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特許7511844標的物質のポリマーレプリカ基板及びその製造方法、並びに基板センサの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】標的物質のポリマーレプリカ基板及びその製造方法、並びに基板センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20240701BHJP
   C07K 17/08 20060101ALN20240701BHJP
   G01N 33/543 20060101ALN20240701BHJP
【FI】
C08F8/00
C07K17/08
G01N33/543
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020552937
(86)(22)【出願日】2019-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2019034855
(87)【国際公開番号】W WO2020079979
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2018195918
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 俊文
(72)【発明者】
【氏名】砂山 博文
(72)【発明者】
【氏名】高野 恵里
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-019992(JP,A)
【文献】特開2006-137805(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221271(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結合性基BG1及び結合性基BG2を含む複数種の結合性基を表面に有する標的物質のポリマーレプリカであって、前記標的物質を鋳型とする第1分子インプリントポリマーを鋳型とする第2分子インプリントポリマーで構成されており、
前記ポリマーレプリカが、その表面において、前記標的物質の表面の前記結合性基BG1の位置に応じた位置に結合性基bg1、及び前記結合性基BG2の位置に応じた位置に結合性基bg2を少なくとも有する、標的物質のポリマーレプリカ。
【請求項2】
基板と、前記基板の表面上に設けられた、凸部を有するポリマー膜とを更に含み、
前記凸部が、前記第2分子インプリントポリマーで構成されている、請求項1に記載の標的物質のポリマーレプリカ。
【請求項3】
前記標的物質がタンパク質であり、
前記結合性基BG1及び結合性基BG2が、カルボキシル基、アミノ基及び糖基の少なくとも2種であり、
前記結合性基bg1及び結合性基bg2が、カルボキシル基、チオール基及び糖基の少なくとも2種である、請求項1又は2に記載の標的物質のポリマーレプリカ。
【請求項4】
複数種の結合性基を表面に有する標的物質に、前記結合性基のうちの少なくとも結合性基BG1を介して、ビニル基及び可逆的連結基RV1を有する機能性モノマーFM1を結合させる工程1と、
基板S1上に、前記結合性基のうちの結合性基BG2を反応させ、可逆的連結基RV2を介して前記標的物質を固定する工程2と、
前記基板S1上でビニルモノマーを添加し、前記ビニル基と共重合させることで分子インプリンティングを行う工程3と、
前記可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2を切断して前記標的物質を除去することにより、前記標的物質を鋳型とする凹部と前記凹部表面に切断残基である結合性基bg1’及び結合性基bg2’とを含む第1分子インプリントポリマーを得る工程4と、
前記第1分子インプリントポリマーの結合性基bg1’と結合性基bg2’とに、それぞれ、前記結合性基bg1’と反応して可逆的連結基RV1を形成する反応性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM51と、前記結合性基bg2’と反応して可逆的連結基RV2を形成する反応性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM52を反応させる工程5と、
前記第1分子インプリントポリマー上にビニルモノマーを添加し、前記機能性モノマーFM51,FM52の前記ビニル基と共重合させることで分子インプリンティングを行う工程6と、
前記可逆的連結基RV1及び前記可逆的連結基RV2を切断して前記第1分子インプリントポリマーを除去することにより、切断残基である結合性基bg1及び結合性基bg2を有する第2分子インプリントポリマーを得る工程7と、を含む、標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
【請求項5】
前記工程6において、前記第1分子インプリントポリマー上に前記ビニルモノマーを添加し、前記ビニルモノマーを介して基板S2を積層し、前記機能性モノマーFM51,FM52の前記ビニル基と共重合させることで分子インプリンティングを行い、
前記工程7において、前記可逆的連結基RV1及び前記可逆的連結基RV2を切断して前記第1分子インプリントポリマーを除去することにより、基板S2と、前記基板S2の表面上に切断残基である結合性基bg1及び結合性基bg2を有する第2分子インプリントポリマーを得る、請求項4に記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
【請求項6】
前記標的物質がタンパク質であり、
前記工程3において、前記ビニルモノマーが、塩基性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM3を含み、
前記工程6において、前記ビニルモノマーが、酸性基bg3及びビニル基を有する機能性モノマーFM6を含む、請求項4に記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
【請求項7】
前記結合性基BG1がアミノ基である、請求項4~6のいずれかに記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
【請求項8】
前記可逆的連結基RV1がジスルフィド基であり、前記結合性基bg1がチオール基である、請求項4~7のいずれかに記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
【請求項9】
前記タンパク質が糖複合体であり、
前記結合性基BG2が糖基、前記可逆的連結基RV2がボロン酸cisジオールエステル基、前記結合性基bg2がボロン酸基である、請求項に記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
【請求項10】
請求項2に記載の標的物質のポリマーレプリカ又は請求項5に記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法によって得られる標的物質のポリマーレプリカの、前記基板上の第2分子インプリントポリマー表面で、前記結合性基bg1と結合性基bg2とに、それぞれ、前記結合性基bg1と反応して可逆的連結基RV1を形成する反応性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM111と、前記結合性基bg2と反応して可逆的連結基RV2を形成する反応性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM112を反応させる工程11と、
前記基板上の第2分子インプリントポリマーにビニルモノマーを添加し、前記ビニルモノマーを介して基板S3を積層し、前記機能性モノマーFM111,FM112の前記ビニル基と共重合させることで分子インプリンティングを行う工程12と、
前記可逆的連結基RV1及び前記可逆的連結基RV2を切断して前記標的物質のポリマーレプリカ基板を剥離することにより、基板S3と、前記第2分子インプリントポリマーを鋳型とする凹部と、前記凹部表面に切断残基である結合性基bg1’及び結合性基bg2’を有する第3分子インプリントポリマーを得る工程13と、
前記結合性基bg1’及び結合性基bg2’の少なくともいずれかに、結合性基BG1及び結合性基BG2の少なくともいずれかと相互作用するポストインプリンティング化合物及び/又はシグナル物質を結合させる工程14と、
を含む、基板センサの製造方法。
【請求項11】
前記標的物質がタンパク質であり、
前記工程12において、前記ビニルモノマーが、塩基性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM12を含む、請求項10に記載の基板センサの製造方法。
【請求項12】
前記結合性基BG1がアミノ基である、請求項10又は11に記載の基板センサの製造方法。
【請求項13】
前記可逆的連結基RV1がジスルフィド基であり、前記結合性基bg1’がチオール基である、請求項10~12のいずれかに記載の基板センサの製造方法。
【請求項14】
前記タンパク質が糖複合体であり、
前記結合性基BG2が糖基、前記可逆的連結基RV2がボロン酸cisジオールエステル基、前記結合性基bg2’がボロン酸基である、請求項11に記載の基板センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的物質のポリマーレプリカ基板及びその製造方法、並びに基板センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子インプリントポリマー(MIP)は、標的分子を鋳型とし、その周囲にモノマー分子を集積させるとともに架橋剤によって共重合し、共重合後、鋳型である標的分子を洗い出すことによって作製される人工高分子である。MIPには、鋳型による分子インプリント空間が形成されており、この空間が標的分子を特異的に認識することを利用して、抗体に代わる人工材料として期待されている。
【0003】
分子インプリントポリマーを作製する具体的な例として、例えば特許文献1に、標的タンパク質に対する特異的認識空間を有する分子インプリントポリマーを製造するための方法であって、上記標的タンパク質を構成する分子の反応性基(1)を介して、末端にビニルモノマー基を有し且つ末端以外の部分に切断性基(1)を有する機能性モノマー(I)を複数結合させる工程(ここで、上記切断性基(1)は、ジスルフィド結合基、イミノ結合基、ボロン酸cisジオールエステル基、またはカルボン酸エステル基を示す);上記標的タンパク質を構成する分子の反応性基(2)を介して、末端にビニルモノマー基を有し且つ末端以外の部分に切断性基(2)を有する機能性モノマー(II)を複数結合させる工程(ここで、上記切断性基(2)は、ジスルフィド結合基、イミノ結合基、ボロン酸cisジオールエステル基、またはカルボン酸エステル基であって、上記切断性基(1)とは異なる基を示す);基材上に自己組織化単分子膜を形成する工程;上記自己組織化単分子膜の表面へ、上記標的タンパク質を結合させる工程;ビニルモノマーを添加し、上記機能性モノマー(I)および上記機能性モノマー(II)のビニルモノマー基と共重合させる工程;少なくとも上記切断性基(1)および切断性基(2)を切断することにより、上記標的タンパク質を除去する工程;上記切断性基(1)を切断することにより生成する基に、上記反応性基(1)と相互作用するポストインプリンティング化合物を複数結合させるか、または、上記切断性基(2)を切断することにより生成する基に、上記反応性基(2)と相互作用するポストインプリンティング化合物を複数結合させる工程;および、 上記切断性基(1)を切断することにより生成する基または上記切断性基(2)を切断することにより生成する基であって、上記ポストインプリンティング化合物を結合させなかった基に、蛍光レポーター化合物を複数結合させる工程を含むことを特徴とする方法が記載されている。このように作製された、標的タンパク質に対する特異的認識空間を有する分子インプリントポリマーは、基板センサ等として利用することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-19992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MIPの作製時には、鋳型として、精製された標的分子が必要となる。しかしながら、標的分子は一般的に高価であり入手困難性が高い。そうでありながら、標的分子は、不安定なだけでなく、鋳型としてMIPの合成に供された後には、除去される工程で分解等の処理を受けるため、使い捨てにされるのが通常である。このため、センサ基板の製造効率は極めて悪く、標的分子のMIPによる基板センサ自体が希少且つ高価となるため、量産には遠く及ばない。
【0006】
本発明者は、鋳型としての標的分子を節約するため、分子インプリンティング技術を用いて標的分子のポリマーレプリカを得て、このようなポリマーレプリカを標的分子に見立て、人工鋳型として利用する手法に着眼した。
【0007】
標的分子のポリマーレプリカは、具体的には、標的分子を鋳型として作製されたMIP(第1インプリントポリマー)が有する凹状の分子インプリンティング空間をさらなる分子インプリンティングの鋳型として利用し、当該さらなる分子インプリンティングにより凸状のMIP(第2インプリントポリマー)として得ることが考えられる。
【0008】
しかしながら、ポリマーレプリカを鋳型としてさらに分子インプリンティングを行って基板センサを作製したとしても、MIPを鋳型とする分子インプリンティングが繰り返されることで、元の標的分子が有していた表面情報(官能基の位置情報と定性的情報)はもはや正確には受け継がれなくなる。このため、最終的に、ポリマーレプリカを鋳型として作製した基板センサの感度は悪くなる。
【0009】
そこで、本発明は、分子インプリンティング技術において標的分子が有していた表面情報(官能基の位置情報と定性的情報)を正確に受け継ぐことができる、標的分子のポリマーレプリカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討の結果、繰り返される分子インプリンティングの鋳型となる対象それぞれにおいて、先に、表面情報の要となる結合性基に可逆的連結基を介してビニル基を導入しておき、その後の分子インプリンティング工程で、鋳型側に導入したビニル基とモノマーを共重合させることで、MIPに鋳型の表面情報(官能基の位置情報と定性的情報)を正確に模倣できることを見出した。本発明は、この知見に基づき、さらに検討を重ねることにより完成された。すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
【0011】
項1. 少なくとも結合性基BG1及び結合性基BG2を含む複数種の結合性基を表面に有する標的物質のポリマーレプリカであって、前記標的物質を鋳型とする第1分子インプリントポリマーを鋳型とする第2分子インプリントポリマーで構成されており、
前記ポリマーレプリカが、その表面において、前記標的物質の表面の前記結合性基BG1の位置に応じた位置に結合性基bg1、及び前記結合性基BG2の位置に応じた位置に結合性基bg2を少なくとも有する、標的物質のポリマーレプリカ。
項2. 基板と、前記基板の表面上に設けられた、凸部を有するポリマー膜とを更に含み、
前記凸部が、前記第2分子インプリントポリマーで構成されている、項1に記載の標的物質のポリマーレプリカ。
項3. 前記標的物質がタンパク質であり、
前記結合性基BG1及び結合性基BG2が、カルボキシル基、アミノ基及び糖基の少なくとも2種であり、
前記結合性基bg1及び結合性基bg2が、カルボキシル基、チオール基及び糖基の少なくとも2種である、項1又は2に記載の標的物質のポリマーレプリカ。
項4. 複数種の結合性基を表面に有する標的物質に、前記結合性基のうちの少なくとも結合性基BG1を介して、ビニル基及び可逆的連結基RV1を有する機能性モノマーFM1を結合させる工程1と、
基板S1上に、前記結合性基のうちの結合性基BG2を反応させ、可逆的連結基RV2を介して前記標的物質を固定する工程2と、
前記基板S1上でビニルモノマーを添加し、前記ビニル基と共重合させることで分子インプリンティングを行う工程3と、
前記可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2を切断して前記標的物質を除去することにより、前記標的物質を鋳型とする凹部と前記凹部表面に切断残基である結合性基bg1’及び結合性基bg2’とを含む第1分子インプリントポリマーを得る工程4と、
前記第1分子インプリントポリマーの結合性基bg1’と結合性基bg2’とに、それぞれ、前記結合性基bg1’と反応して可逆的連結基RV1を形成する反応性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM51と、前記結合性基bg2’と反応して可逆的連結基RV2を形成する反応性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM52を反応させる工程5と、
前記第1分子インプリントポリマー上にビニルモノマーを添加し、前記機能性モノマーFM51,FM52の前記ビニル基と共重合させることで分子インプリンティングを行う工程6と、
前記可逆的連結基RV1及び前記可逆的連結基RV2を切断して前記第1分子インプリントポリマーを除去することにより、切断残基である結合性基bg1及び結合性基bg2を有する第2分子インプリントポリマーを得る工程7と、を含む、標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
項5. 前記工程6において、前記第1分子インプリントポリマー上に前記ビニルモノマーを添加し、前記ビニルモノマーを介して基板S2を積層し、前記機能性モノマーFM51,FM52の前記ビニル基と共重合させることで分子インプリンティングを行い、
前記工程7において、前記可逆的連結基RV1及び前記可逆的連結基RV2を切断して前記第1分子インプリントポリマーを除去することにより、基板S2と、前記基板S2の表面上に切断残基である結合性基bg1及び結合性基bg2を有する第2分子インプリントポリマーを得る、項4に記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
項6. 前記標的物質がタンパク質であり、
前記工程3において、前記ビニルモノマーが、塩基性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM3を含み、
前記工程6において、前記ビニルモノマーが、酸性基bg3及びビニル基を有する機能性モノマーFM6を含む、項4に記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
項7. 前記結合性基BG1がアミノ基である、項4~6のいずれかに記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
項8. 前記可逆的連結基RV1がジスルフィド基であり、前記結合性基bg1がチオール基である、項4~7のいずれかに記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
項9. 前記タンパク質が糖複合体であり、
前記結合性基BG2が糖基、前記可逆的連結基RV2がボロン酸cisジオールエステル基、前記結合性基bg2がボロン酸基である、項4~8のいずれかに記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法。
項10. 項4~9のいずれかに記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法によって得られる、標的物質のポリマーレプリカ。
項11. 項2の標的物質のポリマーレプリカ又は項5~9のいずれかに記載の標的物質のポリマーレプリカの製造方法によって得られる標的物質のポリマーレプリカの、前記基板上の第2分子インプリントポリマー表面で、前記結合性基bg1と結合性基bg2とに、それぞれ、前記結合性基bg1と反応して可逆的連結基RV1を形成する反応性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM111と、前記結合性基bg2と反応して可逆的連結基RV2を形成する反応性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM112を反応させる工程11と、
前記基板上の第2分子インプリントポリマーにビニルモノマーを添加し、前記ビニルモノマーを介して基板S3を積層し、前記機能性モノマーFM111,FM112の前記ビニル基と共重合させることで分子インプリンティングを行う工程12と、
前記可逆的連結基RV1及び前記可逆的連結基RV2を切断して前記標的物質のポリマーレプリカ基板を剥離することにより、基板S3と、前記第2分子インプリントポリマーを鋳型とする凹部と、前記凹部表面に切断残基である結合性基bg1’及び結合性基bg2’を有する第3分子インプリントポリマーを得る工程13と、
前記結合性基bg1’及び結合性基bg2’の少なくともいずれかに、結合性基BG1及び結合性基BG2の少なくともいずれかと相互作用するポストインプリンティング化合物及び/又はシグナル物質を結合させる工程14と、
を含む、基板センサの製造方法。
項12. 前記標的物質がタンパク質であり、
前記工程12において、前記ビニルモノマーが、塩基性基及びビニル基を有する機能性モノマーFM12を含む、項11に記載の基板センサの製造方法。
項13. 前記結合性基BG1がアミノ基である、項11又は12に記載の基板センサの製造方法。
項14. 前記可逆的連結基RV1がジスルフィド基であり、前記結合性基bg1’がチオール基である、項11~13のいずれかに記載の基板センサの製造方法。
項15. 前記タンパク質が糖複合体であり、
前記結合性基BG2が糖基、前記可逆的連結基RV2がボロン酸cisジオールエステル基、前記結合性基bg2’がボロン酸基である、項11~14のいずれかに記載の基板センサの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分子インプリンティング技術において標的分子が有していた表面情報を正確に受け継ぐことができる、標的分子のポリマーレプリカが提供される。さらに、当該標的分子のポリマーレプリカを人工鋳型として用いた分子インプリンティングによって、当該標的分子に対する感度が高い基板センサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明における標的物質を模式的に示す。
図2】本発明の標的分子のポリマーレプリカを模式的に示す。
図3】本発明の標的分子のポリマーレプリカの製造方法における工程1を模式的に示す。
図4】本発明の標的分子のポリマーレプリカの製造方法における工程2~工程4を模式的に示す。
図5】本発明の標的分子のポリマーレプリカの製造方法における工程5~工程7を模式的に示す。
図6】本発明の基板センサの製造方法を模式的に示す。
図7】第1分子インプリントポリマー(鋳型として標的物質AFPを用いて作製)を用いたSPRによるAFP検出において得られた、AFP濃度に対するSPRシグナル変化を示す吸着等温線を示す。
図8】蛍光分子導入前の基板(比較例)及び導入後の基板(実施例;本発明の基板センサ)における蛍光強度の比較(a)、及び、第3分子インプリントポリマーを有する基板センサ(鋳型として第2分子インプリントポリマーを有するポリマーレプリカ基板を用いて作製)を用いた蛍光顕微鏡測定によるAFP検出において得られた、AFP濃度に対する蛍光強度変化を示す吸着等温線(b)を示す。
図9】本発明の基板センサに対するタンパク質の選択的吸着試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1.標的物質のポリマーレプリカ]
本発明の標的物質のポリマーレプリカは、標的物質の表面にある官能基情報(具体的には、官能基の位置情報と定性的情報)を模倣した合成ポリマー構造物である。図1に標的物質の例(具体的には、肝がんのバイオマーカーであるα-Fetoprotein(AFP))を模式的に示し、図2(a)及び図2(b)に、図1の標的物質のポリマーレプリカの例を模式的に示す。
【0015】
標的物質は、複数種の結合性基を表面に有している物質であれば特に限定されない。また、本発明において、結合性基とは、共有結合又は非共有結合が可能な官能基をいう。非共有結合としては、水素結合、イオン結合、静電相互作用、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用などが挙げられる。標的物質が有している結合性基としては特に限定されないが、例えば、アミノ基等の塩基性基; cisジオール基を有する、単糖基、オリゴ糖基、多糖基等の糖基;チオール基;水酸基、フェノール性水酸基;カルボキシル基等の酸性基;エピトープ構造を有する抗原決定基;フェニル基、インドール基、イミダゾイル基等の芳香族基等が挙げられる。本発明においては、標的物質が有する結合性基を、結合性基BG1、結合性基BG2、結合性基BG3・・・と記載する。本発明においては、複数種の結合性基として、少なくとも結合性基BG1及び結合性基BG2を有する。本発明において、標的物質が有する結合性基と、当該標的物質が有する結合性基に対する結合性基と、両結合性基により形成される結合の種類との組み合わせの例を以下に挙げる。
【0016】
【表1】
【0017】
標的物質の具体例としては、低分子物質及びタンパク質が挙げられる。低分子物質としては、医薬、農薬、環境ホルモン等が挙げられ、タンパク質としては、抗体、疾患マーカー、ワクチン、酵素等が挙げられる。なお、本発明において、タンパク質には、ペプチド、及び糖基が結合した糖タンパク質も包含するものとする。また、抗体には、Fab、Fab’、F(ab’)2、ScFv等も包含されるものとする。好ましい標的物質としてはタンパク質が挙げられる。標的物質がタンパク質である場合、アミノ酸残基の側鎖が上記の結合性基をなす。そのような場合の具体的な結合性基としては、リシン残基、N末端のアミノ基;アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、C末端のカルボキシ基;システイン残基のチオール基;セリン残基、トレオニン残基の水酸基;チロシン残基のフェノール性水酸基等が挙げられる。より好ましい標的物質としては糖タンパク質が挙げられる。標的物質がタンパク質である場合、さらに糖基(cisジオール基)が上記の結合性基をなす。
【0018】
図1の標的物質であるAFPは、結合性基として、結合性基BG1(この例ではアミノ基)、結合性基BG2(この例では糖基)、及び結合性基BG3(この例ではカルボキシル基)を有している。
【0019】
図2(a)の標的物質のポリマーレプリカは、基板と一体化されている。つまり、基板上に凸部が設けられており、当該凸部が当該ポリマーレプリカとして機能するものである。具体的には、図2(a)に示す標的物質のポリマーレプリカは、基板S2と、基板S2の表面上に設けられた、凸部を有するポリマー膜とを含む。凸部(ポリマーレプリカ部)は、少なくとも結合性基bg1(この例ではチオール基)及び結合性基bg2(この例では糖基)を含む複数種の結合性基を表面に有する。図2(a)の例は、糖タンパク質AFPのポリマーレプリカであるため、さらに結合性基bg3(この例ではカルボキシル基)も表面に有する。なお、図2(a)の標的物質のポリマーレプリカには、一枚の基板S2に凸状のポリマーレプリカ部が複数形成されていることが好ましい。図2(b)の標的物質のポリマーレプリカは、粒子状である。
【0020】
ポリマーレプリカは、図1の標的物質を鋳型とする第1分子インプリントポリマーを鋳型とする第2分子インプリントポリマーで構成されている。つまり、ポリマーレプリカは、図1の標的物質を鋳型とする分子インプリンティングで得られるネガティブタイプの第1分子インプリントポリマーを得た後、その第1分子インプリントポリマー鋳型とする分子インプリンティングで得られるポジティブタイプの第2分子インプリントポリマーである。ポリマーレプリカをなす第2分子インプリントポリマーは、2回の分子インプリンティングを経た分子インプリントポリマーであることから、通常、標的物質の表面形状がおおよそ写し取られた、標的物質に似た形状を有する。
【0021】
ポリマーレプリカは、その表面において、複数の結合性基を有する。本発明においては、ポリマーレプリカが有する結合性基を、結合性基bg1、結合性基bg2、結合性基bg3・・・と記載する。本発明においては、複数種の結合性基として、少なくとも結合性基bg1及び結合性基bg2を有する。図2(a)及び図2(b)の例において、ポリマーレプリカは、標的物質の表面の結合性基BG1の位置に応じた位置に結合性基bg1を有し、結合性基BG2の位置に応じた位置に結合性基bg2を有し、結合性基BG3の位置に応じた位置に結合性基bg3を有する。
【0022】
なお、結合性基bg1が結合性基BG1に応じた位置に存在するとは、仮に、標的物質と当該標的物質のポリマーレプリカとを空間上で重ね合わせたとすると、(i)結合性基bg1が空間上で結合性基BG1と同じ位置、又は略同じ位置(例えば、物質sが結合性BG1を介して標的物質に特異的結合するものである場合、物質sが結合性基bg1を介して同様にポリマーレプリカにも特異的結合できる程度に、結合性基の位置が同等であること)に存在するか、又は、(ii)結合性基bg1の空間上の位置が、結合性基BG1と同じでも略同じでもないが、結合性基BG1との間を、低分子化合物(たとえば、後述する、結合性基BG1と相互作用するポストインプリンティング化合物及び/又はシグナル物質)が介在する程度の距離を隔てた近傍の位置であることをいう。標的物質のポリマーレプリカが有する複数の結合性基のうち少なくとも一種は、標的物質の結合性基と同じ又は略同じ位置に存在する。
【0023】
図2(a)及び図2(b)に示すポリマーレプリカが有する結合性基bg1、結合性基bg2、結合性基bg3は、それぞれ、標的物質が有する結合性基BG1、結合性基BG2、結合性基BG3に対応する。ポリマーレプリカが有する結合性基は、標的物質が有する結合性基と同じ又は同種(例えば、単糖基、オリゴ糖基及び多糖基は、糖を基本構成としている点が共通するため同種の基とし、抗体基及びパラトープは、抗原認識部位を基本構成としている点が共通するため同種の基とする。)であってもよいし、異なっていてもよい。図2(a)及び図2(b)の例においては、ポリマーレプリカが有する結合性基bg1はチオール基で、対応する結合性基BG1はアミノ基であり、ポリマーレプリカが有する結合性基bg2は単糖基で、対応する結合性基BG2は多糖基であり、ポリマーレプリカが有する結合性基bg3はカルボキシル基で、対応する結合性基BG3はカルボキシル基である。
【0024】
つまり、ポリマーレプリカはその表面に、対応する標的物質が有する官能基の位置に応じた位置に、標的物質が有する官能基の種類に応じた種類の官能基を有する。つまり、標的物質の表面にある官能基情報(具体的には、官能基の位置情報と定性的情報)が正確に模倣されている。
【0025】
このように、ポリマーレプリカは、標的物質の表面にある官能基情報が正確に模倣されているため、それ自体が、標的物質の分子認識材料を作製するための分子インプリンティングにおける鋳型として有用となる。つまり、生体物質である標的物質自体を鋳型に用いなくとも、当該標的物質の分子認識材料を作製することが可能になる。また、ポリマーレプリカは合成ポリマー材料であるため、化学的安定性及び物理的安定性に極めて優れており、鋳型としての有用性は生体物質である標的物質と比べて格段に向上する。さらに、ポリマーレプリカは安価に製造できるうえに鋳型として再利用が可能であり、一般的に高価で希少な生体物質である標的物質を鋳型に用いる場合と比べてコスト性も各段に向上する。
【0026】
ポリマーレプリカの構成要素及びポリマーレプリカの製造方法については、次の「2.標的物質のポリマーレプリカの製造方法」で詳述する。
【0027】
[2.標的物質のポリマーレプリカの製造方法]
図3図5を参照して、本発明のポリマーレプリカの製造方法について説明する。本発明のポリマーレプリカの製造方法は、標的物質を鋳型とする第1分子インプリントポリマー(1st MIP)を作製する工程1~工程4と、第1分子インプリントポリマーを鋳型とする第2分子インプリントポリマー(2nd MIP)つまりポリマーレプリカ部分を作製する工程5~7とを含む。
【0028】
[工程1:標的物質へのビニル基の導入]
工程1では、複数種の結合性基を表面に有する標的物質に、前記結合性基のうちの少なくとも結合性基BG1を介して、ビニル基及び可逆的連結基RV1を有する機能性モノマーFM1を結合させる。これによって、標的物質の少なくとも結合性基BG1に、可逆的連結基RV1を介してビニル基が導入される。図示された態様では、標的物質であるAFPの側鎖アミノ基(結合性基BG1)に対して、ビニル基及びジスルフィド基(可逆的連結基RV1)を有する機能性モノマーFM1が導入される。
【0029】
機能性モノマーFM1は、具体的には、例えば以下の構造を有する。
W-X-Y-Z-Q1・・・ (I)
【0030】
上記式中、Wはビニルモノマー基を示す。ビニルモノマー基は、分子インプリントポリマーを形成するための他のビニルモノマーと共重合が可能であるものであれば特に制限されないが、例えば、ビニル基、メチルビニル基、クロロビニル基、(メタ)アクリル酸エステル基、メタクリル酸エステル基等が挙げられる。好ましくは(メタ)アクリル酸エステル基、より好ましくは図示されるようなメタクリル酸エステル基が挙げられる。
【0031】
XおよびZは、独立して、単結合またはリンカー基を示す。特に、得られる標的物質のポリマーレプリカ基板において、標的物質の結合性基(例えば結合性基BG1)の位置に応じた位置に結合している結合性基(例えば結合性基bg1)が、結合性基BG1とは異種の結合性基である場合、Zはリンカー基であることが好ましい。この場合、後述の、標的物質のポリマーレプリカ基板から基板センサを作製する方法において、結合性基bg1’と、検出すべき標的物質の結合性基BG1がアプローチする位置との間にスペースを生じさせることができ、このスペースにより、結合性基bg1’に結合させられる物質(具体的には、後述の工程14で述べるポストインプリンティング化合物及び/又はシグナル物質)の配設空間を容易に確保することができる。
【0032】
リンカー基としては、例えば、炭素数1~6、好ましくは2~6のアルキレン基、アミノ基(-NH-)、エーテル基(-O-)、カルボニル基(-C(=O)-)、エステル基(-C(=O)-O-または-O-C(=O)-)、アミド基(-C(=O)-NH-または-NH-C(=O)-)、スルホキシド基(-S(=O)-)、スルホニル基(-S(=O)2-)、およびこれら2以上が結合した基が挙げられる。2以上の上記基が結合して上記リンカー基が構成されている場合、当該結合数としては、5以下または4以下が好ましく、3以下または2がより好ましい。リンカー基としては、好ましくは図示されるようなアルキレン基が挙げられる。
【0033】
Yは、可逆的連結基を示す。なお、本発明においては、一般的に、可逆的連結基は切断(開裂)及び結合が可逆的である二価以上の基を意味し、可逆的部分の結合様式は、共有結合及び非共有結合を問わない。可逆的連結基の具体例としては、後述の表2第1欄の基が挙げられる。しかしながら、機能性モノマーFM1においては、Yで示される可逆的連結基は、可逆的部分の結合様式が共有結合であるもの、つまり、共有結合の切断(開裂)及び共有結合が可逆的である二価以上の基を意味する。具体的には、後述の表2第1欄の基のうち、可逆部分の結合様式が共有結合であるものが挙げられる。このような可逆的連結基は、水素結合など非共有結合に比べて比較的安定であり、重合反応時にも安定的に維持され、特異的認識空間の形成に寄与する一方で、比較的切断され易いことから、重合反応後における鋳型化合物の除去が容易でもある。また、可逆的連結基は、例えば、還元剤、比較的低温での加熱、比較的穏和な条件での加水分解、光照射などで切断することができる。例えばカルボン酸エステル基は、タンパク質を構成するアミド結合よりも切断され易く、比較的穏和な条件での加水分解により選択的に切断することができ、また、カルボン酸エステル基の中でもo-ニトロベンジルエステル基は、光照射でも選択的な切断が可能である。
【0034】
なお、本発明においては、一般的に、可逆的連結基を、可逆的連結基RV1、可逆的連結基RV2、可逆的連結基RV3・・・と記載し、可逆的連結基RV1、可逆的連結基RV2、可逆的連結基RV3・・・に対して、それら可逆的連結基の切断によって生じる切断残基を、それぞれ、結合性基bg1及び結合性基bg1’、結合性基bg2及び結合性基bg2’、結合性基bg3及び結合性基bg3’・・・と記載する。本発明において、可逆的連結基、可逆的連結基の切断により生じる切断残基(結合性基)の組み合わせの例と、可逆部分の結合の様式とを以下に挙げる。
【0035】
【表2】
【0036】
1は、結合性基BG1に対する結合性基を示す。結合性基BG1に対する結合性基は、結合性基BG1と共有結合を形成可能な基を、結合性基BG1の種類に応じて、当業者が適宜決定することができる。結合性基BG1に対する結合性基の具体例は、上述の表1中欄の例示のうち、結合性基BG1と共有結合を形成する基から選択することができる。また、標的物質の結合性基がカルボキシル基である場合は、予め、N-ヒドロキシスクシンイミド、ニトロフェノール、ペンタフルオロフェノールなどを用いて活性エステル化することで共有結合性基に改変しておいてもよい。図示された態様では、結合性基BG1に対する結合性基として、カルボン酸活性エステル基(N-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウムによる活性エステル基)を用いる。
【0037】
標的物質の結合性基BG1と機能性モノマーFM1との反応は、公知の方法により行うことができる。例えば、標的物質の結合性基がアミノ基である場合、機能性モノマーFM1の結合性基がカルボン酸エステル基であれば、標的物質と機能性モノマーFM1とを混合することで反応させればよいし、機能性モノマーFM1の結合性基がカルボン酸であれば、標的物質と機能性モノマーFM1を、アミド結合を形成するための脱水縮合剤存在下で反応させればよい。
【0038】
[工程2:基板への標的物質の固定]
工程2では、基板S1上に標的物質を固定する。標的物質は、標的物質の結合性基のうち、工程1でビニル基の導入に用いた結合性基とは異なる結合性基(図示された例では、結合性基BG2)を基板S1上で反応させ、可逆的連結基RV2を介して基板S1上に固定させられる。基板S1上には予め表面修飾基を結合させることで表面修飾を行っておき、表面修飾基の末端に存在する結合性基と、標的物質の結合性基BG2との間の結合性を利用して、標的物質を固定することができる。例えば、図示されるように、基板S1上に予め自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayer)を形成しておき、SAM末端(SAM表面)の結合性基と、標的物質の結合性基BG2との間の結合性を利用して、標的物質を固定することが好ましい。SAMは、基板S1へ化学結合していると共に、基板S1上に分子が分子間力により密に且つ規則的に整列していることから、安定で均一である。
【0039】
表面修飾される基板S1の材質としては、表面修飾基を有する表面修飾試薬と反応するものであれば特に制限されず、金属、ガラス、樹脂などが挙げられる。例えばSAMを形成するための基板S1を構成する金属としては、金が汎用されているが、銀、銅、白金、パラジウムなども用いることができる。また、ガラス基板又はテフロン(登録商標)基板上にこれら金属の薄膜を形成したものも金属基板として利用可能である。また、後述の表面プラズモン共鳴測定法や水晶振動子マイクロバランス法などの測定方法に適した金属基板が市販されているため、このような市販の金属基板を用いてもよい。また、樹脂としては、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリウレタン、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。
【0040】
SAMのような表面修飾を形成するための表面修飾試薬としては、基板S1表面に対する結合性基(例えば、基板S1が金属基板の場合、金属基板表面と結合可能なチオール基または酢酸チオエステル基が挙げられる)を一方の端部に有し、標的物質の結合性基BG2に対する結合性基を他端に有する、炭素数8以上の直鎖アルカンが挙げられる。当該他端における、標的物質の結合性基BG2に対する結合性基の具体例は、表1中欄に例示される基から選択することができる。なお、SAMのような表面修飾を形成するための表面修飾試薬として、さらに、基板S1表面に対する結合性基を一方の端部に有し、重合開始基を他端に有する、炭素数8以上の直鎖アルカンを混合してもよい。この場合、重合開始基は、後述の工程3における共重合反応における重合開始剤として機能する。以下において、基板S1表面の表面修飾としてSAMを形成する場合を代表して説明する。
【0041】
標的分子が糖タンパク質である場合は、図示されるように基板S1への固定のための結合性基BG2として糖基を用い、基板S1上にはボロン酸基を固定しておくことが好ましい。また、標的分子がタンパク質又は糖タンパク質である場合は、基板S1への固定のための結合性基BG2として当該標的分子のエピトープを用い、基板S1上には当該エピトープに対するパラトープを固定しておくことが好ましい。これらの場合、基板S1上に固定される複数の標的分子の向きが揃う点で好ましい。
【0042】
基板S1として金属基板を用いる場合、金属基板上へのSAMの形成は、常法に従えばよい。例えば、SAM形成分子をエタノールなどに溶解し、得られた溶液に金属基板を常温で所定時間(例えば30分間以上48時間程度以下)浸漬すれば、当該分子がチオエーテル結合を介して金属基板表面に結合し、且つ分子間力により配向しつつ密に集合し、SAMが形成される。或いは、上記工程1において例示したリンカー基を介して、SAM形成分子を段階的に延長してもよい。その場合には、標的タンパク質の固定に利用する結合性基を最終末端に導入するようにし、同様に、SAM末端基として結合性基に加えて重合開始基も設ける場合は、重合開始基を最終末端に導入するようにすればよい。次いで、過剰のSAM形成分子を洗浄により除去した後、乾燥すればよい。
【0043】
また、基板S1としてガラス基板を用いる場合には、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)などのシランカップリング剤で表面にアミノ基などの反応性基を導入することにより、SAMの形成が可能である。
【0044】
SAMの形成後、SAM末端の結合性基に標的物質の結合性基BG2を反応させることで、標的物質を基板S1上に固定する。SAMと、固定化された標的物質との間には、可逆的連結基RV2を介在させる。可逆的連結基RV2により、後記の工程4において、第1分子インプリントポリマーからの標的物質の除去が可能になる。可逆的連結基RV2の具体例としては、上述の表2の第1欄から選択することができる。
【0045】
可逆的連結基RV2は、SAMと標的物質との間のリンカー基中に含まれていてもよいが、SAM末端の結合性基と標的物質の結合性基BG2との反応の結果形成されるものであってもよい。好ましくは、SAM末端の結合性基と標的物質の結合性基BG2との反応の結果形成されるものである。具体的には、図示されるように、SAM末端の結合性基としてボロン酸基を導入しておき、標的物質を構成する結合性基BG2である糖基と反応させることで、可逆的連結基RV2であるボロン酸cisジオールエステル基を形成することができる。あるいは、SAMの末端にチオール基または活性チオール基を導入し、標的物質のシステイン由来のチオール基、又はリンカー基導入試薬により導入されたチオール基を反応させることで、可逆的連結基RV2としてジスルフィド結合を形成することもできる。
【0046】
なお、基板S1と固定された標的物質との間に介在する可逆的連結基RV2は、工程1でビニル基とともに導入した可逆的連結基RV1と、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0047】
標的物質の固定にかかる反応条件は、基板S1上の結合性基と標的物質の結合性基BG2との組み合わせに応じて、当業者が適宜選択することができる。例えば、SAM末端の結合性基がボロン酸基、標的物質における結合性基BG2が糖基である場合や、SAM末端の結合性基がピリジルジスルフィド基、標的物質における結合性基BG2がチオール基である場合等は、反応が容易であるため、溶媒中、基板S1と標的物質とを接触させることで反応を進行させることができる。
【0048】
あるいは、工程2において、例えば、SAM末端の結合性基がパラトープ、標的物質における結合性基BG2がエピトープである場合のように、分子間特異的相互作用を利用して標的物質を基板S1に固定させる場合には、例えば、当該相互作用が有効となるような緩衝液中で基板S1と標的物質とを接触させればよい。
【0049】
標的物質の固定の確認は、例えば、基板S1として表面プラズモン共鳴測定法や水晶振動子マイクロバランス法などに用いられる金属基板を使用した場合には、それぞれ表面プラズモン共鳴測定法と水晶振動子マイクロバランス法とにより行うことができる。標的物質の固定完了後は、基板を洗浄することで目的の固定化標的物質を精製することができる。
【0050】
[工程3:分子インプリンティング(第1分子インプリントポリマー1st MIPの合成)]
工程3では、基板S1上でビニルモノマーを添加し、工程2で固定した標的物質を鋳型とする分子インプリンティングを行う。具体的には、基板S1表面上で、工程1で標的物質に導入されたビニル基、ビニルモノマー、および鋳型としての標的物質が共存する重合反応系が構築されることにより、リビングラジカル重合が進行する。ビニルモノマーは、工程1で標的物質に導入されたビニル基と共重合させられ、標的物質の周りにポリマーマトリックス(第1分子インプリントポリマー)を形成する。
【0051】
重合反応系に添加するビニルモノマーは、工程1で標的物質に導入されたビニル基(つまり機能性モノマーFM1のビニルモノマー基)と共重合可能なビニル基構造を有するものであれば特に制限されず、当業者が適宜選択することができる。工程3において合成する第1分子インプリントポリマーは、後述工程6の第2分子インプリントポリマーの合成時における鋳型として利用するため、ビニルモノマーとしては、生体適合性ポリマーを含んでいなくてよい。第1インプリントポリマーの後述工程6における鋳型として適した特性を備えさせる観点から、ビニルモノマーとしては、ポリマー硬度のコントロールが容易である点で、水溶性のアクリルアミドが好ましい。モノマーの総量に対し、アクリルアミドのモル数の割合としては、例えば50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは90%以上が挙げられる。
【0052】
また、ビニルモノマーには、機能性モノマーFM3を含んでもよい。機能性モノマーFM3は、具体的には、例えば以下の構造を有する。
W-X-Q3・・・ (II)
【0053】
上記式中、Wはビニルモノマー基、Xは単結合又はリンカー基を示し、それぞれ、工程1で説明した機能性モノマーFM1におけるW及びXとして例示した基から選択される。
【0054】
3は、標的物質を構成する結合性基BG3に対する結合性基bg3’を示す。結合性基BG3に対する結合性基bg3’は、好ましくは、結合性基BG3と非共有結合(可逆的連結基RV3)を形成可能な基を、結合性基BG3の種類に応じて、当業者が適宜決定することができる。結合性基BG3に対する結合性基bg3’の具体例は、上述の表1中欄の例示(又は表2第3欄の例示)のうち、非共有結合性の基から選択することができる。図示された態様では、結合性基BG3として、タンパク質部分の側鎖酸性基(好ましくはカルボキシル基)が想定されており、当該結合性基BG3に対する結合性基bg3’として、塩基性基を用いる。当該塩基性基としては、アミノ基、環状2級アミノ基(たとえば、ピロリジル基、ピペリジ基)、ピリジル基、イミダゾール基、グアニジン基から選択することができ、好ましくは2級アミノ基(たとえば、ピロリジル基、ピペリジ基)が挙げられ、より好ましくはピロリジル基が挙げられる。このような機能性モノマーFM3をビニルモノマーに含ませて共重合することによって、得られる第1分子インプリントポリマーにおいて、標的物質における結合性基BG3と機能性モノマーFM3由来の結合性基bg3’とが可逆的連結基RV3である水素結合を形成することができる。
【0055】
また、重合反応系には、ビニルモノマーに加えて、架橋剤を併用してもよい。架橋剤としては、2以上のビニルモノマー基がリンカー基により結合された化合物を挙げることができる。具体的な架橋剤の例としては、一般式W-X-W(式中、Wはビニルモノマー基、Xはリンカー基を示す。)で表される化合物が挙げられる。架橋剤を構成するビニルモノマー基W及びリンカー基Xについても、上述と同様である。より具体的な架橋剤としては、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート等の低分子架橋剤が挙げられる。架橋剤の使用量に関しては、架橋により得られる第1インプリントポリマーに鋳型の表面情報をより正確に受け継がせる観点、及び/又は第1インプリントポリマーの後述工程6における鋳型としての適度な強度を備えさせる観点から、ビニルモノマーと架橋剤の合計モル数に対する架橋剤のモル数の割合として例えば5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは18%以上が挙げられる。また、第1インプリントポリマーが後述の工程6での分子インプリンティングの鋳型として使用された後、工程7で除去される時に、容易に除去可能となる程度の高すぎない硬度に制御する観点から、ビニルモノマーと架橋剤の合計モル数に対する架橋剤のモル数の割合として例えば30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは22%以下が挙げられる。つまり、ビニルモノマーと架橋剤の合計モル数に対する架橋剤のモル数の割合の具体的な範囲としては、5~30%、5~25%、5~22%、10~30%、10~25%、10~22%、18~30%、18~25%、18~22%が挙げられる。
【0056】
重合反応系には、さらに、重合触媒として、遷移金属または遷移金属化合物と配位子とから形成される遷移金属錯体を含むことが好ましく、さらに還元剤を用いることがより好ましい。遷移金属または遷移金属化合物としては、金属銅又は銅化合物が挙げられ、銅化合物としては塩化物、臭素化物、ヨウ素化物、シアン化物、酸化物、水酸化物、酢酸化物、硫酸化物、硝酸化物、好ましくは臭素化物が挙げられる。配位子としては、多座アミンが好ましく、具体的には二座~六座配位子が挙げられる。これらの中でも、好ましくは二座配位子が挙げられ、より好ましくは2,2-ビピリジル、4,4’-ジ-(5-ノニル)-2,2’-ビピリジル、N-(n-プロピル)ピリジルメタンイミン、N-(n-オクチル)ピリジルメタンイミン等が挙げられ、より好ましくは2,2-ビピリジルが挙げられる。還元剤としては、アルコール、アルデヒド、フェノール類及び有機酸化合物等が挙げられ、好ましくは有機酸化合物が挙げられる。有機化合物としては、クエン酸、シュウ酸、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸エステル等が挙げられ、好ましくはアスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸エステル等が挙げられ、より好ましくはアスコルビン酸が挙げられる。
【0057】
工程3における共重合条件は、当業者によって適宜決定される。例えば、アクリルアミドといったモノマーは水溶性であるので、水系溶媒存在下で、少なくとも、標的物質が固定された基板に、ビニルモノマーを添加し、重合開始剤(基板S1のSAM末端に結合させた重合開始基を利用してもよい)により重合を開始することができる。重合温度は常温、さらには0℃以上120℃以下程度でよく、重合時間は10分間以上50時間以下程度とすることができる。共重合反応後は、使用した溶媒などで基板を洗浄し、余分な試薬を除去することが好ましい。
【0058】
[工程4:標的物質の除去]
工程4では、可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2を切断して標的物質を除去する。これによって、標的物質を鋳型とする凹部と当該凹部表面に切断残基である結合性基bg1’及び結合性基bg2’を含む、ネガティブタイプの第1分子インプリントポリマーを得る。図示された態様では、可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2に加えて、可逆的連結基RV3も切断され、結合性基bg1’及び結合性基bg2’に加えて、結合性基bg3’も含む第1分子インプリントポリマーを得る。結合性基bg1’、結合性基bg2’及び結合性基bg3’は、それぞれ、可逆的連結基RV1、可逆的連結基RV2及び可逆的連結基RV3の切断残基であり、その具体例としては、表2の第3欄に挙げた通りである。
【0059】
可逆的連結基の切断は、それぞれの可逆的連結基の種類に応じて当業者が適宜決定することができる。例えば、図示されたように、可逆的連結基RV1としてジスルフィド結合、可逆的連結基RV2としてボロン酸cisジオールエステル基、可逆的連結基RV3として水素結合である場合は、ジスルフィド結合やボロン酸cisジオールエステル基を開裂する条件に供すればよい。より具体的には、常温下、適切な溶媒中、工程3で得られた第1分子インプリントポリマーが形成された基材に、ジスルフィド結合を開裂させる還元剤を接触させ、ボロン酸cisジオールエステルを加水分解可能なpHに供すればよい。還元剤としては、例えば、トリス(2-カルボキシエチルホスフィン)(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、トリブチルホスフィン(TBP)等が挙げられる。これによって、共有結合性の可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2が切断されるとともに、水素結合である可逆的連結基RV3も切断される。可逆的連結基の切断後は、第1分子インプリントポリマーが形成された基板を洗浄することが好ましい。
【0060】
このようにして、第1分子インプリントポリマーが得られる。第1分子インプリントポリマーは、後述工程におけるさらなる分子インプリンティングで鋳型として利用される。このため、第1インプリントポリマーは、好ましくは、通常のセンサ基板として用いられる分子インプリントポリマーとは異なるポリマー構成を有する。つまり第1インプリントポリマーは、生体適合性等の分析時に必要となる特性が要求されず、鋳型としての機械的特性を満たしていればよい。より好ましくは、第1インプリントポリマーは、結合性基bg1’、結合性基bg2’及び結合性基bg3’を与えるモノマー由来の部分を除き、ポリアクリルアミドを主成分として、さらに好ましくはポリアクリルアミドのみで構成される。
【0061】
[工程5:第1分子インプリントポリマーへのビニル基の導入]
工程5では、第1分子インプリントポリマーの凹部表面における少なくとも結合性基bg1’及び結合性基bg2’を介して、それぞれ、ビニル基を有する機能性モノマーFM51及び機能性モノマーFM52を結合させる。また、後述するように、機能性モノマーFM51及び機能性モノマーFM52は、それぞれ、結合性基bg1’と反応して可逆的連結基RV1を形成可能な基及び結合性基bg2’と反応して可逆的連結基RV2を形成可能な基を有する。このため、工程4によって、第1分子インプリントポリマーの凹部表面における少なくとも結合性基bg1’及び結合性基bg2’に、それぞれ可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2を介してビニル基が導入される。
【0062】
機能性モノマーFM51は、具体的には、例えば以下の構造を有する。
W-X-Q51・・・ (III)
【0063】
上記式(III)中、Wはビニルモノマー基、Xは単結合又はリンカー基を示し、それぞれ、工程1で説明した機能性モノマーFM1におけるW及びXとして例示した基から選択される。
【0064】
51は、結合性基bg1’に対する結合性基を示す。結合性基bg1’に対する結合性基は、結合性基bg1’と反応して可逆的連結基RV1を形成可能な基を、結合性基bg1’の種類に応じて、当業者が適宜決定することができる。結合性基bg1’に対する結合性基の具体例は、上述の表2の第2欄の基のうち、共有結合性の基が挙げられる。
【0065】
機能性モノマーFM52は、具体的には、例えば以下の構造を有する。
W-X-Q52・・・ (IV)
【0066】
上記式(IV)中、Wはビニルモノマー基、Xは単結合又はリンカー基を示し、それぞれ、工程1で説明した機能性モノマーFM1におけるW及びXとして例示した基から選択される。また、機能性モノマーFM52におけるビニルモノマー基W及び単結合又はリンカー基Xは、上述の機能性モノマーFM51におけるビニルモノマー基W及び単結合又はリンカー基Xと、同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0067】
52は、結合性基bg2’に対する結合性基を示す。結合性基bg2’に対する結合性基は、結合性基bg2’と反応して可逆的連結基RV2を形成可能な基を、結合性基bg2’の種類に応じて、当業者が適宜決定することができる。結合性基bg2’に対する結合性基の具体例は、上述の表2の第2欄の基のうち、共有結合性の基が挙げられる。本発明においては、通常、機能性モノマーFM51における結合性基Q51は、機能性モノマーFM52における結合性基Q52とは異なる。
【0068】
機能性モノマーFM51及び機能性モノマーFM52の反応条件は、結合性基bg1’及び結合性基bg2’との組み合わせに応じて、当業者が適宜選択することができる。また、機能性モノマーFM51及び機能性モノマーFM52の結合順序は特に限定されず、結合性基bg1’及び結合性基bg2’それぞれとの反応条件(温度、時間、pH、溶媒の種類等)の異同、結合性基bg1’及び結合性基bg2’との反応条件下それぞれにおける可逆的連結基RV2及び可逆的連結基RV1の安定性等を考慮して、当業者が適宜決定することができる。例えば、機能性モノマーFM51及び機能性モノマーFM52を同一反応系内で反応させて可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2を同時に反応させてもよいし、機能性モノマーFM51を反応させて可逆的連結基RV1を形成した後に、機能性モノマーFM52を反応させて可逆的連結基RV2を形成してもよいし、機能性モノマーFM52を反応させて可逆的連結基RV2を形成した後に、機能性モノマーFM51を反応させて可逆的連結基RV1を形成してもよい。例えば図示されるように、機能性モノマーFM51が、結合性基bg1’であるチオール基に対するピリジルスルフィド基を有し、機能性モノマーFM52が、結合性基bg2’であるボロン酸基に対する糖基を有している場合、いずれも反応が容易であるが、まず、適当な溶媒中で、機能性モノマーFM51を添加して反応を行い洗浄した後に、別の適当な溶媒中で、機能性モノマーFM52を添加して反応を行い洗浄することができる。
【0069】
[工程6:分子インプリンティング(第2分子インプリントポリマー2nd MIPの合成)]
工程6では、第1分子インプリントポリマー上にビニルモノマーを添加し、第1分子インプリントポリマーを鋳型とする分子インプリンティングを行う。工程5で第1分子インプリントポリマーに導入されたビニル基、ビニルモノマー、および鋳型としての第1分子インプリントポリマーが共存する重合反応系が構築される。ビニルモノマーは、工程5で導入したビニル基と共重合させられ、第1分子インプリントポリマーの凹部の周りにポリマーマトリックス(第2分子インプリントポリマー)を形成する。
【0070】
図2(a)に示すような基板と一体化したポリマーレプリカを製造する場合は、ビニルモノマーを介して基板S2を積層し、基板S2と第1分子インプリントポリマーとの間で重合反応系が構築される。図2(b)に示すような粒子状のポリマーレプリカを製造する場合は、第1分子インプリントポリマーの凹部内で重合反応系が構築される。
【0071】
基板S2の材質としては、金属、ガラス、樹脂など、特に制限されないが、金属基板の材質としては、金、銀、銅、白金、パラジウムなどが挙げられ、好ましくは金が挙げられる。また金属基板は、ガラス基板又はテフロン(登録商標)基板上にこれら金属の薄膜を形成したものであってもよい。また、樹脂としては、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリウレタン、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。基材S1が金属基板(但しガラス基板が積層されていないもの)の場合、基板S2は上述のいずれであってもよいが、後述工程7をより容易にする観点から、好ましくは金属基板(但しガラス基板が積層されていないもの)であることが好ましい。基材S1がガラス基板又は金属薄膜を有するガラス基板である場合、基板S2は、後述工程7を容易にする観点から、金属基板(但しガラス基板が積層されていないもの)である。
【0072】
基板S2は、重合開始基を末端に有するイニファーターで表面修飾しておくことが好ましい。基板S2上の表面修飾における重合開始基は、基板S1における重合開始基と異なっていればよい。表面修飾を形成したイニファーターは、基板S2へ化学結合していると共に、基板S2上に分子が分子間力により密に且つ規則的に整列していることから、安定で均一である。
【0073】
本発明で用いることができるイニファーターとしては特に限定されず、基板S2への結合性基と重合開始基とを有する化合物であればよい。好ましいイニファーターの一般式を下記式に示す。
【0074】
【化1】
【0075】
上記式(V)で示されるイニファーターは、基板S2に対する結合性基Xと、自己組織化用のリンカー基(炭素数1~20のアルキレン基)と、ジチオカルバマートタイプの重合開始基(チオカルボニルチオ基(S=C(-S-)-)を介した遊離基(-NR12))とを有する。
【0076】
結合性基Xは、基板S2の材質に応じて適宜決定することができるが、例えば、チオール基、酢酸チオエステル基等が挙げられ、好ましくはチオール基が挙げられる。炭素数1~20のアルキレン基は、結合性基Xによって固定されたイニファーター分子をvan der Waals力によって密に且つ規則的に整列させ、安定したSAM膜を形成する。このような観点から、炭素数1~20のアルキレン基は、好ましくは5~20、より好ましくは10~20のアルキレン基であることが好ましい。遊離基(-NR12)におけるR1及びR2は、互いに同じ又は異なっていてよい。例えば、R1及びR2は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アレニル基、複素環基、好ましくはアルキル基から選択されてもよいし、R1及びR2は、それらが結合している窒素と一緒になって、複素環を形成していてもよいし、R1及びR2は、場合により、ホスフェート、ホスホネート、スルホネート、エステル、ハロゲン、ニトリル、アミド、およびヒドロキシ基で置換されていてもよいし、R1及びR2は場合により、酸素、窒素または硫黄などの1個以上のカテナリーヘテロ原子で置換されていてもよい。好ましくは、R1及びR2は炭素数1~6、より好ましくは2~4のアルキル基であり、好ましくはエチル基である。
【0077】
重合反応系に添加するビニルモノマーは、工程5で第1分子インプリントポリマーに導入されたビニル基(つまり機能性モノマーFM51及び機能性モノマーFM52のビニルモノマー基)と共重合可能なビニル基を有するものであれば特に制限されず、当業者が適宜選択することができる。
【0078】
例えば、ビニルモノマーの好ましい例として、生体適合性モノマーが挙げられる。図2(a)に示すような基板一体型のポリマーレプリカを製造する場合、当該ポリマーレプリカが後述工程5におけるポスト分子インプリンティング及び工程6における分子インプリンティングに用いられる際に、添加されるモノマー(後述機能性モノマーFM111,FM112,FM6)の非特異的吸着を抑制する観点から、ビニルモノマーとして生体適合性モノマーを用いることがより好ましい。生体適合性モノマーとは、生体適合性ポリマーを構成可能なモノマーをいう。生体適合性ポリマーは、好ましくは親水性ポリマーであり、より具体的には双性イオンポリマーが挙げられる。双性イオンポリマーを構成可能な双性イオンモノマーは、酸性官能基(たとえば、リン酸基、硫酸基、およびカルボキシル基など)に由来するアニオン基と、塩基性官能基(たとえば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基および4級アンモニウム基など)に由来するカチオン基との両方を1分子中に含む。たとえば、ホスホベタイン、スルホベタイン、およびカルボキシベタインなどが挙げられ、より好ましくはホスホベタインが挙げられる。
【0079】
スルホベタインとしては、N,N-ジメチル-N-(3-スルホプロピル)-3’-メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SPB)、N,N-ジメチル-N-(4-スルホブチル)-3’-メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SBB)などが挙げられる。カルボキシベタインとしては、N,N-ジメチル-N-(1-カルボキシメチル)-2’-メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CMB)、N,N-ジメチル-N-(2-カルボキシエチル)-2’-メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CEB)などが挙げられる。ホスホベタインとしては、ホスホリルコリン基を側鎖に有する分子が挙げられ、さらに好ましくは、2-メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン(MPC)が挙げられる。
【0080】
モノマーの総量に対し、生体適合性モノマーのモル数の割合としては、例えば50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上が挙げられる。
【0081】
また、ビニルモノマーには、機能性モノマーFM6を含んでもよい。機能性モノマーFM6は、具体的には、例えば以下の構造を有する。
W-X-Q6・・・ (VI)
【0082】
上記式(VI)中、Wはビニルモノマー基、Xは単結合又はリンカー基を示し、それぞれ、工程1で説明した機能性モノマーFM1におけるW及びXとして例示した基から選択される。
【0083】
6は、結合性基bg3’に対する結合性基bg3を示す。結合性基bg3’に対する結合性基bg3は、好ましくは、結合性基bg3’と非共有結合(可逆的連結基RV3)を形成可能な基を、結合性基bg3’の種類に応じて、当業者が適宜決定することができる。結合性基bg3’に対する結合性基bg3の具体例は、上述の表2第2欄の例示のうち、非共有結合性の基から選択することができる。図示された態様では、結合性基bg3’として塩基性基が想定されており、当該結合性基bg3’に対する結合性基bg3として、カルボキシル基を用いる。このような機能性モノマーFM6をビニルモノマーに含ませて共重合することによって、得られる第2分子インプリントポリマーにおいて、鋳型である第1分子インプリントポリマーにおける結合性基bg3’と機能性モノマーFM6由来の結合性基bg3とが可逆的連結基RV3である水素結合を形成することができる。
【0084】
また、重合反応系には、ビニルモノマーに加えて、架橋剤を併用してもよい。架橋剤としては、2以上のビニルモノマー基がリンカー基により結合された化合物を挙げることができる。具体的な架橋剤の例としては、一般式W-X-W(式中、Wはビニルモノマー基、Xはリンカー基を示す。)で表される化合物が挙げられる。架橋剤を構成するビニルモノマー基W及びリンカー基Xについても、上述と同様である。より具体的な架橋剤としては、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート等の低分子架橋剤が挙げられる。架橋剤の使用量に関しては、架橋により得られる第2インプリントポリマーの適度な強度を得る観点や、第2インプリントポリマーに鋳型である第1インプリントポリマーの表面情報をより正確に受け継がせる観点から、ビニルモノマーと架橋剤の合計モル数に対する架橋剤のモル数の割合として例えば5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは18%以上が挙げられる。また、第2インプリントポリマーが図2(a)に示すような基板一体型である場合に第2インプリントポリマーが後述の工程12での分子インプリンティングの鋳型として使用された後、工程13で除去される時に、基板同士を剥離させることで容易に除去可能となる程度の高すぎない硬度に制御する等の観点から、ビニルモノマーと架橋剤の合計モル数に対する架橋剤のモル数の割合として例えば30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは22%以下が挙げられる。つまり、ビニルモノマーと架橋剤の合計モル数に対する架橋剤のモル数の割合の具体的な範囲としては、5~30%、5~25%、5~22%、10~30%、10~25%、10~22%、18~30%、18~25%、18~22%が挙げられる。
【0085】
重合反応系には、さらに、重合触媒として、遷移金属または遷移金属化合物と配位子とから形成される遷移金属錯体を含むことが好ましく、さらに還元剤を用いることがより好ましい。遷移金属錯体及び還元剤については、工程3において記載したものを用いることができる。
【0086】
工程6における共重合条件は、当業者によって適宜決定される。例えば、生体適合性ポリマーは水溶性であるので、水系溶媒存在下で、基板S1上の第1分子インプリントポリマーに、ビニルモノマーを添加し、重合開始剤により重合を開始することができる。また、重合開始剤が光重合性開始剤である場合は、光照射条件下で反応を開始する。
【0087】
図2(a)に示すような基板と一体化したポリマーレプリカを製造する場合は、反応液は、第1分子インプリントポリマー表面とそれに積層された基板S2との間を満たす。基板S2の表面がイニファーターで修飾されている場合は、当該イニファーターを重合開始剤として利用してもよい。図2(b)に示すような粒子状のポリマーレプリカを製造する場合は、第1分子インプリントポリマー上の反応液の層ができるだけ薄くなるように液量を調整する。これによって、第1分子インプリントポリマーの各凹部からそれぞれ独立した状態(粒子状態)の第2分子インプリントポリマーが得られる。さらに、重合反応系を構築する前に、第1分子インプリントポリマーの凹部内のみに重合開始剤を入れておくことで、より容易に独立した状態の第2分子インプリントポリマーが得られる。
【0088】
重合温度は0℃以上120℃以下程度、好ましくは常温(5℃以上35℃以下、好ましくは10℃以上30℃以下)でよく、重合時間は10分間以上50時間以下程度とすることができる。共重合反応後は、使用した溶媒などで第2分子インプリントポリマーを洗浄し、余分な試薬を除去することが好ましい。
【0089】
[工程7:第1分子インプリントポリマーの除去]
工程7では、可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2を切断して第1分子インプリントポリマーを除去する。これによって、第2分子インプリントポリマーを得る。工程6で基板S2を用いた場合は、図2(a)に示すような、第1分子インプリントポリマーを鋳型とする凸部と当該凸部表面に切断残基である結合性基bg1及び結合性基bg2を含むポジティブタイプの第2分子インプリントポリマーを得る。工程6で基板S2を用いなかった場合は、図2(b)に示すような、第1分子インプリントポリマーを鋳型とする粒子状で、表面に切断残基である結合性基bg1及び結合性基bg2を含むポリマーレプリカを得る。
【0090】
図示された態様では、可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2に加えて、可逆的連結基RV3も切断され、結合性基bg1及び結合性基bg2に加えて、結合性基bg3も含む第2分子インプリントポリマーを得る。結合性基bg1、結合性基bg2及び結合性基bg3は、それぞれ、可逆的連結基RV1、可逆的連結基RV2及び可逆的連結基RV3の切断残基であり、その具体例としては、表2の第2欄に挙げた通りである。
【0091】
可逆的連結基の切断は、それぞれの可逆的連結基の種類に応じて当業者が適宜決定することができる。例えば、図示されたように、可逆的連結基RV1としてジスルフィド結合、可逆的連結基RV2としてボロン酸cisジオールエステル基、可逆的連結基RV3として水素結合である場合は、ジスルフィド結合及び/又はボロン酸cisジオールエステル基を還元する条件に供すればよい。より具体的には、常温下、適切な溶媒中、工程6で得られた基板S1及び基板S1上の第1分子インプリントポリマーと第2分子インプリントポリマーとの複合体を、還元剤を含む液中に浸漬させればよい。還元剤としては、例えば、トリス(2-カルボキシエチルホスフィン)(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、トリブチルホスフィン(TBP)等が挙げられる。これによって、共有結合性の可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2が切断されるとともに、水素結合である可逆的連結基RV3も切断される。
【0092】
還元反応後は、基板S1(及び基板S1上の第1分子インプリントポリマー)から第2分子インプリントポリマーを取り出す。図2(a)に示すような基板一体型のポリマーレプリカを製造する場合は、第2分子インプリントポリマーの取り出しを、基板S1(及び基板S1上の第1分子インプリントポリマー)と基板S2(及び基板S2上の第2分子インプリントポリマー)とを剥離させることで容易に行える点で好ましい。なお、図2(b)に示すような粒子状のポリマーレプリカを製造する場合は、第1分子インプリントポリマー及び第2分子インプリントポリマーのいずれか一方を樹脂に代えてシリカゲルで構成することで、第2分子インプリントポリマーの取り出しをより容易にすることができる。例えば、第1分子インプリントポリマーの方をシリカゲルで構成した場合、第1分子インプリントポリマーを溶解させることで第2分子インプリントポリマーをより容易に取り出すことができる。
【0093】
このようにして、「1.標的物質のポリマーレプリカ」で述べた標的物質のポリマーレプリカが得られる。
【0094】
[3.基板センサの製造方法]
図6を参照して、本発明の基板センサの製造方法について説明する。本発明の基板センサの製造方法は、標的物質のポリマーレプリカ(図2(a)に示すような基板一体型のポリマーレプリカ)を鋳型とする第3分子インプリントポリマー(3rd MIP)を作製する工程11~13と、第3分子インプリントポリマーにプストインプリンティング化合物及び/又はシグナル物質を結合する工程14とを含む。
【0095】
[工程11:第2分子インプリントポリマーへのビニル基の導入]
工程11では、標的物質のポリマーレプリカ基板上で、凸部(凸状のポリマーレプリカ部)表面における少なくとも結合性基bg1及び結合性基bg2を介して、それぞれ、ビニル基を有する機能性モノマーFM111及び機能性モノマーFM112を結合させる。また、後述するように、機能性モノマーFM111及び機能性モノマーFM112は、それぞれ、結合性基bg1と反応して可逆的連結基RV1を形成可能な基及び結合性基bg2と反応して可逆的連結基RV2を形成可能な基を有する。このため、工程11によって、第2分子インプリントポリマーの凸部表面における少なくとも結合性基bg1及び結合性基bg2に、それぞれ可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2を介してビニル基が導入される。
【0096】
機能性モノマーFM111は、上記式(III)におけるQ51が、結合性基bg1に対する結合性基bg1’であることを除いて、上述の工程4において用いられる機能性モノマーFM51と同様である。また、機能性モノマーFM112は、上記式(III)におけるQ52が、結合性基bg2に対する結合性基bg2’であることを除いて、上述の工程4において用いられる機能性モノマーFM52と同様である。結合性基bg1に対する結合性基bg1’は、結合性基bg1と反応して可逆的連結基RV1を形成可能な基を、結合性基bg1の種類に応じて、当業者が適宜決定することができる。結合性基bg1に対する結合性基bg1’の具体例は、上述の表2の第3欄の基のうち、共有結合性の基が挙げられる。結合性基bg2に対する結合性基bg2’は、結合性基bg2と反応して可逆的連結基RV1を形成可能な基を、結合性基bg2の種類に応じて、当業者が適宜決定することができる。結合性基bg2に対する結合性基bg2’の具体例は、上述の表2の第3欄の基のうち、共有結合性の基が挙げられる。機能性モノマーFM111及び機能性モノマーFM112の反応条件等についても上述の工程4における反応条件等と同様である。
【0097】
[工程12:分子インプリンティング(第3分子インプリントポリマー3rd MIPの合成)]
工程12では、第2分子インプリントポリマー上にビニルモノマーを添加し、ビニルモノマーを介して基板S3を積層した状態で、第2分子インプリントポリマーを鋳型とする分子インプリンティングを行う。具体的には、基板S3表面上で、工程11で第2分子インプリントポリマーに導入されたビニル基、ビニルモノマー、および鋳型としての第2分子インプリントポリマーが共存する重合反応系が構築されることにより、リビングラジカル重合が進行する。ビニルモノマーは、工程11で導入した機能性モノマーFM111,FM112のビニル基と共重合させられ、第2分子インプリントポリマーの凸部の周りにポリマーマトリックス(第3分子インプリントポリマー)を形成する。
【0098】
基板S3の材質としては、金属、ガラス、及び樹脂など、特に制限されない。樹脂としては、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリウレタン、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。センサ基板を光学的分析用途で作製する場合は、透光性を有する材料であることが好ましく、無色透明の材料であることがより好ましい。この観点からは、基板S3の材質としては、無色透明のガラス、無色透明の樹脂が好ましく挙げられる。
【0099】
基材S2が金属基板(但しガラス基板が積層されていないもの)の場合、基板S3は上述のいずれであってもよいが、後述工程14をより容易にする観点から、好ましくは金属基板(但しガラス基板が積層されていないもの)、樹脂であることが好ましい。基材S2がガラス基板又は金属薄膜を有するガラス基板である場合、基板S3は、後述工程14を容易にする観点から、金属基板(但しガラス基板が積層されていないもの)又は樹脂である。
【0100】
基板S3上には予め表面修飾基を結合させることで表面修飾を行っておくことが好ましい。例えば、図示されるように、基板S3上に予め自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayer)を形成しておくことが好ましい。SAMは、基板S3へ化学結合していると共に、基板S3上に分子が分子間力により密に且つ規則的に整列していることから、安定で均一である。以下において、基板S3表面の表面修飾としてSAMを形成する場合を代表して説明する。
【0101】
SAMを形成するための分子としては、基板S3表面に対する結合性基(例えば、基板S1が金属基板の場合、金属基板表面と結合可能なチオール基または酢酸チオエステル基が挙げられる)を一方の端部に有し、重合開始基を他端に有する、炭素数8以上の直鎖アルカンが挙げられる。この場合、重合開始基は、後述の工程3における共重合反応における重合開始剤として機能する。基板S3上に表面される重合開始基は、基板S2で用いた重合開始基と異なっていればよい。
【0102】
基板S3として金属基板を用いる場合、金属基板上へのSAMの形成は、常法に従えばよい。例えば、SAM形成分子をエタノールなどに溶解し、得られた溶液に金属基板を常温で30分間以上48時間程度浸漬すれば、当該分子がチオエーテル結合を介して金属基板表面に結合し、且つ分子間力により配向しつつ密に集合し、SAMが形成される。或いは、上記工程1において例示したリンカー基を介して、SAM形成分子を段階的に延長してもよい。その場合には、重合開始基を最終末端に導入するようにすればよい。次いで、過剰のSAM形成分子を洗浄により除去した後、乾燥すればよい。
【0103】
また、基板S3としてガラス基板を用いる場合には、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)などのシランカップリング剤で表面にアミノ基などの反応性基を導入することにより、SAMの形成が可能である。
【0104】
重合反応系に添加するビニルモノマーは、工程11で標的物質に導入されたビニル基(つまり機能性モノマーFM111及び機能性モノマーFM112のビニルモノマー基)と共重合可能なビニル基構造を有するものであれば特に制限されず、当業者が適宜選択することができる。
【0105】
例えば、ビニルモノマーの好ましい例として、生体適合性モノマーが挙げられる。生体適合性モノマーとは、生体適合性ポリマーを構成可能なモノマーをいう。生体適合性ポリマーは生体親和性に優れるため、得られるセンサ基板が、血液などの生体試料の分析に適しているという利点がある。
【0106】
生体適合性ポリマーは、好ましくは親水性ポリマーであり、より具体的には双性イオンポリマーが挙げられる。双性イオンポリマーを構成可能な双性イオンモノマーは、酸性官能基(たとえば、リン酸基、硫酸基、およびカルボキシル基など)に由来するアニオン基と、塩基性官能基(たとえば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基および4級アンモニウム基など)に由来するカチオン基との両方を1分子中に含む。たとえば、ホスホベタイン、スルホベタイン、およびカルボキシベタインなどが挙げられ、より好ましくはホスホベタインが挙げられる。
【0107】
スルホベタインとしては、N,N-ジメチル-N-(3-スルホプロピル)-3’-メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SPB)、N,N-ジメチル-N-(4-スルホブチル)-3’-メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SBB)などが挙げられる。カルボキシベタインとしては、N,N-ジメチル-N-(1-カルボキシメチル)-2’-メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CMB)、N,N-ジメチル-N-(2-カルボキシエチル)-2’-メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CEB)などが挙げられる。ホスホベタインとしては、ホスホリルコリン基を側鎖に有する分子が挙げられ、さらに好ましくは、2-メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン(MPC)が挙げられる。
【0108】
モノマーの総量に対し、生体適合性モノマーのモル数の割合としては、例えば50%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上が挙げられる。
【0109】
ビニルモノマーの他の例としてノニオンポリマーも挙げられる。ノニオンポリマーは、得られるセンサ基板を非特異的吸着が低減されたものとして得られる利点がある。ノニオンポリマーの例としては、ポリエーテル系高分子(たとえばポリ(エチレングリコール))を有するビニルモノマーが挙げられる。
【0110】
また、ビニルモノマーには、機能性モノマーFM12を含んでもよい。機能性モノマーFM12は、具体的には、例えば以下の構造を有する。
W-X-Q12・・・ (II)
【0111】
上記式中、Wはビニルモノマー基、Xは単結合又はリンカー基を示し、それぞれ、工程1で説明した機能性モノマーFM1におけるW及びXとして例示した基から選択される。
【0112】
12は、標的物質のポリマーレプリカ基板の凸状ポリマーレプリカ部における結合性基bg3に対する結合性基bg3’を示す。結合性基bg3に対する結合性基bg3’は、好ましくは、結合性基bg3と非共有結合(可逆的連結基RV3)を形成可能な基を、結合性基bg3の種類に応じて、当業者が適宜決定することができる。結合性基bg3に対する結合性基bg3’の具体例は、上述の表1中欄の例示(又は表2第3欄の例示)のうち、非共有結合性の基から選択することができる。図示された態様では、結合性基bg3として、タンパク質部分の側鎖カルボキシル基を模したカルボキシル基が想定されており、当該結合性基bg3に対する結合性基bg3’として、塩基性基を用いる。当該塩基性基としては、アミノ基、環状2級アミノ基(たとえば、ピロリジル基、ピペリジ基)、ピリジル基、イミダゾール基、グアニジン基から選択することができ、好ましくは2級アミノ基(たとえば、ピロリジル基、ピペリジ基)が挙げられ、より好ましくはピロリジル基が挙げられる。このような機能性モノマーFM12をビニルモノマーに含ませて共重合することによって、得られる第3分子インプリントポリマーにおいて、凸状ポリマーレプリカ部における結合性基bg3と機能性モノマーFM12由来の結合性基bg3’とが可逆的連結基RV3である水素結合を形成することができる。
【0113】
また、重合反応系には、ビニルモノマーに加えて、架橋剤を併用してもよい。架橋剤としては、2以上のビニルモノマー基がリンカー基により結合された化合物を挙げることができる。具体的な架橋剤の例としては、一般式W-X-W(式中、Wはビニルモノマー基、Xはリンカー基を示す。)で表される化合物が挙げられる。架橋剤を構成するビニルモノマー基W及びリンカー基Xについても、上述と同様である。より具体的な架橋剤としては、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート等の低分子架橋剤が挙げられる。架橋剤の使用量に関しては、架橋により得られる第3インプリントポリマーの適度な強度を得る観点、及び/又は第2インプリントポリマーに鋳型である第2インプリントポリマーの表面情報をより正確に受け継がせる観点から、ビニルモノマーと架橋剤の合計モル数に対する架橋剤のモル数の割合として例えば5%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは18%以上が挙げられる。また、第3インプリントポリマーが後述の工程13で除去される時に、基板同士を剥離させることで容易に除去可能となる程度の高すぎない硬度に制御する観点から、ビニルモノマーと架橋剤の合計モル数に対する架橋剤のモル数の割合として例えば30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは22%以下が挙げられる。つまり、ビニルモノマーと架橋剤の合計モル数に対する架橋剤のモル数の割合の具体的な範囲としては、5~30%、5~25%、5~22%、10~30%、10~25%、10~22%、18~30%、18~25%、18~22%が挙げられる。
【0114】
重合反応系には、さらに、重合触媒として、遷移金属または遷移金属化合物と配位子とから形成される遷移金属錯体を含むことが好ましく、さらに還元剤を用いることがより好ましい。遷移金属錯体及び還元剤については、工程3において記載したものを用いることができる。
【0115】
工程12における共重合条件は、当業者によって適宜決定される。例えば、生体適合性ポリマーは水溶性であるので、水系溶媒存在下で、基板S2上の第2分子インプリントポリマーに、ビニルモノマーを添加し、重合開始剤(基板S3の表面で重合開始基を有するSAMが形成されている場合は、当該重合開始基を利用してもよい)により重合を開始することができる。反応液は、第2分子インプリントポリマー表面とそれに積層された基板S3との間を満たす。重合温度は0℃以上120℃以下程度、好ましくは常温(5℃以上35℃以下、好ましくは10℃以上30℃以下)でよく、重合時間は10分間以上50時間以下程度とすることができる。共重合反応後は、使用した溶媒などで基板を洗浄し、余分な試薬を除去することが好ましい。
【0116】
[工程13:第2分子インプリントポリマーの除去]
工程13では、可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2を切断して第2分子インプリントポリマーを除去する。これによって、第2分子インプリントポリマーを鋳型とする凹部と当該凹部表面に切断残基である結合性基bg1’及び結合性基bg2’を含むネガティブタイプの第3分子インプリントポリマーを得る。図示された態様では、可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2に加えて、可逆的連結基RV3も切断され、結合性基bg1’及び結合性基bg2’に加えて、結合性基bg3’も含む第2分子インプリントポリマーを得る。結合性基bg1’、結合性基bg2’及び結合性基bg3’は、それぞれ、可逆的連結基RV1、可逆的連結基RV2及び可逆的連結基RV3の切断残基であり、その具体例としては、表2の第3欄に挙げた通りである。
【0117】
可逆的連結基の切断は、それぞれの可逆的連結基の種類に応じて当業者が適宜決定することができる。例えば、図示されたように、可逆的連結基RV1としてジスルフィド結合、可逆的連結基RV2としてボロン酸cisジオールエステル基、可逆的連結基RV3として水素結合である場合は、ジスルフィド結合やボロン酸cisジオールエステル基を還元する条件に供すればよい。より具体的には、常温下、適切な溶媒中、工程12で得られた基板S2及び基板S2上の第2分子インプリントポリマーと基板S3及び基板S3上の第3分子インプリントポリマーの複合体を還元剤を含む液中に浸漬させればよい。還元剤としては、例えば、トリス(2-カルボキシエチルホスフィン)(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、トリブチルホスフィン(TBP)等が挙げられる。これによって、共有結合性の可逆的連結基RV1及び可逆的連結基RV2が切断されるとともに、水素結合である可逆的連結基RV3も切断される。還元反応後は、基板S2(及び基板S2上の第2分子インプリントポリマー)と基板S3(及び基板S3上の第3分子インプリントポリマー)とを剥離させる。
【0118】
このようにして、第2分子インプリントポリマーの凸状ポリマーレプリカ部を鋳型とする分子インプリント空間として形成された凹部を有する第3分子インプリントポリマーを得ることができる。第2分子インプリントポリマーが、対象物質表面の官能基情報を正確に模倣しているため、第3分子インプリントポリマーの凹部は、標的物質の特異的認識部位(つまり、標的物質を特異的に取り込むことが可能な空間)として機能することができる。
【0119】
[工程14:ポストインプリンティング化合物及び/又はシグナル物質の導入]
工程14では、結合性基bg1’及び結合性基bg2’の少なくともいずれかに、結合性基BG1及び結合性基BG2の少なくともいずれかと相互作用するポストインプリンティング化合物及び/又はシグナル物質を結合させる。好ましくは、標的物質の結合性基と対応する結合性基が、標的物質の結合性基と異種である結合性基に対して、ポストインプリンティング化合物及び/又はシグナル物質を結合させることが好ましい。また、ポストインプリンティング化合物及び/又はシグナル物質の結合による効果をより効果的に得るため、ポストインプリンティング化合物及び/又はシグナル物質は、結合性基bg1’及び結合性基bg2’のうち、特異的認識空間(凹部)内に複数存在する結合性基(図示された態様においては、結合性基bg1’)に対して結合することが好ましい。
【0120】
ポストインプリンティング化合物の場合、特異的認識空間(凹部)内に結合させたポストインプリンティング化合物は、標的物質が特異的認識空間に認識されると、当該標的物質の結合性基と相互作用することで、特異的認識空間の標的物質に対する親和性及び/又は選択性を向上させる。
【0121】
例えば、標的物質の結合性基と対応する結合性基が、標的物質の結合性基と異種である結合性基bg1’にポストインプリンティング化合物を結合させると、結合させられたポストインプリンティング化合物の位置は、当該特異的認識空間に進入する検出すべき標的物質の結合性基BG1の位置に対応する。このため、基板センサの使用時に標的物質が当該特異的認識空間に進入すると、ポストインプリンティング化合物と標的物質の結合性基BG1とが相互作用する。このため、当該特異的認識空間の標的物質に対する選択性と親和性とが向上する。
【0122】
ポストインプリンティング化合物は、標的物質の結合性基BG1に対する結合性基を有する。このような結合性基としては、上記表1の中欄に示す結合性基が挙げられる。結合性基BG1とポストインプリンティング化合物との位置に基づく効果をより良好に得る観点からこのような結合性基は、上記工程1における式(I)中Zで示すリンカー基を介して結合されていることが好ましい。
【0123】
シグナル物質の場合、特異的認識空間(凹部)内に標的物質が認識されると、当該特異的認識空間内のシグナル物質に由来するシグナル強度が変化すること又はスペクトルが変化(例えばピークがシフト)することで、分析対象試料中における標的物質の有無又はその濃度を容易に測定することが可能になるため、標的物質に対する検出感度を顕著に向上させる。
【0124】
シグナル物質としては、具体的なシグナル物質としては、特異的認識空間内への標的タンパク質の挿入が妨げられない程度の大きさを有するものであれば特に限定されない。また、特異的認識部位への標的物質の進入により検知されるシグナル強度が変化したり、スペクトルが変化(例えばピークがシフト)したりするものを特に限定されることなく用いることができる。たとえば、蛍光物質、放射性元素含有物質、磁性物質等が挙げられる。検出容易性等の観点から、シグナル物質としては蛍光物質であることが好ましい。蛍光物質としては、フルオレセイン系色素、インドシアニン色素などのシアニン系色素、ローダミン系色素などの蛍光色素などが挙げられる。放射性元素含有物質としては、18Fなどの放射性同位体でラベルした、糖、アミノ酸、核酸などが挙げられる。磁性物質としては、フェリクロームなどの磁性体を有するもの、フェライトナノ粒子、ナノ磁性粒子などにみられるものが挙げられる。
【0125】
また、シグナル物質は、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を引き起こす蛍光色素ペアの一方として構成することもできる。FRETを引き起こす蛍光色素ペアとしては特に限定されず、シグナル物質としてドナー色素及びアクセプター色素のいずれを選択するかも限定されない。好ましくは、シグナル物質としてドナー色素を選択することができる。FRETを引き起こす蛍光色素のペアを構成するドナー色素/アクセプター色素の具体例としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)/テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、Alexa Fluor647/Cy5.5、HiLyte Fluor647/Cy5.5、R-フィコエリトリン(R-PE)/アロフィコシアニン(APC)等が挙げられる。
【0126】
このようにして、基板S3と、基板S3上に設けられた、標的物質の特異的認識部位を有する第3分子インプリントポリマーと、特異的認識部位に結合させられた、ポストインプリンティング化合物及び/又はシグナル物質と、を有するセンサ基板が得られる。本発明のセンサ基板の製造方法は、標的物質を鋳型に用いなくとも、対象物質表面の官能基情報を正確に模倣しているポリマーレプリカ基板を鋳型に用いることで標的物質の分子認識材料を作製することが可能となる。鋳型が合成ポリマーで構成されているため、その化学的安定性及び物理的安定性並びに各段に向上したコスト性から、極めて効率的にセンサ基板を製造することが可能となる。このため、医療分野、環境・水質分析分野、及び食品分野等で使用される分析ツールや分析キットの創出を容易にすることができる。
【0127】
[標的物質の分析]
基板センサを用いて標的物質を分析するには、基板センサ表面上に、標的物質を含む分析試料液を接触させる。
【0128】
分析試料液としては特に限定されず、標的物質を精製又は粗精製する処理を経たものであってもよいし、そのような処理を経ていないものであってもよい。なお、当該処理としては、超遠心分離、限外ろ過、連続フロー電気泳動、サイズフィルターを用いたろ過、ゲルろ過クロマトグラフィー等が挙げられる。分析試料液の具体例としては、生体試料(血液、乳汁、尿、唾液、リンパ液、髄液、羊水、涙液、汗、鼻漏等の体液試料)、環境・水質試料、及び食品試料等が挙げられる。
【0129】
基板センサの表面上に標的物質を含む分析試料を接触させると、標的物質が基板センサの表面の特異的認識部位に特異的に捕捉される。特異的認識部位にシグナル物質が結合している場合、標的物質が特異的認識部位に特異的に捕捉されると、シグナル物質が標的物質によって遮蔽されるため、シグナル物質から検知されるシグナル強度が変化する。このシグナル強度の変化によって標的物質が検出される。
【0130】
また、基板センサにおけるシグナル物質を、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を引き起こす蛍光色素ペアの一方となるように構成している場合、分析試料中の標的物質に予め当該蛍光色素ペアの一方を結合させておく。この場合、標的物質が特異的認識部位に特異的に捕捉されると、シグナル物質の蛍光色素と標的物質の蛍光色素とが近接するため、FRETにより蛍光が放射される。このFRETによる蛍光放射によって標的物質が検出される。
【実施例
【0131】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0132】
標的物質AFPへのビニル基導入(工程1)
AFP溶液(AFP Liquid in tris buffered saline, pH 7.5 with sodium azide, LeeBioSolutions)を限外ろ過(4℃,14000×g,10分)し、AFPが1mg/mLとなるように10mM phosphate buffer(pH7.4)に再分散させた。200μL(200μg,2.9nmol)をエッペンドルフチューブに入れ、AFPに対して機能性モノマーFM1(M.W.=449.45)が10等量となるように1mg/mLの機能性モノマーFM1溶液(10mM phosphate buffer(pH7.4))を加え、4℃で14時間反応させた。反応後、未反応のFM1を除去するためAmicon Ultra-0.5(MWCO:30kDa)を用いて10mM phosphate buffer(pH7.4)で希釈し、限外ろ過(4℃,14000×g,10分)を3回行った。FM1の導入数は、MALDI-TOF-MS(matrix:シナピン酸、method:IgG liner)のピークシフトから算出した。
【0133】
金基板修飾
エタノールで洗浄した表面プラズモン共鳴(SPR)金基板を20分間UV-O3クリーニングした。SAMを形成する化合物として、amino-EG6-untecanthiol(Mw:504.16)及びBis[2-(2-bromoisobutyryloxy)undecyl]disulfide(Mw:704.7)をいずれも0.5mMとなるように溶解させたEtOH溶液(2mL)に金基板を浸漬(30℃、18h)させ、末端基としてアミノ基及び原子移動ラジカル重合(ATRP)開始基を有するSAM(mixed-SAM)で表面修飾を行った。修飾後の金基板をEtOH及びMIlli-Q水で洗浄し、N2で乾燥させた。乾燥後の基板は真空デシケータにて保管した。さらに、アミノ基にフェニルボロン酸基を導入するため、3-フルオロ-4-カルボキシフェニルボロン酸(CFPBA)を1mM、及び4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)を10mMとなるようにEtOH(2mL)に溶解させ、その溶液に、mixed-SAM修飾基板を浸漬させ、25°Cで3hインキュベーションした。反応後の基板はMeOH、Milli-Q水で洗浄し、N2で乾燥させた。
【0134】
標的物質AFPの固定化(工程2)
得られたmixed-SAM修飾基板上に、10μg/mLのFM1-AFP溶液100μLを滴下し、25°Cで1hインキュベーションした。その後基板をリン酸緩衝液にて洗浄し、AFP固定化金基板を得た。
【0135】
第1分子インプリントポリマー(1st MIP)の合成(工程3)
ピリジニウムメタクリレート(PyM;250μM)、アクリルアミド(AAm,40mM)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA;10mM)を10mMリン酸緩衝液(pH7.4)4.5mLにそれぞれ溶解させ、さらに2,2’-Bipyridine(2mM)及びCuBr2(1mM)を加え、凍結脱気窒素置換を行うことにより、プレポリマー溶液を調製した。別途、アスコルビン酸(6.25mM)Milli-Q水溶液を調製し、同様に凍結脱気窒素置換を行った。AFP固定化金基板をシュレンクフラスコ内に入れ、プレポリマー溶液を加えて十分に脱気窒素置換した後、アスコルビン酸溶液(400μL)をシリンジで添加し、もう一度脱気窒素置換を行った。その後、フラスコを40°Cに設定したウォーターバスに浸漬させ表面開始原子移動ラジカル重合反応を1時間行った。重合後の基板はMilli-Q水にて洗浄し、10mMリン酸緩衝液中で保存した。
【0136】
鋳型(AFP)の除去(工程4)
銅を除くため、重合後の基板を50mMのEDTA-4Na水溶液5mLに浸漬させ、振とうしながら25°Cで1h反応させた。その後、重合後のジスルフィド結合の還元及び鋳型AFPの除去を行うため、20mMのTCEP水溶液5mLに浸漬させ、振とうしながら25°Cで5h反応させた。
【0137】
鋳型(第1分子インプリントポリマー)へのビニル基導入(工程5)
第1分子インプリントポリマー(1st MIP)にジスルフィド交換反応を利用してビニル基を導入するため、1mMのピリジルジチオエチルメタクリルアミド溶液(50%MeOH,v/v)100μLを滴下して反応させた(25℃、over night)。50%MeOH(v/v)、リン酸緩衝液で洗浄後、更に1mMのグリコシルエチルメタクリルアミド(GMA)溶液(10mMリン酸緩衝液,pH7.4)100μLを滴下して25°Cで1h反応させた。
【0138】
金基板修飾
洗浄した日本分光株式会社製金基板にシリコンシートをかぶせ、1.0mMのイニファーター(Iniferter)-SH(下記式、Mw:392.7)を溶解させたEtOH溶液100μLを滴下し、重合開始基で表面修飾を行った(30℃、18h)。修飾後の金基板はEtOHで洗浄し、N2で乾燥させた。
【0139】
【化2】
【0140】
第2分子インプリントポリマー(2nd MIP)合成(工程6)
アクリル酸(1mM)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC;40mM)、及びN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA;10mM)を、10mMリン酸緩衝液(pH7.4)に溶解させ、凍結脱気窒素置換を行った。100μLのプレポリマー溶液を第1分子インプリントポリマー上に滴下後、金基板を積層し、KeyChem-Lumino(紫外発光LED、ピーク波長365nm)を用いて窒素フロー下にて重合反応を3時間行った。
【0141】
鋳型(第1分子インプリントポリマー)の除去(工程7)
重合反応後の積層物を20mMのTCEP水溶液に25℃で3h浸漬させ、基板同士を剥離した。これによって、標的物質AFPのポリマーレプリカ基板を得た。
【0142】
第2分子インプリントポリマーへのビニル基導入(工程11)
ポリマーレプリカ基板の第2分子インプリントポリマー(2nd MIP)にジスルフィド交換反応を利用してビニル基を導入するため、1mMのピリジルジチオエチルメタクリルアミド溶液(50%MeOH,v/v)100μLを滴下して反応させた(25℃、over night)。50%MeOH(v/v)、リン酸緩衝液で洗浄後、更に1mMの3-フルオロ-4-カルボキシフェニルボロン酸(CFPBA)溶液(10mMリン酸緩衝液,pH7.4)100μLを滴下して25°Cで1h反応させた。その後、100μLのリン酸緩衝液で1回洗浄した。
【0143】
ガラス板の表面修飾
25mm角のガラス基板(厚さ約0.5mm)を、ピランハ溶液(濃H2SO4:H22=3:1,v/v)で30分洗浄し、MeOH,純水,EtOHでかけ流し洗浄し、すぐに、プラスチックシャーレに調製した1w%のAPTES溶液に基板を浸漬させ、25℃で1時間静置した。その後、EtOHでかけ流し洗浄して110℃のホットプレートにて15分焼成し、ガラス基板表面をアミノ化した。得られた基板を2-ブロモイソ酪酸(5mM)、EDC(7.5mM)、NHS(7.5mM)を溶解させたDMSO溶液に浸漬させ25℃、2時間反応させ、Br化した。その後、DMSO,EtOHで基板をかけ流し洗浄し、N2ガスで乾燥させた。得られたBr修飾ガラス板は、12.5mm角にカットして重合反応に使用した。
【0144】
第3分子インプリントポリマー(3rd MIP)の合成(工程12)
ピリジニウムメタクリレート(PyM;1mM)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC;40mM)、及びN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA;10mM)、2,2’-ビピリジン(2mM)、CuBr2(1mM)を、10mMリン酸緩衝液(pH7.4)(総量で500μL)に溶解させ、凍結脱気窒素置換を行い、モノマー溶液を調製した。別途、アスコルビン酸(6.25mM)のMilli-Q水溶液を調製し、同様に凍結脱気窒素置換を行った。いずれの溶液もグローブボックス中に入れ、容器内を窒素置換した。その後、モノマー溶液にアスコルビン酸水溶液40μLを入れ混合し、このプレポリマー溶液100μLをポリマーレプリカ基板の第2分子インプリントポリマー上に滴下後、ブロモ基で表面修飾したガラス基板を積層し、三角フラスコ中に入れ、セプタムで密封した。積層状態でグローブボックスから出し、再度脱気窒素置換後、別途脱気窒素置換しておいたモノマー溶液及びアスコルビン酸水溶液の混合溶液を100μL追添加し、脱気窒素置換した後40℃ウォーターバスに浸漬させて静置し、重合反応を1時間行った。
【0145】
鋳型(第2分子インプリントポリマー)の除去(工程13)
銅を除くため、重合後の基板を50mMのEDTA-4Na水溶液に浸漬させ、振とうしながら25°Cで1h反応させた。その後、20mMのTCEP水溶液に浸漬(25℃、over night)させ、基板同士を剥離した。
【0146】
蛍光分子の導入(工程14)
鋳型分子除去後、ジスルフィド基を導入したローダミン蛍光試薬の1mM水溶液(50%MeOH,v/v)を基板上に100μL滴下し、カバーガラスで封をした状態で25°Cでover night反応させた。反応後の基板はMeOHと純水とで洗浄した。これによって、基板センサを得た。
【0147】
センサ基板AFPのAFP(標的物質)結合能評価
1.第1分子インプリントポリマー(1st MIP)のAFP結合性試験(参考例)
表面プラズモン共鳴測定装置に、工程4で得られた第1分子インプリントポリマー基板をセッティング後、ベースラインが安定化するまでランニングバッファーを送液した。安定化後、20mMのTCEP水溶液(200μL:10分)をインジェクションし、その後1%のTRITON X-100リン酸緩衝液溶液(20μL:1分)、1MのNaCl水溶液(20μL:1分)、Glycine-HCl溶液(20μL:1分)で基板の洗浄を行った。RU値が下がらなくなったところで、0ng/mL、0.5ng/mL、1ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、50ng/mL、100ng/mL(0nM,0.007nM,0.014nM,0.072nM,0.14nM,0.72nM,1.45nM)のAFP(10mMリン酸緩衝液(pH7.4))溶液をインジェクションしてSPR測定を行った。
【0148】
測定は以下のように装置内でメソッドを組み、オートサンプラーで段階状にAFP溶液のインジェクションを行った。
・ランニングバッファー:10mMリン酸緩衝液(pH7.4)
・流速:20μL/分、接触時間:1分(インジェクションボリューム:20μL)
・設定温度:25℃
(1)ランニングバッファーを送液し、送液開始後5分の値をベースラインの値として得た。
(2)タンパク質をインジェクションした(1分間)。インジェクション終了後5分の値をデータの点として得た。
(3)次点の濃度のタンパク質をインジェクションした。インジェクション終了後5分の値をデータの点として得た。△Ru値はベースラインから各タンパク質のデータ点の差を採用した。
【0149】
図7に、第1分子インプリントポリマー基板(鋳型として標的物質AFPを用いて作製)を用いたSPRによるAFP検出において得られた、AFP濃度に対するSPRシグナル変化を示す吸着等温線を示す。得られた吸着等温線よりカーブフィッティングソフトウエアを用いて結合定数を算出したところ、Kd=6.2×10-11[M]と算出された。
【0150】
2.第3分子インプリントポリマー(3rd MIP)のAFP結合性試験(実施例)
工程14で得られた、第3分子インプリントポリマーを有するセンサ基板をガラスボトムディッシュに入れ、3mLの10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中に浸漬させた。0.5μg/mL、1μg/mL、5μg/mL、10μg/mL、50μg/mL、100μg/mLのAFP溶液3μLを添加し(終濃度0ng/mL、0.5ng/mL、1ng/mL、5ng/mL、10ng/mL、50ng/mL、100ng/mL(0nM,0.007nM,0.014nM,0.072nM,0.14nM,0.72nM,1.45nM))、マグネチックスターラーで20分撹拌しながらインキュベーションし、各AFP濃度における基板の蛍光強度を蛍光顕微鏡にて測定した。測定条件は、光量100%、対物レンズx4、Cy3フィルタ、露光時間0.1秒、16bit、測定箇所は、基板内の50×50pixelを9点とした。
【0151】
また、工程13で得られた、蛍光分子導入前の基板についても、ガラスボトムディッシュに入れ、3mLの10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中に浸漬させて測定を行った(比較例)。
【0152】
図8(a)に、蛍光分子導入前の基板(比較例)及び導入後の基板(実施例)における蛍光強度の比較を示す。図8(b)に、第3分子インプリントポリマーを有する基板センサ(鋳型として第2分子インプリントポリマーを有するポリマーレプリカ基板を用いて作製)を用いた蛍光顕微鏡測定によるAFP検出において得られた、AFP濃度に対する蛍光強度変化を示す吸着等温線を示す。得られた吸着等温線よりカーブフィッティングソフトウエアを用いて結合定数を算出したところ、Kd=1.2×10-11[M]と算出された。
【0153】
基板センサの選択性評価
工程14で得られた、第3分子インプリントポリマーを有するセンサ基板をガラスボトムディッシュに入れ、3mLの10mMリン酸緩衝液(pH7.4)中に浸漬させた。終濃度が1.45nMとなるようAFPを添加し、マグネチックスターラーで20分撹拌しながらインキュベーションした後、基板センサの蛍光強度を蛍光顕微鏡にて測定した。AFP吸着実験後の基板については、10mMのGly-HCl緩衝液(pH2.5、3mL、5分撹拌)×3回、0.5wt%のSDS水溶液(3mL、5分撹拌)×3回、10mMリン酸緩衝液(pH7.4、3mL、5分撹拌)×3回にて洗浄を行った。続いて、コントロールタンパク質として、HSA(66.5KDa)、fibrinogen(340KDa)、γ-globrin(from Human Blood)(150KDa)についても終濃度が1.45nMになるよう添加し、それぞれ、AFPの場合と同様の操作を行い、基板センサの蛍光強度の測定及び洗浄を行った。タンパク質吸着試験の結果を図9に示す。
【符号の説明】
【0154】
BG1,BG2,BG3…(標的物質の)結合性基
bg1,bg2,bg3…結合性基
bg1’,bg2’,bg3’…結合性基
RV1,RV2,RV3…可逆的連結基
FM1,FM3,FM51,FM52,FM6,FM12,FM111,FM112…機能性モノマー
S1,S2,S3…基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9