(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】スナップリング組付装置
(51)【国際特許分類】
B23P 19/02 20060101AFI20240701BHJP
B23P 21/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B23P19/02 D
B23P21/00 303C
(21)【出願番号】P 2021005644
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】506134939
【氏名又は名称】株式会社成興技研
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池谷 真人
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-317743(JP,A)
【文献】特開平11-019831(JP,A)
【文献】特開2015-190617(JP,A)
【文献】米国特許第06507985(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 19/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スナップリングを開口部内で保持するリングホルダ部と、
前記リングホルダ部の下部に配置されて、コンロッドが取り付けられたピストンを保持するピストン保持台部と、
前記リングホルダ部の上部に配置されて、前記開口部内に配置されたスナップリングに当接して該スナップリングを前記ピストンのピストンピン取付孔内に圧入させるスナップリング圧入機構と、を具備し、
前記スナップリング圧入機構は、
挿入方向に延在する円柱状の中心柱と、
前記中心柱の周囲にそれぞれ配置されて軸方向に移動可能な複数の遊星支柱と、
前記遊星支柱に対して前記中心柱をスライド移動可能な弾性部材と、
前記中心柱と前記遊星支柱を支持するベースと、を含み、
前記遊星支柱の数を、前記中心柱の周方向に沿って設けられたnとし(ただしnは3以上の自然数)、
前記複数の遊星支柱のうちの1番目を始点とし、
前記n番目の遊星支柱を終点とした場合に、
前記周方向に沿って前記始点から前記終点に向かって前記ベースからの高さが漸次増加し、且つ、
前記複数の遊星支柱は、前記スナップリング圧入機構が前記開口部内に配置されたスナップリングに向けて移動したときに、前記スナップリングが前記複数の遊星支柱の前記高さの差に応じて斜めに傾斜しながら前記開口部内を移動するように、異なるタイミングでそれぞれ当該スナップリングに当接する、ことを特徴とするスナップリング組付装置。
【請求項2】
前記遊星支柱は、前記中心柱を基準に
前記周方向に関して等間隔で複数配置されてなる、請求項1に記載のスナップリング組付装置。
【請求項3】
前記周方向で隣り合う遊星支柱の間隔は、前記スナップリングにおける環欠部の幅よりも大きい、請求項1又は2に記載のスナップリング組付装置。
【請求項4】
前記複数の遊星支柱は、前記中心柱よりも小径の円柱状であって、且つ、それぞれが互いに等しい外径を有して構成されてなる、請求項1~3のいずれか一項に記載のスナップリング組付装置。
【請求項5】
前記中心柱の側面には、前記複数の遊星支柱に対応してガイド溝が形成されてなり、
前記遊星支柱の少なくとも一部が前記ガイド溝の内に挿入されてなる、請求項1~4のいずれか一項に記載のスナップリング組付装置。
【請求項6】
前記リングホルダ部の開口部は、前記スナップリング圧入機構と対向する上側開口と、
前記ピストン保持台部と対向する下側開口を有し、
前記下側開口が前記上側開口よりも小径となるようにテーパー状となっている、請求項1~5のいずれか一項に記載のスナップリング組付装置。
【請求項7】
前記スナップリングを保持して前記挿入方向とは交差する方向に移動可能なリング載置部を更に有し、
前記リングホルダ部には、前記スナップリングを載置する前記リング載置部が挿入可能な側面開口部が形成されてなる、請求項1~6のいずれか一項に記載のスナップリング組付装置。
【請求項8】
前記複数の遊星支柱が前記中心柱と共に移動して前記リングホルダ部の内部で前記スナップリングに順次当接した後で、前記中心柱が更に前記スナップリングを押圧して前記ピストンピン取付孔内に前記スナップリングが嵌入される、請求項1~7のいずれか一項に記載のスナップリング組付装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用のピストンとコネクティングロッドとを連結するピストンピンをピストン取付孔内に固定するためのスナップリングを取り付けるスナップリング組付装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の生活に欠かせない二輪や四輪の自動車は、人や物資の輸送において種々の産業で活用されている。近年では駆動力に電動モーターを利用する電気自動車も開発されているが、依然として内燃機関を利用したレシプロエンジンを搭載する自動車は広く利用が続いている。
【0003】
レシプロエンジンにおいては、例えば特許文献1や特許文献2に例示されるように、エンジン内のピストンとコネクティングロッド(以下、略称として「コンロッド」とも称する)は、上記したピストンピンを介して連結されている。かようなピストンピンは、ピストン取付孔内に確実に収容される必要があるため、当該ピストンピンの端部にはスナップリングが嵌入されることが一般的である。
【0004】
このようなスナップリングのピストン取付孔内への組付装置としては、例えば特許文献3が知られている。
この特許文献3においては、リング圧入軸の軸線方向への往行駆動移動によりスナップリングがピストンピン取付孔内の所定位置まで圧入されたとき、そのスナップリングが拡径して取付孔周面の周溝内に嵌入されるように構成されている。また、スナップリングが前記周溝内に正常に嵌入されたか否かを検出する検出手段を備えてなるピストンへのスナップリング組付機において、前記アクチュエータが、電動式シリンダから構成されているとともに、前記検出手段として、前記リング圧入軸に負荷される組付荷重値を検知するロードセルを使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-161322号公報
【文献】特開2020-051468号公報
【文献】特開2005-313277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した各特許文献に限らず現在の技術では市場のニーズを適切に満たしているとは言えず、上記各手法では以下に述べるごとき課題が存在する。
すなわち、上記したスナップリングのピストンピン取付孔への組付けは、メンテナンス頻度も低減しつつスナップリングの組付けミスや異常を容易、正確かつ敏速に検知することができることが要求されている。
【0007】
この点、例えば特許文献3に示されるように、たしかに電動式シリンダやロードセルを活用する手法も取れなくはない。しかしながら上記した特許文献3においても、リングホルダ内に配置されたスナップリングの押圧態様についてはさほど言及されておらず、単純に筒状のリング圧入軸の移動によってピストンピン取付孔へスナップリングを圧入させている(
図4など参照)。
【0008】
ここでスナップリングは、周方向で環欠部(後述する)を有するいわゆるC字形状であることから、製造誤差などでこの環欠部の大きさは完全に同一とすることは困難である。したがって特許文献3のごとき構成では、例えばピストンピン取付孔へのスナップリングの圧入時にスナップリングがリングホルダ内で詰まってしまう可能性も想定できる。
【0009】
特に昨今においてはより一層のコスト低減と品質向上が望まれており、スナップリングをリングホルダへ供給する動作からピストンピン取付孔内に嵌入させる動作までを可能な限り迅速化せねばならない。しかしながら上記した特許文献3においても、いまだに上記した課題を有しており、上記したニーズを満たすスナップリング組付装置が強く希求されている。
【0010】
本発明は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、ピストンピン取付孔へのスナップリングの圧入時にスナップリングがリングホルダ内で詰まってしまうことが抑制可能なスナップリング組付装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態にかかるスナップリング組付装置は、
(1)スナップリングを開口部内で保持するリングホルダ部と、
前記リングホルダ部の下部に配置されて、コンロッドが取り付けられたピストンを保持するピストン保持台部と、
前記リングホルダ部の上部に配置されて、前記開口部内に配置されたスナップリングに当接して該スナップリングを前記ピストンのピストンピン取付孔内に圧入させるスナップリング圧入機構と、を具備し、
前記スナップリング圧入機構は、
挿入方向に延在する円柱状の中心柱と、
前記中心柱の周囲にそれぞれ配置されて軸方向に移動可能な複数の遊星支柱と、
前記遊星支柱に対して前記中心柱をスライド移動可能な弾性部材と、
前記中心柱と前記遊星支柱を支持するベースと、を含み、
前記遊星支柱の数を、前記中心柱の周方向に沿って設けられたn以上とし(ただしnは3以上の自然数)、
前記複数の遊星支柱のうちの1番目を始点とし、
前記n番目の遊星支柱を終点とした場合に、
前記周方向に沿って前記始点から前記終点に向かって前記ベースからの高さが漸次増加し、且つ、
前記複数の遊星支柱は、前記スナップリング圧入機構が前記開口部内に配置されたスナップリングに向けて移動したときに、前記スナップリングが前記複数の遊星支柱の前記高さの差に応じて斜めに傾斜しながら前記開口部内を移動するように、異なるタイミングでそれぞれ当該スナップリングに当接する、ことを特徴とする。
【0012】
なお上記した(1)に記載のスナップリング組付装置においては、
(2)前記遊星支柱は、前記中心柱を基準に前記周方向に関して等間隔で複数配置されてなることが好ましい。
【0013】
また、上記した(1)又は(2)に記載のスナップリング組付装置においては、
(3)前記周方向で隣り合う遊星支柱の間隔は、前記スナップリングにおける環欠部の幅よりも大きいことが好ましい。
【0014】
また、上記した(1)~(3)のいずれかに記載のスナップリング組付装置においては、(4)前記複数の遊星支柱は、前記中心柱よりも小径の円柱状であって、且つ、それぞれが互いに等しい外径を有して構成されてなることが好ましい。
【0015】
また、上記した(1)~(4)のいずれかに記載のスナップリング組付装置においては、(5)前記中心柱の側面には、前記複数の遊星支柱に対応してガイド溝が形成されてなり、前記遊星支柱の少なくとも一部が前記ガイド溝の内に挿入されてなることが好ましい。
【0016】
また、上記した(1)~(5)のいずれかに記載のスナップリング組付装置においては、(6)前記リングホルダ部の開口部は、
前記スナップリング圧入機構と対向する上側開口と、
前記ピストン保持台部と対向する下側開口を有し、
前記下側開口が前記上側開口よりも小径となるようにテーパー状となっていることが好ましい。
【0017】
また、上記した(1)~(6)のいずれかに記載のスナップリング組付装置においては、(7)前記スナップリングを載置するリング載置部を有して前記挿入方向とは交差する方向に移動可能なリング載置部を更に有し、
前記リングホルダ部には、前記スナップリングを載置する前記リング載置部が挿入可能な側面開口部が形成されてなることが好ましい。
【0018】
また、上記した(1)~(7)のいずれかに記載のスナップリング組付装置においては、(8)前記複数の遊星支柱が前記中心柱と共に移動して前記リングホルダ部の内部で前記スナップリングに順次当接した後で、前記中心柱が更に前記スナップリングを押圧して前記ピストンピン取付孔内に前記スナップリングが嵌入されることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、リングホルダ部内でスナップリングが軸方向に対して傾斜しながら移動するため、スナップリングがリングホルダ内で詰まってしまうことが抑制される。これにより、スナップリングをリングホルダへ供給する動作からピストンピン取付孔内に嵌入させる動作までの一連の動作を、組付け不良を抑制して効率よく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態におけるスナップリング組付装置100の外観を模式的に示す斜視図である。
【
図2】スナップリング組付装置100によるスナップリング組付け時の状態を模式的に示した状態図である。
【
図3】本実施形態に好適なピストン及びコンロッドの模式図である。
【
図4】本実施形態のピストンとコンロッドとの接続部分を拡大した模式図である。
【
図5】スナップリング組付装置のうちスナップリング圧入機構の外観を示す模式図である。
【
図6】スナップリング圧入機構の詳細な構成を示す模式図である。
【
図7】スナップリング組付装置のうちリングホルダ部の斜視図である。
【
図8】スナップリング組付装置のうちリングホルダ部の正面を示した模式図である。
【
図9】スナップリング組付装置のうちリングホルダ部の上面を示した模式図である。
【
図10】スナップリング組付装置のうちリング載置部の外観を示す模式図である。
【
図11】本実施形態におけるスナップリングの組付け方法を模式的に示す状態遷移図(その1)である。
【
図12】本実施形態におけるスナップリングの組付け方法を模式的に示す状態遷移図(その2)である。
【
図13】本実施形態におけるスナップリングの組付け方法を模式的に示す状態遷移図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための実施形態について説明する。
なお、以下の説明では、便宜的に、スナップリング圧入機構30の圧入軸(中心柱32及び遊星支柱33)が進退する方向をZ方向、このZ方向と直交する水平方向にそれぞれX方向とY方向を便宜的に設定した。
しかしながら本発明は上述した方向の定義付けに左右されるものではなく、特許請求の範囲を不当に減縮するものでないことは言うまでもない。
【0022】
また、本実施形態では、重力の向きと平行な鉛直方向をZ方向として説明するが、この態様に限られず、例えば上記圧入軸の進退方向を鉛直方向でなく水平方向に設定としてもよい。
また、以下で詳述する構成以外の機構・構造については、上記した特開2005-313277号公報を含む公知のスナップリングの圧入装置を適宜組み入れて実施することができる。
【0023】
<スナップリング組付装置100>
本発明の実施形態におけるスナップリング組付装置100の詳細な構造について、
図1~
図10を適宜参照しながら説明する。
このスナップリング組付装置100は、例えば円孔を有するリングホルダ部10に保持されたスナップリングSRに当接して該スナップリングSRをピストン1のピストンピン取付孔1a内に圧入させる機能を有している。
【0024】
ここで本実施形態のスナップリングSRは、
図3及び
図4などにも示すように、後述するピストン1のピストンピン取付孔1a内に圧入されてピストン1とコンロッド2とを連結するピストンピンをピストンピン取付孔1a内に抜止め状態に固定するために用いられる。
【0025】
かようなスナップリングSRの形状や材質は、上記した特許文献3などにも開示された公知のスナップリングを適用できる。また、スナップリングSRの断面が丸(
図13に示すような)のほか、四角のなどの異形状のものにも適用できる。
なお、ピストン1は、いわゆるレシプロエンジンに搭載される種々のピストンに適用でき、例えば二輪や四輪の車両など公知の種々の自動車に組み込まれる。
【0026】
かような本実施形態のスナップリング組付装置100は、リングホルダ部10、ピストン保持台部20、スナップリング圧入機構30、リング載置部40、およびフレーム部50などを含んで構成されている。
【0027】
リングホルダ部10は、スナップリングSRを開口部12内で保持する機能を有している。
より具体的には
図1、
図7、
図8及び
図9などに示すように、リングホルダ部10は、後述する昇降手段52によって鉛直方向に移動可能な本体11と、この本体11の内部で鉛直方向に沿って形成された開口部12と、この本体11の側面に形成されて上記開口部12内にスナップリングSRを誘導するための側面開口部13などを有している。
【0028】
このうち開口部12は、後述する中心柱32及び遊星支柱33が挿入可能な程度の孔径を有している。なお本実施形態では、
図1及び
図9から理解されるとおり、リングホルダ部10の開口部12は、スナップリング圧入機構30と対向する上側開口12aと、後述するピストン保持台部20と対向する下側開口12bを有し、下側開口12bが上側開口12aよりも小径となるようにテーパー状となっていることが好ましい。
【0029】
換言すれば、
図9に示すように、上側開口12aから下側開口12bに向かって縮径されるようにテーパー面TPFが設けられている。
なお上側開口12aの孔径は、例えば標準状態(外力が加わっておらず環欠部SR1が縮小していない状態)のスナップリングSRが通過可能な大きさに設定されている。
また、下側開口12bの孔径は、例えば環欠部SR1が縮小してピストンピン取付孔1a内にスナップリングSRが挿入可能な程度の大きさに設定されている。これにより、スナップリングSRが縮んだ状態でピストンピン取付孔1a内を移動することが可能となっている。
【0030】
また、
図7や
図9などに示すように、本実施形態の上側開口12aには、外縁が一様な円孔ではなく、遊星支柱33の一部が挿入可能なように挿入溝12cが形成されている。
後述するとおり本実施形態の遊星支柱33は4本存在するため、この遊星支柱33の数に対応して挿入溝12cも4本(第1挿入溝12c
1~第4挿入溝12c
4)形成されている。また、本実施形態の開口部12では上記したテーパー面TPFを有するため、このテーパー面TPF内にも上記した挿入溝12c(第1挿入溝12c
1~第4挿入溝12c
4)が形成されている。
【0031】
ピストン保持台部20は、
図1及び
図2などに示すように、前記したリングホルダ部10の下部(本実施形態では鉛直方向の下側)に配置されて、コンロッド2が取り付けられたピストン1を保持する機能を有している。
なおピストン保持台部20の具体的な形状については、上記したピストンピン取付孔1aが安定して上向きで固定される限りにおいて特に制限はなく、上記した特許文献3に開示された構造など公知の種々の固定構造を採用してもよい。
【0032】
スナップリング圧入機構30は、
図1、
図2、
図5及び
図6などに示すように、前記したリングホルダ部10の上部(本実施形態では鉛直方向の上側)に配置されて、前記した開口部12内に配置されたスナップリングSRに当接して該スナップリングSRをピストン1のピストンピン取付孔1a内に圧入させる機能を有している。
【0033】
より具体的に本実施形態のスナップリング圧入機構30は、例えば
図5に示すように、ベース31と、このベース31の下側に取り付けられて挿入方向(本実施形態では鉛直方向であるZ方向)に延在する円柱状の中心柱32と、この中心柱32の周囲(θz方向に沿って)にそれぞれ配置された複数の遊星支柱33と、この遊星支柱33に対して中心柱32を挿入方向にスライド移動可能な弾性部材34と、この弾性部材34の作用に抗して中心柱32を押し出す押出軸35と、を含んで構成されている。
【0034】
このうちスナップリング圧入機構30における押出軸35は、不図示の公知の駆動機構(電動モータやシリンダ機構など)の作用によって、ベース31に対して中心柱32を挿入方向に移動させることが可能となっている。
【0035】
このように本実施形態のスナップリング圧入機構30においては、弾性部材34および押出軸35によって、中心柱32と遊星支柱33とが一体となって挿入方向に移動する形態と、遊星支柱33に対して中心柱32が相対的に移動可能な形態と、を取り得ることが可能となっている。
【0036】
<中心柱32および遊星支柱33の詳細構造>
スナップリングSRを安定してピストンピン取付孔1aに圧入するためには、本実施形態の遊星支柱33は複数設けられる。
より具体的に、
図5及び
図6から理解されるとおり、遊星支柱33は、中心柱32を基準に周方向に関して等間隔で複数配置されていることが好ましい。
【0037】
なお本実施形態では、合計4本の遊星支柱33(第1遊星支柱33a~第4遊星支柱33d)が周方向に90度間隔で設けられているが、この形態に限られず例えば3本や5本以上の遊星支柱33が設けられていてもよい。
また、本実施形態における複数の遊星支柱33は、互いに等間隔で周方向に沿って配置されているが、この形態に限られず少なくとも一部が等間隔に配置されておらずともよい。
【0038】
そして
図6から理解されるとおり、複数の遊星支柱33は、それぞれベース31からの高さLが互いに異なるように設定されている。より具体的には
図6(b)に示すように、第1遊星支柱33aはベース31からの高さがL1であり、第2遊星支柱33bはベース31からの高さがL2であり、第3遊星支柱33cはベース31からの高さがL3であり、第4遊星支柱33dはベース31からの高さがL4となるように構成されている。
なお説明の便宜上、
図6(b)においては、中心柱32を省略しつつ、複数の遊星支柱33における相違が理解しやすいよう展開して模式的に図示している。
【0039】
これにより、本実施形態における複数の遊星支柱33は、スナップリング圧入機構30がリングホルダ部10の開口部12内に配置されたスナップリングSRに向けて移動したときに異なるタイミングでそれぞれ当該スナップリングSRに当接することが可能となっている。
【0040】
また、
図6に示すように、複数の遊星支柱33は、中心柱32よりも小径の円柱状であって、且つ、それぞれが互いに等しい外径D2を有して構成されていることが好ましい。
このように中心柱32は、外径が遊星支柱33よりも大きいD1であるが、この中心柱32の側面には複数の遊星支柱33に対応してガイド溝32aが形成されていることが好ましい。
これにより中心柱32の側面で遊星支柱33の少なくとも一部がガイド溝32aの内に挿入されて、上記したスナップリングSRの安定した圧入動作を実現しつつ装置の無用な大型化が抑制される。
【0041】
また、一例として、本実施形態の遊星支柱33は、以下に示す特徴1~3のうち少なくとも1つをさらに具備することが好ましい。
まず特徴1としては、周方向で隣り合う遊星支柱33の間隔d1は、前記したスナップリングSRにおける環欠部SR1の幅よりも大きいことが好ましい。
これにより遊星支柱33の数とスナップリングSRの安定した圧入動作のバランスが向上する。
【0042】
次に特徴2としては、
図6(b)などのように、周方向における始点を第1遊星支柱33aとし、終点を第4遊星支柱33dとした場合、始点から終点に向かってベース31からの高さLが漸次増加する形態(すなわちL1<L2<L3<L4)であることが好ましい。
これにより遊星支柱33が開口部12内でスナップリングSRと当接する際に滑らかに効率よく当接することが可能となる。
このとき、始点から終点に向かって遊星支柱33の高さの増加量が一様となるように、「(L4-L3)≒(L3-L2)≒(L2-L1)」となっていることが更に好ましい。
【0043】
なお本実施形態では、すべての遊星支柱33が互いに異なる高さLを有しているが、この形態に限られず少なくとも一部が同じ高さを有していてもよい。
例えば第2遊星支柱33bと第3遊星支柱33cが同じ高さ(L2=L3)とした場合には、上記した特徴2は「L1<L2=L3<L4」となるように変形できる。
【0044】
また、特徴3としては、ベース31からの高さLが最小の第1遊星支柱33aと、高さLが最大の第4遊星支柱33dでは、「0<(L4-L1)<D2」の関係を有することが望ましい。
換言すれば本実施形態では、挿入方向における最高点(第4遊星支柱33dの頂点)と最低点(第1遊星支柱33aの頂点)との差が遊星支柱33の直径以下であることが好ましい。これによりスナップリングSRが開口部12内で過度に傾斜することが抑制できる。
【0045】
リング載置部40は、スナップリングSRを保持して挿入方向とは交差する方向(
図1ではY方向)に移動可能に構成されている。より具体的に本実施形態のリング載置部40は、
図10に示すように、スナップリングSRを載置する載置領域41と、ロボットハンドなどの公知の駆動機構によって支持される基部42と、を含んで構成されている。
【0046】
なおリング載置部40を移動させる手段としては、上記したロボットハンドの他に例えばエアシリンダなど公知の駆動機構を適用してもよい。
かような駆動機構によってリング載置部40が移動することで、リングホルダ部10に形成された側面開口部13(挿入口)にスナップリングSRが挿入されて開口部12内に配置されることになる。
【0047】
フレーム部50は、ピストン保持台部20上に立設されて、上記したリングホルダ部10やスナップリング圧入機構30を保持する機能を有している。
かようなフレーム部50は、上記した挿入方向に延在する主軸51と、この主軸51に取り付けられてリングホルダ部10やスナップリング圧入機構30を昇降させる昇降手段52と、を含んで構成されている。
【0048】
なお昇降手段52の具体例としては、これらリングホルダ部10及び/又はスナップリング圧入機構30を一体又は相対的に移動できる限りにおいて特に制限はない。
一例として、昇降手段52は、例えばボールネジやシリンダ機構など公知の種々のスライド移動機構が適用できる。
【0049】
本実施形態ではかような昇降手段52によって、リングホルダ部10とスナップリング圧入機構30とが一体となって挿入方向に移動したり、リングホルダ部10とスナップリング圧入機構30のいずれか一方が静止した状態で他方を挿入方向に移動させて近接または離間したりすることが可能となっている。
【0050】
<スナップリング組付方法>
次に
図11及び
図12も参照しつつ、本実施形態におけるスナップリング取付方法について説明する。
ピストン1のピストンピン取付孔1aへスナップリングSRを圧力するに際しては、まず不図示のロボットハンドなど公知の機構や人手を介して、コンロッド2がピストンピンによって取り付けられたピストン1をピストン保持台部20に固定する。上述のとおり、ピストン保持台部20へのピストン1の固定手法としては公知の手法を適用できる。
また一方で、不図示のロボットハンドなど公知の機構や人手を介して、リング載置部40の載置領域41にスナップリングSRを載置する。
【0051】
次いで、
図11に示すとおり、載置領域41にスナップリングSRを載置したままでリング載置部40を側面開口部13に向けて移動させることで、スナップリングSRが側面開口部13を通過してリングホルダ部10の開口部12内へ配置される。
その後、同図から理解されるとおり、リング載置部40は、スナップリングSRを開口部12内へ留置した状態で逆方向に移動することで載置領域41をリングホルダ部10内から離脱させる。
【0052】
次いで、
図12に示すとおり、静止状態のリングホルダ部10に対してスナップリング圧入機構30を降下させることで、リングホルダ部10における開口部12内に配置されたスナップリングSRに対して複数の遊星支柱33を順次当接させてスナップリングSRを開口部12内で移動させる。
【0053】
このとき、上述としたとおり複数の遊星支柱33は互いにベース31からの高さLが異なることから、スナップリングSRがその高さ差に応じて斜めに傾斜しながら開口部12内を移動する。また、上述のとおり開口部12内ではテーパー面TPFが形成されているため、開口部12内を下方に移動するスナップリングSRの環欠部SR1の間隔が小さくなって縮径された状態(すなわちピストンピン取付孔1a内に圧力可能な外径)となる。
このときのスナップリングSRは、
図12の状態(α)に示すように、複数の遊星支柱33に当接しつつ中心柱32には当接していない状態となっている。
【0054】
その後、リングホルダ部10とスナップリング圧入機構30は一体となって下降して、リングホルダ部10の下部(下側開口12b)がピストンピン取付孔1aと隣接した状態となる。
このときは、スナップリング圧入機構30の中心柱32及び遊星支柱33は共に開口部12内にその一部が没入したまま降下される。
【0055】
次いで、リングホルダ部10の下部(下側開口12b)がピストンピン取付孔1aと連接した状態で、不図示の駆動機構によって押出軸35を駆動することで中心柱32が更に開口部12内を移動する。
すなわち、
図13に示すように、遊星支柱33に対して相対的に中心柱32をさらに下降することで、この縮径された状態のスナップリングSRが降下してピストンピン取付孔1a内へと圧入される。
その後は同図に示すように、圧入されたスナップリングSRがピストンピン取付孔1a内に形成された周溝1b内に嵌入される。
【0056】
このように本実施形態では、複数の遊星支柱33が中心柱32と共に移動(降下)してリングホルダ部10の内部でスナップリングSRに当該遊星支柱33が順次当接した後で、中心柱32が更にスナップリングSRを押圧してピストンピン取付孔1a内の周溝1bにスナップリングが嵌入される。
これにより、リングホルダ部10内でスナップリングSRが軸方向に対して傾斜しながら移動してスナップリングSRの詰まりが抑制され、最終的にピストンピン取付孔1a内にスナップリングSRを嵌入するまでの一連の動作を効率化することが可能となっている。
【0057】
上記した実施形態は、各実施形態を組み合わせたりするなど本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0058】
例えば上記した実施形態では、リングホルダ部10、ピストン保持台部20、及びスナップリング圧入機構30を一組搭載した装置構成としているが、この形態に限られない。
すなわち複数組のリングホルダ部10、ピストン保持台部20、及びスナップリング圧入機構30を搭載し、並列に載置されたピストン1にそれぞれスナップリングSRを圧入する構成としてもよい。
これによりスループットをさらに向上させることができる。
【0059】
また、上記した特許文献3に開示されたロードセルを適用してスナップリングSRが周溝1b内に正常に嵌入されたか否かを検出する構成を追加してもよい。
これにより、エラーの検出精度をさらに向上させることができる。
【0060】
また、中心柱32の周囲に配置される複数の遊星支柱33の少なくとも一部を、互いに異なる外径としてもよい。これにより更に詰まりを抑制してスナップリングSRを縮径させることができる。
【0061】
上記した実施形態では中心柱32や遊星支柱33は円柱として例示しているが、スナップリングSRを最終的にピストンピン取付孔1a内に圧入可能な限りにおいて、楕円柱や角柱などを適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明のスナップリング組付装置は、作業効率を向上させてスナップリングをピストンのピストンピン取付孔内に圧入させる装置に好適であり、例えばレシプロエンジンの組立工場内で利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
100 スナップリング組付装置
10 リングホルダ部
20 ピストン保持台部
30 スナップリング圧入機構
40 リング載置部
50 フレーム部
SR スナップリング
1 ピストン
2 コネクティングロッド(コンロッド)