(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】ノイズフィルタ
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240628BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2022561745
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2020042014
(87)【国際公開番号】W WO2022102005
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雄己
(72)【発明者】
【氏名】古庄 泰章
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 博行
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-94244(JP,A)
【文献】特開2001-231268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子のスイッチング動作により電力変換を行う電力変換器が発生させるコモンモード電圧を低減するノイズフィルタであって、
前記電力変換器が発生させる前記コモンモード電圧を検出する電圧検出器と、
前記電圧検出器により検出された前記コモンモード電圧を分圧した分圧電圧を出力する分圧回路と、
前記電力変換器の出力又は入力に並列接続された複数系統の電力線のそれぞれに個別に接続されると共に、前記コモンモード電圧と逆極性の重畳電圧を複数系統の前記電力線のそれぞれに重畳させる複数のコモンモードトランスと、
前記分圧電圧に基づいて複数の前記コモンモードトランスの一次側に出力する出力電圧を生成する注入波形生成器と、を備え、
前記注入波形生成器は、それぞれの前記電力線に重畳させる前記重畳電圧と前記コモンモード電圧との差が許容値以下になる前記出力電圧を生成する、ノイズフィルタ。
【請求項2】
前記コモンモードトランスは、複数系統の前記電力線のそれぞれに1個ずつ接続されており、
前記重畳電圧は、前記コモンモードトランスが二次側に出力する注入電圧である、
請求項1記載のノイズフィルタ。
【請求項3】
前記コモンモードトランスは、複数系統の前記電力線のそれぞれに複数で同数個が接続されており、
前記重畳電圧は、それぞれの前記電力線に接続された複数の前記コモンモードトランスが二次側に出力する注入電圧を加算した総注入電圧である、
請求項1記載のノイズフィルタ。
【請求項4】
前記注入波形生成器は、全ての前記コモンモードトランスの一次側に同じ前記出力電圧を出力する、請求項2または3に記載のノイズフィルタ。
【請求項5】
複数系統の一方の前記電力線に接続された複数の前記コモンモードトランスは、第一のコモンモードトランスと第二のコモンモードトランスを含んでおり、
前記第一のコモンモードトランスと前記第二のコモンモードトランスとは、コア材、コアの断面積、コアの外径、コアの内径、巻数比の少なくとも1つが異なっている、
請求項3記載のノイズフィルタ。
【請求項6】
複数系統の前記電力線のそれぞれに接続された複数の前記コモンモードトランスは、第一のコモンモードトランスと第二のコモンモードトランスを含んでおり、
前記第一のコモンモードトランスと前記第二のコモンモードトランスとは、コア材、コアの断面積、コアの外径、コアの内径、巻数比の少なくとも1つが異なっている、
請求項3記載のノイズフィルタ。
【請求項7】
前記注入波形生成器は、
第一の出力端子及び第二の出力端子を有し、
複数系統の前記電力線のそれぞれに接続された前記第一のコモンモードトランスの一次側に共通の前記出力電圧である第一の出力電圧を前記第一の出力端子から出力し、
複数系統の前記電力線のそれぞれに接続された前記第二のコモンモードトランスの一次側に共通の前記出力電圧であって前記第一の出力電圧と異なる第二の出力電圧を前記第二の出力端子から出力する、
請求項6記載のノイズフィルタ。
【請求項8】
前記注入波形生成器は、
第一の波形生成器及び第二の波形生成器を備え、
複数系統の前記電力線のそれぞれに接続された前記第一のコモンモードトランスの一次側に共通の前記出力電圧である第一の出力電圧を前記第一の波形生成器から出力し、
複数系統の前記電力線のそれぞれに接続された前記第二のコモンモードトランスの一次側に共通の前記出力電圧であって前記第一の出力電圧と異なる第二の出力電圧を前記第二の波形生成器から出力する、
請求項6記載のノイズフィルタ。
【請求項9】
前記コモンモードトランスは、コア材、コアの断面積、コアの外径、コアの内径、巻数比が等しい、請求項2から4のいずれか1項に記載のノイズフィルタ。
【請求項10】
前記注入波形生成器は、複数の出力端子を有し、それぞれの前記出力端子から異なる前記出力電圧を対応する前記コモンモードトランスの一次側に出力する、請求項3または6に記載のノイズフィルタ。
【請求項11】
前記注入波形生成器は複数の波形生成器を備え、
前記波形生成器のそれぞれは、異なる前記出力電圧を対応する前記コモンモードトランスの一次側に出力する、
請求項3または6に記載のノイズフィルタ。
【請求項12】
前記注入波形生成器が出力する異なる前記出力電圧は電圧値が異なっている、請求項10または11に記載のノイズフィルタ。
【請求項13】
前記第一の出力電圧と前記第二の出力電圧とは電圧値が異なっている、請求項7または8に記載のノイズフィルタ。
【請求項14】
前記注入波形生成器は、前記分圧電圧の周波数帯域を変更する帯域制限器を備え、
前記注入波形生成器が出力する異なる前記出力電圧は周波数帯域が異なっている、
請求項10から12のいずれか1項に記載のノイズフィルタ。
【請求項15】
前記注入波形生成器は、前記分圧電圧の周波数帯域を変更する帯域制限器を備え、
前記第一の出力電圧と前記第二の出力電圧とは周波数帯域が異なっている、請求項7、8、13のいずれか1項に記載のノイズフィルタ。
【請求項16】
注入波形生成器は、前記分圧電圧を増幅する増幅器を備え、
前記増幅器のゲインは、前記コモンモードトランスの数及び巻数比に基づいて設定されている、
請求項3、5から8及び10から15のいずれか1項に記載のノイズフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ノイズフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電圧型PWM(Pulse Width Modulation)インバータなどの電力変換装置において、電力用半導体素子の発展に伴い、キャリア周波数の高周波化が進められている。しかし、キャリア周波数の高周波化に伴い、電力用半導体素子のスイッチング動作の際に発生するコモンモード電圧を原因とした電磁障害が問題となっている。この問題の対策のために、コモンモードトランスを用いて電力変換装置が発生するコモンモード電圧を相殺する電圧(相殺電圧)を重畳し、コモンモード電圧によって接地に流れる漏れ電流すなわちコモンモード電流を抑制する方式が提案されている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1のコモンモード抑制回路は、インバータとモータとを接続する三相ケーブルに二次側コイルすなわち二次巻線が設けられたコモンモードトランス、コモンモードトランスの一次側コイルすなわち一次巻線に直列接続されたコンデンサ、コモンモード電圧を検出するコンデンサ群、コモンモード電圧を電力増幅した相殺電圧をコモンモードトランスの一次巻線に出力するエミッタフォロワ回路を備えている。特許文献1のコモンモード抑制回路は、コモンモードトランスの一次巻線及び二次巻線の巻数比が1:1であり、スイッチング周波数以上のコモンモード電圧を相殺することで、相殺電圧を重畳するためのコモンモードトランスを、コモンモード電圧を0とする場合よりも小型化していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のコモンモード抑制回路ではインバータから出力される相電流が大きい場合、インバータとモータを接続する三相ケーブルの線径が大きくなり、コアに必要となる内径が大きくなるため、コアが大きくなることが課題となる。
【0006】
本願明細書に開示される技術は、電力変換器の出力電流が大きい場合でも小型のコモンモードトランスを用いてコモンモード電圧を抑制できるノイズフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願明細書に開示される一例のノイズフィルタは、半導体素子のスイッチング動作により電力変換を行う電力変換器が発生させるコモンモード電圧を低減するノイズフィルタである。ノイズフィルタは、電力変換器が発生させるコモンモード電圧を検出する電圧検出器と、電圧検出器により検出されたコモンモード電圧を分圧した分圧電圧を出力する分圧回路と、電力変換器の出力又は入力に並列接続された複数系統の電力線のそれぞれに個別に接続されると共に、コモンモード電圧と逆極性の重畳電圧を複数系統の電力線のそれぞれに重畳させる複数のコモンモードトランスと、分圧電圧に基づいて複数のコモンモードトランスの一次側に出力する出力電圧を生成する注入波形生成器と、を備えている。注入波形生成器は、それぞれの電力線に重畳させる重畳電圧とコモンモード電圧との差が許容値以下になる出力電圧を生成する。
【発明の効果】
【0008】
本願明細書に開示される一例のノイズフィルタは、複数系統の電力線のそれぞれに個別に接続される複数のコモンモードトランスを備え、注入波形生成器がそれぞれの電力線に重畳させる重畳電圧とコモンモード電圧との差が許容値以下になる出力電圧を生成するので、電力変換器の出力電流が大きい場合でも小型のコモンモードトランスを用いてコモンモード電圧を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1に係る第一のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
【
図2】
図1の電力変換器の出力側における三相電力線を示す図である。
【
図5】
図1の注入波形生成器の第一例を示す図である。
【
図6】
図1の注入波形生成器の第二例を示す図である。
【
図7】
図1の注入波形生成器の第三例を示す図である。
【
図8】実施の形態1に係る第二のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
【
図9】実施の形態1に係る第三のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
【
図10】
図9の電力変換器の入力側における三相電力線を示す図である。
【
図11】実施の形態1に係る第四のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
【
図12】実施の形態1に係るノイズフィルタのコアを示す図である。
【
図14】実施の形態1に係る第五のノイズフィルタの要部を示す図である。
【
図15】実施の形態2に係る第一のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
【
図24】実施の形態2に係る第二のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
【
図25】実施の形態2に係る第三のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
【
図27】実施の形態3に係る第一のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
【
図28】
図27の第一の注入波形生成器の第一例を示す図である。
【
図29】
図27の第二の注入波形生成器の第一例を示す図である。
【
図30】
図27の第一の注入波形生成器の第二例を示す図である。
【
図31】
図27の第二の注入波形生成器の第二例を示す図である。
【
図32】
図27の第一の注入波形生成器の第三例を示す図である。
【
図33】
図27の第二の注入波形生成器の第三例を示す図である。
【
図34】
図27の第一の注入波形生成器の第四例を示す図である。
【
図35】
図27の第二の注入波形生成器の第四例を示す図である。
【
図36】
図27の第一の注入波形生成器の第五例を示す図である。
【
図37】
図27の第二の注入波形生成器の第五例を示す図である。
【
図38】
図27の第一の注入波形生成器の第六例を示す図である。
【
図39】
図27の第二の注入波形生成器の第六例を示す図である。
【
図40】実施の形態3に係る第二のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ノイズフィルタ及び電動機駆動システムについて、図面を参照しながら説明する。各図において同一またはこれに相当するものに同一符号を付けて説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係る第一のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図であり、
図2は
図1の電力変換器の出力側における三相電力線を示す図である。
図3は
図1の電力変換器の構成を示す図であり、
図4は
図1の分圧回路の構成を示す図である。
図5は
図1の注入波形生成器の第一例を示す図であり、
図6は
図1の注入波形生成器の第二例を示す図であり、
図7は
図1の注入波形生成器の第三例を示す図である。
図8は、実施の形態1に係る第二のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
図9は実施の形態1に係る第三のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図であり、
図10は
図9の電力変換器の入力側における三相電力線を示す図である。
図11は、実施の形態1に係る第四のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
図12は実施の形態1に係るノイズフィルタのコアを示す図であり、
図13は電線の屈曲半径を説明する図である。
図14は、実施の形態1に係る第五のノイズフィルタの要部を示す図である。実施の形態1のノイズフィルタ50は、複数の半導体素子がスイッチング動作を行う電圧型PWMインバータ等の電力変換器2により誘導電動機3を制御するシステムである電動機駆動システム60に適用されている。
【0012】
電動機駆動システム60は、電力系統、自立型電圧源等の交流電源1と、交流電源1の交流電力を直流電力に変換し、直流電力を交流電力に変換する電力変換器2と、交流電源1と電力変換器2との間を接続する三相電力線4と、電力変換器2と誘導電動機3との間を接続する三相電力線5と、ノイズフィルタ50と、を備える。誘導電動機3は接地線6により接地されている。接地GNDの電位すなわち接地電位は、ノイズフィルタ50の基準電位になっている。三相電力線4はu相の三相電力線4u、v相の三相電力線4v、w相の三相電力線4wを備えている。三相電力線5は、u相の三相電力線5u、v相の三相電力線5v、w相の三相電力線5wを備えており、かつ2つの三相電力線5A、5Bすなわち二系統の三相電力線で構成されている。三相電力線5Aは、u相の三相電力線5Au、v相の三相電力線5Av、w相の三相電力線5Awを備えている。三相電力線5Bは、u相の三相電力線5Bu、v相の三相電力線5Bv、w相の三相電力線5Bwを備えている。u相の三相電力線5uは、三相電力線5Au及び三相電力線5Buで構成されている。v相の三相電力線5vは三相電力線5Av及び三相電力線5Bvで構成されており、w相の三相電力線5wは三相電力線5Aw及び三相電力線5Bwで構成されている。
【0013】
ノイズフィルタ50は、電圧検出器7、分圧回路9、注入波形生成器10、コモンモードトランス11a、11bを備える。電力変換器2は、半導体素子で構成される順変換回路21、直流電力を蓄電する蓄電素子であるコンデンサ22、半導体素子で構成されており、直流電力を交流電力に変換する逆変換回路23を備える。順変換回路21は、例えば整流回路であり、6個のダイオードD1、D2、D3、D4、D5、D6を備えている。逆変換回路23は、6個の半導体素子Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6を備えている。一端が交流電源1に接続されている三相電力線4u、4v、4wは、それぞれ他端が電力変換器2の交流入力端子41u、41v、41wに接続されている。一端が誘導電動機3に接続されている三相電力線5Au、5Av、5Aw及び三相電力線5Bu、5Bv、5Bwは、それぞれ他端が電力変換器2の交流出力端子42u、42v、42wに接続されている。
図1では、三相電力線5Bが三相電力線5Aの交流電源1側から分岐して誘導電動機3側で三相電力線5Aに結合している例を示した。三相電力線5A、5Bが記載された他の図でも、三相電力線5A、5Bは
図1と同様の構成になっている。便宜上、三相電力線5Aを主系統とし、三相電力線5Bを分岐系統とする。交流電源1側の端から分岐前まで及び結合後から誘導電動機3側の端までの三相電力線5は、適宜主系統の三相電力線5Aとする。
【0014】
順変換回路21は、高電位側配線44pと低電位側配線44sとの間に、直列に接続されたダイオードD1、D2である第一直列体、直列に接続されたダイオードD3、D4である第二直列体、直列に接続されたダイオードD5、D6である第三直列体が配置されている。ダイオードD1とダイオードD2との接続点n1は、交流入力端子41uに接続されている。ダイオードD3とダイオードD4との接続点n2は交流入力端子41vに接続されており、ダイオードD5とダイオードD6との接続点n3は交流入力端子41wに接続されている。コンデンサ22は、高電位側配線44pと低電位側配線44sとの間に接続されている。逆変換回路23は、高電位側配線44pと低電位側配線44sとの間に、直列に接続された半導体素子Q1、Q2である第四直列体、直列に接続された半導体素子Q3、Q4である第五直列体、直列に接続された半導体素子Q5、Q6である第六直列体が配置されている。半導体素子Q1と半導体素子Q2との接続点n4は、交流出力端子42uに接続されている。半導体素子Q3と半導体素子Q4との接続点n5は交流出力端子42vに接続されており、半導体素子Q5と半導体素子Q6との接続点n6は交流出力端子42wに接続されている。
【0015】
半導体素子Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6は、例えばMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の電力用半導体素子が用いられる。
図3では、MOSFETの例を示した。半導体素子Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6は、MOSトランジスタM、ダイオードDを備えている。ダイオードDは、MOSトランジスタMと別の素子でもよく、寄生ダイオードでもよい。半導体素子Q1、Q3、Q5のドレインdは高電位側配線44pに接続されており、半導体素子Q2、Q4、Q6のソースsは低電位側配線44sに接続されている。半導体素子Q1のソースsと半導体素子Q2のドレインdは接続されており、半導体素子Q3のソースsと半導体素子Q4のドレインdは接続されており、半導体素子Q5のソースsと半導体素子Q6のドレインdは接続されている。半導体素子Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6のゲートgに、図示しない制御回路から制御信号が入力される。逆変換回路23は、制御回路からの制御信号に基づいて半導体素子Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6をスイッチングして直流電力を交流電力に変換する。
【0016】
コモンモード電圧Vciを検出する電圧検出器7は、互いに等しい容量を有する3つのコンデンサ8を備え、各コンデンサ8の一端が三相電力線5A、5Bのいずれか一方の各相に接続されている。各コンデンサ8の他端は接続点n7にて互いに接続されている。分圧回路9は、入力端子94がコンデンサ8の他端が接続された接続点n7に接続され、出力端子95が注入波形生成器10の入力端子51に接続されている。分圧回路9は、接地電位になっている配線24と入力端子94との間の入力電圧であるコモンモード電圧Vciを分圧して、その分圧した分圧電圧Vdを出力電圧として出力する。
【0017】
分圧回路9は、例えばコンデンサ91と、コンデンサ91に並列に接続された抵抗92及び抵抗93の直列体と、を備えている。コンデンサ91の一端及び抵抗92の一端は入力端子94に接続されており、コンデンサ91の他端及び抵抗93の他端は接地電位になっている配線24に接続されている。抵抗92の他端と抵抗93の一端とが接続された接続点は、出力端子95に接続されている。分圧回路9は、入力端子94に入力されたコモンモード電圧Vciを分圧した分圧電圧Vdを出力端子95から出力する。検出されるコモンモード電圧Vciは抵抗92と抵抗93の抵抗比によって分圧される。三相電力線5の各相である三相電力線5u、5v、5wの電圧は、コンデンサ8とコンデンサ91のインピーダンス比によって分圧された後、抵抗92と抵抗93の抵抗比によって分圧され、分圧電圧Vdとして分圧回路9から出力される。
【0018】
分圧電圧Vdは注入波形生成器10の入力端子51に入力される。注入波形生成器10は、入力された分圧電圧Vdに基づいて、帯域制限されかつ電圧値が調整された電圧を出力端子52から出力する。注入波形生成器10の出力端子52から出力される電圧はコモンモードトランス11a、11bの一次側すなわち一次巻線に入力される。コモンモードトランス11a、11bは、一次側の一次巻線と二次側の二次巻線を備えている。コモンモードトランス11aの二次巻線は、三相電力線5Aの各相である三相電力線5Au、5Av、5Awに挿入されている。コモンモードトランス11bの二次巻線は、三相電力線5Bの各相である三相電力線5Bu、5Bv、5Bwに挿入されている。注入波形生成器10から出力された電圧すなわち出力電圧Vpは各コモンモードトランス11a、11bの一次巻線に印加され、コモンモード電圧Vciと逆極性であり、一次側と二次側の巻数比に応じた電圧である注入電圧Vsが二次巻線に発生する。注入電圧Vsは、複数系統の電力線である三相電力線5A、5Bに重畳される重畳電圧である。
【0019】
電力変換器2は、半導体素子Q1~Q6がスイッチング動作する毎にステップ状に変化するコモンモード電圧Vciを発生する。このコモンモード電圧Vciは電圧検出器7により検出され、分圧回路9により分圧電圧Vdに分圧される。分圧電圧Vdは注入波形生成器10により帯域制限されかつ電圧値が調整されて出力された出力電圧Vpは、コモンモードトランス11a、11bの一次巻線に入力される。コモンモードトランス11a、11bの二次巻線に発生した電圧すなわち注入電圧Vsは、電力変換器2で発生したコモンモード電圧Vciを低減するように調整されている。したがって、実施の形態1のノイズフィルタ50は、電圧検出器7により検出されたコモンモード電圧Vciに基づいて、コモンモード電圧Vciと逆極性でかつ、調整された電圧である出力電圧Vpをコモンモードトランス11a、11bに入力して三相電力線5A、5Bの各相に注入電圧Vsを重畳するので、コモンモード電圧Vciを抑制できる。実施の形態1のノイズフィルタ50が、電力変換器2の出力電流が大きい場合でも小型のコモンモードトランス11a、11bを用いてコモンモード電圧Vciを抑制できることを説明する。
【0020】
図5~
図7に、注入波形生成器10の第一例~第三例を示した。
図5に示した第一例の注入波形生成器10は、帯域制限器12、増幅器13、制御電源15a、15bを備えている。制御電源15aは正側電圧を供給し、制御電源15bは負側電圧を供給する。帯域制限器12により、コモンモード電圧Vciのうち低減する周波数帯域のみをコモンモードトランス11a、11bに印加できるため、コモンモードトランス11a、11bの小型化が可能である。帯域制限器12は、対象とする周波数帯域が通過できればよく、バンドパスフィルタ、ローパスフィルタ及び、ハイパスフィルタのいずれかを適用することができる。
図5に示した増幅器13は反転増幅回路の例である。増幅器13は、オペアンプ19、抵抗16、17、18を備えている。オペアンプ19の正側入力端子に、抵抗17を介して接地電位が入力されている。オペアンプ19の負側入力端子に、帯域制限器12の出力が抵抗16を介して入力され、かつオペアンプ19の出力が抵抗18を介して入力されている。
【0021】
オペアンプ19のゲインGiは、抵抗16及び抵抗18の抵抗値をそれぞれr1、r2とすると、式(1)で表せる。また、出力電圧Vpは式(2)で表せる。
Gi=r2/r1 ・・・(1)
Vp=-Gi×Vd ・・・(2)
【0022】
オペアンプ19のゲインGiは、分圧回路9の分圧比Rv、コモンモードトランス11a、11bの巻数比Rrにより設定される。コモンモードトランス11a、11bの二次巻線を介して三相電力線5A、5Bのu相、v相、w相に重畳される電圧である注入電圧Vsがコモンモード電圧Vciを低減するように、すなわち式(3)が成立するように、ゲインGi、分圧比Rv、巻数比Rrが設定される。
|Vci-Vs|≦Vto ・・・(3)
ここで、Vtoは電圧差の許容値である。式(3)は、コモンモード電圧Vciと注入電圧Vsとの差の絶対値が許容値Vto以下であることを示している。
【0023】
分圧回路9の分圧比Rvは、式(4)で表せる。コモンモードトランス11a、11bの巻数比Rrは、一次巻線及び二次巻線の巻数をそれぞれN1、N2とすると、式(5)で表せる。
Rv=Vci/Vd ・・・(4)
Rr=N2/N1 ・・・(5)
【0024】
電力変換器2の出力電流は三相電力線5A、5Bに分岐して流れるため、三相電力線5A、5Bのそれぞれに必要とされる許容電流Itは電力変換器2の最大出力電流より小さくなる。
【0025】
ここで、電線の許容電流Itは式(6)で表せる。T1は電線の最高許容温度、Tは周囲温度、rmは電線の最高許容温度T1における導体実効抵抗、Rは導体の全熱抵抗、η0は多条布設の場合の許容電流低減率である。三相電力線5A、5Bは、例えば、3本の導体、各導体を覆うことにより絶縁している絶縁体、絶縁体の表面を覆っている被覆を備えている電線である。三相電力線5A、5Bは、3本の導体を備えているので、3条布設の場合である。なお、3本の導体は、それぞれ多心の撚線でもよい。
It=η0×√{(T1-T)/(rm×R)} ・・・(6)
【0026】
また、電線の最高許容温度T1における導体実効抵抗rmは式(7)で表せる。r0は、電線の20℃における導体抵抗であり、規格値である。αは導体温度抵抗係数である。また、電線の全熱抵抗Rは式(8)で表せる。R1は絶縁体及び被覆の熱抵抗であり、R2は電線表面の熱抵抗である。熱抵抗R1、R2は、それぞれ式(9)、式(10)で表せる。d1は導体外径であり、d2は電線外径である。P1は絶縁被覆の固有熱抵抗であり、P2は表面放散の固有熱抵抗である。
rm=r0×{1+α×(T1-20)} ・・・(7)
R=R1+R2 ・・・(8)
R1=(P1/2π)×loge(d2/d1) ・・・(9)
R2=10×P2/(π×d2) ・・・(10)
【0027】
式(6)~式(10)より三相電力線5A、5Bに必要とされる許容電流Itが小さくなる場合、電線外径d2を小さくできることが分かる。したがって、三相電力線5A、5Bの電線外径d2を小さくできるため、それぞれに接続されるコモンモードトランス11a、11bの二次巻線に使用する電線すなわち各相に対応する二次巻線の電線も外径を小さくすることが可能である。
【0028】
コモンモードトランス11a、11bは、1つの一次巻線及び3つの二次巻線を備えている。コモンモードトランス11a、11bのコアは、例えば
図12に示すトロイダル型のコア28である。コア28の内径はlであり、外径はLであり、幅(厚み)はhである。二次巻線に使用する電線の外径を小さくした場合、コモンモードトランスの実装に最低限必要となるコアの内径lも小さくなるため、コアの小型化、コモンモードトランスの小型化が可能となる。
【0029】
また、一般に、電線の外径が大きい場合、電線の最小屈曲半径が大きくなる。屈曲半径は
図13のRcにて定義され、電線の損傷又は性能の劣化に配慮した最小の屈曲半径が最小屈曲半径である。
図13のCは、コモンモードトランス等の巻線における電線の一部である。
図13の39は、屈曲半径Rcを有する円である。実施の形態1のノイズフィルタ50は、コモンモードトランス11a、11bの各4本の巻線における電線の外径を小さくすることが可能である。このため一次巻線及び二次巻線の各電線における最小屈曲半径も小さくなり、コモンモードトランス11a、11bの巻線をコア28に最大限密着させて実装することが可能となり、コア28と巻線との間に生じる隙間を小さくすることができる。しがたって、実施の形態1のノイズフィルタ50は、コモンモードトランス11a、11bの小型化が可能となる。電線の線径が大きい場合、屈曲半径が大きくなるため、トランスの実装が困難になる場合がある。しかし、実施の形態1のノイズフィルタ50は、コモンモードトランス11a、11bの最小屈曲半径が小さくなり、コモンモードトランス11a、11bが小型なので、コモンモードトランス11a、11bの実装が容易である。
【0030】
第二例の注入波形生成器10を説明する。第二例の注入波形生成器10は、第一例の注入波形生成器10とは、増幅器13の出力端子と出力端子52との間に電流バッファ14が追加されている点で異なる。なお、増幅器13の出力端子は、オペアンプ19の出力を伝送する配線と抵抗18との接続点である。第二例の注入波形生成器10は、第一例の注入波形生成器10よりも電流供給量を示す電流容量を増やすことが可能である。電流バッファ14は、例えば直列接続された2つのトランジスタBT1、BT2を備えている。トランジスタBT1のコレクタcが制御電源15aに接続されており、トランジスタBT1のエミッタeがトランジスタBT2のエミッタeに接続されており、トランジスタBT2のコレクタcが制御電源15bに接続されている。トランジスタBT1、BT2のベースbは増幅器13の出力が入力され、トランジスタBT1、BT2のエミッタeは出力端子52に接続されている。
【0031】
第一例の注入波形生成器10、第二例の注入波形生成器10では、増幅器13が反転増幅回路の例を示したが、増幅器13が非反転増幅回路であってもよい。
図7に示した第三例の注入波形生成器10は非反転増幅回路の例である。オペアンプ19の正側入力端子に、抵抗17を介して帯域制限器12の出力が入力されている。オペアンプ19の負側入力端子に、接地電位が抵抗16を介して入力され、かつオペアンプ19の出力が抵抗18を介して入力されている。
【0032】
非反転増幅回路のオペアンプ19のゲインGiは、抵抗16及び抵抗18の抵抗値をそれぞれr1、r2とすると、式(11)で表せる。また、出力電圧Vpは式(12)で表せる。
Gi=1+r2/r1 ・・・(11)
Vp=Gi×Vd ・・・(12)
【0033】
増幅器13が非反転増幅回路の場合、
図8に示すように、コモンモードトランス11a、11bの一次巻線への接続を逆に変更し、二次巻線に出力される電圧である注入電圧Vsがコモンモード電圧Vciを低減するように設定する。なお、
図8における出力電圧Vp、注入電圧Vsの矢印の向きは、接地電位を基準にした電圧の正方向を示している。
【0034】
なお、
図1に示した電圧検出器7は三相電力線5に接続されている例を示したが、
図9に示すように電圧検出器7は三相電力線4を2つの三相電力線4A、4Bで構成し、三相電力線4A、4Bのどちらか一方に接続することも可能である。この場合でも、三相電力線4から検出されるコモンモード電圧Vciは三相電力線5から検出されるコモンモード電圧Vciと同等なので、式(3)を満たせばよい。
図9に示した三相電力線4は、u相の三相電力線4u、v相の三相電力線4v、w相の三相電力線4wを備えており、かつ2つの三相電力線4A、4Bすなわち二系統の三相電力線で構成されている。三相電力線4Aは、u相の三相電力線4Au、v相の三相電力線4Av、w相の三相電力線4Awを備えている。三相電力線4Bは、u相の三相電力線4Bu、v相の三相電力線4Bv、w相の三相電力線4Bwを備えている。u相の三相電力線4uは、三相電力線4Au及び三相電力線4Buで構成されている。v相の三相電力線4vは三相電力線4Av及び三相電力線4Bvで構成されており、w相の三相電力線4wは三相電力線4Aw及び三相電力線4Bwで構成されている。
図9では、三相電力線4Bが三相電力線4Aの交流電源1側から分岐して電力変換器2側でもある誘導電動機3側で三相電力線4Aに結合している例を示した。便宜上、三相電力線4Aを主系統とし、三相電力線4Bを分岐系統とする。交流電源1側の端から分岐前まで及び結合後から誘導電動機3側の端までの三相電力線4は、適宜主系統の三相電力線4Aとする。
【0035】
図1、
図8では、コモンモードトランス11a、11bが三相電力線5A、5Bに挿入されている例を示したが、
図9に示すようにコモンモードトランス11a、11bは三相電力線4A、4Bに挿入することも可能である。更に、
図11に示すように、コモンモードトランス11a、11bと電圧検出器7との位置を交換しても構わない。
図1に示した第一例のノイズフィルタ50はフィードフォワード構成であるが、
図11に示した第四例のノイズフィルタ50はフィードバック構成である。
【0036】
また、
図1に示した三相電力線5は2つの三相電力線5A、5Bで構成しているが、三相電力線5を3つ以上の三相電力線で構成し、コモンモードトランスも3つ以上で構成された三相電力線5のそれぞれに接続することも可能である。
図14では、ノイズフィルタ50が、3つのコモンモードトランス11a、11b、11cと、3つの三相電力線5A、5B、5Cすなわち三系統の三相電力線で構成されている三相電力線5を備えている例を示した。
図14に示した三相電力線5は、u相の三相電力線5u、v相の三相電力線5v、w相の三相電力線5wを備えており、かつ3つの三相電力線5A、5B、5Cで構成されている。三相電力線5A、5Bは、前述した通りである。三相電力線5Cは、u相の三相電力線5Cu、v相の三相電力線5Cv、w相の三相電力線5Cwを備えている。u相の三相電力線5uは、三相電力線5Au、三相電力線5Bu、三相電力線5Cuで構成されている。v相の三相電力線5vは三相電力線5Av、三相電力線5Bv、三相電力線5Cvで構成されており、w相の三相電力線5wは三相電力線5Aw、三相電力線5Bw、三相電力線5Cwで構成されている。
【0037】
分圧回路9の例としてコンデンサ91と抵抗92、93を備える例を示したが、分圧回路9はこれに限定されない。分圧回路9は、2つのコンデンサが直列接続されたコンデンサ91のみの構成、抵抗92、93のみの構成、さらにコンデンサと抵抗の数を増やした構成も可能である。
【0038】
以上のように、実施の形態1のノイズフィルタ50は、半導体素子Q1~Q6のスイッチング動作により電力変換を行う電力変換器2が発生させるコモンモード電圧Vciを低減するノイズフィルタである。ノイズフィルタ50は、電力変換器2が発生させるコモンモード電圧Vciを検出する電圧検出器7と、電圧検出器7により検出されたコモンモード電圧Vciを分圧した分圧電圧Vdを出力する分圧回路9と、電力変換器2の出力又は入力に並列接続された複数系統の電力線(三相電力線5A、5B)のそれぞれに個別に接続されると共に、コモンモード電圧Vciと逆極性の重畳電圧(注入電圧Vs)を複数系統の電力線(三相電力線5A、5B)のそれぞれに重畳させる複数のコモンモードトランス11a、11bと、分圧電圧Vdに基づいて複数のコモンモードトランス11a、11bの一次側に出力する出力電圧Vpを生成する注入波形生成器10と、を備えている。注入波形生成器10は、それぞれの電力線(三相電力線5A、5B)に重畳させる重畳電圧(注入電圧Vs)とコモンモード電圧Vciとの差が許容値Vto以下になる出力電圧Vpを生成する。実施の形態1のノイズフィルタ50は、この構成により、複数系統の電力線(三相電力線5A、5B)のそれぞれに個別に接続される複数のコモンモードトランス11a、11bを備え、注入波形生成器10がそれぞれの電力線(三相電力線5A、5B)に重畳させる重畳電圧(注入電圧Vs)とコモンモード電圧Vciとの差が許容値Vto以下になる出力電圧Vpを生成するので、コモンモードトランス11a、11bの二次巻線が線径の小さい電線にできることに伴って使用するコアを小型化でき、電力変換器2の出力電流が大きい場合でも小型のコモンモードトランス11a、11bを用いてコモンモード電圧Vciを抑制できる。
【0039】
実施の形態2.
図15は、実施の形態2に係る第一のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
図16は
図15の注入波形生成器の第一例を示す図であり、
図17は
図15の注入波形生成器の第二例を示す図である。
図18は
図15の注入波形生成器の第三例を示す図であり、
図19は
図15の注入波形生成器の第四例を示す図である。
図20は
図15の注入波形生成器の第五例を示す図であり、
図21は
図15の注入波形生成器の第六例を示す図である。
図22は、
図15の注入波形生成器の第七例を示す図である。
図23は循環電流を説明する図である。
図24は、実施の形態2に係る第二のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
図25は実施の形態2に係る第三のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図であり、
図26は
図25の注入波形生成器を示す図である。
【0040】
実施の形態2のノイズフィルタ50は、三相電力線5A、5Bのそれぞれに複数のコモンモードトランスが接続されている点で実施の形態1のノイズフィルタ50と異なる。
図15に示した実施の形態2の第一のノイズフィルタ50は、三相電力線5Aに2つのコモンモードトランス11a、11cが接続されており、三相電力線5Bに2つのコモンモードトランス11b、11dが接続されている例である。
図16に示し
た注入波形生成器10の第一例は、
図5に示した注入波形生成器10とは、2つの出力端子52a、52bを有する点で異なる。実施の形態2の注入波形生成器10の第一例は、出力端子52aから第一の出力電圧である出力電圧Vpxを出力し、出力端子52bから第二の出力電圧である出力電圧Vpyを出力する。なお、
図16において、接地電位になっている配線24は省略した。
図17~
図22においても、接地電位になっている配線24は省略した。
【0041】
実施の形態1のノイズフィルタ50と異なる部分を主に説明する。実施の形態2のオペアンプ19のゲインGiは、分圧回路9の分圧比Rv、コモンモードトランス11a、11b、11c、11dの巻数比Rr、複数系統で構成されている三相電力線のうち、1つの三相電力線に接続される接続トランス数Ntにより設定される。
図15の場合、Ntは2である。コモンモードトランス11a、11cの二次巻線を介して三相電力線5Aのu相、v相、w相に重畳される重畳電圧である総注入電圧Vstと、コモンモードトランス11b、11dの二次巻線を介して三相電力線5Bのu相、v相、w相に重畳される重畳電圧である総注入電圧Vstとがコモンモード電圧Vciを低減するように、すなわち式(13)が成立するように、ゲインGi、分圧比Rv、巻数比Rr、接続トランス数Ntが設定される。
図15では、コモンモードトランス11aとコモンモードトランス11bとが同一構成であり、コモンモードトランス11cとコモンモードトランス11dとが同一構成である例を示した。ここで、同一構成のコモンモードトランスとは、各コモンモードトランスが同じコア材、コアの外径、内径、断面積及び巻数比で構成しているこことである。したがって、三相電力線5Aに重畳される総注入電圧Vstと、三相電力線5Bに重畳される総注入電圧Vstとが等しい電圧になっている。
【0042】
|Vci-Vst|≦Vto ・・・(13)
式(13)は、コモンモード電圧Vciと各三相電力線5A、5Bの総注入電圧Vstとの差の絶対値が許容値Vto以下であることを示している。総注入電圧Vstは、式(14)で表され、複数系統で構成されている三相電力線5A、5Bのうち1つの三相電力線に接続されるコモンモードトランスが発生させる注入電圧Vsx、Vsyを加算した電圧である。三相電力線5A、5Bにそれぞれ重畳される注入電圧の総和をそれぞれVsa、Vsbとすると、総注入電圧Vstとの間には式(15)が成り立つ。
Vst=Vsx+Vsy ・・・(14)
Vsa=Vsb=Vst ・・・(15)
【0043】
複数系統で構成されている三相電力線5A、5Bのうち1つの三相電力線に接続される各コモンモードトランスの注入電圧が等しいとき、つまり
図15の注入電圧Vsxと注入電圧Vsyが等しい注入電圧Vsであるとき、総注入電圧Vstは、接続トランス数Ntを用いて式(16)で表される。
Vst=Nt×Vs ・・・(16)
【0044】
あるコモンモード電圧Vciの値に対して、1つの三相電力線に接続される接続トランス数Ntが多い程、1つのコモンモードトランスに入力される電圧すなわち注入波形生成器10の出力電圧Vpx、Vpyとコモンモードトランスの二次巻線に出力される電圧である注入電圧Vsx、Vsyを小さくすることができる。1つの三相電力線に複数のコモンモードトランスを備えることで、実施の形態2のノイズフィルタ50は、実施の形態1のノイズフィルタ50よりも小型のコモンモードトランス11a、11b、11c、11dで総注入電圧Vstを三相電力線5のu相、v相、w相に重畳することができる。
【0045】
実施の形態2のノイズフィルタ50は三相電力線5A、5Bのそれぞれに複数のコモンモードトランスが接続されているため、式(13)を満たすために必要な1つのコモンモードトランスあたりの注入電圧Vsx、Vsyは小さくできる。そのため、1つのコモンモードトランスにおける電圧時間積が小さくなる。一般に、電圧時間積が小さい場合、コモンモードトランスに使用されるコアの断面積は小さくなるため、実施の形態2のノイズフィルタ50はコモンモードトランスの小型化が可能になる。
【0046】
図23は、三相電力線5が二系統に分岐して再度結合している場合における循環電流を説明する図である。
図23には、実施の形態1に係る第一のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成において、コモンモードトランス11a、11bが異なる電圧値の注入電圧Vs1、Vs2を三相電力線5A、5Bに注入した場合を示している。三相電力線5を複数系統の三相電力線5A、5Bで構成し、それぞれの三相電力線5A、5Bに接続したコモンモードトランス11a、11bにより注入電圧を重畳する際に、一方のコモンモードトランスが故障した場合には三相電力線5A、5Bの間で総注入電圧に差が生じる。三相電力線5A、5Bの間で総注入電圧に差がある場合、例えば注入電圧Vs1、Vs2により、三相電力線5Aの電圧が三相電力線5Bの電圧よりも低くなった場合、
図23のように三相電力線5A、5Bを循環する電流が、矢印71a、71b、71c、71dの向きに流れる。
【0047】
実施の形態2のノイズフィルタ50は、三相電力線5A、5Bに接続された複数のコモンモードトランスによりそれぞれ注入電圧Vsx、Vsyを出力し、1つあたりの注入電圧Vsx又は注入電圧Vsyが小さいため、故障により1つのコモンモードトランス11aが正常な電圧を出力できなくなった場合も、三相電力線5A、5Bの総注入電圧Vsa、Vsbの間に生じる電圧差を実施の形態1のノイズフィルタ50よりも小さくできる。このため、実施の形態2のノイズフィルタ50は、1つのコモンモードトランス11aが故障しても、三相電力線5A、5Bの総注入電圧Vsa、Vsbの間に生じる電圧差が実施の形態1のノイズフィルタ50よりも小さくなり、実施の形態1のノイズフィルタ50よりも電圧差に起因した三相電力線5A、5Bを循環する循環電流を低減させることができる。
【0048】
また、例えば
図24に示した実施の形態2の第二のノイズフィルタ50のように、三相電力線5A、5Bのそれぞれに同じ構成のコモンモードチョークコイルLa、Lbを接続することで、三相電力線5A、5Bの総注入電圧Vsa、Vsbの電圧差に起因する循環電流を低減することができる。実施の形態2の第二のノイズフィルタ50は、電圧検出器7、分圧回路9、注入波形生成器10、コモンモードトランス11a、11b、コモンモードチョークコイルLa、Lbを備えている例である。
【0049】
三相電力線5が二系統に分岐して再度結合している場合に循環電流を抑制するには、主系統の三相電力線5Aに重畳される総注入電圧Vstである総注入電圧Vsaと、分岐系統の三相電力線5Bに重畳される総注入電圧Vstである総注入電圧Vsbとを等しくすればよい。例えば、主系統及び分岐系統に接続される全てのコモンモードトランスにおけるコア材、コアの外径、内径、断面積及び巻数比を同じにすることで、総注入電圧Vsaと総注入電圧Vsbとを等しくすることができる。
図15の例では、コモンモードトランス11a、11b、11c、11dにおける、コア材、コアの外径、内径、断面積及び巻数比が同一に設定され、等しい出力電圧Vpxと出力電圧Vpyとがコモンモードトランス11a、11b、11c、11dに入力されることでも、実施の形態2のノイズフィルタ50は等しい注入電圧Vsxと注入電圧Vsyとをそれぞれ三相電力線5A、5Bに重畳することができる。
【0050】
また、前述したように、主系統、分岐系統のそれぞれに同一構成のコモンモードトランスを同数個接続すれば、総注入電圧Vsaと総注入電圧Vsbとを等しくすることができる。例えば、コモンモードトランス11a、11bを同じコア材、コアの外径、内径、断面積及び巻数比の第一設定条件で構成し、コモンモードトランス11c、11dを共通の設定条件であって第一設定条件と異なる第二設定条件のコア材、コアの外径、内径、断面積及び巻数比で構成することが可能である。つまり、コモンモードトランス11a、11bとコモンモードトランス11c、11dとは、コア材、コアの外径、内径、断面積及び巻数比の少なくとも1つが異なっていてもよい。出力電圧Vpx、Vpyの電圧値が異なる場合は、例えば
図22に示した注入波形生成器10の第七例を用いることができる。注入波形生成器10の第七例は、出力端子52a、52b毎に個別の増幅器13a、13bを備える例である。例えば、増幅器13aのゲインと増幅器13bのゲインとを異なる設定にすることで、注入波形生成器10の第七例は、異なる電圧値の出力電圧Vpx、Vpyを出力することができる。
【0051】
図17に示した注入波形生成器10の第二例は、
図6に示した注入波形生成器10とは、2つの出力端子52a、52bを有する点で異なる。実施の形態2の注入波形生成器10の第二例は、出力端子52aから出力電圧Vpxを出力し、出力端子52bから出力電圧Vpyを出力する。また、実施の形態2の注入波形生成器10の第二例は、注入波形生成器10の第一例とは、増幅器13の出力端子と出力端子52a、52bとの間に電流バッファ14が追加されている点で異なる。実施の形態2の注入波形生成器10の第二例は、電流バッファ14により第一例の注入波形生成器10に比べて電流供給量を示す電流容量を増やすことが可能である。
【0052】
図18に示した注入波形生成器10の第三例は、
図16に示した注入波形生成器10の第一例とは、入力端子51側に帯域制限器12がなく、増幅器13の出力端子と出力端子52a、52bとの間にそれぞれ帯域制限器12a、12bが配置されている点で異なる。帯域制限器12aの周波数帯域と帯域制限器12bの周波数帯域は同じでもよく、異なっていてもよい。帯域制限器12aの周波数帯域と帯域制限器12bの周波数帯域が異なる場合は、周波数帯域の異なる出力電圧Vpx、Vpyを出力することができる。
【0053】
図19に示した注入波形生成器10の第四例は、
図18に示した注入波形生成器10の第三例とは、増幅器13の出力端子と帯域制限器12a、12bの入力側との間に電流バッファ14が追加されている点で異なる。実施の形態2の注入波形生成器10の第四例は、電流バッファ14により実施の形態2の第三例の注入波形生成器10に比べて電流供給量を示す電流容量を増やすことが可能である。
【0054】
図19に示した注入波形生成器10の第四例は、増幅器13の出力端子と帯域制限器12a、12bの入力側との間に電流バッファ14が配置されている例であるが、電流バッファ14は帯域制限器12a、12bの出力側と出力端子52a、52bとの間に配置されてもよい。
図20に示した注入波形生成器10の第五例は、
図18に示した注入波形生成器10の第三例とは、帯域制限器12aの出力側と出力端子52aとの間に電流バッファ14aが追加され、帯域制限器12bの出力側と出力端子52bとの間に電流バッファ14bが追加されている点で異なる。実施の形態2の注入波形生成器10の第五例は、電流バッファ14a、14bにより実施の形態2の第三例の注入波形生成器10に比べて電流供給量を示す電流容量を増やすことが可能である。
【0055】
図21に示した注入波形生成器10の第六例は、
図18に示した注入波形生成器10の第三例とは、入力端子51と増幅器13の入力側との間に帯域制限器12cが配置されている点で異なる。実施の形態2の注入波形生成器10の第六例は、入力側にも帯域制限器12cを備えているので、出力側の帯域制限器12a、12bを小型にできる。このため実施の形態2の注入波形生成器10の第六例は、小型の帯域制限器12a、12b、12cにより、2つの帯域制限器12a、12bを備える実施の形態2の注入波形生成器10の第三例のよりも帯域制限器の合計消費電力を低減することができる。
【0056】
注入波形生成器10の第二例~第六例においても、
図22の注入波形生成器10の第七例と同様に出力端子52a、52b毎に個別の増幅器13a、13bを備えてもよい。注入波形生成器10の第二例では、増幅器13aと出力端子52aとの間に電流バッファ14が配置され、増幅器13bと出力端子52bとの間に他の電流バッファ14が配置される。注入波形生成器10の第三例、第六例では、増幅器13aと出力端子52aとの間に帯域制限器12aが配置され、増幅器13bと出力端子52bとの間に帯域制限器12bが配置される。注入波形生成器10の第四例では、増幅器13aと出力端子52aとの間に電流バッファ14及び帯域制限器12aが配置され、増幅器13bと出力端子52bとの間に他の電流バッファ14及び帯域制限器12bが配置される。注入波形生成器10の第五例では、増幅器13aと出力端子52aとの間に帯域制限器12a及び電流バッファ14aが配置され、増幅器13bと出力端子52bとの間に帯域制限器12b及び電流バッファ14bが配置される。
【0057】
図15では注入波形生成器10の出力端子が2つあり、三相電力線5A、5Bのそれぞれにコモンモードトランスが2つある場合を示したが、コモンモードトランスの数を限定するものではない。例えば
図25のように、三相電力線5A、5Bのそれぞれに3つのコモンモードトランスが接続され、注入波形生成器10の出力端子52a、52b、52cから出力電圧Vpx、Vpy、Vpzを出力するようにしてもよい。具体的には、三相電力線5Aに3つのコモンモードトランス11a、11c、11eが接続され、三相電力線5Bに3つのコモンモードトランス11b、11d、11fが接続されている。この場合、総注入電圧Vstは式(17)で表され、注入電圧Vsx、Vsy、Vszは式(17)を満たすように設定される。
Vst=Vsx+Vsy+Vsz ・・・(17)
【0058】
図26には、実施の形態2の
第三のノイズフィルタ5
0に適用する注入波形生成器10の一例を示した。これは、
図22に示した注入波形生成器10の第七例に、増幅器13c及び出力端子52cを追加した例である。
図26に示した注入波形生成器10は、
図26に限定されず、
図17~
図21に示した注入波形生成器10の二例~第六例が増幅器13a、13bを備えるように拡張され、更に増幅器13c及び出力端子52cを追加した例でもよい。なお、
図18~
図21に示した注入波形生成器10の第三例~第六例を適用する場合には、追加する出力端子52c側にも出力端子52a、52b側と同様になるように帯域制限器等が接続される。
【0059】
以上のように、実施の形態2のノイズフィルタ50は、三相電力線5A、5Bのそれぞれに複数で同数個のコモンモードトランスを備え、実施の形態1と同様に、コモンモードトランスの二次巻線が線径の小さい電線にできることに伴って使用するコアを小型化でき、電力変換器2の出力電流が大きい場合でも小型のコモンモードトランスでノイズフィルタを構成できる。また、実施の形態2のノイズフィルタ50は、三相電力線5A、5Bのそれぞれ複数で同数個のコモンモードトランスを備え、1つの三相電力線に接続される複数のコモンモードトランスの注入電圧Vsを加算した総注入電圧Vstによりコモンモード電圧Vciを低減するため、コモンモードトランス1つあたりの注入電圧Vsは小さくなる。その結果、1つのコモンモードトランスに対する電圧時間積が小さくなり、コモンモードトランスに使用するコアを小型化でき、コモンモードトランスを小型化できる。また、実施の形態2のノイズフィルタ50は、1つのコモンモードトランスが故障し、設定された電圧を注入できなくなった場合に、三相電力線5Aの総注入電圧Vsaと三相電力線5Bの総注入電圧Vsbとの間に電圧差が生じることに起因する三相電力線5A、5Bを循環する循環電流を低減することができる。
【0060】
実施の形態3.
図27は、実施の形態3に係る第一のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
図28は
図27の第一の注入波形生成器の第一例を示す図であり、
図29は
図27の第二の注入波形生成器の第一例を示す図である。
図30は
図27の第一の注入波形生成器の第二例を示す図であり、
図31は
図27の第二の注入波形生成器の第二例を示す図である。
図32は
図27の第一の注入波形生成器の第三例を示す図であり、
図33は
図27の第二の注入波形生成器の第三例を示す図である。
図34は
図27の第一の注入波形生成器の第四例を示す図であり、
図35は
図27の第二の注入波形生成器の第四例を示す図である。
図36は
図27の第一の注入波形生成器の第五例を示す図であり、
図37は
図27の第二の注入波形生成器の第五例を示す図である。
図38は
図27の第一の注入波形生成器の第六例を示す図であり、
図39は
図27の第二の注入波形生成器の第六例を示す図である。
図40は実施の形態3に係る第二のノイズフィルタ及び電動機駆動システムの構成を示す図である。
【0061】
図27に示した実施の形態3のノイズフィルタ50は、三相電力線5Aにコモンモードトランス11a、11c、11e、三相電力線5Bにコモンモードトランス11b、11d、11fが接続されており、2つの注入波形生成器10a、10bを持つ点で実施の形態1のノイズフィルタ50と異なる。
図28に示した第一の注入波形生成器10aの第一例は、
図5に示した注入波形生成器10とは、帯域制限器12が低周波数帯域を通過させ高周波数帯域を減少させる帯域制限器32に変更され、2つの出力端子52a、52bを有する点で異なる。
図29に示した第二の注入波形生成器10bの第一例は、
図5に示した注入波形生成器10とは、帯域制限器12が高周波数帯域を通過させ低周波数帯域を減少させる帯域制限器33に変更されている点で異なる。注入波形生成器10aは、出力端子52aから第一の出力電圧である出力電圧Vpxを出力し、出力端子52bから他の第一の出力電圧である出力電圧Vpyを出力する。注入波形生成器10bは、出力端子52から第二の出力電圧である出力電圧Vpzを出力する。実施の形態3において、第一の出力電圧、他の第一の出力電圧は第一の注入波形生成器である注入波形生成器10aから出力される出力電圧であり、第二の出力電圧は第二の注入波形生成器である注入波形生成器10bから出力される出力電圧である。なお、実施の形態2における第二の出力電圧は、実施の形態3の他の第一の出力電圧に相当する。なお、
図28、
図29において、接地電位になっている配線24は省略した。
図30~
図39においても、接地電位になっている配線24は省略した。なお、実施の形態3のノイズフィルタ50は、2つの波形生成器(注入波形生成器10a、10b)を備えた注入波形生成器を備えているということもできる。
【0062】
実施の形態1のノイズフィルタ50と異なる部分を主に説明する。注入波形生成器10aは低周波数帯域のみ増幅し、高周波数帯域は減少させるよう設定される。一方、注入波形生成器10bは高周波数帯域のみ増幅し、低周波数帯域は減少させるよう設定される。すなわち、注入波形生成器10aは低周波数帯域の出力電圧Vpxをコモンモードトランス11a、11bに出力し、低周波数帯域の出力電圧Vpyをコモンモードトランス11c、11dに出力する。注入波形生成器10bは高周波数帯域の出力電圧Vpzをコモンモードトランス11e、11fに出力する。出力電圧Vpx、Vpyは出力電圧Vpzとは周波数帯域が異なっている。これにより、注入波形生成器10aに接続されるコモンモードトランス11a、11b、11c、11dには低周波数帯域の電圧が印加され、注入波形生成器10bに接続されるコモンモードトランス11e、11fは高周波数帯域の電圧が印加される。また、出力電圧Vpx、Vpyは出力電圧Vpzとは周波数帯域に応じて電圧値が異なっていてもよい。
【0063】
実施の形態3では、実施の形態2と同様に、三相電力線5A、5Bには同一構成のコモンモードトランスが同数個接続される。つまり、三相電力線5Aに重畳される総注入電圧Vsaと三相電力線5Bに重畳される総注入電圧Vsbとが等しくなるように、三相電力線5A、5Bにコモンモードトランスが接続される。
図27では、出力電圧Vpxが入力されるコモンモードトランス11aとコモンモードトランス11bとが同一構成であり、出力電圧Vpyが入力されるコモンモードトランス11cとコモンモードトランス11dとが同一構成であり、出力電圧Vpzが入力されるコモンモードトランス11eとコモンモードトランス11fとが同一構成である例を示した。なお、三相電力線5Aに接続されたコモンモードトランス11a、11c、11eは、同一構成であっても、異なる構成であってもよい。同じ出力電圧が入力される三相電力線5Aに接続されたコモンモードトランス(主系統トランス)と三相電力線5Bに接続されたコモンモードトランス(分岐系統トランス)とが同一構成である。
【0064】
実施の形態3のノイズフィルタ50における複数のコモンモードトランス11a~11fは、印加される出力電圧Vpx、Vpy、Vpz毎に同一構成で同数個のコモンモードトランスが複数系統の三相電力線のそれぞれに接続されている。
図27の例では、注入波形生成器10aから出力電圧Vpx、Vpyが出力され、注入波形生成器10bから出力電圧Vpzが出力されている。そのため、例えば、三相電力線5Aに接続されるコモンモードトランス11a、11c、11eのそれぞれを別の構成とし、第一の注入波形生成器10aからコモンモードトランス11a、11cに出力電圧Vpx、Vpyが印加され、第二の注入波形生成器10bからコモンモードトランス11eに出力電圧Vpzが印加される場合において、三相電力線5Bに接続されるコモンモードトランス11b、11d、11fを考える。この場合、三相電力線5Bに接続されるコモンモードトランス11b、11d、11fは、三相電力線5Aにコモンモードトランス11a、11c、11eのそれぞれと同一構成であり、コモンモードトランス11b、11dは注入波形生成器10aから出力電圧Vpx、Vpyが印加され、コモンモードトランス11fは注入波形生成器10bから出力電圧Vpzが印加される。
【0065】
実施の形態3のノイズフィルタ50では、注入波形生成器10a、10bが出力する出力電圧Vpx、Vpy、Vpzはコモンモードトランスを介して変換された注入電圧Vsx、Vsy、Vszは複数系統で構成された各三相電力線5A、5Bに等しく重畳されるため、1つの注入波形生成器が故障して接続されるコモンモードトランスに電圧が印加できなくなった場合においても、他の注入波形生成器が正常に動作しているため、三相電力線5A、5Bの間で総注入電圧Vsa、Vsbの差が生じない。そのため、1つの注入波形生成器が故障しても、三相電力線5A、5Bを循環する循環電流の発生を抑制できる。
【0066】
図30に示した第一の注入波形生成器10aの第二例は、
図6に示した注入波形生成器10とは、帯域制限器12が低周波数帯域を通過させ高周波数帯域を減少させる帯域制限器32に変更され、2つの出力端子52a、52bを有する点で異なる。
図31に示した第二の注入波形生成器10bの第二例は、
図6に示した注入波形生成器10とは、帯域制限器12が高周波数帯域を通過させ低周波数帯域を減少させる帯域制限器33に変更されている点で異なる。注入波形生成器10aは、出力端子52aから出力電圧Vpxを出力し、出力端子52bから出力電圧Vpyを出力する。注入波形生成器10bは、出力端子52から出力電圧Vpzを出力する。また、第一の注入波形生成器10aの第二例は、第一の注入波形生成器10aの第一例とは、増幅器13の出力端子と出力端子52a、52bとの間に電流バッファ14が追加されている点で異なる。第二の注入波形生成器10bの第二例は、第二の注入波形生成器10bの第一例とは、増幅器13の出力端子と出力端子52との間に電流バッファ14が追加されている点で異なる。第一の注入波形生成器10aの第二例及び第二の注入波形生成器10bの第二例は、電流バッファ14により第一例の注入波形生成器10a、10bに比べて電流供給量を示す電流容量を増やすことが可能である。
【0067】
図32に示した第一の注入波形生成器10aの第三例は、
図28に示した第一の注入波形生成器10aの第一例とは、入力端子51側に帯域制限器32がなく、増幅器13の出力端子と出力端子52a、52bとの間にそれぞれ帯域制限器32a、32bが配置されている点で異なる。帯域制限器32aの周波数帯域と帯域制限器32bの周波数帯域は同じでもよく、異なっていてもよい。帯域制限器32aの周波数帯域と帯域制限器32bの周波数帯域が異なる場合は、周波数帯域の異なる出力電圧Vpx、Vpyを出力することができる。なお、出力電圧Vpx、Vpyの周波数帯域は、出力電圧Vpzよりも低い周波数帯域である。
図33に示した第二の注入波形生成器10bの第三例は、
図29に示した第二の注入波形生成器10bの第一例とは、入力端子51側に帯域制限器33がなく、増幅器13の出力端子と出力端子52との間に帯域制限器33が配置されている点で異なる。
【0068】
図34に示した第一の注入波形生成器10aの第四例は、第一の注入波形生成器10aの第三例とは、増幅器13の出力端子と帯域制限器32a、32bの入力側との間に電流バッファ14が追加されている点で異なる。
図35に示した第二の注入波形生成器10bの第四例は、第二の注入波形生成器10bの第三例とは、増幅器13の出力端子と帯域制限器33の入力側との間に電流バッファ14が追加されている点で異なる。第一の注入波形生成器10aの第四例及び第二の注入波形生成器10bの第四例は、電流バッファ14により第三例の注入波形生成器10a、10bに比べて電流供給量を示す電流容量を増やすことが可能である。
【0069】
図34に示した第一の注入波形生成器10aの第四例は、増幅器13の出力端子と帯域制限器32a、32bの入力側との間に電流バッファ14が配置されている例であるが、電流バッファ14は帯域制限器32a、32bの出力側と出力端子52a、52bとの間に配置されてもよい。
図36に示した第一の注入波形生成器10aの第五例は、第一の注入波形生成器10aの第三例とは、帯域制限器32aの出力側と出力端子52aとの間に電流バッファ14aが追加され、帯域制限器32bの出力側と出力端子52bとの間に電流バッファ14bが追加されている点で異なる。第一の注入波形生成器10aの第五例は、電流バッファ14a、14bにより第三例の注入波形生成器10aに比べて電流供給量を示す電流容量を増やすことが可能である。
【0070】
同様に、
図35に示した第二の注入波形生成器10bの第四例は、増幅器13の出力端子と帯域制限器33の入力側との間に電流バッファ14が配置されている例であるが、電流バッファ14は帯域制限器33の出力側と出力端子52との間に配置されてもよい。
図37に示した第二の注入波形生成器10bの第五例は、第二の注入波形生成器10bの第三例とは、帯域制限器33の出力側と出力端子52との間に電流バッファ14が追加されている点で異なる。第二の注入波形生成器10bの第五例は、電流バッファ14により第三例の注入波形生成器10bに比べて電流供給量を示す電流容量を増やすことが可能である。
【0071】
図38に示した第一の注入波形生成器10aの第六例は、第一の注入波形生成器10aの第三例とは、入力端子51と増幅器13の入力側との間に帯域制限器32cが配置されている点で異なる。
図39に示した第二の注入波形生成器10bの第六例は、第二の注入波形生成器10bの第三例とは、入力端子51と増幅器13の入力側との間に帯域制限器34が配置されている点で異なる。帯域制限器32cの周波数帯域は、帯域制限器32a、32bと同様に、第二の注入波形生成器10bにおける帯域制限器33、34よりも低い周波数帯域である。帯域制限器34の周波数帯域は、帯域制限器33と同様に、第一の注入波形生成器10aにおける帯域制限器32a、32b、32cよりも高い周波数帯域である。
【0072】
第一の注入波形生成器10aの第六例は、入力側にも帯域制限器32cを備えているので、出力側の帯域制限器32a、32bを小型にできる。このため第一の注入波形生成器10aの第六例は、小型の帯域制限器32a、32b、32cにより、2つの帯域制限器32a、32bを備える第一の注入波形生成器10aの第三例のよりも帯域制限器の合計消費電力を低減することができる。第二の注入波形生成器10bの第六例は、入力側にも帯域制限器34を備えているので、出力側の帯域制限器33を小型にできる。このため第二の注入波形生成器10bの第六例は、小型の帯域制限器33、34により、1つの帯域制限器33を備える第二の注入波形生成器10bの第三例のよりも帯域制限器の合計消費電力を低減することができる。
【0073】
第一の注入波形生成器10aの第一例~第六例においても、
図22に示した実施の形態1の注入波形生成器10の第七例と同様に出力端子52a、52b毎に個別の増幅器13a、13bを備えてもよい。この場合の第一の注入波形生成器10aの第一例は、
図22の注入波形生成器10において帯域制限器12が帯域制限器32に変更されればよい。第一の注入波形生成器10aの第二例では、増幅器13aと出力端子52aとの間に電流バッファ14が配置され、増幅器13bと出力端子52bとの間に他の電流バッファ14が配置される。第一の注入波形生成器10aの第三例、第六例では、増幅器13aと出力端子52aとの間に帯域制限器12aが配置され、増幅器13bと出力端子52bとの間に帯域制限器12bが配置される。第一の注入波形生成器10aの第四例では、増幅器13aと出力端子52aとの間に電流バッファ14及び帯域制限器12aが配置され、増幅器13bと出力端子52bとの間に他の電流バッファ14及び帯域制限器12bが配置される。第一の注入波形生成器10aの第五例では、増幅器13aと出力端子52aとの間に帯域制限器12a及び電流バッファ14aが配置され、増幅器13bと出力端子52bとの間に帯域制限器12b及び電流バッファ14bが配置される。これらの場合には、第一の注入波形生成器10aの第一例~第六例は、電圧値が異なる出力電圧Vpxと出力電圧Vpyとを出力することができる。
【0074】
図27では注入波形生成器が2つあり、三相電力線5A、5Bのそれぞれにコモンモードトランスが3つ接続される場合を示したが、コモンモードトランスの数を限定するものではない。例えば
図40のように、三相電力線5Aに2つのコモンモードトランス11a、11eを接続し、三相電力線5Bに2つのコモンモードトランス11b、11fを接続し、2つの注入波形生成器10a、10bから出力電圧Vpx、Vpzを出力するようにしてもよい。
図40に示した実施の形態3の第二のノイズフィルタ50は、
図15に示した実施の形態2のノイズフィルタ50とは、三相電力線5Aに接続されたコモンモードトランス11a、11
eと三相電力線5Bに接続されたコモンモードトランス11b、11fとに、2つの注入波形生成器10a、10bにより出力電圧Vpx、Vpzが出力されている点で異なる。なお、注入波形生成器10aが2つの出力端子52a、52bを有する例を示しているが、出力端子52bは使用してないので、出力端子52bがない注入波形生成器10aで構わない。この場合には、出力端子52bのみに繋がる部品は削除されている。
【0075】
また、注入波形生成器10a、10bは周波数帯域が異なる場合すなわち周波数特性が異なる場合を示したが、同じゲイン及び周波数特性でも構成可能である。この場合の実施の形態3のノイズフィルタ50は、複数の出力端子から周波数帯域が同じ出力電圧が出力される場合の実施の形態2のノイズフィルタ50と同じ作用を生じるので、実施の形態2のノイズフィルタ50と同様の効果を奏する。なお、注入波形生成器10a、10bはそれぞれ異なるゲインの増幅器13を備え、異なる電圧値の出力電圧Vpx、Vpzを出力するようにしてもよい。
【0076】
今まで、出力電圧Vpx、Vpy、Vpzがそれぞれ異なる例を説明した。出力電圧Vpx、Vpy、Vpzがそれぞれ異なる場合は、コモンモードトランス11a、11b、11cはコア材、コアの外径、内径、断面積及び巻数比の少なくとも1つが異なっている。すなわち、コモンモードトランス11a、11b、11cは、同一構成ではなく、異なる構成を有している。しかし、前述したようにコモンモードトランス11a、11b、11cは、同一構成であっても構わない。
【0077】
なお、実施の形態1~3のノイズフィルタ50は、三相交流電力から直流電力を介して三相交流電力に変換する電力変換器2を搭載した電動機駆動システム60に適用した例を示したが、この例に限定されない。実施の形態1~3のノイズフィルタ50は、半導体素子のスイッチング動作によりコモンモード電圧を発生する電力変換器が搭載されたシステムにも適用できる。例えば、電力変換器2が絶縁型DC-DCコンバータであってもよい。この場合、交流電源1は直流電源になり、誘導電動機3は直流電動機になる。
【0078】
以上のように、実施の形態3のノイズフィルタ50は、三相電力線5Aに接続されたコモンモードトランス11a、11c、11eのそれぞれと同一構成で同数個のコモンモードトランス11b、11d、11fが三相電力線5Bに接続され、実施の形態1と同様に、コモンモードトランスの二次巻線が線径の小さい電線にできることに伴って使用するコアを小型化でき、電力変換器2の出力電流が大きい場合でも小型のコモンモードトランスでノイズフィルタを構成できる。また、実施の形態3のノイズフィルタ50は、三相電力線5A、5Bのそれぞれに接続された同一構成のコモンモードトランスに同じ電圧を出力する複数の注入波形生成器10a、10bを備えるため、1つの注入波形生成器が故障して、出力電圧を出力できなくなった場合においても、他の注入波形生成器が正常に動作しているため、三相電力線5A、5Bの総注入電圧Vsa、Vsbに電圧差が生じず、三相電力線5A、5Bを循環する循環電流の発生を抑制することができる。
【0079】
なお、実施の形態1~3のノイズフィルタ50は、三相電力線5A、5Bにそれぞれ同一構成のコモンモードトランスが同じ数だけ接続され、同じ重畳電圧を三相電力線5A、5Bに重畳するように設定される例を示したが、これに限定されない。例えば、三相電力線5Aと三相電力線5Bとに異なる数のコモンモードトランスが接続されていてもよい。この場合、三相電力線5Aに接続されたコモンモードトランスと三相電力線5Bに接続されたコモンモードトランスとに、別の注入波形生成器10a、10b又は別の増幅器13a、13bを備えた注入波形生成器10から出力された出力電圧Va、Vbを出力して、三相電力線5Aに重畳される重畳電圧(総注入電圧Vsa)と三相電力線5Bに重畳される重畳電圧(総注入電圧Vsb)が共に式(13)を満たせばよい。すなわち、三相電力線5Aの重畳電圧については、|Vci-Vsa|≦Vtoを満たし、三相電力線5Bの重畳電圧については、|Vci-Vsb|≦Vtoを満たせばよい。なお、1個のコモンモードトランスによる重畳電圧は、1つの注入電圧Vsからなる総注入電圧Vstということもできる。
【0080】
また、本願は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0081】
2…電力変換器、4…三相電力線、4A、4B…三相電力線(各系統の三相電力線)、5…三相電力線、5A、5B、5C…三相電力線(各系統の三相電力線)、7…電圧検出器、9…分圧回路、10…注入波形生成器、10a、10b…注入波形生成器(波形生成器)、11a、11b、11c、11d、11e、11f…コモンモードトランス、12、12a、12b、12c…帯域制限器、13…増幅器、32、32a、32b、32c…帯域制限器、33…帯域制限器、34…帯域制限器、50…ノイズフィルタ、52、52a、52b、52c…出力端子、Gi…ゲイン、l…内径、L…外径、Nt…接続トランス数、Q1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6…半導体素子、Rr…巻数比、Vci…コモンモード電圧、Vd…分圧電圧、Vp、Vpx、Vpy、Vpz…出力電圧、Vs、Vsx、Vsy、Vsz…注入電圧(重畳電圧)、Vst、Vsa、Vsb…総注入電圧(重畳電圧)、Vto…許容値