(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】ニッケル基超合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20240628BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20240628BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20240628BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20240628BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20240628BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240628BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20240628BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20240628BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20240628BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20240628BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C22C19/05 C
B22F3/105
B22F3/16
B22F9/08 A
B22F10/25
B22F10/28
B22F10/64
C22F1/10 H
F01D25/00 L
F01D25/00 X
F02C7/00 C
F02C7/00 D
C22F1/00 621
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 640B
C22F1/00 640Z
C22F1/00 650A
C22F1/00 651B
C22F1/00 682
C22F1/00 687
C22F1/00 690
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
(21)【出願番号】P 2021514387
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 FR2019052137
(87)【国際公開番号】W WO2020053533
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-07-27
(32)【優先日】2018-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512103240
【氏名又は名称】オベール エ デュヴァル
(73)【特許権者】
【識別番号】306047664
【氏名又は名称】サフラン
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】バレグ, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】コルニュ, ダニエル, アンドレ, ジャン
(72)【発明者】
【氏名】クロゼ, コラリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジロー, レミ
(72)【発明者】
【氏名】エルヴィエ, ゼリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ラルイ, バティスト, ロマン
(72)【発明者】
【氏名】マイエール, シャルロット
(72)【発明者】
【氏名】モンタニョン, ジャック
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-029217(JP,A)
【文献】特開平02-115332(JP,A)
【文献】特開昭49-065909(JP,A)
【文献】特開平01-165741(JP,A)
【文献】特表2017-508877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00-19/07
B22F 10/00-12/90
C22F 1/00- 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造後の熱処理による部品製造用の、γ’相
を含むニッケル基超合金であって、全組成に対する重量%で、
クロム:15.5~16.5;
コバルト:7.7~11;
モリブデン+タングステン含有量=5.5~7.5となるモリブデン及びタングステン;
アルミニウム:2.9~4.3;
チタン:2.6~3.2;
タンタル:1.5~2.2;
ニオブ:0.3~1.1;
炭素:0.01~0.13;
ホウ素:0.0005~0.015;
ジルコニウム:≦0.01;
ハフニウム:0.0001~0.5;
ケイ素:≦0.06;
ニッケル:残部、及び
不可避不純物
からなる組成を有することを特徴とするニッケル基超合金。
【請求項2】
全組成に対する重量%で、
クロム:15.5~16.5;
コバルト:7.7~9;
モリブデン+タングステン含有量=6.2~7.5となるモリブデン及びタングステン;
アルミニウム:3~4;
チタン:2.6~3.1;
タンタル:1.5~2.2;
ニオブ:0.3~0.5;
炭素:0.01~0.07;
ホウ素:0.0005~0.005;
ジルコニウム:≦0.009;
ハフニウム:0.0001~0.2;
ケイ素:≦0.03;
ニッケル:残部、及び
不可避不純物
からなる組成を有することを特徴とする請求項1に記載のニッケル基超合金。
【請求項3】
全組成に対する重量%で、モリブデン含有量が2.5~3.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケル基超合金。
【請求項4】
全組成に対する重量%で、タングステン含有量が3~4であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のニッケル基超合金。
【請求項5】
上記不可避不純物は、窒素、酸素、水素、鉛、硫黄、リン、鉄、マンガン、銅、銀、ビスマス、白金、セレン、スズ、マグネシウム、及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のニッケル基超合金。
【請求項6】
窒素含有量≦0.030%、及び
酸素含有量≦0.030%
であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のニッケル基超合金。
【請求項7】
粉末状であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のニッケル基超合金。
【請求項8】
ワイヤ状であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のニッケル基超合金。
【請求項9】
請求項7に記載のニッケル基超合金粉末を製造する方法であって、
(a)元素出発原料又は予合金出発原料を混合する工程、
(b)工程(a)で得られた混合物を溶融する工程、
(c)工程(b)で得られた生成物をガスアトマイズする工程、
(d)工程(c)で得られた粉末を篩にかけて所望の粒径を得る工程、及び
(e)得られた粉末を回収する工程
を含む方法。
【請求項10】
ニッケル基超合金から部品を製造する方法であって、
(A)請求項7に記載のニッケル基超合金粉末を製造する工程、
(B)工程(A)で得られた粉末を付加製造プロセスに供する工程、
(C)工程(B)で得られた部品を少なくとも1つの熱的処理及び/又は物理的処理及び/又は化学的処理に供する工程、及び
(D)得られた部品を回収する工程
を含む方法。
【請求項11】
工程(B)は選択的レーザー溶融(LBM)であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項7に記載の粉末から得られる、又は請求項8に記載のワイヤから得られるニッケル基超合金部品。
【請求項13】
航空機エンジンタービン、ガスタービン、陸上タービン、及び海洋産業タービンにおける請求項12に記載のニッケル基超合金部品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温用途用ニッケル基超合金、より具体的には、例えば、航空機エンジンタービン、ガスタービン、及び/又は海洋産業タービン向けの付加製造による部品製造に適したニッケル基超合金の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル基超合金は、航空宇宙ジェットエンジンの高温部品の製造に現在使用されている材料の中で最高性能の材料である。その組成によって、高温で高い機械的強度が得られるからである。このように、上記特定用途において、これまでこれらの合金に求められてきた2つの主な特徴は、場合によっては1050℃~1100℃までの温度での高い耐クリープ性、及び非常に良好な高温耐食性である。そのような超合金の一つとして、例えば特許文献1には、重量%で、Crが15~18、Coが8~11、Moが0.75~2.2、Wが1.8~3、Alが3~4、Tiが3~4、Nbが0.5~2、Taが1~3、Cが0.1~0.2、Bが0.01~0.05、Zrが0.01~0.2、Ni及び不可避的不純物が残部の組成を有する超合金が記載されている。
【0003】
当該特許文献に記載の超合金のなかで唯一、Inconel(登録商標)738LC(IN738LC)という名称で知られる合金が、ジェットエンジン部品用途で商品化されている。これは、当該分野、特に整流器等の部品の製造において最も一般的に使用される基準合金である。
【0004】
このように、上記超合金は、重量%で、Crが15.7~16.3、Coが8~9、Moが1.5~2、Wが2.4~2.8、Alが3.2~3.7、Tiが3.2~3.7、Nbが0.6~1.1、Taが1.5~2、Cが0.09~0.13、Bが0.007~0.012、Zrが0.03~0.08、Siが最大0.3、Ni及び不可避不純物が残部の組成を有する。
【0005】
航空宇宙ガスタービンに関しては、収率増加及び消費率低下の観点から意欲的な目標が設定されているが、これはエンジン設計に大きな影響を及ぼし、各種材料、特にニッケル基超合金の各種材料が使用される温度及び応力が上昇し続ける傾向にある。このため、付加製造法が特に適しているエンジンの高温部材を新たに設計開発する必要がある。
【0006】
ニッケル基超合金は、γオーステナイトニッケル(面心立方、故に比較的延性がある)の基本マトリックスを有し、このマトリックスが、マトリックスに密着した硬化γ’析出物(L12構造)で補強されている材料である。これは、該材料が後者とよく似た原子格子を有することを意味する。これらの超合金の性能を向上させるには、含有するγ’相の量を使用温度で強化することが有利である。しかしながら、この種の超合金では、特に付加製造工程又はその後の熱処理工程でマイクロクラック及び/又はマクロクラックが生じる傾向がある。マイクロクラックは付加積層時に現れるクラックであり、マクロクラックは熱処理中に現れるクラックである。上記用語は、マイクロクラックが一般的にはマクロクラックより実質的に小さいことに由来するが、マクロクラックと同程度の大きさのマイクロクラックを除外するものではない。
【0007】
特許文献2には、γ’硬化相含有量が高いニッケル基超合金組成物であって、Zr及び/又はSi含有量が低減されており(重量%で0.004≦Zr<0.03及び0.001≦Si<0.03、より具体的には、最大Si含有量が0.02及び/又は最大Zr含有量が0.02)、選択的レーザー溶融又は電子ビームレーザー溶融等の付加製造プロセスにおいて使用できるように粒径が150μm未満である組成物が記載されている。
【0008】
この組成物では、粉体層への付加製造中にマイクロクラックが生じる傾向が低くなる。しかしながら、レーザーによる溶融後の冷却と、付加製造後の熱処理とに関連するマクロクラックの問題は、Zr及びSi含有量の低減では解決されない。組成の変更で熱処理が容易になるということもない。
【0009】
また、非特許文献1にも、Si含有量はIN738LCタイプのニッケル基超合金組成物の耐クラック性に大きく影響するとの記載がある。しかし、Si含有量の減少と共に粗レーザー処理部品においてクラック密度が低下するという非常に良好な結果にもかかわらず、この材料では、レーザーによる溶融後の冷却と、付加製造後の熱処理とに関連するマクロクラックの問題が解決されていない。組成の変更で熱処理が容易になるということもない。
【0010】
非特許文献2は、Alを添加し、固溶化温度を変更することで、IN738C(炭素含有量がIN738LCより高いInconel(登録商標)738に相当する(ここでは0.17%))の微細構造及び硬度を向上させることを目的としている。しかしながら、Al含有量のみを増加させ、残りの合金組成は変更しない(いずれにせよNb含有量が2%と非常に高く、標準範囲を超える)場合、γ’相の析出が増加する。この研究によると、Al添加と共に合金の硬度が熱処理後に実質的に上昇し、それに伴ってγ’析出量が増加するが、これにより粗レーザー処理部品のクラックに関して非常に有害な結果がもたらされ得るため、用途には望ましくない。
【0011】
このように、本発明者らは、驚くべきことに、製造後の熱処理の後でもマクロクラックが少なく、Inconel(登録商標)738LCと同等の機械的特性を有するニッケル基超合金部品を付加製造で得るためには、使用する超合金組成物のモリブデン及び/又はタングステン含有量、より具体的にはモリブデン及びタングステン含有量を増加させる必要があることに気が付いた。
【0012】
また、製造後の熱処理の後でもマイクロクラックが少なく、Inconel(登録商標)738LCと同等の機械的特性を有するニッケル基超合金部品を付加製造で得るためには、使用する超合金組成物のジルコニウム含有量及び場合によってはケイ素含有量を低減するだけでなく、チタン、ニオブ、及び炭素含有量も低減する必要があることに気が付いた。
【0013】
この理由は、オーステナイトマトリックスに主に存在する重元素であるモリブデン及びタングステンを添加すると、マトリックスが強化される一方で、硬化γ’相の析出が遅れることになるからである。
【0014】
更に、チタン及びニオブ含有量を低減すると、(Ti+Nb+Ta)/Al比が低下し、そのためγ’相の硬化特性が低下するという直接的効果がある。また、チタン含有量の低減によって、γ’ソルバス温度が下がり、これによって所定温度でのγ’の割合が低下する。炭素及びニオブを低減する場合、これらに関しては、付加製造工程において凝固時に形成される炭化物NbCの割合が低下することになる。組成にこれら2つの変更(Ti及びNbの低減、並びにC及びNbの低減)を行う場合、付加製造工程においてミクロ偏析とγ’及びNbCの析出とに関連するマイクロクラックを制限することを目的としている。
【0015】
特許文献2に、Ti含有量が2.2~3.7、すなわち非常に低い場合もあるニッケル基超合金組成物が記載されているのは事実である。
【0016】
しかしながら、当業者であれば、これは明らかに誤記であることが分かる。なぜなら、上記文献では、IN738LCのTi含有量も、標準含有量(3.2~3.7)ではない2.2~3.7であると示されているためである。また、上記文献には、クラックの防止には低いTi含有量が重要であるとの記載はどこにもないことも分かる。更に、限界値が2.2未満であると、γ’ソルバス温度が大幅に低下し、結果として材料の使用温度を制限するリスクが生じることになるため、明らかに望ましい効果ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】米国特許出願公開第3459545号明細書
【文献】国際公開第2015/096980号
【非特許文献】
【0018】
【文献】R.Engeli et al.,Journal of Materials Processing Technology 229(2016)484-491
【文献】P.Wangyao et al.,Advanced Materials Research Vols 1025-1026(2014),395-402
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、付加製造後の熱処理による部品製造用の、γ’相含有量が高いニッケル基超合金であって、全組成に対する重量%で、
クロム:15.5~16.5;
コバルト:7.7~11、有利には7.7~9;
モリブデン+タングステン含有量=5.5~7.5、有利には6.2~7.5となるモリブデン及びタングステン;
アルミニウム:2.9~4.3、有利には3~4;
チタン:2.6~3.2、有利には2.6~3.1;
タンタル:1.5~2.2;
ニオブ:0.3~1.1、有利には0.3~0.5;
炭素:0.01~0.13、有利には0.01~0.07;
ホウ素:0.0005~0.015;
ジルコニウム:≦0.01、有利には≦0.009;
ハフニウム:0.0001~0.5、有利には0.0001~0.2;
ケイ素:≦0.06、有利には≦0.03;
ニッケル:残部、及び
不可避不純物
を含む組成、有利には本質的にこれらからなる組成、より具体的にはこれらからなる組成を有することを特徴とするニッケル基超合金に関する。
【0020】
よって、本発明の組成は、上記組成の全重量に対する重量%で、15.5~16.5、具体的には15.5~16.0、より具体的には15.5~15.8の範囲の量のクロム(Cr)を含む。
【0021】
これは、高温耐食性を得るのに必要である。好ましくはγ相に位置し、その固溶体への硬化に関与する。
【0022】
クロム含有量は、不確実性が±0.3、より具体的には±0.2、有利には±0.15で測定される。
【0023】
本発明の組成は更に、上記組成の全重量に対する重量%で、7.7~11、具体的には7.7~9、より具体的には7.7~8.5の範囲の量のコバルト(Co)を含む。
【0024】
これは、位置するγ相の固溶体への硬化に関与し、γ’相の固溶化温度(γ’ソルバス温度)に影響する。コバルト含有量が多いと、γ’相のソルバス温度が低下することになり、燃焼のリスクを一切伴うことなく、熱処理によって合金を均質化しやすくなる。また、コバルト含有量が少ないと、γ’相のソルバス温度が上昇することになり、高温でのγ’相の安定性を向上させることができ、耐クリープ性に対して有益である。したがって、良好な均質化能と良好な耐クリープ性との良好な兼ね合いを図ることが適切である。
【0025】
コバルト含有量は、不確実性が±0.2、より具体的には±0.1、有利には±0.06で測定される。
【0026】
本発明の組成は更に、上記組成の全重量に対する重量%で、モリブデン+タングステン含有量が5.5~7.5、有利には5.7~7.5、より有利には6~7.5、より具体的には6.2~7.5の範囲のモリブデン(Mo)及びタングステン(W)を含む。
【0027】
有利な一実施形態においては、本発明の組成のモリブデン(Mo)含有量は、上記組成の全重量に対する重量%で、2.5~3.5、有利には2.7~3.5、より具体的には2.7~3.0の範囲である。
【0028】
この理由は、モリブデンが、位置するγ相の硬化に関与するためである。また、γ相への拡散が遅れることになり、これによりγ’析出が遅延する。
【0029】
よって、高温耐食性に悪影響となり得る過剰量を回避しつつ、γマトリックスを強化するために、モリブデン含有量を標準IN738LCと比較して増加させる。
【0030】
モリブデン含有量は、不確実性が±0.03、より具体的には±0.02、有利には±0.01で測定される。
【0031】
他の実施形態においては、本発明の組成のタングステン(W)含有量は、上記組成の全重量に対する重量%で、3~4、具体的には3.5~4、より具体的には3.6~4の範囲である。
【0032】
タングステンは、γ相及びγ’相の両相に比較的均等に分散し、そのため固溶体による両相の硬化に寄与する。Moと同様に、合金に存在することで、拡散を遅らせ、それによりγ’析出を遅延させることができる。しかしながら、過剰量では、高温耐食性に悪影響を及ぼす。
【0033】
よって、γマトリックスを強化するために、タングステン含有量を標準IN738LCと比較して増加させる。しかしながら、これによって固相線がかなり大きく降下するが、γ’ソルバスは変化しない。したがって、γ’の固溶時に燃焼が起こるリスクを避けるためには、増加量を制限する必要がある。
【0034】
タングステン含有量は、不確実性が±0.04、より具体的には±0.02、有利には±0.01で測定される。
【0035】
更に他の実施形態において、本発明の組成のモリブデン(Mo)含有量は、上記組成の全重量に対する重量%で、2.5~3.5、有利には2.7~3.5、より具体的には2.7~3.0の範囲であり、本発明の組成のタングステン(W)含有量は、上記組成の全重量に対する重量%で、3~4、具体的には3.5~4、より具体的には3.6~4の範囲である。
【0036】
本発明の組成は更に、上記組成の全重量に対する重量%で、2.9~4.3、有利には3~4、具体的には3.1~3.8の範囲の量のアルミニウム(Al)を含む。
【0037】
Al含有量は、γ’ソルバス温度に直接影響するので、所定温度におけるγ’の割合にも直接影響する。量がかなり少ない場合、γ’の割合が減少することでγ’の析出に関連するクラックを防止できる。一方、量が多い場合、硬化特性を低下させつつγ’の割合を高めることができる。Al含有量を介して、熱処理中のクラックの発生リスクを取り除きつつ、γ’の割合(大きさ及び分布)を高く維持することができる。
【0038】
アルミニウム含有量は、不確実性が±0.04、より具体的には±0.02、有利には±0.01で測定される。
【0039】
本発明の組成は更に、上記組成の全重量に対する重量%で、2.6~3.2、有利には2.6~3.1の範囲の量のチタン(Ti)を含む。
【0040】
具体的な一実施形態では、チタン含有量を標準IN738LCにおける含有量と比較してわずかに低減する。この場合、一定のアルミニウム含有量であれば、γ’析出に関連するクラックを防止する目的で、γ’ソルバス温度を低下させ、それにより所定温度におけるγ’の割合を低下させるという直接的な効果がある。Al含有量を増加させると、γ’の割合はIN738LCのレベルに維持でき、(Ti+Ta+Nb)/Al比を低下させると、γ’相の硬化特性が低下し、それによりγ’析出に関連するクラックの発生リスクが取り除かれるという効果が得られることになる。
【0041】
チタン含有量は、不確実性が±0.04、より具体的には±0.02で測定される。
【0042】
本発明の組成は更に、上記組成の全重量に対する重量%で、1.5~2.2、有利には1.7~2.2の範囲の量のタンタル(Ta)を含む。
【0043】
タンタルはチタンと同様にγ’相に存在し、その効果はγ’相を強化することである。タンタル含有量は、不確実性が±0.02、より具体的には±0.01で測定される。
【0044】
本発明の組成は更に、上記組成の全重量に対する重量%で、0.3~1.1、有利には0.3~0.8、具体的には0.3~0.6、より具体的には0.3~0.5の範囲の量のニオブ(Nb)を含む。
【0045】
有利な一実施形態においては、炭化物の析出を減少させることを目的として、Nb含有量をIN738LCの標準含有量と比較して低減する。付加製造によって得られる粒子の粒径が小さくなると、それ自体が冷却時のクラックの原因となり得る炭化物の必要性が低下する。
【0046】
ニオブ含有量は、不確実性が±0.005、より具体的には±0.002で測定される。
【0047】
本発明の組成はまた、上記組成の全重量に対する重量%で、0.01~0.13、有利には0.01~0.09、具体的には0.01~0.07、より具体的には0.01~0.05、更に具体的には0.01~0.03の範囲の量の炭素(C)を含む。
【0048】
有利な一実施形態においては、炭化物の析出を減少させることを目的として、炭素含有量をIN738LCの標準含有量と比較して低減する。付加製造によって得られる粒子の粒径が小さくなると、それ自体が冷却時のクラックの原因となり得る炭化物の必要性が低下する。
【0049】
炭素含有量は、不確実性が±0.003、より具体的には±0.002で測定される。
【0050】
本発明の組成は更に、上記組成の全重量に対する重量%で、0.0005~0.015、より具体的には0.0005~0.005の範囲の量のホウ素(B)を含む。
【0051】
有利な一実施形態においては、固相線を降下させる傾向があり、且つ付加製造工程中のホウ化物の溶出リスクを増大させる最終共晶系γ/TiB2の存在を制限することを目的として、ホウ素含有量をIN738LCの標準含有量と比較して低減する。
【0052】
ホウ素含有量は、不確実性が約20%で測定される。
【0053】
本発明の組成は更に、上記組成の全重量に対する重量%で、ジルコニウム(Zr)含有量が≦0.01、有利には≦0.009、具体的には<0.004、より具体的には≦0.003、更に具体的には≦0.0001である。
【0054】
このように、ジルコニウム含有量をIN738LCの標準含有量と比較して低減すると、結果として付加製造工程中に発生する液化割れ及び高温割れに対して有益な効果が得られる。
【0055】
ジルコニウム含有量は、不確実性が約20%で測定される。
【0056】
本発明の組成は更に、上記組成の全重量に対する重量%で、0.0001~0.5、有利には0.0001~0.2、より有利には0.0003~0.2、具体的には0.1~0.5、より具体的には0.1~0.2の範囲の量のハフニウム(Hf)を含む。
【0057】
ハフニウム含有量を介して、温度強度に対するZr減少の悪影響(特にクリープ及び腐食)を相殺することができる。
【0058】
ハフニウム含有量は、不確実性が約20%で測定される。
【0059】
本発明の組成はまた、上記組成の全重量に対する重量%で、ケイ素(Si)含有量が≦0.06、有利には≦0.03、具体的には≦0.025、より具体的には≦0.021である。
【0060】
このように、ケイ素含有量をIN738LCの標準含有量と比較して低減すると、結果として付加製造工程中に発生する液化割れ及び高温割れに対して有益な効果が得られる。
【0061】
ケイ素含有量は、不確実性が約20%で測定される。
【0062】
したがって、マイクロクラックの発生を抑制し、且つマクロクラックの出現を低減、又は有利には抑制するために、本発明のニッケル基超合金組成物は以下を含む。
・IN738LCの標準含有量と比較して低減したジルコニウム含有量及び有利にはケイ素含有量。その結果、付加製造工程中に発生する液化割れ、よって高温割れに対して有益な効果が得られる。
・有利には、IN738LCの標準含有量と比較してわずかに低減したチタン及び/又はニオブ含有量。その結果、γ’ソルバス温度を低下させ、それにより所定温度及び一定のアルミニウム含有量におけるγ’の割合を低下させるという直接的な効果、並びに、γ’析出に関連するクラックを抑制する目的で、維持した割合のγ’相の硬化特性を低下させるという直接的な効果が得られる。
・ジルコニウム減少が耐熱クリープ性に悪影響となることから、この減少を補うためのハフニウム。
・有利には、炭化物の析出を減少させることを目的として、IN738LCの標準含有量と比較して低減したNb及びC含有量。付加製造によって得られる粒子の粒径が小さくなると、それ自体が付加製造中のマイクロクラックの原因となり得る炭化物の必要性が低下する。
・拡散速度を遅くし、且つ破壊的γ’形成要素を低減するとともに、γマトリックスを強化して熱処理時のマクロクラックの発生を大幅に抑えることを目的として、IN738LCの標準含有量と比較して増加させたMo及び/又はW含有量。
【0063】
このようにして、特に有利な一実施形態では、本発明のニッケル基超合金は、全組成に対する重量%で、
クロム:15.5~16.5;
コバルト:7.7~9;
モリブデン+タングステン含有量=6.2~7.5となるモリブデン及びタングステン;
アルミニウム:3~4;
チタン:2.6~3.1;
タンタル:1.5~2.2;
ニオブ:0.3~0.5;
炭素:0.01~0.07;
ホウ素:0.0005~0.005;
ジルコニウム:≦0.009;
ハフニウム:0.0001~0.2;
ケイ素:≦0.03;
ニッケル:残部、及び
不可避不純物
を含む組成、有利には本質的にこれらからなる組成、より具体的にはこれらからなる組成を有することを特徴とする。
【0064】
上記不可避不純物は、粉末の製造における各工程に、又は粉末の製造に使用される出発材料に存在する不純物に由来する。ニッケル基超合金に従来見られる不純物がいずれも見られる。より具体的には、窒素、酸素、水素、鉛、硫黄、リン、鉄、マンガン、銅、銀、ビスマス、白金、セレン、スズ、マグネシウム、及びそれらの混合物からなる群から選択される。これらは、上記合金の最大0.15質量%に相当し、それぞれ全組成の0.05重量%以下である。一般的に、上記合金中の不純物の含有量は、不確実性が20%で測定される。
【0065】
よって、窒素(N)含有量は、上記組成の全重量に対する重量%で、≦0.030、有利には≦0.008、具体的には≦0.006、より具体的には≦0.005、より有利には≦0.002であってよい。
【0066】
窒素含有量を制限することで、特定の機械的特性に悪影響を及ぼし得る窒化物又は炭窒化物の存在をレーザー後の部品において制限することができる。窒素含有量は、不確実性が±0.0008、より具体的には±0.0004で測定される。
【0067】
酸素(O)含有量は、上記組成の全重量に対する重量%で、≦0.030であってよい。従来のプロセスを考慮すると驚くべき酸素含有量と思われるが、粉末状に金属を分割することで、表面/体積比が非常に大きくなり、上記合金の酸素含有量が大幅に増加する傾向となる。粉末製造方法が十分に制御されない場合、上記酸素含有量はいっそう増加することになる。この0.03%という限界値内であれば、酸素は熱延性の点で有益な役割を果たし得る。酸素含有量を0.03%に制限することで、機械的特性に悪影響を及ぼす酸化物の存在をレーザー後の部品において制限することができる。
【0068】
酸素含有量は、不確実性が±0.0007、より具体的には±0.0005で測定される。
【0069】
本発明の粉末の組成は、より具体的には、下記表1に示す3つの実施例のうちの1つから選択されてもよい。
【0070】
【0071】
実施例1では、標準IN738LCと比較して、Mo及びWの量を増加させ、Ti含有量を低減している。Alは、標準IN738LCの範囲の上限まで引き上げている。これらの変更は、一方では拡散速度を遅くしてγ’析出を遅延させることを目的とし、他方ではγ’相の硬化特性を低下させることを目的とする。結果として、γ’ソルバス温度は、IN738LCと比較して20~30℃低下する。また、標準IN738LCと比較したZrの減少を補い、且つ超合金の耐クリープ性に対する潜在的な悪影響を相殺するために、標準IN738LCと比較してHfを添加している。
【0072】
実施例2では更に、標準IN738LCと比較してNb及びC含有量を低減することで、Nb炭化物の割合を低下させ、且つ付加製造時の冷却の際の該グレードの挙動を改善している。また、ホウ素も低減することによって、結晶粒界でのホウ化物の析出を防止し、部品製造時の溶出現象をできるだけ抑えている。
【0073】
実施例3は、実施例2と同様に、本願の組成の実施例である。本願の組成範囲のロバスト性を確認するために、B及びC含有量を実施例2よりわずかに増加させている点で実施例2と異なる。
【0074】
有利な一実施形態では、本発明のニッケル基超合金は粉末状であり、有利にはその粒度分布(直径×数)が15~53μmの範囲であり、これは、より具体的には選択的レーザー溶融(SLM)による部品製造を意図している場合に当てはまる。
【0075】
従来、この種の粒径画分については、数によるD10で特徴付けられる下限15μmは、レーザー回折(ASTM B822-17)によって制御され、上限53μmは、篩分けによって制御される。現行のASTM B214-16又はISO 2591-1:1988規格に従った粒径画分制御法では、45μmまでの画分を篩分けで制御することが可能である。この限界値より小さい場合、篩分けによる制御はもはや上記規格では認可されず、レーザー回折で測定された分布の数によるD10の値によって特性決定が行われる。
【0076】
有利な一実施形態では、本発明のニッケル基超合金は、考えられる各種方法(アーク、プラズマ、電子ビーム、又はレーザーによるもの)に従ってワイヤ堆積による成形を意図したワイヤ状である。
【0077】
本発明は更に、本発明のニッケル基超合金粉末を製造する方法であって、
(a)元素出発原料又は予合金出発原料を混合する工程、
(b)工程(a)で得られた混合物を、有利には真空誘導炉(VIM)で溶融する工程、
(c)工程(b)で得られた生成物を、有利にはアルゴンでガスアトマイズして、粉末、有利には主に球状(つまり、鋭角が存在しない)である粉末を得る工程、
(d)工程(c)で得られた粉末を、有利には不活性雰囲気下で篩にかけて所望の粒径を得る工程、
(e)得られた粉末を回収する工程
を含む方法に関する。
【0078】
したがって、意図する付加製造技術又は粉末堆積法に応じて粉末の粒径を適合させる。付加製造又は粉末堆積の各種プロセスに使用される粒径範囲は、技術、装置、及び意図する用途によって異なる。一般的には、全ての用途が組み合わされる場合、これらの方法に使用される粉末の数による粒度分布は多少広く、5~150μmとなる。
【0079】
より具体的には、工程(d)で得られた数による粒径画分は15~53μmの範囲である。これは、選択的レーザー溶融プロセス(レーザービーム溶融、LBM)に適した粒径であり、使用する装置及び意図する用途に適合している。これは、このような粉末の使用においてはかなり典型的な数による粒度分布である。
【0080】
本発明は更に、ニッケル基超合金から部品、より具体的にはタービンを製造する方法であって、
(A)本発明のニッケル基超合金粉末を、有利には本発明の方法で、より具体的には上記のように製造する工程、
(B)工程(A)で得られた粉末を付加製造プロセス、有利には選択的レーザー溶融(LBM)、電子ビーム溶融(EBM)、及び粉末吹付によるレーザー溶融(粉末コーティング又はCLADとも言う)からなる群から選択されるプロセスに供する工程、
(C)工程(B)で得られた部品を少なくとも1つの熱的処理及び/又は物理的処理及び/又は化学的処理、有利には弛緩熱処理(より具体的には残留応力の弛緩用)、熱間等方圧加圧処理、固溶化処理、時効処理、並びに、腐食及び酸化を防止するコーティングの塗布等の仕上げ処理からなる群から選択される処理、有利には熱間等方圧加圧(HIP)処理に供する工程、
(D)得られた部品を回収する工程
を含むことを特徴とする方法に関する。
【0081】
本発明の方法は更に、工程(B)と工程(C)との間に、本発明の超合金で得られた部品を溶接する工程(B1)を含んでもよい。
【0082】
本発明の文脈で使用できる付加製造、より具体的には、例えば選択的レーザー溶融、電子ビーム溶融、粉末吹付によるレーザー溶融(粉末コーティング又はCLAD)は、当業者には周知である。
【0083】
有利な一実施形態では、工程(B)は付加製造方法からなり、本発明の超合金粉末の薄層を溶融するエネルギー源(レーザー又は電子ビーム)を使用して部品を層ごとに製造する。次に、本発明の超合金粉末の第2の層を堆積した後、溶融する。この方法を最終部品が得られるまで繰り返す。該方法は選択的レーザー溶融の一つであることが有利である。
【0084】
本発明のニッケル基超合金から部品、より具体的にはタービンを製造する方法の他の実施形態では、工程(A)は、本発明のニッケル基超合金のワイヤを製造することからなり、工程(B)は、工程(A)で得られた超合金ワイヤを溶融するエネルギー源(レーザー又は電子ビーム)を使用して部品を層ごとに製造する付加製造方法からなる。このように、ワイヤを連続的に解きながら溶融することで1層が得られる。第2の層は、第1の層上に形成される。この方法を最終部品が得られるまで繰り返す。
【0085】
本発明のニッケル基超合金から部品、より具体的にはタービンを製造する方法の更に別の実施形態では、工程(A)は、本発明のニッケル基超合金の粉末及びワイヤを製造することからなり、工程(B)は、上記超合金の粉末及びワイヤの両方を使用する付加製造方法からなる。
【0086】
本発明は更に、本発明の粉末及び/又はワイヤから、より具体的には上記のように、有利には本発明の方法で、より具体的には上記のように得られるニッケル基超合金部品に関する。
【0087】
上記部品は3D部品であることが有利である。
【0088】
より具体的には、航空機エンジンタービン部品、ガスタービン部品、又は海洋産業タービン部品である。
【0089】
したがって、固定又は可動のタービン翼若しくはタービンディスク等のタービンの高温部分であってもよく、例えば航空宇宙ジェットエンジンが挙げられる。
【0090】
本発明のニッケル基超合金部品は以下を示すことが有利である。
・標準合金IN738LCと少なくとも同等の機械的特性、例えば良好な耐熱クリープ性等。
・標準合金IN738LCと少なくとも同等の耐腐食性及び耐酸化性、例えば塩環境に対する良好な耐性等。
・マクロクラック及び/又はマイクロクラックの不在。
・標準合金IN738LCと同様の密度、例えば約8.1g/cm3等。
・場合によっては1050~1100℃までの使用温度。
【0091】
本発明は、最後に、航空機エンジンタービン、ガスタービン、又は海洋産業タービン、より具体的には上記タービンの高温部分における本発明のニッケル基超合金部品の使用に関する。
【0092】
本発明は、以下の図面及び実施例を参照してよりよく理解されるであろう。これらの図面及び実施例は例示であって、限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【
図1】実施例1及び2並びに比較例(標準IN738LC)について、粗LBM状態で、LBM(又はSLM)による製造に関連するマイクロクラック密度をmm/mm
2で示す。
【
図2】実施例1、2、及び3並びに比較例(標準IN738LC)について、固溶及び時効状態で、LBMによる製造及び熱処理後に測定したマイクロクラック密度をmm/mm
2で示す。
【
図3】試料(実施例1、2、及び3(それぞれ
図3b、3c、及び3d)並びに比較例:標準IN738LC(
図3a))を切断及び研磨後に、解像度5メガピクセル及び倍率×50で光学顕微鏡(Axiocam ICc5を用いたZeiss Axio Imager A2m)によって得た、熱処理後の応力集中領域におけるマクロクラック画像を示す。
【
図4】XY軸(プレートに対して水平方向)に沿って製造された3つの試料(実施例1及び2並びに比較例:標準IN738LC)について、固溶させて時効した棒に対して室温(NF EN2002-001:2006規格に従う)で引張試験(MPaで表される強度:
図4)を行った結果を示す。
【
図5】XY軸(プレートに対して水平方向)に沿って製造された3つの試料(実施例1及び2並びに比較例:標準IN738LC)について、固溶させて時効した棒に対して室温(NF EN2002-001:2006規格に従う)で引張試験(%で表される伸びE5d:
図5)を行った結果を示す。
【
図6】実施例3について、固溶させて時効した棒に対して650℃(NF EN2002-002規格に従う)で引張試験(MPaで表される強度:
図6)を行った結果と、比較例(IN738LC)の従来技術データとを示す。
【
図7】実施例3について、固溶させて時効した棒に対して650℃(NF EN2002-002規格に従う)で引張試験(%で表される伸びE5d:
図7)を行った結果と、比較例(IN738LC)の従来技術データとを示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0094】
下記表2に組成を示す本発明の粉末の3つの実施例を、制御した割合の元素材料を用いてVIM炉で製造した後、アルゴンでアトマイズした。
【0095】
【0096】
付加製造に対する挙動に有益となることが分かっているZr、Si、S、及びP含有量の低減に加えて、付加製造及び熱処理に対する能力について以下の3つの組成改良方針が明らかとなった。すなわち、いずれも付加製造工程中のマイクロクラックの発生傾向を低下させることを目的として、Ti及びNbを低減してγ’相の硬度を低下させ、且つ/又はNb及びCを低減して炭化物NbCの析出を低減すること;熱処理中のマクロクラックの発生傾向を低下させるために、Mo及びWの量を増加させてγ’析出を遅らせ、マトリックスを強化すること。このように、実施例1では、標準IN738LCと比較してMo及びWの量を増加させ、それ以外は標準量とし、二次元素は最低レベルに低減している。実施例2及び3は、実施例1と同様であるが(Mo及びWを増加)、これに加えて、Nb及びCの量を標準IN738LCと比較して低減している。それ以外は標準量とし、二次元素は最低レベルに低減している。実施例1はまた、標準IN738LCと比較したZrの減少を補い、且つ超合金の耐クリープ性に対する潜在的な悪影響を相殺するために、標準IN738LCと比較してHfを添加している。
【0097】
Brami社から取得したIN738LCインゴットをアトマイズして得られたIN738LC粉末の比較参照例を製造した。製造は以下の通りである。インゴットをVIM炉で溶融した後、アルゴンでアトマイズした。
【0098】
下記表3は比較参照例の組成を示す。
【0099】
【0100】
粗アトマイズ状態では、本発明の3つの実施例及び比較例の粒度分布は、用途(ここではSLM及びLBM)のための粒度分布より広い。そこで、不活性雰囲気下で15~53μmで篩にかけて15~53μmの粒径画分を単離した。該画分は、SLM(又はLBM)用途に特に適していると当業者に知られている。篩分け後の最終粉末に対して、表2及び3に示す化学分析を行った。
【0101】
得られた粉末(実施例1、2、及び3並びに比較例)を使用して、用途を代表する技術的試験片及び寸法13mm×13mm×70mmの引張試験片ブランクを、層厚さを40μm、レーザー出力を250~370WとしてEOS M290 LBM付加製造法で製造した。得られたブランクを放電によって製造プレートから分離した後、IN738LC合金の標準的な熱処理を行った。該熱処理では、合金を1120℃(サブソルバス条件)で2時間固溶させた後、空気冷却し、次いで845℃で24時間時効した後、空気冷却し、その後、室温条件(NF EN2002-001)及び650℃(NF EN2002-002)での引張試験並びにクリープ/破壊試験(NF EN2002-005)の試験規格に対応する試験片形状に従って機械加工した。
【0102】
マイクロクラック
付加製造後及び熱処理後の固溶(1120℃で2時間、その後空気冷却)及び時効(845℃で24時間、その後空気冷却)状態の粗技術的試験片を光学顕微鏡を用いて倍率×50で撮影した画像を分析して、mm/mm
2で表されるマイクロクラック密度を測定し、実施例1及び2、比較例、並びに実施例3の結果をそれぞれ
図1及び2に示す。観察されたクラックの全長は、対象材料の表面積に対して表す。
【0103】
参照試料(比較例、標準IN738LC)から、現状技術のIN738LCは、マイクロクラック密度が約0.08mm/mm2であると位置付けられる。Nb及びCを低減した実施例2では、同一のLBMパラメータで、付加製造工程中のマイクロクラックを明らかに防止できる。
【0104】
熱処理後の
図2で測定した値は、粗製造材料で測定した値よりも少し低い(
図1)が、依然として全体的に適合しており、試料は異なっている。標準IN738LC及び実施例1ではマイクロクラックが発生するが、実施例2及び3ではクラックは生じないことが確認された。これは、粗LBM原料で得られたデータとよく一致する。
【0105】
マクロクラック
図3に示すように、基準IN738LCで製造した試料では、応力領域にマクロクラックが発生しており、これは、固溶時にγ’相が大量に析出する際の合金の延性損失に直接関連する。標準IN738LCと比較してMo量を約50%~60%、W量を約30~40%増加させた実施例1、2、及び3では、熱処理後のマクロクラックが大幅に減少している。γ’相の析出を遅らせ、γ’マトリックスを強化することによって、熱処理時のクラックを低減するという目的を実際に達成することができる。
【0106】
表4に、マイクロクラック及びマクロクラックを低減するための本願の種々の改良戦略と、記載した3つの実施例における該戦略の割り当てを要約したが、耐マイクロクラック戦略((a)Nb及びTiの低減又は(b)Nb及びCの低減、並びに元素Zr、Si、S、及びPの低減)及び耐マクロクラック戦略(Mo及びW量の増加)を調整することが、LBMによる製造後に固溶化及び時効熱処理を行った後に十分な材料を得るために特に有利であることが分かる。
【0107】
【0108】
なお、本発明者らは、標準IN738LCと比較してTi及びNb量を低減しただけで、Mo及びWは全く増加させなかった比較例1も試験した。この比較例では、熱処理後の応力集中領域にマクロクラックが発生した。
【0109】
引張試験
図4及び5から、基準IN738LCと比べて実施例1及び2の機械的強度(Rm及びRp0.2)が相対的に安定であり、鋳造用IN738LCの仕様をいずれも非常に大きく超える値であることが分かる。実施例2の伸びは基準IN738LCより大きいが、実施例1の伸びはマイクロクラックが非常に大きく影響し、損なわれた。最後に、基準バッチである実施例2は、鋳造用IN738LCの仕様を超えている。したがって、上記組成変更後にその機械的特性は損なわれなかった。
【0110】
図6及び7は、実施例3について650℃で引張試験を行った結果と、粉体層へのレーザー溶融によって成形される現状技術の標準合金を構成する比較例(標準IN738LC)に行った一連の試験の結果を、部品の製造軸に対して示す(XY:プレートの水平軸、Z:プレートの垂直軸)。対象の試験片にサブソルバス固溶化処理を施したところ、凝固中に得られた冶金粒子は再結晶することも成長することもなかった。したがって、これら粒子は、部品の製造軸(Z軸)に沿って高度に配向したままであり、その形態は、使用した製造パラメータに依存する。特性は、両製造方向において同程度であり、わずかな違いはあったが、これはLBMパラメータの違いによって説明できる。
【0111】
クリープ/破壊試験
実施例3及び比較例(IN738LC)について、Z軸(プレートに対して垂直)又はXY軸(プレートに対して水平)に沿って製造した試験片に対して極限条件下(760℃/585MPa)でクリープ/破壊試験を行って得られた寿命を下記表5及び6に示す。
【0112】
【0113】
【0114】
両材料は同様な寿命範囲内に位置付けられ、実施例3の方がIN738LCよりもわずかに優れていた。