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  • 特許-金属拡張アンカー 図1
  • 特許-金属拡張アンカー 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】金属拡張アンカー
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20240701BHJP
   F16B 13/06 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
E04B1/41 503Z
F16B13/06 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020052444
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152254
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】506162828
【氏名又は名称】FSテクニカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001623
【氏名又は名称】弁理士法人真菱国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 正吾
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38-1/61
E04G 23/00-23/08
F16B 13/00-13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート躯体に穿孔した下穴に定着される金属拡張アンカーであって、
基端部において固定対象物が支持固定されるアンカーボルトと、
前記アンカーボルトの先端部に設けられ、前記下穴の奥部において前記アンカーボルトを前記コンクリート躯体に定着させる定着機構部と、
前記下穴の開口部側において、前記アンカーボルトを下穴に接着する接着剤と、を備え、
前記接着剤は、前記下穴の開口部側の一部に充填され、前記アンカーボルトに許容引張り強度を越える荷重が作用したときに前記コンクリート躯体の表面にきのこ状の破壊を生じさせるものであることを特徴とする金属拡張アンカー。
【請求項2】
前記アンカーボルトの呼び径をDとしたときに、前記接着剤の軸方向寸法が1D~3Dであることを特徴とする請求項1に記載の金属拡張アンカー。
【請求項3】
前記許容引張り強度が、前記アンカーボルトにおける降伏点強度の20~100%であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属拡張アンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート躯体に定着される、あと施工アンカーにおける金属拡張アンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の金属拡張アンカーとして、コンクリート基部等の基台に形成された前ボアおよび拡大ボアから成る固定ボアに固定されることで、基台に工作物を固着させるための合くぎが知られている(特許文献1参照)。
この合くぎは、ボルト頭部を有する固定ボルトと、固定ボルトの先端部に螺合した係止部品と、固定ボルトが挿通する間隙スリーブ、スリーブ部品および係合部品と、を備えている。係止部品は、固定ボルトに螺合する先端部材と、周回溝を存して先端部材に連なる4分割のロック要素と、を有している。4つのロック要素の端部には、先端部が円錐状に先細りになった係合部品が接触している。
ボルト頭部に添設した座金を介して間隙スリーブを打ち込むと、スリーブ部品を介して係合部品が軸方向に前進し、4つのロック要素を押し広げる。これにより、4つのロック要素は、周回溝を中心に外方に向かって、すなわち拡大ボアに向かって揺動する。次に、固定ボルトを回転させて係止部品を引き付けるようにすると、4つのロック要素は、拡大ボアの背向面に突き当たってロックされる一方、スリーブ部品がつぶれるように変形し、固定ボルトにより工作物が基台上に固定圧着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表昭60-500966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、従来の合くぎ(金属拡張アンカー)では、拡大ボアが精度良く形成され、且つ合くぎの有効埋込み深さが十分に執れる場合には、合くぎの引張り耐力は、コンクリート等のコーン状破壊により決まる耐力ではなく、合くぎ自体の引張り耐力で決まる。すなわち、合くぎの引張り耐力は、固定ボルトの降伏点強度に基づいて、決定されることとなる。具体的には、固定ボルトの降伏点強度の数十%を許容引張り強度とし、この許容引張り強度に基づいて設計が為される。
かかる場合において、地震等により、工作物を介して固定ボルトに破壊には至らないが、想定を越える荷重、すなわち許容引張り強度を越える荷重が作用した場合、固定ボルトに何らかの支障が生ずる可能性があり、また点検・管理上、このような荷重の原因を究明しておく必要がある。しかし、従来の合くぎでは、上記のような固定ボルトに許容引張り強度を越える荷重が作用しても、この履歴を合くぎの外観等から知ることはできなかった。
【0005】
ところで、あと施工アンカーは、金属拡張アンカーと接着系アンカーに大別される。金属拡張アンカーの引張り耐力は、拡張部のクサビ効果に依存し、接着系アンカーの引張り耐力は、接着剤の固着力(せん断)に依存する。このため、金属拡張アンカーの埋込み深さに対し、接着系アンカーの埋込み深さは、十分に深いものとなる。この深い埋込み深さに起因して、接着系アンカーの破壊では、コンクリート躯体のコーン状破壊によらず、躯体表面のきのこ状の破壊(以下、「キノコ状破壊」という。)とその後のアンカーボルトの抜けという、特殊な破壊形態となることが知られている。
このキノコ状破壊は、アンカーボルトに大きな引張り荷重が作用したときに、その荷重は、深さ方向の全域において接着剤に作用するのではなく、アンカーボルトの伸びに起因して、躯体表面の浅い部分において接着剤に集中的に作用することによるものと考えられる。また、キノコ状破壊が生ずると、アンカーボルトの埋込み深さが不足し、アンカーボルトの抜けが生ずるものと考えられる。
【0006】
本発明は、接着系アンカーに特有のキノコ状破壊に着目して為されたものであり、アンカーボルトに想定を越える荷重が作用したときに、これを視認可能に検知することができる金属拡張アンカーを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の金属拡張アンカーは、コンクリート躯体に穿孔した下穴に定着される金属拡張アンカーであって、基端部において固定対象物が支持固定されるアンカーボルトと、アンカーボルトの先端部に設けられ、下穴の奥部においてアンカーボルトをコンクリート躯体に定着させる定着機構部と、下穴の開口部側において、アンカーボルトを下穴に接着する接着剤と、を備え、接着剤は、下穴の開口部側の一部に充填され、アンカーボルトに許容引張り強度を越える荷重が作用したときに、コンクリート躯体の表面にきのこ状の破壊を生じさせるものであることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、アンカーボルトは、定着機構部を介して下穴の奥部に定着され、且つ接着剤を介して下穴の開口部側に接着されており、接着剤は、アンカーボルトに許容引張り強度を越える荷重が作用したときに、コンクリート躯体の表面にキノコ状破壊を生じさせる。したがって、アンカーボルトに許容引張り強度を越える荷重が作用すると、コンクリート躯体の表面にキノコ状破壊の発生を意味するひび割れが生ずる。すなわち、アンカーボルトを中心にコンクリート躯体の表面に生ずる略円形のひび割れにより、アンカーボルトに許容引張り強度を越える荷重が作用したことを、視覚を通じて検知(確認)することができる。
【0009】
この場合、アンカーボルトの呼び径をDとしたときに、接着剤の軸方向寸法が1D~3Dであることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、コンクリート躯体のコンクリート密度や、アンカーボルトの呼び径に応じて、キノコ状破壊に至る接着剤の軸方向寸法(接着面積)を、適宜調整することができる。
【0011】
また、許容引張り強度が、アンカーボルトにおける降伏点強度の20~100%であることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、金属拡張アンカー(の引張り耐力)は、アンカーボルトの降伏点強度を踏まえて設定された許容引張り強度(耐力)に基づいて設計される。このため、接着剤の軸方向寸法も、この許容引張り強度に基づいて決定される。したがって、キノコ状破壊が生じた場合には、アンカーリングに不具合(完全破壊等)が生ずる前に、固定対象物の再確認や金属拡張アンカーの再施工等の、適切な対応策を執ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る金属拡張アンカーの施工状態の構造図である。
図2】キノコ状破壊が生じた状態の金属拡張アンカー廻りの平面図(a)、および断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係る金属拡張アンカーについて説明する。この金属拡張アンカーは、いわゆる「あと施工アンカー」であり、コンクリート躯体に穿孔した下穴(アンカー穴)に打ち込まれる。また、この金属拡張アンカーは、主体を為すアンカーボルトに想定を越える引張り荷重が作用したときに、これを視認可能に検知する機能を有している。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る金属拡張アンカーの施工状態の構造図である。同図に示すように、コンクリート躯体Cには、奥部に拡径部AHaを形成したアンカー穴AH(下穴)が穿孔されており、金属拡張アンカー10は、このアンカー穴AHに打ち込まれるようにして定着されている。アンカー穴AH(コンクリート躯体C)に定着された金属拡張アンカー10は、そのアンカーボルト11の基端部がコンクリート躯体Cの表面から突出しており、ワッシャーWを介してこの部分に螺合した固定ナットNにより、固定対象物SのベースプレートSaが締結されている。
【0016】
金属拡張アンカー10は、基端部において固定対象物Sが支持固定されるアンカーボルト11と、アンカーボルト11の先端部をアンカー穴AHの拡径部AHa(コンクリート躯体C)に定着させる定着機構部12と、アンカー穴AHの開口部AHb側において、アンカーボルト11をアンカー穴AHに接着する接着剤13と、を備えている。そして、アンカーボルト11および定着機構部12は、スチールやステンレススチール等で形成されている。
【0017】
アンカーボルト11と定着機構部12とは、コンクリート躯体Cに固定対象物Sを支持固定する金属拡張アンカー10の本来のアンカー機能を有している。一方、アンカー穴AHの開口部AHb近傍において、アンカーボルト11をアンカー穴AH(コンクリート躯体C)に接着する接着剤13は、アンカーボルト11に想定を越える荷重(許容引張り荷重を越える荷重)が作用したこと検知する、本実施形態特有の機能を有している(詳細は後述する。)。
【0018】
アンカーボルト11は、全ネジボルトで構成されており、この全ネジボルトの径が金属拡張アンカー10の呼び径となっている。本実施形態の金属拡張アンカー10では、呼び径をDとしたときに、埋込み深さ(拡径部AHa上端と開口部AHbとの間の長さ)を9Dとしており、アンカーボルト11の長さは14D程度となっている。なお、アンカーボルト11は、基端部および先端部にのみ雄ネジを形成したものであってもよい。
【0019】
定着機構部12は、アンカーボルト11の先端部に螺合した拡開ナット21と、アンカーボルト11を囲繞するように配設された打込みスリーブ22と、を有している。拡開ナット21は、アンカーボルト11に螺合する図示下半部のナット本体24と、スリット25aにより4分割された図示上半部の拡開部25と、で一体に形成されている。打込みスリーブ22の先端部には、コーン部26が形成されており、打込みスリーブ22を打ち込むことにより拡開ナット21の拡開部25が径方向外方に拡開する。拡開した拡開部25は、拡径部AHaの周壁に向かって広がり、拡径部AHaに定着される。そして、この拡開部25と拡径部AHaとの協働により、アンカーボルト11がクサビ効果を発揮する。
【0020】
接着剤13は、あと施工アンカーの接着系アンカーに用いるものが好ましく、本実施形態では、2液性のエポキシ樹脂接着剤が用いられている。接着剤13は、アンカー穴AHの開口部AHb側において、アンカーボルト11とアンカー穴AHとの間隙に充填されている。開口部AHbの近傍において、打込みスリーブ22の基端に突き当てるようにリング状のバックアップ材31が装着されており、このバックアップ材31により、接着剤13の充填深さ(軸方向寸法)が調整されている。
【0021】
詳細は後述するが、本実施形態では、アンカー穴AHの開口部AHb側に充填した接着剤13により、アンカーボルト11に想定外の引張り荷重が作用したときに、コンクリート躯体Cにキノコ状破壊が生ずるようにしている。このためには、アンカーボルト11の呼び径をDとしたときに、接着剤13の軸方向寸法が1D~3Dであることが好ましく、本実施形態のものでは、接着剤13の軸方向寸法を1D程度としている。
【0022】
一方、キノコ状破壊は、接着系アンカーにおいて発生する特異な破壊現象である。接着系アンカーでは、その深い埋込み深さに起因して、コンクリート躯体Cのコーン状破壊ではなく、コンクリート躯体Cの表面が薄く剥がれるキノコ状破壊とその後のアンカーボルト11の抜けという破壊形態となることがある。
【0023】
このキノコ状破壊は、アンカーボルト11に大きな引張り荷重が作用したときに、その荷重は、深さ方向の全域において接着剤13に作用するのではなく、アンカーボルト11の伸びに起因して、躯体表面の浅い部分において接着剤13に集中的に作用することによるものと考えられている。本実施形態は、金属拡張アンカー10の完全破壊の前兆現象として、キノコ状破壊が生ずることに着目し、アンカーボルト11に大きな引張り荷重が作用したときに、キノコ状破壊を生じさせ、金属拡張アンカー10に生じた異常を検知せんとするものである。
【0024】
一方、この種の金属拡張アンカー10(拡底アンカー)では、その引張り耐力が、アンカーボルト11の降伏点強度を踏まえた引張り強度(耐力)に基づいて設計される。すなわち、降伏点強度に達する荷重がアンカーボルト11に作用しても、アンカーボルト11が破損するわけではないが、繰り返し大きな荷重が作用する場合(例えば振動)や、常時吊下げ荷重が作用する場合等では、適宜安全率を加味する必要がある。そこで、固定対象物S別に、降伏点強度の20~100%をアンカーボルト11の引張り強度とし、これに基づいてアンカーボルト11(金属拡張アンカー10)の設計が為されることが好ましい。
【0025】
設計上用いられる引張り強度には、長期許容引張り強度(降伏点強度の20~30%程度)や短期許容引張り強度(降伏点強度の40~50%程度)がある。例えば、固定対象物Sが駆動部を有するもの、固定対象物Sが風圧や振動を受けるもの、或いは固定対象物Sを吊るものである場合には、長期許容引張り強度を考慮することが好ましい。また、固定対象物Sとの関係でアンカーボルト11に金属疲労の可能性がある場合には、降伏点強度の20%を引張り強度とすることが好ましい。
【0026】
本実施形態の金属拡張アンカー10は、長期許容引張り強度を越える荷重、すなわち、長期許容引張り荷重(以下、単に「許容引張り荷重」という。)を越える荷重を、想定を越える荷重(想定外の荷重)としている。
【0027】
すなわち、本実施形態は、アンカーボルト11に許容引張り荷重(許容引張り強度)を越える荷重が作用したときに、接着剤13によって、アンカーボルト11の周囲のコンクリート躯体Cにキノコ状破壊が生ずるようにしている。そして、この場合のキノコ状破壊は、アンカーボルト11に抜けが生ずる前の現象であり、コンクリート躯体Cの表面に、アンカーボルト11の略同心円のひび割れとして現れる。
【0028】
ここで、図2(a)および(b)を参照して、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用した場合について説明する。
アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用すると、固定ナットNと拡開ナット21との間において、アンカーボルト11に伸びが生ずる。アンカーボルト11が伸びると、接着剤13にせん断力が作用するが、接着剤13のアンカーボルト11およびコンクリート躯体Cに対する接着力が勝って、コンクリート躯体Cにキノコ状破壊が生ずることとなる。
【0029】
キノコ状破壊は、アンカーボルト11と同心上において、コンクリート躯体Cの表面がキノコ状に薄く剥がれるものであり(図2(a)参照)、コンクリート躯体Cその表面に略円形のひび割れとして現れる(図2(b)参照)。実施形態のものでは、コンクリート躯体Cの表面において、ベースプレートSaから外れたところにひび割れが視認され、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したことが、視覚を通じて確認される。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、アンカーボルト11に許容引張り荷重を越える荷重が作用したときに、コンクリート躯体Cの表面にキノコ状破壊を生じるようにしているため、アンカーボルト11に想定を越える引張り荷重が作用したことを、視覚を通じて検知(確認)することができる。これにより、想定を越える引張り荷重の原因を究明すると共に、金属拡張アンカー10の再施工等を実施することとなる。
【0031】
なお、本実施形態の金属拡張アンカー10は、いわゆるスリーブ打込み式のものあるが、本発明は、心棒打込み式や本体打込み式等の打込み方式の金属拡張アンカー、更には締付け方式の金属拡張アンカーにも適用可能である。
【符号の説明】
【0032】
10…金属拡張アンカー、11…アンカーボルト、12…定着機構部、13…接着剤、AH…アンカー穴、AHb…開口部、C…コンクリート躯体、S…固定対象物、

図1
図2