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特許7511962木材チップと下水汚泥を利用した菌体りん酸肥料の製造方法
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  • 特許-木材チップと下水汚泥を利用した菌体りん酸肥料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-28
(45)【発行日】2024-07-08
(54)【発明の名称】木材チップと下水汚泥を利用した菌体りん酸肥料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C05F 7/00 20060101AFI20240701BHJP
   C05F 17/50 20200101ALI20240701BHJP
【FI】
C05F7/00 301D
C05F17/50
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2024040180
(22)【出願日】2024-03-14
【審査請求日】2024-03-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591028810
【氏名又は名称】上毛緑産工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 京悠
(72)【発明者】
【氏名】本多 隆志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 範行
(72)【発明者】
【氏名】高橋 岩仁
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120034(JP,A)
【文献】特開2000-169270(JP,A)
【文献】特開2007-210857(JP,A)
【文献】特開2003-111516(JP,A)
【文献】特開2003-134931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
65~85%の含水率及び重量9.5トンに設定した下水汚泥に、破砕径20mm及び容量10m に設定した木材チップを混練し、得られた混錬材を発酵槽に投入し、60~80℃に維持しながら通気と切り返しを12~16日間行うことで、含水率を50~65%に調整した1次発酵肥料を得る1次発酵工程と、
前記1次発酵肥料を堆肥舎の発酵槽に山積みし、50~70℃に維持しながら静置と切り返しを12~16日間行うことで、含水率を30~35%に調整した2次発酵肥料を得る2次発酵工程と、
網目が8mmのスクリーンを有する篩分け装置を用い、前記2次発酵肥料を篩分けして8mm以下のサイズに整えた3次発酵肥料を得る篩分け工程と、
前記3次発酵肥料を、通気性を有するフレキシブルコンテナ袋に収納して1~2ヶ月間静置することで、含水率を10~15%に調整したりん酸肥料を得る熟成工程と、
を有し、
前記1次発酵工程は、前記下水汚泥と前記木材チップとの混錬材を、ロータリー式発酵装置を備えた発酵槽に投入し、前記通気と前記切り返しを繰り返す菌体りん酸肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材チップと下水汚泥を利用した菌体りん酸肥料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本件出願人は、汚泥由来の植生基盤材として、下水汚泥に、除根した伐採材や未利用の木材を破砕した木材チップと破砕した樹皮を混練し、これを発酵槽内に投入し、通気と切り返しによる好気性発酵を行い、発酵反応熱により含水率を40%から45%まで調整して発酵肥料を得て、この発酵肥料を篩別して20mm以下のサイズに整え、通気性を有するフレキシブルコンテナ袋の中に収納して静置し、4ヶ月から6ヶ月の熟成期間をもって発酵反応熱が治まった発酵肥料を得ることを特徴とする法面緑化工事用緑化基盤材を開発した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6426311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
安定的に農業生産を続けていくため、下水汚泥資源の利用拡大を図ることが重要であるところ、従来の汚泥由来の肥料は、一般的に肥料成分のばらつきが大きいことから肥料成分の保証ができず、また他の肥料との混合も認められていない。このため、更なる下水汚泥資源の活用拡大に向け、品質管理が徹底され肥料成分であるりん酸を保証可能な公定規格「菌体りん酸肥料」が、令和5年農林水産省により創設された。
【0005】
菌体りん酸肥料の公定規格としては、1.品質管理計画に基づいて生産されること、2.りん酸全量について1.0%以上保証すること、3.重金属の含有量が基準値を超えないこと、植害試験による害が認められないこと、4.原料は、品質管理計画に基づいて管理される汚泥資源であること、の4項目が規定されている。
【0006】
しかしながら、上記従来の法面緑化工事用緑化基盤材では、この菌体りん酸肥料の公定規格、特に上記2.のりん酸の含有率(1%以上)の保証を満足し得ないので、更なる改善の余地があった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、肥料成分であるりん酸の含有率を保証可能な菌体りん酸肥料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、65~85%の含水率及び所定の重量に設定した下水汚泥に、所定の破砕径及び所定の容量に設定した木材チップを混練し、得られた混錬材を発酵槽に投入し、60~80℃に維持しながら通気と切り返しを12~16日間行うことで、含水率を50~65%に調整した1次発酵肥料を得る1次発酵工程と、
前記1次発酵肥料を堆肥舎の発酵槽に山積みし、50~70℃に維持しながら静置と切り返しを12~16日間行うことで、含水率を30~35%に調整した2次発酵肥料を得る2次発酵工程と、
前記2次発酵肥料を篩分けして所定のサイズに整えた3次発酵肥料を得る篩分け工程と、
前記3次発酵肥料を、通気性を有するフレキシブルコンテナ袋に収納して1~2ヶ月間静置することで、含水率を10~15%に調整したりん酸肥料を得る熟成工程と、
を有する菌体りん酸肥料の製造方法によって上記課題を解決する。
【0009】
本発明の一実施の形態において、前記1次発酵工程は、含水率75%、重量9.5トンに設定した下水汚泥に、破砕径20mm、容量10mに設定した木材チップを混練する。
【0010】
また、本発明の一実施の形態において、前記1次発酵工程は、前記下水汚泥と前記木材チップとの混錬材を、ロータリー式発酵装置を備えた発酵槽に投入し、前記通気と前記切り返しを繰り返す。
【0011】
また、本発明の一実施の形態において、前記篩分け工程は、網目が8mmのスクリーンを有する篩分け装置を用い、前記2次発酵肥料を、8mm以下のサイズの前記3次発酵肥料に整える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、肥料成分であるりん酸の含有率を保証可能な菌体りん酸肥料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る菌体りん酸肥料の製造方法の一実施の形態を示す製造工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態例を説明する。図1は、本発明に係る菌体りん酸肥料の製造方法の一実施の形態を示す製造工程図である。同図に示しように、本実施形態の菌体りん酸肥料の製造方法は、1次発酵工程1と、2次発酵工程2と、篩分け工程3と、熟成工程4とを備える。以下、各工程1~4について説明する。
【0015】
本実施形態の1次発酵工程1では、所定の含水率及び所定の重量に設定した下水汚泥11に、所定の破砕径及び所定の容量に設定した木材チップ12を混練し、得られた混錬材を発酵槽に投入し、通気と切り返しによる好気性発酵を12~16日間行う。これにより、含水率が50~65%に調整された1次発酵肥料13が得られる。
【0016】
この場合、下水汚泥11と木材チップ12の混錬割合は特に限定されないが、下水汚泥50%に対して木材チップ50%の割合で混錬することが好ましく、たとえば含水率75%、重量9.5トンに設定した下水汚泥11に、破砕径20mm、容量10mに設定した木材チップ12を混練することを目安にすることができる。下水汚泥11の重量を9.5トンに設定したのは、一般に汚泥の収集運搬車両1台の積載量に相当するからである。また、木材チップ12は、森林や竹林整備で生じる伐採材、除根、竹などの木くずを、1次破砕機にて破砕し、網目が38mmの篩装置のスクリーンを通過させて破砕径38mm以下の1次木材チップを得たのち、これを2次破砕機にてさらに破砕し、網目が20mmの篩装置のスクリーンを通過させて破砕径20mm以下の木材チップ13を得る。
【0017】
家庭などからの汚水は、流域関連公共下水道から幹線管渠を流れ、所定の水質浄化センターに流入する。この流入した汚水は、沈砂地において大きなゴミや砂が除去され、次いで最初沈澱池において沈みやすい固形物が除去され(初沈汚泥)、次いで反応タンクにおいて微生物の働きにより汚れが分解され、沈殿しやすい微生物の塊(活性汚泥)となり、次いで最終沈澱池において汚泥と上澄み水に分けられ、次いで消毒設備において塩素消毒され、次いで放流施設から河川へ流される。そして、最初沈澱池と最終沈澱池において発生した汚泥は、汚泥処理施設に送られ、脱水機などで減量化され、排水処理活性沈殿物(下水)が発生する。本実施形態の下水汚泥11は、上記所定の水質浄化センターの処理施設から生じる汚泥を濃縮・脱水させたものであり、高分子凝集剤として、ポリアクリル酸エステル系重合物とポリメタクリル酸エステル系重合物を汚泥重量当たりそれぞれ0.006%、0.24%以下使用する。
【0018】
下水汚泥11の含水率は、下水処理場によって個体差もあるが、一般下水から排出される下水汚泥の含水率は65~85%である。特定の下水処理場から排出される下水汚泥を用いると、りん酸や水分の含有率のばらつきが小さく、安定する。したがって、特に限定はされないが、特定の下水処理場を特定し、そこから排出される下水汚泥を本実施形態の下水汚泥11に用いることがより好ましい。
【0019】
なお、1次発酵工程1において、下水汚泥11と木材チップ12の混錬材に戻し材32を加えてもよい。戻し材32とは、2次発酵工程2で得られた2次発酵肥料を篩分け工程3において篩分けした後のオーバーサイズした2次発酵肥料をいう。たとえば、スクリーン8mm網目で篩分けしたときにオーバーサイズしたものである。この種の戻し材32は、有機物の分解に役立つ土壌菌が大量に賦存することから、好気性発酵を促進する機能がある。
【0020】
次に、本実施形態の1次発酵工程1では、下水汚泥11と木材チップ12との混錬材又はこれに戻し材32を加えた混錬材を、ロータリー式発酵装置を備えた発酵槽に投入し、60~80℃に維持しながら、ロータリー式発酵装置で通気と切り返しを2週間ほど(12日~16日)繰り返す。ここで、混錬材を切り返す頻度は12時間毎に1回おこなう。12時間ごとに1回おこなうことで、適切な発酵熱を維持したまま、酸素を供給できる。切り返しを過度に行うと混錬材の内部に蓄積された熱が飛散し、却って発酵が抑制される一方、切り返しを行わないと混錬材に酸素が供給されず、好気性微生物が増殖しないからである。
【0021】
この通気と切り返しにより、好気性発酵が行われると同時に、余分な水分が飛散して含水率が50~65%まで減少した1次発酵肥料13が得られるので、これを発酵槽から取り出す。
【0022】
なお、含水率の測定は、農林水産消費安全技術センターの「肥料等試験法(2020)の3.1 水分又は水分含有量」に準拠して行う。実際の工程管理については、ハロゲン水分計などの計測器を用いて含水率を測定したり、手触りにより湿り具合を観察したりしてもよい。
【0023】
本実施形態の2次発酵工程2では、1次発酵肥料13を堆肥舎の発酵槽に山積みし(堆積し)、山積みした1次発酵肥料13の温度を50~70℃に維持しながら、静置と切り返しを2週間ほど(12~16日)繰り返す。堆肥舎の発酵槽に山積みされた1次発酵肥料13は、ショベルローダなどを用いて切り返しを行うが、その切り返しの頻度は特に限定されない。山積みされた1次発酵肥料13の温度が50~70℃に保持されることを前提に、できる限り頻繁に、たとえば3日に1回程度、行うことが好ましい。この静置と切り返しにより、発酵が促進すると同時に、余分な水分が飛散して含水率が30~35%まで減少した2次発酵肥料21が得られる。
【0024】
本実施形態の篩分け工程3では、2次発酵工程2で得られた2次発酵肥料21を、篩分け装置を用いて篩分けし、所定のサイズに整えた3次発酵肥料31を得る。篩分けのサイズは特に限定されないが、たとえば、網目が8mmのトロンメルスクリーンを用いて篩分けし、3次発酵肥料31を8mm以下のサイズに整えることが好ましい。なお、上述したようにこの篩分け工程3にてオーバーサイズした戻し材32は、1次発酵工程1に供給され、再利用される。
【0025】
本実施形態の熟成工程4では、3次発酵肥料31を、通気性を有するフレキシブルコンテナ袋に収納して1~2ヶ月間静置することで、含水率を10~15%に調整した菌体りん酸肥料41を得る。通気性を有するフレキシブルコンテナ袋とは、たとえばポリプロピレン又はポリエチレンなどの化学繊維で構成され、可撓性を有する梱包用のバッグである。フレキシブルコンテナ袋の大きさは特に限定されないが、たとえば直径1m、高さ1mの丸形バッグを挙げることができる。この熟成工程4では、3次発酵肥料31を静置することにより追熱が行われると共に、通気性のあるフレキシブルコンテナ袋に収納して静置するので含水率を10~15%にまで減少させることができる。得られたリン酸肥料は、りん酸の含有率が2.5%以上、窒素が2.5%以上で含水率が15%前後の規格を満足する菌体りん酸肥料41となる。
【0026】
以上のとおり、本実施形態の菌体りん酸肥料の製造方法によれば、1次発酵工程1に加えて2次発酵工程2を設け、これら2工程で発酵及び含水率の調整を行うので、熟成工程4に搬送された3次発酵肥料31の含水率を精度よく30~35%に調整することができる。ここで、含水率は、熟成工程4におけるフレキシブルコンテナ袋での追熱及び乾燥の大小によって大きく変動する。含水率が大きく変動すると体積も大きく変動するので、完熟後の肥料の成分比率も大きく変動する。この点、本実施形態の菌体りん酸肥料の製造方法では、3次発酵肥料31の含水率を30~35%にまで精度よく調整しているので、熟成工程における含水率の変動が小さく、体積変化も小さくなり、得られる肥料の成分比率の変動を小さくすることができる。
【0027】
背景技術の欄で挙げた特許文献1に記載の法面緑化工事用緑化基盤材の製造方法では、含水率を40%から45%に調整した発酵肥料をフレキシブルコンテナ袋で熟成させるため、熟成工程における含水率が大きく変動し、体積変化も大きい。そのため、得られる緑化基盤材に含まれる成分比率も大きく変動する。これに対し、本実施形態の菌体りん酸肥料の製造方法によれば、この変動を抑制することができる。
【0028】
また、本実施形態の菌体りん酸肥料の製造方法によれば、上記従来の法面緑化工事用緑化基盤材の製造方法に比べ、中間生成物を含めた肥料の含水率、体積及び成分の管理が容易になる。
【0029】
また、本実施形態の菌体りん酸肥料の製造方法によれば、2次発酵工程2を設けて発酵及び含水率を30~35%にまで調整するので、熟成工程4における完熟期間が短縮される。たとえば、上記従来の法面緑化工事用緑化基盤材の製造方法における完熟期間は4~6月要するのに対し、本実施形態では、完熟期間は1~2月まで短縮する。しかも、追加した2次発酵工程の12~16日間を含めても、全体の製造期間が大幅に短縮する。
【符号の説明】
【0030】
1…1次発酵工程
11…下水汚泥
12…木材チップ
13…1次発酵肥料
2…2次発酵工程
21…2次発酵肥料
3…篩分け工程
31…3次発酵肥料
32…戻し材
4…熟成工程
41…菌体りん酸肥料
【要約】
【課題】肥料成分であるりん酸の含有率を保証 可能な菌体りん酸肥料の製造方法を提供する。
【解決手段】65~85%の含水率及び所定の重量に設定した下水汚泥11に、所定の破砕径及び所定の容量に設定した木材チップ12を混練し、得られた混錬材を発酵槽に投入し、60~80℃に維持しながら通気と切り返しを12~16日間行うことで、含水率を50~65%に調整した1次発酵肥料13を得る1次発酵工程1と、前記1次発酵肥料13を堆肥舎の発酵槽に山積みし、50~70℃に維持しながら静置と切り返しを12~16日間行うことで、含水率を30~35%に調整した2次発酵肥料21を得る2次発酵工程2と、前記2次発酵肥料21を篩分けして所定のサイズに整えた3次発酵肥料31を得る篩分け工程3と、前記3次発酵肥料31を、通気性を有するフレキシブルコンテナ袋に収納して1~2ヶ月間静置することで、含水率を10~15%に調整したりん酸肥料41を得る熟成工程4と、を有する。
【選択図】 図1
図1