(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】道路トンネル温度監視システムおよび道路トンネル温度監視方法
(51)【国際特許分類】
G08B 17/06 20060101AFI20240701BHJP
E21F 11/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G08B17/06 A
E21F11/00
(21)【出願番号】P 2020038351
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501170080
【氏名又は名称】株式会社創発システム研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100134669
【氏名又は名称】永井 道彰
(72)【発明者】
【氏名】竹垣 盛一
(72)【発明者】
【氏名】福田 謙吾
(72)【発明者】
【氏名】山本 航平
【審査官】綿引 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-258187(JP,A)
【文献】特開平08-004499(JP,A)
【文献】特開平09-106489(JP,A)
【文献】特開平11-120457(JP,A)
【文献】登録実用新案第3091131(JP,U)
【文献】特開2017-211801(JP,A)
【文献】特開平08-040531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B17/00-31/00
E21F 1/00-17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路トンネル内の温度分布を監視する道路トンネル温度監視システムであって、
所定間隔ごとに温度検出センサが配置され、前記道路トンネルの長手方向に沿って敷設され、前記所定間隔ごとに温度の実測値を所定時間ごとに取得して前記道路トンネル内の温度分布実測データを得るトンネル温度分布実測部と、
前記道路トンネル内の温度分布に影響を与え得る温度影響データを計測する温度影響データ計測部と、
正常時に起こり得る前記道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した道路トンネル温度モデルを保持記憶するモデル保持部と、
前記トンネル温度分布実測部の直近の前記温度分布実測データと前記温度影響データ計測部により実測した前記温度影響データを入力とし、前記道路トンネル温度モデルを用いた正常時に起こり得る温度分布予測データを得るトンネル温度分布予測部と、
前記トンネル温度分布実測部の前記温度分布実測データと、前記トンネル温度分布予測部の前記温度分布予測データの両方を比較して検証して異常発生の可能性を出力する異常検証部を備えたことを特徴とする道路トンネル温度監視システム。
【請求項2】
前記トンネル温度分布予測部の出力段に出力フィルタを備え、
前記出力フィルタが、ゲイン調整パラメータおよび一時遅れ時定数パラメータを備えたものであることを特徴とする請求項1に記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項3】
前記トンネル温度分布予測部が、前記トンネル内を走行する車両の交通流予測手段と、前記トンネル内の風速予測手段と、前記トンネル内各所の温度分布予測手段を備えたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項4】
前記モデル保持部が保持する前記道路トンネル温度モデルが、前記道路トンネル内を流れる風速をモデル化した自然風モデルと、車両の交通風をモデル化した交通風モデルと、各々の車両が発する熱量による前記道路トンネル内各所の温度拡散をモデル化した温度分布モデルを含むものであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項5】
前記モデル保持部が保持する前記道路トンネル温度モデルが、さらに、ジェットファンの強制換気風をモデル化したジェットファン風モデルと、各々の車両が発する熱量による前記道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した車両熱温度モデルと、前記道路トンネル内各所の壁面からの放熱または吸熱される壁面輻射熱による前記道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した壁面輻射熱モデルを含むものであることを特徴とする請求項4に記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項6】
前記温度影響データ計測部が、ループコイル埋設型のトラフィックカウンタまたはレーザー照射検知型のトラフィックカウンタのいずれかまたは双方を備え、車両交通量データとして、前記道路トンネルに進入する車両の数およびそれらの走行速度、前記道路トンネルから退出する車両の数およびそれらの走行速度を計測することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項7】
前記温度影響データ計測部が赤外線カメラを備え、車両交通量データとして前記車両ごとの赤外線カメラの赤外線画像データを得ることができ、
前記トンネル温度分布予測部が前記赤外線画像データの赤外線パターンから当該車両が発する前記熱量の推定値を取得できるデータベースを保持し、前記車両ごとの前記熱量の推定値を取得することを特徴とする請求項4または5のいずれかに記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項8】
前記温度影響データ計測部が備える前記赤外線カメラが、前記車両が発する赤外線波長およびその強度を捉えることができるものであり、前記道路トンネルの入り口付近の所定箇所、前記道路トンネルの出口付近の所定箇所、または、前記道路トンネル内の緊急車両停止箇所のいずれかまたはそれらの組み合わせに配置されていることを特徴とする請求項7に記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項9】
前記異常検証部が、前記トンネル温度分布実測部の前記温度分布実測データと前記トンネル温度分布予測部の前記温度分布予測データとを基に、前記温度分布実測データにおいて、前記道路トンネル内の限られたエリアで温度上昇がみられ、前記温度分布予測データにおいて、当該限られたエリアで予測された温度上昇より所定値以上大きい場合、火災発生の可能性、渋滞の発生の可能性、長時間停留している車両の存在の可能性を発呼する異常検知プログラムを備えたものであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項10】
前記異常検証部が、前記トンネル温度分布実測部の前記温度分布実測データと前記トンネル温度分布予測部の前記温度分布予測データとを基に、両者の差分の時間変化により、火災発生の可能性、渋滞の発生の可能性、長時間停留している車両の存在の可能性を発呼する異常検知プログラムを備えたものであることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項11】
前記異常検証部における前記異常検知プログラムにおいて、各々の前記温度検出センサごとの第1の所定期間における時間積分値の大きさと、前記時間積分値の大きさから温度上昇が最も大きく火点センサと仮定された前記温度検出センサを含む周辺の所定数の前記温度検出センサ群からなる火点包含センサ群の空間積分値の大きさと、前記空間積分値に占める前記火点センサと仮定された前記温度検出センサの検出値の大きさから計算した集中割合の大きさの3つの計算結果から、前記限られたエリアでの火災発生の可能性を判断する火災検知プログラムを備えたことを特徴とする請求項
9に記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項12】
前記異常検証部における前記異常検知プログラムにおいて、各々の前記温度検出センサごとの第1の所定期間における時間積分値の大きさと、前記時間積分値の大きさから温度上昇が最も大きい渋滞エリアセンサと仮定された前記温度検出センサを含む周辺の所定数の前記温度検出センサ群からなる渋滞エリア包含センサ群の空間積分値の大きさと、前記空間積分値に占める前記渋滞エリアセンサと仮定された前記温度検出センサの検出値の大きさから計算した集中割合の大きさの3つの計算結果から、前記限られたエリアでの渋滞発生の可能性を判断する渋滞検知プログラムを備えたことを特徴とする請求項
9に記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項13】
前記異常検証部における前記異常検知プログラムにおいて、各々の前記温度検出センサごとの第1の所定期間における時間積分値の大きさと、前記時間積分値の大きさから温度上昇が最も大きい停留箇所センサと仮定された前記温度検出センサを含む周辺の所定数の前記温度検出センサ群からなる停留箇所包含センサ群の空間積分値の大きさと、前記空間積分値に占める前記停留箇所センサと仮定された前記温度検出センサの検出値の大きさから計算した集中割合の大きさの3つの計算結果から、前記限られたエリアでの停留車両の存在の可能性を判断する停留検知プログラムを備えたことを特徴とする請求項
9に記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項14】
前記道路トンネル内に、前記道路トンネル内をモニタする1または複数の撮影カメラを備え、前記異常検知プログラムによる前記発呼に伴い、前記撮影カメラによる前記道路トンネル内の前記温度上昇がみられた当該エリアの撮影画像を提示する請求項9、11、12または13のいずれかに記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項15】
前記異常検証部が、前記トンネル温度分布実測部の前記温度分布実測データと前記トンネル温度分布予測部の前記温度分布予測データを基に、前記温度分布実測データにおいて、
前記温度分布実測データにおいて、道路トンネル内の特定の前記温度検出センサのみ温度上昇がみられる一方、所定時間が経過しても隣接する前記温度検出センサの温度上昇がみられない、または、道路トンネル内のエリア全体で前記温度検出センサ群の温度上昇が所定時間以上連続して検出される一方、温度分布予測データにおいてそのような温度上昇が所定時間以上連続して予測されない場合、前記トンネル温度分布実測部の故障の可能性を発呼する故障検知プログラムを含むことを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項16】
前記温度影響データセンサ部から取得した前記温度影響データを入力とし、前記温度影響データによる、前記モデル保持部が保持する各々の前記モデルのパラメータの変化を推定してそれらモデルのパラメータを更新するモデルパラメータ更新部を備えたことを特徴とする請求項1から15のいずれかに記載の道路トンネル温度監視システム。
【請求項17】
道路トンネル内の温度分布を監視する道路トンネル温度監視方法であって、
所定間隔ごとに温度検出センサが配置され、前記道路トンネルの長手方向に沿って敷設され、前記所定間隔ごとに温度を検出し、その実測値を所定時間ごとに取得して前記道路トンネル内の温度分布実測データを得るトンネル温度分布実測処理と、
前記道路トンネル内の温度分布に影響を与え得る温度影響データを計測する温度影響データ計測処理と、
正常時に起こり得る前記道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した道路トンネル温度モデルを保持し、
前記トンネル温度分布実測部の直近の前記温度分布実測データと前記温度影響データ計測部により実測した前記温度影響データを入力とし、前記道路トンネル温度モデルを用いた正常時に起こり得る温度分布予測データを得るトンネル温度分布予測処理と、
前記トンネル温度分布実測処理の前記温度分布実測データと、前記トンネル温度分布予測処理の前記温度分布予測データの両方を比較して道路トンネル温度監視の結果を検証して異常発生の可能性を出力する検証処理を実行することを特徴とする道路トンネル温度監視方法。
【請求項18】
前記トンネル温度分布予測処理の出力段に出力フィルタを備え、
前記出力フィルタが、ゲイン調整パラメータおよび一時遅れ時定数パラメータを備えて前記トンネル温度分布予測処理の出力を調整することを特徴とする請求項17に記載の道路トンネル温度監視方法。
【請求項19】
前記トンネル温度分布予測処理が、前記トンネル内を走行する車両の交通流予測と、前記トンネル内の風速予測と、前記トンネル内の温度分布予測を統合したものであることを特徴とする請求項17または18に記載の道路トンネル温度監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路トンネル内の温度分布を監視して高い精度で検証することができる道路トンネル温度監視システムおよび道路トンネル温度監視方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路トンネルにおける車両走行環境を向上させるためトンネル内の様々なデータ取得され、様々な制御が行われている。
例えば、風向風速計(AV計)、汚染濃度計である煙霧透過率計(VI計)、一酸化炭素濃度計(CO計)、走行車両の数を計測するトラフィックカウンタ(TC)などが道路トンネル内に配置されてデータが取得されている。さらには監視カメラなども配置され始めており、画像による道路トンネル内の確認も行われている。
【0003】
これらAV計、VI計、CO計、TC、監視カメラなどで取得したデータは様々な目的に使用される。
例えば、道路トンネル内の汚染物質濃度の低減のための換気制御などがある。人体に対して有害な自動車のエンジンからの排出物質や塵埃などが浮遊しており、そのままでは道路トンネル内の汚染物質濃度が高まってゆく。そこで、道路トンネル内の良好な環境を確保するため道路トンネル内の汚染物質を排気するため、自然換気力や交通換気力による換気に加え、道路トンネル内に設置された換気機を用いた強制換気が行われている。
また、例えば、監視カメラで道路トンネル内の状態、車両走行の走行状態などがモニタされ、道路トンネル内での渋滞の有無、車両走行上のトラブル発生の有無などが監視されている。
【0004】
近年、道路トンネルが長距離化しつつあり、道路トンネル内の火災検知が重要な課題となってきた。
道路トンネルでひとたび火災が発生すると、通行車両は逃げ道が少なく、また、有毒ガスが道路トンネル内に充満するおそれがあるため火災を早期に鎮圧する必要がある。そこで、火災発生の早期検知が求められる。
その火災を早期に検知するために、道路トンネルの側壁面等に所定間隔ごとに、火災発生を検知する火災検知器などが配備されており、火災を検知した場合には自動車用道路トンネルを管理する管理センタ等に発報される。火災を検知した火災検知器の道路トンネル内での位置が既知であるため、道路トンネル内の火災箇所が概ね把握できる仕組みとなっている。
【0005】
火災検知器には様々なものがある。
例えば、赤外線カメラ式の火災検知器がある。火災の炎から放射される光を受光素子によって検出し、受光素子で基準値以上の光を検出した場合に火災と検知する。
また、例えば、監視カメラを利用した火災検知器もある(特許文献1参照)。自動車用道路トンネルに配備されている監視カメラを利用して道路トンネル内の画像を撮像し、その画像データに基づいて火災を検出する。
我が国の道路トンネルでは火災から放射される赤外線を検知する火災検知システムが既に広く採用されており、その火災検知時間は30秒とされている。
しかし、赤外線カメラによる検知システム構築には大きなコストがかかることが問題である。道路トンネルは数百mから数キロにおよぶことがあり、相当多数の赤外線カメラを設置しなければ確実な火災検知はできない。
【0006】
また、赤外線カメラや監視カメラを利用した火災検知器の場合、火災の早期検知が難しい場合もある。火災の中には、初期段階では炎を発しない煙火災となる場合もある。従来の赤外線カメラや監視カメラを利用した火災検知器の場合、火災による放射光を検出するため、煙火災を検知することができない。さらに、道路トンネル内への黒煙の充満等によって道路トンネル内が視界不良となった場合には炎を発していてもその火災を検知することができない。
【0007】
そこで、比較的コストが安く、初期段階では炎が小さい煙火災に対しても有効な火災検知器として、温度検知センサを利用した火災検知が期待されている。
温度検知センサを利用した火災検知器は、温度センサによって設置個所の温度上昇を検出し、その検出した温度が基準値以上の場合に火災と検知するものである。
代表的な温度検知センサとしては、ヨーロッパで広く採用されている温度センサケーブルを利用したものがある。既にヨーロッパでは温度ケーブルセンサが広く採用されており使用実績がある。温度センサケーブルは、ケーブル内部に一定間隔(標準5mまたは8m)で組み込まれた半導体温度センサの測定データから火点の位置を特定することができるものである。従来の火災報知器が50m間隔で設置されていたが、温度センサケーブルは5mきざみであるので、より精密な火災制御ができる。
【0008】
図15は、温度検出センサケーブル10の構成例を示す図である。
図15は温度センサが組み込まれている部分を拡大して示している。
図15に示した構成例では、温度検出センサケーブル10は、ケーブルジャケット11、アルミニウムシールド12、充填材13、温度センサ14、フレキシブルフラットケーブル15、充填材16を備えた例となっている。実際の温度検出センサケーブル10は、例えば、数百mや数キロの長さのケーブルであり、5mきざみに
図15に示した温度センサ14が組み込まれている。
【0009】
それぞれの温度センサ13は、設置個所の温度を計測し、その情報が制御装置へと送信される。ここで注目すべき情報は計測温度の過去のある時点からの変化であり、この変化量をもって設置個所に熱源が存在するか否かの推定に用いられる。道路トンネルで火災が発生すると、複数の温度センサ14がロバスト性を持って温度変化を検知するので一定の精度をもって火災検知を行うことができる。さらに、この火災検知システムによれば火災の大きさが大きくなってゆく様も捉えることができる。
このように、従来の温度ケーブルセンサを用いた火災検知にはアルゴリズムも提供されており、欧州で普及しているシステムによれば火災発生から1分以内に高い精度で検知することができるものとなっている。
【0010】
上記の他に、従来技術において温度センサケーブルを用いた例としては、特開2004-152134号公報(特許文献1)が知られている。
図16は特開2004-152134号公報に開示された火災検知システムを示す図である。
図16に示すように、特開2004-152134号公報に記載された火災検知システムでは、ケーブルは光ファイバーケーブルとなっている。光ファイバー上に温度センサが所定間隔毎に設けられ、さらに、道路トンネル内を撮像する撮像手段が設けられている。このように、特開2004-152134号公報に記載された火災検知装置では、温度センサによる温度データのみならず、画像データの2種類の検出データを利用して火災発生時の現象である熱、炎、煙の3つの観点から火災の状況を把握し、火災検知を行うものとされている。
【0011】
しかし、特開2004-152134号公報(特許文献1)では火災検知時間が長くかかる問題点がある。
そこで、上記従来の技術に対して、従来技術において温度センサケーブルを用いつつ火災検知時間を短縮する技術としては、特開2018-180676号公報(特許文献2)がある。これは本出願人が直近で出願した特許であり、温度センサケーブルを用いつつ火災検知時間を30秒以内おさめた優れた技術であると評価され、今後の普及が期待されるものである。
図17は特開2018-180676号公報に開示された火災検知システムを示す図である。特開2018-180676号公報に開示された早期火災検知システム10の制御部13は、以下の3つの値を計算する。第1は、各々の温度検出センサ11毎の第1の所定期間における時間積分値の大きさである。第2は、その時間積分値の大きさから火点に最も近い火点センサと仮定された温度検出センサを含む周辺の所定数の温度検出センサ群からなる火点包含センサ群の空間積分値の大きさである。第3は、その空間積分値に占める火点センサと仮定された温度検出センサの検出値の大きさから計算した集中割合の大きさである。制御部113は、これら3つの計算結果から火災の発生を推定するものであり、単純に温度が高温となるエリアを漫然と検出することに比べて時間積分値の大きさとその集中度合いをもって判断するため、早期な火災検知を実現している。
【0012】
【文献】特開2004-152134号公報
【文献】特開2018-180676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記したように、我が国においても温度ケーブルセンサを用いた火災検知システムの導入が期待されているが、我が国の道路トンネルでは火災検知時間が30秒以内であることが求められている。そのため、温度ケーブルセンサを用いてコスト低減を図りつつも火災検知速度の高速化が求められている。
上記したヨーロッパなどで普及している温度ケーブルセンサを用いた従来の火災検知システムでは火災発生から1分程度で火災検知が可能なものとされている。温度センサがケーブルに内蔵されているため時定数が大きく、単独の温度センサごとの温度上昇の検出のみでは小規模な火災の30秒以内という早期検出は難しいと考えられている。
【0014】
特許文献1に示した従来の特開2004-152134号公報に記載された火災検知システムでは、温度センサによる温度上昇の検出のみならず、撮像装置により得た画像を用いた画像解析の結果を組み合わせるものであるが、これでは、結局、コストが掛かる撮像装置を道路トンネル内に相当数配置せざるを得ず、コストは低減されず却ってコスト増大となってしまうため問題が多い。
【0015】
特許文献2に示した特開2018-180676号公報に記載された火災検知システムは優れたものであり、比較的小規模な火災の30秒以内という早期検出が可能であると期待されている。しかし、その一方、トンネルなどの諸条件により、空間積分値に占める火点と仮定する温度検出センサの検出値の大きさのしきい値の設定が微妙で難しい場合もあり、しきい値を低くし過ぎると火災でない場合にも火災発生の可能性ありと発報してしまうことがあり得る。逆に、しきい値の設定を高くしすぎると火災発生の場合の発報にその分時間がかかってしまうことがあり得る。
【0016】
本発明は、上記問題に鑑み、温度ケーブルセンサを用いつつ、早期に火災検知を推定することができる道路トンネル温度監視システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明の道路トンネル温度監視システムは、道路トンネル内の温度分布を監視する道路トンネル温度監視システムであって、所定間隔ごとに温度検出センサが配置され、前記道路トンネルの長手方向に沿って敷設され、前記所定間隔ごとに温度を検出し、その実測値を所定時間ごとに取得して前記道路トンネル内の温度分布実測データを得るトンネル温度分布実測部と、前記道路トンネル内の温度分布に影響を与え得る温度影響データを計測する温度影響データ計測部と、正常時に起こり得る前記道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した道路トンネル温度モデルを保持記憶するモデル保持部と、前記トンネル温度分布実測部の直近の前記温度分布実測データと前記温度影響データ計測部により実測した前記温度影響データを入力とし、前記道路トンネル温度モデルを用いた温度分布予測データを得るトンネル温度分布予測部と、前記トンネル温度分布実測部の前記温度分布実測データと、前記トンネル温度分布予測部の前記温度分布予測データの両方を比較して検証する異常検証部を備えたことを特徴とする道路トンネル温度監視システムである。
ここで、モデル保持部が保持する道路トンネル温度モデルとしては、道路トンネル内を流れる風速をモデル化した自然風モデルと、車両の交通風をモデル化した交通風モデルと、各々の車両が発する熱量による道路トンネル内各所の温度拡散をモデル化した温度分布モデルなどがあり得る。
さらに、ジェットファンの強制換気風をモデル化したジェットファン風モデルと、各々の車両が発する熱量による道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した車両熱温度モデルと、道路トンネル内各所の壁面からの放熱または吸熱される壁面輻射熱による道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した壁面輻射熱モデルを含むことも可能である。
【0018】
上記構成により、トンネル温度分布実測部(温度検出センサケーブル)を用いて得た温度分布実測値に加えて、トンネル温度分布予測部による自然風モデルと交通風モデルと車両熱温度モデルとトンネル壁面の輻射熱モデルを用いた温度分布予測データを付き合わせて火災検知を判断することができ、温度分布実測値のみに頼った火災検知よりも、温度分布予測データを加味した温度分布実測値に基づく判断ができ、より精度の高い火災検知を行うことができる。特に、火災検知の誤報を招きやすいトンネル内の熱源である車両が発する熱量を加味した予測、特に、各々の車両から発熱された熱、オーバーヒート気味の通行車両の存在や、停車車両による特定箇所での発熱の蓄積の有無などを考慮した、車両熱温度モデルを用いた道路トンネル内各所の温度変化をとらえた温度分布予測データ、道路トンネル各所の壁面の輻射熱を加味した温度分布予測データを得ることができ、温度分布実測値のみに頼った火災検知よりもより精度の高い火災検知を行うことができる。
なお、トンネル壁面の輻射熱はトンネル壁面の温度により定まるが、本発明ではトンネル内に所定間隔で敷設された温度検出センサを利用できるため、それら壁面温度とトンネル壁面輻射熱モデルを用いれば、精度よく予測できる。
【0019】
なお、トンネル温度分布予測部が装備する予測手段として、道路トンネル内を走行する車両の交通流予測手段と、道路トンネル内の風速予測手段と、道路トンネル内の各所の温度分布予測手段を備えたものとすることが好ましい。
トンネル温度分布予測には、これら交通流予測手段、トンネル内の風速予測手段、トンネル内の各所の温度分布予測手段を統合的に予測した方が精度が向上する。
【0020】
次に、実際のトンネル温度分布実測部の実測値の計測には、採用するセンサ類の特性としてゲインずれや一時遅れ時定数が存在することに鑑みて、本発明では、トンネル温度分布予測部の出力段に出力フィルタを備えた構成とし、この出力フィルタにおいてゲイン調整パラメータおよび一時遅れ時定数パラメータを備えた構成とすることが好ましい。
このように、ゲイン調整パラメータおよび一時遅れ時定数パラメータを備えた出力フィルタを用いることにより、トンネル温度分布予測部により計算された予測値の変化分と、実際のトンネル温度分布実測部の実測値の変化分がより正確にマッチングすることとなり、予測を織り込んだ道路トンネル温度監視の精度が向上する。
【0021】
なお、温度影響データ計測部が備える車両検出手段としては、ループコイル埋設型のトラフィックカウンタまたはレーザー照射検知型のトラフィックカウンタのいずれかまたは双方を備えた構成がある。これらを用いれば、車両交通量データとして、道路トンネルに進入する車両の数およびそれらの走行速度、道路トンネルから退出する車両の数およびそれらの走行速度を正確に計測することができる。
【0022】
また、温度影響データ計測部が赤外線カメラを備えた構成も好ましい。赤外線カメラが装備されておれば、車両交通量データとして車両ごとの赤外線カメラの赤外線画像データを得ることができる。また、トンネル温度分布予測部が赤外線画像データの赤外線パターンから当該車両が発する熱量の推定値を取得できるデータベースを保持しておれば、車両ごとの前記熱量の推定値を取得することができる。これらの熱量の推定値を入力として車両熱温度モデルを用いれば道路トンネル内各所の温度変化を加味した予測を行うことが可能となる。
なお、温度影響データ計測部が備える赤外線カメラとしては、車両が発する赤外線波長およびその強度を捉えることができるものが好ましい。赤外線波長のパターンが分かれば、比較的精度良く車両が発する熱量が推定できる。
また、赤外線カメラはトンネル内に多数個設ける必要なく、設置個所としては、道路トンネルの入り口付近の所定箇所、道路トンネルの出口付近の所定箇所、道路トンネル内の緊急車両停止箇所などであれば走行車両に関する発熱による影響を精度よく組み入れることができる。
【0023】
次に異常検証部であるが、トンネル温度分布実測部の温度分布実測データと、トンネル温度分布予測部の温度分布予測データとを基に検証する検証プログラムにおいて、道路トンネル内の限られたエリアで温度上昇がみられ、温度分布予測データにおいて、当該限られたエリアで予測された温度上昇より所定値以上大きい場合、火災発生の可能性、渋滞の発生の可能性、長時間停留している車両の存在の可能性を発呼する異常検知プログラムを備えることができる。
温度分布実測データにおける温度上昇のみで判断するよりも、異常発生の要因で予想できる当該エリアでの温度上昇分については予測した結果と突き合わせることにより火災発生と誤報する可能性が低くなる。
また、異常検証部の処理として、トンネル温度分布実測部の温度分布実測データとトンネル温度分布予測部の温度分布予測データの両者の差分の時間変化により、火災発生の可能性、渋滞の発生の可能性、長時間停留している車両の存在の可能性を発呼する異常検知プログラムを採用することも可能である。
両者の差分に注目した処理の場合であれば、予測される結果を超えて実測値が変化している場合などは異常が発生したと判断することも可能となる。
【0024】
なお、温度分布実測データにおける温度上昇で火災発生か否かを判断するプログラムとしては、やはり時間積分値を用いる方法が優れているため、本発明においても採用することができる。つまり、異常検知プログラムにおいて、各々の温度検出センサごとの第1の所定期間における時間積分値の大きさと、時間積分値の大きさから火点に最も近い火点センサと仮定された温度検出センサを含む周辺の所定数の温度検出センサ群からなる火点包含センサ群の空間積分値の大きさと、空間積分値に占める火点センサと仮定された温度検出センサの検出値の大きさから計算した集中割合の大きさの3つの計算結果から、限られたエリアでの温度上昇を判断する火災検知プログラムを備える構成が好ましい。
【0025】
つまり、温度検出センサケーブルを用いた火災検知にあたり、温度検出センサごとの第1の所定期間における時間積分値の大きさのみで判断しようとすると、第1の所定期間として十分な長さの時間積分が必要となるが、本発明の道路トンネル温度監視システムでは、早期火災検知のため、第1の所定期間を短く収める代わりに、火点に最も近い火点センサと仮定された温度検出センサを含む前後にわたる所定数の温度検出センサ群からなる火点包含センサ群の「空間積分値」の大きさと、空間積分値に占める火点センサと仮定された温度検出センサの検出値の大きさから計算した「集中割合」の観点からふるいに掛けることにより、第1の所定期間を短く収めつつ、その火災検知精度を担保するものである。
例えば、異常検証部による各々の計算処理としては、時間積分値の大きさに基づく計算処理ステップが、各々の温度検出センサのうち時間積分値が第1のしきい値を超えているものを火点センサと仮定する時間積分検知処理ステップであり、空間積分値の大きさに基づく計算処理ステップが火点包含センサ群の第1の所定時間の温度変化の総和である空間積分値が第2のしきい値を超えている場合に時間積分検知処理ステップに基づく火点センサの仮定が正しいと判定する空間積分判定処理ステップであり、中央集中割合の大きさに基づく計算処理ステップとして中央集中割合が第3のしきい値を超えている場合に時間積分検知処理ステップに基づく火点センサの仮定を正しいと検証する検証処理ステップである。
火災発生パターンは、初期のころは温度上昇エリアが比較的狭小のエリアにとどまり、温度上昇も比較的小幅であるが、時間経過とともに、温度上昇エリアは比較的狭小のエリアにとどまっているが温度上昇が比較的高くなってゆく傾向にあるパターンが多いと想定される。なお、火災発生パターンとして人工知能より学習することもできる。
【0026】
次に、異常検証部における異常検知プログラムにおいて、各々の温度検出センサごとの第1の所定期間における時間積分値の大きさと、時間積分値の大きさから温度上昇が最も大きい渋滞エリアセンサと仮定された温度検出センサを含む周辺の所定数の温度検出センサ群からなる渋滞エリア包含センサ群の空間積分値の大きさと、空間積分値に占める渋滞エリアセンサと仮定された温度検出センサの検出値の大きさから計算した集中割合の大きさの3つの計算結果から、限られたエリアでの渋滞発生の可能性を判断する渋滞検知プログラムを備えることもできる。
温度上昇は火災発生の場合だけでなく、渋滞の発生で各車両がアイドリングで発生する車両熱が特定エリアに集中して発生するため、当該エリアでは温度上昇がみられる。このパターンは火災発生パターンとは異なるパターンとなり、緩やかに比較的広い範囲にわたって温度上昇が小幅なパターンが多いと想定される。
【0027】
次に、異常検証部における異常検知プログラムにおいて、各々の温度検出センサごとの第1の所定期間における時間積分値の大きさと、時間積分値の大きさから温度上昇が最も大きい停留箇所センサと仮定された温度検出センサを含む周辺の所定数の温度検出センサ群からなる停留箇所包含センサ群の空間積分値の大きさと、空間積分値に占める停留箇所センサと仮定された温度検出センサの検出値の大きさから計算した集中割合の大きさの3つの計算結果から、限られたエリアでの停留車両の存在の可能性を判断する停留検知プログラムを備えることもできる。
温度上昇は火災発生や渋滞発生の場合だけでなく、長時間停留している車両があると、アイドリングで発生する車両熱がごく狭い特定エリアに集中して発生するため、温度上昇エリアが比較的狭小のエリアにとどまり温度上昇も比較的小幅であり、時間経過しても温度上昇エリアが比較的狭小のエリアにとどまり温度上昇も比較的小幅のままであるパターンが多いと想定される。特に、緊急車両停車箇所付近の温度検出センサの温度上昇が最も大きいセンサである場合、停留車両が存在しているパターンが多いと想定される。しかし、エンジントラブルなどの要因でトンネル内の任意の箇所で停留してしまう車両もあり得るため、緊急車両停車箇所にのみ限定した判断はできない。
【0028】
次に、撮像カメラが利用できる場合は、監視員や保安員の遠隔目視には有効であるので、撮影カメラの撮影画像を併用することが好ましい。つまり、道路トンネル内をモニタする1または複数の撮影カメラを備えた構成であれば、異常検知プログラムによる異常発生の可能性の発呼に伴い、撮像カメラによる道路トンネル内の温度上昇がみられた当該エリアの撮影画像をセンターなどに送信して監視員や保安員の遠隔目視に利用すれば良い。
【0029】
次に、本発明では、火災検知のみならず、トンネル温度分布実測部の故障に基づく誤報を防ぐことも考慮する。つまり、異常検証部における検証プログラムとして、トンネル温度分布実測部の前記温度分布実測データと、前記トンネル温度分布予測部の前記温度分布予測データとを基にした検証処理において、温度分布実測データにおいて道路トンネル内の特定の温度検出センサのみ温度上昇がみられる一方、所定時間が経過しても隣接する温度検出センサの温度上昇がみられない、または、道路トンネル内のエリア全体で温度検出センサ群の温度上昇が所定時間以上連続して検出される一方、温度分布予測データにおいてそのような温度上昇が所定時間以上連続して予測されない場合、トンネル温度分布実測部の故障の可能性を発呼する故障検知プログラムを含むことが好ましい。
【0030】
次に、トンネル温度分布予測部による予測精度を維持するため、温度影響データセンサ部から取得した温度影響データを入力とし、モデル保持部が保持する自然風モデルと交通風モデルと車両発熱モデルのパラメータの温度影響データの変化によるそれらモデルのパラメータを更新するモデルパラメータ更新部を備えた構成も好ましい。
それらモデルのパラメータをチューニングすることで、トンネル温度分布予測部による予測精度を維持することができる。
【0031】
本発明における道路トンネル内の温度分布を監視する道路トンネル温度監視方法は、所定間隔ごとに温度検出センサが配置され、前記道路トンネルの長手方向に沿って敷設され、前記所定間隔ごとに温度を検出し、その実測値を所定時間ごとに取得して前記道路トンネル内の温度分布実測データを得るトンネル温度分布実測処理と、少なくとも前記道路トンネル内の風速データと車両交通データを含む道路トンネル内の温度分布に影響を与え得る温度影響データを計測する温度影響データ計測処理と、正常時に起こり得る前記道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した道路トンネル温度モデルを保持し、前記トンネル温度分布実測処理の直近の前記温度分布実測データと前記温度影響データ計測処理により得た前記温度影響データを入力とし、前記道路トンネル温度モデルを用いた正常時に起こり得る温度分布予測データを得るトンネル温度分布予測処理と、前記トンネル温度分布実測処理の前記温度分布実測データと、前記トンネル温度分布予測処理の前記温度分布予測データの両方を比較して道路トンネル温度監視の結果を検証する検証処理を実行する方法である。
ここで、道路トンネル温度モデルとしては、道路トンネル内を流れる風による道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した自然風モデルと、車両交通の交通風による道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した交通風モデルと、各々の車両が発する熱量による道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した車両熱温度モデルと、道路トンネル内各所の壁面からの放熱または吸熱される壁面輻射熱による道路トンネル各所の温度変化をモデル化した壁面輻射熱モデルを含むものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明の道路トンネル温度監視システムは、トンネル温度分布実測部によるトンネル温度分布実測部(温度センサケーブル)を用いて得た温度分布実測値に加えて、トンネル温度分布予測部による自然風モデルと交通風モデルと車両熱温度モデルを用いた温度分布予測データを付き合わせて火災検知を判断することができ、温度分布実測値のみに頼った火災検知よりも、温度分布予測データを加味した温度分布実測値に基づく判断ができ、より精度の高い火災検知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の道路トンネル温度監視システム100の構成例を示す図である
【
図2】トンネル温度分布実測検知系の構成を取り出して簡単に示した図である。
【
図3】トンネル温度分布予測系の構成を簡単に示した図である。
【
図4】火点付近の火点包含センサ群の温度センサケーブル出力の時間・空間の温度変化を示す図である。
【
図5】疑似火災の温度上昇のパターンと、火災ではない別の要因にて30秒の間の積分値が0.4℃に達してしまったパターンにおける積分値を並べた図である。
【
図6】火点センサの30秒間の積分値とその両側のセンサの30秒間の積分値を示す図である。
【
図7】火点センサの仮定によって決まる火点包含センサ群の設定と火点隣接センサ群の設定を示す図である。
【
図8】火点センサの仮定によって決まる火点包含センサ群の設定と火点隣接センサ群の設定を示す図である。
【
図9】火点センサの時間積分値と火点包含センサ群の空間積分値の比率と、火点隣接センサ群と火点包含センサ群の空間積分値の比率を示す図である。
【
図10】渋滞発生時の道路トンネル内温度分布の概略を示す図である。
【
図11】監視センターにおけるモニタでの表示例を示す図である。
【
図12】火災発生直後の監視センターにおけるモニタでの表示例を示す図である。
【
図13】火災発生が一定時間継続した場合の監視センターにおけるモニタでの表示例を示す図である。
【
図14】実施例2にかかる道路トンネル温度監視システム100aの構成例を示す図である。
【
図15】従来技術の温度検出センサケーブル10の構成例を示す図である。
【
図16】従来技術である特開2004-152134号公報に記載された火災検知システムを示す図である。
【
図17】従来技術である特開2018-180676号公報に開示された火災検知システムを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を参照しつつ、本発明の道路トンネル温度監視システムの実施例を説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施例に示した具体的な用途、形状、個数などには限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0035】
以下、本発明の道路トンネル温度監視システム100の構成例を説明する。
図1は、本発明の道路トンネル温度監視システム100の構成例を示す図である。
図1に示すように、道路トンネル温度監視システム100は、トンネル温度分布実測部110、温度影響データ計測部120、トンネル温度分布予測部130、モデル保持部131、出力フィルタ140、修正パラメータ保持部141、異常検証部160を備えた構成となっている。
図1に示す構成例では、本発明の道路トンネル温度監視システム100は、トンネル温度分布実測検知系として、トンネル温度分布実測部110を備えた構成例となっており、トンネル温度分布予測系として、温度影響データ計測部120、トンネル温度分布予測部130、モデル保持部131、出力フィルタ140、修正パラメータ保持部141を備えた構成例となっている。
【0036】
まず、トンネル温度分布実測検知系の構成を説明する。
図2は、トンネル温度分布実測検知系の構成を取り出して簡単に示した図である。
この例では、トンネル温度分布実測検知系とは、トンネル温度分布実測を行うトンネル温度分布実測部110と、その温度分布の実測値から火災検知を行う異常検証部160の構成として描かれている。
【0037】
トンネル温度分布実測部110は、温度検出センサ111、温度検出センサケーブル112を備えた構成となっている。
トンネル温度分布実測部110は、各々の温度検出センサ111ごとの実測値を所定時間ごとに取得して道路トンネル内の温度分布実測データを得るものである。
温度検出センサ111の数や配設間隔などは限定されない。
温度検出センサ111は、温度を検知できるセンサである。例えば、半導体温度センサである。温度検出センサケーブル112に所定間隔で設けられている。
【0038】
温度検出センサケーブル112は、道路トンネル内に道路トンネルの長さ方向に沿って敷設されており、ケーブル内部には温度検出センサ111が一定間隔(標準5mまたは8m)で組み込まれ、道路トンネル内の長さ方向の空間的拡がりをもって温度検出センサ111から測定データを収集できるものである。従来の火災報知器が50m間隔で設置されていたが、温度センサケーブルは5mきざみであるので、より精密な火災制御ができる。
図2(b)は、温度検出センサケーブル112の構成例を示す図である。
図2(b)は温度センサが組み込まれている部分を拡大して示している。
図2(b)に示した構成例では、温度ケーブルセンサ112は、ケーブルジャケット1121、アルミニウムシールド1122、充填材1123、温度検出センサ111、フレキシブルフラットケーブル1125、充填材1126を備えた例となっている。実際の温度ケーブルセンサ112は、例えば、数百mや数キロの長さのケーブルであり、5mきざみに
図2に示した温度検出センサ111が組み込まれている。
それぞれの温度検出センサ111は設置個所における温度を計測し、それら温度計測データが設置個所の温度データ、つまり、空間的な拡がりと紐付けられ、トンネル温度分布実測部で収集される。
【0039】
トンネル温度分布実測部110は、温度検出センサケーブル112の各々の温度検出センサ111から収集した温度計測データから道路トンネル内の温度分布データを取得する。
また、この例では、異常検証部160における温度データの処理は、各々の温度検出センサ111から得られる温度データをトンネル内の空間的な拡がりを考慮したトンネル内の温度分布データとして収集・組立を行うものとして説明する。
以上がトンネル温度分布実測系の構成要素である。
【0040】
次に、トンネル温度分布予測系の構成を説明する。
図3は、トンネル温度分布予測系の構成を簡単に示した図である。
この例では、トンネル温度分布予測系の構成として、トンネル内の温度分布を決める要因である諸データを計測する温度影響データ計測部120、それら計測された諸データからトンネル内温度を算出する各種モデルを保持したモデル保持部131、計測された諸データとモデル保持部131が保持する各種モデルからトンネル温度分布を予測するトンネル温度分布予測部130を備えた構成例となっている。
【0041】
温度影響データ計測部120は、道路トンネル内の温度分布に影響を与え得る温度影響データを計測するものである。
この例では、少なくとも道路トンネル内の風速データ、車両交通データを取得する各種センサや装置類を含むものとする。
図3に示した例では、温度影響データ計測部120が備える各種センサや装置類としてトラフィックカウンタ(TC)121、風向風速計(AV計)122、赤外線カメラ123などが道路トンネル内に配置された構成例となっている。さらにはその他のセンサ類として汚染濃度計である煙霧透過率計(VI計)、一酸化炭素濃度計(CO計)などが道路トンネル内に配置された例となっている。
また、監視カメラもトンネル内に適宜配置され、画像による道路トンネル内の確認も行われているものとする。
【0042】
トラフィックカウンタ121は、トンネルを通過する車両の台数や速度を計測するセンサである。設置する箇所は限定されないが、トンネル1の入口近くや出口近くに設置されることが多い。トラフィックカウンタ111としては、ループコイル埋設型のトラフィックカウンタ、またはレーザー照射検知型のトラフィックカウンタなどがあり得る。いずれか一方でも良いし、双方を備えた構成でも良い。
トラフィックカウンタ121により取得される車両交通量データとして、道路トンネルに進入する車両の数、それらの走行速度、道路トンネルから退出する車両の数、それらの走行速度を計測することができる。さらに、各々の車両の車長、車種(10tトラック、2tトラック、大型乗用車、中型乗用車、軽自動車の種類など)も検出または推定できることが好ましい。
走行車両の数や種類を把握することは、トンネル内の温度分布の変化を推定する上では必要である。通行車両が持つ抵抗により生じる交通風による温度変化が想定される。さらに走行車両は熱源の1つとなり得るため、走行車両から発せられる車両熱もトンネル内の温度分布の変化を推定する上では必要となってくる。
【0043】
風向風速計(AV計)122は、トンネル内の風向や風速を計測する装置であり、その実測に適した位置であれば良く、例えば、トンネル1の中央部近くと出口近くに設置することでも良い。
なお、トンネル内の温度分布に大きな変動を与えるものとしてトンネル付近の外気温がある。この構成例では、トンネルの入り口付近や出口付近に外気温を計測する温度計124が設置された例となっている。
なお、トンネル壁面の輻射熱はトンネル壁面の温度により定まるが、本発明ではトンネル内に所定間隔で敷設された温度検出センサ111を利用できるため、それら壁面温度とトンネル壁面輻射熱モデルを用いれば、精度よく予測できる。
【0044】
赤外線カメラ123は、物体から発せられる赤外線を捉えることができるカメラであり、赤外線の波長、その強度などを計測できるものである。赤外線カメラ123を用いることにより、車両交通量データとして車両ごとの赤外線カメラの赤外線画像データを得ることができる。
この構成例では、トンネル温度分布予測部は赤外線画像データの赤外線パターンから当該車両が発する熱量の推定値を取得できるデータベースを保持しており、車両ごとの前記熱量の推定値を取得し、熱量の推定値を入力として車両熱温度モデルを用いて道路トンネル内各所の温度変化を加味した車両熱温度予測手段を備えた構成例となっている。
赤外線カメラ123は、道路トンネルの入り口付近の所定箇所、道路トンネルの出口付近の所定箇所に配置されていれば、トンネルを走行する車両についてすべてその発する熱量を推定することができる。
また、赤外線カメラ123を道路トンネル内の緊急車両停止箇所に配置しておけば、緊急車両停止箇所でしばらく停留している車両が緊急車両停止箇所で集中的に発する熱を捉えてより精度の高い車両熱の発生を推定することができる。
もっとも、トンネル内のその他の場所にも適宜設けることは可能である。
【0045】
次に、モデル保持部131が保持する各種モデルについて述べる。
トンネル温度分布予測部130は、温度影響データ計測部120で得られた各種の温度影響データを基にトンネル温度モデルによって温度分布の予測を行う。
この構成例では、モデル保持部131において、車両の交通風をモデル化した交通風モデル、道路トンネル内を流れる風速をモデル化した自然風モデルを保持記憶している。
なお、この例では、さらに、ジェットファンの強制換気風をモデル化したジェットファン風モデルと、各々の車両が発する熱量による道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した車両熱温度モデルと、道路トンネル内各所の壁面からの放熱または吸熱される壁面輻射熱による道路トンネル内各所の温度変化をモデル化した壁面輻射熱モデルを保持記憶している。上記したモデルは、モデル保持部131が保持するモデルの一例であり、それらのうちの1つでも良く、また複数でも良い。また、上記のモデル以外のモデルを装備することも可能である。
【0046】
交通風モデルは、走行車両が持つ抵抗により生じる交通風をシミュレートするモデルであり、少なくとも大型車両交通風パラメータ(AmHeavy)、小型車両交通風パラメータ(AmLight)を保持して交通風をシミュレートするモデルである。トラフィックカウンタにより得た走行車両の数、速度、車種などの車両データを入力としてトンネル内に生じる交通風をシミュレートするモデルである。
【0047】
自然風モデルは、自然風による外気の吹き込みはトンネル内の温度分布の変化に大きな影響があることを捉えて、トンネルの入り口付近や出口付近に外気温を計測する温度計124、トンネル内の風向や風速を計測する風向風速計(AV計)122の測定データを入力とし、これら自然風によるトンネル内の風速をシミュレートしてトンネル温度分布予測に組み入れるモデルである。
ジェットファン風速モデルは、ジェットファンの駆動により道路トンネル内に流れる強制換気風の流れをシミュレートしてトンネル温度分布予測に組み入れるモデルである。
【0048】
車両熱温度モデルは、通行車両が発する車両熱がトンネル内で放散されるとトンネル内の温度分布に影響があることを捉えて、トラフィックカウンタで得られた交通量と赤外線カメラで得られたそれらの車両熱を入力として、走行車両が与えるトンネル内の温度分布への影響をシミュレートするモデルである。
【0049】
壁面輻射熱モデルは、道路トンネルの壁面からの放熱または吸熱される壁面輻射熱による道路トンネル各所の温度変化をモデル化したものである。道路トンネルなどの巨大な構造物はその壁面の温度に応じて輻射する壁面輻射熱の影響をシミュレートするモデルである。道路トンネルなどでは熱がこもりやすいが、この壁面輻射熱は道路トンネル内の温度分布に影響を与え得る。例えば、曇天時において太陽光が差し込んで山腹の温度が上がったり、夏季や冬季に温度変化が起こったりすると壁面輻射熱が変化することもあり得る。
【0050】
トンネル温度分布予測部130は、温度分布予測データを得るものである。温度分布予測データは、トンネル温度分布実測部110の直近の温度分布実測データに対して、所定時間経過の間に取得した温度影響データ計測部110が取得した各種の温度影響データを入力とし、道路トンネル温度モデルを用いて正常時に起こり得る温度分布予測データを得るものである。
図3に示すように、この例では、トンネル温度分布予測部130は、交通流予測手段130-1、風速予測手段130-2、温度分布予測手段130-3を備えた例となっており、モデル保持部131に装備したモデルを用いて予測を行う。使用するモデルとしては、交通風モデル、自然風モデル、ジェットファン風速モデル、車両熱温度モデル、壁面輻射熱モデルなどを用いた温度分布予測処理を実行する例となっている。
【0051】
トンネル温度分布予測部130を用いたトンネル内温度分布の予測、つまり、温度影響データ計測部110が取得した各種の温度影響データを入力として各種モデルを用いたトンネル内温度分布の予測の処理内容は限定されないが、例えば、風速データと車両データに基づけば、ある温度をもった外気がトンネル内に吹き込んでトンネル内のどのあたりの空気の温度が何度であるかは交通風モデルと自然風モデルに基づいて予測できる。また、交通データがあれば交通風を加味したトンネル内の所定箇所の空気の温度が何度であるかは交通風モデルよってより精密に分かる。
【0052】
例えば、交通風モデル、自然風モデルを用いた温度分布シミュレータの予測計算式は下記の[数1]で得られる。
【数1】
温度分布シミュレータは[数1]について時間的、空間的に離散化したモデルに基づいて計算する。
なお、上記の[数1]は交通風モデル、自然風モデルを用いた温度分布シミュレータの計算式であるが、その他のジェットファン風速モデル、車両熱温度モデル、壁面輻射熱モデルなどを用いた温度分布予測はそれぞれ対応する数式を用意すれば良い。
例えば、交通データと車両熱データがあれば、車両熱温度モデルによりどのあたりを走行している車両がどの程度の車両熱を放散しているかが分かる。また、トンネルの壁面から放熱または吸熱される輻射熱量はトンネル壁面各所における温度データ(温度検出センサ111の計測値)とトンネル壁面輻射熱モデルがあればわかる。これらを加味すれば、トンネル内の各所においてどの程度の温度変化がみられるかが予測できる。
このように、トンネル温度分布予測部130は正常時に起こり得るトンネル内各所の温度変化を予測するものである。火災発生、渋滞発生、長時間停留車両の存在など異常事態が生じれば、これら正常時に起こり得る温度変化の予測を超えた温度変化が生じてくるので、異常を検証しやすくなる。
【0053】
次に、トンネル温度分布予測部130の出力調整の工夫について述べる。
出力フィルタ140は、トンネル温度分布予測部130の出力段に設けられ、トンネル温度分布予測部130が計算した予測値に対してゲイン調整や一時遅れ時定数の影響分の調整を施す構成である。実際のトンネル温度分布実測部110の実測値の計測にあたって、温度検出センサ111の特性として、ゲインずれや一時遅れ時定数の影響が存在するため、トンネル温度分布予測部130が計算した予測値とトンネル温度分布実測部110の実測値においてずれが生じることがある。予測値と実測値に基づいて制御を行う上でこのずれは小さい方が異常検知の精度が向上する。そこで、本発明では、トンネル温度分布予測部130の出力段に出力フィルタ140を備えた構成とし、この出力フィルタ140においてゲイン調整パラメータおよび一時遅れ時定数パラメータを備えた構成とする工夫を施す。
【0054】
下記[数2]は、実測温度と予測温度との間に一時遅れ調整およびゲイン調整の係数を設けた式である。
【数2】
ここで、τjはセンサjの時間遅れ、kjはゲインを表わしている。
この係数が出力フィルタ140の調整を示す。
ここで、この出力フィルタ140のパラメータの調整であるが、例えば、この[数2]に実温度Tjを当てはめた時の残差の二乗誤差が最小になるように各点ごとに調整する。
具体的には[数2]式を時間的に離散かしたモデルにTjを当てはめた時の残差ejは、下記の[数3]式となり、サンプリング時間を1秒とすると[数4]式のようになる。
【数3】
【数4】
このejの二乗の時刻kに関する和は[数5]式となるが、これが最小となるように、Aj、Bjを調整する。なお、最小となるとは、JをAjで微分した式、及び、JをBjで微分した式である[数6]の連立方程式を解けばAj、Bjが得られる。
【数5】
【数6】
【0055】
このように、ゲイン調整パラメータおよび一時遅れ時定数パラメータを備えた出力フィルタ140を用いることにより、トンネル温度分布予測部130により計算された予測値の変化分と、実際のトンネル温度分布実測部110の実測値の変化分がより正確にマッチングする。
このゲインの調整や一時遅れ時定数の調整は、採用する温度検出センサ111の特性と、トンネル温度分布予測部130の予測のずれを解消するように調整すれば良い。
以上のように、トンネル温度分布予測部130が計算した予測値に対して、出力フィルタ140によるゲイン調整や一時遅れ時定数の影響分の調整を施して道路トンネル温度分布予測系の出力として異常検証部160に出力される。
【0056】
次に、異常検証部160について述べる。
異常検証部160は、
図1に示したように、トンネル温度分布実測部110で得た温度分布実測データと、トンネル温度分布予測部130で算出した温度分布予測データの両方を比較して検証するものである。
トンネルの温度分布は、正常時であれば、直近のトンネルの温度分布実測値に対して、温度分布に影響を与え得る変化分を特定のモデルを適用して計算すれば、閉鎖空間でもあり比較的外乱が少ないため、概ねのトンネル内温度分布を予測することができる。もっともトンネル内で発生した何らかの異常やトラブルにより、トンネル内温度分布の予測から外れた変化を起こすことはあり得る。そこで異常検証部160を用いてトンネル内で発生した何らかの異常やトラブルの有無の検証を行う。
【0057】
なお、この実施例1におけるトンネル内温度監視システム100では、異常検証部160が行うトンネル内で発生した何らかの異常やトラブルの有無の検証は、(1)火災の発生、(2)渋滞の発生、(3)長時間停留している車両の存在、(4)温度ケーブルセンサにおける故障の発生、この4つについて検証する例を挙げる。
いずれも、トンネル温度分布実測部110の温度分布実測データに基づく検知処理のステップと、トンネル温度分布予測部120の温度分布予測データに基づく検証処理のステップからなる。
【0058】
(1)火災の発生の判断
以下、異常検証部160における異常検知プログラムによる火災の発生の判断処理ステップについて説明する。
(1-1)トンネル温度分布実測部110の温度分布実測データに基づく火災検知
異常検証部160の異常発生検知プログラムの火災発生検知プログラムは、まず、トンネル温度分布実測部の温度分布実測データに基づく火災検知処理を行う。
まず、各々の温度検出センサ111ごとの時間積分値の大きさに基づいて、火災発生の可能性のある個所を推測する。
なお、後述するように、本発明の道路トンネル温度監視システム100は、早期火災検知のため、時間積分を行う時間の範囲、つまり第1の所定期間を短く収める代わりに、火災でないのに火災発生の候補として挙がってしまうものを他の評価方法を複数組み合わせて排除してゆく。
【0059】
例えば、火災発生の推定を30秒以内に収めようとすると、時間積分を行う時間の範囲、つまり第1の所定期間を30秒以内とする必要がある。ここでは、一例として第1の所定期間を30秒とする。
この30秒間にわたり、各々の温度検出センサ111の測定結果の時間積分値を求め、その中で第1のしきい値を超えたものを選出する。
ここで、第1のしきい値の設定であるが、道路トンネルの大きさ(横幅)、道路トンネルの高さ、道路トンネルの長さ、季節、時刻、天候、交通量、など、火災発生時の温度上昇の積分値に与える要素が複数あるため、それら諸条件を踏まえて設定する必要がある。
ここでは、以下の道路トンネル火災実験を行い、第1のしきい値を設定する。
【0060】
[道路トンネル疑似火災実験]
開口面積1m2、容量12リットルの火皿を用いて、断面積70m2の道路トンネル壁面上部に温度センサケーブル(温度検知センサ間隔4m)を取り付けて疑似火災実験を行った。本実験では、発煙の少ないノルマルヘプタンを用いた。ノルマルヘプタン12リットルの熱量はガソリン10リットルの熱量に相当する。
疑似火災の火点となる火皿の設置場所は、温度検出センサの番号13直下で道路トンネル中央(センターライン上)となるよう調整した。ここで、疑似火災の火点位置に最も近い温度検出センサを「火点センサ」と略記することがある。
【0061】
図4に温度センサケーブル出力の時間・空間の温度変化を示す。
図4に示すように、初めは穏やかに温度が上昇してゆき、300秒程度に達するとそれ以上の温度上昇はほぼ無くなりほぼ一定の温度を維持している。
図4を見ると、火点センサ近辺に大きなピークが見られ、離れた位置ではそれほど温度は上昇していないことが分かる。このことから火点センサ近辺の温度上昇は他の場所より卓越しているため、温度センサケーブル120を用いた火災検知の妥当性が認められる。
【0062】
さらに、
図4に示したデータから、点火30秒後から60秒後の火点近辺の温度検出センサの温度上昇の変化をまとめたものを
図5に示す。
図5は、疑似火災の温度上昇のパターンと、火災ではない別の要因にて30秒の間の積分値が0.4℃に達してしまったパターンにおける、火点センサを含む近辺の温度検出センサの積分値を並べた図である。
両者とも開口面積71m2、長さ2990mの道路トンネルで得たデータである。
図4の図中のかっこ内はセンサ番号である。
図5(a)は、模擬火災発生時を起点として火点近辺の温度検出センサの温度上昇の変化をまとめたものである。
図5(a)に示すように、点火後60秒経過すると、明確なピークが見て取れるため、火災検知に充分な温度上昇が得られていると言える。そのため、もし、時間積分を行う時間の範囲、つまり第1の所定期間を60秒と仮定できれば、第1のしきい値は3度や4度とすれば良いことが分かる。しかし上記したように、第1の所定期間を30秒とする場合、
図5(a)に示すように、ピークが小さくわずか0.5度程度しかないことが分かる。
【0063】
道路トンネルの大きさ(横幅)、道路トンネルの高さ、道路トンネルの長さ、季節、時刻、天候、交通量など火災発生時の温度上昇に与える要素が複数あるため、それら諸条件を踏まえて設定する必要があるが、ここでは、例えば、第1の所定時間を30秒とし、第1のしきい値を0.3度と想定する。
しかし、30秒経過後の火災検知を達成するために、30秒間の温度検出センサ111の温度上昇の積分値が0.3℃を超えたときに火災検知とみなした場合、
図5(a)に示すように、疑似火災の場合のパターンもあれば、
図5(b)に示すように、火災が発生していない他の要因による温度上昇のパターンも火災とみなしてしまうおそれがあることが分かる。
このことは、本発明の道路トンネル温度監視システム100は、早期火災検知のため、第1の所定期間を30秒間と短く収めると、火災でないのに火災発生の候補として挙がってしまうものが混在することを示しており、そのため、30秒間の温度変化(時間積分値)だけでなく、他の評価方法を複数組み合わせて排除してゆく。
【0064】
以下、この評価方法について検討してゆく。
図5の2つのパターンを見比べると、火災パターンの場合、下記の特徴が見られ、以下の特徴にてパターン分けができそうであることが分かる。
(特徴1)火点センサである温度検出センサ110の温度上昇が、他の温度検出センサ110より卓越している。
(特徴2)火点センサを含む前後の温度検出センサ群(火点包含センサ群)が空間的な拡がりを持って温度上昇がみられる。
(特徴3)火点センサを含む近接の温度検出センサ群(火点隣接センサ群)の温度上昇が卓越している.
(特徴4)火点センサから離れた他の温度検出センサ110の温度変化はほとんどない。
上記した4つの特徴のいずれか、またはそれらの組み合わせにより、火災検知と仮定したものが火災パターンであるか否かを判定する。
【0065】
これらの各々の特徴を数式化し、早期火災検知処理で使用する変数・定数は以下のとおりである。
【数7】
【0066】
センサ番号 の現在の温度と1ステップ前の温度変化を温度差分値として、以下の数式2で定義する。
【数8】
一般化し、センサ番号 温度変化 を、以下の数式9で定義する。つまり、30秒前を起点とした温度変化の積分値を意味する。
【数9】
この数式9が、上記の(特徴1)を算出する数式である。
一例として、各々の温度検出センサ110について、直近30秒間の温度変化の積分値を求め、その値が0.3℃を超えれば特徴1が満たされたと判断し、該当する温度検出センサ110を火点センサの候補として注目する。
【0067】
【0068】
ここで、温度上昇が火災を原因とするものか、トンネル内の対流など他の原因によるものかを判別するためには、ただ1つの温度検出センサに注目するだけでなく周辺の温度検出センサの温度変化を検証することが有益である。そこで、ある温度センサの中で最も温度上昇が大きいセンサが火災発生地点に最も近い火点センサの番号をPFとする。そして、下記の数式11に示すように、その片側2NF個のセンサを「火点包含センサ群」として検証対象に用いる。
【数11】
kステップ時における対象センサ組に含まれる(2NF+1) 個センサの温度変化の空間和を以下の数式12と表現できる。
【数12】
これは、上記した(特徴2)を確認する数式である。
【0069】
ここで、仮定した火点センサを含む前後5個のセンサ群、つまり、火点センサを包含する11個のセンサ群(火点包含センサ群)の10秒間の温度変化量の空間積分値に対する第2のしきい値を下記の数式13に示す値に設定し、さらに、火点包含センサ群の30秒間の温度変化量の空間積分値に対する第3のしきい値を下記の数式14に示す第3のしきい値に設定する。
【数13】
【数14】
これらのいずれかまたは双方が成立すれば特徴2が充足されたものとする。
【0070】
この特徴2は、火点センサと仮定した温度検出センサ110のみが温度上昇している場合、当該温度検出センサ110の異常値に基づくものであり、火災の場合は前記11個の温度検出センサ110が空間的な拡がりをもって上昇しているということが検証に役立つという考えを織り込んだものである。
【0071】
(特徴3)について
火災を仮定した場合、火点に最も近い火点センサの温度検出センサ110は、いわば火点の中央付近のピークが現れるはずであり、その火点センサのみの積分値と、火点センサを含む前後5個ずつの11個にわたる火点包含センサ群の空間積分値との比率を検証すれば、ピーク値が出ているのか否かが確認できる。ここでは、例えば、その比率が数式15に示すように、第3のしきい値が0.3以上あることを条件とする。
【数15】
【0072】
(特徴4)について
また、上記したように、火点センサと仮定した温度検出センサ110のみがピーク値を持つが、隣接するすぐ隣の温度検出センサ110が他よりも低い場合、火点センサと仮定した温度検出センサ110のみが異常値を示しており、火点とするような中心のエネルギー放射が見られないと考えることができる。つまり、火点センサの前後1つずつ、つまり3個の火点隣接センサ群の空間積分値と、火点センサを含む前後5個ずつの11個にわたる火点包含センサ群の空間積分値との比率を検証すれば、中央に火点とするような中心のエネルギー放射が見られることが検証できる。
【0073】
これは、火点に最も近い火点センサと仮定された温度検出センサを含む前後にわたる所定数の温度検出センサ群からなる火点包含センサ群の「空間積分値」の大きさと、空間積分値に占める火点センサと仮定された温度検出センサの検出値の大きさから計算した「集中割合」の観点からふるいに掛けることにより、第1の所定期間を短く収めつつ、その火災検知精度を担保するものである。ここでは、例えば、その比率が数式16に示すように、第4のしきい値が0.54以上あることを条件とする。
【数16】
【0074】
上記に示したように、[数式10]、[数式13]、[数式14]、[数式15]、[数式16]を用いた火災検知処理を行えば、早期火災検知が可能となる。なお、[数式13]と[数式14]は、両方充足を条件としても良く、択一充足でも良い。
次に、上記得た各式を用いて、火災時のパターンと非火災時のパターンを適用し、火災検知処理のシミュレーションを行ってみる。
【0075】
実際の火皿の位置は、No.13の温度検出センサ110の直下とするが、トンネル風の影響でNo.15の温度検出センサ110が最も温度が上昇した火点センサと仮定されている例である。つまり、ここでは、No.15が火点センサとして想定される例である。
以下、トンネル火災実験データを制御部130に与えた。
【0076】
図6が各々の温度検出センサから得られるデータの例である。
この例では、温度検出センサ番号10~20番に関する或る時間から10秒間の時間積分値データ、30秒間の時間積分値データとなっている。
【0077】
制御部130は、時間積分検知処理ステップを開始する。
時間積分検知処理ステップにおいて検出される、温度検出センサ(No.15)およびその前後の温度検出センサ((No.14およびNo.15))の30秒間の温度上昇(時間積分値)を
図7に示す。サンプル時間は1秒である。
図7は、或る時刻から火点センサの30秒間の温度変化の積分値H30(k,15)と、その両側の30秒間の温度変化の積分値H30(k,14)およびH30(k,16)と、さらに火点包含センサ群の平均温度の30秒間の温度変化の積分値を示す図である。
図7に示す各々の時間積分値を得た制御部130は、時間積分検知処理ステップにおいて、15番における温度検出センサ110を火点センサとして仮定する。
【0078】
図8は、火点センサの仮定によって決まる火点包含センサ群の設定と火点隣接センサ群の設定を示す図である。
図8に示すように、制御部130は、火点センサを15番と仮定し、火点包含センサ群として火点センサを含む前後5個(合計11個)のセンサ群である10番~20番と設定し、火点隣接センサ群を14番から16番と設定する。
【0079】
次に、制御部130は、空間積分判定処理ステップを進める。
空間積分判定処理ステップは、火点包含センサ群の10秒間の空間積分値の大きさが第2のしきい値を超えているか、または、火点包含センサ群の30秒間の空間積分値の大きさが第3のしきい値を超えているかをチェックする。
【0080】
上掲した数式13、数式14に従って、空間積分判定処理ステップを実行する。
この例では、火点包含センサ群の11個のセンサの10秒間の空間積分値の判定も、30秒間の空間積分値の判定も、両方充足されていることが分かる。
【0081】
次に、制御部130は、検証処理ステップを進める。
制御部130は、
図9のように設定された各々の温度検出センサで30秒間得られているデータから15番における火災発生の仮定を検証する。
図9は、数式15で示される火点センサの時間積分値と火点包含センサ群の11個のセンサの30秒間の空間積分値の比率R1(k,15)と第3のしきい値との比較、および、数式16で示される火点隣接センサ群の3個のセンサの空間積分値と火点包含センサ群の11個のセンサの30秒間の空間積分値の比率R3(k,15)と第5のしきい値との比較を示す図である。
【0082】
図9に示すように、比率R1(k,15)および比率R3(k,15)とそれらのしきい値との比較に示すように、10秒経過後に、比率R1(k,15)および比率R3(k,15)の両方がそれぞれの第3のしきい値と第5のしきい値を超えて、検知処理ステップが充足されている。
火災発生から10秒経過後から13秒経過後まで、両方の検知処理が充足されているが、14秒経過後から16秒経過後は、2番目の検証である比率R3(k,15)が充足されていないが、17秒から19秒まで再び比率R3(k,15)が充足され、また、20秒から21秒は比率R3(k,15)が充足されず、再び22秒から28秒まで充足されている。
1番目の検証である比率R1(k,15)は、23秒の時刻のデータを除き、10秒経過から30秒まで充足されている。
【0083】
このように、検証処理ステップは、しきい値の設定の仕方で充足/不充足が入れ替わることがあるが、30秒の間に最初の10秒を除いて、概ね充足されており、充足されている期間が多いことをもって火災と検証することも可能である。
この例では、検証処理ステップでの充足が確認されたのでこの時点で警報を発報する。
以上より、1m2火皿を用いた燃焼実験において,30秒以内での火災発生検知を実現している。
【0084】
(1-2)トンネル温度分布予測部120の温度分布予測データに基づく火災検証
異常検証部160の異常発生検知プログラムの火災発生検証プログラムは、トンネル温度分布予測部130の温度分布予測データに基づく火災検証処理を行う。
この例では、トンネル温度分布予測部130は、風向風速データと交通データと車両熱データと外気温データとトンネル内壁面温度データと、各種モデルによりトンネル内温度分布予測を行う。
【0085】
自然風温度予測手段151は、温度影響データ計測部120から得た風向風速データと外気温データを入力とし、自然風モデルを用いてトンネル内に吹き込む外気の自然風によるトンネル内各所の温度変化Q(nature)を予測する。
交通風温度予測手段152は、温度影響データ計測部120から得た車両交通データと外気温データを入力とし、交通風モデルを用いてトンネル内において車両走行で生じる交通風によるトンネル内各所の温度変化Q(traffic)を予測する。
車両熱温度予測手段153は、温度影響データ計測部120から得た車両交通データと車両熱データを入力とし、車両熱モデルを用いてトンネル内において車両が発する車両熱で生じるトンネル内各所の温度変化Q(mobile)を予測する。
壁面輻射熱予測手段154は、温度影響データ計測部120から得たトンネル壁面温度データを入力とし、壁面輻射熱モデルを用いてトンネル内においてトンネル壁面からの輻射熱で生じるトンネル内各所の温度変化Q(radiation)を予測する。
【0086】
トンネル温度分布予測部130は、トンネル温度分布実測部120により得られている直近の温度分布実測データに対して、自然風温度予測手段151が予測した外気の自然風によるトンネル内各所の温度変化Q(nature)と、交通風温度予測手段152が予測した交通風によるトンネル内各所の温度変化Q(traffic)と、車両熱温度予測手段153が予測した車両が発する車両熱で生じるトンネル内各所の温度変化Q(mobile)と、壁面輻射熱予測手段154が予測したトンネル壁面からの輻射熱で生じるトンネル内各所の温度変化Q(radiation)を反映して、トンネル内各所の温度分布予測データを生成する。
【0087】
異常検証部160の異常発生検知プログラムの火災発生検証プログラムは、上記(1-1)で得たトンネル温度分布実測部110の温度分布実測データと、上記(1-2)で得たトンネル温度分布予測部130の温度分布予測データとを突き合わせて検証処理を実行する。
この例では、検証は、上記した火災発生検知の特徴1から特徴4に対して行うものとし、温度分布予測データによる変化分を加味した上で以下の検証1から検証4を実行する。
(検証1)温度分布予測データによる変化分を加味しても、火点センサである温度検出センサ111の温度上昇が他の温度検出センサ111の温度上昇より卓越しているか否か。
(検証2)温度分布予測データによる変化分を加味しても、火点センサを含む前後の温度検出センサ群(火点包含センサ群)が空間的な拡がりを持って温度上昇がみられるか否か。
(検証3)温度分布予測データによる変化分を加味しても、火点センサを含む近接の温度検出センサ群(火点隣接センサ群)の温度上昇が卓越しているか否か。
(検証4)温度分布予測データによる変化分を加味しても、火点センサから離れた他の温度検出センサ111の温度変化はほとんどないか否か。
上記した4つの検証のいずれかが否定されれば、火災検知と仮定したものが火災パターンではないと判定する。
【0088】
これらの各々の検証は、早期火災検知処理で使用する変数・定数を用いれば以下のとおり数式化できる。
【数17】
ここで、Qとしては、Q(nature)、Q(traffic)、Q(mobile)、Q(radiation)の各温度変化分を織り込むものとする。
【0089】
温度センサiの設置個所の現在の温度と予測される温度変化を温度差分値として、以下の数式18で定義する。
【数18】
数式18の温度検出センサiの設置個所の予測温度変化Q t(k, j)について30秒間の積分値をR30(k,i)とし、実測値の温度変化H30(k,i)との差分を算出する。
【0090】
一例として、各々の温度検出センサ111について、直近30秒間の実測値の温度変化の積分値H30(k,i)と、予測値の温度変化R30(k,i)が、0.3℃を超えれば検証1が満たされたと判断し、該当する温度検出センサ111を火点センサの候補として注目する。
【数19】
【0091】
火点センサとして仮定されたPFについて、「火点包含センサ群」の温度変化の空間和は数式12で得られているが、ここでは、前述したとおり、特徴2の評価では仮定した火点センサを含む前後5個のセンサ群、つまり、火点センサを包含する11個のセンサ群(火点包含センサ群)の10秒間の温度変化量の空間積分値に対する第2のしきい値を下記の数式13に示す値に設定したので予測値についても同様に算出し、数式20のように差分をとる。さらに、火点包含センサ群の30秒間の温度変化量の空間積分値に対する第3のしきい値を数式14に示す第3のしきい値に設定したので、予測値についても同様に算出し、数式21のように差分をとる。
【数20】
【数21】
これらのいずれかまたは双方が成立すれば検証2が充足されたものとする。
【0092】
(検証3)による検証
前述したように、特徴3として、火点センサのみの積分値と火点センサを含む前後5個ずつの11個にわたる火点包含センサ群の空間積分値との比率を算出したが、予測値についても同様に数式22に示すように、第3の差分値が0.3以上あるか検証する。
【数22】
【0093】
(検証4)によるチェック
前述したように、特徴4として、数式16に示すように、第4のしきい値が0.54以上あることが条件であったが、同様に予測値との差分をとって数式23にように検証する。
【数23】
上記に示したように、[数式17]から[数式23]を用いた火災検知処理を行えば、予測値を用いた火災検知の検証が可能となる。
【0094】
(2)渋滞発生の判断
以下、異常検証部160における異常検知プログラムによる渋滞発生の判断処理ステップについて説明する。
(2-1)トンネル温度分布実測部110の温度分布実測データに基づく渋滞検知
異常検証部160の異常発生検知プログラムの渋滞発生検知プログラムは、まず、トンネル温度分布実測部の温度分布実測データに基づく渋滞検知処理を行う。
【0095】
図10(a)は、渋滞発生時の道路トンネル内温度分布の概略を示す図である。実線がトンネル温度分布実測部110の温度分布実測データであり、破線がトンネル温度分布予測部130の温度分布予測データである。
渋滞は、何らかの原因で渋滞の先頭にいる車両が走行を停止したため、次々と後続の車両が停止することで発生するため、
図10(a)に示す例では、トンネル温度分布実測部110の温度分布実測データでは、自然発生した渋滞により渋滞エリアでは温度が若干上昇しており、それを捉えることができる。まず、トンネル温度分布実測部110の温度分布実測データに基づく渋滞検知では、この一部エリアの温度上昇が、火災によるものか、渋滞によるものか、自然風の吹き込みによるものかを判断する。
次に、トンネル温度分布予測部130の温度分布予測データと突き合わせて、この一部エリアの温度上昇が、火災によるものか、渋滞によるものか、自然風の吹き込みによるものかを検証する。ここでは、温度影響データ計測部120で得られるデータとして渋滞に直結する外乱データが得られておらず、トンネル温度分布予測部130の温度分布予測データは比較的フラットな状態であると予測した例となっている。
【0096】
まず、トンネル温度分布実測部110の温度分布実測データに基づく渋滞検知では、各々の温度検出センサ111ごとの時間積分値の大きさに基づいて、渋滞発生の可能性のある個所を推測する。
渋滞発生の検知手法は限定されないが、ここでは下記の特徴の充足により判断するものとする。
(特徴1)渋滞エリアにある温度検出センサ110の温度上昇が、他の温度検出センサ110より卓越している。
(特徴2)渋滞エリアにある温度検出センサを含む前後の温度検出センサ群(渋滞包含センサ群)が空間的な拡がりを持って温度上昇がみられる。
(特徴3)渋滞エリアにある温度検出センサを含む近接の温度検出センサ群(渋滞隣接センサ群)の温度上昇は所定値以下である。
(特徴4)渋滞エリアにある温度検出センサから離れた他の温度検出センサ110の温度変化はほとんどない。
上記した4つの特徴のいずれか、またはそれらの組み合わせにより、渋滞発生のパターンであるか否かを判定する。
【0097】
これらの各々の特徴を数式化し、早期火災検知処理で使用する変数・定数は以下のとおりである。
上記特徴1の数式24は、火災検知で既出の数式9と同じであり、一例として、各々の温度検出センサ110について、直近30秒間の温度変化の積分値を求めるが、その値が0.3℃を超えれば特徴1が満たされたと判断し、該当する温度検出センサ110を渋滞センサの候補として注目する。
【数24】
【0098】
次に、上記した(特徴2)を確認する数式25は火災検知で既出の数12である。ここでは、仮定した渋滞センサを含む前後5個のセンサ群、つまり、渋滞センサを包含する11個のセンサ群(火点包含センサ群)の10秒間の温度変化量の空間積分値に対する第2のしきい値に設定し、さらに、渋滞包含センサ群の30秒間の温度変化量の空間積分値に対する第3のしきい値を数式26に示すしきい値に設定する。
【数25】
【数26】
これらのいずれかまたは双方が成立すれば特徴2が充足されたものとする。
【0099】
渋滞を仮定した場合、火点とは異なり、渋滞センサの温度検出センサ110には、周囲のものに比べて火点のような卓抜したピークは現われない。渋滞センサのみの積分値と、渋滞センサを含む前後5個ずつの11個にわたる火点包含センサ群の空間積分値との比率を検証すれば、ピーク値が出ていないのか否かが確認できる。ここでは、例えば、その比率が数式27に示すように、第3のしきい値が0.3未満あることを条件とする。
【数27】
【0100】
特徴4は、火災検知と同様、渋滞エリアにある温度検出センサから離れた他の温度検出センサ110の温度変化はほとんどない。火災検知で用いた数16と同様の数式28において、しきい値が0.54以上とする。
【数28】
【0101】
(2-2)トンネル温度分布予測部120の温度分布予測データに基づく渋滞検証
次に、渋滞発生の検証においても、火災発生の検証と同様、温度分布予測データによる変化分を加味しても同様の条件が成立するか否かを検証する。
(検証1)温度分布予測データによる変化分を加味しても、渋滞エリアにある温度検出センサ110の温度上昇が、他の温度検出センサ110より卓越しているか否か。
(検証2)温度分布予測データによる変化分を加味しても、渋滞エリアにある温度検出センサを含む前後の温度検出センサ群(渋滞包含センサ群)が空間的な拡がりを持って温度上昇がみられるか否か。
(検証3)温度分布予測データによる変化分を加味しても、渋滞エリアにある温度検出センサを含む近接の温度検出センサ群(渋滞隣接センサ群)の温度上昇は所定値以下であるか否か。
(検証4)温度分布予測データによる変化分を加味しても、渋滞エリアにある温度検出センサから離れた他の温度検出センサ110の温度変化はほとんどないか否か。
上記した4つの検証のいずれかが否定されれば、渋滞発生と仮定したものが渋滞発生ではないと判定する。つまり、
【数29】
【数30】
【数31】
【数32】
【数33】
【0102】
上記に示したように、[数式24]から[数式33]を用いた渋滞検知処理を行えば、予測値を用いた渋滞検知の検証が可能となる。
【0103】
(3)長時間停留車両の有無の判断
以下、異常検証部160における長時間停留車両の有無判断プログラムによる判断処理ステップについて説明する。
【0104】
(3-1)トンネル温度分布実測部110の温度分布実測データに基づく停留車両有無の検知
図10(b)は、長時間の停留車両の存在による道路トンネル内温度分布の概略を示す図である。実線がトンネル温度分布実測部110の温度分布実測データであり、破線がトンネル温度分布予測部130の温度分布予測データである。
長時間停留する車両が存在する場合とは、何らかの原因で緊急停車位置や路側帯などに当該車両のみが停車しているが、後続の車両は走行して追い抜いていく状態である。特定の車両が走行を停止しているが、次々と後続の車両は通常走行を続けるため、
図10(b)に示す例では、トンネル温度分布実測部110の温度分布実測データでは、緊急停車位置や路側帯などの特定箇所(停留箇所)では温度が若干上昇しており、それを捉えることができる。まず、トンネル温度分布実測部110の温度分布実測データに基づく停留車両の存在有無の検知では、この特定箇所の温度上昇が、車両停留によるものか、他の要因、例えば火災や渋滞によるものか、自然風の吹き込みなどによるものかを判断する。
次に、トンネル温度分布予測部130の温度分布予測データと突き合わせて、この一部エリアの温度上昇が、車両停留によるものか、火災や渋滞などのその他の要因によるものか、自然風の吹き込みによるものかを検証する。ここでは、温度影響データ計測部120で得られるデータとして特定車両の停留に直結する外乱データが得られておらず、トンネル温度分布予測部130の温度分布予測データは比較的フラットな状態であると予測した例となっている。
【0105】
異常検証部160の異常発生検知プログラムの停留車両有無検知プログラムは、まず、トンネル温度分布実測部の温度分布実測データに基づく停留車両有無検知処理を行う。
まず、各々の温度検出センサ111ごとの時間積分値の大きさに基づいて、停留車両存在の可能性のある個所を推測する。
停留車両有無の検知手法は限定されないが、ここでは下記の特徴の充足により判断するものとする。。
【0106】
(特徴1)停留エリアにある温度検出センサ110の温度上昇が、他の温度検出センサ110より卓越している。
(特徴2)停留エリアにある温度検出センサを含む前後の温度検出センサ群(渋滞包含センサ群)が空間的な拡がりを持って温度上昇がみられない。
(特徴3)停留エリアにある温度検出センサを含む近接の温度検出センサ群(渋滞隣接センサ群)の温度上昇は所定値以下である。
(特徴4)停留エリアにある温度検出センサから離れた他の温度検出センサ110の温度変化はほとんどない。
上記した4つの特徴のいずれか、またはそれらの組み合わせにより、停留車両有無のパターンであるか否かを判定する。
これらの各々の特徴を数式化し、早期火災検知処理で使用する変数・定数は以下のとおりである。
上記特徴1の数式34は、火災検知で既出の数式9と同じであり、一例として、各々の温度検出センサ110について、直近30秒間の温度変化の積分値を求めるが、その値が0.3℃を超えれば特徴1が満たされたと判断し、該当する温度検出センサ110を停留センサの候補として注目する。
【数34】
【0107】
次に、上記した(特徴2)を確認する数式34は火災検知で既出の数式12と同じであるが、ここでは、仮定した渋滞センサを含む前後5個のセンサ群、つまり、渋滞センサを包含する11個のセンサ群(火点包含センサ群)の10秒間の温度変化量の空間積分値に対する第2のしきい値に設定し、さらに、渋滞包含センサ群の30秒間の温度変化量の空間積分値に対する第3のしきい値を数式36に示すしきい値に設定する。
【数35】
【数36】
これらのいずれかまたは双方が成立すれば特徴2が充足されたものとする。
【0108】
停留車両有無を仮定した場合、火点とは異なり、停留センサの温度検出センサ110には、周囲のものに比べて火点のような卓抜したピークは現われない。停留センサのみの積分値と、停留センサを含む前後5個ずつの11個にわたる停留包含センサ群の空間積分値との比率を検証すれば、ピーク値が出ていないのか否かが確認できる。ここでは、例えば、その比率が数式37に示すように、第3のしきい値が0.3未満あることを条件とする。
【数37】
【0109】
特徴4は、火災検知と同様、渋滞エリアにある温度検出センサから離れた他の温度検出センサ110の温度変化はほとんどない。火災検知で用いた数10と同様の数式38において、しきい値が0.54以上とする。
【数38】
【0110】
次に、停留発生の検証においても、火災発生の検証と同様、温度分布予測データによる変化分を加味しても同様の条件が成立するか否かを検証する。
(検証1)温度分布予測データによる変化分を加味しても、停留エリアにある温度検出センサ110の温度上昇が、他の温度検出センサ110より卓越しているか否か。
(検証2)温度分布予測データによる変化分を加味しても、停留エリアにある温度検出センサを含む前後の温度検出センサ群(渋滞包含センサ群)が空間的な拡がりを持って温度上昇がみられないか否か。
(検証3)温度分布予測データによる変化分を加味しても、停留エリアにある温度検出センサを含む近接の温度検出センサ群(渋滞隣接センサ群)の温度上昇は所定値以下であるか否か。
(検証4)温度分布予測データによる変化分を加味しても、停留エリアにある温度検出センサから離れた他の温度検出センサ110の温度変化はほとんどないか否か。
上記した4つの検証のいずれかが否定されれば、渋滞発生と仮定したものが渋滞発生ではないと判定する。
【0111】
つまり、
【数39】
【数40】
【数41】
【数42】
【数43】
上記に示したように、[数式34]から[数式43]を用いた渋滞検知処理を行えば、予測値を用いた停留車両有無の検証が可能となる。
【0112】
次に、監視センターにおけるモニタでの表示例を示す。
図11は、監視センターにおけるモニタでの表示例を示す図である。道路トンネルに設置された温度センサケーブルの温度分布データのモニタ画像と、監視カメラのモニタ画像、赤外線カメラのモニタ画像が表示されている。
図11の例では、画面中、グラフAは実温度分布、グラフBは実温度分布とシミュレータにより計算された推定温度分布の差分を示す。(グラフの縦軸は温度、横軸はトンネル長手方向の位置)また、グラフCは温度変化のヒートマップ*を示す。図上部には現在選択されている3台の監視カメラの映像が表示されている。この時点では、推定値と実温度はほぼ変わらず、ヒートマップにも温度変化は現れてない。
図12は、火災発生直後の監視センターにおけるモニタでの表示例を示す図である。
火災発生により火災発生地点の実温度が上昇し、推定温度分布と差異が生じる。画面中、グラフB及びグラフCにその変化が表れている。この時点では診断システムの火災検知アルゴリズムでは火災検知の要件が満たされておらず、未だ火災発生とは判断されない。
図13は、火災発生が一定時間継続した場合の監視センターにおけるモニタでの表示例を示す図である。
図13の時点で火災検知アルゴリズムは、所定の方法により検定された火災発生の確度が高まったと判断し、火災検知のアラームと火災発生位置の情報を監視画面機能に送る。その結果、画面右上部にアラームが点く。同時に火災発生位置に最も近い監視カメラが選択され、表示される。この機能により、オペレータに火災の状況を適確に伝え、オペレータの判断を適切に支援することが可能となる。
【0113】
以上示すように、本発明の道路トンネル温度監視システムは、一定間隔で温度センサが配置されているという構造的な利点を活用し、空間的温度変化をモニタリングすることによって早期火災検知、渋滞検知、長時間停留車両の有無を検出し、検証できた。
【実施例2】
【0114】
実施例2は、モデルパラメータ更新を行うことができる構成例である。
図14は、実施例2にかかる道路トンネル温度監視システム100aの構成例を示す図である。
図14に示したトンネル温度分布予測部130a以外の各構成要素は、
図1に示したそれぞれの構成要素と同様であり、ここではそれらの説明は省略する。
図14に示すように、トンネル温度分布予測部130aは、モデル保持部131に加え、モデルパラメータ更新部132を備えた構成となっている。
モデルパラメータ更新部132は、トンネル温度分布実測部110から得た温度分布実測データや温度影響データ計測部120から取得したトンネル内の各種データを入力とし、トンネル内データの変化に合わせ、モデル保持部131の各モデルのパラメータを推定して更新する部分である。例えば、自然風モデルと交通風モデルを用いた予測であれば、トンネル内の車両走行状況や環境の変化などに応じてそれらモデルのパラメータを推定して更新する部分である。
モデルパラメータ更新部132におけるパラメータ推定は、トンネル温度分布実測部110から得た温度分布実測データや温度影響データ計測部120から得られた各種データと、トンネル温度分布予測部130が予測した予測データとのずれの修正において、交通風モデル、自然風モデル、ジェットファン強制換気モデル、車両熱温度モデル、壁面輻射熱モデルなどの各モデルについて、大型車両等価抵抗面積P1、小型車両等価抵抗面積P2、自然風風速P3、走行車両熱P4、外気温P5をパラメータとし、各パラメータに関する線形性を利用してパラメータ推定して随時更新するものである。各モデルのパラメータを更新することにより、予測精度の向上が期待できる。
【0115】
以上、本発明の道路トンネル温度監視システムの構成例における好ましい実施例を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の道路トンネル温度監視システムは、道路トンネル内の道路トンネル温度監視システムとして広く適用することができる。
【符号の説明】
【0117】
100 道路トンネル温度監視システム
110 トンネル温度分布実測部
111 温度検出センサ
112 温度検出センサケーブル
113 異常検証部
120 温度影響データ計測部
130 モデル保持部
140 モデルパラメータ更新部
150 トンネル温度分布予測部
160 異常検証部