(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】2,3,5-置換されたチオフェン化合物の肥満細胞症の予防、改善または治療用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4535 20060101AFI20240628BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240628BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240628BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240628BHJP
【FI】
A61K31/4535
A61P35/02
A61P43/00 105
A23L33/10
(21)【出願番号】P 2023504836
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 KR2021010001
(87)【国際公開番号】W WO2022025716
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】10-2020-0095988
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520470431
【氏名又は名称】ファロス・アイバイオ・カンパニー・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】テ・ボ・シム
(72)【発明者】
【氏名】スン・ヘ・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ハン・ナ・チョ
(72)【発明者】
【氏名】ウ・ヨン・ホ
(72)【発明者】
【氏名】チ・マン・ソン
(72)【発明者】
【氏名】キィ・ヨブ・ナム
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ヒョク・ユン
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-504900(JP,A)
【文献】特表2009-515978(JP,A)
【文献】c-Kit and c-kit mutations in mastocytosis and other hematological diseases,BOISSAN, Mathieu Boissan et al.,Journal of Leukocyte Biology,2000年,67,135 - 148,DOI:10.1002/jlb.67.2.135
【文献】KAITSIOTOU, Helena et al.,Inhibitors to Overcome Secondary Mutations in the Stem Cell Factor Receptor KIT,J. Medical. Chemistry.,60,2017年,8801 - 8815,DOI:10.1021/acs.jmedchem.7b00841
【文献】T670X KIT Mutations in Gastrointestinal Stromal Tumors: Making Sense of Missense ,NEGRI, Tiziana et al.,Jounal of the National Cancer Institute,2009年,101,194 - 204,DOI:10.1093/jnci/djn477
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む肥満細胞症の予防または治療用薬学的組成物:
【化1】
。
【請求項2】
前記肥満細胞症は、肥満細胞性白血病、全身性肥満細胞症、および侵襲性全身性肥満細胞症からなる群より選択されるいずれか1つの疾病である、請求項1に記載の肥満細胞症の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項3】
前記肥満細胞症は、
c-kitタンパク質を構成する816番目のアミノ酸であるアスパラギン酸(Aspartic acid)がバリン(Valine)またはヒスチジン(Histidine)に置換されて発生するものである、請求項1に記載の肥満細胞症の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項4】
前記肥満細胞症は、
c-kitタンパク質を構成する560番目のアミノ酸であるグリシン(Glycine)がバリンに置換;
c-kitタンパク質を構成する829番目のアミノ酸であるアラニン(Alanine)がプロリン(Proline)に置換;
c-kitタンパク質を構成する576番目のアミノ酸であるロイシン(Leucine)がプロリンに置換;
c-kitタンパク質を構成する559番目のアミノ酸であるバリンがアスパラギン酸に置換;
c-kitタンパク質を構成する670番目のアミノ酸であるスレオニン(Threonine)がイソロイシン(Isoleucine)に置換;および
c-kitタンパク質を構成する654番目のアミノ酸であるバリンがアラニンに置換;
からなる群より選択される1つ以上の置換によって発生するものである、請求項1に記載の肥満細胞症の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項5】
下記化学式1で表される化合物またはその許容可能な塩を含む肥満細胞症の予防または改善用食品組成物:
【化2】
。
【請求項6】
肥満細胞症を予防または治療するための薬学的組成物製造のための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の
使用:
【化3】
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,5-置換されたチオフェン化合物の肥満細胞症の予防、改善または治療用途に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満細胞症(Mastocytosis)は、肥満細胞が異常に皮膚、骨髄、肝、脾臓およびリンパ節のような内部臓器に蓄積される希少疾患である。英国のある研究において、全身性肥満細胞症の発生率は年間30万人に2人の頻度を示すことが報告された。
【0003】
肥満細胞は、アレルギーの主因になる免疫細胞である。肥満細胞の表面にはIgE形態の抗体が付くことのできる表面因子がある。基質に結合した後、比較的すぐに落ちる他の抗体とは異なり、IgEは肥満細胞に結合すればほとんど落ちない。この時、IgEに結合する物質(すなわち、アレルゲン)が人体内に入ってIgEと結合をすれば、そのIgEと結合している肥満細胞が活性化される。このように活性化された肥満細胞は、神経伝達物質であるヒスタミン(Histamine)を外部に分泌してアレルギー反応を誘発させる。肥満細胞症が成人期に始まる患者の場合、皮膚だけでなく、身体の内部臓器に影響を与えるのに対し、子供の頃に疾患が始まる場合、皮膚に目立った症状が現れるが、身体の臓器には極めて軽微な症状が現れたり、臓器に影響を与えないこともある。もし、この疾患の症状が骨髄または身体の内部臓器に現れると、この疾患を「全身性肥満細胞症(Systemic mastocytosis)」と呼ぶ。大部分の患者の場合、ゆっくり進行する傾向を示すが、ある患者は、肥満細胞症診断の際、骨髄異形成疾患(Myelodysplastic disorder)または骨髄増殖疾患(Myeloproliferative disorder)のような血液疾患が発見されたりもする。肥満細胞症の進行と予後は、このような血液系疾患に関連して決定される。より深刻な肥満細胞症と肥満細胞性白血病が極少数の患者から現れる。肥満細胞症は男性と女性において同じ比率で現れ、小児期-発病形態の肥満細胞症は、主に2歳の頃に始まる。
【0004】
成人期-発現の肥満細胞症の場合、遺伝的突然変異によって肥満細胞成長因子(c-kit)受容体の過度の活動で異常な肥満細胞が現れる。そして、このような突然変異は、特定の組織内で肥満細胞が蓄積されるようにする原因とされる。肥満細胞から出る媒介体であるヒスタミン、ヘパリン、プロスタグランジンD2のような物質によって症状が現れる。ヒスタミンは自然的な化学物質であり、正常なアレルギー反応時に放出される。これによって、かゆみ(itching)、ウィージング(wheezing)、血管拡張、そして胃酸が過度に分泌する。KIT遺伝子の突然変異が機能を得た時、全身性肥満細胞症が現れるという報告がある。KITは、造血、肥満細胞の発達と機能、配偶子形成(gametogenesis)およびメラニン形成(melanogenesis)の機能と関連性があるチロシンキナーゼ受容体である。KIT遺伝子は、4番染色体の長腕に位置(4q12)し、等級III受容体チロシンキナーゼ(class III receptor tyrosine kinase)、KITを暗号化する。KIT D816Vは、肥満細胞症において最も優勢なKIT突然変異であり、全身性肥満細胞症のための世界保健機関の診断基準に準ずるケースの90%以上で起こる。しかし、その正確な発病機序はまだ知られていない状況である。
【0005】
臨床血液内科で広く使用されるTK抑制剤であるイマチニブ(imatinib)(STI571)が野生型(wt)KITまたは稀に発生するF522C-突然変異されたKITの変異体を示す新生物性肥満細胞の増殖を妨げることが、最近明らかになった(Akin C,Brockow K,D’Ambrosio C,et al.Effects of tyrosine kinase inhibitor STI571 on human mast cells bearing wild-type or mutated forms of c-kit.Exp Hematol2003;31:686-692.;Ma Y,Zeng S,Metcalfe DD,et al.The c-KIT mutation causing human mastocytosis is resistant to STI571 and other KIT kinase inhibitors;kinases with enzymatic site mutations show different inhibitor sensitivity profiles than wild-type kinases and those with regulatory type mutations.Blood2002;99:1741-1744.;Frost MJ,Ferrao PT,Hughes TP,Ashman LK.Juxtamembrane mutant V560GKit is more sensitive to Imatinib(STI571)compared with wild-type c-kit whereas the kinase domain mutant D816VKit is resistant.MoI Cancer Ther.2002;1:1115-1124.;Akin C,Fumo G,Yavuz AS,Lipsky PE,Neckers L,Metcalfe DD.A novel form of mastocytosis associated with a transmembrane c-kit mutation and response to imatinib.Blood.2004;103:3222-3225.)。しかし、イマチニブは、c-KIT突然変異D816Vを有する新生物性肥満細胞の増殖を抑制するのに失敗し、このため、KIT D816Vを遮断して全身肥満細胞症における新生物性肥満細胞の増殖を遮断する新規TK抑制剤の開発が必要である。
【0006】
そこで、本発明者らは、肥満細胞症の治療に使用できる新規物質を開発するための研究を行って、本発明を完成した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一つの目的は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む肥満細胞症の予防または治療用薬学的組成物を提供することである:
【0008】
【0009】
本発明の他の目的は、下記化学式1で表される化合物またはその許容可能な塩を含む肥満細胞症の予防または改善用食品組成物を提供することである:
【0010】
【0011】
本発明の他の目的は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む組成物を肥満細胞症患者に投与するステップを含む肥満細胞症の治療方法を提供することである:
【0012】
【0013】
本発明の他の目的は、肥満細胞症を予防または治療するための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供することである:
【0014】
【0015】
本発明の他の目的は、肥満細胞症を予防または治療するための薬学的組成物製造のための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供することである:
【0016】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む肥満細胞症の予防または治療用薬学的組成物を提供することである:
【0018】
【0019】
本発明の他の態様は、下記化学式1で表される化合物またはその許容可能な塩を含む肥満細胞症の予防または改善用食品組成物を提供することである:
【0020】
【0021】
本発明の他の態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む組成物を肥満細胞症患者に投与するステップを含む肥満細胞症の治療方法を提供することである:
【0022】
【0023】
本発明の他の態様は、肥満細胞症を予防または治療するための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供することである:
【0024】
【0025】
本発明の他の態様は、肥満細胞症を予防または治療するための薬学的組成物製造のための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供することである:
【0026】
【発明の効果】
【0027】
本発明の一具体例による2,3,5-置換されたチオフェン化合物を含む組成物は、肥満細胞症の増殖抑制率および肥満細胞症によって発生する炎症反応の抑制活性に優れているので、肥満細胞症の予防、改善または治療に有用に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】c-kitタンパク質のアミノ酸配列のうち816番目のアミノ酸がアスパラギン酸(D)からバリン(V)に置換された突然変異を示す図である。
【
図2】(A)本発明の一具体例によるPHI-101、(B)スニチニブ(Sunitinib)、および(C)ダサチニブ(Dasatinib)の処理濃度によるc-kit D816V Ba/F3細胞株内のシグナル伝達阻害能を示す写真である。
【
図3】(A)陰性対照群であるDMSO(dimethyl sulfoxid)、(B)、(C)スニチニブ、および(D)(E)(F)本発明の一具体例によるPHI-101の処理濃度によるc-kit D816V Ba/F3細胞株のAnnexin V-PI FACS分析の結果を示すグラフである。
【
図4】(A)陰性対照群であるDMSO(dimethyl sulfoxid)、(B)スニチニブ、および(C)本発明の一具体例によるPHI-101の処理によるc-kit D816V Ba/F3細胞株のcell cycle FACS分析の結果を示すグラフである。
【
図5】(A)陰性対照群であるDMSO(dimethyl sulfoxid)、(B)スニチニブ、および(C)本発明の一具体例によるPHI-101の処理によるc-kit D816V Ba/F3細胞株の各細胞周期別populationを示すグラフである。
【
図6】本発明の一具体例によるPHI-101、イマチニブ(Imatinib)およびスニチニブの処理濃度によるHMC-1.2細胞株内のシグナル伝達阻害能を示す写真である。
【
図7】本発明の一具体例によるPHI-101およびイマチニブの処理濃度によるHMC-1.2細胞株の細胞死滅効果をAnnexin V-PI FACS分析方法で確認した結果を示すグラフである。
【
図8】本発明の一具体例によるPHI-101、イマチニブおよびスニチニブの処理濃度によるHMC-1.2細胞株の細胞死滅効果をウェスタンブロット分析方法で確認した結果を示す写真である。
【
図9】本発明の一具体例によるPHI-101、イマチニブおよびスニチニブの経口投与21日目に肥満細胞症マウスモデルの状態を比較した写真である。
【
図10】本発明の一具体例によるPHI-101、イマチニブおよびスニチニブの経口投与による肥満細胞症マウスモデルにおける腫瘍増殖抑制活性を比較したグラフである。
【
図11】本発明の一具体例によるPHI-101、イマチニブおよびスニチニブの経口投与(A)0日目および(B)21日目に肥満細胞症マウスモデルにおける腫瘍の体積を示すグラフである。
【
図12】本発明の一具体例によるPHI-101、イマチニブおよびスニチニブの経口投与21日目に肥満細胞症マウスモデルにおける(A)腫瘍の体積および(B)腫瘍の重量を対照群に対する比率で示すグラフである。
【
図13】本発明の一具体例によるPHI-101、イマチニブおよびスニチニブの経口投与21日目に肥満細胞症マウスモデルの脾臓(Spleen)を示す写真である。
【
図14】本発明の一具体例によるPHI-101、イマチニブおよびスニチニブの経口投与21日目に肥満細胞症マウスモデルの(A)脾臓/体重の比率および(B)脾臓/体重の比率を対照群と比較して示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む肥満細胞症の予防または治療用薬学的組成物を提供することである:
【0030】
【0031】
本発明の一具体例において、前記肥満細胞症は、肥満細胞性白血病、全身性肥満細胞症、および侵襲性全身性肥満細胞症からなる群より選択されるいずれか1つの疾病であってもよい。
【0032】
本発明の一具体例において、前記肥満細胞症は、c-kitタンパク質を構成する816番目のアミノ酸であるアスパラギン酸(Aspartic acid)がバリン(Valine)またはヒスチジン(Histidine)に置換されて発生するものであってもよい。
【0033】
本発明の一具体例において、前記肥満細胞症は、c-kitタンパク質を構成する560番目のアミノ酸であるグリシン(Glycine)がバリンに置換;c-kitタンパク質を構成する829番目のアミノ酸であるアラニン(Alanine)がプロリン(Proline)に置換;c-kitタンパク質を構成する576番目のアミノ酸であるロイシン(Leucine)がプロリンに置換;c-kitタンパク質を構成する559番目のアミノ酸であるバリンがアスパラギン酸に置換;c-kitタンパク質を構成する670番目のアミノ酸であるスレオニン(Threonine)がイソロイシン(Isoleucine)に置換;およびc-kitタンパク質を構成する654番目のアミノ酸であるバリンがアラニンに置換;からなる群より選択される1つ以上の置換によって発生するものであってもよい。
【0034】
本発明の他の態様は、下記化学式1で表される化合物またはその許容可能な塩を含む肥満細胞症の予防または改善用食品組成物を提供することである:
【0035】
【0036】
本発明の他の態様は、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む組成物を肥満細胞症患者に投与するステップを含む肥満細胞症の治療方法を提供することである:
【0037】
【0038】
本発明の他の態様は、肥満細胞症を予防または治療するための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供することである:
【0039】
【0040】
本発明の他の態様は、肥満細胞症を予防または治療するための薬学的組成物製造のための、下記化学式1で表される化合物またはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供することである:
【0041】
【実施例】
【0042】
以下、本発明を一つ以上の実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
実施例1.c-kit突然変異細胞株に対するPHI-101の抑制活性の確認
1-1.c-kit突然変異細胞株の成長阻害能の確認
化学式1で表される化合物(以下、「PHI-101」という)のc-kit突然変異細胞株に対する抑制活性を測定した。
【0044】
【0045】
具体的には、c-kit D816V突然変異(
図1)Ba/F3細胞株を10,000cells/100μlに合わせて、96ウェルプレートに100μlずつ入れた。4時間後、Ba/F3細胞株100μlに、10point、1/3ずつ連続希釈(serial dilution)した対照化合物およびPHI-101をそれぞれ0.5μlずつ処理して、最終濃度が最高50μMとなるように処理し、5%CO
2の37℃条件で72時間培養した。対照化合物としては、c-kit抑制剤であるイマチニブ(Imatinib)およびスニチニブ(Sunitinib)を使用した。培養後、Celltiter glo assayキット(Promega)を用いて細胞数を測定して、対照化合物およびPHI-101の50%成長抑制値(GI
50、μM)を測定した。
【0046】
その結果、PHI-101は、対照化合物に比べてc-kit D816V Ba/F3突然変異細胞株に対する高い阻害能を示すことが確認され、parental Ba/F3細胞株に比べてより高い選択性を示すことが確認された(表1)。
【0047】
【0048】
1-2.c-kitリン酸化および下位シグナル伝達阻害能の確認
c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株において、対照化合物およびPHI-101のc-kitリン酸化および下位シグナル伝達阻害能(p-STAT3、p-ERK1/2)を測定し、対照化合物としてはスニチニブおよびダサチニブを使用した。
【0049】
具体的には、c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株を1×106cells/mlの濃度で分注し、対照化合物およびPHI-101をそれぞれ0.1、1および10μMの濃度で処理し、2時間培養した。その後、溶解バッファー(50mM Tris-HCl pH7.5、1%NP40、1mM EDTA、150mM NaCl、5mM、Na3VO4および2.5mM NaF、およびプロテアーゼ阻害剤混合物(protease inhibitor cocktail))を用いて細胞溶解物を得た。同量の細胞溶解物を8%SDS-PAGE gelを用いて100Vで1時間30分間電気泳動し、分離されたタンパク質をニトロセルロースメンブレンに電気的に移動させた。メンブレンを5%脱脂乳で室温で30分間ブロッキングした後、一次抗体p-c-kit Tyrosine719(Y719)、p-STAT3 Tyrosine705(Y705)およびp-ERK1/2 Threonine202/Tyrosine204(T202/Y204)を1:5000で希釈して、メンブレンと4℃で16~20時間反応させた。発現の程度を比較するための対照群として、抗-βアクチン(actin)を1:10000の比率で希釈して一次抗体として使用した。以後、メンブレンをTBST(Tris-buffered saline、0.1%Tween20)で5分間3回ずつ洗浄した後、HRP-結合抗-rabbitを二次抗体として1:10000の比率で希釈して室温で1時間培養した後、TBSTで5分間3回ずつ洗浄し、化学発光基質試薬を処理し、暗室でフィルムで発光(luminescence)を検出してタンパク質の発現程度を確認した。
【0050】
その結果、PHI-101は、対照化合物に比べてp-c-kit(Y719)リン酸化に対する高い阻害能を示し、対照化合物と類似の下位シグナル伝達(p-STAT3、p-ERK1/2)阻害能を示すことが確認された(
図2)。
【0051】
1-3.細胞死滅効果の確認
c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株にPHI-101を処理した後、細胞死滅(apoptosis)効果を分析した。
【0052】
具体的には、c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株を1×106/mlの濃度で分け、PHI-101を0.1、1、10μMの濃度で、対照化合物としてはスニチニブを1、10μMの濃度で24時間処理した。その後、培地を除去し、1ml PBSで1回洗浄した。1000rpmで5分間遠心分離し、PBSを除去した。Ca2+、Mg2+を含んでいるPBS100μlで細胞を溶かし、5μl Annexin Vを入れて20分間反応させた。反応が終わると、400μlのCa2+、Mg2+を含んでいるPBSを追加し、5μl PI(Propodium iodide)を入れた後、フローサイトメーター(FACS-C6、BD)を用いてFACS(fluorescence activated cell sorter)分析法で細胞死(apoptotic cell death)の程度を調べた。
【0053】
その結果、PHI-101は、0.1μMの濃度でも細胞死滅を強く誘導し、濃度依存的に細胞死が増加することが確認された(
図3)。
【0054】
1-4.細胞周期進行抑制効果の確認
c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株にPHI-101 1μMを処理した後、cell cycle FACS分析によりSubG1/GO-1 populationを分析した。
【0055】
具体的には、c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株を1×106/mlの濃度で分け、PHI-101および対照化合物であるスニチニブを1μMの濃度で24時間処理した。その後、培地を除去し、c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株を70%エタノールに入れて、4℃で24時間固定した後、40μg/ml PI(propidium iodide)および100μg/mlのRNaseが混合されたPBS緩衝溶液で30分間反応させて、total DNAをすべて染色した。染色された細胞の細胞周期の分析はフローサイトメーター(FACS-C6、BD)を用いて行われた。G0/G1期、S期、およびG2/M期にある細胞の比率(proportion)を測定し、これに基づいて、SubG1/GO-1 populationを確認した。
【0056】
その結果、PHI-101の処理によってSubG1/GO-1 populationが増加して、c-kit D816V突然変異Ba/F3細胞株の細胞周期の進行がスニチニブに比べて抑制されることが確認された(
図4および
図5)。
【0057】
実施例2.肥満細胞症細胞株に対するPHI-101の抑制活性の確認
2-1.肥満細胞症細胞株の成長阻害能の測定
肥満細胞症(Mastocytosis)細胞株に対するPHI-101の抑制活性を測定した。
【0058】
具体的には、HMC-1.2細胞株(イマチニブ耐性細胞株、c-kit G560V/D816V突然変異保有)に対して、対照化合物およびPHI-101のGI50(μM)を実施例1-1の方法と同様の方法で測定し、対照化合物としては、イマチニブ、ダサチニブ(Dasatinib)、スニチニブおよびポナチニブ(Ponatinib)を使用した。
【0059】
その結果、PHI-101は、対照化合物に比べて著しいHMC-1.2細胞株阻害能を示すことで確認された(表2)。
【0060】
【0061】
2-2.c-kitリン酸化および下位シグナル伝達阻害能の確認
肥満細胞症細胞株において、対照化合物およびPHI-101のc-kitリン酸化および下位シグナル伝達阻害能(p-STAT5、p-AKT、p-ERK)を測定し、対照化合物としてはイマチニブおよびスニチニブを使用した。
【0062】
具体的には、HMC-1.2細胞株に0.1、1μMの濃度の対照化合物および0.01、0.1、1μMの濃度のPHI-101を処理し、一次抗体としてp-c-kit、p-STAT5、p-AKTおよびp-ERKを1:3000で希釈して使用したことを除けば、実施例1-2と同様の方法でc-kitリン酸化と下位シグナル伝達阻害能を確認した。
【0063】
その結果、PHI-101は、濃度依存的にc-kitおよび下位シグナルのリン酸化を減少させ、対照化合物に比べてはるかに高い下位シグナル阻害能を示し、0.1μMでも下位シグナルを強く阻害することが確認された(
図6)。
【0064】
2-3.Annexin V-PI FACS分析による細胞死滅効果の確認
肥満細胞株にPHI-101を処理して、細胞死滅マーカーであるcleaved PARPおよびcleaved caspase-3の水準を分析し、対照化合物としてはイマチニブを使用した。
【0065】
具体的には、HMC-1.2細胞株に1μMの濃度の対照化合物および0.1、1μMの濃度のPHI-101を処理したことを除けば、実施例1-3と同様の方法で分析して、HMC-1.2細胞株に対するPHI-101の細胞死滅効果を分析した。
【0066】
その結果、PHI-101は、1μMでも細胞死滅を強く誘導したことが確認されて、肥満細胞株に対するPHI-101の細胞死滅効果を確認した(
図7)。
【0067】
2-4.ウェスタンブロット分析による細胞死滅効果の確認
肥満細胞株にPHI-101を処理して、細胞死滅マーカーであるcleaved PARPおよびcleaved caspase-3の水準を分析し、対照化合物としてはイマチニブおよびスニチニブを使用した。
【0068】
具体的には、HMC-1.2細胞株に1μMの濃度の対照化合物および0.1、1μMの濃度のPHI-101を処理し、一次抗体としてcleaved PARPおよびcleaved caspase-3を1:5000で希釈して使用したことを除けば、実施例1-2と同様の方法で分析して、HMC-1.2細胞株に対するPHI-101の細胞死滅効果を分析した。
【0069】
その結果、HMC-1.2細胞株において対照化合物に比べて高いcleaved PARPおよびcleaved caspase-3の水準が確認されて、肥満細胞株に対するPHI-101の細胞死滅効果を確認した(
図8)。
【0070】
実施例3.マウスモデルにおけるPHI-101の肥満細胞症に対する抑制活性の確認
3-1.HMC-1.2細胞株を用いた肥満細胞症マウスモデルの確立
マウスは6~8週齢のNOD SCID雌マウス(18~22g)(GemPharmatech Co.,Ltd)で用意した。マウスを実験に用いる前の7日間順化させており、健康に異常のあるマウスは実験から除いた。40%~70%の相対湿度に維持される22±3℃の飼育場(300×180×150mm)で12時間の明暗周期でマウスを飼育した。プロトコルで明示された期間を除いた全体実験期間の間、滅菌された乾燥顆粒食品(Beijing Keaoxieli Feed Co.,Ltd.、Beijing、China)および水をマウスが自由に摂取できるようにした。
【0071】
75Tフラスコで浮遊形態で培養されたHMC-1.2細胞50mlを円錐管(cornical tube)に入れて1200rpmで2分間遠心分離し、DPBS(Dulbecco’s Phosphate-Buffered Saline、welgene)で1200rpmで2分間遠心分離して洗浄した後、抗生剤およびFBS(fetal bovine serum)のないRPMI1640(welgene)に懸濁させた。細胞をトリパンブルー(Tryphan blue)で染色し、血球計算板(hematocytometer)で細胞数を計測した後、0.1ml L-15およびMatrigel(BD、cat.No.356234)の混合物(1:1)中のHMC-1.2細胞(1×106)を、Avertin(250mg/kg)を腹腔投与して痲酔されたマウスの右脇腹に皮下注射して腫瘍を誘導した。
【0072】
その後、平均腫瘍サイズが150~200mm3に到達した時、各グループおよび処理時点で平均腫瘍の体積が同一となるように、マウスを各グループごとに4匹ずつ割り当て、3週間毎日イマチニブ90mg/kg、スニチニブ20、40mg/kg、PHI-101 7、20、40、80mg/kgの用量をそれぞれマウスに毎日1回経口投与した。経口投与時、各化合物は5%1-メチル-2-ピロリドンに溶かした後、15%Kolliphor、30%PEG E400 HS15および50%0.05Mクエン酸に完全に混合して使用した。
【0073】
3-2.肥満細胞症抑制活性の確認
HMC-1.2細胞株を用いた肥満細胞症マウスモデルにおいて、PHI-101の投与によって肥満細胞症が抑制されるかを確認した。
【0074】
具体的には、毎日、実施例3-1の肥満細胞症マウスモデルの皮膚状態、出血および便の状態などを確認して異常の有無をモニタリングしながら、薬物の経口投与開始後3日間隔でマウスの体重を測定して体重の変化の有無を確認した。また、キャリパー(Caliper)を用いて3日間隔で幅および長さを測定し、腫瘍の体積を次の式を用いて計算した。
【0075】
V=(W(2)×L)/2
(V:腫瘍の体積、W:腫瘍の幅、L:腫瘍の長さ)
【0076】
また、薬物の経口投与開始後3週間目にマウスを犠牲にし、腫瘍の重量(tumor weight)をデジタル秤を用いて測定し、各データについてはOne-way ANOVAを用いて各群の有意性テストを進行させた。
【0077】
その結果、PHI-101の投与によって濃度依存的に肥満細胞症細胞の増殖が抑制されることが確認され、対照化合物処理群に比べて40mg/kg以上の濃度でPHI-101を処理した群で肥満細胞症の増殖が著しく抑制されたことが確認された(
図9~
図12)。
【0078】
【0079】
一方、実験の間、肥満細胞症マウスモデルにおいて異常症状は発見されておらず、非特異的な体重減少(<10%)が現れる投与群はなく、PHI-101は、80mg/kgの高用量でも体重の減少がないことが確認された。
【0080】
3-3.肥満細胞症による炎症反応抑制活性の確認
HMC-1.2細胞株を用いた肥満細胞症マウスモデルにおいて、PHI-101の投与によって肥満細胞症による炎症反応が抑制されるかを確認した。
【0081】
具体的には、実施例3-1の肥満細胞症マウスモデルに薬物投与3週後、マウスを犠牲にし、体重(body weight)および脾臓の重量(spleen weight)をデジタル秤を用いて測定した後、脾臓/体重の比率を求めた。
【0082】
その結果、PHI-101の投与によって対照群に比べて濃度依存的に脾臓/体重の比率が減少したことが確認されて(
図13および
図14、表4)、PHI-101の投与によって肥満細胞症による炎症反応も効果的に抑制されたことが確認された。
【0083】
【0084】
実施例4.多様なc-kitタンパク質の突然変異におけるPHI-101のin vitro結合活性の確認
4-1.キナーゼ分析
キナーゼ-標識された(kinase-tagged)T7ファージ(phage)菌株は、BL21菌株に由来する大膓菌(E.coli)宿主として用意された。大膓菌を対数期(log-phase)に成長させ、T7ファージに感染させた後、溶解するまで32℃で振盪させながら培養した。溶解物を遠心分離および濾過して細胞残骸を除去した。その後、qPCR検出のためにHEK-293細胞で生成されたキナーゼをDNAで標識した。ストレプトアビジン-コーティングされた(streptavidin-coated)磁性ビーズをビオチニル化された(biotinylated)小分子リガンドで室温で30分間処理して、キナーゼ分析のための親和性樹脂を生成した。リガンドビーズを過剰のビオチンでブロッキングし、非結合リガンドの除去および非特異的結合を減少させるためにブロッキングバッファー(SeaBlock(Pierce)、1%BSA、0.05%Tween20、1mM DTT)で洗浄した。キナーゼ、リガンド親和性ビーズおよびPHI-101を1x結合バッファー(20%SeaBlock、0.17x PBS、0.05%Tween20、6mM DTT)と混合して結合反応を誘導した。PHI-101を100%DMSO中の111Xストックとして用意した。結合定数(binding constant、Kd)は、3個のDMSO control pointを有する11-point 3-fold化合物連続希釈法(compound dilution series)を用いて決定された。Kd測定のためのすべての化合物は100%DMSOでacoustic transfer(non-contact dispensing)によって分配された。その後、化合物をDMSOの最終濃度が0.9%となるように分析に直接希釈させた。すべての反応はそれぞれ0.02mlの最終体積でポリプロピレン384-ウェルプレートで行われた。分析プレートを1時間振盪させながら室温でインキュベーションし、親和性ビーズを洗浄バッファー(1x PBS、0.05%Tween20)で洗浄した。次に、ビーズを溶離バッファー(1x PBS、0.05%Tween20、0.5μM非-ビオチニル化親和性リガンド)に再懸濁させ、30分間振盪させながら室温でインキュベーションした。溶離液中のキナーゼの濃度はqPCRによって測定された。
【0085】
4-2.化合物処理
それぞれの試験化合物の11-point 3-fold連続希釈液を100x最終試験濃度で100%DMSOとして用意した後、分析において1xで希釈した(最終DMSO濃度=1%)。大部分のKdは化合物の最高濃度=30,000nMを用いて測定された。決定された初期Kdが<0.5nM(試験された最低濃度)の場合、より低い最高濃度から始めて連続希釈で測定を繰り返した。40,000nMで測定されたKd値はKdが>30,000nMであると表示した。
【0086】
4-3.結合定数の分析
c-kitタンパク質のKdはHill equationを用いて標準用量-反応曲線(standard dose-response curve、数式1)で計算した。
【0087】
【0088】
Hill Slopeは-1に設定された。Levenberg-Marquardtアルゴリズムおよび非線形最小二乗法(non-linear least square fit)を用いて曲線をフィッティングした。
【0089】
4-4.多様なc-kitタンパク質の突然変異に対するPHI-101の結合活性抑制効果の確認
実施例4-1~4-3の方法で多様なc-kitタンパク質の突然変異に対するPHI-101の結合活性抑制効果を分析した。
【0090】
その結果、PHI-101は、7個の突然変異c-kitタンパク質の結合活性を抑制することが確認された(表5)。
【0091】
【0092】
このような結果を通して、PHI-101は、c-kitタンパク質のうちA829P、D816H、D816V、L576PまたはV559D突然変異を有する肥満細胞症、c-kitタンパク質のうちV559DとT670I突然変異を同時に有する肥満細胞症、およびc-kitタンパク質のうちV559DとV654A突然変異を同時に有する肥満細胞症の治療に特に効果的に使用できることを確認した。
【0093】
これまで本発明についてその実施例を中心に説明した。本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明が本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で変形された形態で実現できることを理解するであろう。そのため、開示された実施例は、限定的な観点ではなく、説明的な観点で考慮されなければならない。本発明の範囲は、上述した説明ではなく、特許請求の範囲に示されており、それと同等の範囲内にあるすべての差異は本発明に含まれていると解釈されなければならない。