(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】走行支援方法及び走行支援装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240628BHJP
B60W 40/072 20120101ALI20240628BHJP
B60W 30/045 20120101ALI20240628BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240628BHJP
B62D 111/00 20060101ALN20240628BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240628BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240628BHJP
B62D 103/00 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B60W40/072
B60W30/045
B62D101:00
B62D111:00
B62D113:00
B62D119:00
B62D103:00
(21)【出願番号】P 2021040463
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 雄哉
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-138603(JP,A)
【文献】国際公開第2014/016947(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/086698(WO,A1)
【文献】特開2020-125058(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0291638(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60W 40/072
B60W 30/045
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両が走行する予定の道路の道路形状の情報を取得し、
前記道路形状に沿って前記自車両が走行するために前記自車両に生じる目標横力を設定し、
前記道路形状が、曲率が変化する過渡形状であるか否かを判定し、
前記道路形状が前記過渡形状であると判定した場合に前記過渡形状でないと判定した場合に比べて転舵角が低減するように、前記自車両のスリップ角の目標値である目標スリップ角を算出し、
前記目標横力を発生し且つ前記自車両のスリップ角が前記目標スリップ角となるように前輪及び後輪を転舵する、
ことを特徴とする走行支援方法。
【請求項2】
前記目標スリップ角を、前記前輪の転舵により前記自車両に発生させるスリップ角である第1スリップ角と、前記後輪の転舵により前記自車両に発生させるスリップ角である第2スリップ角と、により発生させることを特徴とする請求項1に記載の走行支援方法。
【請求項3】
前記転舵角を低減するように前記第1スリップ角と前記第2スリップ角との間の配分比率を設定し、
前記第1スリップ角と前記第2スリップ角を前記配分比率で配分することにより前記目標スリップ角を算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の走行支援方法。
【請求項4】
前記前輪の転舵角と前記後輪の転舵角の重み付け和が最小になるように前記配分比率を設定することを特徴とする請求項3に記載の走行支援方法。
【請求項5】
前記道路形状が前記過渡形状である度合いを表す過渡形状係数を算出し、
前記配分比率と前記過渡形状係数の積とに応じて、前記目標スリップ角を変化させる、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の走行支援方法。
【請求項6】
車輪に発生させる横力の上限値である横力上限値を設定し、
前記横力上限値に応じてコーナリングスティフネスの規範値である規範コーナリングスティフネスを設定し、
前記目標横力を前記規範コーナリングスティフネスで除算した値に応じて前記第1スリップ角又は前記第2スリップ角を設定する、
ことを特徴とする請求項2~5のいずれか一項に記載の走行支援方法。
【請求項7】
前記道路形状が、曲率が変化しない定常形状よりも前記過渡形状に近いと判定した場合に、前記過渡形状よりも前記定常形状に近いと判定した場合に比べて転舵角が低減するように前記目標スリップ角を算出することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の走行支援方法。
【請求項8】
自車両の前輪及び後輪を転舵する転舵装置と、
前記自車両が走行する予定の道路の道路形状の情報を取得し、前記道路形状に沿って前記自車両が走行するために前記自車両に生じる目標横力を設定し、前記道路形状が、曲率が変化する過渡形状であるか否かを判定し、前記道路形状が前記過渡形状であると判定した場合に前記過渡形状でないと判定した場合に比べて転舵角が低減するように、前記自車両のスリップ角の目標値である目標スリップ角を算出し、前記目標横力を発生し且つ前記自車両のスリップ角が前記目標スリップ角となるように、前記転舵装置を駆動して前記前輪及び前記後輪の転舵制御を実行するコントローラと、
を備えることを特徴とする走行支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行支援方法及び走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、過渡状態において後輪舵角制御を行って車両の応答性・安定性を向上する一方で、定常状態では横滑り角を後輪舵角制御していないときと同じにする後輪舵角制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2008/047481号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の後輪舵角制御装置は、前輪の転舵が開始した後から後輪の転舵が開始する。したがって旋回の初期段階では、車体のスリップ角(すなわち、車体の前後方向と車両の進行方向とのずれ角)が小さいため、旋回に要する転舵角が大きくなることがある。
本発明は、前輪及び後輪の転舵が可能な車両において、曲率が変化する過渡形状を有する道路での旋回に要する転舵角を低減して回頭性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様による走行支援方法では、自車両が走行する予定の道路の道路形状の情報を取得し、道路形状に沿って自車両が走行するために自車両に生じる目標横力を設定し、道路形状が、曲率が変化する過渡形状であるか否かを判定し、道路形状が過渡形状であると判定した場合に過渡形状でないと判定した場合に比べて転舵角が低減するように、自車両のスリップ角の目標値である目標スリップ角を算出し、目標横力を発生し且つ自車両のスリップ角が目標スリップ角となるように前輪及び後輪を転舵する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前輪及び後輪の転舵が可能な車両において、過渡形状を有する道路での旋回に要する転舵角を低減して回頭性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の走行支援装置の概略構成図である。
【
図2】実施形態の走行支援装置による自動運転制御のアーキテクチャの一例の説明図である。
【
図3】実施形態の走行支援装置の自動運転制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図1に示す車両制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】内向き状態において生じる後輪荷重の説明図である。
【
図6】規範コーナリングスティフネスの設定方法の一例の説明図である。
【
図7】
図4に示す道路形状判定部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図8】実施形態の走行支援方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(構成)
図1を参照する。自車両1は、右前輪2FR、左前輪2FL、右後輪2RR及び左後輪2RLを転舵可能な四輪操舵車両である。
自車両1は、自車両1の走行支援を行う走行支援装置10を備える。走行支援装置10による走行支援には、自車両1の周辺の走行環境に基づいて、運転者が関与せずに自車両1を自動で運転する自動運転制御や、運転者による自車両1の運転を支援する運転支援制御を含んでよい。
運転支援制御には、自動操舵、自動ブレーキ、定速走行制御、車線維持制御、合流支援制御など、自車両1の転舵装置、駆動装置、制動装置の少なくとも一つを制御する走行制御を含んでよい。
【0010】
走行支援装置10は、物体センサ11と、車両センサ12と、測位装置13と、地図データベース(地
図DB)14と、ナビゲーション装置15と、コントローラ17と、アクチュエータ18とを備える。
物体センサ11は、自車両の周囲の物体を検出する。物体センサ11は、自車両1に搭載されたレーザレーダやミリ波レーダ、カメラ、LIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)など、自車両1の周辺の物体を検出する複数の異なる種類の物体検出センサを備える。
【0011】
車両センサ12は、自車両1に搭載され、自車両1から得られる様々な情報(車両信号)を検出する。車両センサ12には、例えば、自車両1の車速(走行速度)Vを検出する車速センサ、車輪の回転速度や回転量を検出する車輪センサ、自車両1の3軸方向の加速度(減速度を含む)を検出する3軸加速度センサ(Gセンサ)、操舵角(転舵角を含む)を検出する操舵角センサ、自車両1に生じる角速度を検出するジャイロセンサ、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ、自車両1のアクセル開度を検出するアクセルセンサと、運転者によるブレーキ操作量を検出するブレーキセンサが含まれる。
【0012】
測位装置13は、全地球型測位システム(GNSS)受信機を備え、複数の航法衛星から電波を受信して自車両1の現在位置を測定する。GNSS受信機は、例えば地球測位システム(GPS)受信機等であってよい。測位装置13は、例えば慣性航法装置であってもよい。
地図データベース14は、自動運転用の地図として好適な高精度地図データ(以下、単に「高精度地図」という。)を記憶してよい。高精度地図は、ナビゲーション用の地図データ(以下、単に「ナビ地図」という。)よりも高精度の地図データであり、道路単位の情報よりも詳細な車線単位の情報を含む。
ナビゲーション装置15は、測位装置13等により自車両1の現在位置を認識する。ナビゲーション装置15は、認識した現在位置に基づいて、自車両1の周囲の道路情報や交通情報を取得し、コントローラ17に出力する。また、ナビゲーション装置15は、乗員に対して経路案内を行い、また道路情報、交通情報を提供する。
【0013】
コントローラ17は、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含み、自車両1の走行支援制御を行う電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置や、磁気記憶装置、光学記憶装置等を備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
コントローラ17のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより、コントローラ17は、自動運転制御部20、入力仲裁部21及び車両制御部22として機能する。自動運転制御部20、入力仲裁部21及び車両制御部22の機能については後述する。
【0014】
なお、コントローラ17を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラは、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントローラはフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0015】
アクチュエータ18は、コントローラ17からの制御信号に応じて、自車両1の転舵装置と、駆動装置と制動装置を操作して、自車両1の車両挙動を発生させる。アクチュエータ18は、転舵アクチュエータと、アクセル開度アクチュエータと、ブレーキ制御アクチュエータを備える。
転舵アクチュエータは、前輪2FR、2FLの転舵角である前輪転舵角δFと後輪2RR、2RLの転舵角である後輪転舵角δRを制御する。
転舵アクチュエータは、例えば、電動パワーステアリングシステムにおいて操舵補助力を付与する操舵補助モータであってもよく、ステアリングホイールと車輪2FR、2FL、2RR、2RLとが機械的に分離されたステアリングバイワイヤシステムにおいてこれら車輪を転舵する転舵モータであってもよい。
アクセル開度アクチュエータは、自車両1の駆動力を発生させる動力源である駆動装置(例えばエンジン、電動機)のアクセル開度を制御する。ブレーキ制御アクチュエータは、自車両1の制動装置の制動動作を制御する。
【0016】
次に、実施形態の走行支援装置10による走行支援制御の一例を説明する。
図2は、走行支援装置による自動運転制御のアーキテクチャの一例を示す。自動運転制御は、自動運転レイヤ(AD Layer)30と、仲裁部(Arbitration)31と、規範モデル部(Reference Model)32と、車体挙動制御部(Body Motion Control)33と、車輪挙動制御部(Wheel Motion Control)34と、上述のアクチュエータ18によって実行される。
自動運転レイヤ30は、自車両1の目的地を設定し、自車両1の現在位置から目的地までの走行経路を設定する。
自動運転レイヤ30は、走行経路を走行する自車両1の目標走行軌道と目標速度プロファイルとを、自動運転レイヤ30からの指示入力である自動運転入力(AD入力)として生成する。
【0017】
仲裁部31は、運転者によるステアリングホイール、アクセル及びブレーキの操作入力である手動運転入力(MD入力)と、自動運転レイヤ30からの自動運転入力とを仲裁し、自車両1が行うべき車両運動を設定する。
規範モデル部32は、仲裁部31が設定した車両運動を自車両1が実現するための自車両1の車体挙動を計算するために用いる車両運動モデルのパラメータ(例えばヨー慣性モーメント、車輪のコーナリングスティフネス等)を設定する。
車体挙動制御部33は、規範モデル部32によって設定された車両運動モデルに基づいて、仲裁部31が設定した車両運動を実現するための車体挙動(例えば、車速、加減速、ヨーレイト、ヨー角加速度、ヨーモーメント等)を算出する。
【0018】
車輪挙動制御部34は、車体挙動制御部33が算出した車体挙動を自車両1に発生させるための車輪の制御量(転舵角、制動量、駆動量等)を算出し、アクチュエータ18により車輪挙動を制御する。
例えば、自動運転レイヤ30の機能は、
図1に示す自動運転制御部20が担い、仲裁部31の機能は入力仲裁部21が担い、規範モデル部32、車体挙動制御部33及び車輪挙動制御部34の機能は、車両制御部22が担ってよい。
【0019】
次に、
図3を参照して自動運転制御部20の機能構成の一例を説明する。自動運転制御部20は、定位部(Localization)40と、目的地設定部41(Destination Setting)と、経路計画部(Route Planning)42と、行動決定部(Decision Making)43と、運転ゾーン計画部(Drive Zone Planning)44と、軌道生成部(Trajectory)45を備える。
【0020】
定位部40は、物体センサ11の検出信号に基づいて自車両1の周囲環境を認識する。定位部40は、認識結果と地図データベース14の高精度地図との間のマップマッチングにより、高精度地図上の自車両1の現在位置を判断する。
また、周囲環境の認識結果に基づいて、自車両1の周囲環境のモデルであるローカルモデル(Local Model)47が生成される。さらに、ローカルモデル47と、高精度地図と、ナビゲーション装置15の道路情報や交通情報とを融合することによって、ワールドモデル(World Model)46が生成される。
【0021】
目的地設定部41は、ナビゲーション装置15を介した運転者の操作入力に基づいて自車両1の目的地を設定する。
経路計画部42は、ナビゲーション装置15の道路情報に基づいて、現在位置から目的地までの予定走行経路を演算する。
行動決定部43は、周囲環境の認識結果と、自車両1の現在位置と、ワールドモデル46と、予定走行経路とに基づいて、走行支援装置10により実行する自車両1の運転行動計画を決定する。
【0022】
運転行動には、例えば、自車両1の停止、一時停止、走行速度、減速、加速、進路変更、右折、左折、直進、合流区間や複数車線における車線変更、車線維持、追越、障害物への対応などの行動が含まれる。
行動決定部43は、自車両1の現在位置及び姿勢と、自車両1の周囲環境と、ワールドモデル46とに基づいて、自車両1の運転行動計画を生成する。
【0023】
運転ゾーン計画部44は、生成した運転行動計画と、自車両1の運動特性、ローカルモデル47に基づいて、自車両1を走行させることができる領域である運転ゾーンを算出する。
軌道生成部45は、運転ゾーン計画部44が算出した運転ゾーン内を自車両1が走行するように、自車両1の目標走行軌道と目標速度プロファイルを生成する。
【0024】
図1を参照する。入力仲裁部21は、自動運転制御部20が設定した目標走行軌道及び目標速度プロファイルの自動運転入力と運転者による手動運転入力とを仲裁して、自車両1が行うべき車両運動を設定する。
車両制御部22は、入力仲裁部21により設定された車両運動を実現するように自車両1の挙動を制御する。
【0025】
次に、車両制御部22による転舵制御について説明する。自車両1が走行する道路の道路形状は、曲率が変化する過渡形状と、曲率が変化しない定常形状とに分類できる。例えば単一のカーブ区間であっても曲率が連続的に変化する道路形状と、曲率が一定である道路形状が存在する。あるいは、直線区間からカーブ区間へ進入する区間、あるいはカーブ区間から直線区間へ進入する区間においては曲率が変化する。
過渡形状を有する道路(例えば、曲率が大きく変化する道路)を自車両1が走行する場合には、曲率変化に応じて自車両に発生させる横力を変化させる必要がある。このため、小さな転舵角で大きな横力が得られるように自車両1の回頭性が高いことが好ましい。旋回に要する転舵角が小さいことでアクチュエータ18の駆動量が少なくて済み、アクチュエーションの遅れが小さくなる。このため車両の旋回挙動の遅れも小さくなる。
【0026】
また、過渡形状を有する道路を走行する場合には、自車両1の挙動が安定するように追加操舵や修正操舵を行うことがある。このため、旋回中の転舵角を低減することにより、追加操舵や修正操舵のための余裕ができる。
一方で、定常形状を有する道路(例えば、曲率変化が小さい道路を含んでもよい)を自車両1が走行する場合には、曲率変化がないため(又は曲率変化が小さいため)回頭性よりも安定性が高いことが好ましい。
【0027】
そこで、車両制御部22は、自車両1が走行する予定の道路の道路形状が過渡形状であるか否かを判定し、道路形状が過渡形状であると判定した場合に過渡形状でないと判定した場合に比べて転舵角が低減するように、自車両1のスリップ角の目標値である目標スリップ角βREQを算出する。
また、車両制御部22は、道路形状が定常形状であるか否かを判定し、道路形状が定常形状であると判定した場合に定常形状でないと判定した場合に比べて、後輪2RR、2RLに掛かる荷重である後輪荷重を増加するように、目標スリップ角βREQを算出する。例えば、車両制御部22は、自車両1の車体の前後方向が自車両1の進行方向よりも旋回方向へずれた状態である内向き状態となるように、目標スリップ角βREQを算出してよい。
車両制御部22は、道路形状に沿って走行するために自車両1に生じる目標横力FyREQを発生し且つ自車両1のスリップ角が目標スリップ角βREQとなるように前輪2FR、2FL及び後輪2RR、2RLの転舵制御を実行する。
【0028】
これにより、自車両1が走行する予定の道路の道路形状が過渡形状である場合に、より小さな転舵角で旋回するように自車両1のスリップ角が制御されるので、自車両1の回頭性を向上できる。
また、自車両1が走行する予定の道路の道路形状が定常形状である場合に、後輪荷重を増加するように自車両1のスリップ角が制御されるので、後輪で発生する横力が増加して自車両1の安定性を向上できる。
【0029】
以下、車両制御部22の詳細を説明する。
図4は、車両制御部22の機能構成の一例を示すブロック図である。車両制御部22は、目標ヨー角加速度算出部50と、乗算器51、56、57、59と、目標ヨーレイト算出部52と、基準スリップ角算出部53と、拡張スリップ角算出部54と、道路形状判定部55と、加算器58と、減算器60と、目標横力算出部61と、転舵角算出部62を備える。
【0030】
車両制御部22は、入力仲裁部21から要求された自車両1の車両運動に基づいて、自車両1が走行する予定の道路の道路形状に沿って自車両1を旋回させるための目標横力Fy
REQを設定する。
例えば、
図3の軌道生成部45が、自車両1が走行する予定の道路の道路形状に沿って自車両1を走行させる目標走行軌道を生成し、車両制御部22が、目標走行軌道の曲率と自車両1の車速Vとに基づいて、目標走行軌道に沿って自車両1を走行させる目標横力Fy
REQを設定してよい。
【0031】
目標ヨー角加速度算出部50は、目標横力FyREQと車速Vに基づいて、自車両1に発生させるヨー角加速度の目標値である目標ヨー角加速度r’REQを算出する。乗算器51は、目標ヨー角加速度r’REQに自車両1の慣性モーメントIzを乗算して、自車両1の目標ヨーモーメントMzREQを算出する。
目標ヨーレイト算出部52は、目標横力FyREQと車速Vに基づいて、自車両1に発生させるヨーレイトの目標値である目標ヨーレイトrREQを算出する。
【0032】
基準スリップ角算出部53は、前輪2FR、2FLを転舵することにより自車両1に発生させるスリップ角である基準スリップ角G
β
fy・Fy
REQを算出する。基準スリップ角G
β
fy・Fy
REQは、特許請求の範囲に記載の「第1スリップ角」の一例である。
例えば、基準スリップ角G
β
fy・Fy
REQを、自車両1を内向き状態する方向の角度としてもよい。自車両1を内向き状態すると後輪荷重が増加して自車両1の安定性を向上できる。
図5を参照する。実線70は自車両1の進行方向を示し、破線71は自車両1の車体の前後方向を示し、矢印72は旋回中に自車両1の車体に働く遠心力を示し、矢印73は自車両1を旋回させる向心力を示す。
図5に示す内向き状態では、車体に働く遠心力72が、車体の前後方向の後ろ向きの成分74を有するので、後輪荷重が増加する。
【0033】
基準スリップ角G
β
fy・Fy
REQを算出する場合、例えば、基準スリップ角算出部53は、後輪2RR、2RLに発生する横力の目標上限値である後輪横力上限値Fy’
RAを設定してよい。
例えば基準スリップ角算出部53は、自車両1の自動運転制御において許容される最大許容前後加速度Gx
AD及び最大許容横加速度Gy
ADと、路面の摩擦係数μに基づいて、後輪横力上限値Fy’
RAを設定してよい。
具体的には、次式(1)を満たすように後輪横力上限値Fy’
RAを設定してよい。
【数1】
式(1)においてmは自車両1の質量、gは重力加速度、lはホイールベース長であり、l
Fは車両重心から前輪軸までの長さである。係数K
pは、前後加速度により生じる荷重変化量と前後加速度との間の比例係数であり、車両に応じて設定される。
【0034】
次に、基準スリップ角算出部53は、後輪横力上限値Fy’
RAに応じて後輪2RR、2RLのコーナリングスティフネスの規範値である規範コーナリングスティフネスCp
Rearを算出する。
図6を参照する。曲線75は、自車両1の後輪2RR、2RLのスリップ角βと後輪横力との関係を表すタイヤの非線形特性線である。非線形特性線75は、自車両1の車両諸元と後輪2RR、2RLのタイヤに応じて予め設定する。なお、図中のFy’maxは、後輪2RR、2RLの摩擦限界における発生横力である。
【0035】
基準スリップ角算出部53は、非線形特性線75において後輪横力が後輪横力上限値Fy’
RAとなる点と原点とを結ぶ直線との傾きを、規範コーナリングスティフネスCp
Rearとして算出する。
すなわち、非線形特性線75において後輪横力が後輪横力上限値Fy’
RAとなるスリップ角βをβmとすると、Cp
Rear=Fy’
RA/βmとなる。
基準スリップ角算出部53は、規範コーナリングスティフネスCp
Rearと目標横力Fy
REQと車速Vとに応じて、次式(2)に基づいて基準スリップ角G
β
fy・Fy
REQを算出する。
【数2】
式(2)においてl
Rは車両重心から後輪軸までの長さである。
【0036】
図4を参照する。拡張スリップ角算出部54は、後輪2RR、2RLを転舵することにより自車両1に発生させるスリップ角である拡大スリップ角Ge
β
fy・Fy
REQを算出する。拡大スリップ角Ge
β
fy・Fy
REQは、特許請求の範囲に記載の「第2スリップ角」の一例である。
拡大スリップ角Ge
β
fy・Fy
REQは、自車両1を内向き状態する方向の角度としてもよい。
拡張スリップ角算出部54は、基準スリップ角G
β
fy・Fy
REQと同様の算出方法によって、拡大スリップ角Ge
β
fy・Fy
REQを算出してよい。
例えば、拡張スリップ角算出部54は、前輪2FR、2FLに発生する横力の目標上限値である前輪横力上限値Fy’
FAを設定してよい。拡張スリップ角算出部54は、最大許容前後加速度Gx、最大許容横加速度Gy、摩擦係数μに基づいて前輪横力上限値Fy’
FAを設定してよい。
具体的には、次式(3)を満たすように前輪横力上限値Fy’
FAを設定してよい。
【数3】
【0037】
拡張スリップ角算出部54は、後輪2RR、2RLの規範コーナリングスティフネスCp
Rearと同様の算出方法によって、前輪横力上限値Fy’
FAと、前輪2FR、2FLのタイヤの非線形特性線とに基づいて前輪2FR、2FLのコーナリングスティフネスの規範値である規範コーナリングスティフネスCp
Frontを算出する。
拡張スリップ角算出部54は、規範コーナリングスティフネスCp
Frontと目標横力Fy
REQと車速Vとに応じて、次式(4)に基づいて拡大スリップ角Ge
β
fy・Fy
REQを算出する。
【数4】
【0038】
拡張スリップ角算出部54は、拡大スリップ角Ge
β
fy・Fy
REQと基準スリップ角G
β
fy・Fy
REQとの差分である次式(5)のスリップ角差分ΔG
β
fy・Fy
REQを算出する。
【数5】
【0039】
上式(5)のAは、次式(6)で与えられるスタビリティファクタである。
【数6】
【0040】
乗算器59は、スリップ角差分ΔG
β
fy・Fy
REQに拡張スリップ角ゲインλ
βを乗算し、減算器60は、その積λ
β・ΔG
β
fy・Fy
REQを基準スリップ角G
β
fy・Fy
REQから減じることより次式(7)の目標スリップ角β
REQを算出する。
【数7】
上式(7)から分かるとおり、目標スリップ角β
REQは、拡張スリップ角ゲインλ
βにより設定される配分比率(1-λ
β):λ
βによって基準スリップ角G
β
fy・Fy
REQと拡大スリップ角Ge
β
fy・Fy
REQとを配分することによって得られる。
【0041】
ここで、目標横力FyREQを発生しつつ前輪転舵角δFと後輪転舵角δRとを低減できる目標スリップ角βREQを与える拡張スリップ角ゲインλβとして、第1拡張スリップ角ゲインλβ1を設定する。例えば、目標横力FyREQを発生しつつ前輪転舵角δFと後輪転舵角δRとを最小化できる第1拡張スリップ角ゲインλβ1を設定してよい。
前輪転舵角δFと後輪転舵角δRとを最小化するには、評価関数J=KFδF+KRδRを最小にすればよい。この評価関数Jは、前輪転舵角δFと後輪転舵角δRの重み付け和である。
KF、KRは、KF+KR=1となるように定められた重み付け係数であり、例えばKF=KR=0.5であってよい。実際に実現可能な後輪転舵角δRの上限が前輪転舵角δFの上限とよりも小さい場合には、KF>KRであってよい。
【0042】
第1拡張スリップ角ゲインλ
β1の設定の際に、規範コーナリングスティフネスCp
Front、Cp
Rearは、前輪2FR、2FL及び後輪2RR、2RLの実コーナリングスティフネスC
F、C
Rと略等しいと近似する(Cp
Front≒C
F、Cp
Rear≒C
R)。
前輪転舵角δ
F、後輪転舵角δ
Rと、目標スリップ角β
REQは次式(8)及び(9)により得られる。
【数8】
【0043】
評価関数J=K
Fδ
F+K
Rδ
Rを最小化するためにJ≒0とすると、次式(10)が得られる。
【数9】
簡単のため、Mz
REQ≒0とすれば次式(11)が得られてλ
β1≒K
Fとなる。
【数10】
このように、第1拡張スリップ角ゲインλ
β1は評価関数J=K
Fδ
F+K
Rδ
Rの重み係数K
Fと等しい値に設定してよい。上記のとおり重み係数K
Fは例えば0.5であってよい。
【0044】
次に、後輪2RR、2RLに掛かる後輪荷重を増加する目標スリップ角βREQを与える拡張スリップ角ゲインλβとして、第2拡張スリップ角ゲインλβ2を設定する。
この場合には、上式(7)のλβ・ΔGβ
fyが最大となる拡張スリップ角ゲインλβを第2拡張スリップ角ゲインλβ2として設定すればよい。
例えば、第2拡張スリップ角ゲインλβ2は、λβ・ΔGβ
fyが最大となるように、λβ2=1に設定してよい。
λβ2=1に設定すると、後輪転舵角δRが実際に実現可能な上限を越える場合には、後輪転舵角δRが上限となる拡張スリップ角ゲインλβを第2拡張スリップ角ゲインλβ2として設定してもよい。
【0045】
道路形状判定部55は、自車両1がこれから走行する予定の道路の曲率の情報である道路曲率情報に基づいて、自車両1がこれから走行する予定の道路の道路形状が、曲率が変化しない定常形状であるか、曲率が変化する過渡形状であるかを判定する。
道路形状判定部55は、道路形状が定常形状である度合いを表す定常形状係数Ksと道路形状が過渡形状である度合いを表す過渡形状係数Ktとを算出する。定常形状係数Ks及び過渡形状係数Ktは、0~1の範囲の値を有する正規化された係数であり、Ks=(1-Kt)の関係を有する。道路形状判定部55の詳細は後述する。
【0046】
乗算器56、57は、過渡形状係数Ktと定常形状係数Ksを第1拡張スリップ角ゲインλβ1に第2拡張スリップ角ゲインλβ2それぞれ乗算し、加算器58はこれらの積Kt・λβ1及びKs・λβ2の和(Kt・λβ1+Ks・λβ2)を拡張スリップ角ゲインλβとして算出する。
したがって、過渡形状である度合いが高く過渡形状係数Ktが1に近い場合には、拡張スリップ角ゲインλβは第1拡張スリップ角ゲインλβ1に近くなる。このため、上式(7)の目標スリップ角βREQは、目標横力FyREQを発生しつつ前輪転舵角δFと後輪転舵角δRとを低減できるスリップ角となる。
【0047】
一方で、定常形状である度合いが高く定常形状係数Ksが1に近い場合には、拡張スリップ角ゲインλβは第2拡張スリップ角ゲインλβ2に近くなる。このため目標スリップ角βREQは、後輪荷重を増加できるスリップ角となる。
また、道路形状が、定常形状よりも過渡形状に近い場合には、過渡形状よりも定常形状に近いと判定した場合に比べて転舵角が低減するように目標スリップ角βREQが算出される。
道路形状が、過渡形状よりも定常形状に場合には、定常形状よりも過渡形状に近いと判定した場合に比べて後輪荷重を増加するように目標スリップ角βREQが算出される。
【0048】
図7は、道路形状判定部55の機能構成の一例を示すブロック図である。道路形状判定部55は、道路曲率情報として、自車両1がこれから走行する予定の道路の曲率の標準偏差RhoStdと、左最大曲率RhoMaxと、右最大曲率RhoMinと、歪度SQNを入力する。
左最大曲率RhoMaxは、自車両1がこれから走行する予定の道路の左カーブの最大曲率である。右最大曲率RhoMinは、自車両1がこれから走行する予定の道路の右カーブの最大曲率である。
【0049】
標準偏差RhoStdは、自車両1がこれから走行する予定の道路上の各点における曲率を集めた集合の分布である曲率分布の標準偏差であり、歪度SQNは曲率分布の歪度である。
歪度は、曲率分布が正規分布からどれだけ逸脱しているかを表し、歪度が大きいほど道路形状が過渡形状に近くなり、歪度が小さいほど道路形状が定常形状に近くなる。
道路形状判定部55は、基準曲率算出部80と、有次元化81と、曲率成分変換部82と、係数演算部83を備える。
【0050】
基準曲率算出部80は、自車両1の走行シーンを判定する際に基準とする基準曲率RhoRefを次式(12)に基づき算出する。
RhoRef=KPTC・Gmax・g/V2 …(12)
記号KPTCは、ベースゲインであり、記号Gmaxは自動運転レイヤ30に設定された最大許容横加速度である。
【0051】
有次元化81は、無次元量である歪度SQNを、標準偏差RhoStdと、左最大曲率RhoMaxと、右最大曲率RhoMinとに基づいて、曲率と同じ単位を有する値RhoSQNに有次元化する。例えば、有次元化81は、次式(13)~(15)に基づき歪度SQNを有次元化してよい。
RhoSQNL=3・RhoStd・|sign(RhoMax)|・max(SQN,0) …(13)
RhoSQNR=3・RhoStd・|sign(RhoMin)|・min(SQN,0) …(14)
RhoSQN=RhoSQNL+RhoSQNR …(15)
【0052】
曲率成分変換部82は、有次元化された歪度RhoSQNと、標準偏差RhoStdとが0~1の範囲の値を有するように、基準曲率RhoRefを用いて正規化する(無次元化する)。
例えば、曲率成分変換部82は、次式(16)及び(17)に基づいて、歪度RhoSQNを正規化した正規化歪度NormRhoSQNと標準偏差RhoStdを正規化した正規化標準偏差NormRhoStdを算出する。
NormRhoSQN=RhoSQN/RhoRef …(16)
NormRhoStd=RhoStd/RhoRef …(17)
【0053】
係数演算部83は、正規化歪度NormRhoSQNと正規化標準偏差NormRhoStdに基づき、次式(18)及び(19)に従って定常形状係数K
s及び過渡形状係数K
tを算出する。
K
t=max(NormRhoSQN,NormRhoStd) …(18)
K
s=1-K
t …(19)
なお、道路形状判定部55の構成は、
図7に例示した構成に限定されるものではない。道路形状判定部55は、道路形状が定常形状である度合いを表す定常形状係数Ksと道路形状が過渡形状である度合いを表す過渡形状係数Ktとを算出できれば、様々な構成、手法を採用できる。
【0054】
図4を参照する。目標横力算出部61は、目標横力Fy
REQと目標ヨーモーメントMz
REQとを自車両1に付与するのに要する目標前輪横力Fy
F及び目標後輪横力Fy
Rを算出する。
転舵角算出部62は、目標前輪横力Fy
F及び目標後輪横力Fy
Rと、目標ヨーレイトr
REQと、目標スリップ角β
REQに基づいて、これらの目標値を達成する前輪の目標転舵角δ
F及び後輪の目標転舵角δ
Rを算出する。例えば転舵角算出部62は、自車両1の車両運動モデルに基づいて、前輪の目標転舵角δ
F及び後輪の目標転舵角δ
Rを算出してよい。
アクチュエータ18に含まれる転舵アクチュエータは、前輪2FR、2FL及び後輪2RR、2RLの転舵角がそれぞれ目標転舵角δ
F及びδ
Rとなるように、前輪2FR、2FL及び後輪2RR、2RLを転舵する。
【0055】
なお、上記の実施形態では、道路形状が定常形状であると判定した場合に後輪荷重を増加するような目標スリップ角βREQを算出したが、本発明はこのような形態に限定されない。例えば、道路形状判定部55は、定常形状係数Ksを算出しなくてもよく、乗算器57及び加算器58を省略してもよい。
またこの場合、基準スリップ角Gβ
fy・FyREQと拡大スリップ角Geβ
fy・FyREQのいずれか一方又は両方は、自車両1の車体の前後方向が自車両1の進行方向よりも旋回方向の反対側へずれた状態である外向き状態にする方向の角度であってもよい。例えば、目標スリップ角βREQは、自車両1を外向き状態にする方向の角度であってもよい。目標スリップ角βREQは、目標横力FyREQを発生しつつ前輪転舵角δFと後輪転舵角δRを低減できるスリップ角であれば足りる。
【0056】
(動作)
図8は、実施形態の走行支援方法の一例のフローチャートである。
ステップS1において車両制御部22は、自車両1が走行する予定の道路の道路形状に沿って自車両1を旋回させるための目標横力Fy
REQを設定する。
ステップS2において目標ヨー角加速度算出部50、乗算器51、目標ヨーレイト算出部52は、目標ヨー角加速度r’
REQ、目標ヨーモーメントMz
REQ、目標ヨーレイトr
REQをそれぞれ算出する。
ステップS3において目標横力算出部61は、目標横力Fy
REQと目標ヨーモーメントMz
REQとを自車両1に付与するのに要する目標前輪横力Fy
F及び目標後輪横力Fy
Rを算出する。
ステップS4において基準スリップ角算出部53は、基準スリップ角G
β
fy・Fy
REQを算出する。
ステップS5において拡張スリップ角算出部54は、拡大スリップ角Ge
β
fy・Fy
REQを算出する。
ステップS6において道路形状判定部55は、自車両1がこれから走行する予定の道路の道路形状を判定して、過渡形状係数Ktと定常形状係数Ksを算出する。
ステップS7において乗算器56、57と加算器58は、拡張スリップ角ゲインλ
βを算出する。
【0057】
ステップS8において乗算器59と減算器60は、目標スリップ角βREQを算出する。
ステップS9において転舵角算出部62は、目標前輪横力FyF及び目標後輪横力FyRと、目標ヨーレイトrREQと、目標スリップ角βREQを達成する前輪の目標転舵角δF及び後輪の目標転舵角δRを算出する。
ステップS10においてアクチュエータ18は、前輪2FR、2FL及び後輪2RR、2RLの転舵角がそれぞれ目標転舵角δF及びδRとなるように、前輪2FR、2FL及び後輪2RR、2RLを転舵する。その後に処理は終了する。
【0058】
(実施形態の効果)
(1)コントローラ17は、自車両1が走行する予定の道路の道路形状の情報を取得し、道路形状に沿って自車両1が走行するために自車両1に生じる目標横力を設定し、道路形状が、曲率が変化する過渡形状であるか否かを判定し、道路形状が過渡形状であると判定した場合に過渡形状でないと判定した場合に比べて転舵角が低減するように、自車両1のスリップ角の目標値である目標スリップ角を算出し、目標横力を発生し且つ自車両1のスリップ角が目標スリップ角となるように転舵角を算出する。アクチュエータ18は、コントローラ17が算出した転舵角となるように前輪及び後輪を転舵する。
これにより、自車両1が走行する予定の道路の道路形状が過渡形状である場合に、より小さな転舵角で旋回するように自車両1のスリップ角が制御されるので、自車両1の回頭性を向上できる。
【0059】
(2)目標スリップ角は、前輪の転舵により自車両1に発生させるスリップ角である第1スリップ角と、後輪の転舵により自車両1に発生させるスリップ角である第2スリップ角と、により発生させてよい。
コントローラ17は、転舵角を低減するように第1スリップ角と第2スリップ角との間の配分比率を設定し、第1スリップ角と第2スリップ角を配分比率で配分することにより目標スリップ角を算出してもよい。
これにより、前輪及び後輪の転舵を用いて目標スリップ角を実現できる。
【0060】
(3)コントローラ17は、前輪の転舵角と後輪の転舵角の重み付け和が最小になるように配分比率を設定してよい。これにより、転舵角が最小となる目標スリップ角を算出できる。
(4)コントローラ17は、道路形状が過渡形状である度合いを表す過渡形状係数を算出し、配分比率と過渡形状係数の積とに応じて、目標スリップ角を変化させてもよい。これにより、過渡形状である度合いに応じて段階的に目標スリップ角を設定できる。
【0061】
(5)コントローラ17は、車輪に発生させる横力の上限値である横力上限値を設定し、横力上限値に応じてコーナリングスティフネスの規範値である規範コーナリングスティフネスを設定し、目標横力を規範コーナリングスティフネスで除算した値に応じて第1スリップ角又は第2スリップ角を設定してよい。これにより、第1スリップ角又は第2スリップ角を、自車両1のタイヤの特性に応じて設定できる。
(6)コントローラ17は、道路形状が、曲率が変化しない定常形状よりも過渡形状に近いと判定した場合に、過渡形状よりも定常形状に近いと判定した場合に比べて転舵角が低減するように目標スリップ角を算出してもよい。これにより、道路形状に応じて段階的に目標スリップ角を設定できる。
【符号の説明】
【0062】
1…自車両、10…走行支援装置、11…物体センサ、12…車両センサ、13…測位装置、14…地図データベース、15…ナビゲーション装置、17…コントローラ、18…アクチュエータ、50…目標ヨー角加速度算出部、51、56、57、59…乗算器、52…目標ヨーレイト算出部、53…基準スリップ角算出部、54…拡張スリップ角算出部、55…道路形状判定部、58…加算器、60…減算器、61…目標横力算出部、62…転舵角算出部