(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】ステージ
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20240701BHJP
G02B 21/26 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
H01J37/20 A
G02B21/26
(21)【出願番号】P 2020115753
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2023-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】512024336
【氏名又は名称】株式会社メルビル
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【氏名又は名称】坂野 博行
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 裕也
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-184851(JP,A)
【文献】特開2015-025592(JP,A)
【文献】特開2019-186033(JP,A)
【文献】国際公開第2019/162693(WO,A1)
【文献】特開平02-090447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
G02B 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を搭載する試料ステージと、冷却部と、熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部と、ローテーション機構と、を有するステージであって、前記冷却部と、前記試料ステージとは、前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部に接触する
ステージであって、前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部は熱伝導性クランプを有し、前記熱伝導性クランプは前記試料ステージと接触することを特徴とするステージ。
【請求項2】
前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部は、前記冷却部へ固定されている請求項1記載のステージ。
【請求項3】
前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部は、アーム型である
請求項1又は2に記載のステージ。
【請求項4】
前記冷却部と、前記ローテーション機構とは、接触しないことを特徴とする
請求項1~3のいずれか一項に記載のステージ。
【請求項5】
前記試料ステージと、前記ローテーション機構との間に、ベアリングを有することを特徴とする
請求項1~4のいずれか一項に記載のステージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージに関し、特に、回転機構を有するステージに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)等の電子顕微鏡における高分解能解析が進んでおり、例えば、ナノオーダーからピコオーダーへと高分解能解析が要望されてきている。昨今、電子顕微鏡内で試料を観察しながら冷却(や加熱、電場印加、磁場印加、回転)などを行う“その場観察”が注目を浴びている。特に、試料の電子線によるダメージを低減させるためには試料冷却は有効と考えられており、この観点からの試料冷却も試されている。例えば、冷却手段を有する装置として、走査型電子顕微鏡の試料室内に、水分が昇華された試料を設置する冷却ステージと、この冷却ステージ上に延びて、走査型電子顕微鏡の観察下にて、試料の必要成分を切り出すマニュピレータと、が設けられて成る走査型電子顕微鏡を用いた試料処理装置が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような冷却のニーズがある中で、同時にステージに垂直な軸周りの回転のニーズも存在する。例えば、SEM内で電子線後方散乱回折法を用いて極点図を得る場合ステージを回転させるなどの回転ニーズも存在する。しかしながら、特許文献1を含め従来技術においては、冷却ステージの放熱を処理するために冷却液などを通すホースが存在するためステージを自由に(360度)回転することは不可能である。仮に回転させたとしても電子顕微鏡内部の他の機械部分に干渉して故障のリスクが著しく増したり、干渉によってホースが押し引きされて試料位置が変ったりとさまざまな問題が引き起こされるため、基本的には冷却とともにローテーションをさせることは困難である。したがって、試料を冷却すると共に、回転させながらのその場観察を達成し得る新たな機構の開発が望まれていた。しかし、このような機構はこれまで存在しない。
【0005】
そこで、本発明は、上記問題点を解決すべく、試料を冷却しながら、回転させることをも可能とするステージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明者は、ゴニオステージの冷却機構について鋭意検討を行った結果、本発明を見出すに至った。
【0007】
すなわち、本発明のステージは、試料を搭載する試料ステージと、冷却部と、熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部と、ローテーション機構と、を有するステージであって、前記冷却部と、前記試料ステージとは、前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部に接触するステージであって、前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部は熱伝導性クランプを有し、前記熱伝導性クランプは前記試料ステージと接触することを特徴とする。
【0008】
また、本発明のステージの好ましい実施態様において、前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部は、前記冷却部へ固定されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のステージの好ましい実施態様において、前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部は、アーム型であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のステージの好ましい実施態様において、前記冷却部と、前記ローテーション機構とは、接触しないことを特徴とする。
【0012】
また、本発明のステージの好ましい実施態様において、前記試料ステージと、前記ローテーション機構との間に、ベアリングを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のステージによれば、試料を観察しながら、冷却及び回転を行うことができるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施態様における、一例のステージの概念図を示す。
図1は、
図2(b)のA-A断面図を示す。
【
図2】
図2は、本発明の一実施態様における、一例のステージの概念図を示す。
図2(a)は、本発明の一実施態様におけるステージの左側面図を、
図2(b)は、上面図を、
図2(c)は右側面図を、
図2(d)は、正面図を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のステージは、試料を搭載する試料ステージと、冷却部と、熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部と、ローテーション機構と、を有するステージであって、前記冷却部と、前記試料ステージとは、前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部に接触することを特徴とする。本発明において、試料を搭載する試料ステージとしては、電子顕微鏡内で観察する試料を搭載することが可能であれば、形状、構造等を含めて、特に限定されることはない。また、本発明において、冷却部としては、電子顕微鏡内で観察する試料を冷却することが可能であれば、形状、構造等を含めて、特に限定されることはない。また、本発明において、熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部としては、冷却部と、試料ステージとを接触して、冷却部からの冷熱源を試料ステージに伝搬することが可能であれば、形状、構造等を含めて、特に限定されない。接触の仕方に限定はないが、ローテーション機構の機能を害さないように、接触させる必要がある。接触は、単に接触させるほかに、弾性部材などを用いることにより、熱伝導部を試料ステージに対して押圧してもよい。また、本発明において、ローテーション機構としては、電子顕微鏡内で観察する試料を回転させることが可能であれば、形状、構造等を含めて、特に限定されることはない。本発明においては、前記冷却部と、前記試料ステージとは、前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部に接触するので、試料ステージ、ひいては、観察したい試料を冷却することができ、これにより、ローテーション機構の役割を制限するものではないため、試料を冷却しながら、試料を回転させることも可能となり、ひいては、試料の「その場観察」を実現することができる。
【0016】
また、本発明のステージの好ましい実施態様において、前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部は、熱伝導効率の観点から、前記冷却部へ固定されていることを特徴とする。好ましい態様において、本体ステージ上に冷却面(冷却部)を有していてもよい。冷却面(冷却部)を、薄い板一枚分ほど突出させて設計してもよい。熱伝導部は、前記冷却部へ固定させてもよいが、冷却によるローテーション機構の保護および、冷却到達温度の観点から、前記熱伝導部と、前記冷却部とは、前記ローテーション機構と熱絶縁されていることが好ましい。これにより、前記熱伝導部又は前記冷却部からの冷熱源がローテーション機構に伝搬することを防止して、ローテーション機構の保護を図ることができる。熱絶縁の方法は、常法により種々設計可能であるが、例えば、ローテーション機構は、固定台によって冷却部(冷却ステージ)から浮いた状態にして熱絶縁することができる。
【0017】
また、本発明のステージの好ましい実施態様において、前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部は、ローテーション機構の回転をより一層妨げずに冷却可能であるという観点から、熱伝導性クランプを有し、前記熱伝導性クランプは前記試料ステージと接触することを特徴とする。試料ステージは、熱伝導性クランプによって挟むことができるので、十分に熱接触して試料は冷やさるが、試料ステージは熱伝導性クランプの中で回転も可能である。
【0018】
また、本発明のステージの好ましい実施態様において、前記熱伝導性を有する部材からなる熱伝導部は、アーム型であることを特徴とする。上述のように、ローテーション機構は、固定台によって冷却部(冷却ステージ)から浮いた状態にして熱絶縁することができるが、ローテーション機構を支持する支持部材とは別途離して、アーム型の熱伝導部により迂回させて冷熱源を試料ステージに伝搬することができる。その他、アーム型以外に、本発明においては、熱伝導部材で冷却ステージとローテーション機構を横並びにしてもよい。このような態様も本発明は含むことができる。
【0019】
また、本発明のステージの好ましい実施態様において、前記冷却部と、前記ローテーション機構とは、接触しないことを特徴とする。接触しないことにより、両者間の熱絶縁を図ることが可能である。なお、ローテーション機構の保護という観点から、ローテーション機構は、冷却部、熱伝導部、及び試料ステージと熱絶縁するような設計をすることが好ましい。熱絶縁の設計は常法により特に制限されない。
【0020】
また、本発明のステージの好ましい実施態様において、前記試料ステージと、前記ローテーション機構との間に、両者間の熱絶縁という観点から、ベアリングを有することを特徴とする。すなわち、試料ステージを介してローテーション機構への熱の伝搬を抑制するために、前記試料ステージと、前記ローテーション機構との間に、熱絶縁を図ることが好ましい。例えば、ローテーション軸と試料ステージの間にセラミックスベアリングなどを入れて接触面積を少なくして熱絶縁を行うことが可能であり、また、ローテーション軸と試料ステージの間に熱伝導率の低い材料を用いることでも熱絶縁を行うことが可能である。これは、前記試料ステージとローテーション機構が熱的に接触すると、1.試料ステージが冷えにくくなること、2.ローテーション機構が冷却に耐えられないことなどの理由によるものである。
【0021】
このように本発明においては、冷却を行いながら試料を回転させる機構を実現することができる。冷却機構とローテーション機構を準備し、ローテーションステージの回転軸上に試料台を配すことができる。そして冷却機構と試料台を金属部品で接続し熱伝導によって冷却することも可能である。また、ローテーション機構と金属部品はクランプ機構によって接続することも可能である。ローテーションステージはモーター駆動でもピエゾ式でも実現可能であるが、ピエゾ式のほうが磁場の電子線への影響が少なく、また省スペース化を期待できるため好ましい。構造は、条件(試料台が回転軸上にありクランプで熱接触している)さえ満たせば、上段ローテーション機構、下段冷却機構でも良いし、上段冷却機構、下段ローテーション機構でも良い。また、ローテーション機構と冷却機構を横に並べても良い。なお、本発明のステージは、電子顕微鏡、とりわけ、走査型電子顕微鏡に用いることが可能である。
【0022】
以下、図を参照しながら、本発明の一実施態様のステージについて説明するが、本発明はこれらの限定されることを意図するものではない。
【0023】
図1は、本発明の一実施態様における、一例のステージの概念図を示し、
図2(b)のA-A断面図を示す。
図1中、1は試料ステージ、2は熱伝導性クランプ、3はローテーション軸、4は熱伝導部、5は冷却部(冷却ステージ)、6は冷却面、7はローテーション機構(ローテーションステージ)、8は熱絶縁部(セラミックスベアリング)、9はスプリングを、それぞれ示す。
【0024】
図2は、本発明の一実施態様における、一例のステージの概念図を示す。
図2(a)は、本発明の一実施態様におけるステージの左側面図を、
図2(b)は、上面図を、
図2(c)は右側面図を、
図2(d)は、
図2(b)のA-A断面図を(内部構造)、それぞれ示す。
図2中、1は試料ステージ、2は熱伝導性クランプ、4は熱伝導部、5は冷却部(冷却ステージ)、7はローテーション機構(ローテーションステージ)、10はローテーション機構用固定台を、それぞれ示す。
【0025】
図を参照しながら、本発明の一実施態様におけるステージについて、各部材の役割、各部材同士のつながり等を説明すると以下の通りである。まず、冷却ステージ本体(冷却部5)があり、その上面の中心部に冷却面6が(例えば、薄い板一枚分ほど出っ張って、設計することができる。)ある。この冷却面(冷却部)の部分を、冷熱源とすることができる。冷却面(冷却部)に熱伝導部、例えば、熱伝導アームを固定することができる。熱伝導アームはローテーションステージを迂回して上方まで設置することができる。熱伝導アームに熱伝導クランプを接続することができる。この場合、接続した熱伝導クランプが、試料ステージ部まで伸びていくことが可能である。この例においては、試料ステージは熱伝導クランプによって挟まれているので、十分に熱接触して冷やされるが、クランプの中で回転も可能となり、ひいては冷却下、試料を回転させながら、その場観察が可能となる。ここで、ローテーションステージは、固定台によって冷却ステージから浮いた状態になっているため熱絶縁することが可能である。熱絶縁する理由は、試料ステージとローテーションステージが熱的に接触すると、1.試料ステージが冷えにくくなること、2.ローテーションステージが冷却に耐えれないこと等の虞があるためである。このように、一例において、冷却ステージからアーム、クランプ等を介して、試料ステージを冷却しつつ、ローテーションも妨げない構造とすることができる。
【0026】
本発明においては、冷却ステージとローテーションステージを組み合わせて実現することが可能である。このときローテーションステージの回転軸上にある試料台をクランプ機構で挟み込むことで熱接触させることも可能である。熱接触させることが可能であれば、特に限定されないが、クランプ式などによる接触を含め上述の押圧する接触等により、ローテーション角度に制限が生まれず360度の回転がより安定して可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
冷却条件下において、かつ回転機構も有するため、その場観察を行うことが可能であり、広範な技術分野において適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 試料ステージ
2 熱伝導性クランプ
3 ローテーション軸
4 熱伝導部
5 冷却部(冷却ステージ)
6 冷却面
7 ローテーション機構(ローテーションステージ)
8 熱絶縁部(セラミックスベアリング)
9 スプリング
10 ローテーション機構用固定台