IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソル バイオ コーポレーションの特許一覧

特許7511938エクソソーム液体生検サンプルの製造装置、及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】エクソソーム液体生検サンプルの製造装置、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240701BHJP
   C12N 11/02 20060101ALI20240701BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20240701BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G01N33/53 S
C12N11/02
C12N1/02
C12Q1/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023073272
(22)【出願日】2023-04-27
(62)【分割の表示】P 2021544834の分割
【原出願日】2020-11-23
(65)【公開番号】P2023100770
(43)【公開日】2023-07-19
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0158298
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0079415
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521339050
【氏名又は名称】ソル バイオ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ベク,ソン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ダ-ヨン
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-179762(JP,A)
【文献】特開2018-138913(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0370265(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相(solid state)の固定部材と、
多数の細胞から分泌されたエクソソームを含有するエクソソーム母集団サンプルにおいて、所定の疾患と関連する第1ターゲットエクソソームが有する第1分離マーカーと特異的に結合して前記第1ターゲットエクソソームを捕捉する第1捕捉素材と、
前記固定部材と前記第1捕捉素材とを分離可能に結合させる第1可逆的リンカーと、
前記第1捕捉素材が結合されていない前記固定部材に結合され、前記第1ターゲットエクソソームの集団であるエクソソーム亜集団内の第2ターゲットエクソソームが有する第2分離マーカーと特異的に結合して前記第2ターゲットエクソソームを捕捉する第2捕捉素材とを含む、エクソソーム液体生検サンプルの製造装置。
【請求項2】
前記第2捕捉素材は、前記第1捕捉素材が結合されていない前記固定部材に固定される、請求項1に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造装置。
【請求項3】
前記第1可逆的リンカーは、
リガンドと、
前記リガンドが着脱可能に付着され、前記リガンドとの付着反応によって構造が変わるバインダーと、
構造が変わった前記バインダーと特異的に結合し、前記リガンドが前記バインダーから脱着されるときに前記バインダーから分離される認識素材とを含み、
前記バインダー及び前記認識素材のうち、いずれか一方が前記固定部材の表面に固定され、他方が前記捕捉素材と重合されて重合体を形成する、請求項2に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造装置。
【請求項4】
前記リガンドは、
糖分子、イオン、基質、抗原、ペプチド、ビタミン、成長因子、及びホルモンからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む、請求項3に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造装置。
【請求項5】
前記バインダーは、
糖結合タンパク質、イオン結合タンパク質、酵素、抗体、アビジン類、アプタマー、細胞受容体、及びナノ構造体からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む、請求項3に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造装置。
【請求項6】
前記認識素材は、抗体、タンパク質受容体、細胞受容体、アプタマー、酵素、ナノ粒子、ナノ構造体、及び重金属キレーター(chelator)からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む、請求項3に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造装置。
【請求項7】
前記第1可逆的リンカーは、
前記捕捉素材及び前記固定部材のいずれか一方と重合されて重合体を形成するリガンドと、
前記捕捉素材及び前記固定部材の他方に固定され、前記リガンドと結合され、競争反応リガンドとの競争反応によって前記リガンドから分離されるバインダーとを含む、請求項2に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造装置。
【請求項8】
前記バインダーは、2価の金属イオン、アビジン類、糖結合タンパク質、イオン結合タンパク質、酵素、抗体、アプタマー、タンパク質受容体、細胞受容体、及びナノ構造体からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含み、
前記リガンドは、ヒスタグ(His-tag、polyhistidine-tag)、ビタミン、糖分子、イオン、基質、抗原、アミノ酸、ペプチド、核酸、成長因子、及びホルモンからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含み、
前記競争反応リガンドは、イミダゾール(imidazole)、ビタミン、糖分子、イオン、基質、抗原、アミノ酸、ペプチド、核酸、成長因子、及びホルモンからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む、請求項7に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造装置。
【請求項9】
前記固定部材は、
ヒドロゲル、磁性ビーズ、ラテックスビーズ、ガラスビーズ、ナノ金属構造体、細孔性メンブレン、及び非細孔性メンブレンからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む、請求項1に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造装置。
【請求項10】
内部に前記固定部材を収容する反応器をさらに含む、請求項1に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造装置。
【請求項11】
前記固定部材は、磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上によって濃縮される、請求項1に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造装置。
【請求項12】
(a)所定の疾患と関連する第1ターゲットエクソソームが有する第1分離マーカーと特異的に結合する第1捕捉素材を、第1可逆的リンカーを用いて、固相(solid state)の固定部材に結合させるステップと、
(b)多数の細胞から分泌されたエクソソームを含有するエクソソーム母集団サンプルと、前記固定部材に結合された前記第1捕捉素材とを反応させて、多数の前記第1ターゲットエクソソームを捕捉することによって、前記第1ターゲットエクソソームの集団であるエクソソーム亜集団を分離するステップと、
(c)捕捉された前記第1ターゲットエクソソームが前記固定部材から分離されるように、前記第1可逆的リンカーを解離させ、前記エクソソーム亜集団を回収するステップと、
(d)前記エクソソーム亜集団内の第2ターゲットエクソソームが有する第2分離マーカーと特異的に結合する第2捕捉素材を、前記固定部材に結合させるステップと、
(e)回収された前記エクソソーム亜集団を含有するエクソソーム亜集団サンプルと、前記固定部材に結合された前記第2捕捉素材とを反応させて、多数の前記第2ターゲットエクソソームを捕捉することによって、前記第2ターゲットエクソソームの集団であるエクソソーム次亜集団を分離するステップとを含む、エクソソーム液体生検サンプルの製造方法。
【請求項13】
前記(b)ステップと、前記(c)ステップとの間に、
磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上を用いて、前記第1ターゲットエクソソームが捕捉された前記固定部材を濃縮するステップをさらに含む、請求項12に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造方法。
【請求項14】
(g)磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上を用いて、前記第2ターゲットエクソソームが捕捉された前記固定部材を濃縮するステップをさらに含む、請求項12に記載のエクソソーム液体生検サンプルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母集団サンプルから、癌疾患などのような特定疾患関連のエクソソームを亜集団、次亜集団またはその下位集団に分離して液体生検サンプルを製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、癌疾患及び退行性疾患などの特定疾患の検査の痛みを最小化し、早期診断を実現するための「液体生検(liquid biopsy)」の概念が紹介された。液体生検は、非侵襲的な方法で比較的簡便に血液、唾液、尿などのような体液を抽出して、特定疾患関連の細胞あるいはこれから流出された成分(ペプチド、タンパク質、核酸、小器官、特定の物質など)に対して分析を行う方法である。これを通じて、特定の疾患が発生したか否かを早期に確認できるので、既存の映像診断、組織検査、そして血液検査方法などのような検査方法の代案として注目を集めている。
【0003】
特定疾患、例えば、癌疾患の診断時に液体生検を用いる場合、組織生検(tissue biopsy)と比較して、一般的に次のような利点がある。第一に、通常、侵襲的な外科的組織採取が潜在的な危険があり、高価である反面、液体生検時の体液の利用は比較的容易であり、合併症の危険が軽減される。第二に、組織生検は、必要時に単一の部位に対する疾患のスナップ撮影を提供するだけであり、また、疾患の進行及び治療に対して時々刻々モニタすることができない反面、液体生検を用いると、癌疾患の進行に対してリアルタイムで連続してモニタすることができる。第三に、組織生検を通じては、腫瘍が多様であるため、その構成に対する完全な理解が難しいが、液体生検時には、腫瘍細胞から生成されたバイオ物質を収集するので、分子レベルで腫瘍の構成に対するさらに総合的な分析が可能である。第四に、組織生検では、サンプルのサイズが制限されるため、種々の診断を目的として分けて使用する場合、不足するが、液体生検では、必要に応じて様々な体液からサンプルの多重採取が可能である。第五に、組織生検において低い正確度により試験結果の臨床有用性が制限される反面、液体生検は、相対的にさらに高い正確度(陽性サンプル測定正確度)及び敏感度(陰性サンプル測定正確度)を提供するので、臨床意思決定のための確実な結果を提供することができる。
【0004】
癌疾患の診断分野において、液体生検用バイオマーカーとして、循環腫瘍細胞(circulating tumor cells;CTC)、細胞遊離DNA(cell-free DNA)及びエクソソームが、その潜在力が認められている。循環腫瘍細胞は、濃縮、選別性、そして分離核酸の安定性は優れるが、血液内の分布量が極めて少ないため、癌疾患の早期診断に使用しにくい。細胞遊離DNAは、血液内の分布量は多いが、濃縮及び選別が難しく、また、分離核酸の安定性が低い。さらに、ターゲット疾患と関連のない多量の非特異DNAの存在により、分析時に雑音(noise)問題の克服が主な懸案となっている。このような2つのバイオマーカーと比較して、エクソソームは、血液内の分布量が多く、濃縮及び選別が容易であり、そして、核酸を安定した状態で分離できる。但し、各エクソソーム粒子間のサイズ、密度、含有されたタンパク質及び核酸成分の組成が極めて異質的であるため、疾患関連の純粋なエクソソームへの分離が先行しなければならない。
【0005】
液体生検バイオマーカーとしてエクソソームが注目を集めている。人体内の細胞から微小小胞体の形態で分泌されて、その由来細胞の特徴をそのまま反映しているエクソソーム(30~150nmのサイズ)は、血液、唾液、尿などの様々な体液から抽出可能である。エクソソームは、脂質二重層からなる小胞体であるので、体内で安定的であるだけでなく、プロテアーゼ(protease)、RNase、DNaseなどの攻撃から自由である。したがって、エクソソームを癌疾患及び退行性疾患などの特定疾患の診断の新たなバイオマーカーとして利用しようとする研究が増加しており、実際にエクソソームが含有するタンパク質及びRNAなどの構成成分をマーカーとして用いた癌の早期診断及び同伴診断の目的の製品が開発されている。
【0006】
特定疾患、特に、癌疾患に対する液体生検時に診断に使用できるエクソソーム含有タンパク質及びRNAのバイオマーカーは、次の通りである。まず、エクソソームの生合成及び処理を説明すると、第一に、エクソソームのような微小小胞体(micro-vesicles;MVEs)は、細胞の内部でつぼみを形成するが、このとき、細胞質内のタンパク質、mRNAs、及びmicroRNAs(miRNAs)などを含む、小さな細胞内部の小胞体を形成する。第二に、このような内部小胞体は、MVEsが細胞膜と融合してエクソソームとして外部に放出される。第三に、放出されたエクソソームは、その表面の特定のリガンドが付着されることによって決定される目的地に向かって移動を始める。第四に、ターゲット細胞に到達したエクソソームは、エンドサイトーシス(endocytosis)経路を介して流入されるか、またはターゲット細胞膜と融合して細胞質内にエクソソーム成分を直接放出する。
【0007】
第一の段階のエクソソームの生合成時に関与するタンパク質成分として、HRS(hepatocyte growth factor-regulated tyrosine kinase substrate)、STAM1(signal transducing adaptor melecule)、TSG101(tumor susceptability gene)、及びCD81などがある。第二の段階のエクソソーム放出段階に関与するタンパク質として、RAB2B、RAB5A、RAB7、及びRAB9Aなどが知られている。このようなタンパク質分子は、治療剤の開発時に潜在的な治療対象候補であるだけでなく、エクソソームに対する探知及び分離技術の開発において主なターゲットとして用いられ得る。
【0008】
また、体液に放出されたエクソソームは、二重螺旋構造のDNAs、RNAs、タンパク質、及び脂質成分などの様々な細胞構成成分を含む。最近の研究によれば、エクソソーム搭載DNA分子は、ゲノム全体を代表し、また、エクソソームを放出した腫瘍細胞の突然変異状態を反映することができる。したがって、エクソソーム内の二重螺旋構造のDNA分子に対する分析は、特に癌疾患や転移を早期に探知するのに有用であり得る。エクソソーム含有タンパク質の場合、その組成は、放出した細胞や組織に応じて変化するが、ほとんどのエクソソームは、進化上保存されるタンパク質分子の一般的な集合体を含む。エクソソーム内のタンパク質含量は、エクソソームの分離及び探知技術、そして分析方法を開発するのに重要である。さらに、エクソソームタンパク質分子は、他の病理学的条件の情報の収集及び診断においてバイオマーカーとして用いることができる。エクソソーム含有RNAの場合、細胞由来及びエクソソーム由来のmRNAとmiRNAの含量における差、そして、エクソソーム含有miRNAsの機能性に対して報告された後、同時に発表された多数のmiRNAsに関する研究結果は、エクソソームに関する爆発的な研究を触発した。実際に、miRNAsは、診断は勿論、治療剤の開発において特別なターゲットとして注目されている。新たな探知機術を用いた多くの報告において、miRNAsはほぼ全ての体液に存在し、したがって、診断目的の分析時の潜在的なバイオマーカーとして浮かび上がってきている。実際に、様々な体液サンプルを分析した結果によると、サンプルの出所に応じて多くの数の異なるmiRNAsが発見されている。
【0009】
特に癌関連の主な懸案として、エクソソームは、腫瘍の発生、癌の転移、及び薬物抵抗性において役割を行うものと知られている。腫瘍が発生した微視的環境において、他の細胞と同様に腫瘍細胞もエクソソーム及び他の微小小胞体を分泌するが、この物質は、血管形成の促進による腫瘍の進行及び転移時の腫瘍細胞の移動に寄与する。腫瘍細胞由来の小胞体はまた、免疫抑制に関与する分子を含有し、これらの分子は、Tリンパ球(T lymphocytes)あるいはナチュラルキラー細胞(natural killer cells)を不活性化させるか、または免疫反応を抑制するために制御性Tリンパ球(regulatory T lymphocytes)あるいはミエロイド細胞(myeloid cells)の分化を促進し得る。また、腫瘍細胞から分泌されたエクソソームによる腫瘍活性の転移も報告されたことがある。
【0010】
しかし、体液にはあらゆる細胞から由来したエクソソームが混合された形態で存在するため、単純に体液から分離されたバルク母集団(bulk population)形態のエクソソームサンプルでは癌などの特定疾患を正確に診断するのに限界がある。さらに、疾患の発病初期には体液内の特定疾患関連細胞由来のエクソソームの濃度が相対的に非常に低いため、早期診断のためには、体液からターゲットエクソソームの分離及び濃縮が先行しなければならない。現存するエクソソーム分離技術の中で、密度差ベースの超遠心分離方法が再現性が高く、比較的安定した工程により、最上位標準(gold standard)分離過程として採択されている。しかし、高価な装備が必ず必要であり、分離時間が長くかかるという欠点がある。このような欠点を補完するために、エクソソームを沈殿させて分離する方法、サイズ排除クロマトグラフィ(size exclusion chromatography)を用いるか、またはマイクロフルイディクス(microfluidics)を用いてサイズによって分離する方法が開発された。
【0011】
しかし、このような既存のエクソソーム分離技術は、体液に存在する全てのエクソソームを一つの母集団形態で提供するため、癌のような特定細胞由来の極微量のエクソソームを選択的に探知するのに限界がある。実際に、細胞から放出されたエクソソームには生化学的成分(膜タンパク質、内部搭載タンパク質及びRNAなど)がエクソソームの膜や内部に多様に含まれているため、成分構成上、非常に異質的である。特に、癌細胞由来のエクソソームのうちの特定のエクソソームには、血管新生及び癌転移の前哨段階で局地的な環境造成作業に関与するmRNA又はmiRNAが含まれていることが報告されている。さらに、上述したように、癌転移時に前記の特定のエクソソームは、免疫細胞の死滅を誘導するか、または正常細胞を癌細胞化する過程に関与する生化学成分を含んでいるものと知られている。
【0012】
癌のような特定疾患の診断時に、体液に存在する全てのエクソソームが含まれたバルク母集団を液体生検サンプルとして用いる場合、高い診断正確度を得ることは非常に難しい。これは、非特異エクソソームによって引き起こされる非特異付着など、サンプル母体効果(sample matrix effect)により分析の特異度及び敏感度に否定的な結果をもたらすためである。このような分析的問題を克服するために、特異性は低いが、特定の疾患者の体液において増加すると知られている多重バイオマーカー(例:複数の異なるmiRNA化学種)を同時に測定して、疾患が発生したか否かに対する判別に使用することができる。しかし、多重バイオマーカーの使用によるシナジー効果は制限的であるしかなく、これは、疾患と特異に関連しないほとんどのエクソソームマーカーの疾患特異性が根本的に低いためである。
【0013】
そこで、癌のような特定疾患の発生と関連するエクソソームを選択的に分離できず特定疾患の診断に活用できないという問題を解決するための方案が切実に求められている状況である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためのもので、本発明の一態様は、癌、退行性疾患、心臓疾患、感染疾患のような特定疾患の診断時に、体液内の特定疾患関連のターゲットエクソソーム亜集団、次亜集団またはそれ以下の下部集団を、高収率及び元の状態で分離及び回収して液体生検サンプルとして提供できるように、温和な条件を用いる逐次的多重免疫親和分離技術を提供することにある。
【0015】
また、本発明の他の態様は、ターゲットエクソソームに存在する特定疾患関連のタンパク質及び核酸などのバイオマーカーを発掘するために、ターゲットエクソソーム亜集団、次亜集団またはそれ以下の下部集団を含む液体生検サンプルを分析する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルの製造装置は、固相(solid state)の固定部材と;多数の細胞から分泌されたエクソソームを含有するエクソソーム母集団サンプルにおいて、所定の疾患と関連する第1ターゲットエクソソームが有する第1分離マーカーと特異的に結合して前記第1ターゲットエクソソームを捕捉する第1捕捉素材と;前記固定部材と前記第1捕捉素材とを分離可能に結合させる第1可逆的リンカーと;を含むことができる。
【0017】
また、本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルの製造方法は、(a)所定の疾患と関連する第1ターゲットエクソソームが有する第1分離マーカーと特異的に結合する第1捕捉素材を、第1可逆的リンカーを用いて、固相(solid state)の固定部材に結合させるステップと;(b)多数の細胞から分泌されたエクソソームを含有するエクソソーム母集団サンプルと、前記固定部材に結合された前記第1捕捉素材とを反応させて、多数の前記第1ターゲットエクソソームを捕捉することによって、前記第1ターゲットエクソソームの集団であるエクソソーム亜集団を分離するステップと;(c)捕捉された前記第1ターゲットエクソソームが前記固定部材から分離されるように、前記第1可逆的リンカーを解離させ、前記エクソソーム亜集団を回収するステップと;を含むことができる。
【0018】
また、本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルの分析方法は、(a)健常者群及び患者群のそれぞれの体内の多数の細胞から分泌されたエクソソームを含有するエクソソーム母集団サンプルから製造されて、所定の疾患関連ターゲットエクソソームを含有するエクソソーム液体生検サンプルを準備するステップと;(b)前記エクソソーム液体生検サンプルに含有された前記ターゲットエクソソームが有する多数のバイオマーカー別に定量的信号を測定するステップと;(c)測定された前記定量的信号の信号値に基づいて、多数の前記バイオマーカー間の相関関係によって、前記健常者群及び前記患者群のそれぞれの前記エクソソーム液体生検サンプルを分析するステップと;を含むことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ターゲット疾患との関連性が相対的に低いが、疾患関連エクソソームを含む包括的な上位集団のエクソソーム特異マーカー(1次分離マーカー)に対するエクソソーム亜集団の分離を通じて、ターゲット疾患との関連性が高い特異エクソソームを後で分離可能な程度に濃縮及び回収することができ、1次分離溶液内のエクソソーム特異マーカー(2次分離マーカー)に対するエクソソーム次亜集団の分離を通じて、ターゲット疾患の拡散に関与するバイオマーカーが内包されたエクソソームを濃縮された形態の液体生検サンプルとして提供することができる。
【0020】
また、体内の多数の細胞から分泌されたエクソソームを含有するエクソソーム母集団サンプルから、特定疾患関連エクソソームを含有するエクソソーム亜集団、次亜集団またはそれ以下の下部集団を分離・回収して液体生検サンプルを製造した後、その液体生検サンプルを対象としてバイオマーカープロファイリング分析を行うことによって、特定疾患に特異なタンパク質及び核酸などのバイオマーカーを発掘することができる。
【0021】
エクソソーム亜集団、次亜集団またはそれ以下の下部集団の形態に分離及び濃縮された液体生検サンプルを分析対象とするので、非特異エクソソームが除去されることで、分析時に雑音(noise)が最小化され、特定のエクソソーム信号が極大化され、これにより、エクソソームを癌疾患などの特定疾患のバイオマーカーとして用いる際に、現存する問題点であるエクソソームの異質性(heterogeneity)による非特異エクソソームの干渉が最小化されて、液体生検サンプルから母細胞の生理学的特性及び系譜に関する情報を正確に把握することができる。
【0022】
また、本発明を疾患の診断に適用する場合、癌疾患、退行性疾患、心臓疾患、感染疾患などの特定疾患に対する診断の正確度を著しく増加させることで、病期の初期に疾患の診断が可能な早期臨床診断の効果を示すことができる。さらに、疾患の治療時に、治療剤に応じて病期の進行あるいは衰退に関する情報の取得が可能になるので、個人に応じて個別に選別する同伴診断にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来の液体生検サンプルを用いたバイオマーカー分析工程(左側)と、本発明によって製造された液体生検サンプルを用いたバイオマーカー分析工程(右側)とを比較した模式図である。
図2】本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルを製造する装置を概略的に示した構成図である。
図3図2に示された第1可逆的リンカー及び第2可逆的リンカーを様々な実施例によって概略的に示した構成図である。
図4図2に示された第1可逆的リンカー及び第2可逆的リンカーを様々な実施例によって概略的に示した構成図である。
図5図2に示された第1可逆的リンカー及び第2可逆的リンカーを様々な実施例によって概略的に示した構成図である。
図6図2に示された第1可逆的リンカー及び第2可逆的リンカーを様々な実施例によって概略的に示した構成図である。
図7】本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルを製造する方法のフローチャートである。
図8】本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルを製造する方法のフローチャートである。
図9】本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルを製造する方法のフローチャートである。
図10】本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルを製造する方法のフローチャートである。
図11】本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルを製造する方法のフローチャートである。
図12】本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルを製造する方法のフローチャートである。
図13】本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルを製造する方法のフローチャートである。
図14】本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルの分析方法のフローチャートである。
図15】スイッチ性付着反応を用いた親和分離技術を用いてサンプル内のCD63陽性(CD63+)エクソソームを免疫親和クロマトグラフィー工程により分離した結果である。
図16図15の免疫親和クロマトグラフィー工程を繰り返して用いてエクソソームの分離時の再現性を示した結果である。
図17】スイッチ性付着反応を用いてサンプル内のCD63+エクソソームを免疫磁性分離工程により分離及び濃縮した結果である。
図18図17の免疫磁性分離工程を繰り返して行う場合のCD63+エクソソームの分離時の再現性を示した結果である。
図19】スイッチ性付着反応を用いて分離されたCD63+エクソソームに対する物理的特性化の結果である。
図20】スイッチ性付着反応を用いて分離されたCD63+エクソソームサンプルのエクソソーム表面マーカーに対する免疫化学的特性化の結果である。
図21】エクソソーム標準サンプル間の濃度の変移を補償するために、CD9の濃度を基準としてCaveolin1(Cav1)マーカーの濃度を補正した結果である。
図22】スイッチ性付着反応を用いて分離したCD63+エクソソームを分析サンプルとして用いる際に、黒色腫癌の診断に対する潜在的な効果を示した結果である。
図23】スイッチ性付着反応を用いた親和分離システムと、現在商業的に販売される様々なエクソソーム分離システムとの間に、分離されたサンプルの免疫分析によって決定されたCav1/CD9の濃度比率を基準として、黒色腫癌サンプルを正常サンプルから区分する性能に対する比較結果である。
図24】本発明に係るエクソソーム亜集団の分離効果を検証するために、非標識センサを用いてエクソソーム標準サンプルの免疫親和分離前後に得たサンプルのそれぞれに対してCD9及びCav1マーカーを同時に測定した実験結果であって、分離前後の健常者のエクソソームサンプル内のCD9の濃度を示す。
図25】本発明に係るエクソソーム亜集団の分離効果を検証するために、非標識センサを用いてエクソソーム標準サンプルの免疫親和分離前後に得たサンプルのそれぞれに対してCD9及びCav1マーカーを同時に測定した実験結果であって、分離前後の健常者のエクソソームサンプル内のCav1の濃度を示す。
図26】本発明に係るエクソソーム亜集団の分離効果を検証するために、非標識センサを用いてエクソソーム標準サンプルの免疫親和分離前後に得たサンプルのそれぞれに対してCD9及びCav1マーカーを同時に測定した実験結果であって、分離前後の癌細胞エクソソームサンプル内のCD9の濃度を示す。
図27】本発明に係るエクソソーム亜集団の分離効果を検証するために、非標識センサを用いてエクソソーム標準サンプルの免疫親和分離前後に得たサンプルのそれぞれに対してCD9及びCav1マーカーを同時に測定した実験結果であって、分離前後の癌細胞エクソソームサンプル内のCav1の濃度を示す。
図28】健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団分析サンプルに対するエクソソーム表面マーカーのプロファイリング分析後、腫瘍抑制マーカーに対する、腫瘍の進行、促進、及び転移マーカーとの相関関係を比較した実験結果である。
図29】健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団から分離されたエクソソーム亜集団を分析サンプルとして用いて、エクソソーム次亜集団に対して表面マーカープロファイリング分析後、腫瘍抑制マーカーに対する、腫瘍の進行、促進、及び転移マーカーとの相関関係を正常サンプル群と比較した実験結果である。
図30】健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団分析サンプルに対するエクソソーム表面マーカーのプロファイリング分析後、腫瘍の進行、促進、及び転移マーカーの間の相関関係を、正常サンプル群と癌陽性サンプル群を比較した実験結果である。
図31】健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団から分離されたエクソソーム亜集団分析サンプル内のエクソソーム次亜集団に対するエクソソーム表面マーカーのプロファイリング分析後、腫瘍の進行、促進、及び転移マーカーの間の相関関係を、正常サンプル群と癌陽性サンプル群を比較した実験結果である。
図32】健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団分析サンプルを対象として新たに定義されたパラメータを適用して行ったバイオマーカーのプロファイリング分析の結果である。
図33】健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団から分離されたエクソソーム亜集団分析サンプルを対象として新たに定義されたパラメータを適用したバイオマーカーのプロファイリング分析の結果である。
図34】健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団分析サンプル(図34の(A))及びこれから分離されたエクソソーム亜集団分析サンプル(図34の(B))を対象として新たに定義されたパラメータを適用したバイオマーカーのプロファイリング分析の結果に対して、2次元パラメータ分析を総合した結果である。
図35】健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム亜集団分析サンプルを対象として新たに定義されたパラメータを適用した次亜集団のバイオマーカーのプロファイリング分析の結果に対して、2次元パラメータ分析を総合した結果である。
図36】健常者群及び前立腺癌患者群のそれぞれのエクソソーム亜集団分析サンプルを対象として新たに定義されたパラメータを適用したバイオマーカーのプロファイリング分析の結果に対して、2次元パラメータ分析を総合した結果である。
図37】前立腺癌細胞由来の細胞株培養液のエクソソーム母集団、CD63+亜集団、CD63+/CD81+次亜集団サンプルに含有された前立腺癌miRNAバイオマーカーを分析した結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の目的、特定の利点及び新規な特徴は、添付の図面と関連する以下の詳細な説明及び好ましい実施例からさらに明らかになるだろう。本明細書において各図面の構成要素に参照番号を付加するにおいて、同一の構成要素に限っては、たとえ他の図面上に表示されても、可能な限り同一の番号を有するようにしていることに留意しなければならない。また、「第1」、「第2」などの用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別するために使用されるもので、構成要素が前記用語によって制限されるものではない。以下、本発明を説明するにおいて、本発明の要旨を不要に曖昧にする可能性がある係る公知技術についての詳細な説明は省略する。
【0025】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0026】
図1は、従来の液体生検サンプルを用いたバイオマーカー分析工程(左側)と、本発明によって製造された液体生検サンプルを用いたバイオマーカー分析工程(右側)とを比較した模式図である。
【0027】
本発明は、体液内のエクソソームを亜集団、そして、順次にそれ以下の下部集団に分離して液体生検サンプルを製造し、これを対象としてエクソソーム下部集団に対するバイオマーカープロファイリング分析を行うことで、特定疾患関連のバイオマーカーを発掘し、これを臨床早期診断などに適用する技術に関する。
【0028】
特定の疾患が発生したか否かを早期に確認する診断方法として、血液、唾液、尿などの体液を抽出して、特定疾患関連の細胞から放出されたエクソソーム(exosome)に対する分析を行う「液体生検(liquid biopsy)」がある。体液から抽出されるエクソソームを、癌疾患、退行性疾患、感染疾患、及び心臓疾患などの特定疾患の診断の新たなバイオマーカーとして用いる技術が最近研究されている。但し、体液にはあらゆる細胞から由来したエクソソームが混合された形態で存在するため、図1の左側に示された、従来のように単純に体液から分離されたバルク母集団(bulk population)形態のエクソソームサンプルでは癌のような特定疾患を正確に診断するのに限界がある。サンプルとして提供される体液全体において、ターゲットエクソソームに含有された特定のバイオマーカー分子を探すことは非常に難しい。エクソソームナノ小胞体をバイオマーカーとして利用できるかどうかの可能性は、エクソソームの分離時に高度に選択されたマーカーをどれだけ濃縮させることができるかにかかっている。濃縮されない場合、ターゲットエクソソームは、体液内の総タンパク質体/転写体のごく一部分に該当する。このように、エクソソームによるバイオマーカーなどの含有物の分類が必要であるため、エクソソームを含む体液などの資源において診断マーカーの濃縮は、一般に探知しにくいほどに相対的に少なく発現されるバイオマーカーを探すのに役立つ。そこで、ターゲットエクソソームの分離及び濃縮技術が求められる。従来のエクソソーム分離技術としては、超遠心分離、沈殿分離、サイズ排除クロマトグラフィ(size exclusion chromatography)またはマイクロフルイディクス(microfluidics)を用いて分離する方法があるが、このような従来技術は、依然として、体液に存在する全てのエクソソームを一つの母集団形態で提供するため、癌のような特定細胞由来の極微量のターゲットエクソソームを選択的に探知するのに限界がある。
【0029】
そこで、図1の右側のように、本発明は、エクソソームの表面に癌との相関性が高いタンパク質マーカー、例えば、黒色腫癌の場合にCaveolin1(Cav1)、胃癌の場合にHER-2/neu、そして、卵巣癌の場合にL1CAMが存在する点に着目して、特定のマーカーに対する免疫親和分離方法を採用することによって、特定疾患関連のエクソソーム亜集団、そして、順次にそれ以上延長して次亜集団を分離しようとする。すなわち、ターゲット疾患との関連性が相対的に低いが、疾患関連エクソソームを含む包括的な上位集団のエクソソームマーカー(例えば、黒色腫癌の場合にCD63)に対するエクソソーム亜集団を1次分離し、1次分離溶液内のエクソソーム特異マーカー(例えば、黒色腫癌の場合にCav1)に対するエクソソーム次亜集団の分離を通じて、ターゲット疾患の拡散に関与するバイオマーカー(例えば、特定のmiRNA)が内包されたエクソソームを、濃縮された形態の液体生検サンプルとして製造することができる。
【0030】
エクソソームプロファイリングは、個別患者に対する個別情報を提供することができ、そして、正確な予後あるいは差別化された診断において重大である。また、エクソソーム由来のバイオマーカーの変化は、単一条件以上に対する反応を示すことができるだけでなく、体液内、例えば、血漿のエクソソームは、血液細胞及び周辺組織の両方からの様々な細胞資源によって分泌される。
【0031】
液体生検時に、体液内のエクソソームの表面には様々なタンパク質がエクソソーム毎に異質的に分布しており、特に、癌疾患と関連する特定の表面タンパク質は、発現比率に差はあるが、健常者のエクソソームにも複合的に存在する。テトラスパニン(Tetraspanins)(CD9、CD63、CD81、CD82、CD151など)、histocompatibility complex(MHC) class-I及びclass-IIのようなcell type-specific molecules、adhesion molecules、HSP60、HSP70などの表面タンパク質の種類及び発現量は、母細胞の特徴と関連して増加又は減少できることが報告されている。例えば、テトラスパニン系列のエクソソーム表面タンパク質であるCD63は、B細胞(cell)由来のエクソソームのlysosomal membraneに含まれているタンパク質であって、黒色腫癌を含むいくつかの癌疾患の患者のサンプルにおいて増加することが報告された。また、CD63は、同じ系列のCD81及びCD9に比べて、母細胞の種類によって発現の程度が変化するものと示され、これを、疾患の診断のための最適のエクソソームマーカーとして利用しようとする研究も報告されている。さらに、エクソソーム表面タンパク質の正確な定量分析のために、母細胞の特徴とは関係のないinvariant housekeeping markerを、定量時の標準化の用途に活用することができる。このような標準化の目的には、テトラスパニン系列ではCD63よりはCD9がさらに適すると予測される。
【0032】
このような背景下で、エクソソーム表面タンパク質をベースとしたエクソソーム亜集団への免疫親和分離は、次のような利点を提供することができる。第一に、密度、サイズ、沈殿などに基づく分離方法とは異なり、抗原-抗体付着反応を用いるので、分離後の溶液には、ターゲットエクソソーム以外の不純物の内包が最小化される。前記のように、診断時に、分析サンプルに不純物の含量が少ないほど、非特異反応などのサンプル母体効果が減少するので、診断の敏感度及び特異度が向上することができる。第二に、特定疾患と関連するエクソソームを含むが、疾患との関連性が相対的に低い包括的な上位集団のエクソソームマーカーに対して免疫親和分離を実行すると、分離された亜集団内に特定疾患関連エクソソームの濃度を増加させることができる。このような接近方法は、エクソソーム母集団内の疾患関連エクソソームの濃度が初期に体液内で探知しにくいほどに低い場合に有用である。この場合、分離された亜集団を診断サンプルとして用いることで、特定疾患の診断時にその敏感度を向上させることができる。
【0033】
さらに、癌疾患などの特定疾患と関連する特異エクソソーム表面タンパク質を媒介として前記のエクソソーム亜集団の分離が追加で可能な場合、特異エクソソームに含有された高濃度の特定疾患のマーカー、例えば、mRNA及びmiRNAなどが含まれたエクソソーム次亜集団を、診断サンプルとして提供できるようになる。特に、癌細胞から放出されたエクソソームには、癌転移の前段階で血管新生などの局地的環境の造成及び転移段階で実行の役割を行う様々な種類のRNAが内包されたものと知られているが、このようなバイオマーカーが特定のエクソソームに搭載されたことが報告されている。
【0034】
実際に、増加した数のエクソソーム由来のタンパク質が、癌疾患だけでなく、肝炎、肝、腎臓、及び退行性疾患などの様々な疾患に対する潜在的なバイオマーカーとして確認されている。エクソソームタンパク質が特定疾患と関連があることが報告されており、したがって、今後、製品の開発時に診断あるいは分離ターゲットとして用いることができる。例えば、血漿内の慢性C型肝炎と関連するエクソソームタンパク質マーカーとしてCD81があり、黒色腫癌と関連するマーカーとしてCD63、caveolin-1、TYRP2、VLA-4、HSP70、及びHSP90があり、前立腺癌と関連するマーカーとしてsurvivinがあり、卵巣癌と関連するマーカーとしてL1CAM、CD24、ADAM10、EMMPRIN、及びclaudinがある。また、尿内の急性腎臓損傷と関連するエクソソームタンパク質マーカーとしてFetuin-A及びATF3があり、肝損傷と関連するマーカーとしてCD26、CD81、S1c3A1、及びCD10があり、膀胱癌と関連するマーカーとしてEGF、resistin、及びretinoic acid-induced protein3があり、前立腺癌と関連するマーカーとしてPSA及びPCA3がある。さらに、脳組織内のアルツハイマーと関連するエクソソームペプチドマーカーとしてアミロイドペプチド(amyloid peptides)、そして、脳脊髄液内のアルツハイマーと関連するマーカーとしてTau phosphorylated Thr181がある。
【0035】
骨格膜タンパク質の一種であるテトラスパニン(tetraspanins)は、エクソソームに非常に豊富に存在する。例えば、血漿CD63陽性(CD63+)エクソソームは、健常者対照群と比較して、黒色腫癌患者群において著しく増加する。テトラスパニン系列の他のエクソソームマーカーであるCD81は、C型肝炎ウイルスの付着及び/又は細胞内への流入時に決定的な役割を行う。それに加えて、血清エクソソーム含有CD81の濃度は、慢性C型肝炎患者において上昇し、炎症及び繊維症(fibrosis)の悪化にも関連している。これから、エクソソーム含有CD81は、C型肝炎の診断及び治療反応に潜在的なマーカーとなり得ることを示唆する。さらに、多くのエクソソーム含有タンパク質バイオマーカーが、中枢神経系疾患の診断に潜在的に有用であることが報告されている。EGFRvIII(glioblastoma-specific epidermal growth factor receptor vIII)は、神経膠芽細胞腫(glioblastoma)患者の血清エクソソームから発見されたが、これは、神経膠芽細胞腫の診断学的探知に有用であり得る。また、エクソソーム含有アミロイドペプチドは、アルツハイマー疾患者の脳プラークに蓄積されることが報告された。Thr-181にリン酸化されたTauタンパク質は、アルツハイマー疾患のよく定立されたバイオマーカーであり、軽度の症状のアルツハイマー患者の脳脊髄液標本から分離されたエクソソームにおいて、増加した濃度で存在する。このような発見から、アルツハイマーの早期診断にエクソソームの潜在的価値が浮かび上がってきている。現在、初期アルツハイマー疾患を確認できる診断試験方法がない状態である。
【0036】
また、非侵襲手段により得ることができる尿エクソソーム内に含有されたタンパク質が、診断においてどのような潜在的有用性があるか、特に尿路疾患に対して探求されている。例えば、尿エクソソームに含有されたfetuin-Aは、健常者と比較して、重患者室の急性腎臓損傷患者において増加する。ATF3はまた、慢性腎臓疾患者あるいは健常者と比較して、急性腎臓損傷患者から分離されたエクソソームでしか見つからない。さらに、尿エクソソームタンパク質は、膀胱癌及び前立腺癌に対する潜在的なバイオマーカーとしての利用も研究されている。研究結果によれば、2種類の前立腺癌バイオマーカーであるPCA-3とPSAが、前立腺癌患者の尿から分離されたエクソソームに存在する。全体的に、他の体液で確認されたエクソソーム含有タンパク質は、今後、診断用分析システムの開発時にターゲットプラットホームとして用いられる見込みである。
【0037】
その他に、エクソソームの表面に癌との相関性が高いタンパク質マーカー、例えば、黒色腫癌の場合にCaveolin1(Cav1)、胃癌の場合にHER-2/neu、そして、卵巣癌の場合にL1CAMなどが存在することが報告されている。しかし、このような特定のエクソソームは、特に早期診断用サンプル内にはその含有比率が非常に低いため、これを選択的に分離するためには、前記のような逐次的繰り返し分離工程の導入が不可避である。
【0038】
図2は、本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルを製造する装置を概略的に示した構成図である。
【0039】
図2に示されたように、本発明の実施例に係るエクソソーム次亜集団の液体生検サンプルの製造装置は、固相(solid state)の固定部材10と、多数の細胞から分泌されたエクソソーム1のうちの所定の疾患関連エクソソーム1aが有する第1分離マーカーm1と特異的に結合して疾患関連エクソソーム1aを捕捉する第1捕捉素材20と、固定部材10と第1捕捉素材20とを分離可能に結合させる第1可逆的リンカー30とを含むことができる。
【0040】
また、第1捕捉素材20が未結合された前記固定部材10に結合され、疾患関連エクソソーム1aの集団であるエクソソーム亜集団S内のターゲットエクソソーム1bが有する第2分離マーカーm2と特異的に結合してターゲットエクソソーム1bを捕捉する第2捕捉素材40をさらに含むことができる。
【0041】
また、第2捕捉素材40を固定部材10に結合するための手段として、第2可逆的リンカー50をさらに含むことができる。
【0042】
固定部材10は固相(solid state)の部材であって、その表面に第1可逆的リンカー30、第2捕捉素材40及び第2可逆的リンカー50が選択的に結合固定され得る。一つの固定部材10上に第1可逆的リンカー30が結合固定され、その後分離され、以降に第2捕捉素材40又は第2可逆的リンカー50が結合固定され得る。また、第1可逆的リンカー30が固定される固定部材10と、第2捕捉素材40又は第2可逆的リンカー50が固定される固定部材10とが互いに異なってもよい。このような固定部材10は、ヒドロゲル、磁性ビーズ、ラテックスビーズ、ガラスビーズ、ナノ金属構造体、細孔性メンブレン、及び非細孔性メンブレンからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。但し、固定部材10が必ずしも前記に限定されるものではなく、第1可逆的リンカー30、第2捕捉素材40または第2可逆的リンカー50のそれぞれと結合可能な素材であれば、特に制限されない。
【0043】
第1捕捉素材20及び第2捕捉素材40は、所定のエクソソーム1を選択的に捕捉する素材である。第1捕捉素材20及び第2捕捉素材40は、エクソソーム1が有する分離マーカーmと特異的に結合することによって、エクソソーム1を捕捉する。ここで、分離マーカーmは、特定疾患の発生時に、健常者と比較して体液内に相対的に増加するバイオマーカーであって、エクソソーム1の表面に存在するタンパク質、核酸、脂質成分、糖成分、ペプチド、及びその他の生化学成分などを含むことができる。このような分離マーカーmは、抗原-抗体反応などのような免疫化学的相互作用を通じて、第1捕捉素材20、及び第2捕捉素材40に特異的に結合され得る。第1捕捉素材20、及び第2捕捉素材40は、エクソソーム1の表面タンパク質などと抗原-抗体反応する所定の抗体であり得る。
【0044】
分離マーカーmのうちの第1捕捉素材20と特異的に結合する第1分離マーカーm1は、所定の疾患関連エクソソーム1aの表面に存在する。したがって、多数の細胞から分泌されたエクソソーム1の集団であるバルクエクソソーム母集団Bから、第1分離マーカーm1を有する疾患関連エクソソーム1aは、第1捕捉素材20に捕捉されることによって分離され得る。ここで、分離された疾患関連エクソソーム1aの集団がエクソソーム亜集団Sとなる。このように生成されたエクソソーム亜集団S内の疾患関連エクソソーム1aのうちの第2分離マーカーm2を有するターゲットエクソソーム1bが、第2捕捉素材と特異的に反応することによってこれに捕捉され、エクソソーム亜集団S内でエクソソーム次亜集団SAが分離される。エクソソーム1上の第1分離マーカーm1は、第2分離マーカーm2と比較して、特定疾患の診断に用いる際に相対的に低い正確度を示すが、体液内に相対的に高い濃度で存在し、エクソソーム1集団のマーカーによる量的体系分類時に上位に位置して、さらに包括的な特性を有することができる。
【0045】
本発明では、体液内の濃度が低いと予測される疾患特異的マーカーを含む上位のエクソソーム集団から表面タンパク質マーカー(第1分離マーカー)陽性のエクソソーム亜集団Sを1次分離、濃縮、及び回収して準備されたエクソソーム液体生検サンプルを使用するか、またはエクソソーム亜集団Sを対象として疾患特異的マーカー(第2分離マーカー)に対する2次分離及び濃縮を実行して回収されたエクソソーム次亜集団SAをエクソソーム液体生検サンプルとして使用することができる。さらに、本発明では、体液内の濃度が低いと予測される疾患特異的マーカーを含む上位のエクソソーム集団から表面タンパク質マーカー(第1分離マーカー)陽性のエクソソーム亜集団Sを1次分離、濃縮、及び回収した後、順次に疾患特異的マーカー(第2分離マーカー)に対して2次分離及び濃縮してエクソソーム次亜集団SAを回収することができる。ここで、他のエクソソーム表面タンパク質マーカーに対して順次行うことができる分離、濃縮、及び回収工程の繰り返し回数は、目的に応じて2回あるいはそれ以上延長できるところ、エクソソーム次亜集団SAを対象として、さらに他の疾患特異的マーカーに対する分離及び濃縮を通じて回収されたその下位集団をエクソソーム液体生検サンプルとして使用しても関係ない。
【0046】
体液内のエクソソームを用いた液体生検時に、単純に濃縮したバルク母集団の形態のエクソソームサンプルから、検査対象疾病に選択的に分離されたエクソソーム(disease-relevant exosome)サンプルの使用への転換は、診断の正確度を向上させることができる。メラニン産生細胞から発生する皮膚癌である黒色腫癌の場合、エクソソームの表面タンパク質であるCaveolin1(Cav1)は、健常者に比べて黒色腫癌患者の血液で著しく増加するので、Cav1陽性(Cav1+)エクソソームベースの診断敏感度は68%で、他の黒色腫癌マーカーであるCD63ベースの診断敏感度である43%よりも相対的に高い。このような液体生検の性能の向上を通じて臨床に用いるためには、Cav1+エクソソームのようなターゲットエクソソームの選択的な分離及び濃縮が必要であるが、体液内の全エクソソーム中のその割合が非常に低いため、公知の一般的な工程によっては実現しにくい。
【0047】
したがって、本発明は、体液内のエクソソームを選択的に分離して、一例として、Cav1+エクソソームを含有した亜集団又は次亜集団を取得し、これを検査サンプルとして用いることで、黒色腫癌の診断の正確度及び敏感度を増加させる方法として活用しようとする。エクソソームの分離時に、その収率及び再現性を考慮して、Cav1+エクソソームを優先分離対象としてターゲッティングせず、癌の発生と関連性があるその上位のエクソソーム集団を1次分離対象とした。例えば、他の表面タンパク質と比較して一般的なエクソソームに多く存在するhouse-keeping proteinであるCD63タンパク質は、黒色腫癌を含むいくつかの癌の発生時にエクソソームの表面に増加して発現するので、この表面タンパク質を第1分離マーカーm1として用いて、CD63+エクソソーム亜集団Sを分離し、Cav1を第2分離マーカーm2として用いて、CD63+エクソソーム亜集団SからCD63+/Cav1+エクソソーム次亜集団SAを分離することができる。
【0048】
一方、第1捕捉素材20は、第1可逆的リンカー30を媒介として固定部材10に固定され、その後分離され得る。第2捕捉素材40は、固定部材10に分離なしに直接結合固定されるか、または第2可逆的リンカー50の導入によって固定部材10に固定され、その後分離されてもよい。
【0049】
可逆的リンカーのいずれか1つである第1可逆的リンカー30は、第1捕捉素材20を固定部材10に分離可能に結合させ、他の1つの第2可逆的リンカー50は、第2捕捉素材40を固定部材10に分離可能に結合させる。ここで、第2捕捉素材40が固定される固定部材10には第1捕捉素材20が結合されない。すなわち、第1捕捉素材20が未結合された固定部材10上に、第2可逆的リンカー50を介して第2捕捉素材40が固定される。このような第1可逆的リンカー30と第2可逆的リンカー50は、互いに同一の素材及び構造からなるか、または互いに異ならせて実現されてもよく、具体的な素材及び構造については後述する。
【0050】
温和な条件下でのエクソソーム免疫親和分離は、リガンド-バインダー付着反応ベースの可逆的リンカーを用いれば可能である。可逆的リンカーは、初期に特定のエクソソーム1の捕捉素材(抗体)を固定部材10上に固定化させる役割を行うが、サンプル内のエクソソーム1を固定部材10に捕捉した後は、反応条件の変化を通じて解離されることで、捕捉されたエクソソーム1を回収できるようにする。例えば、親水性及び疎水性結合を介した糖-糖受容体結合反応、イオン間あるいはイオン-イオン受容体結合反応、基質-酵素反応、抗原-抗体反応、核酸接合反応、ホルモン-細胞受容体反応、及びリガンド-ナノ構造体反応以外に、特に、ポリヒスチジンタグ(polyhistidine-tag)、ビオチン-アビジン(biotin-avidin)反応、及びキレーター(chelator)を用いた付着反応などが可逆的リンカーとして用いられてもよい。このような可逆的リンカーは、結合後のバインダーの構造の変化あるいはバインダーに対する競争反応など、リンカーのバインダー-リガンドの間の親和力の調節を介して解離が可能である。したがって、可逆的リンカーを用いる場合、酸性pHのような苛酷条件を用いずに、サンプル内のエクソソーム1を免疫学的に捕捉した後、温和な条件下でターゲットエクソソーム1bの分離及び回収が可能になる。
【0051】
また、前記の付着反応ベースの可逆的リンカーを用いた免疫親和分離工程として、密度、サイズ、溶解度、膜透過性、分子構造、及び磁性などの物理的、生物学的、そして、化学的特性を用いて分離及び回収を可能にする全ての工程を用いることができる。特に、クロマトグラフィーあるいは磁性分離などの格別に工夫された免疫親和分離工程を用いると、リンカー内のバインダー-リガンドの間の親和力の調節を介して、体液内の微量のエクソソームを分離し、回収することが可能である。例えば、リガンドの付着時に誘発されるリンカー内のバインダーの構造の変化を認識する認識素材の‘スイッチ性付着反応’を用いると、単にリガンドの有無によって免疫分離工程を介してエクソソームの分離及び回収が可能である。また、免疫分離時に、リガンド-バインダー反応において、バインダーに対してリガンドと競争反応するリガンド類似構造体を用いた競争付着反応方法を導入すれば、競争付着反応の有無によってエクソソームの分離及び回収が可能である。
【0052】
このような免疫分離工程は、リガンド-バインダー結合のような可逆的付着反応以外に、可逆的な化学的交差結合-脱交差結合(chemical crosslinking-decrosslinking)を用いて行われてもよい。特に、ポリマー間の化学反応を介して交差結合を形成した後、特定の条件下で脱交差結合されるか、または化学反応された交差結合が光エネルギーを介して化学結合が切れて脱交差結合される。
【0053】
以下では、前述した第1可逆的リンカー30及び第2可逆的リンカー50について詳細に説明する。可逆的リンカーは、以下の第1~第4実施例によって実現され得、第1可逆的リンカー(30,30a~30d)、及び第2可逆的リンカー(50,50a~50d)は、それらのいずれか1つからなることができる。図3乃至図6は、図2に示された第1可逆的リンカー及び第2可逆的リンカーを様々な実施例によって概略的に示した構成図である。
【0054】
図3に示されたように、本発明の第1実施例に係る可逆的リンカー30a,50aは、リガンド31a、バインダー33a、及び認識素材35aを含むことができる。
【0055】
リガンド31aは、バインダー33aに着脱可能に結合される物質であって、糖分子、イオン、基質、抗原、ペプチド、ビタミン、成長因子、及びホルモンからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。
【0056】
バインダー33aは、リガンド31aとの付着反応によって構造変化(conformation change)が引き起こされる物質である。このようなバインダー33aは、糖結合タンパク質、イオン結合タンパク質、酵素、抗体、アビジン類、アプタマー、細胞受容体、及びナノ構造体からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。したがって、バインダー33a及びリガンド31aは、糖結合タンパク質-糖分子ペア、イオン結合タンパク質-イオンペア、ビオチン-アビジンペア、酵素-基質ペア、抗原-抗体ペア、アプタマー(aptamer)-リガンドペア、細胞受容体-リガンドペア、ナノ構造体-リガンドペアなどのようなバインダー-リガンドペアをなすことができ、最も代表的なバインダー33aとリガンド31aの例としては、カルシウム結合タンパク質(calcium binding protein、CBP)とカルシウムイオンが挙げられる。但し、バインダー33a及びリガンド31aが必ずしも前記物質に限定されるものではなく、互いに着脱可能に結合して構造変化を起こす物質であれば、いかなるものでも構わない。第1実施例に係る可逆的リンカーにおいて、バインダー33aは、第1捕捉素材20及び/又は第2捕捉素材40と重合されてバインダー-捕捉素材重合体Cを形成する。
【0057】
認識素材35aは、リガンド31aと結合して構造が変わったバインダー33aと特異的に結合する物質であって、抗体、タンパク質受容体、細胞受容体、アプタマー、酵素、ナノ粒子、ナノ構造体、及び重金属キレーター(chelator)からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。但し、前記物質は、認識素材35aの一例に過ぎず、必ずしもこれに限定して本発明の権利範囲が定められてはならない。一例として、リガンド31aとバインダー33aと認識素材35aとの間の結合反応を説明すると、カルシウムイオン(リガンド)がカルシウム結合タンパク質(バインダー)と1次結合してカルシウム結合タンパク質の構造変化が引き起こされ、構造が変わったカルシウム結合タンパク質と抗体(認識素材)との間に抗原-抗体反応が起こって互いに結合され得る。第1実施例に係る可逆的リンカーにおいて、認識素材35aは固定部材10の表面に固定される。
【0058】
一方、可逆的リンカー30,50を媒介として固定部材10に結合された第1捕捉素材20及び/又は第2捕捉素材40によってエクソソーム1が捕捉されると、反応条件の変化を通じて可逆的リンカーを解離させることによって、捕捉されたエクソソーム1a,1bを回収することができる。第1実施例に係る可逆的リンカー30a,50aの場合には、構造が変わったバインダー33aが元の構造に回復されるときに解離され得る。一例として、カルシウムイオン(リガンド)が付着されて構造が変わったカルシウム結合タンパク質(バインダー)に抗体(認識素材)が結合され、その抗体がエクソソーム1を捕捉した場合に、カルシウムイオンが含有されていない回収溶液を添加して、カルシウム結合タンパク質からカルシウムイオンを脱着させることによって、カルシウム結合タンパク質の構造を回復させ、カルシウム結合タンパク質と抗体を分離することができる。
【0059】
図4を参照すると、本発明の第2実施例に係る可逆的リンカー30b,50bは、リガンド31b、バインダー33b、及び認識素材35bを含むことができる。
【0060】
第2実施例に係る可逆的リンカー30b,50bのリガンド31b、バインダー33b、及び認識素材35bは、それぞれ、第1実施例に係る可逆的リンカー30a,50aのリガンド31a、バインダー33a、及び認識素材35aと対応するので、以下では相違点を中心に説明する。
【0061】
第1実施例に係る可逆的リンカー30a,50aでは、バインダー33aが捕捉素材20,40と重合されて重合体Cを形成し、認識素材35aが固定部材10の表面に固定される反面、第2実施例に係る可逆的リンカー30b,50bの場合には、バインダー33bが固定部材10の表面に固定され、認識素材35bが捕捉素材20,40と重合されて認識素材-捕捉素材重合体Cを形成する。その他には第1実施例に係る可逆的リンカー30a,50aと同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0062】
温和な条件下でサンプル内のエクソソーム亜集団又は次亜集団の回収を可能にする第1及び第2実施例に係る可逆的リンカー30,50の一例として、カルシウム結合タンパク質のようなバインダー33a,33bがこれと特異に反応するカルシウムイオンのようなリガンド31a,31bと結合して引き起こされる構造変化を特異に認識する抗体などの認識素材35a,35bが用いられてもよい。このような抗原-抗体反応のようなバインダー-認識素材反応は、カルシウムイオンのようなリガンド31a,31bの有無に応じて迅速に結合あるいは解離され、まるでスイッチを操作してオン/オフする原理と類似するので、‘スイッチ性可逆付着反応(switch-like reversible binding)’として描写される。
【0063】
図5に示されたように、本発明の第3実施例に係る可逆的リンカー30c,50cは、リガンド31c及びバインダー33cを含むことができる。
【0064】
第3実施例に係る可逆的リンカー30c,50cのリガンド31cは、第1捕捉素材20及び/又は第2捕捉素材40と重合されて捕捉素材-リガンド重合体Cを形成する。
【0065】
第3実施例に係る可逆的リンカー30c,50cのバインダー33cは、固定部材10の表面に固定され、エクソソーム1a,1bと特異的に結合された捕捉素材-リガンド重合体Cと結合することによって、エクソソーム1a,1bを固定部材10に捕捉する。バインダー33cは、リガンド31cと結合するが、リガンド31cと競争反応する競争反応リガンド32が添加される際に競争反応リガンド32が付着される。これにより、リガンド31cが脱着されることで、エクソソーム1a,1bは固定部材10から分離されて回収され得る。ここで、リガンド31cは、ヒスタグ(His-tag、polyhistidine-tag)、ビオチンなどのようなビタミン、糖分子、イオン、基質、抗原、アミノ酸、ペプチド、核酸、成長因子、及びホルモンからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。また、バインダー33cは、2価の金属イオン、アビジン類、糖結合タンパク質、イオン結合タンパク質、酵素、抗体、アプタマー、タンパク質受容体、細胞受容体、及びナノ構造体からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。競争反応リガンド32は、イミダゾール(imidazole)、ビオチンなどのようなビタミン、糖分子、イオン、基質、抗原、アミノ酸、ペプチド、核酸、成長因子、及びホルモンからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。
【0066】
一例として、ヒスタグをリガンド31cとして、2価の金属イオンをバインダー33cとして、イミダゾールを競争反応リガンド32として用いることができる。ヒスタグは、タンパク質内の最小6個以上のヒスチジン(Histidine、His)残基で構成されたアミノ酸モチーフであって、一般にタンパク質のN末端やC末端に位置させて、主に組換えタンパク質の発現後、精製時に使用される。ここで、ヒスタグで標識されたタンパク質は、セファロース/アガロースレジン上のキレーターと結合された2価イオンであるニッケルやコバルトとの親和力を用いて捕捉された後、イミダゾールが含有された回収溶液を添加して回収され得る。
【0067】
図6を参照すると、本発明の第4実施例に係る可逆的リンカー30d,50dは、リガンド31d及びバインダー33dを含むことができる。
【0068】
第4実施例に係る可逆的リンカー30d,50dのリガンド31d及びバインダー33dは、それぞれ、第3実施例に係る可逆的リンカー30c,50cのリガンド31c及びバインダー33cに対応するので、以下では相違点を中心に説明する。
【0069】
第3実施例に係る可逆的リンカー30c,50cでは、リガンド31cが捕捉素材20,40と重合され、バインダー33cが固定部材10の表面に固定される反面、第4実施例に係る可逆的リンカー30d,50dの場合には、リガンド31dが固定部材10の表面に固定され、バインダー33dが捕捉素材20,40と重合されて捕捉素材-バインダー重合体Cを形成する。その他には、同様にリガンド31dがバインダー33dに結合されるが、競争反応リガンド32との競争反応によってバインダー33dから分離される。
【0070】
一方、エクソソーム液体生検サンプルの製造装置は、反応器(図示せず)をさらに含むことができる。反応器は、その内部に固定部材10を収容することができる。このとき、反応器にエクソソーム1サンプルが添加されると、その内部で第1可逆的リンカー30及び第1捕捉素材20を媒介として、固定部材10に疾患関連エクソソーム1aが捕捉されてエクソソーム亜集団Sが分離され、第1可逆的リンカー30が解離されてエクソソーム亜集団Sが回収される。また、回収されたエクソソーム亜集団Sサンプルを反応器に添加し、第2可逆的リンカー50及び第2捕捉素材40を用いて、固定部材10にターゲットエクソソーム1bが捕捉されてエクソソーム次亜集団SAが分離される。分離されたエクソソーム次亜集団SAは、第2可逆的リンカー50が解離されながら回収される。ここで、磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上を用いて固定部材10を濃縮することによって、エクソソーム亜集団S及び/又はエクソソーム次亜集団SAを濃縮することができる。例えば、磁性ビーズを固定部材10として使用する場合、磁石を用いて疾患関連エクソソーム1a及び/又はターゲットエクソソーム1bと結合された固定部材10を捕捉した状態で上層液を除去し、磁性ビーズを除去することによってエクソソーム亜集団S及び/又はエクソソーム次亜集団SAを濃縮することができる。
【0071】
以下では、前述したエクソソーム液体生検サンプルの製造装置を用いた液体生検サンプルの製造方法について説明する。エクソソーム液体生検サンプルの製造装置については上述したので、重複する事項については説明を省略したり、簡単に記述する。
【0072】
図7乃至図13は、本発明の実施例に係るエクソソーム次亜集団の液体生検サンプルを製造する方法のフローチャートである。
【0073】
図7を参照すると、本発明の第1実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルの製造方法は、多数の細胞から分泌されたエクソソームのうちの所定の疾患関連エクソソームが有する第1分離マーカーと特異的に結合する第1捕捉素材を、第1可逆的リンカーを用いて、固相(solid state)の固定部材に結合させるステップ(S110)と、エクソソームの集団を含有するサンプル溶液と、固定部材に結合された第1捕捉素材とを反応させて、疾患関連エクソソームを捕捉することによって、疾患関連エクソソームの集団であるエクソソーム亜集団を分離するステップ(S120)と、捕捉された疾患関連エクソソームが固定部材から分離されるように、第1可逆的リンカーを解離させて、エクソソーム亜集団を回収するステップ(S130)とを含むことができる。
【0074】
ここで、多数の細胞から分泌されたエクソソームの集団であるバルクエクソソーム集団や体液をサンプル溶液として、1次的にエクソソーム亜集団を分離回収した後に、これを液体生検サンプルとして提供することができる。
【0075】
また、図8のように、エクソソーム亜集団からエクソソーム次亜集団を分離回収して液体生検サンプルを製造するために、エクソソーム亜集団内のターゲットエクソソームが有する第2分離マーカーと特異的に結合する第2捕捉素材を、固定部材に結合させるステップ(S140)と、回収されたエクソソーム亜集団を含有するエクソソーム亜集団溶液と、固定部材に結合された第2捕捉素材とを反応させて、ターゲットエクソソームを捕捉することによって、ターゲットエクソソームの集団であるエクソソーム次亜集団を分離するステップ(S150)とをさらに含むことができる。ここで、前記第2捕捉素材は、第2可逆的リンカーによって固定部材に結合され得る。
【0076】
まず、エクソソーム亜集団を分離回収するために、固定部材に第1捕捉素材及び第1可逆的リンカーを反応させる(S110)。このとき、第1捕捉素材は、第1可逆的リンカーを媒介として固定部材に結合される。
【0077】
次に、サンプル溶液を添加することによって、第1捕捉素材と反応させる(S120)。ここで、第1捕捉素材が、サンプル溶液に含有された疾患関連エクソソームの第1分離マーカーと特異的に結合する。これによって、疾患関連エクソソームを対象とするエクソソーム亜集団が固定部材に捕捉されてサンプル溶液から分離される。
【0078】
エクソソーム亜集団が分離された後は、第1可逆的リンカーを解離させる(S130)。このとき、疾患関連エクソソームが固定部材から分離されるので、エクソソーム亜集団を回収することができる。
【0079】
疾患関連エクソソームが固定部材から分離されると、その固定部材を再利用するか、または新しい固定部材を用いて固定部材上に第2捕捉素材を結合する(S140)。このとき、第2捕捉素材を固定部材に直接結合するか、または第2可逆的リンカーを用いて固定部材に結合することができる。
【0080】
次に、回収されたエクソソーム亜集団を含有するエクソソーム亜集団溶液を第2捕捉素材と反応させる(S150)。このとき、第2捕捉素材は、エクソソーム亜集団内のターゲットエクソソームの第2分離マーカーと特異的に結合するので、ターゲットエクソソームが固定部材に固定される。これによって、ターゲットエクソソームの集合であるエクソソーム次亜集団が分離される。このように回収されずに、固定部材に固定されたエクソソーム次亜集団の形態で液体生検サンプルとして提供され得る。すなわち、特定疾患診断用バイオマーカーが次亜集団の形態で分離された後、エクソソームを回収せずに直ぐにバイオマーカーに対する分析を行う、あるいはエクソソームを溶解させて溶出されたバイオマーカーに対する分析を行う場合、逐次的多重免疫親和分離工程における最後の分離ステップでは、次亜集団エクソソームを回収せずに、直ぐにバイオマーカーのみをサンプルとして用いることができる。
【0081】
以下では、第1可逆的リンカー及び第2可逆的リンカーに関する具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
【0082】
図9は、前述した第1実施例に係る第1可逆的リンカー30a及び第2可逆的リンカー50aを用いたエクソソーム次亜集団の液体生検サンプルの製造方法を示す。図9を参照すると、まず、認識素材35aを固定部材10の表面に固定させ、リガンド31a含有のリガンド溶液、バインダー33a及び第1捕捉素材20を反応させる。このとき、バインダー33aと第1捕捉素材20がバインダー-第1捕捉素材重合体Cを形成し、認識素材35aは重合体Cと結合する。ここで、リガンド溶液内に含有されたリガンド31aがバインダー33aに結合されてバインダー33aの構造変化が引き起こされ、構造が変わったバインダー33aを認識素材35aが特異的に認識して結合する。次に、バルクエクソソーム1集団を含有したサンプル溶液を反応させる。このとき、第1捕捉素材20と特異的に結合される第1分離マーカーm1を有する疾患関連エクソソーム1aが固定部材10に捕捉されながら、エクソソーム亜集団Sが分離される。エクソソーム亜集団Sが分離されると、回収溶液を添加し、回収溶液は、リガンド31aを含有していないリガンド非含有の溶液であって、回収溶液が添加されると、バインダー33aに結合されたリガンド31aが脱着するようになり、これにより、バインダー33aの変化した構造が元の状態に回復されながら、バインダー33aと認識素材35aとの結合が解離される。したがって、エクソソーム亜集団Sの対象である疾患関連エクソソーム1aが結合された重合体Cが、認識素材35aから分離されて、エクソソーム亜集団Sを回収することができる。
【0083】
次に、疾患関連エクソソーム1aが分離され、認識素材35aが固定された固定部材10を再利用して第2可逆的リンカー50a及び第2捕捉素材40を反応させる。このとき、第2可逆的リンカー50aは、第1可逆的リンカー30aの認識素材35aを共有し、第1可逆的リンカー30aと比較すると、第1捕捉素材20を第2捕捉素材40で代替して固定部材10に結合する。これに、回収されたエクソソーム亜集団S溶液を添加すると、第2捕捉素材40がエクソソーム亜集団S溶液内のターゲットエクソソーム1bの第2分離マーカーm2に特異的に結合されて、エクソソーム次亜集団SAが分離される。このとき、エクソソーム亜集団Sは、第1可逆的リンカー30aのバインダー33aを含むため、固定部材10に結合された認識素材35aと第1可逆的リンカー30aのバインダー33aが互いに反応し得るので、第2可逆的リンカー50a及び第2捕捉素材40を反応させた後、固定部材10に結合された認識素材35a上の残りの付着部位を、バインダー33aなどのような適切な反応成分でブロッキング(blocking)することができる。
【0084】
一例として、第1実施例に係る第1可逆的リンク及び第2可逆的リンクを有する本発明によって、CD63+/Cav1+エクソソーム次亜集団SAを分離する方法を説明すると、抗体(可逆的認識素材)を固体(固定部材)表面(Bead surface)に固定させ、カルシウム結合タンパク質(CBP、バインダー)は、CD63エクソソーム表面タンパク質に対する特異抗体(第1捕捉素材)とビオチン―ストレプトアビジンリンケージ(biotin-streptavidin linkage)を介して重合する(CBP-捕捉抗体重合体)。固定された可逆的認識素材にカルシウムイオン(例:>10mM Ca2+)が含まれた溶液に溶解されたCBP-捕捉抗体重合体を添加すると、‘スイッチオン’認識反応によって、重合体は固体表面に固定される。同じ溶液に、準備されたバルクエクソソームサンプルを順次添加すると、CD63マーカーを含むエクソソームが固体表面の捕捉抗体と反応して捕捉される。同じ溶液で洗浄した後、カルシウムが除去されたエクソソーム回収溶液を添加すると、CBPと結合されていたカルシウムイオンが脱着されて‘スイッチオフ’の状態になるので、捕捉されていたエクソソームを捕捉抗体と結合された状態で溶液内に回収することができる。その結果、CD63+エクソソーム亜集団が分離回収され、使用された試料溶液と回収溶液の体積の比率に応じてエクソソームの濃縮も可能である。追加的に、固体表面は再生されて他の試料の分離に再利用できる。
【0085】
逐次的なエクソソーム次亜集団の分離のために、再生される又は新しい固体表面に可逆的認識素材を固定させ、特定疾患と関連性が高いCav1エクソソーム表面タンパク質に対する特異抗体をCBPと重合させた後、前記と同様に、‘スイッチオン’認識反応を介してCBP-捕捉抗体重合体を固体表面に固定させる。同状態を維持しつつ、1次分離後に回収されたCD63+エクソソーム亜集団を2次分離サンプルとして添加すると、CD63及びCav1マーカーを含む(CD63+/Cav1+)エクソソームが固体表面の捕捉抗体と反応して捕捉される。同じ溶液で洗浄した後、カルシウムが除去されたエクソソーム回収溶液を添加すると、‘スイッチオフ’の状態になるので、捕捉されていたエクソソームを溶液内に回収することができる。その結果、2次分離を介して、CD63+/Cav1+エクソソーム次亜集団が分離回収される。
【0086】
一方、エクソソーム次亜集団の分離後、回収が必要でない場合、第2可逆的リンカーを導入することなく、捕捉抗体を固体表面に直接固定させて次亜集団を分離することもでき、この場合に、主に捕捉されたエクソソームに対して免疫分析を行うか、又は、直ぐに、捕捉されたまま溶解させて、エクソソームの内部に含まれた核酸を抽出及び分子学的検査を行う。
【0087】
図10は、前述した第3実施例に係る第1可逆的リンカー30c及び第2可逆的リンカー50cを用いたエクソソーム次亜集団の液体生検サンプルの製造方法を示す。図10を参照すると、リガンド31cを、疾患関連エクソソーム1aの第1分離マーカーm1と特異的に反応する第1捕捉素材20と重合させ、固定部材10に結合されたバインダー33cとの親和力を用いてリガンド-捕捉素材重合体を固定させた後に、エクソソーム1サンプルを添加してエクソソーム亜集団Sを捕捉分離し、競争反応リガンド32が含まれた回収溶液を用いてエクソソーム亜集団Sを回収する。
【0088】
次に、ターゲットエクソソーム1bの第2分離マーカーm2に特異的に反応する第2捕捉素材40とリガンド31cを重合させ、固定部材10に結合されたバインダー33cとその重合体Cを固定した後に、エクソソーム亜集団S溶液を添加してエクソソーム次亜集団SAを捕捉分離することができる。このとき、エクソソーム亜集団Sは、第1可逆的リンカー30cのリガンド31cを含むため、固定部材10に結合されたバインダー33cと第1可逆的リンカー30cのリガンド31cとが互いに反応し得るので、第2可逆的リンカー50c及び第2捕捉素材40を反応させた後、固定部材10に結合されたバインダー33c上の残りの付着部位を、リガンド31cなどのような適切な反応成分でブロッキング(blocking)することができる。
【0089】
一例として、第3実施例に係る第1可逆的リンク及び第2可逆的リンクを有する本発明によって、CD63+/Cav1+エクソソーム次亜集団を分離する方法を説明すると、バインダー(ニッケルイオン)を固体表面(Bead surface)に固定させ、リガンド(ヒスタグ)は、第1分離マーカーm1としてCD63エクソソーム1表面タンパク質に対する特異抗体と重合する(ヒスタグ-捕捉抗体重合体)。固定されたニッケルイオンにヒスタグ-捕捉抗体重合体を添加すると、バインダー-リガンド反応によって、重合体は固体表面に固定される。同じ溶液に、準備したバルクエクソソーム試料を添加すると、CD63+エクソソームが固体表面の捕捉抗体と反応して捕捉される。溶液で洗浄した後、高濃度の競争反応リガンド(イミダゾール)が含まれたエクソソーム回収溶液を添加すると、競争反応によって、ニッケルイオンと結合されていたヒスタグが脱着されるので、捕捉されていたエクソソームを溶液内に回収することができる。その結果、CD63+エクソソーム亜集団が分離回収され、固体表面は再生されて、次の試料の分離に再利用することができる。
【0090】
前記の分離工程は、同様に、前記で回収されたCD63+エクソソーム亜集団からCD63+/Cav1+エクソソーム次亜集団の逐次的分離に用いられる。この場合、リガンド(ヒスタグ)は、第2分離マーカーとしてCav1エクソソーム表面タンパク質に対して特異な抗体と重合する。バインダー-リガンド反応を介して重合体を固体表面に固定させた後、CD63+エクソソーム亜集団の試料を添加すると、CD63+/Cav1+エクソソームが固体表面の捕捉抗体と反応して捕捉される。洗浄後、高濃度の競争反応リガンド(イミダゾール)が含まれたエクソソーム回収溶液を添加すると、Con Aと結合されていたCD63+/Cav1+エクソソームを溶液内に回収することができる。その結果、CD63+/Cav1+エクソソーム次亜集団が分離回収される。
【0091】
図11は、前述した第1実施例に係る第1可逆的リンカー30a、及び第3実施例に係る第2可逆的リンカー50cを用いたエクソソーム次亜集団の液体生検サンプルの製造方法を示す。図11を参照すると、前述したように、第1実施例に係る第1可逆的リンカー30aを用いてエクソソーム亜集団Sを分離及び回数し、図10で前述したように、第3実施例に係る第2可逆的リンカー50cを用いてエクソソーム次亜集団SAを分離することができる。このとき、エクソソーム亜集団Sは第1可逆的リンカー30aのバインダー33aを含んでいるが、エクソソーム次亜集団SAの分離時には、前記第1実施例に係るバインダー33aと反応しない第3実施例に係るバインダー33cが固定部材10に結合されるところ、すなわち、第1可逆的リンカー30aと異なるメカニズムで作動する第2可逆的リンカー50cが使用されるので、前述したブロッキング工程が不要である。
【0092】
図12は、前述した第3実施例に係る第1可逆的リンカー30c、及び第1実施例に係る第2可逆的リンカー50aを用いたエクソソーム次亜集団の液体生検サンプルの製造方法を示す。図12を参照すると、図10で前述したように、第3実施例に係る第1可逆的リンカー30cを用いてエクソソーム亜集団Sを分離及び回収した後に、図9で前述したように、第1実施例に係る第2可逆的リンカー50aを用いてエクソソーム次亜集団SAを分離することができる。このとき、エクソソーム亜集団Sは第1可逆的リンカー30cのリガンド31cを含んでいるが、エクソソーム次亜集団SAの分離時には、前記第1可逆的リンカー30cと区別される第2可逆的リンカー50aを採択するので、前述したブロッキング工程が不要である。
【0093】
図13は、本発明の他の実施例に係るエクソソーム次亜集団の液体生検サンプルの製造方法のフローチャートである。
【0094】
図13を参照すると、本発明の他の実施例に係るエクソソーム次亜集団の液体生検サンプルの製造方法は、エクソソーム次亜集団を回収するステップ(S160)をさらに含むことができる。ここで、第2捕捉素材は第2可逆的リンカーによって固定部材に結合されるが、第2可逆的リンカーを解離させることによって、捕捉されたターゲットエクソソームを固定部材から分離して、エクソソーム次亜集団を回収することができる。このように回収されたエクソソームを対象としてバイオマーカーに対する分析を行うか、あるいはエクソソームを溶解させて溶出されたバイオマーカーに対する分析を行うことができる。
【0095】
また、エクソソーム亜集団を濃縮するステップ(S125)をさらに含むことができる。サンプル溶液を添加した後、回収溶液を添加する前に、エクソソーム亜集団を濃縮することができる。具体的には、磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上を用いて、エクソソーム亜集団の対象疾患関連エクソソームと結合された固定部材を濃縮する。一例として、磁性ビーズを固定部材として用い、リガンド溶液及びサンプル溶液が混合された混合溶液内に磁力を介して固定部材を所定の空間領域に捕捉した後、固定部材が含有されていない混合溶液の一部(例えば、上層液)を除去することによって、エクソソーム亜集団を濃縮することができる。
【0096】
同じ方法で、磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上を用いて、ターゲットエクソソームと結合された固定部材を濃縮することによって、エクソソーム次亜集団を濃縮することもできる(S155)。
【0097】
以下では、前述した方法により製造されたエクソソーム液体生検サンプルを分析する方法について説明する。
【0098】
図14は、本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルの分析方法のフローチャートである。
【0099】
図14に示されたように、本発明の実施例に係るエクソソーム液体生検サンプルの分析方法は、健常者群及び患者群のそれぞれの体内の多数の細胞から分泌されたエクソソームを含有するエクソソーム母集団サンプルから、所定の疾患と関連するターゲットエクソソームを捕捉して、前記ターゲットエクソソームの集団を含むエクソソーム液体生検サンプルを準備するステップ(S100)と、エクソソーム液体生検サンプルに含有されたターゲットエクソソームが有する多数のバイオマーカー別に定量的信号を測定するステップ(S200)と、測定された定量的信号の信号値に基づいて、多数のバイオマーカー間の相関関係によって、健常者群及び患者群のそれぞれのエクソソーム液体生検サンプルを分析するステップ(S300)とを含む。
【0100】
エクソソーム液体生検サンプルの準備ステップ(S100)では、分析対象となる分析サンプルとして、健常者群及び患者群のそれぞれのエクソソーム母集団サンプルから分離された、健常者群のエクソソーム液体生検サンプルと患者群のエクソソーム液体生検サンプルを準備する。ここで、健常者群及び患者群のエクソソーム液体生検サンプルは、同じ方式でそれぞれのエクソソーム母集団サンプルから分離されて製造される。
【0101】
エクソソーム液体生検サンプルは、エクソソーム母集団サンプルから捕捉され、所定の疾患と関連するターゲットエクソソームの集団を含む。具体的には、エクソソーム母集団に属し、共通に少なくとも1つ以上の特定の分析ターゲットバイオマーカーを有するエクソソームの集団であるエクソソーム亜集団、そのエクソソーム亜集団の一部であって、共通に少なくとも1つ以上の他の特定の分析ターゲットバイオマーカーを備えるエクソソームの集団であるエクソソーム次亜集団、及びエクソソーム次亜集団に属し、共通に少なくとも1つ以上の更に他の特定の分析ターゲットバイオマーカーを有するエクソソームの集団であるエクソソーム下部集団を含むことができる。
【0102】
本発明で使用されるエクソソーム母集団、亜集団、及び次亜集団の用語の理解を明確にするために、黒色腫癌と関連するバイオマーカーであるCD63及びCav1を例に挙げて説明する。エクソソーム母集団は、体内の多数の細胞から分泌されたエクソソームを含むバルク母集団(bulk population)である。エクソソーム亜集団は、エクソソーム母集団の一部であって、共通に特定の分析ターゲットバイオマーカーを含むところ、黒色腫癌サンプルにおいて濃度が増加すると報告されたCD63マーカーを備えるエクソソームの集団をエクソソーム亜集団として使用することができる。CD63マーカーを備えるエクソソーム亜集団中にCav1マーカーを有するエクソソームが存在するので、エクソソーム亜集団から、Cav1マーカーを備えるエクソソームを分離して、そのエクソソームの集団をエクソソーム次亜集団として使用することができる。逆に、Cav1マーカーを備えるエクソソームをエクソソーム亜集団として使用し、エクソソーム亜集団に属し、CD63マーカーを有するエクソソームをエクソソーム次亜集団として使用することもできる。
【0103】
定量的信号の測定ステップ(S200)は、エクソソーム液体生検サンプルを対象として、そのサンプルに含有されたターゲットエクソソームが有する多数のバイオマーカーのそれぞれに対する定量的信号を測定する工程である。前記バイオマーカーは、エクソソームの表面に配列される所定の疾患関連バイオマーカー、及びエクソソームから溶出される所定の疾患関連バイオマーカーのうちの少なくともいずれか1つ以上を含むことができる。所定の疾患関連バイオマーカーは、特定の疾患の発生時に、健常者と比較して体液内に相対的に増加する成分であって、細胞内でエクソソームの生合成時に関与する、または細胞からエクソソームの放出段階に関与する、または受容細胞によるエクソソームの受容に関与するタンパク質、mRNAs、tRNAs、miRNAs、long non-coding RNAs、DNAs、脂質成分、糖成分、ペプチド、及びその他の生化学成分を含むことができる。
【0104】
バイオマーカーに対する定量的信号は、酵素免疫分析法(ELISA)を用いて測定できるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、公知のあらゆる定量的信号測定法、例えば、分光法、電気化学法、電磁気学法、映像測定法、波動測定法などのあらゆるセンサ技法に基づいた信号測定法を用いることができる。
【0105】
サンプル分析ステップ(S300)は、エクソソーム液体生検サンプルを対象としてバイオマーカープロファイリング分析を行う。多数のバイオマーカー別に測定された定量的信号の測定値に基づいて、バイオマーカー間の相関関係によって分析を実行することができる。ここで、いずれか1つの定量的信号と他の1つの定量的信号との間の2次元の相関関係によってエクソソーム液体生検サンプルを分析することができる。一例として、多数のバイオマーカーのいずれか1つの定量的信号をX軸とし、他の1つの定量的信号をY軸とするXY座標系に、信号測定値に基づいてエクソソーム液体生検サンプルを座標化して分析することができる。ここで、健常者群のエクソソーム液体生検サンプルと患者群のエクソソーム液体生検サンプルとの間の分布形態を比較することによって、患者群の疾患を診断できるバイオマーカーを発掘することができる。また、バイオマーカー間の組成比に対する異質性の増加を確認して、癌のような疾患の病期を予測するのに活用することができる。
【0106】
一方、定量的信号に基づいて標準化(normalization)されたパラメータを新たに定義して分析を実行することもできる。ここで、パラメータは、多数のバイオマーカーのいずれか1つの定量的信号を基準信号とし、その基準信号に対する他の1つの定量的信号の比率として定義され得る。このとき、パラメータは、基準信号以外の他のバイオマーカーの定量的信号の数に応じて、少なくとも2つ以上設定される。例えば、第1~第4バイオマーカーの4個に対して定量的信号を測定した場合、第1バイオマーカーの信号を基準信号とし、パラメータ1=(第2バイオマーカーの信号)/(第1バイオマーカーの信号)、パラメータ2=(第3バイオマーカーの信号)/(第1バイオマーカーの信号)、パラメータ3=(第4バイオマーカーの信号)/(第1バイオマーカーの信号)を設定できる。
【0107】
ここで、パラメータの設定に用いられるバイオマーカーは、定量的信号を測定した多数のバイオマーカーのうちその一部を選択することができる。一例として、前記定量的信号間の2次元の相関関係の分析のように、X軸及びY軸の定量的信号のうちの少なくとも1つ以上が異なる多数のXY座標系にエクソソーム液体生検サンプルを座標化し、健常者群及び患者群のそれぞれのエクソソーム液体生検サンプルの傾きを算出した後に、その傾きの差が相対的に大きいXY座標系を構成するバイオマーカーを選択してパラメータを設定することができる。すなわち、健常者群及び患者群のエクソソーム液体生検サンプルに対する定量的信号間の2次元分析結果を比較し、有意な差を示す定量的信号を用いてパラメータを設定することができる。
【0108】
少なくとも2つ以上のパラメータが設定されると、互いに異なる2つのパラメータ間の相関関係によって分析を実行することができる。一例として、多数の前記パラメータのいずれか1つである第1パラメータをX軸とし、他の1つである第2パラメータをY軸とする第1XY座標系に、前記測定値を第1パラメータ及び第2パラメータに代入して算出されたパラメータ値に基づいてエクソソーム液体生検サンプルを座標化し、分布形態を比較することができる。
【0109】
ここで、第1XY座標系において健常者群のエクソソーム液体生検サンプルが分布する陰性領域を設定できるが、その陰性領域内に患者群のエクソソーム液体生検サンプルが分布する場合、座標化されたエクソソーム液体生検サンプルのうち、前記陰性領域に属する陰性エクソソーム液体生検サンプルを対象として、第1パラメータ及び第2パラメータのうちの少なくともいずれか1つと他のパラメータとの間のXY座標系を構成して、サンプルの陰性領域の分布に対する再分析を実行することができる。一例として、第1パラメータと第3パラメータとの間の陰性領域の分布の再分析、第3パラメータと第4パラメータとの間の陰性領域の分布の再分析を個別又は順次に実行して、陽性の正確度(即ち、敏感度)を極大化することができる。
【0110】
同様に、第1XY座標系において患者群のエクソソーム液体生検サンプルが分布する陽性領域を設定できるが、その陽性領域内に健常者群のエクソソーム液体生検サンプルが分布する場合、座標化されたエクソソーム液体生検サンプルのうち、前記陽性領域に属する陽性エクソソーム液体生検サンプルを対象として、前記の過程によるサンプルの陽性領域の分布に対する再分析を通じて、陰性の正確度(即ち、特異度)を極大化することができる。
【0111】
前記のようなエクソソーム次亜集団に対するバイオマーカープロファイリング分析は、エクソソーム表面タンパク質に対して免疫分離後、エクソソームの回収時に酸性pHなどの苛酷条件を用いる既存の免疫分離技術では実現しにくい。したがって、2回以上の逐次的な免疫分離のために、現存するクロマトグラフィー、磁性分離、蛍光活性化セルソーティング(fluorescence-activated cell sorting;FACS)、microfluidic separationなどの既存の技術をそのまま用いにくい。実際に、エクソソーム表面タンパク質ベースの単純な1回の免疫分離方法以外に、エクソソーム粒子のサイズ、密度、及び溶解度に基づいて分画するなど、まだ初歩的なエクソソーム分離段階に過ぎない実情であり、連続的な免疫親和分離工程などを介したエクソソーム次亜集団の分離及び次亜集団のバイオマーカープロファイリングベースの特定疾患の診断に関する事項は未だに報告されていない。
【0112】
本発明によれば、2回以上の逐次的な繰り返し分離を介したサンプル内の特定のエクソソーム亜集団、次亜集団、その下部集団のバイオマーカーに対するプロファイリング分析は、癌疾患などのような特定の疾患の早期診断を可能にする。これは、固定部材に捕捉された特定のエクソソームを解離させるために、酸性pHあるいは界面活性剤の包含のような苛酷条件を用いないので、エクソソームの損傷及び収率を減少させる根本的な問題点が解決されるためである。したがって、既存の技術ではエクソソーム亜集団の回収時に原形の保存が難しく、回収率が低いという問題が克服されることによって、逐次的繰り返し分離を介して特定の疾患と関連するターゲットエクソソーム次亜集団の分離及びバイオマーカープロファイリングベースの特定の疾患の診断が可能になる。
【0113】
さらに、上述したように、癌疾患などの特定の疾患と関連する特異エクソソームの表面タンパク質を媒介として、エクソソーム亜集団、次亜集団、その下部集団への分離が可能な場合、特異エクソソームに含有された高濃度の特定の疾患に対する核酸バイオマーカー、例えば、mRNA及びmiRNAなどを液体生検サンプルとして提供できるようになる。特に、エクソソームに含有されたmiRNAは、RNaseによる分解から保護されて循環血漿や血清で安定的に探知され得ることが知られており、臨床診断に応用時の理想的なバイオマーカーとして浮かび上がってきている。血漿内のエクソソームから発見されたmiRNA(miR)の例を挙げると、卵巣癌と関連するmiR-21、-141、-200a、-200c、-203、-205、及び-214があり、肺癌と関連するmiR-17、-3p、-21、-20b、-223、-301、及びlet-7fがあり、前立腺癌と関連するmiR-141及びmiR-375があり、乳癌と関連するmiR-21があり、心血管疾患と関連するmiR-1及びmiR-133aがあり、そして、アルコール性肝疾患と関連するmiR-122及びmiR-155がある。また、尿内のエクソソームから発見されるmiRNAの例を挙げると、腎臓繊維症と関連するmiR-29c及びCD2APmRNAがある。
【0114】
エクソソーム由来のmiRNAに関する研究のほとんどは、癌の診断に焦点が当てられてきた。研究結果によれば、特定のmiRNAは、卵巣癌生検標本や同一の卵巣癌患者から分離された血清エクソソームにおいてほぼ同一の濃度で発見される。しかし、このようなエクソソームに含有されたmiRNAは、健常者群では発見されておらず、このことから、エクソソーム由来のmiRNAは、生検資料の収集時に潜在的な診断マーカーとして使用できることを示唆する。前立腺癌の早期探知及び診断は、前立腺特異抗原(prostate-specific antigen;PSA)を用いて行われ得る。しかし、PSAベースの検査は、低い診断特異度及び高い偽陽性率を示し、これにより、前立腺癌の過剰診療を招くことがある。したがって、前立腺癌の診断時にさらに高い診断正確度を示す新たなマーカーの開発が求められる。いくつかの研究によれば、miRNA(miR)マーカーとしてmiR-141及びmiR-375の濃度の増加は、前立腺癌において腫瘍の進行と関連する。エクソソーム由来のmiRNAは、血清や血漿標本内でRNase抵抗性を有するので、エクソソーム由来のmiR-141及びmiR-375は、前立腺癌の診断時に価値のあるマーカーとなり得る。
【0115】
エクソソームに含有されたmiRNAはまた、扁平上皮細胞食道癌(sophageal squamous cell cancer;ESCC)の診断時のバイオマーカーとして潜在性がある。研究結果によれば、エクソソーム由来のmiR-21の濃度は、体系的炎症なしに陽性腫瘍を有する患者の血清に比べて、ESCC患者からの血清において上昇し、その濃度は、腫瘍の進行及び攻撃性と確かに関連している。さらに、エクソソーム由来のmiRNAはまた、心血管疾患及び腎臓繊維症に対する診断バイオマーカーとして潜在性がある。
【0116】
miRNAに加えて、エクソソームに含有されたmRNAも、臨床診断においてバイオマーカーとして潜在的有用性がある。実際に、前立腺癌患者からの尿エクソソームサンプルは、PCA3のmRNA及びERG(v-ets avian erythroblastosis virus E26 oncogene homolog)融合染色体再配列の結果産物であるTMPRSS2のmRNAを含む。類似事例として、尿エクソソームには、腎臓虚血/再灌流(ischemia/reperfusion)損傷あるいは抗利尿性ホルモン作用の診断及び予後マーカー(例えば、aquaporin-1及び-2)がまた発見された。
【0117】
上述したように、温和な条件で実行可能な免疫親和分離技術を用いて製造されたエクソソーム亜集団及び次亜集団サンプルが診断に適用され得る特定の疾患、そして、分離及び診断マーカーとして使用可能なエクソソーム由来のタンパク質及び核酸を、以下に提示した。
【0118】
多数のエクソソーム由来の乳癌マーカーが、最近、CD24及びEpCAMでのように臨床的に確認されている。乳癌に加えて、他の多くの癌に対してもエクソソームタンパク質がバイオマーカーの有用な資源として提供される。多数の研究結果において、アポトーシス阻害タンパク質(inhibitor of apoptosis protein;IAP)群の一種類が健常者及び前立腺癌患者の血漿由来のエクソソームで探知されたが、エクソソーム含有survivinの相対的な含量が、前立腺癌患者の血漿で遥かに高いことが分かった。非侵襲的な手段で容易に接近可能な尿エクソソームは、前立腺癌と膀胱癌に対するバイオマーカーを開発するのに有用である。健常者と膀胱癌患者から得た尿エクソソームに対するタンパク質プロファイリング(label-free liquid chromatography-tandem mass spectrometry(LC-MS/MS)分析)は、膀胱癌に対して潜在的なバイオマーカーとして、尿エクソソームに含まれたタンパク質を確認させた。例えば、2つの既知の前立腺癌マーカーであるPCA3及びTMPRSS2-ERGはまた、前立腺癌患者から採取した尿エクソソームに存在する。細胞表面プロテオグリカン(タンパク質を結合した多糖類)は、陽性膵臓病では発見されないが、早期及び後期状態の膵臓癌患者の血清からFACSで分離されたエクソソーム内に存在することが分かった。卵巣癌患者の血漿から超遠心分離により分離されたエクソソームは、TGF-1 and MAGE 3/6を含有したが、その2つのタンパク質は、陽性腫瘍患者から得たエクソソームには存在しなかった。
【0119】
タンパク質以外に、エクソソームから分離された核酸の分析初期に、エクソソームに搭載された主要成分としてmiRNAs(miRs)及びmRNAsが確認された。以降の研究結果によって、エクソソームは、トランスファーRNAs(transfer RNAs;tRNAs)、そして、長鎖ノンコーディングRNAs(long non-coding RNAs)などの他の種類のRNAsを含むことが分かった。RNA種に加えて、一本鎖及び二本鎖DNAsの切片がエクソソームに存在することが確認された。エクソソーム由来の核酸のうち、エクソソームmiRNAsは、RNase依存性分解から安定性が確保されることによって、癌診断バイオマーカーとして最も注目を集めている。前臨床及び臨床研究から発見されたエクソソーム核酸バイオマーカーの例として、乳癌の診断に適用された血漿内のエクソソーム核酸としてmiR-21及びmiR-1246があり、卵巣癌の診断及びスクリーニング段階に適用された血清内のエクソソーム核酸として、miR-21、miR-141、miR-200a、miR-200c、miR-200b、miR-203、miR-205、及びmiR-214があり、大腸癌の診断に適用された血清内のエクソソーム核酸として、let-7a、miR-1229、miR-1246、miR-150、miR-21、miR-223、及びmiR-23aがあり、前立腺癌の診断に適用された血漿及び血清内のエクソソーム核酸として、miR-141及びmiR-375があり、膵臓癌の診断に適用された血清及び尿内のエクソソーム核酸として、miR-17-5p及びmiR-21がある。
【0120】
要約すると、癌細胞由来のエクソソームは、腫瘍発生微小環境内のタンパク質、脂質、及び核酸を含む物質の細胞間の伝達を増大させることによって、癌の進行に寄与する。エクソソーム搭載成分は、元の癌から変化した状態を反映するので、エクソソームは、早期探知、診断、及び予後に対する最小侵襲的なバイオマーカーとして用いる価値が非常に高い。実際に、体液においてエクソソームの安定性が維持されるので、エクソソームベースの診断は、既存の組織生検あるいは他の液体生検バイオマーカーに比べてさらに高い敏感度及び特異度を提供する。
【0121】
それに加えて、エクソソームマーカーは、ほとんどの体液から容易に得ることができ、最近、エクソソーム分離技術の進歩に伴い、エクソソームベースの診断費用と労働力を効果的にするきっかけとなっている。しかし、エクソソーム診断領域において克服すべき主要な障害は、純粋なエクソソーム集団を分離する最適の方法を開発することである。微小小胞体自体は、癌を探知する有用な診断道具であるかも知れないが、二つの主要な細胞外小胞体を純粋なエクソソーム及びその他の微小小胞体集団に分離する技術では、単に比較研究のみが可能なだけである。他の挑戦は、癌由来のエクソソーム搭載成分が異なっている癌エクソソームの異質性を調節し、したがって、診断結果の再現性に影響を与えるメカニズムを理解することである。このような重要性にもかかわらず、エクソソームRNAs及びDNAsの次世代シーケンシング(next-generation sequencing)、エクソソーム表面タンパク質のプロテオミクス分析、そして、免疫親和ベースの捕捉技術を結合する今後の努力によって、エクソソームベースの癌診断は、次のレベルの段階に到達するはずである。
【発明を実施するための形態】
【0122】
以下では、具体的な実施例及び評価例を通じて、本発明をより詳細に説明する。具体的な実施例及び評価例は、単に本発明を例示するためのものであるので、本発明の範囲がその実施例及び評価例によって制限されるものではない。
【0123】
I.スイッチ性付着反応を用いたエクソソーム親和分離
1.材料
カルシウムイオンがカルシウム付着タンパク質(CBP)に付着反応時に変化したCBPの独特の構造を特異に認識する単一クローン抗体は、本発明者らによって生産された。また、CBPとして、突然変異されたグルコース/ガラクトース結合タンパク質(glucose-galactose binding protein;GGBP)を選択し、このタンパク質を大腸菌(Escherichia coli;E.coli)から産生した後、精製した。塩化ナトリウム(Sodium chloride)、Trizma、カゼイン(casein)(sodium salt form、extract from bovine milk)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine;TMB)、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate;SDS)、ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin;BSA)、及びCNBr活性化セファロース4Bゲル(CNBr-activated Sepharose 4B gel)(4%アガロース)は、Sigma社(St.Louis,MO,米国)から購入した。塩化カルシウム二水和物(Calcium chloride dihydrate)及び塩化カリウム(potassium chloride)は、Daejung(始興、韓国)で供給した。スルホスクシンイミジル-6-[ビオチンアミド]-6-ヘキサンアミドヘキサノエート(Sulfosuccinimidyl-6-[biotinamido]-6-hexanamido hexanoate)(NHS-LC-LC-biotin)、スクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate;SMCC)、N-スクシンイミジル 3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオナート(N-succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)-propionate;SPDP)、ジチオトレイトール(dithiothreitol;DTT)、マレイミド(maleimide)、ストレプトアビジン(streptavidin;SA)、及びホースラディッシュペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase;HRP)は、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)社(Rockford,IL,米国)から購入した。抗CD63抗体(Cat.No.353014)は、BioLegend(San Diego,CA,米国)で供給し、CD9(Cat.No.MAB1880)、CD81(Cat.No.MAB4615)、あるいはCaveolin-1(Cav1;Cat.No.MAB5736)に特異な単一クローン抗体は、R&D Systems(Minneapolis,MN,米国)で供給した。冷凍乾燥された健常者のエクソソーム標準試薬(ヒト血漿由来)及び黒色腫癌細胞培養液はHansaBioMed(Tallinn、エストニア)から購入した。磁性ビーズ(Dynabeads M-280 Tosylactivated、直径2.8mm)及びstreptavidin-poly-HRP20は、Invitrogen(Carlsbad,CA,米国)及びFitzgerald(Acton,MA,米国)でそれぞれ供給した。種々の他のエクソソーム分離キット、すなわち、ExoQuickTM kit(System Biosciences;Mountain View,CA,米国)、MagCaptureTM kit(Wako;Osaka、日本)、及びexoEasy MaxiTM kit(Qiagen;Hilden、ドイツ)は、それぞれ異なる供給源から購入した。それ以外の他の試薬も分析用途の製品を使用した。
【0124】
2.実施例1:エクソソームの分離及び特性化用構成成分の製造
2.1 SAとCBPとの重合
10mMのリン酸緩衝溶液(pH7.4;PB)に溶解されたCBP(400μg)を、20モル倍のSMCCと混合した後、室温で1時間反応させて活性化した。PBに溶解されたSA(2mg)を、5モル倍のSPDPと1時間反応させた後、5mMのエチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid;EDTA)を含む10mMのDTT溶液で37℃で1時間、化学的に還元させて、スルフヒドリル基(sulfhydryl groups)を表出させた。各活性化された成分は、Sephadex G-15ゲル濾過カラム(10mlの体積)を介して過剰に使用された試薬を除去することによって分離した。2つの活性化されたタンパク質、すなわち、maleimide-CBP及びthiolated-SAを1:5のモル比で混合し、室温で4時間反応させた。その後、SAとCBPとの重合体(CBP-SA)が含まれた最終溶液を、使用時まで、よくシールされた容器内で4℃で保管した。
【0125】
2.2 抗CD63抗体のビオチン化(biotinylation)
NHS-LC-LC-ビオチンのスクシンイミジル-エステル(succinimidyl-ester)部分を抗体分子上のアミン基と反応させて、ビオチン化された抗体を製造した。簡略に過程を記述すると、140mMのNaClを含むPB溶液(PBS)に溶解された抗CD63抗体を、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide;DMSO)に溶解された20モル倍のNHS-LC-LC-ビオチンと混合し、室温で2時間反応させた。混合物内の未反応試薬は、PBSで平衡状態にあるSephadex G-15カラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィ(size-exclusion chromatography)を介して除去した。精製された重合体は、PBSで2回透析し、Vivaspin500を用いて1mg/mlの濃度に濃縮した後、使用時まで4℃で保管した。
【0126】
2.3 HRPを用いた抗CD63抗体の標識
抗CD63抗体を一般的な過程を用いてHRPで標識した。簡略に説明すると、抗体を、まず、10mMのDTTで37℃で1時間還元させ、過量の試薬はゲル濾過カラムを用いて除去した。HRPも30モル倍のSMCCで活性化させ、未反応試薬は、先と同様にサイズ排除クロマトグラフィを介して除去した。還元された抗体を、10モル倍の活性化されたHRPと混合した後、重合反応を4℃で24時間以上行った。生成された重合体は、同じ体積のグリセロール(glycerol)と混合した後、-20℃で保管した。
【0127】
3.実施例2:免疫親和クロマトグラフィー
3.1 免疫親和ゲルの製造
免疫親和クロマトグラフィーを行うために、CBPに特異な単一クローン抗体をCNBr活性化セファロース4Bゲルの表面に固定させた。製造社で提供した説明書に従って、抗体(水和されたゲルの体積ml当たり2mg)をアガロースゲル(agarose gel)上に化学的に結合させるために、抗体分子上のリジン(lysine)残基をゲル上の機能性基とアルカリ条件で反応させた。抗体を結合させた後、ゲル上の残りの反応基は、Tris-HCl緩衝溶液を用いて加水分解させた。
【0128】
製造された免疫親和ゲルをプラスチックカラムに充填させて免疫親和クロマトグラフィーカラムを製造し、酸性条件とアルカリ性条件を交互に用いて洗浄することによって、固体(ゲル)表面に非特異的に吸着された抗体を除去した。
【0129】
3.2 前処理された免疫親和クロマトグラフィーカラムの製造、及びこれを介したCD63陽性(CD63+)エクソソームの分離
前記で製造された免疫親和ゲルを活用して前処理された免疫親和クロマトグラフィーカラムを製造した。エクソソームマーカーの一種であるCD63陽性(CD63+)エクソソームに特異な免疫親和クロマトグラフィーカラムを作製するために、プラスチックカラムに免疫親和ゲルを充填し、Ca2+(10mM)が含まれた輸送溶液(‘Ca2+スイッチオン’の条件)を用いて、CBP-SA重合体(5μg/ml)を単一クローン抗体と反応させて免疫親和ゲルに固定させた後、ビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体(3μg/ml)を、biotin-SA結合を介してCBP-SA重合体に順次固定させた。
【0130】
このように作製された免疫親和カラム(9mm×3.2mm;1.5ml bed volume)を用いてエクソソームを分離した。準備されたCD63免疫親和カラムにエクソソーム試料(健常者のエクソソーム標準サンプル(25μg/ml;1ml))を添加し、Ca2+を含む輸送溶液を注入して、結合されなかった成分を洗浄した。その後、Ca2+が除去された輸送溶液(‘Ca2+スイッチオフ’の条件)を注入して、免疫親和ゲルに付着していたCBP-抗体-エクソソーム結合体(CD63+エクソソームを含む)を分画別に回収した。ここで、免疫親和カラムは、再生した後、他のサンプルの分析に再利用した。
【0131】
前記過程をより詳細に説明すると、エクソソームサンプルを免疫親和カラムに添加する前に、ゲルを、140mMのNaCl、10mMのCa2+及び2%BSAを含む20mMのTris-HCl(pH7.4;付着溶液)と平衡状態を維持させた。実施例1で製造したCBP-SA(5μg/ml、1ml)及びビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体(3μg/ml、1ml)、そして、エクソソーム標準サンプル(1ml;健常者のエクソソーム標準試薬あるいは黒色腫癌細胞培養液)をそれぞれ付着溶液で希釈させた。また、各試薬の添加位置を確認できるように、マーキングのために、HRP酵素(0.1μg/ml)を各希釈溶液に添加した。製造した各溶液を、予め指定された流出体積で流出されるように、ゲルカラムに順に添加した。カラムからの流出液は、連動ポンプを用いて120μl/minの流出速度で分画収集器(分画体積:1ml)に移送された。未反応のタンパク質をカラムから除去するために、ゲルカラムを、BSAが排除された付着溶液で洗浄した。最終的に、カラムに、500mMのNaClが含まれた20mMのTris-HCl(pH7.4)緩衝溶液を供給して、カラムに付着されていたエクソソームを流出させて回収した。その後、ゲルカラムに、500mMのNaCl、5%(v/v)Tween-20、及び0.02%(w/v)チメロサールが含まれた100mMの酢酸ナトリウム(sodium acetate)緩衝溶液(pH4.5)を供給し、カラムからタンパク質の流出がなくなるまで完全に洗浄してカラムを再生した。
【0132】
4.実施例3.免疫磁性分離
4.1 CD63+エクソソームの免疫磁性濃縮
一般に、磁性濃縮技術は、抗体が結合された免疫磁性ビーズを用いて、抗原-抗体反応を介して磁場下で目標物質を分離し、濃縮を同時に行う方法である。この方法を用いたCD63+エクソソームの分離過程は、基本的に実施例2の免疫親和クロマトグラフィーを行う工程と同一である。Ca2+結合によるCBPの構造変化を認知する単一クローン抗体を磁性ビーズに結合させた後、‘Ca2+スイッチオン’の条件下で、CBP-SA重合体、そして、ビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体を順次反応させた。このように製造した免疫磁性ビーズをエクソソームサンプル(健常者のエクソソーム標準サンプル(25μg/ml;1ml))と反応させた後、磁石を用いて磁性ビーズを捕捉した状態で上層液を除去し、ビーズを洗浄した。その後、‘Ca2+スイッチオフ’の条件下で、初期に比べて1/10体積の緩衝溶液を添加して、CD63+エクソソームを回収及び濃縮した。
【0133】
前記過程をより詳細に説明すると、磁性濃縮のために、CD63に特異な抗体を、磁性ビーズの固体表面上に活性化されたトシル(tosyl)部分に抗体上のアミン基と化学的に結合させて固定した。Tris-HCl緩衝溶液で3回洗浄した後、残りの表面をCasein-PBSでブロッキングした。ビーズ(総1mg)を溶液から磁性分離した後、付着溶液で希釈したCBP-SA重合体(5μg/ml;1ml)を添加し、振盪器上で1時間反応させた。ビーズをBSAが除去された付着溶液で洗浄した後、ビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体(3μg/ml;1ml)を同じ条件下で反応させた。再び洗浄した後、付着溶液で希釈したエクソソームサンプル(25μg/ml;1ml)を添加し、3時間反応させた。最後に、免疫親和クロマトグラフィーでのようなプロトコルに従ってCD63+エクソソームの回収及びビーズの再生を行った。
【0134】
5.評価例1:実施例1で回収された流出分画の分析
図15は、スイッチ性付着反応を用いてサンプル内のCD63+エクソソームを免疫親和クロマトグラフィー工程により分離した結果である。
【0135】
実施例2において、各添加試料のクロマトグラム上の流出位置を確認するために、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase;HRP)に対する発色式酵素分析を先に行った。実施例2による分離過程を介してカラムから収集した溶出分画を分析してみると、各成分の添加位置、及び各分画別のCD63+エクソソームに対する分布を確認することができる。前処理されたゲルカラムに各成分(即ち、CBP-SA重合体、ビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体及びエクソソームサンプル)を注入する際に、各溶液に総0.1μgのHRPを含ませることで、溶出後、添加された位置を確認できるようにした。したがって、各分画から一部をサンプリングしてマイクロウェルに分注し、HRP基質溶液を添加して得た反応結果から、各成分の注入位置情報に対するクロマトグラムを得、図15に点線で(a)、(b)、(c)ピークを表示した。前記酵素分析過程についてより詳細に説明すると、各分画の一定量(5μl)をマイクロタイタープレート(microtiter plate)に分注した後、酵素基質溶液(200μl)を添加して酵素から信号を発生させた。酵素基質溶液は、3%(v/v)過酸化水素水溶液(10μl)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide;DMSO)に溶解された10mg/mlのTMB(100μl)、そして、0.05Mのアセテート(acetate)緩衝溶液(pH5.1;10ml)を混合して製造した。酵素の信号が飽和する前に2M硫酸溶液(50μl)を添加して反応を終結させ、光学密度を最大吸光度450nmでマイクロプレートリーダ(microplate reader)(Synergy H4,BioTek Inc.;Winooski,VT,U.S.A.)で測定した。
【0136】
さらに、免疫親和力によって分離されて回収されたエクソソームの流出位置を確認するために、各分画内のエクソソームに対する酵素免疫分析(enzyme-linked immunosorbent assay;ELISA)を行った。このために、抗CD63抗体が固定されたマイクロウェルに、各分画から一部をサンプリングして添加して反応させ、カラム内でエクソソームと反応したと予測されるビオチン化(biotinylated)抗体分子上の残りのビオチンにSA-poly HRP20重合体を順次反応させた。より具体的には、抗体の固定化は、5μg/mlの抗体(100μl)を各ウェルに添加した後、37℃で1時間反応させて行った。洗浄後、残りの表面を、0.5%カゼインが含まれたTris-HCl緩衝溶液(Casein-Tris)でブロッキングした。その後、各分画の一定部分(100μl)を各ウェルに添加し、37℃及び100%湿度が維持される箱内で12時間反応させた。ウェルを洗浄し、実施例1で製造したビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体(1μg/ml;100μl)を添加した後、37℃で1時間反応させた。再び洗浄した後、Casein-Trisで希釈したSA-poly HRP20(66ng/ml;ウェル当たり100μl)を添加し、37℃で1時間反応させた。最後に、HRPに対する基質溶液(200μl)を添加し、発色が飽和する前に2M硫酸溶液(50μl)を添加して反応を停止させ、光学密度を前記のように測定した。HRP基質溶液を添加してエクソソーム特異クロマトグラムを得た結果は図15の実線で表示し、‘Ca2+スイッチオフ’の条件下で意味のある信号は図15に(d)ピークとして表示した。使用された免疫分析では、CD63+エクソソームを中心に形成された抗CD63抗体サンドイッチ結合体のみが探知されるので(図15の挿入図参照)、カラムから流出された(d)ピークには、免疫分離されて回収されたCD63+エクソソームが含まれたと判断される。それに加えて、エクソソームサンプルの注入位置(図15の(c)ピーク)でも信号が弱く発生したことからみて、一部のエクソソーム結合体が流出されるか、あるいは親和力がない過量のエクソソームが非特異反応した結果であると予測される。しかし、このピークの大きさが、(d)ピークの大きさに比べて10%以下であるので、これ以上分析対象としなかった。
【0137】
6.評価例2:実施例2による免疫親和クロマトグラフィーの再現性の評価
図16は、図15の免疫親和クロマトグラフィー工程を繰り返して用いて、エクソソームの分離時の再現性を示した結果である。
【0138】
実施例2による免疫親和カラムを用いたエクソソームの分離再現性を確認するために、同じ免疫分離過程を繰り返し、各実験結果から得た流出分画を、既に言及したCD63+エクソソームに対する免疫分析を行って各クロマトグラムを取得した(図16のA参照)。Ca2+が除去された流出用輸送溶液に転換した後(35番目の分画後)、繰り返し実験時にも、CD63+エクソソームが分離されて単一の独立したピークの形態で形成されることが確認できた。さらに、CD63+エクソソームピークを形成する分画番号、及びエクソソームに対する特異信号の強度も非常に類似していることを確認した。特に、クロマトグラム上の回収エクソソームピーク内の37、38及び39番目の分画に含まれたCD63+エクソソームに対する免疫分析信号は、平均変異係数(coefficient of variation;CV)が9.4%以下程度であって、高い再現性を示した(図16のB参照)。
【0139】
本評価例2の実験過程をより詳細に説明すると、前記のように免疫親和クロマトグラムを最初に得た後、同じ分離プロトコルに従って各流出分画に含まれたエクソソームを回収し、分析する過程を3回繰り返した。本評価実験では、各分離されたエクソソームピークを構成する主要分画内に含まれたCD63+エクソソームに対する免疫分析結果を得、その測定された信号間の変異係数(CV)を、各分離試験に対する再現性の評価指標として使用した。分離用ゲルカラムを使用しない時には、Tris-HCl緩衝溶液を充填して4℃で保管した。
【0140】
7.評価例3:実施例3の濃縮性能の評価
図17は、スイッチ性付着反応を用いてサンプル内のCD63+エクソソームを免疫磁性分離工程により分離及び濃縮した結果である。
【0141】
実施例3の濃縮性能を試験するために、磁性分離工程を他のエクソソーム標準サンプル(1、3、あるいは5μg/ml)に対して繰り返して適用した後、前述したCD63+エクソソームに対するサンドイッチ免疫分析を行い、その結果を、図17のAに黒色の棒グラフで表示した。磁性濃縮前の元の標準サンプル内のCD63+エクソソームに対する免疫分析の結果は、図17のAに白色の棒で表示したが、両者を比較すると、磁性濃縮により、信号が平均的に約3.7倍程度増加したことが分かった。分離されたエクソソームの濃縮比率を決定するために、元の標準サンプルに対する免疫分析の濃度応答をlog-logit変換を通じて線形化し、これから、濃縮されたCD63+エクソソームの濃度を決定して、図17のBに示した。その中で、CD63+エクソソームを基準として3μg/mlのエクソソームサンプルに対して濃縮した結果、約22μg/mlを得ることができ、このことから、約7.9倍の濃縮効率が確認できた。
【0142】
ここで、分離前後のエクソソームサンプルの濃度を、免疫分析において標準試薬から得た結果との比較を通じて決定したが、まず、健常者のエクソソーム標準試薬をCasein-Trisで希釈してエクソソーム標準サンプル(1~100μg/ml)を準備し、免疫分析のために、抗CD63抗体(5μg/ml;100μl)をマイクロウェル内に添加し、37℃で1時間反応させて、ウェル内部の表面に捕捉バインダーで固定した。洗浄後、Casein-Trisを添加して、残りの表面を前記と同じ条件下でブロッキングした。各エクソソームサンプル(100μl)をそれぞれ異なるウェルに添加し、37℃で12時間反応させた。残りの分析過程は、前述したELISAプロトコルに従って行われた。
【0143】
8.評価例4:実施例3による免疫磁性分離の再現性の評価
図18は、図17の免疫磁性分離工程を繰り返して行う場合のCD63+エクソソームの分離時の再現性を示した結果である。
【0144】
実施例3によるスイッチ認識素材ベースの磁性濃縮技術は、‘Ca2+スイッチオン’の条件下でターゲットエクソソームを捕捉し、順次に‘Ca2+スイッチオフ’の条件下でエクソソームを回収した後、前処理された磁性ビーズは再生されて新しい試料の分離及び濃縮に再利用できる特性を提供する。実際に、前処理されたビーズの再利用時に、その濃縮性能の再現性を確認するために、異なる濃度のエクソソーム標準サンプル(1、3、5μg/ml;健常者の血漿から採取)に対して磁性分離及び濃縮した後、再利用された前処理されたビーズを用いて同じ過程を2回さらに繰り返した。分離されたエクソソームサンプルの濃度は、CD63+エクソソームに対するサンドイッチ免疫分析を用いて分析した。その結果を示す図18のAを参照すると、サンプルの分離及び濃縮を、前処理されたビーズを再利用して行う際に、CD63+エクソソームに対する濃度応答パターンは非常に類似していた。実際に、エクソソームの濃度による分離サンプル内のCD63+エクソソームの濃縮は、免疫分析からの信号値を基準として平均CV8.3%であって、再現性が非常に高いことが分かった(図18のB参照)。
【0145】
ここで、標準サンプル(1、3及び5μg/ml)は、健常者のエクソソーム標準試薬を付着溶液で希釈して製造され、磁性ビーズを使用しない時には、Casein-Trisに浸して4℃で保管した。
【0146】
9.評価例5:実施例2及び3によって分離されたCD63+エクソソームに対する特性化
図19は、スイッチ性付着反応を用いて分離されたCD63+エクソソームに対する物理的特性化の結果であり、図20は、スイッチ性付着反応を用いて分離されたCD63+エクソソームサンプルのエクソソーム表面マーカーに対する免疫化学的特性化の結果である。
【0147】
実施例2及び3で分離したCD63+エクソソーム亜集団に対する形態学的な特性化、及び表面タンパク質に対する免疫分析を介して、実際にエクソソームの2つの特徴、すなわち、微小小胞体(microvesicle)の形態及び異種の表面タンパク質の分布を確認した。形態学的な特性化のために、本発明で開発した方法で分離されたエクソソームの形態を測定するために、走査電子顕微鏡(scanning electron microscope;SEM)を用いてイメージを観察し、また、動的光散乱(dynamic light scattering;DLS)技術を用いて大きさの分布を測定した。タンパク質の分布を確認するために、エクソソームが含有するタンパク質に対してウエスタンブロッティング技法を用い、さらに、酵素免疫分析方法を用いて分離後の回収率を測定した。
【0148】
9.1 走査電子顕微鏡(Scanning electron microscopy;SEM)イメージング
実施例2及び3で分離されたCD63+エクソソームサンプルに対して、SEMイメージングを介して形態学的に観察した。高倍率イメージを得るために、前記の免疫親和クロマトグラフィーあるいは免疫磁性分離過程を通じてそれぞれ分離されたエクソソームサンプルを、標準プロトコルに従って試片を作製した。固体状態で微細構造及び形態を測定するために、各元のサンプルを顕微鏡ガラススライドに移した後、カバーガラスで覆い、対象物を液体窒素中に浸して急速冷凍させて冷却固定させた。カバーガラスを除去した後、冷凍標本を2.5%グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)溶液を添加して固定させ、Tris-HCl緩衝溶液及び脱イオン水でそれぞれ1回洗浄し、アセトンを添加して脱水させた。次に、液体二酸化炭素を使用する臨界点乾燥法(critical point drying)によりアセトンを除去した。サンプルをtempfix mounting adhesiveを用いてアルミニウムスタブ(aluminum stubs)上に載せ、コロイド銀(colloidal silver)を添加して表面と接触させた。白金を3~5nmの厚さにスパッタコーティング(sputter-coating)した後、サンプルをHitachi S-4700 SEM(Hitachi;東京、日本)で観察した。SEM観察の結果、各サンプル試片から、同一に直径が約100nmである球状の粒子のイメージを得ることができた(図19のA参照)。実際に、エクソソームは、様々な種類の細胞から分泌される膜構造の微小小胞体(microvesicle)であって、直径がおよそ30~200nmであるものと知られている。
【0149】
9.2 動的光散乱(Dynamic light scattering;DLS)分析
分離されたCD63+サンプルの大きさの分布をさらに正確に測定するために、エクソソームのDLS分析を、室温で粒度分析器(ELSZ-1000,Otsuka Electronics;大阪、日本)を用いて行った。エクソソームサンプル(0.5ml)を使い捨てキュベット(cuvette)(BI-SCP,Brookhaven Instruments Corporation;NY,米国)に移した後、分析器製造者の実行案内に従って分析した。エクソソームの大きさをストークス-アインシュタイン(Stokes-Einstein)方程式によって決定した後、細胞外小胞(extracellular vesicles)の大きさの分布を特性化した。その結果、各サンプルでの粒子の直径は、平均約186.2nmあるいは193.8nmレベルであることが分かった(図19のB参照)。このように測定された粒子の大きさ及びその分布から、免疫親和クロマトグラフィー及び免疫磁性分離過程を通じて分離されたサンプルに含まれた粒子はエクソソームであると判断される。
【0150】
9.3 ウエスタンブロッティング
エクソソームの一般的な特徴の一つである異種の表面タンパク質の分布を確認するために、実施例2及び3で分離したCD63+エクソソームサンプル内のテトラスパニン(tetraspanin)系列のタンパク質マーカーに対してウエスタンブロッティング分析をそれぞれ行った。エクソソームサンプルを最適化された条件下でSDS-PAGE分析を行った後、分離されたタンパク質をニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane)に移送させ、エクソソームの表面に一般に多く分布するCD9、CD63、及びCD81に対してそれぞれ特異な抗体-HRP重合体を反応させた。より詳細に説明すると、各エクソソームサンプルを、まず、150mMのNaCl、1%トリトンX-100、0.5%デオキシコール酸ナトリウム(sodium deoxycholate)、及び0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate;SDS)を含む50mMのTris緩衝溶液(pH8.0)で処理した。このように変性されたタンパク質を8%SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(polyacrylamide gel electrophoresis)(SDS-PAGE)を用いて分離した後、ニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane)上に電気泳動的方法を通じて移送した。Casein-PBSで残りの表面をブロッキングした後、メンブレンを予めHRPと化学重合させた抗CD63、CD9、及びCD81抗体を用いてブロッティング分析を行った。最後に、発色試薬として3,3’-ジアミノベンジジン(3,3’-diaminobenzidine;DAB)を含むHRP基質溶液を添加して、メンブレン上に発色信号を発生させた。基質溶液は、50mMの酢酸ナトリウム(sodium acetate)緩衝溶液(pH5.0;1ml)に0.05%DAB(10μl)及び3%H2O2(1μl)を添加して製造した。
【0151】
染色された発色信号から、エクソソームのテトラスパニン(tetraspanin)タンパク質マーカーが、いずれも、実施例2及び3の方法で分離したCD63+エクソソームサンプル内に発現されていることが確認できた(図20のA参照)。参考に、CD9とCD81に対するバンドの発色信号の鮮明度と比較して、CD63に対するバンド信号が鮮明でないが、これは、CD63マーカーが糖化タンパク質であるため、バンドが30~60kDaと比較的広く存在するということも影響があるが、より根本的に、本評価実験で使用したエクソソーム標準試料(図20のA、対照群)自体において、CD63マーカーの発現に対するバンド信号が低いためである(図20のA参照)。前記で得た結果を総合すると、免疫親和クロマトグラフィー及び免疫磁性分離過程を通じて分離されたサンプルが、エクソソームの一般的な特徴をすべて示している点からみて、本発明によってCD63+エクソソーム亜集団の分離が達成されたと判断される。
【0152】
9.4 分離後のCD63+エクソソームの回収率
エクソソーム分離システムの回収率を決定するために、分離前後のサンプル内のCD63+エクソソームに対する定量分析を行ったが、エクソソーム標準試料に対するCD63マーカーの免疫分析を介して求めた標準曲線を用いて、CD63+エクソソーム亜集団の濃度を迂回的に測定した。免疫分析時にエクソソーム表面マーカーであるCD63特異抗体を捕捉及び探知バインダーとして使用した酵素免疫分析(ELISA)を介して標準曲線を求めた(図20のB;左側)。同じ条件下で、分離前及び分離後のサンプルに対して免疫分析を行い、これから発生した信号を標準曲線に代入して各エクソソームの濃度に換算した。体積希釈比率を補正した後、免疫親和クロマトグラフィー及び免疫磁性分離前後のエクソソームサンプル内のエクソソームの総量を計算して、各分離工程の回収収率を決定した(図20のB;右側)。これから、2つの工程の収率は、それぞれ78.3%及び68.5%程度であったが、このような結果は、既存の酸性pHなどの苛酷条件を用いて分離産物を回収する分離工程(例:収率<50%)に比べて非常に高かった。これは、本発明によってスイッチ認識素材を使用する分離工程では、溶液内のカルシウムイオンの除去時に、CBPに対する認識素材の親和力が背景レベルに低くなることで、分離されたエクソソームの回収収率が相対的に非常に高く、また、構造的変形が最小化されたためである。
【0153】
10.評価例6:CD63+エクソソーム亜集団を診断サンプルとして利用時の分析性能の評価
図21は、エクソソーム標準サンプル間の濃度の変移を補償するために、CD9の濃度を基準としてCav1マーカーの濃度を補正した結果であり、図22は、本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いて分離したCD63+エクソソームを分析サンプルとして用いる際に、黒色腫癌の診断に対する潜在的な効果を示した結果である。
【0154】
10.1 ターゲットマーカーの濃度の標準化
本発明によってCD63+エクソソーム亜集団を分離して診断サンプルとして用いる際に、黒色腫癌関連マーカーであるCav1+エクソソームの濃縮効果により、高感度診断が可能になると予測される。しかし、単純にCav1タンパク質の発現レベルを測定する場合、エクソソームの濃度がサンプルに応じて変化するため、分離効果を正確に判断するには制限的である。したがって、性能の比較時の不確実性を最小化するために、一般にエクソソームの表面に存在する正常マーカーであるCD9タンパク質を測定し、補正を通じて標準化させる方法を導入した。このために、黒色腫癌関連マーカーであるCav1タンパク質特異抗体とCD9タンパク質特異抗体をそれぞれ異なるマイクロタイタープレートウェル(microtiter plate well)に固定させ、同じサンプルを添加して反応させた後、CD63抗体を探知抗体として用いてELISAを行った。これから、癌マーカー及び正常マーカーの各濃度に比例した信号を得(図21;棒グラフ)、その2つの信号の比率、すなわち、Cav1/CD9の信号比率を計算した(図21;線グラフ)。このとき、健常者供与の血漿サンプルを希釈して分析した場合(図21のA)、そのCav1/CD9の信号比率が平均0.147であって、希釈比率に応じて概ね一定に維持された。また、黒色腫癌細胞サンプルの場合(図21のB)は、各マーカーに対する信号は相対的に高く測定され、そのCav1/CD9の比率が平均0.206であって、Cav1の発現レベルが、健常者の標準サンプルよりも平均40%程度高いことが分かった。このように、総エクソソームの濃度の変化に対して、CD63+エクソソーム亜集団内のCav1+エクソソームを、正常マーカーであるCD9+エクソソームで補正して標準化させることができた。
【0155】
前記評価実験過程について敷衍すると、エクソソーム標準サンプル(5~100μg/ml)を、健常者の血漿あるいは黒色腫癌細胞株から得たエクソソームをCasein-Trisで希釈して準備した。サンプル内の各マーカーの濃度を測定するために、各マーカーに対して特異な捕捉抗体(5μg/ml;100μl)を各マイクロウェル内に添加した後、37℃で1時間反応させて固定させた。残りの実験過程は、前記で既に紹介したCD63に対するELISA過程と同一に行われた。CD9とCav1に対して分析した後、発生した信号を測定し、Cav1/CD9の信号比率を各サンプルに対して計算した。
【0156】
10.2 診断サンプルとして分離されたエクソソーム亜集団の潜在性
このような免疫分析を介したCav1/CD9の信号比率の測定方法を用いて、スイッチ認識素材をベースとして分離したCD63+エクソソーム亜集団を診断サンプルとして用いる際に、黒色腫癌の診断に対する潜在的な効果を試験した。健常者のエクソソームと黒色腫癌エクソソームの各標準物質25μg/mlを分離してCD63+エクソソーム亜集団を得、そのCav1タンパク質の発現レベルに対する分析結果を、分離前の結果と比較した。分離前のバルクエクソソームサンプルの利用時には、Cav1/CD9の信号比率が、健常者サンプルの場合と比較して、癌サンプルで40%程度増加した(図22のA;左側)。免疫クロマトグラフィー方法で分離したCD63+エクソソーム亜集団サンプルの利用時には、その信号が、健常者の場合と比較して、癌サンプルで約4倍(即ち、400%)増加した(図22のA;右側)。すなわち、分離されたCD63+エクソソーム亜集団サンプルの利用時に、黒色腫癌細胞のスクリーニングに対する潜在的敏感度が約10倍増加することが分かった。このような癌細胞のスクリーニングに対する敏感度増加の効果は、免疫磁性分離方法で分離した亜集団サンプルの利用時にもほぼ同一に約7.7倍増加した(図22のB参照)。このような効果は、CD63+エクソソーム亜集団をスクリーニングサンプルとして用いる際に、Cav1+エクソソームの増加だけでなく、CD9+エクソソームの減少を招いたことに起因すると予測される。実際に、CD9+エクソソームの濃度が癌サンプルにおいて減少するという報告がある。
【0157】
11.評価例7:既存のエクソソーム分離システムとの性能の比較
図23は、スイッチ性付着反応を用いた親和分離システムと、現在商業的に販売される様々なエクソソーム分離システムとの間に、分離されたサンプルの免疫分析によって決定されたCav1/CD9の濃度比率を基準として、黒色腫癌サンプルを正常サンプルから区分する性能に対する比較結果である。
【0158】
本発明の実施例2及び3によるスイッチ認識素材ベースの分離システムから得たCD63+エクソソーム亜集団サンプルの黒色腫癌細胞のスクリーニングに対する効果を客観的に評価するために、現在商用化されているエクソソーム分離キットを用いて得たサンプルを用いた効果と比較した。商用化されたエクソソーム分離キットのうち、一般に販売される様々なExoQuickTM、MagCaptureTM、及びexoEasy MaxiTMキットを購入して使用した。正常エクソソームと黒色腫癌エクソソームの標準物質25μg/ml(1ml)を、各システムの定められたプロトコルに従って分離した。各分離されたエクソソームサンプルを、上述したようなELISAを介してCav1及びCD9タンパク質の発現レベルを信号として測定して、補正パラメータであるCav1/CD9の信号比率を計算して比較した。その結果を示す図23を参照すると、本発明の免疫クロマトグラフィー及び免疫磁性分離システムから得たCD63+エクソソーム亜集団サンプルの利用時に、上述したように、Cav1/CD9の信号比率が、健常者の場合と比較して癌サンプルでそれぞれ5.5倍、4.1倍増加した反面、商用化された分離キットから求めたサンプルの利用時に、使用されたキットに関係なく、いずれも、Cav1/CD9の信号比率が分離前と差がないか、またはむしろ癌サンプルにおいて減少することが分かった。
【0159】
このような結果は、商用化されたエクソソーム分離キットの分離原理が、本発明で用いた原理と異なるためであると判断される。実際に、商用化キットは、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)のようなポリマーを使用した沈殿方法(ExoQuickTM、SBI社)や、エクソソームの表面のホスファチジルセリン(phosphatidylserine;PS)と金属イオンの存在下で反応するタンパク質を用いた親和的方法(MagCaprueTM、Wako社)、または回転カラムを用いて分離時間を短縮する方法(exoEasy MaxiTM、Qiagen社)などでエクソソームを分離する。
【0160】
このように、販売されるほとんどのキットは、単にバルクエクソソーム集団を分離または濃縮する程度であって、診断敏感度を著しく向上させるには制限的であり、したがって、癌細胞のスクリーニングなどに適用しにくい。それに加えて、診断敏感度の増加のために特定のエクソソーム表面マーカーに対する免疫分離方法が適用されることはできるが、本発明のようにスイッチ認識素材の使用などを通じた画期的な方法の導入なしでは、エクソソームの回収収率及び原形の維持の面で競争することは難しい。
【0161】
以下では、本評価実験で使用された商用キットを用いたエクソソームの分離過程を簡単に説明する。
【0162】
ExoQuickキットを用いたエクソソームの分離:
エクソソーム標準サンプルを、使用したキットのメーカーが提供した案内に従って分離した。簡略に紹介すると、購入したエクソソームサンプル(各25μg/ml;1ml)を別々のマイクロウェル内に移した後、予め定められた量のExoQuickエクソソーム沈殿溶液を添加した。混合後、4℃で冷蔵した後、遠心分離した。上澄液を除去した後、粒状に沈殿したエクソソームを回収し、緩衝溶液(500μl)に再溶解させた後、Cav1/CD9の比率を決定するために、既に説明したように免疫分析を行った。
【0163】
MagCaptureキットを用いたエクソソームの分離:
同じエクソソーム標準サンプルを、当該キットのメーカーが提供したプロトコルに従って分離した。簡略に紹介すると、エクソソームに対する特定の捕捉因子であるホスファチジルセリン(phosphatidylserine;PS)-付着タンパク質でコーティングされた磁性ビーズ(60μl)を、付着増進剤である金属イオンを含んでいる分析サンプル(1ml)に添加した。その混合物を3時間撹拌しながら反応させた。その後、ビーズを洗浄溶液(150mMのNaCl、0.05%Tween20、及び2mMのCaCl2を含む20mMのTris-HCl(pH7.4;1ml))で3回洗浄した後、溶出溶液(150mMのNaCl及び2mMのEDTAを含む20mMのTris-HCl(pH7.4))で溶出させた。回収されたエクソソームサンプルに対するCav1/CD9の比率を決定するために免疫分析を行った。
【0164】
exoEasy Maxiキットを用いたエクソソームの分離:
エクソソームサンプルをまた、商業的に購入した他のキットを用いて分離した。簡略に説明すると、キットと共に提供されたXBP緩衝溶液(1ml)を、同じ体積のサンプルに添加した。軽く混合した後、混合物を室温に置いて室温まで予熱した。この混合物をexoEasyスピンカラム内に移した後、1分間遠心分離した。XWP緩衝溶液(10ml)を順次にカラム内に添加し、入れた緩衝溶液を除去するために、5分間さらに遠心分離した。スピンカラムを新しい回収チューブに移した後、XE緩衝溶液(500μl)をカラムに添加し、その後、1分間反応させた。追加で5分間遠心分離してエクソソームを溶出させてチューブに回収した。最後に、溶出液をスピンカラムに再投入した後、1分間反応させ、5分間遠心分離して、溶出溶液を回収した。回収された溶液は、上述したようにCav1/CD9の比率を測定するために免疫分析を行った。
【0165】
II.癌診断時のCD63+亜集団の分離の有用性の評価
1.材料
以下の実施例に用いられたセンサ及びセンサシステムは、ForteBio(サンフランシスコ,米国)から購入した。その他の材料は、前述した‘I.スイッチ性付着反応を用いたエクソソーム親和分離’の実施例で用いられた材料と同一である。
【0166】
2.非標識センサを用いたバイオマーカーの分析
癌診断時のCD63+亜集団の分離の有用性を裏付けるために、非標識センサ(Octet sensor;ForteBio)を用いて、バルクエクソソーム標準サンプル、及び分離後に得たエクソソーム亜集団サンプルをそれぞれCD9及びCav1マーカーに対して同時に測定し、その結果を図24乃至図27に示した。
【0167】
図24乃至図27は、本発明に係るエクソソーム亜集団の分離効果を検証するために、非標識センサを用いて、エクソソーム標準サンプルの免疫親和分離前後に得たサンプルのそれぞれに対してCD9及びCav1マーカーを同時に測定した実験結果であって、図24は、分離前後の健常者のエクソソームサンプル内のCD9の濃度を、図25は、分離前後の健常者のエクソソームサンプル内のCav1の濃度を、図26は、分離前後の癌細胞エクソソームサンプル内のCD9の濃度を、図27は、分離前後の癌細胞エクソソームサンプル内のCav1の濃度をそれぞれ示す。
【0168】
まず、健常者サンプルに対して、分離前後のCD9含有エクソソームを測定するために、CD9に対する特異捕捉抗体が固定されたセンサをエクソソームサンプル内にそれぞれ浸し、1,200秒間、リアルタイムで測定した(図24参照)。分離前の元のサンプルに対してCD9と関連する信号を測定した結果、平均付着信号(付着厚さに換算)は0.74nmまで増加した(図24の上段の灰色実線)。その反面、分離後のサンプルに対する信号は約0.03nm程度とやっと測定された(図24の下段の黒色実線)。同じ実験を、分離前後に得た黒色腫癌サンプルに対して繰り返した(図25参照)。これから、測定された信号は、分離前に0.04nm(図25の上段の黒色実線)、そして、分離後に<0.01nm(図25の下段の灰色実線)であった。このような2つの結果を比較すると、分離前の健常者及び黒色腫癌の標準サンプル内のCD9含有エクソソームに対する信号の強度は、サンプルの出所に応じて大きな差を示す反面、CD63に対して親和分離した後には、いずれも、ほぼ背景信号のレベルに減少することが分かった。
【0169】
同一の非標識センシング技術を、Cav1特異捕捉抗体が固定されたセンサを用いて、前記の同一のサンプルの分析に適用した。健常者サンプルの場合、Cav1含有エクソソームは、分離前に0.04nm、分離後には0.06nm程度と、小さいが増加した(図26参照)。黒色腫癌サンプルの場合、Cav1含有エクソソームは、分離前に<0.01nm、分離後には0.1nmと、10倍以上増加したが、このような結果は、CD63に対する親和分離と関連する特異な効果に起因すると判断される(図27参照)。
【0170】
要約すると、本発明による免疫親和分離方法を用いると、エクソソームサンプルの出所と関係なく、CD9含有エクソソームの濃度が著しく減少した。対照的に、本発明で用いられた分離方法は、Cav1含有エクソソームの濃度を増加させたが、特に、黒色腫癌サンプルにおいてその濃度の増加が注目に値した。このような各エクソソームマーカーに対する相反する効果から、分離メカニズムの面で明確な解析が可能であった。
【0171】
前記の結果は、黒色腫癌疾患の診断時に、実際の疾患の進行程度に応じて変わり得る。公開された文献によれば、癌の発生時に増加すると報告されたCav1+エクソソームの濃度は、癌発生の初期よりは癌の転移段階で著しく増加する。したがって、癌の転移段階で採取されたサンプル内のCav1+エクソソームの測定は、エクソソームの分離及び濃縮なしでも容易である。しかし、癌発生の初期には、血液のような体液内のその濃度が非常に低いため、免疫分析のような敏感な分析方法でも直接測定することが非常に難しい。したがって、本発明で提示するCD63+/Cav1+エクソソーム次亜集団の分離及び濃縮過程に従えば、そのエクソソームに含有されたバイオマーカー、例えば、特定のmiRNA(例えば、黒色腫癌の場合にmiR222など)に対する分析を介して、癌を早期に正確に診断できるようになる。
【0172】
III.臨床サンプル内のエクソソームの分析
1.材料
抗CD63抗体(Cat.No.353014)、抗CD81抗体(Cat.No.349501)、及び抗CD151抗体(Cat.No.350404)はBioLegend(San Diego,CA,米国)から購入し、抗survivin抗体(Cat.No.NB500-201)はNovus Biologicals(Centennial,CO,米国)から購入した。CD9(Cat.No.MAB1880)あるいはCaveolin-1(Cav1;Cat.No.MAB5736)に特異な単一クローン抗体はR&D Systems(Minneapolis,MN,米国)で供給した。悪性黒色腫及び前立腺癌陽性患者サンプル(血清あるいは血漿)はDiscovery Life Sciences社(Huntsville,AL,米国)及びPromeddx社(Norton,MA,米国)から購入した。その他の材料は、前述した‘I.スイッチ性付着反応を用いたエクソソーム親和分離’の実施例で用いられた材料と同一である。
【0173】
2.実施例1:CD63+エクソソーム亜集団サンプルの準備
2.1 SAとCBPとの重合
前述した‘I.スイッチ性付着反応を用いたエクソソーム親和分離’の実施例で提示された方法と同一に行われた。
【0174】
2.2 抗CD63抗体のビオチン化(biotinylation)
前述した‘I.スイッチ性付着反応を用いたエクソソーム親和分離’の実施例で提示された方法と同一に行われた。
【0175】
2.3 臨床サンプルの前処理
臨床サンプル(血清あるいは血漿;200μl)を、4℃で20分間、低速遠心分離(1,200g)して沈殿物を除去した後、再び同じ温度で30分間、高速遠心分離(10,000g)して沈殿物を除去した。これから得た臨床サンプルの上層液を、HMシリンジフィルター(Cat.No.SC13P020SL;0.2μm)を介して濾過して、前処理された臨床サンプル(母集団サンプル)を準備した。
【0176】
2.4 免疫磁性ビーズの製造
磁性濃縮のために、CBPに特異な抗体を、磁性ビーズの固体表面上に活性化されたトシル(tosyl)部分に抗体上のアミン基と化学的に結合させて固定した。Tris-HCl緩衝溶液で3回洗浄した後、残りの表面をCasein-PBSでブロッキングした。ビーズ(総1mg)を溶液から磁性分離した後、Ca2+(10mM)が含まれたBSA-Tris付着溶液(‘Ca2+スイッチオン’の条件)で希釈したCBP-SA重合体(5μg/ml;1ml)を添加し、振盪器上で1時間反応させた。ビーズをBSAが除去された付着溶液で洗浄した後、BSA-Tris付着溶液で希釈されたビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体(3μg/ml;1ml)を同じ条件下で順次反応させた後、磁性分離した。
【0177】
2.5 CD63陽性(CD63+)エクソソームの分離
前記で製造された免疫磁性ビーズを活用して、CD63陽性(CD63+)エクソソームの回収及びビーズの再生を行った。エクソソームマーカーの一種であるCD63+のエクソソーム亜集団を分離するために、Ca2+(10mM)が含まれた付着溶液(‘Ca2+スイッチオン’の条件)を用いて、前処理された臨床サンプル(血清あるいは血漿;200μl)を5倍希釈した後、免疫磁性ビーズに添加した。振盪器上で1時間反応させた後、磁性分離し、再び、Ca2+含有付着溶液を注入して結合されなかった成分を洗浄した後、磁性分離を介して洗浄した。その後、単に500mMのNaClが含まれた20mMのTris-HCl(pH7.4)緩衝溶液(‘Ca2+スイッチオフ’の条件)を注入して、磁性ビーズに付着していたCBP-抗体-エクソソーム結合体(CD63+エクソソーム亜集団を含む)を、磁性分離を介して回収した。その後、磁性ビーズに500mMのNaCl、5%(v/v)Tween-20、及び0.02%(w/v)チメロサールが含まれた100mMの酢酸ナトリウム(sodium acetate)緩衝溶液(pH4.5)を供給し、磁性ビーズからタンパク質の流出がなくなるまで完全に洗浄して、磁性ビーズを再生した。
【0178】
3.実施例2:エクソソーム表面バイオマーカーのプロファイリング分析
3.1 酵素免疫分析(ELISA)
前記で磁性分離を介して分離したCD63+エクソソーム亜集団に対する特性化のために、エクソソームの表面に存在するバイオマーカーのプロファイリング分析を行った。このために、マイクロタイタープレートの各ウェルに各バイオマーカーに特異な抗体を固定し、これを用いて、各ターゲットバイオマーカー(CD9、CD81、Cav1、及びsurvivin)に対するサンドイッチ酵素免疫分析を行った。ターゲットバイオマーカーは、癌疾患の種類に応じて腫瘍の進行、促進または転移に関与するものと知られているエクソソームバイオマーカーであるCD81、Cav1、及びsurvivinと、腫瘍抑制因子として知られているCD9を選定した。まず、各バイオマーカーに特異な抗体(5μg/ml;100μl)をウェル内に添加して、37℃で1時間固定させた後、脱イオン水で洗浄した。残りの表面を0.5%カゼインが含まれた20mMのTris-HCl(pH7.4)緩衝溶液で、前記と同じ条件下で処理した。上述したように磁性分離を介して分離したCD63+エクソソーム亜集団サンプル、あるいは、対照群として、分離前の母集団サンプルを、各バイオマーカーに特異な抗体が固定されたウェルに添加し、37℃で10時間反応させた。洗浄後、streptavidin-poly-HRP20(66ng/ml;100μl)を添加して室温で1時間反応させた。再び洗浄した後、HRP基質溶液(0.003%過酸化水素及び100μg/mlのTMBが含まれた0.05Mのアセテート緩衝溶液、pH5.1;200μl)を添加して15分間反応させた後、硫酸溶液(2M、50μl)をさらに加えて反応を停止させた。各ウェル内で発生した発色は、吸光度450nmでELISAリーダ(Synergy H4,BioTek Inc.;Winooski,VT,米国)を用いて定量した。
【0179】
3.2 バイオマーカー間の相関関係の分析
前述したように、悪性黒色腫陽性臨床サンプル(血清あるいは血漿)及び健常者サンプル(血清)を前処理した後に得たエクソソーム母集団を分析サンプルとして用いて、CD81、Cav1、survivin、及びCD9に対する免疫分析を行ったが、この場合、エクソソーム母集団サンプルを、各バイオマーカーに特異な固相の捕捉抗体との反応及び分離後に残存する免疫結合体に比例した信号を測定するので、各バイオマーカーを含有する亜集団に対して定量分析を行うことになる。図28は、健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団分析サンプルに対するエクソソーム表面マーカーのプロファイリング分析後、腫瘍抑制マーカーに対する、腫瘍の進行、促進、及び転移マーカーとの相関関係を比較した実験結果であって、酵素免疫分析を介して得た定量的信号から、腫瘍抑制マーカーであるCD9信号に対する、腫瘍の進行、促進、あるいは転移マーカーであるCD81、Cav1、及びsurvivin信号の各相関関係を求めるために、2次元グラフに分析サンプルの分布を表示した。これを参照すると、エクソソーム母集団を分析サンプルとして用いた場合、癌陽性サンプルと健常者サンプルとの間において、データが明確な相関関係なしに混在して分布することが分かった。参考事項として、エクソソーム母集団サンプルを分析サンプルとして使用した場合、ほとんどのサンプルにおいてCav1及びsurvivinの信号値が非常に低いため、相関関係の分析に対する信頼性の確保が難しいと判断される。
【0180】
また、前述したように、悪性黒色腫陽性サンプル及び健常者サンプルの2つのサンプル群を前処理した後、前記の‘スイッチ性付着反応’を用いた可逆的免疫分離システムを用いて、CD63バイオマーカーに対する分離及び回収を介してエクソソーム亜集団分析サンプルを準備し、4種類のバイオマーカーに対して免疫分析を行った。免疫分析時の特異点として、エクソソーム亜集団内に存在する各バイオマーカーを含有するエクソソームは、固相に固定された各特異抗体と反応した後、分離され、残存する免疫結合体からそれに比例した信号を発生するので、特定の次亜集団に対するプロファイリング分析を行うことができるようになる。図29は、健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団から分離されたエクソソーム亜集団を分析サンプルとして用いて、エクソソーム次亜集団に対してエクソソーム表面マーカーのプロファイリング分析後、腫瘍抑制マーカーに対する、腫瘍の進行、促進、及び転移マーカーとの相関関係を正常サンプル群と比較した実験結果である。酵素免疫分析を介して得た定量的信号から、腫瘍抑制マーカーであるCD9の信号に対する、腫瘍の進行、促進、あるいは転移マーカーであるCD81、Cav1、及びsurvivinの信号の各相関関係を求めるために、2次元グラフに分析サンプルの分布を表示した。腫瘍抑制マーカーであるCD9の信号に対する腫瘍進行マーカーであるCD81の信号を示した1番目のグラフにおいて、健常者サンプルは、2つのマーカー間に線形の比例関係を示したので、各サンプル内の2つのマーカーの組成比が一定に維持されることが分かった。反面、悪性黒色腫陽性サンプルは、2つのマーカー間に反比例関係を示したが、これから、癌陽性サンプル毎に、CD9に対するCD81の組成比がそれぞれ異なることが分かった。
【0181】
このような異なるサンプル群間の2つの結果を比較してみると、悪性黒色腫の発生時に、エクソソームの表面マーカー間の組成比に対する異質性が増加すると予測される。特に、癌の病期がI期からIV期に進行するに伴い、CD81の信号は増加することと対照的にCD9の信号は減少して、CD81/CD9の信号比が増加したので、マーカー間の組成比に対するエクソソームの異質性の増加は、癌の病期と関連があると予測される。
【0182】
エクソソーム次亜集団の免疫分析の結果から、CD9の信号に対するCav1あるいはsurvivinの信号を示した2番目及び3番目のグラフにおいても、癌サンプルの分布は、健常者サンプルで示された2つのマーカー間の線形の比例関係から逸脱するものと思われる。しかし、前記のような異質性増加現象は明確には示されなかった。
【0183】
図30は、健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団分析サンプルに対するエクソソーム表面マーカーのプロファイリング分析後、腫瘍の進行、促進、及び転移マーカーの間の相関関係を、正常サンプル群と癌陽性サンプル群を比較した実験結果であって、上述したように、黒色腫癌陽性臨床サンプル(血清あるいは血漿)及び健常者サンプル(血清)を前処理した後に得たエクソソーム母集団分析サンプルを、各バイオマーカーに対して免疫分析を行い、その結果から、腫瘍の進行、促進、あるいは転移マーカーであるCD81、Cav1、及びsurvivinの間の相関関係を分析した結果である。これを参照すると、エクソソーム母集団を分析サンプルとして用いた場合、図28でのように、癌陽性サンプルと健常者サンプルとの間において、データが明確な相関関係なしに混在して分布し、ほとんどのサンプルにおいてCav1及びsurvivinの信号値が非常に低いため、相関関係の分析に対する信頼性の確保が容易でなかった。
【0184】
図31は、健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団から分離されたエクソソーム亜集団分析サンプル内のエクソソーム次亜集団に対するエクソソーム表面マーカーのプロファイリング分析後、腫瘍の進行、促進、及び転移マーカーの間の相関関係を、正常サンプル群と癌陽性サンプル群を比較した実験結果であって、悪性黒色腫陽性サンプル及び健常者サンプルの2つのサンプル群を前処理した後、前記の可逆的免疫分離システムを用いてCD63に対して分離した後、エクソソーム亜集団を回収し、前記と同一に、各エクソソーム次亜集団のバイオマーカーに対して免疫分析後、3種類の腫瘍の進行、促進、あるいは転移マーカーに対して相関関係の分析を行った。免疫分析の結果から、CD81の信号に対するCav1の信号を示した1番目のグラフにおいて、健常者サンプルは、2つのマーカー間におおよその線形の比例関係を示した。反面、癌陽性サンプルは、2つのマーカー間に反比例関係を示し、癌疾患の病期の初期には、CD81の信号に比べてCav1の信号が高く、末期には逆転する現象が示された。
【0185】
免疫分析の結果から、CD81あるいはCav1の信号に対するsurvivinの信号を示した2番目及び3番目のグラフにおいて、前記の現象は明確には示されなかった。しかし、Cav1の信号に対するsurvivinの信号を示した3番目のグラフにおいて、癌サンプルの分布は、健常者サンプルで示された2つのマーカー間の線形の比例関係から逸脱するものと思われる。
【0186】
4.実施例3:バイオマーカーのプロファイリング分析の結果を用いた疾患初期診断用パラメータの設定及び分析
4.1 診断パラメータの設定
サンプル間のエクソソームの濃度が異なり、また、サンプルの希釈比に応じて濃度が変化するので、免疫分析の結果から求めたサンプル間の各バイオマーカーに対する信号の差を直接比較することは難しい。このような問題点を緩和するために、あるバイオマーカーに対する他のバイオマーカーの信号の比率を取って標準化(normalization)されたパラメータを、診断ターゲット疾患に対して2種以上それぞれ新たに定義した。これによって、腫瘍抑制マーカーであるCD9に対する信号に対する、腫瘍の進行、促進、あるいは転移マーカーであるCD81、Cav1、及びsurvivinに対する信号の比率を取って標準化(normalization)されたパラメータ1、2、及び3を設定した。ここで、パラメータ1=CD81の信号/CD9の信号、パラメータ2=Cav1の信号/CD9の信号、及びパラメータ3=survivinの信号/CD9の信号としてそれぞれ設定した。
【0187】
4.2 2次元パラメータの分析
サンプル内の各バイオマーカーを含有するエクソソームに対するプロファイリング分析の結果を、前記で定義した通りに各パラメータに転換した後、最適の2種のパラメータをペアとして選択して2次元分析を行い、その結果を用いて、健常者サンプルとターゲット疾患サンプルを区分できるように2つのパラメータ値の区画を設定し、ターゲット疾患陰性及び陽性サンプルに対する鑑別力、すなわち、陽性の正確度(敏感度)及び陰性の正確度(特異度)を決定した。参考に、ターゲット疾患サンプルと健常者サンプルを区分する区画線のパラメータ値は、分析条件に応じて変化し得る。
【0188】
図32は、健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団分析サンプルを対象として新たに定義されたパラメータを適用して行ったバイオマーカーのプロファイリング分析の結果であって、図33は、健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団から分離されたエクソソーム亜集団分析サンプルを対象として新たに定義されたパラメータを適用したバイオマーカーのプロファイリング分析の結果である。
【0189】
免疫分離前、エクソソーム母集団サンプルに対するバイオマーカーのプロファイリングの結果から(図32参照)、健常者サンプルあるいは癌患者サンプルに関係なく、特にパラメータ3に対する値が小さすぎるため、健常者サンプルと癌患者サンプルとの間のプロファイリングの差を究明することが難しいことが分かった。これは、前記の図28及び図30で説明したように、全ての母集団サンプルにおいて、survivinに対する免疫分析の結果値が過度に小さく測定されたためである。
【0190】
次に、免疫分離及び回収後に得たエクソソーム亜集団サンプルに対するバイオマーカーのプロファイリングの結果において(図33参照)、3つのパラメータの値がサンプル間に比較できる程度に十分に高く示された。特に、パラメータ3に対する値が注目に価するほど増加したので、適切なエクソソーム亜集団を分離及び回収して分析サンプルとして使用する場合、選択したエクソソームバイオマーカーに対するプロファイリング分析が可能になる。
【0191】
このような効果は、ターゲットエクソソームを分離した後、回収して分析サンプルとして用いるので、分析観察ウィンドウを縮小する効果とターゲットの濃度を濃縮するシナジー効果によって可能になる。観察ウィンドウの大きさを比較すると、分析サンプルとして用いられる体液内には、多くの異なる細胞から放出されたエクソソーム種が混合されているので、体液からターゲットエクソソームが含まれたエクソソーム亜集団を分離した後、回収して分析サンプルとして用いる場合、非関連エクソソーム種を疾患関連エクソソーム種から排除して、観察ウィンドウを好ましい方向に縮小する効果を得るようになる。この場合、疾患の診断時に、非関連バイオマーカーの非特異反応による干渉現象を最小化することができる。さらに、前記の亜集団に分離する際に濃縮工程を用いる場合、ターゲットエクソソームの濃度が増加して、高収率で回収される効果を得るようになる。したがって、本発明によれば、診断時にエクソソーム亜集団を免疫分析サンプルとして用いる場合、非特異エクソソームによる干渉効果が最小化され、同時にターゲットエクソソームの濃度が増加して、プロファイリング分析の正確度に対して肯定的なシナジー効果を得るようになる。
【0192】
図34は、健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム母集団分析サンプル(図34の(A))及びこれから分離されたエクソソーム亜集団分析サンプル(図34の(B))を対象として新たに定義されたパラメータを適用したバイオマーカーのプロファイリング分析の結果に対して2次元パラメータ分析を総合した結果である。
【0193】
免疫分離後に回収したエクソソーム亜集団を診断サンプルとして用いる際、その効果を究明するために、まず、分離前のエクソソーム母集団サンプル内の各バイオマーカーを含有する亜集団に対するプロファイリング分析の結果(図28乃至図31参照)を、図32乃至図33で定義した通りに各パラメータに転換し、まず、パラメータ1と2に対して2次元分析を行った(図34の(A)参照)。その結果、健常者サンプルと癌サンプルの2次元分布は、サンプル群間において差がなく混在することが分かった。
【0194】
その次に、免疫分離後に回収を介して得た亜集団サンプル内の次亜集団に対するプロファイリングの結果に対して、前記と同一にパラメータに転換した後、パラメータ1と2に対して2次元分析を行った(図34の(B)参照)。その結果、健常者サンプルの場合、2つのパラメータ値の制限された領域(パラメータ1<約3.2;パラメータ2<約0.9)に分布することが分かり(グラフ内の点線区画参照)、使用された悪性黒色腫サンプルの場合、その区画の上あるいは外郭に分布することが分かった。但し、一つの健常者サンプルN52が区画の外に位置したが、これは、分析誤り又は分析当時に未詳のサンプルにより発生したものと判断される。したがって、本発明を用いる場合、逐次的免疫分離を介して標準化(normalization)効果が発生して、疾患と関連のある次亜集団エクソソームのバイオマーカーの選択的な分析が可能であり、これを通じて、癌疾患陰性及び陽性サンプルに対する鑑別力が出現した。参考に、癌サンプルと健常者サンプルを区分する区画線のパラメータ値は例示として示したもので、その値は分析条件に応じて変化し得る。
【0195】
さらに、パラメータ1と2に対する2次元分析を行えば、悪性黒色腫疾患の病期を予測できることが分かった。特に、悪性黒色腫I、II、及びIV期患者のサンプルに対する分析結果を説明すると、各サンプルは、病期が進行するほど、パラメータ1の値が比例して増加した。注目すべき事項として、黒色腫癌I及びII期サンプルのパラメータ1の値が健常者サンプルの値の範囲に分布したが、これらのサンプルのパラメータ2の値が健常者サンプルに対する値の範囲よりも上昇することが分かった。これは、パラメータ2の値を調節するCav1マーカーが癌発生の初期に腫瘍の抑制に関与して高く発現されるためであると予測される。したがって、パラメータ1及び2に対する2次元分析を介して悪性黒色腫の病期を予測できるだけでなく、癌発生の初期に早期診断が可能になると判断される。このことから、特定の癌疾患と関連のあるエクソソーム下部集団の多重マーカーの選択、及びこれに対する分析を行えば、これまで癌の病期の後期または転移段階で癌診断が可能であった問題点を解決できるようになる。
【0196】
図35は、健常者群及び悪性黒色腫患者群のそれぞれのエクソソーム亜集団分析サンプルを対象として新たに定義されたパラメータを適用した次亜集団のバイオマーカーのプロファイリング分析の結果に対して、2次元パラメータ分析を総合した結果である。エクソソーム次亜集団のプロファイリング分析の結果に対して、パラメータ1と2に対する2次元分析に加え(図35の左側参照)、パラメータ1と3(図35の中間参照)、及びパラメータ2と3(図35の右側参照)に対する2次元分析を行った。パラメータ1と3に対する2次元分析の結果(図35の中間参照)、健常者サンプルと悪性黒色腫患者のサンプルは、相互に区分なくグラフ内に分布した。したがって、パラメータ1と3に対する分析は、悪性黒色腫サンプルと健常者サンプルを区分できないと判断される。反面、パラメータ2と3に対する分析(図35の右側参照)は、健常者サンプルと悪性黒色腫患者のサンプルを区分できることが分かり、健常者サンプルの場合、2つのパラメータ値の制限された領域(パラメータ2<約0.7;パラメータ3<約2.5)に分布することが分かり(グラフ内の点線区画参照)、使用された悪性黒色腫サンプルの場合、その区画の上あるいは外郭に分布することが分かった。したがって、エクソソーム次亜集団のプロファイリング分析を介したパラメータ2と3に対する2次元分析は、悪性黒色腫サンプルを健常者サンプルから区分できるようにした。
【0197】
4.3 パラメータパネルの構成
ターゲット疾患に応じて診断の敏感度及び特異度を極大化するために、2種以上のパラメータをパネルとして構成して疾患の早期診断に用いた。上述したように、各パラメータペアに対して2次元分析を行い、ターゲット疾患陰性及び陽性サンプルに対する鑑別力を最大に提供するパラメータペアを選択してパラメータパネルとして構成した。必要に応じて、1次構成されたパラメータパネルに1種類以上のパラメータを順次適用して、陰性及び陽性の区分の正確度が極大化される最終パラメータパネル及びこれを用いる診断アルゴリズムを決定した。
【0198】
図36は、健常者群及び前立腺癌患者群のそれぞれのエクソソーム亜集団分析サンプルを対象として新たに定義されたパラメータを適用したバイオマーカーのプロファイリング分析の結果に対して、2次元パラメータ分析を総合した結果である。前立腺癌の場合、エクソソーム表面マーカーとしてCD151を追加し、前記と同じ過程を通じて、CD63+エクソソーム亜集団サンプルに対して計5個のバイオマーカー(CD9、CD81、Cav1、survivin、及びCD151)に対してプロファイリング分析を行った。前記とほぼ同一に、任意の2つのバイオマーカーに対する信号の比率を取って、臨床的性能(総サンプル数=28;陽性=20、陰性=8)が最大となる標準化(normalization)されたパラメータ4、5、6、及び7としてそれぞれ新たに定義した。ここで、パラメータ4=CD9の信号/Cav1の信号、パラメータ5=CD151の信号/CD9の信号、パラメータ6=survivinの信号/CD9の信号、そして、パラメータ7=Cav1の信号/CD81の信号として設定した。
【0199】
前立腺癌サンプル及び健常者サンプルの亜集団の免疫分離及び回収後に行ったエクソソーム次亜集団のプロファイリング結果に対して、まず、パラメータ4と5に対する2次元分析を行った。パラメータ4と5に対する2次元分析の結果(図36の上段参照)、健常者サンプルは、ほとんど2つのパラメータ値の制限された領域(実施条件下で、パラメータ4<約3.3;パラメータ5<約1.5)に分布することが分かり(グラフ内の点線区画参照)、前立腺癌サンプルは、ほとんどその区画の外郭に分布することが分かった。このような2種のパラメータを用いる場合、分析条件下で陽性の正確度、即ち、敏感度80%、そして、陰性の正確度、即ち、特異度100%を示した。
【0200】
上述した区画内に位置した前立腺癌陽性サンプル(P7、P10、P13、及びP18)に対して精密分析を行った(図36の下段参照)。上述したように、2種のパラメータ(即ち、パラメータ4及び5)を用いる場合、臨床的敏感度は80%に制限されたが(図36の下段左側参照)、パラメータ6を追加してパラメータ4と6に対して2次元分析(即ち、3種のパラメータの分析)を行う場合、陰性サンプルは、陰性領域に留まった反面、陽性サンプルのうちのP13が陽性領域に移動した(図36の下段中間参照)。このことから、敏感度が85%に上昇することが分かった。さらに、パラメータ7を追加してパラメータ6と7に対して2次元分析(即ち、4種のパラメータの分析)を行う場合、陰性サンプルは、依然として陰性領域に留まった反面、陽性サンプルのうちのP7及びP18が陽性領域に移動した(図36の下段右側参照)。結局、4種のパラメータの分析時に、臨床的敏感度は95%に増加し、サンプルに対する最終臨床的性能は、敏感度95%、及び特異度100%であることが分かった。
【0201】
さらに、パラメータ4と5に対する2次元分析は、前立腺癌疾患の病期を予測できることが分かった。特に、臨床的判断基準によって設定した前立腺癌の病期(stage number;サンプル番号の横の括弧内のローマ数字)による患者のサンプルに対する分析結果を説明すると(図36の上段参照)、前記で定義した区画線を基準として右側下段には9種の前立腺癌陽性サンプルが分布したが、その中で8種がI期及びII期の陽性サンプルであり、1種のIV期サンプルも含まれた。区画線を基準として左側上段には7種の前立腺癌陽性サンプルが分布したが、その中で5種がIII期及びIV期の陽性サンプルであり、2種のI期及びII期サンプルも含まれた。全体的に、各サンプルは、病期が進行するほど、パラメータ4の値に反比例して減少し、同時にパラメータ5の値に比例して増加した(図36の矢印参照)。注目すべき事項として、前立腺癌初期サンプル(I期及びII期サンプル)が右側下段、即ち、パラメータ4の値が特に高く、かつ、パラメータ5の値が低い領域に分布した。したがって、2種以上の標準化されたバイオマーカーに対する逐次的な2次元分析を介して、前立腺癌の病期を予測できるだけでなく、癌発生の初期に早期診断が可能になると判断される。
【0202】
5.実施例4:エクソソームmiRNAバイオマーカーのプロファイリング分析
5.1 細胞株の培養及びエクソソームサンプルの準備
前立腺癌由来の細胞株として、一般に知られているDU145、LNCaP、及びPC3細胞株を選択し、各細胞株を培養した後、培養液を回収して、臨床サンプルでのようにエクソソーム母集団サンプルを準備した。前述したように、‘スイッチ性可逆付着反応’を用いて、細胞株培養液のエクソソーム母集団からCD63+亜集団エクソソームサンプルを製造した。順次に、抗CD81抗体が固定された磁性ビーズを用いた磁性免疫分離方法を用いて、CD63+亜集団エクソソームからCD63+/CD81+次亜集団サンプルを準備した。対照群として、腎臓細胞由来のHEK293細胞株を選択し、前記と同じ過程を通じて、各母集団、亜集団、及び次亜集団エクソソームサンプルを製造した。
【0203】
より詳細に説明すると、ヒト胚腎臓細胞由来のHEK293細胞株、及び前立腺癌由来のLNCaP、DU145、及びPC3細胞株を韓国細胞株銀行(ソウル、韓国)から購入した。各細胞株は、10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum;FBS)及び抗生剤が含まれた最適の培地、すなわち、HEK293の場合にHEPES含有DMEM培地、そして、前立腺癌由来の細胞株はRPMI1640培地を用いてCO2培養器内で34~39時間培養した。その後、各細胞株の培地を5%exosome-free FBSが含まれた培地に交換し、同じ条件下で培養した。各培養液は、遠心分離を介して細胞を分離した後、上層液を回収した。分離された上層液は、前記の臨床サンプルの前処理でのように、低速遠心分離して沈殿物を除去した後、再び高速遠心分離して沈殿物を除去した。これから得た臨床サンプルの上層液をHMシリンジフィルター(0.2μmの細孔サイズ)を介して濾過して、エクソソーム母集団サンプルを準備した。
【0204】
実施例1と同じ免疫磁性分離方法を用いて、細胞株培養液のエクソソーム母集団からCD63+亜集団エクソソームサンプルを製造した。順次に、磁性ビーズメーカが提供した過程に従って抗CD81抗体を磁性ビーズ上に化学的に固定し、これを用いた免疫磁性分離を介して、抗CD81抗体が化学的に固定された磁性ビーズを用いた磁性免疫分離方法を用いて、CD63+亜集団エクソソームからCD63+/CD81+次亜集団サンプルを準備した。
【0205】
5.2 エクソソームmiRNAの抽出、cDNAの合成、及びリアルタイムPCR
ターゲット核酸バイオマーカーとして、前立腺癌関連の4種のmiRNAs、即ち、miR-17、miR-21、miR-221、及びmiR-375を選定した。各エクソソームサンプル内のmiRNAマーカーを抽出した後、逆転写(reverse transcription)反応を介してcDNAを合成し、その産物は、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)を用いた増幅過程を介して、各サンプルに対するCt(cycle threshold;閾値サイクル)値を信号として敏感に測定した。全ての過程は、商業的に販売されるキットを用いて行った。測定された各miRNAマーカーに対する信号は、標準化のために、2つのマーカー間の信号の比率、即ち、miR-21の信号/miR-17の信号、miR-221の信号/miR-17の信号、及びmiR-375の信号/miR-17の信号の比率をそれぞれ求めた。
【0206】
詳細に説明すると、各細胞株に対して3種類のエクソソームサンプル、即ち、母集団、亜集団、及び次亜集団サンプルを準備し、各サンプルに含有されたmiRNAをmiRNeasy Micro Kit(QIAGEN、217084)を用いて抽出した。このための各段階は、製造メーカが提供した説明書に従って行われた。抽出されたmiRNAは、分光学機器(ND-2000;NanoDrop Technologies,Wilmington,DE,米国)を用いて定量された。その次の過程として、各エクソソームサンプルから抽出したmiRNA(2ng)を、TaqMan Advanced miRNA cDNA Synthesis kit(Applied Biosystems,Grand Island,NY,米国)を用いて逆転写(reverse transcription)反応を製造メーカの説明書に従って15μlの反応体積のスケールで行った。その後、miRNA増幅反応を行い、リアルタイムPCR反応を定量的に進行した。定量的PCRのために、ターゲットmiRNA(miR-17、miR-21、miR-221、及びmiR-375)に対するTaqMan microRNA Assay kits(Applied Biosystems)を使用し、CFX384(Bio-Rad Laboratories,CA,米国)機器を用いて定量した。各サンプル内のmiRNAを繰り返して測定し、各Ct値は、miR-17に対して標準化した後、対照群として選択したHEK293細胞株のエクソソーム母集団での各Ct値の信号比率に対してスケーリングし、これを基準として倍数変化(fold change)を計算した。
【0207】
5.3 サンプル内のエクソソームmiRNAバイオマーカーの分析
各細胞株から準備したエクソソーム母集団、亜集団、及び次亜集団サンプルに対して、前記のように定義した3種のmiRNA間の信号比率の変化をモニタし、その結果を図37に示した。図37は、前立腺癌細胞由来の各細胞株培養液のエクソソーム母集団、CD63+亜集団、CD62+/CD81+次亜集団サンプルに含有された前立腺癌miRNAバイオマーカーを分析した結果である。容易な比較のために、全ての信号比率を、対照群として選択したHEK293細胞株のエクソソーム母集団での各信号比率に対してスケーリングし、これを基準として倍数変化(fold change)を計算して図式した。
【0208】
まず、miR-21の信号/miR-17の信号の比率の場合(図37の上段参照)、対照群であるHEK293細胞株に比べて、前立腺癌細胞株3種がいずれもエクソソーム母集団と亜集団サンプルにおいて著しく増加した反面、次亜集団では増加しないか、または測定されなかった。特に、このような倍数増加がDU145細胞株で著しく生じた点から見て、miR-21バイオマーカーとの特異関連性があることを示した。他の特異点として、miR-21は、選択した全ての細胞株のCD63+/CD81+次亜集団エクソソームでは測定されなかったので、エクソソーム次亜集団の表面マーカーとエクソソーム内に含有されたmiRNAとの間に反比例の相関関係があると予測される。
【0209】
次に、miR-221の信号/miR-17の信号の比率の場合(図37の中間参照)、DU145細胞株での信号の比率は、エクソソーム集団に関係なく、対照群細胞株の母集団とほぼ同一であった。LNCaP及びPC3細胞株での信号の比率は、母集団と亜集団では倍数増加が見られなかったのに対し、次亜集団エクソソームでは著しく高く測定された。このような結果は、前記のmiR-21の信号/miR-17の信号の比率の場合と相反する現象であって、エクソソーム次亜集団の表面マーカーとそのエクソソーム内に含有されたたmiRNAとの間に比例する関連性を示した。
【0210】
最後に、miR-375の信号/miR-17の信号の比率の場合(図37の下段参照)、DU145とLNCaPでは、対照群とほぼ同一に全てのエクソソームサンプルで倍数増加が観察されなかったが、PC3細胞株では倍数増加が観察され、特に次亜集団サンプルでの増加が注目に値する。PC3細胞株は、悪性度が比較的高い前立腺癌から由来したので、CD63+/CD81+次亜集団エクソソームに含有されたmiR-375は、癌の進行と関連するマーカーとして利用できると予測される。このことから、エクソソーム次亜集団を特定のmiRNAに対する分析サンプルとして用いる場合、細胞の種類に応じて特異なバイオマーカーを選別できると期待される。
【0211】
結局、本発明を用いて悪性黒色腫及び前立腺癌などの癌疾患と関連のあるエクソソーム次亜集団群に存在するタンパク質及びmiRNAなどをバイオマーカーとして選択し、標準化されたパラメータに転換して分析に用いる場合、各癌疾患陰性及び陽性サンプルに対して鑑別が可能であり、さらに、癌疾患の早期診断が可能になると判断される。本発明によれば、癌疾患の種類に応じて、診断判定に有効なパラメータあるいはパラメータ間の組み合わせが変化し得ると予測される。参考事項として、図35及び図26のグラフにおいて、癌疾患陰性及び陽性を判別する各パラメータ値は、分析条件に応じて変化し得るので、値自体の絶対的な意味はなく、2次元(場合によって1次元)パラメータ分析を介して得たグラフ内の健常者サンプルに対する癌患者サンプルの相対的な分布が意味がある。
【0212】
以上、本発明を具体的な実施例及び実験例を通じて詳細に説明したが、これは本発明を具体的に説明するためのもので、本発明はこれに限定されず、本発明の技術的思想内で当分野における通常の知識を有する者によってその変形や改良が可能であることは自明である。
【0213】
本発明の単純な変形及び変更はいずれも本発明の領域に属するものであって、本発明の具体的な保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって明らかになるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0214】
本発明は、体液内の特定疾患関連のターゲットエクソソームの亜集団、次亜集団、またはそれ以下の下部集団を高収率及び元の状態で分離及び回収して液体生検サンプルを製造し、これを分析する技術であって、体外診断、治療剤の開発、及び美容産業などに関連して産業上の利用可能性が認められる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37