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特許7511582イオン注入システムのための改良された荷電ストリッピング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】イオン注入システムのための改良された荷電ストリッピング
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
H01J37/317 C
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021569487
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-29
(86)【国際出願番号】 US2020034948
(87)【国際公開番号】W WO2020243323
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】62/853,945
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505413587
【氏名又は名称】アクセリス テクノロジーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 修
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0101213(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン注入システムであって、
イオン源と、
質量分析器と、
加速器と、
エンドステーションと、を備えており、
前記イオン源は、ビーム種からイオンビームを生成することによって、生成されたイオンビームを規定し、
前記質量分析器は、前記生成されたイオンビームを質量分析して、第1荷電状態のイオンを含む、分析されたイオンビームを規定し、
前記加速器は、前記分析されたイオンビームを受け入れ、かつ、出射イオンビームを規定し、
前記加速器は、
前記第1荷電状態のイオンを受け入れ、前記第1荷電状態のイオンを、前記第1荷電状態よりも正荷電状態である第2荷電状態のイオンへと変換する荷電ストリッパと、
前記第1荷電状態のイオンから電子をストリッピングする、六フッ化硫黄ガスを含むガスを、前記荷電ストリッパに供給するガス源と、
自身の内部においてそれぞれ陽イオンを加速させる複数の加速器ステージと、を含んでおり、
前記エンドステーションは、前記加速器より下流に配置されており、かつ、前記第2荷電状態のイオンの注入のためにワークピースを支持する、イオン注入システム。
【請求項2】
前記ビーム種は、ホウ素、リン、およびヒ素のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項3】
前記荷電ストリッパは、前記生成されたイオンビーム内に存在するよりも多くのイオンを前記第2荷電状態において提供し、かつ、前記出射イオンビームのビーム電流を増加させ、
前記荷電ストリッパは、少なくとも前記複数の加速器ステージの第1ステージより下流、かつ、少なくとも前記複数の加速器ステージの第2ステージより上流に、配置されている、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項4】
前記第2荷電状態は、前記第1荷電状態よりも少なくとも1大きい正味荷電を有する、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項5】
前記第1荷電状態は、+3の正味荷電を含み、
前記第2荷電状態は、+6の正味荷電を含み、
前記ガスは、六フッ化硫黄を含む、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項6】
前記第1荷電状態は、-1の正味荷電を含み、
前記第2荷電状態は、少なくとも+1の正味荷電を含み、
前記ガスは、六フッ化硫黄を含む、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項7】
高エネルギーイオン注入装置を動作させるための方法であって、
イオン源からあるビーム種のイオンを生成することによってイオンビームを規定するステップと、
前記イオンビームを質量分析するステップと、
加速器内に入射する第1荷電状態のイオンを選択するステップと、
前記加速器内に配置された第1の複数の加速器ステージのうちの少なくとも1つによって前記第1荷電状態のイオンを加速することによって、第1運動エネルギーレベルにおいて加速させられたイオンを規定するステップと、
前記加速器内に配置された六フッ化硫黄ガスを含む荷電ストリッパによって前記加速させられたイオンをストリッピングすることによって、前記第1荷電状態のイオンを、前記第1荷電状態とは異なる第2荷電状態の陽イオンに変換するステップと、
前記加速器内に配置された第2の複数の加速器ステージのうちの少なくとも1つによって前記第2荷電状態のイオンを加速するステップと、を含む、方法。
【請求項8】
前記加速させられたイオンをストリッピングするステップは、前記第1運動エネルギーレベルに基づくストリッピング効率において実行され、
前記ストリッピングは、前記イオン源に存在しているよりも多くの前記第2荷電状態のイオンを提供し、
前記加速させられたイオンのビーム電流は、前記第1運動エネルギーレベルよりも高い第2運動エネルギーにおいて増加させられる、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記加速させられたイオンをストリッピングするステップは、
前記荷電ストリッパ内に前記六フッ化硫黄ガスを供給することによって、前記第1荷電状態のそれぞれのイオンから電子をストリッピングし、前記第1荷電状態のイオンを前記第2荷電状態のイオンに変換するステップと、
前記イオンビームのエネルギー、電流、および/またはビーム種のうちの少なくとも1つに基づいて、前記六フッ化硫黄ガスの前記荷電ストリッパへの流量を調整するステップと、をさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の複数の加速器ステージおよび前記第2の複数の加速器ステージのうちの少なくとも1つは、それぞれ少なくとも1つの共振器を含み、
前記共振器は、前記共振器中のイオンを加速するためのRF加速場を生成する、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2荷電状態は、前記第1荷電状態よりも正である、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の複数の加速ステージおよび前記第2の複数の加速ステージは、少なくとも10個の加速ステージおよび少なくとも1つの共振器を備える、請求項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2荷電状態は、前記第1荷電状態の正味荷電を少なくとも1増加させる、請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1荷電状態は+3の正味荷電を有し、前記第2荷電状態は+6の正味荷電を有する、請求項に記載の方法。
【請求項15】
前記第1荷電状態は-1の正味荷電を有し、前記第2荷電状態は+1以上の正味荷電を有する、請求項に記載の方法。
【請求項16】
前記荷電ストリッパは、前記第1の複数の加速器ステージのうちの少なくとも1つの下流、かつ、前記第2の複数の加速器ステージのうちの少なくとも1つの上流に、配置されている、請求項に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の複数の加速器ステージの数量は、前記第2の複数の加速器ステージの数量以下である、請求項に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の複数の加速器ステージの数量は、前記第2の複数の加速器ステージの数量よりも多い、請求項に記載の方法。
【請求項19】
前記加速させられたイオンをストリッピングするステップは、前記第1の複数の加速器ステージおよび前記第2の複数の加速器ステージの内から選択される2つ以上の加速器ステージにおいて実行される、請求項に記載の方法。
【請求項20】
イオン源において、高エネルギーイオン注入装置のビーム電流を、第1荷電状態の第1最大運動エネルギーレベルを超えるまで、異なる第2荷電状態を使用せずに増加させる方法であって、
前記第1荷電状態のイオンと、前記イオン源からのビーム種とを含むイオンビームを生成するステップと、
前記イオンビームを質量分析するステップと、
複数の加速器ステージのうちの少なくとも1つによって、前記第1荷電状態のイオンを第1運動エネルギーまで加速するステップと、
六フッ化硫黄ガスを含む高分子量ガスを利用する荷電ストリッパを用いて前記第1荷電状態のイオンをストリッピングすることよって、前記第1荷電状態のイオンを第2荷電状態のイオンへと変換するステップと、を含み、
前記ストリッピングは、前記第1運動エネルギーに基づくストリッピング効率において実行され、
前記ストリッピングは、前記イオン源におけるよりも多くの前記第2荷電状態の陽イオンを提供し、かつ、前記第1荷電状態のイオンに関連する前記第1運動エネルギーよりも高い第2運動エネルギーにおいてビーム電流を増加させる、方法。
【請求項21】
前記第2荷電状態は、前記第1荷電状態よりも正であり、
前記ビーム種は、ホウ素および/またはリンを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第2荷電状態は、前記第1荷電状態の正味荷電を少なくとも1増加させる、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記第1荷電状態は+3の正味荷電を有し、前記第2荷電状態は+6の正味荷電を有する、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の参照]
本出願は、「IMPROVED CHARGE STRIPPING FOR ION IMPLANTATION SYSTEMS」というタイトルが付された、2019年5月29日に出願された米国仮出願第62/853,945号の利益を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[技術分野]
本開示は、全般的には、イオン注入システムに関する。より具体的には、本開示は、イオン源におけるより高い荷電状態を用いることなく、ある荷電状態に応じた最大エネルギーにおいて利用可能なビーム電流を増加させるためのシステムおよび方法に関する。
【0003】
[背景]
半導体デバイスの製造においては、半導体に不純物をドープするためにイオン注入が用いられる。多くの場合、イオン注入システムは、イオンビームに由来するイオンによってワークピース(例:半導体ウェハ)をドープするために利用される。これにより、(i)n型またはp型の材料ドーピングを生成すること、または、(ii)集積回路の製造時にパッシベーション層を形成することができる。集積回路の製造時に半導体材料を生成する目的において、所定のエネルギーレベルにおいて、かつ、制御された濃度において、特定のドーパント材料の不純物をウェハに選択的に注入するために、このようなビームの取り扱いがなされることが多い。イオン注入システムは、半導体ウェハをドーピングするために使用される場合、所望の外因性材料を生成するために、選択されたイオン種をワークピース内に注入する。例えば、アンチモン、ヒ素、またはリンなどのソース材料(源材料)から生成されたイオンを注入することにより、「n型」の外因性材料ウェハが得られる。これに対し、「p型」の外因性材料ウェハは、ホウ素(ボロン)、ガリウム、またはインジウムなどのソース材料によって生成されたイオンから得られる場合が多い。
【0004】
典型的なイオン注入装置(イオン注入器)は、イオン源(イオン源:ion source)、イオン引出デバイス、質量分析デバイス、ビーム輸送デバイス、およびウェハプロセスデバイス(ウェハ処理デバイス)を含んでいる。イオン源は、所望の原子または分子ドーパント種(dopant species)のイオンを発生させる。これらのイオンは、引出システム(典型的には、電極のセット)によって当該イオン源(the source)から引き出される。引出システムは、イオン源から到来したイオンの流れ(フロー)を励起しかつ方向付けることにより、イオンビームを生成(形成)する。所望のイオンは、質量分析デバイス(典型的には、引き出されたイオンビームの質量分散または質量分離を実行する磁気双極子(磁気ダイポール))内において、イオンビームから分離される。ビーム輸送デバイス(典型的には、一連の集束デバイスを含む真空システム)は、イオンビームの所望の特性を維持しつつ、当該イオンビームをウェハプロセスデバイスへと輸送する。最終的に、半導体ウェハは、ウェハハンドリングシステムによってウェハプロセスデバイスの内外へと移動させられる。ウェハハンドリングシステムは、処理されるべきウェハをイオンビームの前面に配置し、かつ、処理された後のウェハをイオン注入装置から取り出すために、1つ以上のロボットアームを含んでいてよい。
【0005】
[発明の概要]
本開示は、イオン源におけるより高い荷電状態を用いることなく、ある荷電状態に応じた最大エネルギーにおいて利用可能なビーム電流を増加させるための様々なイオン注入装置、システム、および方法を提供する。したがって、以下に本開示の一部の態様の基本的な理解を提供するために、本開示の簡略な概要を提示する。当該概要は、本開示を広い範囲にわたって概観したものではなく、本発明の鍵となる要素、または決定的な要素を特定するものでもなければ、本発明の範囲を概説するものでもない。その目的は、後に記載されるより詳細な説明の序文として、本発明の一部の概念を単純化した形で示すことにある。
【0006】
本開示の一実施例では、イオン注入システムが提供される。イオン源は、ビーム種からイオンビームを生成することによって、生成されたイオンビームを規定する。質量分析器は、例えば、当該生成されたイオンビームを質量分析して、第1荷電状態のビーム種のイオン(例えば、陽イオンまたは陰イオン)を含む、分析されたイオンビームを規定する。
【0007】
例えば、分析されたイオンビームを受け入れる加速器がさらに提供される。当該加速器は、第2荷電状態のビーム種の陽イオンを含む出射イオンビームを規定する。加速器は、例えば、当該加速器内のある位置において、第1荷電状態のビーム種の陽イオンまたは陰イオンを受け入れる荷電ストリッパを備える。荷電ストリッパは、第1荷電状態のイオンを、第2荷電状態のビーム種の陽イオンへと変換する。荷電ストリッパに高分子量ガスを提供するガス源がさらに提供される。さらに、それぞれ陽イオンを加速する加速器ステージが提供される。最後に、エンドステーションは、加速器より下流に配置されている。当該エンドステーションは、第2荷電状態を有する出射イオンビームのイオンが注入されるワークピースを支持する。
【0008】
本開示の一態様によれば、高分子量ガスは六フッ化硫黄ガスを含む。別の態様によれば、荷電ストリッパは、(i)イオンから電子をストリッピングするためのガスの供給源と、(ii)イオンビームのエネルギー、電流、および種のうちの少なくとも1つに基づいて、加速器の荷電ストリッパ内へのガスの流量(flow rate)を調整する制御装置と、を備える。ガスは、例えば、高分子量ガスを含んでよい。
【0009】
一実施例では、加速器は公知の「タンデム加速器」を含み、当該加速器内では、第1荷電状態の陰イオンが正ターミナルに向かって加速させられる。当該正ターミナルでは、それらの陰イオンは、第2荷電状態の陽イオンになるように荷電ストリッピングされて、その出口においてグランド電位に向かう別の加速サイクルを経る。
【0010】
第2荷電状態は、例えば第1荷電状態よりも大きい正の荷電状態を有する。さらに、ビーム種は、例えば、ホウ素およびリンのうちの1つ以上を含んでよい。
【0011】
別の実施例では、イオン源において利用可能である存在している陽イオンよりも多くの第2正荷電状態の陽イオンが存在する、イオンビームの経路に沿った位置に、荷電ストリッパが設けられる。荷電ストリッパは、第1荷電状態の陽イオンに関して、別の手法によって得られるエネルギー範囲よりも高いエネルギー範囲まで、イオンビームのビーム電流を増加させる。当該荷電ストリッパは、例えば、イオンビームの方向における、第1の複数の加速器ステージのうちの少なくとも1つより下流、かつ、第2の複数の加速器ステージのうちの少なくとも1つより上流に設けられている。
【0012】
一実施例では、第2荷電状態は、第1荷電状態の正味荷電(net charge)を少なくとも1増加させる。別の実施例では、ガス源によって供給される高分子量ガスは六フッ化硫黄を含み、第1荷電状態は、+3の正味荷電を含み、第2荷電状態は、+6の正味荷電を含む。
【0013】
別の実施例によれば、本開示は、高エネルギーイオン注入装置を動作させる方法を提供する。当該方法においては、イオン源からあるビーム種のイオンが生成される。当該イオンビームは質量分析され、第1荷電状態(例えば、第1正荷電状態または第1負荷電状態)のイオンが、加速器内を選択的に通過させられる。第1荷電状態のイオンは、加速器内に配置された第1の複数の加速器ステージのうちの少なくとも1つによって加速させられ第1運動エネルギーレベルが得られる。これにより、加速させられたイオンが規定される。次いで、加速させられたイオンは、加速器内において、六フッ化硫黄などの高分子量ガスを含む荷電ストリッパを通過させられる。このようにして、第1荷電状態のイオンは、当該第1荷電状態とは異なる第2(正)荷電状態のイオンへと変換される。ストリッピングは、第1運動エネルギーレベルに基づくストリッピング効率において実行される。このようにして、当初イオン源に存在していたよりも多くの第2正荷電状態のイオンが得られる。そして、イオンビームのビーム電流、およびイオンビームの第2エネルギーは、第1荷電状態の陽イオンに関して得られた第1運動エネルギーレベルよりも高い。次いで、第2正荷電状態のイオンは、加速器内に配置された第2の複数の加速器ステージのうちの少なくとも1つによって加速させられる。
【0014】
上記の概要は単に、本発明の一部の実施形態の、一部の構成に関する簡潔な概説を提供することを意図したものであり、他の実施形態は、上記の構成に追加の構成、および/または、上記の構成とは異なった構成を含んでいてよい。特に、この概要は、本出願の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。したがって、上記の目的、および関連する目的を達成するために、本発明は、以下に記載され、特に特許請求の範囲において挙示される構成を含む。以下の記載および添付の図面は、本発明の特定の例示的な実施形態を詳細に説明している。しかし、これらの実施形態は、本発明の原理を用いうる種々の方法の一部を示しているにすぎない。本発明の他の目的、利点および新規な構成は、本発明の詳細な記載を図面と組み合わせて考慮することによって、明らかになるだろう。
【0015】
[図面の簡単な説明]
図1は、本開示の一態様に係るイオン注入システムを示す、簡略化された上面図である。
【0016】
図2は、本開示の少なくとも1つの態様に係る、イオン注入システムの一部である。
【0017】
図3は、アルゴンおよび六フッ化硫黄を通過するヒ素ビームの荷電状態分布を示している。
【0018】
図4は、荷電をストリッピングする場合に使用される、種々の媒体を示している。
【0019】
図5は、本開示のさらに別の実施形態に係る、ビーム電流を増加させる方法を示すフローチャート図である。
【0020】
図6は、本開示のさらに別の実施形態に係る、ビーム電流を増加させる方法を示すフローチャート図である。
【0021】
[詳細な説明]
イオン注入は半導体ワークピースおよび/またはウェハ材料にドーパントを選択的に注入するために、半導体装置製造において使用される化学プロセスである拡散とは対照的に、物理プロセスである。したがって、注入の動作は、ドーパントと半導体材料との間の化学的相互作用に依存しない。イオン注入のために、ドーパント原子/分子はイオン化され、分離され、時には加速または減速され、ビームへと形成され、ワークピースまたはウェハを掃引する。ドーパントイオンは、ワークピースに物理的に衝撃を与え、表面に入り、典型的には、ワークピースの結晶格子構造内においてワークピースの表面下に静止するに至る。
【0022】
RFベースの加速器およびDCベースの加速器においては、イオンは、加速器の複数の加速ステージを経て繰り返し加速されてよい。例えば、RFベースの加速器は、電圧駆動加速ギャップを有していてよい。RF加速場の時間的に変化する性質と、複数の加速ギャップとに起因して、最終的なビームエネルギーに影響する多数のパラメータが存在する。イオンビームの荷電状態分布は変化し得るので、イオンビーム内の荷電値(電荷値)を最初に意図された単一値に維持するためには、多大な努力が必要である。しかしながら、より高いエネルギーレベルでの注入レシピ(例えば、イオンビームエネルギー、質量、荷電値、ビーム電流、および/または注入の総ドーズ量レベル)に対する要求がより大きくなることにより、イオン源を不必要に損なうことなく、より高いビーム電流を提供することが必要となる。したがって、ビーム電流を増加させるために適したシステムまたは方法が望まれている。
【0023】
ここで図面を参照すると、本開示の1つの例示的な一態様によれば、図1は、ハイブリッドパラレルスキャンシングルウェハイオン注入システム100を示す。イオンビーム106を分析する質量分析器104の後方、かつ、エネルギーフィルタ130の前方に、主加速器113が配置されるので、注入システム100は、後部加速注入装置(ポスト加速注入装置)とも呼ばれる。このタイプのイオン注入装置はしばしば、加速器113の出力中の望ましくないエネルギースペクトルを除去するために、加速器113の後方にエネルギーフィルタ130を有する。一実施形態では、イオン源102から生成されたイオンビーム101が、質量分析器104の前方に位置する加速ステージ(図示せず)内の加速器によって加速させられる。これにより、例えば、加速させられた、および/または分析されたイオンビーム108が生成されてよい。下流において、当該加速させられた、および/または分析されたイオンビーム108は、加速器113において、複数の加速器ステージによって再度加速させられてよい。例えば、加速器ステージは(RF加速器の場合と同様に)、その内部にRF加速場を生成し、かつ、さらに加速させられた出射イオンビーム110を出力するために、共振器をそれぞれ備えてよい。エネルギーフィルタ130を通過した後、フィルタリング済イオンビームは、ビームスキャナ119を通過し、次いで、散開したビーム(散開ビーム)111を、平行にシフトされたイオンビーム(平行シフトイオンビーム)115に変換する角度補正レンズ120を通過する。
【0024】
ワークピースおよび/または基板134は、ハイブリッドスキャンスキームによって、イオンビーム115に対して直交するように移動させられ(図の内外に移動するように示されている)る。これにより、ワークピース134の全表面が、均一に照射される。上述のように、本発明の様々な態様は、図1の例示的なシステム100を含むが、これに限定されず、任意のタイプのイオン注入システムに関して実施することができる。
【0025】
例示的なハイブリッドパラレルスキャンシングルウェハイオン注入システム100は、例えば、ソースチャンバアセンブリ112を備える。ソースチャンバアセンブリ112は、(i)イオン源102と、(ii)イオンを引き出し、かつ、当該イオンを中間エネルギーまで加速するための引出電極アセンブリ121と、を備える。質量分析器104は、不要なイオン質量および荷電種を除去する。加速器アセンブリ113は、イオンを最終エネルギーまで加速する。ビームスキャナ119は、加速器アセンブリ113から出射し、かつ、ビームスキャナ119から出射した散開したスキャン済ビーム111を、平行シフトビーム115に変換する角度補正レンズ120内に入るビームを、高速周波数において前後にスキャンする。当該平行にシフトされたビーム115は、プロセスチャンバまたはエンドステーション(図示せず)内に格納可能なワークピース134に至る。
【0026】
加速器アセンブリ113は、例えば、(i)イオンがRF場によって繰り返し加速させられるRF線形粒子加速器(LINAC)、または、(ii)イオンを固定(静的)なDC(直流)高電圧により加速するDC加速器(例えば、タンデム静電加速器)であってよい。ビームスキャナ119は、散開ビーム111を平行シフトビーム115に変換する角度補正レンズ120に入射するイオンビーム110を、静電気的または電磁的に、左から右にスキャンする。角度補正レンズ120は、図示の通り電磁石であってよいが、例えば、静電バージョンもある。角度補正レンズ120から出射した平行シフトイオンビーム115は、最後にはワークピース134上に向けられる。
【0027】
一実施形態では、イオン荷電値(q)を増加させることによって、加速器113を通過するイオン粒子の最終的な運動エネルギーを増加させることが可能である。一実施形態では、第1加速器ステージと第2加速器ステージとの間の加速器113内に荷電ストリッパ118を設けることによって、イオン荷電状態(q)を増加させることができる。例えば、RF加速器においては、複数(例えば、6つ以上)の加速器ステージは、加速場(図示せず)を発生させるための共振器を備えていてもよく、複数の1つ以上の加速器ステージの内の少なくとも1つは、荷電ストリッパ118の後方に位置する第2加速器ステージを含みうる。
【0028】
一実施形態では、加速器113内の第1の複数の加速ステージによって、加速器113内に位置する荷電ストリッパ118の前方において、イオンビームの加速を生じさせることが可能である。例えば、加速器113内の第2の複数の加速ステージによって、荷電ストリッパ118の後方において、加速を生じさせることも可能である。あるいは、第1の複数の加速ステージは、加速器113の外部に存在していてもよい。例えば、第1の複数の加速ステージは、質量分析器の前方に配置されてもよい。その場合、イオンビーム108は、荷電ストリッパ118に入射する、加速および分析の両方がなされたイオンビーム108である。
【0029】
一実施形態では、イオンビーム108は、イオンの正味荷電(実効電荷,正味電荷)(net electrical charge)が正であり得る第1荷電状態を含む陽イオン(正イオン)(例えば、As3)を含む。荷電ストリッパ118内に侵入した後、第1荷電状態の陽イオンの一部は、第2荷電状態の陽イオン(例えば、As6)に変換されうる。いわゆるタンデム加速器を利用する別の実施形態では、イオンビーム108は、ストリッパの前方の、加速器の第1ステージ内において加速させられる陰イオン(負イオン)を含む。
【0030】
したがって、加速器113から出射するイオンビーム110は、(i)より低い濃度の第1荷電状態のイオン、(ii)ある濃度の第2荷電状態のイオン、および、(ii)当該第1荷電状態を使用することによって利用可能な最大運動エネルギーレベルを上回る、ビーム電流の増加を含む。例えば、イオンビームは、ヒ素、ホウ素、リン、または他の種など、任意の数のビーム種を含んでよい。
【0031】
図2は、本開示の一態様に係るイオン注入システムの一部に関する、一実施例を示す。加速器200は、例えば、(i)第1の複数の加速器ステージ230のうちの少なくとも1つと、(ii)第2の複数の加速器ステージ232のうちの少なくとも1つ1と、を含んでよい。例えば、加速器200は、一実施形態の一実施例として、図2において示されているRF加速器を備えていてもよく、かつ、任意の個数の加速器ステージ(例えば、202、204、205、206、208、210、および212)を備えていてもよい。加速器ステージ202、204、205、206、208、210、および212は、それぞれ、両側(図示されず)にRF加速場を発生させるために、例えばRF共振器によって駆動される少なくとも1つの加速器電極214を含んでよい。荷電状態(例えば、正味荷電または価数)を伴う荷電粒子のイオンビーム201は、加速器電極の開口部を連続して通過することができる。加速の原理は、当技術分野で公知である。
【0032】
ビーム集束は、加速器200内に組み込まれたレンズ234(例えば、静電四極レンズ)によって提供されてよい。一実施形態では、加速器200は、第1荷電状態に応じた最大運動エネルギーレベルまで、一価イオンを加速させることができる。一実施形態では、より高い第2荷電状態のイオンを採用して、より低い第1荷電状態に応じた最大運動エネルギーレベルよりも高いエネルギーレベルに到達させてよい。したがって、第1荷電状態のイオンを含むイオンビーム201は、入射ビームとして加速器200に入射し、かつ、より高い、またはより低い正味荷電原子価の、第2荷電状態のイオンへと変換されてよい。加速器200内に組み込まれた荷電ストリッパ220による手法と同様の手法によって、入射ビーム201内の電子を除去することによって、入射ビーム201は、より高い荷電状態である第2荷電状態のイオンを含む出射ビーム203へと変換される(例えば、As3はAs6へと変換される)。このように、第1荷電状態に応じた最大運動エネルギーレベルを超えて、ビームエネルギーを増加させることができる。
【0033】
イオンビーム201が引き出され、かつ、形成された後、ビーム201は、加速器200(例えば、13.56MHzの12共振器高周波線形加速器)によって加速されてよい。本開示における加速器は、特定の加速器に限定されない。一実施形態では、加速器200は、(i)その内部においてイオンビーム201を加速するために加速器200内に組み込まれた第1の複数の加速器ステージ230と、(ii)その内部においてイオンビーム203内のイオンをさらに加速するために加速器200内に組み込まれた第2の複数の加速器ステージ232と、を含んでよい。第1の複数の加速器ステージは、図2に図示された実施例では、例えば加速器200内かつ荷電ストリッパ220の上流に組み込まれている。但し、第1の複数の加速器ステージ230は、質量分析器(例えば、図1の質量分析器104)の前方に配置されてよい。したがって、第1の複数の加速器ステージが、第2荷電状態を生じさせるための高いストリッピング効率を保証するために十分に高く、イオン源において利用可能な量よりも大きい十分なエネルギーを、第1荷電状態のイオンに提供する限り、荷電ストリッパ220は、加速器200の任意の加速ステージに配置されてよい。
【0034】
例えば、RF加速器の共振器は、任意の加速ステージにおいて、荷電ストリッパ220に置き換えられてよい。一実施例では、例えば、荷電ストリッパ220は、イオンビーム201の方向において、(i)加速器の第1の複数の加速器ステージ230のうちの少なくとも1つより下流、かつ、(ii)加速器200の第2の複数の加速器ステージ232のうちの少なくとも1つより上流に、配置されてよい。他の実施例では、例えば、加速器の第1の複数の加速器ステージの数は、第2の複数の加速器ステージの数より多くてもよく、または少なくてよい。あるいは、加速器の第1の複数の加速器ステージの数と、第2の複数の加速器ステージの数とは、等しくてよい。ステージの数は、図2の例示に限定されない。
【0035】
さらなる実施形態では、加速器200に入射するイオンビーム201は、第1荷電状態の陽イオンビームまたは陰イオンビームを含む。そして、出射イオンビーム203は、第1荷電状態よりも正の荷電状態を含む第2荷電状態の陽イオンビームを含む。入射イオンビーム201は、例えば、SFなどの重い分子量ガスによって満たされた、ストリッパ管と呼ばれる薄い管からなる荷電ストリッパ220に入射してよい。荷電ストリッパはまた、隣り合う加速器の部位に流入するストリッパガス流の量を減らすために、ガス源226からガスを圧送するための、ポンプ222(例えば、差動ターボポンプ)を備えてよい。ガスは、イオンビーム201から効率的に電子をストリッピング(剥奪)し、かつ、より高い正の荷電状態を含むイオンビーム203内に、より高濃度のイオンを生じさせるために、六フッ化硫黄(SF)または別の高分子量ガスを含む。荷電ストリッパおよび/または荷電ポンプは、ガス源226から荷電ストリッパ220へのガスの流量を調節するように構成された制御装置(制御デバイス)224を含んでよい。ガスの流量は、イオンビーム201のエネルギー、電流、および/または種のうちの少なくとも1つに、機能的に基づき得る。荷電ストリッパ220は、当該荷電ストリッパ220の両側に、ポンピングバッフル229(例えば、差動ポンピングバッフル)をさらに含んでいてよい。ポンピングバッフル228は、差動ポンプ222とともに、隣り合う加速器ステージ(例えば、加速器ステージ205および加速器ステージ206)への気体の漏れ(漏出)を最小限に抑えるように機能してよい。
【0036】
例えば、第1線形加速器(linear accelerator, LINAC)によって加速させられたイオンビームは、第2線形加速器を介してより高いエネルギーゲインを得るために、イオンの荷電状態を増加させるように、荷電ストリッパ220内のイオンを取り囲む電子をストリッピングように構成された、気体の層に導かれる。例えば、ヒ素(As)の最高エネルギー領域では、第1LINACを介して加速させられた3+ヒ素イオンが、荷電ストリッパ220によって6+ヒ素イオンへとストリッピングされる。7MeVの3+ヒ素イオンの約8%が、このようにして6+ヒ素イオンへと変換される。しかしながら、仮に変換がより効率的になれば、より多くの6+ビーム電流が得られるだろう。
【0037】
タンデムの高エネルギー加速器は、一般に、高エネルギーイオンを生成するための荷電ストリッピングに依存する。このため、当該タンデム高エネルギー加速器は、当該荷電ストリッピングのために、アルゴンガスを従来から利用してきた。いわゆる「超高エネルギー」タンデム加速器においては、極めて薄い炭素ホイルも荷電ストリッパとして利用されている。但し、炭素ホイルの寿命は短いため、イオン注入の任意の産業的使用における適用性が制限されており、現在、学術的な研究用の加速器にのみ使用されていることが知られている。例えば、10MeVのヨウ素イオンビームを、種々のガスおよびホイルに通した場合に関連する荷電ストリッピング能力が、図3に示されている。
【0038】
これまで、イオンのストリッピングは、一般に、図4に示されている通りのガスに限定されており、主にアルゴンガスの利用に限定されていた。しかしながら、ガスストリッパ内でヒ素イオンをストリッピングするために、六フッ化硫黄(SF)ガスが有利に利用されることが可能であり、それによって、荷電状態分布がより高い荷電状態に移行(シフト)する傾向が生じ、したがって、例えば6+イオンの収率が、アルゴンガスにおいて従来認識されている収率のほぼ2倍になることを、本開示は明らかにした。
【0039】
図3のグラフは、7200KeVのヒ素イオンビームを、(i)SFを含むガスストリッパと、(ii)アルゴンを含むガスストリッパと、に通した後の荷電状態分布の比較を示す。明らかに示されるように、SFの使用は5+イオン収率および6+イオン収率を2倍にし、したがって、5+イオンビームおよび6+イオンビームの最終ビーム電流を2倍に増加させる。このような有効性の増加は明らかであり、6+イオンに関して、ストリッパ中においてアルゴンを利用する場合、約8%の変換が達成されるのに対し、SFを利用すると、約16%の変換、すなわち2倍の量の6+ビームが得られる。
【0040】
イオンビーム中の電子をストリッピングするために、様々なガスが従来から使用されてきたが、六フッ化硫黄が本開示に係るガスストリッパに使用されることは知られていない。ガスストリッパは、イオンを物質に通過させることによって動作する。したがって、イオンが十分に速い速度において物質を通過する場合、ストリッパ内のバックグラウンドガス原子または固体膜原子との相互作用によって、イオンビームが電子を失う傾向がある。このため、イオンビームは、イオンがストリッパにどれだけ速く入射するかに応じて、より高い荷電を有してストリッパから出射する。イオンは、非常に薄い炭素膜を利用するストリッパを通過するが、より高い荷電イオンの集団(ポピュレーション)を有する傾向がある。その一方、炭素膜は、短い寿命を有する傾向があり、最終的にはかなり迅速に消耗(バーンアウト)する。
【0041】
炭素膜ストリッパの寿命は限られているため、本開示は、ストリッパのための適切な媒体として、ガスを提供する。一般的には、ストリッパ内に管が設けられる。この場合、ストリッピングガスが管の中心に供給され、ガスは周囲の真空よりも高いガス密度を有する。管の末端には、最少量のストリッピングガスがシステムの残りの部分に伝播するように、(例えば、真空ポンプによって)真空が設けられる。このようにして、ストリッパ内により高い圧力の領域が設けられる。これにより、ヒ素イオンなどの加速させられたイオンは当該より高い圧力の領域を通過し、ストリッピングガス原子と相互作用し、したがって、イオンから荷電をストリッピングし、ストリッパから放出されるイオンの荷電を、より高める。このようなより高荷電のイオンは、タンデム加速器においても有利に利用される。
【0042】
本開示においては、アルゴンは約40の分子量を有し、一方、SFは約146の分子量を有し、アルゴンよりもかなり重いことが理解されている。したがって、本開示が示唆する1つの仮説は、SFは、より重い気体分子の1つであるだけでなく、イオンビームから電子をストリッピングする効果を補助する、高電気陰性の分子であるということである。SFは、商業的使用のためにより容易に利用可能な、より重い気体分子の1つであり、したがって、他のより重い気体よりも、有益であると考えられる。しかしながら本開示は、他の重い分子量のガス(例えば、アルゴンより重い)を、相対的な電子ストリッピング能力を有するものとして利用することを意図している。本開示においては、SFが高電圧アークを抑制するのに効率的なガスであることが、さらに理解されている。これを踏まえ、SFは従来、発電所におけるスイッチおよび高電圧送電線に対して用いられ、高電圧加速器などの圧縮タンクにおいて用いられ、ならびにRF加速器の共振器の内部において用いられている。しかしながら、本明細書に記載された方法によって、電子をストリッピングするためにSFが利用されたことはこれまでなかった。
【0043】
これまで、SFは、ガスストリッパまたはビームラインの他の場所において使用するために望ましいガスとは考えられていなかった。例えば、SFは環境的に有害であり、SFガスが大気中にポンプによって排出されること、または、その他の方法によりガスストリッパ内の封止(封じ込め)から逃れることが懸念される。したがって、本開示はさらに、SFを、より毒性の低いおよび/または揮発性の低い成分へと分解することを意図する。または、本明細書に記載された方法によると、SFをリサイクルして再利用することも可能である。
【0044】
したがって、本開示は、ビームライン内のSFを荷電ストリッパとして使用することを創意的に意図している。SFが従来、高電圧絶縁体のためのタンク内のビームラインの外部のアークを抑制するために使用されてきたことに対して、本開示はビームライン内のSFを利用して電子をストリッピングすることを目的としており、当該ビームラインは、従来のSFの使用とは著しく異なった環境および効用を提供することを、本発明者は理解している。従来、当業者はビームラインの真空における高電圧領域において、SFを使用するように動機付けされておらず、その理由は、SFの使用は電圧の保持を困難にする可能性があるからであった。例えば、SFが真空内部に提供される場合、スパークを誘発する傾向があり、したがってSFをガスストリッパ内において使用することは直観に反することであり、SFは有害なアークまたはスパークを引き起こすと想定されるため、ビームライン内にSFが存在することを当業者が望まないということが、本開示において理解されている。しかしながら、本開示は、予想外の結果をもたらす。
【0045】
SFは、従来のガスストリッパにおいて使用されるアルゴンガスよりも重いガスであり、コンダクタンスがガスの分子量の平方根に反比例することから、管を介したコンダクタンスが低くなり、高圧力領域を局所化することを促進するので、SFがガスストリッパにおいて有利に追加の利点を提供することが、本開示においてさらに理解されている。例えば、本開示は、局所的な高圧力領域を生成するために、ガスストリッパの管の中央にSFを供給することを意図している。水素などのより軽いガスをガスストリッパに使用する場合、当該ガスは急速に拡散するので、局在化させることが困難である。
【0046】
1つ以上の実施形態によれば、システムおよび方法は、イオン源においてより高い荷電状態、または異なる荷電状態を使用せずに、荷電状態に応じた最大運動エネルギーにおいて利用可能なビーム電流を増加させる。例えば、イオン注入システムのイオン源は、イオンビームを生成するために、特定の荷電状態(例えば3+As)のイオン(例えばヒ素イオン)を含んでよい。イオン注入システム内(例えば、ビーム経路に沿って配置された加速器内)のプロセスは、イオンの初期荷電を変化させるように、当該イオンに作用しうる(例えば、荷電交換反応)。例えば、一実施例においては、3という正味正荷電を含むヒ素イオンを加速器内に選択し、ガス源およびターボポンプを含む荷電ストリッパによって電子をストリッピングしてよい。本開示に係るガス源は、六フッ化硫黄(SF)などの高分子量ガスを含む。
【0047】
一実施形態においては、加速器は、複数の加速器ステージと、荷電ストリッパとを、内部に含んでよい。高速イオンが荷電ストリッパ内のガスの、別の分子または別の原子に近接すると、イオンは当該別の分子または別の原子から、電子を奪う(ピックアップする)(すなわち、電子捕獲反応)こと、または、当該別の分子または別の原子のせいで電子を失う(すなわち、荷電ストリッピング反応)ことが起こりうる。前者の反応はイオン荷電の値を1つ減らす。例えば、荷電が1のイオンは、中性原子、つまり、電気的に中性の原子になる。後者は、イオン荷電の値を1だけ増加させる(例えば、荷電が1のイオンは、荷電が2のイオンになる)。
【0048】
一実施例においては、第1正荷電状態(例えば、+3の正味の正荷電または価数)を有する陽イオン(例えば、ヒ素イオン)が、荷電ストリッパおよび複数の加速器ステージを備える加速器に引き込まれる。それぞれの加速ステージは、ビーム経路に沿ってイオンを加速させるために、RF加速場を生成するRF共振器を備えていてよい。荷電ストリッパは、(i)高分子量ガス(例えばSF)を加速器内に放出するためのガス源と、(ii)ガスを排出し、ガスが加速ステージに流入することを防止するための、真空を生じさせるためのターボポンプとを備えてよい。電子のイオンをストリッピングし、したがって加速器に入射する陽イオンを加速器から出射する第2荷電状態(例えば、+6の正味の正荷電または価数)の陽イオンへと変換させるように、荷電ストリッパにより加速器内の加速ステージのうちの1つを置き換えてよい。
【0049】
ここで、図5および図6を参照すると、例示的な方法500および600が一連のアクト(動作)またはイベントとして本明細書に示され、説明されているが、本開示においては一部のステップが本開示にしたがって本明細書に示され、説明されたものとは別の様々な順序で、および/または他のステップと同時に起こり得るので、そのようなアクトまたはイベントの順序は、図示された順序によって限定されないことにも留意されたい。加えて、本開示に係る方法を実施するために、図示されたすべての工程が必要とされるわけではない。さらに本方法は、本明細書に図示され、説明されたシステム100および200に関連しているシステムだけでなく、図示されていない他のシステムにも関連して実施され得ることが理解されるだろう。
【0050】
図5の方法500は、502から開始する。イオン源は、イオンビーム504を生成し、ビームを質量分析器に向かわせる。506において、生成されたイオンビームは、質量分析される。質量分析装置に応じた磁界強度は、荷電対質量比(電荷対質量比)に応じて選択することができる。一実施例では、質量分析はイオン源の下流であってよい。
【0051】
一実施例では、508において、加速器に入射させるための第1正荷電状態のイオン、または、第1負荷電状態のイオンを、(質量分析器を介して)選択してよい。510において、選択された第1荷電状態のイオンは、イオン源において利用可能な荷電状態よりも高い荷電状態へのストリッピング効率を、より高める効果を生み出すエネルギーまで加速させられる。第1荷電状態の加速イオンは、例えばSFを含む荷電ストリッパのストリッピング管に入射し、512において、これらのイオンはストリッピングされ、第2正荷電状態の陽イオンへと変換される。第2正荷電状態の陽イオンは、514において加速される。
【0052】
図6の方法600は、602から開始する。イオン源は、第1荷電状態の陽イオンまたは陰イオン(例えばAs3+またはAs-)を含むイオンビームを生成する。イオンビームは、種々のビーム種(例えばヒ素)であってよい。606において、生成されたイオンビームは、特定の順序に全く関係なく、加速させられ、かつ、質量分析されてよい。608において、すでに述べた第1荷電を有するイオンを選択し、加速器に入射させてよい。610において、イオンビームをSFなどの高分子量ガスに通すことによって、イオンはさらに加速させられ、電子がストリッピングされて、当該イオンは第2陽荷電状態の陽イオン(例えばAs6+)へと変換されてよい。612において、第2陽荷電状態の陽イオンを加速してもよく、第1正荷電状態の第1最大運動エネルギーレベルよりも大きい第2運動エネルギーレベルを得ることができる。
【0053】
本発明は特定の応用方法および特定の実施形態に関して示され、説明されてきたが、本明細書および添付の図面を読み取り、理解することにより、均等な変更および修正が他に想起されることが理解されよう。特に、上述のコンポーネント(アセンブリ、デバイス、回路、システムなど)によって実行される様々な機能に関して、そのようなコンポーネントを説明するために使用される用語(「手段」への言及を含む)は別段の指示がない限り、開示されたコンポーネントの指定された機能を実行する任意のコンポーネントに対応する(すなわち、機能的に均等である)ことが意図され、たとえ、開示された構造と構造的に均等ではなくても、本明細書で示された本開示の例示的な実施形態において機能を実行する。
【0054】
加えて、本開示の特定の構成は複数の実施形態のうちの1つのみに関して開示され得るが、そのような構成は任意の所与の応用方法、または特定の応用方法に対して望ましく、かつ有利であり得るように、他の実施形態の1つ以上の他の構成と組み合わせてよい。さらに、「含む」、「含んでいる」、「有する」、「有している」という用語、およびそれらの変形は、本明細書の詳細な説明、または特許請求の範囲のいずれかにおいて使用される限りにおいて、これらの用語は、「備える」という用語と同様に、包括的であることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本開示の一態様に係るイオン注入システムを示す、簡略化された上面図である。
図2】本開示の少なくとも1つの態様に係る、イオン注入システムの一部である。
図3】アルゴンおよび六フッ化硫黄を通過するヒ素ビームの荷電状態分布を示している。
図4】荷電をストリッピングする場合に使用される、種々の媒体を示している。
図5】本開示のさらに別の実施形態に係る、ビーム電流を増加させる方法を示すフローチャート図である。
図6】本開示のさらに別の実施形態に係る、ビーム電流を増加させる方法を示すフローチャート図である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6