線引きとして機能する。上皮は、基底板と呼ばれる基底膜によって基底側で支えられている。
【0009】
述べたように、1つの際立った特徴は、分極した上皮細胞の原形質膜を先端部分と側底部分に分離するタイトジャンクションの形成である。細胞の先端部分は、in vitroで、例えば組織培養プレート上で成長した細胞単層内で配向された場合、細胞の露出した部分又は上部である。身体内の上皮細胞シートとの関連において、先端表面は、上皮によって裏打ちされた管腔に露出されるであろう。細胞の側底面は、底部又は基底部分と側部又は横方向部分で構成されている。組織培養プレート上で成長した細胞との関連において、細胞の側底膜は、組織培養プレートと接触している細胞の部分と、タイトジャンクションの下に位置する細胞の横方向部分である。身体内の上皮細胞シートとの関連において、細胞の側底面は、上皮によって裏打ちされた身体の内部に露出されるであろう。様々なタンパク質が、先端膜又は側底膜に特異的に局在する。
【0010】
その重要性を考えると、上皮細胞(内皮細胞及び中皮細胞を含む)が様々な生物学的プロセスを研究するために広く使用されていることは当然のことである。それら細胞は、分子細胞生物学、(微生物)病因、薬理学、及び毒物学のような分野の研究に適している。
【0011】
上皮細胞とバリア機能を研究するために、数多くのモデルシステムが開発されてきた。上皮細胞を研究するには、通常、上皮細胞の先端面又は側底面と接触している培地にアクセス又は変更する能力が必要である。標準的な組織培養装置ではこのような操作ができないため、専用の細胞培養装置が開発されてきた。ほとんどのin vitroモデルシステムで使用される主要な装置は、Transwell(登録商標)(Corning、Inc.、マサチューセッツ州ローウェル)などの透過性組織培養プレートインサートである。これらの装置は、組織培養プレートのウェルに挿入できる人工透過性成長支持体を提供する。透過性成長支持体の表面全体で分極した細胞単層を培養することにより、それは組織培養ウェルの先端チャンバと側底チャンバを分離する選択的バリアとして機能する。
【0012】
このようなモデルシステムは、新薬の開発、様々な疾患の理解、及び薬剤の毒性効果の理解に重要な役割を果たす。
【0013】
例えば、薬物開発プロセスの間、承認を得て、その後商品化する前に、潜在的な治療薬又は薬物候補は、意図した用途に対して安全かつ効果的であることを実証される必要がある。様々な薬物が上皮バリア機能をマイナスに調節することが知られている(例えば、Youmbaら、J Pediatr Gastroenterol Nutr 2012; 54:463-70を参照)。一方、例えばバリアを一時的に開くことにより、上皮細胞のバリア機能を調節する化合物は、体循環及び臓器への薬物送達を改善するのに有効であり得る(Deli、Biochimica et Biophysica Acta-Biomembranes 1788(4)2009、892-910)。
【0014】
同様に、血液脳関門を一時的に開くことは、脳への薬物の送達に有効であり得る。さらに、そのようなシステムは、食品、化粧品、及び飲料、並びにバクテリア中に見出されるものを含むあらゆる種類の化合物がバリア機能に及ぼす影響を理解するために重要である。例えば、クロストリジウムディフィシル毒素は、タイトジャンクションタンパク質の膜マイクロドメインの局在を変えることにより上皮バリア機能を破壊する(Nusratら、Infect Immun.2001 Mar; 69(3):1329-36)。一方、他の成分は上皮バリア機能を向上又は補足している可能性がある。
【0015】
現在の上皮細胞モデルシステムは創薬に有用であるが、これらのシステムでの細胞の操作は、この作業に必要な非常に均一な細胞単層のために困難であることが判明している。実験作業では、正しい細胞タイプを選択し、複数の均一な細胞単層を生成し、細胞単層の完全性が実験を行うのに十分であることを確認する必要がある。さらに、実験的に許容できる結果を繰り返し生成できるように、これら全てを十分に確立する必要がある。これらの困難により、望ましい上皮細胞モデルシステムの開発は困難なプロセスになり得、数か月又は数年の作業が必要になる。
【0016】
マイクロタイタープレートで複数の同時電気測定を実行するように概ね作られた装置は、当技術分野で知られており、例えば、Andreescu S.ら、Analytical Chemistry 2004、76(8)、2321; Thomas S. Mannら、Analytical Chemistry、2008、80(8)、2988; Reiter S.ら、Analyst、2001、126(11)、1912;及びUS 2010/099094に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、これらの装置は、連続するプレートの切り替えや測定のセットアップに時間がかかるため、ハイスループットスクリーニングでの使用には適していない。多数の異なる化合物の電気的特性に関するデータを迅速に提供できる新しいハイスループットスクリーニング装置及び方法の開発に大きな関心が寄せられている。したがって、本発明の目的は、電気的特性、例えば、上皮バリア機能に対する化合物の効果のより良い理解をもたらす改善された装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第1の態様によれば、電気測定実施装置が提供され、この装置は以下のものを備える:
第一及び第二の表面を有するカセットであって、マイクロタイタープレートと係合するように構成され、マイクロタイタープレートと係合されるとき、第一の表面からマイクロタイタープレートの方向に延びる複数の電極を備えるカセット、及び
カセットの第二の表面に着脱可能に取り付けられたハウジングであって、1つ又は複数の熱管理要素と、電極に電気的に接続されたデータ取得モジュール及びデータ処理モジュールを備えるプロセッサとを備えるハウジング。
【0019】
本発明による装置は、マイクロタイタープレートに一体化された電極も導電性表面も必要とすることなく、電極カセットを標準的なマイクロタイタープレートと一緒に使用することを可能にする。これは、電気測定用の全ての電極を電極カセットに配置し、マイクロタイタープレートに挿入するために電極カセットの単一表面から延ばすことによって可能になる。本装置は、Transwell(登録商標)プレート及びOrganoplates(登録商標)と共に使用可能であり、その基部にそれ自体の電極セットを備えた特殊なタイタープレートが不要である。カセットは、ウェルの高さ及び間隔、並びにウェル間のあり得る接続を含めて、任意のタイタープレートのウェルレイアウトに一致するように構成することができる。電極の長さは、ウェルの深さと一致するように、及び/又はウェル内の異なる位置で測定するように構成することができる。カセットは、単一ウェルの内側の複数の位置で、例えば単一ウェル内に存在するTranswellインサートの内側及び外側で測定するように構成することもできる。
【0020】
「カセット」及び「電極カセット」という用語は交換可能に使用され、本明細書を通じて同じ意味合いを持つ。同様に、「マイクロタイタープレート」と「タイタープレート」は交換可能に使用される。
【0021】
本発明の第2の態様によれば、マイクロ流体装置内で培養された細胞の電気的特性を測定するためのin vitro法が提供され、この方法は以下のステップを有する:
a.複数のマイクロ流体チャネルを備えるマイクロ流体装置を提供するステップであって、マイクロ流体チャネルの少なくとも1つは、少なくとも部分的にゲルで満たされ、及びマイクロ流体チャネルの少なくとも1つは、先端側及び基底外側を有するゲル上の又はゲルに対する層として細胞を含み、好ましくは、細胞の層は、マイクロ流体チャネル内で先端側及び基底外側を有する管状構造を有する、提供するステップ、
b.マイクロ流体チャネルに、先端側と接触している流体と接続する少なくとも1つの電極と、基底外側と接触している流体と接続する少なくとも1つの電極とを提供するステップ、したがって、マイクロ流体チャネルを電気回路に組み込むステップ、
c.インピーダンススペクトル、電圧又は電流を測定するステップ。
【0022】
本発明の第3の態様によれば、以下のステップを含む、第1の態様による装置を洗浄する方法が提供される:
(a)電極を受け入れるウェルを備える洗浄プレートとカセットを係合するステップであって、ウェルは電極が浸漬される洗浄液を備える、係合するステップ、
(b)洗浄液により電極から蓄積した物質を除去するステップ、
(c)任意選択的に、洗浄中に、電気的、熱的、機械的、又は音響的作動などの能動的な作動を提供するステップ。
ここで、洗浄液は、好ましくは、酸、塩基、酸化剤、還元剤、有機溶剤又は洗剤のうちの1つ又は複数を含む。
【0023】
本発明の第4の態様によれば、以下のステップを含む、第1の態様による装置を較正するための方法が提供される。
(a)電極がキャリブレーション溶液及び/又は電気回路を含む参照システムと接触するように、カセットをキャリブレーションプレートと係合させるステップ、
(b)電極の電気的特性を決定し、前記特性を参照値と比較するステップ、
(c)請求項35の方法に従って電極を任意選択的に洗浄するステップ。
【0024】
本発明の第5の態様によれば、第1の態様による装置の複数の電極と係合するように構成されたウェルを備える洗浄プレートと、洗浄液を含む1つ又は複数のバイアルとを備える部品のキットが提供され、洗浄液は、好ましくは、酸、塩基、酸化剤、還元剤、有機溶剤又は洗剤のうちの1つ又は複数を含む。
【0025】
第1の態様による装置は、電極カセットをハウジングのデータ取得及び処理電子機器から取り外し、洗浄することを可能にする、したがって、本発明の第3から第5の態様を可能にする。
【0026】
次に、本発明を、図面を参照して、単に例として記載する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、本開示による装置を示す。
図2図2は、マイクロ流体ネットワーク全体の電気的活動を測定するための6つの電極対を含むマイクロ流体ネットワークの例を示す。
図3図3は、マイクロ流体ネットワーク全体の電気的活動を測定するためのマイクロ流体ネットワークのさらなる例を示す。
図4図4は、マイクロ流体チャネル内の培地に浸漬されている電極カセットの電極の断面及び拡大図を示す。
図5図5は、マイクロ流体ネットワーク全体の電気的活動を測定するための対称及び非対称構成を示す。
図6図6は、本発明による装置及び/又は方法で測定された典型的なインピーダンススペクトルを示す。
図7図7は、Caco-2細胞を含む培養細管についてのTEERの経時的変化を示す。
図8図8は、Caco-2細管のTEERに対するスタウロスポリンの効果を示す。
【0028】
図面を個別に参照すると、示されている詳細は例としてのものであり、本発明の異なる実施形態の例示的な考察をもっぱら目的としていることが強調される。それらは、本発明の原理及び概念的態様の最も有用で容易な記載であると考えられるものを提供するという理由で提示されている。これに関して、本発明の基本的な理解に必要なものよりも詳細に本発明の構造の詳細を示す試みはなされていない。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
本発明の装置及び方法に関する様々な用語が、明細書及び特許請求の範囲を通して使用されている。そのような用語は、別段の指示のない限り、本発明が関係する技術分野におけるそれらの通常の意味を与えられる。他の具体的に定義された用語は、本明細書に提供された定義と一致する方法で解釈される。本明細書に記載されているものと類似又は同等の任意の方法及び材料を本発明の試験の実施において使用することができるが、好ましい材料及び方法が本明細書に記載されている。
【0030】
「A」、「an」、及び「the」:これらの単数形の用語には、内容が明確に別の方法で示さない限り、複数の指示対象が含まれる。したがって、例えば、「細胞(a cell)」への言及は、2つ以上の細胞の組み合わせ等を含む。
【0031】
「約」及び「およそ」:これらの用語は、量、時間的持続時間、及びそれらに類するものなど、測定可能な値に言及する場合、指定された値から±20%又は±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、なおもより好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味する。そのような変動は開示された方法を実行するのに適切であるためである。
【0032】
「含む、備える」:この用語は、包括的かつオープンエンドであり、排他的ではないと解釈される。具体的には、この用語とその変形は、指定された機能、ステップ、又は構成要素が含まれることを意味する。これらの用語は、他の機能、ステップ、及び構成要素の存在を除外するように解釈されるべきではない。
【0033】
「例示的」:この用語は「例、インスタンス、又は例示として機能する」ことを意味し、本明細書で開示された他の構成を除外するものとして解釈されるべきではない。
【0034】
「マイクロ流体システム」:この用語は、サブピコリットルからサブミリリットル、又はミリリットルの範囲など、少量の液体を収容、流動、処理、又は操作するように構成された装置又は装置の流体構成要素を指す。いくつかの例示的な実施形態では、マイクロ流体チャネルなどのマイクロ流体機構の最大断面寸法は、1mm未満、500ミクロン未満、100ミクロン未満、50ミクロン未満、又は25ミクロン未満であり得る。国際公開公報第2008/079320号、国際公開公報第2013/151616号、国際公開第公報2010/086179号、国際公開公報第2012/120101号などの特許文書を含む、又は、例えば、Mimetas、オランダ、ライデンから市販されているような、多数のマイクロ流体システム、装置、方法、及び製造が知られている(例:OrganoPlate;www.mimetas.com)。これらの出願及び文書から、本明細書に提示された請求項に特定の制限を読み取る必要はないが、これらの文書は有益な背景資料を提供する。
【0035】
装置
電気測定実施装置について記載する。装置は、第一及び第二の表面を有するカセットであって、マイクロタイタープレートと係合するように構成され、マイクロタイタープレートと係合するとき、第一の表面からマイクロタイタープレートの方向に延びる複数の電極を備えるカセットと、カセットの第二の表面に着脱可能に取り付けられたハウジングであって、1つ又は複数の熱管理要素と、電極に電気的に接続されたデータ取得モジュール及びデータ処理モジュールを備えるプロセッサとを備えるハウジングとを備える。
【0036】
他の例では、装置は、第一及び第二の表面を有するカセットであって、マイクロタイタープレートと係合するように構成され、マイクロタイタープレートと係合するとき、第一の表面からマイクロタイタープレートの方向に延びる複数の電極を含むカセットと、カセットと電気的に通信するハウジングであって、電極に電気的に接続されたデータ取得モジュールと、データ処理モジュールとを備えるハウジングとを備える。使用中、電極カセットがマイクロタイタープレートと係合しているとき、ハウジングは電極カセットに隣接し得る。
【0037】
いくつかの例では、装置は、インピーダンス分光法、電位差測定、ボルタンメトリー、又は電流測定用に構成されている。例えば、装置は、経上皮又は経内皮電気抵抗(TEER)を測定するように構成され得る。経上皮又は経内皮電気抵抗は、マイクロタイタープレート内のマイクロ流体ネットワークにおける細胞の層のものであり得る。別の例として、装置は、Ussingチャンバとして使用されるように構成され得る。
【0038】
次に、装置の様々な構成要素について記載する。
【0039】
カセット
一例では、装置のカセットは電極カセットと呼ばれる。カセットは、第一及び第二の表面を有し、複数の電極が第一の表面から延びる。いくつかの例では、カセットの第二の表面は、第一の表面の反対側の表面である。いくつかの例では、カセットの第二の表面は、第一の表面に垂直であり、それに隣接する表面である。
【0040】
カセットは、カセットとマイクロタイタープレートが互いに係合したときに電極がマイクロタイタープレートに向かって延びるように、マイクロタイタープレートと係合するように構成される。複数の電極は、1つ又は複数のサブセットにグループ化されてもよく、各サブセットは、少なくとも2つの電極、例えば少なくとも3つ、例えば少なくとも4つ、例えば少なくとも5つ、例えば少なくとも6つ、例えば少なくとも7つ、例えば少なくとも8つの電極を備える。
【0041】
いくつかの例では、複数の電極及び/又は電極の1つ又は複数のサブセットは、マイクロタイタープレートの少なくとも2つ以上のウェルの構成に対応する所定の構成で配置される。ここで、マイクロタイタープレートは、好ましくは、96のマイクロ流体チップを備え、及びマイクロタイタープレートは、好ましくは、ANSI SLAS規格1~4-2004に準拠する384ウェルプレートである。したがって、電極カセットは、Transwell(登録商標)又はOrganoPlate(登録商標)タイタープレートなどの市販のマイクロタイタープレートと適合可能であるように製造され得る。
【0042】
例えば、電極の構成は、電極の少なくとも1つのサブセットが、マイクロタイタープレートにおいてマイクロ流体的に接続されるウェルの少なくとも1つのサブセットに対応するように構成されるようなものであり得る。
【0043】
電極、すなわち複数の電極は、ウェル内の流体に浸漬されるように、したがって、流体を電気回路に組み込むように構成される。例えば、複数の電極は、カセットから、カセットと係合したマイクロタイタープレートのウェル内に延びるのに十分な長さである。このようにして、電気測定中にウェル内に存在する流体は、電極の任意の所与のサブセットの電気回路を完成させる。
【0044】
いくつかの例では、電極の各サブセットは、少なくとも負荷電極又は作用電極、感知電極、及び基準電極を含む。いくつかの例では、電極の各サブセットは、電気回路で直接接続された2つ以上の電極を含む。2つ以上の電極は、チャネルの有効な電気抵抗を低減するために、マイクロタイタープレートの同じマイクロ流体チャネルの1つ又は複数のウェルに接続され得る。いくつかの例では、電極の前記サブセットの2つ以上は、カセットがマイクロタイタープレートと係合し、流体がマイクロタイタープレートに存在するときに形成される電気回路が、直接接続された電極を横切る同様の電気抵抗を有するように構成される。このようにして、システム全体の見かけの電気的特性に対する電気的特性の局所的な差の位置の影響を最小限に抑えることができる。例えば、電極が両方のマイクロ流体チャネルの近位端のみに接続されている2つのマイクロ流体チャネルを分離する、局所的に破壊された細胞層を横切る抵抗を測定する場合、測定値は、破壊が前記チャネルの近位端にどれだけ近いかに依存する。破壊が電極に近い場合、より多くのマイクロ流体チャネルを少なくとも部分的にバイパスできるため、破壊が電極から離れている場合よりも低い全体抵抗が測定され得る。
【0045】
2つの短絡した電極を細胞層の基底側と接触するマイクロ流体チャネルの近位端と遠位端に対称的に接続する場合、及び2つの短絡した電極を細胞層の先端端と接触するマイクロ流体チャネルの近位端と遠位端に対称的に接続する場合、及びその後細胞層を横切って測定する場合、前記細胞層の任意の局所的破壊の位置は、測定されたパラメータへの減少した影響を有し得る。
【0046】
この効果をさらに説明するために、先端及び基底の両方のマイクロ流体チャネルは、直列に接続された一連の抵抗器と見なすことができる。細胞及び/又は2つのチャネルを分離する細胞間のタイトジャンクションは、先端及び基底のマイクロ流体チャネルを接続する並列抵抗器と見なすことができる。セルが高いバリア機能を示す場合、相関抵抗器は高い抵抗を有すると見なすことができる一方、セル又はジャンクションの局所的な破壊は、前記抵抗器の抵抗の低下と見なすことができる。したがって、抵抗が低下した抵抗器の位置は、対称回路の場合よりも、非対称回路の回路の等価抵抗に大きな影響を与えることを理解することができる。
【0047】
さらなる例では、マイクロ流体チャネルの異なる端部に接続された電極又は電極対は、短絡されないが、前記チャネルの電気的特性を別々に測定するために使用される。最初に細胞と接触しているマイクロ流体チャネルを特徴付け、次に細胞及びマイクロ流体チャネルを含む回路を特徴付けることにより、細胞自体の特徴をよりよく決定することができる。
【0048】
いくつかの例では、複数の電極及び/又は電極の1つ又は複数のサブセットは、マイクロタイタープレートの単一の構成に対応する所定の構成で配置される。他の例では、複数の電極及び/又は電極の1つ又は複数のサブセットは、複数のマイクロタイタープレート構成との適合性を最適化するために所定の構成で配置される。様々なタイタープレート構成との適合性は、複数のプレートレイアウトと適合性のある電極のレイアウトを設計することによって、又は、1つ又は複数の電極の接続を電気的又はその他の方法で切り替えて、タイタープレートの様々な構成に適合させることによって、又はタイタープレートの様々な構成に対して調整するためにカセットの向きをタイタープレートに対して調整することによって達成することができる。
【0049】
いくつかの例では、マイクロタイタープレートに対するカセットの意図された向き及び/又はプロセッサに対するカセットの意図された向きは、意図された向きを示すマーキングによって、及び/又は複数の部品を意図した位置以外の位置で係合することを阻止する幾何学的特徴によって確保される。これらの機能には、非対称の登録ピン、スロット又は類似の特徴、及び/又は非対称の面取りされたコーナを含めることができる。
【0050】
いくつかの例では、2つ以上の電極がマイクロタイタープレートの単一のウェルに浸漬される。この構成により、4点電気測定が可能になり、検知電極の二重層静電容量の影響の排除を含む、電気回路及び/又は試験中の装置(DUT)の電気的特性を改善することができる。この効果は、一方の電極を使用して電流の大部分を流し、他方の電極を検知に使用することで実現することができる。これにより、検知電極の分極が減少し、したがって低周波インピーダンス測定を損なう可能性のある二重層の形成が大幅に回避される。さらに、4点測定により、マイクロ流体チャネル内の局所的な現象、すなわち、限定しないが、温度の変化、中程度のコンダクタンス、電極の位置、及び気泡の存在などの現象の影響が軽減される。これらの非生物学的要因はチャネル抵抗に影響を及ぼし、それによって実際のインピーダンスの読み出しに影響を与え、これはインピーダンススペクトルからTEER値を導き出すことをさらに困難にする。
【0051】
電極の表面積と厚さは、マイクロタイタープレートのウェルの寸法によって制限される。通常、表面積は、中程度のレベルやウェルの内容物に関係なく、抵抗が無視できるようなものである。二重層静電容量の蓄積は、4点測定によって相殺される。
【0052】
いくつかの例では、電極材料は生体適合性材料を含む。例えば、電極材料は、白金、金めっきされた真鍮、金めっきされたステンレス鋼又はステンレス鋼を含み得る。他の例では、電極は、塩化銀電極、イオン選択性電極、又は生体機能化電極のうちの1つ又は複数を含む。いくつかの例では、電極材料は、浸漬することが意図されている溶液の劣化又は付着に対する耐性がある材料を含む。そのような電極材料は、好ましくは、金、白金、又はステンレス鋼などの高貴、不活性、及び/又は耐腐食性である。電極材料がステンレス鋼である場合、それは好ましくはオーステナイト系ステンレス鋼、より好ましくはSAEタイプ316ステンレス鋼、より好ましくはSAEタイプ316F(食品グレード)である。
【0053】
いくつかの例では、電極カセットは、少なくとも80個の電極、より好ましくは少なくとも96個の電極、より好ましくは少なくとも128個の電極、より好ましくは少なくとも248個の電極、より好ましくは少なくとも768個の電極を備える。
【0054】
いくつかの例では、複数の電極は、カセットの第一の表面から実質的に又はほぼ平行な向きで互いに延びる。これは、ありとあらゆる電極が真っ直ぐであり、カセットからカセットの第一の表面に対して直角に延びる必要があると解釈されるべきではないことが理解されよう。代わりに、1つ又は複数の電極は、マイクロタイタープレートの特定の構成の特定のウェルと係合することを可能にするために、特定の形状又は構成を有し得ることが理解される。いくつかの例では、電極のサブセットは、ウェル内の異なる位置又は異なるウェル内への挿入に対応するために、異なる形状又は長さを有する。
【0055】
いくつかの例では、複数の電極は、電子基板、例えばカセット内に収容されたプリント回路基板(PCB)に電気的に接続される。本発明の文脈において、電極に接続されたそのような電子基板は、電極基盤と呼ばれることもある。電極基盤は、それが少なくともハウジングのデータ取得モジュールに電気的に接続されることを可能にする電気コネクタを有し得る。いくつかの例では、電極基盤は、電気回路を形成するために必要な受動電極及び導電性リードのみを備える。他の例では、電極基盤は、おそらくはスイッチ、マルチプレクサ、増幅器、及び/又はフィルタを含むアクティブな電気部品も備える。電極基盤は、ハウジング内の測定電子機器を較正するための較正PCBをさらに備え得る。電極基盤は、シリアル番号及び較正データなどの情報を記憶するチップをさらに備え得る。
【0056】
いくつかの例では、電極カセットは、電極基盤が配置されるケーシングを含む。ケーシングは、実験装置で典型的に使用される任意の材料、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、アクリレートポリマー、ガラス繊維、アルミニウム、ステンレス鋼、又は他のプラスチック又は金属から形成され得る。いくつかの例では、複数の電極を含む電極カセットは、実験室の洗浄技術、製剤、及び機器と適合性がある。例えば、電極カセットは、酸性、塩基性、有機又は無機のクレンジング溶液又は酸化性クレンジング溶液、又は洗剤及び/又は防腐剤溶液と適合性があり得る。電極カセットはさらに、超音波、オートクレーブ、ガンマ線照射による滅菌、電子ビーム照射、イオンビーム照射、UV照射、酸化エチレン滅菌及び/又は(過酸化水素)ガスプラズマ滅菌と適合性があり得る。いくつかの例では、電極基盤は電極カセットから取り外し可能である。他の例では、電極は基盤電極カセット内に固定されている。いくつかの例では、電極基盤及び/又は電極カセットは、使用されるマイクロタイタープレートに応じて交換可能であるため、電極基盤及び/又は電極カセットは(適切な洗浄後に)再利用可能である、及び/又は実験室消耗品と見なすことができる。
【0057】
いくつかの例では、カセットの外形寸法は電極及び/又は電極基盤の外形寸法を超えて延び、いずれかの電極が前記表面に接触することなくカセットを前記表面に配置できることを保証する。さらに、この実施形態は、曲がりくねった経路の無菌性を高めるのに役立つ、すなわち、カセットに取り付けられているマイクロタイタープレートを無菌に保つことがより容易である。これらの条件下でもガス交換は発生し、測定中の細胞の呼吸が可能になる。さらなる例では、カセットの形状は、タイタープレート及び/又はハウジングとのインターフェース中に電極及び/又はコネクタをそれらの意図された位置に案内するのに一役買うようなものである。このような案内動作により、操作中に構成要素が損傷するリスクが最小限に抑えられ、使いやすさが向上する。
【0058】
ハウジングに簡単に着脱できるカセットを有することにより、1つのハウジングで複数のカセットを使用することが可能になる。これは、装置を高スループット環境で使用する場合に有利である。
【0059】
カセットがマイクロタイタープレートと係合すると、組み合わせ全体をハウジングから外すことができる。カセットをマイクロタイタープレートに取り付けたままにしておくと、インキュベータから無菌プレートを取り出し、それを非無菌環境、例えばTEER装置内で使用することが可能になる。マイクロタイタープレートとその内容物は、測定後でさえ無菌のままである。後で測定を行うためにそれをインキュベータに戻すことができる。カセットとマイクロタイタープレートの組み合わせを別の実験室に移すことさえ可能である。
【0060】
構成要素を着脱可能に取り外すことで可能になる別のオプションは、1つのマイクロタイタープレートで異なるカセットを使用することである。それらのカセットは、異なる目的のために異なる電極構成を有し得る、例えば、電流測定、pH測定、及びO2感知のための構成を有し得る。
【0061】
ハウジング
装置のハウジングは、電極カセット、例えば電極カセットの第二の表面に着脱可能に取り付けられるように構成されてもよい。このようにして、ハウジングの表面は、電極カセットの第二の表面に直接接触し得、又は非常に近接し得、これは、装置が小さい設置面積を有し、したがって装置の携帯性を高めることを意味する。この携帯性により、装置はインキュベータでの使用に適するようになり、また実験室のロッカーとの組み合わせに適するようになり、これは高スループット環境で有利である。他の例では、ハウジングは、電気的接続のみによって電極カセットに着脱可能に取り付けられてもよい。このようにして、(電子回路を収容する)ハウジングは、使用中に電極カセットに隣接して配置することができる、又はさらに離して間隔を空けて配置することができる。カセットとハウジングを近接させることにより、寄生静電容量の蓄積が低減され、ノイズが低減される。
【0062】
ハウジングの形状は、単一の向きでのみ電極カセットに取り付けることができるように構成することができる。本発明のいくつかの実施形態では、ハウジングと電極基盤との間の機械的取り付けは、電気コネクタのみによって行われる。他の実施形態では、取り付けられた部品を互いにクランプ、ロック、ねじ留め、又は他の方法で可逆的に固定するための専用機構が提供される。
【0063】
装置のハウジングは、測定を実行するために必要な電子部品を調整及び給電するために、1つ又は複数の電子基板、別名プリント回路基板(PCB)を備え得る。ハウジングは、PCBの1つに配置されたプロセッサ又は処理ユニットをさらに備え得る。前記プロセッサは、電気測定を制御し、データを取得し、データを処理するために、ソフトウェア及び/又はハードウェアを用いて、多くの方法で実装することができる。特定の実装形態では、プロセッサは、それぞれが測定方法の個別又は複数のステップを実行するように構成されているか、又は実行するための複数のソフトウェア及び/又はハードウェアモジュールを備えることができる。プロセッサは、電気入力を制御し、電気測定を実行し、データを処理するように(例えばソフトウェア又はコンピュータプログラムコードを使用して)構成又はプログラムすることができる1つ又は複数のプロセッサ(1つ又は複数のマイクロプロセッサ、1つ又は複数のマルチコアプロセッサ及び/又は1つ又は複数のデジタルシグナルプロセッサ(DSP)など)、1つ又は複数の処理ユニット、及び/又は1つ又は複数のコントローラ(1つ又は複数のマイクロコントローラなど)を備えることができる。プロセッサは、一部の機能を実行する専用ハードウェア(例:増幅器、前置増幅器、アナログ-デジタルコンバータ(ADC)、及び/又はデジタル-アナログコンバータ(DAC))と、他の機能を実行するプロセッサ(例えば:1つ又は複数のプログラムされたマイクロプロセッサ、DSP、及び関連回路)との組み合わせとして実装されてもよい。
【0064】
いくつかの例では、プロセッサは、コントローラを備え、コントローラ及び/又はプロセッサは、電気的活動又は電気的特性を測定するために、電極基盤への電気入力を制御する。いくつかの例では、プロセッサは、電極カセットの電極基盤に電気的に接続されたデータ取得モジュールと、データ処理モジュールとを備える。データ取得モジュールは、電気信号の形態で複数の電極からデータを取得するように構成され、データ処理モジュールは、データ取得モジュールによって取得されたデータを処理するように構成される。
【0065】
いくつかの例では、データ取得モジュールは、好ましくは0.1Hz~100MHzの範囲、より好ましくは1Hz~100MHzの範囲、より好ましくは10Hzから100MHzの範囲、好ましくは10Hzから90MHzの範囲、好ましくは10Hzから80MHzの範囲、好ましくは10Hzから70MHzの範囲、好ましくは範囲10Hzから60MHzの範囲、好ましくは10Hzから50MHzの範囲、好ましくは10Hzから40MHzの範囲、好ましくは10Hzから30MHzの範囲、好ましくは10Hzから20MHzの範囲、好ましくは10Hzから10MHzの範囲でAC周波数掃引を実行するプロセッサに基づいてデータを取得するように構成される。いくつかの例では、周波数掃引の範囲及び/又はデータ収集の周波数は、手動、自動又は反復式に適合可能であり、好ましくは測定されるシステムの特性に最適化される。例えば、これは、最初の測定が全周波数範囲にわたって実行され、その後、その測定が周波数範囲を適合させるために、例えばインピーダンススペクトルのTEER領域にズームインするために使用されることを意味する。これは、本発明による装置及び/又は方法で実行できる高スループット測定における重要な要素である測定速度を高める。AC周波数掃引の適用は、特に高周波数範囲で、特にDC機器を電圧源として使用する電気装置と比較して、交番電界が熱を生成するため、熱管理要素に特別な要件を課すと理解される。
【0066】
いくつかの例では、ハウジングは、メモリを備えてもよく、又はハウジングの外部の(すなわち、ハウジングから分離した、又は離れた)メモリと通信及び/又は接続するように構成されてもよい。メモリは、ランダムアクセスメモリ(RAM)、スタティックRAM(SRAM)、ダイナミックRAM(DRAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、プログラマブルROM(PROM)、消去可能PROM(EPROM)、及び電気的消去可能PROM(EEPROM)などの揮発性及び不揮発性コンピュータメモリを含むキャッシュ又はシステムメモリなど、任意のタイプの非一時的な機械可読媒体を備え得る。いくつかの例では、メモリは、プロセッサに測定プロトコルを実行させるために、ハウジングのプロセッサによって実行され得るプログラムコードを格納するように構成され得る。あるいは、又はさらに、いくつかの例では、メモリは、方法からもたらされた、又は方法で使用される情報を格納するように構成され得る。例えば、いくつかの例では、メモリは、事前設定された電圧及び/又は電流振幅、及びデータ取得のための事前設定された間隔、任意の他の情報、又は測定方法からもたらされる又は測定方法で使用される情報の任意の組み合わせを含む測定プロトコルを格納するように構成され得る。プロセッサは、測定方法からもたらされる、又は測定方法で使用される情報を格納するためにメモリを制御するように構成することができる。
【0067】
いくつかの例では、ハウジングは、ユーザーインターフェースを備えていてもよく、又はハウジングの外部の(すなわち、ハウジングから分離した、又は離れている)ユーザーインターフェースと通信及び/又は接続するように構成されてもよい。ユーザーインターフェースは、測定方法から得られた、又は測定方法で使用された情報をレンダリングする(又は出力、表示、又は提供する)ように構成することができる。例えば、いくつかの例では、ユーザーインターフェースは、インピーダンススペクトル、又はある時点若しくは一連の時点における電圧若しくは電流読み出し、又は任意の他の情報、又は測定方法から得られた、若しくは測定方法で使用された情報の任意の組み合わせのうちの任意の1つ又は複数をレンダリングする(又は出力、表示、又は提供する)ように構成することができる。代替的に又は追加的に、ユーザーインターフェースは、ユーザー入力を受け取るように構成することができる。例えば、ユーザーインターフェースは、ユーザーが情報又は指示を手動で入力し、ハウジングを介して装置と相互作用及び/又は装置を制御することを可能にし得る。したがって、ユーザーインターフェースは、情報を示すこと(又は出力、表示、又は提供すること)を可能にし、代替的又は追加的に、ユーザーがユーザー入力を提供することを可能にする任意のユーザインターフェースであり得る。
【0068】
例えば、ユーザーインターフェースは、1つ又は複数のスイッチ、1つ又は複数のボタン、キーパッド、キーボード、マウス、タッチスクリーン又はアプリ(例えば、タブレット、スマートフォン、又は他の任意のスマートデバイス上の)、ディスプレイ若しくはディスプレイ画面、タッチスクリーンなどのグラフィカルユーザーインターフェイス(GUI)、又は任意のその他のビジュアルコンポーネント、1つ又は複数のスピーカ、1つ又は複数のマイク、又は任意の他のオーディオコンポーネント、1つ又は複数のライト(発光ダイオードLEDライトなど)、触覚又は接触フィードバックを提供するためのコンポーネント(振動機能、又は任意の他の触覚フィードバックコンポーネントなど)、拡張現実デバイス(拡張現実眼鏡又は任意の他の拡張現実デバイスなど)、スマートデバイス(スマートミラー、タブレット、スマートフォン、スマートウォッチ、任意の他のスマートデバイスなど)、あるいは任意の他のユーザーインターフェイス、あるいはユーザーインターフェイスの組み合わせを含み得る。いくつかの例では、情報をレンダリングするように制御されたユーザーインターフェースは、ユーザーがユーザー入力を提供することを可能にするものと同じユーザーインターフェースであり得る。プロセッサは、本明細書に記載の方法で動作するようにユーザーインターフェースを制御するように構成することができる。
【0069】
いくつかの実施形態では、ハウジングは、通信インターフェース(又は通信回路)を備え得る。通信インターフェースは、装置(又はプロセッサ、メモリ、ユーザーインターフェース、及び/又はハウジングのいずれかの他の構成要素などのハウジングのいずれかの構成要素など、装置のいずれかの構成要素)が、他のインターフェース、装置、メモリ、その他など、1つ又は複数の他の構成要素と通信及び/又は接続することを可能にするために存在し得る。通信インターフェースは、装置(又は装置のいずれかの構成要素)が任意の適切な方法で通信及び/又は接続することを可能にし得る。例えば、通信インターフェースは、装置(又はハウジングの中で見出すことができる装置のいずれかの構成要素)が無線で、有線接続を介して、又は任意の他の通信(又はデータ転送)機構を介して通信及び/又は接続することを可能にし得る。いくつかの無線実施形態では、例えば、通信インターフェースは、装置(又はハウジングの中で見出すことができる装置のいずれかの構成要素)が無線周波数(RF)、ブルートゥース、又は他の任意の無線通信技術を使用して通信及び/又は接続することを可能にし得る。
【0070】
装置、特にハウジングは、装置に電力を供給するためのバッテリ又は他の電源、又は装置を壁コンセント電源に接続するための手段を備え得る。装置は、本明細書に記載されたものに対する他の任意の構成要素、又は構成要素の任意の組み合わせを備え得ることも理解されるであろう。
【0071】
いくつかの例では、1つ又は複数の熱管理要素は、ハウジングとカセットの間の絶縁層又はスペーサなど、ハウジングからカセットを熱的に分離する要素を備える。例えば、1つ又は複数の熱管理要素は、熱をカセットから遠ざけるための受動的又は能動的熱導管を含み得、1つ又は複数の熱管理要素は、ヒートシンクなどの放射表面、冷却フィン、液体冷却、ペルチェモジュール、エアダクト、又は装置内若しくは装置周辺の空気の流れを改善するファン、あるいはそれらの任意の組み合わせのうちの1つ又は複数を備える。カセットからハウジングへの、又はハウジングからカセットへの熱伝達の管理又は最小化は、装置の効率を大幅に改善し、その寿命を延ばす。熱伝達の管理はまた、マイクロタイタープレート内の細胞培養で測定を行う場合に重要である。これは、細胞の生存率と挙動が、培養される温度の値と安定性に強く依存するためである。
【0072】
いくつかの例では、ハウジングとカセットとの間にスペーサを含めることなどにより、ハウジングとカセットとの間の距離を増大させることにより、ハウジングからカセットへの熱伝達が最小化される。いくつかの例では、この距離は、カセットとハウジングの間に空気流を課すことにより、熱管理をさらに改善するために使用される。さらに、いくつかの例では、熱をカセットから遠ざけるために対流が使用される。いくつかの例では、ハウジングの外に熱を運ぶために、空気流がハウジングを通して課される。いくつかの例では、これは、ハウジング内に空気を押し込むファンをハウジング内に配置し、暖かい空気がハウジングから出るための導管を提供することによって達成することができる。このようなファンは、上面、底面、又は側面に配置することができる。排気導管は、ハウジングの任意の表面、好ましくはマイクロタイタープレートとは反対の方を向く表面、より好ましくは他の物体が配置されそうにない方を向く表面から空気を排出し、潜在的に交差汚染のリスクを低減するように構成することができる。
【0073】
いくつかの例では、装置の異なる構成要素の材料は、カセットから離れる伝導による熱伝達を改善する一方でカセットに向かう伝導を制限するように選択される。前記材料は、カセットとハウジングとの間の低い熱伝導率を有する材料、及び/又はカセットの反対側に面するハウジングの側で高い熱伝導率を有する材料を含み得る。
【0074】
熱管理要素としてヒートシンクを使用する場合、又は金属を含む別の受動熱管理要素を使用する場合、ヒートシンクを接地して、測定を妨害する電気ノイズを防止し、寄生静電容量の蓄積を防止することができる。
【0075】
さらなる例では、熱管理要素の組み合わせが装置に組み込まれる。特定の実施形態では、受動ヒートシンクがファンと組み合わされて、前記ヒートシンクによって放出される熱放射を強制的に排除する。この実施形態では、ヒートシンクは、プロセッサを含む電子基板の上面にあり、ファンは、ヒートシンクの上面にある。ここで上面とは、カセットとは反対側を向いている表面を意味し、したがって、それぞれ伝導と強制対流によって誘導された熱を電極カセットから逃がす。
【0076】
本装置のさらなる実施形態では、ハウジングは2つのPCBを含む。これにより、カセットに関して、高温の構成要素、すなわち最大の熱を発生する構成要素が上部PCBに配置されるように、電子構成要素を分散することが可能になる。上部PCBは、カセットとハウジングが着脱可能に取り付けられている場合に、カセットから最も遠いPCBである。結果として、中央のPCB、すなわちカセットに最も近いPCBは、使用する電力がより少ないため、発熱がより少なく、それにより電極カセット付近の熱対流又は熱伝導が最小限に抑えられる。この特定の実施形態では、装置は3つのPCBを備える。1つはカセットの電極基盤であり、他の2つはハウジングに含まれている。中間PCBと上部PCBとの間の熱伝達は、両PCB間に絶縁層、例えばプラスチック層を配置することで最小限に抑えられる。
【0077】
当業者は上述の熱管理要素及び対策のあらゆる有用な組み合わせを都合よく作ることに留意されたい。
【0078】
いくつかの例では、装置は、マイクロタイタープレートを受け入れ、カセット及び/又はハウジングと着脱可能に係合するように構成された基部をさらに含み得る。基部は、マイクロタイタープレートを受け入れ、カセットがない場合でもそれをしっかりと保持するように構成することができる。
【0079】
いくつかの例では、装置は、以下のうちの1つ又は複数を確実にするためにクランプ機構をさらに含み得る:カセットのハウジングへの迅速、正確かつ反復可能な位置決め;マイクロタイタープレートのウェル内での電極の迅速、正確かつ反復可能な位置決め;カセット及び/又はハウジングの基部への迅速、正確かつ反復可能な位置決め;マイクロタイタープレートの基部への迅速、正確かつ反復可能な位置決め。装置のいくつかの構成要素の迅速、正確かつ反復可能な接続及び切離しの可能性は、高スループットスクリーニング環境での装置の使用をさらに容易にする。
【0080】
いくつかの例において、装置の総設置面積は、タイタープレートの設置面積の2倍未満、好ましくはマイクロタイタープレートの設置面積の1.5倍未満であり、それにより、装置に係合している間、マイクロタイタープレートと外部機器との相互作用を可能にする。
【0081】
マイクロ流体装置で培養された細胞のバリア機能を測定するためのin vitro法
第2の態様によれば、マイクロ流体装置内で培養された細胞の電気的特性を測定するためのin vitro法が提供され、この方法は以下のステップを含む:
a.複数のマイクロ流体チャネルを備えるマイクロ流体装置を提供するステップであって、マイクロ流体チャネルの少なくとも1つは、少なくとも部分的にゲルで満たされ、及び、マイクロ流体チャネルの少なくとも1つは、先端側及び基底外側を有するゲル上の又はゲルに対する層として細胞を備え、好ましくは、細胞の層は、マイクロ流体チャネル内で先端側及び基底外側を有する管状構造を有する、提供するステップ、
b.マイクロ流体チャネルに、先端側と接触している流体と接続する少なくとも1つの電極と、基底外側と接触している流体と接続する少なくとも1つの電極とを提供するステップ、したがって、マイクロ流体チャネルを電気回路に組み込むステップ、
c.インピーダンススペクトル、電圧又は電流を測定するステップ。
【0082】
いくつかの例では、マイクロ流体装置はマイクロタイタープレートである。多数のマイクロ流体システム、装置、製造方法、並びにそのような装置をゲルで部分的に満たし、細胞を培養して、先端側及び基底外側を有するゲル上の又はゲルに対する管状細胞構造を形成する方法が知られている。そのような刊行物の例には、国際公開公報第2008/079320号、国際公開公報第2010/086179号、国際公開公報第2012/120101号、国際公開公報第2012/120102号、国際公開第2013/151616号、国際公開公報第2017/007325号、国際公開公報第2017/155399号、国際公開公報第2017/216113号が含まれ、タイタープレートは例えばMimetas,オランダ、ライデンから市販されている(例:OrganoPlate(登録商標);www.mimetas.com)。これらの出願及び文書から、本明細書に提示された請求項に特定の制限を読み取る必要はないが、これらの文書は、少なくとも1つのマイクロ流体チャネルがゲルで部分的に満たされ、先端側及び基底外側を有するゲル上の又はゲルに対する層として細胞を備えるマイクロ流体装置の提供に関する有益な技術情報を提供する。
【0083】
いくつかの例では、マイクロ流体装置は、少なくとも40個のチャネルネットワーク、より好ましくは64個のチャネルネットワーク、より好ましくは96個のネットワークを備える。マイクロ流体装置の各チャネルネットワークは、少なくとも1つのマイクロ流体チャネル、例えば互いに流体連通している少なくとも2つのマイクロ流体チャネル、例えば少なくとも3つ、例えば互いに流体連通している少なくとも4つのマイクロ流体チャネルを有し得ることが理解される。上記の刊行物に記載されているように、各ネットワークのマイクロ流体チャネルは、柱、隆起、溝、疎水性パッチ、又は圧倒的により親水性の高いチャネルにおけるより親水性の低いパッチなどの毛細管圧技術によって分離されると好ましい。
【0084】
いくつかの例において、ゲルは、基底膜抽出物、細胞外マトリックス成分、コラーゲン、コラーゲンI、コラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、D-リジン、エンタクチン、ヘパラン硫化物プロテオグリカン又はそれらの組み合わせである。いくつかの例では、ゲルは細胞層と直接接触しており、2つを分離する膜はない。このようなシステムは、上記のようなマイクロ流体システムにおける位相ガイド又は毛細管圧バリアの使用によって可能になる。例えば、ゲルは、そのような毛細管圧技術の使用により、マイクロ流体チャネル内で構造化され得る。このようにして、そのような毛細管圧バリアによって分離されたレーン又はマイクロ流体チャネルを備えたマルチレーンマイクロ流体ネットワークにおいて、ゲルを1つのチャネルに導入し、固化させることができる。ゲルが少なくとも部分的に固化されたら、細胞を1つ又は複数の隣接するレーンに導入し、ゲルと接触する層を形成させることができる。いくつかの例では、細胞は内皮細胞又は上皮細胞である。いくつかの例では、1つ又は複数の追加の細胞種が細胞と共培養される。
【0085】
マイクロ流体ネットワーク及びその中のパターン化されたゲルの特定の構成を有するマイクロ流体装置、及びマイクロ流体チャネルから液体を導入又は抽出するためのウェルを使用することにより、少なくとも1つの電極が細胞層の先端側と接触するマイクロ流体チャネルに含まれる流体と接触するようにマイクロ流体チャネルに電極、例えば、微小電極を選択的かつ正確に導入する一方で、少なくとも1つの電極が細胞層の基底外側と接触するマイクロ流体チャネルに含まれる流体と接触するように少なくとも1つの電極をマイクロ流体チャネルに同時に導入することが可能である。このようにして、マイクロ流体チャネルとその内容物、具体的にはゲル、細胞の層、及び細胞の先端側と基底外側でマイクロ流体チャネル内に存在する流体は、電気回路の一部になる。次に、電極を、例えば本明細書に記載の装置の一部としての電源及びデータ取得手段へ接続することにより、マイクロ流体ネットワークの電気的活動、特に細胞の層を横切る電気的活動の測定が可能になる。
【0086】
いくつかの例では、電気的活動を測定すること、又は電気的特性を測定することは、細胞の層を含む電気回路のインピーダンススペクトル、電圧又は電流を測定することを含む。例えば、電気的活動を測定することは、インピーダンス分光法、電位差測定、ボルタンメトリー又は電流測定のための測定を行うことを含み得る。一例では、方法は、マイクロタイタープレート内のマイクロ流体ネットワーク内の細胞層の経上皮又は経内皮電気抵抗(TEER)を測定することを含み得る。細胞層のインピーダンス、又は経上皮若しくは経内皮電気抵抗を測定するための方法及びプロトコルは、例えば、国際公開公報第2004/010103号、国際公開公報第2005/098423号及びvan der Helmら、Biosensors and Bioelectronics 85(2016)924-929に記載されているように当技術分野で知られている。
【0087】
いくつかの例では、測定中に、マイクロ流体チャネルの少なくともサブセットを介して流れが誘導される。測定中に流れを誘導することにより、マイクロ流体チャネルを介した媒体又は試験溶液の輸送が容易になる。いくつかの例において、流れは、液体レベリングによって、好ましくは、指定された角度及び指定された時間枠の下でマイクロ流体装置を可逆的に傾けることによって誘導される。例えば、マイクロ流体装置は、4~9°、好ましくは5~7°の角度で傾けることができる。逆傾斜の期間は1分程度と短い場合があるが、典型的には5~15分である。
【0088】
いくつかの例において、複数の細胞層及び/又はマイクロ流体チャネルは、同じマイクロ流体ネットワークの一部であり、前記複数の細胞層を横切って測定されるインピーダンススペクトル、電圧又は電流は、単一の、連続した又は並行する測定で生じる。
【0089】
いくつかの例では、複数のマイクロ流体チャネルにおける測定の全て又は一部は並行して行われる。いくつかの例では、測定は細胞層のバリア機能を経時的に監視するために複数回実行される。いくつかの例では、電気的特性は急な変化を監視するために短時間、例えば、数秒、数分、又は数時間にわたって監視し、秒未満、数秒、数分、又は数時間の間隔で測定を実行することができる。他の例では、電気的特性はゆっくりとした又は遅延した変化を監視するために長期間、例えば数日、数週間、又は数か月にわたって監視し、数時間、数日、数週間、又は数ヶ月の間隔で測定を実行することができる。
【0090】
いくつかの例では、培養細胞を、測定前又は測定中に1種又は複数種の化合物又は他の刺激に曝して、バリア機能に対する前記刺激の効果を観察する。1種又は複数種の化合物、又は薬物候補化合物であり得る他の刺激は、ゲルに接触する細胞の層に隣接するマイクロチャネル又はその一部へのマイクロ流体ネットワークの入口を介して培養細胞に導入することができる。
【0091】
いくつかの例では、電気測定は、他の測定、例えば画像化及び(生)化学分析と併せて行われる。
【0092】
いくつかの例では、他の測定又は実験が実行される前に、試験下のシステムを特徴付けるために測定が実行される。そのような例では、測定は、品質管理レジーム又は前記システムに強く影響を与えることなく電気的特性を測定することを必要とするいずれかの他の設定の一部であり得る。これらの測定は、非侵襲的、最小侵襲性、非破壊的、最小破壊的、又は非破滅的測定と呼ばれることもある。
【0093】
いくつかの例では、方法は、本明細書に記載されるような装置を使用して実行される。
【0094】
装置洗浄方法
いくつかの例では、本明細書に記載されるような装置を洗浄するための方法が提供され、この方法は以下のステップを含む:
(a)電極を受け入れるウェルを備える洗浄プレートとカセットを係合するステップであって、ウェルは電極が浸漬される洗浄液を備える、係合するステップ、
(b)洗浄液により電極から蓄積した物質を除去するステップ、
(c)任意選択的に、洗浄中に、電気的、熱的、機械的、又は音響的作動などの能動的な作動を提供するステップ。
ここで、洗浄液は、好ましくは、酸、塩基、酸化剤、還元剤、有機溶剤、洗剤又は消毒剤のうちの1つ又は複数を含む。
【0095】
部品のキットは、電気的、熱的、機械的、又は音響的作動など、洗浄中に作動を提供するアクチュエータモジュールをさらに備え得る。
【0096】
適切な酸洗浄液は、酢酸、硫酸、硝酸の1つ又は複数を含む溶液であり、適切な塩基洗浄液は、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを含み、適切な酸化剤洗浄液は、過酸化水素又は次亜塩素酸ナトリウム(漂白剤)などの1つ又は複数の過酸化物を含む。洗浄に使用する適切な有機溶剤は、少なくとも70重量%のエタノール、アセトン、及びイソプロピルアルコールを含むエタノール/水溶液である。適切な洗剤は、普通の食器用洗剤、TWEEN及びTriton-Xである。適切な消毒剤はクロルヘキシジンである。
【0097】
装置較正方法
いくつかの例では、本明細書に記載されるような装置を較正するための方法が提供され、この方法は以下のステップを含む;
(a)電極がキャリブレーション溶液及び/又は電気回路を含む参照システムと接触するように、カセットをキャリブレーションプレートと係合させるステップ、
(b)電極の電気的特性を決定し、前記特性を参照値と比較するステップ、
(c)測定された特性に従ってオフセット値を適用する、又は装置の目盛りを修正するステップ、
(d)任意選択に、本明細書に記載の方法に従って電極を洗浄するステップ。
【0098】
任意選択的に、カセット内の電極基盤は、ハウジング内の電子機器を較正するための指定された較正PCBを備える。
【0099】
部品のキット
いくつかの例では、本明細書に記載の装置の複数の電極と係合することができるウェルを備える洗浄プレートと、洗浄液を含む1つ又は複数のバイアルとを備える部品のキットが提供され、洗浄液は好ましくは酸、塩基、酸化剤、還元剤、有機溶剤、消毒剤又は洗剤の1つ又は複数を含む。
【0100】
図面の詳細な説明
【0101】
図1は、本開示による装置100を示す。装置100は、複数の電極118を備える電極カセット102を備え、複数の電極118は電極カセット102の下面から延びる。装置100は、電極カセット102に着脱可能に取り付けられるように構成されたハウジング104をさらに備える。ハウジング104は、電極カセット102及びハウジング104と環境との間の熱伝達を管理するための熱管理要素114を含み、さらに、プロセッサ又は処理ユニットを備える。この目的のために、熱管理要素114は金属、例えばアルミニウムで作られ、空気の流れを可能にするエアダクトが装備されている。図には示されていないが、ハウジング104はまた、空気の循環を可能にするために、ファンの形態の熱管理要素114を備える。ハウジングは、本明細書に記載のデータ取得モジュール及びデータ処理モジュールを備えるプロセッサモジュール116をさらに備える。
【0102】
図1はまた、電極カセット102及び/又はハウジング104と着脱可能に係合するように構成され得る、任意選択の基部106を示す。同じく図1に示されているのは、任意選択の基部106によって受容されて収容されるマイクロタイタープレート108であり、それと電極カセットは係合するように構成されている。前述のように、電極カセット102はマイクロタイタープレート108と簡単なプッシュフィット又は他のクランプ機構で確実に係合するため、基部106は本装置の機能に必須ではなく、電気測定はその不在下で行うことができる。
【0103】
同じく図1に示されているのは、電気測定中に得られたデータを外部装置、例えばディスプレイユニットに送信及び受信するための電気/データ接続ポート110である。図1はまた、ハウジング104を少なくとも電極カセット102に固定するためのばね式ねじ機構の形態のクランプ機構112を示している。
【0104】
図2は、マイクロ流体ネットワーク全体の電気的活動を測定するための6つの電極対を含む例示的なマイクロ流体ネットワーク200を示す。このようなセットアップは、例えば、本明細書に記載の方法に従ってマイクロ流体装置内で培養された細胞の経上皮電気抵抗を測定することにより、バリア機能の測定を可能にし、本明細書に記載の装置を使用して実現することができる。
【0105】
マイクロタイタープレートに存在し得るマイクロ流体ネットワーク200では、3つのレーン又はマイクロ流体チャネルが存在する(202、204、206)。各マイクロ流体チャネルの一端に入口を見ることができ、対応する出口が各マイクロ流体チャネルの他端にある。マイクロ流体チャネルの入口及び出口は、マイクロタイタープレートのウェル輪郭216に対応する。2つのマイクロ流体チャネル間の境界は、先に記載したように、毛細管圧バリアによって定められる(図示せず)。
【0106】
例えば、3つ全てのマイクロ流体チャネル又はレーンが集まるマイクロ流体ネットワークの中央セクションでは、2つのマイクロ流体チャネル間の接触領域に毛細管圧バリアが存在する。結果として、ゲル前駆体溶液をマイクロ流体チャネル204に導入することができる。次いで、ゲル前駆体溶液は、チャネル202との交差部での毛細管圧バリアによって、及びチャネル206との交差部での第2の毛細管圧バリアによって固定される。ゲル前駆体溶液のゲル化後、細胞、例えば上皮細胞を含む培地をレーン202及び/又は206に導入することができ、これによりレーン204に存在するゲル上での細胞の層の成長が可能になる。先端側及び基底外側を有する細胞の層が確立されると、電極をマイクロ流体ネットワーク200に導入することができる。
【0107】
図2では、6つの電極対がマイクロ流体ネットワーク200に導入され、具体的にはレーン又はチャネル202及び206の各入口/出口を横切る基準電極208及び対電極210である。この図に示される実施形態では、電極は全て、マイクロタイタープレートの頂部から、例えば前述のような電極カセットを介して導入される。
【0108】
図2に示される構成における基準電極208及び対電極210の使用は、チャネルの有効な電気抵抗を低減し、結果として生じる場の均一性を最適化する。測定セットアップを完了するのは、ゲル及び上皮細胞の層を含むマイクロ流体チャネル又はレーン204の入口及び出口に導入された作用電極212及び作用感知電極214である。図示された電極のそれぞれは、電極基盤に独立して電気的に接続され得、さらに、前述のような、電極への電力供給を制御し、データ取得及び取得されたデータの処理を制御するように構成されるプロセッサに接続され得ることが理解される。
【0109】
図2と同様に、図3は、マイクロ流体ネットワーク300を示し、ここで、対電極302、基準電極304、作用電極306及び感知電極308が、示される構成での測定に使用される。
【0110】
図2及び3の構成は例示的な例に過ぎず、異なる数のマイクロ流体チャネルが使用され得、電極又は電極対の数は電気測定の性質に応じて異なり得ることが理解される。
【0111】
図4は、本発明による装置の概略断面図を示し、装置は測定モードにある。ハウジング104と着脱可能に係合されている電極カセット102は、単一のマイクロ流体チャネル122が示されているマイクロタイタープレート108に着脱可能に係合されている。電極118は、マイクロ流体チャネルのウェル内部の培地120に浸漬される。電極を培地に浸漬することにより、電気回路が閉じられる。
【0112】
図5は、対称測定構成500及び非対称測定構成508の2つの可能な測定構成を示す。対称構成500は、マイクロ流体チップのマイクロ流体チャネル502の入口及び出口ウェル(図示せず)に配置された4対の測定電極(図示せず)を使用する。非対称構成508は、マイクロ流体チップの片側、例えばこの図の左側のウェルに配置された2対の電極を使用する。層を形成する細胞506及び抵抗510がさらに示されている。細胞506の層に平行に走るチャネル502の抵抗又は抵抗器510は、一連の直列接続された抵抗器510と見なすことができる。2つのチャネル502を分離する細胞506及び/又は細胞間のタイトジャンクションは、並列抵抗器510と見なすことができる。この対称構成は、システム全体の見かけの電気的特性に対する電気的特性の局所的な差異の位置の影響を最小化又は排除するため、好ましい構成である。例えば、電極が両方のマイクロ流体チャネル502の近位端のみに接続された2つのマイクロ流体チャネル502を分離する局所的に破壊された細胞層全体の抵抗510を測定する場合、測定値は、破壊が前記チャネルの近位端にどれだけ近いかに依存する。破壊が電極に近い場合、より多くのマイクロ流体チャネルを少なくとも部分的にバイパスできるため、破壊が電極から離れている場合よりも低い全体抵抗が測定される。対称構成と非対称構成との間の違いは、マイクロ流体チャネル502を通る電流504の流れを示すことによって例示され得る。
【0113】
図6~8について以下の例で考察する。
【実施例
【0114】
0日目:コラーゲン-1ゲルを2レーンOrganoplateのチャネルの1つ(ゲルチャネル)に注入した。ゲルの硬化後、培地中のCaco-2細胞(Sigma、ヒト結腸癌細胞)を他のチャネル(灌流チャネル)に播種し、増殖させた。培地は毎日更新した。4日以内に、先端側(灌流チャネル)と基底外側(ゲルチャネル)を有する細管が形成された。このプロトコルに従って、フェーズガイドによって分離されたゲルチャネルと灌流チャネルを含む40チップにCaco-2細胞を播種した。これは、40の細管が単一の2レーンOrganoplateで同時に成長されることを意味する。このシステムで細胞を培養する方法は、Trietschらによって記載された方法と似ている(Nature Communications、第8巻、記事番号:262(2017)、doi:10.1038/s41467-017-00259-3)。
【0115】
TEER測定を1~11日目に毎日行った。この目的のために、金メッキされた電極をゲル及び灌流チャネルのアクセスウェルに挿入した。チップあたり5~10秒の間、対数的に10Hz~1MHzの範囲の周波数でインピーダンススペクトルが記録された。
【0116】
図6は、Caco-2細管の典型的なインピーダンススペクトルを示している。図に示すように、このスペクトルから、任意選択的にデータを理論モデルに適合させることにより、TEER値を導出することができる。
【0117】
図7は、Caco-2細胞のバリア抵抗の経時変化を示している。TEER値は、取得したインピーダンススペクトルから抽出した。TEERが高いほど、バリア機能が高くなる。
【0118】
5日目に、40個のCaco-2細管を様々な濃度のスタウロスポリン(Sigma、S4400)に12時間曝露した。図8は、様々な濃度のスタウロスポリンへ曝露する間のTEERの経時変化を示す。見てわかるように、TEER値には濃度に依存する影響がある。47nMの濃度でも、TEERへの影響を観察することができる。これは、蛍光顕微鏡を使用した拡散ベースの手法で検出できるものよりもはるかに低い。
【0119】
上の記載は、本発明を実施する方法を当業者に教示する目的のためであり、記載を読むと明らかになるであろう全てのそれらの修正及び変形を詳述することは意図されていない。しかしながら、そのような全ての修正及び変形は、以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれることが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8