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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】トンネル内の温度推定方法
(51)【国際特許分類】
   E21F 17/00 20060101AFI20240628BHJP
   E21F 1/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
E21F17/00
E21F1/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021180060
(22)【出願日】2021-11-04
(65)【公開番号】P2023068759
(43)【公開日】2023-05-18
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦越 拓野
(72)【発明者】
【氏名】嶋本 敬介
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/071925(WO,A1)
【文献】特開2012-122896(JP,A)
【文献】特開2019-132635(JP,A)
【文献】特開2012-057993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21F 1/00-17/18
E21D 1/00- 9/14
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
G01M 13/00-13/045
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの坑口付近の坑口温度からトンネル内の坑内温度を推定するトンネル内の温度推定方法であって、
前記坑口温度及び前記坑内温度の実測データをフーリエ変換して実測振幅比を算出することで振幅比モデルを作成するステップと、
推定対象トンネルの前記坑口温度を取得するステップと、
前記推定対象トンネルの前記坑口温度と前記振幅比モデルとに基づいて、前記推定対象トンネルの前記坑内温度を推定するステップとを備え
前記坑内温度の推定は、前記推定対象トンネルの前記坑口温度のフーリエ変換と前記振幅比モデルとを周波数毎に掛け合わせた結果を、逆フーリエ変換することで行われることを特徴とするトンネル内の温度推定方法。
【請求項2】
前記振幅比モデルは、条件の異なる複数のトンネルにおいて作成され、
前記推定対象トンネルと最も類似しているトンネルの前記振幅比モデルに基づいて、前記推定対象トンネルの前記坑内温度の推定が行われることを特徴とする請求項1に記載のトンネル内の温度推定方法。
【請求項3】
前記条件には、トンネルを通過する列車に関する情報が含まれることを特徴とする請求項2に記載のトンネル内の温度推定方法。
【請求項4】
前記坑内温度は、坑口からの距離に応じて推定されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のトンネル内の温度推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの坑口付近の坑口温度からトンネル内の坑内温度を推定するトンネル内の温度推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル内の温度推定手法として、トンネルの坑口付近の坑口温度が利用できることが知られている。非特許文献1には、坑口温度を参照するとともに、道路トンネル内の路面温度を、天空が完全に遮蔽されている状態の熱収支モデルから推定する手法が開示されている。
【0003】
非特許文献2には、トンネルの坑口温度である外気温が正弦波で変化する場合に、トンネル内の気温を、年平均気温と温度の年振幅とトンネル内の延長距離に応じた振幅と位相遅れなどの各パラメータを用いて推定する手法が示されている。また、非特許文献3には、鉄道トンネル内の覆工内の温度の推定を対象として、非特許文献2と同様の手法でトンネル内の温度を推定する方法が開示されている。
【0004】
一方、非特許文献4には、鉄道トンネル内の温度等を、数値シミュレーションにより、列車通過を考慮して推定する手法が開示されている。この手法は、精緻な推定が可能となる手法ではあるが、数値シミュレーションを用いるため、モデル化や解析に時間を要する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】高橋外2名、「道路トンネルの路面温度分布特性把握と路面温度推定手法の基礎検討」、土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)、p.307-308、2010年9月
【文献】須藤外3名、「寒冷地トンネル内の気温変動について」、トンネル工学研究論文・報告集 第10巻、pp.251-256、2000年11月
【文献】岡田外1名、「鉄道トンネルにおける凍結深度の実態とトンネル内気温の周期的変化に対するその解析」、土木学会論文集 第424号/III-14、pp.179-186、1990年12月
【文献】斉藤外2名、「鉄道トンネル内の流れ・温熱シミュレーション」、日本AEM学会誌、Vol.22,No.1(2014)、p.13-18、2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1-3の手法は、いずれも列車通過により坑内の空気が混合することなど、トンネルによって異なる状況を考慮していない。また、非特許文献4の精緻な推定手法を、全国に多数が存在するトンネルに適用することは、現実的には難しい。
【0007】
そこで、本発明は、様々なトンネルの状況を取り込むことが可能なうえに、簡易に実行することができるトンネル内の温度推定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のトンネル内の温度推定方法は、トンネルの坑口付近の坑口温度からトンネル内の坑内温度を推定するトンネル内の温度推定方法であって、前記坑口温度及び前記坑内温度の実測データをフーリエ変換して実測振幅比を算出することで振幅比モデルを作成するステップと、推定対象トンネルの前記坑口温度を取得するステップと、前記推定対象トンネルの前記坑口温度と前記振幅比モデルとに基づいて、前記推定対象トンネルの前記坑内温度を推定するステップとを備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、前記振幅比モデルは、条件の異なる複数のトンネルにおいて作成され、前記推定対象トンネルと最も類似しているトンネルの前記振幅比モデルに基づいて、前記推定対象トンネルの前記坑内温度の推定が行われる構成とすることができる。また、前記条件には、トンネルを通過する列車に関する情報が含まれることが好ましい。
【0010】
さらに、前記坑内温度は、坑口からの距離に応じて推定されることが好ましい。そして、前記坑内温度の推定は、前記推定対象トンネルの前記坑口温度のフーリエ変換と前記振幅比モデルとを周波数毎に掛け合わせた結果を、逆フーリエ変換することで行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明のトンネル内の温度推定方法は、坑口温度及び坑内温度の実測データをフーリエ変換して実測振幅比を算出することで振幅比モデルを作成する。そして、推定対象トンネルの坑口温度と振幅比モデルとに基づいて、推定対象トンネルの坑内温度を推定する。
【0012】
このため、列車が通過する速度や密度など、トンネルによって異なる様々なトンネルの状況を取り込むことが可能となるうえに、フーリエ変換を使った処理のため簡易に実行することができる。
【0013】
また、予め条件の異なる複数のトンネルにおいて振幅比モデルを作成しておくことで、推定対象トンネルと最も類似しているトンネルを選べば、推定対象トンネルの振幅比モデルが作成されていなくても、坑内温度の推定を行うことが簡単にできる。
【0014】
特に、トンネルの条件に、列車速度や1日に通過する列車の本数(列車密度)などの情報が含まれていれば、鉄道トンネルの坑内温度の推定を、列車通過を考慮したうえで簡易に行うことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施の形態のトンネル内の温度推定方法の手順を説明するフローチャートである。
図2】トンネル内の温度推定方法の概要を示した説明図である。
図3】時系列の温度の実測データをフーリエ変換する処理の概要を示した説明図である。
図4】フーリエ変換した坑口温度と坑内温度から実測振幅比を算出する処理の概要を示した説明図である。
図5】実測振幅比を例示する図であって、(a)は算出されたプロットをフィッティングした説明図、(b)は上方包絡線でフィッティングした説明図、(c)は下方包絡線でフィッティングした説明図である。
図6】推定対象トンネルの坑内温度の推定方法の概要を示した説明図である。
図7】本実施の形態のトンネル内の温度推定方法の適用結果を振幅比モデルで示した説明図である。
図8図7の拡大範囲を拡大して示した説明図である。
図9】本実施の形態のトンネル内の温度推定方法の適用結果を示した図であって、(a)は推定された坑内温度の時系列データを示したグラフ、(b)は(a)の拡大範囲を拡大して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態のトンネル内の温度推定方法の手順を説明するフローチャートである。また図2は、トンネル内の温度推定方法の概要を示した説明図である。
【0017】
トンネルには、鉄道トンネル、道路トンネル、人道トンネルなどがあるが、本実施の形態のトンネル内の温度推定方法は、いずれのトンネルであっても適用することができる。特に、鉄道トンネルや道路トンネルのように、トンネル内を列車や車両が通過することによって、坑内の空気が混合されて温度(気温)に影響を与えるようなトンネルに適用するのが好ましい。
【0018】
例えば、鉄道トンネルには、れんが覆工のトンネルが現存しているが、れんが覆工は、寒冷地の凍結融解の繰り返しによって劣化することがある。このため、列車の通過を考慮したうえで、簡易かつ精度よく、トンネル内の様々な位置の温度を推定することは重要である。
【0019】
本実施の形態のトンネル内の温度推定方法では、図2に示すように、アメダスなどによって得られるトンネルの現地の外気温を、トンネルの坑口付近の坑口温度として、そこからトンネル内の坑内温度を推定する。
【0020】
トンネルは、短いものであれば全長に亘って同じ坑内温度とすることもできるが、長いトンネルになれば、坑口からの距離zによって坑内温度は異なることになる。そこで、坑内温度は、坑口からの距離zに応じて推定できるようにする。
【0021】
以下では、本実施の形態のトンネル内の温度推定方法について、図1のフローチャートに示した順に説明を行う。
まず、ステップS1では、既往の振幅比モデルを活用することができるか否かを判定する。本実施の形態のトンネル内の温度推定方法は、少なくとも1つの振幅比モデルを使用するので、既往の振幅比モデルがない場合は、その作成から始める。
【0022】
ステップS31-S34は、振幅比モデルの作成ステップを示している。振幅比モデルは、トンネル内の坑内温度を推定する対象トンネル(推定対象トンネル)について作成することができる。また、条件の異なる様々なトンネルについて振幅比モデルを作成しておき、類似するトンネルの振幅比モデルを、推定対象トンネルの坑内温度の推定に利用することもできる。
【0023】
いずれにしろ振幅比モデルの作成方法は同じであるため、順を追って説明する。まず、ステップS31では、振幅比モデルを作成するトンネルの坑口温度及び坑内温度の実測データを収集する。
【0024】
例えば図2に示すように、坑口温度は、トンネルがある住所に近いアメダスの観測地点の気温データを、気象庁などから取得して利用することができる。例えば、1時間毎の気温データをアメダスから取得する。
【0025】
アメダスの気温データは、アメダスの観測点とトンネルの坑口との標高差によって、補正して利用することができる。また、トンネルの坑口付近や近隣において気温が測定されている場合は、その気温データを利用することができる。
【0026】
一方、坑内温度の実測データは、トンネル内に設置された温度計によって実際に測定された気温データを使用する。トンネル坑内の温度測定は、坑口からの距離zに応じて、複数の測点で測定するのが好ましい。坑内温度の実測データも、坑口温度の実測データと同様に、例えば1時間毎の測定データを取得する。
【0027】
図3の左側には、坑口温度と坑内温度の時系列の実測データを例示した。これらの時系列の温度データを、それぞれ高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)する(ステップS32)。
【0028】
フーリエ変換処理の結果から、図3の右側に示すように、振幅が大きくなる卓越周波数を抽出する。卓越周波数としては、1日周期の卓越周波数や、1年周期の卓越周波数などが抽出される。
【0029】
ここで、坑口温度のフーリエ変換は、1測点分のみが行われるが、坑内温度のフーリエ変換は、実測データを収集した測点の数だけ行われる。要するに、坑口からの距離zによって特定される測点の位置の数だけ、坑内温度のフーリエ変換が行われる。なお、坑口からの距離zに複数の温度計が設置されている場合は、平均値を使用することもできるし、それぞれの実測データをそのまま使用することもできる。
【0030】
図4は、フーリエ変換した坑口温度と坑内温度のスペクトルから、実測振幅比を算出する処理を説明する図である。例えば、坑口温度の振幅が大きくなる卓越周波数に着目して、(坑内温度の振幅)/(坑口温度の振幅)を、実測振幅比として算出する(ステップS33)。この実測振幅比の算出も、坑口からの距離zによって特定される測点の位置の数だけ行われる。
【0031】
続いて、トンネルの坑口からの距離zの位置で得られた卓越周波数fにおける実測振幅比を抽出し、図5(a)に示すように、横軸をf1/2×zとし、縦軸を実測振幅比としたグラフ上にプロットする。
【0032】
そして、プロットをフィッティングすることで、振幅比モデルを作成する(ステップS34)。
実測振幅比=A1×exp(-B1×f1/2×z)+A2×exp(-B2×f1/2×z)
ここで、A1,B1は、低周波側のフィッティングによって得られる定数、A2,B2は、高周波側のフィッティングによって得られる定数である。
【0033】
上記式の低周波側の項は、熱拡散による温度変化に対応し、高周波側の項は、列車通過による温度変化に対応すると考えられる。低周波側の熱拡散による温度変化とは、列車の通過などの空気を混合させる要因がない状況下で起きる温度変化である。
【0034】
さらに、プロットがばらつく場合は、目的に応じて、図5(b)に示すように上方を包絡する上方包絡線でフィッティングしたり、図5(c)に示すように下方を包絡する下方包絡線でフィッティングしたりすることができる。
【0035】
例えば、上方包絡線の振幅比モデルを使用することにより、坑内温度変化の振幅の上限を推定することができる。また、下方包絡線の振幅比モデルを使用することにより、坑内温度変化の振幅の下限を推定することができる。例えば、上方包絡線によって坑内温度を推定すれば、実際よりも過剰な温度変化が与えられる可能性が高くなり、凍結融解の繰り返しによる劣化の検証においては、工学的に安全側の評価ができるようになる。
【0036】
このようにして作成された振幅比モデルが、推定対象トンネルの坑内温度の推定に使用される。図1のステップS2は、既往の振幅比モデルが活用できる場合の処理である。すなわち、複数ある既往の振幅比モデル群の中から、推定対象トンネルに適した振幅比モデルを選定する。
【0037】
振幅比モデルは、条件の異なる複数のトンネルにおいて作成される。ここでいうトンネルの条件とは、トンネルの断面、鉄道トンネルであれば列車速度や列車密度など列車に関する情報などが該当する。トンネルの断面は、断面積で特定することもできるし、鉄道トンネルであれば単線用、複線用といった区分けもできる。
【0038】
また、鉄道トンネルであれば、在来線で使用されるトンネルか、新幹線で使用されるトンネルかによっても区分けできる。列車密度は、1日にトンネルを通過する列車の本数などで特定することができる。
【0039】
ステップS2では、このようにして特定される条件の異なる複数のトンネルの振幅比モデルの中から、推定対象トンネルと最も類似しているトンネルを選定する。条件だけでは最も類似しているトンネルの判定が難しい場合は、推定対象トンネルにおける既知の坑口温度と坑内温度の実測データを使用して、最も推定結果が近くなる振幅比モデルを選定することもできる。
【0040】
推定対象トンネルの予測に使用する振幅比モデルが決定した後には、温度推定ステップ(ステップS41,S42)に移行する。図6は、推定対象トンネルの坑内温度の推定方法の概要を示した説明図である。
【0041】
図6の左上には、推定対象トンネルの坑口地点のアメダスの気温データや、坑口付近に設置された温度計などから取得される坑口温度の実測データを例示している(ステップS41)。なお、将来予測を行う場合は、坑口温度は予測データになる。このようにして取得された1時間毎の坑口温度の時系列データは、フーリエ変換されて、周波数と振幅のスペクトルとして出力される。
【0042】
一方、図6の右上には、選定された振幅比モデル(振幅比を算出するための数式)が示されている。推定対象トンネルの坑内温度の推定は、坑口からの距離z毎に行われるので、当該距離zを振幅比モデルに代入することで、振幅比モデルによる振幅比を得る。
【0043】
そして、ステップS42のトンネルの坑内温度の推定では、フーリエ変換された推定対象トンネルの坑口温度と、距離zに対応する振幅比とを、周波数毎に掛け合わせる。この演算処理によって、トンネルの坑口からの距離zにおけるフーリエ変換の推定結果が得られる。
【0044】
フーリエ変換の推定結果では、坑内温度に直結していないので、逆変換(逆高速フーリエ変換(IFFT:Inverse Fast Fourier Transform))をして、トンネル坑口からの距離zにおける坑内温度の時系列の推定結果を出力する(図6の最下図参照)。
【0045】
次に、本実施の形態のトンネル内の温度推定方法の適用結果について説明する。
図7は、適用結果を振幅比モデルで示した説明図であり、図8は、図7の拡大範囲を拡大して示した説明図である。
【0046】
図7は、トンネルの坑口からの距離zに応じた振幅比モデルを、縦軸を振幅比の対数にして図示している。このグラフには、1年周期の卓越周波数における実測振幅比と、1日周期の卓越周波数における実測振幅比とが、実測値としてプロットされている。この図を見ると、振幅比モデルが、全体的に実測値によくフィッティングされていることが分かる。
【0047】
拡大した図8を参照しながら、振幅比モデルの説明を続ける。振幅比モデルは、低周波側の項が0.71×exp(-19.4×f1/2×z)の直線で表され、高周波側の項が、0.29×exp(-0.33×f1/2×z)の直線で表されている。この振幅比モデルに、上述したように推定対象トンネルの坑口温度のフーリエ変換を周波数毎に掛け合わせることで、坑口からの距離zにおけるフーリエ変換の推定結果が得られることになる。
【0048】
図9(a)は、図8の振幅比モデルに基づいて推定された坑内温度(坑口からの距離zの位置)の時系列データを示したグラフであり、図9(b)は図9(a)の拡大範囲を拡大して示したグラフである。
【0049】
図9には、推定値(破線)と比較するために、カットオフ周波数2(1/h)のローパス後の実測値を実線で示した。この図を見ると、推定値は、年間変動(図9(a)参照)においても、日変動(図9(b)参照)においても、実測値の傾向をよく捉えていると言える。
【0050】
次に、本実施の形態のトンネル内の温度推定方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態のトンネル内の温度推定方法は、坑口温度及び坑内温度の実測データをフーリエ変換して実測振幅比を算出することで振幅比モデルを作成する。そして、推定対象トンネルの坑口温度と振幅比モデルとに基づいて、推定対象トンネルの坑口からの距離zの位置における坑内温度を推定する。
【0051】
このため、列車が通過する列車速度や列車密度など、トンネルによって異なる様々な鉄道トンネルの状況を取り込むことができる。また、フーリエ変換を使った処理であれば、精緻な数値シミュレーションによる推定手法と比べて、簡易に実行することができる。
【0052】
また、予め条件の異なる複数のトンネルにおいて振幅比モデルを作成しておくことで、推定対象トンネルと最も類似しているトンネルを選べば、推定対象トンネルの振幅比モデルが作成されていなくても、坑内温度の推定を行うことが簡単にできる。このため、全国に多数存在する、全長に亘って坑内温度の測定がされていないトンネルへの適用が可能になる。
【0053】
また、トンネルの条件に、列車速度や列車密度などの情報が含まれていれば、鉄道トンネルの坑内温度の推定を、列車通過を考慮したうえで簡易に行うことができるようになる。すなわち、トンネルの坑内温度は、坑内の空気が列車の通過によって混合されることで影響を受けるが、そのような実態に即した予測が、フーリエ変換処理を利用した簡易な手法で行うことができる。
【0054】
そして、坑内温度は、坑口からの距離zに応じて推定できるので、延長の長いトンネルでも各位置の精度の高い予測を行うことができる。さらに、こうした坑内温度の推定は、推定対象トンネルの坑口温度のフーリエ変換と振幅比モデルとを周波数毎に掛け合わせた結果を、逆フーリエ変換するだけで、簡単に得ることができる。
【0055】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0056】
例えば前記実施の形態では、鉄道トンネルに適用する例について主に説明したが、これに限定されるものではなく、道路トンネルであっても坑内の空気が車両の通過によって混合されるため、交通量などを考慮した予測に本発明を適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9