(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】微粒子吸着材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/12 20060101AFI20240701BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240701BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B01J20/12 A
B01J20/28 Z
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2020033708
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】木之下 広幸
(72)【発明者】
【氏名】三澤 尚明
(72)【発明者】
【氏名】安井 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 太一
(72)【発明者】
【氏名】長▲濱▼ 秀樹
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特公昭49-009311(JP,B1)
【文献】特開2005-192600(JP,A)
【文献】特開2002-001372(JP,A)
【文献】特開2007-000763(JP,A)
【文献】特開昭63-161071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28
B01J 20/30-20/34
B01D 53/50
B01D 53/56
B01D 53/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al
2O
3が30wt%以上、
Fe
2
O
3
が10wt%以上、見かけの気孔率が40%以上、かつ比表面積10m
2/g以上の火山灰土壌焼結体を用いたことを特徴とする微粒子吸着材。
【請求項2】
Al
2O
3が30wt%以上、
Fe
2
O
3
が10wt%以上、100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積0.05cm
3/g以上、かつ比表面積10m
2/g以上の火山灰土壌焼結体を用いたことを特徴とする微粒子吸着材。
【請求項3】
前記火山灰土壌焼結体は、石英、曹長石のような珪酸塩・アルミノ珪酸塩鉱物の構造をもち、SiO
2とAl
2O
3を主成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載の微粒子吸着材。
【請求項4】
比表面積30m
2/g以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の微粒子吸着材。
【請求項5】
Al
2O
3とFe
2O
3との合計が40wt%以上の火山灰土壌を加圧成形するステップと、
前記ステップで加圧成形された成形体を780℃以上920℃以下で焼成するステップと、
前記焼成された焼成体を破砕するステップと、を含むことを特徴とする微粒子吸着材の製造方法。
【請求項6】
前記破砕後、1.0~3.0mmの粒度を選別するステップを含むことを特徴とする請求項
5に記載の微粒子吸着材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼ガス中の有害な化学物質である窒素酸化物や硫黄酸化物等の微粒子を吸着する微粒子吸着材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や自動車等から排出される排気ガス、すなわち石油や石炭等の化石燃料の燃焼ガス中には、酸性雨や光化学スモッグ等の大気汚染を生じさせる原因となる硫黄酸化物SOxや窒素酸化物NOx等の有害な化学物質が含まれており、酸性雨や大気汚染を低減するためには、燃焼ガス中に微粒子として存在するこれらの化学物質を取り除く必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-116855号公報(第6頁、第1図)
【非特許文献】
【0004】
【文献】コンクリート工学年次論文集 公益社団法人日本コンクリート工学会 平成21年度 第31巻 第1号(第1747頁~第1752頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、例えば燃焼ガス中の窒素酸化物を取り除く方法として、還元剤と触媒を使用して窒素酸化物を窒素と水に分解して無害化する方法が知られている(特許文献1)。また、近年では、ナノオーダーの微細気孔を有するゼオライトや活性炭を使用して微粒子を吸着・除去する方法が注目されているが、これらの方法で使用される材料はいずれも高価であり、処理コストが高くなるため、先進国以外での導入は難しいという問題がある。
【0006】
また、安価に入手できる粘土やボラ土等の火山灰土壌がゼオライトや活性炭のように微粒子の吸着機能を有することが知られている(非特許文献1)が、紛体の状態のまま使用する場合には、紛体そのものをろ過処理する装置が必要となり、吸着材として扱いにくく、紛体を接着や焼成することにより粒状に加工する方法が考えられるが、焼成によりこれらの火山灰土壌の吸着機能が低下することが判明した。
【0007】
発明者らは、特定の火山灰土壌、特に特定の鬼界アカホヤ火山灰土壌や赤玉火山灰土壌を特定の条件で焼成することにより微粒子の吸着効率に優れることを見出した。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、微粒子の吸着効率が高く、取り扱い性に優れる微粒子吸着材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明の微粒子吸着材は、
Al2O3が30wt%以上、見かけの気孔率が40%以上、かつ比表面積2m2/g以上の火山灰土壌焼結体を用いたことを特徴としている。
この特徴によれば、微粒子の吸着効率が高く、取り扱い性に優れる。
【0010】
700℃以上で焼成されており、Al2O3が30wt%以上、見かけの気孔率が40%以上、かつ比表面積10m2/g以上の火山灰土壌焼結体を用いたことを特徴としている。
この特徴によれば、微粒子の吸着効率が高く、取り扱い性に優れる。
【0011】
700℃以上で焼成されており、Al2O3が30wt%以上、100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積0.05cm3/g以上、かつ比表面積10m2/g以上の火山灰土壌焼結体を用いたことを特徴としている。
この特徴によれば、100nm以下の微細な気孔を多く有していることにより、微粒子の吸着効率が高い。
【0012】
前記火山灰土壌焼結体は、石英、曹長石のような珪酸塩・アルミノ珪酸塩鉱物の構造をもち、SiO2とAl2O3を主成分とすることを特徴としている。
この特徴によれば、微粒子の吸着効率が高く、取り扱い性に優れる。尚、主成分とは、構成成分の中で80%以上を占めることをいう。
【0013】
比表面積30m2/g以上であることを特徴としている。
この特徴によれば、表面積が広く、微粒子の吸着効率が高い。
【0014】
Fe2O3が10wt%以上である火山灰土壌を主原料とすることを特徴としている。
これによれば、鉄由来の鉱物による10nm以下の細孔の容積が大きく、微粒子の吸着効率が高い。尚、主原料とは、重量比において50%以上を占めることをいう。
【0015】
本発明の微粒子吸着材の製造方法は、
Al2O3とFe2O3との合計が40wt%以上の火山灰土壌を加圧成形するステップと、
前記ステップで加圧成形された成形体を700℃以上1100℃以下で焼成するステップと、
前記焼成された焼成体を破砕するステップと、を含むことを特徴としている。
この特徴によれば、微粒子の吸着効率が高く、取り扱い性に優れた微粒子吸着材を得ることができる。
【0016】
前記焼成温度は、780℃以上920℃以下であることを特徴としている。
この特徴によれば、焼成後の見かけの気孔率及び比表面積の減少を抑えることができるため、微粒子の吸着効率が高い微粒子吸着材を得ることができる。
【0017】
前記破砕後、1.0~3.0mmの粒度を選別するステップを含むことを特徴としている。
この特徴によれば、比表面積を大きくしつつ、微粒子吸着材間を微粒子が通過しやすくすることができるため、微粒子の吸着効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例における微粒子吸着材を構成するアカホヤ及び赤玉土の焼成温度毎の細孔径分布の関係を示すグラフである。
【
図2】粘土の焼成温度800℃における細孔径分布を示すグラフである。
【
図3】ボラ土の焼成温度800℃における細孔径分布を示すグラフである。
【
図4】焼成温度800℃のアカホヤ、赤玉土、粘土に対するX線回折の結果を示す図である。
【
図5】見かけの気孔率と焼成温度との関係を示すグラフである。
【
図6】比表面積と焼成温度との関係を示すグラフである。
【
図8】NO
2濃度低減と焼成温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明者らは、石炭、石油、天然ガス等の化石燃料を燃焼させたときに発生する燃焼ガス中に含まれる有害な化学物質であるNOx(窒素酸化物)やSOx(硫黄酸化物)等の微粒子を吸着する素材として、所定の温度範囲で焼成された火山灰土壌、特に天然の鬼界アカホヤ火山灰土壌(以下、単に「アカホヤ」と表記する。)及び赤玉火山灰土壌(以下、単に「赤玉土」と表記する。)の焼結体が優れるとの知見を得た。研究の結果から、成分及び構造に着目することが有意であったことから、先ずこの事項について説明する。
【0020】
微粒子吸着材について説明する。微粒子吸着材は、Al2O3(酸化アルミニウム)の成分組成比が高い火山灰土壌の焼結体であり、詳しくは、Al2O3の成分組成比が30wt%以上の火山灰土壌の焼結体である。
【0021】
また、微粒子吸着材は、径100nm以下の無数の細孔を有し、詳しくは、見かけの気孔率が40%以上、比表面積2m2/g以上の火山灰土壌の焼結体であり、好ましくは、見かけの気孔率が40%以上、100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積0.05cm3/g以上、かつ比表面積10m2/g以上の火山灰土壌の焼結体であり、その見かけの気孔率、100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積、比表面積が大きいため、ファンデルワールス力等により細孔内に入った微粒子がその細孔内に吸着された状態で留まる現象が生じる。
【0022】
このように、微粒子吸着材は、径100nm以下の無数の細孔により微粒子を物理的に吸着することにより、微粒子を効率よく吸着することができる。
【0023】
本発明に係る微粒子吸着材を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【0024】
微粒子吸着材は、宮崎県東諸県郡地区産出のアカホヤ、栃木県鹿沼地区産出の赤玉土をそれぞれ高速回転ミル(大阪ケミカル社製ABS-W)で粉砕し、0.5mm以下の粒状にふるいを用いて選別した後、少量の水を加え、10MPaで加圧成形した成形体を次の条件で焼成することにより土壌由来の有機物を分解して無機化し構成化合物を安定させ、一定の形状と強度を確保する。また、焼成後、炉冷した焼結体を破砕してふるいを用いて1.0~3.0mm(好ましくは1.4~2.0mm)の粒度に選別した。尚、対照サンプルとして宮崎県都城地区産出の粘土、宮崎県都城地区産出のボラ土についても同様の加工処理を行った。
温度 800℃,900℃,1000℃
保持時間 60分(昇温100℃/1時間)
焼成装置(共栄電気炉製作所製KY-4N)
【0025】
焼成後のアカホヤ、赤玉土、粘土、ボラ土の成分組成比は以下の表1のとおりであった。尚、成分組成比は、島津製作所社製エネルギー分散型蛍光X線分析装置EDX-720を用いてJIS K0119:2008により分析した。
【0026】
【0027】
Al2O3の成分組成比は、焼成後のアカホヤは38.3wt%、赤玉土は33.0wt%であり、同じく23.9wt%、20.1wt%である粘土やボラ土と比べて成分組成比が高い。
【0028】
また、Fe2O3の成分組成比は、焼成後の赤玉土は12.5wt%であり、同じく3.96wt%、5.13wt%、5.00wt%であるアカホヤ、粘土、ボラ土と比べて成分組成比が高い。
【0029】
また、Al2O3及びFe2O3の成分組成比の合計は、焼成後のアカホヤは42.26wt%、赤玉土は45.5wt%であり、同じく29.03wt%、25.1wt%である粘土やボラ土と比べて成分組成比が高い。一方で、SiO2の成分組成比は、焼成後のアカホヤは52.4wt%、赤玉土は48.2wt%であり、同じく63.5wt%、67.2wt%である粘土やボラ土と比べて成分組成比が低い。
【0030】
ここで、焼成温度によって細孔径分布、見かけの気孔率、比表面積が変化しているので以下説明する。尚、細孔径分布は、MicrotracBEL社製BELSORP-maxを用いてガス吸着法(JIS Z8831-2:2001)により分析した。
【0031】
図1のグラフに示されるように、アカホヤ及び赤玉土の細孔は、径1~100nmに分布しており、焼成温度800℃では、径10nm以下の細孔容積の分布が粘土(
図2のグラフ参照)やボラ土(
図3のグラフ参照)と比べて多いが、焼成温度900℃では、特に径10nm以下の細孔が減少し、焼成温度1000℃では、径10nm以下の細孔がさらに減少し、特に5nm以下の細孔の分布がほとんどなくなっている。すなわち、焼成温度が高くなるにつれて細孔が閉塞し、細孔径分布が変化することが確認された。尚、
図1~
図3のグラフは、log微分細孔容積分布であり、縦軸がdV/d(logD)、横軸が対数目盛りで表されている。詳しくは、縦軸は差分細孔容積dVを細孔径の対数扱いの差分値d(logD)で割った値であり、この値を各区間の平均細孔径に対してプロットしている。
【0032】
また、アカホヤよりも赤玉土が径10nm以下の小さな細孔の細孔容積が大きい。すなわち、赤玉土は、径10nm以下の小さな細孔を多く有していることが分かる。これは、赤玉土におけるFe2O3の成分組成比が12.5wt%であり、同じく3.96wt%のアカホヤと比べて高く、Fe2O3由来の鉱物における10nm以下の小さな細孔の絶対数が多いためであると推測される。
【0033】
また、焼成後のアカホヤ、赤玉土、粘土の焼成温度800~1100℃における細孔径100nm以下(いわゆるミクロポア)の微細な気孔の積算細孔容積は、それぞれ以下の表2のとおりであった。
【0034】
【0035】
表2に示されるように、焼成後のアカホヤ及び赤玉土は、100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積が焼成温度800℃で0.05cm3/g以上であり、粘土と比べて焼成温度800℃における100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積が高いことが確認できる。
【0036】
これは、焼成後のアカホヤにおけるAl2O3とFe2O3の成分組成比の合計が42.26wt%、焼成後の赤玉土におけるAl2O3とFe2O3の成分組成比の合計が45.5wt%であり、同じく29.03wt%の粘土と比べて高く、焼成後のアカホヤ及び赤玉土には、大きな比表面積を有するAl2O3由来の鉱物及びFe2O3由来の鉱物が多く含まれており、これらの鉱物は100nm以下の微細な気孔を多く有しているものと推測される。
【0037】
ここで、焼成温度800℃におけるアカホヤ、赤玉土、粘土の成分について、PANalytical社製X’Pert Pro MRDを用いてX線回析により成分を同定した。
【0038】
図4に示されるように、アカホヤ及び赤玉土には、主に石英(Quartz)(SiO
2)や曹長石(Albite)(Na
2Al
2Si
2O
8)のような珪酸塩・アルミノ珪酸塩鉱物が含まれており、SiO
2とAl
2O
3を主成分とすることが確認できる。また、赤玉土には、石英や曹長石の他に、白雲母(Muscovite)や赤鉄鉱(Hematite)のような珪酸塩・酸化鉄珪酸塩鉱物が含まれており、SiO
2とAl
2O
3に加えてFe
2O
3を主成分とすることが確認できる。
【0039】
また、表2に示されるように、焼成後の赤玉土は、100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積が焼成温度800℃で0.1561cm3/gであり、同じく焼成温度800℃で0.0583cm3/gのアカホヤと比べて焼成温度800℃における100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積が高いことが確認できる。
【0040】
これは、焼成後のアカホヤに多く含まれるAl
2O
3由来の鉱物においては、10nmより大きく100nm以下の細孔の絶対数が少ない一方、焼成後の赤玉土に多く含まれるFe
2O
3由来の鉱物においては、10nmより大きく100nm以下の細孔の絶対数が多いためであると推測される。また、前述したように、焼成後の赤玉土に多く含まれるFe
2O
3由来の鉱物においては、10nm以下の小さな細孔の絶対数が多いことから、焼成後の赤玉土はアカホヤと比べて径100nm以下の細孔(いわゆるミクロポア及びサブミクロポア)の絶対数が多く(
図1のグラフ参照)、これにより、焼成後の赤玉土の比表面積が大きくなるものと推測される(
図6のグラフ参照)。
【0041】
また、焼成後の赤玉土は、100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積が焼成温度900℃で0.0854cm3/gであり、同じく0.0380cm3/gのアカホヤと比べて焼成温度900℃における100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積が高いことが確認できる。
【0042】
これは、前述したように、赤玉土はアカホヤと比べて100nm前後の細孔の絶対数が多く、焼成温度の上昇により細孔が閉塞したときに100nm以下の細孔となるものが多く存在するためであると推測される。
【0043】
また、焼成後のアカホヤ、赤玉土、粘土の焼成温度800~1000℃における細孔径100nm以下(いわゆるミクロポア)の細孔容積に占める細孔径10nm以下(いわゆるサブミクロポア)の細孔の容積割合は、それぞれ以下の表3のとおりであった。
【0044】
【0045】
表3に示されるように、焼成後のアカホヤ及び赤玉土は、細孔径100nm以下の細孔容積に占める細孔径10nm以下の細孔の容積割合が焼成温度800℃で40vol%以上、焼成温度900℃で20vol%以上であり、粘土と比べて焼成温度800~900℃における細孔径100nm以下の細孔容積に占める細孔径10nm以下の細孔の容積割合が高いことが確認できる。
【0046】
これは、焼成後のアカホヤにおけるAl2O3とFe2O3の成分組成比の合計が42.26wt%、焼成後の赤玉土におけるAl2O3とFe2O3の成分組成比の合計が45.5wt%であり、同じく29.03wt%の粘土と比べて高く、焼成後のアカホヤ及び赤玉土には、大きな比表面積を有するAl2O3由来の鉱物及びFe2O3由来の鉱物が多く含まれており、これらの鉱物は10nm以下の小さな細孔(いわゆるサブミクロポア)を多く有しているものと推測される。
【0047】
また、表3に示されるように、焼成後のアカホヤは、細孔径100nm以下の細孔容積に占める細孔径10nm以下の細孔の容積割合が焼成温度800℃で56vol%、900℃で28vol%であり、同じく焼成温度800℃で43vol%、900℃で22vol%の赤玉土と比べて焼成温度800~900℃における細孔径100nm以下の細孔容積に占める細孔径10nm以下の細孔の容積割合が高いことが確認できる。
【0048】
これは、焼成後のアカホヤに多く含まれるAl
2O
3由来の鉱物においては、10nmより大きく100nm以下の細孔の絶対数が少ない一方、焼成後の赤玉土に多く含まれるFe
2O
3由来の鉱物においては、10nmより大きく100nm以下の細孔の絶対数が多いためであると推測される。また、前述したように、焼成後の赤玉土に多く含まれるFe
2O
3由来の鉱物においては、10nm以下の小さな細孔の絶対数が多いことから、焼成後の赤玉土はアカホヤと比べて径100nm以下の細孔(いわゆるミクロポア及びサブミクロポア)の絶対数が多く(
図1のグラフ参照)、これにより、焼成後の赤玉土の比表面積が大きくなるものと推測される(
図6のグラフ参照)。
【0049】
また、焼成後の赤玉土は、細孔径100nm以下の細孔容積に占める細孔径10nm以下の細孔の容積割合が焼成温度1000℃で19vol%であり、同じく7vol%のアカホヤと比べて焼成温度1000℃における細孔径100nm以下の細孔容積に占める細孔径10nm以下の細孔の容積割合が高いことが確認できる。
【0050】
これは、前述したように、赤玉土はアカホヤと比べて10nmより大きく100nm以下の細孔の絶対数が多く、焼成温度の上昇により細孔が閉塞したときに10nm以下の細孔となるものが多く存在するためであると推測される。
【0051】
また、見かけの気孔率は、Micromeritics社製AutoPoreVI9500を用いて水銀圧入法(JIS R1655)により分析した。
【0052】
図5のグラフに示されるように、アカホヤの見かけの気孔率は、焼成温度800℃で44.9%、焼成温度900℃で46.1%、焼成温度1000℃で46.3%、焼成温度1100℃で44.9%、焼成温度1150℃で41.7%である。また、赤玉土の見かけの気孔率は、焼成温度800℃で47.5%、焼成温度900℃で49.6%、焼成温度1000℃で46.5%、焼成温度1100℃で45.9%、焼成温度1150℃で40.8%である。すなわち、アカホヤ及び赤玉土は、見かけの気孔率が焼成温度800~1150℃で40%以上であることが確認された。
【0053】
また、粘土の見かけの気孔率は、焼成温度800℃で31.9%、焼成温度900℃で31.7%、焼成温度1000℃で27.9%である。すなわち、焼成温度800~1000℃において、アカホヤ及び赤玉土は、粘土と比べて見かけの気孔率が高く、焼成温度の上昇に伴って見かけの気孔率が減少しにくいことが確認された。
【0054】
また、比表面積は、MicrotracBEL社製BELSORP-maxを用いてBET法(JIS Z8830)により求めた。
【0055】
図6のグラフに示されるように、アカホヤの比表面積は、焼成温度800℃で32.2m
2/g、焼成温度900℃で7.51m
2/g、焼成温度1000℃で2.3m
2/gと減少している。また、赤玉土の比表面積は、焼成温度800℃で73.2m
2/g、焼成温度900℃で12.6m
2/g、焼成温度1000℃で4.94m
2/gと減少している。すなわち、焼成温度が高くなるにつれて、特に焼成温度900℃を超えると細孔の閉塞に伴い比表面積が急激に減少することが確認された。また、粘土の比表面積は、焼成温度800℃で10.0m
2/g、焼成温度900℃で4.35m
2/gであり、ボラ土の比表面積は、焼成温度800℃で3.83m
2/g、焼成温度900℃で0.495m
2/gであることから、焼成温度800~900℃におけるアカホヤ及び赤玉土の比表面積は、粘土やボラ土と比べて大きいことが確認された。
【0056】
このように、アカホヤは800℃、赤玉土は900℃(好ましくは800℃)で焼成されることで、見かけの気孔率が40%以上、100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積が0.05cm3/g以上(好ましくは0.08cm3/g以上)、かつ比表面積10m2/g以上(好ましくは30m2/g以上)となり好ましい。後述するように、このような焼成温度とすることにより、微粒子吸着材としてのアカホヤ及び赤玉土の焼結体の細孔による微粒子の物理的な吸着能力を維持することができる。また、土壌由来の有機物を完全に分解して無機化して材料を安定化させるため、焼成温度は、好ましくは700~1100℃、さらに好ましくは780~920℃であることにより、見かけの気孔率や比表面積の減少を抑制できることが判明した。
【0057】
すなわち、微粒子吸着材としてのアカホヤ及び赤玉土の焼結体は、粘土及びボラ土の焼結体と比べて、耐熱性の高い担体であるAl2O3の成分組成比が高いため、焼成温度の上昇に伴う見かけの気孔率や比表面積の減少が抑制されると推測される。また、特に、微粒子吸着材としての赤玉土の焼結体は、アカホヤ、粘土及びボラ土の焼結体と比べて、Fe2O3の成分組成比が高いため、Fe2O3由来の鉱物における10nm以下の小さな細孔(いわゆるサブミクロポア)の絶対数が多く、その比表面積が大きくなることにより、微粒子の吸着効率がより高いものと推測される。これにより、微粒子吸着材としてのアカホヤ及び赤玉土の焼結体は、径100nm以下の無数の細孔により微粒子を効率よく吸着することができる。言い換えれば、微粒子吸着材としてのアカホヤ及び赤玉土の焼結体は、見かけの気孔率が高いことにより、細孔によって微粒子を取り込む空間が大きく、かつ比表面積が大きいことにより、細孔内に取り込まれた微粒子の吸着場が大きいため、微粒子を効率よく吸着することができる。
【0058】
また、アカホヤ及び赤玉土の焼結体は、焼成温度を高くしても見かけの気孔率や比表面積等が減少しにくいことから、焼成温度を高く設定して焼き締まりにより微粒子吸着材の強度を高めることができるため、微粒子吸着材が壊れにくくなり、取り扱い性を高めることができる。
【0059】
このように、微粒子吸着材は、九州南部において地下の比較的浅い場所に無尽蔵に存在する自然素材であるアカホヤまたは赤玉土の焼結体から構成されることにより、微粒子に対する高い吸着能力を有しながら、アカホヤまたは赤玉土に対する加工処理が少なく、安価にかつ容易に微粒子吸着材を得ることができる。尚、微粒子吸着材の原料として用いるアカホヤは、九州南部において産出されたものであれば、宮崎県東諸県郡地区産出のものに限らない。
【0060】
また、微粒子吸着材は、紛体ではなく1.0~3.0mm(好ましくは1.4~2.0mm)の粒度の粒状体に形成されることにより、形状を小さくして比表面積を大きくしつつ、微粒子吸着材間を微粒子が通過しやすくすることができるため、微粒子の吸着効率が高い。
【0061】
尚、以下の実施例におけるアカホヤや赤玉土等の火山灰土壌は、上述した成分のものを用いている。
【実施例】
【0062】
(実験条件・実験方法)
実施例に係る微粒子吸着材を用いたNO
2(二酸化窒素)吸着試験装置について説明する。
図7に示されるように、本実施例のNO
2吸着試験装置100は、約10ppmのNO
2標準ガス(住友精化株式会社製 10ppm/エアーベース)を貯蔵したガスボンベ10と、容量20Lのサンプリングバッグ20(テックジャム社製 テドラーバッグ)と、エアーポンプ30(イワキ社製 APN-085E-D2-W)と、アナログ式流量計(コフロック社製 RK-1650)及びデジタル式流量計40(アズビル社製 マスフローメーターCMS0020BSRN)と、NO
2濃度測定器50(新コスモス電機社製 XPS-7)と、試料1を充填可能な試験管60と、から主に構成され、サンプリングバッグ20と、エアーポンプ30と、アナログ式流量計及びデジタル式流量計40と、NO
2濃度測定器50と、試験管60とは接続されて回路を構成している。尚、ガスボンベ10は、サンプリングバッグ20に個別に接続されている。
【0063】
次いで、試料1を用いたNO2吸着試験の方法について説明する。先ず、エアーポンプ30を起動し、約5Lの清浄空気を充填速度1.0L/min、充填時間5分の条件でサンプリングバッグ20に充填する。次に、ガスボンベ10から約10ppmのNO2ガスを同様にサンプリングバッグ20に充填し、清浄空気と混合する。このとき、サンプリングバッグ20内の混合ガスの総量は10L、濃度は約5ppmである。
【0064】
次に、前記混合ガスの濃度を均一にするためにエアーポンプ30を起動し、1.0L/minの流量で20分間、回路内を循環させる。このとき、試験管60には試料1を充填せず、3分後、10分後、20分後にそれぞれエアーポンプ30を停止してNO2濃度が経時的に変化しないことを確認し、サンプリングバッグ20の入口側及び出口側のコックを閉めてNO2ガスを密閉する。
【0065】
次に、試験管60に5gの試料1を充填して密閉した後、サンプリングバッグ20の入口側及び出口側のコックを開けてエアーポンプ30を起動し、サンプリングバッグ20内からNO2ガスを1.0L/minの流量で4時間、回路内を循環させ、15分置きにエアーポンプ30を停止し、NO2ガス濃度を測定する。尚、試験管60に充填される試料1は、本発明の微粒子吸着材としてのアカホヤ、赤玉土と対照サンプルとしての粘土を焼成温度800℃、900℃、1000℃でそれぞれ加工処理したものを使用する。さらに尚、別の対照サンプルとして未焼成のボラ土も使用した。
【0066】
(実験結果)
図8のグラフに示されるように、NO
2ガスが微粒子吸着材としてのアカホヤ、赤玉土及び対照サンプルとしての粘土、ボラ土にそれぞれ吸着されることにより、NO
2ガス濃度が時間の経過と共に低減していき、4時間後にはNO
2ガス濃度が略0ppmまで低減する。すなわち、アカホヤ、赤玉土、粘土、ボラ土を素材とする微粒子吸着材は、NO
2ガスの吸着能力を有することが確認された。
【0067】
また、吸着速度の例を挙げると、焼成温度800℃のアカホヤ、焼成温度800~900℃の赤玉土は、1時間後にNO
2ガス濃度が1ppm以下まで低減している(
図8のグラフに示されるメッシュ領域参照)。すなわち、本発明の微粒子吸着材としての焼成温度800℃のアカホヤ、焼成温度800~900℃の赤玉土は、短時間(1時間後)にNO
2ガス除去率80%以上の吸着性能を有しており、微粒子の吸着効率が高いことが確認された。尚、これらの微粒子吸着材は、NO
2以外の窒素酸化物や硫黄酸化物等の微粒子に対しても吸着効果を奏する。
【0068】
また、
図8のグラフに示されるように、微粒子吸着材として赤玉土の焼結体は、アカホヤの焼結体よりもNO
2ガス濃度の低減速度が速く、NO
2の吸着効率に優れることが確認された。これは、赤玉土に多く含まれるFe
2O
3由来の鉱物における10nm以下の小さな細孔(いわゆるサブミクロポア)がNO
2ガス濃度の低減に有効であるためと推測される。
【0069】
このように、微粒子吸着材は、Al
2O
3とFe
2O
3との成分組成比合計が40wt%以上、見かけの気孔率が40%以上、100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積が0.05cm
3/g以上、かつ比表面積10m
2/g以上の火山灰土壌焼結体(焼成温度800℃のアカホヤ、焼成温度800~900℃の赤玉土)が用いられることにより、100nm以下の微細な気孔を多く有していることとなり、微粒子の吸着効率が高い。特に、微粒子吸着材は、Fe
2O
3の成分組成比が10wt%以上の火山灰土壌焼結体(焼成温度800~900℃の赤玉土)が用いられることにより、Fe
2O
3由来の鉱物が多く含まれ、径100nm以下の細孔(いわゆるミクロポア及びサブミクロポア)の絶対数、特に10nm以下の小さな細孔(いわゆるサブミクロポア)が多いことから比表面積が大きく(
図6参照)なり、微粒子の吸着効率に優れる。
【0070】
尚、
図8のグラフからは、焼成温度800℃の赤玉土が最もNO
2の吸着効率に優れており、焼成温度800℃のアカホヤと焼成温度900℃の赤玉土のNO
2の吸着効率は略同一であることが確認できる。
図6のグラフに示されるように、アカホヤの比表面積は、焼成温度800℃で32.2m
2/g、赤玉土の比表面積は、焼成温度800℃で73.2m
2/g、焼成温度900℃で12.6m
2/gであることから、比表面積が大きいほど当該吸着性能が高いことが判明した。
【0071】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0072】
例えば、前記実施例では、微粒子吸着材としてアカホヤまたは赤玉土の焼結体が用いられる例について説明したが、微粒子吸着材は、Al2O3が30wt%以上、見かけの気孔率が40%以上、かつ比表面積2m2/g以上の火山灰土壌焼結体(好ましくはAl2O3が30wt%以上、見かけの気孔率が40%以上、かつ比表面積10m2/g以上の火山灰土壌焼結体)、またはAl2O3が30wt%以上、100nm以下の微細な気孔の積算細孔容積が0.05cm3/g以上、かつ比表面積10m2/g以上の火山灰土壌焼結体であれば、アカホヤまたは赤玉土以外の火山灰土壌の焼結体から構成されていてもよい。また、アカホヤまたは赤玉土以外の火山灰土壌におけるAl2O3の成分組成比が30wt%以上となるようにAl2O3由来の鉱物を添加してもよい。
【0073】
また、微粒子吸着材は、アカホヤにおけるFe2O3の成分組成比が10wt%以上となるようにFe2O3由来の鉱物を添加してもよい。さらに、アカホヤまたは赤玉土以外の火山灰土壌におけるAl2O3の成分組成比が30wt%以上、Fe2O3の成分組成比が10wt%以上となるようにAl2O3由来の鉱物及びFe2O3由来の鉱物を添加してもよい。
【0074】
また、微粒子吸着材は、アカホヤ及び赤玉土の少なくとも一方を主成分として、例えば粘土やボラ土等の他の火山灰土壌が混合された焼結体であってもよい。また、吸着対象となる微粒子の種類に応じて、アカホヤ及び赤玉土の混合比は適宜調整されることが好ましい。
【0075】
また、微粒子吸着材の形状は、粒体に限らず、塊体として形成されてもよい。
【産業上の利用分野】
【0076】
1.石炭、石油、天然ガス等の化石燃料を燃焼させたときに発生する燃焼ガス中の有害な化学物質である窒素酸化物や硫黄酸化物等の微粒子を吸着するための浄化材及び浄化装置としての利用。
2.人工ゼオライトの代替材料。
3.活性炭の代替材料。