IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ステヴァナート・グループ・ソチエタ・ペル・アツィオーニの特許一覧

特許7511559医療用流体送達装置およびシステム、ならびに作動方法
<>
  • 特許-医療用流体送達装置およびシステム、ならびに作動方法 図1
  • 特許-医療用流体送達装置およびシステム、ならびに作動方法 図2
  • 特許-医療用流体送達装置およびシステム、ならびに作動方法 図3
  • 特許-医療用流体送達装置およびシステム、ならびに作動方法 図4
  • 特許-医療用流体送達装置およびシステム、ならびに作動方法 図5
  • 特許-医療用流体送達装置およびシステム、ならびに作動方法 図6
  • 特許-医療用流体送達装置およびシステム、ならびに作動方法 図7
  • 特許-医療用流体送達装置およびシステム、ならびに作動方法 図8
  • 特許-医療用流体送達装置およびシステム、ならびに作動方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】医療用流体送達装置およびシステム、ならびに作動方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/168 20060101AFI20240628BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20240628BHJP
   A61M 5/145 20060101ALI20240628BHJP
   A61M 5/175 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61M5/168
A61M5/142 522
A61M5/142 524
A61M5/145 500
A61M5/175
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021535573
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-08
(86)【国際出願番号】 IB2019060906
(87)【国際公開番号】W WO2020128821
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】102018000020467
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】517292697
【氏名又は名称】ステヴァナート・グループ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】STEVANATO GROUP S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】カラッソ,イリオ ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】デ ドナーティス,マッテオ
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-513619(JP,A)
【文献】国際公開第2017/219155(WO,A1)
【文献】特表2018-507747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/00 - 5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体を備える医療用流体送達装置(8)であって、
前記本体は、
少なくとも1つの医療用流体の貯蔵タンク(20)と、
前記貯蔵タンク(20)と結合し、カニューレ(32)を介した制御された流体の送達を可能にするのに適する流体注射装置(24)と、
前記カニューレ(32)が前記本体に収容された静止構成から前記カニューレ(32)が前記本体から引き出された注入構成へ前記カニューレ(32)を移動させるための引き出し装置(40)と、
注射回転方向(I)および制御回転方向(C)において、互いに反対方向に、回転軸(X-X)を中心に回転することにより、前記流体注射装置(24)および前記引き出し装置(40)の作動を制御する起動手段(44)と、
を収容
前記起動手段(44)は、前記注射回転方向(I)または前記制御回転方向(C)において前記起動手段を回転させるよう構成される制御部材(52)を備え、
前記制御部材(52)は、ローター(48)に操作可能に接続され、
前記制御部材(52)は、前記流体注射装置(24)および前記カニューレ(32)の前記引き出し装置(40)に操作可能に接続され、
前記流体注射装置(24)および前記引き出し装置(40)は、前記制御部材(52)の前記回転方向(C、I)の一方において動きを伝達可能で、かつ、回転方向(I、C)の他方においてそれを阻止する一方向伝達機構(56、56’、56’’)により、前記制御部材(52)に操作可能に接続され、
前記一方向伝達機構(56、56’、56’’)は、前記制御回転方向(C)において前記制御部材(52)の回転により前記引き出し装置(40)を起動し前記カニューレ(32)の前記引き出し状態の検証を可能にし、前記注射回転方向(I)への前記制御部材(52)の回転により流体注射装置(24)を起動するよう互いに反対方向に配置される、
医療用流体送達装置(8)。
【請求項2】
前記一方向伝達機構(56、56’、56’’)は、フリーホイール機構である、
請求項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項3】
前記一方向伝達機構(56、56’、56’’)は、対応するアバットメントとの緩衝により、回転方向の動きを伝達し、反対の回転方向の動きの伝達を阻止するよう形成された非対称カム(60)、を備える、
請求項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項4】
前記フリーホイール機構は、摩擦による回転方向の動きを伝達し、反対の回転方向の動きの伝達を阻止するよう形成されたクラッチ機構、を備える、
請求項またはに記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項5】
前記本体(16)は、前記カニューレ(32)が完全に引き出された際に、前記カニューレ(32)の前記引き出し装置(40)の停止を決定する引き出し端部停止(68)、を備える、
請求項1からのいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項6】
前記制御部材(52)は、前記注射回転方向(I)への回転中に、前記カニューレが後退状態にある場合に、前記カニューレ(32)の前記引き出し装置(40)が、前記カニューレ(32)を引き出せるよう形成される、
請求項からのいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項7】
前記制御部材(52)は、前記制御回転方向(C)への回転中に、前記カニューレ(32)の前記引き出し装置(40)の状態、特に前記カニューレ(32)が引き出されているか、を検証するよう形成される、
請求項からのいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項8】
前記流体注射装置(24)は、少なくとも部分的に前記貯蔵タンク(20)に挿入され、流体の相対的な注入を引き起こすピストン(28)に接続される、
請求項1からのいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項9】
前記ローター(48)は、磁石または強磁性の起動要素(76)を有するディスク(72)に機械的に接続される、
請求項1からのいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項10】
前記ディスク(72)は、前記起動手段(44)の回転を阻止するロックシステムを有する、
請求項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項11】
前記制御部材(52)は、前記カニューレ(32)の前記引き出し装置(40)および前記流体注射装置(24)を操作するよう構成される、
請求項1から10のいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項12】
前記制御部材(52)は、前記カニューレ(32)の前記引き出し装置(40)および前記流体注射装置(24)に、反対側の軸方向端部(84、88)で接続される、
請求項1から11のいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項13】
前記ローター(48)は、前記本体(16)の中央に配置される、
請求項1から12のいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項14】
前記ローター(48)は、モーターにより駆動される、
請求項1から13のいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項15】
前記ローター(48)は、前記制御部材(52)に、不可逆タイプの歯付きカップリングにより機械的に係合される、
請求項1から14のいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)と、
磁気的にまたは電磁誘導を使用して前記医療用流体送達装置(8)の前記ローター(48)を回転させる制御ユニットと、前記ローター(48)の有効な回転を検出する相対センサと、を有する前記医療用流体送達装置の携帯型起動装置(12)と、
を備える、
医療用流体送達システム(4)。
【請求項17】
前記制御ユニットは、流体の注射要求があった場合に、
前記カニューレ(32)が完全に引き出されたかをチェックするために、前記制御回転方向(C)に前記制御部材(52)の回転を制御することと、
否定的な検証結果の場合に、すなわち、不完全に引き出された場合に、前記注射回転方向(I)に前記制御部材(52)の回転を反転させ、前記カニューレ(32)に流体を充填するために前記カニューレ(32)の第1の初期注射を実行することと、
を実行するようプログラムされたコントローラを有する、
請求項16に記載の医療用流体送達システム(4)。
【請求項18】
前記コントローラは、前記第1の初期注射に続いて、
前記引き出し装置(40)により前記カニューレ(32)の引き出しを制御するまたは可能にすることと、
前記注射回転方向(I)に前記制御部材(52)の回転を制御することにより、医療用流体を注射することと、
を実行するようプログラムされる、
請求項17に記載の医療用流体送達システム(4)。
【請求項19】
前記コントローラは、前記流体の注射要求があった場合に、
前記カニューレ(32)が完全に引き出されたかをチェックするために、前記制御回転方向(C)に前記制御部材(52)の回転を制御することと、
肯定的な検証結果の場合に、前記注射回転方向(I)に前記制御部材(52)の回転を反転させ、所定の投与量に従って前記流体を注射することと、
を実行するようプログラムされる、
請求項17または18に記載の医療用流体送達システム(4)。
【請求項20】
前記コントローラは、初期化要求があった場合に、
事前に、前記制御回転方向(C)に前記制御部材(52)の回転を制御することにより、前記カニューレ(32)が完全に引き出されていることをチェックすることと、
前記カニューレ(32)の非引き出しの検証結果の場合に、前記注射回転方向(I)への前記制御部材(52)の回転により前記初期化を実行することと、
前記カニューレ(32)の引き出しの検証結果の場合に、前記注射回転方向(I)へ前記制御部材(52)を回転させる前記初期化を実行しないことと、
を実行するようプログラムされる、
請求項17から19のいずれか1項に記載の医療用流体送達システム(4)。
【請求項21】
前記初期化に続いて、前記コントローラは、後続の医療用流体の注射を実行できるよう、前記カニューレ(32)の前記引き出し装置(40)を操作するようプログラムされる、
請求項20に記載の医療用流体送達システム(4)。
【請求項22】
前記カニューレ(32)の前記引き出し装置(40)の操作は、前記注射回転方向(I)への前記制御部材(52)の次の第1の回転と同時に実行される、
請求項21に記載の医療用流体送達システム(4)。
【請求項23】
請求項1から15のいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)、および/または請求項16から22のいずれか1項に記載の医療用流体送達システム(4)の作動方法であって、流体の注射要求があった場合に、
前記制御回転方向(C)への前記制御部材(52)の回転により、前記カニューレ(32)が引き出しされたかをチェックすることと、
否定的な検証結果の場合に、すなわち、前記カニューレが非完全に引き出された場合に、前記医療用流体送達装置(8)および/または前記医療用流体送達システム(4)により、前記注射回転方向(I)に前記制御部材(52)の回転を反転させ、前記カニューレ(32)に流体を充填させるよう前記カニューレ(32)の第1の初期注射を実行し、次に、前記注射回転方向(I)に前記制御部材(52)を回転させることにより所定の投与量の注射フェーズを実行することと、
肯定的な検証結果の場合に、前記医療用流体送達装置(8)および/または前記医療用流体送達システム(4)により、前記注射回転方向(I)に前記制御部材の回転を反転させ、所定の投与量に従って前記流体を注射することと、
を含む、
作動方法。
【請求項24】
請求項1から15のいずれか1項に記載の医療用流体送達装置(8)、および/または請求項16から22のいずれか1項に記載の医療用流体送達システム(4)の作動方法であって、流体の注射要求があった場合に、
前記制御回転方向(C)に前記制御部材(52)の回転を制御することにより、事前に前記カニューレ(32)が引き出されたかをチェックすることと、
否定的な検証結果の場合に、前記注射回転方向(I)に前記制御部材(52)を回転させることにより初期化を実行することと、
肯定的な検証結果の場合に、前記注射回転方向(I)に前記制御部材(52)を回転させる前記初期化を実行しないことと、
を含む、
作動方法。
【請求項25】
前記注射回転方向(I)に前記制御部材(52)を回転させる前記初期化に続いて、後続の医療用流体の注射を実行できるよう、前記医療用流体送達装置(8)および/または前記医療用流体送達システム(4)により、前記カニューレ(32)の前記引き出し装置(40)を作動するステップが実行される、
請求項24に記載の作動方法。
【請求項26】
前記カニューレ(32)の前記引き出し装置(40)の作動は、前記医療用流体送達装置(8)および/または前記医療用流体送達システム(4)により、前記注射回転方向(I)への前記制御部材(52)の次の第1の回転と同時に実行される、
請求項25に記載の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経皮的、筋肉内、または静脈内経路による医療用流体送達装置およびシステム、および、経皮的、筋肉内、または静脈内経路による医療用流体送達のための相対的な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの疾患では、薬剤の常用または持続注入が必要となる。これらの薬剤は、例えば、経皮的経路により注入される溶液として供給されることが多い。例えば、糖尿病患者は、インスリンを必要とする場合がある。これらの患者の生活を便利にするために、様々な注入装置が開発されている。
【0003】
当技術分野で既知の注入装置は、一般的に、単純な注射ペン装置、または複雑なポンプ装置であり、それらは、機械的または電気機械的なポンピングを使用して、皮膚を通して薬剤を患者に供給する。
【0004】
注射ペン装置は、患者が繰り返し再注射する必要があり、個別の部品で構成されているわけではなく、不快感、注射への恐怖、および痛みを伴うものである。さらに、あらゆる種類の制御、フィードバック、および安全に関する機能が欠落している。しかし、安価で比較的簡単に使用できるという利点を有する。
【0005】
一方、ポンプ装置は、操作および制御に必要な多くの要素、例えば、プロセッサ、電気部品、バッテリー、装置のハウジングに配置されるボタンまたはスイッチ、テキストまたはグラフィック画面を介する視覚的フィードバック、などを含む。このため、それらは高価で使いにくく、かさばって使い勝手が悪い傾向にある。さらに、長期間使用するための正しい機能と安全性を保証するために、入念なメンテナンスとクリーニングを必要とする。
【0006】
これらの既知の装置は、それらがペンタイプであってもポンプタイプであっても、事前に決められた正しい投与量を、完全に安全に投与または注入することを保証しなければならない。
【0007】
これは、カニューレ注入を実行する前に、いわゆるプライミングまたは初期化、すなわち針またはカニューレへの医療物質の充填を実行しなければならないことを意味する。一方で、後に注入される医療用液体の量(針またはカニューレ自体に事前に充填する液体の量をはるかに下回ることが多い)を極めて正確に設定することを可能にし、他方で、患者に気泡を注入することを回避するために、この操作は基本的なことである。
【0008】
したがって、プライミングは、患者の安全のために必要不可欠な予防措置である。
【0009】
同様に重要なのは、特にポンプタイプの注入器において、支持針を使用したカニューレの挿入ステップである。
【0010】
既知の装置は、プライミングの実行を検証し、カニューレまたは針の挿入および医療用液体の注入ステップを制御する、複数の電気的/電子的手段を提供する。
【0011】
これらの電気的/電子的手段は、一方では経皮的送達装置の信頼性を保証するが、他方では、コスト、複雑性、および寸法を著しく増大させる。
【0012】
さらに、特に、医療物質を含むカートリッジの全期間にわたって皮膚に継続的に接触する注射または注入装置において、装置は特に複雑であり、治療費が高くなる。
【発明の概要】
【0013】
したがって、先行技術を参照して述べた欠点および制限を解決する必要性が感じられる。
【0014】
したがって、信頼性と費用対効果を同時に満たし、かつ、過度の寸法を持たない、医療用流体用の筋肉内または静脈内経皮送達装置を提供する必要性が感じられる。
【0015】
そのような必要性は、請求項1に記載の医療用流体送達装置により満たされる。
【0016】
本発明のさらなる特徴および利点は、好ましい非限定的な実施の形態の以下の記載により、より明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の可能な実施の形態による、医療用流体送達装置と、医療用流体送達装置のための携帯型起動装置と、医療用流体のバイアルと、を含む医療用流体送達システムを示す平面図
図2】本発明の実施の形態による、医療用流体送達装置を示す平面図および側面図
図3】組み立てられた構成の本発明の実施の形態による、医療用流体送達装置を示す平面図
図4図3の医療用流体送達装置の上部カバーを取り外した状態を示す平面図
図5図3の医療用流体を投与する装置の上部カバーと内部構成要素とを取り外した状態を示す平面図
図6】可能な実施の形態による、医療用流体送達システムの制御シャフトを示す斜視図
図7】本発明の可能な実施の形態による、医療用流体送達装置のいくつかの内部構成要素を示す部分斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に記載される実施の形態に共通する要素、または要素の一部は、同一の符号で参照される。
【0019】
前述の図を参照すると、符号4は、医療用流体送達装置8と、医療用流体送達装置8の携帯型起動装置12と、を備える医療用流体送達システムの全体図を示す。
【0020】
医療用流体送達装置8は、患者に接触して配置され、患者の体へ、または患者の体からの、流体の流れを調整または注入することにより医療行為を実行するよう構成された装置である。「流体の流れを調整または注入する」とは、流体の流れを変更すること、例えば、増加、減少、開始、中断、または再開することを意味する。これは、流体を継続的または間欠的に、一定のまたは可変の流量で、ポンピングすることを含んでもよい。
【0021】
「接触して」とは、患者との皮膚接触を意味し、例えば、患者の皮膚に直接的にまたは間接的に、カテーテルなどの注入要素を介してのみ、例えば接着剤などの除去可能な方法で固定されることである。より一般的には、例えば、体の内側に埋め込まれた、少なくとも部分的に体内でまたは体外で固定された装置などの場合のように、体の内側を含む身体接触を意味する。
【0022】
流体の例は、疾患を治療するための薬剤、例えば糖尿病を治療するインスリン、例えば慢性疾患の症状を治療するための疼痛治療薬、例えば手術後に血栓症のリスクを低減する抗凝固薬、他の疾患を治療または変化させるためのホルモン剤、などが挙げられる。それ以外では、流体は、体液、または、体の流体路を通過する外部流体であってもよい。
【0023】
医療用流体送達装置8は、例えば、バイアル、チューブ、カープル(carpule)などの、少なくとも1つの医療用流体の貯蔵タンク20を備え、ガラスを含有していてもよく、可撓性の有無を問わずプラスチック材料で形成されていてもよい。貯蔵タンク20は、使用前であっても手動で装置に挿入することができ、または、製造業者により装置自体に既に収容されていてもよい。貯蔵タンク20は、医療用流体を収容することができ、または、手動で医療用流体を充填することができる。
【0024】
本体16はまた、貯蔵タンク20と結合し、タンク自体の外部への制御された送達を可能にするのに適する流体注射装置24を収容する。
【0025】
可能な実施の形態によると、流体注射装置24は、患者への複数の経皮的または筋肉内または静脈内の薬液の投与量を送達するよう構成された医療用注入装置である。患者の典型的な例は、インスリンを頻回に、例えば食事のたびに投与する必要のある糖尿病患者である。
【0026】
流体注射装置24は、流体の流れを有効/無効にする、または例えば体液などの流体の流速を変化させるよう構成されたバルブ装置として、または、経時的に変更可能な流量で薬剤の継続的な流れを提供するよう構成された持続注入装置として形成されてもよい。
【0027】
一実施の形態によると、流体注射装置24は、トランスレーション(移送、移動:translation)時に直接的にまたは間接的に流体置換(fluid displacement)を引き起こす軸流ポンプ要素である。
【0028】
一実施の形態によると、軸流ポンプ要素は、プランジャーまたはピストン28などの推力要素または引張要素であり、または、順番に結合されたプランジャーまたはピストンに結合され、または、好ましくはカートリッジタイプの貯蔵タンク20に結合され得る。この実施の形態によると、プランジャーまたはピストン28のトランスレーションは、置換を引き起こし、したがって、医療用流体の制御された送達を引き起こす。
【0029】
他の実施の形態によると、注射装置24は、流体の流れを調整するポンプまたはバルブの要素であってもよい。
【0030】
「ポンプ」は、例えば、蠕動ポンプ、隔膜ポンプ、マイクロポンプなどの、当技術分野で既知の任意のタイプのポンピング機構であってもよく、流体路を通して流体をポンピングするよう構成される。流体のポンピングは、吸引および推力の両方で行うことができる。「バルブ」は、流体路中の流体の流れまたは圧力の、中断、再開、迂回、減少、または増加のための、少なくとも1つの注入口および少なくとも1つの排出口を有する任意のタイプのバルブである。
【0031】
送達装置8はまた、流体の送達用の貯蔵タンク20に、流体接続される、または接続可能なカニューレ32を備える。
【0032】
可能な実施の形態によると、送達装置8はまた、カニューレ32の経皮的または筋肉内挿入を可能にする形状のチップ36を備える。
【0033】
換言すると、チップ36は、中実のまたは中空のチップであり、穿孔されているまたは穿孔されていない、カニューレ32の経皮的または筋肉内挿入を可能にする形状であり、チップ36自体の挿入および後退(retraction)後に、チップが後退していてもカニューレ32が部分的に皮膚内に残るようになっている。
【0034】
カニューレ32とは、少なくとも部分的に中空であり、液体を経皮的にまたは筋肉内に輸送し、医療用液体を注射するのに適合された任意の装置を意味することに留意すべきである。
【0035】
したがって、カニューレ32は、チップの有無にかかわらず、チューブ状の要素であってもよく、または針であってもよい。このカニューレ32は、本発明の目的のために、プラスチック材料、または金属、または目的に適する他の生体適合性のある構成要素のいずれかにより形成されてもよい。
【0036】
したがって、本発明の目的のために、皮膚にカニューレ32を挿入するためにカニューレ32の内部にチップがあることが必要であり、チップが後退することによりカニューレが部分的に皮膚内に残り、したがって、医療用流体の送達がカニューレ32の内部を通過することができる。
【0037】
他の可能な構成において、チップは、任意であり必須の構成でなくてもよい。
【0038】
送達装置8はまた、カニューレ32を後退または静止構成から抽出または注入構成にする抽出装置40を備える。抽出装置40は、様々な方法で構成することができ、すべて好ましくは、カニューレおよびチップ、または単にカニューレの抽出動作を可能にするよう適合される。さらに、抽出装置40は、チップ36(提供されている場合)の動作をカニューレ32の動作に同期させるよう構成される。チップ36が抽出されて皮膚に貫通した後、カニューレ32の一部が皮膚内に挿入されたままとなっている状態で同じ針が後退することにより、カニューレ32は医療物質を注射できる状態となる。
【0039】
チップ36および/またはカニューレ32の抽出は、好ましくは、例えば、適切に成形されて折りたたまれたばねなどの弾性手段42を使用して行われる。
【0040】
医療用流体送達装置8はさらに、カニューレの抽出が行われたかをチェックするために、注射回転方向Iおよび制御回転方向Cにおいて、互いに反対方向に、回転軸X-Xを中心に回転可能なローター48を有する起動手段44を備える。
【0041】
カニューレ32の抽出は、流体注射回転方向または代替的に制御回転方向Cのいずれかにおいて起動することができる。
【0042】
一実施の形態によると、ローター48は、流体注射装置24およびカニューレ32の抽出装置40に動作可能に接続された制御部材52と機械的に係合している。このようにして、単一の制御部材52は、相対的な回転の後、流体注射装置24およびカニューレ32が抽出されたかを制御するカニューレ32の抽出装置40の両方の動作を起動するまたは有効にすることができる。
【0043】
可能な実施の形態によると、制御部材52は、少なくとも部分的に反対方向に回転することができる別個の制御シャフトにより形成される。
【0044】
可能な実施の形態によると、制御部材52は、制御シャフトである。
【0045】
特に、流体注射装置24および抽出装置40のそれぞれは、回転の方向の動きの伝達を可能にし、反対方向の動きを少なくとも部分的に阻止する一方向伝達機構56’、56’’を使用して制御シャフト52に動作可能に接続される。
【0046】
特に、一方向伝達機構56’、56’’は、制御シャフト52の回転方向の1つの動きの伝達を可能にし、他の回転方向の動きを少なくとも部分的に阻止する。
【0047】
一方向伝達機構56’、56’’は、互いに反対方向に配置され、制御回転方向Cにおける制御シャフト40の回転により、カニューレ32の抽出装置40の状態をチェックすることができ、注射回転方向Iにおける制御シャフト40の回転により、流体注射装置24を起動することができる。
【0048】
一方向伝達機構56’、56’’は、様々なタイプであり得る。可能な実施の形態によると、一方向伝達機構56は、フリーホイール機構である。
【0049】
一実施の形態によると、一方向伝達機構56は、対応するアバットメント(abutment)64との干渉により、回転方向の動きを伝達し、反対の回転方向の動きの伝達を阻止するよう形成された非対称カム60を備える。
【0050】
さらなる実施の形態によると、一方向伝達機構56は、摩擦による回転方向の動きを伝達し、反対の回転方向の動きの伝達を阻止するクラッチ機構を備える。
【0051】
制御シャフト52に配置された一方向伝達機構56’、56’’は、必ずしも互いに同じものとして提供されるのではなく、例えば、同じ制御シャフト52に同時に装着される、摩擦タイプとフリーホイールタイプとであってもよいことに留意すべきである。重要なことは、一方向伝達機構のタイプではなく、2つの機構56’、56’’が互いに逆向きに装着されることである。任意の方向に制御シャフト52を回転させることにより、2つのうち1つの一方向伝達機構56’が起動され、動きの伝達、相対的な注射/抽出および制御を可能にする動き、または、それに接続された注射および抽出/制御装置、を可能にする。一方で、他の一方向伝達機構56’’は、少なくとも部分的にそれを阻止する。
【0052】
好ましくは、本体16は、カニューレ32自体の抽出の実行または起動の後、カニューレ32の抽出装置40を停止させる抽出端部停止(extraction end stop)68を備える。
【0053】
上述のように、制御シャフト52は、注射回転方向Iおよび制御回転方向Cにおいて回転軸X-Xを中心に互いに反対方向に回転可能なローター48からの回転動作を受ける。
【0054】
例えば、ローター48は、好ましくは不可逆タイプの歯付きカップリングを使用して制御シャフト52と機械的に係合する。
【0055】
好ましくは、ローター48は、制御シャフト52が周りを回転する制御軸Y-Yに対して垂直な回転軸X-Xを中心に回転可能である。
【0056】
次に、ローター48は、例えば、磁気のまたは強磁性の起動要素76を有するディスク72に機械的に接続される。
【0057】
ディスク72は、好ましくは、ローター48の制御されていない回転を回避するよう互いに角度をつけて配置された穴80を有する。
【0058】
図示されているように、制御シャフト52は、カニューレ32の抽出装置40と流体注射装置24との間に配置されている。
【0059】
好ましくは、制御シャフト52は、反対側の軸方向端部84、88で、カニューレ32の抽出装置40および流体注射装置24に接続されている。
【0060】
ローター48は、好ましくは、本体16の中央に配置される。
【0061】
上述のように、本発明はまた、医療用流体送達装置8と、送達装置8用の携帯型起動装置12と、を備える医療用流体送達システム4に関する。
【0062】
詳細には、起動装置12は、ローター48を磁気的に回転させ、送達装置8を起動用のまたは送達装置8を動かすためのエネルギーの伝送用の電磁エネルギーまたは磁気エネルギーを伝送させる制御ユニットを有し、相対センサを介してローター48の実際の回転を検出する携帯型装置である。
【0063】
起動装置12(ハンドヘルドとも呼ばれる)は、携帯可能であり、医療用液体の注射をしたい場合にユーザが握るものである。
【0064】
一実施の形態によると、送達装置8の起動は、磁石または強磁性の起動要素76を有するディスク72の磁気回転により行われる。次に、ディスク72は、ユーザにより要求された動作に基づいて、所定の方向に制御シャフト52を回転させるローター48にトルクを伝達する。
【0065】
一実施の形態によると、送達装置8の起動は、ユーザにより要求された動作に基づいて、所定の方向に制御シャフト52を回転させるようモーターおよび/または電気回路へ給電する磁気結合または電磁誘導による伝送を介したエネルギー伝送により行われる。
【0066】
一実施の形態によると、制御ユニットは、流体の注射要求または初期化の場合に、以下を実行するようにプログラムされたコントローラを有する。
カニューレ32が完全に抽出されたかをチェックするために、制御回転方向Cにおいて制御シャフトの回転を制御すること。
否定的な検証結果の場合、すなわち、カニューレ32が抽出されていない場合、注射回転方向Iに制御シャフト52の回転を反転させて、カニューレ32を流体で満たすようカニューレ32の第1の初期注射(プライミング)を行うこと。
【0067】
さらに、制御ユニットは、以下の第1の初期注射に続いて、以下を実行するようにプログラムされる。
抽出装置40によりカニューレ32の抽出を可能にすること。
注射回転方向Iに制御シャフト52の回転を制御することにより、医療用流体を注射すること。
【0068】
さらに、流体注射要求があった場合、制御ユニットは以下を実行するようにプログラムされる。
カニューレが完全に抽出されたかをチェックするために、制御回転方向Cに制御シャフトの回転を制御すること。
肯定的な検証結果の場合、注射回転方向Iに制御シャフト52の回転を反転させて、所定の投与量に従い流体を注射すること。
【0069】
カニューレ32の抽出のための一方向伝達機構56のストローク端がすでに以前に到達していることに起因して、注射回転方向Iへの制御シャフト52の回転が阻止された場合、検証結果は肯定的である。
【0070】
さらに、初期化要求があった場合、制御ユニットは以下を実行するようにプログラムされる。
事前に、制御回転方向Cへの制御シャフト52の回転を制御することにより、カニューレ32が抽出されたことをチェックすること。
否定的な検証結果の場合、すなわち、カニューレ32が抽出されていない場合、注射回転方向Iへの制御シャフト52の回転により初期化を実行すること。
肯定的な検証結果の場合、すなわち、カニューレ32の抽出が確認された場合、初期化ステップを実行しないこと。
【0071】
制御回転方向Cに制御シャフト52を回転させるコマンドに続いて、この回転が阻止されない場合、検証結果は否定的である。これは、一方向伝達機構56の有用なストロークがまだ存在し、したがって、カニューレ32が抽出されていないことを示す。
【0072】
さらに、初期化ステップに続いて、制御ユニットは、患者の必要性に応じて異なる投与量であり得る後続の医療用流体の注射を実行できるようプログラムされる。
【0073】
可能な実施の形態によると、カニューレ32の抽出装置40の作動は、注射回転方向Iへの制御シャフト52の次の第1の回転と同時に実行される。
【0074】
本発明による送達装置を使用して流体を送達する操作および方法について説明する。
【0075】
特に、本発明による医療用流体を送達する方法は、流体注射要求があった場合に、以下のステップを含んでもよい。
制御回転方向Cへの制御シャフト52の回転によりカニューレ32が抽出されたかをチェックすること。
否定的な検証結果の場合、すなわち、抽出されていない場合、注射回転方向Iへ制御シャフト52の回転を反転させて、コンテナのプランジャーまでピストンを移動させてカニューレ32に流体を充填するカニューレ32の第1の初期化注射(プライミング)を行い、その後、カニューレ32の抽出のステップを実行し、次に、制御方向に回転させて再び注射回転方向Iに制御シャフト52を回転させることにより所定の投与量の注射ステップを実行すること。
【0076】
肯定的な検証結果の場合、注射回転方向Iに制御シャフト52の回転を反転させるステップと、所定の投与量に従い流体を注射するステップと、が実行される。
【0077】
さらに、初期化要求があった場合、本発明による方法は、以下のステップを含む。
制御回転方向に制御シャフト2の回転を制御することにより、事前にカニューレ32が抽出されていることをチェックすること。
否定的な検証結果の場合、注射回転方向Iへの制御シャフト52の回転により初期化を実行すること。
肯定的な検証結果の場合、初期化ステップを実行しないこと。
【0078】
さらに、本発明の送達方法は、初期化ステップに続いて、後続の医療用流体の注射を実行できるよう、カニューレ32の抽出装置40の操作ステップを提供する。
【0079】
可能な実施の形態の変形例によると、カニューレ32の抽出装置40の作動は、注射回転方向Iへの制御シャフト52の次の第1の回転と同時に実行される。
【0080】
システムは、制御シャフト52を、注射装置40と、および特にピストン28と接続するキネマティックチェーン(kinematic chain)により与えられる伝達比率の関数として、初期化ステップと実際の注射ステップとの両方において注射する投与量を常に確立することができることに留意すべきである。換言すると、制御シャフト52の完全な回転は、ピストン28の特定のストロークに対応し、したがって、注射される液体の体積に対応する。例えば、プランジャーとピストンとの間の距離を考慮した所定の設定により、カニューレ32の容積が既知である場合、初期化を完了させるために必要な制御シャフト/部材52の回転数を確立することができる。さらに、ユーザにより正確な所定の投与量の注射を実行するため必要な制御シャフト52の回転数または回転角度を決定することができる。
【0081】
説明から理解されるように、本発明は、先行技術の欠点を克服することができる。
【0082】
実際、本発明は、信頼性および費用対効果が同時に高く、過度な寸法を持たない医療用流体用の静脈内または経皮的送達装置を提供することができる。
【0083】
送達装置は、機械的な部品だけを含み、それにもかかわらず、医療用流体が注射される前に安全性を検証することができる。
【0084】
これらの安全性の検証は、初期化ステップ(プライミング)の検証と、カニューレの完全な抽出または患者への挿入の検証と、からなる。
【0085】
したがって、送達装置は、軽量で、小型で、費用対効果が高い。
【0086】
同時に、この装置は非常に信頼性が高い。
【0087】
実際、フリーホイール機構により、装置は制御と注射操作とを区別することができる。特に、カニューレの抽出ステップまたは液体注射ステップにおいて、または、カニューレの抽出が実行されたかの検証、または、特定の実施の形態におけるカニューラが抽出されたかの検証など、制御部材の回転は一度に1つのステップだけを生成することができる。
【0088】
したがって、制御ユニットは、制御シャフトの反対の回転を確実に制御することができる。
【0089】
カニューレに抽出端部停止を設けることにより、カニューレの抽出に関する信号を制御ユニットに提供し、したがって、投与量の送達を実行することのできるが、プライミングによる初期化を実行しない可能性に関する信号を提供することができる。
【0090】
当業者は、特定の偶発的なニーズを満たすために、上述のシステムおよび装置にいくつかの変更および調整を行うことができ、これらはすべて、以下の特許請求の範囲に定義された保護の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9