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▶ アビオメド オイローパ ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】血管内血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/825 20210101AFI20240628BHJP
   A61M 60/81 20210101ALI20240628BHJP
   A61M 60/135 20210101ALI20240628BHJP
   A61M 60/216 20210101ALI20240628BHJP
   A61M 60/237 20210101ALI20240628BHJP
   A61M 60/414 20210101ALI20240628BHJP
   A61M 60/422 20210101ALI20240628BHJP
   A61M 60/829 20210101ALI20240628BHJP
【FI】
A61M60/825
A61M60/81
A61M60/135
A61M60/216
A61M60/237
A61M60/414
A61M60/422
A61M60/829
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020551354
(86)(22)【出願日】2019-03-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2019057168
(87)【国際公開番号】W WO2019180181
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】18163763.8
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キルヒホッフ フランク
(72)【発明者】
【氏名】ジース トルステン
(72)【発明者】
【氏名】ケルクホフス ヴォルフガング
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-508678(JP,A)
【文献】特開平06-010886(JP,A)
【文献】特表2001-500589(JP,A)
【文献】特開昭63-295893(JP,A)
【文献】国際公開第2017/021465(WO,A1)
【文献】米国特許第06254359(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0102834(US,A1)
【文献】米国特許第05713730(US,A)
【文献】米国特許第05613935(US,A)
【文献】米国特許第05911685(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00-1/38;60/00-60/90
F04D 1/00-13/16;17/00-19/02;21/00-25/16;29/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
羽根車(34)を担持する回転可能なシャフト(25)と、開口部(35)を有するハウジング(20)と、を備える、血管内血液ポンプであって、前記シャフト(25)は前記羽根車(34)が前記ハウジングの外部に位置付けられるように前記開口部(35)を通って延在し、前記シャフトおよび前記ハウジングは前記開口部(35)内に周方向の間隙を形成する表面(25A、33A)を有し、前記間隙はある長さおよび前記長さの少なくとも一部にわたる2μm以下の幅を有し、前記間隙を形成している前記表面(25A、33A)の少なくとも一方(33A)は少なくとも100W/mKの熱伝導率を有する材料で作製されることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の血管内血液ポンプであって、前記熱伝導率は少なくとも130W/mKであることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載の血管内血液ポンプであって、前記熱伝導率は少なくとも150W/mKであることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載の血管内血液ポンプであって、前記熱伝導率は少なくとも200W/mKであることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記間隙を形成する前記表面は前記シャフト用のラジアル滑り軸受を構成することを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記間隙を形成する前記表面(25A、33A)の前記少なくとも一方(33A)は、全体が前記材料で作製されており、かつ前記血管内血液ポンプが患者の血管内で使用されているときに、流れる血液と直接接触している、構造要素(33)の一部となっていることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記間隙を形成する前記表面(25A、33A)の前記少なくとも一方(33A)は、全体が前記材料で作製されており、かつ少なくとも1つの更なる表面が熱を伝導するように熱伝導性要素(33B)に接続されている、構造要素(33)の一部となっており、前記熱伝導性要素(33B)は、前記血管内血液ポンプが患者の血管内で動作しているときに、流れる血液と直接接触しているかまたは1つ以上の更なる熱伝導性要素を介して流れる血液と間接的に熱伝導性の接触をしているかのいずれかであり、この結果、前記間隙を形成する前記表面(25A、33A)の前記少なくとも一方(33A)からの熱を熱伝導によって前記流れる血液へと放散できるようになっており、前記1つの熱伝導性要素(33B)またはそれ以上の熱伝導性要素の熱伝導率は少なくとも100W/mKであることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記間隙を形成している前記表面(25A、33A)の各々は0.1μm以下の表面粗さを有することを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記少なくとも一方の表面(33A)はセラミック材料で作製されることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記少なくとも一方の表面(33A)は、前記シャフト(25)を中でジャーナル軸支できるセラミックスリーブ(33)の一部となっていることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記シャフト(25)は、前記間隙を形成している前記シャフトの前記表面(25A)を含め、セラミック材料で作製されることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項12】
請求項11に記載の血管内血液ポンプであって、前記間隙を形成している前記シャフトの前記表面(25A)はアルミナ強化ジルコニア(ATZ)で作製されることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記少なくとも一方の表面(33A)は炭化ケイ素(SiC)を含む、血管内血液ポンプ。
【請求項14】
請求項13に記載の血管内血液ポンプであって、前記少なくとも一方の表面(25A、33A)の一方(33A)は炭化ケイ素(SiC)を含み、前記少なくとも一方の表面(25A、33A)のもう一方(25A)はアルミナ強化ジルコニア(ATZ)を含む、血管内血液ポンプ。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記開口部(35)を通って前記ハウジングから出るようパージ流体を前記ハウジング内へと案内するように構成されている、前記ハウジングに接続されているパージ流体供給導管(29)を更に含む、血管内血液ポンプ。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記間隙(39)は前記間隙(39)の羽根車側端部(39A)に向かって収束し、前記2μm以下の幅は、前記間隙(39)の前記羽根車側端部(39A)に最も近い前記間隙(39)の前記長さの50%以内の任意の場所に位置していることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項17】
請求項16に記載の血管内血液ポンプであって、前記2μm以下の幅は前記間隙(39)の前記羽根車側端部(39A)に存在することを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項18】
請求項16または17に記載の血管内血液ポンプであって、前記2μm以下の幅は前記間隙(39)の前記長さの30%以下にわたって延在する、血管内血液ポンプ。
【請求項19】
請求項16から18のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記開口部(35)の直径が前記間隙(39)の前記羽根車側端部(39A)に向かって収束することを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項20】
請求項16から19のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記シャフト(25)の外径部が前記間隙(39)の前記羽根車側端部(39A)に向かって拡開していることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項21】
請求項20に記載の血管内血液ポンプであって、前記シャフト(25)の前記外径部は、前記間隙(39)の前記羽根車側端部(39A)の反対側の前記間隙(39)の端部を越えて延びている周方向の溝を有することを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項22】
請求項20に記載の血管内血液ポンプであって、前記シャフト(25)の前記外径部は、前記間隙(39)の前記羽根車側端部(39A)の反対側の前記間隙(39)の端部を越えて延びている一定径のシャフトセクションから、前記間隙(39)内で最大外径まで拡開していることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項23】
請求項16から22のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記間隙(39)の最大幅は15μm以下であることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項24】
請求項23に記載の血管内血液ポンプであって、前記間隙(39)の最大幅は6μm以下であることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項25】
請求項1から24のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプであって、前記間隙(39)の前記長さは1から2mmまでの範囲内にあることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【請求項26】
請求項25に記載の血管内血液ポンプであって、前記間隙(39)の前記長さは1.3から1.7mmまでの範囲内にあることを特徴とする、血管内血液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体または任意選択的に動物体の血液循環補助用の血管内血液ポンプ、特に、経皮挿入可能な血液ポンプに関する。例えば、血液ポンプは、経皮的に大腿動脈へと挿入され、体の血管系内を案内されて、例えば心臓内でポンプ作用を補助または肩代わりするように、設計され得る。
【背景技術】
【0002】
上述したタイプの血液ポンプは例えば、駆動セクションと、駆動セクションの近位端(これは駆動セクションの、医師または駆動セクションの「後端部」に近い方の端部である)に取り付けられており、かつ中に駆動セクションへの電力供給用の導線が延在する血液ポンプとして、カテーテルと、駆動セクションの遠位端に固止されたポンプセクションと、を有する、欧州特許第0961621B1号から知られている。駆動セクションは中に電動モータが配設されているモータハウジングを備え、電動モータのモータシャフトは駆動セクションから外へと遠位方向に、ポンプセクション内へと突出している。そしてポンプセクションは管状のポンプハウジングを備え、その中に、モータハウジングから外に突出しているモータシャフトの端部に据え付けられた、回転する羽根車を有している。モータシャフトは、ポンプハウジング内で羽根車を正確に中心に案内するために、モータハウジング内で互いから最大限に引き離された2つの軸受内に支持されている。モータハウジングの近位端の軸受にはラジアルボールベアリングが使用されているが、血液に最も近い軸受である羽根車側の軸受は、硬度が高く摩擦係数が低いポリテトラフルオロエチレンで作製された、血液に対するシャフト封止部として構成されており、軸受を提供すると同時にそのような遠位の軸受を通って血液がモータハウジング内に浸入するのを防止するようになっている。モータハウジングへの血液の浸入は、モータハウジングおよび羽根車側のシャフト封止軸受にパージ流体を通過させることによって更に緩和される。このことは、血液に存在する圧力よりも高いパージ流体圧によって実現される。
【0003】
上述した血液ポンプの改善形態が、米国特許公開第2015/0051436A1号に開示されており、本明細書に添付した図2に示されている。ここでは、モータハウジングの遠位端にある羽根車側の軸受は、アキシャル滑り軸受およびラジアル滑り軸受、または組み合わされたアキシャル-ラジアル滑り軸受を備え、ラジアル滑り軸受によって上述したシャフト封止軸受が置き換えられている。したがって、パージ流体は、血液がハウジング内に浸入するのを防止するように、羽根車側のラジアル滑り軸受の間隙を通過する。
【0004】
本発明は、モータが上記ハウジング内に収容されている上述したタイプの血管内血液ポンプの文脈で説明され、好ましくは使用されるが、本発明は、モータが患者の体の外部にあり、羽根車用の回転エネルギーが、カテーテルと可撓性の高い回転駆動ケーブルによってカテーテルの遠位端に取り付けられた上記ハウジングとを介して伝達される、他のタイプの血管内血液ポンプにおいても、同じく有利に適用可能である。またこのタイプの血管内血液ポンプでは、パージ流体は通常、中に駆動シャフトが延在する開口部を通して、患者の血液中に通される。
【0005】
パージ流体に混合されるのが通常であるヘパリンに関して、一般的な問題が生じる。すなわち、パージ流体がシャフトとハウジングの開口部の間に形成された間隙を通って流れ、このことにより、そのような間隙を通ってハウジング内に浸入する傾向のある血液が押し戻されるものの、間隙内への血液の浸入を完全に防止することはできない。特に、そのような間隙の少なくとも遠位セクション内に、ある程度の血液が浸入する可能性が、常にある。ヘパリンは間隙内での血液の凝固または表面への血液の付着の防止を助け、この結果、シャフト回転の妨害を防止する。しかしながら、医師は多くの場合、パージ流体を介してヘパリンを患者の血液に投与することを望まない。例えば、応急処置においては、ヘパリンは血液の凝固、したがって治癒または止血を妨げるので、逆効果となる場合がある。また、パージ流体と共に患者の血液に投与されるヘパリンの量は、様々な理由から制御が難しい。特に、ヘパリンの量は多くの場合、医師が望む量よりも多い。したがって、医師は多くの場合、患者へのヘパリンの供給が必要であればその量については、血液ポンプの運用とは別に行うことを好むであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、所望の場合に、ヘパリンを全く含有しないか少なくとも含有量のより少ないパージ流体を流すことのできる、血管内血液ポンプが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の第1の態様によれば、血管内血液ポンプは、羽根車を担持する回転可能なシャフトと、開口部を有するハウジングと、を備えることができ、シャフトは羽根車が上記ハウジングの外部に位置付けられるように開口部を通って延在し、シャフトおよびハウジングは上記開口部内に周方向の間隙を形成する表面を有する。これは上で検討した先行技術と違いはなく、上記間隙は特に、シャフト用のラジアル滑り軸受を構成し得る。しかしながら、本明細書に開示する血液ポンプでは、間隙の幅は、間隙の長さの少なくとも一部にわたって2μm以下であり、例えば前端部もしくは間隙の羽根車側のみが2μm以下の間隙幅を有し得るか、または、一実施形態では、間隙の幅はその全長に沿って2μm以下であり、更に、周方向の間隙を形成する2つの表面のうちの少なくとも一方は、熱伝導率λ≧100W/mKである材料で作製される。
【0008】
以下は、ヘパリンを有さないパージ流体を用いて、また一時的にはパージ流体を用いずにさえ動作させることのできる血管内血液ポンプに、上述した手法が寄与する理由を説明しようとするものである。つまり、2μm以下の小さい間隙幅に起因して、直径約8μm、厚さ約2μmである赤血球は間隙に進入するのが困難であり、間隙を詰まらせると考えられる。更に、小さい間隙幅に起因して、パージ流体は間隙を高速で通過し、このことにより、高い運動エネルギーで血液を間隙の外へと押し戻す。しかしながら、赤血球が間隙に進入することが首尾よく防止されるように見えるが、生体材料が間隙内に集まりシャフトを妨害していることが、実験により示された。この生体材料は、強いパージ流体の流れにも関わらず間隙に浸入した血漿に由来していたと考えられている。より具体的には、間隙内に堆積した生体材料は主として血漿の変性した部分、特にフィブリンから成り、これが間隙を形成する表面に付着してそれを詰まらせると考えられている。このことは、小さい間隙幅に起因して間隙内に発生した高温が、間隙内のせん断誘起の熱と相まって引き起こされたと想定される。更なる実験により、表面を比較的熱伝導率の高い材料から作製することにより、間隙内の温度を低く、好ましくは55℃以下に保つことができ、このことにより、血漿中のフィブリンの変性が防止されることが示された。
【0009】
最も驚くべきことには、上述した特徴を有する血管内血液ポンプは、間隙の中をパージ流体が何も通らない場合でさえ、妨害を受けずにより長時間機能することが見出されている。このことは、血漿が間隙に浸入して、間隙の内側の1つまたは複数の表面に滑りの良いバイオフィルムを形成することに起因すると考えられる。このことは血管内血液ポンプにとって実質的な安全要因を構成するものであり、したがってこれらのポンプにとって最大限の利益となるものである。
【0010】
表面または間隙を形成する表面の材料の熱伝導率が100W/mKであれば、伝導によって熱を間隙から取り去り、この結果間隙内の温度を55℃以下に維持するのに十分であり得る。ただし、熱伝導率は、好ましくは少なくとも130W/mK、より好ましくは少なくとも150W/mK、最も好ましくは少なくとも200W/mKである。
【0011】
熱を間隙から血液へと運び去るために、上記間隙形成表面が、ポンプを通って流れる血流と熱を伝導するように接触しているのが好ましい。熱力学によれば、流れる血液は流れていない血液よりも熱を速く運び去る。血流が速いほど、伝導性の熱移動により多くの熱を運び去ることができる。ポンプを通る血流速度は一般に、ポンプ外部の血流速度よりも速い。したがって、例えば、間隙内で生じた熱および間隙形成表面の温度上昇は、シャフトの表面からシャフト本体を通ってシャフトの端部にある羽根車へと、そしてそこから羽根車に沿って流れる血流へと、更に伝導され得る。しかしながら、シャフト本体を通り更に羽根車を通って血液へと熱が軸方向に流れる距離は比較的長いので、間隙から、すなわち間隙を形成する半径方向外側表面を介して、熱を伝導によって(追加的にまたは専ら)半径方向に取り去ることがむしろ好ましい。熱を半径方向に運び去ることが好ましい理由は、熱が間隙から血流へと流れる半径方向の距離が比較的短いためだけでなく、熱を軸方向に伝導可能なシャフト本体の熱伝導断面積と比較して、熱を半径方向に伝導可能な熱伝導面積を大きくする方が容易だからでもある。すなわち、シャフト本体の断面積AaxialはAaxial=πd/4であり、間隙を形成する半径方向外側表面の断面積AradialはAradial=πdlである。したがって、間隙の直径を(例えばd=1mmまで)大きくすることの有益な影響は、シャフト本体の断面積Aaxialに対する場合よりも、間隙を形成する半径方向外側表面の断面積Aradialに対する方が4倍大きい。また更に、間隙の長さ(l)を大きくすることの有益な影響は、間隙を形成する半径方向外側表面の断面積Aradialに対してのみであり、シャフト本体の断面積Aaxialに対しては全く影響しない。いずれにしても、間隙は好ましくは長いべきでありかつ大きい直径を有するべきである。ただし、直径が大きければ間隙内で生じる熱の量が抑えられる場合があるので、間隙の直径は過度に大きくすべきではない(好ましくはおおよそd≦1mm)。間隙を形成する両表面の熱伝導率が高く、少なくとも100W/mKであって、熱を伝導するように血流と接触しているのが、最も好ましい。
【0012】
そのような熱伝導性接触は、直接的であっても間接的であってもよい。直接的な熱伝導性接触を達成できるのは、間隙を形成しているそれぞれの熱伝導表面が、全体が上記熱伝導材料で作製された、血管内血液ポンプが患者の血管内で動作しているときにポンプを通る血流と直接接触している構造要素の一部となっている場合である。これは、シャフトおよび羽根車が1種の熱伝導材料から形成された一体の部品を形成している場合、ならびに/または、シャフトを通すための貫通開口部を形成しているハウジングの遠位端が、熱伝導材料で作製された一体の部品である場合であり得る。
【0013】
あるいは、間接的な熱伝導性接触を達成できるのは、間隙を形成する1つまたは複数の表面がそれぞれ、全体が上記熱伝導材料で作製されている構造要素の一部となっており、この構造要素の少なくとも1つの更なる表面が熱を伝導するように別個の熱伝導性要素に接続されており、この熱伝導性要素が、血管内血液ポンプが患者の血管内で動作しているときに、流れる血液と直接接触しているかまたは1つ以上の更なる熱伝導性要素を介して間接的に熱伝導性の接触をしており、この結果1つまたは複数の間隙形成表面からの熱を熱伝導によって流れる血液へと放散できるようになっている場合である。当然ながら、熱伝導性要素はそれら自体が高い、好ましくは間隙を形成する1つまたは複数の表面の好ましい熱伝導率よりも高い、すなわち、100W/mKよりも高い、好ましくは130W/mKよりも高い、より好ましくは150W/mKよりも高い、最も好ましくは200W/mKよりも高い、熱伝導率を有するべきである。
【0014】
間隙を形成する表面は好ましくはシャフト用のラジアル滑り軸受を構成し得るので、これらの表面は非常に小さい表面粗さ、好ましくは0.1μm以下の表面粗さを有するべきである。そのような表面粗さは、米国特許公開第2015/0051436A1号にシャフト用コーティングとして提示されているような、ダイヤモンドライクカーボンコーティング(DLC)を用いて得ることができるが、現在の技術では、間隙の長さにわたって2μm以下の間隙幅を達成できるような精度でDLCコーティングを適用するのは不可能である。したがって、1つまたは複数の間隙形成表面を、DLCとは異なる材料から、最も好ましくはセラミック材料から、特に焼結セラミック要素から、および/または、異なる方法によって、形成することが好ましい。すなわち、好ましくは、上記熱伝導表面は構造要素上のコーティングではなく、1つ以上の構造要素の表面、すなわち、ポンプを構成している1つ以上の要素の表面である。
【0015】
セラミックに関する一般的な問題は、セラミック材料の熱伝導率が通常非常に低いことである。例えば、米国特許公開第2015/0051436A1号で述べられている酸化ジルコニウム(ZrO)の熱伝導率は、2.5から3W/mKに過ぎない。酸化アルミニウム(Al)は周知のセラミックであり、35から40W/mKの比較的高い熱伝導率を有するが、これでもまだ銅などの金属の熱伝導率よりはかなり低い。比較してかなり高い熱伝導率を有する数少ないセラミックのうちの1つが、炭化ケイ素(SiC)である。典型的な実用上の炭化ケイ素の熱伝導率は100W/mKから140W/mKの間であるが、より高い熱伝導率を有する炭化ケイ素も同じく利用可能である。純粋な炭化ケイ素の熱伝導率は350W/mKである。他のセラミックとは異なり、炭化ケイ素は非常に脆く、したがって取り扱いが難しい。炭化ケイ素は製造および組立て中に容易に破損し得る。それにもかかわらず、炭化ケイ素はその良好な熱容量から、本願の目的上、間隙を形成する表面の少なくとも一方、好ましくは間隙の半径方向外側表面にとって好ましい材料であり、その脆性のゆえに、シャフトには好ましくない。したがって、それぞれの表面またはそのような表面を形成する構造要素全体は、炭化ケイ素を含むか、または好ましくは炭化ケイ素から成る。
【0016】
炭化ケイ素が滑り軸受の一方の表面を形成する場合、滑り軸受の協働する対向表面は本質的に、任意の他のタイプの材料、特に任意の他のタイプのセラミック材料であってもよい。対応する他方の表面にとって好ましいセラミック材料は、その耐久性の高さからアルミナ強化ジルコニア(ATZ)であるが、その熱伝導率は25W/mKに過ぎない。したがって、熱を流れる血液へと半径方向外向きに間隙から離れる方へと容易に伝導できるように、シャフトをATZで、および、シャフトが中にジャーナル軸支されるスリーブをSiCで作製するのが好ましい。
【0017】
間隙を通って近位から遠位へと流れるパージ流体の圧力降下は小さい間隙幅に起因して大きいので、間隙幅は、血液と接触する間隙の側である間隙の羽根車側端部に向かって広い方から狭い方へと収束して、間隙の遠位端または比較的短い遠位セクションのみが2μm以下の間隙幅を有するようになっているのが好ましい。すなわち、前端部または羽根車側端部または間隙の遠位端(これらの用語は同じ意味をもつ)に向かって収束する間隙の利点は、間隙の全長にわたって上記最小幅を有する同じ長さの収束しない間隙の場合の圧力降下と比較して、間隙の長さに沿って近位から遠位へと流れるパージ流体に生じる圧力降下を、低く保つことができることにある。このように、最小間隙幅が非常に小さい場合であっても、例えば1から1.5バールの圧力を提供するパージ流体ポンプを使用することができる。
【0018】
より具体的には、間隙は、間隙の最小幅が、間隙の羽根車側端部に最も近い間隙の長さの30%以内のある場所に位置するように、間隙の前端部または羽根車側端部に向かって収束し得る。より好ましくは、上記最小幅は、少なくとも間隙の羽根車側端部に存在する。
【0019】
最小間隙幅が実際上間隙の羽根車側端部に限定される、すなわち間隙の長さのうちの限りなく小さい部分に限定される場合、このことは、間隙の対応する部分の損耗の増加につながり得る。したがって、好ましい実施形態によれば、間隙のうちの最小間隙幅を有する部分は、間隙の長さの50%以下、好ましくは30%以下、ただし損耗を低く抑えるために好ましくは間隙の長さの20%以上にわたって、延在することができる。そのような部分の長さは、0.1から0.7mmの間、より好ましくは0.2から0.4mmの間の範囲であり得る。
【0020】
間隙の収束は、間隙を形成する一方または両方の表面のテーパ、すなわち、ハウジングの壁を貫通する開口部の内側表面によって形成される、間隙のテーパした外側表面と、シャフトの表面によって形成される、間隙のテーパした内側表面とによって、実現できる。間隙の外側表面のテーパとは、間隙の羽根車側端部に向かった壁開口部の直径の減少を意味し、間隙の内側表面のテーパとは、間隙の羽根車側端部に向かったシャフトの直径の増大を意味する。シャフトの表面のテーパを設けることが好ましいが、他方で、間隙の外側の境界を構成する開口部は、製造の容易さから円筒状であってもよい。
【0021】
間隙の好ましい長さは1から2mmまで、好ましくは1.3から1.7mmまでの範囲内であり、一方、最小間隙幅は5μm以下、好ましくは4μm以下、より好ましくは3μm以下、最も好ましくは2μm以下であり得る。最大間隙幅は典型的には、間隙の羽根車側端部の反対側の間隙の端部に位置しており、大きさは15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、最も好ましくは6μm以下である。最も好ましいのは、収束する間隙が、約6μmの最大間隙幅および2μm以下の最小間隙幅を有する場合である。
【0022】
また更に、間隙は、間隙の幅が最小となる場所まで、その長さの少なくとも一部にわたって連続的に、特に直線的に収束してもよい。
【0023】
以下では、添付の図面を参照して本発明について例示によって記載する。添付の図面では、正確な縮尺で描くことは意図されていない。これらの図面では、様々な図に示されている同一のまたはほぼ同一の構成要素は、同様の数字によって表されている。明晰にするために、あらゆる図面においてあらゆる構成要素にラベル付けすることはしない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】左心室の手前に挿入され、流入カニューレが左心室内に位置付けられている、血管内血液ポンプの概略図である。
図2】例示的な先行技術の血液ポンプの概略長手断面図である。
図3図2の血液ポンプの一部の、ただし本発明の好ましい実施形態に係る構造を有する、拡大図である。
図4A】収束する周方向の間隙の変動を示す、ポンプの遠位ラジアル軸受の部分拡大図である。
図4B】収束する周方向の間隙の変動を示す、ポンプの遠位ラジアル軸受の部分拡大図である。
図4C】収束する周方向の間隙の変動を示す、ポンプの遠位ラジアル軸受の部分拡大図である。
図4D】収束する周方向の間隙の変動を示す、ポンプの遠位ラジアル軸受の部分拡大図である。
図4E】収束する周方向の間隙の変動を示す、ポンプの遠位ラジアル軸受の部分拡大図である。
図4F】収束する周方向の間隙の変動を示す、ポンプの遠位ラジアル軸受の部分拡大図である。
図4G】収束する周方向の間隙の変動を示す、ポンプの遠位ラジアル軸受の部分拡大図である。
図4H】収束する周方向の間隙の変動を示す、ポンプの遠位ラジアル軸受の部分拡大図である。
図4I】収束する周方向の間隙の変動を示す、ポンプの遠位ラジアル軸受の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は血液ポンプの利用を表し、この特定の実施形態では、この血液ポンプは左心室補助用である。血液ポンプは、カテーテル14と、カテーテル14に取り付けられたポンピングデバイス10と、を備える。ポンピングデバイス10は、モータセクション11とポンプセクション12とを有し、これらは互いに同軸で前後して配設されており、結果的にロッド形状の構造形態となっている。ポンプセクション12は、多くの場合「カニューレ」と呼ばれる、可撓性の高い吸入ホース13の形態の延長部を有する。ポンプセクション12内には、血液を血流入口から血流出口へと流れさせるための羽根車が設けられており、モータセクション11内に配設された電動モータによって羽根車の回転が引き起こされる。血液ポンプは、主として上行大動脈15b内に存在するように設置されている。大動脈弁18は閉じた状態では、ポンプセクション12またはその吸入ホース13の外面に当接するようになる。前側に吸入ホース13を備えた血液ポンプは、任意選択的にガイドワイヤを採用して、カテーテル14を前進させることによって、表されている位置へと前進される。その際に、吸入ホース13は大動脈弁18を逆行して通過し、そのため吸入ホース13を通して血液が吸引され、大動脈16内へと圧送される。
【0026】
血液ポンプの使用は図1に表す適用法に限定されるものではなく、図1は典型的な適用例を含むに過ぎない。例えば、ポンプを、鎖骨下動脈などの他の末梢血管を通して挿入することもできる。別法として、右心室用の逆向きの適用も企図され得る。
【0027】
図2は、先行技術である米国特許公開第2015/0051436A1号に係る血液ポンプの例示的な実施形態を示しており、これは本発明の文脈での使用に同じく適しているが、本発明によれば「I」でマークした丸く囲んだ前端部が修正されており、そのような修正の好ましい実施形態が図3に示されている。したがって、モータセクション11は細長いハウジング20を有し、この中に電動モータ21を収容することができる。電動モータ21のステータ24は、通常は、多数の周方向に分布させた巻線、および長手方向の磁気帰還路28を有し得る。磁気帰還路28は、細長いハウジング20の円筒形の外側スリーブを形成し得る。ステータ24は、モータシャフト25に接続された、作用方向に磁化された永久磁石から成るロータ26を取り囲むことができる。モータシャフト25はモータハウジング20の全長にわたって延在し、開口部35を通ってモータハウジング20から外へと遠位方向に突出する。モータシャフト25はそこで、ポンプ羽根36を突出させた羽根車34を担持し、この羽根車34は、モータハウジング20にしっかりと接続され得る管状のポンプハウジング32内で回転することができる。
【0028】
モータハウジング20の近位端には、可撓性の高いカテーテル14が封止的に取り付けられている。カテーテル14を通って、電動モータ21に対する電力供給および制御のための、電気ケーブル23が延在し得る。更に、パージ流体導管29がカテーテル14を通って延び、モータハウジング20の近位の端部壁22を貫通し得る。パージ流体導管29を通してモータハウジング20の内部へとパージ流体を供給することができ、このパージ流体はモータハウジング20の遠位端にある端部壁30を通って外に出る。パージ圧は、存在する血圧よりも高くなりその結果モータハウジング内への血液の浸入が防止されるように、適用ケースに応じて300から1400mmHgの間で選択される。
【0029】
上述したように、パージされる同じ封止部を、可撓性の高い駆動シャフトおよび遠隔のモータによって駆動されるポンプと組み合わせることができる。
【0030】
羽根車34が回転すると、ポンプハウジング32の遠位の開口部37を通して血液が吸引され、ポンプハウジング32内を軸方向逆向きに運ばれる。血液は、ポンプハウジング32の半径方向の出口開口部38を通り、ポンプセクション12から出て、モータハウジング20に沿って更に流れる。このことにより、モータにおいて生じる熱が運び去られる。血液がモータハウジング20に沿って吸引されポンプハウジング32の遠位の開口部37から出るように、ポンプセクションを逆の運搬方向に動作させることも可能である。
【0031】
モータシャフト25は、一方がモータハウジング20の近位端に、他方がモータハウジング20の遠位端にある、ラジアル軸受27、31内に支持される。ラジアル軸受、特にモータハウジングの遠位端にある開口部35内のラジアル軸受31は、滑り軸受として構成されている。更に、モータシャフト25はモータハウジング20内で軸方向にも支持されており、そのアキシャル軸受40は同じく滑り軸受として構成されている。アキシャル滑り軸受40は、羽根車34が遠位から近位へと血液を運ぶときに遠位方向に作用する、モータシャフト25の軸方向の力を引き受ける役割を果たす。血液ポンプを使用して血液を逆方向にもまたは逆方向にのみ運ぶ場合、対応するアキシャル滑り軸受40を、モータハウジング20の近位端に、対応する様式で(追加的にまたは専用で)設けることができる。
【0032】
図3は、図2において「I」でマークした部分を、本発明の好ましい実施形態に従って構造を更に修正した状態で、より詳細に示している。特に、ラジアル滑り軸受31およびアキシャル滑り軸受40を見ることができる。ラジアル滑り軸受31の軸受間隙は、一方ではモータシャフト25の周面25Aによって、他方では、約1mmの間隙外径を画定するモータハウジング20の端部壁30のブッシングまたはスリーブ33の貫通孔の表面33Aによって形成されているが、この間隙外径はこれより大きくてもよい。この実施形態では、ラジアル滑り軸受31の軸受間隙は、間隙の前端部または羽根車側端部においてだけでなく、ラジアル滑り軸受の全長にわたって、2μm以下の間隙幅を有する。好ましくは間隙幅は1μmから2μmの間である。間隙の長さは、ラジアル滑り軸受31の長さに対応して、1mmから2mmまで、好ましくは1.3mmから1.7mmまでの範囲、例えば1.5mmであってもよい。ラジアル滑り軸受31の間隙を形成する表面の表面粗さは、0.1μm以下である。
【0033】
シャフト25は、好ましくはセラミック材料で、最も好ましくはシャフトの破断を回避するためにアルミナ強化ジルコニア(ATZ)で作製される。ATZは、30から39W/mKの間の熱伝導率を有するアルミニウムに起因して、比較的高い熱伝導率を有する。シャフト25の遠位端上で担持される羽根車34は、好ましくは更に高い熱伝導率を有する材料で作製される。このようにして、ラジアル滑り軸受31の非常に狭い間隙内で生じる熱は、シャフト25および羽根車34を介して、羽根車34の外側表面に沿って流れる血液へと放散し得る。
【0034】
ただし、羽根車がPEEKなどの熱伝導率の低い材料で作製される実施形態では、または、羽根車が上で提示したような熱伝導率の高い材料で作製される実施形態においてさえ、ハウジング20の端部壁30内のスリーブ33を、熱伝導率の高い、好ましくは少なくとも100W/mK、より好ましくは少なくとも130W/mK、更に好ましくは少なくとも150W/mK、最も好ましくは少なくとも200W/mKの熱伝導率の材料で作製するのが、いずれにしても有利である。特に、スリーブ33は、より具体的には焼結セラミック材料で作製される、セラミックスリーブであってもよい。特定の好ましいセラミック材料として、スリーブ33は、その高い熱伝導率からSiCを含むか、または全体がSiCから成っていてもよい。
【0035】
端部壁30全体を熱伝導性の高い材料で作製された一体の部片として形成してもよいが、端部壁30を、それ自体熱伝導性を有するスリーブ33および1つ以上の半径方向外側の要素33Bから組み立てるのが好ましい場合がある。このことは、特にスリーブ33がSiCなどの脆い材料で作製される場合に、重要であり得る。したがって、半径方向外側の熱伝導性要素33Bは熱を伝導するようにスリーブ33に接続されており、スリーブ33からの熱が熱の伝導および拡散によって熱伝導性要素33Bを介して血流へと放散することを保証するために、好ましくはスリーブ33の熱伝導率よりも高く、かつどの場合にも少なくとも100W/mKである熱伝導率を、それ自体有する。
【0036】
図2に示す先行技術の構造と比較した図3から更に分かるように、ハウジング20の端部壁30の軸方向長さは比較的長い。より具体的には、ハウジング20の端部壁30の外側表面に沿って血液が流れる経路は、半径方向よりも軸方向の方が長い。このことにより、ハウジング20の端部壁30から血流へと熱が移動するための、大きな表面積が提供される。例えば、血流は、ハウジング20の端部壁30に沿って外向きに0.5から1mmの間、好ましくは約0.75mmの半径方向距離にわたって案内され得るのに対して、軸方向には1.5mmから4mmまで、好ましくは約3mm流れ得る。
【0037】
アキシャル滑り軸受40の軸受間隙に関して、これは、端部壁30の軸方向の内面41と、これに対向する表面42とによって形成される。この対向する表面42は、ロータ26の遠位側でモータシャフト25上に据え付け可能であってロータ26と共に回転できる、セラミックディスク44の一部であってもよい。パージ流体がアキシャル滑り軸受40の軸受-間隙表面41と42の間を通りラジアル滑り軸受31に向かって流れるのを保証するために、端部壁30の軸受-間隙表面41に、チャンネル43を設けることができる。これ以外では、アキシャル滑り軸受40の表面41および42は平坦であってもよい。アキシャル滑り軸受40の軸受間隙は非常に小さく、数マイクロメートルである。
【0038】
アキシャル滑り軸受40の軸受-間隙表面41が図3に示すようにスリーブ33によって形成され、スリーブ33がSiCで作製されている場合、アキシャル滑り軸受40の対向する表面42を形成するセラミックディスク44は好ましくは、アルミナ強化ジルコニア(ATZ)で作製される。別法として、対向する軸受-間隙表面42はDLCでコーティングされていてもよく、または同じくSiCで作製されてもよい。
【0039】
パージ流体の圧力は、1から2μmの狭い間隙内で高い軸方向パージ流速度(≧0.6m/s)を維持するために、ラジアル滑り軸受31に沿った圧力降下が好ましくは約500mmHg以上となるように調整される。血液ポンプ10をヘパリンを含まないパージ流体を用いて動作させることができる。血液ポンプは、うまくパージできない場合には少なくとも数時間、パージ流体を何ら用いずに動作することすらできる。
【0040】
図4Aから4Cは、血液ポンプハウジング20の遠位端でラジアル滑り軸受31を画定する周方向の間隙(ここでは参照符号39で明確に指定されている)のバリエーションを示す。より具体的には、周方向の間隙39はこれらのバリエーションでは、近位から遠位へと収束する。矢印は、ラジアル滑り軸受31をパージするパージ流体の流れ方向を示す。
【0041】
収束する間隙39の第1の実施形態が図4Aに示されている。ここでは、間隙は近位から遠位へと連続的に、より具体的には直線的に収束しており、最小間隙幅は、ちょうど間隙39の羽根車側端部39Aのところに位置している。
【0042】
図4Bに示す実施形態における間隙39は、同じく間隙39の羽根車側端部39Aに向かって近位から遠位へと連続的かつ直線的に収束するが、最小間隙幅は間隙39の長さの一部にわたって延在して、その円筒形の端部セクションを形成している。図4Bに示すような間隙39の円筒形の端部セクションは、図4Aの実施形態に示すような先鋭なセクションよりも損耗しにくい。いずれの実施形態でも、間隙は別法として非直線的に、特に凹状に、または言い換えれば近位から遠位へと漸減的に、収束してもよい。
【0043】
図4Aおよび4Bに示されている実施形態では、間隙39の収束は、直径が近位と比較して遠位でより狭い開口部35のテーパに起因しているのに対し、図4Cおよび図4Dは、間隙39の収束がシャフト25のテーパによって実現される実施形態に関する。より具体的には、シャフト25の外径部はいずれの場合も、間隙39の羽根車側端部39Aに向かって延びている。図4Cでは、シャフト25の外径部は、間隙39の羽根車側端部39Aの反対側の間隙39の端部を越えて延びている、間隙39の近位側の一定径のシャフトセクションから、間隙39内で最大外径まで拡開している。図4Dに示す実施形態では、シャフトの外径部は周方向の溝を有し、この溝も同様に、間隙39の羽根車側端部39Aの反対側の間隙39の端部を越えて延びている。示されている実施形態では、溝の直径は近位から遠位へと直線的に増大して、間隙39の羽根車側端部39Aの少し手前で最小間隙に達するようになっている。ただし、直線的に収束する間隙39の代わりに、シャフト25の直径を、例えば間隙39の羽根車側端部39Aに向かって漸進的に大きくしてもよい。
【0044】
図4Aから4Dに示されている実施形態に関連して記載した変形形態は、任意の好適な様式で組み合わせることができる、すなわち、収束する間隙39は、シャフト25が中を通って延在する開口部のテーパした直径と、テーパしたシャフト25の両方によって、形成することができる。
【0045】
図4Eから4Iは、収束する間隙39の容易な製造を考慮して最適化された、ポンプの遠位のラジアル軸受31の実施形態に関する。図4Eでは、軸受31は2つの軸受リング31Aおよび31Bへと分割されており、血液と接触している遠位の軸受リング31Aは、近位の軸受リング31Bの開口部よりも直径の小さい開口部を有する。図4Fでは、収束する間隙は、シャフト25の表面25Aにある周方向の溝25Bによって実現され、この溝25Bは単純な湾曲した断面を有する。図4Gでは、収束する間隙は同じく、シャフト25の表面25Aにある周方向の溝25Bによって実現されるが、この場合、溝25Bは、シャフト25が間隙39の領域において円錐のような軸方向断面を有するようなものとなっている。図4Hでは、図4Eの実施形態と同様に、軸受31は、血液と接触している遠位端の直径が間隙39の近位端と比較してより小さい、階段状の孔によって形成されている。図4Iでは、同じように、軸受31は2つの軸受リング31Aおよび31Bへと分割されており、血液と接触している遠位の軸受リング31Aは、近位の軸受リング31Bよりも直径が小さい。ただし、この実施形態では、近位の軸受リング31Bが円筒のような内側表面を有するのに対し、遠位のリング31Aは、間隙の羽根車側端部39Aに向かって収束する、円錐のような内径を有する。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図4I