(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】蛍光表示管、および蛍光表示管用グリッド電極のメッシュピッチの設計方法
(51)【国際特許分類】
H01J 31/15 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
H01J31/15 B
(21)【出願番号】P 2022052648
(22)【出願日】2022-03-28
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(73)【特許権者】
【識別番号】000117940
【氏名又は名称】ノリタケ伊勢電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】中野 祥汰
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-127651(JP,A)
【文献】特開2003-263967(JP,A)
【文献】特開2014-086397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 31/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス状に、かつ、第1方向に所定の配列ピッチで配置された陽極の表面に形成された蛍光体と、該蛍光体の上方に架設された陰極と、前記蛍光体と前記陰極との間に配置されたメッシュ構造を有するグリッド電極とを備えるドットマトリックス型の蛍光表示管であって、
前記グリッド電極は、前記第1方向と平行に延びる第1線と、該第1線に垂直な第2方向と平行に延びる第2線とを有し、前記第1線と前記第2線で平面視矩形の開口部を複数形成しており、
前記第2線のピッチは、前記蛍光体の配列ピッチの整数倍で、かつ、前記第2線は前記蛍光体とは上下方向で重ならない位置に配置され、
前記第1線のピッチは、前記第2方向における前記蛍光体の配列または前記グリッド電極に基づく単位幅をn等分する寸法であり、前記nは、前記第1線のピッチが所定値以下となる分割数のうち、値が大きく、かつ、前記第1線が前記蛍光体に重なる割合が少なくなる値であることを特徴とする蛍光表示管。
【請求項2】
前記グリッド電極における前記第1線のピッチは0.35mm以下であることを特徴とする請求項1記載の蛍光表示管。
【請求項3】
前記グリッド電極における前記第2線のピッチは3.00mm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の蛍光表示管。
【請求項4】
前記グリッド電極は前記第1方向に延在し、前記開口部は前記第1方向に長い長方形であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の蛍光表示管。
【請求項5】
前記グリッド電極は前記第2方向に延在し、前記開口部は前記第1方向に長い長方形であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の蛍光表示管。
【請求項6】
マトリックス状に、かつ、第1方向に所定の配列ピッチで配置された陽極の表面に形成された蛍光体と、該蛍光体の上方に架設された陰極と、前記蛍光体と前記陰極との間に配置されたメッシュ構造を有するグリッド電極とを備えるドットマトリックス型の蛍光表示管における前記グリッド電極のメッシュピッチの設計方法であって、
前記グリッド電極は、前記第1方向と平行に延びる第1線と、該第1線に垂直な第2方向と平行に延びる第2線とを有し、前記第1線と前記第2線で平面視矩形の開口部を複数形成しており、
前記設計方法は、前記第2線のピッチを、前記蛍光体の配列ピッチの整数倍で、かつ、前記第2線が前記蛍光体とは上下方向で重ならない位置となるような寸法に決定する工程Aと、前記第1線のピッチを、前記第2方向における前記蛍光体の配列または前記グリッド電極に基づく単位幅をn等分する寸法に決定する工程Bとを有し、
前記工程Bは、前記nとして、前記第1線のピッチが所定値以下となる分割数のうち、値が大きく、かつ、前記第1線が前記蛍光体に重なる割合が少なくなる値を選択する工程を含むことを特徴とする蛍光表示管用グリッド電極のメッシュピッチの設計方法。
【請求項7】
前記工程Bは、前記第1線のピッチを0.35mm以下の寸法に決定することを特徴とする請求項6記載の蛍光表示管用グリッド電極のメッシュピッチの設計方法。
【請求項8】
前記工程Aは、前記第2線のピッチを3.00mm以下の寸法に決定することを特徴とする請求項6または請求項7記載の蛍光表示管用グリッド電極のメッシュピッチの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光表示管、および蛍光表示管用グリッド電極のメッシュピッチの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光表示管は、真空外囲器の中で、カソードから放出される電子をアノード上に付着した蛍光体に衝突させてこの蛍光体を発光させ、所望のパターンを表示する電子管である。一般的な蛍光表示管は、電子の働きを制御するためのグリッド電極をカソードとアノードの間に備えた3極構造をしている。このような蛍光表示管の1つに、多数の蛍光体がマトリックス状に配列されたドットマトリックス蛍光表示管がある。
【0003】
従来のドットマトリックス蛍光表示管に用いられているグリッド電極は、六角形(特許文献1参照)や四角形(特許文献2参照)が規則的に並んだメッシュ構造をしている。グリッド電極は、一般にステンレス薄板をエッチング加工して製造される。
【0004】
蛍光表示管において、グリッド電極は蛍光体の前面に配置されており、蛍光体の光は、グリッド電極のメッシュ構造に遮られた状態でユーザの目に届くため、100%の明るさにはならない。このときの見た目の明るさ(輝度値)は、グリッド電極のメッシュピッチと線幅によって調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-16978号公報
【文献】特開2004-127651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の設計方法では、グリッド電極のメッシュピッチと線幅から計算される開口率を高く設定することで、輝度値を高く保つように設計されている。例えば、輝度値を100%に近付けるために、一般的にグリッド電極の線幅を細くする方法がとられているが、高度な加工技術が必要になる。この開口率の算出について
図13に示す。
図13に示すグリッド電極は、縦に長い長方形のメッシュ構造を有し、縦ピッチが1.00mm、横ピッチが0.40mm、線幅が40μmという設定になっている。この場合、開口部の面積に基づき、開口率は86.4(%)と算出される。
【0007】
ここで、蛍光表示管は、概ね以下に示す(1)、(2)の性質を有している。
(1)開口率と輝度値は比例の関係にある。例えば、グリッド電極のメッシュピッチを同じとしたまま線幅を2倍にすると、開口率および輝度値はともに1割程度低下する。
(2)グリッド電極のメッシュピッチとカットオフバイアス電圧は比例の関係にある。例えば、線幅を2倍に太くして開口率を同じにしようとすると、メッシュピッチは元の2倍に大きくする必要がある。この時、開口部の面積は4倍になり、同じカットオフバイアス電圧でも電子が通り抜けやすくなるため、例えばメッシュピッチを0.10mm大きくするごとにカットオフバイアス電圧を2V程度高くする必要がある。なお、カットオフバイアス電圧とは、カソードから放出される電子をグリッド電極で跳ね返して、蛍光体に到達させないようにするためにグリッド電極に印加する電圧のことである。
【0008】
このように、蛍光表示管は、(1)、(2)の性質を有しているが、輝度値とカットオフバイアス電圧はトレードオフの関係にあり、両立することが難しい。例えば、グリッド電極の線幅を太くしようとすると開口率の低下に伴って輝度値が低下する傾向があり、その一方で、開口率を維持しようとすると、カットオフバイアス電圧の上昇に繋がるおそれがある。
【0009】
本発明はこのような事情に対処するためになされたものであり、グリッド電極の線幅が太くなるような場合であっても、蛍光表示管の輝度を維持しつつ、省エネルギー性に優れる蛍光表示管、および蛍光表示管用グリッド電極のメッシュピッチの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の蛍光表示管は、マトリックス状に、かつ、第1方向に所定の配列ピッチで配置された陽極の表面に形成された蛍光体と、該蛍光体の上方に架設された陰極と、上記蛍光体と上記陰極との間に配置されたメッシュ構造を有するグリッド電極とを備えるドットマトリックス型蛍光表示管であって、上記グリッド電極は、上記第1方向と平行に延びる第1線と、該第1線に垂直な第2方向と平行に延びる第2線とを有し、上記第1線と上記第2線で平面視矩形の開口部を複数形成しており、上記第2線のピッチは、上記蛍光体の配列ピッチの整数倍で、かつ、上記第2線は上記蛍光体とは上下方向で重ならない位置に配置され、上記第1線のピッチは、上記第2方向における上記蛍光体の配列または上記グリッド電極に基づく単位幅をn等分する寸法であり、上記nは、上記第1線のピッチが所定値以下となる分割数のうち、値が大きく、かつ、上記第1線が上記蛍光体に重なる割合が少なくなる値であることを特徴とする。
【0011】
上記グリッド電極における上記第1線のピッチは0.35mm以下であることを特徴とする。
【0012】
上記グリッド電極における上記第2線のピッチは3.00mm以下であることを特徴とする。
【0013】
1つの形態として、上記グリッド電極は上記第1方向に延在し、上記開口部は上記第1方向に長い長方形であることを特徴とする。
【0014】
1つの形態として、上記グリッド電極は上記第2方向に延在し、上記開口部は上記第1方向に長い長方形であることを特徴とする。
【0015】
本発明の蛍光表示管用グリッド電極のメッシュピッチの設計方法は、マトリックス状に、かつ、第1方向に所定の配列ピッチで配置された陽極の表面に形成された蛍光体と、該蛍光体の上方に架設された陰極と、上記蛍光体と上記陰極との間に配置されたメッシュ構造を有するグリッド電極とを備えるドットマトリックス型蛍光表示管における上記グリッド電極のメッシュピッチの設計方法であって、上記グリッド電極は、上記第1方向と平行に延びる第1線と、該第1線に垂直な第2方向と平行に延びる第2線とを有し、上記第1線と上記第2線で平面視矩形の開口部を複数形成しており、上記設計方法は、上記第2線のピッチを、上記蛍光体の配列ピッチの整数倍で、かつ、上記第2線が上記蛍光体とは上下方向で重ならない位置となるような寸法に決定する工程Aと、上記第1線のピッチを、上記第2方向における上記蛍光体の配列または上記グリッド電極に基づく単位幅をn等分する寸法に決定する工程Bとを有し、上記工程Bは、上記nとして、上記第1線のピッチが所定値以下となる分割数のうち、値が大きく、かつ、上記第1線が上記蛍光体に重なる割合が少なくなる値を選択する工程を含むことを特徴とする。
【0016】
上記工程Bは、上記第1線のピッチを0.35mm以下の寸法に決定することを特徴とする。
【0017】
上記工程Aは、上記第2線のピッチを3.00mm以下の寸法に決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の蛍光表示管において、メッシュ構造を有するグリッド電極は、第1方向と平行に延びる第1線と、該第1線に垂直な第2方向と平行に延びる第2線とを有し、第1線と第2線で平面視矩形の開口部を複数形成しており、第2線のピッチは、蛍光体の配列ピッチの整数倍で、かつ、第2線は蛍光体とは上下方向で重ならない位置に配置されており、発光しない部分に第2線を配置することで、開口率の変化が輝度に影響しにくくなる。また、第1線のピッチは、第2方向における蛍光体の配列またはグリッド電極に基づく単位幅をn等分する寸法であり、nは、第1線のピッチが所定値以下(好ましくは0.35mm以下)となる分割数のうち、値が大きく、かつ、第1線が蛍光体に重なる割合が少なくなる値であるので、蛍光体との重なりを考慮しつつ、第1線のピッチを小さくでき、カットオフバイアス電圧の上昇を抑えることができる。
【0019】
本発明の蛍光表示管用グリッド電極のメッシュピッチの設計方法は、第2線のピッチを、蛍光体の配列ピッチの整数倍で、かつ、第2線が蛍光体とは上下方向で重ならない位置となるような寸法に決定する工程Aと、第1線のピッチを、第2方向における蛍光体の配列またはグリッド電極に基づく単位幅をn等分する寸法に決定する工程Bとを有し、工程Bは、nとして、第1線のピッチが所定値以下(好ましくは0.35mm以下)となる分割数のうち、値が大きく、かつ、第1線が蛍光体に重なる割合が少なくなる値を選択する工程を含むので、輝度の開口率への依存性を低減でき、輝度とカットオフバイアス電圧を両立したメッシュピッチを設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態の蛍光表示管の概略断面図である。
【
図3】第1実施形態の蛍光表示管における発光単位Uの平面図である。
【
図4】第1実施形態の蛍光表示管におけるグリッド電極を説明するための図である。
【
図5】第1実施形態の蛍光表示管のグリッド電極を設計するための説明図である。
【
図6】第2実施形態の蛍光表示管におけるグリッド電極を説明するための図である。
【
図7】第2実施形態の蛍光表示管のグリッド電極を設計するための説明図である。
【
図8】第2実施形態の変形例の蛍光表示管におけるグリッド電極を説明するための図である。
【
図9】第2実施形態の変形例の蛍光表示管のグリッド電極を設計するための説明図である。
【
図10】第3実施形態の蛍光表示管のグリッド電極を設計するための説明図である。
【
図11】試験例のグリッド電極を説明するための図である。
【
図12】輝度の測定箇所を示す試験用の蛍光表示管の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
本発明の蛍光表示管の第1実施形態を
図1および
図2に基づいて説明する。
図1は蛍光表示管の概略断面図を示し、
図2は平面図を示す。
図1に示すように、蛍光表示管1は、前面板3と基板2とがスペーサ部材4を介して封着部(図示省略)において封着接合されて真空容器を構成している。前面板3は透光性のカバー・ガラス板などで形成され、基板2はガラス、セラミックスなどの絶縁体材料などで形成され、スペーサ部材4は枠状に形成されたガラス材料などで形成されている。前面板3および基板2がスペーサ部材4を介して相互に封着部においてガラス封着されることにより長手平箱状の気密な真空容器が構成され、その内部にそれらの部材により囲まれた真空空間が形成される。
【0022】
蛍光表示管1は、この真空容器内の基板2に設けられた複数の陽極5の表面にそれぞれ被着形成された蛍光体6と、蛍光体6の上方に架設されたフィラメント状陰極7と、蛍光体6とフィラメント状陰極7との間に配置されたメッシュ構造を有するグリッド電極8とを備える。蛍光表示管1は、フィラメント状陰極7から放出される電子を、グリッド電極8で制御して、蛍光体6に射突させることにより、それら複数の蛍光体6を選択的に発光させる。なお、
図1において、9は基板2上に形成された配線であり、10は絶縁層である。
【0023】
図2に示すように、真空容器内の両端部には、一対の金属フレーム13、13’がそれぞれ設けられている。金属フレーム13と13’の間に、直熱型陰極として機能する細線状のフィラメント状陰極7が、基板2の長手方向に平行で、かつ、グリッド電極8の上方で基板2の表示面から離隔した所定の高さ位置となるように架設されている。一対の金属フレーム13、13’は、フィラメント状陰極7を張り渡す張架部として機能し、一方のフレームにフィラメント状陰極7を弾性的に支持するアンカが形成され、他方のフレームにそれを非弾性的に支持するサポートが形成されている。
【0024】
図2に示すように、蛍光表示管1の平面視において、フィラメント状陰極7の架設方向(基板2の長手方向でもある)がX方向であり、該架設方向に直交する方向(基板2の短手方向、グリッド電極の延在方向でもある)がY方向である。第1実施形態において、「X方向」が本発明の「第2方向」に相当し、「Y方向」が本発明の「第1方向」に相当する。
【0025】
蛍光表示管1は、複数の蛍光体6がマトリックス状に配列されたドットマトリックス蛍光表示管のうち、ドットキャラクター表示形式の表示管である。この表示管は、例えばアルファベットや数字などを表示する。
図2では、複数の蛍光体6で構成される発光単位U(1キャラクター)が、X方向に並列に16個並べられている。これらの発光単位Uが蛍光表示管1の表示面として機能する。発光単位Uにおいて、蛍光体6は、発光単位毎に設けられたグリッド電極8により囲まれている。グリッド電極8はY方向に延在しており、延在方向の両端にはグリッドサポート部が設けられている。なお、蛍光体6が表面に形成された陽極とグリッド電極8とは基板内の配線パターンを経由して形成されている電極パッド11と、外部取り出しリードピン12の先端とが接触することにより電気的に接続されている。
【0026】
図3には、発光単位Uの平面図を示す。なお、
図3(
図2も同様)では、グリッド電極8は、周辺部である枠線のみを記載し、内部のメッシュ構造は省略している。
図3に示すように、発光単位Uは、2つのグループg
1、g
2で構成されている。各グループg
1、g
2は、それぞれ5×7個の蛍光体6で構成されている。この場合、蛍光表示管1(
図2参照)は、5×7ドット・16桁・2行の電極構成となっている。
【0027】
各グループg1、g2において、蛍光体6は、X方向およびY方向に所定の配列ピッチpx、pyで配置されている。px、pyはそれぞれ、1.00mm~3.00mm程度に設定される。なお、ピッチpxおよびpyは、互いに同じ寸法でもよく、異なる寸法であってもよい。
【0028】
上記
図1~
図3の蛍光表示管において、蛍光体の配列は図示の構成に限定されない。例えば、各グループのドット数を変更(例えば16×16ドット)してもよく、1つの発光単位Uを1グループのみ(1行のみ)で構成してもよい。また、蛍光体が平面視正方形で形成されていてもよい。この場合、例えば蛍光体として0.30mm×0.30mmや、1.00mm×1.00mmの寸法が採用される。
【0029】
本発明の蛍光表示管は、ドットマトリックス蛍光表示管を対象としており、複数の蛍光体に対して、所定のメッシュピッチ(横ピッチおよび縦ピッチ)のグリッド電極を配置することで、グリッド電極のメッシュの線幅が太くなるような場合であっても、蛍光表示管の輝度を維持しつつ、省エネルギー性に優れるようにしている。以下には、グリッド電極のメッシュピッチについて説明する。
【0030】
図4には、蛍光体に対してメッシュ構造を有するグリッド電極を重ねた平面図を示す。
図4に示すように、グリッド電極8は、Y方向(グリッド電極8の延在方向)に長い長方形の枠線8dを有し、その内部において、Y方向と平行に延びる縦線8bと、該縦線8bに垂直なX方向と平行に延びる横線8aとを有する。縦線8bと横線8aで囲まれた領域は複数の開口部8cを形成し、この開口部8cは、Y方向に長い長方形となっている。
図4において、開口部8cは、X方向には段違いに配列されている。具体的には、X方向に隣り合う開口部8cは、横線8aのピッチ(縦ピッチ)p
aの半分のピッチでY方向にずれて配置されている。
【0031】
第1実施形態において、「縦線」が本発明の「第1線」に相当し、「横線」が本発明の「第2線」に相当する。
【0032】
グリッド電極8の材質としては、426合金(42%Ni-6%Cr-残部Fe)、ステンレス鋼(SUS304)などを用いることができる。グリッド電極8のメッシュ構造は、例えば、所定の厚さの金属板をエッチング加工することなどにより形成される。グリッド電極8のメッシュの線幅は、例えば20μm~60μmである。本発明によれば、グリッド電極8のメッシュの線幅が太くなるような場合でも輝度を維持できることから、メッシュの線幅が30μm~60μmであってもよい。なお、ここでいうメッシュの線幅は、規格値(目標値)である。
【0033】
第1実施形態において、グリッド電極8における横線8aのピッチp
aは、蛍光体6の配列ピッチp
yの整数倍で、かつ、横線8aは蛍光体6とは上下方向で重ならない位置に配置される。整数倍は、例えば1~5倍であり、
図4では2倍となっている。横線8aは、蛍光体6が存在する部分では、Y方向に隣り合う蛍光体間の中心線上に配置されることが好ましい。例えば、蛍光体6の配列ピッチp
yと行ピッチ(グループ間のピッチ)が異なる場合は、行間でピッチを調整してもよい。
【0034】
横線8aのピッチpaは特に限定されないが、グリッド電極8の強度などの観点から3.00mmを超えない寸法とすることが好ましく、2.00mmを超えない寸法としてもよい。なお、上記ピッチpaの下限は、例えば0.50mmであり、1.00mmであってもよい。
【0035】
第1実施形態において、グリッド電極8における縦線8bのピッチ(横ピッチ)p
bは、X方向における蛍光体6の配列に基づく単位幅をn等分する寸法である。例えば、nは4~20の整数である。この場合、単位幅は、1つの発光単位でX方向に配列した蛍光体全てを包含する幅寸法であり、
図4は、この幅寸法を10等分(n=10)している。
【0036】
上記n(分割数)は、縦線8bのピッチpbが所定値以下となる分割数のうち、値が大きく、かつ、縦線8bが蛍光体6に重なる割合が少なくなる値に設定される。このピッチpbは、0.35mm以下であることが好ましい。0.35mm以下とすることで、カットオフバイアス電圧を抑えた場合であっても漏れ発光を低減しやすくなる。なお、縦線8bのピッチpbの下限は、例えば0.20mmである。
【0037】
第1実施形態において、グリッド電極8のメッシュピッチは、例えば以下の手順で設計される。
(1)横線8aのピッチpaは、蛍光体6の配列ピッチpyの整数倍で、かつ、3.00mmを超えないピッチとし、横線8aを蛍光体間の中心に配置する。
(2)縦線8bについて、X方向における蛍光体6の配列に基づく単位幅をn等分したパターンをそれぞれ設定する。
(3)各パターンにおいて、蛍光体1ドットあたりの縦線8bが重なる割合をCADなどで計算する。
(4)縦線8bのピッチpbが0.35mm以下になる分割数のうち、値が大きく、かつ、縦線8bが蛍光体6に重なる割合が少なくなる値を選択する。
(5)選択した分割数に基づくピッチpbを決定する。
【0038】
図5には、上記の手順に基づいた場合の例を示している。
図5では、蛍光体の配列に基づく単位幅(2.80mm)をn等分したパターンとして、蛍光体の5ドット分をそれぞれ7~12等分した6つのパターンを設定している。各パターンにおいて、蛍光体1ドットあたりの縦線が重なる割合を下部に示し、括弧内には、蛍光体1ドットあたり何本の縦線と重なるかを示している(後述の
図7および
図9も同様)。
図5の例では、縦線のピッチp
bが0.35mm以下になる分割数「8」~「12」のうち、値が大きく、かつ、縦線が蛍光体に重なる割合が少なくなる値として「10」を選択する。そして、その分割数「10」に基づきピッチp
b(横ピッチ)を0.28mmに決定している(パターン4)。なお、パターン1~6のピッチp
a(縦ピッチ)は1.40mmである。
【0039】
また、
図5の上段左端には、参考パターンとして、六角形のメッシュ構造を有するグリッド電極を示している。このグリッド電極のメッシュの線幅は、パターン1~6のグリッド電極の1/2となっている。参考パターンと比較すると、パターン4は、メッシュの線幅が2倍であるにもかかわらず、重なり割合の上昇が抑えられていることが分かる。なお、参考パターンのメッシュの線幅をパターン1~6と同じにすると、その重なり割合は20%程度となる。
【0040】
なお、第1実施形態において、X方向における蛍光体6の配列に基づく単位幅をn等分する寸法を蛍光体1ドットに換算すると、その蛍光体をm等分する寸法であるといえる。例えば、mは1~4の有理数である。
【0041】
(第2実施形態)
第2実施形態の蛍光表示管は、フルドットマトリックス表示形式の表示管である。この表示管の基板上には、表面に蛍光体が付着された複数の陽極がマトリックス状に配置されており、表示部が形成されている。この表示部の上方には、該表示部を覆うように複数のグリッド電極が互いに平行かつ離間して配置されている。複数のグリッド電極はY方向に延在しており、フィラメント状陰極の架設方向(X方向)に並列に並べられている。ここで、1つのグリッド電極を1桁ともいう。
【0042】
図6には、フルドットマトリックス形式の蛍光体に対して、メッシュ構造を有するグリッド電極1桁を重ねた部分平面図を示す。
図6に示すように、グリッド電極8’は、Y方向(グリッド電極8’の延在方向)に長い長方形の枠線8dを有し、その内部において、Y方向と平行に延びる縦線8bと、該縦線8bに垂直なX方向と平行に延びる横線8aとを有する。縦線8bと横線8aで囲まれた領域は複数の開口部8cを形成し、この開口部8cは、Y方向に長い長方形となっている。
図6において、開口部8cは、X方向およびY方向に整列しており、碁盤目状に配列されている。なお、第1実施形態と同様に、Y方向にピッチ(縦ピッチ)p
aの半分ずれるようにしてもよい。
【0043】
第2実施形態において、「X方向」が本発明の「第2方向」に相当し、「Y方向」が本発明の「第1方向」に相当し、「縦線」が本発明の「第1線」に相当し、「横線」が本発明の「第2線」に相当する。
【0044】
第2実施形態においても、グリッド電極8’における横線8aのピッチp
aは、蛍光体6’の配列ピッチp
yの整数倍で(
図6では1倍)、かつ、横線8aは蛍光体6’とは上下方向で重ならない位置に配置されている。
図6では、横線8aは、Y方向に隣り合う蛍光体間の中心線上に配置されている。
【0045】
また、グリッド電極8’における縦線8bのピッチp
bは、X方向におけるグリッド電極8’に基づく単位幅をn等分する寸法である。例えば、nは4~20の整数である。
図6では、グリッド電極8’のX方向における枠線8d間の幅寸法を16等分(n=16)している。なお、この幅寸法は、X方向に配列した蛍光体6’の4ドットの幅寸法に対応している。
【0046】
上記n(分割数)は、縦線8bのピッチpbが所定値以下となる分割数のうち、値が大きく、かつ、縦線8bが蛍光体6’に重なる割合が少なくなる値に設定される。
【0047】
第2実施形態において、グリッド電極8’のメッシュピッチは、例えば以下の手順で設計される。
(1)横線8aのピッチpaは、蛍光体6’の配列ピッチpyの整数倍で、かつ、3.00mmを超えないピッチとし、横線8aを蛍光体間の中心に配置する。
(2)縦線8bについて、グリッド電極8’の1桁の幅をn等分したパターンをそれぞれ設定する。
(3)各パターンにおいて、蛍光体1ドットあたりの縦線8bが重なる割合をCADなどで計算する。
(4)縦線8bのピッチpbが0.35mm以下になる分割数のうち、値が大きく、かつ、縦線8bが蛍光体6’に重なる割合が少なくなる値を選択する。
(5)選択した分割数に基づくピッチpbを決定する。
【0048】
図7には、上記の手順に基づいた場合の例を示している。
図7では、グリッド電極1桁の幅(4.60mm)をn等分したパターンとして、それぞれ14~20等分した7つのパターンを設定している。
図7の例では、縦線のピッチp
bが0.35mm以下になる分割数「14」~「20」のうち、値が大きく、かつ、縦線が蛍光体に重なる割合が少なくなる値として「16」を選択する。そして、その分割数「16」に基づきピッチp
b(横ピッチ)を0.29mmに決定している(パターン3)。なお、パターン1~7のピッチp
a(縦ピッチ)は1.60mmである。
【0049】
(第2実施形態の変形例)
フルドットマトリックス表示形式の表示管として、
図8に示す構造も採用できる。なお、
図6の構造と
図8の構造は、例えば蛍光体の配列ピッチp
xによって使い分けすることができ、具体的には、配列ピッチp
xが所定値よりも大きい場合に
図6の構造、所定値未満の場合に
図8の構造とすることができる。
図8に示すように、グリッド電極8’’は、枠線8dの内部において、Y方向と平行に延びる縦線8bと、該縦線8bに対して垂直に延びる横線8aとを有する。縦線8bと横線8aで囲まれた領域は複数の開口部8cを形成し、この開口部8cは、Y方向に長い長方形となっている。
【0050】
この変形例の場合も、グリッド電極8’’のメッシュピッチの設計について、第2実施形態と同様の手順で設計できる。なお、グリッド電極8’’における縦線8bのピッチpbは、X方向におけるグリッド電極8’’に基づく単位幅をn等分する寸法であり、例えば、nは2~10の整数である。
【0051】
図9には、上記の手順に基づいた場合の例を示している。
図9では、グリッド電極1桁の幅(1.30mm)をn等分したパターンとして、それぞれ3~6等分した4つのパターンを設定している。
図9の例では、縦線のピッチp
bが0.35mm以下になる分割数「4」~「6」のうち、値が大きく、かつ、縦線が蛍光体に重なる割合が少なくなる値として「4」を選択する。そして、その分割数「4」に基づきピッチp
b(横ピッチ)を0.32mmに決定している(パターン2)。なお、パターン1~4のピッチp
a(縦ピッチ)は2.72mmである。
【0052】
(第3実施形態)
上記第1実施形態および第2実施形態では、メッシュ構造を縦長四角形とした。つまり、メッシュの開口部は、グリッド電極の延在方向(Y方向)に長い長方形となっており、ピッチpa(縦ピッチ)は、ピッチpb(横ピッチ)よりも長くなっている。これに対して、第3実施形態では、メッシュ構造を横長四角形としている。つまり、メッシュの開口部は、グリッド電極の延在方向と直交する方向(X方向)に長い長方形となっており、ピッチpb(横ピッチ)は、ピッチpa(縦ピッチ)よりも長くなっている。
【0053】
第3実施形態において、「X方向」が本発明の「第1方向」に相当し、「Y方向」が本発明の「第2方向」に相当し、「縦線」が本発明の「第2線」に相当し、「横線」が本発明の「第1線」に相当する。
【0054】
第3実施形態において、グリッド電極のメッシュピッチは、例えば以下の手順で設計される。
(1)縦線のピッチは、蛍光体の配列ピッチp
x(
図3参照)の整数倍で、かつ、2.00mmを超えないピッチとし、縦線を蛍光体間の中心に配置する。
(2)横線について、Y方向における蛍光体の配列に基づく単位幅(例えば1ドット)をn等分したパターンをそれぞれ設定する。例えば、nは2~6の整数である。
(3)各パターンにおいて、蛍光体1ドットあたりの横線が重なる割合をCADなどで計算する。
(4)横線のピッチが0.35mm以下になる分割数のうち、値が大きく、かつ、横線が蛍光体に重なる割合が少なくなる値を選択する。
(5)選択した分割数に基づく横線のピッチを決定する。
【0055】
図10には、上記の手順に基づいた場合の例を示している。
図10では、蛍光体の1ドット分をそれぞれ4~6等分した3つのパターンを設定している。
図10の例では、横線のピッチが0.35mm以下になる分割数「5」~「6」のうち、値が大きく、かつ、横線が蛍光体に重なる割合が少なくなる値として「5」を選択する。そして、その分割数「5」に基づき縦ピッチを0.32mmに決定している(パターン2)。このパターン2は、参考パターンと比較して、メッシュの線幅が2倍であるにもかかわらず、重なり割合が低くなっていることが分かる。なお、パターン1~3の横ピッチは1.20mmである。
【0056】
上述した第2実施形態、その変形例、および第3実施形態についても、第1実施形態で説明した各寸法の範囲や構成などを適宜採用することができる。
【0057】
本発明の蛍光表示管は、ドットマトリックス表示形式の表示管であればよく、例えば、セグメント表示形式の表示管でもよい。
【実施例】
【0058】
以下の試験によって、グリッド電極のメッシュ構造の違いによる輝度およびバイアス電圧への影響を検討した。試験に用いたグリッド電極のメッシュ構造は縦長四角形とし、メッシュピッチを以下にそれぞれ示す。これらのメッシュピッチは、上述した方法で設計したものである。これらのグリッド電極のメッシュの線幅は、いずれも40μm±20μmである(規格値40μm)。各グリッド電極の開口率を、
図13に示す方法でそれぞれ算出した。
試験例1:横線のピッチp
a2.72mm、縦線のピッチp
b0.38mm
試験例2:横線のピッチp
a2.72mm、縦線のピッチp
b0.32mm
【0059】
試験例1、2のグリッド電極を装着した蛍光表示管を準備した。蛍光体の配列ピッチp
yは、0.68mmである。試験例1、2のグリッド電極と蛍光体とを重ねた平面図を
図11に示す。
図11に示すように、各グリッド電極の横線のピッチp
aは、蛍光体の配列ピッチp
yの4倍で、かつ、横線が蛍光体とは上下方向で重ならない位置に配置されている。また、蛍光体1ドットあたりの縦線が重なる割合を計算により求めた。結果を表1に示す。
【0060】
[輝度・電流値測定]
図12に示す蛍光表示管を用いて、3箇所(A、B、C)における輝度を測定した。蛍光表示管の点灯条件は、Ef:3.4Vdc、Vdd1:3.3Vdc、Vdd2:42.0Vdc、フィラメントバイアス電圧Ek:1.5Vとした。輝度計を用いて、輝度測定距離500mm、角度2°とし、全点灯で測定した。なお、EkのみEf=3.4Vacで漏れ発光が消えるEkの値を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
【0062】
試験例1と試験例2の輝度について、同じ箇所における輝度を比較してt検定を行った。その結果、全ての箇所においてP>0.05(有意水準)であったことから、輝度には有意差がないという結果となった。そのため、メッシュピッチによって、開口率が異なる場合であっても、蛍光体に重なる割合が同じであれば、輝度が変わらないことが分かった。
【0063】
試験例1と試験例2のフィラメントバイアス電圧Ekについて、t検定を行った。その結果、P値(0.00)<0.05(有意水準)であり、フィラメントバイアス電圧Ekには有意差があった。つまり、縦線のピッチpbがより小さい試験例2の方が、フィラメントバイアス電圧Ekが小さい結果となった。このことから、当該ピッチを小さくすると漏れ発光を低減することができる。
【0064】
以上より、試験例1と試験例2では、輝度に有意差はないが、フィラメントバイアス電圧Ekに有意差があり、グリッド電極が蛍光体に重なる割合でピッチを決定することで、輝度を下げずに、漏れ発光を低減できるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の蛍光表示管は、例えばグリッド電極の線幅が太くなるような場合であっても、蛍光表示管の輝度を維持しつつ、省エネルギー性に優れるので、家電機器、AV機器、PC/OA機器、産業機械、その他の電子デバイスなどにおける表示装置として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 蛍光表示管
2 基板
3 前面板
4 スペーサ部材
5 陽極
6 蛍光体
7 フィラメント状陰極
8、8’、8’’ グリッド電極
8a 横線
8b 縦線
8c 開口部
8d 枠線
9 配線
10 絶縁層
11 電極パッド
12 外部取り出しリードピン
13、13’ 金属フレーム
pa 縦ピッチ
pb 横ピッチ
py 配列ピッチ